第 1 回アブレーション デバイスサミット 心房細動を極める 最先端施設の現状を識る 心房細動の CFAE アブレーション Complex Fractionated Atrial Electrogram Guided Catheter Ablation of Atrial Fibrillation 桶谷直也 心房細動 (AF) の興奮パターンはランダムで, 固定された回路は存在しないという考え方が現在のところ通説である. しかし, われわれは AF は必ずしもランダムなものではなく, 時間的 空間的に安定した基質が存在すると考えている. それが complex fractionated atrial electrogram(cfae) である.CFAE は AF のすべての病期における基質を示しており, よいアブレーションターゲットとなりうる. 方法論については,1 AF 中に左房 冠状静脈の 3 次元マップを作成し,CFAE を認めた領域にタグをつける,2マップを完成させた後, タグ, ならびに好発部位を中心に 時間的 空間的に安定している CFAEを 領域として アブレーションする, ことにより高率に AF を停止させうるというものである. なお, 心臓副交感神経節 (GP) 存在部位は CFAE の好発部位である. 本稿ではこれらとともに, 著者の留学先の指導者である Nademanee 先生についてもふれたい. Ⅰ. 序文心房細動 (AF) の興奮パターンはランダムなもので, 固定された回路は存在しないという考え方が現在のところ通説である. また, 発作性 AF は肺静脈周囲を起源とする心房期外収縮から引き起こされることが多いため, 固定された回路がない AF のアブレーションターゲットは AF の基質ではなく発作の誘因となる心房期外収縮という説が一般的である. さらに, 持続性 AF に対する肺静脈隔離術単独での成績が不十分であるのは, 持続性 AF では不整脈基質の関与が多いためと考えられており, 各種付加的な治療が試みられている. しかし, われわれは AF の機序は必ずしもランダムなものではなく, 時間 的 空間的に安定した基質が存在し, その基質が主に perpetuator として AF の持続に関与し, 併せて initiator,trigger としても関与していると考えている. それが complex fractionated atrial electrogram (CFAE) である.CFAE は時間的 空間的に安定しており,AFのすべての病期において, 良いアブレーションターゲットとなりうると考えられている. 今回, 第 29 回日本心電学会のサテライトシンポジウムで述べたことを中心に概説したい. Ⅱ. 方法まずは, 方法論 エンドポイントについて述べる. 発作性 AF は誘発し, 持続性 AF は AF のままで左心房 冠状静脈, 必要に応じて右心房の 3 次元マッ 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心臓血管 高血圧内科学 ( 890-8544 鹿児島県鹿児島市桜ヶ丘 8-35-1) Naoya Oketani Key words;cfae, 心房細動, カテーテルアブレーション 276
プを作成する. その際,CFAEを認めた領域にタグをつけ, その後のアブレーションの指標とする. CFAEは, 時間的 空間的に安定しているため, それらのタグは治療終了まで高い精度で CFAE の領域を示してくれる. 大まかなマップを完成させた後, タグ, ならびに好発部位を中心に CFAEを 領域として アブレーションすることにより, 高率に AF を停止させうる. 発作性 AF は誘発されなくなるまで, 持続性 AF は停止するまでアブレーションし, 終了とする. 一通りアブレーションした後にも AF が持続している場合には, ニフェカラントを使用して, 残存する CFAE を探す. そのときに, それまでにアブレーションした領域周辺を探すと, 効率よく見つけられる. 図 1に発作性 AF 症例のアブレーション後の 3D マップ ( 図 1A) と, アブレーション前の 3D マップを作る段階での, 図 1A の左上肺静脈後方の心内心電図 (LSPV)( 図 1B) と, 図 1A の右下肺静脈 (RIPV) 後方の心内心電図 ( 図 1C) を示す 1). 左上肺静脈後方の電位は CFAE を認めるが, 右肺静脈後方は非常に規則正しい心内心電図を示す. 前者のような領域を中心にアブレーションを行う. ただ, 同じ肺静脈でも, 前方には CFAE が存在し, 後方には存在しないということはよくあり, 本症例でも RIPV の前方には存在するが後方には存在していなかった. そのため, どの肺静脈が原因というのではなく, ある一定の領域に CFAE が存在するという認識が前提となる. Ⅲ. 結果発作性ならびに持続性 AF に対して,CFAE を指標にアブレーションを行った症例の 3D マップを示す ( 図 2) 1). 図 2A は発作性 AF 症例, 図 2B は長期持続性 AF 症例のアブレーション後の 3D マップである. この発作性 AF の症例に対しては, 左肺静脈はまったくアブレーションしていないが, その後の再発はなく, 少なくともこの症例において左肺静脈は治療の必要はなかった バイスタンダー の肺静脈であったと考える.CFAEアブレーションに 際し,AF の持続に必須でない CFAE もアブレーションをしているのではないか, との指摘を受けることがあるが, われわれにとってはこのような症例の左肺静脈はアブレーション不要であり, 全症例に両側の肺静脈を一律に隔離することは, 必須とは思われない. ただ, 肺静脈隔離は画一的に治療を行えるというメリットがあり, 特に発作性 AF において肺静脈隔離術を行うことを否定するつもりはない. 次に長期持続性 AF 症例を見ると,AF が持続すればするほど CFAE の分布は広がりを見せ, 心房の形もリモデリングにより丸みを増すことがわかる. その結果として心房の中隔壁, 左房天蓋部, 左房前壁, 僧帽弁輪などの圧負荷がかかるような部位を中心に CFAE を認める範囲が広がり, アブレーション時間 手技時間が発作性 AF に比べて長くなる. 発作性 AF は肺静脈が原因で, 持続性 AF は不整脈基質が関与するという, 別の疾患のような考え方もあるようだが, われわれは単に CFAE が増加することで持続していると考えている. もちろん, CFAE の領域が狭い持続性 AF の症例もあるが, 平均すると持続性 AF のほうが, 発作性 AF よりも CFAEの領域が広くなる. そのため範囲の広狭はあるにせよ, いずれの病期においても CFAE を指標にアブレーションを行えば,AF の治療は可能と考えている. ただ,CFAEの領域が広いほど不完全なアブレーション部位が残存する確率が高くなる可能性があり,1 回での成績を上げるためには, より確実なアブレーションを行えるデバイスの進歩が必要と思われる. その根拠としては,Heart Rhythm 2009で発表を行った 2) 再治療症例において, 初回のアブレーション領域と再治療時のアブレーション領域が高い頻度で一致していたことがあげられる. なお現在, 初期に比べて肺静脈を周辺の領域を含めて拡大して隔離し, 併せて後壁も隔離する施設が増えているが, より多くの領域を隔離すれば,AF が持続しづらくなることは,Maze 手術からも明らかである. ただし, 現在の解剖学的なアブレーションのみでは,Maze 手術後の AF 残存 再発などの治療 277
図 1 CFAEアブレーションの実際 A: 発作性心房細動症例の 3D マップ. アブレーション部位を小豆色のタグで示す. B: アブレーション前の 3Dマップを作る段階での図 Aの矢印部位の心内心電図. 左上肺静脈後方の電位 (LSPV) は complex fractionated atrial electrogram(cfae) を認める. C: アブレーション前の 3Dマップを作る段階での図 A の破線矢印部位の心内心電図. 右下肺静脈後方の電位 (RIPV) は, 非常に規則正しい心内心電図であった. 右肺静脈の前方に CFAE を認めたため, アブレーションすることとなったが, 同じ肺静脈でも前方と後方での心内心電図は異なる. 文献 1) より引用改変 278
図 2 発作性心房細動症例 (A) と長期持続性心房細動症例 (B) のアブレーション後の 3Dマップ A: 左は前後像, 右は後前像. この症例では右肺静脈の前方のみのアブレーションで, 左肺静脈周囲はまったくアブレーションを必要としなかった. B: 左は前後像, 右は後前像. 発作性と比較して丸みをおび, 左房天蓋や心房の中隔壁が膨らんでいる. 心臓副交感神経節領域は complex fractionated atrial electrogram(cfae) の好発部位であるが, 長期持続性心房細動の症例では物理的に負荷のかかるような部位にも CFAE を認めることが多い. 文献 1) より引用改変 は行えない. また, 肺静脈隔離術が普及し, 肺静脈隔離が完成しているにもかかわらず,AF 再発例が増加しているのはどうしたわけであろうか. さらに今後,CFAEアブレーションの重要性が増すものと考えている. Ⅳ. 心房細動の停止 AF に対する CFAE アブレーションを行っても成績が芳しくないとの報告もあるが, その多くは CFAE アブレーションによる AF の停止率が極端に低い.Nademanee 先生の施設での AF 停止率については, 私が AHA 2008 で報告した 1) が,610 症例において, 発作性 AF の 99%, 持続性 AF( 約半分の長期持続性 AF を含む ) の 80% が,ibutilide を使用したものを含めて,cardioversion を使用せずに洞調律化している. 当施設では初期から 283 例の肺静脈隔離を併用しない群で, 発作性 AF の 99%, 持続性 AF( 約 4 分の 1 の長期持続性 AF を含む ) の 279
図 3 心房細動停止の好発部位 A: 左が左房後壁, 右が左房前壁. 左上肺静 脈後方, 左心耳周囲が好発部位である. B: 左が左房側壁, 右が左房側の中隔. 右肺静脈の前方が好発部位である. C: 左が右房側の中隔. 右が冠状静脈とその他. 冠状静脈近位部とその周囲が好発部 位である. 文献 1) より引用改変 79% が, ニフェカラントを使用したものを含めて, cardioversion を使用せずに洞調律化している. なお,ibutilide の使用の有無は再発率に影響を与えないことがわかっており 2), 当科でもニフェカラントの使用が再発率に影響を与えていないことがわかっている. それであれば最初からニフェカラントを使用したらよいのでは, との意見もあると思うが, 使用目的は停止をさせることではなく, 残存する CFAEを見つけることである. また, アブレーション前に使用しても AF 周期が延長せず, 半減期が短いこともあり, 治療の終盤で使用しないと効果を発 280 揮しない. 図 3に AFの停止の好発部位を示す 1). Ⅴ. 心臓副交感神経節との関係 AF のアブレーションにおいて, 心臓副交感神経節 (GP) の役割が注目されている. 図 3 に示す CFAE を指標にした AF の停止の好発部位は, まさに GP 存在部位 ( 図 4) 3) と一致している.GP を指標とした AF のアブレーションで素晴らしい成績が報告されていることからも, その重要性がわかる. ただ, われわれのデータでは, 長期持続性 AF では CFAE の好発部位は GP の存在しない領域にも広
図 4 両心房の心臓副交感神経節の分布図 3 で示した心房細動停止の好発部位と一致している. 文献 3) より引用改変 がっている. そのため,GP アブレーションにおいても, 特に再発例では CFAE アブレーションで補完できる可能性があると考えている. Ⅵ.Nademanee 先生とそのラボサテライトシンポジウムの目的のひとつが, 留学先の紹介ということであったので, 本稿でも著者の留学先である Pacific Rim EP Research Institute ならびに指導者の Nademanee 先生についてもふれてみたい. アジア人の活躍を心良く思わないためか,Nademanee 先生の発表を信用せず, 中傷する医師もいるが, 実際にはその卓越した能力と飽くなき向上心はもちろんのこと, その人柄も多くの人を魅了する. カテ室でご一緒させていただくことも多かったが, コメディカルの方々ともいつも気さくに話されるので, 大変楽しいラボであった. 私がフェローとしてお邪魔した初日にアブレーションを 5 例されたのだが,4 例が終わったところでもう 1 例と仰ったので, 思わずもう 1 例ですか? と聞き返したところ, 発作性 AF だから大丈夫とのご返答. 終 わったのが 18 時であったのにも驚かされたが, 初日の私にも誰しもが好意的で, ラボの雰囲気が非常に良く, カテラボはぴりぴりしているものと思っていた私にはそれも驚きだった. コメディカルの方々もレベルが高く, 集中すべきときにはものすごい一体感がある. 雰囲気が良いとコメディカルの方とも気軽に意見を交換できるので, 実際コメディカルの方々の一言で, 助けられることも多かった. 現在, 当科でもそれを踏襲しているつもりであり, 楽しく, また助けてもらいながら治療を行っている. Nademanee 先生は 妙な奴が来たら頭痛の種だ といわれ, 多くのオファーがあるにもかかわらず, あまりフェローをとることを好まれていない. その Nademanee 先生のところに留学をさせてもらえたのは, 当科の前教授の鄭忠和先生と Nademanee 先生が UCLA 時代から友人であったお陰であり, 鄭先生に対しても深く感謝している.Nademanee 先生には留学中のみならず, 現在も親しくさせていただいている. 日本では何度もお会いしていたが, この発表の後に AHA 2012 がロサンゼルスで開かれ 281
たため,4 年ぶりにラボにお邪魔させていただいた. 以前よりカテ室を増設し,2 つ使って次々に治療されていたが, 現在ステレオタキシスも導入し, 一段と充実していた. カテラボ見学の後は当時お世話になったコメディカルの方々も参集し, オフィスでパーティーを開いていただいた. 翌日は骨髄移植で有名な血液内科医の奥様もお連れになり, 私は家族とともに高級イタリアンをごちそうになった. 前回, 帰国前にもこのレストランにお連れいただいたことを思い出し, 心もおなかも満たされた.11 月生まれの丑年で,63 歳になられた今も, 常に向上心をもっておられることにいつも敬服している. 自分に対しても, 私に対しても Keep improving! といわれ, 帰国前にいただいた, お前は俺に追いつくように頑張れ. 俺はお前に追いつかれないように頑張るから とのありがたい言葉を胸に, いつも向上できるように努めている.CFAEアブレーションにとどまらず,Brugada 症候群のアブレーションについても発表され, 今年の AHA では J 波症候群のアブレーションについても発表されていた. 私が, 次にこれをやって Nademanee 先生を驚かせようと思っていることを先んじて進められるので,10 年たっても,20 年たっても, 追いつけない気がし てならない. このような素晴らしい先生の施設で充実した留学をさせていただいたことに対し, すべての当科の先生方, 協力してくださっているコメディカルの方々や医療機器メーカーの方々に感謝申し上げたいと思う. 引き続きわれわれは, 不整脈治療に貢献できるよう努力したいと思っているが, 今後を担う若い先生方が内向きにならずにどんどん留学し, われわれ世代を飛び越えていってくれることを期待して, 筆を置かせていただく. 文献 1 )Oketani N, Lockwood E, Nademanee K : Incidence and mode of AF termination during substrate ablation of AF guided solely by complex fractionated atrial electrograms mapping. Circulation, 2008 ; 118(Suppl): S925 [Abstract] 2 )Oketani N, Gidney B, Nademanee K : Clinical predictors of a redo ablative procedure after the first catheter ablation for atrial fibrillation guided by complex fractionated atrial electrograms. Heart Rhythm, 2009 ; 6(Suppl): S342 3 )Nademanee K, Lockwood E, Oketani N, Gidney B : Catheter ablation of atrial fibrillation guided by complex fractionated atrial electrogram mapping of atrial fibrillation substrate. J Cardiol, 2010 ; 55 : 1 12 282