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小脳 cerebellum 小脳皮質 ( 灰白質 ) 髄質 ( 白質 ) 小脳核 3 小脳の構造小脳回 folium: 横走する多数の小脳溝 小葉 lobule: 小脳回の集まり (10 葉 ) 小脳の区分 5 つの深い裂による区分が基本 第一裂 primary fissure 後上裂 posterior superior fissure 水平裂 horizontal fissure 錐体前裂 prepyramidal fissure 後外側裂 posterolateral fissure 片葉小節葉 flocculonodular lobe と小脳体を分ける 小脳体 corpus cerebelli 前後の区分前葉 anterior lobe(1-5 葉 ) 後葉 posterior lobe(6-9 葉 ) 第一裂で分けられる 内外側の区分 虫部 vermis 半球 hemisphere 中間部 intermediate part 外側部 lateral part

系統発生学的分類 原小脳 archicerebellum : 片葉小節葉 前庭神経からの入力を受ける 前庭小脳 vestibulocerebellum 魚類 両生類の小脳のほとんどを占める 4 古小脳 paleocerebellum: 虫部 主に脊髄からの入力を受ける 脊髄小脳 spinocerebellum 鳥類 哺乳類でよく発達 新小脳 neocerebellum: 半球 大脳皮質からの入力を受ける 大脳小脳 cerebrocerebellum 霊長類 特にヒトで発達

小脳核 内側核 medial nucleus( 室頂核 fastigial nucleus) 虫部に対応 主に体幹の運動に関係 中位核 interposate nucleus 球状核 globose nucleus 栓状核 emboliform nucleus 中間部に対応 主に四肢の運動に関係 5 外側核 lateral nucleus( 歯状核 dentate nucleus) 半球部に対応 主に四肢の運動 小脳脚 上小脳脚 superior cerebellar peduncle 主に小脳核から脳幹および視床へ向かう遠心性線維 中小脳脚 middle cerebellar peduncle 大脳皮質から橋核を介して主として小脳半球部へ向かう求心性線維 下小脳脚 inferior cerebellar peduncle 脳幹と脊髄から主として小脳虫部および中間部へ向かう求心性線維

小脳と他の中枢神経系との連絡 入力系 前庭系 ( 前庭器官からの一次求心性線維や前庭神経核 ) からの入力原小脳 ( 片葉小節葉 ) へ 6 脊髄系 ( 脊髄小脳路 脳幹の諸核を介して ) からの入力 古小脳 ( 虫部 中間部 ) へ 体部位局在性 下肢領域 : 前葉吻側部上肢領域 : 前葉尾側部 大脳皮質系 ( 脳幹の諸核を介して ) からの入力新小脳 ( 半球部 ) へ 小脳への投射がみられる領域 : 頭頂連合野 (5 野 ) 一次運動野 (4 野 ) 運動前野 (6 野 ) 前頭連合野 (9 10 野 ) 体部位局在性 下肢領域 : 前葉吻側部上肢領域 : 前葉尾側部後葉半球部 運動前野 前頭連合野からの投射 霊長類などで見られる手の運動機能の発達に伴う

小脳と他の中枢神経系との連絡 出力系 前庭系の出力 片葉小節葉前庭神経核 外眼筋運動ニューロン脊髄運動ニューロン 7 頭の動きと眼球の動き 体の平衡との協調 脊髄系の出力 虫部内側核橋 延髄網様体脊髄 外側前庭神経核 ( ダイテルス核 ) 体の平衡や姿勢の維持にかかわり 反射的要素の多い運動を調節 中間部中位核大細胞性赤核 視床腹外側核 脊髄 脊髄 運動野 前頭連合野 大脳の運動性皮質と関連して 四肢の運動の細やかな調整 大脳皮質系の出力 半球部外側核視床腹外側核 背内側核 皮質運動野 前頭連合野 小細胞性赤核下オリーブ核小脳外側核 効率的で滑らかな すばやい運動とそれに見合う姿勢の調整

小脳の 3 つの領域はそれぞれ異なる入力元と異なる出力先をもつ 前庭小脳 8 前庭小脳 : 前庭系 脊髄小脳 : 脊髄系 脊髄小脳 大脳小脳 : 大脳皮質系 大脳小脳

小脳の神経回路網 小脳皮質 層構造 3層 分子層 プルキンエ細胞層 顆粒 (細胞) 層 9

小脳皮質の細胞 分子層 : バスケット細胞 basket cell(gaba 作動性 ) 星状細胞 stellate cell(gaba 作動性 ) プルキンエ細胞層 : プルキンエ細胞 Purkinje cell(gaba 作動性 ) 10 顆粒細胞層 : 顆粒細胞 granule cell( グルタミン酸作動性 ) ゴルジ細胞 Golgi cell(gaba 作動性 ) ルガロ細胞 Lugaro cell(gaba 作動性 ) プルキンエ細胞 Purkinje cell 正面から見た図 側面から見た図

小脳への入力線維 小脳皮質内の神経回路 11 苔状線維 mossy fiber 起始核 : 脊髄 脳幹網様体 前庭神経核 橋核など上 中 下小脳脚を通る顆粒細胞 ゴルジ細胞に終末 登上線維 climbing fiber 起始核 : 下オリーブ核下小脳脚を通るすべての抑制性細胞 ( 特にプルキンエ細胞 ) 小脳からの出力 プルキンエ細胞(GABA 作動性細胞 ) 小脳皮質唯一の出力細胞 ( 小脳核細胞 前庭神経核などへ )

プルキンエ細胞への興奮性入力 12 平行線維入力 苔状線維 顆粒細胞 プルキンエ細胞 平行線維 parallel fiber 顆粒細胞からプルキンエ細胞への投射線維 樹状突起の先端部で終止 1 個のプルキンエ細胞に平均約 1800 個の顆粒細胞が入力 登上線維入力 登上線維 プルキンエ細胞 樹状突起にまつわりつくように終止し 強い興奮作用を与える 糸球体構造 glomerulus 1 個のプルキンエ細胞に登上線維 1 本 (1 対 1 の関係 )

プルキンエ細胞で観察される興奮性シナプス後電流 13 平行線維 平行線維入力 登上線維入力 段階的 All or none 登上線維 2 発刺激 2 発刺激 paired pulse facilitation(ppf) paired pulse depression(ppd)

登上線維の単一支配は発達とともに形成される 14 多重支配 multiple innervation 単一支配 single innervation Hashimoto and Kano, Neuron 38: 785-796, 2003 東京大学 狩野研 HP より

プルキンエ細胞の活動 15 平行線維入力によって生じる活動 単純スパイク simple spike ~ 40 Hz 登上線維入力によって生じる活動 複雑スパイク complex spike ~ 1 Hz

小脳の機能単位 前後方向にモジュール構造 : 帯域 ( ゾーン )zone 下オリーブ核の特定の領域から登上線維入力 zone はさらに微小領域マイクロゾーン microzone に分けられる 前後方向 16 プルキンエ細胞の軸索を特定の小脳核 前庭神経核へ投射 小脳皮質ー核ー複合体

小脳の機能 17 小脳の協調作用 フルーラン (1824) 小脳を切除した鳩は 飛び方がふらふらして目的地にたどり着けない 小脳がなくても動物は動くことができる 動くこと自体は筋肉とこれを支配する脊髄の働きによるもので 小脳とは直接関係ないであろう また 小脳がなくても 動物は自発的に動こうとする 従って 運動しようとする意志は小脳ではなくて おそらくは大脳半球から起こるであろう 結局 小脳がないために起こっている障害は 運動における協調の欠如である 協調 : 多くの筋を同時に 巧みに操り 身体の各部を有機的に組み合わせて運動を滑らかに遂行させること 小脳を切除 協調が失われ 運動は不器用で拙劣なものとなり 歩くにしてもよろめきながらでしか歩けなくなる

小脳失調 ( 小脳性運動失調 ) cerebellar ataxia 18 平衡障害 : 体幹歩行失調 trunk and gait ataxia 眼振 筋緊張障害 : 筋緊張低下 hypotonia 筋力低下 asthenia 運動障害 : 小脳性時間測定異常 cerebellar dyschronometry 推尺異常 dysmetria 企画振戦 intention tremor 動作の解離 decomposition 協調運動不能 asynergia 指 - 鼻テスト Finger-nose test (FN test)

小脳の機能小脳による適応制御 19 前庭動眼反射の適応 コントロール 拡大鏡装着 頭部回転 頭位 眼位 頭位 - 眼位 Boyden & Raymond, Neuron 39: 1031-1042, 2003

前庭動眼反射の神経回路 フィードフォワードのシステム うまく働くための調節系 = 小脳 前庭神経核には 前庭神経からのプラス入力とプルキンエ細胞からのマイナス入力が入っており 両者のバランスによって前庭神経核からの出力の大きさが決定され 運動ニューロンに送られる 小脳は前庭動眼反射の大きさを制御する 登上線維 : 下オリーブ核からの入力線維 網膜上の像の動きを検知 20 前庭動眼反射には出力信号をフィードバックして入出力関係を調整する回路が存在しない 顆粒細胞からプルキンエ細胞へのシナプス伝達効率を変化させる

小脳における前庭動眼反射適応の制御 21

小脳における運動学習のメカニズム 長期抑圧 long-term depression, LTD 平行線維と登上線維をほぼ同時に活性化すると 平行線維とプルキンエ細胞間のシナプス伝達効率 が一定期間低下する 22 登上線維からの入力信号 : 教師信号 平行線維の活性化の 2~300 ミリ秒以内に登上線維が活性化した場合に長期抑圧が起こりやすい

23 実行された運動の軌道や結果に関する情報は, 感覚情報として中枢神経系にフィードパックされる. このフィードパックされた感覚情報が, 意図していた感覚情報と異なる場合, 目的とするパフォーマンスを実現するためには, その誤差を修正して運動指令を書き換える 長期抑圧 視覚情報 実行された運動の結果

小脳における長期抑圧のメカニズム 24 シナプス後部における AMPA 受容体の数の減少 脳科学辞典より

ステップ 1 25 平行線維からの入力による代謝型グルタミン酸受容体 mgur1 の活性化により小胞体からカルシウムが放出 + 登上線維からの入力による脱分極により電位依存性カルシウムチャネルからカルシウムが流入 プルキンエ細胞内のカルシウム濃度が上昇し PKC が活性化 活性化された PKC は AMPA 受容体の GluA2 サブユニットの C 末細胞内領域のセリン残基 (S880) をリン酸化 AMPA 受容体はアンカータンパク質である GRIP から解離

ステップ 2 26 AMPA 受容体 側方拡散によって endocytic zone に運ばれる クラスリン依存性のエンドサイトーシスによって細胞内へ取り込まれる シナプス後部における AMPA 受容体の数の減少

デルタ 2 グルタミン酸受容体 (GluD2) の関与 27 脱リン酸化酵素 アミノ酸 876 番のチロシン (Y876) を脱リン酸化

運動学習をめぐる 2 つの仮説 28 片葉仮説 反対仮説 運動学習の際に重要であるのは小脳皮質であり プルキンエ細胞上で生じるシナプス可塑性 ( たとえば LTD) がその原因である 小脳皮質以外の神経核 ( たとえば前庭神経核 ) が運動学習には重要であって 小脳皮質はその神経核へ必要な情報を送る役割をしている 伊藤正男 小脳皮質が運動学習において主たる役割 Stephen G. Lisberger 小脳皮質が運動学習において副次的な役割 内野善生めまいと平衡調節金原出版

視運動性反応 (OKR) の適応 : 永雄らの実験 29 局所麻酔剤のリドカインを両側の片葉に微量注入しその神経活動を遮断すると その日のトレーニングによって増加した利得は消去されるが 前日までのトレーニングによって増加した利得は影響を受けなかった 前庭神経核での活動は上昇していた 永雄 北澤 Brain and Nerve 60:783-790, 2008 より

短期の運動記憶は小脳皮質に形成されるが 長期の運動記憶は前庭神経核に保持される 運動学習における記憶痕跡は 学習の時間経過に依存して移動する可能性が注目されている 30 これまで対立してきた片葉仮説とその反対仮説は 運動学習の時間経過まで考慮すると 共に支持されうる 永雄 北澤 Brain and Nerve 60:783-790, 2008 より

小脳まとめ 運動の調整と運動学習に関与 31 小脳の機能単位 : ゾーンと マイクロゾーン 小脳皮質 : 3 層構造 分子層 プルキンエ細胞層 顆粒細胞層 主なニューロン 顆粒細胞 ( 興奮性 ) プルキンエ細胞 ( 抑制性 ) 介在ニューロン群 ( 抑制性 00 ) 興奮性入力 : 登上線維と苔状線維 抑制性出力 : プルキンエ細胞 ( 登上線維 入力と平行線維 入力を受ける ) 小脳における運動学習のメカニズム 長期抑圧 平行線維と登上線維の活性化により生じる平行線維とプルキンエ細胞間のシナプス伝達効率が低下する

32 大脳基底核 Basal ganglia

大脳基底核 basal ganglia 終脳の基底部にあり 内包によって間脳から隔てられている大きな神経核群 終脳の分化に伴い線条体 (striatum) から発生原線条体 archistriatum 扁桃体 ( 辺縁系 ) 旧線条体 paleostriatum 淡蒼球 globus pallidus 33 新線条体 neostriatum 尾状核 caudate nucleus 被殻 putamen 線条体 ( 尾状核 被殻 ) 淡蒼球 ( 内節 外節 ) 視床下核黒質 ( 網様部 緻密部 )

大脳基底核の構成 34 入力部 線条体 ( 尾状核 + 被殻 ) 介在部 淡蒼球外節視床下核 調整部 黒質緻密部 出力部 淡蒼球内節 黒質網様部

基底核の構成 35 (1) 線条体 striatum 尾状核 caudate nucleus 被殻 putamen 線条体のニューロン 有棘細胞 spiny neuron 出力細胞 GABA 作動性 無棘細胞 non-spiny neuron Ⅰ 型 -- 小さい GABA 作動性 Ⅱ 型 -- 巨大細胞 ACh 作動性

線条体の構造 : コンパートメント構造 36 パッチ ( 齧歯類ではストリオソーム ) マトリックス ラット線条体 パッチは発生学的に早く生まれ ドーパミン入力を受けながら出現してくるのでドーパミンアイランドとも呼ばれるが マトリックスはその後に発生し結果的に線条体全体の85% 程度を占めるようになる 脳科学辞典より 緑蛍光 : ストリオソーム 無蛍光 : マトリックス MOR: μ オピオイド受容体 パッチ( ストリオソーム ) オピオイド受容体が濃密に分布 マトリックスアセチルコリンエステラーゼカルビンディンソマトスタチンが強く発現 μ オピオイド受容体の抗体染色 脳科学辞典より

パッチ マトリックスへの入力 37 主に眼窩前頭皮質や島などの辺縁系大脳皮質 広範囲な大脳新皮質 パッチ 視床からの入力はマトリックスへ 脳科学辞典より

(2) 淡蒼球 globus pallidus 内節 internal segment 外節 external segment 38 大型細胞は GABA 作動性 (3) 視床下核 subthalamic nucleus グルタミン酸作動性ニューロン (4) 黒質 substantia nigra 網様部 pars reticulata GABA 作動性ニューロン緻密部 pars compacta ドーパミン作動性ニューロン

主な入力投射路 39 (1) 皮質 - 線条体投射 広範な皮質領野から投射基本的には両側性前頭前野尾状核 (2) 視床 - 線条体投射 正中中心核 束傍核髄板内核群 ( 中心傍核 内側中心核 ) 被殻 尾状核 運動前野 運動野 体性感覚野 尾状核 被殻 被殻 グルタミン酸作動性 (3) 縫線核 - 線条体投射 グルタミン酸作動性体部位局在 ( 運動野 被殻 ) 下肢領域 : 背吻側上肢領域 : 腹尾側 背側縫線核からの投射線維セロトニン作動性 (4) 皮質 - 視床下核投射 ハイパー直接路の入力部主に前頭葉からの入力体部位局在がみられる

主な中継路 40 (1) 線条体 - 淡蒼球投射 線条体 - 黒質投射路 新線状体 GABA P 物質 substance P 淡蒼球 ( 内節 外節 ) 黒質網様部 淡蒼球 黒質の GABA 濃度低下ハンチントン舞踏病 (2) 黒質 - 線状体投射路 黒質緻密部吻側尾状核 尾側 被殻 (3) 淡蒼球 - 視床下核投射 外節 GABA 視床下核 視床下核 - 淡蒼球投射 視床下核 グルタミン酸 内節 視床下核に限局した損傷 ヘミバリズム ( 対側性 ) hemiballism ドーパミン作動性線維 : 主にコリン作動性介在ニューロンと結合 新線状体でのドーパミン含有量低下 パーキンソン病

主な出力投射路 41 (1) 淡蒼球 - 視床投射路 内節 外側腹側核吻側部 (VLo) 前腹側核主部 (VApc) 正中中心 (CM) 運動野 内節の外側 ( レンズワナ ) 内節の内側 ( レンズ束 ) H 野 視床束 (2) 黒質 - 視床投射路 網様部 前腹側核大細胞部 (VAmc) 外腹側核内側部 (VLm) 背内側核外側部 (MDpl) 前頭連合野 (3) 黒質 - 上丘 黒質 - 被蓋投射路 網様部 上丘中間層 脚橋被蓋核

大脳皮質 - 基底核ループ 42 大脳皮質からの入力を収集し その情報を処理して 出力を視床経由で大脳皮質へ送る 脳全体からみるとループ状の神経回路を形成 大脳皮質で計画された運動プログラムに基づいて, 必要とされる運動を促通し, 不要な運動を抑制する

ループの構造化ある領野から入力を受け取るループはその出力をその関連領野へ送る 43

大脳基底核の動作原理 44 入力部 線条体 大脳皮質から大量の入力線維 線条体の細胞 多数の情報が収束 簡単には興奮せず 少しばかりの入力には反応しない 興奮させ 出力信号を発生するためには 多くの入力が同時に入る 線条体の特性 多数の入力が収束 線条体細胞の入出力特性 多数の入力情報の中から 特定の意味のある情報を取り出す 情報のフィルターとしての役割 ドーパミンによって調節 特性が可変なフィルター 極めて強い入力が入る 必要がある

大脳基底核の動作原理 45 出力部 淡蒼球内節 黒質網様部出力細胞 : 抑制性細胞出力先の活動にブレーキをかけている定常的抑制 = 大脳基底核の出力作用 基底核出力の直前に 2 つの作用系が存在 脱抑制系 必要とされる運動を促通 抑制出力を取り除きブレーキを外す 抑制強化系 不要な運動を抑制 抑制性出力をさらに強める

直接系と間接系 46 直接系 : 脱抑制系 大脳連合野 運動野 線条体の出力が基底核の出力部に直接接続抑制性抑制性 線条体 興奮性入力 細胞活動上昇 細胞活動低下 出力先の細胞活動上昇脱抑制 間接系 直接系 間接系 : 抑制強化系 淡蒼球 線条体の出力淡蒼球視床下核基底核の出力部 視床 抑制性抑制性興奮性抑制性 視床下核 興奮性入力 細胞活動上昇 細胞活動低下 細胞活動上昇 細胞活動上昇 抑制強化 基底核出力部 出力先の細胞活動低下

黒質網様部の上丘における脱抑制効果 47 Glu GABA GABA Glu

ハイパー直接路と間接路は直接路とは反対の効果 48

ドーパミン調節系 ドーパミン受容体 Gタンパク質共役型受容体 D1~D5の5つのサブタイプ ドーパミン D1 受容体と D2 受容体を持つニューロンにそれぞれチャネルロドプシンを発現させて直接路と間接路をそれぞれ活性化させた場合 49 D1 様受容体 (D1 D5) Gs/olf に共役してアデニル酸シクラーゼを活性化する D2 様受容体 (D2 D3 D4) Gi/o に共役してアデニル酸シクラーゼを抑制する 直接系 D1 受容体を介してプラス方向 ( 興奮性 ) の作用を受ける 間接系 D2 受容体を介してマイナス方向 ( 抑制性 ) の作用を受ける 運動促進 運動抑制

大脳基底核による運動学習 50 運動の手続き学習 ( 技能や習慣 ) に関与 ドーパミンニューロン予想に反して報酬が得られた場合 : 活動上昇報酬が得られなかった場合 : 活動減少実際の報酬と予想した報酬の差をコード

運動学習における大脳基底核と小脳の役割 51 大脳基底核 外界の手がかりに応じた適切な運動を, 経験を通じて選択していく 条件つき運動学習 (conditional motor learning) に関与 小脳 課題を繰り返す間に感覚情報における誤差を検出して, 長期抑圧 (LTD) に基づいてその誤差を減少させる 誤差学習 (error learning) に関与

大脳基底核疾患 52 大脳基底核が障害を受けると 筋の緊張と運動に様々な障害を生じる 運動量と筋緊張の 2 軸でみると 臨床的には 錐体外路症候群と呼ばれる症状を示す 運動減少症 : 運動開始や遂行が困難 hypokinetic disorder 運動過多症 : 不随意運動を伴う hyperkinetic disorder

運動減少症 パーキンソン病 黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンの欠落 53 主徴 1 無動症 akinesia 寡動 bradykinesia 運動の開始ができない できても速さが十分でない 2 振戦 tremor 4~5 Hz の安静時にみられる手足のふるえ 3 固縮 rigidity 筋緊張の亢進 4 姿勢反射障害 姿勢歩行の異常 5 抑うつ傾向 運動減少と筋緊張亢進 脚橋被蓋核 橋網様体 脊髄抑制性介在ニューロン 筋緊張亢進 脱抑制

運動過多症 (1) ハンチントン病 Huntington s disease 54 主徴 1 常染色体優性遺伝 2 舞踏病 chorea と呼ばれる顔面 四肢などにおこる速やかで不規則な異常運動 3 痴呆などの精神症状 発症後 15-20 年で死亡 筋緊張が低下した状態で不随意運動が生じる 随時 視床や大脳皮質に脱抑制が起こるため不必要なときに不必要な運動が生じる 脚橋被蓋核 橋網様体 脊髄抑制性介在ニューロン 筋緊張低下 抑制強化

運動過多症 (2) ヘミバリスム hemiballism 四肢を乱暴に投げ出すような突然の激しい不随意運動視床下核の病変 ( 通常は出血 梗塞 ) (3) アテトーゼ athetosis 主に四肢や顔面に生じる緩やかで緩慢な不随意運動 筋緊張は異常運動に伴って亢進したり弛緩したりする 55 淡蒼球内節 黒質網様部ニューロンの活動が減弱 (4) ジストニア dystonia アテトーゼよりゆっくりした動き 固定されたような異常姿勢 緊張が亢進した状態で 不随運動が生じている 直接路と間接路ともに活動性が亢進

大脳基底核 直接路と間接路 脱抑制 と抑制強化 56 大脳皮質と脳幹の時間的 空間的な活動動態を協調的に制御し 適切な運動機能の発現に寄与する 大脳基底核の障害やドーパミン作動系の異常 随意運動の異常や筋緊張の異常などの特有な運動障害が生じる ドーパミン作動性ニューロン 大脳基底核の活動を調整 運動の手続き学習に関与