268 皮膚癌 手術では大きな欠損を生じる腫瘤径の大きな悪性黒子型黒色腫に対して放射線治療が行われることがある 1) リンパ節に対する予防照射や術後照射は適応に関して議論のあるところであるが,MDACCでは病期 Ⅱ,Ⅲ に対して施行している 2) 骨転移や脳転移に対しては姑息的照射が一般的に行われて

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33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

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114 頭頸部 Ⅹ. 舌癌 1. 放射線療法の目的 意義舌癌は口腔領域 ( 舌, 口腔底, 頬粘膜, 歯肉 歯槽, 硬口蓋 ) に発生する癌のうち 約 50% を占める 舌は構音 摂食 嚥下と深く関わる臓器であり, 機能 形態の温存に優れる放射線治療のよい適応領域である 幸い舌組織は粘膜下が筋組織で

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70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

本文

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9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

が 6 例 頸部後発転移を認めたものが 1 例であった (Table 2) 60 分値の DUR 値から同様に治療後の経過をみると 腫瘍消失と判定した症例の再発 転移ともに認めないものの DUR 値は 2.86 原発巣再発を認めたものは 3.00 頸部後発転移を認めたものは 3.48 であった 腫瘍

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

170 消 化 器 2. 病 期 分 類 による 放 射 線 療 法 の 適 応 2 cm 以 下 でリンパ 節 転 移 や 遠 隔 転 移 のない 腫 瘍 (T1N0M0)は 放 射 線 治 療 単 独 で 治 療 する 2 cmを 超 える 腫 瘍 については5 FUとマイトマイシンCの 化 学

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

59 2. 病期分類による放射線療法の適応腫瘍の切除範囲を定義した Simpson grade 分類とその再発率を表 2 に示す 1) 術後照 射では, 残存腫瘍や未処置におわった硬膜付着部に対しての照射が考慮される 通常分割外照射による術後照射は, 腫瘍増殖の抑制に有効であり, 生存期間の延長をも

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教育講演 放射線治療における位置的不確かさの影響 ずれるとどうなる 都島放射線科クリニック / 大阪大学塩見浩也 放射線治療を確実に施行するためには, 安全なマージンの設定が不可欠である. ターゲットの設定は,ICRU report 50, 62 3) で規定されている肉眼的腫瘍体積 (GTV; g

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を優先する場合もあります レントゲン検査や細胞診は 麻酔をかけずに実施でき 検査結果も当日わかりますので 初診時に実施しますが 組織生検は麻酔が必要なことと 検査結果が出るまで数日を要すること 骨腫瘍の場合には正確性に欠けることなどから 治療方針の決定に必要がない場合には省略されることも多い検査です

頭頸部扁平上皮がん術後再発高危険症例における術後化学放射線同時併用療法の検討

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

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原 著 放射線皮膚炎に対する保湿クリームの効果 耳鼻科領域の頭頸部照射の患者に保湿クリームを使用して * 要旨 Gy Key words はじめに 1 70Gy 2 2 QOL

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骨軟部腫瘍 はじめに 九州大学病院では 整形外科が中心となり骨や軟部組織に発生した腫瘍 ( 骨軟部腫瘍 ) の治療を行っており 血液腫瘍内科 放射線科 外科 小児科 小児外科 皮膚科などの協力を得て集学的治療による悪性骨軟部腫瘍患者さんの生命予後の改善と 整容性と機能性に優れた患肢温存治療の実践に大

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

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6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

9章 その他のまれな腫瘍

切に行われていれば 概して3つの治療法の中でもっとも負担が軽いと思われます 外科手術では 外貌の変形や機能障害をともなうことがどうしてもあり 特に頭頸部や四肢においてはこれらの問題が起こりやすいことから 放射線治療が良い適応となります 4) 外科手術との併用外科手術における腫瘍切除の理想的目標は 悪

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

196 泌尿器 Ⅱ. 前立腺癌 外部照射 1. 放射線療法の目的 意義前立腺癌の放射線治療は大きな進歩をとげ, 前立腺に線量を集中し, その周囲への被曝を低減する種々の技術が開発された 我が国でも三次元原体放射線治療, 強度変調放射線治療, 小線源療法などが用いられるようになり, 副作用を少なく,

眼部腫瘍 はじめに 眼部 すなわち眼球と結膜 眼瞼 眼窩 涙道には 多くの種類のがんが発生し その治療も多種多様です ここでは代表的ないくつかの 眼部のがん の治療について解説します 診断 網膜芽細胞腫眼底検査で乳幼児の眼内に白色腫瘤があり CTで石灰化があること 造影 CTまたは造影 MRIで腫瘤

はじめに 前立腺癌に対する永久留置法による小線源療法は一口で言うと 弱い放射線を出す小さな線源を前立腺内に埋め込み 前立腺内部から癌の治療を行うものです ただし すべての前立腺癌に適応できるものではありません この説明書は小線源療法についての概説です よくお読みになった上で ご不明の点があれば担当医

第 112 回日本皮膚科学会教育講演 皮膚病理へのいざない 第 1 回毛包 脂腺に分化する腫瘍 ( 基底細胞癌を含む ) 佐賀大皮膚科三砂範幸 1 毛包腫瘍 :Over view 2 脂腺腫瘍 :Over view 1

158 消化器 タにて呼吸性移動を確認することが望ましい PETCTもGTV 決定に有用であり, 可能であれば併用する GTV 原発巣 : 食道バリウム造影,CT, 食道表在癌の場合には色素内視鏡によりGTVを決定する 多発病変あるいはスキップ病変のある場合はこれもGTVに含める 画像的に病変を描出

タフィンラーカプセル50mg/75mg、メキニスト錠0.5mg/2mg 添付文書改訂のお知らせ

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ことから過剰診断が問題視され 2003 年には厚生労働省の決 定で休止となりました 2. 診断 (1) 臨床症状 : 早期に腫瘤を触知することはまれです ただし 1 歳までの赤ちゃんにみられる病期 4S という腫瘍では 皮下への転移 肝腫大による腹部膨満や呼吸障害がみられます 幼児では転移のある進行

日産婦誌61巻4号研修コーナー

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2. 肺がんについて肺がんは1998 年以来日本人のがん死亡の第 1 位である 男性に多いがんであるが 近年女性の肺がん罹患数 死亡数とも増加しており 組織型では腺がんの比率が上昇している 禁煙指導などによる予防 検診の普及による早期発見や 治療法の進歩などの一方で なかなか死亡数の減少につながらな

「             」  説明および同意書

3. バイナリーコリメータを用いた方法 4. ロボット型治療装置を用いた方法 IMRT 施行に際する施設 人的要件 IMRT の施行に際しては 厚生労働省保険局医療課長通知 ( 保医発第 号平成 20 年 3 月 5 日 ) に記載の施設基準を満たすことが必要である また 上記に加え

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

乳癌かな?!と思ったら

頭頸部 95 原発部および画像的リンパ節転移陽性部には根治線量を加えるCTV1とする 術後照射では組織学的残存部 GTVが頭蓋底や上縦隔リンパ節領域に進展している場合には, 緩和医療としての照射になるので, 患者状態ごとに患者負担が大きくなり過ぎないように症状に合わせてCTVを設定する PTV: 上

学位論文の要約 Efficacy of fluoro-2-deoxy-d-glucose positron emission tomography to evaluate response to concurrent chemoradiotherapy for head and neck squam

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

膵臓癌について

修練カリキュラム

部位別がん罹患数の年次推移 ( 全年齢 ) 男性 女性

15-9 荷電粒子線を用いたがん治療技術の開発及びその向上に関する研究

2010 年 12 月 2 日放送第 109 回日本皮膚科学会総会 9 教育講演 19 メラノーマのすべて より メラノーマの早期診断と治療方針 岡田整形外科 皮膚科 眼科髙田実はじめに悪性黒色腫は転移しやすく 悪性度の高いがんとして恐れられていますが 他のがんと同じく早期発見 早期治療が適切に行わ

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小児がんの診療の流れ はじめて小児がんを疑われたときから 受診 そして 経過観察 に至るまでの流れを示しました 今後の見通しを確認するための目安としてお使いください


4DCTを用いたITV(internal target volume)の検討

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

第71巻5・6号(12月号)/投稿規定・目次・表2・奥付・背

81 画像で詳細に検討した結果の T1,T2 病変では下垂体を遮蔽した照射野でも腫瘍制御の差は認めず, また神経内分泌障害を認めなかったとして, 縮小照射野を推奨しているランダム化比較試験の報告もある 3) 40 50Gy 以降原発腫瘍と腫大リンパ節を含んで皮膚面上で重ねる GTV(=CTV) とす

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

cm 以上の腫瘍では悪性化していることも考慮する必要があります ただし 良性腫瘍でも長期間放置すれば大きくなりますので サイズが大きいからと言って悪性とは限りません 成長速度: 悪性度の高い腫瘍では 大きくなるスピードが速くなります 腫瘍がいつからあったか 最近はどのくらいのスピードで大きくなってき

☆☆学位論文内容の要約(図表入り) (日本語版)

278 小児 小 児 Ⅰ. ウイルムス腫瘍 1. 放射線療法の目的 意義ウイルムス腫瘍は, 年間約 50 例が小児がん全国登録に報告されている この腫瘍は National Wilms Tumor Study Group(NWTSG) のランダム化比較試験により, 現在では治癒可能な疾患となった 化

ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

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博士学位申請論文内容の要旨

4 月 20 日 2 胃癌の内視鏡診断と治療 GIO: 胃癌の内視鏡診断と内視鏡治療について理解する SBO: 1. 胃癌の肉眼的分類を列記できる 2. 胃癌の内視鏡的診断を説明できる 3. 内視鏡治療の適応基準とその根拠を理解する 4. 内視鏡治療の方法 合併症を理解する 4 月 27 日 1 胃

43048腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約第1版 追加資料

294 小児 図1 stepped field ヘルメット型 Yoshio Arai, MD University of Pittsburgh Physicians 提供 図2 矩形照射野 両目尻にマーキングし 同部で水平ビームになることを確認 蓋内くも膜下腔 尾側は第 2 頚椎下縁までを含む範囲と

胸部 131 対側肺門および転移のない鎖骨上リンパ節はCTVには含まない PTV X 線透視などで症例ごとに呼吸性移動を観察し CTVからITVを設定し さら に0.5 程度のセットアップマージンをつける 2 放射線治療計画 かつてLD SCLCには 原発腫瘍から 2 のマージンをとり 両側肺門 気

して広く用いられてきました この Clark 分類に異を唱えたのが Bernard Ackerman であります Ackerman は 1980 年に発表した malignant melanoma: a unifying concept と題する論文において Clark らの病型分類は無意味であると

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

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がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください

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皮膚癌 267 皮膚癌 1. 放射線療法の目的 意義皮膚癌は, 悪性黒色腫とそれ以外の非悪性黒色腫皮膚癌に大別される 悪性黒色腫は悪性度が高くかつ比較的放射線感受性が低い腫瘍として知られ, その治療原則は切除断端を完全に陰性にする手術であり, 眼科領域を除いて放射線治療が原発巣に対して行われることはほとんどない 放射線治療は骨転移や脳転移に対する姑息的治療が主として行われ, 一部の施設でリンパ節転移に対する予防照射や術後照射が行われているにすぎない 一方後者の代表である基底細胞癌 有棘細胞癌 ( 扁平上皮癌 ) は放射線感受性が高く, その根治的治療には手術療法と放射線治療があり, ともに良好な局所制御率が得られる 一般的には手術療法が優先されるが, 頭頸部領域に出現した皮膚癌, とりわけ鼻, 耳, 眼窩近傍の領域では形態と機能の温存が可能な放射線治療が第一選択となることが多い この場合の局所制御率は手術療法に比較しても遜色なく, 組織欠損なく癌周囲の正常組織が温存されるため, 美容効果や機能保存において手術よりも優れていることが放射線治療の大きな利点となる また, 鼻近傍と耳近傍の胎生学的に融合した部位に出現する皮膚癌は深く広範囲に浸潤しやすいために, これらの部位に発生した皮膚癌には放射線治療が根治的にまたは術後照射として用いられている 2. 病期分類による放射線療法の適応基底細胞癌 有棘細胞癌 ( 扁平上皮癌 ):Ⅰ 期およびⅡ 期 (T2N0) 病変に対しては電子線や50 200KVの低エネルギー X 線による根治的放射線治療が行われる Ⅱ 期 (T3N0) で 5 cm以上の病変やⅢ 期症例には手術療法が選択され, 不完全切除の場合には放射線治療が追加される また合併症のため手術が不可能な場合には, これらに対しても根治的放射線治療が行われる Ⅳ 期症例は姑息的照射となる 領域リンパ節に対する予防照射が施行されることはない 術後照射は一般に断端陽性, リンパ節の被膜浸潤, 神経周囲浸潤, 骨や軟骨への浸潤, 広範な骨格筋への浸潤が認められた場合に行われている Merkel( メルケル ) 細胞癌 :Ⅰ 期およびⅡ 期 (MSKCC 分類 ) 病変に対しては広範囲切除後に術後照射が施行されている 外科切除単独の場合, 局所再発が高率だが, この腫瘍は放射線感受性が高いため, 術後照射を行うことで局所再発はかなり減少する しかし遠隔転移が多く, 予後不良である 悪性黒色腫 :Ⅰ Ⅲ 期の原発巣に放射線治療が施行されることはない Ⅳ 期は手術不能例あるいは不完全切除後に姑息的照射が行われることがある ただし例外的に,

268 皮膚癌 手術では大きな欠損を生じる腫瘤径の大きな悪性黒子型黒色腫に対して放射線治療が行われることがある 1) リンパ節に対する予防照射や術後照射は適応に関して議論のあるところであるが,MDACCでは病期 Ⅱ,Ⅲ に対して施行している 2) 骨転移や脳転移に対しては姑息的照射が一般的に行われている 3. 放射線治療計画 1) 治療体積 GTV: 視診 触診あるいはCT 等の画像診断で認められる原発巣 CTV:GTV 周囲 0.5 2 cmの領域 ( 病理組織と原発巣の大きさに依存 ) PTV:CTVに加え使用する放射線の特性を考慮した領域 2) 二次元治療計画 2 cm未満の基底細胞癌は腫瘍辺縁部から 0.5 1.0cmのマージン,2 cm以上の基底細胞癌や有棘細胞癌には1.0 2.0cmのマージンをとった照射野を設定する 電子線または 50 200 KVの低エネルギー X 線を用いて一門照射を行う 線量評価は, 電子線では表面ボーラスからPTVを含む90% 等線量曲線で規定する 図 1に頭頸部皮膚扁平上皮癌に対する照射野の例を示す 3) 三次元治療計画 Merkel( メルケル ) 細胞癌を除き一門照射が一般的で, 三次元治療計画が適用されることはほとんどない 図 1. 頭頸部皮膚扁平上皮癌に対する照射野の例 この扁平上皮癌の肉眼的腫瘍の大きさは 4.5 cm径で,ct による深部方向の厚みは 1.5 cmである 臨床標的体積として, 側方向に 2 cm, 深部方向に 1.0 cm見積もり, 電子線の特性を考慮すると, 電子線のコーンの大きさは 7.5 cm径となる 表面線量を上げるため 0.5 cmのボーラスをおくと, 深部方向は 3 cmの厚みが治療域となり, 選択するエネルギーは 90% depth dose から 12MeV となる 4. 放射線治療の実際 1) 放射線治療装置,X 線エネルギー欧米では表在放射線治療装置 (50 100KV X 線 ), 深部 X 線治療装置 ( 200KV) が皮膚癌の治療によく用いられているが, 我が国はこういった低エネルギーのX 線装置を保有する施設はほとんどなく, 専ら直線加速器から得られる高エネルギー電子線, またはX 線, あるいは 60 Co γ 線が使用されている 低エネルギー X 線と電子線による皮膚癌治療成績の比較では差異は認められていない 3) 電子線を用いる場合には, 腫瘍の厚みに応じて適切なエネルギーを選択することが最も重要である 皮膚癌には一

皮膚癌 269 般的に 4 12MeVのエネルギーが使用される 有効照射領域は最大吸収線量の90% までとするが, 低い電子線エネルギーではビルドアップのため皮膚表面の線量が低下するため皮膚表面に密着したボーラスを必要とすることが多い また電子線は中心軸線量に比べて辺縁線量が低下するので, このことを考慮して適切な照射野を設定する必要がある 電子線を用いる場合, 正常皮膚や要注意臓器を防護するため, あるいは照射野外側の半影を考慮して, 照射野の形状にあわせて切り抜いた鉛板を照射すべき皮膚の上に置くことがある 鉛の厚さは透過線量が 5 % 以下になるように, 使用する電子線のエネルギーによって適切なものを選択する必要がある 一般的には使用するエネルギーの1/2 程度の厚み, すなわち8MeVでは 4 mmの厚みの鉛板を使用する また眼瞼や頬粘膜など内部に挿入する場合, すなわち電子線の飛程の途中に置くと鉛板の後方では電子線の後方散乱によって線量が増加するので, 低い原子番号の物質で鉛板表面を覆って後方散乱線を除去する必要がある 高エネルギー X 線や 60 Co γ 線は, 大きい腫瘍で深部に進展がみられるか, または骨や軟骨に浸潤している症例に用いる 施設によっては, 密封小線源を用いるモールド治療や組織内照射が単独であるいはブーストとして使用されているが, 最近ではその使用頻度は減少している 2) 線量分割基底細胞癌 有棘細胞癌 : 施設によってさまざまな線量 分割法が用いられ, 標準的な線量 分割法はない 一般に小さな腫瘍に対しては 1 回線量を大きくし分割回数を少なくするのに対し, 大きな腫瘍では1 回線量を小さくし分割回数を多くしている また同じ総線量であれば分割回数が多いほど, 美容的に良好な結果が得られている 線量や分割は腫瘍の大きさや発生部位にもよるが, 40Gy/10 分割,45Gy/15 分割,50Gy/20 分割等がよく用いられる また, 要注意臓器に隣接した大きな腫瘍に対しては,60 70Gy/30 35 分割も行われている なお, 全身状態が不良な場合には,20Gy1 回照射,32Gy/4 分割の照射スケジュールでも治療は可能である 術後照射は 1 回線量は2Gyで,50 60Gy/ 5 6 週を照射する Merkel( メルケル ) 細胞癌 : 切除範囲を縮小し, 予防的リンパ節郭清は行わず, 術後照射に重点をおく治療方針に変化してきている 術後照射では腫瘍床と所属リンパ節を十分に含み,60Gy/30 分割 / 6 週程度の線量投与が行われる 悪性黒色腫 : 至適線量に関しては議論のあるところであるが,Dqが大であるところから大線量小分割法が使用されることが多い 腫瘍床や転移リンパ節に対しては 1 回 3.0 3.5Gy, 週 3 回で総線量 50 55Gy, または 1 回 6 Gy, 週 2 回で総線量 30Gyが用いられる 骨転移には20Gy/ 4 分割 / 4 日, 脳転移には30Gy/ 10 分割 / 2 週が一般的な照射スケジュールである

270 皮膚癌 3) 併用療法基底細胞癌 有棘細胞癌の根治的放射線治療に化学療法を併用することはない 手術例では大きな病巣に対して導入化学療法や術後に化学療法を併用することがある 悪性黒色腫に対しては術後補助療法として, フェロン療法やDAVFeron 療法 (DTIC,ACNU,VCR,IFN β) が施行されているが, 放射線を組み入れたプロトコールはない 5. 標準的な治療成績基底細胞癌 有棘細胞癌 ( 扁平上皮癌 ) はともに局所制御率が高い 5 年局所制御率はT1 2で90% 以上,T3で60 80%,T4で50 65% と報告されている 4 6) ただし, 進行癌になると基底細胞癌の方が局所制御率が高い (86% vs 58%) Merkel( メルケル ) 細胞癌は原発部位により局所制御率に差異があるが, 頭頸部ではT1 2で60% 前後である 悪性黒色腫は根治的放射線治療の適応となることはないが, 手術では大きな欠損をまねく大きな悪性黒子型黒色腫に対して,PMHでは放射線治療単独で86% の 5 年局所制御率を得ている 1) 6. 合併症急性期合併症 : 照射期間中 直後には紅斑, 色素沈着, 乾性落屑がみられる さらに, 水泡, びらん, 潰瘍といった湿性落屑も時に散見するが, これらは 1 回線量, 総線量, 照射野の大きさ, 照射期間に依存する 晩期合併症 : 頻度は 5 % 前後で, 軟部組織壊死が3.9% と高く, 軟骨および骨壊死は 1 % 未満と稀である その他, 色素脱色, 皮膚萎縮, 毛細血管拡張, 永久脱毛等がみられることがある 7. 参考文献 1)Tsang RW, Lie FF, Wells W, et al. Lentigo maligna of the head and neck : Results of treatment by radiotherapy. Arch Dermatol 130 : 1008-1012, 1994. 2)Ang KK, Peters LJ, Weber RS, et al. Postoperative radiotherapy for cutaneous melanoma of the head and neck region. Int J Radiat Oncol Biol Phys 30 : 795-798, 1994. 3)Griep C, Davelaar J, Scholten AN, et al. Electron beam therapy is not inferior to superficial X-ray therapy in the treatment of skin cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys 32 : 1347-1350, 1995. 4)Petrovich Z, Parker RG, Luxton G, et al. Carcinoma of the lip and selected sites

皮膚癌 271 of head and neck skin. A clinical study of 896 patients. Radither Oncol 8 : 11-17, 1987. 5)Mendenhall WM, Parsons JT, Mendenhall NP, et al. T2-T4 carcinoma of the skin of heah and neck treated with radical irradiation. Int J Radiat Oncol Biol Phys 13 : 975-981, 1987. 6. Lee WR, Mendenhall WM, Parsons JT, et al. Radical radiotherapy for T4 carcinoma of the skin of the head and neck : A multivariate analysis. Head & Neck 15 : 320-324, 1993. ( 新潟県立中央病院放射線治療科末山博男 )