表1-4

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表1-4

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図 東北地方太平洋沖地震以降の震源分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 ) 図 3 東北地方太平洋沖地震前後の主ひずみ分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 )

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2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

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本文は p.17 へ リチウム資源の供給と自動車用需要の動向 ハイブリッド自動車 (HV) プラグインハイブリッド自動車 (PHV) 電気自動車 (EV) の導入が 環境政策の後押しもあり 世界的に急拡大しつつある 特に PHV や EV を普及させることによる CO 2 削減効果は大きい これらの


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1/120 別表第 1(6 8 及び10 関係 ) 放射性物質の種類が明らかで かつ 一種類である場合の放射線業務従事者の呼吸する空気中の放射性物質の濃度限度等 添付 第一欄第二欄第三欄第四欄第五欄第六欄 放射性物質の種類 吸入摂取した 経口摂取した 放射線業 周辺監視 周辺監視 場合の実効線 場合

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正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

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H19年度

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“にがり”の成分や表示等についてテストしました

黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 日数 8~ 年度において長崎 松江 富山で観測された気象台黄砂日は合計で延べ 53 日である これらの日におけるの頻度分布を図 6- に示している が.4 以下は全体の約 5% であり.6 以上の

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高 1 化学冬期課題試験 1 月 11 日 ( 水 ) 実施 [1] 以下の問題に答えよ 1)200g 溶液中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 整数 ) 2)200g 溶媒中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 有効数字 2 桁 ) 3) 同じ

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亜硝酸態窒素除去 タルシオン A-62MP(FG) はじめに平成 26 年 1 月 14 日 水質基準に関する省令 ( 平成 15 年厚生労働省令第 101 号 ) の一部が改正され 亜硝酸態窒素に係る基準 (0.04mg/L) が追加され 平成 26 年 4 月 1 日から施行となりました ( 厚

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共同研究せいかほう

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まえがき このテキストは 通商産業省が金属鉱業事業団に委託した平成 7 年度金属鉱業経営資源活用対策事業の一環として 技術者研修用に映像 ( ビデオ ) と共に作成されたものです 独立行政法人石油天然ガス 金属鉱物資源機構に無断で複製品を作成することと 技術研修以外の目的に使用することを禁止します

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ボリビアでは 1970 年代には錫 亜鉛 鉛 銀等の鉱産物の輸出額が全輸出額の 80% 程度を占めていたが 錫の国際価格が 1985 年に暴落した後は 国営鉱山の近代化の遅れ等もあり 鉱業は衰退傾向となった 1990 年代に入り 国有鉱山の民営化 国有鉱区の開放 外資導入策の推進 新鉱業法の制定等に

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Transcription:

チリ北部のリチウム資源(529) チリ北部のリチウム資源 サンティアゴ事務所副所長 縫部保徳 はじめにエコカーとして今後普及が急速に進むことが予想されているプラグインハイブリッド車や電気自動車は リチウムイオン二次電池を搭載しており これらの普及とともにリチウムの需要は今後も増大していくことが確実な状況である 現在 チリは世界一のリチウム生産国であり 埋蔵量も正確な資源量が把握されていない Uyuni 塩湖のあるボリビアを除けば世界最大とされている (USGS, 2011) 現在 チリでリチウムの生産が行われているのは Atacama 塩湖のみである Atacama 塩湖以外にもチリ北部には多数の塩湖が分布しているが 1983 年に施行された現行鉱業法では リチウムは適用鉱種から除外され 民間企業が単独で開発 生産できない鉱種となっている しかしながら 世界的なリチウム需要増を考慮し 2012 年 2 月 7 日にチリ政府はリチウム採掘を許可するリチウム開発特別契約 (Contratos Especiales de Operación de Litio) の入札を 2012 年末から実施することを発表した これにより Atacama 塩湖以外での民間企業によるリチウム開発が今後活発になることが予想される 本稿では 今後有望なリチウム供給源となり得るチリ北部に分布する塩湖の形成環境や地質的背景を概観し 現在リチウム生産が行われている Atacama 塩湖の概要とその資源量 チリ北部の塩湖への鉱業権設定状況について概説する 海外レポート1. チリ北部における塩湖の分布状況チリ北部の塩湖 ( 図 1) は リチウム カリウム及 びホウ素の既知資源として非常に重要であり 世界でも最も重要な蒸発岩地域の一つと言える 数 km 2 約 3,000km 2 の 少なくとも 51 か所の塩湖 (5,211km 2 ) 及び塩水湖 ラグーン (222km 2 ) が 集水域面積 53,000km 2 の閉鎖型盆地の中に分布している この塩湖地帯はチリ北部 ( 第 Ⅰ Ⅱ Ⅲ XV 州 ) の中でも東部に位置し 幅 50km 250km( 平均約 120km) で延長約 850km にわたり 全体で約 102,000km 2 の広がりを有する アルゼンチン ボリビア チリ及びペルーにおいては 塩類が堆積する蒸発性盆地は 塩湖 (Salares) と呼ばれ その名は世界中で広く知られている 狭義の塩湖とは 砂漠あるいは半砂漠環境下で閉鎖型盆地の低部に堆積した蒸発 砕屑性物質が堆積したものである これらの盆地あるいは盆地システムは地殻変動 あるいは火山活動により形成された 2. チリ北部の地形と地質チリの北部の地形と地質は南米プレートの下に Nazca プレートが沈み込むことによる収縮構造と激しい地塊断層運動の影響を強く受けている これにより南北方向に連続する山脈及び盆地群が 西 ( 太平洋岸 ) から東に向かい交互に出現する 主要地形構造は西から東に向かって 海岸山脈 中央凹地 プレコルディレラ 前アンデス凹地 西部コルディレラ アルティプラーノ 東部コルディレラに分けられている 海岸山脈は 西側が急傾斜で太平洋に落ち込む 標 高 1,500m 程度の山脈である そのほとんどが中生代の海成堆積岩類及び安山岩質火山岩からなる 中央凹地は 標高が 800m から 1,400m でしばしば残留性塩類皮殻で覆われる 古第三紀中期から完新世の砕屑性堆積物と湖沼堆積物 ( 砂利 砂 沈泥 粘土 ) に厚く埋められており おおよそ南緯 22 25 の中央凹地は Atacama 砂漠として知られる チリ硝石鉱床は この中央凹地の地表層準に胚胎される (Ericksen, 1981) 中央凹地の東側には 広大な扇状地システムが形成されており プレコルディレラへの漸移帯となっている プレコルディレラは 主に古生代及び中生代の堆積岩 変成岩 火成岩からなる チリ北部の大規模銅鉱床は プレコルディレラ中に胚胎されている 標高 3,500m 4,000m の Domeyco 山脈は プレコルディレラの典型で 前アンデス凹地により東部コルディレラと明瞭に分けられている Domeyco 山脈の東縁には大陸性蒸発岩層が分布している 前アンデス凹地は Atacama 塩湖凹地とも呼ばれ 第三紀 完新世の大陸成砕屑堆積物及び蒸発性堆積物で埋められた標高 2,500m の広大な山間盆地である そこにはチリ最大の Atacama 塩湖 ( 図 1の 12;3,000km 2 ) が存在する もう一つの重要な塩湖である Punta Negra 塩湖 ( 図 1の 28;250km 2 ) は Atacama 塩湖と同じ盆地の南端にある 背斜褶曲の尾根や石こう 岩塩ドームが Cordillera de la Sal と呼ばれ Atacama 塩湖の西側境界を形成している Cordillera de la Sal は 新生代の地殻変動の影響を受けた第三紀の古塩湖に由来するとされる (Dingman, 1962; Dingman, 1967) 1

海外レポートチリ北部のリチウム資源(530) 図 1. チリ北部における塩湖及び閉鎖型盆地の分布 (Risacher et al, 1999) 2

チリ北部のリチウム資源(531) 中新世 完新世に形成された西部コルディレラは 流紋岩質イグニンブライトからなる隆起平原 ( 標高 4,000m) であり 標高 6,500m に達する多数の安山岩質成層火山由来の噴出物で覆われる これらの火山の多くは硫黄鉱床を形成しており そのうちには経済的に採掘可能なものもある 火山は 塩水湖及び塩類皮殻で埋められる閉鎖型盆地の外縁を形成している場合がある 本稿の対象となる塩湖の多くは火山によって形成される閉鎖型盆地システムに属する 西部コルディ レラに分布する火山岩類は 海岸山脈 中央凹地 プレコルディレラで卓越する堆積岩類とは対照的である チリ北部と並んで有望なリチウム資源を有するボリビアでは ボリビア アルティプラーノ ( 標高 3,700m 4,200m) に多数の石膏ダイアピルが分布し 白亜紀から第三紀の陸成堆積物で埋められている 中央凹地には大規模な Uyuni 塩湖が分布する ボリビアの東部コルディレラ ( 標高 6,000m 6,500m) には 古生代堆積岩類とそれに貫入する花崗岩質深成岩類が分布する 海外レポート図 2. チリ北部の地形構造分布と塩湖分布 (Risacher et al, 2003 を改変 ) Atacama 塩湖 (13) と Domeyko 山脈に挟まれた前アンデス凹地中の細長く伸長したゾーンが Cordillera de la Sal である 3

海外レポートチリ北部のリチウム資平均気温 ( ) 15 18 18 20 8 12 12 0 盆地名 源(532) 図 2 中の番号 表 1. チリ北部の閉鎖型盆地の地形及び気象データ (Risacher et al, 2003; DGA, 1987) 緯度 ( 南緯 ) 経度 ( 西経 ) 塩湖標高 (m) 最高標高 (m) 平均気温 ( ) 3. チリ北部の気候チリ北部の標高 1,900m 以下の場所は 極度に乾燥が 進んでおり植生がほとんどない 海岸山脈と中央凹地がこの領域にあたり Atacama 砂漠の境界とほぼ一致する Atacama 砂漠は世界で最も乾燥した砂漠とされる 同様に チリ北部のアンデス山脈は 世界の他の山脈と比較して極度に乾燥しており 永続的な積雪域の限界である雪線が標高 6,000m 近くにある 万年雪原は 標高 6,300m を越えるわずかな高山にのみ存在する Atacama 盆地内及びその周辺の閉鎖型盆地では 年間平均降水量が 15mm から 50mm 年間平均気温が 年間降水量 (mm) 年間蒸発量 (mm) かん水かん水最低塩濃度最高塩濃度 (mg/l) (mg/l) かん水タイプ 11 と見積もられている (Stoerts and Erickson, 1974) アンデス高地の気候は東に向かうにつれて徐々に寒冷となり また乾燥度も減少する チリ第 Ⅲ 州のアンデス高山地帯では 降水は主に秋から冬にかけての5 月から9 月に生じる 標高 3,600m 以上の年間平均降水量は約 200mm で これは主に雪として降るものである アンデス山脈各盆地の年間平均気温は 3 から 8 の範囲と推定されており 平均は 2 と見積もられている チリ北部の気候の特徴を表 2にまとめた 表 2. チリ北部の降水量 潜在蒸発量 平均気温 (DGA, 1987) 盆地面積 (km 2 ) 塩湖面積 (km 2 ) Cotacotani 1 18 11'08" 69 13'11" 4,495 6,342 1.9 379 1,070 299 2,002 SO4 119 6 6 Chungara 2 18 14'48" 69 09'13" 4,530 6,342 1.9 338 1,230 47 1,633 SO4 273 22.5 22.5 Lauca 3 18 27'00" 69 14'54" 3,892 6,063 4.2 370 1,200 108 784 SO4 2,374 Surire 4 18 50'03" 69 02'08" 4,260 5,780 2.7 250 1,280 108 285,000 SO4 574 144 9.5 Pintados 5 20 31'38" 69 40'17" 980 5,785 18.5 75 1,630 199 365,621 SO4 17,150 377 0 Lagunilla 6 19 55'56" 68 50'40" 3,900 5,190 4.6 150 1,490 267 1,276 SO4 129 0.2 0.15 S. del Huasco 7 20 18'18" 68 50'22" 3,778 5,190 5 150 1,260 108 113,093 SO4 1,572 51 2.5 Coposa 8 20 38'12" 68 39'33" 3,730 5,220 5 150 1,300 119 330,671 SO4 1,116 85 5 Michincha 9 20 58'48" 68 33'09" 4,125 5,407 3.5 200 1,620 94 62,662 SO4 282 2.5 0.6 Alconcha 10 21 03'07" 68 29'14" 4,250 5,407 3.5 200 1,620 116 99,361 SO4 128 3.8 0.75 Corcote 11 21 22'36" 68 20'55" 3,690 6,176 5.8 125 1,630 88 335,536 SO4 Ca 561 108 3.5 Ascotan 12 21 33'00" 68 16'58" 3,716 6,023 5.8 125 1,630 89 119,853 SO4 Ca 1,757 243 18 Atacama 13 23 25'05" 68 15'57" 2,300 6,233 14 160 1,800 243 339,719 SO4 Ca 18,100 3,000 12.6 Tara 14 23 01'59" 67 16'30" 4,400 5,816 0 150 1,500 287 176,486 SO4 2,035 48 14 L. Helada 15 23 05'58" 67 08'15" 4,300 5,745 0 180 1,500 118 308,546 SO4 221 5.8 5.8 A. Calientes 16 23 07'22" 67 24'38" 4,280 5,370 1 150 1,500 1,359 122,890 Ca 281 15 2.5 Pujsa 17 23 12'26" 67 30'35" 4,500 6,046 1 150 1,500 239 57,578 SO4 634 18 5 Loyoques 18 23 14'36" 67 16'55" 4,150 5,370 1 150 1,500 163 242,456 Ca 676 80 5 L. Trinchera 19 23 24'01" 67 23'15" 4,290 5,060 0 200 1,500 10,830 10,830 SO4 59 0.4 0.3 湖水面積 (km 2 ) 海岸山脈 中央凹地 プレコルディレラ 前アンデス凹地 西部コルディレラ 降水量 (mm) <10 <10 10 25 25 50 50 300 潜在蒸発量 (mm) 1,000 1,500 1,500 1,500 600 1,200 潜在蒸発量は チリ国家水源局の A クラス蒸発計による測定値 (DGA, 1987) である 通常 計器蒸発量は他の手法 ( 水文学的収支 エネルギー収支 ) から見積もられた湖面からの蒸発量よりも多くなる これは 小さく浅い蒸発計と湖の間のサイズ 熱分布及び水の動きの差に起因する 一般的には 蒸発計による測定値を補正するため 蒸発計の実験係数が適用される この地域の気候の特色は 西から東に向け降水量が増加することである ( 図 3) 海岸山脈及び中央凹地は 年間降雨量が 300mm に達する半乾燥気候の西部コルディレラとは対照的に 世界で最も乾燥した砂漠の一 つに数えられている 全域で潜在蒸発量が降水量を大きく上回っており 蒸発岩形成に非常に適した環境である (Hardie and Eugster, 1970;Eugster and Hardie, 1978) チリ北部地域における標高 4,000m 5,000m での降水量の 10% 20% が雪である一方 チリ南部地域では同標高での降水の 50% 80% が雪である (Vuille, 1996) 年間平均気温は北から南に向かうにつれて低くなることから 南部の盆地ではより長期に雪が保存される 風向きは太平洋からアンデス山脈方向が卓越する そのため 海塩や中央凹地由来の塩類ダストが風により東方に運ばれる 4

海外レポートチリ北部のリチウム資源(533) 図 3. チリ北部の東西断面図 (UTM 座標 7400000N)(Risacher & Fritz, 2009) 1: 太平洋 ;2: 海岸山脈 ;3 4: 中央凹地及び Atacama 砂漠 ;5: プレコルディレラ (Domeyko 山脈 );6 7: 前アンデス凹地 ;8 9 10: アンデス山脈 (8: 基盤 9: イグニンブライト台地 10: 成層火山 );11: 現在の塩湖 ;12: 古塩湖 ( 推定 ) 4. リチウム鉱床と鉱化作用リチウムは最も軽い金属元素で 比重は水の約半分 である 周期律表の第 3 番目 第一族 ( アルカリ金属元素族 ) 一番目の元素であり 第一族の他の金属元素と同様 化学的活性が非常に高く純元素としては天然に存在せず 常に安定した鉱物中あるいは塩類中に含まれている リチウムは他の元素と比べ希少であるため 多くの岩石中または場合によってはかん水中に非常に低濃度で含まれる 地殻中のリチウム平均含有量は 20ppm 60ppm である ( 村上, 2010) 世界には非常に多数の鉱石系リチウム鉱床やかん水系リチウム鉱床が知られているが 今後も含め経済性を有する可能性があるものはわずかである リチウム鉱床は リチウムが他の陽イオンよりも溶解性が高いことが原因で形成されている 流動中かつ冷却中のマグマ 及びそれらのマグマに伴う熱水 または かん水中に濃集する リチウムに富むかん水は周辺の温泉や鉱泉との関係が指摘されており Atacama 塩湖の近傍には El Tatio 地熱地帯が存在する ( 村上他, 2010) チリ北部以外でも リチウムに富む塩湖と温泉 地熱地帯の組み合わせ ( 例 : 米国 Silver Peak 塩湖と Clayton Vally の温泉群など ) があり この様な関係からリチウムの起源は周辺の火山岩で 火山岩から溶脱されたリチウムは温泉水や河川水により塩湖に運搬されたと考えられている ( 村上他, 2010) これらのリチウムを含む温泉水や河川水が 閉鎖型盆地内で乾燥気候下の蒸発により濃縮された場合 比較的リチウム濃度の高いかん水が形成される これらのかん水は継続的な蒸発によりさらにリチウム濃度の高いかん水となる アンデス高地は 蒸発量が降水量の8 倍 10 倍 (Risacher et al, 1999) に及ぶと見積もられており 塩湖はリチウム及びカリウムに富むかん水を涵養する場となっている アンデス高地に拡がる降水量が少なく蒸発量が極めて多い環境下では 数千年以上に亘って濃集した厚い岩塩皮殻が盆地の一部を覆っている Atacama 砂漠は 数百万年に亘って中央アンデスを支配していた乾燥気候下で形成された ボリビア チリ及びアルゼンチンには数百もの砂漠が存在する 岩塩皮殻の化学組成は複雑かつ多様で産業的な観点からも重要である それらはリチウム 炭酸ナトリウム ホウ素 カリウムなどの元素や塩類を含んでいる アンデスに分布する塩湖の規模は 0.03km 2 から 10,000km 2 まで様々である 最も大きな4つの塩湖の面積は 2,200km 2 10,000km 2 であるが 残りの塩湖の面積はすべて 400km 2 以下である アンデスの塩湖の形態は非常に多様で典型的な塩湖と言えるものは存在せず 以下の主な4 形態が一つの塩湖中に複雑に共存している ( 図 4): (1) 塩湖 : 比較的水深が深く (1 10 m) その面積は年間を通じて余り変化しない (2) 塩類皮殻 : 非常に多孔質で 間隙かん水で満たされることが多い (3) プラヤ湖 : 非常に水深が浅い池 (5 20cm) であり 残りは泥質堆積物に覆われている 池は乾季の終わりには干上がる かん水は数メートルの深さの被圧帯水層を満たしている (4) 不圧帯水層 : 未固結盆地充填堆積物 ( 礫 砂 シルト ) が不圧帯水層を形成 地下水面は地表あるいは地表付近に存在する 5

チリ北部のリチウム資源かん水の化学組成は複雑かつ変化に富んでおり 諸産業に重要なホウ素 カリウム リチウム及び炭酸ナトリウムなどの各種元素や塩類が含まれている これまでの研究により 塩湖かん水中の元素には火山岩 ( リチウム ホウ素 ) 及び古塩湖 ( 塩化物及び硫酸塩 ) の二つの起源があることが明らかとなっている (Risacher et al, 2003) チリ北部に分布する塩湖の中でこれまでにリチウム含有量が測定されたのは Atacama 塩湖 Pedernales 塩湖 Punta Negra 塩湖 Maricunga 塩湖のみである 5. 塩類の起源チリ北部の中央アンデスには 塩湖ならびに塩類皮殻が存在する数多くの閉鎖型盆地が分布する 流入水中の塩類の起源は 2 種類あると考えられている それらは 1 火山岩類の変質が起源のもの 及び2 半塩水を形成するかん水の循環が起源であるものである チリの変質水は ボリビアのそれよりも平均して3 倍も濃縮されていると言われ これはチリの火山が多くの硫黄をもたらしていることと関係しているとされる (Risacher and Fritz, 2008) 半塩水の流入は 現在の塩湖から漏出するかん水と 塩濃度の低い地下水の混合で生じる 流入する殆どの塩類はリサイクルされたものである リサイクルのプロセスは 古塩湖が火山噴出物で埋められた際に始まると考えられている アンデスの塩湖には以下 3つの主要かん水タイプが存 (534) 図 4. アンデスにおける塩湖の主要形態 (Risacher & Fritz, 2008 を改変 ) 本文中の番号と図中の番号が対応 海在する (Tahil, 2008 など ):1 アルカリ性かん水 2 硫酸塩に富むかん水 3 カルシウムに富むかん水 流入水の蒸発モデリングにより推定されたかん水組成は 実際のかん水組成とよく一致する チリにはアルカリ性塩湖が存在せず それは流入水が硫酸塩に富み アルカリに乏しいことで説明される また 火山岩中の硫黄含有量が高いことにも関係している可能性がある 硫黄鉱床が削剥され開放型盆地で堆積すると 流水はアルカリ性から硫酸塩かん水に変化する アンデスの塩湖でカルシウムに富むかん水が存在することは アルカリ性または硫酸塩に富むかん水を作ることしかできない開放型火山盆地では説明できない これは 火山堆積物に覆われる堆積性盆地中に潜頭する古塩湖からのリサイクル石灰質かん水に由来する可能性が高い 石灰質塩湖は火山性の環境と平衡ではないことから 長期間をかけて少しずつ硫酸塩に富む塩湖に変化すると考えられている 6. リチウムとホウ素の起源リチウムとホウ素は アンデスの塩湖の水及びかん 水の重要な成分である それらのかん水の濃度は数 g/l に達する (Moraga et al, 1974;Ericksen et al, 1978; Risacher & Fritz, 1991) 一般に 水中に溶け込むリチウムとホウ素は しばしば熱水変質作用と関連していると考えられている (Berthold and Baker, 1976; White et al, 1976) しかし 最近の研究では 温度が上昇してもリチウム及びホウ素の濃度は増加しないことが明らかにされている (Risacher and Fritz, 2008) 天水及び熱水変質作用に由来する水の中のリチウム及びホウ素の濃度に大きな差はないとのデータもあり (Risacher and Fritz, 2008) 熱水変質作用がアンデスの塩湖の水及びかん水中のリチウム及びホウ素の濃集の直接の原因でない可能性も考えられる 両成分とも 特にイグニンブライトの短期間での変質及び風化に起因する火山岩変質より生じたものと考えている人もいる (Risacher and Fritz, 2008) 7. Atacama 塩湖の概要 Atacama 塩湖は標高 2,300m 太平洋岸から約 200km 離れて位置している Atacama 塩湖を含む閉鎖型盆地の広さは約 3,000km 2 で塩類皮殻は 1,400km 2 の範囲を覆っている 塩類皮殻北端の 1,000m ボーリングでも岩塩層を抜けておらず 盆地の底部には岩塩類が非常に厚く堆積していると考えられる Atacama 塩湖のプロファイルを図 5に示す 外レポート6

チリ北部のリチウム資源(535) 図 5. Atacama 塩湖のプロファイル (Tahil, 2008) 現在 Atacama 塩湖でリチウム生産を行っているのは SQM 及び SCL で共に民間企業である 前記 2 社が Atacama 塩湖でリチウム生産を行うに至った経緯を大野 (2010) に基づき以下に述べる 1970 年代前半 チリ政府は Atacama 塩湖のカリウム リチウム マグネシウム ホウ素 硫黄の効率的開発を目的に リチウム開発 カリウム塩及びホウ酸開発の2プロジェクトを立ち上げた リチウム開発については 大規模投資と技術導入が必要との認識から CORFO( チリ経済開発公社 ) 経由で 当時世界最大のリチウム生産企業であった米国の Foote Mineral(Newmont Mining 子会社 ) と 1975 年に基本契約を締結した 1977 年に CORFO が Atacama 塩湖の大部分の所有権を獲得した後 1980 年に CORFO と Foote Mineral が各々 45% 及び 55% の出資比率で SCL を設立し 1984 年から操業を開始した その後 1988 1989 年にかけて CORFO の 45% 出資分を Foote Mineral が 15.2 百万 US $ で購入し SCL は Foote Mineral の 100% 子会社となった Foote Mineral 自体は 1987 年に Cyprus Minerals が買収後 1998 年に Chemetall に買収されたことから 現在 SCL は Chemetall の 100% 子会社となっている 一方のカリウム塩及びホウ酸開発について CORFO は 1983 年に国際競争入札を通じて Amax 及び Molymet とコンソーシアムを形成し 調査研究を実施した後 1986 年に CORFO 25% Amax 63.75% 及び Molymet 11.25% の出資比率で カリウム リチウム及びホウ酸塩の生産を目的として Sociedad Minera Salar de Atacama(MINSAL) を設立した その後 Amax は 1992 年に MINSAL 株自社権益全てを SQM に売却 1993 年には Molymet も SQM に MINSAL 株自社権益全てを売却した CORFO も 1995 年にサンティアゴ株式市場で MINSAL 株を売却し SQM が約 7 百万 US$ で購入 現在に至っている 以上が SQM 及び SCL が Atacama 塩湖でリチウム生産を行っている経緯であるが 法令第 2886 号 (1979 年 11 月 14 日 ) において リチウムの生産及び開発については CCHEN の許可が必要となっており 両社とも CCHEN との契約で 操業年数及びその間のリチウム総生産量の上限 ( 金属リチウム換算 ) が設けられている 次に Atacama 塩湖のリチウム資源量予測の変遷に ついて記述する まず 1975 年に SCL による4 年間の調査が始まった SCL の探鉱は塩湖南部に集中して行われ 2つのカテゴリーの資源量が推定された 詳細評価が行われた地域においてはリチウム 1.29 百万 t サンプル間隔が広く地質学的事実に基づき推測した資源量はリチウム 3.0 百万 tであった これが塩湖中心部の最初の資源量予測である 1986 年に設立された MINSAL による評価プログラムは約 2 年半にわたり行われた 埋蔵量の予測は多数のコアボーリング 地表付近のサンプリング及び物理探査の結果を基に行われた 予測された資源量は カリウム 24.5 百万 t リチウム品位には 0.09% 0.30% の幅があり 平均品位 0.14% 資源量 1.67 百万 tであった この資源量は各コアボーリングの掘進長のほとんどが 40m であったために 40m の深さまでしか計算されなかった SQM が Amax から MINSAL 株を買収した際 CORFO と協定の再折衝により小規模な鉱区群を当初の MINSAL 権益 (790km 2 ) に加えることに成功した これらの鉱区は 硝酸カリウムを生産するための JV を早急に立ち上げるため 別途 MINSAL により評価が行われていたが 最終的にこのプロジェクトは頓挫し 新たなカリウム及びリチウム資源が SQM の鉱区に加えられた これらの鉱区内の高濃度かん水により SQM のリチウム資源量は増加し リチウム品位は 0.18% となった 次の資源量の推定は 10 年間の生産の後に行われた広範囲の追加ボーリング ( 各孔 40m 以上 ) 及び多数の観測井の詳細モニタリングにより 2007 年に行われた その際 SQM はリチウムの確定及び推定埋蔵量が 3.4 百万 tに増加したと発表した 2008 年に SQM は さらに大深度かつ高密度のボーリング探鉱により 埋蔵量の総計をカリウム 77.2 百万 tとリチウム 6.0 百万 tと発表した 8. チリ北部の塩湖における鉱業権の状況 1983 年に施行された現行のチリ鉱業法では リチウ ムが放射性物質として取り扱われているため 石油 天然ガス及び海底資源と同様 鉱区設定ができない鉱物と規定されている 現在は 1983 年以前に認可された鉱業権を残して リチウム開発から民間企業を排除している 現行鉱業法の規定にしたがうと リチウムの探鉱 採掘は 国家あるいは国営公社によって直接行われるか あるいは 要件や条件を決めた上で共和国大統領令にしたがう行政利権あるいは特別協定の対象となる 図 6 7 8にチリ北部の鉱区設定状況を示した 図面の精度から 個別の塩湖に旧鉱業法下で認可を受けた開発の制限を受けない鉱区が設定されているかどうか判断するのは困難であるものの 既知の塩湖のほとんどには既に鉱業権が設定されているのがわかる 海外レポート 7

海外レポートチリ北部のリチウム資( 出典 :SERNAGEOMIN) 源(536) 図 6. 第 Ⅰ 州及び第 XV 州の鉱区設定状況 青 ( 現行鉱業法下で設定されたもの ) 及び 赤 ( 旧鉱業法下で設定されたもの ) が採掘権 緑が探鉱権 8

海外レポート チリ北部のリチウム資源 出典 SERNAGEOMIN 図7. 第Ⅱ州の鉱区設定状況 青 現行鉱業法下で設定されたもの 及び赤 旧鉱業 法下で設定されたもの が採掘権 緑が探鉱権 2012.3 金属資源レポート 9 537

海外レポート チリ北部のリチウム資源 出典 SERNAGEOMIN 図8. 第Ⅲ州の鉱区設定状況 青 現行鉱業法下で設定されたもの 及び赤 旧鉱業 法下で設定されたもの が採掘権 緑が探鉱権 10 2012.3 538 金属資源レポート

チリ北部のリチウム資源(539) おわりにチリ北部には Atacama 塩湖と類似した地質環境の 塩湖が多数存在し そのうちのいくつかにおいてリチウムを高濃度で含むかん水を胚胎する可能性は高いと思われる 現在 塩湖のほとんどに新旧鉱業法下の鉱業権が設定されており リチウム開発特別契約を落札した企業は既往鉱業権者との調整が必要である 韓国 POSCO はリチウム生産権開放を睨んで Miringunga 塩湖の権益を有する Li3 Energey とリチウム開発に関する MOU を締結しており 今後チリ北部でのリチウム開発をめぐる民間企業の動きはより活発化する可能性が高い サンティアゴ事務所では引き続き チリでのリチウム資源をめぐる動きに注目していく所存である 参考文献 Berthold, C.E. and Baker, D.H. (1976)Lithium recovery from geothermal fluids. U.S. Geological Survey Professional Paper, 1005, 61 66. Dingman, R.J. (1962)Tertiary salt domes near San Pedro de Atacama, Chile. U.S. Geological Survey Professional Paper, 450 D, 92 94. Dignman, R.J. (1967)Geology and groundwater ressources of the northern part of the salar de Atacama, Antofagasta Province. U.S.Geological Survey Bulletin, 1219, 63p. DGA (1987)Balance Hídrico de Chile. Ministerio de Obras Públicas, Dirección General de Aguas, Santiago, Chile. Ericksen, G.E. (1981)Geology and origin of the Chilean nitrate deposits. U.S. Geological Survey Professional Paper 1188, 37p. Eugster, H.P. and Hardie, L.A. (1978)Saline lakes. In: Lerman, A. (Ed.), Lakes: Chemistry, Geology, Physics. Springer, NewYork. Hardie, L.A. and Eugster, H.P. (1970)The evolution of closed basin brines. Mineralogical Society of America Special Paper 3, 273 290. Moraga, A., Chong, G., Fortt, M.A. and Henriquez, H. (1974)Estudio Geológico del Salar de Atacama, Provincia de Antofagasta. Bol. Inst. Invest. Geológicas, Santiago Chile, 29, 1 56 村上浩康 (2010) リチウム資源. 地質ニュース, 670, 22 26. 村上浩康, 辻本崇史, 神門正雄 (2010) リチウム資源探 海査の最前線 : ウユニ塩湖, 地質ニュース, 670, 53 59. 大野克久 (2010) チリの 2009 年リチウム生産 輸出動向及びリチウムに関する法制度の現状について, JOGMEC カレントトピックス, 10 21. Risacher, F., Alonso, H. and Salazar, C. (1999) Geoquímica de aguas en cuencas cerradas, I, Ⅱ, Ⅲ Regiones, Chile. Ministerio de Obras Públicas, Dirección General de Aguas, Technical Report S.I.T. no 51, Santiago, Chile. Risacher, F., Alonso, H. and Salazar C. (2003)The origin of brines and salts in Chilean salars : a hydrochemical review. Earth Science Reviews, 63, 3 4. Risacher, F. and Fritz, B. (1991)Quaternary geochemical evolution of the salars of Uyuni and Coipasa, central Altiplano, Bolivia. Chemical Geology, 90, 211 231. Risacher, F. and Fritz, B. (2008)Origin of Salts and Brine Evolution of Bolivian and Chilean Salars. Aquatic Geochemistry, 15 (1 2), 123. Stoertz, G.E. and Ericksen, G.E. (1974)Geology of salars in northern Chile. U.S. Geological Survey Professional Paper, 811. Tahil, W. (2008)The Trouble with Lithium 2, under the microscope. Meridian International Research, France, 58p. U.S. Geological Survey. (2011)LITHIUM(advance release). Vuille, M. (1996)Zur raumzeitlichen Dynamik von Schneefall und Ausaperung im Bereich des sudlichen Altiplano, Sudamerika. Geographica Bernensia (Univ. Bern, Switzerland)G45. White, D.E., Thompson, J. M. and Fournier, R. O. (1976)Lithium contents of thermal and mineral waters. U. S. Geological Survey Professional Papar, 1005, 58 60. 外レポート 11