線毛円柱上皮の増生 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (1) 患者年齢 70 歳代性別男性検体種類 : 喀痰臨床所見 : 間質性肺炎の疑い 判定 陰性 細胞所見 中等度の炎症細胞浸潤を背景に 腺系と思われる細胞集塊を認める これらの細胞は 核は偏在性に位置し 核形は類円形 ~ 楕円形で大小不同性は見られず 核小体も目立たない ( 写真 1~3) また焦点深度を変えると 線毛と終末板の存在を確認でき ( 写真 3 矢印 ) 一部の細胞質には粘液様物質を認める 細胞質に粘液様物質を有する細胞が大半を占めるのであれば杯細胞の増生を考える根拠となるが 本症例においては少数であり線毛円柱上皮の増生と判断する 細胞診断のポイント 線毛円柱上皮細胞は気管支炎 肺炎などの炎症や喫煙などの外的刺激により集塊となって出現することが多い 腺癌との鑑別は 線毛や終末板の存在 核の大小不同や核縁不整などの核異型が乏しいこと 細胞の重積性が軽度であることなどである 1) 写真 1:Pap. 染色 40 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3:Pap. 染色 100 写真 4:HE 染色 100( 気管支上皮 )
杯細胞増生 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (2) 患者年齢 50 歳代性別男性検体種類 : 気管支肺胞洗浄液臨床所見 : 肺結核の既往あり 判定 陰性 細胞所見 細胞質に粘液様物質を持つ細胞を多数認める ( 写真 1) 細胞質はオレンジG 又はエオジンに淡染し 粘液産生が示唆されるため 組織球の集塊とは鑑別できる 核は粘液により圧排され偏在している ( 写真 2,3) 核は類円形で大小不同を認めない 核クロマチンは線毛円柱上皮細胞と比べても増量はなく 良性の杯細胞と推定できる 細胞診断のポイント 慢性気管支炎 気管支拡張症 喘息などのような慢性疾患や重度喫煙者に高い頻度にみられる 杯細胞を主体とし 線毛円柱上皮細胞が混在した細胞集塊として出現している 細胞質は粘液で充満し 核が一端に押しやられ偏在する 細気管支肺胞上皮型腺癌との鑑別を要することがあるが 注意深く観察すると増生した杯細胞集団の中に線毛を持つ細胞が確認されること 核クロマチンの増量や核形不整 核小体が目立たないことなどで鑑別できる 2) 写真 1:Pap. 染色 40 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3:Pap. 染色 100 写真 4:HE 染色 100( 気管支上皮 )
アスベスト小体 ( 石綿肺 ) 患者年齢 70 歳代性別男性検体種類 : 喀痰 ( 写真 1,2) 肺胞洗浄液( 写真 3,4) 臨床所見 : 建材会社勤務歴あり 判定 陰性 細胞所見 アスベスト小体は鉄アレイ状の形状をした物質で パパニコロウ (Pap.) 染色では黄褐色または黄緑色を呈する ( 写真 1~4) 細胞診断のポイント アスベスト小体は アスベスト繊維がヘモジデリン フェリチン 糖蛋白質の複合体により覆われたものであり これにより光顕で観察可能となる 2) 別名 含鉄小体 と呼ばれ 鉄染色( ベルリン青染色 ) 陽性 かくせんせき じゃもんせき AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (3) を示す 角閃石類では直線状になりやすく 蛇紋石類は細く屈曲した形状になる 2) 定義 概念 石綿肺は石綿 ( アスベスト ) の吸入による肺線維症であり 病理学的には石綿小体 ( アスベスト小体 ) あるいはアスベスト繊維の沈着を伴う肺の線維化である 3) アスベストは 中皮腫や扁平上皮癌の発生に関与する発癌物質と考えられている アスベストは自然界に存在する珪酸塩の集合体で 長さや太さの異なる繊維から構成される 大きさ 結晶構造 化学構成により針状の角閃石類 (Amphibole) と長くてしなやかな蛇紋石類 (Serpentine) の2 群に分類される 2) 代表的なものは青石綿( 角閃石類 クロシドライド ) 茶石綿( 角閃石類 アモサイト ) 白石綿 ( 蛇紋石類 クリソタイル ) で 発癌性は青石綿が一番高く 次いで茶石綿 白石綿の順である 3) 写真 1:Pap. 染色 100 写真 2: クロム酸シッフ反応 100 写真 3:Pap. 染色 100 写真 4:MG 染色 100
シャルコー ライデン結晶 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (4) 患者年齢 80 歳代性別男性検体種類 : 喀痰臨床所見 : 好酸球性肺炎の疑い 判定 陰性 細胞所見 シャルコー ライデン結晶は菱形八面体の結晶物質で パパニコロウ (Pap.) 染色では通常オレンジGやエオジンに好染し 赤橙色を呈色する ( 写真 1,2) 一部にはライトグリーン好性のものや( 写真 3,4) ライトグリーンおよびオレンジGの両方に染まるものなども見られる 細胞診断のポイント シャルコー ライデン結晶は 好酸球の顆粒に由来する結晶である 好酸球が崩壊するときに 細胞質内の顆粒が溶解し結晶化することによってできると考えられている 4) メイ ギムザ(MG) 染色 Pap. 染色の順に検出率が低下するといわれ 固定や染色の過程で結晶が溶けると考えられる 5) 気管支喘息の他に肺吸虫症や赤痢アメーバ性潰瘍性大腸炎など 好酸球が増加する疾患で見られることもある 定義 概念 シャルコー ライデン結晶は細胞診標本上では菱形に見えることが多いが 本来は無色 六角形の形状のため 六方菱形結晶 双錐体結晶 Charcot-Robin crystal arthus crystal などとも呼ばれる シャルコーとライデンはそれぞれ人の名前で シャルコーは Jean-Martin Charcot( フランスの神経科医 ) ライデンは Ernst Victor von Leyden( ドイツの内科医 ) に由来する 4) 写真 1:Pap. 染色 40 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3:Pap. 染色 40 写真 4:Pap. 染色 100
クルシュマン螺旋体 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (5) 患者年齢 70 歳代性別男性検体種類 : 喀痰臨床所見 : 慢性気管支炎の疑い 判定 陰性 細胞所見 クルシュマン螺旋体は 中心部がヘマトキシリンにより暗紫色に濃染した螺旋状の糸状構造物と 濃縮した粘液が混じって喀痰中に排出されたものである ( 写真 1~4) 細胞診断のポイント クルシュマン螺旋体の太さ 長さは様々であり 肉眼的に確認できるものまで喀出されることがある 5) 気管支喘息で見られることが多いが 肺癌 ( 写真 3,4) 慢性気管支炎 肺結核 肺気腫あるいは風邪でも見られ 疾患特異性はない 定義 概念 クルシュマン螺旋体は ドイツの内科医 Heinrich Curschmann が命名した喀痰中に出現する糸状の物質である クルシュマンの螺旋体の形成機序は 気管支粘液の分泌亢進により気管支内で貯留 停滞 濃縮した粘液が 気管支の呼吸運動や咳によって喀痰中に排出されることによるものである その際 狭くなった気管支気道を濃縮した粘液が口腔側へ排出される時に螺旋状を呈すると考えられている 写真 1:Pap. 染色 20 写真 2:Pap. 染色 40 写真 3:Pap. 染色 40( 別症例 ) 写真 3:Pap. 染色 100( 別症例 )
サイトメガロウイルス感染 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (6) 患者年齢 20 歳代性別女性検体種類 : 肺胞洗浄液臨床所見 : 胸部異常陰影 判定 陰性 細胞所見 サイトメガロウイルス (cytomegalovirus:cmv) 感染細胞は 単核 ~ 二核の大型細胞で核内に好酸性の大きな核内封入体が見られる 核内封入体の周囲はスリガラス様で抜けて見える ( フクロウの目(owl eye) 様といわれる )( 写真 1~4) 細胞質内にも封入体が見られるという報告もあるが 本症例でははっきりとしない 細胞診断のポイント CMV 感染細胞は単核 ~ 二核の特徴的な巨細胞封入体として観察される 単純ヘルペスウイルス (herpes simplex virus:hsv) 感染細胞で見られる多核化 ( 三核以上 ) やスリガラス様核 核の圧排像が見られることはまれである フクロウの目 (owl eye) 様の特徴的な核内封入体は 細胞の核内でウイルスが増殖した際に光学顕微鏡下で観察可能となる このような特徴的な形態を示している場合は診断が容易であるが 変性した細胞や腺癌との鑑別が必要な場合もある 定義 概念 CMV は DNA ウイルスであるヘルペスウイルス科に属し 学名を human herpesvirus type 5 :HHV-5 と称し 大型の DNA ウイルスであるヘルペスウイルスの中でもゲノムの大きさは最大級である CMV は多くのヒトが不顕性感染の状態にあるが 免疫不全状態ではしばしば日和見感染を起こし 重篤な病態となることがまれではない 6) 写真 1:Pap. 染色 20 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3:Pap. 染色 100 写真 4:HE 染色 100
単純ヘルペスウイルス感染 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (7) 患者年齢 70 歳代性別女性検体種類 : 気管内採痰臨床所見 : 胸部異常陰影 判定 陰性 細胞所見 単純ヘルペスウイルス (human simplex virus:hsv) 感染細胞は ライトグリーン好性で厚みの増した細胞質を有する大型細胞で 多核化や核の圧排像を呈している ( 写真 1~4) 核クロマチンは辺縁で凝集し 内部はスリガラス様またはオパーク様で 核内封入体を見る細胞も混在している ( 写真 4 矢印 ) 細胞診断のポイント HSV と HSV 以外のウイルス感染症 ( 水痘帯状疱疹ウイルス (vericella-zoster virus:vzv) 感染やサイトメガロウイルス (cytomegalovirus:cmv) 感染など ) との鑑別に免疫染色が有用である 形態学的には HSV 感染細胞は多核化やスリガラス様核 核圧排像が認められるが CMV 感染細胞は単核 ~ 二核の特徴的な巨細胞封入体として観察される点などで鑑別される また 肺の HSV 感染は比較的まれであるため 呼吸器材料に認めた場合は口腔の HSV 感染細胞の混入も考慮に入れ 口腔ヘルペスの検索も必要である 5) 定義 概念 HSV は DNA ウイルスであるヘルペスウイルス科に属し 1 型 (HSV-1 学名は human herpesvirus type 1: HHV-1) 2 型 (HSV-2 学名は human herpesvirus type 2:HHV-2) の 2 種がある 口唇ヘルペス ヘルペス口内炎 角膜炎 ヘルペス脳炎は HSV-1 の感染によるのに対して 性器ヘルペス 新生児全身 HSV 感染症は HSV-2 によることが多い 7) 写真 1:Pap. 染色 100 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3:Pap. 染色 100 写真 4:Pap. 染色 100
結核症 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会 2012.04 Ver1 細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (8) 患者年齢 20 歳代性別男性検体種類 : 気管支洗浄液臨床所見 : 胸部異常陰影 判定 陰性 細胞所見 リンパ球を背景に ラングハンス型巨細胞や類上皮細胞が混在する細胞集塊を認める ラングハンス型巨細胞では 核は細胞質の周辺部に花冠状に配列している ( 写真 1,2) 類上皮細胞は 紡錘形ないし不定形の淡く豊富な細胞質と長楕円形の核を有し 核縁は菲薄で核クロマチンの増加は認められない ( 写真 3) 組織診標本では 乾酪壊死巣を取り巻くように ラングハンス型巨細胞と類上皮細胞が増生する像が観察される ( 写真 4 別症例 ) 細胞診断のポイント 結核は Micobacterium tuberuculosis によって起こる慢性肉芽腫性炎症である 結核菌の感染により好中球の浸潤や壊死に始まり マクロファージとリンパ球が浸潤して 中心に壊死を生じる乾酪壊死を形成する 浸潤したマクロファージはTリンパ球により活性化されて類上皮細胞となり類上皮性肉芽腫を形成して壊死を取り巻き さらにその周囲を結合織が被膜様に取り囲んで初感染巣が形成される また 類上皮細胞の一部は細胞融合を起こしてラングハンス型巨細胞となる 8) サルコイドーシスでも ラングハンス型巨細胞や類上皮細胞を認めるが 乾酪壊死物を認めないことが鑑別点となる しかし 細胞診標本においては両者の鑑別が困難な場合も多い 9) 写真 1:Pap. 染色 20 写真 2:Pap. 染色 40 写真 3:Pap. 染色 40 写真 4:HE 染色 20( 別症例 )
アスペルギルス症 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (9) 患者年齢 60 歳代性別男性検体種類 : 気管支洗浄液臨床所見 : 胸部異常陰影 判定 陰性 細胞所見 背景には好中球を主とする炎症細胞の浸潤を見る ( 写真 1) その中にライトグリーンに淡染する幅約 5μ m の菌糸を認める ( 写真 2) この菌糸にはしっかりとした隔壁を認め カンジダの仮性菌糸のような真菌細胞間のくびれは見られず 真性菌糸と考えられる また 菌糸はY 字状に分岐して一定方向へ伸長増殖している アスペルギルスの菌糸を考える所見である グロコット染色により菌糸形態はより明瞭となる ( 写真 3) アスペルギルスは 肺空洞や気管支内腔など空気の豊富な部位で増殖した場合に 特徴的なホウキ状の分生子頭が形成される ( 写真 4) 細胞診断のポイント カンジダとの鑑別に迷う場合があるが カンジダの仮性菌糸は丸く細めで 菌糸と菌糸の接合部はくびれてウインナー状を呈し アスペルギルスの真性菌糸とは異なる像を呈する さらに カンジダでは菌糸につながる酵母様の菌体も観察されることから アスペルギルスとの鑑別は可能である 臨床所見 侵襲性アスペルギルス症は免疫機能が低下した宿主に日和見感染として発症し アスペルギルスの組織内浸潤をみる予後不良の疾患である 広域抗菌薬不応性の発熱 咳嗽 血痰 胸部 X 線像にて楔状陰影 胸部 CT 像にて halo sign や air crescent sign 血液検査にてβ-D-グルカン上昇 ガラクトマンナン抗原陽性を示した場合に本症例を疑う 10) 喀痰 気管支洗浄液 気管支肺胞洗浄液から真菌学的 病理学的にアスペルギルスを証明することで確定する 写真 1:Pap. 染色 40 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3: グロコット染色 100 写真 4:Pap. 染色 40( 別症例 )
クリプトコッカス症 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会 2012.04 Ver1 細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (10) 患者年齢 40 歳代性別男性検体種類 : 喀痰臨床所見 : アジソン病にて加療中 判定 陰性 細胞所見 好中球を背景に 大小不同の球状酵母様菌体を認める ( 写真 1) 菌体は 中心に大型の核 核周囲に狭い透明な細胞質 薄い細胞膜 オレンジ色の厚い細胞壁 最外層の莢膜をみる ( 写真 2) クロム酸シッフ反応やグロコット染色で細胞壁が陽性となる ( 写真 3,4) 多極出芽をみる大小不同の酵母様菌体を多数認める クリプトコッカスの特徴である涙滴状 (tear-drop) の出芽が確認できる ( 写真 3 矢印 ) 細胞診断のポイント クリプトコッカス症は 代表的な酵母型真菌である Cryptococcus neoformans を原因菌とする感染症である 7) 一般に 健常人に発症する原発性クリプトコッカス症では肺野に限局性の肉芽腫性病変を形成する この場合 真菌は多核組織球に貪食されて莢膜形成を欠き サイズも小型となる 7) 免疫力の低下した患者に発症する続発性クリプトコッカス症では浸潤性の病変を形成する 11) 莢膜とはクリプトコッカスの細胞壁の外側に形成されるゼラチン様の構造物のことをいい ヘテロ多糖類のグルクロマンナンが主成分であり 微細な線維を形成している パパニコロウ (Pap.) 染色では難染性であるため PAS 反応やアルシアンブルー染色 ムチカルミン染色などで証明する 写真 1:Pap. 染色 40 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3: クロム酸シッフ反応 100 写真 4: グロコット染色 100
ニューモシスチス症 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (11) 患者年齢 60 歳代性別男性検体種類 : 肺胞洗浄液臨床所見 : 間質性肺炎にて治療中 判定 陰性 細胞所見 パパニコロウ (Pap.) 染色では泡沫状の集塊内にみられる ( 写真 1,2) メイ ギムザ(MG) 染色では嚢子内小体を確認できる ( 写真 3) グロコット染色では嚢子壁が黒褐色に染まっている( 写真 4) 細胞診断のポイント ニューモシスチス症は Pneumocystis jirovecii を原因とする日和見感染症である Pneumocystis jirovecii は泡状の集塊に見えることが多く 孤在性にみることは稀である 強拡大にすると内部に顆粒状物質があるようにみえるものもある Pneumocystis jirovecii は球形 ~ 紡錘形の形状をした 8 個の嚢子内小体を有する Pap. 染色では顆粒状に見えたものが MG 染色では数個の嚢子内小体として確認できる 確定診断のためにはこの嚢子内小体を確認することが望ましい 嚢子内小体は標本を丹念に観察する必要があるため ニューモシスチス症を疑う場合にはグロコット染色でスクリーニングをする グロコット染色では栄養型や嚢子内小体は染まらないが 嚢子壁を褐色から黒褐色に染めるため 嚢子を見つけやすい また嚢子内に括弧状の構造物が染め出されることから 7)10) 他の真菌と鑑別が可能である 12) これを電顕で調べると 銀粒子は嚢子壁の電子密度の低い中間層に選択的に沈着し 括弧状の構造物として認識される 12) 写真 1:Pap. 染色 40 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3:MG 染色 100 写真 4: グロコット染色 100
硬化性血管腫 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (12) 患者年齢 20 歳代性別男性検体種類 : 術中腫瘤擦過臨床所見 : 健診にて胸部異常陰影を指摘 判定 陰性 細胞所見 泡沫細胞を背景に Ⅱ 型肺胞上皮に類似した類円形細胞が散在性およびシート状集塊として認められる これらの細胞は核異型が軽度で 核クロマチンの増量も認めない ( 写真 1) ライトグリーンに濃染する硝子化した間質を軸とする乳頭状集塊も見られる ( 写真 2) 硝子化した間質に沿って 類円形細胞と多角形細胞の 2 種類の細胞が見られる 細胞診断のポイント 肺硬化性血管腫は中年女性に好発し 胸部 X 線写真撮影で偶然発見される症例が多い 腺癌との鑑別は核の異型性が軽度であること 硝子化した間質を軸とした細胞集塊 細胞の種類や出現様式の多様性 ヘモジデリンを貪食した組織球の出現 など全体をよく観察することが重要である 定義 概念 病理組織学的には比較的小型で軽度クロマチン増量を伴うⅡ 型肺胞上皮に類似した類円形または立方形細胞が乳頭状あるいは乳頭腺管状に増殖する腫瘍で 間質にはやや大型でクロマチン増量が目立たない多角形細胞の増殖と硝子化を認める ( 写真 3) また 組織間腔には泡沫細胞の浸潤を認める( 写真 4) 肺硬化性血管腫は Liebow と Hubbell によって 1956 年に初めて記載された疾患であり 当初は血管性腫瘍であると考えられた しかし 現在ではⅡ 型肺胞上皮由来の上皮性腫瘍であると考えられている 13) 写真 1:Pap. 染色 40 写真 2:Pap. 染色 40 写真 3:HE 染色 10 写真 4:HE 染色 40
過誤腫 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (13) 患者年齢 40 歳代性別男性検体種類 : 術中腫瘤擦過臨床所見 : 健診にて胸部異常陰影を指摘 判定 陰性 細胞所見 軟骨基質様の線維性結合織成分と共に 異型のない円柱上皮細胞を散在性およびシート状集塊として認める ( 写真 1,2) 軟骨基質様成分の間に 少数の異型のない円柱上皮細胞を認める( 写真 3) 細胞診断のポイント 過誤腫は肺の良性の腫瘤形成性病変の中で頻度は高く 肺末梢の胸膜直下に見ることが多い 細胞診では軟骨基質様の線維成分 軟骨細胞 円柱上皮細胞と脂肪細胞などが見られる 軟骨基質様の線維性結合組織の出現は過誤腫の最も特徴的な所見であり 診断的価値が高いとされている ただし 軟骨成分しか見られない場合は肋軟骨や気管支軟骨由来の可能性もあるので 円柱上皮細胞や脂肪細胞などの混在を確認する必要がある 写真 1:Pap. 染色 10 写真 2:Pap. 染色 40 写真 3:Pap. 染色 40 写真 4:HE 染色 20
糞線虫 AiCCLS 愛知県臨床検査標準化協議会 2012.04 Ver1 細胞診アトラス 呼吸器シリーズ (14) 患者年齢 80 歳代性別男性検体種類 : 喀痰臨床所見 :HTLV-1 陽性多発性筋炎にてステロイド治療中 判定 陰性 細胞所見 異型のない扁平上皮細胞とともに虫体を認める ( 写真 1~3) 虫体( 写真 4 矢印 ) の周囲に肉芽形成と好酸球浸潤を認める ( 写真 4) 虫体の頭部は丸く 尾部は尖っていることが特徴である 細胞診断のポイント 症例は多発性筋炎のステロイド治療の過程で日和見感染として発症した重症糞線虫感染症である 喀痰細胞診でのラブジチス型幼虫が発見されたことが診断の契機となった 本症例は 長崎県五島の出身であること HTLV-1 陽性であることなどが糞線虫感染の背景因子となっている 幼虫はずんぐりとした形態でラブジチス型幼虫とよばれ 砂時計様の食道 ( 短い食道 ) が特徴的である 成虫は 2.2~2.5 0.04~0.06mm の大きさで雌しか検出されない 体型はフィラリア型をとり 長円筒型の食道が体の 1/3 前方を占め 尾部は尖っている 定義 概念 成虫は十二指腸および空腸の粘膜および粘膜下層に寄生する 産出された卵は腸管内腔で孵化し ラブジチス型幼虫を放出し 大部分は糞便中に排出される 土壌中で数日間生息後に感染性のフィラリア型幼虫に発育する 鉤虫と同様に 糞線虫の幼虫は人の皮膚を貫通し 血流を介して肺に移行し 肺毛細血管を突き破って気道を上行 飲み込まれて腸に達し 約 2 週間で成熟する 写真 1:Pap. 染色 100 写真 2:Pap. 染色 100 写真 3:MG 染色 100 写真 4:HE 染色 40
参考文献 1) 坂本穆彦 : 細胞診を学ぶ人のために第 4 版, 医学書院, 東京,2009 2) Ulrich Costabel 監訳長井苑子ほか : 気管支肺胞洗浄 [BAL] アトラス, 金芳堂, 京都,1995 3) 亀井敏明ほか : アトラス細胞診と病理診断, 医学書院, 東京,2010 4) 坂本穆彦 : 臨床細胞診断学アトラス, 文光堂, 東京,1993 5) 那須勝ほか : 新臨床検査技師講座 11 微生物学 臨床微生物学第 3 版, 医学書院, 東京, 1992 6) 堤寛 : 感染症病理アトラス, 文光堂, 東京,2000 7) 西国広ほか : 細胞診のすすめ方, 近代出版, 東京,2012 8) 澤井高志ほか : エッセンシャル病理学, 医歯薬出版, 東京,2000 9) 平成 23 年度愛知県臨床検査精度管理総括集 10) 渋谷和俊ほか : 深在性真菌症病理診断アップデートレビュー, 協和企画, 東京,2012 11) 社本幹博ほか : 細胞診断学入門, 名古屋大学出版会, 愛知,2001 12) 吉田幸雄 :AIDS の日和見感染 -ニューモシスチス カリニ-, 臨床と微生物 16 巻,26-29, 近代出版, 東京,1989 13) 向井清ほか : 外科病理学 Ⅰ[ 第 4 版 ], 文光堂, 東京,2006
謝辞 この細胞診アトラスを作成するにあたり 愛知県立大学看護学部教授越川卓先生に 多大なご協力を頂きましたことをこの場で深く感謝いたします ガイドライン作成委員会 ( 病理細胞検査 ) - 呼吸器シリーズ (1)~(14)- 監修 越川卓 ( 愛知県立大学看護学部 ) 作成委員長榊原沙知 ( 豊橋市民病院 ) 作成委員 角屋雅路 ( 知多市民病院 ) 作成委員 南谷健吾 ( 名古屋記念病院 ) 作成委員 内田一豊 ( 豊橋市民病院 ) 作成委員 大嶽宏幸 ( 西尾市民病院 ) 作成委員 中村広基 ( 西尾市民病院 ) 作成委員 田中浩一 ( 豊田厚生病院 ) 作成委員 藤田智洋 ( 小牧市民病院 ) 作成委員 宮地努 ( 中部労災病院 ) 作成委員 吉森之恵 ( トヨタ記念病院 ) 協力愛知県臨床細胞学会細胞検査士部会 問い合わせ先愛知県臨床検査標準化協議会事務局 450-0002 名古屋市中村区名駅五丁目 16 番 17 号花車ビル南館 1 階公益社団法人愛知県臨床検査技師会事務所内 Tel 052 581-1013 Fax 052 586-5680 愛知県臨床検査標準化協議会 愛知県臨床検査標準化ガイドライン 細胞診アトラス - 呼吸器シリーズ (1)~(14)- 発行 平成 27 年 月 発行所愛知県臨床検査標準化協議会 発行者伊藤宣夫 編集者所嘉朗 内田一豊 榊原沙知