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106(720) 症 例 小皮膚切開による肋骨整復術を施行した 1 例 井上政昭, 西川仁士, 鬼塚貴光宗哲哉, 能勢直弘 要 旨 多発肋骨骨折を合併する鈍的胸部外傷の手術適応と時期に関しては多くの議論がされている. 多発肋骨骨折に伴う疼痛や胸郭変形は生命予後には直接関与しないが, その後の生活に影響を与える可能性が考えられる. そのため手術適応を決定するときにはこれらの因子も考慮する必要があると考えられる. また肋骨整復術に伴う皮膚切開創は, 若年患者においては精神的な苦痛を強いる可能性が考えられる. 我々はこれらの因子を考慮して疼痛の改善と胸郭変形の改善を目的に, 小皮膚切開下にステンレスプレートを使用し肋骨整復術を行い良好な結果を得ることが出来た. 索引用語 : 小皮膚切開, 肋骨整復術, メネンプレート minimalskinincision,stabilizationofribfractures,mennenplate はじめに 多発肋骨骨折に伴う呼吸不全は生命予後に関連した病態にあるため手術適応となることが多い. しかし, 手術治療後の症例においては手術創が, また保存的治療の症例においては疼痛の持続や胸郭変形がその後の日常生活に影響をおよぼす可能性は否定できない. これらの因子を考慮し, 小皮膚切開下にステンレスプレートを用いて多発肋骨骨折の整復を行った症例を経験したので文献的考察を加えて報告する. 症 症例 :16 歳, 女性. 主訴 : 右胸部痛, 下腹部痛. 既往歴 : 特記事項なし. 現病歴 : 自転車で帰宅途中にトラックと接触し側溝に転落. 全身打撲にて救急車で当院へ搬送された. 来院時現症 : 身長 162.5cm, 体重 50kg, 血圧 92/48 mmhg, 心拍数 102/ 分, 整,SpO2(room air)96%. 右胸郭変形を伴う高度の圧痛と呼吸音の減弱, 下腹部 独立行政法人健康者福祉機構 新潟労災病院 呼吸器外科 原稿受付 2007 年 7 月 19 日 原稿採択 2007 年 10 月 11 日 例 の圧痛を認めた. 来院時血液検査所見 : 白血球数 23300/m 2,AST201 IU/l,ALT115IU/l と上昇していた. その他に異常な検査所見は認められなかった. 胸部単純 X 線写真 (Fig.1A): 右多発肋骨骨折が認められ, 右胸腔の透過性低下より胸腔内出血と気胸が疑われた. 胸腹部 CT 所見 : 右血気胸, 右肺挫傷が認められ (Fig.2), 胸郭の 3D-CT 画像 (Fig.1B) では多発肋骨骨折 ( 第 4-11) が確認された. 胸部以外では骨盤骨折が認められた. 入院後経過 : 右血気胸に対し胸腔ドレナージを施行し600ml の血性胸水の排出が認めたが, 肺瘻は認められなかった. また肋骨骨折による右胸郭の変形が認められ強い疼痛が持続したが, 動揺胸郭や換気障害は認められなかった. 骨盤骨折のためベッド上安静が必要であったが, わずかな体動でも高度の疼痛を訴え全く上半身が動かせない状態であった. そのため, 入院 2 日目に硬膜外チューブを挿入し1.5% Mepivacaine+ 8n/mlfentanyl の持続投与 (2ml/h) による除痛を行い安静時の疼痛コントロールが可能となった. しかし, 入院後 12 日目が経過しても硬膜外麻酔からの離脱が困難な状態にあり, 胸郭変形を伴う高度の肋骨転位

小皮膚切開による肋骨整復術 107(721) Fig.1 A:ChestX-rayon admission showsarighthemothorax and rightmultiplerib fractures.b:chestct(3d)clearlyshowsrightmultipleribfractures.c:chestx-ray afterthefirstoperationshowsthattheribsarefixedfirmlywithmennenplatesand dislocationshavebeenresolved.d:chestx-rayafterthesecondoperationshowsthat theribshavebeencuredwithoutanydislocation. が疼痛の原因と考え肋骨整復が必要と判断した. 肋骨整復を施行するに際し, 患者は若い女性であり美容的な点で手術創の長さが問題となったため, 我々は小皮膚切開での肋骨整復を試みた. 初回 ( 肋骨整復術 ) 手術所見 : 外傷性血気胸を合併していたため胸腔内精査と肋骨骨折部位の同定に胸腔鏡が有用と考え, 右第 7 肋間前腋窩線にポートを挿入し胸腔鏡で胸腔内を観察した. 肋骨骨折部に一致して壁側胸膜の損傷と肺の癒着が認められたため癒着剥離を行ったが, 肺瘻を示す損傷は認められなかった. 胸腔内に血腫や肋骨骨折部以外の癒着は認められなかっ た. 外部より胸壁を圧迫し胸腔鏡にて胸腔内より観察することで正確な骨折部位を確認し, 皮膚切開部位を容易に決定することが可能であった. まず第 6 肋間で骨折部を中心に5cm の皮膚切開を加え (Fig.3), 皮下組織を剥離し広背筋を筋線維に沿って剥離を行い, 第 6 肋骨の骨折部周囲約 5cm を剥離した. 骨折部の腹側と背側の肋骨に1 号バイクリルを通し牽引し肋骨の転位を整復保持した.1 号バイクリルで肋骨を保持したままの状態で, 肋骨の生理的湾曲に沿って加工したステンレスプレート ( メネンプレート R 寿医科商事株式会社, 大阪市 ) で肋骨固定を行

108(722) Fig.2 Chest CT on admission shows a right hemopneumothorax,lung contusion,and ribfracture. Fig.4 Afracturedribshowingdislocation(A) ispuledwith1-0vicryls(b)tothe corectposition(c),andtheribisfixed withamennenplate(d).finaly,the1-0vicrylsareremoved(e). Fig.3 Skinincisions(arows)atsitesofthe6 th and 8 th intercostalspaces. い, その後に1 号バイクリルを除去した (Fig.4). 肋骨固定後の安定性は用手的に外力を加え確認を行ったが, 全く移動は認められず強固に固定されていた. 同一手術創から同様に第 7 肋骨に対してもプレート固定を行った. 次に第 8 肋間にも第 6 肋間と同様に皮膚切開を加え, 第 8 9 肋骨に対して肋骨整復を施行した. 初回術後経過 : 硬膜外麻酔は術前と同量であったが, 明らかに術後より疼痛は軽減し術後 3 日目にはベッド上での体動で疼痛を訴えることはなくなった. その後, ベッド上でのリハビリも順調に行うことが可能となり術後 10 日目に硬膜外チューブを抜去した. 胸部 X 線では肋骨固定のプレートが認められる以外に異常は認められず (Fig.1C) 術後 17 日目に退院となった. 退院後も肋骨整復を施行したことによる問題は全く認められず, 胸郭の変形は肉眼上全く認識出来ない状態に回復した. 二回目 ( プレート抜去術 ) 手術所見 : 肋骨整復術の 9ヵ月後に肋骨整復術と同じ部位 (Fig.3) で切開しプレート除去を施行した. 肋骨骨折部は注意して観察しないと認識できない程に整復されており, プレート固定による骨変形や異常な仮骨形成も認められなかった. 皮下に Blake ドレーンを挿入し手術を終了した. プレート抜去術による気胸等の合併症は認められな

小皮膚切開による肋骨整復術 109(723) かった. 二回目術後経過 : 胸部 X 線では肋骨のズレは全く認められず骨折部位は同定できなかった (Fig.1D). 現在, 肋骨骨折の疼痛を訴えることはなく, 日常生活においても全く支障は認められていない. 考察多発肋骨骨折の手術適応として Lardinois らは1 前側壁動揺胸郭による呼吸障害,2 動揺胸郭の遷延のため人口呼吸器から離脱困難,3 動揺胸郭による呼吸機能障害と報告しており, 肋骨整復手術の主目的は換気障害の改善と考えられている 1). しかし, その手術治療の適応と時期に関しては議論の多いところである. 一方, 多発肋骨骨折症例において臨床的に治癒と判断されても長期の疼痛を訴える患者や肋骨の転位による胸郭変形を示す症例も経験する 2). 多発肋骨骨折の治癒とはいかなる状態であるかと考えたとき, 社会復帰が可能である と判断されれば臨床的には治癒したと考えられる. しかし, 長期間の疼痛を訴える患者や胸郭変形を示す症例は, 受傷前と比較すると日常生活において何らかの制限を受ける可能性は否定できない. このような意味において多発肋骨骨折の治癒には様々な状態があることが推測される. 特に若年者において長期間の疼痛, 胸郭変形や手術の傷跡は将来の生活において何らかのハンディーキャップとなり, 精神的苦痛を強いられる可能性も考えられる. 胸部外傷における動揺胸郭の治療法に対し多くの報告がされてきた. しかし, 手術治療の有用性に対する検討は緊急処置を要する病態であり randomizedstudy が困難であるため手術適応に対しては明確な基準がなく, 多くは外科医の経験に基づいて治療が行われているのが現状である 3).Balci ら 4) は比較的差の少ない3 群に分けての検討を報告している. この報告によると, 手術群では術後呼吸器合併症による死亡は認められなかったのに対し, 非手術群では5 例の肺炎に起因した死亡が認められている. また早期の肋骨固定は二次的損傷の予防と人工呼吸器からの早期離脱が可能であり, 手術治療により疼痛に対する薬剤治療の期間が少なく胸部外傷に関連した合併症の軽減にも寄与していた. このことから著者らは flailchest の手術適応は,1 高度の奇異運動,2 臨床状態の悪化,3 軽減できない疼痛であるとしている. これまで種々の方法で肋骨整復術が行われ議論されてきたが, 疼痛や胸郭変形といった生命予後とは直接関係のない要因について述べられた報告はわずかであった 4-6). また, 肋骨骨折単独にて手術適応となることは動揺胸郭症例を含めても少なく, 肋骨骨折に対する手術適応の多くは動揺胸郭に対する手術適応として報告が行われている 2-6). 動揺胸郭を伴わない多発肋骨骨折症例は手術治療に対しての報告は少ないが, 肋骨骨折の転位が著しく胸腔内への骨折部の嵌入が認められる症例が手術適応であるとされている 6). 本症例の多発肋骨骨折に対し手術適応と判断した主たる要因は硬膜外麻酔からの離脱困難な疼痛であったが, その疼痛の原因は肋骨骨折の転位と骨折部の嵌入であり手術治療の適応は妥当であると考えられた. また本症例のように動揺胸郭を伴わない多発肋骨骨折であっても肋骨固定術にて疼痛や胸郭変形の改善が認められる症例があることより, 動揺胸郭の有無に関わらず高度疼痛や胸郭変形を伴う症例は手術治療を考慮すべきであると考えられた. 患者とその家族は疼痛の改善に対する肋骨整復術の必要性については理解されたが, 手術治療に対し気にかけた点は手術創の長さであった. つまり, 患者は若い女性であり将来を考え大きな手術創が残ることをためらったからである. 患者の視点では手術創の問題は疼痛と同程度に重要な因子であったと推測される. 胸部外傷において肋骨骨折は多様な形態を示すため, 複数の修復方法が報告されている 7). 近年修復が簡便で有用と報告されているのがチタンプレートを使用した方法である 8). この方法は, 分節骨折や粉砕骨折に有用で支持を失った骨折を覆うようにチタンプレートを外側より当て固定することで支持を回復することが可能であり有用な肋骨整復方法である. 一方, メネンプレートの利点は各骨折部をそれぞれ固定するため固定直後より強い安定性を示すことにある. しかし, 分節骨折が認められる症例には多数のプレートが必要となり, 粉砕骨折に対しては十分な支持が得られない可能性があり慎重に適応を決める必要がある. プレート抜去に関しては明確な指標はないが, プレートの素材がステンレスであり長期間の体内留置に対し保障はされていない. 本症例のように数十年間体内に留置される可能性がある症例に対しては抜去が必要であると考えられる. このように肋骨整復は肋骨骨折状態の詳細

110(724) な評価を行い病態に適した手術器具を使用し整復を行うことが重要であると考えられる. 本症例はメネンプレートで強固な肋骨固定が得られたことで疼痛が軽減し積極的にリハビリも行うことが可能となり, 結果として在院期間が短縮されたと考えられた. この手術法で重要な点は, 正確な肋骨骨折部位を同定し肋骨整復可能な最小の皮膚切開を加えることである. 我々は正確な肋骨骨折部位を把握する目的でも胸腔鏡を使用した. 胸腔鏡は胸腔内の観察とともに肋骨骨折部位の同定と皮膚切開部の決定に非常に有用であった. また, ステンレスプレートを使用することで5cm の小さな手術創で2 本の肋骨を整復することが可能であった. メネンプレートを使用した小皮膚切開での肋骨整復法は, すべての多発肋骨骨折症例に可能な整復方法ではないが, 慎重にその適応を決定すれば侵襲も少なく美容的にも優れた手術方法であると考えられた. 文献 M,RisHB.Pulmonaryfunctiontestingafteroperative stabilisation ofthe chestwalforflailchest.eurj CardiothoracSurg2001;20:496-501. 2. 懸川誠一, 上吉原光宏, 大滝章男, 大木茂, 森下靖雄. 動揺胸郭を伴う多発肋骨骨折に対する肋骨固定術. 胸部外科 2006;59:974-9. 3.Mouton W,LardinoisD,FurerM,RegliB,RisHB. Long-term folow-up of patients with operative stabilisationofaflailchest.thoraccardiovascsurg1997; 45:242-4. 4.BalciAE,ErenS,CakirO,ErenMN.Openfixationinflail chest:review of64patients.asian CardiovascThorac Ann2004;12:11-5. 5. 田中秀治, 後藤英昭, 根本学. 肋骨骨折および胸骨骨折. 救急医学 1999;23:551-6. 6. 栗本義彦, 浅井康文. 胸壁 横隔膜損傷の処置. 救急医学 2000;24:1561-5. 7. 岩崎安博, 川崎貞男, 篠崎正博, 吉増達也, 岡村吉隆. 多発肋骨骨折および動揺胸郭に対する手術. 胸部外科 2006;59:980-4. 8. 田中明彦, 大澤久慶, 前川功二, 田中利明. 外傷性多発肋骨骨折による胸郭陥凹症例の簡便な胸壁矯正術. 日呼外会誌 2001;15:796-801. 1.LardinoisD,KruegerT,DusmetM,GhisletaN,Gugger Stabilizationofribfractureswithminimalskinincision MasaakiInoue,HiroshiNishikawa,TakamitsuOnitsuka TetsuyaSo,NaohiroNose DepartmentofChestSurgery,N igatarosaihospital Surgicalindicationforbluntchestinjurywithmultipleribfractureshasbeendiscussedextensively.However,an optimalstrategyfortreatmentremainscontroversial.unremitingpainanddislocationoffracturedribsleadingto chestwalchange,whicharenotfactorsdirectlyrelatedtotheprognosis,maycausesuferingandinfluencethe qualityoflifeforalongtime.therefore,indicationsforsurgicalinterventionshouldbedecidedoninconsiderationof thesefactors.youngpatientsmayalsosuferfrom operationalscarsfrom surgicalintervention.weperformedrib stabilizationusingmennenplateswithminimalskinincisionforpainresolutionandrepairforthedislocationof fracturedribs,andthepatientwascuredsatisfactorily.