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計画書

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能勢町市街化調整区域における地区計画のガイドライン

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( 様式 -2a 調査概要 ) Ⅰ 調査概要 1 調査名称 : 平成 26 年度神埼市総合都市交通体系調査 2 報告書目次 1. 業務概要 (1) 都市計画道路見直しの必要性 (2) 都市計画道路見直しのスキーム (3) 検討結果の分類 2. 路線の抽出 (1) 都市計画道路の整理 抽出 (2) 検

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国土技術政策総合研究所 プロジェクト研究報告

(4) 対象区域 基本方針の対象区域は市街化調整区域全体とし 都市計画マスタープランにおいて田園都市ゾーン及び公園 緑地ゾーンとして位置付けられている区域を基本とします 対象区域図 市街化調整区域 2 資料 : 八潮市都市計画マスタープラン 土地利用方針図

Taro-全員協議会【高エネ研南】

筑豊広域都市計画用途地域の変更 ( 鞍手町決定 ) 都市計画用途地域を次のように変更する 種類 第一種低層住居専用地域 第二種低層住居専用地域 第一種中高層住居専用地域第二種中高層住居専用地域 面積 約 45ha 約 29ha 建築物の容積率 8/10 以下 8/10 以下 建築物の建蔽率 5/10

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Microsoft Word 八尾市市街化調整区域における地区計画のガイト

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目 次 1 背景 目的 1 2 計画の位置付け 2 (1) 計画の位置付け 2 3 現状の問題と課題 3 (1) 現状の問題 3 (2) 課題 3 4 市街化調整区域における土地利用方針 5 (1) ゾーンにおける土地利用方針 6 (2) 各ゾーンのイメージ 10 5 土地利用現況図 11 6 土地

参考資料 ( 美祢都市計画区域 ) 目次 1. 区域区分の二次検討 25 23

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1. 目的 本町の第 3 次総合計画において 本町の将来像である ( みんなが主役 やすらぎと健康福祉のまち ) の実現に寄与すべく 本町の市街化調整区域における地区計画の運用にかかる基本的な方針を示すため 市街化調整区域における地区計画運用指針 ( 以下 運用指針 という ) を策定しました この

市街化調整区域の土地利用方針の施策体系 神奈川県 平塚市 神奈川県総合計画 神奈川県国土利用計画 平塚市総合計画 かながわ都市マスタープラン 同地域別計画 平塚市都市マスタープラン ( 都市計画に関する基本方針 ) 平塚都市計画都市計画区域の 整備 開発及び保全の方針 神奈川県土地利用方針 神奈川県

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阿賀野市の発展と市民福祉の向上を図ることを目的とした 行政運営の指針となる 阿賀野市総合計画 に定める本市の将来像 人 まち 自然が輝く幸福祉都市阿賀野 の実現に向けて また こよなく愛するふる里創造のため 全力を上げ取り組んでいるところでございます 国から地方への事務 権限移譲や三位一体改革が加速


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区域の整備 開発及び保全に関する方針 地区施設の整備の方針 建築物等の整備の方針 (1) 道路の整備方針区域内外との円滑な交通ネットワークの形成と歩行者等の安全で快適な歩行環境の向上を図るため 街区幹線道路及び区画道路を整備する 生活利便施設や良質な街並みを形成する住宅等の立地を誘導し 地域拠点にふ

第 2 章市の住宅 住環境をとりまく現状 人口増減 (H17 H22) 千里ニュータウンの建替団地のある町丁目で顕著に人口増加 ( 新千里西町 2 丁目 新千里東町 2 丁目等 ) 新規住宅地開発 ( 建替含む ) が行われた町丁目で 顕著に人口増加 ~-30% 減少 -30%~-5% 減少 -5%

制度概要 市街化調整区域内の既存集落では 市街化区域の市街地に比べて人口減少や少子高齢化が 進行しており 地域活力の低下や地域コミュニティの衰退が懸念されています そのため 既存集落における地域活力や地域コミュニティの維持 活性化を図るため 市長が区域と予定建築物の用途を指定して 内で自己用住宅等の


大阪狭山市市街化調整区域における地区計画のガイドライン(案)

区域の整備 開発及び保全に関する方針地区施設の整備の方針建築物等の整備の方針 (2) 公園 緑地の整備方針地域に親しまれる やすらぎと憩いの空間を形成するとともに 西武立川駅から玉川上水に向けて形成される緑のネットワークの拠点となるよう公園や緑地を配置する (3) その他の公共空地の整備方針各敷地の

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( 新 ) 藤沢都市計画住宅市街地の開発整備の方針 平成年月 神奈川県 藤沢 住宅 -1

三ケ島工業団地周辺地区 第一回勉強会

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工業地域用途地域の一つで 主として工業の業務の利便の増進を図る地域のこと 住宅や店舗は建てられるが 学校や病院 ホテルなどは建てられない 高次都市機能行政 教育 文化 情報 商業 交通 レジャーなど都市自体が持つ住民生活や企業の経済活動に対する各種のサービス機能のうち 受益圏が広域にわたる質の高い機

目次 1 運用基準策定の目的 1 2 市街化調整区域の地区計画の類型 2 3 市街化調整区域の地区計画の基本事項 3 4 地区計画の技術的な基準 4 5 都市計画の提案制度のフロー 7 6 地区計画と開発行為の手続きフロー 8 7 市街化調整区域における地区計画の運用基準の見直し 9

Ⅰ 用途地域指定の基本方針 1 用途地域別 市街地像 と指定の基本方針 1 2 境界の設定 4 3 用途地域見直しの時期 5 4 その他の地域地区や地区計画の活用 6 Ⅱ 用途地域の指定基準 第一種低層住居専用地域 7 第二種低層住居専用地域 9 第一種中高層住居専用地域 11 第二種中高層住居専用

参考資料 鳥取市都市計画マスタープラン 環境 文化 交流 拠点都市 とっとり ~ 個性ある新 生活交流都市 (( ハーモニーシティ )) をめざして ~ 概要版 平成 18 年 5 月 鳥取市

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[ 概要版 ] 倉吉都市計画 マスタープラン素案 鳥取県倉吉市

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目 次 1 基本方針 再開発を促進すべき地区等の整備又は開発の方針... 2 別表再開発促進地区の整備又は計画の概要... 3 都市再開発方針図 ( 総括図 )... 6 都市再開発方針附図

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7-3 上田城南地域 (1) 将来像 ( 将来像 ) 水と緑と多様な都市機能が調和し快適な暮らしの環境が整ったまち ( 基本目標 ) 千曲川をはじめ産川や浦野川 小牧山や上田原古戦場 半過岩鼻など奇景や原風景の残る豊かな自然や農地を大切に保全するとともに 秩序ある都市空間づくりを進めます 良好な住環

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(2) 小学校区別人口特性 2010 年の校区別総人口は 学校区の順に多い 2010 年の校区別人口密度は の順に高くなっており 学校区の殆どの区域と 学校区の一部区域は DID 地区となっている 2040 年の推計人口は 学校区で 2010 年人口を上回る若しくは横ばいの見込みであるが その他の殆

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松山広域都市計画地区計画の決定

指定標準 適用区域 建ぺい率 容積率 建築物の高さの最高限度 m 用途地域の変更に あたり導入を検討 すべき事項 ( 注 2) 1. 環境良好な一般的な低層住宅地として将来ともその環境を保護すべき区域 2. 農地等が多く 道路等の都市基盤が未整備な区域及び良好な樹林地等の保全を図る区域 3. 地区計

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総合計画及び国土利用計画アンケート調査結果 平成 20 年度 地域別構想 土地利用の方向性について 上位3つ ①無秩序な開発を抑制し 農地等は極力保全する ②主要な沿道等への店舗の立地を進め 利便性を高める ③身近な公園 生活道路 下水道などの生活環境基盤を整備する 住みよい 25.6% 22.9%

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生産緑地制度の概要 市街化区域内の農地で 良好な生活環境の確保に相当の効用があり 公共施設等の敷地に供する用地として適している 500 m2以上 *1 の農地を都市計画に定め 建築行為や宅地の造成を許可制により規制し 都市農地の計画的な保全を図る 市街化区域農地は宅地並み課税がされるのに対し 生産緑

市街化調整区域内の規制緩和に係るよくある質問 (Q&) (1) 山形市区域指定制度に係るよくある質問 市街化区域と市街化調整区域の違いは何ですか? 区域指定制度ってどんな制度ですか? どんなところを区域指定するの? 区域指定を行ったことによるメリットは? 私の土地は区域指定されていますか? 区域指定

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7-1 上田中央地域 (1) 将来像 ( 将来像 ) 中心市街地に集積された都市機能 風格ある景観 潤いある近郊農地多彩な交流と活力がみなぎるまち ( 基本目標 ) 市の中心市街地にふさわしい多様な都市機能を備えた 市民や来訪者が行き 交う賑わいと交流にあふれる中核拠点づくりを目指します 上田城跡

土地総合研究 2008 年春号 9 研究ノート 小規模小売店舗の商圏分析のための店舗の魅力度推定手法 李廷恩 1. はじめに (2) 研究目的 (1) 背景マーケティング地理学は 顧客の購買行動 店舗の経営 マーケティング活動間の相互関係を地域及び空間的観点から観察し その変化や類似性を体系化する学

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市川都市計画都市再開発の方針の変更 市川都市計画都市再開発の方針を次のとおり変更する

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目 次 1 市街化調整区域における地区計画ガイドラインの策定の経緯 1 第 Ⅰ 章市街化調整区域における土地利用の基本的な考え方 2 第 Ⅱ 章市街化調整区域における地区計画の導入 2 2 市街化調整区域における地区計画の基本事項 3 1 共通事項 3 2 地区計画整備計画に関する事項 3 (1)

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金沢都市計画地区計画の変更

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岸和田市市街化調整区域における地区計画のガイドライン改定素案 ( 平成 24 年 11 月 ) 1. 市街化調整区域における地区計画のガイドライン策定の趣旨 大阪府では 平成 23 年 3 月に策定された 南部大阪都市計画区域の整備 開発及び保全の方針 ( 以下 都市計画区域マスタープラン という

(2) 市原市における区域設定の考え方本市においては 更級地区における商業集積や沿岸における工業地帯の形成等 これまで特色ある土地利用展開を行ってきた経緯を踏まえ 居住誘導区域の設定に合わせ地域の特性に応じた区域を設定します 市原市における区域設定の考え方 市街化区域 1 居住誘導区域 2 一般居住

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1 総合設計 一定規模以上の敷地面積及び一定割合以上の空地を有する建築計画について 特定行政 庁の許可により容積率 斜線制限などの制限を緩和する制度である 建築敷地の共同化や 大規模化による土地の有効かつ合理的な利用の促進と 公開空地等公共的な空地 空間の 確保による市街地環境の改善を図ることを目的

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(第14回協議会100630)

市街化調整区域内における地区計画について

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市街化区域及び市街化調整区域に関する都市計画の見直しの基本的事項(案)

Transcription:

マルチエージェントシミュレーションによる緑地変化予測とその有効性に関する研究 *1 小林祐司 1 研究の背景と目的近年の人間や都市を取り巻く環境は急激な変化を見せている 市街地の進展により都市内と周辺の緑の環境は縮退の一途をたどっており, 特に都市近郊の住宅開発や, 市街地内未利用空地等の利用化によって緑の環境は絶対的に規模が縮小している したがって, 生活環境や自然環境の維持 保全を考え, 市街地や緑地の変化を定量的に把握, 分析し予測を交えて評価を行うことは, 重要であると考える そこで本研究では, 緑地環境の変化を把握する基礎的な手法の確立を行うために, マルチエージェントシミュレーション (MAS) を用いて, 緑地変化予測を行う 緑地変化予測をするにあたり, 都市の変化要素などを考慮した MAS モデルを構築し, 将来的な市街地や緑地の変化予測を,2 通りのパターンに分類してシミュレーションを行う そして, シミュレーションの有効性や課題を把握することを目的とする 2 研究の方法まずシミュレーションに適した対象地を大分市の 7 地区から選定する 次に, ランドサット TM データから得られた, 対象地の土地被覆分類 ( 高密度市街地, 低密度市街地, 農地等, 緑地 ) の経年的な変化を把握し, それらを考慮した上で, 各変化要素の遷移確率や変化パターンを用いて MAS モデルを構築する そして, シミュレーションを繰り返し実行し, 変化要素や変化フローに修正を加えながら, 実測値と比較することで, MAS モデルの有効性を検証する MAS モデルの有効性や課題を確認し, 対象地を 2 通りの変化予測パターンでシミュレーションを実行する その結果から, 将来的な市街地や緑地環境の把握や, 都市の変化要素となるものの抽出 分析をし, 最後に考察を行う *2 菖蒲亮 3 対象地の選定と概要本研究では, 大分市稙田地区 ( 図 1) をシミュレーション対象地として選定した 稙田地区は, 近年の市街地の拡大に伴う急激な人口増加や, その購買力に誘発された大規模商業施設の立地が顕著となっている 大分市都市計画マスタープランの人口予測によると,2010 年まで稙田地区の人口は増加傾向にあるが,2020 年以降は一転して減少傾向となる見通しである 豊後国分駅 賀来駅 七瀬川 霊山 稙田新都心 南大分駅 大分光吉 IC 大分川 敷戸駅 滝尾駅 大分大学前駅 図 1 シミュレーション対象地 : 稙田地区 4 MASモデルの構築緑地変化予測を行う前に,MAS モデルの有効性の検証をするため, まず 1985 年から 2002 年までの変化予測の MAS モデルを構築し, シミュレーションを実行する そのシミュレーション結果と, 実際の 2002 年の土地被覆分類データと比較することで,MAS モデルの有効性の検証をする 4-1 基礎データの構築最初に, ランドサット TM データより得られた 1985 年と 2002 年の土地被覆分類図を, 教師付き分類 最尤法を用いて作成した 土地被覆分類のカテゴリーは, 高密度市街地 低密度市街地 緑地 農地等 水域の 5 分類である 本研究では, シミュレーション対象地を稙田地区と比較的狭い範囲に絞っているので, 都市的な変化要素や地理的条件まで詳細に考慮するため,50mメッシュ

データでシミュレーションを実行することにした そこで, 土地被覆分類図を 50m メッシュデータに変換し,MAS モデルで使用する都市情報等を収めた空間データ基盤データ ( 鉄道路線, 用途地域, 農用地区域, 急傾斜地 ) も同様に変換した シミュレーションの対象範囲は稙田地区の稙田新都心を中心とした, 東西方向 8,850m 南北方向 5,850mで 50mメッシュデータとすると, 東西方向に 177pixel, 南北方向に 117pixel となり, 対象地の合計 pixel 数は 177 117=20,709pixel である 4-2 エージェントの分類と定義 MAS モデルで使用するエージェントの分類 ( 表 1) の説明を行う 主要変化エージェント は土地被覆分類で得られた4 種類のエージェントで構成された MAS モデルで, 変化の中心となるエージェントである 変化要素エージェント は MAS モデルの変化要素として追加したエージェントで, 変化要素の効果によって 市街化促進要素エージェント と 市街化抑制要素エージェント に分類できる その他のエージェント は, シミュレーション画面上で位置を把握しやすくするために追加したエージェントである 変化要素エージェント 分類 主要変化エージェント 市街化促進要素エージェント市街化抑制要素エージェント その他のエージェント 表 1 エージェントの分類 エージェント高密度市街地低密度市街地緑地農地等鉄道駅用途地域農用地区域急傾斜地道路河川 主な内容高密度な住宅地 商業地低密度な住宅地 商業地森林 野原など田畑 荒地など JR 各駅商業系用地 住宅系用地農業を振興している地域急な傾斜地 崖など国道 県道一級 二級河川 4-3 シミュレーションの全体フロー MASモデルのシミュレーションの軸となる全体フロー ( 図 2) の説明をする 1シミュレーションがスタートすると, 主要変化エージェントをランダムに選択する 2 選択された主要変化エージェントは, 変化フローによって振る舞いが決定される ( 図 3) 3それぞれ変化したエージェント数をカウント し,1 年経過のいずれかの条件を満たしたとき, シミュレーション内で1 年経過とみなす 4 各エージェントの合計 Pixel 数をカウントし, シミュレーション終了条件を満たすと終了する 満たさなかった場合,1に戻り終了条件を満たすまでシミュレーションは続けられる START 1 Select Agent:Random() 2 Agent Agent Agent Agent [High Density] [Low Density] [Farmland] [Greenland] 3 If High:+200pixel or Farm:-150pixel or Green:-50pixel then Simulation1 年経過 4 [Exit Simulation] High+Low 11681pixel YES END 図 2 シミュレーション全体フロー 4-4 エージェントの変化フロー初めに変化の際に使用するエージェントの変化確率を算出する 表 2は実際の稙田地区の1985 年から2002 年までの土地被覆遷移数を表しており, 各エージェントの遷移数と合計との割合から, 表 3の遷移確率を算出した MASモデルの中心となるエージェントの変化フローとは, 主要変化エージェントが変化要素の条件式を判断して, 振る舞いを決めるエージェント変化のルールであり, 全体フロー ( 図 2) の2で使用する 低密度市街地の変化フロー ( 図 3) を例として説明をすると, 変化フローには, 変化要素の条件式がいくつか与えられており, 各エージェントによって条件式は全て異なる 表 2 土地被覆遷移ピクセル数 2002 年 高密度市街地 低密度市街地 緑地 その他 合計 高密度市街地 1621 276 17 37 1951 低密度市街地 2754 2690 92 762 6298 1985 年 緑地 472 851 4126 631 6080 その他 542 2475 969 1843 5829 合計 5389 6292 5204 3273 20158

1985 年 表 3 土地利用遷移確率表 2002 年 高密度市街地 低密度市街地 緑地 その他 合計 高密度市街地 0.831 0.141 0.009 0.019 1.000 低密度市街地 0.437 0.427 0.015 0.121 1.000 緑地 0.078 0.140 0.679 0.104 1.000 その他 0.093 0.425 0.166 0.316 1.000 合計 0.267 0.312 0.258 0.162 1.000 表 4 MAS モデルの再現率 高密度市街地 低密度市街地 緑地 農地等 実測値 (2002 年 ) 5389 6292 5204 3273 MASモデル (2002 年 ) 5288 6393 5397 3145 正 3524 3923 3518 1704 誤 1764 2470 1879 1441 再現率 (%) 66.6 61.4 65.2 54.2 START element: 鉄道駅 YES change:high Density range:3 pixel:5 以上 element: 用途地域 YES change:high Density range:2 pixel:10 以上 element: 農用地区域 YES change:farmland range:2 pixel:30 以上 高密度市街地 低密度市街地 農地等 緑地 図 4 稙田地区シミュレーション結果 :2002 年 element: 急傾斜地 YES change:farmland range:1 pixel:3 以上 element: 高密度市街地 YES change:high Density range:3 pixel:15 以上 probability:45% element: 農地等 YES change:farmland range:3 pixel:30 以上 probability:10% END 高密度市街地 低密度市街地 農地等 緑地 図 3 低密度市街地エージェント変化フロー 図 5 稙田地区実測値 :2002 年 5 MASモデルの有効性の検討 1985 年から 2002 年までの MAS モデルによるシミュレーション結果は図 4のようになった この結果を実測値データと比較すると, 表 4のようになり各エージェントの再現率は 60% 前後となった しかし, シミュレーション結果を図 5の稙田地区の実測値と比較してみると, 市街地の分布は多くはなっているが, 各エージェントの分布状況は概ね一致していると考えられる さらに 50mメッシュデータという条件の上で, 各エージェントの再現率が 60% 前後という結果を踏まえると, 今回の結果は MAS モデルによるシミュレーションの有効性を十分に証明していると考えられる 6 MASモデルによる緑地変化予測 6-1 都市発展継続パターン都市発展継続パターンは,1985 年から2002 年の都市発展速度が2002 年以降も継続すると仮定しシミュレーションを実行する そのシミュレーション結果は図 6, 図 7のようになった 2022 年頃からエージェントの変化量が減少し変化が見られなくなったため, シミュレーションの終了年とした 図 6を見ると, 対象地に高密度市街地と低密度市街地が多く分布していることがわかる 図 7を見ると, 緑地は農地等ほど減少することはなかったが, 市街地に囲まれた小規模な緑地などは減少する傾向が多く見られた 都市発展継続パタ ーンが 2022 年頃でエージェントの変化が見られ

なくなったことから, 新たな変化要素が追加されない限り稙田地区では都市発展が継続すると, 将来的にシミュレーション結果のような均衡状態が続くことが考えられる 6-2 都市衰退パターン都市衰退パターンは,2002 年以降は人口減少時代となり都市が衰退する速度は都市発展継続パターンの3 分の1の速度と仮定した上で, 都市衰退のシナリオを考慮しながらシミュレーションを実行した 2050 年までシミュレーションを実行し, 結果は図 8, 図 9のようになった 低密度市街地や農地等が増加し, 高密度市街地は2050 年には 1985 年の水準まで低下した 緑地は緑化運動の促進などのシナリオを想定したが, 図 9を見ると若干の増加にとどまる結果となった 7 総括本研究では, 緑地変化予測を行う MAS モデルを構築してシミュレーションを実行し, 将来的な都市の市街地や緑地環境の把握と変化要素の抽 出を目的とした まず MAS モデルの構築は, 実際のデータを参考に遷移確率の算出や, 都市の変化要素を追加することで, 有効性のあるシミュレーション結果を得ることができた そして構築した MAS モデルを基準として2 通りの変化予測パターンでシミュレーションを実行した これらの結果を踏まえて, 変化予測シミュレーションには人口のデータを導入する必要性を把握した 本研究の MAS モデルには変化要素として, 鉄道駅や用途地域も考慮したが, 変化要素も人口に影響を受けて形を変えていくため, 人口予測を把握することは非常に重要なことである しかし, 本研究の MAS モデルでは,50mメッシュデータでシミュレーションを行ったため, 人口を考慮するのは事実上困難であった 人口を考慮した MAS モデルを構築するには, 最低でも 250mメッシュデータとする必要があると考える そのため今後の課題として, 人口予測も考慮した MAS モデルを構築することで, シミュレーションの有効性も高まり, より正確な都市の市街地や緑地環境の予測と評価ができると考えられる 高密度市街地低密度市街地農地等緑地 図 6 稙田地区シミュレーション結果 :2022 年 高密度市街地低密度市街地農地等緑地 図 8 稙田地区シミュレーション結果 :2050 年 pixel 10000 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 2005 2010 2015 2020 高密度市街地低密度市街地緑地農地等 図 7 各エージェントの合計 Pixel 変化量 pixel 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 2010 2020 2030 2040 2050 高密度市街地低密度市街地緑地農地等 図 9 各エージェントの合計 Pixel 変化量

参考文献 1) 渡辺公次郎, 大貝彰, 五十嵐誠 : セルラーオートマタを用いた市街地形態変化のモデル開発, 日本建築学会計画系論文集,No.523,pp.105-112, 2000.7 2) 瀧澤重志, 河村廣, 谷明勲 : 適応的マルチエージェントシステムによる都市の土地利用パターンの形成, 日本建築学会計画系論文集, 第 528 号,pp.267-275,2000.2 3) 小林祐司, 佐藤誠治, 有馬隆文, 姫野由香 : ランドサット TM データを利用した緑地分布傾向の把握手法に関する研究, 日本都市計画学会学術研究論文集, 第 35 号,pp.1009-1014,2000.11 4) 大分市都市計画マスタープラン, 第 3 章地区別構想 : 稙田地区 謝辞 本研究は, 本学卒業生川浪亮一氏の協力を得て実施したものである *1: 大分大学工学部福祉環境工学科 建築コース, 准教授, 博士 ( 工学 ) *2: 大分大学工学部福祉環境工学科 建築コース, 技術職員 研究実施期間 :2008 年度 ~2010 年度