これからのビジネスリーダーに必要な 聴き方 講座 第 1 章 聴き方 の重要性 1-1 聴く力 は個人も企業も成長させる 1 聞く と 聴く の違いについて 2 仕事の問題解決と聴く力 1-2 聴き上手となるために 1 聴き取りによって 磨かれる集中力 理解力 忍耐力とは 2 権限によらない問いかけのリーダーシップ 6 7 8 11 11 12 第 2 章信頼関係の構築を基本とした 聴き方 2-1 ありのままを受け止める 1 自分の置かれた情況を受容する 2 ありのままを受け止める責任意識を持つ 3 共感とは心のスキルではない 2-2 相手の前で偽りのない心でいること 16 16 17 18 19 第 3 章 聴き方 基本編 3-1 自らの態度で信頼関係を構築しよう傾聴の方法 1 視線から目線へ 2 身体言語 ( ボディーランゲージ ) 3 声 4 言語的追跡 ( 相づち等 ) 3-2 相手とのやりとりで信頼関係を構築しよう観察の方法 1 相手についての非言語的 言語的観察 2 建設的 肯定的フィードバックを心がける 24 24 24 25 29 30 31 31 31 32
C ONTENTS 第 4 章 聴き方 応用編 4-1 質問はリーダーシップの技術です質問のねらいは何か 1 質問のマナーとルール 2 質問の種類 方法 3 話しやすい環境を作る 4-2 効果的な質問法を自分で研究する話し合いの途中で流れを転換して発展させていく方法 1 相手の真意を汲み取る ( 本当に言いたいことはなにか ) 2 本音を引き出す ( 展望を明らかにする ) 3 気づきを呼び起こす ( 行動変容のきっかけをつくる ) 相手の状況に応じた問いかけのポイント 1 相手が目標を見失った時 2 意見が対立している時 3 相手が感情的な時 4 解決策を求めてきた時 36 36 37 40 42 44 45 45 46 48 49 49 50 50 51 第 5 章 聴き方 事例編 事例 ❶ 後輩がミスした理由の聴き方事例 ❷ 同部署の社員が冷たく後輩が落ち込んでいる事例 ❸ 上司から人事考課についてフィードバックをもらう時の聴き方事例 ❹ プロジェクトで関係部門間の折り合いが悪くなり仲裁する事例 ❺ 新規訪問でのヒアリング事例 ❻ 顧客からクレームがあった時の受け止め方事例 ❼ 後輩が自分の将来を描けなく悩んでいるときのかかわり方 1 キャリアについて 2 キャリアを支援するためのキーワード 3 キーワードを見つけるための効果的な聴き方 54 54 55 55 56 56 57 57 58 60
第1章6 1-1 聴く力 は個人も企業も成長させる 人は生まれてから 20 年で成人し大人の仲間入りをしますが 物理的な成長と同時に精神的な成長を遂げます 小さな身体が大きくなるように この世に生まれてからずっと様々な情報に接することで 自我を確立し 自分の価値観や人生の意義をその人なりに理解し 将来の夢やビジョンを持ち 自分の活動する世界をつくり上げながら活躍していきます 同じように 企業も設立から活動を続ける間 自らが提供したモノやサービスに情報を載せて発信し 顧客からの信頼を獲得します 長年かけて構築した信用 ( ブランドが含まれる ) も付加価値情報として 企業の存立を確かなものにします 以上のように 人間の行動や企業の活動は 情報のインプットとアウトプットの過程そのものであり 情報なくしては 人間の社会的活動は成り立ちません 聴く力 は 情報のインプットを処理する過程での力量をいいます 同じ情報に接しても 人によって活用の仕方が違うように 聴く力 は 人が自分の周囲の人とどのように接してきたかによって決定づけられ かつ社会的行動の蓄積によって培われてくる大事な能力です 属にいう 賢い人 とは 物事の処し方が上手な人を指します これは 生まれ育った環境が自分以外の人 ( 家族や友人も含めて ) と十分な接触と交流を実現できるという意味で恵まれ ( 金銭的にではない ) ていたために 若年であっても精神的な成長を早く遂げたことにあります この後天的な能力を意識して高めていくためには 自分の目の前に現れる物理的な現象から自分なりの意味を読み取る訓練をおこなうことにはじまり 日常のあいさつレベルのことでも自分以外の人との間で取り交わすコミュニケーションの質を高めようと努力することが大事です その人が成長したかどうか ある企業が成長したかどうかは 情報の活用度合いによって見ることができるといってよいでしょう なぜならば 人間や企業の活動をどうしていくかを判断するために必要な情報を適切に処理し 正しいと思われる判断を導き出す力 ( 聴く力 ) が情報の活用によって養われるからです 正しい判断は 人間の行動の自立と統御を可能とし たとえ困難に直面しても状況を打開するための知恵を生み出す元になります そして 知恵を生み出し続けることができるならば 未知のものに対して既知のものを手がかりにし 対処していくこともまた可能となります 情報を活用し続けることが 常に成長し続けること ( ゴーイング
1章 第 1 章 聴き方 の重要性第コンサーン ) につながるのです コミュニケーションの学習において 傾聴 などと言う場合 よく 聞く と 聴く の違いを比較することがあります 耳に音が 聞こえる ことを 聞く といい 聴く については漢字をあてて 心で聴く すなわち 相手の気持ちに共感することをいいます ここでは さらに一歩踏み込んで見ていくことにしましょう 下図は氷山のモデルです 海面に浮かんでいる氷の塊の部分が 耳に聞こえる部分になります 人間はまず 音声や眼に映る文字など具体的な記号として形になったものを 五感を使ってキャッチします 氷山のモデル そこから踏み込んで 海面の下にある表には出ない部分を読み取っていきます この海面下にある部分が 話し手の本当の願いであり意図です これをよく観察して分析してくのが 仕事で求められる 聴く力 になります もちろん相手の感情のケアも行いながら 聴き取りをおこないます したがって 心のセンサーも含めて五感を駆使しながら 自らの経験則に照らし合わせ 分析と総合を繰り返す知的作業が 聴く ことなのです 話し手は 自分の本当の思いが何なのかもわからないまま メッセージを発信してきます ただし すでにこの段階で 人は何らかの交流を周囲とおこなっていて 期待価値 を自分の心の中に芽生えさせ始めています 将来獲得できる報酬を自分なりのものさしで値踏みした結果 得られる想像上の成果レベルが 期待価値 となります これを人から強制されるのではなく自由な意思で値踏みできるから 人は積極的になれ 結果はやってみなければわからないのですが チャレンジする気持ちや いわゆるやる気 ( モチベーション ) も起こってくるのです 逆に期待価値がマイナスなら 人は動機づけられません 人間は具体的な報酬に対しても 自 7
第1章8 分なりの意味を持たせながら値踏みをしています ここでいう価値は相対的なもので 金銭でいう報酬の絶対額とは必ずしも一致しません また 現在価値だけでなく 将来価値 ( 期待度 ) も含めて値踏みされます それほど 人の持つ価値判断は複雑なのです 時には自分にとってつらい事や不利な条件でも 期待価値が認められれば人は納得します これは 人間の成長欲求と一致した社会行動と捉えるとよいでしょう 誰しも もっと満足を得たい 自分がよくなりたいと思って人と関わりを持ち これに応答しながら相互に信頼関係を結びます これがビジネスに必要な信用の元となり ある時には提供者 またある時には受益者という具合に立場を変えながら 価値交換をおこないます これがビジネスの社会的側面です つまり 社会は様々な商業的取引によって成り立つので 企業は価値提供の主役として存在する以上は社会的責任を負うのです この責任を果たす活動 ( 例えばメーカーが製造中止になった品物のパーツを修理用に保管していることなど ) で信用を作り出し 信用は期待価値をプラスにしていくので お互いに積極的に関わろうとして相互交流するのです 交流は相互依存を生み出し 活発化するほどビジネスが発展していきます 相互依存の関係が共存共栄へと発展していくならば 磐石でゆるぎない体制が整うといえます いわば 交流の骨格はお互いを信頼し 期待を込めた情報の発信と受信のやり取りによって形作られるのです ところが 定型業務を流すだけの調子で 仕事をやっているつもりになっている場合は 相手の期待をキャッチした心の交流などどこかへ飛んでしまいます つまり 聞く だけの世界であって表面的にしか物事を捉えず お互いの係わり合いは形式的 機械的で 脆弱なものとなってしまいます この状態では 仕事を通じて人が成長したり会社が発展することもありません まず 信頼あっての仕事 と肝に銘じておきましょう また 人と交流するには 心のゆとりとともに物理的な時間のゆとりを作り出すことが求められます ただ忙しさにかまけて 業務処理的に仕事を終わらせてしまいがちな場合には 注意が必要です 話し手の本当の思いは何なのか それを 聴く ことによって明らかにしていきますが 最終的に明らかにするものは 次図にある全体の構造です
1章第 1 章 聴き方 の重要性第 話し手でさえ 自分にとって本当は何が問題なのか よくわかっていないことのほうが多いのです なぜならば 図のように本当の問題は 現状の不満やトラブルなどではなく 本来はどうありたいのかという自分の理想の姿と現状との間に生じたギャップをいうからです したがって ありたい姿を膨らませば 問題はいくつでも生じてきます これを一つひとつ整理して 何から取り組んでいけばよいかを整理することが相談なのです この全体構造のうち 前述の氷山の海面に姿を現しているのは そのごく一部であることがほとんどなので これを明らかにしていくことが 聴き取り になります 以上が 仕事の世界でよく言われる 情報共有 = 見える化 の本質なのです ITだけに偏った情報共有では 氷山のうち海面の上に出た部分のみをカバーするところにとどまりますので そこから先は 人間的なコミュニケーションの技術によって 海面下の情報を明らかにし 共有するのです そのためにわざわざ足を運び 話し合いの 場 をつくり 面談によって対話をおこないます この 場 は物理的なものだけではなく 話し易い雰囲気づくりも含めた 場 づくりをおこないます したがって 日頃の人間関係 ( 相手に対する信頼の度合い ) も場づくりに影響してきます また この構造は問題解決のための基礎的な設計図ですので 聴き取りによって浮かび上がってきた像はちょうど自分が住みたい家のように 人によって一つひとつ違います たとえば 1 階が現実で 2 階がありたい姿だとしたら そこに到達するための階段をつくらなければならないのですが その階段の幅や高さ ( 踏み面 け上げという ) は利用者の足にあったものになっていなければ 簡単に上れなかったり 途中で階段を踏み外すことになります また エレベーターで直接上りたい人もいます このように 本来は顧客ニーズとは個別に違ってあたり前なのです 実際の行動場面では 顧客は明らかな自分のニーズを元にお店へ出かけ そこに並んでいる商品やサービスから最も自分にフィットしていると思われるものを選択し 9