WIF-07-00:January 007 西友再生のための優先株の価値 高森寛, 伊藤晴祥
西友再生のための優先株の価値 A Valuaion of he Preferred Soc for Seiyu revival 高森寛, 伊藤晴祥 * Hirohi TAKAMORI and Haruyohi ITO 早稲田大学大学院ファイナンス研究科 慶應義塾大学大学院政策 メディア研究科 要旨西友が 005 年 9 月 30 日にアナウンスしたウォルマートとの新しい資本提携関係において 優先株の発行を行った この研究では この優先株が有する価値を リアルオプション価値として認識し 価値評価を行った このリアルオプションモデルの特徴は 優先株の転換権が原資産価格がどのレベルに達したときに行使されるかということと 転換権行使時点とが特定されていないことにある すなわちこれは 行使期限が特定されていない オプション価値の評価に相当する この問題を最適停止時刻問題としてモデル化し その価値を評価したい キーワード : 優先株 最適停止時刻問題 M&A 資本提携 リアルオプション価値. はじめに 西友は 005 年 9 月 30 日に 総額,50 億円の普通株式及び優先株式をウォルマート及びみずほコーポレート銀行に対して発行することを発表した 西友の資産総額は 005 年 6 月において 5,760 億円の資産でこれに対して 負債総額は 5,730 億円であり 株主資本は 9 億円であった この増資の実施により 西友の資産総額は 6,90 億円となり 005 年 月末には ウォルマートの持ち株比率は 4% から 50% 超になり 西友はウォルマートの子会社になった 優先株は 基本的に優先配当の現在価値と株式への転換価値に分解できる 株式への転換価値はオプション価値に相当する 以下で西友が発行した優先株のオプション価値を評価する 格 000/054.88 株と算定される 西友が発行した優先株の場合 転換価格は 株価の変動に対して次のような方法で修正される 転換価格の修正は年 回の転換価格修正日に行われる 転換価格修正日は 6 月 日及び 月 日である 各転換価格修正日に先立つ 30 営業日の平均株価が算定される 当初決められた転換価格 ( 以下当初転換価格 :05 円 ) をその平均株価と比較する 平均株価が当初転換価格の 00% 以下 50% 以上の範囲に収まっている場合には 当初転換価格は西友の平均株価に修正される 平均株価が 当初転換価格の 00% を超えた場合には 当初転換価格 05 円のまま 50% を下回った場合には 当初転換価格の 50% の値を転換価格とする 上記のルールを図表で示すと図 のようになる. 西友の優先株による買収価値 優先株の記述西友は A,B,C,D の 4 種の優先株を発行したが ここでは 代表的な D 種の優先株を記述する この D 種優先株は 額面 ( 発行価額 ) 円 発行株数 4,800 万株 総額 480 億円であった 優先株の普通株式への転換条件 : 転換価格 K は最大 05 円 最小 0.5 円 この条件の下で 優先株 単位に関して転換権が行使される場合 普通株への転換株式数は 額面 / 転換価 図. 転換価格の修正法
3. 優先株に付随するオプション価値の評価モデルこの優先株転換に関わる原変数は 西友の株式価格であるので その変動過程を以下のような幾何ブラウン運動と想定する dp αp d + P dz dz ~ ε d, ~ ε ~ 標準正規変数ここでα は 西友株式の株価変動率 ( 株式保有者のキャピタルゲイン率 ) のドリフト項であり はその拡散項である 優先株 単位あたりの株式への転換権の価値は その時点の株価 P の関数として 次のようなオプション価値 F( P) として表現できる すなわち 優先株の 有するオプション価値なるものは原変数である株価 P に依存する関数である 株価がP 円に達したときに 株式に転換すると想定しよう このときの優先株 単位が有 するオプション価値 F( P) は 次の方程式を満 たす ( P ) F ( P) + ( r δ ) PF ( P) rf( P) () F ( P) F ( P) は 優先株 単位が有するオプション価値 F( P) の 次及び 次の導関数であ る δ はコンビニエンスイールドであり 西友株式を保有することから得られる保有利得レートである このコンビニエンスイールド δ は CAPM 理論の枠組みで次のように算定される まず 西友株式への投資に対するリスク調整済み割引率 ( 市場の期待収益率 ) は μ r + μ f ( r ) で算定される ここで r f はリスクフリーレートであり は市場ポートフォリオと西友の株式保有の収益率との相関に依存して次のように算定される ρ ここで は 市場ポートフォリオの投資収益率標準偏差 は西友の投資収益率標準偏 f 差 ρ は 両者の収益率の間の相関係数である コンビニエンスイールドはδ μ α である 微分方程式の () の解は次の形となることが知られている ( P) AP F () 以下では 優先株は 原資産価格 P が P 0 よりも大きな値の時点 において転換されると仮定する その仮定のもとでは 上の () 式の は 次の形 + + r ここで r f δ である 4. 実証データによる西友が発行した優先株のオプション価値 4.. 西友の優先株オプション価値を定める各種市場データ西友株式に関わる株価変動率 ( キャピタルゲイン率 ) 平均的株価上昇率( ドリフトレート 西友株式に関わる株価変動率 ( キャピタルゲイン率 ) 平均的株価上昇率( ドリフトレート α ) 及びそのボラティリティ ( ) は 次のように算定される a 0.06 ρ 0.0 0.467 以上から西友への株式投資に関わる市場での期待収益率は次のように求められる 0.04 + 0.060 ( r r ) μ r f + f 0.0 0.467 ( 0.054 0.04) したがって 西友株式保有によるコンビニエンスイールドは δ μ α 0.060 0.06 0.044
また は δ r f 0.04 0.044-0.54 4.. 西友優先株式のオプション価値の算定 + 0.54 + + r 0.54 + 0.04 以上からオプション価値 () 式は 具体的には. 330 ( P) AP AP F (3) となることがわかる この係数の値は 次節に述べるような境界条件から得ることができる ケース : 行使する株価水準 P を所与とした場合のオプション価値いま この優先株は 西友の普通株式価格が P P の値に達したときに 行使されるとすれば その行使時点での優先株 単位当たりの 利得は P V CP 但し CP : 転換価格 V : 優先株価値 前節の (3) 式のオプション価値は F( P) は P P では この値に一致する よって AP P V CP 転換価格に関する仮定転換は 株価が当初転換価格 05 円よりもかなり高いレベルで転換されると仮定する なぜなら 株価が低迷のときは 転換メリットは小さいからである そういう状況では 図 に従えば 可能な転換価格の最大値は 05 円である したがって CP 05円と仮定する 優先株価値に関する仮定: 優先配当フローの現在価値を持って優先株価値と考える よって V ( TIBOR.8%) + 円 r により計算されるとする r は 当該の優先株に関する資本市場における期待収益率である 現在分析している西友に関しては 株式資本の期待収益率は 6% であり 社債に対する利子率は.7% であるから 当該優先株に関する期待収益率は それらの中間を取って 3.85% を仮定する TIBOR に関しては 本契約が締結された 005 年 月 日現在の TIBOR6 ヶ月ものの 0.% を利用する V この仮定により 53.3 円 V を計算すると そのときに オプション価値 F ( P) (3) 式は 境 界条件 P, 000 V CP に等しくなければなら. 330 ない よって ( ) F P AP P V CP を満たさなければならない 以上より P V CP A ( P ). 330 例えば 優先株保有者が 株価が P 50 円のときに転換価格 K 05 円で行使するとあらかじめ決めていたとすれば 優先株のオプション価値は以下のように求められる もし現時点の株価が 50 円であるとすれば A は A 50 53.3 05 0.44969 50 となり オプション価値は F ( P) 0.44969 50 P 696.
よって 優先配当部分の現在価値を足し合わせることにより優先株 単位あたりの全体の価値は 696.+53.39.5 円 ケース : 最適行使株価水準 P を求める優先株が保有する普通株式 株への転換権へのオプション価値は (3) 式で求めたように. 330 F ( P) AP の形以下では K を行使価格として この F( P) が 満たすべき境界条件から 係数 P の値を算定する すなわち (3) 式は以下を満たさなければならない Value aching 条件 : F( P ) AP P K Sooh Paing 条件 : よって F ( P ) A P A P ( P K ) P P K P ( ) 以上から転換権を行使すべき最適の株価水 K 準は P ここに K 05 を代入して転換権を行使すべき最適の株価は P 85. 77 と求められる この P を使って A は以下のように求められる A K ( ) P ( ) 05 85.77 0.08 と求められる 以上より 株式 単位に転換できるオプション価値は以下のようになる F ( P) AP 05 ( ) K ( ) P P 0 85.77 06.85 と求められた 優先株 単位あたりのオプション価値に換算すると 06.85 000/05 5.4 円 優先株の価値ここで優先配当部分の現在価値を足し合わせることにより 優先株全体の価値が算定され 5.4+53.304.54 円と計算された 5. まとめ 優先株の優先配当の現在価値部分は 5.4 円のみであり 優先株全体の価値の半分でしかない いうなれば西友が多大な負債を抱えている状況下では 債権利払いに近い優先配当を原始にして資本を調達したのであれば 5.4 円の資本しか調達できなかったことを意味する 単位当たり 円の資本調達が可能であったのは 53.3 円の転換権の価値があったからであろう このモデルでは転換権の行使価格については 当初の転換価格 05 円から大きく離れないという仮定に基づいた 現実には 西友が発行した優先株の場合 転換価格が当初設定の 05 円よりも下方に修正される可能性が若干ありうることに留意するべきであろう この研究では 優先株保有者の立場からの価値評価を行ったが 発行者にとってこの種の優先株発行がどのような意義を持つのかについては 今後の研究課題である 参考文献 [] 日本リアルオプション学会編 リアルオプションと経営戦略の新潮流 第 章 リアルオプションの基礎 シグマベイズキャピタル 006 [] Dixi, A.K., and Pindyc, R.S., 994. Inveen under uncerainy. Princeon Univeriy Pre, Princeon, NJ.