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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

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スライド 1

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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第6号-2/8)最前線(大矢)

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2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

報道発表資料 2002 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 局所刺激による細胞内シグナルの伝播メカニズムを解明 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 細胞の局所刺激で生じたシグナルが 刺激部位に留まるのか 細胞全体に伝播するのか という生物学における基本問題に対して 明確な解答を与えま

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

学位論文の要約

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回細胞分裂して 1 つの花粉管細胞と 2 つの精細胞をもつ花粉に成熟し その間にタペート層 4 から花粉成熟に必要な脂質を中心とした物質が供給されて完成します 研究チームは 脂質の一種であるステロールが植物の発生 生長に与える影響を調べる目的で ステロール生合成に重要な遺伝子 HMG1 の欠損変異体

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 7 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 生殖細胞の誕生に必須な遺伝子 Prdm14 の発見 - Prdm14 の欠損は 精子 卵子がまったく形成しない成体に - 種の保存 をつかさどる生殖細胞には 幾世代にもわたり遺伝情報を理想な状態で維持し 個体を

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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2012 年 6 月 独立行政法人理化学研究所 住友化学株式会社 ヒト ES 細胞から立体網膜の形成に世界で初めて成功 - 網膜難病の治療や原因解明の研究を飛躍的に加速 - 本研究成果のポイント ヒト ES 細胞の自己組織化培養で胎児型の眼 眼杯 の形成に成功 視細胞や神経節細胞などを含むヒト立体網

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - 五感の中でも 視覚 は 私たちが世界を感知するためにとても重要です この視覚をもたらすのが眼 その構造と機能は よく カメラ にたとえられ レンズの役目 水晶体 を通して得られる光の情報を フイルムである 網膜 が受け取り 情報を処理して 私たちは感性を磨くキッカケをつかみます 網膜は 10 層の構造からなり 光の情報を神経情報に変えて脳に伝えます その中で 視細胞 が光の情報を電気信号に変換しています 理研発生 再生科学総合研究センターの網膜再生医療研究チームは この視細胞を新たに再生する手法を発見しました 損傷した網膜を観察 発生期に重要な役割をはたすタンパク質 ウィント が働き 新生を促進することを見つけたのです このウィントとその働きを助ける物質を投与すると 網膜前駆細胞が増え 視細胞が効率よく再生しました 研究チームは この手法をマウス サルの実験で確認しました この方法をさらに進めることができれば 従来の網膜の再生医療として考えられている 移植治療 とは別の 薬物治療 による新たな再生法を可能とすることも期待されます ( 図 ) 傷害後に視細胞が新生した様子

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回路に組み込み 機能確認するフェーズアップで実用化探る独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) と京都大学 ( 尾池和夫総長 ) は 大人の網膜において 傷害後にミュラーグリア ( 網膜のグリア細胞 1 ) から光を感知する神経細胞である視細胞を効率良く再生する方法を開発しました 理研発生 再生科学総合研究センター ( 竹市雅俊センター長 ) 網膜再生医療研究チームの高橋政代チームリーダー 小坂田文隆研究員らの研究グループによる成果です これまでに大人の網膜は グリア細胞から再生することは明らかになっていました しかし 新生される細胞数は少なく 網膜の再生はごくわずかであり 実際に網膜の機能を回復できる数ではありませんでした 小坂田研究員らは 細胞増殖や分裂など多彩な機能を持つことで知られているWnt ( ウィント ) 2 という分泌因子に着目し 網膜再生のメカニズムを解明し 傷害後の網膜の再生を劇的に促進することに成功しました 傷害を受けた網膜にタンパク質であるWnt3aや低分子化合物であるGSK3β 阻害薬を投与し Wntシグナルを活性化することで 網膜前駆細胞数が増加し 光を感じる視細胞の新生が促進することを明らかにしました 本研究の成果は 従来再生医療において考えられていた移植治療とは異なり 薬物による再生治療の可能性を示したものであり 将来の難治性神経変性疾患の予防 治療薬の開発に資する重要な知見と考えられます なお 本研究は 高橋チームリーダーが京大附属病院探索医療センター助教授 小坂田研究員が京大大学院薬学研究科薬品作用解析学分野 ( 赤池昭紀教授 ) の大学院生の時から行ってきたものです 本研究成果は 文部科学省のリーディングプロジェクト 再生医療の実現化プロジェクト の一環として進められたもので 米国の科学雑誌 The Journal of Neuroscience ( 4 月 11 日号 ) に掲載されます 1. 背景網膜 ( 図 1) は中枢神経系の一部であり 一度傷害を受けると 修復が極めて難しい組織です 視細胞の生存 維持に必要な遺伝子の異常が原因で発症し 日本で 3 万人の患者がいるといわれる網膜色素変性 3 や欧米において高齢者の失明原因の一位を占める加齢黄斑変性 4 では 光を感知する視細胞が変性 脱落し やがて失明することが知られていますが これら眼疾患に対する有効な治療法は確立されていません 研究グループは これまでに哺乳類の網膜に存在するグリア細胞が 傷

害により脱落した神経細胞に分化 新生することを 2004 年に世界で初めて明らかにしてきました (Proc Natl Acad Sci USA. 101:13654-9, 2004) しかし その新生細胞数は非常に少なく 網膜の機能を回復させるほどではありませんでした 今回 小坂田研究員らは 傷害後の網膜の再生メカニズムを明らかにし 新生細胞数を増加させ 網膜再生を促進させることに成功しました 再生医療では 傷害された神経細胞と同じ細胞を移植し補充する細胞移植が注目されています 網膜においても 細胞移植での再生治療を目指した試みが盛んに行われています それに対して 今回の研究は 細胞移植に加え 薬物による網膜再生の可能性を新たに示しました 2. 研究手法と成果 (1) 傷害網膜に Wnt3a を投与することで新生細胞数が増加成体ラットの網膜を単離して 多孔質膜上で器官培養を行いました その培養網膜では 生体内と同様に ミュラーグリア細胞 ( 網膜特有のグリア細胞 ) が分裂することを観察しました 分裂したミュラーグリア細胞は網膜前駆細胞へ脱分化 5 し 網膜神経細胞へ分化することが免疫組織化学により明らかとなりました その単離網膜にタンパク質 Wnt3a を投与すると 内顆粒層に存在する分裂細胞がさらに増加しました ( 図 2) その後 視細胞の発生 分化に必要なレチノイン酸を投与すると それら分裂細胞は視細胞が存在する外顆粒層へと移動し 光に反応するタンパク質ロドプシンを発現する視細胞へ分化しました 以上の結果から 傷害を受けた網膜に Wnt3a を投与すると 光を感知する視細胞の新生が増加することが明らかになりました ( 図 3) (2) 網膜の再生過程に Wnt シグナルが関与 Wnt シグナルの活性化の度合いを組織学的に調べることができるマウスや 傷害による遺伝子発現の変化を解析したところ 無傷の網膜では Wnt シグナルの活性化が認められないのに対し 傷害を受けた網膜では Wnt シグナルの活性化が認められました さらに この Wnt シグナルを抑制することができるタンパク質 Dkk-1 を投与したところ 傷害後の網膜再生は抑制されました (3) 低分子化合物で網膜再生が可能 Wnt シグナルが活性化すると その下流の因子である GSK3β が阻害されるメカニズムが明らかとなっています そこで 低分子化合物の GSK3β 阻害薬を傷害後の網膜に投与したところ 分裂細胞が多数観察され Wnt3a と同様に網膜の再生が促進することが明らかとなりました Wnt3a のようなタンパク質は 薬物治療に用いるには 投与ルートが限られるなどの理由から薬にするのは非常に難しいとされていますが 低分子化合物であればそれらの問題を解決することができ 薬になる可能性が考えられます (4) 病態モデルの網膜 サルの網膜でも再生遺伝的に網膜が変性するモデルマウス (rd マウス ) の網膜も 正常マウスと同様にミュラーグリア細胞の分裂を観察し Wnt3a を投与することにより分裂細

胞が増加しました その後 レチノイン酸を投与すると 分裂細胞は 視細胞が存在する外顆粒層へと移動し ロドプシンを発現する新生視細胞を観察しました 以上の結果から 変性過程の網膜でも Wnt シグナルの活性化により 再生を促進できることが明らかになりました さらに ヒトと同じ霊長類であるサルの網膜においても 傷害後に分裂細胞を観察し その細胞がロドプシンを発現する視細胞へ分化することも確認しました 本研究の成果は 将来の難治性神経変性疾患の予防 治療薬の開発 および幹細胞を用いた神経再生治療に資する重要な知見と考えられます 3. 今後の期待今回の研究により Wnt シグナルを活性化することで 網膜の再生が促進することが明らかになりました 神経再生を目指した薬物治療では Wnt シグナルが創薬ターゲットになりうると考えられます 従来再生医療において考えられていた細胞移植による再生とは異なり 薬物による再生治療の可能性が開けました 薬物治療では 細胞移植と比較して 外科的な侵襲を軽減させることができます さらに 薬物治療では 自分の細胞を用いるので ES 細胞を用いた再生とは異なり 倫理的な問題はありません 今後 神経再生を目指した新薬の開発が期待されます 今回の研究はマウスを対象としましたが サルの網膜においても同様に網膜の再生が観察できました しかし今後 治療の現場でこの知見を活かすには ヒトの生体内で網膜再生が起こっているか否かを明らかにしていく必用があります また 新生した視細胞が網膜内で神経回路に組み込まれて機能するかどうかについても調べる必要があります これらの課題を解決していくことで 今回の研究を加速させることができます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所発生 再生科学総合研究センター網膜再生医療研究チームチームリーダー高橋政代 ( たかはしまさよ ) Tel : 078-306-3305 / Fax : 078-306-3303 独立行政法人理化学研究所発生 再生科学総合研究センター網膜再生医療研究チーム研究員小坂田文隆 ( おさかだふみたか ) Tel : 078-306-3305 / Fax : 078-306--3303 独立行政法人理化学研究所神戸研究所研究推進部企画課 Tel : 078-306-3008 / Fax : 078-306-3039

( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 グリア細胞神経系をつくる細胞のうちニューロンでないものの総称 脳神経系にはアストロサイト オリゴデンドロサイト ミクログリアなどが含まれる それぞれの細胞種に特徴的な突起を伸ばしてニューロンがつくる神経回路を取り囲み 神経組織の支柱 ニューロンへの栄養供給と環境整備 信号伝達の修飾などの機能を担う 2 Wnt( ウィント ) 分泌タンパク質 発生期において体軸や脳の形成に重要な役割を果たすことが知られている Wnt は細胞表面の受容体に結合し 細胞内へシグナルが伝達され GSK3β を阻害する 3 網膜色素変性網膜色素変性は 視細胞の維持に必要な遺伝子の異常で視細胞がアポトーシスによって徐々に消失して 視野が狭窄し 多くの人がやがて失明に至る病気 日本には約 3 万人の患者がいる 4 加齢黄斑変性加齢黄斑変性は 網膜下の網膜色素上皮細胞のアポトーシスや脈絡膜からの血管新生によって 二次的に視細胞が障害を引き起こす 先進国において高齢者の失明原因の一位を占める重篤な疾患の一つ 5 脱分化ある性質を持った成熟細胞が未熟な細胞の状態に戻ること

図 1 網膜の構造 角膜や水晶体を透過した光は 神経網膜に到達し 視細胞で感知される その後 視覚情報は双極細胞 神経節細胞へと伝達され 視神経を通じて視覚野へと伝えられる ( 小坂田文隆 高橋政代 体性幹細胞を用いた網膜再生 実験医学 24, 256-262 (2006) より改変 ) 図 2 傷害後にミュラーグリア細胞が分裂する 緑 : 分裂細胞 赤 : ミュラーグリア細胞 成体ラットの単離培養網膜を傷害すると 生体内と同様 ミュラーグリア細胞が分裂し Wat3a を投与することでその分裂細胞が増加した

図 3 傷害後に視細胞が新生する 緑 : 新生細胞 赤 : 視細胞 矢印が新生視細胞 成体ラットの単離培養網膜を傷害し Wat3a を投与すると 新生細胞が多数生まれ 視細胞へと分化することが観察できた