日常診療に役立つ漢方講座 第 171 回筑豊漢方研究会 平成 20 年 (2008)9 月 11 日 入門講座 はじめての漢方診療 (9) 陰証期とその治療 1 飯塚病院東洋医学センター漢方診療科三潴忠道 1
21 世紀の医療における知の創造 漢方中国由来の医学 中国から伝わった医学を漢方と呼ぶ 2
陰陽 : 自然界の相対概念 N8 < 陽 > < 陰 > 自然 天夏昼日向 地冬夜日陰 食物体を暖める体を冷やす 薬物温 ( 熱 ) 薬涼 ( 寒 ) 薬 病気 熱 が主 寒 が主 基本的なものの考え方に 陰陽がある 自然界を相対的に捉える概念で 天を陽とすれば地は陰である 食べ物にも陰陽があり 体を温める食べ物を陽性食品 冷やす食べ物を陰性食品と考える 特殊な食べ物である漢方薬も 熱薬と寒薬に分けることができる 病体も 熱が主体の陽証 寒が主体の陰証に分けることが出来る
陰 食物の陰 陽 陽 酢 温かい食べ物は陽で 冷たい食べ物は陰の食物である
薬 性 温 ( 熱 ) ( 微温 ) 平 ( 微寒 ) 寒 服用すると体を温める 服用すると体の熱をとる N14 附子乾姜蜀椒桂皮 甘草 黄連大黄石膏芒硝 * 薬味 : 五行説により臓腑と相関酸 ( 肝 ) 苦 ( 心 ) 甘 ( 脾 ) 辛 ( 肺 ) 鹹 ( 腎 ) 服用すると体を温める熱薬と 服用すると熱をとる寒薬の代表的なものを表に記した
病気の進行方向しょう漢方医学的な病態 ( 証 ) の二大別 N8 陽証 陰証 陽性の病態 : 体力が優勢活動性発揚性熱が主体 陰性の病態 : 体力が劣勢非活動性沈降性寒が主体 体力が十分にあり 熱が主体の病態を陽証 体力が劣勢で活動性がなく 寒が主体の病態を陰証と呼ぶ 通常 病気が進行すると 体力が衰え 病気に対し十分に反応することが出来なくなり 陰証に陥りやすい
表裏の概念 N10 表皮膚関節神経口腔 ~ 上気道 半表半裏胸膈内臓器横隔膜周辺 裏 消化管 表裏の概念を示す 体の表面 皮膚 関節 神経等を表 消化管を体の中心と捉え 裏とみなす 表と裏が入り混じった所 横隔膜周辺の臓器を半表半裏と呼ぶ
六病初発陰陽と体力と病毒との量的消長の関係 陰陽と体力と病毒との量的消長の関係太時 間 N8 陽証病期 陰証病期 表裏半表半熱 少陽病期太陽病期時力裏裏裏裏病毒陽間初太少厥死陽証病期明陰陰陰病病病病期期期期体期寒 位通常 病気は陽証から陰証に移っていく 陽証および陰証期を各々 3 つに分け る これを六病位と呼ぶ 陽証期は体力が十分にあり熱が主体であり 病気は表から入って 裏に向かう 陰証期は体力がなく 寒が主体である 陰証期は病気はすべて裏にある 陰証期は病気の原因に対して反応が乏しい その為 太陰 少陰 厥陰と分けているが 実際は区別ははっきりしていない その為 私は 違う区分でお話をしようと思う すなわち 陽証から陰証へ向かう病態とその時期に使われる方剤 本格的な陰証の病態と方剤 その他の病態と方剤に分けてお話をする
冷え性 の三大別 N38 主要型特徴漢方治療 1. 全身型 2. 上熱下寒型 3. 四肢末端型 典型的 冷え性 寒 が中心 温熱刺激でのぼせ気 血の上逆 レイノー様凍瘡瘀血 ( 血虚 ) 温薬 ( 附子 乾姜など ) 四逆湯類八味地黄丸 ( 下肢 ) 苓姜朮甘湯 ( 腰 ) 気 血を巡らせる苓桂味甘湯桃核承気湯三黄瀉心湯温経湯 ( 虚証 ) 当帰芍薬散当帰四逆湯 ( 実証 ) 桂枝茯苓丸 本格的な陰証では 寒が中心となる 使われる方剤も 附子や乾姜など温薬が含まれる方剤となる 附子も乾姜も入った四逆湯類 附子が入った八味地黄丸 乾姜が入った苓姜朮甘湯がある それと似ているが 本当の陰証の寒ではない状態 たとえば 上熱下寒型 のぼせてしまっている状態 体の中は気と血が巡っているわけだが それが上逆してしまって のぼせてしまう 外からエネルギーを入れてもうまく巡っていかないのでよけいのぼせてしまう こういう場合は 気血を巡らせなければいけない 桂枝と甘草がこれらを巡らす作用があるので これらを含んだ方剤 例えば苓桂五味甘草湯や桃核承気湯を用いる 桃核承気湯は瘀血の薬と言われているが 実は桂枝と甘草が含まれている 血を巡らす生薬としては黄連が有名である 方剤としては三黄瀉心湯があるが 足の冷えはそれほど強くない 温経湯は桂枝が入っており のぼせを下げる 手足の先が冷えるような病態 レイノー様の症状をきたし しもやけができやすい これは血の巡りが悪く 瘀血の病態である 虚証の瘀血は当帰が入った方剤 当帰芍薬散や当帰四逆湯などがある 温めるだけでなくやはり巡らさなければいけない 実証では桂枝茯苓丸である その他に 寒気というものがあるが 冷えとは違うと思われここではあげていない
厥陰病太陽病太陰病陽明病少陰病陽病傷寒論における急性熱性疾患の変遷少N38 陽証期 陰証期 病気は 陽証から陰証に向かう 寒気がする太陽病期 食欲がなくなる少陽病期 高熱が出る陽明病期 陰証に入ると 冷えてきて 下痢っぽくなって 段々疲れやすくなっていく まずは この陽証から陰証に向かう方剤を説明する
芍薬甘草湯と類方 N40 方剤六病位 虚実 使用目標 応用 シャクヤクカンソ ウトウ 芍薬甘草湯 少陽 - 太陰 虚 両側腹直筋緊張諸筋の異常緊張結石 シャクヤクカンソ ウフ シトウ 芍薬甘草附子湯 少陰 虚 芍甘湯 + 寒坐骨神経痛便秘 : 加大黄 シャクヤクカンソ ウタ イオウトウ 芍薬甘草大黄湯 少陽 ヤヤ実 芍甘湯 + 便秘芍薬甘草湯 + 大黄末 芍薬甘草湯と言う 芍薬と甘草の 2 味で構成された非常にシンプルな方剤がある 芍薬は血を補って潤す作用がある 薬性は中立からやや冷やすと書いてある 臨床的には温める作用もあると思うが 甘草は元気をつける作用 気を補うような作用がある 性質は平である 意見は色々あるが芍薬甘草湯は 陰証か陽証かはっきりしなくて虚証である 私は 病位は少陽から太陰で 虚証と思っている 少陽と太陰は実は近い位置にあるのである 虚証であるので腹力は弱いが 腹直筋がピンと張っている 筋の緊張を緩める作用があり 胆嚢結石や尿路結石で痛みがあるときによい この時は石が詰まって平滑筋がスパズムを起こしているからである また足がつった時などによい 正常な筋のトーヌスは落とさないので ブスコパンのように 腹が張ることはない 筋肉がつっぱているとき 温めると調子が良かったり 冷えると悪くなったりするような場合 女性の生理痛でも似たようなことがある 寒が存在する場合 芍薬甘草湯に附子を加えた方剤 芍薬甘草附子湯がある 附子を加えるので 少陰の薬だと思う 坐骨神経痛などによい 急性期は分からないが 芍薬甘草大黄湯と言う薬がある これは 芍薬甘草湯証のようであるが 少し実証であり 便秘傾向がある 坐骨神経痛を起こす人 腰椎ヘルニアとか変形性腰椎症の人とかは 便秘になりやすい 特に急性期には便秘になりやすい そういう場合には 芍薬甘草湯に大黄を加えたほうがいいと 類聚方広義の傍注に書いてある 芍薬甘草湯エキスに大黄末を加えると芍薬甘草大黄湯となる 大黄は冷やす作用があるので 少陽病期のやや実証に位置すると思われる 小倉先生に 腹直筋の緊張を目標に芍薬甘草湯を喘息に使用し よくなった症例を教えていただいたことがある
腹診 (2) 腹直筋の攣急 ( 腹皮攣急 ) N84 臨床応用 芍薬甘草湯小建中湯四逆散 芍薬と甘草が組んだ時は 腹直筋の攣急が使用目標となる 芍薬甘草湯の他に 小建中湯や四逆散がある
腹直筋の緊張 N84 2 芍薬甘草湯の類方を考える 腹直筋の緊張の見方のビデオを示す
太陰病 傷寒論 太陰之為病 腹満而吐 食不下 自利益甚 時腹自痛 若下之 必胸下結鞕 病位 裏 代表的脈候 沈弱 主要症候 虚性腹満腹痛陽証から陰証への入り口舌 白苔 治療原則 温散 代表方剤 桂枝加芍薬湯N38 太陰病では 腹が張って 吐いてしまって 食べることが出来ない 自然に下痢をする 時々腹が痛む もしこの時 吐いてしまうのは何か痞えているからだと判断し 下剤をかけてしまうと 腹の中が虚してしまって 邪気が入って上につきあげてしまう 要するにあっていないから具合が悪くなってしまう 病位は裏である 脈は 陰証なので弱く 裏に病気があるので沈んでいる 虚性腹満といって お腹は空っぽだけど張っている 舌には白い苔が生えている 熱はあまりない 代表的な薬は 桂枝加芍薬湯である
陰証の主な治療方剤 2 芍薬甘草湯と類方 方剤使用目標 応用 N40 芍薬甘草湯芍薬甘草附子湯桂枝湯桂枝加芍薬湯小建中湯当帰建中湯黄耆建中湯帰耆建中湯 両側腹直筋緊張諸筋の異常緊張結石 芍甘湯 + 寒坐骨神経痛便秘 : 加大黄 表虚証上衝自汗 腹直筋緊張腹満腹痛 腹直筋緊張 ( 薄 ) 腹痛手足煩熱果物顔虚弱 ( 児 ) の諸症 小建中湯 + 血虚 ( 瘀血 ) 少腹拘急 小建中湯 + 疲労衰弱盗汗皮疹化膿 当帰建中湯 + 黄耆建中湯 桂枝湯は太陽病の虚証で有名な薬であるが 芍薬甘草湯と類方の中に入っている 大陽病期の薬がなぜ この中に入っているのか 六病位の 2 次元の表で見ると 太陽病期と太陰病期は離れているようであるが 実は大陽病の虚証は陰証と近い位置にあるのである 桂枝湯は明らかに表虚証の薬である 桂枝は上衝を押さえる作用がある 逆に言えば 桂枝湯証では顔色は悪くない 桂枝湯の芍薬を 2 倍に増やした薬が 桂枝加芍薬湯である この薬はお腹に作用する薬である お腹の気を巡らす薬である 腹直筋が緊張し 腹が張り 腹痛がある このような病態に使用する 表に作用する桂枝湯の芍薬をちょいと増やすだけで お腹に作用する薬になる 太陰病は 時には表に近いところに病気がある場合があるのかもしれない 桂枝加芍薬湯より虚弱な場合 膠飴と言う飴を入れると 小建中湯になる 体を頭から足先まで 3 つに分けると 臍から下が下焦 剣状突起から臍までを中焦と呼ぶ 中焦には消化吸収のセンターがあると言われている 小建中湯はこの中焦を立てなおす薬である 腹直筋の細い緊張があって 腹痛がある 顔色が悪くて虚弱でよくお腹が痛くなる いわゆる虚弱児によく使用される 桂枝加芍薬湯ではお腹が張るが 不思議なことに小建中湯では腹満がなくて むしろペシャとしている 小建中湯のようでもっと虚弱な場合 黄耆建中湯を使う 黄耆が入っているので皮膚が弱くて 寝汗をかいたり 皮疹があったりする 子どものアトピー性皮膚炎に私は良くこれを使用する 小建中湯に瘀血がある場合は 当帰建中湯を使う これは下腹が痛むことが多い この場合はなぜか飴が入っていない 虚状が強い場合は飴を加える事もあるが ゴルフをしていると下腹が張ると言う老人に使用して感謝されたことがある 女性の生理痛によいことがある この場合 冷えることが多いのでこれに附子を加えて用いている 当帰と黄耆を入れて帰耆建中湯と言う薬がある 少陽病から陰証へ移ったところで 冷えはそれ程本格的ではなく お腹が張ったり 痛がったりする陰証の始めに使用する薬を示した
小建中湯では 腹直筋が薄く幅があって張っている 張っているけど腹力は弱いのでお腹は凹んでいる 芍薬甘草湯証の場合は 腹直筋は張っているがこんなに幅はなくて もうちょっとコロッとしている
虚状のお腹の写真である
横から見ると非常に凹んでいる しかし腹直筋はピンと張っており 皮膚がただれてしまっている これは黄耆建中湯証の腹で この患者さんはリウマチであるが 黄耆建中湯に附子を加えて治療した
陰証の主な治療方剤 1 太陰病実証 N40 方剤使用目標 応用 桂枝加 ( 芍薬 ) 大黄湯腹直筋緊張腹満腹痛便秘傾向裏急後重脈浮 大黄甘草湯 附子瀉心湯 大黄附子湯 芍甘黄辛附湯 便秘傾向便秘時食欲低下食後嘔吐 三黄瀉心湯 + 寒便秘時心下痞脳血管障害糖尿病 ( 右 ) 脇下偏痛半身冷痛便秘 芍薬甘草湯 ( 腹直筋攣急 )+ 大黄附子湯坐骨神経痛 太陰病は まだ体力があり 時として実証になることがある 太陰病の実証の処方をスライドで示す まず 桂枝加芍薬大黄湯 これは桂枝加芍薬湯に大黄が入っただけであるが 服直筋が張って お腹がはって便秘傾向のある人に使う 消化管に少し熱がこもっているような時に使う 便の臭いが強かったり しぶり腹があるときによい 大黄甘草湯は 便秘はするけれど あまり症状が出ない人に使う 症状はないといっても あまり便秘をすると 食べると吐いたりしてしまうが 非常に使いやすい薬であるが これを使ってばかりいると漢方の腕があがらない 附子瀉心湯は 三黄瀉心湯に冷えがある状態である 便秘してくると胃が痞えてくるという症状がある
56 歳男性主訴 : 下痢 現病歴 5 6 年前から腹満感が出現 冬に増悪 鈍痛 + 腹鳴 ( ガラガラ ) 放屁 2+( 臭いは少ない ) 便通 2/ 日泥状 / 初頭硬で液状 ( 便臭少 ) 裏急後重 - 3カ所の総合病院で諸検査 過敏性腸症候群と診断 消化酵素剤 整腸剤など無効 食欲 尿利 正常 睡眠障害 - 寒がり 下肢冷 漢方医学的所見顔色良好 脈 やや沈 やや弱 舌 やや暗赤 乾湿中程度の白苔が中程度 腹 腹力やや実やや膨満 胸脇苦満 ( 右 > 左 ) 心下痞鞕 + 腹直筋の緊張 ( 上 > 下 ) 腹動 臍傍圧痛 - 少腹不仁 + 症例を示す 56 才の男性である 陽証のようでも陰証のようでもある 主訴は下痢である
症例の解説 冬になると悪化 寒がり下肢冷 寒の存在ガスや便の臭いが少ない裏急後重ない 陰証? 顔色良 脈やや弱舌の白苔腹力中等度以上 陽証? 陰証と陽証の中間付近で腹満 太陰病? 傷寒論 太陰之為病腹満而吐食不下自利益甚時腹自痛 腹満ときに痛む者は桂枝加芍薬湯 ( 小建中湯証黄耆建中湯証 : 腹満なし ) 陽証とすれば胸脇苦満 心下痞鞕 柴胡剤腹力はあるが脈弱腹直筋のぼせ傾向 柴胡桂枝湯心下痞と腹鳴 三つの瀉心湯 ( 半夏 生姜 甘草瀉心湯 ) 下痢裏急後重 - 腹満はないことが多い 経過 : 桂枝加芍薬湯服用 10 日後腹痛消失腹満 腹鳴ほぼ消失陰性食品 ( 蜜柑や林檎 ) で下痢足冷 加附子著効を呈し約 4ヶ月で廃薬 冬になると症状は悪化し 寒がりで下肢が冷える 寒が存在するようである ガスや便の臭いが少ない 裏急後重がない 陰証のようであるが 顔色良 脈やや弱 舌の白苔 腹力中等度以上とあり 陽証かもしれない 陰証と陽証の中間付近で腹満というので 太陰病と思われる 太陰病は 腹が張って 時々吐き 食べることができない 時々下痢して腹が痛む と傷寒論に書いてある また 腹満ときに痛む者は桂枝加芍薬湯がよいと書いてある ぴったりである 小建中湯証や黄耆建中湯証では腹満はないから違うであろう 陰証と考えれば 桂枝加芍薬湯がぴったりである もし陽証とすれば胸脇苦満 心下痞鞕を目標に柴胡剤 心下痞硬と腹鳴に注目すれば 三つの瀉心湯が鑑別にあがる 瀉心湯類には腹満はないことが多いが この症例では桂枝加芍薬湯を投与した 服用 10 日後 腹痛消失 腹満 腹鳴はほぼ消失した しかし 陰性食品 ( 蜜柑や林檎 ) を摂る事により 下痢が悪化した 足が冷たいことにより寒があると考え 附子を加えた 約 4ヶ月後 よくなっていたため 廃薬とした
附子の使用目標 寒が存在することの確認が重要 N17 1. 冷え症状がある :( 真 ) 寒に用いる除外 : 悪寒 悪風上衝による上熱下寒瘀血による末梢の冷え 2. 温まると症状が緩和される ( 気持ち良い ) 冷えると悪化 3. 脈 : 濇 ( 渋る ) 4. 電気温鍼 ( 小倉 ) の耐久時間が長い 2nd 10 分以上でも気持ちが良い 附子は陰証に入ると使うことが多いので そのお話をする 附子というのは寒に対する熱薬である これを間違えると中毒症状を起こす 附子を使う冷えは本当の寒であるので 悪寒 悪風とは違うし 上衝による上熱下寒や 瘀血による末梢の冷えとは違う 温めると症状が緩和され気持ちがいい 冷えると悪化する 脈は渋る 渋るとは脈速が遅いことである 瘀血のときも渋るが 冷えの時にも渋る
冷え性 の三大別 N38 主要型特徴漢方治療 1. 全身型 典型的 冷え性 温薬 ( 附子 乾姜など ) 寒 が中心 四逆湯類 八味地黄丸 ( 下肢 ) 苓姜朮甘湯 ( 腰 ) 2. 上熱下寒型 温熱刺激でのぼせ 気 血を巡らせる 気 血の上逆 苓桂味甘湯 桃核承気湯 三黄瀉心湯 温経湯 3. 四肢末端型 レイノー様 凍瘡 ( 虚証 ) 当帰芍薬散 当帰四逆湯 瘀血 ( 血虚 ) ( 実証 ) 桂枝茯苓丸 附子は全身型の冷えに使う
附子中毒 33 例の検討 N16 1995.11 1998.10 諏訪中央病院 附子投与 748 例 附子使用量 1.9±1.4(0.3 14.0) 中毒 33 例 中毒量 2.8±1.8(0.7 6.0) 中毒症状 舌 口唇周囲のしびれ (10) 動悸 (5) 胸 心窩不快 (5) 身体動揺感 (3) 頭痛 (3) 血圧上昇 (3) 悪心 嘔吐 (3) 不眠 (2) 他 中毒要因 煎じ時間の不足 方剤の変更 気候の温暖化 煎じ器の変更 長坂ほか : 和漢医薬学雑誌 16(4),1999 諏訪中央病院の長坂先生の附子中毒のデータである
烏頭中毒のまとめ N16 1. 烏頭中毒と考えられた 9 例について検討した 2. 症状の特徴 a. 服用後 30 分 ~1 時間後に出現 b. 口唇シビレ 6 例悪心 4 例動悸 2 例めまい 千鳥足 身体ホテリ 蟻走感各 1 例 3. 発症の誘因 a. 烏頭の増量 (1 日使用量 : 中毒例 5.1±1.9g, 全例 5.3±2.7g) b. 気温の上昇 ( 春から初夏 ) c. 方剤の変更 4. 著明改善が 4 例 瞑眩 飯塚病院古田一史 当院のデータである 附子より強い烏頭の中毒の 9 例である 内服して 30 分ぐらいして 薬が吸収されてから中毒症状がでる 口唇がしびれる むかむかする 動悸がする 眩暈感 千鳥足 中毒まで行かないが効きすぎている場合 体が火照ったりする 中毒症状がひどくなると 除脈になり 血圧が下がり 息が止まる 発症の誘因は 附子を増やした時 気候が変わった時 寒さが厳しくなってどんどん附子を増やしていく しかし 大寒が過ぎ寒さが和らいでくると 相対的に附子が多くなってしまう エキスの場合は 煎じ方等は関係ないが 飲んで 熱くならないか 体が火照らないか 注意深く聞く必要がある
煎液中におけるアコニチン系アルカロイドの含量 Ito T., etc. : J. Trad. Med. 15(3),1998 より 烏頭 (6g) 茯苓四逆湯 Aconitine Hypaconitine Mesaconitine 八味地黄丸料 八味丸合人参湯 0 100 200 300 400 500 600 700 μg/ 日 アルカロイドは酸性の時 抽出量が多くなる 酸性になりやすい煎じ薬 例えば八味地黄丸と煎じる時は抽出量が多くなる 煎じ薬の場合 処方を変えるときは注意が必要である
附子 ( 烏頭 ) 中毒 附子の適応 : 寒 ( 漢方医学的な冷え ) の存在が必須 N16 時期症状 服用後 30 分 ~1 時間以内ぐらいに出現する口のシビレ動悸悪心 嘔吐酩酊状態めまい感頭痛血圧上昇四肢のシビレ蟻走感 流涎不整脈 血圧低下呼吸麻痺 中毒しやすい条件 1 生煮え ( 停電 高齢者 子供 ) 2 煎じ方法 ( 器具 ) 変更 3 烏頭 附子の開始 増量時 4 方剤の変更特に八味地黄丸料に注意 5 気温の上昇 ( 大寒 以降 )
漢方薬の好ましからざる作用 N16 1. 注意すべき漢方薬 附子 トリカブト中毒初期症状に注意! 舌口唇のシビレ動悸悪心眩暈ほてり 出現しやすい条件 生煮え気温の上昇処方変更 漢方薬の好ましからざる作用として 黄 による間質性肺炎や肝機能障害もあるが やはり附子中毒に注意すべきである お盆も過ぎて 9 月になり 暑さで体が参ってしまって虚しやすくなっている また 冷たいものなど陰性食品で体を冷やしている 更に 秋に採れる果物を食べて体を冷やす 秋になると 体が冷えて あちこちの関節が痛くる人が増えてくる 冷えの場合は右半身に症状が出ることが多い そんな人に 附子を使う機会が多くなる 陰証の病気と闘うためには附子は必要である そのため 怖さを知った上で 使いこなさなければならない
附子と乾姜 漢薬の臨床応用 より 附子 大辛 大熱 有毒回陽救逆 温脾腎 散寒止痛陽虚 ( 虚寒 ) 全身機能の衰弱 乾姜 大辛 大熱温中 回陽 温肺化痰脾胃虚寒 痰飲 配合により 回陽救逆 温中散寒止痛の効能増強附子の毒性が弱まる もっと冷えて弱った人に 乾姜を用いる 附子と乾姜の違いをあげる 附子は大熱であるが有毒である 乾姜も辛くて大熱である では何が違うか 中医では 附子は 回陽救逆 つまり 元気にして手足の冷えを救う 温脾腎 脾と腎を温める 親からもらった気は腎に宿る また 生まれた後 活動するためにエネルギーが必要だが それは中焦から取り入れる 中焦の中心は 脾である 脾は今で言う膵臓のことであると思われるが 散寒止痛 寒さを散じ 痛みを止める 附子に対し 乾姜は 温中 脾だけでなく 中空臓器 つまり胃を温める 回陽 元気をつける 温肺化痰 肺を温める 消化吸収したものを十分にエネルギーに転化していく 胃腸と呼吸を温め 機能をよくして元気を取り戻す 本格的に陰証に陥った時には 乾姜は是非とも必要である 脾胃虚寒 脾と胃が虚していて寒がある 痰飲 肺が水っぽかったり 喘息があったりする時に用いる
陰証の主な治療方剤 3 甘草乾姜湯と類方 方剤構成生薬使用目標 応用 甘草乾姜湯 苓姜朮甘湯 * 人参湯 桂枝人参湯 甘草乾姜 4 2 甘草白朮乾姜茯苓 2 2 4 4 人参甘草乾姜白朮 3 3 3 3 桂枝甘草白朮人参乾姜 4 4 3 3 3 四肢冷肺痿吐涎沫多涎唾気管支喘息 水毒腰 下半身の冷え腰重尿自利 胃弱心下痞鞕下痢四肢冷喜唾胸痺 恊熱利表証を挿む慢性頭痛 附子理中湯人参湯 + 附子人参湯証で裏寒が強い甘草乾姜附子四逆湯四肢厥冷完穀下痢身体疼痛 四逆加人参湯 茯苓四逆湯 通脈四逆湯 4 3 甘草乾姜附子人参 4 3 甘草乾姜附子人参茯苓 4 3 甘草乾姜附子 四逆湯証 + 心下痞鞕脱水症状 四逆 ( 加人参 ) 湯証 + 煩躁裏の虚 寒 裏寒外熱手足厥逆全身倦怠脈 : 無力 4 6 注 1 * 甘草乾姜茯苓白朮湯 注 2 構成生薬の数字は原典中の構成比 グラムとしてほぼ 1 日常用量 N44 乾姜は甘草と組んで使われる 甘草と乾姜だけで使われる薬は 太陰辺りの薬であるが 甘草に対して乾姜の割合が増えてくる 更にぶしが加わってくると どんどん陰証に対する薬になっていく