Taro-14Chapter08_Sensory_DF

Similar documents
解剖学 1

Microsoft Word - 眼部腫瘍.doc

解剖・栄養生理学

PowerPoint プレゼンテーション

karada003

科目名授業方法単位 / 時間数必修 選択担当教員 人体の構造と機能 Ⅱ 演習 2 単位 /60 時間必修 江連和久 北村邦男 村田栄子 科目の目標 人体の構造と機能 はヒトの体が正常ではどうできていてどう働くのかを理解することを目的とする この学問は将来 看護師として 病む ということに向き合う際の

生物 第39講~第47講 テキスト

漢方薬

「解剖学用語 改訂13版」解剖学会ホームページ公開版

高位平準動物看護概論動物機能形態学対面学習確認テスト 問題 1: 脳幹の役割として正しいのはどれか 1 学習 知覚 認知 運動 感覚などの高次機能に関わる 2 呼吸 心臓 嚥下の働きなど 生命にかかわる基本的な機能を維持する 3 からだの働き バランス 姿勢の制御を行う 4 末梢の各器官で得た情報を

今日勉強すること 1. 反射弓と伸張反射 2. 屈曲反射 3. 膝蓋腱反射の調節機構 4. 大脳皮質運動野の機能

解剖学 1

5 月 25 日 2 口 腔 咽 頭 唾 液 腺 の 疾 患 2 GIO: 口 腔 咽 頭 唾 液 腺 の 疾 患 を 理 解 する SBO: 1. 急 性 慢 性 炎 症 性 疾 患 を 説 明 できる 2. 扁 桃 の 疾 患 を 説 明 できる 3. 病 巣 感 染 症 を 説 明 できる 4

兵庫大学短期大学部研究集録№49

  遺 伝 の は な し 1

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

<945D FBD905F8C6F8C6E>

解剖学 1

F2 二次的体験 F1 F2 F1 F1 F2 FA FA FA FA 1 1 FA グリンダーの説明と薄井モデル F1 FA F2 2 5 FA 6 F1 F2 2 FA F1 F1 図 1 F1 F2 と FA 図 2 薄井のモデルと F1 FA F2 4 言語

M波H波解説

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

Ø Ø Ø

スライド 1

15群(○○○)-8編

眼球から脳への情報伝達を行う視神経の機能不全は視力低下を引き起こします 幸運にも この視神経の機能不全は甲状腺眼症の約 5% にしか起こらず 圧迫が解除されれば可逆的に 戻ることもあります 病態 : 免疫系が外眼筋をどのように そしてなぜ攻撃するのか よくわかっていません 免疫による刺激の結果 外眼

英語Ⅰ_本試験

Microsoft PowerPoint - IPS a.ppt

アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版)

本研究の目的は, 方形回内筋の浅頭と深頭の形態と両頭への前骨間神経の神経支配のパターンを明らかにすることである < 対象と方法 > 本研究には東京医科歯科大学解剖実習体 26 体 46 側 ( 男性 7 名, 女性 19 名, 平均年齢 76.7 歳 ) を使用した 観察には実体顕微鏡を用いた 方形

FdText理科1年

神経解剖学 2008 年度過去問解答解説 2009/3/4 コメント付き解答例 ( 未完 ) として公開 2009/3/8 大問 2 の内容をいくつか修正 画像を高画質化した (2008 年度入学木下作成 ) もし間違いがありましたら ご指摘いただけるとうれしいです またご要望や質問などもどうぞ 直

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Microsoft Word - tohokuuniv-press _01.docx

< F B A838B93EE8D70959B8DEC A E786C73>

Kiyosue

中耳炎診療のすゝめ

今日勉強すること 1. 脊髄と脳幹の構造 2. 自律神経一般的の性質 3. 臓器別にみた自律神経の作用 4. 自律神経反射の例

26気道の構造 肺葉 肺区域と肺門の構造を説明できる 27縦隔と胸膜腔の構造を説明できる 28呼吸筋と呼吸運動の機序を説明できる 29各消化器官の位置 形態と関係する血管系の基本形を図示できる 30腹膜と臓器の関係を説明できる 31肝臓 胆嚢 膵臓の構造と機能を説明できる 32歯 舌 唾液腺の構造と

人体の構造・機能・異常(4)

左ページの語句について 神経伝達物質 細胞と細胞の間の情報伝達に必要な物 ( 細胞内は電流で情報伝達 ) 不足すると その物質を使って情報伝達しているところが働けない! 例 : パーキンソン病は ドーパミン ( という神経伝達物質 ) が不足 ( ドーパミンを伝達に使っている運動統合部分がうまく働か

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

7. 発生期における脳の神経細胞の増殖機序 ( 細胞増殖期 ) や神経膠細胞の働きを説明できる 髄膜, 血管, 脳室, 血液脳関門 1. 脳と脊髄は軟膜, クモ膜, 硬膜の三層の膜で包まれていることを説明できる 2. それぞれの膜の間の腔 ( くも膜下腔, 硬膜下腔 ) がわかる 3. 大脳鎌, 小

<4D F736F F F696E74202D208D4C94A C BB38EBA814089FC95CF2E B8CDD8AB B83685D>

入校糸でんわ indd

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

スライド 1

<4D F736F F D B695A8817A E93785F8D918E8E82CC82E282DC E646F63>

2005年勉強会供覧用

四消化器系 ( 口腔及び歯牙 を除く ) 五血液及び造血器系六腎臓 泌尿器系及び生殖器系 ( 二 ) 心筋障害又はその徴候がないこと ( 三 ) 冠動脈疾患又はその徴候がないこと ( 四 ) 航空業務に支障を来すおそれのある先天性心疾患がないこと ( 五 ) 航空業務に支障を来すおそれのある後天性弁

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

Microsoft Word HP FLACS ver.3.docx

手首が痛い! 使いすぎなのか!? 仕事でパソコンを頻繁に使う 美容師や理容師ではさみを頻繁に使う 料理で包丁を頻繁に使う 演奏 裁縫 趣味など 手先を使う仕事やスポーツを行い 手首が痛い と訴えるほとんどの患者さんは 普通の人より手先を使うこが多いため 腱鞘炎は 使いすぎ によるといわれています 確

<96DA8E9F81698D8791CC A2E786C73>

シトリン欠損症説明簡単患者用

‘¬“û”qFinal

94_財団ニュース.indd

< D918E8E89DF8B8E96E22D826C828F D >


ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

第四問 : パーキンソン病で問題となる運動障害の症状について 以下の ( 言葉を記入してください ) に当てはまる 症状 特徴 手や足がふるえる パーキンソン病において最初に気づくことの多い症状 筋肉がこわばる( 筋肉が固くなる ) 関節を動かすと 歯車のように カクカク と軋む 全ての動きが遅くな

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

2008 年度 1 延髄の名称と説明 (15 点 ) 2 正誤問題 30( 主に 管系 脳室系 神経伝導路 脳神経 )(15 点 ) 3 多肢選択問題 30( 主に 律神経系と脳神経 )(30 点 ) 4 脳核とその 出 線維の説明 (10 点 ) 5 脳辺縁系と線状体の説明 (16 点 ) 6 視

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

<4D F736F F F696E74202D2097CE93E08FE188EA94CA8D EF D76342E B8CDD8AB B83685D>


PowerPoint Presentation

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

い結合組織性の瞼板がある 瞼板中には 30~40 個の瞼板腺 ( マイボーム Meibome 腺 ) が一列に存在し 導管は眼瞼後縁に開口する 前縁には 睫毛 ( まつ毛 ) が 2~3 列あり その根部に睫毛腺 ( モル Moll 腺 ) また脂腺 ( ツァイス Zeiss 腺 ) が開く 涙腺は

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

2017 年度茨城キリスト教大学入学試験問題 生物基礎 (A 日程 ) ( 解答は解答用紙に記入すること ) Ⅰ ヒトの肝臓とその働きに関する記述である 以下の設問に答えなさい 肝臓は ( ア ) という構造単位が集まってできている器官である 肝臓に入る血管には, 酸素を 運ぶ肝動脈と栄養素を運ぶ

Microsoft PowerPoint - DNA1.ppt [互換モード]

財団法人 県総合 健協会 予支 長 眼底検査は 目の底の血管を直接見ることができる検査です 眼底検査をすることによって 高血圧 糖尿病 動脈硬化等 ( 脳疾患 心臓疾患 ) の進行状態を把握することができます また緑内障 黄斑変性症などの眼科疾患もわかります 眼底の構造 眼底写真 これは正常の眼底像

動脈閉塞のある足褥創 創傷足に動脈閉塞があり壊死を伴う潰瘍を認める場合 多くは乾燥ミイラ化を目指されます 乾燥させることで細菌の接着 増殖を抑制しようという意図からです しかし 創面の乾燥は いかなる場合でも壊死部に接した細胞を乾燥から死なせ 壊死部の拡大につながります さらに 乾燥化によって壊死部

学位論文の要約

31.79 気 管 形 成 手 術 ( 管 状 気 管 気 管 移 植 等 )( 頸 部 から) 胸 腔 鏡 下 肺 悪 性 腫 瘍 手 術 (リンパ 節 郭 清 を 伴 う)

BV+mFOLFOX6 療法について 2 回目以降 ( アバスチン +5-FU+ レボホリナート + エルプラット ) 薬の名前アロキシ注吐き気止めです デキサート注 アバスチン注 エルプラット注 レボホリナート注 作用めやすの時間 5-FU の効果を強める薬です 90 分 2 回目から点滴時間が短

報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

久保:2011高次脳機能障害研修会:HP掲載用.pptx

Microsoft Word - 3大疾病保障特約付団体信用生命保険の概要_村上.docx

消化性潰瘍(扉ページ)

人 間 ドックコース( 脳 検 査 がん 検 査 含 む) 298,000 円 / 税 込 その 他 肥 満 症 やせ 症 高 / 低 血 圧 近 視 乱 視 白 内 障 緑 内 障 網 膜 疾 患 外 部 の 音 を 遮 断 したブースで 音 を 聞 き 取 って 調 難 聴 腹 部 超 音 波

呼吸器系空気の経路 : 気道 ( 鼻腔 咽頭 喉頭 気管 気管支 ) ガス交換 : 肺 1. 鼻 a. 外鼻と鼻腔 1 外鼻 : 鼻根 鼻背 鼻尖 鼻翼からなる 下面は外鼻孔 2 鼻腔 : 鼻前庭 外鼻孔から1~2cm奥 鼻毛により空気の濾過装置上 中 下鼻道 外側壁 上 中 下鼻甲介からなる総鼻道

本日のお話 皮膚がんの原因 紫外線について 紫外線と皮膚がん 紫外線以外の皮膚がんの原因 早期に発見するために

糖尿病網膜症診療の現状

Microsoft PowerPoint _GP向けGL_final

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

東 京 有 明 医 療 大 学 保 健 医 療 学 部 柔 道 整 復 学 科 木 村 明 彦 神 経 系 のまとめ 2 大 脳 半 球 や 大 脳 と 小 脳 の 間 に 入 り 大 脳 鎌 小 脳 テント 硬 膜 静 脈 洞 を 構 成 する 脊 髄 硬 膜 : 脊 髄 を 包 む 外 葉 と

深く靭帯の伸長と短縮を考えたい


サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

Microsoft PowerPoint - 神経伝導検査の基本 - コピー

理学療法学43_supplement 1

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

運動失調のみかた、考えかた

いる 情報を与える細胞 ( シナプス前ニューロン ) の軸索終末の細胞膜 ( シナプス前膜 ) と情報を受け取る細胞 ( シナプス後細胞 ) の細胞膜 ( シナプス後膜 ) とは直接接触してはいない 両者の間には狭い ( 約 20μm) シナプス間隙と呼ばれる狭い間隙がある シナプス小胞にはニューロ

Transcription:

第 8 章 感覚系 感覚系 sensory system は 周囲の環境および体内での変化を認知し ヒトの体を保護するように働きます 環境および体内の変化が神経の活動を引き起こすものを刺激といい 感覚神経によって中枢神経系に伝わり ます 外部環境からの刺激は 体の表面か その近くにある受容器によって感覚が始まります 脳では 感覚情報の分析と統合および記憶との照合などの複雑な過程を経て認知し 体に様々な反応を引き 起こします しかくちようかくへいこうかんかくみかくきゆうかくしよつかくつうかくしんがい感覚には 視覚や聴覚 平衡感覚 味覚 嗅覚 触覚 温度感覚 痛覚 ( 侵害感覚 ) 固有感覚( 深部感覚 ) などがあります 第 1 節 視覚系 ヒトの体に存在する感覚受容器の半分以上が眼に存在 し 大脳皮質の広い領域が視覚情報の処理に関与します しかく視覚 vision は 光によって発生した眼からの情報が 視神経によって脳に伝わり 認識されます 1. 眼球 がんきゆうがんか眼球 ( 目 )eyeball は 視覚を受け持つ器官で 眼窩 に存在し この後部からは視神経が脳に向かって出てい ます 直径が約 2.5cm の球形の眼球は 脳の一部が前方に 拡張したもので 中枢神経系の一部と考えられています 眼球は 周囲の脂肪組織 ( 眼窩脂肪体 ) や外眼筋の緊張 などによって 眼窩の特定の位置に維持されています 眼球の前部 ( 約六分の一 ) は 眼窩から前方へ突出し 外 じようがんけんかがんけん界に接しているために 前方にある上眼瞼と下眼瞼とで 保護されています かくまく眼球は ほぼ球状ですが 角膜が前方にふくれている ため 前後径が横径や垂直径よりも少し長いです するための眼球血管膜 深層にある視覚のための眼球内 膜などがあります がんぼうすいしようしたい眼球の内部に存在する眼房水と硝子体とで眼球は 球 状構造が維持できます a) 眼球線維膜 眼球線維膜は 厚く 容易に曲がらず 眼球を保護す るための膜として存在します 眼球線維膜の後六分の五 きょうまくは不透明で強膜と呼ばれています 一方 前六分の一は かくまく透明で角膜といいます 白色の強膜は 数層の強靱な密性結合組織で構成され た膜で 眼球の形を維持し 外眼筋や眼球内の平滑筋が 付着する部位です 後極の深部で 視神経線維が視神経 円板として強膜を貫通し 眼球の後方に向かいます 透明な角膜は 通常 血管が分布せず 強膜よりも強 い弯曲を示しています 角膜は 主に数層の密性結合組 織で構成されていますが 膠原線維の配列は光の通過を 妨げないようになっています すいしよう光が網膜に到達するためには 角膜や眼房水 水晶 たい体 硝子体などを通過しますが その際には光の屈折が 左右の眼球は離れていますが 脳幹に存在する神経細 胞 ( 動眼神経核や滑車神経核 外転神経核 ) の働きで左右 表 8-1 媒質による屈折率の違いを示す の眼球が協調して動き 一対として機能します 片側の眼球だけでも物を見ることができますが 単眼だけでは立体視が困難で 特に距離の推測が難しくなります 1 眼球壁の構造三つの膜状構造物で作られた眼球の壁には 表層にある保護のための眼球線維膜 中間に存在する栄養を供給 媒 質 屈折率 空気 1.000292 水 ( 摂氏 18 度 ) 1.3334 エチルアルコール (18 ) 1.3629 クラウンガラス 1.5157 水晶 1.5446 ダイヤモンド 2.4202-106 -

おこります また 角膜の中央部では 空気から酸素を 取り込みます 角膜には 眼神経 ( 三叉神経の分枝 ) の神 しゆんもくりゆう経終末 ( 自由終末 ) が多数分布し 感覚や瞬目反射 流 るい涙反射などに関与します 瞬目反射は 角膜に物が触れ たり 空気の流れが当たると無意識に眼を閉じることで す 流涙反射では 異物による角膜や結膜の刺激で涙の 分泌が増えます きょうまくこう強膜と角膜との移行部の角膜強膜部には 強膜溝と呼 ばれる一巡する管があります 強膜溝と眼房水の間の強 膜には透過性があるために 眼房水を眼球の内部から強 膜溝に排出できます さらに強膜溝からの眼房水は強膜 静脈洞を通り静脈 ( 前毛様体静脈 ) に流れますので 眼房 水は循環することができます 角膜軟化症 角膜軟化症は 慢性のビタミン A 欠乏や食物のタンパク かいよう質欠乏などによって発症します 角膜に潰瘍ができ 通 常 二次的な細菌感染を伴います 角膜が柔らかくなり 時には b) 眼球血管膜 せんこう角膜に穿孔が発生することがあります 眼球線維膜を除去すれば 眼球と視神経は茎のある黒 いブドウの実のように見えます みゃくらくまくもうようたいこうさい眼球血管膜は 脈絡膜 毛様体 虹彩などの三つの部 位に区分さます これらの三つの部位には血管 ( 特に静 脈 ) と神経が豊富で 粗い線維性の基質によって支持され ています 脈絡膜 薄い脈絡膜は強膜の内表面を被っています また こ の部位には 多数の血管 ( 後部は短後毛様体動脈 前部は 長後毛様体動脈と前毛様体動脈の分枝 ) や神経が存在し メラニン色素を有する色素細胞があるため 濃い茶色を 示します 瞳孔を通過した光は 網膜で視細胞を刺激し た後に脈絡膜のメラニン色素で吸収されます 毛様体 脈絡膜の前部で 赤道に平行な約 2 cm 幅の領域には とつき毛様体突起と呼ぶ70 個ぐらいの隆起で肥厚します 毛様 体突起は 血管性の構造物で 毛様体の主要な構成物で す 毛様体突起は 眼房水を分泌し 多分 吸収も助け ます 毛様体に繊細な糸状の線維 ( 毛様体小帯 ) が付き水 晶体を固定します 毛様体筋は 毛様体の深部で強膜に隣接した部位にあ る平滑筋で 水晶体の厚さを調節します 毛様体筋は 毛様体神経節からの副交感神経 ( 短毛様体神経 ) の刺激で 収縮します 毛様体筋が収縮すれば 水晶体に付いてい る糸状の線維がたるみ 水晶体は自身の弾力性で厚くな り 水晶体の表面の弯曲が強くなって通過する光の焦点 距離を短くします 逆に 毛様体筋が弛緩すれば 水晶 体に付いている糸状の線維が緊張し引っ張り その結果 水晶体が薄くなり 通過する光の焦点距離を長くします 虹彩 こうさい眼球血管膜の最前部は虹彩と呼ばれ 眼球に入る光り の量を調節する役割があります 虹彩は毛様体の前方に 見られる繊細な透過性がある血管性の円盤状の構造物で どうこうぜんがんぼう中央に瞳孔が見られます 虹彩は 眼球の前部を前眼房 こうがんぼうと後眼房とに分けます 虹彩には 2 種類の平滑筋が存在し 副交感神経の刺 かつやくきん激で収縮する瞳孔括約筋と 交感神経で収縮する瞳孔 さんだいきん散大筋があります これらの2 種類の平滑筋の働きで 瞳孔の大きさを変え 眼球に入る光の量を調節します 薄暗いときには瞳孔を広げ 明るいときは瞳孔を小さく します 通常 瞳孔括約筋の方が瞳孔散大筋よりも多く 存在します 瞳孔括約筋は毛様体神経節由来の副交感神 経の刺激によって収縮し 瞳孔散大筋は上頚神経節由来 の交感神経の刺激で収縮します 虹彩の基質にはメラニン細胞が存在するために この メラニン色素の量が虹彩の色 ( 目の色 ) を決めます c) 眼球内膜 もうまく眼球内膜には 網膜が存在します 網膜は脳の一部が 頭蓋の外に伸びたものです 網膜の構造は脳に似ており 3 層の神経細胞が存在します 視細胞には錐体視細胞と杆体視細胞がある しさいぼうそう光受容器が観察される視細胞層は脈絡膜に近い部位に 存在します 視細胞層と脈絡膜との間には 色素層があ るだけです 視細胞層に光が到達するためには 光は網 膜を横切る必要があります 視細胞層には 光受容器として働く 2 種類の神経細胞 すいたい体が存在します その一つの錐体視細胞は五百万個ぐら い存在し 昼のような明るい光に反応し 物体の形や対 比 色彩などの認識に働きます 錐体視細胞は 主に ちゅうしんか中心窩とその周囲に存在します かんたいもう一つの杆体視細胞は 一億個ぐらい存在し 網膜 の辺縁に主として分布し 薄暗い光に反応します 杆体 視細胞は 錐体視細胞と異なり 細かい描写や色彩の認 - 107 -

識などはできず おおざっぱな情報を伝えます 錐体視細胞や杆体視細胞の細胞質には 光を吸収する 視物質 ( 視覚色素 ) が存在します 視物質に光が当たると 細胞内へのイオンの流入がおこり 視細胞で活動電位が 発生します 視覚色素は レチナール retinal ( ビタミン A のアル デヒド型 ) とオプシン opsin と呼ぶ 41kDa のタンパク質 とが結合したもので ロドプシン rhodopsin と呼ばれ ます ロドプシンが光を吸収すると 多段階のシグナル 変換 (G タンパク質やサイクリック GMP によって ) が始 まり 最終的に視細胞内に電気シグナルが発生します ヒトでは 4 種類のオプシンがあるため 4 種類のロ ドプシンが存在します 一つは杆体視細胞に存在するも ので 残りの 3 種類は錐体視細胞にあります 錐体視細 胞では 光の吸収波長の違いによって それぞれ 赤色 (560nm)( 赤吸収錐体視物質 ) や緑色 (530nm)( 緑吸収錐 体視物質 ) 青色 (425nm)( 青吸収錐体視物質 ) を良く吸 収するものに区分されます それら含むものを赤錐体視 細胞 緑錐体視細胞 青錐体視細胞と呼びます 例えば 赤錐体視細胞は 赤色に反応し 赤色の情報を脳に伝え ます 双極細胞と視神経節細胞 網膜には さらに 2 種類の神経細胞が見られ 双極細 ししんけいせつさいぼう胞と視神経節細胞とです 光受容器の神経細胞で発生し た神経情報を双極細胞ではおおざっぱな処理をおこない 視神経節細胞に伝えます そのために 百個以上の杆体 視細胞の情報が一個の視神経節細胞に収束します 一方 一個の錐体視細胞の情報は一個の視神経節細胞に伝わる だけです 視神経節細胞の軸索は 眼球の後方から出ていき 視 神経を形成し 脳に網膜からの情報を伝えます この軸 索が眼球から後方に出る視神経円板の部位には 光受容 もうてん器の神経細胞がないため 光に反応せずに盲点 ( 図 8-2) と呼ばれます 網膜には 二重の血管が存在し 外表層は強膜に分布 する血管で養われており 内表層は網膜中心動脈から養 われています 網膜剥離 もうまくはくり網膜剥離は 網膜の色素層と視細胞層との間に分離が生 じることですが 痛みはありません 色素層と視細胞層 との間には 接着装置が存在しないため 網膜の萎縮や 外力による眼球の歪みなどによって離れてしまうことが あります この状態が続けば 色素層の細胞には レチ ナールをエステル化し 視物質として視細胞に供給する 働きがあるために この供給不全がおこり 視細胞は光 を神経活動に変換することができず この領域の視野が 欠損します 症状としては 眼の前に点が見えたり せんこう閃光が発生し 段々と視力が失われます 網膜症 網膜中心動脈や網膜中心静脈の閉塞 ( 血管性網膜症 ) では 痛みもなく 突然に一側の眼が見えなくなります 動脈 の閉塞は アテローム性動脈硬化症や心内膜炎などに因 ることが多い 網膜色素変性症 網膜色素変性症は 遺伝性疾患で 主に杆体視細胞が変 性することに因ります 小児の頃に 薄暗い所での視力 が悪いことに気づき その後 進行することで視野がト ンネル状に狭くなり 最終的には失明に至ります 色覚異常 赤色と緑色の視物質をコードする遺伝子が X 染色体に連 続して存在するために 交雑による変異が発生し 赤色 あるいは緑色が認識でない色覚異常がおこります 色覚 異常は 女性よりも男性に発生しやすい 2 眼球の内容物 がんぼうすい眼球の内部には 前方から後方にかけて 眼房水や すいしょうたいしょうしたい水晶体 硝子体が存在します 眼房水と硝子体とに因り 眼球は一定の圧と形を維持できます a) 眼房水 眼房水は 毛様体の上皮から分泌され 角膜の後方で かつ水晶体の前方の空間をうめ 角膜を前方に突出させ ています けつしよう眼房水の電解質の組成は血漿に似ていますが タンパ ク質が少なく 0.1% 以下です ぜんがんぼう虹彩の前方の部分は前眼房と呼ばれ 虹彩の後方でか こうがんぼうつ水晶体の前方の部位は後眼房といいます 眼房水は 毛様体突起から分泌され 後眼房から瞳孔 を通って前眼房に流れ そして強膜溝から吸収され 強 膜静脈洞 (Schlemm 管 ) を通り 静脈に帰ります 通常 眼球内圧は 1.3~2.6kPa(10~20mmHg) とほ ぼ一定に調節されていますが この循環の障害により 眼圧が上昇することがあります 角膜と水晶体には血管が分布していないので 眼房水 がこれらに栄養と酸素を与え 老廃物を運び出します - 108 -

緑内障 りよくないしよう緑内障は 強膜静脈洞からの眼房水の排せつ障害によ って 眼球内圧が上昇する病気です 内圧が上がった状 態を放置すれば 血液の供給不足による神経細胞の障害 で網膜の機能が衰え 視野が狭くなったり 視力が低下 し 放置すれば最終的に失明します 老化によって発病する緑内障は 年齢とともに水晶体 が厚くなり 角膜から虹彩へとの移行部 ( 隅角 ) における 隙間が段々と狭くなり 眼房水が強膜静脈洞に向かって 流れにくくなり発症します b) 水晶体 すいしようたい瞳孔のすぐ後ろに存在する水晶体は 直径が約 1 cm で 厚さは約 0.5cm の弾力性のある透明な物体です 水晶体は レンズとも呼ばれ 眼球に入ってくる光を 屈折させ 網膜の上に焦点を結ばせます 水晶体の厚さ は 平滑筋の毛様体筋によって調節されており 厚さが 変わることによって光の屈折力を変え 網膜の上に視野 の像が焦点を結ぶことができます ただし 年齢が進むに従って水晶体のタンパク質が変 性し 弾力性が失われ 水晶体が硬くなり ふくらみが 悪くなると 老眼になったといわれます 白内障 はくないしよう白内障は 水晶体を構成するタンパク質の変性によっ はくだくて白濁がおこり 光の通過を妨げ 視力障害を引き起こ す病気です 原因としては 加齢や放射線障害 赤外線 障害 紫外線障害 糖尿病 ステロイド剤の長期投与な どによる変性があります c) 硝子体 しようしたい硝子体は ゼリー状で 水晶体の後方の大きな空間を 占めています 硝子体は やわらかい無色透明のゼリー状の物質で 99% の水分と若干の電解質や糖タンパク質などから構成 されています 硝子体の圧で網膜は脈絡膜に固定され 眼球が一定の 形を保つことが可能です 飛蚊症 ひぶんしよう飛蚊症は 硝子体が混濁するためにおこり 視界に黒 い影や蚊のようなものが見え 眼を動かすと それらが 動き回るように感じるものです 多くの場合 加齢によ り自然発生しますが 強度の近視の眼では飛蚊症になり やすいといわれています 2. 眼球の付属器 がんけんしようもうびもう眼球の働きを助ける付属器には 眼瞼や睫毛 眉毛 涙器 外眼筋などがあります 1 眼瞼 がんけん上眼瞼と下眼瞼は 眼窩から前方に突出し外界と接し ている眼球の前部を保護しています けつまく眼瞼の外表面は薄い皮膚でつくられ 内表面は結膜で 形成されています 皮膚と結膜の間には 薄い疎性結合 けんばん組織や眼輪筋 密性結合組織で構成された瞼板などが存 在します さらに上眼瞼には 眼を開ける上眼瞼挙筋 ( 動眼神経で 収縮 ) と上瞼板筋 ( 交感神経で収縮 ) との 2 種類の筋組織が あります そのため交感神経が活動的なときは眼が大き く開き 交感神経の活動が低下すると上眼瞼が下がり眼 が細くなります しょもう眼瞼の端 ( 眼瞼縁 ) には睫毛が生え 睫毛腺や脂腺など があります 瞼板腺 ( マイボーム腺 ) は 油脂性の物質を産生し 眼 瞼内面の縁に分泌します この油脂性の物質は 3~7 まばた秒の間隔でおこなわれる瞬きによって 涙とともに角膜 の表面に広げられ 角膜の乾燥を防ぎます 眼瞼に分布する動脈は 主に眼動脈の分枝 ( 外側眼瞼動 脈 内側眼瞼動脈 ) です 浅層の眼瞼からの静脈は顔面静 脈に注ぎ 深層のものは上 下眼静脈に合流します 上眼瞼には主に眼窩上神経の分枝が分布し 下眼瞼に は主に眼窩下神経からの分枝 ( 下眼瞼枝 ) が分布します 麦粒腫 ばくりゆうしゆ麦粒腫は 眼瞼にある眼瞼腺や睫毛の毛包に付く脂腺 の急性化膿性炎症です 眼瞼腺にできるものを内麦粒腫 といい 睫毛の脂腺にできるものを外麦粒腫と呼びます 主に黄色ブドウ球菌の感染を原因とし 眼瞼の内表面な どが腫れて痛む病気です 2 結膜 けつまく結膜は 薄い透明な膜で 眼瞼の内面を被い 反転し て眼球の前面を被います 眼瞼の内面を被う結膜 ( 眼瞼結 膜 ) には血管が多く 重層円柱上皮で構成されています 眼球の前面を被う結膜 ( 眼球結膜 ) は 血管に乏しく 重 層扁平上皮で形成されています 眼瞼を閉じると結膜は 袋状になります 結膜は 角膜や眼球前面を保護する役 割があります 上下の結膜は 眼の内側と外側とで接し - 109 -

それぞれ内眼角 外眼角と呼ばれます 翼状片 よくじようへん翼状片は 角膜の外表面にまたがる眼球結膜での薄い ベージュ色の帯状の肥厚で 通常 鼻側からゆっくりと 瞳孔に向かって成長します 瞳孔まで広がると 視力障 害が起こります 太陽光の紫外線が当たると成長が早く なります そのため 野外で長く働いたり スポーツす る人などに見られます 大きくなると手術で取り除く必 要があります しようもうびもう 3 睫毛と眉毛 睫毛 ( まつげ ) は 上下の眼瞼の縁に生えています 眉 毛 ( まゆげ ) は 上眼瞼の上に生えています 睫毛は 異物や太陽光 汗などから眼を保護します 眉毛は 前頭部からの汗が眼に入らないように防いでい ます 眉毛がなくなると 汗が眼に入り 結膜炎になり やすい 4 涙器 るいきるいせんるいしょうかんるいのうびるいかん涙器は 涙腺や涙小管 涙嚢 鼻涙管などで構成され ています 眼窩の上外側の角に涙腺が存在します 涙腺は 分葉 から構成される漿液性の管状胞状腺で 少量の涙を分泌 します (1~2 ml/ 分 約 0.1mL/ 時間 ) 涙は 眼球の 前面に広がり 角膜に栄養を供給し 異物を洗い流した り 眼球の表面を湿潤に保ちます 蒸発せずに残った涙 は 通常 内眼角に存在する涙点から上涙小管あるいは 下涙小管に入り つぎに涙嚢や鼻涙管に流れ 鼻腔の下 鼻道に向かいます 涙の成分には 水や電解質 抗体 (IgA) 細菌を殺すリゾチーム lysozyme などが含まれ ています 涙腺は 上唾液核や顔面神経および翼口蓋神経節由来 の副交感神経の刺激で 涙を分泌します また 上頚神 経節由来の交感神経も涙腺に分布しますが この神経は 血流を調節し 涙の分泌を変調させます 角膜が刺激されると流涙反射によって涙が分泌されま す 涙腺は主に眼動脈から分枝した涙腺動脈から血液が 供給され この部位からの静脈は上眼静脈に合流します 近年 涙嚢や鼻涙管での障害で鼻腔への涙の排泄が悪 くなり 涙が眼からあふれるヒトが増えています ( 流涙 ) また この状態が続き 細菌感染がおこると慢性涙嚢炎 うみめやにを引き起こし 膿状の目脂が出るようになります 5 外眼筋 がいがんきん外眼筋は 眼球を一定の位置に維持し 眼球を動かす じょうちょくきん眼窩の中に存在する小さな横紋筋です 上直筋と かちょくきんがいそくないそく下直筋 外側直筋 内側直筋は 眼窩の後端から始まり じょうしゃきんかしゃきん眼球の強膜に停止します さらに上斜筋や下斜筋もあり ます 外側直筋は外転神経で収縮し 上斜筋は滑車神経で収 縮 残りの筋は動眼神経で収縮します 左右の眼球が共に協働して動けるように 脳幹や小脳 が働きます 眼球運動 ふくそう眼球の運動には 輻輳運動 急速眼球運動 追跡運動 の 3 種類があります ふくそう輻輳運動は 両側の眼球が同じ標的物に向き 標的物 の視覚像を網膜の対応する位置に維持するための協調運 動です 斜視 しやし斜視は 外眼筋によって左右の眼球を対応する部位に同 じ像を結ぶように動かせない状態をいいます 片方の眼 は視線が正しく目標とする方向に向いているが もう一 方の眼が内側や外側 あるいは上や下に向く状態になり ます 左右の眼球がそれぞれ異なる方向に向いているた め 両眼視差による立体視が困難になったり 見ている ふくし対象が二重に見える複視が生じることもあります 3. 視覚の伝導路 視覚の伝導路には 色の情報を伝えることができず おおざっぱな情報を早く伝える 大きな神経節細胞 (M 型 ) から始まる機構と 小さな神経節細胞 (P 型 ) から始 まり色彩があって細かな描写の情報をゆっくりと伝える ものとがあります 網膜の光受容器からの光刺激は網膜にある他の二つの そうきょくさいぼうししんけいせつさいぼう神経細胞 ( 双極細胞と視神経節細胞 ) に伝わり おおまか な情報の処理がおこなわれます 視神経節細胞の軸索によって脳内に視覚情報が伝えら がいそくしつじょうたいれ まず中継核の視床に存在する外側膝状体核に伝えま す 外側膝状体核からの軸索は 視放線として後頭葉に しかくやある一次視覚野 (17 野 ) に向かいます 一次視覚野に到達し 処理された視覚情報はさらに しかくれんごうや視覚連合野 (18 野 19 野 ) に伝わり 物体の形や色 動き - 110 -

などの視覚情報が認識されます とうちょう視覚連合野の情報は その内容に基づき頭頂連合野 (39 野 ) あるいは側頭葉の下部 (20 野 ) に伝わります 頭頂 連合野からの情報は 視覚情報に基づく行動をおこなう のに利用されますが 長く記憶されないものです 一方 側頭葉に向かう情報は長期記憶の形成に使われます 他の経路 日内周期 ( 変動 ) に関係する情報を伝える視索線維は しこうさじょうかく視床下部にある視交叉上核に終わります 瞳孔を調節するための情報を伝達する視索線維は 中 しがいぜんいき脳の視蓋前域 ( 視蓋前域オリーブ核 ) に終止します 眼球と頭の運動を協調させる視索線維は 上 白層に終わります じょうきゅう丘の浅灰 さらに 眼球の安定に関係する情報を伝える視索線維は 中脳に存在する副視索核群 ( 内側核 外側核 背側核 ) に終わります 同名半盲 同名半盲は 両眼の同じ側が見えなくなることです 脳血管障害や脳腫瘍で片側の視索あるいは大脳皮質の側頭葉や後頭葉に障害がおこりますと 反対側の同名半盲になります たとえば 右の視索に病変があると 両眼とも視野の左半分が見えなくなります また側頭葉や後頭葉の小さな病変では 視放線の一部が傷害されるだけで 視野の半分のうち上半分あるいは下半分だけが欠損することがあります 第 2 節 聴覚系 ちようかく聴覚 hearing は 非常に優れた分析能力を保持し 音の高低 強弱などを正確に決定することができ また ねいろ異なる音の質 ( 音色 ) を区別することが可能です これら ないじかぎゅうの働きをおこなうのは 内耳にある蝸牛と複雑な聴覚伝 導路です 1. 聴覚器 聴覚系を理解するためには 音によって作られた空気 おんぱ中の音波のエネルギーが神経活動に転換される仕組みを 学ぶことが必要です こまく音波は 外耳道を通り 鼓膜を振動させます 鼓膜の じしょうこつ振動は 耳小骨を介して内耳に伝えられ ラセン器に到 ゆうもうさいぼう着します この結果 ラセン器にある有毛細胞がリンパ の振動で興奮し これと連結している蝸牛神経が刺激さ れます 1 外耳 がいじじかいがいじどう外耳は 耳介と外耳道から構成されます 耳介は 頭の両側面に付き 音波を捕らえるのに適し た構造物ですが ヒトでは重要でなく 装飾的なものと なっています 外耳道は S 字形に曲がった 長さが 3~5 cm の管 状構造物で 音波を減衰させることなく鼓膜に伝えるこ とができます こまく外耳道の奥には 線維性の鼓膜があります この膜が こしつ外耳道と鼓室とを分離しています 鼓膜は 厚さが約 0.1mm で 直径が約 10mm の円形 に近い形で 中央より少し下にくぼみがあります 鼓膜 は 鼓室側が耳小骨で支えられていることや 構造が非 対称性であることから空気の振動が止まると 鼓膜の振 動も速やかに止まることができます 皮膚の変化したものが外耳道と鼓膜の外表面を被って います 外耳道にも耳毛や脂腺 耳道腺 ( 汗腺 ) が存在し じこうます 耳道腺の分泌物は耳垢と呼ばれています 外耳道は 後耳介動脈や顎動脈の深耳介動脈 浅側頭 動脈の耳介枝などから血液の供給を受け 静脈血は外頚 静脈や顎静脈 翼突筋静脈叢に流れます 外耳道の前壁と上壁に分布する神経は下顎神経の耳介 側頭神経で 後壁と下壁には迷走神経の耳介枝が分布し ます 鼓膜には 主に耳介側頭神経が分布し 痛みだけ を伝えます 2 中耳 ちゅうじこしつ中耳では 鼓膜で外耳と隔離された鼓室と呼ぶ広い空 洞が主要な部分です 鼓室には 耳管を通ってきた空気 が存在します じかん鼓室の前内側部からは耳管が出ています 耳管は 長 いんとうこうさが約 2.5cm で 咽頭に通じています 耳管の咽頭口 えんげは 通常は閉じていますが 嚥下やあくび くしゃみの 時には開きます 鼓室には ツチ骨 キヌタ骨 アブミ骨の三つの米粒 じしょうこつ大の耳小骨があります ツチ骨は 鼓膜に付き さらに キヌタ骨 アブミ骨の順に関節で連結します アブミ骨 - 111 -

ぜんていそうは 内耳の前庭窓に付着します 耳小骨の動きは 二つの小さな横紋筋によって調節さ れています 鼓膜張筋はツチ骨に付き この筋の収縮で 鼓膜は鼓室内に引っ張られ 緊張度が増加し 振動がで きにくくなります 鼓膜張筋は 三叉神経の下顎神経の 分枝によって支配されます 顔面神経の分枝で支配され るアブミ骨筋は アブミ骨に付きます 大きな音でこの 筋が収縮すれば アブミ骨底が前庭窓から遠ざかり 振 動を内耳に伝えません 鼓室には 深耳介動脈 ( 顎動脈の分枝 ) や前鼓室動脈 ( 顎 動脈の分枝 ) 茎乳突孔動脈 ( 後耳介動脈の分枝 ) などが主 に血液を供給します この部位からの静脈は翼突筋静脈 叢や上錐体静脈洞に流れます 鼓室と乳突洞からのリン パは 耳下腺リンパ節あるいは上深リンパ節に運ばれま す 鼓室や耳管 乳突蜂巣の粘膜には 鼓室神経叢から の神経が分布します 中耳炎 中耳炎は 風邪などの際に咽頭や鼻腔にある細菌やウイ この器官は 音波によって蝸牛神経に伝える刺激を発生するものです 前庭階や鼓室階などを通過した外リンパの波は基底板を振動させます 基底板はその上に乗っている有毛細胞の上下運動を引き起こします 有毛細胞は機械的受容器で この上下運動によって刺激が発生します 有毛細胞には 1 列の内有毛細胞と3 列の外有毛細胞とがあります 有毛細胞には 蝸牛神経節にある神経細胞体の末梢突起と上オリーブ核蝸牛路の神経終末とが終わります 蝸牛軸の中には細い管があり この管の中に双極神経細胞体が存在します これを蝸牛 ( ラセン ) 神経節といい 約三万個の神経細胞体が存在します この神経細胞の末梢突起はさらに細かい管を通り 骨ラセン板の端にある細かい開口部から出ます そして 末梢突起は 基底板を通ってラセン器に到達します この神経線維の大部分 ( 約 90%) は内有毛細胞と連結します 双極神経細胞の中枢突起は蝸牛軸の床を走行し 蝸牛神経を形成します ルスが耳管を通じて中耳に運ばれて炎症を起こす病気で す 基本的には 細菌による感染症が多いが ウイルス 感染の場合もあります 3 内耳 ないじ内耳は 側頭骨の岩様部の中に存在し 聴覚と平衡機 能に関係した器官があります これらの器官には こつめいろまくめいろ骨迷路と膜迷路と呼ぶ二つの部位があります 骨迷路は全体として約 17mm の長さのもので 三つ かぎゅうぜんていこつはんきかんの部分があり 蝸牛と前庭 骨半規管です から蝸牛は カタツムリの殻に似て 2 回半回転していま かぎゅうじくす この中心軸の蝸牛軸からは骨ラセン板がネジクギの ネジ山のように存在し 管腔を二つの部位に分けます ぜんていかい一つは前庭階で 前庭に開口しています もう一つは こしつかいかぎゅうそう鼓室階で この管腔は蝸牛窓にある第二鼓膜によって鼓 2. 聴覚の伝導路 ラセン器からの刺激を受けた蝸牛神経節にある神経細 胞体は 蝸牛神経によって刺激を脳に伝えます 蝸牛神経は 前庭神経や顔面神経とともに内耳道を通 り 橋と延髄の結合部から脳幹に入ります 蝸牛神経の 神経線維は 下小脳脚の外側面に沿って走行し そして 同側の蝸牛神経核に終わります 蝸牛神経核から中枢の聴覚伝導路が始まります 特に 蝸牛神経核は内側に進む神経線維 ( 軸索 ) を出し これら だいけいたいのものは橋の背側で台形体を形成しますが 台形体の神 経線維は半分が交叉したものです 台形体の外側縁では がいそくもうたい非交叉性の神経線維が加わり 外側毛帯として上行が始 室と分離しています 前庭階と鼓室階は 蝸牛孔と呼ば れる蝸牛の先端でつながっています 骨迷路の中には 膜迷路が存在しています 小さな膜 きゅうけいのう性の袋が前庭の前部に存在し 球形嚢と呼ばれています 球形嚢からは細い膜性の管である蝸牛管がラセン状に前 庭階に入り込みます 蝸牛管の一部は骨の上に乗ってい まります 中脳の尾側端の高さで 外側毛帯は背側に急 かきゅうに曲り 目的地である下丘核に向かいます かきゅうわん下丘核からの軸索は 下丘腕として上丘の外側面に沿 って吻側に進み 視床にある聴覚の中継核である ないそくしつじょうたい内側膝状体核に到達します ちようほうせん内側膝状体核からの軸索は 聴放線を形成し 側頭葉 ますが 大部分は線維性のラセン板の上にあります 前庭階の外側壁が大きいために 蝸牛管は前庭階よりも細いものです 球形嚢と蝸牛管には 内リンパが入っています この管の床にはラセン器 ( コルチ器 ) があります にある一次聴覚野に向かいます おうそくとうかい一次聴覚野は 側頭葉の横側頭回 (41 野と42 野に相当 ) に存在し 外側溝の深部に隠れています 一次聴覚野で は 音の高低のみが理解でき 音の意味は理解できませ - 112 -

ん 一次聴覚野からの情報が聴覚連合皮質に伝わり 音の意味が理解できます 聴覚連合皮質は上側頭回の背面と外側面 (22 野 ) に存在します 話している言葉を理解する部位は 左大脳半球にある側頭葉から頭頂葉にかけて存在するウェルニッケ野 Wernicke area( 感覚性言語中枢 ) であると考えられています 聴覚皮質から内側膝状体核 下丘 他の脳幹の聴覚核 ます この中枢性由来の神経線維の最終目的地がオリーブ蝸牛束で 橋に存在する上オリーブ核から蝸牛の聴覚受容器に向かいます この経路は聞きたい音の効果を高めるのではないかと考えられています 聴覚路は一側の聴覚器からの情報が両側の大脳皮質に伝わりますので 一側の終脳 ( 大脳 ) の障害では聴覚に大きな影響は認められません に向かう下行性線維が 上行性聴覚路と平行して存在し 第 3 節 平衡感覚系 へいこう平衡感覚 equilibrium は 体のバランスをとり 一定 の姿勢を保つ上で重要な役割を果たします 平衡器官に 障害があると 直立位が維持できずに 倒れます 平衡器官は 側頭骨の内部の内耳に存在しています 1. 平衡器官 速 カーブの際に体に加速度が加わって三半規管 特に 耳石器系が過度に刺激された結果 引き起こされる自律 神経の失調状態です 最初は めまい 生あくびなどの どうき症状から始まり 次第に 冷や汗 動悸 頭痛 体のし はけびれ 吐き気といった症状を引き起こします さらに悪 おうと化した場合 嘔吐が起こります 骨迷路の後部は平衡器官を含んでいます がいそくはんきかん三つの管 ( 外側半規管 前半規管 後半規管 ) は円の三 分の二の形を作り前庭から出て 前庭に帰ります この 管には六つの穴があるはずですが 二つが共通の口を持 っているので 合計五つの口しかありません 三つの管 は互いに直角になっています らんけいのう前庭には膜性の袋である卵形嚢と球形嚢があります 卵形嚢や三つの半規管の周りには外リンパがあります また これらの内部にも内リンパがあります 頭の動きは 卵形嚢や球形嚢ならびに半規管の内リン ゆうもうさいぼうパを乱し 聴覚の場合と同じく 有毛細胞が刺激され この刺激が前庭神経に伝わります 前庭神経の細胞体は ぜんていしんけいせつ内耳道に存在し 前庭神経節を形成しています この末 梢突起は多数の穴により 卵形嚢や球形嚢および半規管 の膨大部などに到達し 有毛細胞と接触しています 卵形嚢や球形嚢では 頭の傾きや重力 直線加速度を 感知しています それに対して 三つの半規管の基部に ある膨大部では頭の回転運動を感知しています 乗り物酔い 2. 平衡感覚の伝導路 ぜんていしんけい前庭神経節にある神経細胞体の中枢突起は前庭神経を 形成し 大部分の神経線維は延髄にある前庭神経核に終 わりますが 一部のものは小脳に向かいます 前庭神経 核の神経細胞もまた軸索を小脳に伸ばします このように平衡感覚の情報は 終脳 ( 大脳 ) には直接に 伝わらずに 小脳に向かいます 平衡感覚に関与する小 しょうせつへんよう脳の部位は 小節と片葉です ぜんていせきずいろ前庭神経核の二次性軸索には 前庭脊髄路として脊髄 ないそくじゅうそくに向かうものや内側縦束として眼球運動に関係している 脳神経核 ( 動眼神経核 滑車神経核 外転神経核 ) に向か うものがあります 前庭脊髄路は 体が倒れないように 体幹の骨格筋を 調節しています 一方 内側縦束に入った軸索は 動眼神経核や滑車神 経核 外転神経核に頭の動きを伝え 外眼筋の収縮を調 節し 頭の動きに応じて眼球の位置を調節します 乗り物酔いは 航空機や列車 自動車 船舶 遊園地の遊具などで 各種の乗り物が発する振動が原因で 体の内耳にある三半規管が体のバランスを取れなくなって引き起こす体の状態です 乗り物の動揺あるいは加速 減 - 113 -

第 4 節 味覚系 みらいみかくヒトは 舌にある味蕾によって得られた味覚 taste と あじ嗅覚との働きにより 食べた物の味を感じることができ ます 味は 食べ物に含まれている化学物質が味覚受容 器に結合することで引き起こされます 1. 味覚受容器 からみ注 ) カプサイシンなどによる辛味は舌などに存在する痛覚 受容器に作用することで感知しますので 味覚には含 まれていません 味覚障害 亜鉛が体内で不足すると味覚障害がおこります インス かかタント食品をよく食べるヒトが罹りやすい あまみさんみしおあじ味には 5 種類の基本的なもの ( 甘味 酸味 塩味 にがみ苦味 うま味 ) があります これらの五種類を認識する味 覚受容器が味蕾に存在しています じじよう若いヒトでは 約 1 万個の味蕾が存在し 舌の茸状乳 ようじょうゆうかく頭 (30%) や葉状乳頭 (28%) 有郭乳頭(42%) などの粘膜 で観察されます 老化に伴って味蕾の数は減少します あじさいぼう味蕾は 味細胞や支持細胞 基底細胞などで構成され ています あじぶっしつ味細胞の細胞膜に存在する受容体に味物質が結合する と ナトリウム Na + やカリウム K + カルシウム Ca 2+ な どのイオンチャネルが開口し 活動電位が発生し その 2. 末梢の伝導路 舌の前 2/3 の味蕾からの味覚刺激を伝える神経線維は しつしんけいせつ側頭骨の顔面神経管のなかにある膝神経節に存在する細 胞体の軸索の末梢突起です この末梢突起は 最初 顔 こさくしんけい面神経のなかを進み 次に鼓索神経に入り さらに下顎 ぜつしんけい神経の舌神経に合流します もう一つの重要な味覚神経線維は 舌咽神経で 舌の 後ろ 1/3 の領域に存在する味蕾からの刺激を伝えます こうとうがいまた迷走神経の味覚神経線維は 舌の最後部と喉頭蓋 にある味蕾からの情報を伝えます 情報を味細胞に結合している味覚神経線維に伝えます 味細胞も周囲の舌の上皮細胞と同じく数日間の寿命で 絶えず新しいものに置き換わっています 塩味は ナトリウムイオンの作用で感じます 酸味は 水素イオンの働きで感知します うま味は グルタミン酸が受容体に結合することで感じます 甘味は スクロースやグルコースなどがシグナル分子として作用するために感じます 苦味は カフェインやキニーネなどがシグナル分子として働くために感知します 3. 中枢の伝導路 上記の三つの神経のなかの味覚神経線維は 延髄の こそくこそくかく孤束を通り 孤束核の吻側部に終わります 孤束核吻側部からの神経線維は 同側の視床にある後 内側腹側核の小細胞群に終わります この神経核の軸索 は 大脳皮質の中心後回の外側溝に近い領域や島の味覚 領域に向かいます いわゆる味を認識する経路です さらに 孤束核吻側部からの神経線維で 橋の きゃくぼうかく脚傍核に向かうものがあります 脚傍核からの軸索は 辺縁系や視床下部などに味覚情報を伝えます この経路 表 8-2 味を認識する閾値 物質名味覚の種類閾値 (mmol/l) は 感情と食欲などの自律神経系に影響を与えます 塩酸 酸味 100 塩化ナトリウム 塩味 2,000 塩酸ストリキニーネ 苦味 1.6 グルコース 甘味 80,000 スクロース 甘味 10,000 サッカリン 甘味 23 サッカリンは 発癌性が疑われ 食品に添加することが禁止さ れていました - 114 -

第 5 節 嗅覚系 におヒトは 空気中に存在する 匂い の化学物質を嗅覚 olfaction で感じることができます 1. 嗅覚器官 きゅうじょうひきゅうさいぼうきゅうもうにおいは 鼻腔の嗅上皮に存在する嗅細胞の嗅毛に 存在する嗅覚受容体に 匂い分子 ( 約千種類 ) が結合す ることで 受容体と共存する G タンパク質が活性化さ れ 細胞膜のイオンチャネルが開き 嗅細胞の活動電位 が発生することから始まります 嗅覚受容体は約千種類 が存在すると考えられています 嗅覚は 他の感覚系に じゅんのうくらべても特に順応しやすいものです 2. 嗅覚の伝導路 きゅうしんけい鼻腔の嗅粘膜に存在する嗅細胞の軸索が嗅神経を構成 しばんします 嗅神経は 約 20 個の篩板の穴 ( 篩孔 ) を通り きゅうきゅう 嗅 球に終わります 嗅球に存在する僧帽細胞の軸索は きゅうさく嗅索を後方に向かい 視床を経由せずに 直接に大脳皮 きゅうひしつ質の嗅皮質に終わります がいそくきゅうじょう嗅皮質は 前頭葉では外側嗅条に隣接した部位に存在 かいばぼうかいこうし 側頭葉では海馬傍回の鈎の領域にあります 嗅皮質が受け取った匂いの情報は 図 8-50 に示すよう に最終的には 前頭葉の眼窩前頭皮質に伝わり 匂いの 同定や識別がおこなわれます また 嗅索からの情報は 辺縁系や視床下部にも伝わ ります そのために においは ヒトの感情や記憶に強 い影響を与えます よい香りは好感を与え 嫌な臭いは 気分を害します 表 8-3 におい物質 1 リットルの空気中のにおい物質を認識する閾値 においの閾値 (mg/l) エチルエーテル 5.83 クロロホルム 3.30 ピリジン ( 焦げ ) 0.032 ペーパミントの匂い 0.02 酪酸 ( 汗 ) 0.009 ベンゼン ( 灯油 ) 0.0088 硫化水素 ( 腐敗臭 ) 0.00018 クマリン酸 ( 新鮮な干し草 ) 0.00002 第 6 節皮膚感覚 ( 触覚と温度感覚 ) 外界と身体との境界をなす皮膚には多数の感覚受容器が存在し その受容器の働きによって体の外にある物体が何であるかがわかります 例えば 硬い椅子に座って外界と接触すると 過去の経験から椅子に座っていることがわかります 皮膚の感覚受容器は感覚神経細胞の軸索の末梢枝から構成され 皮膚の上皮や結合組織の中に神経終末として存在します 皮膚の感覚受容器からの刺激は大脳皮質 ( 中心後回 ) の感覚野 (3 野 1 野 2 野 ) に伝達され 認識されます 皮膚には特定の刺激に対する様々な感覚受容器があり 身体の表面に様々な密度で分布しています 通常 皮膚では 触覚と痛覚 ( 侵害 ) 温覚 冷覚が区別できます 1. 触覚受容器次の5 種類の皮膚受容器は 刺激が弱い場合は触覚として感じますが 刺激が強いと圧覚として感じます さらに 刺激が非常に強い場合は痛みとして感じます また 自由神経終末は温度覚やかゆみも感受します 1 触覚上皮細胞 ( メルケル ) 毛が生えていない皮膚 ( 無毛部 )( 手掌型皮膚 ) に分布する特殊な皮膚の細胞で 口唇や四肢の遠位部 外生殖器などに多く分布します この感覚受容器は 低閾値で 緩慢な適応を示します 2 触覚小体 ( マイスネル ) 指の先端や手掌 足底 眼瞼 口唇 外生殖器などの真皮乳頭に存在します この感覚受容器は 低閾値で 早い適応を示します - 115 -

3 層板小体皮下組織や内臓 骨格筋 関節などに認められます 4 柵状神経終末 palisade ending 毛が生えている皮膚 ( 有毛型皮膚 ) において 毛根の周囲を取り巻いています 5 自由神経終末 free nerve ending 神経鞘を持たない神経終末です 2. 温度受容器中枢神経系は 皮膚や体内のいたる所に分布している温度受容器から 体表面と体内温度に関する情報を絶えず受け取っています ヒトには温覚受容器と冷覚受容器があり 10~45 の温度を感知することができます これ以外の温度では痛覚受容器が働きます Ad 神経線維 ( 直径が1~5 mm) および C 神経線維 ( 直径が0.2~1.5mm で無髄性 ) などの自由神経終末は冷覚受容器として働きます 一方 温覚受容器には C 神経線維の自由神経終末のみです 温覚受容器は 30 以上の温度で活動的になり 46 まで続きます 冷覚受容器は 40 では不活発ですが それよりも温度が下がると刺激され 約 24 まで活発になります ですが 24 以下になると刺激が弱くなり 10 まで低下し続けます しかし 10 以下になると活動が止まります 3. 痛覚 ( 侵害 ) 受容器 Ad 神経線維と C 神経線維の自由神経終末は 痛覚の受容器として働き 皮膚のすべての領域と体内の多くの部位に分布しています 受容器の刺激が苦痛を感じるほど強い場合は 受容器は身体の損傷を知らせる警報器 ( 侵害 ) として重要な役割を果たします 痛みには 針を刺した時の瞬間的な痛みと 針を抜いてもおこる持続性の長い痛みのようなものとがあります 前者を速い痛み ( 第一の痛み ) といい 後者を遅い痛み ( 第二の痛み ) と呼びます 痛覚受容器は 組織の損傷や炎症などの障害が起こった際に遊離されるプロスタグランジン prostaglandin やヒスタミン histamine などの化学物質に反応します 痛覚受容器が刺激されると 疼痛刺激は末梢神経 ( もしくは自律神経の神経線維 ) を経て まずは脊髄に伝えられます そして脊髄から視床を通り大脳皮質の体性感覚野に伝えられ ここで疼痛感覚が認識されます この伝達は脳から分泌される物質によって阻止されたり 様々な程度に抑制されます ( 下行性抑制路 ) この抑制路は重要な意味があります ベッド上で安静にしているヒトに比べて 何かに熱中しているヒトは 痛みの感じ方がはるかに少ないものです 第 7 節 深部感覚 覚醒状態では 私たちは常に体肢の位置についての情報を得ています ( 位置感覚 ) また 関節の動きも感知できるし ( 運動感覚 ) 骨格筋の運動に対する抵抗感覚( 力覚 ) も持っています 骨格筋や関節 靱帯などの機械的 ( 伸展 ) 受容器によって伝達されるこのような感覚能を深部感覚 ( 固有感覚 ) といいます この感覚は 内耳に存在する平衡器官の助けを得ながら 役割を果たすことになります 受容器には以下の種類があります 1 筋紡錘筋紡錘は 骨格筋の特殊化したもので 骨格筋の伸展状態を感知します 2 腱紡錘腱紡錘は 筋と腱との移行部にあって伸展刺激に反応し 腱や骨格筋の過伸展を防いでいます 3 層板小体層板小体は 関節包にもあり 関節運動などによる機械的な変形を感知して 関節の状態を伝達します らの情報の主要な調節中枢です これらの受容器からの情報は 感覚神経によって脊髄に伝わり 脊髄を上行し 脳に向かいます 小脳は これらの情報の主要な調節中枢です これらの受容器の情報の一部は大脳皮質で感覚として認識され 場合によっては随意運動として応答します - 116 -

骨格筋の緊張の維持や骨格筋の伸展 収縮の協調運動 大まかな運動過程の調整は無意識下におこなわれ これに対する応答も無意識のうちに反射的におこなわれています - 117 -