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よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎


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ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義して

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topics vol.82 犬膿皮症に対する抗菌剤治療 鳥取大学農学部共同獣医学科獣医内科学教室准教授原田和記 抗菌薬が必要となるのは 当然ながら細菌感染症の治療時である 伴侶動物における皮膚の細菌感染症には様々なものが知られているが 国内では犬膿皮症が圧倒的に多い 本疾患は 表面性膿皮症 表在性膿

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2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

Transcription:

抗菌薬開始のタイミング 2012.12.25 慈恵 ICU 勉強会久保友貴子

はじめに 重症患者における抗菌薬投与は 感染が疑われた時点でエンピリック治療として開始されることが多い しかし不適切な抗菌薬投与は耐性菌増加につながる問題がある 重症患者の抗菌薬投与は 1 感染症診断の確実性 2 治療介入が遅れた場合のリスク 3 耐性菌増加のリスク 以上 3 つのバランスより開始のタイミングを考える必要がある

2 つの抗菌薬開始タイミング 1 感染が疑われたら培養を取って すぐにエンピリック治療開始 問題点 : 耐性菌が増える 不適切な抗菌薬投与の可能性がある 非感染患者に抗菌薬を投与する可能性がある 2 感染が疑われたら培養を取って 培養結果が出てから抗菌薬開始 問題点 : 培養結果が出るまで治療介入しないため 感染症であった場合 状態によっては Septic Shock におちいる危険性がある

Chest 115.2(Feb 1999):462-74 不適切な抗菌薬投与 : 重症患者における死亡率のリスクファクターとなるか 研究 方法 前向きコホート研究 1 施設 対象 2000 人の ICU 入室患者 (medical or surgical) 結果 655 人が感染症 そのうち 169 人 (25.8%) が不適切な抗菌薬にて治療されていた 院内死亡率 :all causes 不適切な抗菌薬投与群 52.1% 適切な抗菌薬投与群 23.5% 感染症関連院内死亡率 : 不適切な抗菌薬投与群 42.0% 適切な抗菌薬投与群 17.7% 不適切な抗菌薬投与は院内死亡率を上げる

Intensive Care Med(2007)33:1369-1378 ICU 関連感染症の抗菌薬投与 : エンピリック治療の継続は結果をよくするか? 研究 方法 前向きコホート研究欧米の多施設 (8 つの SICU) ICU 関連感染症が疑われたら培養施行後 エンピリック治療開始非感染者エンピリック治療継続群と抗菌薬中止群で死亡率を比較 対象 ICU 関連の感染症が疑われた 195 人の患者 (medical or surgical) Outcome 28 日死亡率 結果 195 人中 39 人 (20%) が培養陽性で感染症であり 残り 80% が非感染者であった 28 日死亡率 : 感染症なしの患者で 4 日間以上エンピリック治療継続されていた人の方が 抗菌薬投与を中止した人より死亡率が高い しかし年齢 患者背景 循環作動薬の使用有無 MOF の因子で多変量解析するとエンピリック治療継続は死亡率低下の独立因子ではなかった エンピリック治療は非感染者に抗菌薬を投与する可能性が高い 非感染者へのエンピリック治療の継続は死亡率を高くする可能性あり

前向きコホート研究 Washington University School of Medicine の ICU(1 施設 ) Medical ICU19 床 +Surgical ICU18 床 院内死亡率最初の抗生剤投与適切群 28.4% 不適切群 61.9% 1997 年 7 月 ~1999 年 7 月 492 人の敗血症患者 ( そのうち 30.3% が SICU 患者 ) 敗血症患者は適切な抗菌薬投与が遅れると死亡率が 2.2 倍上昇する Chest 2000; 118: 146 55

エンピリック治療は非感染者に抗菌薬を投与する可能性が高い また不適切な抗菌薬投与は死亡率悪化につながる 一方で ( 敗血症患者では ) 適切な抗菌薬投与開始が遅れると死亡率が悪化してしまう Q. では培養結果を待ってから適切な抗菌薬治療を開始すると 死亡率は悪化するのか?

方法 研究種類 2 年間の前向きコホート研究 施設 University of Verginia(USA) 1 施設 対象 SICU 入院の患者 18 歳以上 除外条件 外科処置を受けていない患者 熱傷の患者 研究参加者 5 人の集中治療医 期間 2008 年 9 月 1 日 ~2009 年 8 月 31 日 aggressive strategy ( 感染が疑われた時点で培養をとったあとすぐに抗菌薬開始 ) 2009 年 9 月 1 日 ~2010 年 8 月 31 日 conservative strategy ( 培養から感染のデータが出てから抗菌薬開始 )

プロトコール 1Aggressive strategy 血培 関連のある培養をとってから 12 時間以内にエンピリック治療開始 72 時間後培養で感染が認められなかったら抗菌薬中止 2Conservative strategy 培養から感染のデータが出てから抗菌薬投与開始 どちらとも血培を含む各種培養をとる判断は 発熱 もしくはそのほかの sepsis 兆候があった時とする 感染巣が明らかである創部感染は プロトコールから外してすぐに抗生剤投与開始とする

Outcome Primary outcome: 院内死亡率 Second outcome: 入院期間 抗菌薬治療期間抗菌薬開始までの時間 抗菌薬治療の適正度耐性菌感染症の発生頻度

プロトコール outcome の 各種言葉の定義 培養データの定義 呼吸器感染症 : 痰培から 100000 コロニー以上腹腔内感染症 : 排液の Gram 染色敗血症 :Gram 染色尿路感染症 : 尿培 100000 コロニー以上 US centers for disease control and prevention criteria for the definition of infection Am J Infect Control 1988;16:128-40

エンピリック治療 First choice: ピペラシリン / タゾバクタム + バンコマイシン 段階的に強さをさげていくカルバペネムは多剤耐性菌に使用 抗生剤治療の適正度 培養結果 感受性検査の結果より 初めから適切な抗菌薬が選択されているかどうか

耐性菌感染症の定義 対応 Gram 陰性菌 : ペニシリン β ラクタマーゼ阻害薬 セファロスポリン フルオロキノロン カルバペネム アミノグリコシド いずれか 2 種類以上に耐性があるもの Gram 陽性菌 :MRSA VRE 上記 +Clostridium difficile の患者は接触隔離にて治療を行う

循環動態不安定な患者について (Septic Shock の患者 ) 感染が疑わしく MAP60mmHg 以下で 循環作動薬が必要となった患者は 直ちに抗菌薬投与開始とし研究対象の数から除外する

結果

SICU 入室患者について SICU 入室数 Aggressive year 762 例 Conservative year 721 例 入室時に APACHE Ⅱ score 確認 頭部外傷 血管外科の患者は SICU に入室せず

SICUのICU 関連感染症患者について ICU 関連感染症患者数 aggressive 101 例 conservative 100 例 年齢 性別 入院期間 白血球数 既往歴 APACHE Ⅱ score aggressive と conservative で差なし

ICU 関連感染症の種類

細菌の種類 耐性菌 Gram 陰性菌は conservative の方が多い Gram 陽性菌は aggressive が conservative の 2 倍

Primary Outcome 院内死亡率 Aggressive 27%(27/101) Conservative 13%(13/100)P=0.015 Relative risk of death in aggressive period of 2.1(95% CI1.2-3.8) Conservative の方が Aggressive よりも院内死亡率が低い

Second Outcome 抗生剤治療の適正度 Aggressive 62% Conservative 74% P=0.0095 抗生剤治療期間 Aggressive 17.7 日 Conservative 12.5 日 P=0.0080 Conservative の方が 初めから適切な抗菌薬が選択され かつ抗菌薬治療期間が短くなる

非感染者への抗菌薬投与率 Aggressive strategy 151 人 /661 人 (23%) Conservative strategy 31 人 /621 人 (5%)

死亡症例の検討 感染症種類別の死亡率の比較 aggressive と conservative でほぼ差なし 死亡原因は aggressive と conservative で有意差なし

死亡関連因子 aggressive vs conservative 有意差あり aggressive vs conservative のオッズ比は 2.5 と高い

Septic Shock の患者について Aggressive Conservative MAP60mmHg 以下は循環作動薬にて治療 循環作動薬使用した患者において Conservative の方が抗菌薬治療開始まで時間がかかっているにも関わらず 死亡率は低い

考察

Aggressive strategy で outcome が悪かった原因 1 エンピリック治療 ( ピペラシリン / タゾバクタム バンコマイシン ) では Candida spp,vre が治療されないため 抗菌薬適正度が下がった可能性あり 2 適切な抗菌薬を使用していない期間があるため 抗菌薬投与期間が長くなった 3 発熱ですぐに抗菌薬が投与されるプロトコールのため 感染ではない患者にも抗菌薬が投与されたケースが多くなった 41 年目に Aggressive strategy 2 年目に Conservative strategy を行ったので 2 年目の方が医師の感染症に関する症状把握や診断能力があがった可能性があるが これらを評価することは困難

Limitation 1randomized controlled trial ではない 21 施設研究である 3Conservative strategy の結果で Gram 陰性菌の耐性菌は Aggressive strategy よりも 多くなり よい結果を出すことができていない 4Septic でありエンピリック治療が行われているが培養は陰性の患者に対して その後の的確な治療方針を示すことが出来ていない

まとめ SICU の患者において 培養結果で感染症診断が確定するまで抗菌薬投与を延期することは 抗菌薬投与期間の短縮 適切な抗菌薬の選択 院内死亡率の低下につながる可能性が 示唆された

感想 SICU の患者で循環動態が落ち着いている患者では Conservative strategy は選択肢の一つとして考えてよい? しかし患者個別の結果がないため Septic Shock に移行する患者のリスク因子の評価が明確ではなく 実際に死亡率は 13% と低くはない 今後は SICU における conservative strategy の適応外基準をはっきりさせる必要がある 今回は基本的に SICU の術後患者が対象の検討であり すべての Medical ICU 患者でこの結果を適応することはできない 患者背景でステロイド使用者 悪性腫瘍の患者が数名いる 個別の患者ごとに結果を示していないので 免疫不全の可能性がある患者で抗菌薬投与を待ってもよいのかは明言できない