日本トラウマティックストレス学会第14回大会 ポスター発表 P-30 大学生年代における イマジナリー コンパニオン体験の諸相 後藤和史 愛知みずほ大学人間科学部 大饗広之 日本福祉大学子ども発達学部 特記すべきCOI状態なし
2 問題意識 1 イマジナリー コンパニオン (imaginary companion, IC) 体験は児童期に比較的多くみられる現象ではあるが, 虐待 - 解離 にまつわる臨床的文脈の中で積極的に論じられている (Putnam, 1989, 1997) また, 一般的には IC は次第に消失して青年期後期には見られなくなるとされているが, 臨床的文脈ではいくつか報告がみられる 澤ら (2002): 青年期の IC 体験の臨床的記述 大饗 (2007): 成人における IC 体験の臨床的記述 が, 一般大学生を対象に 現在の IC 体験を調査した研究は数少ない 山口 (2007): IC 体験を報告した大学生を対象に調査面接 心理検査
3 問題意識 2 また IC 体験を拡張して 想像上の人格体験 ( 非実在 and/or 非生物の対象だが人間のような独自の人格や心性を持った存在として認める体験 ) ととらえると, 人格化体験ぬいぐるみや人形などの非生物に人格や心性を認めて話しかけるなどの空想的活動 橋本 宇津木 (2011): 生物 非生物に対する心性評価と攻撃性との関連 実体的意識性 (leibhaftige Bewußtheit; Jaspers, 1913) 柴山 (2010): 解離性障害患者群の実体的意識性体験の臨床的記述厳密な定義と異なり視知覚されている例も記されている といった体験も周辺として挙げることができるだろう
4 本研究の目的 ウェブ調査を用いて大学生年代におけるイマジナリーコンパニオン (IC) 周辺体験の諸相を記述することを第一の目的とした 併せて, 手法の妥当性を検討するために解離性傾向との関連を検討した ウェブ調査の利点 資源 ( 印刷用紙 ) の節約 回答時間の任意性 ( 動画 音声が利用可能 ) 調査者によるデータ入力の必要がない 入力ミスが起きない 調査からデータ分析開始までの時間が短縮される 個人データの一元管理 電子データのみとなる 回答用紙処分の手間が省力化 調査対象となる学生群には, 筆記用具は持ち歩かないが, スマートフォンは常時携帯している, というタイプもいる
5 方法 1 調査参加者大学生 186 名 ( 男性 65 名, 女性 121 名, 平均年齢 20.10 歳 ) 質問紙構成 1. IC 周辺体験 : 独自に開発した質問紙を用いた 1 人格化体験 ( ぬいぐるみなど ),2 他自我体験,3 他人格体験,4 実体的意識性体験の 4 つの体験について説明し, 関連体験の有無 具体的な説明 関係性 参加者自身の関与行動 IC 様対象の心的活動 IC 様対象の関与行動について回答を求める形式とした 2. 解離性体験 :DES 日本語版 ( 田辺 小川, 1992)
6 方法② 調査手続き 調査回答用のウェブページの作 成にはGoogle Formsを用いた 講義授業および学内情報配信シ ステムを用いて調査内容の説明 をするとともに回答ページの URLを紹介して 回答への協力 を依頼した 回答ウェブページの初頭には調 査目的の説明 倫理的表明 調 査同意欄を設け 調査への参加 について能動的同意を表明した 参加者のみが回答できるように 設定した
7 方法 3~4 つの IC 周辺体験 1 人格化 人によっては, 人形やぬいぐるみなど本質的には非生物であるものに対して, あたかも心を持った存在であるかのように感じたり振る舞ったりすることがあります 2 他自我 人によっては, 自分の中に, 別の自分がいる と感じることがあります ( 別の自分 は人間とは限りません ) 3 他人格 人によっては, 自分の中に, 今の自分以外の誰かがいる と感じることがあります ( 誰か は人間とは限りません ) 4 実体的意識性 人によっては 自分にも見えたり聞こえたりといった感覚がないけれども, 確かに自分の近くに誰かがいる と感じることがあります ( 誰か は人間とは限りません )
3 関係性 ( 親近感 ~ 嫌悪感 ) 1. 友情を感じる 2. 恋愛感情を感じる 3. 大切にしたい, と思う 4. 恐れや不安を感じる 5. 怒りを感じる 6. いなくなってほしい, と思う 4 関与行動 ( 自分 対象 ) 1. 何かを言う 2. 会話をする 3. 何か具体的なことをする 4. 何かを強制的にさせようとする / させる 5. けんかする 6. 協力して何かする 7. 何かをしてあげる 1IC 周辺体験の有無 2 体験の記述プラス 5ICの心的活動 1. 何かを感じている 2. 何かを考えている 3. 何かに興味を向けている 4. 何か意図している 6ICの関与行動 ( 対象 自分 ) 1. 何かを言う 2. 会話をする 3. 何か具体的なことをする 4. 自分に何かを強制的にさせようとする 5. けんかする 6. 協力して何かする 7. 何かしてくれる 8
9 結果 1~ 基礎的情報 1. IC 周辺体験を 現在ある と報告した割合は 1 人格化体験で 33.0%,2 他自我で 28.7%,3 他人格で 14.6%,4 実体的意識性で 13.4% であった ( 図 1) 人格化体験を除く IC 周辺体験の体験を 現在ある と 1 つ以上報告した者は有効回答 176 名中 63 名 (35.8%) であった 2. 性差については,1 人格化体験のみが女性の体験率が有意に高かった ( 図 2) 3. 1 人格化体験を報告した参加者は, 他の IC 周辺体験を有意に高い割合で報告していた ( 図 3)
10 人格化 27 34 24 100 他自我 21 30 8 119 他人格 10 17 2 156 実体的意識性 6 19 2 159 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 確かにあるたまにある過去にあったまったくない わからない 図 1 大学生年代における IC 周辺体験の体験率
100% 11 75% 58 42 75 44 101 55 102 57 50% 25% 63 22 40 19 20 9 19 8 0% 女性男性女性男性女性男性女性男性 人格化 他自我 他人格 実体的意識性 (OR=2.07, (OR=1.24, (OR=1.21, (OR=1.33, p=.029*) p=.618) p=.832) p=.663) 図 2 IC 周辺体験の体験率の性差
100% 16 12 75% 75 50% 70 25% 31 0% なし あり 人格化 他自我 他人格 実体的意識性なし 他自我 他人格 実体的意識性あり OR=10.58 Fisher s exact p=0.0000 (two-tailed) 図 3 人格化体験と他の IC 周辺体験との関連
13 結果 2~ 解離との関連 1 DES を Waller&Ross (1997) のタクソン判定法に基づいて病的解離群 ( n=33 ) と非解離群 (n=114) とに分類して IC 周辺体験との関連を検討した Pt_x スコア =0.5 を分割基準とした 病的解離群のほうが有意に人格化 他自我 他人格体験の体験率が有意に高く, 実体的意識性体験も高い傾向が認められた ( 図 4)
100% 14 9 10 75% 73 20 50% 87 107 27 103 24 22 25% 0% 41 20 13 6 6 11 病的解離非解離病的解離非解離病的解離非解離病的解離非解離 人格化 他自我 他人格 実体的意識性 (OR=4.75, (OR=9.57, (OR=11.59, (OR=2.08, p=.000*) p=.000*) p=.000*) p=.215) 図 4 IC 周辺体験と解離との関連
15 結果 3~ 解離との関連 2 IC との関係性 関与行動 心的活動 IC の関与行動と解離との関連を,Fisher の直接法 オッズ比を用いて検討した 人格化を含むすべての IC 様対象で病的解離群のほうが体験率が高かった 有意 and/or 高いオッズ比
0% 20% 40% 60% 80% 100% 1( 自分が ) 友情を感じる 34 51 2( 自分が ) 恋愛感情を感 3 82 3( 自分が ) 大切にした 65 20 4( 自分が ) 恐れや不安を 8 77 5( 自分が ) 怒りを感じる 6( 自分が ) いなくなって 4 5 81 80 1( 自分が ) 何かを言う 45 40 2( と ) 会話をする 27 58 3( 自分が ) 何か具体的な 13 72 4( 自分が ) 何かを強制的 7 78 5( と ) けんかする 3 82 6( と ) 協力して何か 9 76 7( 自分が ) 何かをしてあ 24 61 1( が ) 何かを感じて 41 44 2( が ) 何かを考えて 3( が ) 何かに興味を 4( が ) 何か意図して 19 13 18 66 72 67 1( が ) 何かを言う 27 58 2( 自分と ) 会話をする 15 70 3( が ) 何か具体的な 4 自分に何かを強制的にさ 5( 自分と ) けんかする 6( 自分と ) 協力して何か 7( が ) 何かしてくれる 7 6 3 8 8 78 79 82 77 77 人格化 非解離群 > 解離群 3( 自分が ) 大切にしたい, と思う * 解離群 > 非解離群 2 会話をする * 6 協力して何かをする * 2 何かを考えている 4 何か意図している * 1 何かを言う * 6 協力して何かする * 7 何かしてくれる Fisher s exact test (**: p<.01, *: p<.05, :p<.10) 16
0% 20% 40% 60% 80% 100% 1( 自分が ) 友情を感じる 15 44 2( 自分が ) 恋愛感情を感 1 58 3( 自分が ) 大切にした 4( 自分が ) 恐れや不安を 18 19 41 40 5( 自分が ) 怒りを感じる 7 52 6( 自分が ) いなくなって 17 42 他自我 解離群 > 非解離群 1 友情を感じる ** 17 1( 自分が ) 何かを言う 2( と ) 会話をする 3( 自分が ) 何か具体的な 6 22 23 53 37 36 2 会話をする * 6 協力して何かする 4( 自分が ) 何かを強制的 5( と ) けんかする 6( と ) 協力して何か 6 6 10 53 53 49 2 何かを考えている 7( 自分が ) 何かをしてあ 1( が ) 何かを感じて 2( が ) 何かを考えて 3( が ) 何かに興味を 4( が ) 何か意図して 1( が ) 何かを言う 2( 自分と ) 会話をする 8 10 27 24 23 22 19 51 49 32 35 36 37 40 3 何か具体的なことをする 4 自分に何か強制的にさせようとする 6 協力して何かする * 7 何かしてくれる * 3( が ) 何か具体的な 4 自分に何かを強制的にさ 5( 自分と ) けんかする 8 13 7 51 46 52 Fisher s exact test (**: p<.01, *: p<.05, :p<.10) 6( 自分と ) 協力して何か 11 48 7( が ) 何かしてくれる 11 48
0% 20% 40% 60% 80% 100% 1( 自分が ) 友情を感じる 10 19 2( 自分が ) 恋愛感情を感 1 28 3( 自分が ) 大切にした 4( 自分が ) 恐れや不安を 9 10 20 19 5( 自分が ) 怒りを感じる 6( 自分が ) いなくなって 3 4 26 25 1( 自分が ) 何かを言う 2( と ) 会話をする 13 12 16 17 3( 自分が ) 何か具体的な 4( 自分が ) 何かを強制的 2 2 27 27 5( と ) けんかする 4 25 6( と ) 協力して何か 7 22 7( 自分が ) 何かをしてあ 5 24 他人格 Fisher s exact test の結果... 解離群と非解離群との間に有意な違いは得られなかった 解離群で体験率が高い項目 3 大切にしたい, と思う 5 けんかする 6 協力して何かする 1 何かを感じている 3 何かに興味を向けている 18 1( が ) 何かを感じて 2( が ) 何かを考えて 3( が ) 何かに興味を 4( が ) 何か意図して 1( が ) 何かを言う 2( 自分と ) 会話をする 3( が ) 何か具体的な 4 自分に何かを強制的にさ 4 4 7 8 10 14 14 16 25 25 22 21 19 15 15 13 2 会話をする 3 何か具体的なことをする 4 自分に何かを強制的にさせようとする 5 けんかする 6 協力して何かする 7 何かしてくれる ( n.s. but OR>4.0 ) 5( 自分と ) けんかする 4 25 6( 自分と ) 協力して何か 7 22 7( が ) 何かしてくれる 8 21
0% 20% 40% 60% 80% 100% 1( 自分が ) 友情を感じる 6 2( 自分が ) 恋愛感情を感 0 27 3( 自分が ) 大切にした 8 19 4( 自分が ) 恐れや不安を 13 14 5( 自分が ) 怒りを感じる 1 26 6( 自分が ) いなくなって 1( 自分が ) 何かを言う 10 9 17 18 2( と ) 会話をする 7 20 3( 自分が ) 何か具体的な 4( 自分が ) 何かを強制的 5( と ) けんかする 3 3 4 24 24 23 6( と ) 協力して何か 1 26 7( 自分が ) 何かをしてあ 3 24 1( が ) 何かを感じて 2( が ) 何かを考えて 3( が ) 何かに興味を 8 9 7 19 18 20 4( が ) 何か意図して 11 16 実体的意識性 解離群 > 非解離群 1 何かを感じている ** 3 何か具体的なことをする * Fisher s exact test (**: p<.01, *: p<.05, :p<.10) 解離群で体験率が高い項目 1 友情を感じる 3 大切にしたい, と思う 5 怒りを感じる 2 会話をする 4 何かを強制的にさせようとする / させる 2 何かを考えている 19 1( が ) 何かを言う 2( 自分と ) 会話をする 3( が ) 何か具体的な 4 自分に何かを強制的にさ 5( 自分と ) けんかする 6( 自分と ) 協力して何か 4 5 3 4 7 7 20 23 20 22 24 23 4 自分に何かを強制的にさせようとする 5 けんかする 6 協力して何かする ( n.s. but OR>4.0) 7( が ) 何かしてくれる 2 25
20 人格化 病的解離群 ぬいぐるみ 慰めの言葉, やさしい言葉をくれる 不安やストレスの低減 いないと眠れない 母 を埋める移行対象的存在 体験記述内容のまとめ 確かにある と回答した参加者の記述内容を中心にまとめた 他自我 他人格 実体的意識性 自分の分身 運命共同体 生活を共にする存在 頼れる 尊敬できる DID である との自己報告 兄姉 友人のような存在 助言 違和感 生霊 怨霊 幽霊 ただいるだけ 悪さをする 味方となる 非解離群 ぬいぐるみ 人形 身近な道具 友達 遊び相手 相談相手 過去形の記述 TPO に対応した役割的自己 自己客体視 自己嫌悪的内省状態 一時的な解離状態 ( 記述なし ) 霊 神様 ただいるだけ 大饗 (2012) における一般青年の 人格の多元化 に相当
21 考察 1 大学生年代でも IC 周辺体験は比較的高い割合 (1/3 強 ) でみられることが見いだされた 人格化体験は他の IC 周辺体験と関連していた 背景となるシステムの類似性が示唆 仮説 1 共通する背景に空想傾性 (Fantasy proneness) が? 仮説 2 人格化体験 IC という進行パターン? IC は 内在化された移行対象 という仮説も導出可能 逆に, 人格化体験におけるぬいぐるみ 人形は 外在化した IC?
22 考察 2 解離群のほうが IC 様対象が活発に心的活動をしている, 自己 - 対象間で積極的な心理的やり取りが行われている, と報告 ウェブ調査による自己報告という新規な調査手法をとったものの, 臨床報告でも関連が示唆されている解離との正の関連があることが見いだされ, 手法の妥当性が示された 今後の展開 IC の機能的役割の検討 解離群における現実適応的 ( レジリエンス的 ) 機能, など