産業組織論 ( 企業経済論 ) 第 6 回 井上智弘 2010/5/19 産業組織論第 6 回 1
完全競争市場の条件 前回の復習 1. 取引される財 サービスが同質的である. 2. 消費者と企業の数が十分に多く, 誰も価格に影響力を及ぼせない. 3. 情報が完全である. 4. 市場への参入と市場からの退出が自由である. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 2
代替財と補完財 : 前回の復習» 財 A の価格が上昇 ( 低下 ) するときに, 財 B の需要が増加 ( 減少 ) すれば,A と B は代替財の関係にある.» 財 C の価格が上昇 ( 低下 ) するときに, 財 D の需要が減少 ( 増加 ) すれば,C と D は補完財の関係にある. 正常財 ( 上級財 ) と劣等財 ( 下級財 )» 所得が増加するときに需要が増加する財は正常財であり, 所得が増加するときに需要が減少する財は劣等財である. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 3
左シフト 価格 P 代替財の価格低下, 補完財の価格上昇, 正常財の場合の所得減少などによる需要の減少 前回の復習 右シフト 代替財の価格上昇, 補完財の価格低下, 正常財の場合の所得増加などによる需要の増加 数量 Q 2010/5/19 産業組織論第 6 回 4
前回の復習 需要量が左辺にある需要関数を価格が左辺にある関数に変換することによってできる関数を 逆需要関数 と呼ぶ.» 価格を P, 数量を Q とするとき, 需要関数が Q = 10 - (1/2)P の場合には, 逆需要関数は P = 20-2Q となる. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 5
前回の復習 需要の価格弾力性は, 価格が 1% 上昇するときに需要量がどれだけ変化するかを表す. 需要の価格弾力性 ( ε ) = 需要量の変化率 = 需要量の変化率価格の変化率 Q Q P P = P Q P Q = P Q dp dq 価格の変化率 2010/5/19 産業組織論第 6 回 6
練習問題 逆需要関数が P = 10-2Q で表されるとき,P = 8 のときと P = 2 のときの需要の価格弾力性を求めよ. P = 10 - Q で表される逆需要関数と P = 7 - (1/2)Q で表される逆需要関数の交点は,P = 4, Q = 6 である. この点での両方の逆需要関数における需要の価格弾力性を求めよ. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 7
ミクロ経済学の復習» 企業の生産費用» 企業の利潤最大化行動» 余剰» 完全競争市場の効率性 本日の内容 2010/5/19 産業組織論第 6 回 8
企業の生産費用 企業がある財を生産するのに必要とするすべての費用を総費用という. 総費用 (C) は, 固定費用 (fixed cost, FC) と可変費用 (variable cost: VC) に分けることができる. C = FC + VC 固定費用 : 生産量に関係なくかかる費用 可変費用 : 生産量の増減に応じて変動する費用 2010/5/19 産業組織論第 6 回 9
企業の生産費用 何が固定費用になるかは時間の取り方で異なる.» 機械, 設備, 工場などにかかる費用は短期的には固定費用と考えられるが, 長期的には固定設備や工場を新たに設置することも売買することもできるため, 時間を長く取るほど, 固定費用の多くは可変費用になる.» 固定費用が存在するような期間を短期, 固定費用が存在しなくなるほどの期間を長期という. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 10
企業の生産費用 限界費用 (marginal cost: MC)» 追加的に生産物を1 単位生産するのにかかる費用. dc» 総費用 C, 生産量 q のとき, MC = となる. 平均費用 (average cost: AC)» 生産量 1 単位当たりの総費用.» C AC = となる. q 平均可変費用 (average variable cost: AVC)» 生産量 1 単位当たりの可変費用.» AVC = VC となる. q dq 2010/5/19 産業組織論第 6 回 11
企業の生産費用 典型的な短期の総費用曲線 (C)» 平均費用 (AC) は, 原点と総費用曲線上の点を結んだ線の傾きで表される. 生産量が q 1 までは AC は逓減し, 生産量が q 1 を超えると AC は逓増する. AC は q 1 で最小になり, そのとき,AC=MC となる. 生産量が q 1 よりも小さいときは AC>MC であり,q 1 よりも大きいときは AC<MC となる. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 12
C C 総費用曲線の傾き = MC A FC AC O q 1 2010/5/19 産業組織論第 6 回 13 q
企業の生産費用» 平均可変費用 (AVC) は,q = 0 のときの総費用曲線の点 (=FC の値 ) と総費用曲線上の点を結んだ線の傾きとなる. 生産量が q 2 までは AVC は逓減し, 生産量が q 2 を超えると AVC は逓増する. AVC は q 2 で最小になり, そのとき,AVC=MC となる. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 14
C C 総費用曲線の傾き = MC D B A AVC FC AC O q 3 q 2 q 1 2010/5/19 産業組織論第 6 回 15 q
P, AC, AVC, MC MC AC AVC O q 2 q 1 q 3 2010/5/19 産業組織論第 6 回 16 q
特殊なケース 企業の生産費用» 平均費用一定 ( 左図 ) と平均費用逓減 ( 右図 ) AC, MC FC=0 で MC が一定 AC, MC AC が逓減し続ける AC=MC AC O q 2010/5/19 産業組織論第 6 回 17 O MC q
練習問題 総費用関数が C = q 3-30q 2 + 400q + 4000 で表されるとする (q: 生産量 ). 1 固定費用 (FC) を求めよ. 2 可変費用 (VC) を求めよ. 3 平均費用 (AC) を求めよ. 4 平均可変費用 (AVC) を求めよ. 5 限界費用 (MC) を求めよ. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 18
企業の利潤最大化行動 企業は利潤を最大にするように生産量を決定する. 利潤 = 収入 - 総費用 = 価格 生産量 - 総費用 π = R - C = P q - C 2010/5/19 産業組織論第 6 回 19
企業の利潤最大化行動 完全競争市場では個々の企業の生産量が市場に与える影響は無視できるため, 個々の企業は所与の市場価格で生産量を決定する. 企業の生産量の変化は価格を変化させない.» 生産量を追加的に1 単位増やすときの収入 (= 限界収入 (marginal revenue: MR)) は価格である. 限界収入 (MR)= 価格 (P) 2010/5/19 産業組織論第 6 回 20
企業の利潤最大化行動 生産量を追加的に1 単位増やすときの費用は限界費用 (MC) である. P>MC のときには, 生産量を増やすことで利潤は増加する (P - MC>0). P<MC のときには, 生産量を減らすことで利潤は増加する (P - MC<0). P=MC のときの生産量が利潤を最大にする. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 21
企業の利潤最大化行動 利潤最大化の条件は, 微分を使って求めることができる. 利潤関数 (π) を生産量 (q) で微分すると, dπ ( 0 ) dc dc = P 1 q = P dq dq dq 利潤が最大になる生産量では微分した式 =0となる. dπ dc dc = P = 0 P = dq dq dq 価格 限界費用 2010/5/19 産業組織論第 6 回 22
企業の利潤最大化行動 完全競争市場では, 企業は価格と限界費用が等しくなるように生産量を決定する. 限界費用曲線が供給曲線となる. ただし, 限界費用曲線のすべてが供給曲線となるわけではない.» 財の価格が低ければ, 生産をやめてしまうということもある. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 23
企業の利潤最大化行動 企業はどのような状況になれば生産活動をやめるのか. 利潤がゼロとなるのは P=AC となる点 A.» π= P q - C = P q - AC q = (P - AC) q» この点を損益分岐点という.» P = MC より, この点では,AC = MC となる.» 価格が損益分岐点の価格 (P 1 ) よりも高ければ, 企業は生産活動を行うことによって正の利潤を得る. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 24
企業の利潤最大化行動 P, AC, AVC, MC MC 損益分岐点 P 1 A AC AVC P 2 B O q 2 q 1 q 2010/5/19 産業組織論第 6 回 25
企業の利潤最大化行動 短期的には, 価格が損益分岐点の価格 (P 1 ) より低下するだけでは, 生産活動をやめることはない. 価格が平均可変費用以上である限り (P AVC), 生産活動を続ける.» 生産活動をやめると固定費用分の赤字が生じるが, 生産活動を続けると可変費用のすべてと固定費用の一部を回収することができるため, 生産し続けることで赤字が小さくなる. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 26
企業の利潤最大化行動 価格と平均可変費用が等しくなる点を操業停止点という. P = MC より, この点では,AVC = MC となる. 価格が操業停止点の価格 (P 2 ) よりも低くなると, 企業は生産活動をやめる. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 27
企業の利潤最大化行動 短期の供給曲線は,MC 曲線のうち,AVC 曲線よりも上の部分である ( 点 Bから上の部分 ). P, AC, AVC, MC MC 損益分岐点 P 1 P 2 O AC A AVC B 操業停止点 q 2 q 1 2010/5/19 産業組織論第 6 回 28 q
企業の利潤最大化行動 個別企業の供給曲線は, 限界費用曲線のうち, 限界費用が平均可変費用よりも高くなる部分となる. 個別企業の供給量の合計が市場全体の供給量になるため, 市場の供給曲線は個別企業の供給曲線を水平に合計したものになる. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 29
企業の利潤最大化行動 P S 1 S 2 市場供給曲線 O q 1 q 2 q 1 +q 2 Q 2010/5/19 産業組織論第 6 回 30
練習問題 企業の短期総費用関数が C = q 3-30q 2 + 400q + 4000 で表されるとする (q: 生産量 ). このときの操業停止点の価格を求めよ. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 31
企業の利潤最大化行動 長期的には固定費用がなくなるため, 総費用曲線は原点を通る. 長期的な平均費用が U 字型であれば, 平均費用が最小となる点を限界費用曲線が通る.» この点が, 損益分岐点である. 長期的な価格が損益分岐点の価格を上回れば, 企業はこの市場に参入する. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 32
企業の利潤最大化行動 長期的には固定費用はないが, すでに市場に参入している企業はサンク コストを負っている.» サンク コスト ( 埋没費用 ) とは, すでに投下された費用のうち, 事業から退出するときに回収が不可能な費用. サンク コストは市場から退出しても回収できないため, サンク コストを上回る赤字が出ない限り, 企業は市場から退出しない.» 収入 総費用 - サンク コスト となる限り, 企業は市場から退出しない. 2010/5/19 産業組織論第 6 回 33