溜池通信 vol. 633 January 26, Biweekly Newsletter

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一部新興国市場が動揺 アルゼンチンは前四半期から経済危機に陥っていましたが トルコでは 6 月に再選された大統領が米国と対立したこと等を契機に 8 月に通貨が急落しました ブラジルや南アフリカ インドの通貨も下落が加速する局面が見られ 中国元も緩やかに値を下げました これまでのところ個別国の問題とい

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第 79 回 2017 年 5 月投資家アンケート調査結果 アンケート調査にご協力下さりました皆様 今年 5 月に実施致しましたアンケート調査にご回答下さり誠にありがとうございます このたび調査結果をまとめましたのでお送りさせていただきます ご笑覧賜れましたら幸 いです 今後もアンケート調査にご協力

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

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経済変動論 0

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

オーバルネクスト ETF 情報 2010 年 2 月 15 日号 ( 株 ) オーバルネクスト 東京都中央区日本橋兜町 13-2 TEL 03(5641)5777

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

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短期均衡(2) IS-LMモデル

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

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定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

調査結果の要約 1. グローバル調査結果調査対象 : 日本 中国 ( ) の個人投資家 (1-1) 世界の株式市場見通し DI ( 注 ) は 3 地域そろって大幅上昇 各地域の個人投資家に今後 3 ヶ月程度の世界の株式市場に対する見通しを尋ねたところ 各地域とも前回調査 (17 年 5 月 ~6

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退職等年金給付積立金 平成30年度第2四半期運用状況

2017年上半期の為替相場展望

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

2012 年 10 月 15 日号

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経済・物価情勢の展望(2018年1月)

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株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

平成23年11月1日

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

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2017 年 12 月 11 日みずほ総合研究所 2 年目のトランプ政権と米国経済 Cartoons: 双日総合研究所吉崎達彦 1

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

経済学でわかる金融・証券市場の話③

タイトル

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

1

1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

相場分析レポート 高田資産コンサル /3/29 配信 1

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MONEX 個人投資家サーベイ 2017年3月調査

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現代資本主義論

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当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

株式市場 米国株 高値警戒感の高まりなどから上昇一服も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました トランプ政権で閣僚などの人事において一部で混乱が見られましたが トランプ大統領の発言などにより減税 金融規制緩和などへの期待が高まったことや 発表された米国企

ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

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韩国

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

MONEX 個人投資家サーベイ 2018年3月調査

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

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マイナス金利付き量的 質 的金融緩和と日本経済 内閣府経済社会総合研究所主任研究員 京都大学経済学研究科特任准教授 敦賀貴之 この講演に含まれる内容や意見は講演者個人のものであり 内閣府の見解を表すものではありません

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1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

株式市場 米国株 国内の政策動向や海外の政治動向などに注目 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場はほぼ変わらずとなりました 月初には 2 月末のトランプ大統領の議会演説を好感して 株価は大幅上昇となりました しかし その後は 新政権の経済政策に対する期待が徐々に後退

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グローバル・マクロ・ウォッチ

Economic Indicators_  定例経済指標レポート

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2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

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海外資産運用教育講座(仮)

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

グローバル株式市場を俯瞰する~2015年8月末データで見る市場動向~

目次 1. 平成 29 年度第 1 四半期 ( 平成 29 年 4 月 ~6 月 ) における運用環境について 2. 平成 29 年度第 1 四半期 ( 平成 29 年 4 月 ~6 月 ) におけるポートフォリオ別の運用状況 3. ベンチマーク インデックスの推移 ( 参考 ) 用語の説明 頁 1

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

MONEX 個人投資家サーベイ 2016 年8 月調査

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ファンダの鬼・柳澤 浩と小杉 篤諭の「ファンダメンタルズの学び方、活かし方セミナー!」

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円相場の中長期的予測の鍵は?

平成 28 年度第 3 四半期退職等年金給付組合積立金運用状況 警察共済組合

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

日本において英語で経済学を教えるとは?

とになる これはデフレ脱却をめざす日本経済にとっては大きな追い風要因となる トランプ大統領の円安牽制は効くのかもっとも ドル高を牽制する姿勢を強く示しているトランプ政権が 過度な円安を認めるとは限らない ドイツや中国と並んで 日本も為替操作国の烙印を押され 円ドルレートを円高方向に動かすような口先介

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金融政策決定会合における主な意見

日本の低金利の状況が続く中 外貨の好金利で運用し 当面の間 なるべく ふやす 外貨への関心が高まっているのをご存知ですか そして将来は たくわえた資産を 実は 家計における外貨資産は20年で約4倍に増加しています 商商商商品品品品パパパパンンンンフフフフレレレレッッッットトトト 詳細は P.25-2

中国:なぜ経常収支は赤字に転落したのか

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[グループⅠ]公募仕様書案

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Economic Trends    マクロ経済分析レポート

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(2) 円安を予想する割合が大幅に増加 [ 参照 : 別紙レポート 5 ページグラフ 3] 今後 3 ヶ月程度の米ドル / 円相場の見通しについて 円安になる と回答した個人投資家の割合が 51% と 前回調査時の 32% から大きく高まりました 米国の年内追加利上げの可能性がかなり高まってきたとみ

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

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Transcription:

溜池通信 vol.633 Biweekly Newsletter January 26 th, 2018 双日総合研究所 吉崎達彦 Contents ************************************************************************ 特集 : トランプ大統領と米国経済が強気な理由 1p < 今週の The Economist 誌から> Playing ketchup with the dollar ドルでケチャップでも何でも買え 8p <From the Editor> ダボスのトランプ大統領 9p ********************************************************************************** 特集 : トランプ大統領と米国経済が強気な理由 本誌の前号では 全世界的な ひどい政治と好調な経済 というテーマを取り上げましたが その最たるものは米国でありましょう 先週 1 月 20 日 トランプ政権は発足 1 周年を迎えましたが ちょうどその日に政府閉鎖を迎えるという混乱ぶり 今月はまた Fire and Fury なる政権の内幕暴露本が ワシントンの 紙価を高からしめて いるようです ところが米国経済は好調が続いていて 変な楽観ムードが支配的になっています トランプ政権が貿易戦争に打って出て ひどい政治が経済を台無しにする ( ダウンサイド シナリオ ) かもしれないのに むしろ 好調な経済がひどい政治を癒す ( アップサイド シナリオ ) を期待しているように見える その理由を考えてみました 米減税で IMF は見通しを上方修正 毎度お馴染み IMF の WEO が今週 改訂された 1 年に 4 回 改訂されることになっているのだが 昨年 10 月公表の前回分に比べて上方修正されている 新興国はあまり変わっていないが 先進国経済の見通しが大幅に改善されている 特に米国経済が昨年末に決まった税制改正を受けて 大幅な上方修正となっている 今回の WEO のタイトルは Brighter prospects, Optimistic Markets, Challenges Ahead ( さらに明るい見通し 楽観的な市場 待ち受ける課題 ) である 前回 Seeking Sustainable Growth ( 持続的成長を求めて ) その前の A Firming Recovery ( 確かさを増す回復 ) に比べて ますます手応えを感じている様子が窺える 次ページの表にまとめた通り 18 年と 19 年の世界経済成長率はいずれも 3.9% となり 貿易量は 3 年連続で 4% 台とる見込み そして資源価格も下げ止まっている 1

IMF World Economic Outlook 最新版 (1 月 22 日更新 ) 1 単位 :% 2015 2016 2017 2018 2019 全世界 3.1 3.2 3.7 3.9(+0.2) 3.9(+0.2) 先進国 2.0 1.7 2.3 2.3(+0.3) 2.2(+0.4) アメリカ 2.6 1.5 2.3 2.7(+0.4) 2.5(+0.6) ユーロ圏 1.5 1.8 2.4 2.2(+0.3) 2.0(+0.3) 日本 0.6 1.0 1.8 1.2(+0.5) 0.9(+0.1) 新興国 4.0 4.3 4.7 4.9(+0.0) 5.0(+0.0) 中国 6.8 6.7 6.8 6.6(+0.1) 6.4(+0.1) インド 7.3 7.1 6.7 7.4(+0.0) 7.8(+0.0) ブラジル -3.0-3.5 1.1 1.9(+0.4) 2.6(+0.1) ロシア -3.8-0.2 1.8 1.7(+0.1) 1.5(+0.0) ASEAN5 4.6 4.9 5.3 5.3(+0.1) 5.3(+0.0) 世界貿易量 3.2 2.5 4.7 4.6(+0.6) 4.4(+0.5) 石油価格 -46.4-15.7 23.1 11.7(+11.9) -4.3(-5.0) 非石油商品 -16.9-1.6 6.5-0.5(-1.0) 1.0(+1.5) 今後の米国経済に関して WEO は以下のように説明している * 2017 年の経済活動は予想以上に活発だったし 外需も増加している * 税制改革 ( 特に法人税減税と設備投資の即時償却措置 ) がマクロ経済に影響を与える 短期的には経済活動を刺激する 内需が伸びて輸入が増え 経常赤字は拡大する * 2020 年まで経済成長は加速し 減税がない場合に比べて 1.2% 高くなる ゆえに 2018 年は 2.3% 2.7% 2019 年は 1.9% 2.5% に見通しを引き上げる * 他方 財政赤字が拡大するので 将来的には調整が必要になる 2022 年以降の成長率はかえって低くなり 部分的に相殺されよう * 内需が増えてもインフレはあまり進まない ゆえにドル高もさほど進まない * 中低所得世帯に比べ 高所得世帯の平均税率が低下する 12 月末に決まった今回の減税は IMF のメインシナリオには含まれていなかった そこで上記の修正に至ったわけだが そうでなくても好調な米国経済にさらに追い風が吹くことになる NY の賢者 エド ハイマン氏曰く ケネディ政権以来 過去 7 回の大型減税の発足時における失業率は平均 7.0% でしたが 今回は 4.0% 近い水準です 火に油を注ぐ といった言葉が心に浮かびます (Evercore ISI ウィークリー レポート 2017 年 12 月 18 日号 ) 1 http://www.imf.org/en/publications/weo/issues/20 18/01/11/world-economic-outlook-update-january-2018 2

景気好調で利上げでもドル安が進む 減税効果で米国経済が過熱することになると 今年は年 3 回程度 と見られている利上げが加速するかもしれない そうでなくても 長期金利は 2% 台後半に上昇している 金利差拡大で 2018 年はドル高 円安 となりそうなもので 筆者なども昨年来そういう見方をしていたのだが 直近の動きはむしろドルの全面安である 下のグラフは WSJ 日本語版の トランプ氏のドル安政策 信認の危機 をもたらすか から 2 なぜそんなことになっているのか 今週はダボス会議に出席しているトランプ政権要人の発言により さらにドル安が進んで注目を集めているが 実はドル安は昨年前半から始まっている この事情を上手く説明しているのが 今週号の The Economist 誌 Playing ketchup with the dollar という論説記事である ( 本誌 P8 で抄訳を掲載 ) つまりドル安の原因となっているのは 1 強過ぎる世界経済 米国内の企業や投資家は レパトリによる海外資金の還流以上の速さで対外投資を積極化している 2 通貨戦争の終わり 国際金融危機を潜り抜けた後の世界経済では もはや為替安競争や量的緩和政策は不要になっている 3ファンダメンタルズ ビッグマック指数 を見ても 既にドルは割高 米国におけるビッグマック価格 5.26 ドルを上回るのは スイスなど 3 か国のみ ちなみにビッグマック価格は ユーロ圏は 4.84 ドル 日本は 3.43 ドル 中国は 3.17 ドルとなっている 3 ユーロは昨年から対ドルで 1 割程度強くなっていて こちらは既に調整が進んでいる 逆に円や人民元は まだ過小評価されている ユーロと同様に 1 割程度の調整があると考えれば ドル円レートでは当面 1 ドル 105 円程度までの円高は十分にあり得るのではないか このことは米国経済にとって さらなる支援材料となるだろう 2 http://jp.wsj.com/articles/sb10959360909180964770204584003492484094158 3 The Economist January 20 th 2018 The Mac strikes back 3

トランプがアニマル スピリッツを全開させた? 米国経済はなぜかくも強気なのか 米国企業や投資家の アニマル スピリッツ の復活は驚くほどで 彼らは今回の減税によって増える可処分所得をボーナスとして懐に入れるよりも さらに投資に回すつもりであるらしい だから景気過熱によるドル高ではなく 資本の海外流出に伴うドル安が進行するという逆説的な状況が出現している アニマル スピリッツは株式市場でも健在だ 今年 1 月 1 日以降に税率が下がったということは 本来は株を売る絶好のチャンスを迎えているはず ( 去年に比べて手取りが増えるから ) ところが NY ダウもナスダックも続伸している 察するに こんなおいしい局面で相場から降りられるものか! と考えているのではないだろうか こういうとき 最近の日本ではよく 今の はバブルだから の一言で片づけてしまいがちである だが そこで思考停止してしまうのはもったいない 今の米国経済の強気には しかるべき理由があるのではないだろうか トランプ大統領は今の株高は自分の成果だと誇っている そして衆目の一致するところ 単なる偶然 尐なくともアンタのお陰じゃない ただし点検してみると 就任 1 年目のトランプ政権の経済政策は 意外と悪くない ことが浮かび上がっている トランプ政権の経済政策 主要閣僚支持者政策課題 経済ナショナリスト路線 ( ポピュリストで TV マンのトランプ ) スティーブ バノン前首席戦略官 ウィルバー ロス商務長官 ロバート ライトハイザー通商代表 いわゆる トランプ支持層 ( 低所得白人層 ) プロビジネス グローバリスト路線 ( ニューヨーカーで大富豪のトランプ ) ゲーリー コーン NEC 議長 スティーブン ムニューシン財務長官 ( ゴールドマンサックス人脈 ) 伝統的な共和党支持者大企業 投資家など * 移民対策 壁建設 入国制限は難航 ( ) * 税制改正 成立!( ) DACA 問題も長引く見込み経済効果が出てくるのはこれから * 環境 エネルギー パリ協定離脱 ( ) * 規制緩和 進行中!( ) 石炭産出州はトランプ政権を歓迎次なる課題はドッド=フランク法見直し * 通商 :TPP 離脱 NAFTA 再交渉など ( ) * 医療保険 オバマケア撤廃は難航 ( ) ソーラーパネルでセーフガードを発動 * インフラ投資 今年最大のテーマ超党派で実現できるか? トランプ大統領は バノン前首席戦略官に代表される 経済ナショナリスト と コーン NEC 議長に代表される プロビジネス グローバリスト という 2 つの面を兼ね備えている つまり ニューヨーク育ちの大富豪 であると同時に 庶民の心が読めるポピュリスト でもある 4

政権 1 年目を終えた時点で採点すると プロビジネス路線 の方はかなり成功を収めている オバマケアの Repeal & Replace はさすがに難しいようだが 税制改正が成立して規制緩和が着々と進行中ということは ウォール街的には 満額回答 であろう 逆に 経済ナショナリスト路線 の方は難航中 検討中のものが多くなる しばしば TPP とパリ協定 からの離脱が大きく取り上げられるが 前向きの成果はほぼゼロと言ってよい この状況をウォール街や大企業から見ると トランプ政権はまことに都合が良い あと 4 年 民主党政権が続いていたら 今ごろは増税や環境規制強化などのアンチビジネス政策が追加されていたはずだ もっと言えば 将来 政治の揺り戻しが生じるかもしれないから 今のうちに稼げるだけ稼いでおこう と考えているのかもしれない 意外としぶといトランプ人気 プロビジネス グローバリスト連合 の視点から行くと 天下の奇書 Fire and Fury の出版を契機に あのバノンがいよいよトランプと袂を分かった というのも朗報であろう 本書で家族を非難されたトランプの怒りはすさまじく 情報源となったバノンを裏から手をまわしてブライトバードニュースから追い出してしまった これで 経済ナショナリスト路線 は ホワイトハウスからますます遠ざかることになる 同書はマイケル ウォルフというジャーナリストの手によるもので そこには例えば以下のようなゴシップが収録されている 4 こうした情報は耳目を集めるし 大統領への信認を確実に低下させるはずだ ところが 犬が人を噛むことはニュースではない 笑い話にはなるのだが 本書によるワシントン情勢への影響は限定的であろう 1. トランプ陣営ではドナルド当人も含めて 誰もが選挙戦では敗北を確信していた 2. トランプはそれを気にしておらず 彼の目標は 世界でもっとも有名な男 になることだった 3. マイケル フリン ( 初代の国家安保担当補佐官 ) が選挙期間中にロシアとの接触行為を怖れなかったのは どうせ負けるから問題にならない と思っていたから 4. 選挙結果が判明したとき トランプはまるで幽霊を見たような顔になった メラニア夫人は泣き出したが それは嬉し涙ではなかった 5. 首席補佐官には ジョン ベイナー ( 元下院議長 ) はどうだろう との助言を受けたとき トランプはそれが誰のことだか分からなかった 6. ルパート マードックは何度かトランプに助言しようと試みたが このクソ馬鹿たれが! と叫んで諦めた 7. 招待客が大勢欠席したために トランプは大統領就任式の日は不機嫌で 一日中夫婦喧嘩をしていた 8. トランプは病的な潔癖症である マクドナルド製品を好むのは 大量生産だから毒殺の怖れがないと思っているから 9. ホワイトハウス内の情報を漏らしていたのは どうやらトランプ自身らしい あの人は友達に限らず誰にでも吹いちゃうから 10. ジャレッド クシュナーとイヴァンカ夫人は協定を結んだ もしもチャンスがあれば 彼女は大統領選に出馬する そして初の女性大統領を目指す 4 ようやく Amazon に発注した現物が届いたばかりで ほとんど読んでいないことを白状しておきます 5

1/20 2/20 3/20 4/20 5/20 6/20 7/20 8/20 9/20 10/20 11/20 12/20 1/20 1/20 2/20 3/20 4/20 5/20 6/20 7/20 8/20 9/20 10/20 11/20 12/20 1/20 実際のところ トランプ政権の支持率はさほど変動していない いつも通りギャラップ や CNN ではなく 大統領が自分でチェックしているラスムッセンを見てみよう 下記の 通り 昨年 8 月以降の支持率はほぼ横ばいといっていいくらいである Rasmussen Reports Daily Strongly Approve Strongly Disapprove Total Approve Total Disapprove 50% 45% 40% 35% 30% 25% 20% 45% (1/24) 29% (1/24) 65% 60% 55% 50% 45% 40% 35% 30% 54% (1/24) 44% (1/24) 先週 Axios で流れていた情報 ( Trump softens on NAFTA ) によれば 5 NAFTA 見直し交渉においてもトランプは融和姿勢に傾いているらしい それというのも NAFTA から撤退すると 今の株高が崩れてしまうかもしれないから トランプはまた NAFTA で利益を得ている農業関係者を My people と見なしているという もっともこの調子で金持ちや旧来の共和党関係者ばかりを喜ばせていると トランプ政権はみずから発掘した支持者たちを造反させてしまうかもしれない それに減税や規制緩和は 貧富の格差をさらに拡大させてしまう恐れがある その部分は 手つかずの インフラ投資 という公約に懸ってくる トランプ大統領は 1 月 30 日に初の一般教書演説に臨む予定だが そこではインフラ投資計画をぶち上げることになるだろう このテーマであれば 経済ナショナリスト と プロビジネス グローバリスト連合 が手を組めるからである 偉大なる視聴率男 2 年目の挑戦 トランプ氏はしばしば 不動産王 と称されるが その実態はいささか怪しい なにしろ 4 回も倒産しているのだから 尐なくとも 王 と呼ぶのは不適切だろう 近年のトランプ オーガニゼーションは みずからリスクを取ることはほとんどなく なるべく他人の出資を仰ぎ Trump という名前を提供することでフィーを取るビジネスを展開していた 商品はホテルからブランド品まで多岐にわたっている 5 https://www.axios.com/trump-softens-on-nafta-1515969352-841775cc-6a83-44a3-85b4-cb5beea01c2f.html 6

どこでそのように転換したのかと言えば おそらく 2004 年に アプレンティス というリアリティ TV 番組を成功させてからだろう テレビの司会兼プロデューサーとして トランプ氏は赫々たる成功を収めてきた 高い視聴率を維持したまま 2012 年の第 12 シーズンまで引っ張ったのだから 並大抵の才能ではない ただしこういう仕事で成功を収めるにつれて ビジネスマンとしてのトランプ氏の仕事は Trump という名前を売ることに転じて行った そういう意味で 大統領選挙への出馬は最高のパブリシティであった 共和党予備選挙の最中 トランプ氏が部下に与えた命題は 2 位になること であったという 6 さすがに本気で大統領になろうとは考えておらず 言いたいことを言って The Donald を全米に売り込み 最後はカッコよく撤退すること が理想のシナリオだったのだろう ビジネスの見地から言えば それがもっとも望ましい Fire and Fury で描かれた開票日のトランプ一家の情景は さもありなん である 最近しみじみ思うのだが ドナルド トランプ氏の本質は 不動産王 でも ポピュリスト でもない ましてや 白人至上主義者 でもない トランプ大統領 = 偉大なる視聴率男 なのではないか 視聴率を維持するためには かならずしも視聴者に好かれる必要はない 嫌われてもいいから 常に話題を提供し続けることが肝要である 無関心こそが 最大の敵なのである 実際のところわれわれは なんて低俗な番組なんだ! などと文句を言いつつ くだらない番組をよく見ているではないか かくしてホワイトハウスの 炎上商法 に乗せられて われわれは怒ったり笑ったり嘆いたりしながらこの 1 年を過ごしてきた 2 年目もたぶん同じことが繰り返される といっても トランプ劇場 に対して無関心でいることは難しい 何しろ真剣に怒ってしまっている人たちが居て 彼らは現政権に対する攻撃の手を緩めない それを見たトランプ支持者たちは なにくそと大統領を守ろうとする さまざまな反トランプデモが行われるのを見て 大統領は内心ほくそ笑んでいるのではないだろうか ( もっともそれに対して怒り狂って見せることで またまた トランプ劇場 が長寿化することはご当人は百も承知である ) もっともこんな 視聴率至上主義 を続けていると いきおい政策は近視眼的になっていく 長期的な戦略やシナリオといったものは トランプ政権には無縁である さしあたってトランプ一座は今週 スイスのダボス会議に乗り込んでいる またまたドラマが演じられることだろう 抱腹絶倒かもしれないし 怒り心頭かもしれない そのような米国外交は 確実に対外的な信頼を損ねて行くだろうし 既存の国際秩序をも着実に蝕んでいくはずなのだが 6 本誌の 2016 年 4 月 8 日号 トランプ以後の米共和党研究 で紹介済み 7

< 今週の The Economist 誌から > Playing ketchup with the dollar ドルでケチャップでも何でも買え January 20 th 2017 * かつて 日銀はケチャップでも買え と言ったのは学者時代のベン バーナンキ教授でした ただ今絶好調の米国経済も 何でも買うからドル安になるのだと なるほど < 抄訳 > 昨年 12 月 ムニューシン財務長官のサイン入り新ドル紙幣が流通し始めた 普通とは違って活字体で描かれている ただしドル紙幣の景気づけにはならなかった ドルが他通貨に対するバスケットで最高値を付けたのは 1 年も前のこと 再びそこへ戻る気配はない 外国為替市場の大家たちによれば 2018 年は引き続き緩やかなドル下落になる公算が高いとのこと ドルに下方圧力をもたらす 3 つの理由がある 第 1 は世界経済だ ドルの下落は 米国経済の好調さが他国に取って代わられる兆候ではない 米国が世界で唯一 成長が期待されるのならドルは強くなるだろう ところが世界的な株高や石油価格の上昇から見て 明らかに世界全体が好調である 投資家はドル以外の通貨に資金を投下することになる その効果は想像以上で 今回の減税によって加速する米国企業のレパトリ以上の強さである 影響は今後も続きそうだ 第 2 の理由は政策の変化によるものだ このところ安い通貨こそがお値打ちであった 貴重な世界の需要を掴むには 輸入を減らして輸出を伸ばすしかない 2010 年にはブラジルの財務相が 通貨戦争 が勃発していると述べたものだ 量的緩和や資本規制によって為替を弱くする競争が行われ 特に先進国の中央銀行は金融引き締めを匂わせるだけで通貨が上昇し 経済の重荷となることを恐れた しかしグローバル成長の加速とともに 各国は通貨上昇を気にしなくなりつつある 金利上昇は米国のみならず カナダや英国でも起きている ECB は債券購入プログラムを減額するし 日本銀行もそうなるだろう 異常な金融政策が静かに解除されるにつれて ファンダメンタルズが重要性を増す そこにドル安の第 3 の理由がある 本誌がベンチマークとする ビッグマック指数 は ハンバーガーのコストは世界のどこでも同じであるべきという前提に立つ 最新の指数をみると ドルよりも強い先進国通貨はごくわずかしかない ( 注 : スイス ノルウェー スウェーデンのみ ) 2008 年にはドルよりも安かったのは 2 カ国だけだった 既に対ドルで跳ね上がっている通貨もある ドラギ総裁の債券買い入れテーパリング発言を受け 昨年夏に 1.11 ドルだったユーロは 1.20 ドルに 他国の通貨はさらに上昇しそうだ 今年は円も妥当な価格に向かうと想像することは容易い 好調な EU 経済と隣接しながら まだ通貨が安いポーランドやチェコのような国もある ブラジルのレアルを除けば 新興国通貨は全般に過小評価されている さらに上昇すると見るべきだ 紙幣に誰のサインがあるにせよ 2018 年を通してドルの高値は考えにくい 8

<From the Editor> ダボスのトランプ大統領 今週のトランプ大統領は スイス ダボスで行われている世界経済フォーラムに出席しています ダボスと言えば世界中のエリートが集まって グローバリズムや資本主義 新しい技術などを寿ぐ場所でありますから トランプ支持者から見ればまことに唾棄すべき場所でしょう 最終日となる 26 日の演説を担当するとのことですが 異端の米国大統領はそこで何を訴えるのか アメリカ ファースト か 貿易戦争 か はたまた 打倒北朝鮮 か これは嫌でも気になります その前から ドル安発言 や TPP 復帰発言 など 上手にメディアの関心を惹きつけていますよね さすがは 偉大なる視聴率男 で これも演説への前人気を高める小技だと考えれば心憎い演出です 既に現地では 反トランプデモ も行われている様子 もっともこれは ご当人にとっては 待ってました であろうと思います 他方 政治家が為替を弄ぶような発言をすると しばしば痛いしっぺ返しを食らうという法則もあります 人為的なドル安誘導は 米国債への資金流入を止めてしまう恐れもありますから 強いドルは国益 と繰り返す方が本当は無難なはず 昨年は比較的平穏だった為替市場ですが 今年はちょっと荒れるのかもしれません エコノミストの世界では 為替の予測ではドデンを恐れるな という鉄則があります 今週の The Economist の記事には意表を突かれましたが 言われてみれば当面の円高は十分にありそうなこと 君子でなくても 豹変しなければなりません ただし今後の日米の金利差拡大を考えれば 年末にかけてはやはりドル高 円安に向かうのではないか 上半期は円高 下半期は円安というイメージで考えておきたいと思います * 次号は 2018 年 2 月 9 日 ( 金 ) にお送りします 編集者敬白 本レポートの内容は担当者個人の見解に基づいており 双日株式会社および株式会社双日総合研究所の見解を示すものではありません ご要望 問合わせ等は下記あてにお願します 100-8691 東京都千代田区内幸町 2-1-1 飯野ビル http://www.sojitz-soken.com/ 双日総合研究所吉崎達彦 TEL:(03)6871-2195 FAX:(03)6871-4945 E-MAIL: yoshizaki.tatsuhiko@sojitz.com 9