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目論見書補完書面 ( 投資信託 ) < コード 3809> ご負担いただく手数料につ いて ( 例 ) < 分配金受取りコースのお申込手数料 > お申込手数料は お申込価額に お申込口数 手数料率を乗じて計算します 例えば 100 万口の口数指定でお申 込みいただく場合 1 万口当たり基準価額が 1

[ 掲載番号 1] ( 銘柄コード :2031) NEXT NOTES 香港ハンセン ダブル ブル ETN に関する日々の開示事項 260,000 口 3,350,880,000 円 12,888 円 4. ETN の一証券あたりの償還価額と円換算したハンセン指数 レバレッジインデックスの終値の変動

投資信託のとは 投資信託のは 当期に獲得した収益等を決算日に投資家に還元する仕組みで す ただし 過去に獲得した収益を積み立てたもの等からも支払うことができます 投資信託でが支払われるイメージ 投 資信 託のは 投 資信 託 投資信託のとは P3 の純資産の中から支払われます はどのように支払われる

投資対象とする投資信託証券 投資対象とする 投資信託証券は 以下の各資産の代表的な指数に連動することを目指して委託会社が選定 する投資信託証券とします 資産 投資対象 指数 株式 全世界の株式 FTSE グローバル オールキャップ インデックス 債券 投資適格債券 ブルームバーグ バークレイズ グロ

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Transcription:

世界の ETF 20 年の変遷と今後の展望 平成 24 年 1 月 18 日杉田浩治 ( 日本証券経済研究所 )

世界の ETF 20 年の変遷と今後の展望 ( 要約 ) 発足から約 20 年を経過した世界の ETF は 残高が 100 兆円を超え世界の証券市場において大きな存在になりつつある 商品の種類も 当初の S&P500 など各国の代表株価指数連動型から グローバル株価指数 セクター別指数 債券指数 金などの商品指数連動型などへ広がり 今やアクティブ運用型 ( 指数を上回るパフォーマンスをめざすタイプ ) も上場されるに至っている 顧客層も機関投資家だけでなく 米国では FA( 投資アドバイザー ) 経由をふくめ個人の利用も増加している 一方 欧州中心に店頭スワップ取引により対象指数連動をめざす ETF が拡大したことなどから FEB( 金融安定理事会 ) など国際機関は ETF の世界金融市場への影響を懸念している 今まで ETF 市場は ファンド発行業者が新しい銘柄の括り方や投資配分を採用した新しい指数を考案し それに対応する ETF を他社よりも早く設立するという 陣取り合戦 の様相を呈していた 今後はアクティブ運用型の拡充など新たな商品戦略や 確定拠出年金市場など新しい販売市場あるいは新しい販売手法の開拓を模索する段階に入っていくものと思われる 日本の ETF 市場は 品揃えはかなり充実する一方 日本株指数の低迷などから残高 売買高は伸び悩んでいる しかし投資家の商品認知度の高まりとともに ETF へのニーズは拡大すると思われ 投信運用 販売業界は ETF と一般ファンドとの棲み分け 線引きを詰めていく必要があろう 1

世界の ETF 20 年の変遷と今後の展望 公益財団法人日本証券経済研究所専門調査員杉田浩治 はじめに 世界で初めて ETF が生まれてから約 20 年になる 約 と言わざるを得ないのは 世界初の ETF がいつ どこで生まれたかについて幾つかの説があるからである 世界最大級の投信会社フィデリティ投信の元社長ロバート ポーゼン氏 ( 現 MFS 会長 ) の近著 The Fund Industry (Theresa Hamacher 氏との共著 ) は ETF は 1992 年に生まれた と記述しており ETF についての名著 The ETF Book 第 2 版 ( リチャード フェッリ氏著 ) は 1993 年を ETF スタートの年としている また 1990 年にトロント証券取引所が開発した TIPS35 を嚆矢とする説もある いずれにしても発足から約 20 年を経過した ETF は 今や資産運用手段として また世界の証券取引所の上場商品として重要な地位を占めつつある また FSB( 金融安定化理事会 ) BIS( 国際決済銀行 ) IMF( 国際通貨基金 ) が ETF の世界金融システムに与える影響を懸念する声明を発表するなど 金融市場においても見逃せない要因になるまで大きく成長した そこで 改めて ETF の基本を整理するとともに ETF の発足後の経過 現状 問題点をまとめ さらに若干の将来展望を試みた 1.ETF とは (1) 定義 ETF は Exchange Traded Fund の略であり 文字通り 取引所に上場し取引されるファンド である 以前は 定義の中に 指数に連動する というフレーズが入っていたが 現在では指数を上回るパフォーマンスをめざすアクティブ運用型の ETF も存在するため 指数連動型とは定義できない 1 1 ただし 日本の取引所に上場する ETF は現在のところ指数連動タイプに限定されている 2

(2) 仕組み 一般の投資信託が 金銭の拠出により設定され 解約も金銭の支払いにより行われるのに対し ETF は 現物 ( 株価連動型であれば投信会社が指定する株式ポートフォリオ 金価格連動型であれば金の現物等 ) の拠出により設定され 解約も現物の引き出し (ETF 受益権と現物との交換 ) により行われるファンドが多い 投信会社との間での設定 解約 ( 発行市場 ) に参加する主体は 指定参加者などと呼ばれる証券会社 および投信会社所定の現物パッケージを拠出できる大口投資家である 一般投資家は ETF が上場されている取引所 ( 流通市場 ) に株式と同様の買付 売付注文を出すことにより取得 換金する仕組みである 指定参加者 大口投資家は ETF に組入れられている現物を随時引き出して売却すること等が可能であるため ETF と連動対象市場との価格裁定がはたらき ファンド純資産価値と市場価格との乖離が小さく維持されることが想定されている 以上をまとめて図示すると図表 1 のようになる 図表 1 ETF の仕組み ( 株式現物拠出型の例 ) 流通市場発行市場 指定参加者運用会社 投資家 ETF の売買 株式流通市場 ETF 流通市場 売買 裁定取引 売買 株式バスケット ETF 株式バスケットを拠出株式バスケット ETF ETFを発行 信 信託銀行 託 株式バスケット [ 出所 ] 投資信託協会および東京証券取引所ホームページ掲載図を参考に筆者作成 そして 一般投資家の立場から見た投資商品としての ETF の特性を 株価連動型の例により個別株式および一般の ( 非上場の ) 投資信託と比較すると 図表 2 のようになる 直接投資の代替手段という面では投資信託であり 取引手法は株式並みという二つの顔を持つ商品と言えよう 3

図表 2 株価連動型 ETF と 株式直接投資および一般ファンドとの比較 株式直接投資 ETF 一般 ( 非上場 ) ファンド ( 自らポートフォリオ構築 ) インデックスファンド アクティブ運用ファンド 1 取引手法発注先 全国証券会社 当該ファンドの販売を取り扱う証券会社 銀行 その他金融機関 売買価格発注方法信用取引 2 積立投資の可否 取引所の立会時間中 刻々変化する価格で売買可能 (=リアルタイム取引が可能) 指値も可能可能困難 ( 一部証券会社で 累投 可能 ) 1 日 1 回 引け後に算出される基準価額で売買指値はできない ( かつ 発注時には約定値段が不明 ) 不可能可能 3 配当金再投資の可否 困難 可能 4コスト売買委託手数料売買委託手数料購入手数料 ( ゼロも多い ) 購入手数料 ( 銘柄数が多いとコスト大 ) + + + 信託報酬 ( 低 ) 信託報酬 ( 中 ) 信託報酬 ( 高 ) 5 銘柄調査やポートフォ必要なし必要なし必要なし必要リオ管理 ( ファンド選択は必要 ) ( ファンド選択は必要 ) ( ファンド選択が重要 ) 6パフォーマンス 投資者の銘柄選択次第 連動対象指数 -α 連動対象指数 -α 連動対象指数 ±α 出所 杉田浩治 金融商品としての ETF の特性 証券アナリストジャーナル 2010 年 11 月号 ( 日本証券アナリス ト協会 ) 2. 投資家からみた現行 ETF のメリット デメリット 2 投資家にとって ETF の最大の利用価値は 豊富な商品群を活用して ポートフォリオの構築 変更を機動的に行えることである なお 従来型の一般ファンドと比べての ETF のメリット デメリットを 図表 2 をベースにしてまとめてみると次の通りである (1) 一般ファンドと比べてのメリット 1コストが安いこの意味は二つある 第一にファンド経費率が一般のファンドにくらべ低いことである その理由は 販売会社受取報酬がないこと また次に述べるように設定 解約にともなう証券売買の発注 執行が不要であるため投信会社 信託銀行の報酬率も低いことにある 第二に現物拠出型についてはポートフォリオの組成 取り崩しコストも低い これは 設定 解約が現物の拠出 引出により行われるため 設定 解約にともなう組み入れ証券売買の必要がない ( したがって売買委託手数料が不要で 売買にともなう市場インパクトも 2 この部分については 日本証券アナリスト協会発行 証券アナリストジャーナル 2010 年 11 月号に掲載された筆者論稿を 同誌の許可を得て転載 ( 一部修正 ) した 4

発生しない ) ことによる 一方で 投資家は ETF の取得 換金にあたって証券会社へ売買委託手数料を支払う必要がある 売買委託手数料率は売買代金に応じる体系になっているために 小口の取引については割高となる しかし 一般のアクティブ運用ファンドの購入手数料に比べれば少額ですむケースが多い 3 したがって 後述するように毎月少額を投資するといった場合を除けば前述のコストメリットを打ち消すほどのものではない 2 見えている価格 で売買できる一般ファンドの場合 投資家は当日約定 ( 当日の引値で計算される基準価額での売買 ) とするためには 販売会社に対し取引所立会終了時刻以前に発注する必要があり その約定価格が正確に幾らになるかは発注時点ではわからない仕組みになっている ( こうした売買発注方式を日本の投信業界ではブラインド方式と呼んでいる ) これに対し ETF の場合は取引所取引であるから 投資家が取引所立会時間中に刻々変化する価格を確認しながら発注でき また これ以上の価格では買わない これ以下の価格では売らない という指値注文も可能である 3 信用取引も可能である 一般ファンドの場合は買付概算金額の総額を用意する必要があるが ETF は株式と同様に証拠金取引ができるので レバレッジを効かせた運用も可能である また空売りができるので 下げ相場で収益を得る あるいは投資家が保有する別の証券等の値下がりに対するヘッジのため ETF を空売りすることも可能である 4 透明性が高い ETF は 1.(2) で述べた 裁定 を期待するファンドであるので 運用内容を頻繁に公開し 日次ベースで開示することが多い すなわち一般ファンドの運用内容の全容開示が半年ごと程度であることに比べ透明性が高い 投資信託はもともと保険などと比べ透明性が高い金融商品であるが ETF はその究極にある商品と言えよう (2) 一般ファンドと比べてのデメリット 1 純資産価格で売買できない可能性がある一般ファンドは 投資家が原則として純資産価格で購入 換金できることをファンド約款に明記し 制度的に保証している 一方 ETF の売買価格は市場での需給関係によって決まるため 純資産価格との乖離を生じる可能性がある ( ただし 前述のように ETF と連動対象との価格裁定が働くので乖離は小さく収まることが期待できる ) また 取引所で売買が成立しない可能性があるほか 取引時間中に市場の乱高下があった場合には まともにその影響を受け ETF の売買価格が激しく振れる可能性がある 4 3 ただし一般ファンドについてもインデックスファンドについては購入手数料がゼロのファンドが多い 4 米国で 10 年 5 月 6 日にダウ平均が 20 分間に 700 ポイント下げるという市況激変 ( フラッシュ クラ 5

2 売買注文を出せる先が証券会社に限られている一般ファンドは 銀行をはじめ幅広い金融機関が販売を取り扱っているが ETF は取引所上場商品であり株式と同様の売買システムをとるため 現在のところ発注先が証券会社に限られている ただし 一般ファンドについては全てのファンドを全証券会社で買えるわけではない ( 各証券会社が販売するファンドは一部の投信会社のファンドだけである ) のに対し ETF は上場商品であるから 投資家は株式と同様 どの証券会社に対しても全 ETF の売買を発注することが可能である 3 分配金の自動再投資ができない一般ファンドの場合は 分配金自動再投資コース が設けられていて 投資家は税引分配金を 1 円のムダもなく再投資できる 一方 ETF については 今のところ分配金自動再投資制度がないので 分配金を再投資するには投資家がそのつど買付注文を出す必要があり また ETF の買付単位以下の金額については再投資できない この分配金の自動再投資ができない ( 複利効果を得られない ) ことのマイナス効果を計算してみると次のとおりである 一例として 投資金額 100 万円 ファンドの分配金が毎年 2% 値上がりが 5%( トータルリターン 7% 5 ) の場合で計算する まず一般ファンドについては 分配金自動再投資コースを利用していけば 毎年 7% 複利で増えるので 5 年後に 140.3 万円 10 年後に 196.7 万円 20 年後に 387.0 万円となる 6 一方 分配金を再投資しない ETF については毎年 2% の分配金部分が単利計算となるため 元利合計は [100 万円の 5% 複利元利合計 +(2 万円 経過年数 )] と計算され 5 年後に 137.6 万円 10 年後に 182.9 万円 20 年後に 305.3 万円となる 両者の差は 5 年後で 2.6 万円 10 年後で 13.8 万円 20 年後で 81.6 万円となり 長期になると分配金を再投資をしないマイナス効果は大きい 3 積立投資は不便でコスト高一般ファンドについては 多くの銀行 証券会社などが 預金口座等から毎月一定額を買付けていく積立投資制度 を提供している 一方 ETF については 日本について言えば 一部の証券会社だけが取り扱っている るいとう ( 多数投資家による同一銘柄の株式共同買付制度 ) を除くと毎月積立ての制度はない 投資家自身が毎月買付注文を出すことは可能だが 煩わしいうえ 少額では売買委託手数料が割高になる ( たとえば 日本のあ ッシュと呼ばれている ) があった際 その間の取引をキャンセルする措置が取られた このキャンセルと なった取引の 70% は ETF であったという そのため 引値一本で取引する一般ファンドのほうが取引時 間中の乱高下を避けられる とか ETF について成行注文を出すのは危険 ( 指値注文とすべき ) といっ た声が出た 5 ちなみに Cerdit Suisse Global Investment Yearbook 2011 によれば 世界主要 19 カ国の平均株式リターンは 過去 111 年間 (1900 年 ~2010 年 ) の平均で 8.6% である 6 ここでは税を考慮に入れていない 千円未満四捨五入で表示 6

る大手ネット証券の場合 売買委託手数料率は 100 万円投資なら 0.06% であるが 5 万円投資では 0.29% 3 万円投資では 0.48% となる ) という欠点がある 3. 世界の ETF 20 年の変遷 (1) 量的拡大の状況 90 年代初頭に発足した ETF の残高 ( 時価総額 ) ファンド数 1ファンド当たり規模の推移を 世界の ( 一般ファンドを含む ) 投資信託全体のそれと比較しながら見ると図表 3 のとおりである 7 ETF の残高が本格的に拡大したのは 2000 年代に入ってからである 2000 年 5 月にバークレーズ グローバル インベスターズ (09 年にブラックロック社が買収 ) が 一挙に 50 ファンドを設定したことが量的拡大のきっかけとなったといわれる 残高は 01 年に 1,000 億ドルを超え 直近 11 年 11 月末現在では 1 兆 3,475 億ドル (1 ドル 80 円で換算して 110 兆円 ) に達した 特にリーマンショック前後からの状況が注目される すなわち 投資信託全体の残高はリーマンショック前の 07 年にピークをつけたのち減少しているのに対し ETF の残高は 08 年こそ ETF 史上初めて前年比減少したものの その後増加に転じ直近では 07 年の 7,970 億ドルを 69% も上回っている そして 図表 3 には掲載していないが 残高の増減を資金要因 ( 設定額 - 解約額 ) と市場要因 ( 組み入れ資産の時価変動 ) とに分けてみると 一般ファンドが 08 年に市場要因だけでなく資金要因でも大幅なマイナスとなった ( 資金が流出した ) のに対し ETF は 08 年に市場要因は当然マイナスであったものの 資金要因はプラス ( 純増 ) を維持し その後も資金が順調に流入し続けていることが注目される 以上の結果 世界の全投信残高に対する ETF 残高の比率は 99 年の 0.3% から 10 年末には 5.3% へ拡大した また ETF のファンド数は 2001 年に 100 本を上回り 06 年にはライデックス社が 1 日に 100 本近いファンドの新設を登録し話題を呼んだ そして 07 年に 1,000 本を超え 11 年末には 3,000 本に達しそうな勢いである 1ファンド当たりの規模は 90 年代には拡大傾向をたどっていたが 2000 年代に入り ファンドの多様化が進む中でやや縮小しており 11 年 11 月末には 4.52 億ドル ( 約 360 億円 ) となっている 一部の大規模ファンドの存在 ( 米国 S&P500 種株価指数に連動する SPDR S&P 500 が 860 億ドル 金価格に連動する SPDR Gold Trust が 730 億ドル Vanguard 7 本稿において ETF のデータは主に BlackRock 社発行の ETF Landscape 各号掲載数字を利用させていただいている 感謝申し上げるとともに 全世界のデータを集計されているご努力に敬意を表する 7

MSCI Emerging Markets ETF が 447 億ドルなど ) が平均値を押し上げており 数千万ドル以下の小規模ファンドも多い それでも図表 3 に見る通り 一般ファンドに比べれば平均規模が大きいことを指摘できる 図表 3 ETF 残高 ファンド数 1ファンド当り残高の推移 ( 全投信との比較 ) 残高 ( 十億ドル ) (A)/(B) ファンド数 1 ファンドの規模 ( 百万ドル ) 年末 ETF(A) 全投信 (B) ETF 全投信 ETF 全投信 93 0.8 4,156.5 0.0% 3 24,474 267 170 94 1.1 4,470.9 0.0% 3 27,416 367 163 95 2.3 5,386.0 0.0% 4 34,888 575 154 96 5.3 6,341.9 0.1% 21 35,424 252 179 97 8.2 7,291.0 0.1% 21 35,331 390 206 98 17.6 9,594.6 0.2% 31 31,570 568 304 99 39.6 11,762.3 0.3% 33 50,226 1,200 234 00 74.3 11,871.0 0.6% 92 52,476 808 226 01 104.8 11,654.9 0.9% 202 52,849 519 221 02 141.6 11,324.1 1.3% 280 51,692 506 219 03 212.0 14,048.3 1.5% 282 54,570 752 257 04 309.8 16,152.9 1.9% 336 55,528 922 291 05 412.1 17,757.4 2.3% 461 56,867 894 312 06 565.6 21,808.9 2.6% 713 61,855 793 353 07 797.0 26,132.3 3.0% 1,170 66,348 681 394 08 711.4 18,920.0 3.8% 1,595 69,032 446 274 09 1,036.1 22,952.8 4.5% 1,944 67,552 533 340 10 1,311.3 24,698.6 5.3% 2,460 69,519 533 355 11( 注 ) 1,347.5 25,922.4 2,982 71,030 452 365 [ 注 ]11 年について ETFは 11 月末 全投信は6 月末現在 (A)/(B) は両データの時点が異なるため記載していない [ 出所 ]ETFは BlackRock "ETF Landscape" 全投信は国際投資信託協会のデータを用いて筆者作成 (2) 品揃えの充実の状況 ETF は 2000 年代に入り 急速に商品バラエティーを充実させてきた 長期データの取れる米国の例 ( 後述するように世界の ETF 残高の 69% を米国 ETF が占めており 米国の状況はほぼ世界の状況を示している ) でみると ETF の種類別残高構成は図表 4 のように変化してきた 00 年当時は ETF 残高の 9 割以上が国内株全体の指数 (S&P500 など ) に連動するファンドによって占められていた しかし その後セクター別指数 外国またはグローバル株式指数 債券指数 そして金など商品指数 さらに為替に連動するタイプのファンドなどが次々と開発され これら新種ファンドの比重が高まっている 10 年末現在では国内株全体 (S&P500 など ) 指数連動型は残高全体の 38% を占めるに過ぎず 外国株またはグローバル株指数連動型が 28% 債券指数連動型が 14% そして国内 8

株セクター指数連動型と商品指数連動型がともに 10% 強を占めるに至っている そして対象指数についても 取引所や情報ベンダーが公表している既成指数だけでなく 運用会社が独自に開発した合成指数を用いるファンドも設定されている たとえば S& P500 採用銘柄を対象としつつも S&P の時価総額加重方式でなく企業利益で加重した指数 有配当銘柄を投資対象として配当利回りで加重平均した高配当株指数 あるいは SRI 低ボラティリティ ソーシャルメディア といった投資テーマに適合する銘柄で構成した指数などである さらに米国では 08 年から指数連動型だけでなく 運用者の判断により銘柄入れ替え等を行って指数を上回るパフォ-マンスをめざす アクティブ運用型 の ETF も出現している 10 年末現在 26 本のアクティブ運用型ファンドがあり その残高は 27 億ドル ( 米国の全 ETF 残高の 2.6%) となっている 図表 4 米国 ETF の種類別残高構成の推移 国内株全体国内株セクター外国またはグローバル株式商品合成指数債券 00 年 92.3% 0.0% 4.6% 3.1% 0.0% 02 04 72.0% 85.2% 8.9% 5.8% 5.2% 3.8% 0.0% 14.8% 3.7% 0.6% 06 55.0% 10.3% 26.3% 3.5% 4.9% 08 50.1% 11.0% 21.4% 0.0% 6.7% 10.8% 10 37.5% 10.5% 27.9% 10.2% 0.0% 13.9% 出所 米国 ICI( 投資会社協会 ) 資料より作成 4.ETF 市場の現状 BlackRock 社の発行する ETF Landscape, End November 2011 によれば 11 年 11 月末現在の世界の ETF 残高は 1 兆 3,475 億ドルである これを幾つかの切り口から分けてみると次の通りである (1) ファンド設立地別および投資対象別 ETF の残高を ファンド設立地別および投資対象別に分けて見ると図表 5 図表 6 の通りである 9

ファンド設立地は圧倒的に米国が多く 全体の 69% を占め 次いで欧州 20% アジア 7% の順となっている このシェアの推移を振り返ると 2000 年代に入って欧州が大きく伸び (00 年の 1% から 11 年 11 月末の 20% へ ) 米国のシェアが低下(00 年の 81% から 11 年 11 月末の 69% へ ) してきた しかし リーマンショック後は 日本を除くアジアのシェアが若干拡大しているほかは大きな変動は見られない ( なお 日本は 95 年に金銭拠出型の日経 300 上場型投信が発足 01 年から現物拠出型が多数設定された結果 02 年末には世界で 15% のシェアを占めたが 直近 (11 年 11 月末 ) では 3% に低下している ) ETF の組み入れ対象別では 株式が圧倒的に多く 78% を占め 次いで債券 19% 金などの商品 3% となっている これを時系列で見ると 商品の比率が高まっているほか 株式について国別 グローバル セクター別など 債券についても国や企業などの発行体別 国別など多様化が進んでいることは米国の状況と同じである 図表 5 設立地別残高とシェア ( 単位 : 十億ドル %) 図表 6 組入れ対象別残高とシェア ( 単位 : 十億ドル %) 日本, 34.1 3% 日本以外のアジア, 54.7 4% 欧州, 273.5 20% その他, 54.9 4% 米国, 930.3 69% 商品, 34.8, 3% 債券, 250.8 19% その他, 4.9 0% 株式, 1057.0 78% (2) 発行会社別 (ETP 市場について ) ブラックロック社発行 ETF landscape, End November 2011 によれば ETF と ETN などを含めた ETP(Exchange Traded Product) のプロバイダー ( 発行会社 = 運用会社 ) は世界に 192 社存在するが 上位 3 社が寡占している状態にある すなわち第 1 位の i( アイ ) シェアーズ (09 年にブラックロック社が買収した旧バークレーズ グローバルの ETF 部門 この買収によりブラックロック社は世界最大の資産運用会社となった ) が 5,977 億ドルを運用し 世界全体の ETP 残高 1 兆 5,431 億ドルの 38.7% を占めている 次いでステイト ストリート グローバルが 2,685 億ドルで 17.4% 米国のインデックスファンドの大手バンガード ( 投信運用資産額でフィデリティを抜いて投信会社としては今や世界最大となった ) が 1,743 億ドルで 11.3% となっている 上位 3 社で世 10

界の ETP 市場全体の 67% を占めており 寡占度が高い ( なお日本最大の ETF 運用会社である野村アセットマネジメントは運用資産額 183 億ドルで世界第 10 位にランクされている ) (3)ETF の保有者 ETF の保有者構成については 米国では個人と機関投資家 ( ヘッジファンドが主力 ) が半々 欧州では 80% が機関投資家と言われる 8 ETF を保有する米国個人投資家のプロフィールについては ICI( 米国投資会社協会 ) が 10 年 5 月に行った調査がある ( 図表 7 参照 ) これによれば ETF 保有家計は米国全体の平均はもとより個別株を保有する家計と比べても年収 学歴が高く 金融資産を多く保有し かつ平均年齢は若い現役層が中心となっている また 米国では FA( 投資アドバイザー ) が 個人顧客から預かった資産の運用対象として ETF を活用するケースが増えているといわれており こうした間接的利用をふくめ個人の ETF 利用度が増加していると見られる [ 図表 7] 米国のETF 保有家計の属性 ( 米国平均および個別株保有家計との比較 ) 全米平均 個別株保有者 ETF 保有者 年齢 ( 中位数 ) 49 歳 52 歳 46 歳 年収 ( 中位数 ) 49,800ドル 85,000ドル 130,000ドル 保有金融資産 ( 中位数 ) 75,000ドル 225,000ドル 300,000ドル ( 以下 全体に占める比率 ) 既婚または同棲者 63% 76% 84% 配偶者死亡者 10% 7% 3% 4 年制大学以上卒業者 31% 50% 84% 就業者 60% 67% 80% 生涯職業から退職している 29% 33% 29% IRAに加入している 41% 68% 85% DCプランに加入している 52% 71% 74% ( 注 )IRAは個人型確定拠出年金 DCプランは確定拠出年金プラン [ 出所 ] 米国 ICI 2011 Investmen Company Fact Book 5. 国際機関や SEC の懸念 ETF が拡大し 世界の証券 金融市場への影響が大きくなっていることにともない 最近 金融監督規制に関係する国際機関や米国 SEC から ETF に関する懸念が表明されている そのポイントを紹介すると次の通りである 8 BIS Working Papers No 343 Market structures and systemic risks of exchange-traded funds, April 2011 11

(1)FSB BIS IMF の問題意識 11 年 4 月に FSB(Financial Stability Board 金融安定化理事会 9) BIS(Bank for International Settlements 国際決済銀行) IMF( 国際通貨基金 ) は 相次いで ETF についての問題を提起するペーパーを発表した 10 これを受け EU の証券市場監督機関である ESMA(European Securities and Markets Authority 欧州証券市場機構) は ETF 規制の見直しを行っている 以下 FSB のペーパーの内容を要約すると次の通りである 1デリバティブを活用する合成 ETF( 現物拠出によらず 店頭スワップ取引により対象指数連動をめざす ETF) についてこのタイプの ETF は欧州で最近数年間に増大しており 10 年末には欧州 ETF 全体の 45% を占めている 仕組みは 指定参加者がファンドに拠出した現金により ETF 発行会社がスワップ取引の担保となる証券バスケットを購入し 当該証券バスケットのリターンを相手に提供する代わりに 相手から ETF の対象指数のリターンを得るというスワップ取引を結ぶものである 通常 このスワップ取引の相手 ( カウンターパーティー ) は ETF 発行会社と同じ金融グループに属する銀行であり ( 筆者注 : たとえばドイツ銀行系の ETF 発行会社である db-x trackers とドイツ銀行がスワップ契約を結ぶ ) 担保となる証券バスケットは当該銀行( この例でいえばドイツ銀行 ) が供出する このETF について FSB が懸念しているのは次の 3 点である ( イ ) ファンドの投資家にとって スワップ契約の相手 ( 引受 ) 銀行が破たんした場合にはスワップ契約が履行されなくなるというカウンターパーティ リスク ( 信用リスク ) が存在する ( ロ ) スワップ取引の相手銀行が 通常のレポ ( 現先 ) 市場に出せないような流動性の薄い証券を担保として供出していた場合 ( 言い換えれば当該銀行が流動性の薄い在庫証券の流動化手段としてこのスキームを利用していた場合 11) ETF の予期せぬ大量解約が発生した時には担保証券の換金は困難である そうすると 解約停止措置を取らざるを得なくな 9 金融安定化理事会 Financial Stability Board :FSB は 第 2 回金融 世界経済に関する G20 首脳会合 ( ロンドン サミット :2009 年 4 月 ) の宣言を踏まえ 旧金融安定化フォーラム (FSF) が一層強固な組織基盤と拡大した能力を持つ組織として再構成された機関 10 各ペーパーは それぞれ次の通りである Financial Stability Board Potential financial stability issues arising from recent trends in Exchange-Traded Funds(ETFs), 12 April 2011 BIS Working Papers No 343 Market structures and systemic risks of exchange-traded funds, April 2011 IMF Global Financial Stability Report Annex 1.7 Exchange-Traded Funds: Mechanics and Risks April 2011 11 2011 年 11 月 14 日付 FinanciaI Times 紙の FTfm セクションは BIS のシニアエコノミスト Mr.Ramaswamy 氏が 投資銀行は 合成 ETF とのスワップにより 200 億ドルを在庫から切り離せれば 在庫維持に必要な資金調達コストを 1% として年 2 億ドルのコストを節約できる とのコメントを載せ 11 年 9 月末現在で合成 ETF の残高は 1101 億ドルであるから 合成 ETF を持っている投資銀行グループは年 10 億ドルのコスト節約になるとの記事を掲載している 12

るか あるいは ( 解約を受付ければ ) 銀行段階で流動性不足に陥る ( 金融システムに悪影響を及ぼす ) 恐れがある ( ハ ) 同一の金融グループが ETF 発行会社であると同時にスワップ取引の引受先 ( カウンターパーティ ) となるため 利益相反の恐れがある 2ETF による証券貸付の利用について ETF 発行会社は ETF の運用報酬率が低いことから証券貸付によって収益を得ようとするインセンティブが働く しかし 証券貸付は二者間の相対契約であるから 1のスワップ取引と同様のカウンターパーティー リスクと担保リスクを生じる恐れがある 加えて 市場が厳しいストレスにさらされた時に ETF の保有者が大量の換金売りを出すと 運用会社は大規模な貸付証券の回収を行わざるを得ず それは原証券市場に大きな圧迫をもたらすリスクがある 以上 12の問題点をふまえて FSB は 投資家と規制当局が ETF のデリバティブ利用と証券貸付に関わるリスクについて理解を深めることが必要であり ETF の複雑な仕組みや担保証券の明細について 投資家向けディスクロージャーを充実するとともに当局向け報告要件を強化すべきだ と主張している こうした問題提起に対し 欧州の合成 ETF のプロバイダーであるドイツ銀行やソシエテジェネラルは ETF に対する担保は十分である などの反論を展開しており 逆に FSB の見解を支持するブラックロック社 ( 前述のように ETF の最大手で現物拠出型のプロバイダー ) との論争を巻き起こしている そして EU の証券市場監督機関である ESMA は 11 年 7 月に ETF 等についての新たなガイドライン制定に関するディスカッション ペーパー を発出した 12 ESMA は各方面の意見を集約して近いうちに何らかの見解を打ち出すのではないかと見られている (2) 米国 SEC の問題意識 一方 米国では従来から投信のデリバティブの活用については制限的であるうえ SEC ( 証券取引委員会 ) が投信全般 (ETF 以外もふくむ ) によるデリバティブの活用範囲について見直しを行っている その結論が出るまではデリバティブを活用する商品の新設登録を停止していることもあって 前記の欧州における問題は意識されていない SEC が ETF について検討を行っているのは 10 年 5 月や 11 年 8 月の市場乱高下時における ETF の影響であり 現在調査中と伝えられる また 市場指数の 2 倍 3 倍 あるいは指数と逆方向に 2 倍 3 倍に動くレバレッジ型または逆レバレッジ型 ETF について これらのファンドが追求するパフォーマンスはあくまで 前日比 であって 中長期には狙い通りには動かないこと についての投資家の理 12 ESMA Discussion paper ESMA s policy orientations on guidelines for UCITS Exchange-Traded Funds and Structured UCITS 13

解を徹底するよう 2 年前から動いている 6.ETF の今後の展開 残高が 100 兆円を超え 世界の証券 金融市場に影響を及ぼすようになった ETF は 今後どう変化していくのだろうか 幾つかの注目点について述べる (1) 今までの 陣取り合戦 から新しいステージへ今まで ETF のプロバイダーは 投資家の様々な投資ニーズを満たし あるいは投資アイデアを創出するため 次々と新しい資産パッケージ ( 指数 ) を考案し ETF を創設してきた その基本的手法は 1 新しい切り口から投資銘柄のパッケージを作る 2 既存指数についてを含め新しい投資配分 ( ウエイト付け ) を編み出すことにある 指数を上回るパフォーマンスを追求するアクティブ運用型と異なり パッシブ ( 指数連動 ) ファンドは一つの指数に対し基本的には一つのファンドがあれば投資家のニーズを満たせる したがって現在までの ETF ビジネスは 新しい指数を考案し それに対応する ETF を他社よりも早く設立するという いわば 陣取り合戦 に終始してきた しかし 3,000 本にもおよぶファンドが存在することとなった現在 考え得る指数は飽和状態に近づきつつある 事実 投資家のニーズが小さい ETF の解散も増えている (10 年に米国だけで 51 ファンドが解散 ) したがって ETF ビジネスは 今までの 投資アイデアを先取りするファンドの新設 ( 陣取り ) 合戦 の段階から たとえば次に述べるアクティブ運用型の拡充など新たな商品戦略や 確定拠出年金市場への進出といった新たな顧客獲得戦略を模索する段階に入っていくと見られる なお11 年 12 月には 今まで ETF に消極的であった米国投信最大手のフィデリティが 国内株 外国株 債券などを対象にした広範な ETF の新設登録を申請したと伝えられる 13 ETF 市場は参加者の増大をふくめ全体として拡大基調をたどろう (2) アクティブ運用型 ETF が増えるか 前記したように 米国では 08 年からアクティブ運用型 ETF が出現し 10 年末までに 26 ファンドが登録 14された しかしアクティブ運用を得意とする会社は従来 ETF への進出にやや消極的であったと 13 http://www.mmexecutive.com/news/fidelity_etf-225573-1.html 14 正確に言うと 1940 年投資会社法の適用除外の承認と登録である ETF の新設にあたっては 1940 年法に規定する オープンエンド型ファンドはいつでも純資産価値で償還請求に応じなければならない などの適用除外の承認を受けなければならない 14

いわれる その理由の一つとして ETF は毎日ポートフォリオを開示する必要があるため 自社の投資戦術を他の市場参加者に察知され フロントランニング ( 先回り売買 ) などをされる恐れがあることが指摘されている 特に株式ファンドについては 規模が大きくなると同一銘柄を数日に分けて売買することもあり その恐れが大きいとされる この点について コンサルティング会社マッキンゼーは 11 年 8 月に発表した ETF の第 2 幕が始まる と題するレポート 15 の中で 複数の ETF の設定 解約 ( それにともなう株式売買 ) を同時にまとめて行うことにより 個別ファンドの運用の方向性を見えにくくするなどの工夫ができそうであり アクティブ運用 ETF についての障害が少なくなる 可能性を示唆している 事実 現在 800 本を超えるアクティブ運用型 ETF が SEC への登録待ちであると伝えられる 16 ( 前述の通り SEC は投信全般についてのデリバティブ利用の見直し作業を行っており その結論が出るまでファンドの新設登録をストップしているため 登録待ちファンド数が多くなっているものと思われる ) なお 上記マッキンゼー レポートは アクティブ運用 ETF の残高増加を見込む他の理由として 108 年以降に設定したアクティブ運用型 ETF のトラックレコードが 3 年以上となって モーニングスターの評価対象にも入ってくることから 過去実績を重視する投資家がアクティブ運用型 ETF への投資をふやすであろうこと 2 大手投信会社がこの分野に進出する可能性があること 3 既存の一般アクティブ運用型ファンドを ETF に転換する動きが出ることを挙げている そして 先ず MMF に近い短期債ファンドなど債券ファンド ( 前述の先回り売買などの恐れが小さい ) の分野でアクティブ運用型 ETF が増加するだろうと予測している (3)DC( 確定拠出 ) 年金などの新しい市場や 新しいビジネスモデルを開拓できるか 確定拠出 (DC) 年金制度が発達している米国では 従来から投信販売市場における DC 年金資金の重要性が高い 2010 年末現在で株式投信 ( バランス型を含む ) と債券投信の合計残高の内 48% を 401k( 企業型確定拠出年金 ) や IRA( 個人型確定拠出年金 ) といった DC 年金積立資金が占めており その額は 4 兆 7 千億ドルにのぼる ( 投信以外で運用されている部分も含めた米国 DC 市場全体の規模は 9 兆 2 千億ドルである ) この巨大なマーケットに ETF がアプローチできれば ETF 市場は飛躍的に拡大することになる しかし 前述の通り ETF は 小口資金を積み立て 分配金を再投資する といった積立型投資には向いていない その障害を たとえば DC プラン加入者の共同買付などの方法により解決できれば DC 市場へのアプローチの路が開けるかもしれない また 前述のマッキンゼー レポートは ETF 販売者 ( 顧客注文取次者 ) の新しいビジ 15 http://www.mckinsey.com/app_media/reports/financial_services/etf_secondactfinal.pdf 16 http://www.investmentnews.com/apps/pbcs.dll/article?aid=/20110922/free/110929970 15

ネスモデルとして 一般ファンドについて米国で広く行われている運用会社とのレベニュー シェアリング ( 運用会社からの報酬のキックバックを得ること ) あるいは自社名を冠した ETF の販売による自社ブランドの充実の可能性を取り上げている 7. 日本への示唆 以上述べてきたように 世界の ETF 市場は商品バラエティの充実とともに量的にも大きく成長してきた 日本の ETF 市場も 5 年前 (2006 年末 ) の 13 ファンドから 11 年 11 月末には 87 ファンドへ増加し 品揃えの面ではかなり充実してきた ( 外国 ETF の重複上場および ETN を含めた上場銘柄数は 128 銘柄に達している ) ただ国内籍 ETF の残高は 2.8 兆円に止まり 世界の ETF 市場に占める比率は 3% と 5 年前の 6% からむしろ縮小している その理由は幾つかあると思われる 第一に 日本株の魅力 ( 収益性 ) が残念ながら薄れていることである したがって海外投資家の投資も不活発で 海外投資家による年間 ETF 売買高は 10 年に 2.45 兆円 ( 東証 大証合計 ) となり 5 年前の 2.67 兆円から減少してしまっている 第二に ( 日本に限った話ではないが ) 販売チャネル ( 投資家の ETF 売買の発注先 ) が証券会社に限られている ( 一般ファンドのように銀行等が取り扱っていない ) こと 第三に 第二と関連して投資家の ETF についての認知度がまだ低いことである ( 投資信託協会が 11 年夏に首都圏 阪神圏居住者を対象に実施した調査では ETF 認知率は 7.2% 保有率は 1% に過ぎない ) そして第四に 米国と比較した場合にフィーベースの FA( 投資アドバイザー ) の不在が挙げられる 米国では 残高に対し年 1% 程度のフィーを受け取って個人顧客の資産を管理するフィー アドバイザーが多数存在し 彼等が知識 経験の薄い投資家と証券市場 ( 多数の商品 ) とを結ぶ機能を果たしている 彼等は 管理資産の投資パフォーマンスを上げるためには組み入れ商品のコストが低いことが望ましいので ETF の活用度を高めているといわれる 日本では FP の資格取得者は多数存在するが 顧客からフィーを受け取って資産管理を行う FP は少なく 米国のようなフィーベース FA による ETF へのニーズは小さい 以上のような要因を踏まえると 当面は日本の投資家ニーズが高いと思われる商品 ( たとえば海外証券 コモディティ 日本債関連 ) の品揃えを更に充実することが ETF 市場強化策として考えられよう 一つはっきりしていることは 投資家の ETF 認知度は高まることはあっても低くなることはないということである したがって 長期的には熟練度の高い投資家を中心に低コスト ETF へのニーズはジリジリと高まっていくことが想定される そうした中で 投信運用 販売業界は ETF と一般ファンドとの線引き 棲み分けをどうしていくのかを詰めていく 16

必要があろう ( 最終的には投資家が決めることであるが ) 最も望ましい姿は ETF であれ一般ファンドであれ 今まで株式や投信に縁のなかった若者などが魅力を感じる新しい商品または販売手法が開発され 日本の投資家層が大きく広がる ( パイが大きくなる ) ことであることは言うまでもない 17