1. ゲーミフィケーションとは 2. ゲーミフィケーションを活用した事例 3. ゲーミフィケーション導入後の課題 4. 課題解決策 ( 中国 清華大学との産学連携 ) 要旨近年 多くの企業がソーシャルメディアを運営している その中でも顧客の購買行動を促進するためにソーシャルメディアを運営している企業の間で ソーシャルメディアに顧客を引き付ける手法として ゲーミフィケーションの活用に注目が集まっている しかし ゲーミフィケーションの手法を活用したソーシャルメディアを運営している企業で 実際に消費者の購買行動の促進に成功している企業は一握りである この課題解決には ユーザ属性とユーザ行動の分析結果を反映した継続したコンテンツ改善と ソーシャルグラフを利用したユーザレコメンデーションの技術が必要であることがわかってきた 野村総合研究所 ( 以下 NRI) では中国 清華大学との産学連携で これらの課題解決策を研究している 本稿では 消費者の購買行動を促すために活用されているゲーミフィケーションの活用事例と課題 そして課題解決策を紹介する このレポートに記載された会社名 製品 サービス名はそれぞれ各社の商標もしくは 登録商標です 1
1. ゲーミフィケーションとはゲーミフィケーションとは 人を夢中にさせるゲームのメカニズムを応用し ゲーム以外の分野で 利用者の行動を促す手法である 近年 ゲーミフィケーションの活用に注目が集まっており 2012 年 6 月にガートナー社は 2014 年までに Global 2000 企業の 70% 以上が ゲーム化 ( ゲーミフィケーション ) されたアプリケーションを 少なくとも 1 つは導入しているとの見解を発表した ( 出所 : ガートナープレスリリース 平成 24 年 6 月 26 日 http://www.gartner.co.jp/press/html/pr201206 26-01.html) ソーシャルメディアを運営する企業が増えているが 顧客の購買行動を促進するためにソーシャルメディアを運営している企業の中で ゲーミフィケーションに対する注目が集まっている ソーシャルメディアの収益性を計る指標としてコンバージョン数 ( 購買数 成約数 ) とコンバージョン率 ( 購買率 成約率 ) があるが これらを高めるために ゲームのメカニズムを活用することが有効だとして着目されている ィアにおけるゲーミフィケーションの手法を 4 つに分類し ゲーミフィケーションを活用したソーシャルメディアの事例を紹介する (1) 集客型集客型とは ソーシャルメディアにシンプルなゲームを追加して ソーシャルメディアへの訪問を促進するタイプであり ゲーム目的で web サイトやソーシャルメディアに訪問するユーザの増加が見込める 集客型の例としては 観光地に関するクイズゲーム Trip IQ Challenge を搭載した tripadvisor( 米国 Trip Advisor) サイト上の棚に 無印良品 のお気に入り商品を並べるゲームを搭載した MUJI LIFE( 良品計画 ) などがある (2) クーポン発行型クーポン発行型とは ソーシャルメディアの繰り返しの利用を促進するため 訪問数や利用数に応じてクーポンを発行したり 獲得したポイントに応じてプレゼントを提供したりするタイプである クーポン発行型の例としては 作ったレシピを投稿して 得られたポイントをショッピングに利用できる楽天レシピ ( 楽天 ) や 広告のクリック数に応じて得られたポイントで 2. ゲーミフィケーションを活用した事例一部の先進的な企業は 既にゲーミフィケーションを活用してソーシャルメディアを運営し 成果を上げている 本章では ソーシャルメデ 商品と交換が可能なスマートフォンアプリ ( 中国 マクドナルド ) などがある このようなアプリケーション以外の分野では 航空会社のマイレージプログラムもクーポン発行型に当ては 2
まる (3) 負担緩和型負担緩和型とは 本来やるべきだが やりたくないこと やりにくいことをゲーム仕立てにして行動を促進するタイプである 学習ゲームなど やりたくないこと やりにくいこと ( 勉強をすること ) と 楽しいこと ( ゲームをすること ) を結び付ける仕組みが負担緩和型の典型である 負担緩和型の例としては 楽しみながら受験勉強ができる manavee(manavee.com) や 他人に対する評価を直接伝えるという 本来やりにくいことを ソーシャルメディア上でバッジを贈るという形で促進する 社員評価システム CIMOS( シンクスマイル ) などがある (4) セルフモチベート型セルフモチベート型とは 自分の行動や状態を可視化し ときには記録を競争させることで行動を促進するタイプである セルフモチベート型の例としては 専用のセンサーを靴に付けて 走った距離を記録し ソーシャルメディア上で友人と共有することができる Nike+( 米国 Nike) や お金を節約した分のポイントを貯めて そのポイントを他ユーザと競うことができる SaveUp( 米国 SaveUp) などがある いずれのソーシャルメディアもそれぞれの分類に特化しているわけではない 複数のゲーミ フィケーションの手法を組み合わせて 効果的にユーザ数を増やし 企業の目的に合わせて ユーザの行動を促している 加えて ゲーミフィケーションを活用することによって ユーザがゲームを通じて運営する企業のブランドや商品のファンとなり 顧客ロイヤリティを向上させることも期待できる 3. ゲーミフィケーション導入後の課題ゲーミフィケーションを導入することで一時的にユーザの訪問数が向上し 購買行動に繋げることができるが 長期的に成功し続けている企業はごく一部である その理由として ユーザのゲームに対する飽き と 流行に敏感でない人々に対する訴求の難しさ が挙げられる 本章では この 2つの課題について説明する (1) ユーザのゲームに対する飽き何度かお試しに利用するのが楽しいだけで 継続して利用し続ける意欲が生まれないようなソーシャルメディアは飽きられるリスクが高い 顧客のコンバージョン数を高めるためにユーザのアクティブ率を高めることが必要といわれているが ゲーミフィケーションを活用しているソーシャルメディアで ゲームの要素に対して飽きられてしまうことは ユーザのアクティブ率を維持する上で致命的である ここで 飽き とは月に 4 回以上 ( 週 1 回以上 ) ソーシャルメディアを利用していた アク 3
ティブユーザ の利用が 月に 1 回以上 4 回未満 ( 週 1 回未満 ) と低下することと定義する また この状態のユーザを 飽きているユーザ と定義する 過去に利用がないユーザと 過去に利用したが 現在では全く利用せず 改めて利用する意思が全くないユーザは 非ユーザ として 飽きているユーザ には含まれないものとする 飽きているユーザ は飽きているも たイノベーター理論によると 流行に敏感な人々 ( イノベーター アーリーアダプター ) は市場全体の 16% のみで 流行に敏感でない人々 ( アーリーマジョリティー レイトマジョリティ ラガード ) が市場全体の 84% を占めている 純ユーザ数の増加のため 流行に敏感でない人々にもソーシャルメディアを利用してもらうことが課題となっている のの 利用自体はしているため アクティブユ ーザ に復帰する可能性がある アクティブユーザ を 飽きているユーザ にさせず 飽きているユーザ を再び アクティブユーザ に復帰させる施策が必要である (2) 流行に敏感でない人々に対する訴求の難しさ顧客のコンバージョン数を高める上では ユーザのアクティブ率の向上だけでなく 純ユーザ数の増加も必要となる しかし 流行に敏感でない人々をソーシャルメディアに惹きつけることが難しく ユーザ数がある一定の時期から増加しなくなるというケースが多い ソーシャルメディアを公開した初期段階では 流行に敏感な人々が使い始めることでユーザ数は増加する しかし 流行に敏感でない人々への浸透は困難であるため その増加は ある一定の時期から低下する 普及学の研究で有名な米国の社会学者エベレット M ロジャース教授が 新商品や新サービスの普及について説い 4 4. 課題解決策 ( 中国 清華大学との産学連携 ) NRI では前述の課題解決のため 中国 清華大学との産学連携の一環で ゲーミフィケーションおよびソーシャルメディア運営に必要な技術を研究している この研究では Sina Weibo( 新浪微博 ) のプラットフォーム上で動作するプロトタイプのソーシャルメディアを開発した Sina Weibo とは中国新浪公司が運営する中国最大のマイクロブログサイトである Sina Weibo では Facebook のように実名での登録が推奨され Twitter のように 140 文字以内の短文を投稿したり 他のユーザをフォローすることができる また Facebook アプリが Facebook のユーザアカウントでログインするように Sina Weibo のユーザアカウントでログインする Sina Weibo アプリが存在する 我々は Sina Weibo アプリに プロトタイプとして開発したソーシャルメディアを公開し 課題解決に向けた研究を進めている 本章では 研究内容の一部を紹介する
(1) ユーザを飽きさせない継続的なコンテンツ改善 1つ目の課題である ユーザのゲームに対する飽き に対して ユーザ属性とユーザ行動を分析し 継続的にコンテンツを改善することが重要であるとわかってきた ここで ユーザ属性とは ユーザの年齢 性別 興味などのユーザデータと定義する また ユーザ行動とは ユーザのログイン時刻 滞在時間 クリック数などの行動履歴データと定義し コンテンツとは ゲームの要素を含めて ユーザがソーシャルメディア上で体験するものの全てと定義する この節では ユーザ属性とユーザ行動の取得方法 そして コンテンツ改善のサイクルについて説明する ユーザ属性の取得に関して 企業は Sina Weibo アプリや Facebook アプリのような ユーザ数の多いプラットフォーム上で動くソーシャルメディアを構築することで 分析に必要な ユーザ属性を取得することができる また ユーザ行動の取得に関して 企業は コンテンツ改善に必要な統計ログを取得できるよう あらかじめソーシャルメディアを設計することで 分析に必要なユーザ行動を取得することができる ユーザの趣味嗜好に合ったコンテンツを提供し続けるためには 定期的にユーザ属性とユーザ行動を分析し コンテンツを改良するという改善サイクルをまわすことが必要となる この改善サイクルを繰り返すことで 常にユーザにとって魅力のあるソーシャルメディアを維持し ユーザのゲームに対する飽き を抑えて ユーザのアクティブ率を高めることができるだろう (2) 普及率を高めるソーシャルグラフを利用したレコメンデーション二つ目の課題である 流行に敏感でない人々に対する訴求の難しさ に対して ソーシャル 図表 1. ソーシャルグラフを利用したレコメンデーション 5
グラフを利用したユーザレコメンデーションが な増加が見込めるだろう 有効であるとわかってきた ここでソーシャル グラフとは ソーシャルメディア上でユーザがどのユーザとつながっているかの情報と定義する この節では Sina Weibo アプリであるソーシャルメディアを例にして ソーシャルグラフを利用したユーザレコメンデーション ( 図表 1) でユーザ数を増やす方法を説明する まず 既存のユーザのソーシャルグラフ (Sina Weibo のフォロワー情報 ) から まだソーシャルメディアのユーザになっていない既存 以上 本稿では 購買行動を促進するゲーミフィケーションの手法と課題 そして 課題解決のために必要な技術について紹介した 前述のガートナーの発表にもあるように ゲーミフィケーションを活用したソーシャルメディアやアプリケーションが増えていくものと思われる NRI では引き続き ゲーミフィケーションの手法を活用した購買行動の促進に注目し それを支える技術について 調査 紹介していく のユーザと似たタイプのユーザを見つける 似たタイプのユーザとは ユーザ属性が似ているユーザを意味する 次に 似たタイプのユーザをソーシャルメディアに誘ってもらうよう 既存のユーザにレコメンデーションする 既存のユーザによく似たタイプのユーザであれば 既存のユーザと同様 ソーシャルメディアを利用してもらえる可能性が高い 既存のユーザに全てのフォロワーを誘ってもらうわけにはいかないので よく似たタイプのユーザにターゲットを絞って 既存のユーザにレコメンデーションすることが望ましい 上記のような 友人同士の紹介によって 流行に敏感でない人々にもソーシャルメディアの存在が伝わり ユーザになってもらうことが期待できる このように ソーシャルグラフを利用して 既存のユーザに誘ってもらうようレコメンデーションすることで ユーザ数の継続的 6