上げられる ) * 最低加入期間 :5 年 加入期間として算定される期間は 保険料納付期間 保険料免除期間 配慮期間 保険料納付期間: 保険料が納付された期間 児童養育期間 (3 歳未満の子を養育する期間 ) など 保険料免除期間: 算入期間 ( 疾病 妊娠 失業 または 17 歳以上の最長 8 年

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第14章 国民年金 

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平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

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平成16年年金制度改正における年金財政のフレームワーク

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2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

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平成 28 年 9 月度実施実技試験 損保顧客資産相談業務 139

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< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

(2) 国民年金の保険料 国民年金の第 1 号被保険者および任意加入者は, 保険料を納めなければなりません また, より高い老齢給付を望む第 1 号被保険者 任意加入者は, 希望により付加保険料を納めることができます 定額保険料月額 15,250 円 ( 平成 26 年度 ) 付加保険料月額 400

(2) 国民年金の保険料 国民年金の第 1 号被保険者および任意加入者は, 保険料を納めなければなりません また, より高い老齢給付を望む第 1 号被保険者 任意加入者は, 希望により付加保険料を納めることができます 定額保険料月額 16,490 円 ( 平成 29 年度 ) 付加保険料月額 400

稲垣氏講演資料

労災年金のスライド

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12 ページ, 図表 ,930 円 保険料納付済月数 + 全額免除月数 1/2+4 分の 3 免除月数 5/8+ 半額免除月数 3/4+4 分の 1 免除月数 7/8 ( 出所 ) 厚生労働省 老齢年金ガイド平成 2730 年度版 より筆者作成 40 年 ( 加入可能年数

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

2. 年金改定率の推移 2005 年度以降の年金改定率の推移をみると 2015 年度を除き 改定率はゼロかマイナスである ( 図表 2) 2015 年度の年金改定率がプラスとなったのは 2014 年 4 月の消費税率 8% への引き上げにより年金改定率の基準となる2014 年の物価上昇率が大きかった

平成25年4月から9月までの年金額は

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

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年金額の改定について 公的年金制度は平成 16 年の法改正により永久に年金財政を均衡させる従来の仕組みから おおむね ( 100 ) 年間で年金財政を均衡させる仕組みへと変わった この年金財政を均衡させる期間を 財政均衡期間 という これにより 政府は少なくとも ( 5 ) 年ごとに財政の検証をおこ

参考資料

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

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米国の給付建て制度の終了と受給権保護の現状

第 7 章 年金 福祉 1 年金 日本の公的年金制度は, 予測できない将来へ備えるため, 社会全体で支える仕組みを基本としたものです 世代を超えて社会全体で支え合うことで給付を実現し, 生涯を通じた保障を実現するために必要です 働いている世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという方式で

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金のみの場合は年収 28 万円以上 1 年金収入以外の所得がある場合は合計所得金額 2 16 万円以上が対象となる ただし 合計所得金額が16 万円以上であっても 同一世帯の介護保険の第 1 号被保険者 (65 歳以上 ) の年金収入やその他の合計所得が単身世帯で28 万円 2 人以上世帯で346

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8-1 雇用保険 雇用保険の適用基準 1 31 日以上引き続き雇用されることが見込まれること 31 日以上雇用が継続しないことが明確である場合を除き この要件に該当することとなります このため 例えば 次の場合には 雇用契約期間が31 日未満であっても 原則として 31 日以上の雇用が見込まれるもの

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年金と経済 Vol. 35 No. 1 国名 イタリア 公的年金の体系保険料財源税財源企業 個人年金 報酬方式 (1995 年までに労働を開始した者に適用 いずれにせよ,2011 年までの保険料分に関してのみ ) 拠出方式 (1996 年 1 月 1 日以降の保険料納付分について適用 ただし,199

被用者年金一元化法

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問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

強制加入被保険者(法7) ケース1

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

1

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別紙2

2 社会保障協定のねらい 社会保障協定とは 国際間の人的移動の活発化に伴う年金等における課題の解決 協定発効前 二重負担の課題 在ルクセンブルク日本企業勤務の日本人 厚生年金保険料の徴収 ルクセンブルク年金保険料の徴収 年金受給資格の確保の課題 ルクセンブルク年金の最低加入期間である10 年を満たさ

( 第 1 段階 ) 報酬比例部分はそのまま定額部分を段階的に廃止 2 年ごとに 1 歳ずつ定額部分が消える ( 女性はすべてプラス 5 年 ) 報酬比例部分 定額部分 S16 S16 S18 S20 S22 4/1 前 4/2 ~4/2 4/2 4/2 4/2 ~~~

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2 社会保障 2.1 社会保障 2.2 医療保険 2.3 年金保険 2.4 介護保険 2.5 労災保険 2.6 雇用保険 介護保険は社会保険を構成する 1 つです 介護保険制度の仕組みや給付について説明していきます 介護保険制度 介護保険制度は 高齢者の介護を社会全体で支えるための制度

PowerPoint プレゼンテーション

障害厚生年金 厚生年金に加入している間に初診日 ( 障害のもととなった病気やけがで初めて医者にかかった日 ) がある病気やけがによって 65 歳になるまでの間に 厚生年金保険法で定める障害の状態になったときに 受給要件を満たしていれば支給される年金です なお 障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害

第 9 回社会保障審議会年金部会平成 2 0 年 6 月 1 9 日 資料 1-4 現行制度の仕組み 趣旨 国民年金保険料の免除制度について 現行制度においては 保険料を納付することが経済的に困難な被保険者のために 被保険者からの申請に基づいて 社会保険庁長官が承認したときに保険料の納付義務を免除す

第 2 節強制被保険者 1 第 1 号被保険者頻出 択 ( 法 7 条 1 項 1 号 ) 資格要件 日本国内に住所を有する20 歳以上 60 歳未満の者 ( 第 2 号 第 3 号被保険者に該当する者を除く ) 例 ) 自営業者 農漁業従事者 無業者など 適用除外 被用者年金各法に基づく老齢又は退

現在公的年金を受けている方は その年金証書 ( 請求者及び配偶者 請求者名義の預金通帳 戸籍謄本 ( 受給権発生年月日以降のもの ) 請求者の住民票コードが記載されているもの ( お持ちの場合のみ ) 障害基礎年金 受給要件 障害基礎年金は 次の要件を満たしている方の障害 ( 初診日から1 年 6か

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社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

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Ⅰ. 厚生年金基金の取扱について 1. 残余財産の分配について (1) 分配の有無 Q1: 代行部分返納後に残余財産があれば 基金の上乗せ部分に係る 分配金 として 加入者 受給待期者 受給者に分配することになりますが 現時点および最終時点で残余財産はいくらになりますか? A1: 仮に平成 27 年

第 1 号被保険者 資格取得の届出の受理 種別変更の届出の受理 資格喪失の承認申請 ( 任意脱退 ) の受理 資格喪失届出の受理 資格喪失の申出 第 1 号被保険者 任意加入被保険者 付加保険料の納付の申出の受理 付加保険料の納付しないことの申出の受理 に申請 届出または申出をした場合 被保険者 世

ライフプランニングと資金計画 問題 1. ファイナンシャル プランナーの顧客に対する行為に関する次の記述のうち 職 業倫理や関連法規に照らし 最も適切なものはどれか 1. 税理士資格を有しないファイナンシャル プランナーが 住宅ローン相談セミナーを開催し その出席者に対して無償で確定申告書の作成代行

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新規裁定当該期間 ( 月又は年度 ) 中に新たに裁定され 年金受給権を得た者が対象であり 年金額については裁定された時点で決定された年金額 ( 年額 ) となっている なお 特別支給の老齢厚生年金の受給権者が65 歳に到達した以降 老齢基礎年金及び老齢厚生年金 ( 本来支給もしくは繰下げ支給 ) を

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強制加入被保険者(法7) ケース1

介護保険制度 介護保険料に関する Q&A 御前崎市高齢者支援課 平成 30 年 12 月 vol.1

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

厚生年金 健康保険の強制適用となる者の推計 粗い推計 民間給与実態統計調査 ( 平成 22 年 ) 国税庁 5,479 万人 ( 年間平均 ) 厚生年金 健康保険の強制被保険者の可能性が高い者の総数は 5,479 万人 - 約 681 万人 - 約 120 万人 = 約 4,678 万人 従業員五人

平成 30 年 1 月末の国民年金 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 及び福祉年金の受給者の 年金総額は 49 兆円であり 前年同月に比べて 6 千億円 (1.3%) 増加している 注. 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 受給 ( 権 ) 者の年金総額は 老齢給付及び遺族年金 ( 長期要件 ) につ

平成 30 年 2 月末の国民年金 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 及び福祉年金の受給者の 年金総額は 49 兆円であり 前年同月に比べて 7 千億円 (1.4%) 増加している 注. 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 受給 ( 権 ) 者の年金総額は 老齢給付及び遺族年金 ( 長期要件 ) につ

2909_0 概要

生活福祉研レポートの雛形

年金制度のポイント

2 給付と負担における世代間の大きな格差給付と負担を比較すると 後の世代ほど負担がより重くなっており 世代間の不公平感が高まっている 3 職業や世帯形態による制度の違い負担面での一元化が行われておらず ( 注 3) また 被用者の扶養配偶者 (3 号被保険者 ) の取扱いは 女性の就業意欲を妨げる要

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例 言 厚生年金保険被保険者厚生年金保険被保険者については 平成 27 年 10 月 1 日から被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律が施行されたことに伴い 厚生年金保険法第 2 条の5の規定に基づき 以下のように分類している 1 第 1 号厚生年金被保険者第 2

はじめに 定年 は人生における大きな節目です 仕事をする 働く という観点からすれば ひとつの大きな目標 ( ゴール ) であり 定年前と定年後では そのライフスタイルも大きく変わってくることでしょう また 昨今の労働力人口の減少からも 国による 働き方改革 の実現に向けては 高齢者の就業促進も大き

( 参考 ) 平成 29 年度予算編成にあたっての財務大臣 厚生労働大臣の合意事項 ( 平成 29 年 12 月 19 日大臣折衝事項の別紙 ) < 医療制度改革 > 別紙 (1) 高額療養費制度の見直し 1 現役並み所得者 - 外来上限特例の上限額を 44,400 円から 57,600 円に引き上

つのシナリオにおける社会保障給付費の超長期見通し ( マクロ ) (GDP 比 %) 年金 医療 介護の社会保障給付費合計 現行制度に即して社会保障給付の将来を推計 生産性 ( 実質賃金 ) 人口の規模や構成によって将来像 (1 人当たりや GDP 比 ) が違ってくる

2 厚年と国年の加入期間がある人 昭和 36 年 3 月以前 20 歳未満および 60 歳以後の厚年の被保険者期間 昭和 36 年 3 月以前の厚年期間のみの人 坑内員 船員 ( 第 3 種被保険者 ) の場合 昭和 61 年 3 月までの旧船員保険の

実技試験 ( 個人資産相談業務 ) 次の設例に基づいて 下記の各問 ( 問 1 ~ 問 3 ) に答えなさい 設例 Aさん (33 歳 ) および妻 Bさん (29 歳 ) は 民間企業に勤める会社員である 平成 29 年 3 月に第 1 子を出産予定の妻 Bさんは 産前産後休業および育児休業を取得

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Web 版 Vol.69( 通巻 714 号 ) 図表 1 年金生活者支援給付金の概要 高齢者への給付金 ( 老齢年金生活者支援給付金 ) 何回かご覧になっている資料だと思いますので 支給要件 や 保険料納付済期間に基づく給付額 など制度の概要 ( 基本的事項 ) につ

平成19年度分から

Transcription:

ドイツにおける 最低保障年金 をめぐる論議 森周子 ( 佐賀大学経済学部 ) 1. 問題の所在 * 日本 無年金者 低年金者の存在: 保険料納付済期間の不足などが原因 ( 社会保障国民会議 2008) 2010 年度の老齢厚生年金の新規裁定の受給権者の平均年金月額は 84,339 円 同年度の受給者の平均年金月額は 76,828 円 ( 厚生労働省年金局 2011 9) 高齢者の相対的貧困率は 22% OECD 諸国平均 (13%) を上回る (OECD2009,16) 高齢期の生活を安定させ 現役世代の安心感を高めるための 最低保障年金 の提案 * 社会保険方式の公的年金制度を前提とする中でどのように高齢期の貧困を防ぐかを 一階建て ( 所得比例年金 ) の公的年金 ( 参考 1 参照 ) を維持してきたドイツをもとに考える 給付水準が引き下げられ( 後述 ) 非正規雇用者も増える中で どのように高齢期の貧困に対応しようとしているのか? ドイツにおける 社会保険方式の維持 と 高齢期の貧困の回避 の両立への工夫から 日本への示唆を得る 2. ドイツの公的年金保険制度 2-1. 法定年金保険 (GRV) * ドイツ最大規模の公的年金保険制度 被用者と一部の自営業者が対象 加入者数 5222 万人 (2010 年末時点 ) 保険者: ドイツ年金保険 (DRV) 保険料率:19.6%( 労使折半 )(2012 年 1 月時点 ) * 被保険者 強制被保険者: 被用者 (2010 年末時点で 2695 万人 ) 一部の自営業者( 同 26 万人 ) など 任意被保険者: 強制被保険者でない者で 16 歳以上の者 ( 専業主婦 学生 ドイツ国内に住所または居所を有する外国人など ) 2010 年末時点で 32.3 万人 ( 男性 24.3 万人 女性 7.9 万人 ) 僅少労働 ( 月収 400 以下または短期 (2 か月以内または 50 労働日以内 )) に専ら従事する者 (2010 年平均で約 46 万人 ) は GRV の強制被保険者ではないが 使用者のみが当該僅少労働者の賃金の 15% 相当額を DRV に支払う 僅少労働者の任意加入は可能 その場合 通常の保険料負担義務が発生するが 使用者が 15% を負担し 被保険者が保険料率から 15% を減算した分を負担 老齢年金 * 受給開始年齢 :65 歳 ( 但し 2012 年 4 月以降 従来の 65 歳から段階的に 67 歳へと引き 1

上げられる ) * 最低加入期間 :5 年 加入期間として算定される期間は 保険料納付期間 保険料免除期間 配慮期間 保険料納付期間: 保険料が納付された期間 児童養育期間 (3 歳未満の子を養育する期間 ) など 保険料免除期間: 算入期間 ( 疾病 妊娠 失業 または 17 歳以上の最長 8 年までの就学によって保険料を納付しなかった期間 ) など 配慮期間:10 歳未満の子を養育する期間 * 年金財政 財政方式: 賦課方式 財源:2011 年は 2491 億 の収入のうち 保険料が 1887 億 (75.8%) 連邦補助金が 396 億 (15.9%) 追加連邦補助金が 192 億 (7.7% ) 保険外給付 ( 保険料支払いを伴わない給付 ) を補填するため 財政収支:2011 年は収入 2491 億 支出 2447 億 で 44 億 の黒字 積立金:2011 年時点で 235 億 (1.38 か月分 ) * 年金額の算定式 年金月額 = 個人報酬点数 年金種別係数 年金現在価値 個人報酬点数: 当該被保険者の年金法上の期間におけるすべての報酬点数 1の合計 支給開始係数 2 年金種別係数: 年金の種類ごとに定められた係数 老齢年金は 1.0 年金現在価値: 一暦年において全被保険者の平均労働報酬を得て就労した被保険者が受給できる通常の老齢年金の月額 2011 年 7 月以降は旧西独 27.47 旧東独 24.37( 毎年 7 月にスライドが行われる ) 例 :GRV の加入期間が 45 年で その期間中毎年 平均労働報酬を得ていた旧西独の被保険者の年金月額 標準年金 45 点 ( 報酬点数 ) 1.0( 支給開始年齢 ) 1.0( 年金種別係数 ) 27.47 =1236.15 報酬点数の高さと加入期間の長さが年金額に大きな影響を与える 所得比例年金 保険料 給付等価性 ( 支払われた保険料に見合った給付を保障する ) が原則 (Rürup Kommission, 2003, 68) 1 報酬点数 : 各暦年における当該被保険者の保険料算定の基礎となった労働報酬の額を当該暦年の全被保険者の平均労働報酬で除した値 ある暦年において当該被保険者の労働報酬の額と当該暦年の全被保険者の平均労働報酬とが等しい場合は 当該暦年の報酬点数は 1 となる 2 支給開始係数 : 通常は 1 繰上 ( 繰下 ) 支給の場合は 1 月当り 0.003(0.005) 減算 ( 加算 ) 2

2010 年末時点の一暦年当りの平均報酬点数 : 男性 1.0185 女性 0.7789(BMAS2011 19) 2010 年時点での年金法上の期間の平均 : 男性 41.23 年 ( 旧西独 40.2 年 旧東独 44.79 年 ) 女性 29.58 年 ( 旧西独 26.8 年 旧東独 38.59 年 ) 標準年金の年金水準: 課税前ネット額 ( 社会保険料を控除した課税前の標準年金額 ) を 社会保険料を控除した課税前の平均労働所得で除した値 2020 年までは 46% 2030 年までは 43% を下回らないこととされている 2010 年時点では 51.6%(DRV2012, 27) 3. ドイツにおける高齢期の貧困の認識と対策 3-1. 高齢期の貧困の現状 * 高齢者の相対的貧困率 ( 図表 1) 2010 年の貧困線 : 単身世帯 826 ( 旧西独 854 旧東独 738 ) 4 人家族世帯 ( 夫婦と 14 歳以下の子 2 人 )1,735 ( 旧西独 1,794 旧東独 1,550 ) 図表 1 2005~2010 年の高齢者の相対的貧困率 ( 単位 :%) 2005 2006 2007 2008 2009 2010 全体 11.0 10.4 11.3 12.0 11.9 12.3 男性 8.7 8.5 9.2 9.9 9.7 10.3 女性 12.7 11.8 12.9 13.6 13.6 13.8 出典 :Statistisches Bundesamt (2012) 65 歳以上人口に占める 基礎保障 ( 後述 ) 受給者の割合 :2.4%(2009 年末時点 ) * 老齢年金の平均額 (2010 年時点 ): 旧西独は男性 857 女性 479 旧東独は男性 878 女性 683 (DRV2012) ドイツ経済研究所(DIW) の推計 : 旧西独の年金額は今後も堅調だが 旧東独では 1990 年代以降の不況期における失業者や非正規雇用者の増大を受けて 低年金になる人々が男女とも増加する見通し ( 参考 2 参照 )(Geyer/ Steiner2010) 2009 年以降 旧西独の新規裁定の老齢年金の平均額も 基礎保障 ( 後述 ) の給付額を下回っている 2010 年は基礎保障の給付額 ( 生計扶助 + 家賃 ) が 670 であったのに対し 新規裁定の老齢年金の平均額は 655 (Sozialpolitik Aktuell2012) 3-2. 高齢期の貧困への対策 ( これまで実施されたもの ) 最低所得に基づく年金 (1972~1991 年 ) 非正規雇用者の年金額を引き上げる仕組み *1972 年年金改革 : 年金加入期間を 25 年以上有する者に対し 保険料納付期間中の報酬点数が通常の報酬点数の 3/4(0.75) を下回る場合に 当該期間中の報酬点数を実際の 1.5 倍 ( 但し上限は 0.75) に引き上げて年金額を計算 *1992 年年金改革 : 加入期間を 35 年以上有する者に対し 1991 年以前の保険料納付期 3

間に限定して実施するという形に改変 旧東独の年金受給者への配慮 * 老齢資産法 (2002 年 ): 1991 年以降の配慮期間および 18 歳未満の介護を要する子を職業としてではなく介護した期間中の報酬点数のみを引き上げる仕組みへと改変 ( 後述 ) 養育などのために余儀なくされるではなく 自分の意志でパートタイム労働を行っている場合についてまで配慮する必要はないとされたため ( 松本 2004 181) 児童養育期間と介護期間の保険料納付期間への算入 主に女性への配慮 * 児童養育期間に関して 子 1 人につき その子が 3 歳に達するまでの期間中 平均労働報酬を得て働いていたものとみなして報酬点数を算定 この間の保険料は連邦補助金によって負担される 老齢資産法(2002 年 ): 25 年以上の年金法上の期間を有する者が 2002 年以降に年金受給を開始する場合 1991 年以降の配慮期間中の報酬点数が 1.5 倍に引き上げられる ( 但し加算上限は 1 月当り 0.0278. 報酬点数の上限は 1 月当り 0.0833) 加算上限の 0.0278 は 通常の報酬点数である 0.0833 の 1/3 に相当 子が 10 歳になるまで育児と仕事の両立のために正規雇用の 2/3 相当の非正規雇用に従事したとしても 正規雇用と同様の報酬点数を得られるようにするため ( 松本 2004 180) * 介護期間に関して 職業としてではなく在宅の要介護者を週 14 時間以上介護する者は GRV の被保険者とされ また 介護期間中の年金保険料が介護保険財政から年金保険者に支払われる 介護休業 ( 最長 6 か月 ) 中も同様 老齢資産法(2002 年 ): 25 年以上の年金法上の期間を有する者につき 1991 年以降において 18 歳未満の介護を要する子を職業としてではなく介護した期間中の報酬点数を 1.5 倍に引き上げる ( 但し加算上限は 1 月当り 0.0278 報酬点数の上限は 1 月当り 0.0833) 基礎保障 ( 正式名称 : 高齢期および稼得能力減退時における基礎保障 ) * 高齢者の 恥じらいによる貧困 を防ぐため 2003 年に 基礎保障法 という 公的扶助とは異なる独立の制度として創設された 年金受給開始年齢に達した者 または 18 歳以上で疾病または障害によって稼得能力が完全に減退している (= 稼得能力を持たない ) 者が対象 支給額は公的扶助制度における生計扶助と同額 対象者の親または子の年間収入が 10 万 未満の場合 彼らの扶養義務は問われない 恥じらいによる貧困 ( 子に扶養照会がなされることを恥じるあまり 困窮に陥った高齢者が社会扶助を申請しない ) を防ぐことが主眼 (BMAS 2006, 646-647) *2005 年のハルツ Ⅳ 法改革によって公的扶助制度に吸収された 賛否両論あり 3-3. 高齢期の貧困への対策 ( 現在提案されているもの ) 与党の提案 : 補助年金 (Zuschussrente)(BMAS2012) 4

* 与党 CDU( キリスト教民主同盟 ) の連邦労働社会相フォン デア ライエン氏の提案 2012 年 3 月に法案を提出 2013 年からの導入を意図 費用 :2013 年は 9000 万 2030 年までに 34 億 が見込まれている * 給付要件 40 年の保険加入期間と 30 年の保険料期間 ( 児童養育期間 配慮期間も含む ) 2019 年以降は追加的老齢保障 ( 企業年金 個人年金 ) への加入も要件に ( 当初は 5 年間加入 最終的 (2049 年以降 ) には 35 年間加入 ) * 給付内容 : 給付要件を満たす者で 保険加入期間中に平均以下の稼得しかなかった者に対し 報酬点数が最大 1 まで引き上げられる ( 但し個人報酬点数の引上げ上限は 31 点 = 約 850 ユーロの年金額に相当 ) 保険者 (DRV) 野党 SPD( 社会民主党 ) などからの批判 : 長期失業者や 保険に加入していない自営業者などに対しては効果がない 850 ユーロという年金額も高齢期の貧困を克服するに十分な額かどうかが疑わしい 野党の提案 *SPD DGB( ドイツ労働総同盟 )( ドイツ最大規模の労働組合 ) 全国一律の最低賃金( 時給 8.5 ユーロ ) の実現により適正な年金額を確保する 失業時 低所得時の報酬点数の引上げ 最低所得に基づく年金 の復活 全ての労働者( 現在強制加入の対象外である自営業者も含む ) を DRV に加入させる 4. ドイツの特徴と日本への示唆 4-1. ドイツの特徴 * 税財源の最低保障年金の導入は拒否 保険料 給付等価性に基づく社会保険方式を重視 公的年金制度の枠内で 報酬点数上不利な立場にある者には みなし所得比例年金 を実施し その財源を連邦税で賄う 例 : 家庭における貢献 ( 特に育児 介護 ) を稼得活動とみなして報酬点数を引き上げる 補助年金や 最低所得に基づく年金 復活による報酬点数引上げの提案 公的年金制度の枠外の者 もしくは枠内の者で低年金の者については 基礎保障 で対応 公的扶助での対応でよいか? * 議論の方向性 野党: 被保険者の範囲拡大 + 最低所得に基づく年金 年金保険の枠内での対応を志向 与党: 長期加入者に対する補助年金 +それ以外の者に対する公的扶助 ( 基礎保障 ) 年金保険の枠内と枠外での対応を志向 4-2. 日本への示唆 5

* 高齢期の貧困を回避するために どのような原理に基づいてどの制度で対応するのか ( 公的年金か 生活保護か 第三の制度 か ) を明確にする必要あり 保険原理にこだわるのであれば 現行制度の修正 + 第三の制度 という改革方向が妥当では? * 具体的な対応案 低所得などのやむを得ない事情により保険料を支払えない第一号被保険者: 最低所得に基づく年金 のように 老齢基礎年金の一般免除制度の反映割合を現在より引き上げ ( たとえば一律に 3/4 とするなど ) それに伴う給付増額分は税財源で賄う または 基礎保障 のような ( 生活保護とは別の ) 税財源の制度を新設 厚生年金の長期加入者だが低所得であった者: 最低所得に基づく年金 のように 老齢厚生年金の算定要素 ( 平均標準報酬額 乗率 加入期間 ) のいずれかを引き上げ それに伴う給付増額分は税財源で賄う 厚生年金の適用されない非正規雇用者: 僅少労働者への対応にヒントを得て 厚生年金への任意加入を認め その際に保険料率の使用者負担分を引き上げる または 基礎保障 のような ( 生活保護とは別の ) 税財源の制度で対応 < 主要参考文献 > OECD (2009) 日本の政策課題達成のために OECD の貢献 厚生労働省年金局 (2011) 平成 22 年度厚生年金保険 国民年金保険事業の概況 社会保障国民会議 (2008) 第 5 回所得確保 保障 ( 雇用 年金 ) 分科会資料 2-2 低年金 無年金対策について 松本勝明 (2004) ドイツ社会保障論 Ⅱ 年金保険 信山社森周子 (2011) ドイツにおける高齢女性の所得保障: 年金を中心に 海外社会保障研究 175 BMAS (2006): Übersicht über das Sozialrecht BMAS (2011): Rentenversicherungsbericht 2011 BMAS (2012): Das Rentenpaket DRV (2012): Rentenversicherung in Zahlen Geyer, Johannes/ Steiner, Viktor (2010): Künftige Altersrenten in Deutschland: Relative Stabilität im Westen, starker Rückgang im Osten, in: DIW-Wochenbericht, 11/2010 Rürup Kommission (2003): Nachhaltigkeit in der Finanzierung der Sozialen Sicherungssysteme Sozialpolitik Aktuell (2012) : Newsletter 2/2012 (2012.1.28.) SPD (2009): Sozial und Demokratisch Statistisches Bundesamt (2012) : Sozialberichterstattung (https://www.destatis.de/de/zahlenfakten/gesellschaftstaat/soziales/sozialb erichterstattung/sozialberichterstattung.html) 6

参考 1: 日本とドイツの年金制度 日本現行制度 ドイツ 国民年金 厚生年金 所得比例 新制度案 ( 低年金者向けに 年金制度外の基礎保障制度がある ) 最低保障年金 所得比例年金 出典 : 報告者作成 参考 2: 旧西独 旧東独における年金受給額および年金水準 旧西独における年金受給額および年金水準 旧東独における年金受給額および年金水準 月額 ( ユーロ ) 年金受給額 平均所得に占める割合 (%) 月額 ( ユーロ ) 男性 年金受給額 平均所得に占める割合 (%) 男性 年金水準 ( 右目盛 ) 年金水準 ( 右目盛 ) 女性 女性 生年 年金受給額 年金水準 ( 右目盛 ) 生年 出典 :Geyer, Johannes/ Steiner, Viktor (2010), S.8 7