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2. 抗原抗体相互作用の物理化学的解析 1) 抗原抗体相互作用の親和性抗体が抗体と結合する際には その抗原と抗体のアミノ酸とのさまざまな非共有結合が形成される 1 つの抗原抗体結合の強さを抗体の親和性 特に固有の親和性 (intrinsic affinity) と呼ぶ それに対し 1 分子あたり複数の結合部位が存在する場合にみられる親和性をアビディティ (avidity) と呼ぶ 抗体は 2 つ以上の抗原結合部位を持っていることから 実際に測定される値はすべて後者となる 2) 抗原抗体相互作用の熱力学的解析抗体が抗原と結合する場合 さまざまな非共有結合が形成されるため 結合に際して熱が発生する この熱を解析することにより その抗体の特性を解析できる 一般に 抗原抗体相互作用を熱力学的に解析する場合は 等温滴定型熱量測定装置が利用される この装置は 抗体を満たしたセルを一定温度に維持し そこに抗原を滴下することで発生する熱量を観測するというものである 観測される熱量からは結合におけるエンタルピー変化が算出され その変化から平衡結合定数 (Ka ) が算出される 相互作用前後のギブスエネルギー変化と平衡結合定数は次式で関係づけられているため ギブスエネルギーが算出される ( 式 1) G = RT ln Ka (1) また 複合体形成のギブスエネルギーはエンタルピーとエントロピーの間のバランスとして 次式のように定義されるため 結合のエントロピー変化が算出できる ( 式 2) G = H T S (2) 一般的に負のエンタルピー変化はファンデルワールス力や水素結合 イオン性相互作用から生じることが知られており これらが親和性に positive な貢献をする場合は エンタルピー得 といわれる エントロピーの変化について考えると 結合により蛋 白質中の動いているセグメントや側鎖のコンフォメーショナルエントロピー 別々の分子の自由回転並進エントロピーは減少する これらは親和性には negative な貢献をするため エントロピー損 と呼ばれる 一方 分子表面あるいは周辺に存在していた秩序だった水分子について考えると 複合体形成により水と蛋白質との相互作用は抗原抗体相互作用による非共有結合形成にとって代わられ その結果 水分子は溶媒に放出される これによりエントロピーは増加し エネルギー的貢献を果たすことになる このような変化を エントロピー得 と呼ぶ このように相互作用の熱力学的パラメータを算出することにより その結合様式についての知見を得ることができる これまでの熱力学的解析の報告からは 抗原抗体相互作用の多くはエンタルピー駆動型 すなわち相互作用により獲得されたエンタルピー得がエントロピー損によって失われるような相互作用であることが示されている 3) 抗原抗体相互作用の速度論的な解析抗原抗体相互作用の速度論的解析には 一般に表面プラズモン共鳴法による解析が用いられる 相互作用する片方の分子をセンサーチップと呼ばれる金の薄膜が蒸着されたガラスに固定化し そこに他方の分子を添加した際に センサー表面で起こる特異的相互作用を微細な質量変化として測定する 観測された質量変化から 結合の強さのみならず 結合 解離の速度についての情報が得られる 溶液中で 分子 A と分子 B が相互作用して複合体 AB となる場合の反応は 以下の式で示される ( 式 3) A+B k on AB (3) k off ここで kon は結合速度定数 (association rate constant, 単位 :M s -1 ) koff は解離速度定数 (dissociation rate constant, 単位 :s -1 ) である 各分子の t 時間後における濃度を [A] [B] [AB] とすると 複合体の濃度変化率は式 (4) で表される Drug Delivery System 28 5, 2013 413

d[ AB] = kon[ A][ B] koff [ AB] (4) dt d [ AB] 平衡状態では結合速度とはゼロとなるため dt k k on off [ AB] = = Ka [ A][ B] (5) となる 表面プラズモン共鳴法では 実験データに 対して理論曲線をカーブフィッティングすること で 結合速度定数 (kon) と解離速度定数 (koff) を算出 し それらの比から平衡結合定数 (Ka ) が算出され る したがって 結合定数のみならず 結合と解離 の過程の寄与についてのより詳細な情報を得ること ができる 前述の熱力学的解析とは異なる情報が得 に通すと 抗原抗体複合体を形成していない抗体を捕捉できる 捕捉された抗体量の蛍光を測定することにより 複合体形成時の未反応抗体量を測定 その量から 理論曲線に基づき平衡定数を求める方法である ビーズに通す速度を変化させることで 速度論的な解析も可能となる 本手法は 特に抗原に対する高い親和性を有する抗体の解析に有効であり SPR 法と補完的な位置づけにある 事実 SPR では 解離速度定数が顕著に低い ( 抗原から解離しづらい ) 抗体に関する分析に関しては定量性が必ずしも十分でないのに対し KinExA 法はその原理から 抗原が解離しづらい抗体の分析に適している 抗体医薬品開発においては 解離速度定数が低い抗体をいかに選別するか が重要な課題の 1 つであり そのような観点でも大変有益な情報を与える られるため 相互作用の本質を理解するためには双 方を組み合わせることが好ましい 3. 抗体の分子認識機構 蛋白質とリガンドとの相互作用においては 結合 定数のきわめて高いものが見られるが ( 例えば ビオチン-アビジン間の相互作用は 10 15 M -1 ) 抗原抗体相互作用の速度論的な解析によれば 抗体の結合定数は 10 11 M -1 を超えない これは親和性の天井と呼ばれる 単量体の抗原と抗体の相互作用の最大結合速度定数は 10 7 M sec -1 程度であり その値はそれぞれの分子の拡散定数によって制御される 一方 解離速度定数については制限がほとんど存在せず 抗体の親和性には解離速度定数が変化することにより決定されている しかし 天然に存在する抗体の解離速度定数は一般に 10-3 ~10-6 s -1 程度であり 非常に遅い定数をもつ抗体分子は免疫系において選択されない 1) 抗体の構造抗体分子は大小 2 種類のポリペプチド鎖 (H 鎖と L 鎖 ) からなる分子である 骨格構造の違いにより IgM IgG IgA IgD IgE の 5 つのクラスに分類される いずれの抗体分子も クラスを問わず構成するすべてのドメインが immunoglobulin fold と呼ばれる 1 対のジスルフィド結合により安定化された およそ 100 アミノ酸残基からなる強固なβ バレル構造により形成されている 5 つのクラスのうち IgG は血清中に最も多く存在し 汎用的に用いられている 抗原との結合性は 可変領域 (Fv: fragment of variable region) と呼ばれる 分子量約 25k のドメインにより決定される ( 図 1a) 1~3) H 鎖 の可変領域は VH ドメイン L 鎖の可変領域は VL 4)KinExA(Kinetic Exclusion Assay) 速度論的排除法 (Kinetic Exclusion Assay KinExA ということが多い ) は 溶液中で行える測定法であること 二次蛍光レポーター分子を必要とする点で いままでの生物物理学的手法とは異なる KinExA 装置はフロー型の蛍光分光光度計である 測定したい試料溶液に蛍光標識抗体を混合し 標的分子と抗原抗体複合体を形成させ 平衡化する この溶液を 固定化した抗原を結合させてあるビーズ ドメインと呼ばれ これらはさらに相補性決定領域 (CDR:complementarity determining region) と呼ばれる 特に配列変化に富む 6 つのループ (VH, VL 各鎖 3 つずつ ) とそれらを連結する骨格領域 (FR:framework region) から構成される ( 図 1b) 6 個 ( 重鎖から 3 個 軽鎖から 3 個 ) の CDR が可変領域の一方に固まって存在し 抗原認識領域を構成している ( 図 1b) CDR ループの立体構造については カノニカル 414 Drug Delivery System 28 5, 2013

図 1(a) F v H 鎖 図 1(b) CDR V L V H V H VL L 鎖 CDR-L2 CDR-H3 CDR-H1 CDR-H2 C H1 C H1 C L CL F ab CDR-L1 CDR-L3 C H2 C H2 F C V L C H3 C H3 IgG V H 図 1 IgG の構造 (A)IgG の模式図 各々の四角が Ig フォールドを表す 灰色の線はサブユニット間のジスルフィド結合を表す (B)Fv 断片の構造 6 つの相補性決定領域 (CDR) を示してある 構造と呼ばれるごく限られた主鎖の構造しかとらないことが示されている 4,5) 抗体の抗原認識能は各々の CDR のコンフォメーションと 6 つの CDR の相対的な配置 そして CDR に存在するアミノ酸残基の側鎖の特徴によって決定されている 2) 抗原抗体相互作用の構造的特徴抗体は CDR により形成される立体構造により抗原を特異的に認識する 抗原と抗体との間には形状相補性 (shape complementarity) が成り立っている 6) CDR のアミノ酸配列を変化させることにより 低分子化合物から DNA やペプチド 可溶性蛋白質 ウイルス 細胞表面抗原といった巨大分子まで さまざまな分子を認識して結合する ドメインの基本構造を維持した状態で 結合特性を自在に変化させることができるのである さまざまな抗体の抗原認識機構が詳細に解析されている 低分子化合物の認識においては鍵と鍵穴のように CDR 領域に鍵穴が用意されており そこに抗原がぴったりとはまり込む形で認識されることが多い 我々は 平間らが全合成に成功した エーテル環がトランス縮合で連なった構造を持った毒素シガトキシンを特異的に認識する抗体について詳細な解析を進めたが 7,8) 基本的には鍵と鍵穴の認識様式であり 抗体のドメイ ンレベルでの構造変化によって高い親和性を創出していた また DNA やペプチドの認識においては 構造変化を伴う誘導結合型の認識 蛋白質の認識においては比較的平坦な面による認識が多い 9~11) このような観点から糖鎖認識を考えると 糖鎖に特異的に結合できる抗体の調製が難しいことがわかる 自己抗原に構造が類似している という生物学的な理由のみならず 化学構造の厳密な識別が 抗体が準備する高次構造においては難しく かつ後述の水和 脱水和によるエネルギー的な影響がきわめて大きいのである 相互作用界面には 多くのファンデルワールス相互作用 水素結合 イオン性相互作用 芳香族性相互作用が形成され 形状と電荷における相補性が存在する 6) 水分子が抗原 抗体間に入り アミノ酸残基だけでは創出が難しい形状相補性に重要な役割を担う場合も多い 12,13) 興味深いことに CDR に存在して分子認識に用いられるアミノ酸の種類には偏りがある 14) すなわち 20 種のアミノ酸のうち 芳香環では Tyr Trp それ以外としては Asn や Ser が CDR での出現頻度が高く 抗原認識に関与することが多い Tyr Trp については側鎖がかさ高く 疎水的相互作用やファンデルワールス相互作用をしやすいこと Drug Delivery System 28 5, 2013 415

に加え 水素結合や芳香族性の相互作用 (π-π 相互作用, カチオン-π 相互作用 ) も形成できるためと考えられる 3) 抗原抗体相互作用の熱測定 : モデル抗体を用いた分子認識機構解析蛋白質性抗原と抗体の相互作用は 蛋白質性のプロテアーゼ阻害剤の相互作用と合わせて 蛋白質間相互作用のモデルケースとしてもさまざまな観点から研究されてきた 12~14) 実際の官能基レベルでの議論には 構造情報に基づいた変異導入解析が必要不可欠である 熱力学的解析は相互作用によってやり取りされる熱量を測定することから 相互作用に関与する残基を特定して変異体を調製 熱量を測定することで各残基の熱力学的寄与について考察が可能となる さらに 変異抗体と抗原との複合体の構造解析を組み合わせることで 変異導入の効果を原子レベルで議論することが可能となる 15) 著者らは 抗ニワトリリゾチーム (HEL) 抗体 HyHEL 10 の可変領域と抗原との相互作用をモデルとして 抗体の分子認識機構の記述をめざしてきた 15) HEL 4)Tyr が果たす役割抗体は CDR のアミノ酸配列を変化させることにより抗原への特異性を獲得する 先に述べたように CDR に存在するアミノ酸の種類には偏りがあり 16) 特に Tyr の CDR での出現頻度が高く 抗原認識に関与する場合がきわめて多い そこで HyHEL 10 リゾチーム相互作用について 抗原認識に直接関与している 6 つの Tyr について Phe あるいは Ala に置換し Tyr の役割を検討した 相互作用の熱力学的解析結果を Table 1 に 複合体の結晶構造を図 2に示す 17,18) どの Tyr も変異導入によって親和性が減少した 得られた結果から Tyr は1 水酸基による相互作用に重要な水素結合の形成 2 芳香環によるファンデルワールス相互作用 3 NH π 相互作用 π π 相互作用形成 4 芳香環を用いた協同的抗原認識 を可能にすることが明らかとなった 変異導入効果は 基本的にはエンタルピー - エントロピー補償則 19~21) に従っていた この補償則から外れ 親和性に大きく寄与している部位が energetic hot-spot となっている また NH π 相互作用とπ π 相互作用が エントロピー損を最小限に抑えることで 親和性に大きく寄与していることが明らかとなった 芳香環と水酸基が持つ化学的な性質を巧みに利用して 多様な特異性と高い親和 Table 1 Thermodynamic parameters of the interactions between hen lysozyme and HyHEL-10 wild-type and mutated Fvs at 303K (Tyr mutants) 1) 図 2 V H H-Y53 H-Y33 H-Y50 H-Y58 L-Y96 L-Y50 V L 抗ニワトリリゾチーム抗体 HyHEL-10Fv の抗原認識に関与する Tyr 残基 これらの部位について 部位特異的に変異体を作製し 相互作用を熱力学的 構造学的に解析した mutants stoichiometry ΔG [kj mol -1 ] ΔH [kj mol -1 ] ΔS [kj mol -1 K -1 ] Wild-type 1.0-51.7-99.7-0.158 HY33F 1.1-45.6-73.2-0.091 HY50F 1.1-43.1-59.8-0.055 HY53F 1.0-47.2-84.4-0.123 HY53A 1.0-49.3-75.6-0.087 HY58F 1.0-48.5-85.3-0.121 HY58A 1.0-43.1-72.3-0.096 HY33A53A 1.1-36.4-60.2-0.079 LY50A 1.0-43.0-81.1-0.126 LY96F 1.0-46.8-94.6-0.158 HY33A, HY50A 2) N.D. 1)VP ITC を用いて決定した 2) 親和性クロマトグラフィーでは精製できなかった 416 Drug Delivery System 28 5, 2013

H-Lys97 H-Trp95 H-Tyr33 W15 H-Ala96 H-Asp101 H-Asp32 H-Asn94 図 3 HyHEL-10Fv とニワトリリゾチーム (HEL) との相互作用における塩橋の役割 変異導入箇所周辺を示してある VH 鎖 Asp96 への変異導入によって 界面に水分子が残り 水素結合を形成していることがわかる 性を与えることが可能となるわけである あらゆる抗体で芳香環が分子認識に用いられていることを考えれば ある特定の抗原に対する特異性は芳香環が適切に配置され 荷電残基の適切な配置から創出される相互作用表面の形状相補性から生じるといってよいのかもしれない Sidue らは CDR への無作為変異導入によって Asp Ser Tyr のみのアミノ酸で構成される CDR により 特異的な分子認識ができる可能性を報告しており 22, 23) 単に親和性が高いというだけでなく 高特異性創出の可能性がある点で興味深い 5) 塩結合 ( 塩橋 ) 静電的な相補性は 生体高分子の相互作用において不可欠である 24~26) 負電荷のアミノ酸側鎖と正電荷の側鎖の間に形成される静電的相互作用 ( 塩橋 塩結合と呼ぶ ) が蛋白質相互作用の特異性 親和性を支配している場合も多い 24~26) 抗原抗体相互作用の特異性 親和性においても塩橋形成の重要性が考えられる HyHEL 10Fv HEL 複合体間には HEL の Lys97 と HyHEL 10 の Asp32 Asp96 の間に 2 本の塩橋形成が観察されている そこで 塩結合を欠損させる変異を導入し 相互作用を熱力学的 に解析したところ 負のエンタルピー変化量 負の エントロピー変化量が大幅に上昇した (Table 2) これらの結果は 塩橋がエントロピー的な寄与 す なわち 塩橋形成によるエンタルピー得 エントロ ピー損よりも 脱水和によるエンタルピー損 エン トロピー得の寄与が大きく 結果として 相互作用 にはエントロピー的寄与を果たすことを示してい る 27) この結果の構造的根拠を明らかにするため 変異体 - 抗原複合体の結晶構造を解析した 全体構 造にはほとんど変化はなく 可変領域間相互作用の 変化があったこと そして置換を導入した箇所に水 分子が配位し 新たな水素結合が複数形成されてい た ( 図 3) 28) 中西らが明らかにした 抗原が結合し Table 2 Thermodynamic parameters of the interactions between hen lysozyme and HyHEL-10 wild-type and mutated Fvs at 303K (salt-bridge deleted mutants) 1) Mutants stoichiometry ΔG [kj mol -1 ] ΔH [kj mol -1 ] ΔS [kj mol -1 K -1 ] Wild-type 1.0-51.7-99.7-0.158 HD32A 1.0-46.4-112.9-0.219 HD96A 1.0-49.7-113.7-0.216 HD32AD96A ( 二重変異体 ) 1)OMEGA を用いて決定した 1.0-44.1-114.2-0.231 Drug Delivery System 28 5, 2013 417

ていない ( 抗原フリーの )HyHEL 10Fv の結晶構造においては この Asp96 に 温度因子 ( 構造安定性の尺度を示す ) の低い水和水が存在している ( 未発表 ) 抗原との結合により この水和水が解放されることになる すなわち 塩橋形成における水和水の解放によるエンタルピー損 ( 吸熱 ) とエントロピー得が 塩橋形成によるエンタルピー得 ( 発熱 ) とエントロピー損を上まわっているわけである 以上は この相互作用における塩橋の寄与がエントロピー損の減少であること 換言すれば 親水的環境下にある静電相互作用の寄与がエントロピー的であることを実験的に示したということになる 溶媒露出した塩結合の相互作用への寄与という観点からも 溶媒に露出したアミノ酸残基によって形成される塩結合がエントロピー的寄与を果たしている という知見には一般性がありそうである 29) 事実 リガンド設計においても水素結合や塩結合を形成しうる官能基の導入が結果として脱水和によるエンタルピー損を伴い 親和性向上を難しくしている例が多く報告されつつある 30) 最近の我々の IL 15 受容体の相互作用解析をみても 塩結合形成が相互作用に大きく貢献できるのは 塩橋形成に関与するアミノ酸残基が疎水環境下にあるものに限られている 31) 蛋白質の水和構造の本質的理解が重要である といえる 6) 水素結合 (Asn Ser の場合 ) 抗原抗体相互作用において形成される水素結合は 特異性を決定する要因の 1 つと考えられている 先に述べたように Tyr の中に 水酸基による水素結合がきわめて重要な貢献をしている部位が存在することがわかった 前述したように Asn Ser が Tyr に続いて CDR 中に存在する数の多いアミノ酸であり その側鎖の官能基は 相互作用界面においてしばしば水素結合を形成している そこで HyHEL 10Fv HEL 相互作用において Asn Ser が形成するアミノ酸残基同士の直接的な水素結合の役割を調べるため その側鎖が抗原と直接的な水素結合を形成する抗体残基の中で Asn については 軽鎖中の L Asn31 L Asn32 L Asn92 について Ser については重鎖中の H Ser31 H Ser54 H Ser56 について部位特異的変異導入を施した 前者 はそれぞれ Asp および Ala に 後者は Ala に置換した変異型抗体を作製し 水素結合欠損時の抗原との相互作用を 熱力学的測定および複合体の結晶構造により考察した 32) HyHEL 10Fv HEL 相互作用における すべての直接的な水素結合は いずれも好ましいエンタルピー的な寄与を行うこと そしてその寄与の大きさには強弱が存在していた L Asn31/Nδ2 および L Asn92/Nδ2 が抗原と形成する直接的水素結合は その欠損による結合定数の低下は小さく また 構造変化あるいは他の相互作用の獲得により相補可能なエネルギー的に 付加的な 水素結合である 一方 L Asn32/Nδ2 の形成する水素結合は 抗原抗体界面の構造を堅くする すなわち エントロピー的な不利性が非常に大きいものの それ以上の著しいエンタルピー的な有利性によって 抗原に対する親和性創出において決定的な役割を果たすこと そしてその欠損は構造変化あるいは他の相互作用の獲得によっては相補できないことが明らかになった また LN31A LN32A LN32D 変異体の解析結果より L Asn31 および L Asn32 が HEL HyHEL 10Fv 抗原抗体相互作用におけるパラトープ側の energetic hot spot であることも確認した 一方 Ser については エンタルピー -エントロピー補償により 見かけ上その親和性への寄与が少ないことがわかった これらの結果は 強い疎水的環境にあるようなアミド基 カルボニル基による静電的水素結合が非常に大きな寄与を果たすことを示唆している すなわち 強い疎水的環境下にある静電的相互作用を Asn 側鎖が形成できることから Tyr と並んでより頻繁に抗原認識に用いられていることが推察される 7) 単変異導入解析が明らかにした特徴さまざまな変異体を用いた解析から 蛋白質相互作用において特異性を支配するとされる部位である Hot Spot は そのアミノ酸残基が形成する非共有結合が親和性に大きく影響する部位 (energetic hot spot) と 構造形成に重要なアミノ酸残基 (structural hot spot) に分かれることが明らかとなった 15) 変異体を用いた相互作用の熱力学的ならびに構造的解 418 Drug Delivery System 28 5, 2013

析は 水和構造の変化をはじめ 有益な知見を多く 与えている 例えば energetic hot spot への変異 導入は 微小な変異導入であっても 界面の広範囲 にわたる大幅な構造変化がおき 場合によってはエ ンタルピー変化量を大幅に減少させてしまう これ は energetic hot spot において形成される非共有 結合は 界面の他の部位で形成される相互作用を誘 導する役割を果たすことを意味する 一方 相互 作用界面に存在する hot spot でないアミノ酸残基 への変異導入解析から これらは親和性向上にある 程度貢献するものの 置換には寛容であることがわ かった これは熱力学的にはエンタルピーエントロ ピー補償則によるものであり 構造的には水和水の 界面への導入による場合が多かった 相互作用界面 に存在する水和水のふるまいを如何に考慮できる 32) か 蛋白質相互作用の本質的理解に不可欠であるこ とはいうまでもない 誘導結合 (induced fitting) の 貢献そのものがエンタルピー的であったこと 33) も 構造の柔らかさそのものが高親和性には直接的には 貢献できないことを意味しており 特異性創出機構 の解明の関連で重要であろう 先に述べたように 糖鎖特異的抗体が 糖鎖の化学構造だけを識別する ことが容易でないのも 糖鎖の水和構造と柔らかさ 抗体が構築可能な相互作用界面の高次構造を鑑みれ ば納得できるであろう 4. 抗体の高親和性創出には抗原との相互作用界面だけでなく 抗体可変領域間 (VH-VL) 相互作用も重要である 変異抗体の選択を行い TEL に対して高い親和性を持つクローンを選択した 34) 2 つのリゾチーム間で構造の異なる領域の 1 つを認識している重鎖の相補性決定領域 2(CDR H2) に着目し 4 部位 (53 54 56 58 位 ) について変異を導入した 選択により得られた変異体はいずれも 58 位に Phe を有していた また それ以外の 3 カ所については コンセンサス配列はなかった 次に これらの変異体を用いて リゾチームとの相互作用を等温滴定型熱量測定により解析した 野生型に比べ 選択された変異体の TEL に対する結合定数は 3~4 倍上昇し HEL に対しては 1/30~1/7 に減少していた ( 図 4) K a /10 7 M -1 at 308K 30 20 10 0 53 54 56 58 WT Tyr Ser Ser Tyr SFSF Ser Phe Ser Phe AEAF Ala Glu Ala Phe ETKF Glu Thr Lys Phe Y58F Tyr Ser Ser Phe 生体が インフルエンザなどのある特定の抗原に対する抗体を準備していても その抗原への変異導入により 抗体の結合活性が失われる という例が多く知られている 抗原への変異導入に対して 抗体がどのようにして自身の抗原認識領域 ( パラトープ ) を変化させ 野生型と同じ領域 ( エピトープ ) を認識できるか について理解することは 抗体の抗原認識機構の記述においてもきわめて興味深い そこで HyHEL 10 について 親和性が低下する変異抗原のモデルとしてシチメンチョウリゾチーム (TEL) を用い ファージディスプレイ法を用いて変異導入個所に対して特異的分子認識能を創出する 図 4 ファージディスプレイにより選択された各変異体の HEL TEL に対する親和性 灰色 : 元の抗原 ( ニワトリリゾチーム,HEL) に対する親和性 黒 : 変異抗原 ( シチメンチョウリゾチーム,TEL) に対する親和性 図の下のアミノ酸は 53 54 56 58 位のアミノ酸残基を示す また すべての変異体で選択された Phe への変異のみで TEL に対する親和性の上昇は達成されていたものの HEL への親和性も低下しなかった 58 位以外の 3 カ所におけるアミノ酸残基により特異性変換が実現したこと また 興味深いことに親和性向上はいずれも負のエンタルピー変化量の上昇によることが明らかとなった 34) 親和性成熟前と後 Drug Delivery System 28 5, 2013 419

の抗体の抗原相互作用に関する熱力学的解析は 皿 井ら 古川らによって 抗ニトロフェノール (NP) 抗体で負のエンタルピー変化量の上昇に伴うもので あることが明確に示されており 35, 36) 人工変換によ り達成された親和性向上は これと一致するもので あった このような特異性変換機構を 得られた変異抗体 と抗原複合体について結晶構造解析を行うことで 原子レベルで記述した 37) この特異性変換は 標的 部位において相補性を改善するというわけではな く むしろ 抗体の抗原認識において貢献する各 CDR の微調整 VH VL 間相互作用の微調整 さら には抗原認識領域全体の微調整により創出されるこ とが示された 38) 蛋白質性抗原については 構造情 報に基づいて相補性そのものを改良しようと試みる 戦略も重要であるが 本研究結果から明らかになっ たように 特異性 親和性の調節が 相互作用界面 だけではなく 可変領域相互作用の微調整 38~40) によ り行われることを十分考慮する必要がある 可変領 域相互作用の重要性は後述の抗体のヒト化でも強調 されることになる 5. マウス抗体のヒト化 : 抗原認識面を別のフレームワークに移植する際も VH-VL 相互作用を制御することが特異性 親和性保持に重要である マウス抗体はヒトに対しては異物となることから マウス抗体をヒトへと投与した場合 異物と認識され 投与したマウス抗体に対するヒト抗体が産生されることによる副作用が懸念される そこで マウス抗体のヒト型化技術が開発されてきた これは マウス抗体の CDR をヒト抗体に移植 ( これをグラフティングと呼ぶ ) するというものである 英国 MRC の Riechmann らは グラフティングによるマウス抗体のヒト型化を試みた 41) ところ 単に CDR を移植しただけでは抗原結合活性がなく CDR の立体構造を維持するために必要と考えられるアミノ酸残基をさらに移植したところ 抗原結合活性が回復することが明らかとなった この結果は CDR グラフティングに CDR のループ構造を安定化するフレームワーク上のアミノ酸残基を組み合わせることが ヒト型化には重要であることを示してい る 中西らは マウス抗体のヒト型化が標的抗原に対する特異性あるいは親和性に与える影響を明らかにするために ニワトリリゾチーム抗体 HyHEL 10 をヒト型化し その抗原との相互作用を精査した 42) 骨格領域はもっとも相同性の高いヒト抗体由来配列を用い 6 つある CDR 配列をそのままグラフティングした デザインした抗体可変領域について その分子認識特性を解析した 等温滴定型熱量測定によれば ヒト型化によって 抗体の親和性は 10 倍低下していた しかしながら 相互作用により形成される非共有結合の数をおおよそ反映するエンタルピー変化の絶対量が上昇した (Table 3) Table 3 Thermodynamic parameters of the interactions between hen lysozyme and humanized, mutated humanized, and mouse HyHEL-10 Fvs(303 K) 1) Mutants stoichiometry ΔG [kj mol -1 ] ΔH [kj mol -1 ] ΔS [kj mol -1 K -1 ] humanized 1.0-45.2-103.8-0.193 HW47Y 1.0-51.6-106.7-0.181 HQ39K W47Y 1.0-52.9-97.9-0.148 mouse 1.0-51.7-99.7-0.158 1)VP ITC を用いて決定した これは ヒト型化によって 相互作用のエネルギー獲得に不利なエントロピー変化量が大きくなり 結果として親和性を低下させていることを意味する 相互作用界面に存在するアミノ酸残基はマウス抗体とヒト型化抗体ですべて同じなので 負のエンタルピー変化量が上昇していることは 相互作用時に形成される非共有結合に差があることを示唆する 不利なエントロピー変化量が大きくなる ということの要因として 水和構造の変化ならびに相互作用に伴う蛋白質高次構造の変化が考えられる 中西らは この抗体の可変領域間相互作用に着目した HyHEL 10 には VH VL 界面に特徴的なアミノ酸残基を 2 つ (Gln39,Trp47) 有している そこで まず Trp47 をマウス型の Tyr に変異させたところ エンタルピー変化量がヒト型化抗体とほぼ等しい状態で親和性が回復した 次に さらに Gln39 をマウ 420 Drug Delivery System 28 5, 2013

6.CDR 領域の構造を支える Vernier 残基の役割 図 5 V H ス型の Lys に変異させたところ 負のエントロピー 変化量が減少し 親和性が向上した 42) (Table 3) ヒト型化抗体 - 抗原 二重変異導入ヒト型化抗体 - 抗原複合体の結晶構造解析を行ったところ ( 図 5) 相互作用界面に形成される相互作用 それらに関与 するアミノ酸群はパラトープ エピトープともにほ とんど変わりがなく 唯一 変異を導入した VH VL 間相互作用に変化を生じていることが明らかと なった 42) 以上の結果は マウス抗体のヒト型化に おける特異性あるいは親和性の低下の原因の 1 つ が 可変領域間の相互作用にあることを示してお り マウス抗体のヒト型化においては 単に抗原と の相互作用界面を移植するだけでなく 抗体の抗原 認識様式そのものを正しく移植するために 骨格領 域における相互作用界面の微調整が重要であること を強く示唆している ヒト型化抗体の親和性 ある いは特異性をマウス抗体と同等のものにしていくう えで 6 つある CDR を適切な構造に置くこと そ して可変領域間相互作用を考慮することが重要であ る ということになる HEL V L ヒト型化抗体 - 抗原複合体と変異導入ヒト型化抗体 - 抗原複合体の構造比較 灰色 : ヒト型化抗 HyHEL-10 黒 :HQ39KW47Y 変異体 骨格領域中の CDR ループ構造を支えるアミノ酸 残基群は Vernier ゾーンと呼ばれる 43~45) ヒト型化 においてもこの Vernier ゾーンのアミノ酸残基が重 要であることが指摘されてきた 真壁らは この領 域が抗体の抗原に対する高特異性 親和性創出に果 たす役割を考察するために ヒト上皮成長因子受容 体 (EGFR) 特異的マウス抗体 528 の可変領域に着目 した まず 528Fv 領域にもっとも相同性の高い ヒト抗体可変領域の骨格領域を選び出し マウス抗 体 528 の CDR 領域を移植することでヒト型化 528 抗体を構築した 46) このヒト型化 528 抗体が持つ抗 原に対する親和性は マウス抗体 528 に比して 40 分の 1 程度に低下した 等温滴定型熱量測定によれ ば この親和性の低下は 相互作用に伴う負のエン タルピー変化量の大幅な減少に起因していた 抗原 認識に関与するすべての領域を移植しているにもか かわらず 負のエンタルピー変化量が減少している ことから 相互作用様式がヒト型化によって変化し ている可能性が考えられた ヒト型化抗体とマウス 抗体の結晶構造を解析したところ CDR ループ構 造も含め 顕著な構造の相違は見いだされなかった そこで両者で異なる Vernier ゾーンのアミノ酸残 基に着目した ( 図 6) VL 鎖の Vernier ゾーン残基 図 6 V L CDR-loops V H ヒト抗体とマウス抗体で異なる Vernier 残基 2 つの抗体で異なる Vernier 残基を CPK により示した Drug Delivery System 28 5, 2013 421

は全く同じであったことから VH 鎖で異なる残基に着目し ヒト型化抗体の Vernier ゾーン残基をマウス抗体のものに変異させたところ 以下が明らかとなった 1いくつかの部位あるいはその組み合わせによって エンタルピー変化量はマウス抗体と同等の値に回復していた また このような変化の見られない部位 組み合わせも存在した 2 親和性はヒト型化抗体に比して 4 倍程度の上昇に留まっていた また 蛋白質水和構造の変化の指標となる定圧モル比熱変化量の絶対値が大幅に上昇していた 3 親和性の上昇を阻んでいるのは 他の相互作用と同様に エンタルピー -エントロピー補償に起因していた 4エントロピー変化が不利に働く要因として コンフォメーショナルエントロピーの減少が示唆された これらの結果から Vernier ゾーン残基は 抗原抗体相互作用において エンタルピー的寄与 すなわち 相互作用形成を促進させる方向には向かわせる貢献を果たしているものの コンフォメーショナルなエントロピー損失を招く 例えば その貢献は構造変化 あるいは水和水の固定などの効果 によって補償されてしまうことになる CDR とその周辺構造を抗原認識のための最適な状態に固定することの難しさを改めて浮き彫りにする結果となっている 7. おわりに本稿では 抗体開発における相互作用解析について概説したのち 我々の研究結果を中心に 構造 物性解析から明らかにした標的抗原に対して抗体が特異性 親和性を創出する仕組みを述べた 蛋白質工学という概念が 1983 年に提唱された際に そのモデルとして最適な分子として抗体が挙げられている 47) 創薬研究や生命科学研究における分子認識素子としての重要性は増すばかりである 構造解析と物性解析のクロストークから 相互作用の機構解明だけでなく 分子デザインの指針が示されつつある 抗体の自在な改良 改変がいよいよ現実的な課題になってきているといえる 文献 1)Colman, P.M. (1988)Adv. Immunol. 43, 99 2)Braden, B.C. & Poljak, R.J. (1995)FASEB J. 9, 9 3)Davies, D.R. & Cohen, G.H. (1996)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 7 4)Chothia, C. Lesk, A.M., Tramontano, A., Levitt, M., Smith- Gill, S.J., Air, G., Sheriff, S., Padlan, E.A., Davies, D., Tulip, W.R. et al. (1989)Nature 342, 877 5)Shirai, H. Nakajima, N., Higo, J., Kidera, A., & Nakamura, H. (1998)J Mol Biol. 278, 481 6)Padlan, E.A. (1996)Adv. Protein Chem., 49, 57 7)Tsumoto K, Yokota A, Tanaka Y, Ui M, Tsumuraya T, Fujii I, Kumagai I, Nagumo Y, Oguri H, Inoue M, Hirama M (2008). J Biol Chem. 283, 12259 8)Ui M, Tanaka Y, Tsumuraya T, Fujii I, Inoue M, Hirama M, Tsumoto K. (2008)J Biol Chem. 283, 19440 9)Schultz, P.G., Yin, J., & Lerner, R.A. (2002)Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 41, 4427 10)Bhat, T.N., Bentley, G.A., Boulot, G., Greene, M.I., Tello, D., Dall'Acqua, W., Souchon, H., Schwarz, F.P., Mariuzza, R.A., & Poljak, R.J. (1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 1089 11)Ladbury, J. E. (1996)Chem. Biol. 3, 973 12)Janin, J. & Chothia, C. (1990)J. Biol. Chem. 265, 16027 13)Lo Conte, L., Chothia, C., & Janin, J. (1999)J. Mol. Biol. 285, 2177 14)Bogan, A.A., & Thorn, K.S. (1998)J. Mol. Biol. 280, 1 15) 津本浩平 (2006) 生化学 78,93 16)Mian, I.S., Bradwell, A.R., & Olson, A.J. (1991)J. Mol. Biol. 217, 133 17)Tsumoto, K., Ogasahara, K., Ueda, Y., Watanabe, K., Yutani, K., & Kumagai, I. (1995)J. Biol. Chem. 270, 18551 18)Shiroishi M, Tsumoto K, Tanaka Y, Yokota A, Nakanishi T, Kondo H, Kumagai I (2007)J. Biol. Chem. 282, 6783 19)Dunitz, J.D. (1995)Chem Biol. 2, 709 20)Hunter, C.A., & Tomas, S. (2003)Chem. Biol. 10, 1023 21)Sharp, K. (2001)Protein Sci. 10, 661 22)Fellouse, F.A., Wiesmann, C., & Sidhu, S.S. (2004)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 12467 23)Fellouse, F.A., Li, B., Compaan, D.M., Peden, A.A., Hymowitz, S.G., & Sidhu, S.S. (2005)J. Mol. Biol. 348, 1153 24)Novotny, J. & Sharp, K. (1992)Prog Biophys Mol Biol. 58, 203 25)Kumar, S. & Nussinov, R. (2002)ChemBioChem 3, 604 26)Sinha, N., & Smith-Gill S.J. (2002)Curr Protein Pept Sci. 3, 601 27)Tsumoto, K., Ogasahara, K., Ueda, Y., Watanabe, K., Yutani, K., & Kumagai, I. (1996)J. Biol. Chem. 271, 32612 28)Shiroishi, M., Yokota, A., Tsumoto, K., Kondo, H., Nishimiya, Y., Horii, K., Matsushima, M., Ogasahara, K., Yutani, K., & Kumagai, I. (2001)J. Biol. Chem. 276, 23042 29)Shiroishi, M., Kuroki, K., Tsumoto, K., Yokota, A., Sasaki, T., Amano, K., Shimojima, T., Shirakihara, Y., Rasubala, L., van der Merwe, P.A., Kumagai, I., Kohda, D., & Maenaka, K. (2006)J. Mol. Biol. 355, 237 30)Velazquez-Campoy, A., Todd, M.J. and Freire, E. (2000) Biochemistry 39, 2201 31)Sakamoto S, Caaveiro JM, Sano E, Tanaka Y, Kudou M, Tsumoto K. (2009)J. Mol. Biol. in press. 32)Yokota, A., Tsumoto, K., Shiroishi, M., Kondo, H., & Kumagai, I. (2003)J. Biol. Chem. 278, 5410 422 Drug Delivery System 28 5, 2013

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