みずほインサイト 政策 2014 年 9 月 1 日 RCEP 交渉 15 年末合意に黄信号? 第 2 回閣僚会合の評価 政策調査部上席主任研究員菅原淳一 03-3591-1327 junichi.sugawara@mizuho-ri.co.jp 8 月 27 日に日本を含む東アジアの 16 カ国が参加して開催された 東アジア地域包括的経済連携 (RCEP) 第 2 回閣僚会合では 注目されていた モダリティ について合意に至らなかった 物品貿易における自由化の水準や方法を定める モダリティ に合意できなかったことは RCEP 交渉の中核部分について参加各国の意見の隔たりが大きいことを明らかにした これは 目標とする 2015 年末までの交渉妥結に黄信号が点ったことを示している 交渉期限の延長や部分合意のみならず 一部参加国の交渉離脱の可能性も捨てきれない 1. 第 2 回閣僚会合はモダリティ合意に至らず 8 月 27 日 ネピドー ( ミャンマー ) において 東アジア地域包括的経済連携 (Regional Comprehensive Economic Partnership: RCEP( アールセップ )) の閣僚会合が開催された RCEP 交渉は ASEAN( 東南アジア諸国連合 )10カ国と ASEANとすでにFTA( 自由貿易協定 ) を締結しているFTAパートナー 6カ国 (ASEAN+6: 日本 中国 韓国 豪州 ニュージーランド インド ) の16カ国が参加して2013 年 5 月に開始された 1 閣僚会合は昨年 8 月に続き 今回が2 回目となる RCEP 交渉では 今次閣僚会合までに5 回の交渉会合が開催されている ( 図表 1) 交渉の進め方については 交渉開始に先立つ2012 年 8 月に RCEP 交渉の基本指針及び目的 ( 以下 基本指針 ) が参加国閣僚により策定されている 基本指針では 8つの基本原則と交渉対象となる8 分野の大枠が定められ 図表 1 RCEP 交渉におけるこれまでの交渉会合概要 交渉会合 ( 開催国 / 都市 程 ) 第 1 回会合 ( ブルネイ )2013 年 5 9-13 第 1 回閣僚会合 ( ブルネイ )2013 年 8 19 第 2 回会合 ( ブリスベン )2013 年 9 23-27 第 3 回会合 ( クアラルンプール )2014 年 1 20-24 第 4 回会合 ( 南寧 )2014 年 3 31-4 4 会合の概要物品貿易 サービス貿易 投資に関する各作業部会 (WG) 開催 交渉の取り進め や 交渉分野等について議論 進捗報告 共通譲許を原則とすること 第 2 回閣僚会合までにモダリティを固めることに合意 物品貿易 サービス貿易 投資に関する各作業部会開催 原産地規則 税関 続 貿易円滑化に関するサブ WG 設置合意 基本指針に基づき 経済技術協 競争 知的財産 紛争処理に関する各作業部会設置合意 物品貿易, サービス貿易, 投資, 経済技術協, 競争 知的財産に関する各作業部会等開催 法的 制度的事項に関する作業部会 植物衛 検疫 (SPS) 貿易の技術的障害 (TBT/STRACAP) に関するサブ WG 設置合意 第 5 回会合 ( シンガポール )2014 年 6 21-27 第 2 回閣僚会合 ( ネピドー )2014 年 8 27 物品貿易, サービス貿易, 投資, 経済技術協, 知的財産, 競争 法的 制度的事項に関する各作業部会 原産地規則 税関 続 貿易円滑化 SPS TBT/STRACAP に関するサブ WG 等開催 モダリティ合意に らず 2015 年末までの交渉妥結を確認 第 6 回会合 ( グレーター ノイダ )2014 年 12 1-5 予定 ( 注 )STRACAP(Standards Technical Regulations and Conformity Assessment Procedures): 任意規格 強制規格及び適合性評価手続 ( 資料 ) 外務省 経済産業省 豪外務貿易省 NZ 外務貿易省資料によりみずほ総合研究所作成 1
2015 年末までに交渉を妥結させるとの目標が明記されている 2 これまでの交渉では 基本指針に基づき 分野別の作業部会やその下部組織が設置され 交渉が進められている ( 図表 2) これを受けた今次閣僚会合の最大の注目点は モダリティ に合意できるかどうかであった モダリティとは 交渉の進め方に関する約束事 ( 経済産業省 ) であり 2013 年 8 月の第 1 回閣僚会合において 今次閣僚会合までに モダリティを固めること に合意していた 3 なかでも物品貿易における自由化の水準や方法について合意できるかが 今次閣僚会合の焦点であった しかし 今次閣僚会合ではモダリティ合意に至らず 目標とされている2015 年末までの交渉妥結を再確認するに留まった 4 物品貿易の自由化 特にその中心となる関税の削減 撤廃の水準や方法は FTA 交渉の中核部分であり 交渉参加各国の意見が激しく対立するのが常である そのため モダリティ 5 に合意できれば 関税交渉は大きく前進する 今回モダリティに合意できなかったということは 目指す自由化水準や方法について交渉参加国間にある隔たりを これまでの交渉では埋められなかったということであり 目標である2015 年末までの交渉妥結に黄信号が点ったと言えるだろう 2. 物品貿易のモダリティを巡る交渉 (1) 既存の ASEAN+1FTA における自由化率とモダリティ基本指針では 物品貿易に関し RCEP 参加国の既存の自由化レベルを基礎として また 品目数及び貿易額の双方で高い割合の関税撤廃を通じて 高いレベルの関税自由化を達成することを目指すべきである 関税の譲許は 地域的な経済統合の利益の最大化を追求すべきである と記されており モダリティはこれを具体化するものとなる 3カ国以上が参加するFTA 交渉におけるモダリティでは 1 自由化約束 ( 譲許 ) を相手国別とするか ( 国別譲許 ) 相手国に拠らない共通のものとするか( 共通譲許 ) 2 自由化率の水準とその計算方法 3 関税撤廃までの年数などの自由化の方法 などが決められる RCEP 交渉では このうち1に関しては 第 1 回閣僚会合において共通譲許を原則とすることがすでに合意されている 6 共通譲許では ある参加国の関税削減 撤廃の約束は 他の参加 15カ国に対して共通のものであり 国ごとに差をつけない 例えば 日本のRCEPにおける牛肉の関税率は シンガポールに対しても豪州に対しても同率になる これは RCEPを活用する域内企業にとっては大変重要な点である 国別譲許の場合 RCEP 域図表 2 RCEP 交渉の対象分野 作業部会 ( 注 ) 吹き出しの中は作業部会 (Working Group) の下部組織 (sub-working Group) 紛争処理 は 法的 制度的事項 の一部となったとみられる ( 筆者推測 ) ( 資料 ) 外務省 経済産業省 豪外務貿易省 NZ 外交貿易省資料よりみずほ総合研究所作成 2
内の貿易であってもどの国から輸入するかによって関税率が異なることになり RCEP 活用のためのコストが増えてしまう よって 効率的なサプライチェーンの構築を目指す企業にとっては 共通譲許が望ましい 基本指針にある 関税の譲許は 地域的な経済統合の利益の最大化を追求すべき という点は 共通譲許によって実現される したがって 共通譲許を原則とすることで合意できたことは 交渉における大きな成果である 同時に 共通譲許を原則としたことで モダイリティの2 及び3に関する参加国間の意見の隔たりはより大きくなる 国別譲許の場合 日本にとってセンシティブな品目でも 相手国が生産 輸出している品目でなければ 当該品目を除外品目とする必要はない つまり 相手国によって除外品目を選択することができるので 自由化率を高くすることができる しかし 共通譲許の場合は 実態上は1カ国に対してのみ除外を求めれば良い品目であっても 交渉ではすべての国に対して除外を求めなければならない それだけ自由化率は低くなり センシティブ品目を抱える国にとっては交渉が難しくなる 基本指針において RCEPでは RCEP 参加国の既存の自由化レベルを基礎 として 高いレベルの関税自由化 を目指すとされているが RCEPの 基礎 となるのはこれまでにASEANと日本などFTAパートナー 6カ国がそれぞれ結んだFTA(ASEAN+1FTA) である Kuno, Fukunaga and Kimura(forthcoming) によれば 5つのASEAN+1FTAにおける物品貿易の国別自由化率は図表 3の通りである 7 これをみると (a)asean 諸国のうち後発加盟 4カ国 (CLMV: カンボジア ラオス ミャンマー ベトナム ) の自由化率 (5FTA 共通 ) が低いことと (b)aseanインドfta(aifta) の自由化率 ( シンガポール除く ) が他の 図表 3 ASEAN+1FTA における国別自由化率 AJCEP AANZFTA ACFTA AIFTA AKFTA 平均 1 平均 2 ブルネイ 96.4% 98.5% 97.8% 82.6% 97.9% 94.6% 97.7% インドネシア 88.7% 93.4% 89.0% 50.4% 90.3% 82.3% 90.3% マレーシア 92.1% 95.5% 93.7% 79.6% 93.5% 90.9% 93.7% フィリピン 96.0% 94.8% 86.5% 75.8% 97.7% 90.2% 93.8% シンガポール 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% タイ 96.9% 98.8% 88.3% 74.3% 93.7% 90.4% 94.4% カンボジア 76.0% 86.2% 86.7% 84.1% 85.5% 83.7% 83.6% ラオス 84.2% 90.7% 96.4% 77.5% 85.4% 86.8% 89.2% ミャンマー 79.4% 86.1% 91.3% 73.6% 87.5% 83.6% 86.1% ベトナム 84.7% 90.9% 90.4% 69.7% 84.3% 84.0% 87.6% 本 86.2% AJCEP:ASEAN 日本 FTA 豪州 100.0% AANZFTA:ASEAN 豪 NZ FTA ニューシ ーラント 100.0% ACFTA:ASEAN 中国 FTA AIFTA:ASEAN インド FTA 中国 94.6% AKFTA:ASEAN 韓国 FTA インド 74.3% 韓国 92.2% 平均 89.1% 94.6% 92.3% 76.5% 91.6% 88.7% 91.6% ( 注 1)HS8-10 桁水準の最終自由化率 AJCEP の ASEAN 諸国等を除き HS2007 準拠 ( 注 2) 平均 1 は全 5FTA の国別平均 平均 2 は AIFTA を除いた 4FTA の国別平均 ( 注 3) 各項色分けは 橙 :95% 以上 薄青 :80% 台 濃青 :80% 未満 ( 資料 )Kuno, A., Y. Fukunaga and F. Kimura (forthcoming), 'Pursuing a Consolidated Tariff Structure in the RCEP: Sensitivity and Inconsistency in ASEAN s Trade Protection' Table 6.2, In Christopher Findlay ed. ASEAN and Regional Free Trade Agreements. (Routledge-ERIA Studies in Development Economics) よりみずほ総合研究所作成 3
ASEAN+1FTAに比べ著しく低いことが明らかである このうち (a) については 基本指針において 参加国の異なる発展段階を考慮 することが合意されており CLMVに対しては関税撤廃までの期間を長くするなどの一定の配慮をすべきだろう (b) については インドの姿勢が鍵となる ASEANの先発加盟 6カ国 (ASEAN6: ブルネイ インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ) の自由化率は AIFTAを除く4つのASEAN+1FTAの平均 ( 図表 3 平均 2 ) ではいずれの国も90% を超えている したがって ASEAN 諸国がインドに対する自由化率を他のASEAN+1FTAの水準まで引き上げるには インドが自由化率を引き上げることが不可欠となる さらに RCEP 交渉では ASEAN 諸国とFTAパートナー 6カ国との間の問題に加え FTAパートナー諸国間の問題がある これら6カ国間では15 件の二国間 FTAが締結されうるが 現時点で発効 署名されているものは6 件に留まる ( 図表 4) しかも RCEPにおける自由化は 共通譲許や累積原産地規則 8 の点を鑑みれば 二国間 FTAにおける自由化よりもハードルが高い 例えば インドは国内産業界の反対もあり 中国との二国間 FTAを交渉していないが RCEPにおいては共通譲許が原則であるため 中国のみを差別的に扱うことはできない したがって インドにとってはモダリティにおいて高い水準の自由化を受け入れることは難しくなる 報道によれば 今次閣僚会合に向け インドはモダリティにおける自由化率の 下限を40% 程度と極めて低い水準に設定するよう主張 したとされる また 今次閣僚会合にインドの閣僚が参加しなかった背景には 自由化率に関して他国との意見の隔たりが大きかったことがあるとも言われている 9 今後交渉において インドがどのような姿勢をとるか これに他の交渉参加国がどのように対応するかが 合意に向けたひとつの鍵となる (2) モダリティにおける日本の主張物品貿易のモダリティにつき これまでの交渉で日本は 10 年以内に 90% 以上 自由化することを提案しているとされる 10 この日本の主張には検討すべき点が 2 つある ひとつは 10 年以内に 90% 以上 という水準が目標として適切かという点 もうひとつはこの目標が RCEP 交渉の基本指針と整合的かということである 90% 以上 という水準については 図表 3 でみたように AIFTA を除く 4 つの ASEAN+1FTA では ASEAN6 図表 4 ASEAN の FTA パートナー国間の FTA 締結状況 ( 注 )2014 年 8 月 1 日現在 : 発効済 : 署名済 : 交渉中 : 共同研究終了 : 交渉中断中左側は二国間 FTA 右側は多国間 FTA(RCEP 除く ) 橙は二国間 FTA 発効 署名済 *1: 日中韓 3 カ国で交渉中 *2:TPP 交渉 ( 資料 ) ジェトロ資料 各種報道等よりみずほ総合研究所作成 4
もFTAパートナー 5カ国も90% 近傍の自由化を約束している 同じ 90% であっても RCEPでは共通譲許と累積原産地規則が適用されること FTAパートナー諸国間でFTAが未締結なことを考えれば RCEP で 90% 以上 という水準を 10 年以内に 実現するという目標は一定の意味を持つ しかし RCEP では 既存のASEAN+1FTAよりも相当程度改善した より広く 深い約束 をするとの基本指針の原則からすれば 90% という自由化水準は十分とは言い難い 相当程度改善した というには 90% 台後半の自由化率が求められるだろう ASEAN+1FTAの実績からみると この目標を実現するのが難しいのは CLMVを除けば インドと日本である インドについては AIFTAの自由化率の低さについてすでに述べたが 日本もAJCEPにおいて自由化率が90% に達していない 11 日本は これまで発効 署名した14 件のFTA 12 において 90% を超える自由化率を約束したことはない ( 図表 5) では 日本はRCEPにおいてこれまでのFTAを上回る自由化率を約束しようとしているのかというと そうではなさそうである 報道によれば 日本は自由化率の算定につき これまで本稿でみてきた関税品目数をベースにしたものだけでなく 直近 3 年の輸入額に占める割合でも可能とする ように提案したとされる 13 日本の場合 提案の通り貿易金額をベースにこれまでのFTAにおける自由化率を計算すると 対メキシコを除くすべてのFTAで90% を超えている ( 前掲図表 5) これは 高関税等によって保護されている品目の貿易割合が小さいため 関税品目数ベースの場合よりも自由化率が高くなった結果である つまり 日本提案は これまでのFTAを超える自由化は最小限に留めたいという日本の姿勢の表れと言ってよいだろう しかし 基本指針には 品目数及び貿易額の双方で高い割合の関税撤廃 を目指すことが明記されており また 既存の ASEAN+1FTAよりも相当程度改善 するという点からも 日本提案は基本指針と整合的とは言い難い 日本が RCEP において実質的に新たな自由化を行わないのであれば 他の交渉参加国もさらなる自由化には応じないだろう 交渉を主導する意味においても 日本自らがさらなる自由化を実行する姿勢を示す必要がある 図表 5 日本の FTA における日本側自由化率 100% 95% 貿易金額ベース 関税品目数ベース 90% 85% 80% ( 資料 ) 内閣官房 外務省 経済産業省資料よりみずほ総合研究所作成 5
3. 今後の展望 -2015 年末までの交渉妥結は可能か? 2015 年末までの交渉妥結という目標は 16 カ国という参加国の数 経済発展水準等の参加国の多様性 関税交渉に留まらない交渉対象分野の多さなどを考えれば そもそもかなり野心的なものである 今次閣僚会合ではこの目標が再確認されたが モダリティで合意できなかったことは その実現に疑念を抱かせることとなった 考えられる今後のシナリオは 4 つある 第 1 のシナリオは目標通りの交渉妥結である 期限までまだ 1 年 4 カ月あり 交渉参加各国の足並みが揃うのであれば 十分な時間が残されている しかし 今回明らかになったのは 各国の意見の隔たりの大きさである 物品貿易の自由化率目標に関する日本などとインドの意見の隔たりは容易に埋められる大きさではない また 今後物品貿易以外の分野の交渉が進めば 様々な意見対立が顕在化することになるだろう サービス貿易 投資の自由化 知的財産権保護や競争政策のルール 物品貿易における原産地規則などの分野で 16 カ国の意見を収斂させるのは容易ではない 加えて 交渉対象を広げようとの動きもある 例えば 豪州は前政権時に環境と労働を交渉対象とするよう求めている 14 また 韓国とニュージーランドは政府調達に関する共同提案を行っている 15 すべての分野について目標期限までに合意するのはかなり難しいだろう そこで考えられる第 2 のシナリオは 交渉期限の延長である 通商交渉において妥結目標期限が先延ばしされることは日常茶飯事である 決して望ましいことではないが その可能性を念頭に置いておく必要があるだろう 第 3のシナリオは 交渉対象分野の一部分について合意するという部分合意である これまでの ASEAN+1FTAでは 物品貿易について先行して合意し サービス貿易や投資については物品貿易協定発効後に交渉しているものもある 実際 日 ASEAN FTA(AJCEP) は 物品貿易を含む協定全体としては 2008 年 12 月に発効しているが サービス貿易 投資分野については現在も交渉中である RCEPについても いわゆる早期収穫方式で 合意できる分野のみの協定発効を先行させることも考えられる 第 4のシナリオは 参加国の一部脱落 つまり16カ国のうちの一部が合意に参加しないというものである 今次閣僚会合の様子からすると インドが合意に参加しないという可能性を捨てきることはできない 16 インドは AIFTAにおける自由化率の低さ 国内産業界の対中 FTAへの警戒心などをみると RCEPで他の交渉参加国が求める自由化に応じることにはかなり慎重な姿勢を続けるものと思われる 今次閣僚会合でも 閣僚欠席の上 モダリティに関して態度を留保したと伝えられている こうしたインドの姿勢に 交渉参加国の中からはすでに インド抜き の交渉を求める声も上がり始めているという 17 今次閣僚会合の結果から第 3 第 4のシナリオまで想定するのは時期尚早かもしれない これらのシナリオが現実のものとならないよう 日本政府にはRCEP 交渉の加速を主導することが期待される そのためには 日本には率先垂範が求められる 国内事情を優先し 守勢に立つ国が交渉を主導することはできない TPP( 環太平洋経済連携協定 ) 交渉においても RCEP 交渉においても 日本がすべきことは同じである 交渉を合意に導くためには 日本も身を切る覚悟が必要である 6
1 RCEP 交渉に至る経緯や交渉の概要については 菅原淳一 (2012) 動き出す 東アジア地域包括的経済連携(RCEP) ( みずほインサイト 2012 年 11 月 12 日 みずほ総合研究所 ) 参照 2 基本指針については 菅原 (2012) 3 経済産業省 茂木経済産業大臣がブルネイ ミャンマーに出張しました 2013 年 8 月 26 日 4 JOINT MEDIA STATEMENT, THE SECOND REGIONAL COMPREHENSIVE ECONOMIC PARTNERSHIP (RCEP) MINISTERIAL MEETING 27 August 2014, Nay Pyi Taw, Myanmar 5 以下 本稿における モダリティ は 物品貿易における自由化の水準や方法 の意味で用いる 6 注 3 に同じ 7 国別自由化率の算定に関しては 国ごとに品目数に差異がある HS8-10 桁水準の数値は国際比較に適さないとの指摘があるが TPP ( 環太平洋経済連携協定 ) に関する報道等では HS8-10 桁水準の自由化率の数値が用いられていることを考慮し 本稿では HS8-10 桁水準の自由化率を用いた なお この数値を算出した Kuno, Fukunaga and Kimura(forthcoming) では 国際的に共通化された HS6 桁水準の自由化率も算出している これによれば 例えば AJCEP における日本の自由化率は 91.9% となる 8 累積原産地規則とは 域内の複数国で製造 加工された部分を合計 ( 累積 ) し その割合がある一定の基準を上回る場合には当該産品が原産品であるとみなすというルール ( 経済産業省 ) 自国原産品だけでなく 他の FTA 域内国の原産品も原産品とみなすことができるため 原産地規則を満たしやすくなる 例えば A 国原産品と C 国原産品で製造された製品 X が A 国と B 国による二国間 FTA では原産地規則を満たせなかった場合でも A B C 3 カ国が参加する多数国間 FTA では累積によって原産地規則を満たし 特恵税率が適用されるということが生じる 多くの国に跨がるサプライチェーンを構築している企業にとっては サプライチェーンの効率化のために必要な重要なルールである 9 時事通信 2014 年 8 月 26 日 10 日本経済新聞 2014 年 1 月 22 日 11 注 7 参照 12 日本では EPA と呼ばれるが 本稿では FTA に統一した 13 注 10 に同じ 14 エマーソン貿易相の発言 豪外務貿易省 Groundwork laid for massive Asian regional trade agreement, 2012 年 9 月 1 日 15 韓国貿易産業資源省プレスリリース 2014 年 4 月 4 日 16 例えば WTO( 世界貿易機関 ) 発足 (1995 年 1 月 1 日 ) 以降昨年末までの実績で 世界で最もアンチ ダンピング (AD) 措置を発動したのがインドであり インドの同措置の 4 分の 1 が対中措置である また 世界の AD 措置発動国 - 被発動国関係の中で最も件数が多いのがインド- 中国である 17 産経新聞 2014 年 8 月 28 日 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 7