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要求工学知識体系 (REBOK) の開発 青山幹雄 1, 中谷多哉子 2, 斎藤忍 3, 鈴木三紀夫中崎博明 5, 藤田和明 6, 村田尚彦 7, 鈴木律郎 要求工学知識体系 (REBOK: Requirements Engineering Body Of Knowledge)[ リーボック ] の知識構造を報告する.REBOK は, 要求工学の実践を推進するために,2006 ~2008 年度にわたり情報サービス産業協会 (JISA) に設置した要求工学 WG の活動から誕生した. 本稿では, 現場における要求工学と REBOK の必要性, 関連知識体系との比較による REBOK の位置づけ, 知識体系のモデルとアーキテクチャ, 求められる知識水準を紹介する. Development of REBOK Engineering Body Of Knowledge) Mikio Aoyama 1, Takako Nakatani 2, Shinobu Saito 3, Mikio Suzuki 4, Hiroaki Nakazaki 5, Kazuaki Fujita 6, Naohiko Murata 7 and Ritsuo Suzuki 8 Requirements engineering has been extensively developed as a discipline. Many statistics on the software development indicate requirements process is the most influential to both success and failure of software development. However, practitioners are still difficult to understand and apply requirements engineering. We have been working together to promote requirements engineering for last four years. As the result, we developed REBOK Engineering Body Of Knowledge) as a guideline for practitioners to learn and apply requirements engineering. This article explains the approach, knowledge model, knowledge architecture and a proof of concept of REBOK. 4, 8 1. はじめに 要求定義はソフトウェア開発の成否を握る, 最も重要な工程として実務での認識が高まっている [16]. そのため, 要求定義のための技術体系である要求工学の習得や人材の組織的育成が必要となっている [22]. しかし, 要求工学は多様な知識とスキルを包含することから, 全体を理解することが容易でなく, 人材育成も進んでいない. 一方, ソフトウェア開発における要求定義活動は広く知られているが, それを担当すべき要求エンジニアやビジネスアナリストなどの職務が規定されていないため, 専門職として確立されていない [10, 25, 27]. このため, 近年, 要求工学やビジネスアナリストのコミュニティにおいて, それぞれ, 個別に知識の体系化とそれに基づく認定が制度化されている. しかし, これらの知識体系は対象とする人材に強い制限があったり, 適用ドメインに制約がある. 本稿では, このような問題を解決するために, 要求工学の知識を実践の視点から整理, 体系化した要求工学知識体系 (REBOK: Requirements Engineering Body Of Knowledge)[ リーボックと呼ぶ ] を開発した. 本稿では,REBOK の背景, 開発の課題と開発方法, 知識体系のモデルとアーキテクチャ, 知識の達成水準, 評価を報告する. 2. 要求工学実践の現状と REBOK の必要性と知識体系化の課題 情報サービス産業協会 (JISA) では, ソフトウェア開発の実態調査を行ってきた [16]. この調査により, ソフトウェア開発の品質に良い面と悪い面の両面で最も影響を及ぼす工程が要求定義であることが明らかとなった. このため,JISA では,2006~2008 年度に要求工学調査研究 WG を設置し, 延べ 100 名を超える実務者と研究者が参加し, 要求工学の実践の課題, 事例研究, ベストプラクティスの収集と整理を行ってきた [17, 18]. この活動を通して要求工学の知識体系化の必要性が認識され,REBOK の構想と開発が立ち上げられた [3, 19]. 3. 関連知識体系 REBOK に関連する主要な知識体系と認定制度として, 次の 4 つが挙げられる. (1) SWEBOK (Software Engineering Body Of Knowledge)[1] 南山大学情報理工学部ソフトウェア工学科, Department of Software Engineering, Nanzan University 筑波大学大学院ビジネス科学研究科, Graduate School of Business Sciences, University of Tsukuba 3 株式会社 NTT データ, NTT DATA CORPORATION 4 TIS 株式会社, TIS Inc. 5 富士通エフ アイ ピー株式会社,FUJITSU FIP CORPORATION 6 株式会社日立システムアンドサービス,Hitachi Systems & Services, Ltd. 7 東芝ソリューション株式会社,Toshiba Solutions Corp. 8 社団法人情報サービス産業協会,Japan Information Technology Services Association 1 2 1 c2010 Information Processing Society of Japan

IEEE Computer Society が策定したソフトウェア工学知識体系. 第 2 章が要求工学の知識体系を示す. 認定として CSDP (Certified Software Development Professional),CSDA (Certified Software Development Associate) が実施されている. (2) BABOK (Business Analysis Body Of Knowledge)[12] 2003 年に設立された IIBA(Int l Institute of Business Analysis) が策定した, ビジネス分析を中心とし, 要求工学の知識も含む知識体系. 高度なビジネス分析者の育成を目的とし, 認定制度 CBPA (Certified Business Analysis Professional)[13] を 2006 年に開始. (3) CPRE (Certified Professional for Requirements Engineering)[14] 欧州の要求工学研究者が中心となり設立した IREB (Int l Requirements Engineering Board) が実施している認定試験. 現段階では初心者が対象. この試験の要求する内容がシラバスとして公開されている. (4) IT スキル標準 (ITSS: IT Skill Standard) と関連スキル標準 (UTSS, ETSS)[15] 経済産業省と情報処理推進機構 (IPA) により策定された知識要素の定義. 要求分析と対応する知識 / スキルの枠組みはないが, コンサルタントのスキル項目にビジネス分析が挙げられている. これらの中で, 要求工学の枠組みに沿った 3 つの知識体系の比較を表 1 に示す. 各 知識体系は, 目標に応じて対象者や内容の制約がある. 現状は,REBOK が目標とす る広範な人材や複数の知識レベルへの対応などの点で不十分である. 表 1 要求工学関連知識体系の比較 BOK SWEBOK BABOK CPRE 最新版 2004 Version 2 ( 09) Version 2( 09) 提案母体 IEEE CS IIBA IREB 対象者と名称 ソフトウェア開発者 ビジネスアナリスト 要求エンジニア スコープ ソフトウェア工学の中の要求工学 ビジネス分析, 要求工学 要求工学 知識単位 KU(Knowledge Unit) KA(Knowledge Area) EU (Educational Unit) 知識単位数 7 7 9 ドメイン依存性 無し 有り ( ビジネス ) 無し 知識達成水準 Bloom のタクソノミ 設定なし CPRE 固有の水準定義 認定制度 CSDP, CSDA CBAP CPRE 認定水準 Expert, Advanced Expert* Basic** 受験資格 学部卒で 4 年 (7,000 時間 ) 5 年 (7,500 時間 ) 以上の以上の実務経験ビジネス分析経験 なし 4. REBOK 開発のビジョンとアプローチ 4.1 REBOK のビジョン REBOK の開発にあたり, 次のビジョンを定めた. 要求工学知識体系 (REBOK) のビジョンは, 要求工学が理解され, 正しく適用され, 良い要求定義ができることにより, ソフトウェアの価値向上と社会活動の向上が実現されることである. 4.2 REBOK のミッション : REBOK の 5 原則ソフトウェア開発における要求工学の位置づけと関連知識体系の分析から,REBOK の策定にあたり 5 つの原則を次のように定めた. (1) ユーザとベンダが共通に利用できる知識体系要求定義はユーザとベンダに共通する活動であることから, 知識体系も共通に利用可能とする. (2) 要求アナリストに加えて, エンドユーザ, 経営者など, 要求定義に関与する人が, 必要に応じて習得すべき範囲と水準を整理した知識体系要求工学はビジネスや製品を対象とし, その影響や利益に関与する人は要求分析を遂行する技術者に留まらず, エンドユーザ, プロジェクトマネジャ (PM: Project Manager), 経営者も含む. 従って, これらの人も要求工学に関する一定の知識を持つことが望ましい. (3) ビジネス要求, システム要求, ソフトウェア要求の 3 層に応じた知識体系要求のスコープは, 後述するようにビジネス, 情報システム, ソフトウェアの 3 段階で定義できることから, これらのスコープに応じた知識のスコープの階層化が望ましい. (4) エンタープライズシステム, 組込みシステムの要求定義に共通する技術の知識体系. ただし, ドメイン固有の知識は個別に定義されるものとする知識体系が提供すべきで, かつ, 体系化可能な知識は特定のドメインの個別的な知識ではない. しかし, エンタープライズシステム ( ビジネス ) と組込みシステム ( プロダクト ) の基礎的な知識は提供すべきと考えられる. 特に, わが国では, 組込みシステムの要求分析が課題となっていること, ならびに,BABOK などの関連知識体系で対象となっていないことから, 組込みシステムの要求工学の基礎を含むことは意義があると考えられる. (5) 広く利用できる形態とする要求工学知識体系果は, タイムリに, かつ, 広く利用可能な形態で公開する. * Expert の前段階として Advanced が検討中, ** 高度な Advanced と Expert が告知されているが内容は未公開. 2 c2010 Information Processing Society of Japan

4.3 REBOK のスコープ 4.3.1 アクタ / ステークホルダと役割, 獲得すべき知識への要求 REBOK では, 要求工学に関与する人をアクタと呼び, 要求に関与する人や組織をステークホルダと呼ぶ.REBOK では, アクタが果たす役割は, 原理 (3) で示した 3 層のスコープと関連する. そのため, 図 1 に示すように,3 層のスコープと対応してアクタを 3 つのカテゴリに分類し, カテゴリ毎に果たすべき役割と獲得すべき知識への要求を次のように規定した. (1) 要求アナリスト : 要求工学を遂行する専門家を総称して要求アナリストと呼ぶ. 要求アナリストは, ビジネス, 情報システム, ソフトウェアの 3 つのスコープで, それぞれ, 要求工学を実践する. 各スコープに応じて要求工学を適用できる深い知識が必要である. (2) 要求の利用者 : 要求アナリストの成果を理解し, 活用できる知識が必要である. (3) 要求工学の理解者 : 経営者など, 要求工学の意義を理解し, 実践を支援するために基礎知識が必要である. ビジネス 情報システム ソフトウェア 経営者 (CIO) エンドユーザ ユーザ 図 1 REBOK のアクタと役割 4.3.2 要求アナリストの役割要求アナリストは, 上述した対象のスコープに応じて, 図 2 に示す 3 つに分けることができる. 情報システム ソフトウェアシステム ベンダ 要求工学の理解者 : 要求工学の基礎的理解 要求の利用者 : 要求工学の成果の理解と活用 ユーザプロジェクトマネジャ (PM) 要求アナリスト : 要求工学の遂行 情報システム部門 開発部門 ( 上級 SE) ベンダプロジェクトマネジャ (PM) 経営者 ソフトウェア開発者 環境 : ステークホルダ, 市場 / ビジネス慣行, 法規制, ほかビジネスビジネス要求 ( 製品要求 ) ビジネスアナリスト ビジネス戦略 / ゴールビジネスプロセスデータビジネスルール ( 情報 ) システム要求システムアナリスト業務要求ソフトウェア要求ハードウェアシステムソフトウェアアナリスト機能要求非機能要求 ( 要求エンジニア ) 図 2 要求 ( ビジネス, システム, ソフトウェア ) とアナリストのスコープ (1) ビジネスアナリスト (BA: Business Analyst): ビジネスを対象とする要求アナリスト. この知識体系として BABOK が位置づけられる [13]. (2) システムアナリスト : 情報システム, あるいは, 組込みシステムのプロダクトを対象とする要求アナリスト (3) ソフトウェアアナリスト : ソフトウェアを対象とする要求アナリスト. 要求エンジニアの呼称もある. 4.4 REBOK の開発方法 REBOK では, 内容の正しさ, 実務での有用性などの視点から, 盛り込むべき知識の収集と分析, 選択, 文書化が必要となる. このため, ソフトウェア工学, 要求工学の活用を試みた. 要求工学における要求の源泉と同様,REBOK では, 知識の源泉の選択が重要となる. 次のように, 実践の視点から, 多面的な知識の源泉を定めた. (1) 実務者の意見 :2006~2008 年度の JSIA 要求工学 WG における事例研究と討議. また,REBOK 検討 WG で検討の議論の中で提起された事例とベストプラクティス. (2) 関連 BOK: 前述した SWEBOK, BABOK, CPRE シラバス. (3) 文献サーベイ : 要求工学の主要な書籍や文献 [4, 7, 8, 9, 11, 21, 24]. 5. REBOK の知識モデルと知識体系アーキテクチャ 5.1 REBOK 知識モデルと知識体系アーキテクチャのアプローチ REBOK の知識体系の設計に当たり, 関連知識体系を分析した結果, 知識モデル, 知識体系の構造について基本的な違いがあることが明らかとなった. さらに, このような知識体系のあり方に関する研究がされていないことも明らかとなった. そのため, REBOK では, 次の 3 点を知識体系の本質的課題として抽出し, 要求工学に適した知識体系の設計を検討した. (1) 知識モデル : 知識要素の考え方 (2) 知識体系アーキテクチャ : 知識体系全体の構成 (3) 知識水準 : 知識要素と知識体系の利用者が理解すべき到達水準 5.2 REBOK 知識モデル知識モデルとは知識体系の構成要素 ( モジュール ) の基準とする. 要求工学に関連する知識体系では, 知識要素やその構造化の基準などを定める知識領域記述仕様 (Knowledge Area Description Specifications) が異なり, 統一した基準がない. そのため, 関連知識体系を分析し, 知識モデルを定義する基準として, 次の 4 点を抽出した. (1) 知識の単位 : 知識要素の粒度. (2) 知識の役割 : 知識の利用者に対し知識が果たす役割. (3) 知識のスコープと開放性 : ドメインの知識の扱いと知識体系の完全性. (4) 要求のスコープ : ビジネス, システム, ソフトウェアとドメインのスコープ. 3 c2010 Information Processing Society of Japan

5.2.1 知識の単位表 2 に示すように, 関連知識体系の知識構造を分析した結果, 共通性の高いモデルとして, 次の 3 層の知識体系モデルを定めた. ただし, 後述するように, 知識領域をグループ化する階層として, カテゴリを設けている. (1) 知識領域 (KA: Knowledge Area):REBOK を構成する主要知識領域である. トップレベルとなる. 現段階では 10 知識領域から成る. (2) 副知識領域 (KU: Knowledge Unit): 知識領域を構成する知識要素. (3) 技術 (Technique): 知識の単位. 特定の技術などを説明する知識要素. 表 2 知識体系の知識要素と階層構造 REBOK SWEBOK BABOK PMBOK CPRE シラバス SQuBOK[29] カテゴリ [2] KA [10]* カテゴリ [3] KA[10] KU [7] KA [7] KA[9] 教育ユニット [9] 副カテゴリ [5] KU トピックタスク [38] プロセス [42] ユニット [36] KA[26] 副知識領域 (SAK) 技術 技術 [34] トピック *SWBOK では要求工学全体がソフトウェア工学の 10 知識領域の中の一知識領域となる. 5.2.2 知識の役割関連知識体系の分析から, 知識要素の基準として, 次の 2 種類があることが明らかとなった. (1) 技術知識 : 技術そのものの知識. 例として SWEBOK の副知識領域 (KU) がある. (2) プロセス知識 : 技術を用いて, 何らかの活動を行う手順に関する知識. 入力と出力が定義される. 例として,BABOK の知識領域 (KA) とタスクや PMBOK[26] の知識領域 (KA) とプロセスがある. 要求工学の知識として, 技術知識とプロセス知識の両方が必要であることから, REBOK は, この 2 種類の知識を組み合わせた. これをハイブリッド知識体系と呼ぶこととする. プロセス知識を識別するために, ステレオタイプと同様 <<process >> を知識名称の上に記述する. 5.2.3 知識のスコープと開放性要求工学の知識を体系化する課題の一つはドメイン知識の扱いである. 例えば, BABOK は企業情報システムのみを対象とし, エンタープライズ分析を知識領域として定義することにより, ドメインへのインタフェースを提供するが, 同時に, 他のドメインへの適用性を排除する.REBOK では, 企業情報システムへ限定しない方針から, ドメインへのインタフェースを独立した知識とした. そのため, 知識カテゴリと開放的知識領域の概念を導入する. (1) 知識カテゴリ : 知識領域 (KA) をグループ化した知識の枠組みで. 次の 2 つのカテゴリを定義する. a) 共通知識カテゴリ : ドメインによらない知識領域のグループ b) 拡張知識カテゴリ : ドメインへのインタフェースとなる知識領域のグループ (2) 開放的知識領域 : 拡張知識カテゴリはドメインへの参照を示し, 拡張可能とする. そのため, 知識領域として閉じた定義である必要はない. 5.2.4 要求のスコープ : 要求階層モデル REBOK 策定のアプローチで示した 3 層のスコープを知識モデルに基づき, 詳細化した. 表 3 は REBOK と BABOK の要求階層モデルを対比して示す. 表 3 要求の階層モデル 要求のスコープ REBOK BABOK ビジネス エンタープライズ要求 プロダクト要求 エンタープライズ要求 ステークホルダ ( ステークホルダ分析 ) ステークホルダ要求 ソリュー システム システム要求 ( 機能 / 非機能 ) ソリューション要求 ション ソフトウェア ソフトウェア要求 ( 機能 / 非機能 ) ( 機能 / 非機能 ) 運 用 移行要求移行要求運用要求 REBOK では, ビジネス層でエンタープライズ要求とプロダクト要求の 2 種類を持つ. それに対し,BABOK ではエンタープライズ要求のみである. なお, エンタープライズ要求は確立した用語ではなく, ビジネス要求とも呼ばれるが, プロダクト要求との識別を明確にするため, 本稿では, エンタープライズ要求と呼ぶこととする. BABOK では, ステークホルダ要求の概念がビジネス要求やシステム要求と独立した層としてあるが, 要求工学では, ステークホルダ要求はビジネス要求やソフトウェア要求の源泉と考えられることから,REBOK では独立したスコープとはしない. また,BABOK ではシステム要求とソフトウェア要求を区別せず, ソリューション要求と呼ぶ. しかし,REBOK では, この 2 者はスコープとして区別すべきと考えた. 一方,REBOK では, 実務者から運用要求の重要性が指摘され,RABOK にない運用要求を新たに定義した. 5.3 REBOK の知識体系アーキテクチャ本稿では, 知識体系の構造を知識体系アーキテクチャと呼ぶことにする. REBOK の知識体系アーキテクチャを図 3 に示す. 共通知識カテゴリは 8 知識領域から成る. 一方, 拡張知識カテゴリは, 現段階では, エンタープライズとプロダクト ( 組込み ) の 2 知識領域のみ定義している. 4 c2010 Information Processing Society of Japan

要求工学の基礎 Engineering Fundamentals) 要求工学知識体系 REBOK Engineering Body of Knowledge) 要求工学プロセス Engineering Process) REBOK 共通知識カテゴリ <<process>> 要求獲得 Elicitation) <<process>> 要求分析 Analysis) <<process>> 要求仕様記述 Specification) <<process>> 要求の検証と妥当性の確認 Verification, Validation, and Evaluation) 要求の計画と管理 (Planning and Management) 図 3 REBOK 知識体系の 10 知識領域 REBOK 拡張知識カテゴリ 実践の考慮点 (Practical Consideration) エンタープライズ分析 (Enterprise Analysis) プロダクト分析 (Product Analysis) 5.4 REBOK 基礎知識カテゴリの 8 知識領域 REBOK の開発にあたり,SWEBOK のソフトウェア要求と BABOK を中心に関連知識体系の知識を分析した. この結果, 基礎とするモデルとして,SWEBOK のソフトウェア要求の知識体系を採用した. これは,REBOK がビジネス分析よりは要求工学をその出発点としていることから,SWEBOK と一定の共通性を保つことが必要であると考えたからである. しかし,SWEBOK では, 要求工学知識体系として不十分であると考えられることから, 知識構造と内容の両面から見直し, 図 4 に示す 8 知識領域を定めた. 共通知識カテゴリの各知識領域の内容を表 4 に示す. 表 4 REBOK 共通知識カテゴリの 8 知識領域 知識領域 内 容 要求工学の基礎要求とそのスコープや性質などの基礎的事項. 機能要求, 非機能要求も含む 要求工学プロセス要求開発, 管理のプロセスと主要なアクティビティなどに関する知識 要求獲得 顧客を含むステークホルダを明らかにし, 会議やインタビューなどを通した要求の引出しに関する知識 要求分析 要求項目を整理し, その間の関係づけ, 優先順位づけなどを行い, 実現すべき要求を明らかにして絞り込む技術に関する知識 要求仕様化 分析された要求を規定の書式や表記法で記述する技術に関する知識 要求の検証, 妥当要求間の矛盾がないことや, 必要な顧客の要求項目を満たしていることの確認, あ 性確認, 評価 るいは, その達成の度合いを評価する技術などに関する知識 要求の計画と管理要求開発を計画し, 遂行や成果物を管理する技術に関する知識 実践の考慮点 要求工学を実践する上で知っておくべき知識やノウハウ, ベストプラクティス SWEBOK のソフトウェア要求からの主要な変更は次のようになっている. (1) 知識領域の見直し 要求の計画と管理 を独立した知識領域として追加した. (2) 知識領域の内容の見直し各知識領域間で知識副領域が重複していると思われる内容の整理を行い, 不足していると思われる内容を追加した. この結果, 現在想定している各知識領域の知識副領域の内容を表 5 に示す. 表 5 REBOK 共通知識カテゴリの 8 知識領域の副知識領域 知識領域 副知識領域 要求工学の基礎 要求の定義, 要求の分類, 機能要求と非機能要求, ビジネス要求, システム要求, ソフトウェア要求, 要求の特性 要求工学プロセス プロセスモデル, プロセスアクタ, プロセスの管理, プロセスの改善, アジャイル / インクリメンタル要求プロセス 要求獲得 要求獲得, 要求の源泉, 要求獲得の方法, 要求獲得プロセス 要求分析 要求分類, 要求分析プロセス, 概念モデル化, 要求割当て, 要求交渉 要求仕様化 要求仕様化プロセス, システム定義の文書化, システム要求の仕様化, ソフトウェア要求の仕様化 要求の検証, 妥当要求の検証, 要求の妥当性確認, 要求の評価, 要求レビュー, プロトタイプ, 要求テ 性確認, 評価 スト 要求の計画と管理 要求属性, 要求の変更管理, 要求のトレース, 要求の測定 実践の考慮点 ベストプラクティス, 事例 5.5 REBOK の知識領域間の関係要求定義プロセスにおける REBOK の主要 8 知識要素間の関係を図 4 に示す.REBOK は, 特定の開発プロセスを前提とはしない. しかし, 要求獲得, 要求分析, 要求仕様化, 要求の検査と評価の 4 知識領域は, 要求定義プロセスの主要なアクティビティと対応しているため, 図 4 に示すように, 相互に繰返すプロセスを構成する. ドメイン知識 REBOK 共通知識 基礎知識 要求工学プロセス要求工学の基礎 要求の計画と管理 要求獲得要求分析 エンタープライズ分析 REBOK プロダクト分析 Extension 実践知識 要求仕様化 図 4 知識領域間の関係 要求の検証と妥当性の確認 実践の考慮点 ( ベストプラクティス ) システム構築 5 c2010 Information Processing Society of Japan

図 4 に示すプロセス知識はタスクから構成される. 例えば, 要求仕様化は, 図 5 に示すように 3 つの副知識領域 (KU) のワークフローとして定義される. 5.6 REBOK の知識習得水準と必要性一般に, 知識の習得は達成すべき水準と必要性の対で定義できる.REBOK もこの定義を適用する. (1) 知識の習得水準 5. 要求仕様化 KA [KU] システム定義の文書化 [KU] システム要求の仕様化 [KU] ソフトウェア要求の仕様化 図 5 要求仕様化のタスク構造 知識水準の定義として,Bloom のタクソノミとその改訂モデルが広く用いられてきた [2, 5]. しかし, 要求工学を含むソフトウェア工学に関連する知識体系では習得水準の定義は確立されていない. 例えば,SWEBOK では,Bloom のタクソノミ [5] の 5 段階中の 3 段階を習得水準として用い,REBOK の知識領域に相当する KU 毎に設定している. 一方,BABOK では習得水準の定義はない. このような現状と REBOK が要求アナリストだけでなく広範なアクタに利用されることを目的とすることから,Bloom のタクソノミの改訂 [2] に基づき,5 段階の知識水準を定義した. これは, 表 6 に示すように,3 種類のアクタに応じて獲得水準を設定する. この定義に基づくと, アクタ毎に, 知識領域, あるいは, 副知識領域の中で習得すべき知識の範囲と目標が定義できる. 表 6 REBOK の知識水準モデル 水アクタ知識水準の達成目標準理解者利用者アナリスト 1 意味を知っている エンドユーザ 2 内容を理解している PM, 開発者 3 内容を説明できる, 利用できる 初級 4 応用して, 分析などを行える 中級 5 複雑な問題に対して適切な方法の選択と遂行や指導ができる 上級 (2) 知識の必要性知識の必要性は,SWEBOK などで用いられている次の 3 段階で定義する [1]. 必須 (E: Essential), 望ましい (D: Desirable), 選択 (O: Optional) 5.7 実践の考慮点 SWEBOK のソフトウェア要求における実践の考慮点の内容は, 要求管理, あるいは, 要求プロセスに相当するものであった.REBOK では, これらの内容は要求の計 画と管理, 要求プロセスに移した. 一方,REBOK の開発では実務者にとって役立つことが重要であると考えていることから, 実践の考慮点では, 実践経験に基づくベストプラクティスと事例を参照できることにした. ベストプラクティスとしては,2007 年度の JISA 要求工学調査研究 WG において, 100 件を超えるプラクティスから 35 件のベストプラクティスを抽出し, ベストプラクティスパターンとしてまとめた [17].REBOK はこの成果を活かし, ベストプラクティスパターンを参照可能とする. また,JISA 要求工学調査研究 WG では,2006~2008 年度の間に 30 件を超える事例研究を行い, 報告書にまとめた [17, 18, 19]. これらの事例も参照可能とする. 6. 評価と議論 6.1 関連知識体系との比較評価 REBOK の妥当性を, 表 7 に示す関連知識体系との比較に基づき議論する. 表 7 REBOK と関連知識標準の評価 BOK/ シラバス REBOK SWEBOK BABOK IREB モデル ハイブリッド 技術 プロセス 技術 知識体系アーキテクチャ アクタ 階層的木構造, 階層的木構造プロセス要求アナリスト, ソフトウェア利用者, 理解者エンジニア プロセス ビジネスアナリスト 木構造 ( 定義なし ) 要求エンジニア K 基礎 8 KU 6 トピック 6 コンピテンシ 2EU, 3 Unit A プロセス 5 KU 4 トピック 要求獲得 2 KU 2 トピック 4 タスク 1EU, 3Unit 要求分析 4 KU 4 トピック 6 タスク * 要求仕様化 3 KU 3 トピック 3EU, 16Unit 検証, 妥当性確認, 評価 3 KU 4 トピック 6 タスク 1EU, 6Unit 管理 4 KU 2KA, 11 タスク 1EU, 6Unit 実践 2 KU 5 トピック ツール支援 技術項目で記述 1EU, 3Unit エンタープライズ分析検討中 5 タスク プロダクト分析 検討中 技術 技術 34 Technique 理解水準 5 段階 3 段階 2 段階 認定水準 Expert 3 Levels** CSDP CBAP Expert* 4 Advanced 1 Level** CSDA * 3 Advanced* 4 Basic 1 Level** Foundation * この内一つの EU は Model-based Documentation, ** 認定のためではない, * 3 検討中, * 4 検討中 6 c2010 Information Processing Society of Japan

(1) SWEBOK との比較 SWEBOK はソフトウェア工学全体を対象とし, かつ, 記述も簡潔に留められていることから, 実務で利用するためには内容が十分とはいえない. そのため, REBOK は, 要求工学に関する SWEBOK の知識体系を見直し, かつ, 知識要素を具体化することで, 実務で役立つ知識体系としての内容を盛り込んだ. (2) BABOK との比較 BABOK はビジネス分析を担うビジネスアナリスト (BA) を対象とし, 一定水準羽状の知識の獲得を目標としている [28]. しかし, 要求工学の知識は, それを遂行する専門家のみならず多くの関係者にも必要となる. また, 初心者にも一定の知識を獲得でき, 人材育成の指針として利用できることが望ましい. このため, REBOK では,BABOK で対象としていない, 広範な人材を育成するための知識体系と位置づけている. このような比較から,REBOK は SWEBOK や BABOK を含む, 要求工学を理解するためのガイドとなることが期待できる. 6.2 実務者の評価 2009 年 10 月 2 日に開催した JISA 要求工学シンポジウムと 2010 年 3 月 11 日に開催された情報処理学会ソフトウェアジャパン 2010 において REBOK を紹介し, 参加者にアンケート調査を行った. 回答数は 106~109 名である. このアンケートから REBOK の必要性や知識体系のあり方が確認できた. 主な結果を以下に示す. (1) 要求工学の人材は不足しているか図 6(a) に示すように, 約 60% が要求工学の人材が不足していると考えている. そう思わない 5.5% 33.9% 46.8% 13.8% あまりそう思わないそう思う 強くそう思う 図 6(a) 要求工学の人材の状況 (2) 要求工学の人材を組織的に育成しているか図 6(b) に示すように,78.5% が要求工学を担う人材の組織的育成の欠如を指摘している. 21.5% 78.5% 図 6(b) 要求工学の人材を組織的に育成しているか はいいいえ (3) 要求工学知識体系 (REBOK) の必要性図 6(c) に示すように,95% 以上が REBOK の必要性を支持している. 特に,50% 以上が強く支持していることに留意すべきである. 0.9% 1.9% 49.1% 48.1% 図 6(c) 要求工学知識体系 (REBOK) の必要性 そう思わないあまりそう思わないそう思う強くそう思う (4) ユーザ,PM, 経営者への要求工学知識の必要性要求分析者以外に, ユーザ,PM, 経営者も要求工学の一定の知識を持つ必要性に関して, 図 6(d) に示すように,95% 以上が支持した. 1.9% 46.7% 51.4% 図 6(d) 要求分析者以外への要求工学知識の必要性 特に,50% 以上が強く支持していることに留意すべきである. そう思わないあまりそう思わないそう思う強くそう思う (5) ドメイン知識体系化の必要性ドメイン知識の必要性は低いと想定していたが, 図 6(e) に示すように,85% 以上が必要性を認めないことが分かった. 13.2% 61.3% 25.5% 図 6(e) ドメイン知識の体系化の必要性 そう思わないあまりそう思わないそう思う強くそう思う (6) 知識レベル設定の必要性図 6(f) に示すように,85% 以上が知識レベル設定の必要性を支持した. 13.2% 61.3% 25.5% 図 6(f) 知識レベル設定の必要性 そう思わないあまりそう思わないそう思う強くそう思う 7 c2010 Information Processing Society of Japan

7. REBOK の開発モデルと今後の課題 今後,JISA の REBOK 検討 WG を中心に,REBOK の内容を充実するとともに, 適宜,Web などを通して国内外に公開する予定である. 一方,REBOK の内容の正確性, 妥当性を高めるために, 検討結果を実務者や研究者がレビューできる仕組みやフィードバックを得る仕組みとそれをインクリメンタルに行うプロセスを構築する. また, 要求工学の知識体系のあり方, 要求アナリスト, ビジネスアナリストなどの位置づけなどを議論するワークショップの開催も検討する. さらに, 最近, 提案された, 要求 / ビジネス分析の方法論 [20, 23, 30] との関係づけも興味ある話題である. 8. まとめ 要求工学知識体系 REBOK 開発の課題, 開発のアプローチ, 知識体系のモデルとアーキテクチャ, 知識領域の内容, 妥当性について報告した. 今後,REBOK の内容を充実するとともに, 実務家や研究者の意見をフィードバックし, 内容の向上を図る. 謝辞 REBOK の策定にご支援を頂いている ( 社 ) 情報サービス産業協会, ならびに,REBOK の検討に参画頂いた要求工学調査研究 WG の委員各位に感謝致します. 参考文献 [1] A. Abran, et al. (eds.), Guide to the Software Engineering Body of Knowledge, 2004 Version, IEEE Computer Society, http://www.swebok.org/. [2] L. W. Anderson, et al. (eds.), A Taxonomy for Learning, Teaching and Assessing: A Revision of Bloom s Taxonomy of Educational Objectives, Longman, 2001. [3] 青山幹雄ほか, 要求工学知識体系 (REBOK) の構想, 電子情報通信学会技術研究報告知能ソフトウェア工学,Vol. 109, No. 392, KBSE2009-58, Jan. 2010, pp. 59-64. [4] A. Aurum and C. Wohlin (eds.), Engineering and Managing Software Requirements, Springer, 2005. [5] B. S. Bloom (ed.), The Taxonomy of Educational Objectives: Handbook 1: Cognitive Domain, Longman, 1956. [6] P. Bourque, et al., Bloom's Taxonomy Levels for Three Software Engineer Profiles, Proc. IEEE STEP 2004, Sep. 2004, pp. 123-129. [7] B. H. C. Cheng and J. M. Atlee, Research Directions in Requirements Engineering, Proc. ICSE 2007, Future of Software Engineering, IEEE Computer Society, May 2007, pp. 285-303. [8] L. Chung, et al., Non-Functional Requirements in Software Engineering, Kluwar Academic, 1999. [9] A. M. Davis, Software Requirements, Prentice-Hall, 1990. [10] K. B. Hass, Professionalizing Business Analysis, Management Concepts Inc., 2007. [11] C. Hood, et al., Requirements Management, Springer, 2007. [12] IIBA, A Guide to the Business Analysis Body of Knowledge (BABOK Guide), Version 2.0, IIBA, 2009 [ 宗雅彦ほか ( 監訳 ), ビジネスアナリシス知識体系ガイド Version 2.0, IIBA 日本支部, 2009]. [13] IIBA 日本支部, CBAP ハンドブック, 2009, http://www.iiba-japan.org/files/ CBAPHB090622J.pdf. [14] IREB, Syllabus: IREB Certified Professional for Requirements Engineering -Foundation Level-, Ver. 2.0, Oct. 2009, http://certified-re.de/en/syllabi.html. [15] IPA, IT スキル標準 V3 2008, 2008, http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/ download_v3_2008.html. [16] JISA, 平成 17 年度情報サービス産業におけるソフトウェア開発の実態アンケート調査結果, 2007. [17] JISA, 要求開発ベストプラクティスが示す成功パターンの調査研究, No. 18-J008, 2007. [18] JISA, 要求開発 管理ベストプラクティスとその体系化の調査研究, No. 19-J004, 2008. [19] JISA, 要求工学知識体系 (REBOK) とユーザー指向要求工学の調査研究, No. 20-J007, 2009. [20] 経済産業省 /JUAS, 要求仕様策定ガイドライン, 2007. [21] A. van Lamsweerde, Requirements Engineering, Wiley, 2009. [22] T. Nakatani, et al., Instructional Design of a Requirements Engineering Education Course for Professional Engineers, Multimedia Services in Intelligent Environments, Springer, 2010 (In Printing). [23] NTT データ, TERASOLUNA 開発手順, http://www.terasoluna.jp/. [24] B. Nuseibeh and S. M Easterbrook, Requirements Engineering: A Roadmap, Proc. ICSE 2000, The Future of Software Engineering, ACM, May 2000, pp. 35-46. [25] B. Paech, What Is a Requirements Engineer?, IEEE Software, Vol. 25, No. 4, Jul./Aug. 2008, pp. 16-17. [26] PMI, A Guide to Project Management Body of Knowledge, 4 th ed., PMI, 2008. [27] J. Rubens, Business Analysis and Requirements Engineering: The Same, Only Different?, Req. Eng. J., Vol. 12, No. 2, Apr. 2007, pp. 121-123. [28] K. Schreiner, The Bridge and Beyond: Business Analysis Extends Its Role and Reaches, IEEE IT Professional, Vol. 9, No. 6, Nov./Dec. 2007, pp. 50-53. [29] SQuBOK 策定部会 ( 編 ), ソフトウェア品質知識体系ガイド, オーム社,2007. [30] 若杉賢治ほか, 要件定義の新手法, 日経コンピュータ,2009 年 11 月 25 日号, pp. 94-99. 8 c2010 Information Processing Society of Japan