波診断装置がデジタル化され 高周波プローブが出現したことによって CT MRIを上回る高分解能画像が容易に得られるようになり リアルタイムに運動器の損傷状態 動態 血流 組織弾性の評価が可能になった ( 図 1) また 他の診断機器と違い超音波診断装置は移動性に優れ 診察室や検査室内だけでなく病室や

Similar documents
10035 I-O1-6 一般 1 体外衝撃波 2 月 8 日 ( 金 ) 09:00 ~ 09:49 第 2 会場 I-M1-7 主題 1 基礎 (fresh cadaver を用いた肘関節の教育と研究 ) 2 月 8 日 ( 金 ) 9:00 ~ 10:12 第 1 会場 10037

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

インスリン局所注射部の 表在超音波検査について

0. はじめに 当院でこれまで行ってきたメディカルチェックでは 野球選手のケガに対するアンケート調査も行 ってきました (P.4 表 1 参照 ) アンケート調査で 肘 ( ひじ ) の痛みを訴えていた選手は 高校生で 86.7% 小学生で 41.1% でした また 小学生に対しては 超音波 ( エ

日本臨床麻酔学会 vol.33

Microsoft PowerPoint - 【逸脱半月板】HP募集開始150701 1930 2108 修正反映.pptx

対象 :7 例 ( 性 6 例 女性 1 例 ) 年齢 : 平均 47.1 歳 (30~76 歳 ) 受傷機転 運転中の交通外傷 4 例 不自然な格好で転倒 2 例 車に轢かれた 1 例 全例後方脱臼 : 可及的早期に整復

5 月 22 日 2 手関節の疾患と外傷 GIO: 手関節の疾患と外傷について学ぶ SBO: 1. 手関節の診察法を説明できる 手関節の機能解剖を説明できる 前腕遠位部骨折について説明できる 4. 手根管症候群について説明できる 5 月 29 日 2 肘関節の疾患と外傷 GIO: 肘関節の構成と外側

であった まず 全ての膝を肉眼解剖による解析を行った さらに 全ての膝の中から 6 膝を選定し 組織学的研究を行った 肉眼解剖学的研究 膝の標本は 8% のホルマリンで固定し 30% のエタノールにて保存した まず 軟部組織を残し 大腿骨遠位 1/3 脛骨近位 1/3 で切り落とした 皮膚と皮下の軟

の内外幅は考慮されず 側面像での高さのみで分類されているため正確な評価ができない O Driscoll は CT 画像を用いて骨片の解剖学的な位置に基づいた新しい鉤状突起骨折の分類を提案した この中で鉤状突起骨折は 先端骨折 前内側関節骨折 基部骨折 の 3 型に分類され 先端骨折はさらに 2mm

第2回神戸市サッカー協会医科学講習会(PDF)F.pptx

大腿骨頚部骨折


(4) 最小侵襲の手術手技である関節鏡視下手術の技術を活かし 加齢に伴う変性疾患に も対応 前述したようにスポーツ整形外科のスタッフは 日頃より関節鏡手技のトレーニングを積み重ねおります その為 スポーツ外傷 障害以外でも鏡視下手術の適応になる疾患 ( 加齢変性に伴う膝の半月板損傷や肩の腱板断裂など

運動器検診マニュアル(表紙~本文)

スライド 1


膝蓋大腿関節 (PFJ) と大腿脛骨関節 (FTJ) Femur Tibia Patella

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

H1

untitled

_2015_5月号_別刷.indd

K06_アウトライン前.indd

岐阜医療技術短期大学紀要 後節とよぶ 内側半月板の前節は後節より小さいの 第 16 号 2000 A B c D が特徴であるが, 逆に後節が前節よりも小さい とき は, 後節の 変性, 断裂が疑われる 外側半月板の前 節と後節は同じ大きさである 冠状断面は内側側副 靭帯と外側側副靭帯を結んだ線に平

< AE8C608A4F89C836362D322E696E6462>

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

第 43 回日本肩関節学会 第 13 回肩の運動機能研究会演題採択結果一覧 2/14 ページ / ポスター会場 第 43 回日本肩関節学会 ポスター 運動解析 P / ポスター会場 第 43 回日本肩関節学

Microsoft Word - HP用 同意書・説明書 130121

採択演題一覧

PowerPoint Presentation

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

椎間板の一部が突出した状態が椎間板ヘルニアです 腰痛やあしに痛みがあります あしのしびれやまひがある場合 要注意です 対応 : 激しい運動を控えましょう 痛みが持続するようであれば 整形外科専門医を受診して 検査を受けましょう * 終板障害 成長期では ヘルニアとともに骨の一部も突出し ヘルニア同様

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

整形外科後期臨床研修プログラム


018_整形外科学系

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

なるほどそうだったのか! シリーズ vol.10 1 骨盤骨折の診断まずは 骨盤骨折 を疑うことです 通常の JATEC の手順で診察を行います 患者さんの訴えや病歴からある程度の 当たり をつけておくことも可能な場合があります しかしながら 骨盤ばかりに気を取られていて 他の重症損傷を見逃すことが

2014年4月改定対応-画像診断

Microsoft PowerPoint - ★総合判定基準JABTS 25ver2ppt.ppt

000-はじめに.indd

関節リウマチ関節症関節炎 ( 肘機能スコア参考 参照 ) カルテNo. I. 疼痛 (3 ) 患者名 : 男女 歳 疾患名 ( 右左 ) 3 25 合併症 : 軽度 2 術 名 : 中等度 高度 手術年月日 年 月 日 利き手 : 右左 II. 機能 (2 ) [A]+[B] 日常作に

連続講座 画像再構成 : 臨床医のための解説第 4 回 : 篠原 広行 他 で連続的に照射する これにより照射された撮像面内の組織の信号は飽和して低信号 ( 黒く ) になる 一方 撮像面内に新たに流入してくる血液は連続的な励起パルスの影響を受けていないので 撮像面内の組織よりも相対的に高信号 (

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

桜町病院対応病名小分類別 診療科別 手術数 (2017/04/ /03/31) D12 D39 Ⅳ G64 女性生殖器の性状不詳又は不明の新生物 D48 その他及び部位不明の性状不詳又は不明の新生物 Ⅲ 総数 構成比 (%) 該当無し Ⅰ 感染症及び寄生虫症 Ⅱ 新生物 C54 子宮体部

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

44_

BMP7MS08_693.pdf

2012 年度リハビリテーション科勉強会 4/5 ACL 術後 症例検討 高田 5/10 肩関節前方脱臼 症例検討 梅本 5/17 右鼠径部痛症候群 右足関節不安定症 左変形性膝関節症 症例検討 北田 月田 新井 6/7 第 47 回日本理学療法学術大会 運動器シンポジウム投球動作からみ肩関節機能

アクソス ロッキングプレート カタログ

untitled

01.PDF

2-1整形.doc

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」


それでは具体的なカテーテル感染予防対策について説明します CVC 挿入時の感染対策 (1)CVC 挿入経路まずはどこからカテーテルを挿入すべきか です 感染率を考慮した場合 鎖骨下穿刺法が推奨されています 内頚静脈穿刺や大腿静脈穿刺に比べて カテーテル感染の発生頻度が低いことが証明されています ただ

P01-16

Microsoft PowerPoint - 膝のリハビリ 3.12 配布用.pptx

退院患者数 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 合計 24 年度 年度

はじめに 転位の大きな大腿骨頚部骨折は, 高エネルギー外傷によっておこることや, 合併症の多い人におこることが多く, 治療も難しい

2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1508目次.indd

核医学分科会誌

m A, m w T w m m W w m m w K w m m Ⅰはじめに 中手指節関節 以下 MP関節屈曲位でギプス固定を行い その直後から固定下で積極的に手指遠位指 節間関節 以下 DI P関節 近位指節間関節 以下 PI P関節の自動屈伸運動を行う早期運動療法 以下 ナックルキャストは

小児外科学 (-Pediatric Surgery-) Ⅰ 教育の基本方針小児外科は 子供 (16 歳未満 ) の一般外科と消化器外科を扱う科です 消化器 一般外科学並びに小児外科学に対する基礎医学から臨床にわたる幅広い知識をあらゆる診断 治療技術を習得し 高い技術力と探究心及び倫理観を兼ね備えた小

情報提供の例

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

PowerPoint プレゼンテーション

2011ver.γ2.0

肩関節第35巻第3号

saisyuu2-1

かかわらず 軟骨組織や関節包が烏口突起と鎖骨の間に存在したものを烏口鎖骨関節と定義する それらの出現頻度は0.04~30.0% とされ 研究手法によりその頻度には相違がみられる しかしながら 我々は骨の肥厚や軟骨組織が存在しないにも関わらず 烏口突起と鎖骨の間に烏口鎖骨靭帯と筋膜で囲まれた小さな空隙

1-A-01-胸部X線写真の読影.indd

2/10 平成 23 年 12 月 31 日現在のスタッフは 常勤医 4 名 専攻医 5 名 計 9 名 名古屋大学医学部整形外科教室と連携して人事の交流を行っている 一般外来は新患 再来とも各 1 診で毎日行い 専門外来は小児整形外科 脊椎外科 関節外科 手の外科 リウマチ科 外傷科の専門医が週に

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡


TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

大腸ESD/EMRガイドライン 第56巻04号1598頁

単頁出力用id6.indd

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

原因は不明ですが 女性に多く 手首の骨折後や重労働を行う人に多く見られます 治療は安静や飲み薬で経過を見ますが しびれが良くならない場合 当科では 小さな傷で神 経の圧迫をとる手術を行っており 傷は 3 ヶ月ぐらい経過するとほとんど目立ちません 手術 時間は約 30 分程度ですが 抜糸するのに約 1

第1 総 括 的 事 項

2009年8月17日

2015 年度手術のうちわけ ( 実績 ) セキツイ脊椎 ナンブソシキ軟部組織 椎間板摘出術 35 アキレス腱断裂手術 40 内視鏡下椎間板摘出 4 腱鞘切開術 ( 関節鏡下によるものを含む ) 0 シュコンカン 脊椎固定術 椎弓切除術 椎弓形成術 ( 多椎間又は多椎弓の場合を含む )( 椎弓形成

手関節骨折治療CI_f.indd

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

Ø Ø Ø

靭帯付 関節モデル ( 全 PVC 製 ) AS-6~AS-12 骨格の靭帯部分を 個別関節モデルとしてお買い求め頂けます 弊社カタログでは多くの選択肢の提案に努めています ご希望に合わせてお選び下さい ( 経済型関節モデル靭帯付 AJ-1~7 も良品です )

PICC 挿入手順サマリー 詳細は各手順のページで解説されています 1 体位は仰臥位 できるだけ上腕を外転させる この体位で, 消毒をする前に穿刺する静脈をエコーで同定しておく (p.47) 3 ニードルガイドに穿刺用針を装着する (p.51) 消毒して覆布をかけ, エコープローブに

総合診療

本研究の目的は, 方形回内筋の浅頭と深頭の形態と両頭への前骨間神経の神経支配のパターンを明らかにすることである < 対象と方法 > 本研究には東京医科歯科大学解剖実習体 26 体 46 側 ( 男性 7 名, 女性 19 名, 平均年齢 76.7 歳 ) を使用した 観察には実体顕微鏡を用いた 方形

H23.03医学会誌_矢野浩明.indd

Yonago Medical Center Magazine ARCUS #20 May 2018

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - SyngoFastView_VX57G27.doc

,

中学校健康診断における運動器検診の成績と課題 * 德村光昭 * 田中祐子 木村奈々 * * 合田味穂 * 井ノ口美香子 * 康井洋介 今野はつみ * * 川合志緒子 * 糸川麻莉 * 室屋恵子 学校保健安全法には, 学校健康診断において脊柱, 胸郭の異常に加えて, 骨, 関節の異常および四肢運動障害

健康た?よりNo106_健康た?より

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

耐性菌届出基準

Transcription:

論文 運動器超音波の新時代が到来 The New Age of Musculoskeletal Ultrasound Has Come 高橋周 Shu Takahashi 気仙沼市立病院整形外科 運動器疾患の画像診断としては単純 X 線写真 CT MRIが広く普及しており 詳細な画像診断には CT MRIが用いられる しかし 機器の価格 検査料ともに高額であり 検査の待ち時間の長さや被曝の問題から短期間での繰り返し検査ができないのが現状である 近年の著しい技術開発により超音波診断装置がデジタル化され 高周波プローブが出現したことによって CT MRI を上回る高分解能画像が容易に得られるようになり リアルタイムに運動器の損傷状態 動態 血流 組織弾性の評価が可能になった 整形外科分野の診療における超音波画像診断の有用性について述べる For the diagnostic imaging of musculoskeletal disease, plain X-ray, CT and MRI are widely performed. Because of the cost, X-ray exposure and waiting period, it is difficult to repeat the inspection. In recent years, high-quality ultrasound imaging technologies were developed. Real-time imaging of bone and joint disease has become possible. In this paper, I describe the usefulness of musculoskeletal sonography. Key Words: Musculoskeletal Disease, Sonography, Fracture, Soft Tissue Damage, Medical Check 1. はじめに 運動器疾患の画像診断としては 単純 X 線写真 CT MRI が広く普及しており 臨床現場ではそれぞれの特徴に応じた使い分けがされてきた 単純 X 線写真は現在整形外科分野における画像診断の first choiceである 単純 X 線像は 3 次元の運動器構成体を X 線を利用し 2 次元に投影した平面像であるため 数方向から撮像して 3 次元の構造を推測する ( 読影する ) 従って読影力の違いによって得られる情報も大きく異なる このような読影者による差を解消し より多くの情報が得られる画像診断装置として CT MRIがある CTはX 線を用い 断面を細かく撮像し 任意の断面を再構築したり 3 次元再構築像を得 ることができる MRIは磁力を利用し 骨 軟骨 筋 腱 靱帯 神経 血管の任意断面を得ることができるため 有用な画像診断である しかし いずれも機器の価格 検査料ともに高額であり 検査までの待ち時間の長さや被曝の問題から短期間での繰り返し検査ができず 病態を把握するのに不十分である また運動器の疾患はその名前の通りその動きに問題があることが多く 従来の画像診断法は静止状態に焦点を当てていることから運動器の動きを観察することは困難が多かった 運動器疾患の画像診断に超音波診断装置が使われ始めたのは 1980 年代からである 近年の著しい技術開発により超音 32 MEDIX VOL.50

波診断装置がデジタル化され 高周波プローブが出現したことによって CT MRIを上回る高分解能画像が容易に得られるようになり リアルタイムに運動器の損傷状態 動態 血流 組織弾性の評価が可能になった ( 図 1) また 他の診断機器と違い超音波診断装置は移動性に優れ 診察室や検査室内だけでなく病室や往診先での検査 手術室での神経ブロック時の使用 スポーツ現場での活用などさまざまな分野 場面で使用できる いる ( 図 2) 身体所見を取りながらプローブをあてることにより 必然的に詳しい診察となり 漠然とした圧痛部位ではなく圧痛点を的確に捉えることができる はじめに X 線ありきの外来診察 から脱却し 内科医の聴診器 のようにリアルタイムに無侵襲で診断できる超音波診断装置を利用する 超診 を行うようにしている a: アキレス腱踵骨付着部 ( 旧機種 ) b: アキレス腱踵骨付着部 ( 新機種 ) 図 2: 当院整形外科外来診察室 c: 肘関節前面横断像 ( 旧機種 ) d: 肘関節前面横断像 ( 新機種 ) 3. 骨折の診断 超音波画像診断は骨には向かない 骨は見えない などの評判が多い このような評判は 皮質骨表面でほとんどの超音波が反射されるので骨内病変や骨より深い場所の診断は困難であることからの評価であろう しかし このことは逆に骨表面から多くの超音波信号がプローブへ戻ってくるということであり 骨表面の微細な変化を捉えることは単純 X 線写真より非常に優れている e:eub-7500 図 1: 新旧超音波診断装置の画像比較新機種 日立メディコ社製 EUB-7500 と約 10 年前発売の旧機種を使い同一被検者の画像を描出 (1) 肋骨骨折 ( 図 3) 超音波画像診断が有用な例としては肋骨骨折がある 外来診療をしていると 症状や圧痛等の所見から臨床的には肋骨骨折を考えるが 単純 X 線写真では骨折がはっきりしないことが多い 超音波画像診断装置を用いて肋骨骨折を観察すると 骨皮質の段差 骨表面の血腫を確認することができる 2. 整形外科外来での利用 従来の外来診療では 問診後に単純 X 線写真を撮像し その後で身体所見を取ることが多かった ( はじめに X 線ありきの外来診察 ) 外来を効率よく進めるためには このような方法は有用であるが 不必要な単純 X 線写真が撮像されていることは事実である 当院の整形外科外来では 診察室に超音波診断装置を導入し身体所見を取りながら その場で超音波画像診断を行って a 図 3: 肋骨骨折 a: 肋骨の縦断像 (A) 骨皮質の段差が観察される b: 肋骨の縦断像 (B) ごくわずかな角状変形部表面に低エコーを示す血腫が観察される b MEDIX VOL.50 33

(2) 舟状骨骨折 ( 図 4) 単純 X 線写真で見逃されやすい外傷の 1つに舟状骨骨折がある 超音波診断装置を使用すると骨折部位の皮質骨の不連続性 骨折部に生じる血腫 ( 低エコー像 ) が観察される (4) 骨折の治癒過程 ( 図 6) 骨折治療の経過観察は単純 X 線写真で行われることが多い 超音波画像診断を加えることにより より早期に仮骨形成を確認できるほか 骨折部周囲の軟部組織の変化を詳細に観察することができる a: 受傷直後骨皮質の段差とその表面に低エコーを呈する血腫が観察される a:longitudinal image : 橈骨 #: 舟状骨矢印 : 骨折部 b: 受傷 1 週間後血腫の内部に高エコーを呈する仮骨が観察される 同日撮像した X 線写真では仮骨形成は観察できない b:coronal image : 橈骨 #: 舟状骨矢印 : 骨折部 R: 橈骨動脈 c: 受傷 3 週間後表面の血腫が消退し 仮骨形成が進行している 図 6: 骨折の治癒過程 ( 足関節外果骨折 ) c:ct 矢状断再構築像矢印 : 骨折部 図 4: 舟状骨骨折 (3) 骨端線損傷 ( 図 5) d: 単純 X 線像矢印 : 骨折部 転位のない骨端線損傷を単純 X 線写真で診断することは困 難であり 圧痛の強さ等で判断されることが多いが 超音波 画像では骨端線部の血腫の存在で診断ができる (5) 大腿骨頸部不全骨折 ( 図 7) 高齢者が転倒し股関節部の疼痛により歩行困難な場合 大腿骨頸部骨折や転子部 転子下骨折を疑う 大体は単純 X 線写真で診断がつくが 不全骨折の場合 MRIやCT 等の画像診断が必要な場合がある 超音波診断装置を用い大腿骨頸部を観察することにより 不全骨折を診断することができる 図 5: 骨端線損傷骨端線表面に低エコーを呈する血腫 ( 黄色線で囲まれた部分 ) が観察される 図 7: 大腿骨頸部不全骨折単純 X 線写真では骨折線が不明な症例 黄色線で囲まれた部位に低エコーを呈する血腫が観察される #: 大腿骨頭 : 大腿骨頸部 34 MEDIX VOL.50

4. 軟部組織病変の診断 単純 X 線写真による画像診断は骨の変化 ( 靱帯付着部の剥離骨折や骨棘 骨嚢包の出現等 ) や骨同士の距離の変化などを用いて軟部組織の変化を診断していた 単純 X 線写真で診断できない場合には CTやMRIを依頼するが 被曝や検査までの待ち時間が長い等の問題があった 超音波診断装置は腱 靱帯 軟骨 神経 血管等の軟部組織の描出に優れており 診察室でリアルタイムに診断ができる (1) 膝内側側副靭帯損傷 ( 図 8) 膝内側側副靭帯は浅層線維と深層線維で構成される 超音波画像診断ではこの両者を鮮明に判別ができる また 観察をしながら膝関節に外反ストレスを加えることにより 関節不安定性を評価することができる 定する方法や補助的に放散痛を確認しながらの方法 神経刺激装置により神経を同定する方法で行われてきた また 局所麻酔薬の広がりを確認するために造影剤と X 線透視装置が用いられることもあった このような方法では 試行錯誤での穿刺が繰り返され 患者に多くの苦痛を与えるうえ ブロックに要する時間も長く 最終的にブロック針の位置や局所麻酔薬の注入が不正確となり成功率も低かった 近年の超音波診断装置は空間分解能に優れ 血管 神経 筋等の描出が鮮明であるので 末梢神経ブロックに超音波診断装置を用いることにより これまでの問題点の多くを解決することが可能になった (1) 腕神経叢ブロック ( 鎖骨上アプローチ )( 図 10) これまでのKulenkampff 法ではまず第 1 肋骨に針をあてて 神経に放散痛が出る位置を探したが まれにそのまま針が肺に進み気胸を合併することがあった このため斜角筋間法や腋窩法と比較して難しい 危険という印象があったが 超音波診断装置を利用することにより安全性が飛躍的に向上した 図 8: 膝内側側副靭帯損傷 ( 深層 ) 内側側副靭帯浅層線維 (#) は fibrillar pattern の乱れが無いが 深層線維は矢印の部分で不規則な低エコー像を呈し 損傷を示す像である : 大腿骨 : 半月板 (2) 半月板損傷 ( 図 9) 半月板は高エコーの三角形として描出される 半月板断裂症例では 半月板実質内に断裂を示す線状の低エコー像を認める a: 内側半月板損傷 図 9: 膝半月板損傷高エコーを呈する半月板実質内に断裂を示す線状の低エコー像が観察される : 大腿骨 #: 脛骨 5. 手術室での利用 社会の高齢化につれて合併症の多い症例が増加しており 骨接合等の手術を行う際に全身麻酔をかけることが躊躇される あるいは全身麻酔が行えない症例が増加している そういう症例の麻酔として神経ブロックが注目されている 従来の末梢神経ブロックは体表の解剖学的指標を頼りに神経を同 b: 外側半月板損傷 図 10: 腕神経叢ブロック ( 鎖骨上アプローチ ) 鎖骨上窩で鎖骨に対してほぼ平行に超音波プローブをあてる 鎖骨下動脈 (#) は円形に近い拍動性の低エコー領域として描出される その外側に腕神経叢がブドウの房状に描出される ( 黄色の点線囲まれた範囲 ) 鎖骨下動脈と腕神経叢の下方にある高エコー性のラインは第 1 肋骨と胸膜である 外側からブロック針を平行法で刺入し局所麻酔薬を注入する 6. 運動器検診での利用 日本整形外科学会が提唱する 運動器の 10 年世界運動 の重要項目の 1つとして学校運動器検診がある 高齢になっても健康な運動器を保つためには 成長期から正常な運動器の発育を助け スポーツ障害を予防することが必要であり 運動器疾患を早期に発見するためには学校運動器検診が不可欠である 現在はモデル地域で行われている学校運動器検診を行っていく上で 超音波診断装置を活用することは検診精度を上げることにつながる X 線や強力な磁力を使用しないため特殊な遮蔽を必要とせず 児童生徒にも無侵襲であることが重要であり Osgood-Schlatter 病や上腕骨小頭障害 ( 外側型野球肘 ) に代表される成長期特有の疾病や運動器の部位別成 MEDIX VOL.50 35

長度を正確に把握することにより 成長期運動障害の予防に 有用である また 野球肘の予防 早期発見を目的とした野球 検診でも近年超音波診断装置が使われ始めた ( 図 11) 1)2) 図 11: 野球肘検診での超音波診断装置の使用 7. スポーツ現場での利用スポーツチームの帯同ドクターや大会ドクターは練習中や試合中の外傷発生や障害悪化現場に立ち会うことが多い 身体所見を取ることは診断 治療を進めるにあたり重要であるが 画像診断が必要であることが多い 海外や地方都市遠征中は現地で十分な画像診断を受けることができず 重症度の把握や治療に苦労することが多い 近年ポータブル型の超音波診断装置が開発され フィールドでの使用が可能となった ( 図 12) 3) 図 12: ポータブル型超音波診断装置 MyLab25 参考文献 1) 高橋周, ほか : 学童期における脛骨粗面部の発育特徴について- 超音波診断装置を用いたメディカルチェック -. 日整会誌, 81(4): S537, 2007. 2) 山口睦弘, ほか : 少年野球肘検診への超音波検診導入の意義. 超音波検査技術, 32(3): 382, 2007. 3) 高橋周, ほか : トップレベルのテニス選手における筋障害の超音波画像診断 -テニス大会でのポータブル超音波診断装置の使用経験 -. 整スポ会誌, 27(1): 57, 2007 36 MEDIX VOL.50