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様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 22 年 6 月 16 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2007 2008 課題番号 :19700321 研究課題名 ( 和文 ) 大脳皮質層形成を制御する Reelin-Dab1 シグナルの細胞内情報伝達機構の解明 研究課題名 ( 英文 )TheanalysisofReelin-Dab1signalingpathwayforlayerformationof cerebralcortex. 研究代表者本田岳夫 (HONDATAKAO) 慶應義塾大学 医学部 助教研究者番号 :30365225 研究成果の概要 : Dab1 は脳の細胞配置に必須の細胞内タンパク質であるが 我々は最近 Dab1 が一つの核内移行シグナルと二つの核外移行シグナルを持つ 核細胞質間シャトルタンパク質であることを明らかにした 本研究計画により Dab1 の核細胞質間シャトリングの意義を明らかにしようと試みた その過程で Dab1 がさらにもう一つ別の核移行シグナルを持つことを明らかにし その核移行に重要な配列を同定した 交付額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合計 2007 年度 1,900,000 0 1,900,000 2008 年度 1,400,000 420,000 1,820,000 年度年度年度総計 3,300,000 420,000 3,720,000 研究分野 : 総合領域科研費の分科 細目 : 神経科学 神経解剖学 神経病理学キーワード : 神経発生 分化 異常 1. 研究開始当初の背景発生期の大脳新皮質において 脳室帯で誕生したニューロンは脳表面に向かって移動し 辺縁帯直下で移動を終了させ 樹状突起を発達させた後 皮質と呼ばれる層構造を作る これまで 辺縁帯の細胞から分泌される Reelin が 移動ニューロンの細胞内にあるアダプタータンパク質 Dab1 をリン酸化し ニューロンの移動や配置に大変重要な役割を果たしている事が 変異マウス ( それぞれ reeler と yotari) の解析等から明らかにされてきた reeler は 脳の層構造に異常を示す 自然発症ミュータントマウスとして古くから知られており ニューロンの移動 配置メカニズムを解析するための 非常に重要な研究対象として 50 年以上前から多くの研究者により研究されてきた ( 図 1)

図 1: 野生型 reeler yotari マウスの大脳新皮質における細胞体の配置の違い 核を染色しており 細胞体の位置を示している reeler マウスは 長い間その原因遺伝子が不明であったが トランスジーンの挿入によって 偶然作成された変異マウスの解析から 1995 年に reelin の cdna がクローニングされた reelin のコードするタンパク質は 3461 アミノ酸からなる巨大な糖タンパク質で 辺縁帯にある Cajal-Retzius 細胞から分泌されることが明らかになった (D Arcangeloet al.,nature374,719-723,1995,ogawaet al.,neuron,14,899-912,1995) Dab1 は PhosphoTyrosineBinding(PTB) ドメインを持つアダプタータンパク質としてクローニングされたが そのノックアウトマウスと自然発症ミュータントマウス (yotari) の脳構造の異常が reeler とほとんど同じ表現型を示すことや reeler で Dab1 のタンパク質量が上昇していること 培養ニューロンに Reelin を加えると Dab1 のリン酸化が起こることなどから Dab1 が Reelin の下流分子であることが明らかとなった (Sheldonetal.,Nature,389,730-733, 1997) しかしその後 Reelin-Dab1 シグナルがどのような分子に伝達され どのようにニューロンの配置を制御し 大脳新皮質層形成に関与しているかは Dab1 の下流にある分子が特定されていないこと Reelin-Dab1 シグナルの生理的機能が不明である為に 適当な実験系が存在しないことなどから 未だ明確な答えは得られておらず 神経発生分野の大きな未解決問題の一つとなっている 我々は dab1 に対する smallinterfering RNA(siRNA) 発現ベクターを 子宮内の胎児脳にエレクトロポレーション法により導入し dab1 をノックダウンし invivo でのニューロンの移動 発達過程を詳細に観察した その結果 通常は脳表面に向かい十数本分岐を行う樹状突起が 一 二本分岐を持つのみになる等 樹状突起形成に異常が集中して観察された 一方 分散培養 dab1 欠損ニューロンは Reelin 存在下で正常ニューロンと同様に樹状突起を発達させた為 ニューロンが単独で分化する様な場合には Dab1 は樹状突起の形成に必須ではないことが判明した しかしながら dab1 のノックダウン reeler マウス両方で 樹状突起形成の異常が観察されていることから Reelin-Dab1 シグナルは 生体内で樹状突起形成に重要な役割を担っていると考えられた 2. 研究の目的上記の実験結果は Dab1 は invivo におい て 樹状突起形成に直接働いている可能性は否定出来ないものの それに加えて 樹状突起形成を制御する スイッチ的役割をしている可能性が非常に高いことを示していると考えた つまり ニューロンは内在的に 樹状突起を形成するプログラムを持っており ニューロンの移動中はそれが外的な環境 ( 例えば 移動時の足場となる様な radialfiber 等 ) で抑制される一方 Reelin 刺激後は Dab1 が何らかの方法でその抑制を解除し 樹状突起形成の方向に向かわせる という仮説が考えられた また最近申請者は これまで細胞質タンパク質であると思われてきた Dab1 が 核へ移行する為の配列 ( Nuclear Localization Signal:NLS) と 細胞質へ移行する為の配列 (NuclearExportSignal:NES) を両方持ち 核と細胞質の間を両方向に移動している核細胞質間シャトリングタンパク質である事 タンパク質の核外輸送を行う Crm1 に直接結合することを明らかにした (Hondaand Nakajima,JBC,38951-65,2006) 図 2:Dab1 の核移行の検出 LeptomycinB による核外輸送の阻害により Dab1-EGFP 融合タンパク質 ( 緑 ) が核に蓄積するようになる 核は Histone で染色 ( マジェンダ ) これ迄に見いだされてきた核細胞質間シャトルタンパク質の多くは転写因子及び 転写制御因子等 (Smad β-catenin STAT NFAT ERK1/2 Brn2 等 ) である これらのタンパク質は リガンドによる刺激のない状態で 細胞質あるいは核に局在すると考えられてきた しかし最近の研究では これらが核細胞質間シャトルタンパク質であり 細胞外のシグナルが何らかの方法 ( 細胞内局在を変化させる リン酸化状態を制御する等 ) で これらの転写因子 転写制御因子の核への移行を促進 抑制したり あるいはその活性を変化

させる等して そのターゲットとなる遺伝子の発現制御を行う事が明らかになってきている (ZieglerandGhosh,Sci.STKE,284, re6,2005) これらの事実より我々は Dab1 が核移行し 遺伝子発現をコントロールすることで 樹状突起形成を制御している可能性があるのではないかと考えた そこで本研究計画では Dab1 の核内外への移行の樹状突起形成における意義を明らかにする目的で研究を行った 3. 研究の方法申請者はこれまでの研究において Dab1 の核移行 ( または核内での機能 ) が Reelin-Dab1 シグナルに必要かどうかを区別する為に invivo における樹状突起形成での Dab1 の核内外移行の必要性を 子宮内エレクトロポレーション法で検証してきた sirna を用いてニューロンの dab1 をノックダウンすると 樹状突起形成が阻害されるが ここに同時に NES NLS を除いた Dab1(siRNA 標的配列を含まない様に変異を導入したもの ) を外来性に導入し 樹状突起形成の誘導能を観察した NES を除いた Dab1 は核に局在し 樹状突起形成のシグナルを ON にし 樹状突起形成が正常に戻る事が NLS を除いた Dab1 は細胞質に停留するため 遺伝子発現は OFF のままで 樹状突起形成の異常を回復出来ない事が予想される しかしながら Dab1 の強制発現が ニューロンの移動を障害し 樹状突起形成を行う前の段階で移動を終了してしまい 結論が得られなかった そこで 本研究計画では Dab1 の発現量を本来の発現量に保つ為 Dab1 の NLS に変異を導入したノックインマウスを作成し Reelin シグナルの伝達 および樹状突起形成における Dab1 の核移行の必要性を検証することにした NLS に変異を導入した Dab1 は核移行出来ない為 Dab1 の核細胞質間シャトリングが阻害され Reelin によって Dab1 に伝達されたシグナルが細胞質内でのみ完結することになる もし Dab1 の核移行が Reelin シグナル伝達に必要なのであれば このノックインマウスは reeler や yotari と同様に層構造や樹状突起形成に異常が観察されるはずである 4. 研究成果核移行の生理的意義を調べる為に核移行の行えない Dab1 の作成を試みた 核移行の検出は以下のように行った Dab1 は核細胞質間シャトルタンパク質であり 培養細胞に発現された場合 核と細胞質間を恒常的にシャトリングしていると考えられる しかしながら核外輸送の速度あるいは効率が核内輸送よりも勝っている為 細胞質に停留しているように観察される Dab1 の核外輸送は主に Crm1 によって担われていることが我々の研究により明らかになっているので Crm1 の阻害薬である LeptomycinB(LMB) を培養液中に添加し Crm1 の働きを阻害してやる その結果 もし Dab1 が核移行活性を有しているならば Dab1 の核への蓄積という形で Dab1 の核移行を検出することができる ( 図 3) 図 3:Dab1 の NLS,NES の位置 (A) と Dab1 の核移行検出方法 そこで申請者が以前同定した N 末端側の核移行シグナルを形成する 6 つのリジン残基全てをアラニンに変異させた Dab1 変異体を作成し 培養細胞に発現させ LMB を加えて 12 時間反応させた その結果意外な事に 変異 Dab1 タンパク質の核への蓄積が観察された ( 図 4) 図 4:Dab1 の N 末端側の NLS に変異を加えても Dab1 は核移行出来る

変異を導入した Dab1 の NLS 配列は別のタンパク質と結合させても機能しうることを考え合わせると この結果は 既知の核移行シグナル以外に別の核移行シグナルがある可能性を示唆していた 既知の核移行シグナル以外にどの配列が Dab1 の核移行に必要なのかを明らかにする為 変異体解析を行った これ迄の報告から 既知の核移行シグナルに一致しない核移行シグナルであっても リジンとアルギニン残基の使用頻度が高い事が報告されていたため (Baetal.,BMCBioinformatics.2009) Dab1 のリジン アルギニンの頻度が高い部分のアミノ酸 ( それぞれ塩基性アミノ酸クラスター A から I と命名 ) をアラニンに置換し どの塩基性アミノ酸クラスターが核移行するのに重要かをスクリーニングした NLS に加えて順々に塩基性アミノ酸クラスターへの変異を蓄積して行き 計 12 種類の Dab1 変異体を作成し LMB 添加後の Dab1 の細胞内局在を観察定量した その結果 三つの Dab1 変異体について LMB 添加時の核移行の阻害が観察された ( 図 5) 培養神経細胞を用いて行ったが 同様に LMB 添加時に観察される核移行は観察されなかった これらの結果より 塩基性アミノ酸クラスター C への変異の導入は Dab1 の N 末端側の NLS に依存しない核移行を阻害する可能性が示された ( 図 6) 図 6:Dab1 は N 末端側の NLS 以外にも核移行シグナルを持ち 塩基性アミノ酸クラスター C への変異の導入により その核移行活性が阻害される 図 5:N 末端側の NLS 以外の核移行シグナルのスクリーニング 次に NLS とどの塩基性アミノ酸クラスターの組み合わせが核移行を阻害するのが調べた所 PTB ドメイン中の 2 つのリジン ( 塩基性アミノ酸クラスター C に相当 ) をアラニンに置換した Dab1 変異体でのみ NLS との組み合わせで LMB 添加時の核移行が阻害されることが明らかになった また 塩基性アミノ酸クラスター C 単独では核移行の阻害は観察されなかった これらの実験をさらに HEK293T 細胞 および大脳新皮質由来の初代 次に核移行がほとんど阻害された Dab1 変異体が Reelin のレセプターである ApoER2 と結合出来るかどうか確認した HEK293T 細胞に ApoER2 発現プラスミドと (1) 野生型 Dab1 (2)NLS に変異を導入した Dab1 (3) 塩基性アミノ酸クラスター C に変異を導入した Dab1 (4)NLS と塩基性アミノ酸クラスター C 両方に変異を導入した Dab1 をそれぞれ共発現させ 細胞を溶解後 Dab1 を免疫沈降し ApoER2 の結合の有無を観察した その結果 野生型および NLS へ変異を導入した Dab1 は ApoER2 への結合が示され 結合量も変化なかったが 塩基性アミノ酸クラスター C への変異の導入は ApoER2 への結合を著しく ( 約 1/10 程度 ) 減少させ NLS 及び塩基性アミノ酸クラスター C 両方への変異の導入は ApoER2 への結合を完全に阻害することが明らかになった また 核移行が阻害される他の Dab1 変異体の ApoER2 への結合活性を調べたが ApoER2 には結合出来ないことが同様に観察された Dab1 の ApoER2 と VLDLR への結合は Reelin シグナルの伝達に必須であるので Dab1 の核移行を阻害しつつ ApoER2 と VLDLR に結合出来る Dab1 変異体を新たに探索することにし

た 塩基性アミノ酸クラスター C への変異は二つのアミノ酸への変異であるので 一つずつのアミノ酸に変異を導入し ( それぞれ Dab1 NLS+C1 Dab1NLS+C2) ApoER2 への結合能を有するか確認した その結果 NLS と塩基性アミノ酸クラスター C のアミノ酸一つずつの変異では ApoER2 への結合を阻害しないことが示された そこでこれらの Dab1 変異体の核移行が阻害されるか確認したところ LMB 存在下で Dab1NLS+C1 は 80% 近くの細胞で核への蓄積が確認され Dab1NLS+C2 は核への蓄積を示す場合が 30% 程と減少したが 核移行を完全に阻害することは出来なかった Dab1 の ApoER2 への結合実験が共通して示していることは核移行出来ない Dab1 は ApoER2 へも結合出来ないこと 核移行が行える Dab1 は ApoER2 へも結合出来ることであったので 我々はこれらの実験事実より 次の 3 つの可能性を考えた (1)Dab1 の PTB ドメインは ApoER2 や VLDLR 等の NPxY モチーフを認識して それらの細胞内ドメインに結合するが Dab1 の NPxY モチーフへの結合が核移行に必須である可能性 ( 核内輸送に NPxY モチーフを持つタンパク質が関与している場合があることを想定 ) (2)N 末端側の NLS に依存しないほうの Dab1 の核内輸送を担うタンパク質が 核移行にも必要であるが ApoER2 等への結合にも必要である可能性 ( つまり 核移行に関与する何らかのタンパク質が Dab1 に結合することにより Dab1 の ApoER2 への結合を促進することを想定 ) (3)Dab1 への変異の導入が ApoER2 への結合に必要な部位の立体構造に二次的に影響した可能性 ApoER2-Dab1 複合体の立体構造は既に報告されており ApoER2 と Dab1 との結合に必要なアミノ酸が明らかになっていたので Dab1 が NPxY モチーフに結合することが核移行に必要なのか (1 の可能性 ) を調べた N 末端側の NLS への変異とともにレセプターへの結合に必要な 114 番目のセリンと 158 番目のフェニルアラニンに変異を持つ Dab1 変異体は ApoER2 への結合は出来なくなったが 核への移行は阻害されなかった この実験結果より Dab1 の NPxY モチーフを持つタンパク質への結合は Dab1 の核内輸送には必要ではないことが示された 2 と 3 の可能性については研究期間内に証明を終えることが出来なかった 実験開始当初に設定した計画では 核移行を完全に阻害した Dab1 変異マウスを作成する予定であったが Dab1 の核移行が二つの経路で担われている可能性があること Dab1 の核移行と Reelin レセプターへの結合がリンクしている可能性が示唆される等 実験開始当初には予想出来なかった実験結果により 研究計画の変更を余儀なくされた しかしな がら Dab1 の核移行の意義を明らかにする基礎となる実験結果が得られたと考えており Reelin-Dab1 シグナルの細胞内情報伝達機構の理解に向けての確実な一歩となったと考えている 今後 Dab1 の核移行と Reelin レセプターへの結合がどのような関係にあるのかを明らかにしていく事により Reelin-Dab1 シグナルの本質的理解につながるのではないかと期待している 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 0 件 ) 学会発表 ( 計 5 件 ) 1) 本田岳夫 徳永亮 仲嶋一範 大脳皮質発生過程における Dab1 の核細胞質間シャトリングの生物学的意義の解明 第 114 回日本解剖学会全国学術集会 岡山 2009 年 3 月 28-30 日 2) 本田岳夫 仲嶋一範 Dab1 の核細胞質間シャトリングが大脳皮質層形成に果たす役割の解明 第 3 回神経発生討論会 岡崎 2009 年 3 月 12-13 日 3 ) Takao Honda and Kazunori Nakajima Mouse Disabled1 (Dab1), an essential componentinlayerformationofcerebral cortex,isanucleocytoplasmicshuttling protein. SocietyforNeuroscience,37th Annual Meeting, San Diego, CA, U.S.A., 2007 年 11 月 3-7 日 4) 本田岳夫 仲嶋一範 大脳皮質層形成を制御するマウス Dab1 は核 - 細胞質間をシャトリングする 第 30 回日本神経科学大会 第 50 回日本神経化学会大会 第 17 回日本神経回路学会大会合同大会 (Neuro2007) 横浜 2007 年 9 月 10-12 日 5) 本田岳夫 仲嶋一範 大脳皮質層形成を制御するマウス Dab1 は核 - 細胞質間シャトリングタンパク質である 第 35 回慶應ニューロサイエンス研究会 東京 2007 年 6 月 9 日 図書 ( 計 0 件 ) 産業財産権 出願状況 ( 計 0 件 ) 取得状況 ( 計 0 件 )

その他 6. 研究組織 (1) 研究代表者本田岳夫 (HONDATAKAO) 慶應義塾大学 医学部 助教研究者番号 :30365225 (2) 研究分担者なし (3) 連携研究者なし