新収益認識基準に関するFASB及びIASBの改訂案

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従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

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(1) 契約の識別契約の識別にあたって 厳密な法律上の解釈まで必要とするのか あるいは過去の商慣習等で双方の履行が合理的に期待される程度の確認で済むのかが論点となります 基本的に新しい収益認識基準では 原則として法的な権利義務関係の存在を前提とします また 業界によっては 長年の取引慣行のみで双方が

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ならないとされている (IFRS 第 15 号第 8 項 ) 4. 顧客との契約の一部が IFRS 第 15 号の範囲に含まれ 一部が他の基準の範囲に含まれる場合については 取引価格の測定に関する要求事項を設けている (IFRS 第 15 号第 7 項 ) ( 意見募集文書に寄せられた意見 ) 5.

開発にあたっての基本的な方針 97 Ⅰ. 範囲 102 Ⅱ. 用語の定義 110 Ⅲ. 会計処理等 114 (IFRS 第 15 号の定め及び結論の根拠を基礎としたもの ) 基本となる原則 収益の認識基準 117 (1) 契約の識別 117 (2) 契約の結合 121 (

質問 2 財務諸表作成者の実務負荷及び監査人の監査負荷を必要以上に増大させる契約の分割には反対である その理由は以下のとおりである 当初の取引価格算定時点においては 契約の分割と履行義務の識別という2 段階のステップを経ずとも 履行義務の識別が適正になされれば適正な取引価格が算定可能である 契約の分

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CL23 PwCあらた監査法人 平成 28 年 5 月 31 日 企業会計基準委員会御中 PwC あらた監査法人品質管理本部アカウンティング サポート部 収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集 に対するコメント 拝啓時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます さて 貴委員会から

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に暫定的に合意した 特定の状況 ( 例えば 企業に税務当局との未解決の係争がある状況 ) に範囲を限定しようとすると 恣意的なルールにつながるであろうと考えたからである ただ 2015 年 1 月の委員会の議論で 繰延税金を含まないことに対する懸念が出され 最終的には当期税金及び派生する繰延税金を対

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どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

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平均株価は 東証が公表する当該企業普通株式の終値の算術平均値を基準とした値とする 調整取引の結果 経済的には自社株を平均株価で取得したのと同様の結果となる 企業は株価上昇時の支払いのために 証券会社に新株予約権を割り当てる ステップ 3 : 株価上昇時は 新株予約権が権利行使され 差額分に相当する株

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2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

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1. 口座管理機関 ( 証券会社 ) の意見概要 A 案 ( 部会資料 23: 配当金参考案ベース ) と B 案 ( 部会資料 23: 共通番号参考案ベース ) のいずれが望ましいか 口座管理機 関 ( 証券会社 ) で構成される日証協の WG で意見照会したところ 次頁のとおり各観点において様々

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2019 年 3 月期第 2 四半期決算短信 IFRS ( 連結 ) 2018 年 10 月 31 日 上場会社名 アイシン精機株式会社 上場取引所東名 コード番号 7259 URL 代表者 ( 役職名 ) 取締役社長 ( 氏名 ) 伊勢清貴 問合せ先

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Transcription:

KPMG Insight Vol. 15 / Nov. 2015 1 新収益認識基準に関する FASB 及び IASB の改訂案 有限責任あずさ監査法人 マネジャー長谷川ロアンマネジャー渡辺直人 IFRS アドバイザリー室 米国財務会計基準審議会 (FASB) と国際会計基準審議会 ( IASB )( 以下 両審議会 という ) は 2014 年 5 月に実質的に内容が同じ新収益認識基準 (FASB ASU 第 2014 09 号 顧客との契約から生じる収益 (Topic 606 ) IFRS 第 15 号 顧客との契約から生じる収益 ) を公表し その円滑な適用を促進するために 2014 年 6 月に合同の移行リソース グループ (Transition Resource Group, 以下 TRG という) を組成しました TRG は 新収益認識基準の適用上の論点について継続的に議論を行っており これまでの議論を受け 一部の論点については両審議会において検討することを決定しました その成果として 両審議会は 2015 年 5 月以降 新収益認識基準の明確化に関する改訂案をそれぞれ公表していますが 両審議会のアプローチに相違点があります 本稿では 両審議会の提案の概要について解説します なお 文中の意見に関する部分は 筆者の私見であることをあらかじめお断りします はせがわ長谷川ロアン 有限責任あずさ監査法人 IFRS アドバイザリー室マネジャー ポイント 今回の両審議会の改訂案は 収益認識に関するコア原則を変更するものではない 両審議会は 新収益認識基準の適用に多様性が生じる可能性がある論点を中心として より明確な考え方や処理方法を定めるための改訂を提案している 公開草案を公表するにあたり FASBはより細かい改訂を提案しており 2015 年 5 月以降に論点別に3つの会計基準更新書 ( 以下 ASU という) 案を公表している これに対して IASB は最低限の改訂を提案しており 2015 年 7 月にすべての改訂案を1つの公開草案として公表している FASB が提案する改訂は 1 履行義務の識別 2ライセンス 3 本人または代理人の検討 4 回収可能性およびステップ 1 に該当しない契約の会計処理 5 現金以外の対価の測定 6 顧客から回収する売上税等の表示 7 移行時の実務上の便法に関する論点に対応している 一方 IASB は一部の論点に対応する改訂を提案していない また 両審議会が共に改訂を提案している論点についても 提案された文言に一定の相違がある そのため 収益認識に関する会計処理に相違が生じる可能性がある わたなべなおと渡辺直人有限責任あずさ監査法人 IFRS アドバイザリー室マネジャー

2 KPMG Insight Vol. 15 / Nov. 2015 Ⅰ 改訂に関するアプローチ 新収益認識基準のコア原則は 企業が収益の認識を 財 サービスの顧客への移転をその財 サービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように行うということです この原則を達成するために 企業は 図表 1の5つのステップに基づいて収益を認識します 今回の両審議会の改訂案は 収益認識に関するコア原則を変更するものではありませんが 一部のステップ 適用指針や移行規定に関する改訂を提案しています 公開草案を公表するにあたり FASB はより細かい改訂を提案しており 2015 年 5 月以降に論点別に3つのASU 案を公表しています これに対して IASBは適用上の論点への対処と 改訂を行った場合の実務上の混乱等とのバランスを考慮し 改訂箇所を最低限にすることとし 2015 年 7 月にすべての改訂案を 1つの公開草案として公表しています 今後 他の適用上の論点が生じる可能性がありますが IASB は新収益認識基準の適用後レビューを行うまでさらなる改訂は避ける方針です 両審議会において検討された適用上の論点及び公開草案の概要は図表 2のとおりです 両審議会が同じ論点について改訂を提案している場合でも その提案における文言は同じではない場合があり その中には会計処理に相違が生じる可能性 があるものもあります Ⅱ 両審議会の改訂案により対処される論点 1. 履行義務の識別 履行義務とは 顧客との契約の中の他の約束と区分して識別可能である財 サービスを移転する約束をいいます 新収益認識基準において 企業は 顧客に財 サービスを移転することで履行義務を充足した時点で または充足するに従い一定の期間にわたって収益を認識します 収益認識モデルのステップ 2において 以下の 2つの要件をともに満たす場合には 顧客に約束している財 サービスを別個の履行義務として会計処理します 要件 1 顧客がその財 サービスからの便益を それ単独でまたは顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができる ( すなわち その財 サービスが別個のものとなり得る ) 要件 2 財 サービスを顧客に移転するという企業の約束が 契約に含まれる他の約束と区分して識別可能である ( すなわち 契約の観点においてその財 サービスが別個のものである ) 新収益認識基準では 2 つ目の要件を満たすことを示す指標 図表 1 収益認識の 5 つのステップ ステップ 1 契約の識別 ステップ 2 履行義務の識別 ステップ 3 取引価格の決定 ステップ 4 取引価格の各履行義務への配分 ステップ 5 収益の認識 図表 2 両審議会の各論点に対する提案の概要 論点 FASB IASB 履行義務の識別 ライセンス 本人または代理人の検討 回収可能性及びステップ 1 の要件に該当しない契約の会計処理 現金以外の対価の測定 顧客から回収する売上税等の表示 移行時の実務上の便法 - 完了済契約 - 契約変更 - 開示 ASU 案 顧客との契約から生じる収益 : 履行義務の識別及びライセンス (2015 年 5 月 12 日公表 ) ASU 案 顧客との契約から生じる収益 : 本人または代理人の検討 ( 総額表示または純額表による収益の報告 ) (2015 年 8 月 31 日公表 ) ASU 案 顧客との契約から生じる収益 : 限定的な改善及び実務上の便法 ( 2 0 1 5 年 9 月 3 0 日公表 ) 公開草案 (ED/2015/6) IFRS 第 15 号の明確化 (2015 年 7 月 30 日公表 ) 改訂を行わないことを決定 公開草案 (ED/2015/6) IFRS 第 15 号の明確化 (2015 年 7 月 30 日公表 )

KPMG Insight Vol. 15 / Nov. 2015 3 として 以下の 3 つの要因が例示されていますが TRG の議論 において これらの要因のうち 3 つ目の要因が両審議会の意 図より広く適用され 本来複数の履行義務として会計処理す べき履行義務が不適切に単一の履行義務として統合されるお それがあるという懸念が示されました 要因 1 企業が 契約に含まれる財 サービスを他の財 サービスと統合する重要なサービスを提供していない 要因 2 財 サービスが 契約に含まれる他の財 サービスの大幅な修正またはカスタマイズをしない 要因 3 財 サービスが 契約に含まれる他の財 サービスへの依存性や相互関連性が高くない ( 例えば 契約に含まれる他の財 サービスに重要な影響を及ぼすことなく ある財 サービスを購入しないことを決定できる場合 ) この懸念に対処するため 両審議会は図表 3のとおり提案しています FASB は 契約の観点において財 サービスが別個のものであるという要件 2を評価する目的を基準に追記するとともに 要件 2を満たすことを示す3つの要因の文言を改訂することを提案しています これに対し IASBは基準の本文の改訂を行わず 設例を追加 修正することにより その適用方法を明確化することを提案しています また FASB は 契約の観点において重要でない財 サービスの識別に関する規定の追加及び出荷 配送活動に関する実務上の便法の追加についても提案していますが IASB は提案していません 2. ライセンス (1) 知的財産のライセンス新収益認識基準は 知的財産のライセンスが契約に含まれる他の財 サービスと区別できる場合 そのライセンスに関する収益を一時点で認識するか 一定の期間にわたって認識するかを判定するための適用指針を定めています ライセンスが契約に含まれる他の財 サービスと区別できない場合 ライセンスの適用指針を適用せず ステップ 5に定められた一般の規定を適用します 新収益認識基準においては 顧客がライセンス期間にわたり企業の知的財産にアクセスする権利を有する場合は 一定の期間にわたって収益を認識します これに対して 顧客が ライセンスが供与される時点での企業の知的財産を利用する権利を有する場合は 一時点で収益を認識します 以下のすべての要件を満たす場合には 企業の約束が知的財産にアクセスする権利とみなされます 要件 1 要件 2 要件 3 企業は顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが契約で要求されているか または顧客が合理的に期待している ライセンスによって供与される権利により 要件 1において識別された企業活動から生じる正または負の影響に顧客が直接的に晒される 要件 1の活動は その活動の発生に伴い顧客に財 サービスを移転するものではない TRG の議論において 企業が知的財産の形態や機能性を変 図表 3 履行義務の識別に関する両審議会の提案 対処方法 FASB の提案 IASB の提案 財 サービスを識別するための要件 2 及び要件 2 を満たすことを示す 3 つの要因に関する基準の改訂 重要でない財 サービスの識別に関する規定の追加 出荷 配送活動に関する実務上の便法の追加 要件 2を検討する目的は 契約における約束の全体的性質が (ⅰ) 財 サービスのそれぞれを移転する約束であるか それとも (ⅱ) その財 サービスがインプットとなる複合された項目を移転する約束であるかを決定することである旨を明確化する 要件 2を示す3つの要因については 履行義務が区分して識別可能であることを示す要因から 区分して識別可能ではないことを示す要因に変更し 要因 1に統合後のアウトプットの例示を追加し 要因 3における例示を削除する 契約の観点において重要でない財 サービスの識別は要求されないことを明確化する 出荷 配送活動について 以下のとおり明確化する 顧客が財の支配を獲得する前に出荷 配送活動を行う場合 その出荷 配送活動は顧客に対する約束ではなく 財を移転する約束を充足するための活動である 顧客が財の支配を獲得した後に出荷 配送活動を行う場合 その出荷 配送活動は別個の履行義務に該当するか否かの判定を行わず 財を移転する約束を充足するための活動として会計処理することを会計方針として選択できる 基準の改訂はであるが 考え方を明確化するために 区分して識別可能な履行義務及び財 サービスが別個のものではない単一の履行義務の設例を追加 修正する 例えば 設備と据付サービスを提供する契約で その設備がカスタマイズや改変なく機能し 他社がその据付サービスを行うことができる場合 設備を引き渡す約束と据付サービスを提供する約束は 互いに依存性が高くなく 相互関連性も低いため 2 つの履行義務として会計処理する設例を追加する

4 KPMG Insight Vol. 15 / Nov. 2015 更する活動は要件 1 における 知的財産に著しく影響を与える 活動 に該当するものの ライセンスの価値を変更 維持する活動が該当するかどうかが明確ではないことが指摘されました 例えば 映画製作会社のマーケティング活動は ライセンスから生じる映画館の収益に著しく影響を与えますが 映画そのものの形態や機能性を変更するものではないため このようなマーケティング活動を考慮すべきか否かが明確ではありません TRGの指摘に対処するため 両審議会は図表 4のとおり提案しています FASB は 知的財産を重要な独立した機能性を有する 機能的な知的財産 と重要な独立した機能性を有さず 継続的な支援 維持を要する 象徴的な知的財産 に区分し それぞれ以下のとおり会計処理することを提案しています 機能的な知的財産 は 知的財産を使用する権利として会計処理する ただし 財 サービスを顧客に移転しない企業の活動の結果として 知的財産の機能性がライセンス期間中に実質的に変化すると見込まれ かつ 顧客が更新後の知的財産を使用することを契約上または実務上要求される場合はアクセスする権利として取り扱う 象徴的な知的財産 は 知的財産にアクセスする権利として会計処理する このほかに FASB は知的財産をアクセスする権利と使用する権利の判定を行う際に 契約上の制限を除外できることを明確にするとともに 知的財産のライセンスが契約に含まれる他の財 サービスと区別できない場合でも ライセンスを供与する約束の性質を考慮する必要があることを提案しています さらに 知的財産のライセンスに係る収益は 知的財産を顧客に提供し かつ 顧客がその知的財産を使用する権利またはこれにアクセスする権利を使用し 便益を得ることができる期間の期首より前に認識することは認められないことも提案しています これに対し IASB は 要件 1における 知的財産に著しく影響を与える活動 に知的財産の形態または機能性のみならず 知的財産の価値に影響を与える活動も含まれることを示す適用指針の追加を提案しています また 知的財産が重要な独立した機能性を有する場合 企業の活動がその機能性を変化させない限り その知的財産は企業の活動から著しく影響を受けないことを明確化することを提案しています 図表 4 ライセンスに関する両審議会の提案 対処方法 FASB の提案 IASB の提案 ライセンスが知的財産にアクセスする権利に該当するか または知的財産を利用する権利に該当するかを判定するための要件に関する改訂 知的財産の性質に基づいて知的財産を以下の 機能的な知的財産 と 象徴的な知的財産 に区別する 機能的な知的財産 は 重要な独立した機能性を有するため 知的財産を使用する権利とし ライセンスが独立した履行義務を構成する場合 収益を一時点で認識する ただし ライセンス期間中に顧客に財 サービスを移転しない企業の活動により知的財産の機能性が実質的に変更され かつ 顧客が契約または実務上 その変更後の知的財産を使用することが要求される場合は 知的財産にアクセスする権利とする 象徴的な知的財産 は 重要な独立した機能性を有せず 企業による継続的な支援 維持を要するため 知的財産にアクセスする権利とし 収益を一定の期間にわたり認識する 企業の活動は以下のいずれかの場合には 知的財産に著しく影響を与えることを明確化する 企業の活動が 知的財産の形態や機能性を変化させると見込まれる場合 顧客の知的財産から便益を得る能力が 実質的に企業の活動 ( 例えば ブランドの価値を補強または維持する企業の継続的活動 ) から得られるか またはその活動に依存している場合 また 知的財産が重要な独立した機能性を有する場合 企業の活動がその機能性を変化させない限り その知的財産は企業の活動から著しく影響を受けないことも明確化する ライセンスにおける契約上の制限と履行義務の識別 ライセンスを含む履行義務の会計処理における考慮事項 知的財産のライセンスに係る収益認識タイミング ライセンスを顧客に供与する企業の約束の性質の判定 ( 知的財産にアクセスする権利か知的財産を使用する権利かの判定 ) の際に除外できる要因に含まれている時期 地域または用途に関する契約上の制限は 顧客の権利の範囲を定義するものであるが 契約の中の約束の件数を変えるものではないことを明確化する 知的財産のライセンス及び他の財 サービスを含んだ履行義務を一般的な収益認識モデルに基づき会計処理するにあたり ライセンスを供与する約束の性質が知的財産にアクセスする権利 または知的財産を使用する権利のどちらかに該当するかを考慮する必要があることを明確化する 企業が顧客に知的財産を提供し かつ 顧客が知的財産を使用する権利 またはアクセスする権利から便益を獲得可能な期間の開始時点より後でなければ 収益を認識できないことを明確化する 売上高 使用量に基づくロイヤルティに関する例外規定の適用範囲 知的財産のライセンス以外の財 サービスが含まれるロイヤルティに関連する支配的な項目が知的財産のライセンスである場合 ロイヤルティ制限の適用対象となる部分とならない部分を区別せず ロイヤルティ制限をロイヤルティ全体に適用することを明確化する

KPMG Insight Vol. 15 / Nov. 2015 5 なお 両審議会は 各々の改訂案を踏まえ 設例の修正も提案しています ただし 実務上 知的財産のライセンスの内容によっては FASBとIASBの会計処理が異なる可能性があることに留意する必要があります 部分を区別せず ロイヤルティ制限を全体に適用することを明確化することを提案しています 3. 本人または代理人の検討 (2) 売上高 使用量に基づくロイヤルティに関する例外規定の適用範囲知的財産のライセンスの対価が売上高や使用量に基づくロイヤルティの形態をとる場合があります 新収益認識基準においては 対価が変動する場合 認識する収益の額は事後的に重要な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲内に制限されますが 知的財産のライセンスに係る売上高 使用量に基づくロイヤルティについて変動対価の見積りの制限に関する例外規定 ( ロイヤルティ制限 ) も設定しています すなわち 売上 使用が発生する時点と売上高 使用量に基づくロイヤルティの一部または全部が配分されている履行義務が充足される時点のうち 遅い方が発生する時点で 知的財産のライセンスと交換に約束した売上高 使用量に基づくロイヤルティに係る収益を認識します TRGの議論において ロイヤルティが知的財産のライセンス及びその他の財 サービスの対価である場合 ロイヤルティ制限を全体に適用するか ロイヤルティを知的財産のライセンスとその他の財 サービスに区別したうえで 知的財産のライセンスに関連する部分だけに適用するのか等が明確ではないことが指摘されました TRGの指摘に対応するため 両審議会は 図表 4のとおりロイヤルティが知的財産のライセンスに関連する場合またはロイヤルティが関連する支配的な項目が知的財産のライセンスである場合 ロイヤルティ制限の適用対象となる部分とならない 新収益認識基準において 企業に加えて他の当事者が顧客への財 サービスの提供に関与する場合 企業の約束が 財 サービスを提供する履行義務 ( すなわち 企業が本人 ) であれば 対価の総額を収益として認識し 財 サービスの提供を手配する履行義務 ( すなわち 企業が代理人 ) であれば 対価の純額を収益として認識します 新収益認識基準では 企業が 約束した財 サービスを顧客に移転する前にその財 サービスを支配している場合には企業が本人であるとされており 企業が代理人である ( すなわち 企業が 財 サービスを顧客に移転する前にその財 サービスを支配していない ) ことを示す諸指標も定められています ただし これらの諸指標は 在庫リスク 信用リスク 価格決定権や手数料の形式といった従来のリスクと経済価値の概念に基づいているため TRG の議論において支配の原則とリスク及び経済価値に基づく指標がどのように関連するのか またどの会計単位で判定を行うべきか等が明確ではないことが指摘されました さらに 無形の財 サービスに対する支配の適用が困難であるとの指摘もありました 図表 5のとおり 両審議会は これらの論点に対してほぼ同じ内容の改訂を提案しています 図表 5 本人または代理人の検討に関する両審議会の提案 対処方法 支配を判定するための会計単位に関する明確化 支配の原則及びその指標の関連に関する明確化 無形の財 サービスに対する支配の適用に関する明確化 両審議会の提案 別個の財 サービス ( または財 サービスの別個の束 ) ごとに本人または代理人かを判定し 顧客との契約に複数の財 サービスが含まれている場合 企業はある財 サービスについて本人であり 他の財 サービスについて代理人となり得ることを明確化する 企業は 約束の性質を検討するにあたり 顧客に提供する財 サービスを識別し 各財 サービスを顧客に移転する前にその財 サービスの支配が移転しているかどうかを評価することも明確化する 本人または代理人の検討は あくまで支配の原則に基づき行われるものであり 支配の指標はこれを支援するものであることを明確化する 企業が 財 サービスを顧客に移転する前にその財 サービスを支配していない ( すなわち 代理人である ) ことを示す指標を 企業が 財 サービスを顧客に移転する前にその財 サービスを支配している ( すなわち 本人である ) ことを示す指標に変更する 諸指標は網羅的なものではなく また 個々の状況によって関連性のある指標が異なり 関連しない指標があり得ることを明確化する 企業が本人として 他の当事者が顧客に履行するサービスに対する権利の支配を獲得する場合 それによって 企業が他の当事者に 企業に代わって顧客にサービスを提供するよう指示する権利を得ることを明確化する 企業が 他の当事者から提供される財 サービスを 顧客が契約した特定の財 サービスに統合する重要なサービスを提供する場合 企業は特定の財 サービスの移転前に当該財 サービスを支配していることを明確化する

6 KPMG Insight Vol. 15 / Nov. 2015 4. 回収可能性およびステップ 1 の要件に該当しない契約 の会計処理 FASB は 回収可能性の評価の対象範囲 及び ステップ 1 の要件に該当しない契約の会計処理 に関する論点の明確化 を提案しています 一方 IASB は 企業は一般的に対価の回 収可能性の高い契約しか締結しないことに鑑み 回収可能性 の明確化が適用される可能性のある契約は少数であると考え IFRS 第 15 号の改訂を提案していません (1) 回収可能性の評価の対象範囲 新収益認識基準は ステップ 1 において顧客との契約を識 別するための要件の一つとして 企業が財 サービスと交換 に得ることとなる対価の回収可能性が高いことを要求してい ます TRG は 一部の利害関係者が回収可能性の要件を 契約に おいて約束された対価のすべて を回収する可能性を評価すべ きであることを意味すると解釈しており 両審議会の意図より 多くの契約が回収可能性の要件を満たさなくなる可能性を指 摘しています このため FASB は 回収可能性の評価は 契 約において約束された対価のすべてではなく 顧客への移転 が見込まれる財 サービスに対応する部分に対して行われる べき旨を明確化する改訂を提案しています (2) ステップ 1 の要件に該当しない契約の会計処理 新収益認識基準は ステップ 1 における顧客との契約を識別 するための要件に該当しないと判断されたものの 企業が顧 客から対価を受け取った場合 次の 2 つの要件のいずれかに該 当した場合には受け取った対価を収益として認識することを 定めています 要件 1 企業が顧客に財 サービスを移転する残りの義務を有しておらず かつ 顧客が約束した対価のすべてまたはほとんどすべてを企業が受け取っていて返金不要である 要件 2 契約が解約されており 顧客から受け取った対価が返金不要である これらの要件に基づくと 受け取った対価が返金不要であり かつ その対価に対応する履行義務の履行が完了している場合でも 例えば 企業が顧客に財 サービスを移転する残りの義務を有していれば上記の要件を満たしておらず 収益は認識されません このため TRGは 上記の2 要件に基づく会計処理が取引の経済的実態を適切に反映しない可能性があることを指摘していました これを受け FASB は 企業が受け取った返金不要の対価に対応する財 サービスの支配を顧客に移転しており 顧客への財 サービスの移転を停止し かつ 追加的な財 サービスを移転する義務を負わない場合 その返金不要の対価について収益を認識することとする3つ目の要件の追加を提案しています 5. 現金以外の対価の測定新収益認識基準は 現金以外の形態の対価を公正価値で測定することを要求しています TRGは 現金以外の対価を伴う契約に関して (ⅰ) 取引価格を算定する際に 現金以外の対価の公正価値をどの時点で測定すべきか (ⅱ) 現金以外の対価の公正価値が対価の形態と対価の形態以外の理由の両方によって変動する可能性のある取引に 変動対価に対する制限をどのように適用すべきかを議論しました この議論を受け FASB は (ⅰ) 現金以外の対価を契約開始時に測定すべきである旨 及び (ⅱ) 変動対価に対する制限が 対価の形態以外の理由で生じる変動可能性だけに適用される旨 ( 例えば 対価が株式である場合 事後的な株価の変動ではなく 一定の条件を達成した場合に受取可能な追加的な株式について変動対価に対する制限が適用される ) を明確化する改訂を提案しています 一方 IASB は これらの論点は他の基準との重要な相互関係があるため 必要であれば 別個のプロジェクトでより包括的に検討するべきであると決定し IFRS 第 15 号の改訂を提案していません 6. 顧客から回収する売上税等の表示新収益認識基準は 第三者のために回収する金額 ( 一部の売上税等 ) は取引価格の算定から除外することを求めています 新収益認識基準の公表以降 一部の米国の利害関係者は 各法域の税法を評価することのコストと複雑性に関する懸念を示していました これを受け FASB は 政府当局が課す税金のうち 特定の収益生成取引に課され それと同時に発生し 顧客から回収されるもの ( 例えば 売上税 使用税 付加価値税 一部の物品税 ) をすべて取引価格の測定から除外することを 企業が会計方針として選択できることとする改訂を提案しています なお 収入総額に対して課される税金または棚卸資産の調達プロセスのなかで課される税金は この会計方針の選択の範囲から除外しています 一方 IASB は 企業間の比較可能性の確保の観点や 従前の収益認識基準にも類似の要求事項が含まれていたこと等から IFRS 第 15 号の改訂を提案していません 7. 移行時の実務上の便法新収益認識基準は 新収益認識基準の要求事項について (ⅰ) 表示する各報告期間に遡及適用して 比較対象期間を修正再表示する方式 ( 完全遡及方式 ) または (ⅱ) 遡及適用して ガイダンスの適用開始による累積的影響を適用開始日に認識する方式 ( 修正遡及方式 ) のいずれかにより適用することを定めています

KPMG Insight Vol. 15 / Nov. 2015 7 図表 6 移行時の実務上の便法に関する両審議会の提案 対処方法 FASB の提案 IASB の提案 完了済契約の定義を明確にするための改訂 完了済契約に関する実務上の便法 ( 修正遡及方式 ) の追加 完了済契約に関する実務上の便法 ( 完全遡及方式 ) の追加 契約変更に関する実務上の便法の追加 完全遡及方式における開示項目に関する改訂 完了済契約とは 新収益認識基準の適用開始日の前に現行の収益認識基準に基づきすべて ( または ほとんどすべて ) の収益が認識された契約であることを明確化する 修正遡及方式を選択した場合 新収益認識基準の適用開始日において (1) すべての契約 または (2) 完了していない契約のいずれかについて遡及的に新収益認識基準を適用することを選択可能とする実務上の便法を追加する 企業が完全遡及方式または修正遡及方式のいずれを選択する場合でも 新収益認識基準に基づき表示される最も古い事業年度の期首より前に生じた契約変更について合算した影響を一括して反映すればよいとする実務上の便法を追加する 完全遡及方式の場合には IFRS 第 15 号と整合的であるが 修正遡及方式の場合には 新収益認識基準の適用開始日にこの便法を適用することとなる 企業が完全遡及方式を適用する場合 新収益認識基準の適用開始事業年度における新収益認識基準と現行基準の会計処理の差異の影響について開示する必要がないことを明確化する この提案により IFRS 第 15 号における開示規定と整合することとなる 完全遡及方式を選択した企業が 表示する最も古い比較期間の期首より前に完了した契約については 新収益認識基準を適用する必要がないとする実務上の便法を追加する 企業が完全遡及方式または修正遡及方式のいずれを選択する場合でも 表示する最も古い比較期間の期首より前に生じた契約変更について合算した影響を一括して反映すればよいとする実務上の便法を追加する TRGは これらの経過措置を適用するうえで 契約が完了したかどうかをどのように判定すべきかが明確ではないこと 新収益認識基準の適用開始日の前に完了または変更した契約に関する移行時の実務上の便法の適用方法について懸念を示していました これらの懸念に対処するため 両審議会は図表 6のとおり提案しています Ⅲ おわりに 本稿では 新収益認識基準に関する両審議会の改訂案の概要を紹介しました 本人または代理人の検討に関する改訂を除き 両審議会の提案内容については一定の相違があり 会計処理に相違が生じる可能性があるものもあります 米国に重要な子会社を有する状況等においては Topic606に基づく現地財務情報及びIFRS 第 15 号に基づくグループ報告目的の財務情報の双方が必要となる可能性も考えられます このような状況において 今後 新収益認識基準の適用に関する実務上の対応の検討を進めるうえでは 両基準の相違点を理解し 異なる対応が必要となる事項を適切に把握し 効率的かつ効果的な対応を検討することが重要と考えられます 本稿に関するご質問等は 以下の担当者までお願いいたします 有限責任あずさ監査法人 IFRS アドバイザリー室 TEL: 03-3548-5112( 代表番号 ) AZSA-IFRS@jp.kpmg.com

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