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4 群 ( モバイル 無線 )- 1 編 ( 無線通信基礎 ) 5 章誤り訂正技術の応用 概要 伝送路で発生する誤りを受信側で訂正する誤り訂正 (FEC: Forward Error Correction) や, 誤りを検出して誤ったデータを再送信する自動再送制御 (ARQ: Automatic Repeat Request) により, 高品質な無線伝送を実現するのが誤り制御技術 ( 広い意味での誤り訂正技術 ) である. ディジタル無線通信の伝送路で発生する誤りは, 主として熱雑音によるランダム誤りとフェージングやバースト状の干渉波によるバースト誤りの二つに分けることができる. これらのバースト誤りをランダム誤りに分散させる手法としてインターリーブがあり, 特にフェージングや干渉の影響を受ける場合に重要な技術となっている. 誤り訂正符号はブロック符号と畳込み符号に大別され, それぞれにランダム誤りに強い符号とバースト誤りに強い符号がある. ブロック符号の例としては, 主に衛星通信や初期の移動通信の制御回線に用いられた BCH 符号や Golay 符号, リード ソロモン (RS) 符号, 無線 LAN や次世代移動通信への応用が検討されている低密度パリティ検査 (LDPC: Low Density Parity Check) 符号などがある. 畳込み符号の例としては, 畳込み符号に対するビタビ復号法, ターボ符号などがある. ビタビ復号法は, 当初衛星通信のランダム誤りに対する誤り訂正方式として実用化が進められた また, ターボ符号は第 3 世代移動通信におけるデータ伝送への応用から検討が進み, これらは現在の無線通信における中心的な誤り訂正方式となっている. 更に複数の符号を組み合わせた連接符号 (Concatenated code) があり, 畳込み符号化ビタビ復号法とリード ソロモン (RS) 符号の連接符号は, 放送を含む無線伝送によく用いられる方式である. FEC は, 受信側で誤りを検出すると同時に誤りの訂正も行う. フィードバック回線が不要なため, 少ない遅延でリアルタイム伝送が可能となり, 音声や画像などの伝送に利用されている. また, 放送 同報のような単方向の回線に用いることができる. しかし, 一般に誤り訂正能力を高くするほど冗長度が大きくなり効率が低下するとともに装置が複雑になる. 一方, 装置の簡易さを重視し, 伝送遅延, 遅延揺らぎを許容し得るノンリアルタイム伝送を行うデータ通信などでは, 誤りを検出して再送を要求する ARQ が用いられる. そのほか,FEC と ARQ を組み合わせたハイブリッド ARQ 方式もある. 表 5 1 に誤り訂正技術の主な適用領域を示す. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 1/(9)

表 5 1 主な誤り訂正方式の適用領域 適用領域 衛星通信 ディジタル放送 ( 地上 衛星 ) 無線 PAN 無線 LAN (WiFi) 無線 MAN (WiMAX) 移動通信 誤り訂正方式 BCH 符号 CC CC-RS CTC CC-RS TC8PSK-RS CC-RS CC LDPC 符号 CC LDPC 符号 CC CC-RS CTC BTC LDPC 符号 HARQ BCH CC CTC LDPC 符号 HARQ CC: 畳込み符号 - ビタビ復号 CTC: 畳込みターボ符号 RS: リードソロモン符号 BTC: ブロックターボ符号 TC8PSK: トレリス符号化 8PSK HARQ: ハイブリッド ARQ CC-RS: 畳込み符号 - ビタビ復号と RS 符号の連接符号 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 2/(9)

4 群 - 1 編 - 5 章 5-1 インターリーバ バースト誤り訂正符号以外にも, バースト誤りをインターリーバによってランダム化し, ランダム誤り訂正符号によって訂正することも可能である. インターリーバは送信側で符号の順番の入れ替えを行い, 伝送路上で発生したバースト誤りに対して受信側で入れ替えの逆の操作 ( デインターリーバ ) を行うことにより, 集中したバースト誤りをランダム化することができる. これらは ライスフェージング環境にある移動体衛星通信やディジタル化された第 2 世代移動通信から採用されている. また, 第 3 世代移動通信において実用化されたターボ符号のような繰り返し処理やディジタル放送に使用されている連接符号において, 前段の誤り訂正復号後の残留誤りをランダム化し, 後段の誤り訂正効果を高めることにも用いられる. インターリーバには, ブロック単位で並び替えを行うブロック インターリーバと, よりランダム性をもたせるランダム インターリーバがある. また, 時間軸上のインターリーブに加え,OFDM 変調のようなマルチキャリア伝送における周波数インターリーブがある. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 3/(9)

4 群 - 1 編 - 5 章 5-2 誤り訂正符号 5-2-1 ブロック符号 (1) CRC(Cyclic Redundancy Check) 符号ブロック符号は,k ビットの固定長情報データに m ビットの検査符号をつけた n (n=k+m) ビットの固定長の誤り訂正符号であり, ブロック単位で誤り訂正するため短時間での処理が可能となる. 情報を送る効率すなわち符号化率 r は k/n で表す. 符号長 n, 情報データ長 k, 誤り訂正可能ビット数 t のブロック符号を (n, k) あるいは (n, k, t) のブロック符号という. CRC(Cyclic Redundancy Check) 符号は巡回符号と呼ばれるブロック符号の一つで誤りの検出に用いられる. 情報データ列を多項式の係数にみたて, あらかじめ定められた生成多項式で割り切れるように剰余を付加してデータを送信し, 受信側では生成多項式で割り切れなかった場合, 誤りが検出されたとする. 巡回符号の符号器は図 5 1 のような構成で, 割り算の剰余を求める割り算回路はシフトレジスタと排他的論理和 (EX-OR: Exclusive OR) で構成される. 比較的簡単なハードウェアで実現できるため衛星通信, 移動通信や無線 LAN をはじめとする多くのシステムにおいてデータ通信用 ARQ 方式などに採用されている. 送信データ I(X )X n-k 剰余多項式 c(x ) 巡回符号 C(X )= I(X )X n-k +c(x ) 被除多項式入力 + + + + g 1 g 2 g m : シフトレジスタ (1 ビット遅延 ) + :EX-OR 生成多項式 ( 係数が 1 なら EX-O R へ入力 ) 図 5 1 巡回符号の符号器 (2) BCH 符号 BCH(Bose-Chaudhuri-Hocquenghem) 符号 1,2) は, 巡回符号を一般化したものであり, 図 3 1 のようなシフトレジスタと排他的論理和の線形演算からなる符号器で生成可能な代表的なブロック符号である. 符号長及び訂正能力の選択の自由度が大きく, 復号器の構成が比較的簡易で高速動作が実現可能などの特徴がある. 符号長と情報ビット数, 誤り訂正能力の関係は, 符号ビット長 n=2 m -1, 情報ビット数 k ( 2 m -1-mt) に対して, 少なくとも t 個の誤りを訂正可能となる.BCH 符号器では情報ビットから計算される検査ビットを付加して符号化データが生成され, 復号器では受信信号からシンドロームを計算し, 誤りビットの位置を求め受信情報ビットに対して誤り訂正を施す. これらの t 誤り訂正符号のうち,1 誤り訂正可能な符号を SEC(Single Error Correction),2 誤り訂正可能な符号を DEC(Double Error 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 4/(9)

Correction) と呼ぶ. また,t 誤り訂正符号に 1 ビットの冗長ビットを追加することにより, t+1 ビットの誤り検出可能な符号に拡張可能であり,1 誤り訂正 2 誤り検出可能な符号を SEC-DED(Double Error Detection),2 誤り訂正 3 誤り検出可能な符号を DEC-TED(Triple Error Detection) 符号と呼ぶ. BCH 符号の応用例としては, 高速な処理速度を要求された初期の国際衛星通信で用いられ た (127,112,2) の DEC-TED 符号や初期の移動通信の制御回線や衛星放送のディジタル音声 などがある. (3) リード ソロモン符号リード ソロモン (RS: Reed-Solomon) 符号 3) は BCH 符号を拡張したもので,BCH 符号が 1 か 0 かの 2 元符号であるのに対し,m ビットで構成されるシンボル (2 m 通りの値をとる ) 単位で誤り訂正を行う.1 シンボルのビット数 m のとき, 符号シンボル長 n と情報シンボル数 k のとき, 符号シンボル長 n=2 m -1, 情報シンボル数 k=2 m -1-(d min -1) = n-d min +1 に対して, 少なくとも (d min -1)/2 シンボルの誤りを訂正可能となる. 任意の符号長と符号化率, 例えば,(204, 188) のリード ソロモン符号を生成するためには,188 シンボルの情報データの先頭に 51 シンボルの 0 データを付加し 239 シンボルとし,(255, 239) リード ソロモン符号に符号化し, その後, 先頭の 51 シンボルを捨てた 204 シンボルが (204, 188) リード ソロモン符号 (188 シンボルの情報に 16 シンボルの検査シンボルを付加しているため,8 シンボル誤りまで訂正が可能 ) となる. RS 符号の応用例としては, 衛星通信や地上 衛星のディジタル放送において畳込み符号と組み合わせた連接符号がある. (4) LDPC 符号 LDPC(Low Density Parity Check) 符号 4) は 1960 年代に Gallager により提案された符号であるが, 近年の信号処理能力の発達, 並びに, ターボ符号による繰り返し復号法の開発が LDPC 符号への注目のきっかけとなった.LDPC 符号は低密度なパリティ検査行列 H で定義されるブロック符号であり, 実際のパリティ検査行列数は数十から数万と大規模なものとなる. 線形ブロック符号なので, パリティ検査行列から生成行列を導出することができ, 導出された生成行列を用い情報データの符号化を行う. パリティ検査行列 H が m 行 n 列の場合, 情報ビット k=n-m, 及び符号化率 r=k/n=(n-m)/n となる. LDPC 符号の応用については, 無線 LAN の 802.11n のオプション,WiMAX のオプション, 次世代移動通信の LTE のオプションなどとして検討されている. 5-2-2 畳込み符号 (1) 畳込み符号化 -ビタビ復号法畳込み符号は, 連続する情報に対して検査符号を連続的に付加して符号化する. 図 5 2 に示す畳込み符号器は, 符号化率 r=1/2, 拘束長 K=3 の例である. また, この畳込み符号を図 5 3 のようなトレリス表現で表す. この畳込み符号の最小ハミング距離 D min は 5 となるが, K=7 の符号では,D min =10 の畳込み符号が得られる. 畳込み符号の状態数 Ns=2 B(K-1) ( ただし B は符号器レジスタの並列数 ) が大きいほどその符号の D min は大きくなり, 例えば符号化率 r=1/2, 拘束長 K=7 の畳込み符号の状態数は Ns=64, 符号化率 r=3/4, 拘束長 K=3 の畳込み符号の状態数も Ns=64 となる. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 5/(9)

送信データ I + 符号化データ X 1 データ入力 0 1 符号器の状態 00 10 01 符号化データ (X 1,X 2 ) (0,0 ) (1,1 ) (1,1 ) (0,0 ) (1,0 ) (0,1 ) + X 2 11 (0,1 ) (1,0 ) 図 5 2 畳込み符号器 図 5 3 畳込み符号のトレリス表現 畳込み符号に対する受信側の復号法としては, 比較的簡易な回路構成で代数的な論理演算 で実現できるしきい値復号法や比較的複雑な回路を必要とするビタビ復号法 5), 逐次復号法 などがある. ビタビ復号法は,1960 年代後半にビタビ (Viterbi) により提案された畳込み符 号に対して最も高い誤り訂正効果を発揮できる復号法 ( 最尤復号とも呼ばれる ) である. 誤り訂正復号を行うとき, 受信信号のアナログ情報を利用 ( 軟判定, ソフト デシジョン ) して計算することで, 誤り訂正効果を高くできる. また, 符号化率可変のビタビ復号は, 符号化率 r=1/2 などの低符号回率符号をもとにしてパンクチャド処理 ( 符号の一部を送信せず, 受信側でダミービットを挿入して復号 ) により符号化率 2/3, 3/4, 7/8 といった高効率な符号化を実現している. ビタビ復号は LSI 技術の進歩に伴い応用が進み, まずランダム誤りが支配的な衛星通信への応用が進んだ. 図 5 4 に高速動作させる場合のビタビ復号回路の構成例を示す. 受信信号の尤度を計算するブランチ尤度計算回路, 畳込み符号のパス尤度を計算する ACS 回路, 尤度の高いパスを記憶するパスメモリ回路, 復号出力を決定する回路などから構成される.LSI 化における課題としては, 回路規模の削減と低消費電力化があり, 種々の検討が行われた. その後, 連接符号の内符号としてディジタル放送, インターリーブやスペクトル拡散, 更には OFDM との組合せなどで無線 LAN, 移動通信をはじめとする多くの無線システムに応用されている. (2) ターボ符号ターボ符号 6) は,1993 年 Berrou により提案され, シャノン限界までに近づく高い誤り訂正効果が示された. ターボ符号は送信データとそれをインターリーバで並べ替えたデータをそれぞれ符号化し, 二つの符号語から符号を生成し, 復号を行う際に他方の系列の復号結果を利用して繰り返し復号を実施する. ターボ復号器は, 二つの復号器とインターリーバ, デインターリーバから構成される. 復号器 1は受信信号とデインターリーバを経た復号器 2からの信頼度情報をもとに復号を行う. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 6/(9)

復号結果をインターリーバで並べ替え, 復号器 2 の信頼度情報とする. 上記の復号過程を繰り返し行うことで最終的な復号結果を出力する ( 詳細は 1 群 2 編符号理論 7-4 移動通信のための符号 7-4-2 第 3 世代の符号 を参照 ). ターボ符号は復号に要する遅延時間が大きくなるが, 非常に優れた誤り訂正効果を示し, 第 3 世代移動通信や WiMAX におけるデータ通信に応用されている. 状態 00 のパス尤度 状態 00 のパス セレクト信号 状態 00 の生き残りパス ブランチ尤度 ACS 回路 10 X 1 X 2 ブランチ尤度計算回路 AC S 回路 00 ACS 回路 01 I ACS 回路 11 パス尤度計算回路 パスメモリ回路 ( 生き残りパスの記憶 ) パス決定回路 ( 復号出力決定回路 ) 図 5 4 ビタビ復号器の構成例 5-2-3 連接符号 (Concatenated Code) 連接符号 7) は, ブロック符号と畳込み符号単体を連結することにより, それぞれを単体で利用する場合以上の誤り訂正効果が得られ,Forney. Jr により検討された.2 元符号 ( 畳込み符号 -ビタビ復号など) を内符号 (Inner Code, 伝送路に近い方の符号 ) に,2 k 元符号 (RS 符号など ) を外符号 (Outer Code, 情報源に近い方の符号 ) に適用する. 両符号の間にインターリーバを挿入し, 内符号出力に残る誤りを分散し外符号による誤り訂正効果を高める. 処理遅延時間が大きくなるが, 高い誤り訂正効果を有し, ディジタル放送などに応用されている. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 7/(9)

4 群 - 1 編 - 5 章 5-3 トレリス符号化変調 情報を変調して伝送する際, 特に多値変調を用いた場合, 信号点のマッピングによって, 誤りやすいパターンと誤りにくいパターンが生ずる. これを考慮して, 変調方式と誤り訂正方式を一体化したのが符号化変調方式である. 畳込み符号と多値変調を組み合わせた方式をトレリス符号化変調方式という. 8 相 PSK に対するトレリス符号化変調 8) では,8 種類のシンボルがあり, それぞれに 3 ビットの符号を割り当てるが, 各シンボルのユークリッド距離を元にセット パーティショニングと呼ばれる方法で符号マッピングを行うことで誤り訂正効果を上げることができる. 符号化率 r=2/3 の畳込み符号では,8 相 PSK の 1 シンボルで 2 ビットの情報を伝送できるので, 符号化を行わない 4 相 PSK と同じ伝送効率となり, これに比べトレリス符号化 8 相 PSK 変調によりおおむね 3dB の符号化利得を得ることができる. トレリス符号化変調は周波数帯域と電力の制限が厳しい衛星通信や衛星ディジタル放送などに応用されている. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 8/(9)

4 群 - 1 編 - 5 章 5-4 ARQ(Automatic Repeat Request: 自動再送要求 ) 方式 ARQ は送信側で情報データに誤り検出符号 ( 例えば CRC 符号 ) を付加して送信し, 受信側で誤りを検出し, 送信側に再送を要求する方式である. 符号の冗長度が小さく比較的簡単な処理で高い信頼性が得られる. その反面, 再送要求のためのフィードバック回線と再送に備えるためのバッファを必要とし, データ伝送の遅延が無視できなくなる. また, 誤りが多くなると伝送効率が急速に低下する.ARQ 方式には大別して, 以下の三つの方式がある. Stop-and-wait(SAW): 受信側から ACK( 受信成功応答 ) を確認すると次のパケットを送信 Go-back-N(GBN):N パケットをグループとし, パケットを連続送受信して NACK( 受信失敗応答 ) を確認すると, その失敗パケットが含まれるグループを再送 Selective-Repeat(SR): パケットを連続送受信して NACK を確認すると, その失敗パケットだけを選択して再送 ARQ 方式は, パケット通信を用いたデータ通信などのリアルタイム性が要求されないサービスに広く利用されている. また,ARQ と FEC を組み合わせたハイブリッド ARQ がある. ハイブリッド ARQ タイプ Iは, 誤り訂正と検出ができる符号 ( 例えば 2 誤り訂正 3 誤り検出符号 ) を用いてパケットを構成し, 誤り検出されたときのみ NAK 返信で再送要求する. タイプ II は,1 回目は基本的な ARQ と同じで,NAK 受信後の再送は情報ビットではなく FEC の冗長ビットを送信して 1 回目受信結果と合わせての誤り訂正を実行する. このため, 誤り率の低い伝送路では基本 ARQ と同様で効率が良くなる. 参考文献 1) Hocquenghem, Codes corecteurs d erreurs, Chiffres, vol.2, pp.147-156, 1959. 2) R.C. Bose, D.K.R. Chaudhuri, On a class of error correcting binary group codes, Inform. Control, vol.3, pp.68-79, March. 1960. 3) I.S. Reed, G. Solomon, Polynomial codes over certain finite fields, Journal Soc. Ind. Appl. Math., vol.8, pp.300-304, June. 1960. 4) R.G. Gallager, Low-Density Parity-Check codes, MIT Press, Cambridge, 1963. 5) A.J. Viterbi, Error bounds for convolutional codes and an asymptotically optimum decoding algorithm, IEEE Trans. Inform. Theory, vol.it-13, no.2, pp.260-269, April. 1967. 6) Berrou, A.Glavieux, P.Thitimajshima, Near Shannon limit error-correcting coding and decoding, Proceeding IEEE ICC, pp.1064-1070, May. 1993. 7) G.D. Forney Jr., Concatenated codes, MIT Press, Cambridge, 1966. 8) G. Ungerboeck, Channel coding with multilevel/phase signals, IEEE Trans. Inform. Theory, vol.it-28, no.1, pp.55-67, Jan. 1982. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 9/(9)