教育講座 : 冠動脈 CT に求めているもの 教育講座 冠動脈 CT に循環器医師が求めているもの ( 提供画像 ) とその利用方法 三井記念病院循環器内科科長 田邉健吾 環境改善 レベルアップのために 医療というのは 医者や看護師や技師だと言っている時代ではなく それぞれが得意な領域をカバーし合いながらよいものを見出していくという時代と思っている そのために 当施設では院外の先生に来てもらい 循環器内科医 放射線科医 技師 放射線科の看護師を含めて月 1 回心臓 CT カンファレンスを行っている 基本的には読影と異なる症例について 色々な意見を様々な立場から述べてもらっている 循環器内科医が心臓カテーテル検査をし 心臓 CT レポートと異なった症例を 放射線科医や技師に還元する 看護師は検査の流れに詳しく 放射線科医や技師は被曝や撮影方法について長けており 最良の撮影方法を提案してくれている 例えば 最近ようやく使えるようになったコアベータの情報を早めに仕入れ いついつから承認されるので こういう作戦で行こうか と早めに対応したり あるいは 次のバージョンアップがあれば こうやって行くぞ と 皆で情報を共有してバージョンアップに備えている 撮像方法や造影剤投与方法の検討や患者フローの確認においては 造影 CT 時は絶食で来院するので 血液検査や血液生化学的検査用採血を CT 用の点滴確保時に行うなど最良の患者導線を考慮し看護師に協力して頂いている また 技師 看護師 医者を含め いろいろなデータを取っているので そのような分析 ( 解析結果 ) を報告し合う機会の場としても活用している 当施設の CT の変遷 (detector の進化 ) 2004 年に 16 列の MDCT を導入し 5 ヶ月間に 200 人 その後 64 列にバージョンアップし 4 年間で 2400 人 2009 年から 320 列を導入し 3 年と 3 カ月で 2900 人くらいスキャンしてきた これまでのいろいろなデータをフィードバックして復習しながら考えている 表 1 及び表 2 に 16 列から 64 列にバージョンアップした際の分析結果を示す 表 2 Causes of exclusion as not evaluable 表 3 The amount of cotrast agent and the time of breathhold Motion Artifact Severe calcification low opacification 16S (390 sgts) 64S (442 sgts) p value 32 7 <0.001 8 5 0.43 5 0 0.05 16S 64S p value Contrast (ml) 75.7 59.7 <0.001 Breathhold time (sec) 21.7 13.1 <0.001 16 列から 64 列にバージョンアップし有意差をもって改善されたのは Motion Artifact が減ったことと 造影剤量が 75ml から 60ml に減り 息止め時間も 22 秒から 13 秒まで減ったことである - 15 -
全国循環器撮影研究会誌 Vol.25 2013 分析やカンファレンスが効いたのか 陽性的中率 (PPV : positive predictive value) が倍増し 陰性 的中率 (NPV : negative predictive value) 表 4 は元々高値であったが 更に少し上昇 Segment-based Analysis (in visuable segments) した ( 表 3) ただし 64 列の弱点は TP TN FP FN Sens Spec PPV NPV 図 1 に示すように Banding Artifact (Stair-Step Artifact) が存在する 息止め時間が 13 秒になったとは言え まだ 16S 64S 56 50 243 379 36 5 9 4 80.9 92.6 81.3 98.7 40.4 90.9 96.4 99.0 克服すべき問題がある 現在使用している 320 列は息止め時間が 1~2 秒と短く 造影剤も 40ml と 更なる改善が可能となった ( 図 2) 図 1 64 列 MDCT の弱点造影良好だが Banding (Stair-Step) Artifact あり RCA #1-Mid に 75% 以上の狭窄が疑われるが Artifac が影響か? CAG にて確認したところ 問題なしの結果 表 5 静脈内投与可能な β 遮断薬の臨床的特徴 一般名 血中半減期 ( ヒト ) β 1 選択性 ( イヌ )* 作用の効果 作用の発現 ランジオロール 4 分 277 HR >BP HR 先行 プロプラノロール 2 時間 0.6 HR >BP HR 先行 エスモロール 9 分 20 HR BP BP 先行 図 2 64 列と 320 列の違い HR: 心拍数 BP: 血圧 *:β 1 と β 2 の作用比 β 遮断薬のすべて第 3 版先端医学社 p349 β 遮断薬の進化 β 遮断薬の進化もあり 新薬についてはカンファを通じ 承認前からどのようなフローで導入していったらよいのか相談してきた 従来の β 遮断薬は商品名でインデラルなどがあるが ランジオロール塩酸塩のコアベータが開発された この新薬の特徴は 半減期が 4 分と短いことである すなわち 投与してから CT 撮影後の帰宅までの副作用を心配しなくてよいことである 血圧を過度に低下させることなく 目的である心拍数をしっかり下げてくれる ( 表 4) 当施設も治験に参加していたが プラセボとコアベータの実薬群で比較すると もちろんコアベータのほうが 4 分くらいから心拍数が下がり 8~10 分くらいまでの作用時間であった 血圧に関する影響は少なくてよいことと 心拍数の低下率が 20% くらいあるのが特徴であった 320 列 CT では 心拍数を 65 以下にすることが 1 つのキーワードだが ( これが低いか高いかというのはまだ議論がある ) 達成率は 67% であった 描出能に関しては やはり実薬群のほうがしっかり評価しやすい結果であった 従来の飲み薬のテノーミンなどは作用時間が長く CT 検査後から帰宅してからも副作用の心配があったが コアベータを使うことで 副作用を心配する必要はないこと 一方でしっかり効 - 16 -
教育講座 : 冠動脈 CT に求めているもの いてくれるので心拍数を低下させることにより安定した画質を保つことができるというメリットがある また ひいては被曝の低減にもつながる ただ 現状の問題点は コアベータだけでは目標にしたい心拍数 65 の達成率は 67% くらいしかない このようなデータをカンファレンスで振り返り 現在は外来で心拍数が 70 以上であれば 経口剤の中で比較的半減期が短いロプレソール ( セロケン ) を使い 適宜追加でコアベータを使うというプロトコールにしている 医師 技師 看護師と分析し合い 最善のプロトコールを考案することが大事である レポートシステム レポートは非常に重要であり 紹介医や外来のドクターに役立つ情報を提供する必要がある CT 画像を全て送付すればよいが レポートにはピックアップして最適な画像を選ぶ必要があるため 技師には有用な画像作成をお願いしたい 図 3 に当施設のレポートを示す 当施設では まず放射線科の先生がざっとしたところを当日中にレポート作成してくれる ここで注意すべきは 専門医の資格があり かつ 2 日以内にレポート率がある程度高くないと 加算が取れないという事である 後で われわれ循環器医がもう少し踏み込んだ情報で カテやるにはこうしたほうがよい プラークはこうだ というのを追加している CT レポートがあり 様々なデータベースがあり しかも電子カルテがあり 非常に煩雑となる そこで データベースを一元化し無駄な入力を二度しなくてよいシステムを構築した データベースと電子カルテ CT レポートがリンクされ 入力ミスや時間の節約に効果を発揮している 図 3 心臓 CT レポート プラークに関する知識 CT の目的の 1 つは 狭窄の有無が第一の情報である 狭窄の有無の判定には運動負荷心電図 シンチ ドブタミン負荷エコーなどいろいろあり 表 5 に診断精度を示す 例えば普通の運動負荷心電図では感度は 55~80% で 一般的な検査ではあるが診断精度は低い 負荷シンチでは感度は少し上がり 80~95% となるが高額である 一般的な計算方法だが 全ての狭心症の人を救い上げられるわけではない これを考えると冠動脈 CT のほうが感度等も高いことが 過去の論文の報告にある CT ではさらにもう 1 つ大切な情報を得ることが出来る それがプラークである プラークの情報は カテーテルや PCI に重要で 薬物療法を考える上でも大切である また プラークは動脈硬化の初めの現象として患者管理には非常に重要な情報である しかし プラーク評価の限界も知っておかなければならない 例えば使う造影剤がどんどん濃くなれば プラークの CT 値も上昇する スキャ - 17 -
全国循環器撮影研究会誌 Vol.25 2013 ンタイミングが造影剤ピークであればプラークの CT 値は 83 という値なのに対し 少し遅れてスキャンすると 35 に下がるといった CT 値は撮影方法や 使用造影剤の濃度によりばらつくことがある 表 6 様々な検査と冠動脈疾患に関する診断精度 負荷法 感度 特異度 運動負荷心電図 55~80% 70~80% 負荷心筋シンチグラフィー 80~95% 70~95% 負荷心エコー運動負荷 70~95% 75~95% ドブタミン負荷 75~90% 75~95% ジピリダモール負荷 45~80% 80~95% Peteiro,J et al:peak treadmill exercise echocardiography:not feasible? Eur Heart J 30:740-741,2009 PCI の slow flow slow flow とは PCI にて血管狭窄部拡張後に血液の flow が遅くなってしまう事である 急性冠閉塞あるいは再狭窄の要因ともいわれている slow flow を PCI 前に把握出来ないか調べて行くうちに 1つおもしろい現象があることに気づいた 図 4 は右冠動脈造影像であるが #3 に軽度狭窄所見を認める 図 5 は心臓 CT による右冠動脈 CPR 像である 造影所見同様の所見を認める 狭窄部をみると 造影剤の CT 内腔が石灰化を伴ったプラークにより狭窄している様子が描出されている この病変部を拡大した Axial 像を図 6 に示す 図 6-a 及び図 6-d は狭窄部前後の正常部で造影剤の血管内腔が真ん図 4 右冠動脈造影中にある 図 6-b は中央の血管内腔と右外側に high-density な石灰化 下部の low-density なプラークの存在が認められる 図 6-c は中央に造影剤による血管内腔が存在し その周囲を low-density なプラークが取り囲んでいる 更にその外側にもエンハンスがある様な所見である 我々はシグネットリングライクサインと言っているが リングライクサイン あるいはリングライクエンハンスメント あるいはナプキンリングサインと呼ばれる事もある この所見は まだ用語が統一されていないことが難点だが 全部同じ意味で用いられる このような所見が見られた時に slow flow が多い事に気づき報告を行ったが 当時の反響は今一つと言った感じであっ図 5 心臓 CT た しかし その後沢山の報告が出され IVUS で確認すると プラーク RCA-MPR ラクチャーの後だったという報告もある よって このようなリングライクエンハンスメントというのは プラークラクチャーのあとを見ている重要な所見の可能性がる 図 6 a b c d Signet-ring Like Appearance Case Signet ring とは辞書では印章付指輪と訳される ( 上図 ) - 18 -
教育講座 : 冠動脈 CT に求めているもの CT で観察されるリングライクエンハンスメントは 造影剤 ( 血管内腔 ) が真ん中にあり より CT 値が低い領域があり その周り ( 外側 ) がエンハンスされる この部位の OCT 像は thin-cap fibroatheroma という いわゆる危なそうなプラークで 壁が薄く 将来フラクチャーしそうな所見で一致した 現在 CT の熱いトピックの 1 つになっている シグネットサインにしろ リングライクサインにしろ まとめると PCI をそのまま無防備にすると slow flow を起こす可能性がある よって そのような所見を CT で技師が見つけたら PCI のオペレーターに伝える必要があると考える この所見はプラークフラクチャーの後を見ている可能性もあり 逆に 1 回起こしたあとを見ている可能性もある しかし 将来心筋梗塞を起こしてしまうかもしれない重要な所見でることは間違いない プラーク分類 ガイドラインではプラークの分類の呼びかたが変わっている 1. カルシファイドプラーク : 石灰化のプラークで プラーク全体が石灰で覆われている 要するにプラーク全体が石灰で覆われてしまったものをカルシファイドプラークという 2. パーシャリーカルシファイドプラーク : プラークが一部分は石灰化で 石灰ではない部分もあるもの 3. ノンカルシファイド : 全く石灰化がないも 以上の 3 つに大きく分類され統一された CT で急性冠症候群を起こした人には ポジティブリモデリング プラークの存在 あるいは微小石灰化 あるいはリング様所見が見られるという論文が出始めた プラークに関して提供してほしい情報は 新分類のカルシファイドプラークなのか パーシャリーカルシファイドプラークなのか ノンカルシファイドプラークなのか この3つの分類と ポジティブリモデリングの有無である ポジティブリモデリングとは 血管内腔の大きさに変化はないものの プラークの生成 進展に伴い血管径 ( 外側 ) がポジティブ ( 陽性 ) に拡大する現象である ( 図 7) 図 7 ポジティブリモデリング CT の弱点 1st Sep. CT の必要性 重要性は十分理解されてきたが 苦手な部分もそれなりに存在する 弱点を押さえた上で最大限の努力でカバーして頂きたい 弱点の1つはバイパスの吻合部の問題である 表 6 に我々が報告した 64 列での静脈グラフトバイパスの評価を示すが 84% と抹消の血流評価は可能でも 表 7 に示すように陽性的中率はわずか 40% 程度である 吻合部は 細い とレポートに書きがちなのですが カテしてみると大丈夫だったということはかなり多く経験する 吻合部は弱点なので 吻合部を意識しながら撮影条件や撮像方法を考えたほうが良いと思われる 現在 320 列になりバンディングアーチファクトがなく かなり吻合部は見えるようになったという印象を持っている これに関して いまはカテと対比しながら前向き試験のデータを取っている 弱点のもう1つはステント部の評価である これはステント側の要因でもある ステントの金属が厚いかどうかというのは 100μm で分ける傾向がある 最近のステントは 100μm よりも薄いのですが 分厚いステントを入れる先生がいたら CT での評価が出来ないことも討論すべきと考えます また ステント径が 3mm 未満 (2.75mm, 2.5mm) も 見えにくいことが報告されている それぞれの施設でのスキャナー 撮像法のテクニックで ステント長 2.5mm 以下やステントストラット厚が 100μm 以上は見えにくいとなれば オーダー医にそれを還元すべきで 逆に見えるところであればカテをやらないで CT で評価可能である事を助言すべきである 施設における CT 評価のカットオフ値を決めることが大切である - 19 -
全国循環器撮影研究会誌 Vol.25 2013 表 7 Evaluability of graft body and distal anastomoses Graft Body and anastomoses Evaluability 94% Distal Run-off Artery 83.7% Non-grafted Artery 97.4% 表 8 Diagnostic Accuracy of 64-S MSCT for Distal runoffs and non-grafted arteries CT の最大の弱点は慢性完全閉塞性病変 (CTO) の評価である CTO に対する PCI 成功率に関する要因で良く知られているのは 病変長です 病変長が 15mm 以上か以下であるかで成功率が変わってくる また 石灰化の有無や閉塞部の血管形態が関与してくる 石灰化の影響や 閉塞部の血管形態がプチッと完全に切れてしまう (Blunt Stump) タイプはワイヤーが通しにくく 成功率が低くなる こういった成功 失敗に関わる情報を提供して頂きたい レトログレードアプローチを施行している病院では 側副血行路をしっかり描出することが大事である Virtual VR と言い 造影剤は入っていないけれども プラークがあるため 血管の走行を色づけして 3D 構築画像を提供する PCI をする先生にとって これは非常に有用な情報である 最後に : 将来展望を含めて 新たなステントデバイスがどんどん開発されている いちばんホットな話題は生体吸収性ステント (BVS) というデバイスである サイファーというステントは分厚くて見にくい代表だったが この BVS は溶けてなくなるポリマーを使用している このステントは溶ける前でも CT を邪魔しない材質であり 時期が来ればステントは溶けてなくなるというシステムで 全世界で 100 施設 1000 例でレジストリを組んで治験が入っている BVS で何が大事かというと 血管内超音波では新しい生体吸収のステントは全くシャドーを引いて観察できない点である 二重線の様になり 圧着の程度が不明瞭となっている 今後は IVUS 時代ではなくなるかもしれない ところが OCT では BVS の構造が 四角のブロック状になり よく観察できる 圧着の程度が明瞭に評価可能である OCT は いまはまだカテ室での位置づけが微妙だが 将来きっと役立つと思われる さらに OCT メーカーや CT メーカーも意識しており CT と OCT をコンバインして 両方一緒に動かそうというプロジェクトも存在する OCT の進化系は 危険なプラークのマクロファージをカウントできるという顕微鏡的なデバイスを作ろうとしている そのような OCT を用いてマクロファージをカウントし 危ないプラークをシーリングする目的に BVS を植え込むという時代になると 危険なプラークの情報が必要になる ポジティブリモデリング リングサイン プラーク CT 値といった情報の提供がますます大事になってくると思われ より CT の役割が高くなるだろうと考えられる - 20 -