第 7 章アルミニウムおよびチタン 目的 アルミニウムおよびチタンの組織, 特性および熱処理に関する基本的事項を理解するとともに, 各材料の特徴を把握する. 7.1 アルミニウム 7.1.1 アルミニウムの種別 7.1.2 溶体化 時効処理 7.2 チタン 7.2.1 チタンの種別 7.2.2 微視組織と熱処理 7.2.3 チタン産業の現状 演習問題 7.1 アルミニウム (aluminum) 7.1.1 アルミニウムの種別 特徴 成形性比較的良好 サッシ, 缶など 比重小, 合金化 (Cu,Mg,Si など ) により高強度 航空機材料 電気 熱伝導性良好 配線, 冷却器 耐食性良好 アルミニウムおよびその合金の分類を表 7.1 に示す. JIS 規格の最初の数字は,1: 純 Al,2:Al- Cu,3:Al-Mn,4:Al- Si,5:Al-Mg,6:Al- Mg-Si,7:Al-Zn-Mg を表す. 表 7.1 アルミニウムおよびその合金 1
表 7.1 に示す各種アルミニウム合金は, 調質状態によって表 7.2 に示すように分類される. 非熱処理合金 1000 系 : 印刷版,3000 系 : アルミ缶,5000 系 : 展伸材熱処理合金 2000 系 6000 系 : 建材サッシ,7000 系 : 航空機構造用材料 図 7.1 に示すように, 塑性加工により成形する 2000 6000 系では延性が高く, また航空機構造用材料である 7000 系では強度が高い. 表 7.2 調質の分類 図 7.1 アルミニウム合金の引張強さと伸びの関係 7.1.2 溶体化 時効処理 溶体化 (solution treatment) 図 7.2 に示すように,TTT 線図のノーズにかからないように急冷する. これにより,Al 中に Cu が過飽和に固溶される. 時効 (aging) 溶体化後,TTT 線図下側の比較的低温で加熱すると, 核生成が活発で成長速度が遅いため, 極微細な析出物が均一に生成する. このような極微細な析出物は, 転位移動の妨げとなる ( 析出強化 ). すなわち, 降伏応力および引張強さは著しく上昇する. 図 7.2 Al-Cu 4wt% 合金 (2000 系 ) における溶体化 時効処理 2
溶体化 時効処理にともなう構造変化は,5 段階に大別される ( 図 7.4, 図 7.5). (a) 溶体化 Al 中に Cu が過飽和に固溶し,Cu 周囲のひずみが転位の移動を妨げる ( 固溶強化 ). これにより, 降伏応力は上昇する. (b) GP(Guinier Prestpon) ゾーン上記の過飽和固溶体中に,Cu が規則的に配列した円板状の領域が均一に生成する (GP ゾーン ). 円板およびその側面は母相と整合であるが, 大きな整合ひずみをともなうため, さらに降伏応力は上昇する. 図 7.3 時効処理にともなう降伏応力と構造変化 図 7.4 Al-Cu 4wt% 合金の時効処理にともなう構造変化 (a) 溶体化, (b)gp ゾーン形成,(c)q 相形成,(d)q 相形成,(e)q 相 (Cu Al 2 ) 形成 3
(c)q 相 GP ゾーンが成長し,q 相を形成する. この相と Al 母材は整合であるが, 格子定数が異なるため, 整合ひずみを生ずる. また析出物 (q 相 ) の存在は, 転位の移動をピン止めするため, さらに降伏応力は上昇する ( 時効硬化, 析出強化 ). (d)q 相 q 相が成長し,q 相が転位線上などの核生成が容易な領域に形成される. 同時に q 相は消滅していく. 析出物としてより粗大化するにしたがい, 転位をピン止めする効果は徐々に薄れ, 降伏応力は徐々に低下していく. (e)q 相 q 相が分解し, q 相 (CuAl 2 ) が生成する. この段階に至ると, 焼鈍材と同じ組織となり, 降伏応力は一定値に漸近していく. 通常は, 降伏応力が最大となる時効条件で熱処理を施して使用する. 図 7.5 Al 合金の使用例 4
7.2 チタン 7.2.1 チタンの種別 特徴 耐食性良好 ( 表面酸化膜 TiO 2 ) 熱交換器, 屋根 ( 福岡ドーム ) 比重小, 高強度 航空機, スペースシャトル, 潜水艦, ゴルフクラブ 耐熱性良好 (500 まで ) 航空機エンジンなど 身体親和性良好 めがねフレーム, 時計, 生体材料 ( 人工股関節等 ) 高価 付加価値が高いものに使用 二酸化チタン : 絵具 ( 白 ), 化粧品 (UV カット ) 純チタンの結晶構造 882 未満 : HCP 構造 (a 相 ),882 以上 : BCC 構造 (b 相 ) 合金元素 a 安定化元素 Al,O,C,Nなど ( 特にAlが重要 ) b 安定化元素 V,Mo,Nb,Taなど ( 特にVが重要 ) 中間元素 Zr,Snなど ( 固溶強化 ) 純チタン,a 型チタン合金 : 高耐食性 a+b 型チタン合金 : Al 添加による α 相強化と V 添加により b 相安定化 ( 相界面による強化 ), 熱処理性向上 b 型チタン合金 : 加工 時効により高強度化 名称用途種別特徴 純チタン (a 相 ) 耐食性用 CPチタン (JIS1 種 ~4 種, 強度相違 ) a 型チタン合金 (near a 型 ) a+b 型チタン合金 b 型チタン合金 表 7.3 純チタンおよびチタン合金の種別 耐食性用, 極低温用 航空宇宙構造用, 航空機エンジン, 人工股関節 航空機 自動車部品 Ti-01.2~0.25 Pd (JIS1 種 ~3 種, 強度相違 ),Ti-5Al-2.5Sn など Ti-6Al-4V(JIS60), Ti-6Al-6V-2Sn など Ti-13V-11Cr-3Al, Ti-20V-4Al-1Sn など 塩水, 非酸化性環境での耐食性良好 比較的安価, 加工性悪い Pd 添加により, さらに耐食性改善 耐熱性良好 低温で高延性 高強度 高延性 高価, 加工性悪い 熱処理性向上 ( 高強度 ) さらに高価, 加工性良好 5
7.2.2 微視組織と熱処理 a+b 型チタン合金 (Ti-6Al-4V) Al 添加により a / b 変態温度は 995 に上昇 1 等軸状組織 ( 図 7.6(a)) 変態温度未満で加熱後炉冷 強度 延性のバランス 2 針状組織 ( 図 7.6(b)) 変態温度以上に加熱後炉冷 クリープ特性向上, 延性低下 (a) (c) 3Bimodal 組織 ( 図 7.6(c)) 変態温度近傍から溶体化後時効 強度向上 (b) (d) 4 溶体化時効組織 ( 図 7.6(d)) 変態温度未満で溶体化後時効 強度大幅向上, 延性低下 図 7.6 Ti-6Al-4V の組織 :(a) 等軸状,(b) 針状,(c)Bimodal,(d) 溶体化時効 b 型チタン合金 b 単相域から溶体化 ( 図 7.7) 加工性向上 ( b 相はすべり形が多い ) 加工後に時効し, 微細 a 相析出 ( 図 7.8) 高強度化 V 量が多いため高価, 比重上昇 チタンの加工性に関する問題点解決のために開発された合金 図 7.7 Ti-b 安定化元素系平衡状態図 図 7.8 Ti-20V-4Al-1Sn 合金の溶体化時効組織 :( 左 ) 光学顕微鏡観察,( 右 )TEM 観察 6
図 7.9 Ti 合金の使用例 7.2.3 チタン産業の現状 米国と日本でのチタン産業 米国 : 航空宇宙産業, 軍需産業において多用される. そのため, a+b 型チタン合金の使用が全体の 70 % (Ti-6Al-4V だけで全体の 56 %) を占める. 日本 : 耐食性や民生品への応用を主眼とした使用のため,CP チタンが全体の 90 % である. Ti-6Al-4V 56% Alloys 10% CP Ti 26% b Alloys 4% a b Alloys 14% CP Ti 90% 米国 日本 図 7.10 米国と日本での CP Ti とチタン合金の割合 7
チタン需要量の周期性と民生品への転用チタンは主として航空機産業を中心に多用されてきた. 耐用年数に達すると航空会社は代替機を購入するが, その時期は開発時期が同じ機種ごとにまとめて発注される. その結果, チタン需要量には約 5 年後との周期が発生する ( 図 7.11). このようなチタン需要量の周期性を回避するため,1980 年代半ばよりチタンを民生品へ応用する試みが活発となっている. しかしながら, チタンの第 1 次生産品 ( スポンジチタン ) が高価格であることから, 民生品におけるチタン使用は未だ限定的である. 図 7.11 チタン需要量の変遷 設計上の制約チタン製造メーカーは, 種々の取り組みにより価格の安定化を図っているが, それでも B737 および B747 の代替機製造が重なった 1980 年代半ばには, チタン価格の高騰が生じた ( 図 7.12). 一方, 航空機の機体軽量化 ( 低燃費化 輸送量増大 ) を目的として,1 機あたりのチタン使用量は年々増加している ( 図 7.13). しかしながら,B767 においては, 設計当初より, 上記の代替機ラッシュを見越してチタンの使用量が低い値に抑えられている. 図 7.12 チタン価格の変遷 図 7.13 1 期当たりのチタン使用料 8
7 章演習問題 問題 1 ジュラルミン (Al-Cu 4wt%) における溶体化 時効処理を説明せよ. また, この熱処理にともない降伏応力および引張り強さはどうなるか答えよ. 問題 2 純チタン以外に, チタンには a 型, a + b 型および b 型合金がある. 以下の場合, どれを使用するのが適切か, 理由と合わせて答えよ. (2-1) 化学プラントの配管 (2-2) 航空機の主脚 (2-3) ゴルフヘッド 問題 3 チタン需要量には不可避的な周期性が存在する. これを回避する具体的な方策を考えよ. 7 章演習問題解答 問題 1 TTT 線図のノーズにかからないように急冷する. これにより,Al 中に Cu が過飽和に固溶される. その後,TTT 線図下側の比較的低温で加熱すると, 核生成が活発で成長速度が遅いため, 極微細な析出物が均一に生成する. このような極微細な析出物は, 転位移動の妨げとなり, 降伏応力および引張強さは著しく上昇する. 問題 2 (2-1) 純チタン,a 型チタン合金,(2-2) a + b 型チタン合金,(2-3)b 型チタン合金 問題 3 省略 ( 各人考えること ) 9