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Transcription:

ITILR の知識と活用 総務省

ITILR の知識と活用 この単元の構成と目的 1 ITILとは 2 ITILのフレームワーク 3 ITサービスマネジメントの全体像 4 サービスマネジメントの利点と必要事項 5 ITILを活用した継続的な運用改善 ( 補足資料 )ITILの用語 ここでは まず ITILR(ITインフラストラクチャ ライブラリ以下 I TILと略す ) の構成とフレームワークを理解し システム運用を行う上で I TILを利用した取り組みが重要であることを確認します 次に ITILにおける7つのフレームワークから ITサービスマネジメント概要と主要なインタフェースには どのようなものがあるかを解説します 次に ITILを活用したサービスマネジメントにはどのような利点があり どのような影響を及ぼすかについて解説します また ITILを活用していく上での留意点について解説します さらに 継続的な運用改善を実現するためのPDCAサイクル構築のステップについて解説します この単元は 次の システム運用計画 パフォーマンス指標 の序の部分に あたります ITIL の概念のため 専門的な解説が中心となりますが 各団体に おいて ITIL を活用する場合の基礎知識の習得を目標にしてください 1

1 ITIL とは ここでのテーマと課題 ITIL が IT サービスマネジメント としてどのよう活 用されているか理解をします 解説 ITILは 1980 年代後半から英国政府向け手引書として開発され 現在では ITサービスマネジメント フレームワークの世界標準となっています 多くのITサービスマネジメント企業が コンサルティング サービス 教育 及びソフトウェア ツールのサポートの基盤として採用していることから 有益なフレームワークであることが実証されています 品質マネジメントの国際標準として 一般に広く知られているものにISO9000 シリーズがあります システム運用分野においては ITILというITサービスマネジメントフレームワークの国際標準が もっとも有効なアプローチとして近年注目されています ITサービスマネジメントでは システム運用そのものを 情報サービスを使った利用者へ ITサービス提供 をすることと捉え 情報技術を活かした優良なサービスを十分な品質で提供することと サービスに必要なコストの効率性を確保することを両立させ管理することが重要です ITILは ITサービスの提供に関わるプロセスに着目し プロセスの明確な定義とプロセスのコントロールを実践することを目指しています プロセスとは 定められた目標に向けて行なわれる 論理的に繋がりのある一連の活動を指します ITILには 具体的なプロセスの手順や プロセスをコントロールするための管理帳票等は一切記載されておらず 具体的な方法論 手法はあくまでも各団体の状況や目的に応じて 独自に作成することが原則となります 国際標準とはいえ 形式的に導入すれば効果が上がるというものではなく 最終的にはCIOや情報システム部門の判断が必要となります 2

ロジーサービスマネジメント導入計画立案 2 ITILR のフレームワーク ビジネスの観点 サービスマネジメント サービスサポート ICT インフラストラクチャ管理 テクノここでのテーマと課題 のフレームワークビジネス ITIL は 7 つのフレームワークから構成されており ビジネス とテクノロジーを結ぶ役割を担っています ここでは 各フレームワークがどのような観点で位置づけられてい るかをを学びます 解説 ITIL では ビジネス と テクノロジー を結ぶフレームワークの構成要素 として下図の構成になります 各フレームワークの構成要素については 4~7 ページに概要説明を記述します サービスデリバリ セキュリティーマネジメント アプリケーション管理 図 1.ITIL 書籍のフレームワーク 3

2 ITIL のフレームワーク 図 1は ITILフレームワークです 書籍は それぞれのフレームワークに関する事項を取り上げており 次の内容ついて記述しています ITサービスマネジメントを体系化するために必要な事項 IT 組織に必要な各々のプロセスの達成目標 活動 及び入力と出力の定義以下 各書籍に記載されている概要を紹介します ビジネスの観点 ITサービスを提供する管理者が業務を理解するために活用します 対象としている課題には 事業継続性管理 パートナーシップとアウトソーシング 事業の利益のための情報通信技術 (ICT) の継続的改善と活用があります サービスマネジメント導入計画 ITサービスマネジメントの導入を計画する際に検討すべき重要な課題について 実践的な手引き ( サービスの提供を実行あるいは改善するために必要不可欠なステップの明示も含む ) が記述されています 4

2 ITIL のフレームワーク サービスサポートサービスサポートでは ITサービスの利用者に対するサービスの日常的なサポートを適切に実施するために必要な管理事項について記述されています サービスデスクサービスデスクとは ITサービスの利用者にとって IT 組織への最初の連絡窓口になり インシデント ( 補足の用語集を参照 ) 問題の記録 解決 監視及び変更要求の受付と広範囲にわたり管理します インシデント管理インシデント管理とは インシデント発生時にその解決及びサービス提供をすばやく復元するための管理のことです インシデントについて適切に記録を採取することで その後の多くの業務の効率性を高めます インシデントの例として アプリケーションが使用できなくなった ハードウェアが故障した等があげられます 問題管理問題管理とは 発生した問題の根本原因を発見するといった受動的な活動だけでなく 可能な限り能動的に障害の発生を防止するための管理をいいます 構成管理構成管理とは 変化し続けるITインフラストラクチャ ( 例えば サーバなどのハードウェア ネットワークなどのIT 基盤 ) についてのコントロール ( 例えば 標準化 状況の監視等 ) コンポーネント( 構成要素 ) の識別並びに詳細情報の収集及び管理を行うことです そして 他のプロセス ( 変更管理 可用性管理等 ) へ ITインフラストラクチャに関する情報提供を行います 変更管理変更管理とは ITインフラストラクチャに対する変更の許可と実装を確実に行う管理のことです リリース管理リリース管理とは テストを経て稼働環境への導入を成功させるために 正しいバージョンのソフトウェア及びハードウェアを確実に提供する管理のことです 5

2 ITIL のフレームワーク サービスデリバリサービスデリバリでは 業務を実施するために利用者が必要とするITサービスの内容と サービスを提供するために必要な管理事項が記述されています サービスレベル管理サービルレベル管理とは 提供されるべきITサービスの種類と品質に関して 提供者と利用者が明確な合意をサービスレベルアグリーメント (SLA) を通して行なうとともに これを維持することを達成目標として管理することをいいます 具体的な実現方法として 組織は 利用者の満足度を向上するために 利用者のニーズの把握とそれに基づくサービスを実施することがあげられます ITサービス財務管理 ITサービス財務管理とは ITインフラストラクチャやITサービスに関わるコストと利益を正しく把握し 予算管理と会計に結びつける管理のことです キャパシティ管理キャパシティ管理とは サービスレベル管理で設定された利用者との合意を実現するために ITリソースのコスト 取得時期 展開などを最適化することを目的にパフォーマンス管理 需要予測 負荷管理 アプリケーションの見直し等を行う管理のことです 可用性管理可用性管理とは 利用者と合意したITサービスの可用性を実現するために 保守の最適化やインシデント数の最小化をはかるための手段を設計し それを管理することです ITサービス継続性管理 ITサービス継続性管理とは 災害等で利用者の業務が中断された場合において ITサービスの災害復旧対策の準備と計画を行い それを管理することです 6

2 ITIL のフレームワーク ICTインフラストラクチャ管理 ICTインフラストラクチャ管理においては 安定した情報通信インフラストラクチャを提供するために必要なプロセス 組織及びツールを管理します 具体的に実施をする場合においては 設計と計画立案 展開 運用及びテクニカルサポートを行います アプリケーション管理アプリケーション管理とは 開発されたアプリケーションが適切に実装され 合意されたレベルのサービスを確実に提供することを管理します また その管理をアプリケーションの展開 運用 サポート及び最適化といった観点から行います セキュリティーマネジメントセキュリティーマネジメントとは ITインフラストラクチャを不正な利用 ( データへの不正なアクセス等 ) から守るための対策を管理します 参考文献 (1)ITIL R 入門 ( 発行者 OGC/TSO ISBN コート 0-11-331036-6) 7

3 IT サービスマネジメントの全体像 ここでのテーマと課題 ITIL を構成する各フレーム間は ビジネス と テクノロジー ( 技術 ) をつなぐために 組織内での情報システムサービスの提供 に必要な全ての要素が広範に網羅されています また 各フレームワ ーク間の主要なインターフェースも含まれています ここでは その概要を確認します 解説 ITILでは 下図に示す各管理領域ごとに 最終目標 必要性 責任 主な検討事項 導入による利点 導入時に起こり得る問題 などが簡潔にまとめられています 8

4 サービスマネジメントの利点と必要事項 ここでのテーマと課題 ITIL を活用したサービスマネジメントについて その影響と活用 をしていく上での必要事項について解説します 解説 まずは サービスマネジメントがどのような場所へ影響を及ぼしていくかについて 4つほどあげていきます その1. 業務に与える影響 ITプロセスがビジネス プロセスを確実に支えることによって 業務運営の品質が全体的に改善される インシデント管理 変更管理等のプロセスやサービスデスクによって より信頼性の高い業務に対する支援が 利用者に提供される 業務を担当する人 ( 部署 ) は ITに何を期待するべきか そして期待したことを確実に提供してもらうために自分たちに何が期待されているか理解できるようになる 信頼性及び可用性のより高いITサービスの提供を受けることにより 利用者の業務及び業務担当者の生産性が高まる ITサービスの継続性の手順が業務ニーズにより設定されるようになるとともに 実際に必要な場面では手順に従って実施することが可能になり 安心感が増す ITサービスを利用する業務部署や業務担当者と提供側との間の業務関係が明確に定義され 関係が改善される ITサービスに対して期待されている内容を ITサービスを提供する側が把握して提供するため 利用者の満足度が高まる ITサポートに関する理解が深まることで ITサービスを利用した業務の柔軟な改善や改良が可能になる 9

4 サービスマネジメントの利点と必要事項 その 2. 財務に与える影響 ITインフラストラクチャ及びITサービスのコストが明確になり 予算管理 会計につなげることができる サービスマネジメント プロセスの全てにおいて 導入の際 以下のような長期的な財務利益をもたらす インシデントの原因を識別することによって 障害の再発を防ぐことができる 変更を実装する際のコストが削減され 事業へのインパクトも最小になる サービスが過剰に設計されるのではなく 要求される可用性の目標を満たすように設計される コンポーネントが不要になった時点で ハードウェア及びソフトウェアの両方の保守契約が解約される 適切な容量が 必要とされる前に提供される サービスを継続するに当たっての支出が適正になる その 3. 職員に与える影響 ITサービスを担当する職員( 主にITILのフレームワークのなかでのサービスサポートとサービスデリバリ部分を担当する職員のこと 情報システム部門の職員がそれにあたることが多い ) は 自らに何が期待されているかを理解し その期待を確実にするための活動を行い 教育 訓練を受けるようになる ITサービスを担当する職員の生産性が高まる ITサービスを担当する職員への期待をより適切に把握することで 職務への満足が高まる IT 部門の状況が 庁内にわかりやすくなり ITサービスを担当する職員の業務への理解が庁内で高まる 10

4 サービスマネジメントの利点と必要事項 その 4. 組織に与える影響 ITサービスの実施状況の測定基準及び管理報告方法が改善される 現在のITサービスの中で 何を変更すると最も効果が表れるかについて より詳しい情報を得ることができる ITサービスを提供する側のコミュニケーション及びチーム間の作業が改善されるとともに 役割及び責任が明確に定義される 現在のITサービスにおける システムや人などのキャパシテイ能力 ( 限界値 許容量 ) が明確になる ( 例えば システムの一定時間内の処理限界値 操作者の一日に処理できるデータ入力数の限界など ) ITサービスにおける様々な要因に対する変化に対しての対応の柔軟性及び順応性が高まる 変化する外部要因や技術的なトレンドを認識し 新しい要件や市場の発展に素早く適合する能力 ( 競争力 ) が高まる 11

4 サービスマネジメントの利点と必要事項 次に サービスマネジメントを活用する上で必要となる点について 5つほど述べていきます ポイント1. 活動目的の明確化が必要プロセス改善では ITILに準拠すること自体を目的としてしまい 本来の目的であるシステム運用品質の向上に対する意識が希薄になるおそれがあります ITILでは 世界中の多くの組織の成功事例をもとにしたベストプラクティス集ですが 必ずしもそれがどの組織にもあてはまるとは限りません 例えば ITILではITサービスを利用する利用者からの問い合わせや依頼の全ての窓口を 統一したサービスデスクに求めています しかし多くの場合 機能ごとに窓口を複数設けているのが一般的になっています この場合 ITILに合わせ 全ての窓口を一本化することが望ましいわけではありません 複数窓口があることによるユーザの煩雑性を解消すること及び窓口に依存しない均一なサービスを提供することを目的とし 現状にあった体制を整えることに重きをおきます 重要なのは形式の上でITILに準拠するのではなく ITILの理念を取り入れ 組織にとっての最適な解決策を見出し システム運用品質を向上させることです ポイント2. 段階的な改善計画の立案が必要 ITILでは サービスサポートとサービスデリバリを合わせ 多数の管理領域が規定されています コストやリソースの制約 組織間の調整などを考慮すると これらの領域を一度に改善することは非常に困難です したがって 具体的な改善計画の策定をする場合には 短期 中期 長期 といった時間的スパンに区分し 課題の重要性 緊急性に応じた優先度を設定することが求められます 段階的な改善計画は 全体を網羅した計画に比べて 比較的短期間の中でまず第一歩目の効果を生み出すことができ ITサービスを提供する職員のモチベーション向上にもつながります 12

4 サービスマネジメントの利点と必要事項 ポイント3. システム企画 開発部門の参画が必要システム運用品質改善プロセスの多くについては システム運用部門内に閉じたものではなく システム企画部門やシステム開発部門と適切に連携することが必要となります 例えば アプリケーションの変更では システム開発部門が変更要求者となり サービスデリバリでは IT 投資を掌握するシステム企画部門との連携を必要とします したがって改善プロジェクトの体制には システム企画部門並びにシステム開発部門をあらかじめ組み込み 多角的な視点から改善を図ることが求められます ポイント4. 評価指標の設定が必要プロセス改善により トラブル数の激減や 運用コストの削減といった最終的な成果を生み出すまでには 短くても年単位の期間を要します これらの最終的な成果は 日常業務上での小さな成果の積み重なりであり それは徐々に上位レベルの成果に波及することによって達成されるものです プロセスの継続的な改善を図るには この最終的な結果にたどり着くまでの成果の波及構造を予め体系化し 下位から上位に至る様々な成果の評価指標を設定し 継続的に監視していくことが重要となります ポイント5. 担当者の意識改革が必要 ITILを活用した改善活動において システム運用担当者の意識改革が最も重要なポイントとなります 言い換えれば ITILは システム運用部門の意識改革プログラムであると言ってもよいくらいです 現状の運用品質水準の評価やプロセス改善案の策定は 外部のコンサルタントを活用しても実施可能でしょうが 最後は新プロセスを実行する運用を担当する職員一人一人がITサービス提供者としての責任と自負心を持って 確実に取り組めるかどうかがポイントとなります 担当する職員の意識改革を図るには 品質改善に対する幹部の強い意志の表明や 担当者間の自主的な取り組みを促進するための勉強会の開催 メンバー参加型の改善プロジェクト体制の構築など トップダウンとボトムアップの両側面から対応を行う必要があります 13

5 ITIL を活用した継続的な運用改善 ここでのテーマと課題 ITILを活用してシステム運用品質の維持 向上を実現するためには 単発的に対応を行っていくのでは不十分です 継続的な改善を行っていくためには PDCAサイクルを確立することが求められます ここでは 継続的な改善のPDCAサイクルを確立する上での 構築のための7つのステップについて解説します 解説 ステップ1. 達成目標の設定事業ビジョンや事業ビジョンと整合したITビジョンを策定し ITサービス品質の重要性や 改善活動の目的を明確にします これを組織内で共通認識し 運用管理者 担当者の意識を高めます ステップ2. 現状水準の評価現状のITサービスの成熟度レベルについて 達成水準を把握し 課題の抽出や根本原因の分析を行います 現状のITサービスの成熟度評価にあたっては 英国商務局 (OGC) から提供されているアセスメントツールを活用することができます ステップ3. サービス水準達成目標の設定利用者をはじめとした関係者が期待するサービス水準を把握し 現状とのギャップを踏まえた上で 具体的なサービス水準の達成目標を設定します 達成目標は 課題の重要性 緊急性に基づく優先度や 人 投資などのリソース上の制約事項を考慮した上で 実現可能なレベル設定を行います 14

5 ITIL を活用した継続的な運用改善 ステップ4. プロセスの改善具体的なプロセスの改善は 以下の3つの観点から検討します 1プロセス属人化 曖昧化しているプロセスを プロセス定義書やプロセスフロー図等を用いて可視化します その際に プロセス間の連携やプロセスの開始条件 終了条件を明確にすることがポイントとなります また プロセスを適切に監視し 管理するための数値指標も設定します 2ヒト 組織多くの組織では ホスト ネットワークといったシステムの構成要素ごとに 縦割りの運用組織構成となっていますが プロセスは複数組織を跨ぐ横断的な活動です したがって 組織横断的な観点からプロセスを管理 統制するプロセスマネージャの配置が求められます プロセスマネージャは 組織の枠を超えた立場で プロセスの進捗や品質の状況を管理するとともに 必要に応じて複数組織が参画する会議体を運営します 3 管理ツール 情報管理現在 システムの構成要素ごとに個別管理されている機器の障害情報等を できるだけ一元的なデータベースで統合管理します ステップ5. 定着化定義したプロセスを確実に実行し 改善の成果を手に入れるためには ITサービスを提供する職員一人一人に ITILの理念を理解させ 新しいプロセスを定着化させることが必要です 新しいプロセスでは マネジメントの強化を図るため 個々人に対して一時的にではありますが従来以上の業務負荷を強いることになります 改善目標が正確に理解されていないと 運用担当者からの反発が予想され 改善活動は絵に描いた餅になってしまいます 15

5 ITIL を活用した継続的な運用改善 ステップ6 改善結果の測定改善の実施から一定期間をおいた後 プロセス成熟度レベルを再度測定し 改善活動の有効性 妥当性を評価します ステップ7 対策目標未達成の領域については その完遂に向けた適切な対策を施し 次の改善サイクルへと結びつけます 16

5 ITIL を活用した継続的な運用改善 システム運用の改善サイクル ステップ 1 達成目標の設定 システム運用の重要性認識と目標の明確化 Act Plan 継続的な改善サイクル Check Do P L A N ステップ 2 現状水準の評価 ステップ 3 サービス水準達成目標の設定 成熟度アセスメント課題分析 ステークホルダーのニーズニーズとのギャップ分析優先度制約事項 A C T 対策 ステップ 7 D O ステップ 4 プロセスの改善 ステップ 5 定着化 プロセスの定義コントロール機能 有効性の測定基準意識改革 C H E C K ステップ 6 改善結果の測定 Plan 成熟度アセスメント目標とのギャップ分析 17

( 補足資料 ) ITIL の用語 ITILに関連する基本的用語をご説明します ITIL(Information Technology Infrastructure Library) ITサービスマネジメントのベストプラクティス ( 優れていると考えられている事例やプロセス ノウハウなど ) を集めたフレームワークです 1980 年後半に英国の政府機関が作成 文書化をしたもので IT 運用における実際の知識 ノウハウが集約されています いうなれば 企業のシステム運用部門が実施すべき業務手順 人材 体制 採用技術の選定と実装方法などについてまとめたガイドラインです 現在ではITサービスマネジメントにおける事実上の運用管理標準となっています itsmf(itサービスマネジメントフォーラム ) 1980 年代後半に 英国の政府機関が作成 文書化をした 情報システムの運用管理基準 ITIL の普及促進を目的として設立された非営利団体(NPO) です 現在 itsmfは欧米を中心に全世界で活動を展開しており 日本ではitSMF Japanが アジアで最初のitSMFとして2003 年 5 月に設立され活動を開始しています ITサービスマネジメント ITサービスマネジメントとは 企業や組織における業務要件に合致したITサービス提供およびサポートを 効率的に行うことを指します ITのライフサイクル ( 企画から構築 導入 運用まで ) の全てが対象となります インシデントインシデントとはITサービスマネジメントにおいて サービスの品質を低下させること若しくは低下させるおそれのあるすべてのイベント ( 事象 ) をさします インシデントの例としては アプリケーションを使用できなくなった ハードウェアが故障した 印刷ができなくなった等があげられます 18

( 補足資料 ) ITIL の用語 サービスサポートサービスサポートとは 日々のシステム運用管理業務に関わる部分を指し サービスデスク という問い合わせ窓口機能と インシデント管理 問題管理 構成管理 変更管理 並びに リリース管理 という運用業務プロセスから構成されています サービスデスクサービスデスクとは ユーザからの問い合わせ窓口を提供する機能です システムトラブルに関する問い合わせや運用変更などに関する受付を行います サービスデスクのみで回答を行う場合もあれば 必要に応じて 担当者 専門 SE 又はハードウェア若しくはソフトウェアベンダーなどにエスカレーションし 迅速な回答 報告を目指します サービスデリバリサービスデリバリとは ITサービスをより高い投資対効果で実現するための計画や改善のことを指し サービスレベル管理 ITサービス財務管理 キャパシティ管理 可用性管理 並びに ITサービス継続性管理 というプロセスから構成されます 問題 ITILにおける問題とは インシデントを引き起こすが その内容が判明していない根本的な原因を指します インシデント管理と問題管理の違いの例としては 障害発生時において 少しでも早くサービスを復旧させるための一時対策が インシデント管理 であり その後問題の原因を追求して 次回に同様の問題が発生しないようにするための恒久対策を 問題管理 とこの二つを分類できます 19