クエン酸回路 電子伝達系 (3) 平成 25 年 5 月 14 日生化学 2 ( 病態生化学分野 ) 教授 山縣和也
本日の学習の目標 電子伝達系を阻害する薬物を理解する ミトコンドリアに NADH を輸送するシャトルについて理解する ATP の産生量について理解する 脱共役タンパク質について理解する
電子の流れ 複合体 I 複合体 II 複合体 III 複合体 IV 複合体 V (ATP 合成酵素 )
構成成分サブユニット数分子量補因子 Cofactors Complex I NADH- ユビキノン還元酵素 NADH-ubiquinone reductase NADH-CoQ reductase Complex II コハク酸ーユビキノン還元酵素 Succinate-ubiquinone reductase Succinate-CoQ reductase Complex III ユビキノンーシトクロム c 還元酵素 Ubiquinone-cytochrome c reductase CoQ-cytochrome c reductase シトクロム c Cytochrome c Complex IV シトクロム c 酸化酵素 Cytochrome c oxidase Cytochrome oxidase 16 25 4 8 1 6 13 850,000 125,000 250,000 13,000 200,000 FMN Fe-S clusters FAD Fe-S clusters ヘム b 560 Fe-S clusters ヘム b 562 ヘム b 566 ヘム c1 ヘム c ヘム a ヘム a3 2 Cu 2+ (CuA, CuB)
金属のイオン化傾向 K>Ca>Na>Mg>Al>Zn>Fe>Ni>Sn>Pb>H>Cu>Hg>Ag>Pt>Au イオンになり 電子をだしやすい イオンになりにくく 電子をだしにくい 高校化学 1 銅は亜鉛よりイオン化傾向が低い イオン化しにくい つまり電子を出しにくい 銅と亜鉛の電極をつなぐと 電子を出しやすい亜鉛から電子をひきとりやすい銅へと電子が流れる
電子の流れ ( 電子を引き受けやすい分子へと移動 ) NADH/NAD は酸化還元電位が低い ( 電子に対する親和性が低い ) O2 は酸化還元電位が高い ( 電子に対する親和性が高い ) 酸化還元電位の低い NADH から高い酸素に電子がながれるということ
酸化還元電位の低い NADH から高い酸素に電子が流れる 両者の間に中間の酸化還元電位が並んでいるのが電子伝達系 参考 G o = -nfδeo ギブスエネルギーと酸化還元電位の間には比例関係がある 酸化還元電位の低い NADH から高い酸素に電子が流れる 自由エネルギーが減少 遊離する プロトンをくみ上げる
ミトコンドリア電子伝達系 Mitochondrial electron transfer system 膜間空間 Intermembrane space + + nh + 内膜 Inner membrane NADH omplex I [H + ] + + + NAD + nh+ + CoQ n'h + Complex III cyt c + + + + omplex IV 1/2 O 2 _ n'h+ + 2H+ H 2 O [H + ] n''h+ マトリックス Matrix n''h + ADP + Pi + + + mh+ ATP + mh +
電子の流れ ( 電子を引き受けやすい分子へと移動 ) プロトンの濃度勾配 Complex I (NADH-CoQ オキシドレダクターゼ ) Complex II ( コハク酸 -CoQ レダクターゼ ( コハク酸デヒドロゲナーゼを含む ) Complex III (CoQ- シトクロム c オキシドレダクターゼ ) Complex IV ( シトクロム c オキシダーゼ ) Q: 補酵素 Q( ユビキノン ) Cyt: シトクロム Fe-S: 鉄ー硫黄タンパク質
フラビンモノヌクレオチド 複合体 1 は多数のサブユニットからなる巨大タンパク質であり NADH からの電子をユビキノンへ伝達する その際最初に電子を受け取るのが FMN
Fe2+ と Fe3+ の 2 つの状態をとる 電子は FMN から鉄ー硫黄タンパク質 (Fe-S) にうつされ 最終的にユビキノン ( 補酵素 Q コエンザイム Q) へ伝達される
ユビキノン ( 補酵素 Q コエンザイム Q) は長いイソプレン鎖をもつ 哺乳類では 10 個のイソプレン単位をもつことが一般的 ユビキノンは電子を 2 個うけとって還元型ユビキノンになり 膜の脂質を移動して次の複合体 III へ電子をわたす
コハク酸デヒドロゲナーゼ Succinate dehydrogenase 脱水素反応,FADH2 生成 ミトコンドリア内膜に結合 クエン酸回路酵素で唯一膜結合酵素 ( 他は, ミトコンドリアマトリックス中, 可溶性 ) ミトコンドリア電子伝達系 ( 呼吸鎖 ) 酵素の一つ COO - COO - CH2 CH2 + E FAD CH HC + E FADH2 COO- COO - コハク酸 Succinate フマル酸 Fumarate TCA 回路におけるコハク酸からフマル酸への変換にともない生じた FADH2 からの電子が複合体 II を介してユビキノンに伝達される
複合体 II はプロトンポンプでない 複合体 I III IV を電子が移動するとプロトンが内膜の内側 ( マトリックス側 ) から外側へ移動する マトリックスのプロトン濃度が低下し 膜電位 ( 内側がマイナス 外側がプラス ) が生じる
シトクロム C( ヘム鉄を含む ) QH2 Fe-S c1 c 複合体 III ( 酸化型 ) ( 還元型 ) 電子を受け取ると 3 価の鉄原子が 2 価にかわる
シトクロムオキシダーゼ シトクロム c から電子を受け取った複合体 IV は内部で銅 ヘム鉄と電子が移動し 最後に酸素にわたされる
シトクロム酸化酵素での酸素と電子の反応 Fig14-27
水力発電 複合体 I III IV を電子が移動するとプロトンが内膜の内側 ( マトリックス側 ) から外側へ移動する マトリックスのプロトン濃度が低下し 膜電位 ( 内側がマイナス 外側がプラス ) が生じる
化学浸透説 Chemiosmotic hypothesis 電子伝達 ( 電気エネルギー ) から ATP 産生のエネルギーへの変換 Peter Dennis Mitchell ( 英 )1961 年 電子伝達と共に プロトン (H + ) がミトコンドリア内から外にくみだされ, それによって生ずる電気化学的プロトン (H + ) 勾配が膜内外にできる. この電気化学的エネルギーが ATP 合成のための化学エネルギーに変換される. 1978 年 Nobel 化学賞
H + 輸送 ATP シンターゼ (Fo-F1 ATP アーゼ ) H + -Translocating ATP synthase (Fo-F1 ATPase) H + 膜間空間 Intermembrane space + + + + + + + + + + + Fo + + + + + + + + + + + - - - - マトリックス Matrix - - - - - F1 ADP + Pi H + ATP - - - - - - - -
β α β H + 輸送 ATP シンターゼ (Fo-F1 ATP アーゼ ) H + -Translocating ATP synthase (Fo-F1 ATPase) α γ β δ δ ε α β α α H + α β β α プロトンが通過することが駆動力になって ATP 合成酵素が回転する 回転する力を使って ATP を合成する F1 90 Å マトリックス Matrix δ ε 茎 Stalk 50 Å Fo 50 Å 膜間空間 Intermemberance space H +
NADH NAD + 2e Complex I 4H+ コハク酸 フマル酸 FADH2 Complex II CoQ Complex III 2H+ 複合体 1 3 4 で各々プロトンが 4 2 4 個くみ出されると考えられる ATP1 分子を産生するためにはおよそ 3 個のプロトンが必要 Cyt c 4H+ Complex IV) NADH から 3ATP コハク酸から 2ATP 2e 2 H + + 1/2 O2 H2O
ミトコンドリア遺伝子 ミトコンドリアのタンパク質の多くは核の DNA にコードされるが ミトコンドリア自身も DNA をもつ ヒトミトコンドリア DNA は環状 DNA で電子伝達系の複合体などをコードしている ミトコンドリア遺伝子異常によって種々の病気がおこることが知られている
MELAS(mitochondrial encephalopathy, lactic acdosis, and stroke) ミトコンドリア 3243 変異 脳卒中様発作と乳酸アシドーシスを伴うミトコンドリア脳症 ロイシン trna をコードする遺伝子の異常 (3243A G 変異 ) によりほぼすべての電子伝達系の機能が損なわれるため発症する 全く同じ遺伝子変異 (3243A G) でインスリン分泌低下により糖尿病を発症する場合もある
グルコース 1mol 当り何 mol の ATP が合成されるか?
クエン酸回路 2xNADH 6ATP N A D + ピルビン酸 C o A - S H N A D H C O 2 アセチル C o A C o A - S H 合計 30ATP の産生 6ATP 2xNADH オキサロ酢酸 クエン酸 4ATP クエン酸回路 2xFADH2 NAD + 2ATP 2xNADH 6ATP 2xNADH 6ATP
細胞質 解糖 Glycolysis エムデン マイヤーホフ経路 Embden-Meyerhof pathway ATP ADP ATP ADP グルコース グルコース 6-リン酸 フルクトース 6-リン酸 フルクトース 1,6-ビスリン酸 ATP 3-ホスホグリセリン酸 ADP 1,3- ビスホスホグリセリン酸 グリセルアルデヒド 3- リン酸 ジヒドロキシアセトンリン酸 NADH NAD 2- ホスホグリセリン酸 ADP ホスホエノールピルビン酸 ATP ピルビン酸 NADH はミトコンドリア内膜を通過できない 細胞質でつくられた NADH はどうなるのか? 解糖系 :2ATP の産生 ミトコンドリア ( クエン酸回路, 酸化的リン酸化 )
NADH シャトル NADHのミトコンドリアへの移入 リンゴ酸アスパラギン酸シャトル 肝臓や心臓で発達 グリセロールリン酸シャトル 筋肉や膵 β 細胞で発達
リンゴ酸アスパラギン酸ミトコンドリア内膜シャトル膜間空間マトリックス細胞質 NAD + リンゴ酸 リンゴ酸 NAD + リンゴ酸 /2- オキソグルタル酸キャリアー オキサロ酢酸 α ーケトグルタル酸 α ーケトグルタル酸 オキサロ酢酸 電子伝達系 グルタミン酸 アスパラギン酸 アスパラギン酸 グルタミン酸 グルタミン酸 / アスパラギン酸キャリヤー リンゴ酸デヒドロゲナーゼ ( 細胞質 ) アスパラギン酸アミノ基転移酵素 ( 細胞質 ) リンゴ酸デヒドロゲナーゼ ( ミトコンドリア ) アスパラギン酸アミノ基転移酵素 ( ミトコンドリア )
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) + + オキザロ酢酸グルタミン酸 α ー KG アスパラギン酸 COO- COO- COO- COO- C=O NH3+-C-H C=O NH3+-C-H CH2 CH2 CH2 CH2 COO- CH2 CH2 COO- COO- COO-
リンゴ酸アスパラギン酸ミトコンドリア内膜シャトル膜間空間マトリックス細胞質 NAD + リンゴ酸 リンゴ酸 NAD + リンゴ酸 /2- オキソグルタル酸キャリアー オキサロ酢酸 α ーケトグルタル酸 α ーケトグルタル酸 オキサロ酢酸 電子伝達系 グルタミン酸 アスパラギン酸 アスパラギン酸 グルタミン酸 グルタミン酸 / アスパラギン酸キャリヤー リンゴ酸デヒドロゲナーゼ ( 細胞質 ) アスパラギン酸アミノ基転移酵素 ( 細胞質 ) リンゴ酸デヒドロゲナーゼ ( ミトコンドリア ) アスパラギン酸アミノ基転移酵素 ( ミトコンドリア )
グリセロールリン酸シャトル 細胞質膜間空間 ミトコンドリア内膜 マトリックス NAD + グリセロール 3- リン酸 FAD ジヒドロキシアセトンリン酸 FADH2 グリセロール 3- リン酸デヒドロゲナーゼ ( 細胞質 ) e- 2 ADP 電子伝達系 グリセロール3-リン酸デヒドロゲナーゼ ( 内膜 ) 2 ATP O2
NADH がリンゴ酸ーアスパラギン酸シャトルでミトコンドリア の中に入ったとすると 2 分子の NADH が解糖系で産生され ているので 2x3=6 分子の ATP が産生されることになる 30ATP + 2ATP( 解糖系 ) + 6ATP = 合計 38ATP グリセロールリン酸シャトルで入れば?
呼吸鎖を阻害する薬物
脱共役
白色脂肪細胞 褐色脂肪細胞 褐色脂肪細胞は新生児にみとめられる 白色脂肪細胞に比べて脂肪の蓄積は少なく ミトコンドリアが発達している 熱の産生に中心的な働きを行っていると考えられる
褐色脂肪細胞の熱発生 (UCP による脱共役 ) ノルアドレナリン 活性化 アデニル酸シクラーゼ Fo-F1 ATPase H + ATP camp 活性化 camp 依存性プロテインキナーゼ 活性化 トリアシルグリセロールリパーゼ アシル CoA H + NADH, FADH2 2e- H + UCP-1 トリアシルグリセロール ( 脂肪 ) アシル CoA 脂肪酸 活性化
UCP(uncoupling protein) UCP-1(thermogenin): 褐色脂肪細胞に特異的に発現 UCP-2: 種々の臓器に広く発現が認められる UCP-3: 筋肉に主に認められる UCP-4, UCP-5: 脳神経に認められる 糖尿病マウスでは膵島における UCP2 の発現が増加しており インスリン分泌を低下させる 筋肉に UCP3 を過剰発現するマウスでは 体重が減少する
理解の確認のために 1. 電子の獲得は還元である 2. 水素を付加は還元である 3. 電子伝達系はミトコンドリアの外膜でおこなわれる 4. 複合体 I においてNADHからの電子はシトクロムcに伝達される 5. ユビキノンは複合体 Iから複合体 IIへ電子を伝達する 6. 複合体 II はNADHからの電子をうけとる 7. 酸素は複合体 IIIを介して水に還元される 8. 複合体 I III IVはプロトンポンプとしてはたらく 9. ミトコンドリア遺伝子異常によってMELASが発症する 10. NADH1 分子から2 分子のATPが産生される 11. 酸化還元電位の高いNADHから低い酸素に電子が移動する 12. グリセロールリン酸シャトルは細胞質でできたNADHをFADH2として ミトコンドリアに運ぶ 13. リンゴ酸はミトコンドリア内膜を通過できる 14. CN( 青酸 ) は複合体 IVにおける電子伝達を阻害する 15. ジニトロフェノールにより酸化とリン酸化は脱共役される 16. UCP2は褐色脂肪に発現している 17. 褐色脂肪は熱の産生に重要な働きを担っている 18. 1 分子のNADH2から2 分子のATPが産生される