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いためにその形成メカニズムに関する解析が十分に行われておらず 有効な汚染防止法の研究が進んでいるとは言い難い 2. 研究の目的本研究では デンタルユニット給水系の汚染防止法の開発ツールとしての in vitro での汚染シミュレーションモデルを確立することを目的とした すなわち まず 臨床で使用されているデンタルユニットを対象に バイオフィルム形成に関与する細菌を分離 同定する 各細菌に関し 給水チューブへの付着性について検討後 これらの細菌を混合培養して in vitro モデルの作成を試みる さらにこの in vitro モデルをもとにバイオフィルム形成に関与する遺伝子の解析を行う 3. 研究の方法 (1) 実際に診療室で使用されているデンタルユニットより水サンプルとバイオフィルムサンプルを採取した 滅菌蒸留水 ( 大塚製薬 東京 ) を用いて採取したサンプルを希釈し R2A 寒天平板培地 (Becton Dickinson, New Jersey, USA) に播種し 25 7 日間の好気培養を行った 培養後 形成された優勢なコロニーを単離培養して グラム染色後 カタラーゼ オキシダーゼおよび糖発酵反応を調べるとともに グラム陰性桿菌同定キット (ID テスト NF-18, 日本製薬 東京 ) を用いて 生化学性状により細菌種の同定を行った (2)(1) において優勢な菌であると判定された S. paucimobilis, M. mesophilicum, A. haemolyticus について 各細菌の給水チューブとして使用されているウレタンチューブへの付着性について検討した S. paucimobilis, M. mesophilicum, A. haemolyticus を 25 で 72 時間培養して それぞれ 3.0 10 8 CFU/ml 3.0 10 6 CFU/ml 3.0 10 8 CFU/ml の濃度に増菌し R2A 液体培地 (Becton Dickinson) を用いて 各培養原液を 10 倍段階希釈した菌液 10ml を調整し ウレタンチューブを浸漬して 25 で 24 時間の静置培養を行った 培養終了後にチューブを取り出して縦断し チューブ内面を走査型電子顕微鏡 (SEM, JSM-5310LV, 日本電子 東京 ) にて観察し 細菌種ごとのチューブへの付着性を評価した (3) 同定された細菌の混合懸濁液中にウレタンチューブを浸漬し 静置 振盪 培養時間混合比率などの各種の条件下で培養後 チューブ内面の走査型電子顕微鏡観察を行い 臨床でのバイオフィルム像に近い培養条件を 検索した (4) バイオフィルムの菌体外多糖の形成に関与する遺伝子として glycosyltransferase が知られているが 同定された各細菌に関して塩基配列をもとにプライマーを作成し glycosyltransferase の有無に関して調べた 4. 研究成果 (1) デンタルユニット給水系バイオフィルム形成の原因菌として 口腔内細菌は全く検出されず Sphingomonas paucimobilis, Methylobacterium mesophilicum, Acinetobacter haemolyticus の三種の従属栄養菌が検出された これらの細菌はいずれも上水道由来の毒性の弱い細菌であり また 過去のいくつかの論文でも同様に検出されたとの報告がある ただし 従属栄養菌であっても易感染性宿主にとっては日和見感染の原因になる可能性があり 例えば S. paucimobilis は髄膜炎 敗血症 菌血症 腹膜炎において検出されたとの報告があるため これらの細菌を減少させることは易感染性宿主に対する日和見感染のリスクを低下させるという意味で意義があると思われる (2) 細菌種毎のウレタンチューブへの付着性を調べた結果 桿菌である S. paucimobilis と A. haemolyticus の場合 菌体が凝集して多量に付着している様子が観察された ( 図 1a,c) また 糸状菌である M. mesophilicum でも桿菌よりも付着量は少ないものの 数個の菌体が凝集して付着していた ( 図 1b) (3) 図 2a c に三種の菌の混合懸濁液中にウレタンチューブを浸漬して 24 48,96 時間培養後の内面の SEM 観察像を示す 培養 24 時間後には 主に桿菌が凝集して多量に付着する様子が観察され ( 図 2a) この状態は 48 時間後も同様であった ( 図 2b) しかし 96 時間培養後には桿菌層の上に糸状菌の付着が認められ ( 図 2c) 臨床でのバイオフィルム像 ( 図 3) と類似した観察像が得られた したがって S.paucimobilis, M.mesophilicum, A. haemolyticus をそれぞれ 18:1:1 の比率で混合した菌液を用い 静置下にて 25 96 時間の好気培養を行うと臨床像に類似したバイオフィルムを再現できることが分かり デンタルユニット給水系の in vitro バイオフィルムモデルを確立することに成功した ( 図 2c) また この in vitro バイオフィルムモデルの経時的な走査型顕微鏡観察の結果より デンタルユニット給水系のバイオフィルムは 桿菌がはじめにチューブ内面に付着して層をつくることがわかり 桿菌の初期付着 凝集に続き それを足場として糸状菌の付着が起こるという

プロセスであることが明らかとなった ( 図 4) (4)S.paucimobilis, M.mesophilicum, A. haemolyticus からは glycosyltransferase は認められず デンタルユニット給水系バイフィルムへの glycosyltransferase の関与は明かとはならなかった (5) これまでのデンタルユニット給水系の汚染防止対策法の効果判定は実際の臨床使用により行われているため 多大な時間と労力を要し 様々な方法や条件を検討するうえでは非能率的である 今回 確立した in vitro モデルは 臨床使用の代替として利用できる世界初の給水チューブバイオフィルムモデルであり これによって 汚染防止法の開発を加速度的に促進することが可能となるものと期待される 図 1a S. paicimobilis のウレタンチューブへの付着 (2000 倍像 ) 図 1b M. mesophilicum のウレタンチューブへの付着 (2000 倍像 ) 図 1c A. haemolyticus のウレタンチューブへの付着 (2000 倍像

図 2a 3 種の細菌の混合懸濁液中で 24 時間培養後のチューブ内面 図 3 臨床で使用した給水系チューブの内面 図 2b 3 種の細菌の混合懸濁液中で 48 時間培養後のチューブ内面 ステージ 1: 桿菌が初期付着 ステージ 2: 桿菌が凝集 図 2c 3 種の細菌の混合懸濁液中で 96 時間培養後のチューブ内面 ステージ 3: 桿菌層上に糸状菌が付着図 4 デンタルユニット給水系バイオフィルムの形成プロセス

5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 2 件 ) 1 Yabune T, Imazato S, and Shigeyuki Ebisu. Assessment of Inhibitory Effects of Fluoride-Coated Tubes on Biofilm Formation by using the In Vitro Dental Unit Waterline Biofilm Model. Applied and Environmental Microbiology. 74. 5958-5964. 2008. 査読有り 2 今里聡 薮根敏晃 恵比須繁之. デンタルユニット給水系の汚染とその防止 チューブ内面でのバイオフィルム形成とフッ素コートチューブの汚染防止効果. 日本歯科医師会雑誌. 第 61 巻.15-22.2008. 査読無し. 学会発表 ( 計 1 件 ) 1 Yabune T, Imazato S, and Ebisu S. Establishment of in vitro DUWLs biofilm model and assessment of inhibitory effects of fluoride-coating tube on biofilm formation. International Dental Materials Congress 2007. 2007/11/24. Bangkok. 6. 研究組織 (1) 研究代表者薮根敏晃 (YABUNE TOSHIAKI) 大阪大学 大学院歯学研究科 助教研究者番号 :90423144 (2) 研究分担者 ( ) 研究者番号 : (3) 連携研究者 ( ) 研究者番号 :