PHR サービスの動向 米国調査報告 2-2009 年 2 月 10 日富士通総研経済研究所上級研究員江藤宗彦
目次 1. 米国医療機関による PHR サービスの現状 2.PHR 情報基盤の動向 3.PHR サービスによる患者中心医療 4. 我が国での PHR サービス実現に向けて 1
1-1. Web での個人医療情報管理が始まる 米国で 個人医療情報の Web ベース管理が始まる 2008 年第 2Q の民間調査では Web ベース管理は 3% 強 医療情報を管理しているか? 医療情報を管理ツールは? 不明, 14% Yes, 30% Web, 11% PC のアプリ, 10% 特別なアプリ, 4% No, 56% 紙, 75% 出典 : フォレスターリサーチ 2008 年第 2 四半期での調査 n=5,242 2
1-2. 医療機関の PHR サービスの事例 有力医療機関による PHR サービスの提供が広がる 患者が PHR サービスを求めている事が背景 PHR サービス 事業体名称 アクティブユーザー EMR の患者向けポータル PHR 情報基盤との連結 ベスイスラエルディーコネス (BIDMC) ( マサチューセッツ州 ) 4 万人 08 年 10 月時点 My Patient Google Health MS Health Vault クリーブランドクリニック ( オハイオ州 ) 10.6 万人 ( 登録者 16 万人 ) 08 年 9 月時点 My Chart Google Health センタラヘルスケア ( ヴァージニア州 ) 2 千人弱 09 年 1 月時点 My Chart カイザーパーマネンテ (KP) ( 全米 9 州とワシントン DC) 250 万人超 09 年 1 月時点 My Health Manager MS Health Vault 3
1-3. 電子クリーブランドクリニック PHR サービスを生活習慣病の予防に活用 電子医療サービス 医療従事者向け 患者向け My Practice: 電子カルテシステム My Practice: 電子カルテ提供サービス My Chart: 患者向け医療情報サービス My Consult: セカンドオピニオンサービス e Research: 製薬企業向け臨床研究支援サービス Dr. Connect: 連携開業医との患者情報リアルタイム共有サービス Virtual Visit: 遠隔診断サービス My Monitoring: 生体情報自動アップロード 出典 : クリーブランドクリニック資料 4
銭的 人的コスト出典 : クリーブランドクリニック資料金1-4. My Chart を使ったオンライン糖尿病管理 入院 患者主導外来予約 患者による予防 ( 一時的医師指導 ) a 1 オンライン診察予約 高血圧 心疾患への医師介入 b 2 オンライン指導 支援 c 医師のオンラインモニタリング 時間 不十分な健康管理 5 合併症併発 ( 網膜症 血栓症 ) 従来 : 一時的なやりとり BPR 後 :IT を活用し継続的に相互交信 3 d e 4 健康作り遵守 合併症がある糖尿病患者は 2.3 倍以上のコストがかかる 継続教育 f 5
1-5. 三段階からなるカイザーの e-care の構成 第 3 段階を視野に入れ 現在は第 2 段階 第 3 段階では 患者は自宅にいながら健康管理ができる 医療の質と医療プラクティスへ反映 治療 第 3 段階 個人医療情報 第 2 段階 一般医療情報 第 1 段階 出典 : カイザーパーマネンテ資料 電子健康管理オーディオ機器や Web を使い 血圧 血糖値 体重等を管理 主治医との電子メール 検査結果オンライン閲覧 処方箋更新の電子交付 電子診察予約 医師の選択 カルテの Web 上での閲覧 薬 健康の百科事典 健康ハンドブック 施設 スタッフ録 他のサイトへのリンク 6
目次 1. 米国医療機関による PHR サービスの現状 2.PHR 情報基盤の動向 3.PHR サービスによる患者中心医療 4. 我が国での PHR サービス実現に向けて 7
2-1. 経営主体 地域を超えた医療情報交換へ 現在 各医療事業体が医療情報システムをネットワーク化 経営主体 地域を超えた取り組みには PHR 情報基盤が有用 PHR 情報基盤 8
2-2. 大手 IT 企業が PHR へ参入した訳 1 日当たりの医療関連情報の検索回数は 1 億回と突出 検索サイト運営者にとっては 医療情報は宝の山 医療情報の生活者メディア選考度調査 40% 35% 35% 30% 25% 22% 20% 15% 10% 5% 16% 14% 10% 2% 0% ウェブサイト雑誌新聞テレビ e-mail 該当せず フォレスターリサーチ調査より引用 9
2-3. PHR のシステム データ活用アフ リケーション提供者 疾病管理ツール 健康増進ツール 臨床研究管理ツール SNS ツール アフ リケーションに活用 一括管理 全国で展開 長期可搬性 PHR 情報基盤 Google/Microsoft 電子データを自動伝送 アプリケーションへのインターフェース 情報アクセス管理 ( 個人による管理 ) 生涯データを永続的に保管 データインポート イクスポートのインターフェース 個人 データ保存 共有を個人管理 データ提供者 診療所 病院 薬局 検査 保険者 情報の流れ サーバー 米国でのヒアリング結果及び各種資料より筆者作成 10
2-4. グーグルとマイクロソフトの事業範囲 疾病管理ツール 健康増進ツール 臨床研究管理ツール SNS ツール グーグル Google Health の事業範囲 アプリケーションへのインターフェース 情報アクセス管理 ( 個人による管理 ) 生涯データを永続的に保管 マイクロソフト Health Vault の事業範囲 データインポート イクスポートのインターフェース 診療所 病院 薬局 検査 保険者 米国でのヒアリング結果及び各種資料より筆者作成 11
サービス内容その他2-6. EMR と PHR 情報基盤の役割分担 医療機関の EMR PHR 情報基盤 1 医療情報サービス ( 診療録 検査結果の閲覧 医師等との電子メール 診療予約 紹介状 処方箋 診療報酬請求の閲覧等 ) 2 患者による情報入力 保存 3 第三者からのデータ取込 4 家庭用医療機器との連結 5 全国レベルでの情報交換 6 長期的データ可搬性 7 HIPAA 対象 8 セキュリティ力 セキュリティ力 サ対象? 米国でのヒアリング結果及び各種資料より筆者作成 12
目次 1. 米国医療機関による PHR サービスの現状 2.PHR 情報基盤の動向 3.PHR サービスによる患者中心医療 4. 我が国での PHR サービス実現に向けて 13
3-1 IT を通じた医療を求める国民の声 総務省平成 13 年度通信利用動向調査 14
3-2 患者中心医療のイメージ 日本の多くの家庭が医療問題を抱えている 消費者が医療情報を保有 健康意識を向上 自己管理促進 IT を賢く活用し 国民に質の高い医療 安心 便利さを提供 米国事例を踏まえ 国民の視点から考えると 患者向けポータルサービス 予防医療の遠隔指導 電子セカンドオピニオン 医療情報の共有 が我が国でも必要では 15
3-3 患者向けポータルサービス ( 検査結果 ) 効果的な診察 ( 事前に結果を知っており患者が準備可能 ) 結果によっては外来診察不要 ( 患者負担軽減 医療資源節約 ) 1 検査結果が出たことを 患者にセキュリティを確保したe-mailで通知 2 検査結果をWebや携帯電話を通じて閲覧 病院 自宅 16
3-4 患者向けポータルサービス ( 投薬 ) 安全性の向上 ( 副作用や禁忌の回避 ) 投薬ミスの減少 2 処方にあたって アレルギー情報や過去の投薬歴を参照 PHR 情報基盤 1 自分のアレルギー等の基本情報を入力 処方した薬を投薬歴に追加 3 病院 4 自宅より投薬歴の確認 自宅 17
3-5 予防医療の遠隔指導 継続的コミュニケーションにより自己管理増進 重症化回避 2 定期的に病院の EMR にアップロード PHR 情報基盤 1 自宅より血糖値等のデータをPHR 情報基盤に転送 病院 3 目標数値オーバーのため 電子メールで遠隔指導 自己管理促進 自宅 18 4
3-6 電子セカンドオピニオン 患者の治療選択肢拡大 欠乏し偏在する専門医の有効活用 電子セカンドオピニオンを受診する為 PHR 情報基盤を通じて 地元病院のカルテ 検査結果 画像データを 東京のがん専門病院に送信 19
3-7 医療情報の共有 診断精度の向上 検査の重複回避 薬剤等による医療事故防止 PHR 情報基盤を通じて 診療録サマリー 検査結果 画像データ等を地元病院に転送 20
目次 1. 米国医療機関による PHR サービスの現状 2.PHR 情報基盤の動向 3.PHR サービスによる患者中心医療 4. 我が国での PHR サービス実現に向けて 21
4-1 PHR の実現に向けて 提言 1 PHR 情報基盤の整備 1. 電子私書箱の導入 ( 信頼ある事業体 医療情報を対象に ) 2. 社会保障カードの導入 ( 個人認証手段として ) 3. 継続性を担保するインセンティブ付与 ( 診療報酬 税額控除等 ) 提言 2 環境変化 法改正 1. 医療者中心から患者中心への意識の変化 2. 医療情報の開示ルール 3. 民間への外部保存の規制緩和 4. IT を活用した医療の在り方 ( 医師法 20 条の対面診療の前提 遠隔医療への診療報酬等 ) 提言 3 電子化の推進 1. 診療報酬増による医療機関の医療資源不足解消 2. 地域の中核医療機関への EMR 整備 22
4-2 電子私書箱の PHR への活用 電子私書箱 ( 参考 ) 米国の PHR 情報基盤モデル 事業実施体制 ビジネスモデル 信頼ある事業体 ( 政府直営 官民組織 免許制等 ) 単独 / 複数 個人情報データ (PHR 含む ) マイクロソフト グーグル ドーシャ等 PHR データ貯蔵 アプリケーション提供 収入源 広告モデルは社会的に受容されるか 利用料をとれるのか 財政資金の投入金額は 検索サイトのトラフィック増を通じた広告収入増大 PHR 情報基盤サイト内広告禁止 懸念事項 日本国民の医療情報が国外のデータベースで管理される場合には日本の法律で守れない 民間企業が事業撤退や倒産した場合のサービスの継続性 23
4-3. EMR 整備に資金を投入すべき 年間の医療 IT 投資は 3,000~4,000 億円 ( 平成 19 年 3,667 億円 ) 医業収入に占める医療 IT 投資の割合は 1% 程度で推移 オバマ政権は 5 年で 500 億ドルを医療 IT 投資に投じる見込み 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 米国の医療機関平均は 2% 以上 1,810 1,854 医療機関の医療 IT 投資 ( 億円 ) 2,299 2,204 2,501 2,918 2,267 2,459 0.7% 0.7% 0.8% 0.8% 0.8% 1.0% 0.8% 0.8% 医療 IT 投資 2,874 2,894 2,875 0.9% 0.9% 0.9% 医療 IT 投資額 / 国民医療費 ( 右軸 ) H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 3.0% 3,393 3,373 2.5% 2.0% 1.5% 1.0% 1.0% 1.0% 0.5% 0.0% 出典 : 厚生労働省及び JAHIS 資料より作成 24
御静聴ありがとうございました 25