腎がん はじめに 腎臓は 肋骨の下端の高さで背部にある臓器で 尿を造ったり 血圧を調節するホルモンや造血に関するホルモンを産生したりしています 腎がんは主に腎臓の近位尿細管上皮を由来とするがんで 50 歳代から70 歳代で発生することが多く 女性よりも男性に多く見られます その危険因子としては肥満や

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外来在宅化学療法の実際

背部痛などがあげられる 詳細な問診が大切で 臨床症状を確認し 高い確率で病気を診断できる 一方 全く症状を伴わない無症候性血尿では 無症候性顕微鏡的血尿は 放置しても問題のないことが多いが 無症候性肉眼的血尿では 重大な病気である可能性がある 特に 50 歳以上の方の場合は 膀胱がんの可能性があり

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

前立腺癌

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

はじめに 前立腺癌に対する永久留置法による小線源療法は一口で言うと 弱い放射線を出す小さな線源を前立腺内に埋め込み 前立腺内部から癌の治療を行うものです ただし すべての前立腺癌に適応できるものではありません この説明書は小線源療法についての概説です よくお読みになった上で ご不明の点があれば担当医

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佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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がん登録実務について

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原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

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094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

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33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

腹腔鏡補助下膀胱全摘除術の説明と同意 (2) 回腸導管小腸 ( 回腸 ) の一部を 導管として使う方法です 腸の蠕動運動を利用して尿を体外へ出します 尿はストーマから流れているため パウチという尿を溜める装具を皮膚に張りつけておく必要があります 手術手技が比較的簡単であることと合併症が少

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主な手術実績根治的前立腺全摘除術 85 ( ロボット支援手術 85) 膀胱全摘除術 12 ( 腹腔鏡下手術 12) 腎摘除術 23 ( 腹腔鏡下手術 21) 腎部分切除術 18 ( ロボット支援手術 18) 腎尿管全摘除術 26 ( 腹腔鏡下手術 26) ドナー腎摘出術 17 ( 腹腔鏡下手術 17

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遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

を優先する場合もあります レントゲン検査や細胞診は 麻酔をかけずに実施でき 検査結果も当日わかりますので 初診時に実施しますが 組織生検は麻酔が必要なことと 検査結果が出るまで数日を要すること 骨腫瘍の場合には正確性に欠けることなどから 治療方針の決定に必要がない場合には省略されることも多い検査です

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

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はじめに 近年 がんに対する治療の進歩によって 多くの患者さんが がん を克服することができるようになっています しかし がん治療の内容によっては 造精機能 ( 精子をつくる機能のことです ) が低下し 妊娠しにくくなったり 妊娠できなくなることがあります また 手術の内容によっては術後に性交障害を

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

cm 以上の腫瘍では悪性化していることも考慮する必要があります ただし 良性腫瘍でも長期間放置すれば大きくなりますので サイズが大きいからと言って悪性とは限りません 成長速度: 悪性度の高い腫瘍では 大きくなるスピードが速くなります 腫瘍がいつからあったか 最近はどのくらいのスピードで大きくなってき

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症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

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ANSWER BLADDER CANCER 自分の病気を理解するために 担当医に質問してみましょう 治療方針を決めたり 健康管理をしたりするうえで 自分の病気の状態をよく理解しておくことが必要です 次のような質問を担当医にしてみましょう 私の膀胱がんのタイプと病状について教えてください 病理検査の結

U 開腹手術 があります で行う腎部分切除術の際には 側腹部を約 腎部分切除術 でも切除する方法はほぼ同様ですが 腹部に があります これら 開腹手術 ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術を受けられる方へ 腎腫瘍の治療法 腎腫瘍に対する手術療法には 腎臓全体を摘出するU 腎摘除術 Uと腫瘍とその周囲の腎

性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

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腎がん はじめに 腎臓は 肋骨の下端の高さで背部にある臓器で 尿を造ったり 血圧を調節するホルモンや造血に関するホルモンを産生したりしています 腎がんは主に腎臓の近位尿細管上皮を由来とするがんで 50 歳代から70 歳代で発生することが多く 女性よりも男性に多く見られます その危険因子としては肥満や喫煙が挙げられ 喫煙は腎がんのリスクを2 倍にするといわれています 北欧で罹患率が高く 乳製品の消費量と相関しているとの報告もあります また フォン ヒッペル リンドウ (von Hippel-Lindau VHL) 病や結節硬化症 多発性嚢胞腎 ( たはつせいのうほうじん ) をもつ患者では 腎がんの発生が多くなることが報告されています 腎がんの罹患率は 人口 10 万人あたり男性 12.9 人 女性 6.2 人 (2001 年 ) であり 年々増加しています 2005 年の調査によると 死亡率は人口 10 万人あたり男性で6.6 人 女性で3.3 人 男女とも12 番目に多いがんです 2011 年の国立がん研究センター がん対策情報センターの地域がん登録全国推計値では 2025 年には腎がん患者の50% 以上 が75 歳以上の高齢者となることも予想されています 診断 腎がんの典型的な症状は 腫瘍の進行による血尿 腹部のしこりや疼痛といわれていましたが 近年では健診の普及や医療機器の進歩により 症状が出現するまえに超音波検査やCTなどにより見つかることが多くなっています 超音波 ( エコー ) 検査被曝の心配もなく 手軽に行えるため スクリーニングの検査によく用いられます 腫瘍が腎臓の外側にあり突出している場合は小さな腫瘍でも見つかることがありますが 腎臓の中に埋もれていたり 腎臓の内側にある場合は見つけることが難しいこともあります 腎臓の良性腫瘍である腎血管筋脂肪腫 ( アンギオミオリポーマ ) では 通常の腎がんと比べて明るく映ることが多く 鑑別に有用なことがあります 2

Kidney Cancer 腎がん MRI CTによる検査で特徴的な腫瘍ではない場合や 腎臓の機能が低下している場合に行うことがあります 腎血管筋脂肪腫 CT 腎がんの診断では ダイナミック造影 CTによる検査がもっとも有用とされており 正常な腎組織に比べて がんが早期に染まって消失していく特徴があります また リンパ節や肺などの転移の確認にも有用です ただし 腎臓の機能が低下している場合は造影剤を使用することができず診断が難しいことがあります 骨シンチグラフィー腎がんでは骨に転移することもあるため 悪性度の高いがんや進行したがんでは骨転移を確認する必要があります 腫瘍生検画像により診断が難しい場合や 手術によってがんの種類を確認できない場合は 超音波またはCTを使用して腫瘍に針を刺して組織を確認します 外科的治療 腎がんの治療の基本は手術療法によるがんの摘出であり 治療法の選択においても手術療法が中心になります 3

腎がん 九州大学病院泌尿器科では手術適応を含めて それぞれの状況に応じた適切な治療法を選択して治療を行っています 手術においては 従来の開腹による根治的腎摘除術に加えて 1999 年から腹腔鏡を用いた根治的腎摘除術を積極的に行っています 低侵襲という点においては開放手術に比べて勝ってお られることが報告されたため 当科でも2000 年以降 積極的に行ってきました がんの部位によっては 腹腔鏡による腎部分切除を行い 低侵襲な腎部分切除術も行っています また 手術支援ロボット ダビンチ の導入により 腹腔鏡による部分切除術が困難ながんに対して ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術も行っています り 安全性 一般性についても問題ないことが示されています 当科における臨床病期 T1/2の腎がん ( 径 7cm 以下の転移のない腎がん ) の術後の長期成績においても 腹腔鏡を用いた手術は従来の開腹術と比べて全く遜色ないことが示されました ( 下図 ) 九州大学病院における腎がんの手術 内科的治療 転移を有する腎がんや再発した腎がんで 転移巣が摘出できない場合には 薬による治療が必要となります 腎が 九州大学病院における T1/2 腎がんに対する手術成績 手術法における最近の動向として 腎温存術 ( 腎部分切除術 ) の導入があります 近年 小径のがんであれば腎温存術を行っても良好な長期予後が得 んには抗がん剤や放射線治療がほとんど効かないため これまでインターフェロンαやインターロイキン2などの免疫療法を行ってきましたが 奏効率は概ね15 20% で 決して満足できる数字ではありませんでした ところ 4

Kidney Cancer が 2008 年から 根治切除不能又は転移性の腎細胞がん に対して様々な分子標的薬が承認され これらの薬による治療が可能となりました 分子標的薬とは がん細胞の増殖にかかわる分子 ( タンパク質 ) に作用して抗腫瘍効果を発揮する薬物で 近年多くのがんに用いられています 腎がん治療の標的分子には 1. 増殖因子受容体である (EGFR HER2 PDGFR VEGFRなど ) のチロシンキナーゼ 2. 細胞増殖や生存に関するセリンスレオニンキナーゼ (mtor) などがあり それぞれの分子に対して以下のような薬があります 1. チロシンキナーゼ阻害薬スーテント ( スニチニブ ) インライタ ( アキシチニブ ) ネクサバール ( ソラフェニブ ) ヴォトリエント ( パゾパニブ ) 2.mTOR 阻害薬アフィニトール ( エベロリムス ) トーリセル ( テムシロリムス ) これまでの分子標的薬による治療成 績からも有用な薬剤といえますが それぞれの分子標的薬で特有の副作用があるため 状況に応じた薬の選択が重要です また 骨に転移を認める腎がんでは がんの進行による骨の破壊を防止するため ゾメタ ( ゾレドロン酸 ) やランマーク ( デノスマブ ) を使用することがあります これらの薬剤は 骨転移による痛みを緩和する または症状がでることを遅らせる作用はありますが がんを抑えるためのものではありません 放射線治療 腎がんは放射線に効かないことが多いため 放射線治療を行うことはあまりありません しかし 骨に転移して骨折の可能性がある場合 神経症状や痛みを伴う場合には 症状に対して放射線治療を行うことがあります アブレーション治療 腎がんの根治療法の第一選択は外科的治療ですが 高齢者や重篤な合併症のため外科的切除が難しい場合は 腫瘍に針を挿入してがん細胞を死滅させ 5

腎がん るアブレーション治療が行われています 現在 腎がんに対するアブレーション治療ではラジオ波熱凝固療法と凍結療法があり 本邦では2011 年 7 月から凍結療法が保険治療として認められています 九州大学病院でも2014 年 5 月から凍結療法による治療が可能となっています 臨床研究 九州大学病院泌尿器科では腎がんに関する臨床研究を行っています 1. 腎細胞癌患者における mtor 阻害剤の免疫調整機構に対する研究トーリセル ( テムシロリムス ) は mtor 阻害剤といわれ前述のように転移性腎がんの治療薬です 低用量では免疫抑制剤としても使用されている薬剤で免疫機能に影響します 近年 腫瘍免疫を抑制するシステムが mtorによって制御されていることも分かってきています また トーリセルによる重大な有害事象の一つである間質性肺炎にも免疫機構が関与していることがわかっています このため 免疫細胞に与えるトーリセルの影 響と トーリセルによる効果と有害事象の関係について研究を行っています 2. 腎がん患者を対象としたda Vinci( ダビンチ ) サージカルシステム (DVSS) ダビンチ ) によるロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術の多施設共同非盲検単群臨床試験 ( 新規参加終了 ) 腹腔鏡下手術では 開腹術と異なり創が小さいため 術後のQOLは非常に高いといわれていますが 腹腔鏡下手術による腎部分切除は高度な技術が必要です da Vinci Sは 鉗子やメスなど手術器具を取り付けるロボットアームと操作ボックス ( コンソールボックス ) という2つの機械からなる手術支援ロボットで 13 次元画像のもとで操作を行う 2 拡大視野で操作を行う 3ロボットアームの関節が術者の関節の動きを完全に反映できる という3つの理由から 極めて正確で安全な手術操作が可能です da Vinci Sを用いた手術支援はすでに保険収載されている前立腺全摘除術だけではなく 腎がんの部分切除術でもその有効性が報告されています 小径の腎がん 6

Kidney Cancer に対し より低侵襲かつ根治性の高い手術手技を確立するために da Vinci Sを用いたロボット支援下腹腔鏡下腎部分切除術を導入し その安全性と有用性を確認しています 臨床試験 九州大学病院泌尿器科では 腎がんに対する薬に関する臨床試験を行っています 1. 未治療の進行性又は転移性腎細胞がん患者を対象に ニボルマブとイピリムマブの併用療法とスニチニブの単剤療法を比較する無作為化非盲検第 Ⅲ 相試験淡明細胞型腎細胞がんで 分子標的薬による治療を受けていない方を対象に行っています ニボルマブ (PD-1 阻害薬 ) とイピリムマブ (CTLA-4 阻害薬 ) は共に免疫チェックポイント阻害薬といわれ 腫瘍が免疫細胞からの攻撃を逃れる作用を抑える効果をもち 近年最も注目されている薬剤です ニボルマブは腎がん以外にも 肺がんや悪性黒色腫でその効果が認められ すでに臨床で使用されています 2. 腎細胞癌の再発リスクが高い患者を対象としたアキシチニブによる術後補助療法の第 Ⅲ 相プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験腎がんを摘出後の腎がん ( 淡明細胞がん ) で 術後に転移がなく 再発のリスクの高い方を対象に行っています 術後にアキシチニブによる再発予防のための治療を行います 3. 腎摘除後の限局性または局所進行性腎細胞癌患者を対象に術後補助療法としてのパゾパニブの有効性および安全性を評価する無作為化二重盲検 プラセボ対象 第 Ⅲ 相試験 ( 新規参加終了 ) 腎がんを摘出後の腎がん ( 淡明細胞がん ) で 術後に転移がなく 再発のリスクの高い方を対象に行っています 術後にパゾパニブによる再発予防のための治療を行います 7

腎がん 4. 血管新生阻害剤による治療歴を有する進行性又は転移性淡明細胞型腎細胞がん患者においてONO-4538/ BMS-936558とエベロリムスを比較する無作為化非盲検第 Ⅲ 相試験 ( 新規参加終了 ) 1 2 種類のチロシンカイネース阻 害薬 ( ネクサバール スーテント インライタ ) 治療後でアフィニトール ( エベロリムス ) を使用していない患者 ( 免疫療法後でも可だが合計 3レジメン以下であること ) を対象に行っています ONO-4538/BMS-936558 は免疫チェックポイント阻害薬でPD-1を阻害する作用をもちます 8

膀胱がん Bladder Cancer はじめに 膀胱がんは 2011 年の日本のがん統計では 10 万人当たり男性 21.5 人 女性 4.3 人が罹患しており ( 病気にかかった人の数 ) 男性に多く 泌尿器系がんの中で前立腺がんに次いで2 番目に多いがんです 年次推移の統計では 死亡者総数は年々増加しているものの これを年齢で補正した死亡率で横ばいであることより 死亡者の増加は社会の高齢化によるもので 膀胱がんは近年 発生リスクを増加しておらず また早期発見や治療法の進歩による治療の改善もあまり進んでいないことが示されています 膀胱がんの原因として 喫煙が最も重要で 現在喫煙している人は吸わない人に比べ4 倍 過去に喫煙した人は 2.3 倍膀胱がんになりやすいことが判明しています 喫煙と膀胱がんは一見関係がないと思われがちですが タバコの煙の発がん物質が 全身を回った後 濃縮されて尿中に排泄され 膀胱の粘膜が慢性的に発がん物質と接触してがんが発生すると考えられています 現在の膀胱がんの患者の約半数は 喫煙が原因であるという統計結果 も出ており 禁煙が膀胱がんの予防に最も大切です 膀胱がんの症状として典型的なものは 血尿で 80% 以上の患者さんに認められます 患者さんご自身が赤い色のついた尿が出ることに気づき 病院を受診されることも多く また 検尿異常により泌尿器科を紹介され膀胱がんが見つかるケースもあります ただ 多くの場合は 排尿する際の痛みなどの症状がないため 受診が遅れてしまうことも少なくありません 膀胱がんの診断は 検尿 膀胱鏡 尿細胞診 膀胱エコー 排泄性尿路造影 CT MRIなどで行います 最終的には下記手術で がんの組織を摘出し 顕微鏡でがん細胞であることを診断する病理検査によって行います 膀胱がんの治療は 病気の広がりと深さによって大きく異なります 膀胱は粘膜とその下の筋肉層からできていますが がんが筋肉まで広がっていない場合は 経尿道的な内視鏡手術 ( 経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURBT) で治療します これは 尿道から電気メスのループのついた内視鏡を入れ が 9

膀胱がん んを削り取る手術で 通常 1 2 週間の入院で済みます しかし この手術が上手く行えても 膀胱内に再発する率が50% 前後と高いため 何度もこの手術を受けなければならない患者さんも多くいます また 膀胱の筋肉層までがんが広がっている場合は 膀胱を全部摘出する大がかりな手術が必要です この場合 小腸などを使って 尿が出る人工肛門のようなストーマを作成したり ( 回腸導管 ) 腸で代用膀胱( 新膀胱 ) を作成したりして 尿を出す方法 ( 尿路変向 ) を考えなくてはなりません また 転移がある場合は 抗がん剤による化学療法が標準的な方法で 骨に転移があり 痛みが強い場合は その部位に放射線を照射したりします 診断 検尿尿の色を確認し 糖分 蛋白 赤血球 白血球といった成分を調べる検査です 尿中に赤血球が一定以上あることを血尿と言います 膀胱鏡検査尿道から内視鏡 ( カメラ ) を入れ 尿道や膀胱を観察します 膀胱鏡は太さが7 8mmのライトの付いた管のような器具で 観察できるレンズも付いています 最近は 曲がりやすい軟性鏡を使うことで 検査中の痛みも軽くなりました 下図が典型的な筋層非浸潤性 ( 表在性 ) の膀胱がんの写真です 九州大学病院では 泌尿器科 放射線科 形態機能病理の専門医が膀胱がんの診断と治療を包括的に行っています 以下に当院における膀胱がんの診断 治療と 新しい治療の確立を目指した臨床研究 治験についてお示しします 膀胱がんの治療を受ける患者さんにとって有益な情報を提供できれば幸甚に存じます 10

Bladder Cancer 尿細胞診異常な細胞がないか 検尿で採取した尿を顕微鏡で調べます 静脈性腎盂造影 (IVP) 腎臓から排泄される造影剤を静脈に注射し 腎臓 尿管および膀胱のX 線像を連続的に撮影します 造影剤が 腎臓 尿管 膀胱を通過する際に X 線像で異常を示さないか検査します CTスキャンいろいろな角度から体内の詳細な像をコンピュータ断層撮影法によって撮影します 膀胱のみならず リンパ節や 他の臓器の転移の有無も併せて検査できます MRI 磁気によって断層撮影を行う方法で 特に膀胱がんの深さや近接リンパ節転移の有無の診断に有用です 外科的治療 経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURBT) 麻酔下に膀胱鏡を尿道から膀胱内に挿入し 内視鏡で見ながら先端に小さな切除ループのついた器具でがんを切除します 膀胱全摘除術がんが膀胱の筋肉層まで広がっている場合の標準治療です 膀胱およびがんを含むすべてのリンパ節 隣接器官を摘出する手術です 膀胱を摘出後 膀胱の代わりに尿を体外に排泄するために別の経路をつくります ( 尿路変更術 ) 回腸導管は 小腸を約 20cm 切除し 尿管を縫い付け 出口をストーマとして体外へ出し 集尿袋をつけて尿を出します ( 下 左図 ) 新膀胱は 小腸を切開し 袋状に縫った後 片方に尿管を吻合し 他方を尿道に吻合し 尿道から排尿する方法です ( 下 右図 ) 骨シンチ骨で代謝される薬を注射して 進行 癌の患者さんにおいて骨転移の有無を 検査します 11

膀胱がん また 治癒の可能性を高めるために手術前後抗がん剤による化学療法を行うこともあります 膀胱内注入化学療法表在性膀胱がんではTURBT 後に膀胱の中に腫瘍が再発することが多いため 再発を予防する目的で膀胱内へ抗がん剤を注入することがあります 抗がん剤を膀胱内へ入れても血液中には入らないため 吐き気や脱毛などの副作用はなく 頻尿など軽い副作用があるだけです また 上皮内癌という特殊な型や 再発を繰り返す場合には結核の予防薬であるBCGを膀胱内へ入れる治療も広く行われています 内科的治療 抗がん剤による化学療法転移や全摘後の再発がある場合は 抗がん剤による治療を行います これまでM-VAC 療法といわれる4 種類の抗がん剤が第一選択でしたが 数年前から 効果が同じで副作用の少ない GC 療法 ( ゲムシタビンとシスプラチン ) が第一選択薬剤となりました また 治癒の可能性を高めるために手術の前 または後に 抗がん剤による化 学療法を行うこともあり 補助化学療法と呼ばれています 放射線治療 放射線療法合併症により膀胱全摘が行えない場合や 手術を希望されない場合に膀胱と骨盤に放射線外照射を行うことがあります この場合は 手術に比較して 治療成績は劣ります 臨床研究 臨床試験 臨床試験とは 患者さんにご協力頂いて治療法の有効性や安全性を調べて より良い治療法を確立するための研究のことを言います 膀胱がんに対しての臨床試験は 抗がん剤を用いたものなどがあり この他にも多くの臨床試験が九州大学病院で行われています 1. 課題名 :High grade T1 膀胱癌のsecond TUR 後 T0 患者に対するBCG 膀胱内注入療法と無治療経過観察のランダム化第 Ⅲ 相試験 (JCOG1019) 2 回目のTURBT 後に癌の残存を認 12

Bladder Cancer めない筋層非浸潤性膀胱がんに対して 無治療経過観察が 標準治療であるBCG 膀胱内注入療法に劣らないものかどうかを評価するランダム化比較試験により評価する臨床研究です 現在 患者登録中です 2. 課題名 : 低用量 BCG 膀胱腔内注入維持療法の再発予防効果ならびに安全性に関するランダム化比較試験多発性または再発性の筋層非浸潤性膀胱癌 (Ta T1) に対するTURBT 後のBCG 導入療法 (80mg)+ 低用量 BCG 維持療法 (40mg) の再発予防効果が BCG 導入療法より優れることをランダム化比較試験により検証し あわせて安全性を比較検討する臨床研究です 3. 課題名 : プラチナ製剤を含む治療の施行中または施行後に進行した局所進行性 切除不能又は転移性の尿路上皮癌患者を対象とするラムシルマブ及びドセタキセル併用とプラセボ及びドセタキセル併用の第 Ⅲ 相無作為化二重盲検プラセボ対照試験局所進行 切除不能又は転移性の尿路上皮癌 ( 膀胱がんおよび上部尿路がん ) に対するラムシルマブとドセタキセルの併用療法が ドセタキセル単独療法よりも優れることを無作為化比較試験により検証する臨床治験です 13

前立腺がん はじめに 前立腺は男性にのみ存在する器官で 図のように膀胱と連続して尿道を取り巻くように存在しています 前立腺がんはこの前立腺の細胞ががん化して無秩序に増殖する病気で 65 歳以上の男性に多く発生する典型的な高齢者がんです 前立腺がんは元々欧米人 特にアフリカ系黒人に多いがんでしたが 近年 日本人においても急速に増加し 2015 年には日本人の男性の全てのがんの中で 最も多いがんになることが統計的に予想されています 過去 50 年間で日本において前立腺がんのために死亡された方は16 倍以上増加しています この理由としては 高齢者の増加 食生活の欧米化 ( 高脂肪食の増加 緑黄色野菜摂取不足 ) PSA 検査 ( 前立腺がんの指標となる採血 ) の導入 一般への周知などのためなどと考えられます 前立腺がんの診断と治療について以下に述べます 診断 前立腺の位置 代表的な検査として 1 前立腺がんの腫瘍マーカーである前立腺特異抗原 (PSA) を血液検査で測定 2 肛門から指を入れて前立腺をさわって調べる経直腸的前立腺触診 3 前立腺超音波検査があります さらにがんの疑いがあれば前立腺生検検査を行います PSA 検査は 症状の全くない早期の前立腺がんを発見するのに最も有用で 採血だけですむため 患者さんの負担も少なくてすみます また 前立腺超音波検査の中でも肛門から検査する経直腸的超音波検査が前立腺全体の観察に優れており がんの場所を診断することも可能なことがあります 当科もこの方法で検査を行っています 14

Prostate Cancer 前立腺生検はおしりに簡単な麻酔をしたあと 超音波で位置を確認しながら直腸または会陰 ( 陰嚢と肛門のあいだのまたの部分 ) から細い針で前立腺の組織を少し取る検査です 当科では会陰よりこの検査を行っています 会陰からの方法は従来の直腸からの検査に比べて 早期がんが多い PSA 4ng/ml 以上 10ng/ml 未満の範囲にある患者さんで前立腺がんの診断がより正確に行える可能性があります また 感染症や直腸からの出血という合併症が経直腸的生検より少ないと考えています 針生検により前立腺がんが発見された場合は 悪性度の診断を併せて行います 悪性度はグリソンスコアと呼ばれる分類が使われます これは がん組織の構築を5つの型に分け (5が最も悪性度が高い ) 点数化するものです 前立腺がんの多くは 複数の 悪性度の異なる成分を含んでいるので 最も多い成分と 次に多い成分を足し合わせてその合計点で点数化します 例えば 最も多い成分が 4 で 次に多い成分が 3 であれば 4+3 =7となります 上記の生検検査で前立腺がんが見つかった場合 CT MRI 骨シンチ検査などでがんの局所の広がり 全身転移の有無を調べ進行度を決定します 前立腺がんの進行度は 1 限局性前立腺がん : 転移がない状態 2 局所進行癌 : 転移はないが 前立腺の外までがんが広がっている状態 3 転移性前立腺がん : リンパ節や骨などに転移がある状態に分類できます さらに限局性前立腺がんはPSA 値 臨床病期 ( がんが左右のどちらかにあるか または両方にあるかなど ) グリソンスコアの3つの因子を用いて 低リスク 中間リスク 高リスクに分けて治療選択を行うことが一般的となってきました ( 表 1 2) 表 1 限局性前立腺がんのリスク ( 危険度 ) 分類 PSA グリソンスコアと病期 10 以下 10を超え 20 以下 2-6 かつ 低リスク 中リスク T1c-T2a 7 または T2b 8-10 または T2c 以上 20 を超える 高リスク 中リスク中リスク高リスク 高リスク高リスク高リスク 15

前立腺がん 表 2 限局性前立腺がんのリスクと各治療法の適応 治療法 年齢の目安 外科的治療 低リスク 中リスク 高リスク 前立腺全摘手術 75 歳 放射線外照射 80 歳 密封小線源治療 80 歳 粒子線治療 80 歳 内分泌療法 75 歳 無治療経過観察 特になし 注 推奨 適応あり 条件付き適応 適応に問題あり注 1) 定期的にPSAを調べたり 針生検をしたりして 悪化がみられれば治療を開始します 注 2) 内分泌療法 密封小線源治療 放射線外照射の 3つを合わせて ( トリモダリティと呼ばれています ) 治療することは可能です 限局性前立腺がんが治療対象とな り 前立腺全てと精嚢 精管を併せて摘除して 尿道と膀胱を吻合する根治的前立腺摘除術を行います 根治的前立腺摘除術の合併症としては尿失禁と性機能障害がありますが 尿失禁に関しては ほとんど数ヶ月から1 年後には改善しています 性機能に関してはがんの根治性を損なわなければ神経温存手術が可能ですが 完全な性機能の温存は困難な場合があります 手術法として以前から行われており確立している開腹手術の他に 当科では 患者さんの生活の質 (QOL) を重視し 新 しい低浸襲治療として 手術支援ロボットによる手術を積極的に行っています この手術支援ロボット手術は開腹手術より出血が少なく 創が小さくてすみ 2012 年 4 月から保険適応となりました 根治的前立腺摘除術後はPSA 値を定期的に測定して がんの再発がないかチェックしていきます 術後 PSA 値が0.1ng/ml 未満になれば完治したと判断し 0.4ng/mlを超えたら再発と判断して放射線治療か内分泌療法を追加治療として行います 九州大学泌尿器科においては術後 5 年の再発率は 20% がん死率は1% と良好な成績です 内科的治療 内分泌療法前立腺のがん細胞は男性ホルモンによって増殖するという特徴があり 男 16

Prostate Cancer 性ホルモンを抑える注射や内服薬で治療します 一般的には根治にはならず がんをおとなしくして付き合っていく方法で 診断時に転移がある方が治療対象となります また 転移はないものの 高齢であることや 合併症で根治治療を受けられない方に内分泌療法を行うこともあります また 放射線治療などの補助治療として併用することもあります 副作用としては性機能障害 発汗 顔面紅潮 体重増加 女性化乳房等があります 長期の使用で糖尿病の悪化や 高脂血症 骨粗鬆症 心血管系の副作用の可能性があります 内分泌療法が効かなくなった病態は去勢抵抗性と呼ばれますが 2014 年から エンザルタミド アビラテロンという新規薬剤が保険収載され 使用できるようになりました 抗がん剤治療内分泌治療が効かなくなり 病気が進行した方が対象で ドセタキセルという抗がん剤を3 4 週ごとに点滴します 主な副作用は 倦怠感 悪心 嘔吐 骨髄抑制 ( 血小板低下 白血球低下 貧血 ) 神経障害などで 副作用のコントロールがつけば外来での抗がん剤治療が可能です ドセタキセル治 療が無効となった方や副作用で治療できない方にはカバジタキセルという抗癌剤が使用されます 主な副作用は 骨髄抑制 特に白血球低下です 放射線治療 根治治療としては下記の2 通りの方法があります いずれも副作用として 頻便や排便痛 出血 頻尿や排尿痛などがありますが 重篤なものは少ないです 外照射療法体外から前立腺に放射線を照射します 現在は 強度変調放射線治療 (Intensity Modulated Radiotherapy: IMRT) という高精度放射線治療を標準治療としています 総線量 72 76Gyの照射を行い さらなる局所コントロール率の向上 直腸 肛門等に対する消化管毒性の低減が可能となってきています 一般的には週 5 回で7 週間前後を要し 外来通院治療が可能です 密封小線源療法 ( 組織内照射法 ) 放射線を放出する小さな針 ( ヨード 125アイソトープ ) を前立腺へ埋め込む治療法です 麻酔下に超音波で確認 17

前立腺がん しながら 会陰 ( 睾丸と肛門の間 ) からアイソトープを埋め込む手術で 手術時間は約 2 時間 入院は1 週間です この治療は 外照射より副作用が少ない利点がありますが 悪性度が低いリスクのがんを適応としています 中間リスクのがんに対してはホルモン治療を併用しています 臨床研究 1. 早期前立腺がん根治術後のPSA 再発に対する放射線照射と内分泌治療に関するランダム化比較試験 (JCOG0401 試験 ) 手術療法 ( 根治的前立腺摘除術 ) の後 PSA (Prostate Specific Antigen) が上昇するPSA 再発は約 20 25% の患者さんにみられ その治療法は未だ確立されていません すなわちPSA 再発が局所であれば放射線療法 遠隔転移であれば全身療法としての内分泌療法が適当と思われますが 再発部位を画像的に特定することは困難であり いずれの治療を選択すべきかについての明らかなエビデンスは確立されていません そのため 早期前立腺がん根治術後のPSA 再発に対する放射線照射と内 分泌治療に関するランダム化比較試験 (JCOG0401 試験 ) が企画され 内分泌療法に先行して放射線療法を行う意義を検証することを目的としています 現在 登録は終了し 患者さんの経過を観察する段階に入っています 2. 未治療中間リスク群限局性前立腺癌に対するNHT+ヨウ素 125 密封小線源永久挿入療法 +AHT 併用療法とNHT+ヨウ素 125 密封小線源永久挿入併用療法とのランダム化比較臨床試験 (SHIP0804) 未治療限局性中間リスク群前立腺がん患者を対象に ヨウ素 125 密封小線源永久挿入療法と内分泌療法の併用療法を施行し 密封小線源永久挿入療法後の内分泌療法の有無で2 群に分けてランダム化比較試験を行いPSA 再発率 PSA 動態を比較検討する研究です 現在 登録は終了し 患者さんの経過を観察する段階に入っています 3. 転移性前立腺癌に対するGnRH アンタゴニスト単剤療法と GnRHアゴニストCAB 療法のランダム化比較試験 (KYUCOG-1401) 転移性前立腺癌には内分泌療法が標 18

Prostate Cancer 準治療です 従来 日本ではGnRHアゴニストと抗アンドロゲン内服を併用したCAB 療法が広く行われてきました 最近 GnRHアンタゴニスト製剤が保険収載され GnRHアゴニストに比べ早期に男性ホルモンを低下させる作用があり この薬による単独治療と従来のCAB 療法の有効性 安全性を比べる研究です 現在患者さんの登録を行っています その他 摘出した前立腺を顕微鏡で詳細に検討する病理学的研究や 手術法に関する研究など多数の臨床研究を行っています 治験 骨転移性去勢抵抗性前立腺癌 (CRPC) を有する無症候性または軽度症候性の化学療法未治療患者におけ るabiraterone acetateおよびプレドニゾン / プレドニゾロンとの併用投与による塩化ラジウム-223の第 Ⅲ 相 無作為化 二重盲検 プラセボ対照比較試験 骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんに対して アビラテロンが投与できるようになりましたが これに放射線核医学治療薬である Ra223( ラジウム 223) を併用することで より有効となるかを検討する治験です Ra223( ラジウム223) はカルシウムの同属で 骨転移のある部位に吸着し 100μm 以内という至近距離内にα 線と呼ばれる放射線を放出して周囲の細胞を破壊します 全生存期間や骨関連事象 ( 転移による痛みや骨折など ) を減らす効果が確かめられ すでに欧米では承認され使用されている薬剤です 19

腎盂尿管がん はじめに 腎盂 尿管は腎臓で作られた尿を集め膀胱へ運ぶ管状の臓器で その表面は尿路上皮という上皮細胞に覆われています 腎盂 尿管から発生するできもの ( 腫瘍 ) は そのほとんどが尿路上皮から発生する上皮性腫瘍です そのうち75 80% は悪性腫瘍で これらを 腎盂尿管がん あるいは 上部尿路がん と呼びます 腎盂尿管がんは 泌尿器科領域の悪性腫瘍の中でも頻度は低く 尿路上皮がんの4 5% 程度です ( 尿路上皮がんのほとんどは膀胱がんです ) 腎盂尿管がんの20 50% 程度は多発性で 腎盂尿管内での多発のほか 膀胱に同時あるいは後からがんが発生することが知られています 年齢は50 70 歳代に多く 男女比は2 4:1で男性に多く見られます 腎盂尿管がんの発がんについては現 在も不明なことが多いものの 同じ尿路上皮がんである膀胱がんと共通する発がん因子が知られています 中でも喫煙と尿路上皮がんの発がんに関しては 非喫煙者に比べ喫煙者で発癌リスクが約 3 倍高くなることが知られています そのため 腎盂尿管がん 膀胱がんを含め 尿路上皮がん予防のためには禁煙が重要になります その他 フェナセチンに代表される鎮痛薬 シクロフォスファミドのような抗がん剤と腎盂尿管がん発がんの関係が知られています 症状として最も多いのは血尿です ご自分で赤い色の尿に気づいて来院されることがあり このように血のまじった尿を肉眼的血尿と呼びます 一方で 検診などでの尿検査にて血が混じっていると指摘され発見されることもあり このような目で見てもわからない血尿を顕微鏡的血尿と呼び 両方を合わせて広い意味での血尿と呼んでいます その他の症状としては 側腹部痛がみられることがありますが 近年では腹部超音波検査にて水腎症を指摘されて発見されることも多くなってきました 腎盂尿管がんの治療方針は がんの広がりと深さによって大きく異なりま 20

Urinary Tract Cancer す したがって 治療方針を決定する際は詳しく検査を行い 検査結果を総合して病状を診断した上で最適な治療法を提示していきます 実際の治療法としては 後に詳しく説明いたしますが手術療法 ( 腎尿管全摘除術 ) が中心です その他 抗がん剤を使った全身化学療法や放射線療法などを病状にあわせて選択していきます 診断 尿検査尿を採取して顕微鏡的血尿の有無の確認や 尿路感染の合併の有無などを確認します 尿細胞診尿の中にがん細胞が混じっていないか確認します 尿細胞診検査は5 段階で評価されます クラス1 2は悪性所見なし 3は偽陽性 4 5では悪性所見が強く疑われます しかし がんがあっても尿細胞診では異常を認めないことも多く 検査結果が陰性であってもがんがないとは言いきれません 膀胱鏡検査前述のように 腎盂尿管がんより膀胱がんの方が高頻度であることや 腎盂尿管がんの場合には膀胱がんの合併も高頻度にみられることから 膀胱鏡 ( 膀胱内を見る内視鏡 ) を尿道から膀胱へ挿入して膀胱内を観察します 腹部超音波検査 ( エコー ) 主に 水腎症の有無や腎盂がんの確認に用いられます 患者さんへの負担が少なく 簡便に行える検査です 尿路造影検査造影剤を使用したCTやMRIなどにより尿のながれに異常がないか確認します 排泄性尿路造影検査 (DIPまたはIVP) により尿のながれを確認することもありますが 最近では造影 CT などが選択されることが多くなってきました また 腎盂尿管がんが強く疑われる場合には 膀胱鏡を入れ膀胱内の尿管口 ( 尿管の出口 ) からカテーテル ( 細い管 ) を入れて尿を採取したり造影検査を行ったりします ( 逆行性尿路造影検査 ) 尿管鏡検査腎盂尿管がんが疑われても これま 21

腎盂尿管がん での検査で診断するには十分な所見が得られなかった場合 尿管鏡検査が行われることがあります 尿道から膀胱 尿管へ図のような細く長い内視鏡を入れて尿管や腎盂を観察し 異常が疑われる部分を採取 ( 生検 ) します その他画像診断 CT MRI 骨シンチなどにより がんの広がりやリンパ節転移 肺 骨 肝臓などへの遠隔転移がないかを調べます 外科的治療 腎盂尿管がんの治療は がんの根の深さや転移の有無によって大きく異なります 転移のない腎盂尿管がんの場合には 全身状態などから可能であれば根治療法として手術療法が第一選択になります その他の治療法としては 化学療法 放射線療法 免疫療法などになりますが 治療成績は残念な がら満足いくものではありません 一方 転移のある腎盂尿管がんの場合には 進行膀胱がんでも行われる全身化学療法が行われます ( 詳細は後述の内科的治療をご参照下さい ) 腎尿管全摘除術がんのある方の腎臓から尿管 尿管付近の膀胱の壁をひとかたまりですべて切除する術式です たとえ腎盂だけにがんがみられたとしても 尿管を残した場合残った尿管に高率にがんの再発をきたすため 腎臓から尿管をすべて摘出します 通常腎臓は左右に1つずつあり 片方を摘出したとしても もう一方が正常に働いていれば日常生活において問題になることはほとんどありません また 手術前の画像検査や生検の結果 浸潤性がんという根の深いがんであることが予測された症例ではリンパ節転移の可能性が否定できないため リンパ節をまとめて摘出するリンパ節郭清術が同時に行われることがあります 従来は腹部あるいは側腹部から下腹部までの大きな傷から手術を行っていましたが 現在では周囲に浸潤が疑われるような一部の症例を除いて ほと 22

Urinary Tract Cancer んどの症例で腹腔鏡手術が行われています その場合 側腹部の4 5ヶ所に1cm 程度の小さな穴をあけて そこから内視鏡などの道具を入れて腎臓を遊離します 遊離した臓器を摘出する穴は必要になるため 当院では下腹部を開放して 膀胱部の処理と臓器の摘出を行っています 開放手術に比較して腹腔鏡手術では出血量が少なく 傷の痛みが軽く 術後の回復が早くなります 現在 九州大学病院では基本的には腹腔鏡下腎尿管全摘術を行っており 5% 弱の患者さんが癌の進展や手術の既往のために開放手術を受けられています 尿管部分切除がんが尿管の一部のみにある場合で 腎盂尿管が片方しかないような場合では 腎を温存し人工透析を回避する目的で尿管の一部のみを切除してつなぎ合わせる尿管部分切除術をすることがあります ただし 標準治療ではなく再発の可能性もあるため治療の選択についてはよく相談する必要があります 経尿道的腎盂尿管腫瘍蒸散術画像検査や尿管鏡検査の結果 腫瘍 の大きさが小さく 1 2 個で根の浅い腫瘍であれば レーザーを用いて内視鏡的に腫瘍を蒸散させることがあります 特に 腎臓が片方しかない場合 高齢である場合や大きな合併症がある場合などでは 治療法の一つとして積極的に考慮しています また最近では 前述のような方以外でも腫瘍の悪性度が比較的低い場合には 内視鏡的治療を考慮しています ただし 腎盂尿管内での再発率が高いため頻回の尿管鏡検査が必要であり すべてが経尿道的手術の適応となるわけではありません 内科的治療 腎盂尿管がんに対する内科的治療として主なものに以下の二つがあります 一つは がんの局所治療として行うBCG( ウシ型弱毒結核菌 ) あるいは抗がん剤の注入療法で もう一つは全身療法として行うがん化学療法です BCG 腔内注入療法あるいは抗がん剤腔内注入療法腎盂尿管がんの中でも上皮内がんといって上皮内のみに広がるがんがある場合に 尿管内にステントという細い 23

腎盂尿管がん 管を入れ この管を通してBCGを注入します 副作用として 発熱や排尿時痛が起こることがあります また 腎機能が悪いなどの理由で腎尿管全摘除術が難しい場合などに 前述の経尿道的腎盂尿管腫瘍切除術と組み合わせて抗がん剤の注入を行ったり BCG の注入を行うことがあります 全身化学療法点滴等により抗がん剤を投与して行う治療です 腎盂尿管がんで転移のある場合や手術後に再発した場合などで行われる全身に対する治療です 一般的には 進行膀胱がんでも行われる数種類の抗がん剤を組み合わせて使う多剤併用化学療法 (GC 療法あるいは M-VAC 療法 ) が行われます また 手術前にリンパ節転移や浸潤が疑われるような進行がんの場合に 術前補助化学療法として抗がん剤治療を行い その効果をみて手術を行うこともあります 一方 手術後の組織検査の結果 周囲の脂肪組織へがんが進展している場合 血管やリンパ管などにがんが入り込んでいる場合などは 再発の危険性が高くなることが知られているため補助化学療法といって予防的に抗がん剤治療を行うこともあります 放射線治療 放射線治療は放射線を患部に照射することによりがん細胞を傷害する治療法で 患者さんの負担が少ないやさしい治療法です しかしながら 同時に正常な組織においても細胞障害は起こるため 放射線のエネルギーが正常組織に対して無視できない影響を与えると放射線障害と呼ばれる副作用を起こします がんのコントロールのために必要な放射線のエネルギーは それぞれのがんの感受性によって異なります 腎盂尿管がんを含めた尿路上皮がんでは この感受性があまり高くないため効果もそれほど期待できません そのため 根治療法として第一に選択されることはありません ただし 年齢や合併症などのために手術が難しい場合や 痛みなどの症状を緩和する目的で患部への放射線照射が行われることがあります また 放射線治療の効果を高める目的で 化学療法を併用することもあります また 転移巣に対して痛みの軽減や麻痺の回避などのために放射線照射が行われることがあります 24

Urinary Tract Cancer 臨床研究 現在 当院では下記のような臨床研究を進めています ( 当院における上部尿路がんに対する腎尿管全摘術の治療成績に関する後ろ向き研究 ) 九州大学病院泌尿器科において 上部尿路がん ( 腎盂尿管がん ) と診断され 腎尿管全摘除術を受けられた方の治療成績に関して 治療後の再発 病理組織学的検査結果 手術法など様々な面から後ろ向きに解析を行っています これらの治療成績を詳しく分析することや 他施設の成績と比較することにより よりよい治療へ向けた検討を行っています ( 本邦での上部尿路がんにおけるアリストロキア酸の関与に関する多施設共同研究 ) 上部尿路がんがなぜできるのかを解明することは その予防や治療法の開発において重要なステップとなります 喫煙やフェナセチン含有鎮痛剤の使用により上部尿路がんが発生する危険性が高くなるという報告がありますが 未だ不明な点が多いのが現状です 最近になって アリストロキア酸という物質を含むハーブの使用と上部尿路がんの関連が指摘され注目されています そのため本研究では 我が国においてアリストロキア酸による上部尿路がんがどの程度みられるのかを検証し 上部尿路がんの発がん原因を解明することを目的としています そのため 同意いただいた患者さんから 手術により摘出された臓器の一部を採取して DNAを抽出し九州大学及び分担研究者であるStony Brook Universityにおいて解析を進めています (JCOG1110-A 根治手術が実施された上部尿路癌におけるリンパ節郭清術の意義と術後の膀胱再発に関する調査研究 ) JCOG(Japan Clinical Oncology Group: 日本臨床腫瘍研究グループ ) という組織において 希少悪性腫瘍に対する標準治療確立のための多施設共同研究 の一つとして当院泌尿器科学分野名誉教授 内藤誠二を研究代表者として行っている臨床研究です 日本国内の多施設において上部尿路がん ( 腎盂尿管がん ) と診断され根治手術が行われた患者さんを対象に その術 25

腎盂尿管がん 後の治療成績を検証することにより 上部尿路がんの治療成績を向上させるための前向き研究を企画していきます 特に 腎尿管全摘術時に同時に行われたリンパ節郭清術により治療成績が向上するのか あるいはリンパ節郭清術の郭清範囲によって成績が違うのかといった疑問に関して後ろ向きに検証します また 上部尿路癌の術後に は高率に膀胱内再発がみられることは前述のとおりですが その再発率を低減するために術後の膀胱内への抗癌剤注入療法が試みられています 今回の研究では 実際に膀胱内注入療法により再発が低減されていたのかを検討するとともに 膀胱内再発のリスク因子について解析します 26

MEMO 九州大学病院がんセンター 27

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