婦人科で用いる薬剤の 使い方と注意点 独立行政法人国立病院機構 福岡東医療センター 婦人科医長内田聡子 2016 年 6 月 28 日
福岡東医療センターでの婦人科新設 小児期思春期性成熟期周閉経期老年期 性分化異常 月経異常 ( 無月経 過多月経 過少月経 過長月経 月経困難症 月経前症候群 ) 子宮筋腫 子宮内膜症 感染症 子宮腺筋症 子宮ポリープ 良性卵巣腫瘍 不妊症(IUI, ART) 更年期障害 骨盤臓器脱 婦人科救急( 異所性妊娠 卵巣茎捻転など )
下垂体ホルモン (mlu/ml) 40 30 20 10 0 卵胞刺激ホルモン (FSH) 正常月経の周期的変化 黄体化ホルモン (LH) (pg/ml) 黄体ホルモン (ng/ml) 卵巣 ( プロゲステロン ) 15 ホ200 卵胞ホルモン 10 ルモ100 ( エストロゲン ) ン 5 0 0-12 -8-4 0 +4 +8 +12 LHピークからの日数子宮内子宮内膜膜の変化月経増殖期分泌期月経 基礎体温表 37.0 36.0 月経卵胞期排卵期黄体期月経
無排卵周期症の治療 挙児希望あり : 不妊治療 挙児希望なし : 子宮内膜過形成や体癌発生の予防 骨量維持目的で性ステロイドホルモン剤を投与する Kaufmann 療法 エストロゲン ゲスターゲン 休薬消退出血 Pincus 療法 エストロゲンゲスターゲン 休薬 消退出血 Holmström 療法 ゲスターゲン 消退出血 卵胞ホルモン ( エストロゲン ) 黄体ホルモン ( プロゲステロン )
カウフマン療法の処方 プレマリン 1 錠 1x 25 日分 ( 毎月 1 日 ~25 日 ) プロベラ 2 錠 2x 12 日分 ( 毎月 14 日 ~25 日 ) プレマリン 1 錠 1x 25 日分 ( 月経の 5 日目から開始 ) プロベラ 2 錠 2x 12 日分 ( 月経の 18 日目から開始 ) プレマリン エストラーナ 1 枚 /2 日 13 枚 / 周期プロベラ デュファストン プレマリン 1 錠 1x 30 日分プロベラ 2 錠 2x 12 日分 ( 毎月 1 日 ~12 日 ) プレマリン 1 錠 1x 30 日分プロベラ 2 錠 2x 12 日分 ( 月経の 18 日目から 12 日間 )) Pincus 療法の処方 プラノバール 1 錠 1x 21 日 (7 日間休薬 ) OC/LEP 1 錠 1x 21(24) 日 (7(4) 日間休薬もしくはプラセボ ) ホルムストローム療法の処方 デュファストン 2 錠 2x 10 日間 ( 毎月 1 日 ~10 日 ) デュファストン 2 錠 2x 10 日間 ( 月経の 15 日目から開始 ) デュファストン 2 錠 2x 10 日間 (3 ヶ月月経がなければ )
OC:Oral Contraceptives 高用量ピル( エストロゲン >50μg) 中用量ピル( エストロゲン =50μg) 低用量ピル( エストロゲン <50μg) 超低用量ピル( エストロゲン <30μg) 21 錠型 7 日間の休薬が必要 次周期の開始を忘れやすい 28 錠型 ( プラセボ 7 錠 ) 第一世代ピル( プロゲストーゲン : ノルエチステロン ) オーソM-21 オーソ777-21 シンフェーズT28 第二世代ピル( プロゲストーゲン : レボノルゲストレル ) アンジュ21 アンジュ28 トリキュラー 21 トリキュラー 28 第三世代ピル( プロゲストーゲン : デソゲストレル ) マーベロン21 マーベロン28 一相性ピルオーソ M-21 マーベロン 21 マーベロン 28 二相性ピル 三相性ピルアンジュ 21 アンジュ 28 トリキュラー 21 トリキュラー 28 シンフェーズ T28
LEP:Low Dose Estrogen and Progestin ルナベルLD オーソM-21と同じものだが 保険適応あり 0.035mg EE + 1mg NET 一相性 21 錠 7 日休薬 ルナベルULD 0.020mg EE + 1mg NET 一相性 21 錠 7 日休薬 ヤーズ 0.020mg EE + 3mg DRSP 一相性 28 日 (4 錠偽薬 )
OC/LEP の効果 避妊効果は他の避妊法より高い 月経痛 ( 機能性 器質性月経困難症ともに ) を軽減させる 月経血量を軽減させる ドロスピレノン含有の OC/LEP は PMS や PMDD を改善するが本邦では適応外 子宮内膜症性疼痛を軽減する 子宮内膜症性嚢胞を縮小させる 子宮内膜症の術後の再発を予防する OC/LEP の副効用 卵巣癌のリスクを下げる 子宮体癌のリスクを下げる 内服中止後も効果が持続する 大腸癌のリスクを下げる 尋常性ざ瘡 ( ニキビ ) を改善させる
OC/LEP 服用の禁忌 (1) 1. 本剤の成分に対し過敏性素因のある女性 2. 乳癌の患者 3. 診断の確定していない異常性器出血のある患者 4. 血栓性静脈炎 肺塞栓症 脳血管障害 冠動脈疾患またはその既往のある患者 5. 35 歳以上で 1 日 15 本以上の喫煙者 6. 前兆 ( 閃輝暗点, 星型閃光等 ) を伴う片頭痛の患者 7. 肺高血圧症又は心房細動を合併する心臓弁膜症の患者, 亜急性細菌性心内膜炎の既往歴のある心臓弁膜症の患者 8. 血管病変を伴う糖尿病患者 ( 糖尿病性腎症, 糖尿病性網膜症等 ) 9. 血栓性素因のある患者 10. 抗リン脂質抗体症候群の患者
OC/LEP 服用の禁忌 (2) 11. 30 分以上の大手術では手術前 4 週以内, 術後 2 週以内 および長期間安静状態の患者 12. 重篤な肝障害のある患者 13. 肝腫瘍のある患者 14. 高血圧のある患者 ( 軽度の高血圧の患者を除く ) 症 ( 収縮期 160mmHg 以上または拡張期 100mmHg 以上 ) や血管病変を伴う高血圧症患者 15. 耳硬化症の患者 16. 妊娠中に黄疸, 持続性そう痒症または妊娠ヘルペスの既往歴のある患者 17. 妊娠または妊娠している可能性のある女性 18. 産褥 6 ヶ月未満の授乳婦 19. VTE のリスク因子の無い産褥 21 日未満の非授乳女性 20. 初経発来前の女性 21. 脂質代謝異常のある患者
OC/LEP 服用を中止すべき症状または状態 服用を中止すべき症状片側または両側の下肢 ( 特にふくらはぎ ) の痛みと浮腫胸痛 胸内苦悶 左腕 頸部等の激痛突然の激しい頭痛 持続性の頭痛 ( 片頭痛 ) 失神 片麻痺 疑われる疾患等深部静脈血栓症心筋梗塞 狭心症出血性 血栓性脳卒中 言語のもつれ 意識障害 頭痛 痙攣 悪心嘔吐 意識障害呼吸困難 ( 突然の息切れ ) 胸痛 喀血視野の消失 眼瞼下垂 二重視 乳頭浮腫黄疸の出現 掻痒感 疲労 食欲不振長期の悪心 嘔吐 脳静脈血栓症肺塞栓網膜動脈血栓症うっ滞性黄疸 肝障害ホルモン依存性副作用 消化器系疾患 原因不明の不正性器出血 肝臓の腫大 疼痛 性器癌 肝腫瘍
血栓症を疑う注意すべき自覚症状 ACHES A: abdominal pain 腹痛 C: chest pain 胸痛 H: headache 頭痛 E: eye disorder 視覚障害 S: severe leg pain ふくらはぎ痛
VTE 発症頻度 ( 年間 ) ACOG より 一般女性 OC/LEP 使用者妊婦褥婦 ( 産後 12 週間 ) 1-5/10,000 人 3-9/10,000 人 5-20/10,000 人 40-65/10,000 人 OC/LEP による死亡率 : 年間 1/100,000 以下これは転落事故 溺死 中毒 家庭内暴力による死亡と同程度 妊娠関連の死亡 : 年間 8/100,000
OC/LEP 服用に際しての注意事項 1. 投与開始 : 月経の 5 日目までに開始 2. 飲み忘れた場合の対処 (1) 1 錠の服用を忘れた場合 ( 直前の実薬服用から 24 時間以上 48 時間未満経過した場合 ) 避妊のために飲み忘れた錠剤をなるべく早く服用する残りの錠剤は予定通りに服用する 妊娠確率を最小化するために緊急避妊は通常必要ないが, シートの最初もしくは最後の錠剤を飲み忘れた場合には検討してもよい.
(2) 2 錠以上の服用を忘れた場合 ( 直前の実薬服用から 48 時間以上経過した場合 ) 避妊のために飲み忘れた錠剤のうち直近のものをなるべく早く服用する残りの錠剤は予定通りに服用する 7 錠以上連続して服用するまでコンドームを使用するか, 性交渉を避ける 妊娠確率を最小化するために 1) 第 1 週に飲み忘れた場合休薬期間または第 1 週に性交渉を行った場合には緊急避妊を検討する 2) 第 2 週に飲み忘れた場合直前 7 日間に連続して正しく服用した場合には緊急避妊は必要ない 3) 第 3 週に飲み忘れた場合休薬期間を設けず, 現在のシートの実薬を終了したらすぐに次のシートを始める.
3. 妊娠初期の人工妊娠中絶後 : 直後から開始 直前の妊娠 手術 OC 開始という 3 条件により VTE リスクは高まるが 妊娠初期の人工妊娠中絶手術後に排卵が再開するのは最短で 10 日 4. 分娩後 (1) 授乳婦は産後 6ヶ月以降に服用を開始 (2) 非授乳婦は, 他に VTE の危険因子が無い場合は産後 21 日以降に, 他に VTE の危険因子が有る場合は産後 42 日以降に, 服用を開始 5. 周術期 (1) 30 分を超える手術では, 少なくとも手術の 4 週間前から OC は中止 (2) 術後, 不動状態が解除されるまでは OC の再開を避ける 6. 性感染症 クラミジア頸管炎を除き 性感染症リスクの増加と関連はない
7. 消退出血がない場合 妊娠の有無を確認する 妊娠でなければそのまま継続 8. 嘔吐下痢があった場合 (1) OC 服用後 2 時間以内に嘔吐 下痢した場合, 速やかに再度服用する. (2) 24 時間以上続く嘔吐または重度の下痢が続く場合は, 一旦 OC 服用を中止し, 回復後の対処は, OC の飲み忘れた場合に準ずる 9. 不正出血が続く場合 (1) 原因不明の不正出血の場合, 妊娠や悪性疾患などの精査を行う (2) OC に起因する不正出血の場合, 出血量にかかわらず,OC 服用を継続 10. 年齢 OC /LEP は初経発来後から開始できる 40 歳以上の未閉経者では慎重投与とし, 閉経以降は投与しない. 喫煙者は原則,35 歳以上で OC 内服を不可とする.
ジエノゲスト療法 商品名 ディナゲスト錠 1mg 2 錠 2x 作用機序 子宮内膜組織にてアロマターゼ発現を低下させ 組織中のエストロゲン濃度を低下させる また細胞増殖を抑制し アポトーシスを誘導することにより内膜症の病変を縮小させる これらにより 子宮内膜症の進展抑制 疼痛の軽減 ジエノゲスト 子宮内膜症組織 アロマターゼ発現 組織中エストロゲン濃度 細胞増殖 アポトーシス誘導 病変縮小 子宮内膜症の進展抑制 疼痛の軽減
ジエノゲスト療法 効果 卵巣チョコレート嚢胞の縮小 疼痛 ( 下腹痛 腰痛 排便痛 性交痛 内診時の疼痛 ) の改善 ダグラス窩硬結の縮小術後の再発予防 副作用 不正出血 ( 出血なし~ 通常の月経より多い ) 芎帰膠艾湯で軽減する低エストロゲン症状 ( ほてり 頭痛 めまい 抑うつ ) 黄体ホルモン作用 ( 乳房緊満感 悪心 体重増加 ) デメリット 挙児希望時には使えない 将来の妊孕性にはプラスに働く費用が高い
排卵誘発 クロミフェン クエン酸塩 (CC) 商品名 クロミッド錠 50mg(CLMD) 作用機序 エストロゲンレセプターの阻害薬 FSHの分泌を促す 基本 月経の5 日目から50mg/ 日で5 日分 バリエーション 100mg/ 日 150mg/ 日 月経の3 日目から 3 日間 4 日間 5 日間 x2( 二段階投与 ) 副作用 卵巣過剰刺激症候群多胎補助薬 : 子宮内膜の菲薄化メトホルミン ( メトグルコ ) 頸管粘液の減少カベルゴリン ( カバサール ) テルグリド ( テルロン ) ナサニール点鼻薬
FSH 製剤の種類 一般名 作用 商品名 * FSH:LH 比 製薬会社 HMG 製剤 purefsh 製剤 FSH/LH 作用 主に FSH 作用 1HMG テイゾー 1:1 2HMG フェリング 1:1 フェリング あすか製薬 ( 旧帝国臓器製薬 ) 3ゴナドリール 1:1/2 持田製薬 4HMG F 1:1/3 富士製薬工業 5HMG コーワ ゴナピュール フォリルモン P 1:<0.05 1:<0.0053 あすか製薬 1:<0.0003 富士製薬 興和株式会社 HMG 日研 から名称変更 recfsh 製剤 FSH 作用 フォリスチム注 50 75 150 ( フォリトロピンベータ follitropin β FSH) フォリスチム注 300IU カートリッジ 600IU カートリッジ 1:0 ゴナールエフ ( フォリトロピンアルファ follitropin α FSH) 75IU 皮下注 450IUカートリッジ 900IUカートリッジ HCG 製剤 LH 作用 HCG 0:1 シェリング プラウ遺伝子組み換え型 メルクセローノ遺伝子組み換え型
体外受精時の子宮内膜のコントロール 凍結融解胚移植をホルモン補充周期で行う場合 <day3-5よりエストラーナ貼付を開始 > day3 エストラーナ2 枚 day5 エストラーナ2 枚 day7 エストラーナ2 枚 day9 エストラーナ4 枚 day11 エストラーナ6 枚 day13 エストラーナ8 枚通常はこの程度で子宮内膜厚 12mm 以上になる以後は適宜調整子宮内膜厚が8mm 以上になるまで
子宮内膜厚のコントロール 凍結融解胚移植をホルモン補充周期で行う場合子宮内膜が十分に厚くなったら 黄体ホルモン補充を開始 黄体ホルモン補充開始日もしくはその前日を排卵日と考える メリット : 排卵相当の日を調節できるので 病院や患者の都合に合わせて胚移植日を決定することができる
黄体ホルモン補充 エストラーナは 最高枚数の半量を2 日毎に貼り換え排卵相当日 (Day1) プロゲデポー 250mg 筋注腟坐剤 ( ルティナス2-3 錠 2-3x) を開始 ( デュファストン3 錠 3xを追加することもあり ) 1 週間後にプロゲデポー追加 約 2 週間後に妊娠判定 妊娠成立していれば 妊娠 8 週までは黄体ホルモン補充を継続 ( 場合によっては 12 週頃まで継続することあり )
一般不妊でよくある処方 タイミング指導時に 月 日ゴナトロピン5000 単位筋注 月 日タイミング デュファストン2 錠 2x 12 日分基礎体温が高温相になってから カバサール1 錠 1x 4 日分週 1 回内服 クロミッド1 錠 1x 5 日分月経の5 日目から * 患者さんは結構大変です
現在の HRT の考え方 更年期症状が強く その軽減を目的とする場合は 治療期間 1 年間が目安 以後は徐々に減量 継続的なエストロゲン補充による骨量維持等を目的とする場合は 5 年で見直し 早発閉経に対する EPT は 50 歳になった時点で見直し
HRT の投与方法 原則は低下したエストロゲンを補充子宮に対する副作用予防としてプロゲステロンを加える エストロゲン単独療法 同時連続併用法 周期的併用療法 逐次的併用療法 ( カウフマン療法 ) エストロゲン プロゲストーゲン
HRT で用いるエストロゲン製剤 剤形 成分名 薬剤名 経口剤 結合型エストロゲン プレマリン錠 0.625mg エストラジオール ジュリナ錠 0.5mg エストリオール エストリール錠 1mg ホーリン錠 1mg 貼付剤 エストラジオール エストラーナテープ0.72mg ケ ル製剤 エストラジオール ディビゲル1mg/ 包 腟剤 エストリオール エストリール腟錠ホーリン腟錠 注射剤 安息香酸エストラシ オール オバホルモン プロピオン酸エストラシ オール オバホルモンデポー 吉草酸エストラシ オール ポロギノンデポー ペラニンデポー
HRT で用いるフ ロケ ストーケ ン製剤 子宮内膜癌の発生を予防する目的で使用 天然型 注射剤カフ ロン酸ヒト ロキシフ ロケ ステロンフ ロヘ テ ホ ー フ ロケ ストーケ ン フ ロケ ステロン ルテウム 合成型酢酸メト ロキシフ ロケ ステロンフ ロヘ ラ ( 後発薬あり ) ヒスロン フ ロケ ストン シ ト ロケ ステロン 酢酸クロルマシ ノン テ ュファストン ルトラール
エストロゲン プロゲステロン配合剤 剤形 成分名 薬剤名 経口剤 エストラジオール ウェールナラ配合錠 +レボノルゲストレル 貼付剤エストラジオールメノエイドコンビパッチ + ノルエチステロン ( 週 2 回貼付 )
HRT の禁忌 重度の活動性肝疾患乳癌とその既往子宮内膜癌 低悪性度し空内膜間質肉腫原因不明の子宮出血妊娠疑い急性血栓性静脈炎 静脈血栓塞栓症とその既往心筋梗塞 冠動脈の動脈硬化性病変の既往脳卒中の既往
プライバシーについて 若い女性の患者さんが多い月経 生理という言葉を病院以外で口にする 耳にする不妊症であること婦人科を受診していることこれらを周囲に知られることが恥ずかしい患者さんが多い 目も耳も乏しい患者さんは少ない 大きな声は必要ない 処方箋を一緒に確認しながら このお薬の で十分