EDS 分析ってなんですか? どのようにすればうまく分析できますか?(EDS 分析の基礎 ) ブルカー エイエックスエス ( 株 ) 山崎巌 Innovation with Integrity
目次 1 SEM EDS とは 1-1 走査電子顕微鏡と X 線分析 1-2 微少領域の観察 分析 1-3 SEM で何がわかる 1-4 試料から出てくる情報 2 EDS でどうして元素がわかるの 2-1 X 線 2-2 エックス線の検出法 2-3 EDS のスペクトル 2-4 X 線の放射 : 連続 X 線 2-5 X 線の放射 : 特性 X 線 2-6 特性 X 線の系列 3 EDS ではどんな分析ができますか? 3-1 定性分析 3-2 定量分析 3-3 多点分析 3-4 ラインスキャン 3-5 元素マッピング 4 どのような手順で分析したら良いですか? 試料作製の注意点は? 4-1 分析手順 4-2 試料前処理の注意点 ( 粉末試料 ) 4-3 試料前処理の注意点 ( 導電処理 ) 4-4 試料形状と検出器の位置 5 分析時の SEM 条件は? 5-1 未知試料の分析 5-2 軽元素の分析 (1) 5-3 軽元素の分析 (2) 5-4 微小領域の分析 5-5 加速電圧の設定 ( まとめ ) 5-6 分析時のプローブ電流は? 6 分析時の注意点 6-1 定性分析での注意点 6-2 元素マッピングでの注意点 2
1 SEM EDS とは 3
1-1 走査型電子顕微鏡と X 線分析 エネルギー分散形 X 線分析装置 (EDS) は 走査型電子顕微鏡 (SEM) に取り付け X 線を検出し試料の元素情報を得る装置です エネルギー分散形 X 線分析装置 (EDS) 走査型電子顕微鏡 (SEM) 4
1-2 微小領域の観察 分析 電子顕微鏡はミリオーダーからナノオーダーまで観察ができます 付属の EDS を使用すると同様な領域の元素分析が可能です 100 mm 10 mm 1 mm 100μm 10μm 1μm 100nm 10nm 1nm 肉眼 光学顕微鏡 電子顕微鏡 5
1-3 SEM で何がわかる SEM からの情報 MnFeWO 4 KAISi 3 O 8 凹凸によるコントラスト組成差によるコントラスト 実際はどのような元素が含まれているの? 元素情報知る方法は無いの? X 線分析 (EDS) で元素情報が得られます 6
1-4 試料から出てくる情報 ( 信号 ) 試料に照射された電子線は 試料表面からある深さまで入り込み各種の電子線や X 線を発生させます 特性 X 線 : 元素情報 組成情報 連続 X 線 ( バックグランド ) 反射電子 : 凹凸情報 組成像 光 : 組成情報 2 次電子 : 凹凸像 組成像 特性 X 線により試料に含まれる元素情報が得られます 7
2 EDS でどうして元素が解るの 8
2-1 X 線 ラジオ電波 マイクロ波 赤外線 可視光線 波長 10m 200μm 810nm 380nm エネルギー 10-6 ev 10-1 ev 電磁波は波長の違いにより相互作用が異なりそれぞれの特徴ごとに別の名前が付けられています X 線は波長 100nm から 0.1nm の電磁波で紫外線とガンマ線の間にあります 紫外線 100nm 10eV X 線 ガンマ線 0.1nm 10 5 ev 9
2-2 X 線の検出法 X 線は太陽光発電と同じ原理で検出されます シリコン半導体に電磁波が入射すると電子 (-) と正孔 (+) の対が生まれ 電圧をかけることにより電流が発生します 発生する電流は X 線のエネルギーに比例します 入射した個々の X 線で発生した電流を計測し X 線のエネルギーに換算します 10
2-3 EDS のスペクトル X線カウント数(CPS) 11 O Na Al X 線エネルギー (kev) (CPS: シーピーエス 1 秒当たりのカウント数 ) Si 特性 X 線含有元素を表します面積は元素量の情報を与えます K Ca 連続 X 線 ( バックグランド ) 通常はノイズとして扱われますチャージアップや試料傾斜で形状が変わります 試料 :Albite(NaAlSi 3 O 8 )
2-4 X 線の放射 : 連続 X 線 連続 X 線 ( バックグラウンド ): 照射電子線が原子内を通過する際 原子核との作用で失われたエネルギーが X 線として放射されます この X 線はバックグラウンドを形成します 25.11.2014 12
2-5 X 線の放射 : 特性 X 線 8 照射電子線が原子内を通過する際 原子内電子と衝突を起こし 原子内電子が弾き飛ばされた場合 弾き飛ばされた電子を補うため外核から電子が移動します この電子はポテンシャルエネルギー差分を X 線として放出します この X 線は原子の種類と 移動した殻の種類によりエネルギーが決まるので 原子の特性を示す特性 X 線として検出されます cps/ev 7 6 5 S Mo Cr Ni S C Fe Si Mo Cr Fe Ni 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 kev 25.11.2014 13
2-6 特性 X 線の系列 M 5 M 4 M 3 M 2 K 線 K 線 Kα 線 :K 殻の電子が弾き飛ばされ L 殻の電子が移動 M 1 Kβ 線 :K 殻の電子が弾き飛ばされ M 殻の電子が移動 L 3 L 2 L 1 α 1 α 2 β 1 β 2 L 線 K α 1 α 2 β 1 β 2 K 系列 L 系列 L 線 :L 殻の電子が弾き飛ばされ M 殻の電子が移動 14
3 EDS ではどんな分析ができますか? 15
3-1 定性分析 試料内の含有元素の同定測定されたスペクトルで 特性 X 線のエネルギーがどの元素の特性 X 線に対応するかを調べることで 試料内に含まれる元素の種類を知ることができます 各特性 X 線とデータベースを比較することで元素の確認ができます Si C O Na Al K Ca 16
3-2 定量分析 発生する特性 X 線の数は元素の濃度に比例します 各特性 X 線の強度 ( カウント数 ) を調べることで含有元素の濃度を調べることが出来ます 17
3-3 多点分析 EDS 側で SEM のスキャンを制御し SEM 画像を取り込み画像上で指定した場所のスペクトルを取得します 18
3-4 ラインスキャン SEM 画像で指定したライン上の各元素の濃度分布をプロファイルで観ることができます 19
3-5 元素マッピング 各元素の分布を 2 次元的に見ることができます いくつかの元素の重ね合わせた画像も表示できます また ハイパーマップでは各画素のスペクトル情報をデーターベースとして取り込むことができるので 測定後に他の元素のマッピングや 特定部分のスペクトルを取得することができます 合成元素マッピング 元素マッピング 20
4 どのような手順で分析をしたら 良いですか? 試料作製の注意点は? 21
4-1 分析手順 試料の観察 ( 分析場所の確認 ) 試料の前処理分析条件の設定 EDS 分析 試料中の分析場所を目視や光学顕微鏡を用い確認してください 必要な場合はマーキングを行ってください 抱埋 研磨 試料台への貼り付け 導電性処理 検出器の挿入 試料位置 (WD 傾斜 ) の調整 分析場所への移動 加速電圧, プローブ電流の設定 定性 定量 多点分析 ライン分析 元素マッピング 22
4-2 試料前処理の注意点 ( 粉末試料 ) 粉末試料の注意点粉末試料は分析中およびチャンバーリークの際に飛散して EDS 検出器を傷つけることがあります しっかり固定して分析しましょう ふりかけ法 ブロアーやエアーダスターで余分な粉末を吹き飛ばしてから分析してください カーボンテープカーボンペースト カーボンテープ使用の際はシリコン紙で上から抑えると効果的です 23
4-3 試料前処理の注意点 ( 導電処理 ) SEM 観察の場合は導電性処理として一般的に Au,Pt,Pt-Pd を試料に蒸着します 青 :Pt 赤 :Au この状態で EDS 分析を行うことはできますが分析結果に影響があります 1 表面の Au,Pt,Pt-Pd に軽元素の特性 X 線が吸収されてしまう 2 微量な P( リン ) や S( 硫黄 ) のピークが隠れてしまう 精度の良い分析のためには C( カーボン ) を蒸着してください 24
4-4 試料形状と検出器位置 (1) 対物レンズ EDS 検出器 分析位置が試料で隠れていないか 試料 ワーキングデタンス (WD) 凹凸の著しい試料を分析する場合検出器と試料の位置関係を考慮する必要があります 25
4-4 試料形状と検出器位置 (2) 対物レンズ EDS 検出器 ワーキングデタンス (WD) 試料 EDS 検出器側に障害物が無いよう試料をセットしてください 26
5 分析時の SEM 条件は 27
5-1 未知試料の分析 未知試料の場合は加速電圧を 15kV または 20kV で分析してください ほぼすべての元素の存在が確認できます 加速電圧 20kV 加速電圧 5kV 試料 :SRM348 28
5-2 軽元素の分析 (1) 加速電圧を下げることで軽元素の励起効率が上がります 加速電圧 20kV 加速電圧 5kV F Ca F Ca 試料 :CaF 2 29
5-3 軽元素の分析 (2) 微量な軽元素を分析する場合はできるだけ加速電圧を下げて分析してください 検出限界が良くなります cps/ev 100 80 60 C N O 40 20 0 試料 : ナイロン (N 重量濃度 10% 以下 ) 検出器 :125eV(Mn K) 測定時間 :60 秒加速電圧 : 5 kv 真空度 :30Pa( 低真空無蒸着分析 ) 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00 kev 30
5-4 微小領域の分析 加速電圧に応じて電子線の散乱領域は変わります 同様にX 線発生領域も加速電圧に応じて変化します 微小領域の分析では加速電圧は低い方が良い結果が得られます 加速電圧 20kV のスペクトル 微小粒子の分析 基盤の CuZn のスペクトル Pb 内での電子線散乱領域 試料 :CuZn 上の Pb 粒子 加速電圧 5kV のスペクトル 1μm 31
5-5 加速電圧の設定 ( まとめ ) 加速電圧 低 高 X 線発生量 低 高 測定可能元素 少 多 分析領域 小 大 分析目的に応じて適切な加速電圧を選択してください 32
5-6 EDS 分析時のプローブ電流条件 SEM では加速電圧とは別に 照射電流を変えることができます SEM 像観察条件では通常十分な X 線が得られません 通常の SEM 観察より多く電流を取るようにしてください ビーム電流少ない多い SEM 像分解能良い悪い X 線発生量少ない多い 33
6 分析時の注意点は 34
6-1-1 定性分析での注意点 SUM ピーク濃度の高い元素の場合特性 X 線が 2 つ同時に検出器に入りちょうど 2 倍のエネルギーの場所にピークが現れる現象があります このピークは SUM ピークと呼ばれています 入力カウントを少なくすると SUM ピークは小さくなります 入力カウント :40kcps 入力カウント :5kcps Al(1.486eV) Al SUM ピーク (2.972eV) 35
6-1-2 定性分析での注意点 オーバーラップピーク EDS 分析では エネルギーの近いピーク同士が重なり合うことがあります これらの元素の同定は ピーク分離等を行い スペクトルとのフィッティングを観ることで確認できます 240 220 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 cps W Si Si: 赤 W: 緑 0 200 210 220 230 240 250 channel 重なる主な元素 Co-Kα と Cr-Lα F-Kα と Fe-Lα Na-Kα と Zn-Lα Al-Kα と Br-Lα Ti-Kα と Ba-Lα Pb-Lα と As-Kα Si-Kα と W-Lα S-Kα と Mo-Lα と Pb-Mα 36
6-2-1 入力カウントについて 元素マッピングでは 照射電流が多いいほど短時間で 解像度の良い像が得られます 試料にダメージ等の 無い場合は出来るだけ照射電流を多くして測定して ください 試料 古銭 入力カウント:1kcps 照射電流 20pA 観察モード 測定時間 5分 C Si 入力カウント:10kcps 照射電流 300pA 測定時間 5分 C Si 入力カウント:50kcps 照射電流 1.3nA 測定時間 5分 C Si 37
6-2-2 試料の凹凸について 検出器 カーボンテープ上の球形 SiO 2 のマッピング像です EDS 検出器は写真上方にあります 下地のカーボンの元素マッピングに SiO 2 粒子の影が見られます 凹凸の著しい試料を元素マッピンする場合は影を考慮に入れて分析する必要があります 38
6-2-3 吸収の影響について 検出器 カーボンテープ上の球形 SiO 2 の元素マッピング像です 粒子の組成は一様です Si と O の元素マッピング像を比べると 酸素の元素マッピングで粒子の下側で信号が少なくなっているのが分かります これはエネルギーの小さい O の特性 X 線が試料内で Si の特性 X 線より多く吸収されているからです Si 元素マッピング像 O 元素マッピング像 Si,O 合成像 39
6-2-3 ナノオーダーマッピング ( 低加速マッピングの効果 ) 加速電圧を下げると電子線散乱領域が小さくなり微小領域の元素の分布が得られます 2.5 x 1E3 Impulse/ ev 1.00 * 1 2.0 1.5 C N O Ni Cu Ge Si 1.0 0.5 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 2.4 kev N Ni Cu Ge 400nm 試料 : マイクロ SD カード加速電圧 :2.8kV 観察倍率 : 50,000 40
まとめ EDS を用いると SEM で元素情報が簡単に得られます SEM の条件を正しく設定することで 精度良い分析が出来ます EDS の性能向上により より精度の良い分析が出来るようになりました 41
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