平成18年度 理学系研究科博士前期課程(生物科学専攻)

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平成 28 年度大学院理学系研究科博士前期課程 ( 生物科学専攻 ) 第 1 次募集入学試験問題 専門科目 試験時間 :13:00~16:30 配点 ( 合計 ):400 点 問題は, 問題 I 問題 X まで, 全部で 10 題あります. 問題 I~ 問題 III ( 生化学 ( タンパク質化学を含む )) および 問題 IV~ 問題 VI( 分子細胞生物学 ( 遺伝学 発生生物学を含む )) は, 必ず解答しなさい. 問題 I ~ 問題 VI に加えて, 問題 VII 問題 VIII( 有機化学 物理化学 ) と 問題 IX 問題 X( 生態学 進化系統学 ) のどちらかを選択して, 合計 8 題に解答しなさい. 注意 (1) 解答用紙を 8 枚配付します. 配付された解答用紙の枚数を確認しなさい. 不足の場合は速やかに申し出なさい. (2) 各解答用紙の所定の欄に, 受験番号と氏名を必ず記入しなさい. (3) 解答は, 選択した問題ごとに, それぞれ別の解答用紙に記入しなさい. 解答用紙の所定の欄に, 問題番号 ( ローマ数字 ) を必ず記入しなさい. (4) 解答用紙の表面に解答を書ききれない場合には, 裏面を使用しなさい. 計算や下書きは, 問題冊子の余白を使用しなさい.

問題 I. セリンプロテアーゼに関する問 1~ 問 6 に答えなさい. 問 1. セリンプロテアーゼの酵素活性は, 表 1 に示すような基質ペプチドを加水分解して遊離させたパラニトロアニリン (pna) 量を分光学的に定量して測定することができる. 表 1のセリンプロテアーゼ A~C はトリプシン, キモトリプシン, エラスターゼのいずれかである. ある条件下で測定した相対活性値 ( 表 1) を参考にしてプロテアーゼ A~C はどれか答えなさい. また, そのように結論した理由を説明しなさい. 表 1 基質ペプチドに対する各セリンプロテアーゼの相対活性値 基質ペプチド Boc-Ala-Ala-pNA Bz-Phe-pNA Bz-Arg-pNA セリンプロテアーゼ A 100 0 0 セリンプロテアーゼ B 0 10 100 セリンプロテアーゼ C 0 100 0 Boc: t-butoxycarbonyl group,bz: Benzoyl group 問 2. 表 1 から, セリンプロテアーゼ B は 2 つの基質ペプチドを切断することが 分かる. セリンプロテアーゼ B の基質特異性が低い理由について説明しなさい. 問 3. セリンプロテアーゼの酵素活性には触媒基トリオと呼ばれる 3 つのアミノ酸 が重要な役割を果たしている. 触媒基トリオの水素結合による相互作用を図示し, 各アミノ酸の役割を説明しなさい. 問 4. セリンプロテアーゼ A~C の至適 ph は 8 付近にある. その理由を pka と いう用語を使って説明しなさい. 問 5. 表 2 に示すデータから, セリンプロテアーゼ A の KM 及び Vmax を求めなさ い. 表 2 各基質濃度におけるプロテアーゼ A の反応速度 [Boc-Ala-Ala-pNA] ( M) 0.1 0.2 0.4 0.8 1.6 v0 ( M/s) 0.5 0.8 1.143 1.455 1.684 問 6. セリンプロテアーゼ A の競合阻害剤を 6 M を加えると見かけの KM が阻害 剤のないときの 3 倍になった. このときの KI を求めなさい. 1

問題 II. グルコース代謝に関する問 1~ 問 5 に答えなさい. 問 1. 下図は解糖系で 1 分子のグルコースから 2 分子のピルビン酸が生成する反応 過程を示している. 図中のグリセルアルデヒド 3 リン酸 + ( ウ ) 以降の頭文字 2 は 2 分子の反応物が生成することを示す.( ア )~( カ ) の化合物の名称を答 えなさい. グルコース グルコース 6-リン酸 ( ア ) ( イ ) グリセルアルデヒド 3-リン酸 + ( ウ ) 2( エ ) 2( オ ) 2( カ ) 2ホスホエノールピルビン酸 2ピルビン酸 問 2. 解糖系で ATP を消費する反応を触媒する酵素 2 つおよび ATP を産生する反応 を触媒する酵素 2 つの名称を答えなさい. 問 3. 解糖系による代謝産物であるピルビン酸は, 多酵素複合体によりアセチル CoA に変換される. 多酵素複合体に関する問 (1)~(3) に答えなさい. (1) 多酵素複合体の名称を答えなさい. (2) 多酵素複合体の 5 つの補酵素の名称を答えなさい. 2

(3) 酵素が複合体を作って反応を触媒する場合, それぞれの酵素が単独に反応を 触媒するのに比べて有利な点が存在する. 有利な点を 2 つ説明しなさい. 問 4. アセチル CoA はピルビン酸以外からも供給され, クエン酸回路に受け渡され る. アミノ酸の分解以外では, どのような物質が, どのように代謝されアセチル CoA が供給されるか, 物質および代謝系の名称をそれぞれ答えなさい. 問 5. 以下の表は生物にとって重要なリン酸化合物の加水分解の標準自由エネルギ ー変化を表している. この表を用いて, 解糖系中の反応 (1),(2) の標準自由 エネルギー変化を求めなさい. 化合物 ΔG (kj / mol ) ホスホエノールピルビン酸 -61.9 ATP( AMP+PPi) -45.6 ATP( ADP+Pi) -30.5 グルコース 6 リン酸 -13.8 (1) ATP + グルコース ADP + グルコース 6 リン酸 (2) ホスホエノールピルビン酸 + ADP ピルビン酸 + ATP 3

問題 IV. 1953 年に J. J. Weigle は, 紫外線を照射した λ ファージを大腸菌に感染さ せ, 産生する子孫ファージの突然変異に関する, ある現象を報告した. この現象 に関する問 1~ 問 3 に答えなさい. 問 1.λ ファージに紫外線を照射すると子孫ファージに突然変異がおこる理由を説 明しなさい. 問 2.J. J. Weigle は,λ ファージだけでなく, 宿主大腸菌にもあらかじめ紫外線を 照射しておくと子孫ファージの突然変異頻度が上昇することを発見した. この 変異頻度上昇のメカニズムを説明しなさい. 問 3. 問 2 と同じ実験を, 宿主として reca 欠損大腸菌株を用いておこなった場合, 野性株を用いた場合に比べ, 子孫ファージの突然変異頻度はどう変化すると考 えられるか, 理由とともに述べなさい. 6

問題 V. 遺伝子発現に関する下の文を読み, 問 1~ 問 4 に答えなさい. (a) 大腸菌に薬剤耐性を付与する要素として, 薬剤耐性遺伝子がある. これらは, 例えばプラスミド上にコードされた遺伝子のはたらきによって, 対象の薬剤を分解または修飾する酵素や, 細胞外へ薬剤を排出するポンプ, あるいは, 薬剤の標的になる部位を修飾する ( 結果として薬剤への感受性が低下する ) 酵素を発現し, そのプラスミドを保持する菌体が薬剤に対する耐性を獲得するものである. この場合, 薬剤耐性の形質は, 関係する遺伝子をコードする DNA を持つか持たないかによって定まる. 一方, 高等な多細胞生物においては,(b) 個体の体細胞は基本的に共通のゲノム構成をもっているが, 分化した細胞は, 組織によって異なる性質 ( 異なる遺伝子発現のパターン ) を示す. これは,(c) エピジェネティックな情報 (DNA 配列によらない ) が分化の過程で確立され, 細胞分裂の際にそれぞれの娘細胞に受け継がれることによって成り立っている. エピジェネティックな情報は, 生殖細胞形成の過程でリセットされ, 個体の発生の過程で書き換えられる. そのような DNA 配列によらずに受け継がれる遺伝情報が発現の調節にはたらくことを, エピジェネティックな調節と呼んでいる. 問 1. 下線部 (a) に関連して, 遺伝子工学実験などで大腸菌の選抜のためによく用 いられる抗生物質の名称と, それに対する薬剤耐性遺伝子が産する酵素の一般 名の組合せについて, 一例を挙げなさい. 問 2. 下線部 (b) の例外として, ヒト体細胞において, 分化の過程で遺伝子の再編 成がおこる細胞の例を 1 つあげなさい. 問 3. 下線部 (c) のエピジェネティックな情報には,DNA の修飾とヒストンの修飾, およびそれらに伴って誘起されるクロマチン構造の変化がある. これに関係する DNA の修飾とヒストンの修飾にはどのようなものがあるか. 知るところをすべて挙げなさい. ただし, 解答は, の化 のように答えること. 問 4. エピジェネティックな情報による遺伝子発現調節の例として, 哺乳類の雌における X 染色体不活性化がある. 三毛猫の毛色について,X 染色体の不活性化に基づいて説明しなさい. ただし, 猫の毛色を決める遺伝子として, 常染色体に毛色の有無を決める遺伝子 ( 対立遺伝子 W, w) および白斑模様に関する遺伝子 ( 対立遺伝子 S, s) があり,X 染色体上に茶または黒を発現する遺伝子 ( 対 7

立遺伝子 O, o) がある.W は毛色を発現せず ( 全身白毛 ),w は毛色を発現する. S は白斑をつくり,s は白斑をつくらない ( 不完全優性のため,Ss の個体は白斑 が少なくなる ). 三毛猫の遺伝子型は ww, S-, Oo である. 8

問題 VI. 神経系の構成, 機能, 発生に関する下の文を読み, 問 1~ 問 4 に答えなさ い. ヒトの神経系はアとイに大別され, このうちアは, 頭蓋骨に覆われたウと, 脊椎に沿って長く伸びたエから構成されている. またイは多く分岐した構造を持ち全身に広がっているが, 機能的には体性神経系と自律神経系に分類される. さらに, 体性神経系は情報の受容に関わるオ神経と, 骨格筋の収縮を指令するカ神経に分類される. また自律神経系はキ神経とク神経に分類される. 自律神経系に属する 2 種類の神経は, 互いに逆の生理作用を体内の組織や器官に与える事により, 全身の恒常性の維持に関わる. キ神経とク神経の働きをさらに上位で統合している部位は, 間脳のケである. ケに隣接してコと呼ばれる小型の内分泌器官があり, 多くの種類のホルモンを分泌している. 発生生物学的に細胞分化系譜を見ると, アは主に神経管を構成する神経上皮細胞に由来し, イは神経板境界から生じたサ細胞に由来する. 問 1. 文中の空欄ア ~ サに入る最も適当な語を, それぞれ答えなさい. 問 2. アやイには神経細胞の他に, 幾つかのグリア細胞が含まれている. アに存在するグリア細胞を 2 種類, イに存在するグリア細胞を 1 種類 選び, その名称と役割をそれぞれ述べなさい. 問 3. コが分泌しているホルモンを 3 種類挙げて, その標的器官と作用をそ れぞれ簡潔に述べなさい. 問 4. サ細胞は多分化能を持ち, 全身に移動した後に神経細胞やグリア細胞 以外の細胞にも分化する. どの様な細胞に分化をするか, 細胞種または組織の 名称で 3 つ答えなさい. 9

問題 VII. 以下の (1)~(3) の反応について生成物の構造式を示し, 反応機構を 説明しなさい. (1) (2) (3) 10

ln ([A] t / [A] 0 ) 問題 VIII. 式 1で表される定圧状態で進む一次反応について,(1)~(3) を読み, 問 1~ 問 6に答えなさい. ただし,ln 2 は 6.9 10-1 の近似値を使用し, 問 2~ 問 5 はすべて有効数字 2 桁で解答しなさい. k A P ( 式 1) A: 反応物,P: 生成物,k: 反応速度定数 d[a] (1)A の減少速度 - dt を,A の濃度 [A] と k を使って表すと, d[a] - dt = ア ( 式 2) となる. (2) 式 2の微分方程式を解き, 時間 t における A の濃度 [A]t を, 自然対数の底 e,t, k,a の初濃度 [A]0 を使って表すと, 0 [A]t = イとなる. (3) 時間 t における A の濃度を測定し, t を横軸,ln ([A]t / [A]0) を縦軸とし てプロットしたのが右図である. -1-2 -3 0 5 10 t (s) 問 1. アとイに当てはまる最も適切な数式をそれぞれ答えなさい. 問 2. 図から k の値を求め, 答えなさい. 問 3.A の半減期を答えなさい. 問 4.A の初濃度が 1.0 M の時,A の濃度が 2.5 10-1 M となる時間を答えなさい. 問 5. 式 1 の反応のエンタルピーが -30 kjmol -1 で, 活性化エネルギーは 54 kjmol -1 であった. 逆反応 (P A) の活性化エネルギーを答えなさい. 11

問 6. 式 1 の反応は, 発熱反応または吸熱反応のいずれに該当するか答えなさい. 12

問題 IX. 大腸菌が一定時間に決まった回数の分裂を行うとするならば, 大腸菌の個体数は図の左側に示した曲線のような指数関数的な増加を示すであろう. しかし現実にはそのような指数関数的な増加は起こらずに, 同じ図の右側に示した曲線のようなロジスティック増加となり, やがて個体数は一定値 K となる. このような現象は多くの生物種で確認されているが, この現象について, 問 1 問 5に答えなさい. 図. 時間の経過にともなう生物個体数の増加 問 1. この図に示されている r と K について簡潔に説明しなさい. 問 2. ロジスティック増加を示す式を, 左辺を dn / dt として記述しなさい. 問 3. 多くの生物種の個体数増加において, 指数関数的な増加ではなくロジスティ ック増加が示される理由を簡潔に説明しなさい. 問 4.r - K 選択説という生活史理論があるが, この r - K 選択説の説明で重要であ る r 選択と K 選択についてそれぞれ簡潔に説明しなさい. 問 5.r 選択と K 選択では進化する形質が異なることが予測される.r 選択と K 選択のそれぞれについて, 具体的にどのような形質が進化するかを 4 つずつあ げなさい. 13