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健康セミナー 関節リウマチについて 平成 25 年 3 月 16 日 NTT 東日本札幌病院リウマチ膠原病内科笠原英樹

関節リウマチ (RA) とは 概念多発性関節炎を主徴とする原因不明の慢性炎症性患である病変の主座は関節滑膜であるが 進行すれば軟骨 骨を侵し 関節組織の破壊や変形へと至る 疫学人口比 0.5-1%(100-200 人に 1 人 ) 女性に好発し 男女比は 1:3~5 好発年齢は 30~50 歳

関節リウマチの症状 朝の安静時に手が握りにくい 左右の多関節に痛み 腫れ 熱感がある 第 2,3 関節手関節 足趾足関節

RA 患者の関節の変化 罹病期間 1.5 年罹病期間 12.5 年罹病期間 21 年

関節リウマチ 変形性関節症 原因 関節の好発部位 滑膜に炎症 ( 自己免疫反応 ) 関節軟骨がすり減って起こる 機械の油ぎれ 痛みの性質 朝に強い傾向何もしなくてもジンジンと痛む 関節に負荷がかかったときや動かした時に痛みが出やすい 腫れ方 関節の周りがゴムまりのように触ると少し柔らかく腫れている ( 炎症を起こした滑膜が腫れて 水が溜まることもある ) 皮膚の下の骨が触り とても固い ( 骨自体の変形のため )

関節リウマチの炎症は RAは滑膜炎が起きている滑膜で起きている 1 2 1 骨 軟骨に浸食したパンヌス 2 増殖した滑膜絨毛 3 弛緩した靱帯 4 関節の変形 5 肥厚 弛緩した関節包 6 肥厚した滑膜 3 4 5 6 7 7 骨びらん 嚢胞 萎縮 腱の断裂痛み 変形機能障害

免疫ってどんなもの? 免疫とは 細菌やウィルス がん細胞などから自分の体を守るシステムのことです 本来は 自分自身を攻撃しないような仕組みがあります 免疫のシステムが 間違って 自分自身を敵と見なして攻撃してしまうことを 自己免疫反応と呼びます 関節リウマチは 自分の滑膜組織に自己免疫反応を起こしその炎症で 関節が腫れて 骨が破壊される病気です

自然免疫 顆粒球 マクロファージナチュラル ( 偵察部隊 ) キラー細胞 貪食 異物発見 免疫のしくみ ( 自然免疫と獲得免疫 ) 攻撃 貪食 病原体の発見と初期攻撃 抗原 ( 細菌 ウィルス がん細胞など ) 樹状細胞 ( 伝令係 ) 敵の情報 病原体への集中攻撃 ヘルパー T 細胞 ( 司令官 ) キラー T 細胞 ( 特殊部隊 ) 抗体 ( ミサイル攻撃 ) 獲得免疫 攻撃命令 B 細胞 この目印を持った を攻撃せよ 形質細胞 ( ミサイル部

遺伝因子 ;20-30% HLA-DRB1*0405( 日本人 ) *0401,*0101,*0404 PADI4 など 環境因子 ;70-80% 喫煙 腸内細菌 歯周病 関節リウマチの発症機序とは? 樹状細胞 ( 伝令係 ) 自己と類似した異物 菌体成分 DNA シトルリン化蛋白の産生 抗 CCP 抗体産生 ヘルパー T 細胞 ( 司令官 ) キラー T 細胞 ( 特殊部隊 ) 自己免疫 攻撃命令 B 細胞 ウィルス感染 細菌感染シリカ 化学物質 性ホルモン ( エストロゲン ) 自己抗体産生リウマチ因子 (RF) 抗 CCP 抗体形質細胞 ( ミサイル部

遺伝因子 ;20-30% HLA-DRB1*0405( 日本人 ) *0401,*0101,*0404 PADI4 など 関節リウマチの発症機序とは? 自己免疫 環境因子 ;70-80% 歯周病 自分自身の体を攻撃 = 自己免疫疾患 ヘルパー T 細胞 ( 司令官 ) 攻撃命令 喫煙 腸内細菌 キラー T 細胞 ( 特殊部隊 ) B 細胞 ウィルス感染シリカ 性ホルモン ( エストロゲン ) シトルリン化蛋白の産生 自己抗体産生リウマチ因子 (RF) 抗 CCP 抗体形質細胞 ( ミサイル部

関節リウマチと歯周病 関節リウマチ患者さんでは歯周病の方が多い 歯周病の病原体に対する血清抗体価の上昇 歯周病治療で関節リウマチの活動性が改善する 歯周病菌の中の Porphyromonas gingivalis は シトルリン化酵素である peptidylarginine deiminase(pad) を発現し 抗 CCP 抗体の対応抗原の 1 つであるヒトの α-enolase を シトルリン化する

遺伝的要因と喫煙による RA の発症リスク 遺伝的素因がある抗 CCP 抗体陽性者が喫煙をすると RA になる確率は 20 倍以上 ACPA(+) 患者 ACPA(-) 患者 SE(+) SE(-) 喫煙 (-) 喫煙 (+) SE(+);HLA-DRB1 の shared epitope を持つ人 SE(+) SE(-) 喫煙 (-) 喫煙 (+) Arthritis research and therapy,2012, 14,R19

(Arthritis Rheum 50,380-386,2004)

サイトカインとは サイトカインとは 免疫システムの細胞から分泌される蛋白質で 特定の細胞に情報を伝えるものをいう 関節リウマチで重要な役割を果たすサイトカインは IL-1,IL-6,TNF-α などがあります TNF-α TNF-α 攻撃命令 IL-6 IL-6

関節リウマチ症状の発生機序 樹状細胞 ( 伝令係 ) IL-6 ヘルパー T 細胞 ( 司令官 ) TNF-α INF-γ IL-2 RANKL B 細胞 マクロファージ IL-6 TNF-α IL-1 IL-6 MMP3 RANKL RANK 破骨細胞 軟骨細胞軟骨破壊関節裂隙狭小化 滑膜線維芽細胞 関節の腫れ 疼痛関節の炎症 骨 骨吸収骨破壊

サイトカインと全身への影響 肝臓 血管 アミロイドーシス CRP,SAA 上昇 脂肪細胞 TNF-α, IL-6 IL-6 TNF-α, IL-6 免疫複合体 TNF-α IL-6, IL-1 動脈硬化 脳 心筋梗塞 糖尿病の悪化 筋肉 TNF-α, IL-1 インスリン抵抗性 骨 骨粗鬆症 TNF-α, RANKL Dkk-1 抑鬱状態発熱 骨折

閉経後の女性の骨粗鬆症の有病率 閉経後女性 1127 例 閉経後女性 RA 患者 524 例 524 例のうちステロイド投与の使用歴がない患者

RA 患者の生命予後 1.0 平均 10 歳寿命が短い 0.8 生存確率 0.6 0.4 N=886 米国女性 米国男性 0.2 RA 女性 RA 男性 0 0 5 10 15 20 25 登録後年数 Wolfe F et al, Arthritis Reum 1994;37:481

関節リウマチの診断は どのようにして行われるのか? 血液検査画像検査分類基準活動性の評価

血液検査 検査名正常値特徴上昇する疾患 リウマトイド因子 (RF) 15Iu/ml> 変性したヒト免疫グロブリン (IgG) に対する自己抗体 関節リウマチ患者の約 70% で陽性になる 数値が高いほど重症の傾向あり 関節リウマチ シェーグレン症候群 SLE 血管炎 肝炎 健常人にも数 % の方で陽性例あり 抗シトルリン化ペプチド抗体 ( 抗 CCP 抗体 ) 炎症反応 赤沈 (ESR) 4.5U/ml> 女性 20mm/h> 男性 10mm/h> RF に比べ発症早期から陽性になる 陽性の場合 将来関節リウマチを発症するリスクになる高値では関節破壊が進みやすい 試験管の中で 1 時間に赤血球が沈下する速度により炎症反応をみる検査です CRP 0.1mg/dL> 体内に炎症や組織破壊があるとき に上昇します IL-6の上昇が肝臓 へ働きCRPが産生されます 関節リウマチ (SLE) 感染症 貧血 関節リウマチなど炎症をきたす様々な疾患 感染症や関節リウマチなど炎症を来す様々な疾患 マトリックスメタロプロテアーゼ -3 (MMP-3) 女性 59.4> 男性 121>ng/ml 滑膜細胞から分泌される蛋白分解酵素で 軟骨などを溶かし 骨破壊の進みやすさと関連する 関節リウマチを含み 滑膜に炎症を来す疾患

関節リウマチの診断基準 (ACR1987 年 ) 1. 少なくとも 1 時間以上持続する朝のこわばり (6 週以上持続 ) 2.3 個以上の関節の腫脹 (6 週以上持続 ) 3. 手関節 中手指節関節 近位指節関節の腫脹 (6 週以上持続 ) 4. 対称性関節腫脹 (6 週以上持続 ) 5. 手 指の X 線の変化 6. 皮下結節 ( リウマトイド結節 ) 7. リウマトイド因子陽性 以上 7 項目中 4 項目以上を満たすものを RA と診断する

RA 発症後の関節破壊の進行度 100 関 80 節破壊 60 (%) 40 20 Window of Oppotunity 早期診断 早期治療が大切 進行が最も早い 実際の変化 従来の予測 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 発症後経過年数

関節リウマチの関節破壊の進行 進行の早い人 関節破壊進行 治療スタート 診断時の骨びらんの数 診断時に骨びらんが多数あるほど その人は関節破壊の進行が早い 進行の遅い人 0 1 2 3 4 5 6 7 8 発症後経時年数 関節破壊の進行の早い人ほど 早期にきちんとした治療が必要

関節破壊進行 関節リウマチの関節破壊の進行 進行の早い人治療スタート 0 1 2 3 4 5 6 7 8 発症後経時年数 進行の遅い人 治療の遅れは 関節破壊の進行につながるためより早期の診断と治療が必要です

RA の早期診断はなぜ必要か? RA は治療は早期ほど効きやすい 活動性が高い状態が続くと 関節破壊の進行や生命予後の悪化を招く 治療薬の進歩により 早期治療で寛解になる可能性が出てきている 関節炎で受診した様々な患者さんから RA を早く診断し 治療を導入することが求められている

ACR/EULAR 関節リウマチ分類基準 2010 腫脹または圧痛のある関節数 大関節 1 か所 0 大関節の 2~10 か所 1 小関節の 1~3 か所 2 小関節の 4~10 か所 3 最低 1 つの小関節を含む 11 か所以上 5 血清反応 RF 抗 CCP 抗体の両方が陰性 0 RF 抗 CCP 抗体のいずれかが低値陽性 2 RF 抗 CCP 抗体のいずれかが高値陽性 3 罹病期間 6 週未満 0 6 週以上 1 炎症反応 CRP ESR の両方が正常 0 CRP もしくは ESR のいずれかが異常高値 1 1 つ以上の腫脹関節 関節炎の原因となる他疾患除外 新分類基準での検討 小関節 :MCP, PIP,1stIP,2-5 MTP, 手首 大関節 : 肩 肘 膝 股 足首 OA との鑑別のため DIP 1stCMC 1stMTP は除外する 最低 1 つの小関節を含む 11 関節以上には顎関節 肩鎖関節 胸鎖関節など含めることができる 血清反応 低値陽性 : 正常上限から正常上限の 3 倍高値陽性 : 正常上限の 3 倍以上 罹病期間 評価時に腫脹 圧痛関節のうち 患者申告する罹病期間 炎症反応 陽性基準は施設毎の正常値を超える場合 6 点以上で RA と分類

早期関節リウマチ鑑別診断リスト日本リウマチ学会 HP より 鑑別難易度 高 中 低 鑑別診断 1. ウイルス感染に伴う関節炎 ( パルボウイルス 風疹ウイルスなど ) 2. 全身性結合組織病 ( シェーグレン症候群 全身性エリテマトーデス 混合性結合組織病 皮膚筋炎 多発性筋炎 強皮症 ) 3. リウマチ性多発筋痛症 4. 乾癬性関節炎 1. 変形性関節症 2. 関節周囲の疾患 ( 腱鞘炎 腱付着部炎 肩関節周囲炎 滑液包炎など ) 3. 結晶誘発性関節炎 ( 痛風 偽痛風など ) 4. 血清反応陰性脊椎関節炎 ( 反応性関節炎 掌蹠膿疱症性骨関節炎 強直性脊椎炎 炎症性腸疾患関連関節炎 ) 5. 全身性結合組織病 ( ベーチェット病 血管炎症候群 成人スチル病 結節性紅斑 ) 6. その他のリウマチ性疾患 ( 回帰リウマチ サルコイドーシス RS3PE など ) 7. その他の疾患 ( 更年期障害 線維筋痛症 ) 1. 感染に伴う関節炎 ( 細菌性関節炎 結核性関節炎など ) 2. 全身性結合組織病 ( リウマチ熱 再発性多発軟骨炎など ) 3. 悪性腫瘍 ( 腫瘍随伴症候群 ) 4. その他の疾患 ( アミロイドーシス 感染性心内膜炎 複合性局所疼痛症候群など )

関節エコー検査

関節エコー検査 正常 関節炎 靱帯関節包 骨びらん 滑膜肥厚 カラードップラー法 ( 血流シグナル )

関節エコー検査 関節炎の強さ 低い 将来の骨破壊の進行 高い 関節破壊の可能性は低い パワードップラー Grade2 = 関節破壊のリスクがある

パワードップラー関節エコーの特徴 1. 炎症による病的な血管新生の促進により健常者では検出されない血流シグナルを捉えている 2. リアルタイムで注目する関節腔内の炎症状態を観察 把握することが可能 3. 診断および治療の補助として有用 4. 炎症マ - カ -(CRP,ESR) が陰性でも疼痛や腫脹などの臨床所見とともに血流シグナルが検出される例も多く 5. 診察だけではわからない関節内の変化をいち早く捉えることができ早期診断に有益である

関節リウマチの診断 Yes N=26 2010 年 RA 分類基準 No N=43 RA と分類 N=26 最終診断 RA 22 例 非 RA 4 例 感度 97.3 % 特異度 87.5 % 陽性予測値 90.0 % 陰性予測値 96.6 % 正確度 92.8 % PD グレード 2 or 3 の血流シグナルを有する滑膜炎 Yes RA と分類 N=14 最終診断 RA 14 例 非 RA 0 例 No 非 RA と分類 N=29 最終診断 RA 1 例 非 RA 28 例 Kawashiri SY et.al. Mod Rheumatol 2012

DAS28 による 疾患活動性のチェック 医師による関節の評価 患者さんご自身による全般評価 血液検査 医師が患者さんの 28 関節を触診して 圧痛関節数 腫脹関節数を調べます 目盛りのついたスケール (VAS) を使って 自分の体調や全身状態を評価いただきます 血液検査で 炎症の程度を調べます (ESR または CRP) これらの評価を総合して算出します 4)-3

疾患活動性の評価 指標 SDAI CDAI DAS28 Boolean 圧痛関節数 (0~28) 1 腫脹関節痛 (0~28) 1 患者による全般評価 (0-10) (0-100) 1 医師による全般評価 (0-10) CRP ( 1) ESR 高疾患活動性 >26 >22 5.1 - 中疾患活動性 26 以下 22 以下 5.1>,>3.2 - 低疾患活動性 11 以下 10 以下 3.2 - 臨床的寛解 3.3 以下 2.8 以下 2.6> 上記全て SDAI=Simplified Disease Activity Index, CDAI=Clinical Disease Activity Index

DAS28 SDAI CDAI の評価 高疾患活動性中疾患活動性低疾患活動性 10 3 4 1 2 1 ESR 60 mm/hr ESR 40 mm/hr CRP 3.24 mg/dl CRP 1.20 mg/dl 患者 VAS 60 mm 患者 VAS 40 mm 医師 VAS 65 mm 医師 VAS 55 mm DAS28(ESR4) 5.96 SDAI=10+3+6+6.5=25.5 DAS28(ESR4) 4.54 SDAI=4+1+1.2+4+5.5=15.7 CDAI=10+3+3.24+6+6.5=28.74 CDAI=4+1+4+5.5=14.5 ESR 20 mm/hr CRP 0.34 mg/dl 患者 VAS 10 mm 医師 VAS 20 mm DAS28(ESR4) 3.03 SDAI=2+1+0.34+1+2=6.34 CDAI=2+1+1+2=6.0

ACR/EULAR 新寛解基準の定義 日常診療における寛解 Boolean による定義 腫脹関節数 圧痛関節数 患者による全般評価の全てが 1 以下を満たす 疾患活動性指標による定義 CDAI 2.8 臨床試験における寛解 Boolean による定義 腫脹関節数 圧痛関節数 患者による全般評価 CRP の全てが 1 以下 疾患活動性指標による定義 SDAI 3.3

リウマチの治療 治療薬について治療目標について治療の効果判定法

関節リウマチ治療の進歩 1950 年代以前痛み止めしかなかった 1980 年代後半効果的な抗リウマチ薬の登場 1987 年 ACR の RA 診断基準 1990 年代前半抗リウマチ薬の早期治療の必要性の認識が高まるしかし この時代は MTX 導入まで平均 5 年 ( 米国 ) 経過 1995 年 RA の活動性評価の指標 (DAS28) が考案 1998 年抗 TNFα 阻害剤 ( エタネルセプト インフリキシマブ ) の登場 2000 年寛解が現実的な目標に 2002 年第 46 回日本リウマチ学会総会で RA の名称が 慢性関節リウマチ から 関節リウマチ へ変更された アメリカリウマチ学会が治療ガイドライン作成発症 3 か月以内に抗リウマチ薬を使用することを推奨 MTX 無効例には抗 TNFα 製剤の導入

関節リウマチ治療の進歩 日本 EULAR/ACR 1998 年 ETN,IFX 米国で承認 1999 年 MTX 承認 2000 年 ETN 欧州で承認 2001 年 2002 年 ACRのRA 治療のガイドライン ADA 承認 2003 年 IFX 承認 2005 年 ETN,TAC 承認 2008 年 TCZ,ADA 承認 ACR nonbio/bio recommendation 疾患活動性が高ければMTX+Bio 2009 年 RA 新分類基準 Treat to Target (T2T), TCZ 承認 2010 年 ABT 承認 RA 新寛解基準 (Boolean) EULAR nonbio/bio recommendation 2011 年 MTX 増量,GLM 承認 2012 年 ACR nonbio/bio recommendation 2013 年 CZP 承認 Jack 阻害薬承認

T2T Recommendation の治療アルゴリズム 疾患活動性に応じて治療方針を決定する 症状悪化の場合は治療方針を見直す 活動性 RA 主要な治療目標 寛解 寛解の維持 1~3 ヶ月ごとに総合的疾患活動性指標を用いて評価する 3~6 ヶ月ごとに疾患活動性を評価する 代表的な治療目標 低疾患活動性 低疾患活動性の維持 疾患活動性に応じて治療方針を決定する 症状悪化の場合は治療方針を見直す (Ann Rheum Dis 2010;69:631-637 より引用し T2T Japan Steering Committee が日本語版作成 )

リウマチの治療の 4 本柱 基本療法 ; 患者さんが病気を理解し 日常生活を工夫する 関節への負担を減らす 薬物療法 ; 早期に診断し 早期に抗リウマチ薬を開始する 手術療法 ; 滑膜切除術 人工関節置換術 関節固定術など リハビリテーション療法 ; 関節の変形や拘縮 筋力低下の予防に重要

非ステロイド制炎症鎮痛薬 (NSAIDs) 痛みを抑える 腫れを抑える 関節が壊れるのを 抑える 効果が現れるまでの時間 0.5-1 時間 即効性があり 関節の痛みが軽快します 他の治療で痛みが無くなれば 中止することが可能です 免疫の異常を調節する作用はありません 主な副作用 胃潰瘍 腎障害など

ステロイド薬 痛みを抑える 腫れを抑える 関節が壊れるの を抑える 効果が現れるまでの時間 数日 炎症を強力に抑える薬です 腫れと痛みが軽快します 発症早期の炎症を早く抑えることで 将来の関節破壊の抑制効果も期待できます 間質性肺炎や血管炎などステロイドが有効な合併症の治療 妊娠中も安全に使用可能です 主な副作用 高血糖 高血圧 糖尿病 高脂血症 緑内障 胃潰瘍長期使用で問題となる副作用 ; 骨粗鬆症 動脈硬化 感染症

メトトレキサート (MTX) 痛みを抑える 腫れを抑える 関節が壊れるの を抑える 効果が現れるまでの時間 2-8 週間 関節リウマチ治療の世界的な標準薬 免疫を抑制して炎症を鎮め 関節が壊れるのを抑える効果もあります 高い効果がみられることから 第一選択薬の DMARDs となっています 重症な腎障害や間質性肺炎がある方や妊娠中は使えない 主な副作用 口内炎 吐き気 肝機能障害 血球減少 脱毛などは葉酸 ( フォリアミン ) を補充すると予防できる 間質性肺炎

MTX がアンカードラッグに位置づけられる理由 アンカー = 錨 ( いかり ) 船を海底につなぎ止める重要な役割 生物製剤 MTX 抗リウマチ薬 1 長期にわたる優れた有効性 ( 二次無効が少ない ) 2 長期にわたる安全性 試合を左右する重要な役割を果たしている人物 アンカードラッグ 関節リウマチ治療の中心的薬剤他の薬剤と併用するときの基本薬 3 重症の関節リウマチに対して優れた有効性 4 重症の関節リウマチや MTX 効果不十分な患者さんに対して MTX と生物製剤 MTX と他の抗リウマチ薬の併用は 単剤での治療に比べて優れた効果を発揮する

MTX の投与開始量とその後の調節 (MTX 診療ガイドライン 2011 年版 ) 副作用危険因子 (+) 高齢者 GFR<60ml/min 肺病変 (+) アルコール常飲者 NSAIDs など複数薬物 2-4mg/ 週で開始漸増適宜葉酸併用 継続 継続 通常 予後不良因子 (+) 高活動性 ( 非高齢 ) 血清反応高値 骨びらん (+) 身体機能制限 RF or CCP 抗体陽性 難治例 (2 年以上 他の 2 剤以上の DMARD) 6mg/ 週で開始 8mg/ 週で開始適宜葉酸併用 治療目標達成 4-8 週間 効果不十分 4-8 週間 4-8 週間 効果減弱 8mg/ 週に増量適宜葉酸併用 治療目標達成 4-8 週間 効果不十分 MTX をアンカーとした併用療法 効果減弱 16mg/ 週まで漸増 抗リウマチ薬併用 生物学的製剤併用

疾患修飾性抗リウマチ薬 (DMARDs)(MTX 以 外 ) 痛みを抑える腫れを抑える関節が壊れるのをディーマーズ抑える 疾患修飾性抗リウマチ薬 (DMARDs) 免疫の働きを調節したり 免疫異常を改善して 関節が壊れるのを抑えます 人によって効き目が異なることが多く 効果があらわれるのに 通常 1~ 数ヵ月かかります はじめは効果があった人が途中から効かなくなる ( エスケープ現象 ) ことがある 主な副作用 個々のお薬によって異なります 次スライドを参照ください 効果が現れるまでの時間 1- 数ヶ月

日本で使用可能な DMARDs の種類と副作用 免疫調節薬主な製品名注意すべき副作用 金チオリンゴ酸ナトリウムシオゾール皮疹 蛋白尿 オーラノフィンリドーラ下痢 軟便 D- ペニシラミンメタルカプターゼ 皮疹 蛋白尿 肝障害 血小板減少 自己免疫疾患の誘発 イグラチモドケアラム コルベット胃腸障害 肝機能障害 サラゾスルファピリジンアザルフィジン EN 皮疹 発熱 肝障害 ブシラミンリマチル皮疹 蛋白尿 黄色爪 アクタリットオークル モーバー皮疹 免疫抑制薬主な製品名注意すべき副作用 メトトレキサート (MTX) リウマトレックス 間質性肺炎 骨髄障害 肝障害 口内炎 嘔気 脱毛 ミゾリビンプレディニン高尿酸血症 レフルノミド アラバ 肝障害 骨髄障害 下痢 感染症 間質性肺炎 タクロリムスプログラフ腎障害 高血圧 耐糖能異常 診断のマニュアルと EBM に基づく治療ガイドライン ( 厚生労働省研究班 ) より改変

抗リウマチ薬の種類と分類 強力な抗リウマチ薬有効率 >50% 関節破壊抑制効果 (+) 免疫抑制作用 (+) リマチル アザルフィジン EN シオゾール メタルカプターゼ 特殊な抗リウマチ薬血管炎や間質性肺炎などの関節外症状に保険適応外 リウマトレックスメトレート (MTX) アラバ プログラフ イムランエンドキサンネオーラル ブレディニン マイルドな抗リウマチ薬有効率 25-40% 関節破壊抑制効果 (?) ミノマイシンモーバー オークルカルフェニール

生物学的製剤 痛みを抑える 腫れを抑える 関節が壊れるの を抑える 生物学的製剤 効果が現れるまでの時間 1-8 週間 バイオテクノロジー技術を用いて開発された最新の薬 病気を引き起こす物質を標的とし その働きを抑え 関節リウマチの症状を改善し 関節破壊を抑制します 開始後すぐに効果があらわれることが多く 約 80% の患者さんに有効です 点滴や皮下注射のお薬です 主な副作用 細菌感染症 結核 ウイルス感染 ニューモシスチス肺炎 帯状疱疹などの感染症間質性肺炎 注射部位反応 インフュージョンリアクション ( 点滴時の血圧低下や発熱 皮疹など ) 3)-11

一般名 エタネルセプト ETN 日本で使用されている生物製剤 アダムマブ ADA コ リムマフ GLM インフリキシマフ IFX トシリズマブ TCZ アバタセプト 商品名エンブレルヒュミラシンポニーレミケードアクテムラオレンシア 作用 TNFα 阻害剤 IL-6 阻害 T 細胞の活 性化調節 ABT リコンビナント蛋白とヒト IgG-Fc の融合蛋白 ヒト型抗体 ヒト型抗体 キメラ型抗体 MTX 併用併用が効果良必須 ヒト化抗体 リコンビナント蛋白とヒト IgG-Fc の融合蛋白 投与経路皮下注射点滴 投与間隔 特徴 週 1or2 回 自己注射 長期安定 感染少ない 妊娠中使用例 2 週に 1 回 自己注射 MTX 併用ないと効果不十分 4 週に 1 回 自己注射 2 時間 初回投与後 2,6 週後 以後 8 週毎 即効性 Bio Free の可能性 点滴 1 時間 点滴 30 分 4 週に 1 回初回投与後 2,4 週後 MTX 非認容例に単独で有効 以後 4 週毎 発現まで 3-6 ヶ月かかることもある

生物製剤の作用機序 樹状細胞 ( 伝令係 ) オレンシアヘルパー T 細胞 ( 司令官 ) IL-6 TNF-α INF-γ IL-2 RANKL アクテムラ B 細胞 レミケードヒュミラシンポニーシムジアエンブレル マクロファージ IL-6 TNF-α IL-1 IL-6 MMP3 RANKL RANK 破骨細胞 軟骨細胞軟骨破壊関節裂隙狭小化 滑膜線維芽細胞 関節の腫れ 疼痛関節の炎症 骨 骨吸収骨破壊

生物製剤の副作用 頻度 高 注射部位反応 臨床検査値異常 投与時反応 感染症 心不全の増悪 自己免疫疾患の誘発 低 低 重症度 悪性腫瘍? 高

生物製剤の市販後調査における感染症の発症 インフリキシマブエタネルセプトアダリムマブトシリズマブアバタセプト 症例数 5000 13894 7740 7901 7413 副作用発現例数 1401 3714 1857 3001 885 同発現率 28.0% 26.7% 24.0% 38.0% 11.9% 重篤な副作用発現例数 308 636 348 589 162 同発現率 6.2% 4.6% 4.5% 7.5% 2.2% 細菌性肺炎 108(2.2%) 174(1.3%) 104(1.3%) 118(1.5%) 32(0.4%) 間質性肺炎 25(0.5%) 81(0.6%) 53(0.7%) 35(0.4%) 16(0.2%) ニューモシスチス肺炎 22(0.44%) 25(0.18%) 26(0.34%) 14(0.18%) 10(0.13%) 結核 14(0.28%) 10(0.08%) 9(0.12%) 5(0.06%) 4(0.05%)

生物学的製剤投与時の感染症予防対策 ワクチン接種は? 結核は? 病歴 ( 家族歴 既往症 ) 胸部レントゲン CT 検査ツベルクリン反応 クオンティフェロン ニューモシスチス肺炎は? B 型肝炎は? 高齢 ( 65 歳 ) 既存の肺病変ステロイド (PSL6mg 以上 ) MTX HBs 抗原 HBs 抗体 HBc 抗体 肺炎球菌ワクチンインフルエンザワクチン接種を検討 抗結核剤の予防投与 ST 合剤の予防内服 HBV-DNA の定期的な測定 陽性時は核酸アナログ製剤の投与を検討

生物学的製剤の使用を考慮するケース 4 抗リウマチ薬による治療経験がなくても 関節リウマチと診断されてから 6 ヵ月未満で 病気の勢いが強く 関節の壊れるスピードが速いと予測される場合 TNF 阻害薬と MTX の併用による治療を考慮する

生物製剤を早期に使用することを考慮する場合 関節リウマチ歴 6 ヵ月未満 かつ 高疾患活動性 (DAS28-ESR で 5.1 超 ) + 次の一つ以上に当てはまる RF 陽性 抗 CCP 抗体陽性 画像検査における骨びらん 抗リウマチ薬 (DMARDs) 治療歴がなくても 生物学的製剤が使用できる場合があります 3)-13

治療目標は 何を目指せばいいの? 関節リウマチの病気の勢い (= 疾患活動性 ) は DAS28 などの指標によりチェックすることができます この数値を定期的にチェックすることで 病気の状態を知り 治療効果を確かめることができます 4)-2

関節エコー検査 関節炎の強さ 低い 将来の骨破壊の進行 高い 関節破壊の可能性は低い パワードップラー Grade2 = 関節破壊のリスクがある

RA 治療における目標 生命予後の改善 社会的寛解 ; 働き続けることができる 機能的寛解 ;QOL の改善 構造的寛解 ; 関節破壊の進行を防止 臨床的寛解 ; 関節の痛みや腫れがない状態を維持すること

Take Home Message MTX や生物製剤など効果的な薬の登場で 関節リウマチは症状がなく ( 臨床的寛解 ) 関節破壊を起こさない ( 構造的寛解 ) 治療が実現できるようになった その実現には 定期的に関節エコーや DAS などのツールを使い病気の状態を総合的に評価して 医師と患者さんが治療法を適切に見直し より良い状態を維持することが重要です