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1 ISSN ヨーロッパ日本語教育 JAPANESE LANGUAGE EDUCATION IN EUROPE 14 第 14 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム 報告 発表論文集 The Proceedings of the 14th Japanese Language Symposium in Europe 3-5 September, ヨーロッパ日本語教師会 Association of Japanese Language Teachers in Europe e.v. (AJE) ベルリン シンポジウム実行委員会 The Organising Committee of the 14th Symposium in Berlin

2 本シンポジウム開催にあたり 以下の機関 団体より多大なるご支援を賜りました 心より感謝申し上げます Our heartfelt gratitude to the following organizations and groups 後援 在ドイツ日本国大使館 Botschaft von Japan in Deutschland 国際交流基金 The Japan Foundation ベルリン自由大学 Freie Universität Berlin 協力ドイツ語圏大学日本語教育研究会ドイツ語圏中等教育日本語教師会ドイツ市民大学日本語講師の会 JaFFB 日本語教育研究フォーラム ベルリン

3 目 次 はじめに 1 シンポジウプログラム 3 開会式挨拶 7 ヨヘン シラー ( ベルリン自由大学副学長 ) 神余隆博 ( 在ドイツ連邦共和国特命全権大使 ) 西澤良之 ( 独立行政法人国際交流基金参与 ) イルメラ 日地谷 =キルシュネライト ( ベルリン自由大学日本学科教授 ) 穴井宰子 ( ヨーロッパ日本語教師会会長 ) 講演 基調講演 The CEFR: Nature, Relevance and Current Development 14 Dr. NORTH, Brian(Eurocentres Foundation, EAQUALS) 招待講演学習 教育 評価のための日本語教育スタンダード ( 話技能 ) 23 山内博之 ( 実践女子大学教授 ) 移動する子どもたち に必要なことばの力をどう考えるか 子どもの発達と複数言語 個の視点から 31 川上郁雄 ( 早稲田大学大学院教授 ) 国際交流基金日本語教育スタンダード の構築 日本語能力試験 の改定 及びその連関 40 古川嘉子 ( 国際交流基金日本語国際センター ) 堀恵子 ( 国際交流基金日本語試験センター ) 美しい日本の私 グローバル化とアイデンティティ 50 イルメラ 日地谷 = キルシュネライト ( ベルリン自由大学教授 ) パネルディスカッション テーマ : 日本語教育スタンダード について考える 51 パネリスト : 川上郁雄 ( 早稲田大学大学院 ) 古川嘉子 ( 国際交流基金日本語国際センター ) 山内博之 ( 実践女子大学 ) コメンテーター : 細川英雄 ( 早稲田大学大学院 ) 司会 : 山田ボヒネック頼子 ( ベルリン自由大学 )

4 口頭発表 基礎日本語教育 も 内容の教育 も第一声から日本語で 奨励 実践 授業評価 56 竹下利明 ( ボローニャ大学 ) 日本語 : 教師沈黙型文法授業 自律学習 協働学習の最終的な形 64 渋谷順子 石澤多嘉代 ( ボン大学東洋言語研究所 *) Moodle を利用した日本語コースデザインについて オープンリソースシステムの利用と 可能性 71 夷石須賀子 新井優子 ジロー岩内佳代子 小間井麗 中島晶子 大島弘子 ( パリ ディドロ ( パリ第七 ) 大学 ) 日本語教育における演劇の役割 まほろば国際プロジェクト 79 三隅友子 ( 徳島大学国際センター ) 実習生の日本語教育能力を高めるためのダイアリー活動 紙媒体から SNS へ 87 由井紀久子 中西久実子 中俣尚己 ( 京都外国語大学 ) コミュニティ ランゲージ ラーニングが話技能習得に与える効果 95 小島一江 (GLS Sprachenzentrum, David Berry Language) 日本語教育スタンダードのための語彙表作成の方法 統計指標を用いた話題別分類語彙表 103 橋本直幸 ( 首都大学東京 ) CEFR 能力記述文のレベル別特徴とキーワード 111 福島青史 ( 国際交流基金ブダペスト日本文化センター ) J-CAT (Japanese computerized adaptive test) の得点と Can-do スコアの関連付け 119 今井新悟 ( 山口大学 *) 日本語教育は複言語 複文化主義をいかに解釈するか 127 細川英雄 ( 早稲田大学 ) ケルン日本文化会館における日本語講座改善の試み JF 日本語教育スタンダードの試行を通した初級講座のシラバス見直しを中心に 133 岩澤和宏 三矢真由美 カタリーナ ドゥツス ( 国際交流基金ケルン日本文化会館 ) 古川嘉子 ( 国際交流基金日本語国際センター ) 初等教育レベルへの CEFR 導入の試みとその意義 フランス教育省管轄の海外校における 事例より 141 小間井麗 ( パリ ディドロ ( パリ第 7) 大学 ) CEFR に即した日本語授業の実践報告及びテキスト作りへの提案 149 鈴木裕子 ( マドリード コンプルテンセ大学 )

5 継承日本語教育における評価基準としての CEFR 157 フックス清水美千代 ( バーゼル日本語学校 / バーゼル NSH 教育センター ) E ラーニングサイトの構築 リソース ツールから統合学習環境に向けて 162 蟻末淳 ( ボルドー第三大学 ) 非漢字圏の漢字教育の効率化を目指す漢字のスタンダード化について 170 ヴォロビヨワ ガリーナ ( キルギス日本語教師会 ) CEFR 文脈化のための実践例を取り入れたワークショップ型教師研修 178 櫻井直子 ( ルーヴァン カトリック大学 ) 近藤裕美子 ( 国際交流基金パリ日本文化会館 ) 日本語教育の文脈化を考える 市民社会における plurilingualism/pluriculturalism 概念の理 解と CEFR 186 山川智子 ( 東京大学大学院博士課程 ) Web コーパスを活用したレベル別例文検索システムの開発と評価 194 川村よし子 ( 東京国際大学 ) クリスティナ フメリャク 寒川 ( リュブリャーナ大学 ) 日本語で世界を考える 学習者と社会を結ぶ教育実践 202 新井久容 ( 早稲田大学 ) ワークショップ 多言語版 チュウ太の web 辞書 を用いた語彙学習 210 川村よし子 ( 東京国際大学 ) CEFR 準拠口頭能力評価法 218 萩原幸司 高木三知子 村田裕美子 (OJAE: Oral Japanese Assessment Europe) ポスター発表 CEFR に基づいた初級漢字タスク集の開発 226 齊藤あずさ ( ローマ日本文化会館 / 伊日財団 ) 稲垣厚子 ( ローマ日本文化会館 /Is.I.A.O. ローマ ) 小林玲子 ( シエナ外国人大学 ) 欧州日本語教師研修会に参加した教師の教師成長に関する態度変容 PAC 分析を用いて 227 近藤裕美子 村中雅子 ( 国際交流基金パリ日本文化会館 )

6 JPLANG の LMS の評価と活用のための教師向けマニュアルの作成 228 村木佳子 ( 東京外国語大学大学院 *) 芝野耕司 ( 東京外国語大学アジア アフリカ研究所 ) 日本語学習における映像作品の有用性 学習者の視点の分析 229 保坂敏子 ( 日本大学 ) 奥原淳子 ( 早稲田大学 ) 非漢字系日本語学習者を対象とした漢字の字形学習のための補助教材作成の試み 明朝体活字と手書き文字のずれを中心として 230 岡田さやか ( ベオグラード大学 ) 臼井直也 ( ローマ国立大学ラ サピエンツァ ) ウクライナにおける大学生の日本語学習動機調査 CEFR の言語参照枠を用いて 231 大西由美 ( 北海道大学大学院修士課程 ) ビリーフ調査の因子分析 会話についてのビリーフと語彙学習重視 文法学習重視 232 阿部新 ( 名古屋外国語大学 ) 教師は Can do 記述の試みをどうとらえるか 233 内川かずみ ( エトヴェシュ ロランド大学 ) 柳坪幸佳 ( 国際交流基金ブダペスト日本文化センター ) フランス在住日仏国際家族の日本語継承 学童期後半の国際児と日本人母親による日本語継承行為の意味づけ 234 村中雅子 ( お茶の水女子大学大学院博士課程 ) AJE 案内 235 協力教師会案内 236 あとがき 240 * 本誌に記載されている所属先は 2009 年 9 月のシンポジウム当時のものです 2010 年 4 月現在 所属先に変更のある方々は以下の通りです ( 敬称略 五十音順 ) 今井新悟 ( 旧 ) 山口大学 ( 新 ) 筑波大学 渋谷順子 ( 旧 ) ボン大学 ( 新 ) ボーフム ルール大学 ( ヤポニクム ) 村木佳子 ( 旧 ) 東京外国語大学大学院 ( 新 ) 土日基金文化センター [ トルコ ]

7 はじめに 東 中 北欧 日本 (77 名 ) 韓国 米の計 23 カ国から日本語教育関係者約 250 名を ドイツ連邦共和国 ベルリン自由大学 に迎え開催されました 国際交流基金からは多 第 14 回 AJE( ヨーロッパ日本語教師会 ) 欧州日本語教育シンポジウム は 西 大な ネットワーク助成 を 在ドイツ日本国大使館 ベルリン自由大学からは後援 助成支援を さらにドイツ国内に共存する日本語 3 教師会 ドイツ市民大学日本語講師 の会 ドイツ語圏中等教育日本語教師会 ドイツ語圏大学日本語教育研究会 及び地元 JaFFB 日本語教育研究フォーラム ベルリン の 4 団体からは協力を受ける ことができました また 東京財団から助成支援を受けて OJAE Oral Japanese Assessment Europe:CEFR 準拠口頭表現能力評価法 の制作 研究開発に取り組む AJE- SIG OJAE 研究チーム は 本シンポジウム中 70 分ワークショップを開催しました 同シンポジウム実行委員長は かくも有意義な 日本語教育恊働フォーラム を成功裡 に終了することができましたことを ドイツ シンポジウム実行委員会 30 名及び補佐 役 30 名 総勢 60 名から成る 縁の下の力持ち 係 を代表致しまして ここに深く お礼を申し上げます 本シンポジウムの中心テーマは CEFR: The Common European Framework of Reference for Languages( ヨーロッパ言語共通参照枠組み ( 以下 CEFR)) の日本語 教育への 文脈化 でした 昨今日本でも熱く討議されてきている CEFR は USA( ア メリカ合衆国 ) ならぬ EU 連合というヨーロッパ合衆国 が 2001 年にその 新しき 国 の文化言語的融合政策の一環として規定した 教育基本法 です AJE はこの CEFR をめぐる欧州各国の教育機関 制度の動き 及び CEFR が日本語教育に及ぼす影 響について 2003~04 年に国際交流基金からの委託で事情調査をし 報告書を ヨーロ ッパにおける日本語教育事情と Common European Framework of Reference for Languages 1 にまとめました それから 5 年後の現在 CEFR に叙述される コミュニケーション 中心の人間観 言語教育理念 は 欧州各国教育制度を通して浸透してきており また その 言語能力評価基準 は 1999 年以来ボロニア プロセスとして進められてきた全 欧共通大学機構改革における学業成績評価の共通スケールの基盤となってきています このような EU 圏内での超国家レベルの展開の中で CEFR の日本語教育文脈化 を 課題とする学術研究は 上述 AJE-SIG としての OJAE などをはじめ 次第に多くな りつつあります そこで本シンポジウム実行委員会は プログラム構築に当たり 上記 欧州情勢 時代精神 の把握に立脚し EU 圏内日本語教育が CEFR の謳う 複言 語 複文化主義 という教育哲学 施策をどのように具現化してきているか? 或は すべきか? という問いと真っ向から対峙することを決め 以下の 3 課題をサブテーマ として採択しました 1) 話す 能力とは? 独話力 交話力育成と授業設計 実践を中心に 2) 子どもにとって は? 複数言語 文化力の発達 進化の視座から 3) 日本語教育スタンダード とは? 実行委員会は このテーマ設定をすると同時に 各会員 個 と AJE 団体 としての立場から 以下の 7 点を 期待される成果 として挙げました 1

8 I. 個の立場から 1) 複言語 複文化能力 を育てるための日本語教育とは?- この思考課題に各自が取り組む機会を持つことができる 2) 日本語教育スタンダード をテーマにした各発表に臨席することにより これらの最新展開の実践成果を独自に 把握 判断 評価 できるようになる 3) CEFR に関する最新の展開を知り 他言語教育者とも知見を共有しあうことができるようになる 4) 国際交流基金による 特別プログラム提供 ( 新旧日本語能力試験呈示を含む ) により 日本語教育を世界的 普遍的レベルから把握するようになる II. AJE 団体としての立場から 5) リアル ネットワーク を通じて IT 時代に即した ヴァーチャル ネットワーク をより拡張し 充実させることができる 6) 話技能領域 における授業活動 方策 評価法などに関する更なる実践研究への奨励を図ることができる 7) 子どもの日本語教育領域 での欧州全土に亘る 保護者 日本語教師間 のネットワーク形成 及び研究課題の明示化などが強く期待できる 本シンポジウム実行委員会は 上記 予測点 は着実に具現化されたと信じます なぜなら本報告書中の各論文がそれぞれの成果を雄弁に物語っているからです どのページを繰ってみてもそこに漲る力は読む者を圧倒します これらの成果は同時に次なる発展への出発点でもあります その意味でシンポジウムの企画運営を担当した実行委員会にとって今回の グローカル活動形態 の具現ほど嬉しいものはありません 従来の孤軍奮闘的で ローカル な各個の尽力が グローバル な公開討論の場で共有されたからです 今後の AJE 会員や研究機関のさらなる 成果 を心より待ち望んでやみません 本シンポジウムは 初日の晩の 在独ベルリン日本大使館 助成による留学生交流会を兼ねた 懇親会 2 日目の晩の街を彩る運河巡りを楽しみながらの 船上晩餐会 (165 名参加 ) 終了翌日の OJAE サテライト会議などを通し 本当に ベルリンの夏の熱い集まり となることができました 最後に 改めてドイツ在住 AJE 会員有志 30 名から成るドイツ実行委員会 及び AJE 役員会 司会議事進行役の有志会員 さらに 仕掛人 と染め抜いた T シャツ着用 ( 前年度開催地トルコより 便利屋 の好評アイデア継承 ) の学生アルバイト 14 名の補佐役を含む 総勢 60 名余の 力持ち さらに遠方からご参加戴いた皆様に 心より 熱い お礼を申し上げる次第です 多謝! 山田ボヒネック頼子 ( ベルリン自由大学 ) 第 14 回日本語教育シンポジウム実行委員長 注. 1 ヨーロッパ日本語教師会 独立行政法人国際交流基金 (2005) ヨーロッパにおける日本語教育事情と Common European Framework of Reference for Languages : 2

9 AJE 第 14 回日本語教育シンポジウム 2009 年 9 月 3 日 ( 木 )~5 日 ( 土 ) 於 : ベルリン自由大学 ( ドイツ ) Habelschwerdter Allee 45, Berlin, Germany テーマ :CEFR 欧州参照枠 複言語 複文化力 圏内の日本語教育とは? 1. 話す 能力とは? 独話力 交話力育成と授業設計 実践を中心に 2. 子どもにとって は? 複数言語 文化力の発達 進化の視座から 3. 日本語教育スタンダード とは? 1 日目 9 月 3 日 ( 木 ) 12:00-13:30 受付 13:30-14:00 開会式 14:00-15:10 基調講演 Dr. NORTH, Brian (Eurocentres Foundation, EAQUALS) The CEFR: Nature, Relevance and Current Development 15:10-15:40 休憩 口頭発表 15:40-16:10 竹下利明 渋谷順子 夷石寿賀子 宇佐美まゆみ 石澤多嘉代 新井優子 基礎日本語教 ジロー岩内佳代子 日本語における共 育 も 内容の教 日本語 : 教師沈黙 小間井麗 同発話文とプロフ 育 も第一声から 型文法授業 - 自律 中島晶子 ィシェンシー 日本語で- 奨励 学習 協働学習の 大島弘子 実践 授業評価 - 最終的な形 - Moodle を利用した日本語コースデザインについて- オープンリソースシステムの利用と可能性 - 16:20-16:50 三隅友子 由井紀久子 任榮哲 小島一江 中西久実子 林之賢 日本語教育におけ 中俣尚己 コミュニティ ラ る演劇の役割 -ま ヨーロッパにおけ ンゲージ ラーニ ほろば国際プロジ 実習生の日本語教 る日本文化の発信 ングが話技能習得 ェクト- 育能力を高めるた と日本語教育 - に与える効果 めのダイアリー活 仏 伊 スロベニ 動 - 紙媒体から アにおける大学生 SNS へ- の対日意識を中心に- 17:00-17:30 橋本直幸福島青史今井新悟村上京子 18:00-20:00 歓迎交流会 日本語教育スタン CEFR 能力記述文 J-CAT (Japanese Can-do-statements ダードのための語 のレベル別特徴と computerized とパフォーマンス 彙表作成の方法 - キーワード adaptive test) の得 テストに基づく日 統計指標を用いた 点と Can-do スコ 本語能力判定基準 話題別分類語彙表 アの関連付け の策定 - 3

10 2 日目 9 月 4 日 ( 金 ) 09:00-10:00 AJE 総会 10:10-11:10 講演 I 山内博之教授 ( 実践女子大学 ) 言語素材と言語活動を融合した日本語教育スタンダード ( 話技能 ) による学習 教授 評価 11:10-11:30 休憩 11:30-12:30 講演 II 川上郁雄教授 ( 早稲田大学大学院 ) 移動する子どもたち に必要なことばの力をどう考えるか - 子どもの発達と複数言語 個の視点から - 12:30-14:00 昼食 ポスター発表 12:45-14:00 齋藤あずさ 稲垣厚子 小林玲子 CEFR に基づいた初級漢字タスク集の開発近藤裕美子 村中雅子欧州日本語教師研修会に参加した教師の教師成長に関する態度変容 -PAC 分析を用いて - 村木佳子 芝野耕司 JPLANG の LMS の評価と活用のための教師向けマニュアルの作成品田潤子行動中心主義の言語学習と 基本言語運用力 保坂敏子 奥原淳子日本語学習における映像作品の有用性 - 学習者の視点の分析 - 赤木弥生コンピュータ利用日本語テスト J-CAT- マルチメディア問題アイテムの可能性 - 岡田さやか 臼井直也非漢字系日本語学習者を対象とした漢字の字形学習のための補助教材作成の試み - 明朝体活字と手書き文字のずれを中心として - 大西由美ウクライナにおける大学生の日本語学習動機調査 -CEFR の言語参照枠を用いて - 佐藤純子フランスにおける継承語教育 日本語母語継承語教育の現状と課題阿部新ビリーフ調査の因子分析 - 会話についてのビリーフと語彙学習重視 文法学習重視 - 内川かずみ 柳坪幸佳教師は Can do 記述の試みをどうとらえるか村中雅子フランス在住日仏国際家族の日本語継承 - 学童期後半の国際児と日本人母親による日本語継承行為の意味づけ - 山下貴子カタールの高校生の日本語学習リソース - インタビュー調査結果から - 4

11 14:10-15:40 パネルディスカッション 日本語教育スタンダード について考える パネリスト : 川上郁雄氏 古川嘉子氏 山内博之氏コメンテーター : 細川英雄氏司会 : 山田ボヒネック頼子氏 15:40-16:00 休憩 ワークショップ 16:10-17:20 川村よし子 酒井邦秀 三輪譲二 粟野真紀子 多言語版 チュウ Web 版手書き認識 太の web 辞書 多読 授業と システムを用いた を用いた語彙学習 は?-レベル別読 独習型漢字書字教 み物と市販本を使 授法 った多読授業のすすめ- AJE-SIG: OJAE (Oral Japanese Assessment Europe) CEFR 準拠口頭能力評価法 17:30-18:00 細川英雄 日本語教育は複言語 複文化主義をいかに解釈するか 口頭発表 岩澤和宏三矢真由美カタリーナ ドゥツス古川嘉子 ケルン日本文化会館における日本語講座改善の試み - JF 日本語教育スタンダードの試行を通した初級講座のシラバス見直しを中心に - 小間井麗 鈴木裕子 初等教育レベルへ CEFR に即した日の CEFR 導入の試本語授業の実践報みとその意義 フ告及びテキスト作ランス教育省管轄りへの提案 の海外校における事例より - 19:30-21:30 懇親会 ベルリン運河巡り 夕食会 5

12 3 日目 9 月 5 日 ( 土 ) AJE フォーラム ( テーマ別セッション ) 9:00-10:00 継承語教育 話技能 E-Learning コーディネーター : コーディネーター : コーディネーター : 松尾馨 ロース 牧野泰子 穴井宰子 口頭発表 10:10-10:40 フックス清水美 コスラ恭子 蟻末淳 ヴォロビヨワ ガ 千代 澤潤子 リーナ 榊田美恵子 E ラーニングサ 日本語継承語教 イトの構築 -リ 非漢字圏の漢字教 育における評価 オランダの補習校 ソース ツール 育の効率化を目指 基準としての と継承語校 ( その から統合学習環 す漢字のスタンダ CEFR 他の学校を含む ) 境に向けて- ード化について における学習者の言語背景調査 10:45-11:15 櫻井直子 山川智子 川村よし子 新井久容 近藤裕美子 クリスティナ 日本語教育の文脈 フメリャク 寒 日本語で世界を考 CEFR 文脈化のた 化を考える- 市民 川 える- 学習者と社 めの実践例を取 社会におけ 会を結ぶ教育実践 り入れたワーク る plurilingualism Web コーパスを - ショップ型教師 /pluriculturalism 活用したレベル 研修 概念の理解と 別例文検索シス CEFR- テムの開発と評価 11:25-12:15 講演 III イルメラ 日地谷 = キルシュネライト教授 ( ベルリン自由大学 ) 美しい日本の私 グローバル化とアイデンティティ 12:15-13:10 昼食 13:10-15:30 講演 IV 特別プログラム古川嘉子 堀恵子 ( 国際交流基金 ) 国際交流基金日本語教育スタンダード の構築 日本語能力試験 の改定 及びその連関 15:30-15:45 閉会式 予稿集に掲載されたプログラムに表記漏れおよび表記ミスがございましたため 本誌掲載プログラムにて修正させていただきました 実行委員一同 改めてお詫び申し上げます 6

13 開会式挨拶 Opening Speech Prof. Dr. Ing. Jochen Schiller Vice President of the Freie Universität Berlin Your Excellency, Colleagues and Students, Ladies and Gentlemen, konnichiwa! As Vice President of Freie Universität Berlin it is a great pleasure for me to welcome you on behalf of the Presidium at this 14 th symposium devoted to Japanese Language Education in Europe. Your Excellency, we are immensely pleased, grateful and, indeed, proud that you participate at the opening ceremony of this symposium. On behalf of all of us gathered here this afternoon, I wish to offer you a very warm welcome. I am neither a linguist, nor a language specialist. I am a professor of informatics. And yet I do not need any convincing about the importance of language learning and multilingual competence and we all know that we can learn languages much easier as kids, so we have to start there. We, the Freie Universität Berlin, consider ourselves to be an international network university. In fact, we are a German institution, based at the heart of Europe, and open to the world. And because of this, we also have gone out of our way to provide opportunities for and incentives to our students to learn languages. For example, our bachelor students can devote up to 15 out of a total of 180 credits to language learning. International impulses have shaped the research and teaching environment of Freie Universität ever since its founding in What began as a necessity in order to survive, both at an academic and intellectual level, in its formerly geographically isolated position in West Berlin, rapidly evolved into a successful strategy of Freie Universität: currently, more than 150 partnerships with academic institutions worldwide exist; about 600 foreign scholars contribute to the diversity of our research and teaching. Of our approximately 34,000 students in over 100 subject areas, 16 percent come from abroad. After all, in the German Excellence Initiative, Freie Universität was one out of nine universities that met with success in all three funding lines, thereby receiving additional funding for its institutional future development strategy as an international network university. So I am very pleased that today we will receive another truly international impulse, when colleagues from near and far literally from around the world! together with many participants actively take part in workshops at this symposium. Let me conclude by thanking the organizers for all their efforts setting up this event and the Association of Japanese Language Teachers in Europe for the promotion of the Japanese language. I wish you all a stimulating and enjoyable symposium dedicated to Japanese Language Education in Europe. Welcome again, welcome to Freie Universität Berlin! Arigatoo gozaimasu. 7

14 開会式挨拶 開会式挨拶 神余隆博在ドイツ連邦共和国特命全権大使 第 14 回日本語教育シンポジウムの開催に際し 一言ご挨拶申し上げます 本シンポジウムの主催者である欧州日本語教師会 並びに 今回のベルリン シンポジ ウムの実行委員会関係者の皆様ほか 本シンポジウムの開催にご尽力頂きました皆様に 心より敬意を表します 外国における日本語の普及や日本語教育は 日本語の美しさや日本語によるコミュニケーションの魅力を伝えることを通じ 日本との交流の担い手を育て 日本理解を深める観点から極めて重要なものです 言語を学ぶことは 文化を学ぶことであり 他の文化に対する寛容な姿勢を学ぶことでもあります その意味で 日本語の普及と教育は 文化外交 の柱の一つというべきものであり そのような観点から 皆様の取組は 大変貴重なものと考えております 日本政府としても 国際交流基金やその海外拠点を通じ 各種の日本語普及事業を展開し ているほか 各在外公館において 文化行事 教育広報 日本語作文コンクールなどの各種 催しや 国費留学生制度や JET プログラムなどの日本派遣プログラムを活用し 日本文化や 日本語習得の機会を提供しております そうした中 従来は 日本語習得に関して 就職や 留学のためなど 目的の明確なものが比較的多く見られましたが 最近は 日本のマンガ アニメなどのポップカルチャーや 寿司などの日本食への関心を動機とする者も増えてきて おり 日本語に対するニーズは多様な広がりを示しております しかしながら 欧州における日本語学習人口は 全世界の 2% 程度に留まっており ドイツ社会においても 日本語は 依然として必ずしも広く認知された存在となっているとまでは言えません また 大学において日本語教育を担っている日本部門の一部に再編の動きがあるほか 欧州全体で進行するボローニャ プロセスの影響も懸念されます 中等教育や成人教育の担い手である日本語教師の養成 確保の仕組みも確立されているとは言えません そのような環境の中 日頃 大学 学校 成人教育の場において 日本語教育に取り組んでおられる日本語教師の皆様のご苦労が想像されますが この機 をお借りして 皆様の日本語教育の取組に対し心より感謝申し上げます こうした状況を改善するため 当大使館やドイツ各地の総領事館より関係の政府機関や大学に対し様々な働きかけを行っております その成果の一つとして 昨年 ノルトライン ヴェストファーレン州では 中等教育における日本語教員の養成を促す制度改正が実現したところであり こうした動きが 今後 ドイツの他の州にも及んでいくよう努めていく所存です さて 欧州における言語教育においては 近年 ヨーロッパ言語共通参照枠組み (CEFR) が制定されるなど 戦略的な展開を示しております 我が国においても こうした欧州の動きを視野に入れつつ 国際交流基金において 日本語教育スタンダート 構築に向けた取組を進めています 欧州日本語教師会におかれては 本プロジェクトにも参画いただいており この度のシンポジウムも こうした動きに連動した大変時宜にかなったものです 多くの成果を得られることを望んでやみません 8

15 開会式挨拶 最後になりましたが この度のシンポジウムを通じ 欧州全域の日本語教師の皆様の相互のネットワークが一層強化されるとともに 皆様の日頃の活動や課題に関する知見や 将来に向けた活発な意見が交わされ 日本文化や日本語普及の進展に有意義なものとなりますことを祈念して私の挨拶とします 9

16 開会式挨拶 祝辞 西澤良之独立行政法人国際交流基金参与 穴井会長はじめヨーロッパ日本語教師会の皆様 また山田委員長をはじめとするドイツ AJE 実行委員会の皆様 この度は ここベルリンにおきまして ヨーロッパ日本語教師会 (AJE) 主催の第 14 回欧州日本語教師会の日本語教育シンポジウムが成功裏に開催されましたこと 心よりお慶び申し上げます 1995 年の AJE 設立以来 欧州各国における日本語教育の振興を目指して 250 名を超えるメンバーの皆様の協力と連携のもとで 情報交換や相互協力が進められてまいりました このような AJE の活動は ヨーロッパにおける日本語教育を牽引する非常に重要な役割を担っているものとして 私ども国際交流基金では高く評価いたしております 欧州の日本語教育は CEFR をめぐる動きやその影響 大学機構改革であるボロニア宣言の実現化など 域内の経済的 文化言語的融合の進展に伴う重要な時期を迎えており 各大学や日本語教育機関においても また現場のひとりひとりの教師にとっても 新しい枠組みへの理解が日々求められております 今回のシンポジウムでは 会員の皆様による最新の研究 教育成果の共有とともに CEFR をはじめとする欧州固有の課題や状況について理解を深め 協力して日本語教育の現場に活かしていくための知恵を築いていただく好機であると期待いたしております また 3 日目には特別プログラムとして 国際交流基金日本語教育スタンダードの構築 日本語能力試験の改定 及びその連関 についてということで 時間を取っていただきました CEFR 発祥の地である欧州の日本語教育関係者の皆様と CEFR の枠組みを参考としつつ開発を進めている JF 日本語教育スタンダードや 現在改訂作業を進めており来年には新試験として実施する日本語能力試験の現状を分かち合い ご意見を伺える貴重な機会を頂戴しましたことを改めて感謝申し上げますとともに 多くの方にご参加いただけますよう この場をお借りしてお願い申し上げる次第です このシンポジウムを通じて より多くの 新しい そして前向きな 日本語教育への取り組みと協力関係を築かれることを期待しつつ 国際交流基金からのお祝いのメッセージとさせていただきます 10

17 開会式挨拶 Opening Speech Prof. Dr. Irmela Hijiya-Kirschnereit Japanese Studies of the Freie Universität Berlin Your Excellency, Ambassador Shin yo, Mr. Shimizu, Ms. Anai, Vice-President Schiller, participants and guests On behalf of Japanologie or the Japanese Studies Dept. of Freie Universität, I want to extend a hearty welcome to all of you, and I am delighted to see that you have come in such numbers from many corners of this continent and beyond! Japanese Studies appear to have drawn less attention in the past decade or so, at least this is the impression one gets when talking to diplomats, economists or media people who tend to view area studies as service institutions for gateways into particular problem areas or world economies, which, of course, they also are. But in spite of the fact that the bulk of public attention is recently drawn to China and other Asian countries, let me assure you that Japanese Studies is very much alive and thriving these days. We have large application numbers for our program every year, matching those for Chinese Studies, by the way, and Japanese Studies is an essential partner and member in many of the newly founded International Graduate Schools and interdisciplinary research clusters at this University. Language education is, needless to say, a core aspect of our program, and I have been monitoring over the years and decades how this is being more and more professionalized. The existence of an association like the AJE is just one indication of this process. As a matter of fact, at the Freie Universität, we tried to install a program for the teaching of Japanese as a Foreign Language as early as 1995, with Dr. Yamada-Bochynek acting as the main driving force in this endeavor. It seems that then, the time was not ripe yet for this kind of specialized teaching education. But the situation has changed greatly on all levels, and we have now finally come to the point where, with the active support of our University and the approval of the Senator for Education, Science and Research of the State of Berlin, we can implement such an MA program very soon, and this actually should be the first program for teaching Japanese as a Foreign Language in a University of the German speaking countries. It is a wonderful coincidence - but, of course, not quite coincidental - that this conference, with its topic of Japanese Education in the context of CEFR, the Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment, is taking place here at the Freie Universität of Berlin. It was put together by the Council of Europe as the main part of the project "Language Learning for European Citizenship" between 1989 and Its main aim is to provide a method of assessing and teaching which applies to all languages in Europe. And of course, Japanese is a language which is also part of the European linguistic sphere. At the Freie Universität, our central Language Center is cooperating closely with the European Language Council, and as a matter of fact, the permanent secretariat of its Association is located here. In this context, let me point out another big venture which the Japanese Studies Dept. of the Freie Universität has shouldered: We are working on a Comprehensive Japanese-German Dictionary (Großes japanisch-deutsches Wörterbuch, or Wadoku daijiten), the largest bilingual dictionary that has ever existed for Japanese and a foreign language. This fall will see the publication of the first 11

18 開会式挨拶 volume, A - I, with more than entries and literally countless compounds, with more than sample sentences with sources given, from newspapers, periodicals, advertising, scholarly works and literature. This dictionary covers modern Japanese from early Meiji through the 21 st century, with general as well as special vocabulary from all realms of knowledge, from architecture and computer technology through law, economics, and culture. You will find a project description on our Japanese studies homepage, and the book announced under Großes japanisch-deutsches Wörterbuch in the internet, and very soon in the shelves of large bookstores as well. So you see that we are indeed devoted to making Japanese more accessible here in Europe. But back to our conference. I want to assure you that with the relevance and timeliness of this conference s topic in face of next year s Bologna Declaration target, Berlin is, as I see it, just the right place to deal with all its aspects for Japanese Language Education in Europe. Let me thank the Japan Foundation and the Embassy of Japan for their generous support of this conference. We also owe great thanks to Dr. Yoriko Yamada-Bochynek, chair of the executive committee, for making this event happen. With her never-tiring enthusiasm, and with her very supportive local team, they have worked very hard for the past months. Thank you so much, Yoriko-san, and your team! I know that they have been feverishly waiting for this day to come. Now it is here at last. I wish all participants a very stimulating and electrifying conference and a very pleasant stay in Berlin. それでは皆さん 実り多い会議と 楽しいベルリン御滞在を! 12

19 開会式挨拶 開会式挨拶 穴井宰子ヨーロッパ日本語教師会会長 皆様こんにちは AJE(Association of Japanese Language Teachers in Europe: ヨーロッパ日本語教師会 ) の会長を務めさせていただいております穴井です まず 第 14 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウムの開催にあたり お忙しい中 ご臨席いただきました神余隆博在ドイツ日本国大使館特命全権大使 ベルリン自由大学シラー教授 国際交流基金清水様 ベルリン自由大学日本学科日地谷教授に 心より感謝いたします 今日は このベルリン自由大学に 24 カ国 210 数名の参加者が集いました このような規模の大会開催に当たりましては多くの皆様のご支援とご協力をいただいております ご支援いただきました国際交流基金 ベルリン自由大学そして 在ドイツ日本国大使館 またいろいろな意味で多面的にご協力いただいたドイツ市民大学日本語講師の会 ドイツ語圏大学日本語教育研究会 ドイツ語圏中等日本語教師会 日本語教育研究フォーラムベルリンの皆樣方にこの場を借りてお礼を申し上げます これまでの AJE 大会は 開催国の日本語教育関係機関との共催が主でしたが 今回のベルリン大会は ドイツ内の AJE 会員有志によって組織された大会実行委員会が全ての運営を担当いたしました 山田実行委員長をはじめ 実行委員会の皆様のご尽力に心よりお礼を申し上げます 本当にありがとうございます 1995 年に設立された AJE はもうすぐ 15 年目となります これまで欧州における日 本語教育のためのネットワークの構築に力を注いできました ネットワークが定着し てきた今は発展の時期に入ったといえます そして この発展期の課題の一つは ヨ ーロッパからの発信ということだと思います その意味でも当シンポジウムでは 欧 州参照枠 CEFR をテーマの中枢に据え CEFR 起草者のお一人である Brian North 氏を 基調講演にお迎えしました また複言語 複文化の欧州に育つ子どもたちに視点をあ て 早稲田大学川上郁雄教授からは 移動する子どもたち に必要なことばの力 をどう考えるか という演題でお話をしていただきます スタンダードという視点か らは 実践女子大学山内博之教授に話す能力とスタンダードの講演をいただきます そして日本語教育スタンダードに関しては 2 日目にパネルディスカッションを そし て 最終日には 国際交流基金の特別プログラムを設けてあります AJE の恒例とな りました日本研究からの講演は ベルリン自由大学日本学科日地谷教授の 美しい日 本の私 です このシンポジウムには多くの会員からの発表申し込みがありましたが 口頭発表 24 本 ポスター発表 13 本 4 つのテーマによる会員ワークショップが採用されました 盛りだくさんの 3 日間です 参加者の一人一人が それぞれの日本語教育の現場へ何か一つでも持ち帰るものが得られますように また多くの日本語教育者の交流が深まる 3 日間となりますようにと願って 私の挨拶といたします 13

20 基調講演

21 基調講演 The CEFR: Nature, Relevance and Current Development NORTH, Brian Eurocentres Foundation, EAQUALS Abstract This paper discusses the description of language proficiency levels, with reference to the illustrative descriptor scales of the CEFR, of which the speaker is co-author. Ways of thinking about levels of language proficiency and common metaphors are discussed, with a distinction made between core, interpersonal proficiency and learnt, academic proficiency. The need to profile proficiency across selected categories rather than just talking about level is considered. The paper points out that although the CEFR is not a method, it is considerably more than just a set of 6 defined levels. The relevance of the CEFR descriptors to course planning, to teaching and to continuous assessment is outlined. The use of descriptors for signposting to give transparency and coherence to a language programme is illustrated and the relationship of the action-oriented approach to task-based learning is summarised. Keywords: CEFR, language proficiency, levels, profiling, assessment 1 Purpose of the CEFR There are two sides to the Common European Framework of Reference for languages: learning, teaching, assessment (Council of Europe 2001): on the one hand it is a compendium intended to offer a stimulus for reflection on and further development of current practice, and on the other hand it offers common reference points (levels and categories) to assist communication across educational sectors, national and linguistic boundaries. The idea is to offer a reference tool for people to expand/contract and elaborate/summarise the levels and categories in order to adopt activities, competences and proficiency stepping-stones that are appropriate to the local context, yet can be related to the greater scheme of things and thus communicated more easily to colleagues in other educational institutions and to other stakeholders. The set of expandable 6 common reference levels are provided with illustrative descriptors developed in a research project in Switzerland (North 2000), plus illustrative performance samples on DVD (listed on The CEFR makes clear that it is not intended as a harmonisation project: We have NOT set out to tell practitioners what to do or how to do it. We are raising questions not answering them. It is not the function of the CEF to lay down the objectives that users should pursue or the methods they should employ. (Council of Europe 2001a:xi) Descriptors like those in the CEFR have become increasingly popular because they help to relate learning objectives to real world needs in a framework for task -oriented learning. Descriptors can be used as signposting in curriculum aims, syllabuses, cross-referenced resources lists, weekly/monthly plans, classroom displays, lesson aims, evaluation checklists, assessment criteria, report cards, personal profiles, certificates etc. 14

22 基調講演 2 Metaphors for Language Levels Our way of thinking about language learning levels goes back at least to Comenius. He defined four language levels (1632: 1896/1967): Vestibule when one is waiting to get started; Gate as one enters into the language; Palace with all its corridors and pathways, and Treasure the ultimate goal. It is typical of John Trim that at the start of the Council of Europe s work on describing language levels he changed the possibly negative image of Gate (gate keeping) to that of the gate s threshold one crosses in The Threshold Level. This invention of images to describe curriculum levels is not confined to Europe. A good example can be seen in the levels used in Eurocentres Kanazawa in teaching Japanese. First comes Hana (flower with the image of petals opening up), then Tori (a bird - stretching wings to fly), then Kaze (the wind, blowing across the land), Tsuki (the moon, in orbit), Niji (rainbow the bridge to the stars), and finally in the firmament: Hoshi (a star itself). Notice that all this imagery suggests stages of personal development. British imagery tends to be somewhat more prosaic, as with the current Language Ladder for the Asset Language Project. A ladder can be a positive image representing a lot of little steps. The translation of ladder into French is échelle, the word used for scale. Should steps be considered equal, suggesting linear progress? Or does language learning happen in a series of shifts, with slow, less dramatic changes in between? Progress in the mastery of grammatical form does not appear to be linear (Klein 1986: 108, Fulcher 1996). There are two ways of visualising the issue: on the one hand scale steps can be seen as steps on a ladder (linear); on the other hand they can be seen as steps leading to landings (or plateaux) part way up a long staircase. These two images reflect the tension present in criterion-referenced assessment (CR) since its origin. The discussion so far has assumed that growth in language proficiency is balanced and unidimensional. However, even if one can define a set of levels like those of the CEFR, with descriptors that show a good degree of consistency in interpretation across different contexts, it is clear that no two people s profile of proficiency will be identical. The expansion of a learner s repertoire is related to the contexts to which they are exposed and the experiences and encounters they have. Therefore everybody s profile of language ability must logically be unique since no two people completely share a history; the experience of language learning and language use will determine the possible scope of the profile. In a company language training context, this fact has long been recognized. Figure 1 illustrates the result of a language audit conducted with the ELTDU scale. It originates from an early 1980s edition of a German journal for teachers of Business English. The concentric rings represent the ELTDU levels A-H. The lighter shaded area is the perceived requirements of the subject s job; the darker shaded area is their current profile of abilities, self-assessed with the same descriptor scales. The process of comparing requirements to current abilities is the audit that defines the subject s needs and hence the specification for a tailor-made course. Notice that the current profile (darker shading) is not necessarily a profile of the subject s complete abilities; we don t know that they cannot follow a training course or take notes in a meeting - they just are not required to do that for this job. As a profiling model, however, Figure 1 has a flaw. In common with the school of thought in Language for Specific Purposes at that time, it is about the job, not the person; training not education. There is no concept of a generative core, although everyone would agree that language 15

23 基調講演 does have a generative core. One can hypothesise that progress in that core, predominantly concerned with spoken interaction, will be similar for all learners in terms of communicative ability (= an appearance of unidimensionality). Figure 1: Product of a Language Audit That was the reason spoken interaction was taken as the core construct in the construction of the scale of CEFR descriptors. However, around this common core will be areas in which progress is dependent on a number of factors, among which will be exposure to context and the development of specialised cognitive abilities at least partly associated with that exposure. As a result, one may have a very developed ability in certain domains and a relatively rudimentary one in others. This issue is related to the frequently heard claim that not all native speakers are C2. The question is: C2 in what? Language originated as chat (Swales 1990: 58 61), spoken interaction as casual conversation, "a type of speech in which ties of union are created by a mere exchange of words" (Malinowski 1946:315). Storytelling (oracy), the precursory of all production and literacy (Swales 1990:61), emerged from and is embedded in the turn-taking of casual talk. Both oracy and literacy develop culturally-specific discourse conventions that have to be learnt. In oracy and literacy a native-speaker may therefore not necessarily be C2. Cummins (1980) developed this distinction into BICS (Basic Interpersonal Communication Skills) / CALP (Cognitive Academic Language Proficiency). Everyone who has a mother tongue who does not have a brain malfunction is above Level C2 in BICS in their idiolect. These distinctions influenced the division of speaking into interaction and production in the CEFR (North 2000: 104). Perhaps, therefore, ring planets offer a better image of the profile of the language proficiency of an individual. The globe would be the core and the rings could represent levels of learnt competences in different domains and activities. 16

24 基調講演 3 Relevance of the CEFR to Planning, Teaching and Assessment The CEFR s action-oriented descriptive scheme Activities and Strategies: Reception / Interaction / Production / Mediation; Competences: Linguistic / Pragmatic / Sociolinguistic / Intercultural has at least the potential to replace Lado s (1961) four skills model Skills: Listening / Speaking / Reading / Writing; Elements: Grammar / Vocabulary / Pronunciation. To date the impact of the CEFR descriptive scheme on curriculum or teaching has been limited. By contrast, the wide dissemination of the CEFR Can-Do descriptors has had considerable impact on curriculum design to relate objectives to real world needs and give a framework to actionoriented learning; to provide signposting to learners, parents, sponsors, and to relate assessment criteria for formal assessment procedures to CEFR descriptors. 3.1 Planning The main methodological implications of the CEFR all concern transparent planning: needs analysis, selection of objectives (communicative and linguistic) related to tasks the learners are going to have to perform in the language, and linking the language taught to fluency practice in communicative tasks. The CEFR Can-Do descriptors offer an ideal starting point for planning years, semesters, weeks and even lessons, ensuring a link between real life tasks and language points necessary to perform them effectively. Can-Do s can be cross -referenced to objectives, syllabuses and materials in order to provide transparent signposting in the form of a checklist of objectives for the term, a list of main communicative tasks and linguistic points in the current module, and a clear aim for the current lesson, for example written in an Aims Box on the whiteboard. For example in Eurocentres every classroom has a standardised display, of (a) the scale of levels, (b) the learning objectives for the CEFR level in question ( Our Aims ) and (c) the objectives of the actual week s work (both communicative tasks and linguistic points). The weekly plan is introduced by the teacher on the Monday, and a review lesson at the end of the week combines a quiz on the main linguistic content with a small group discussion (oriented by photocopies of the weekly plan) of achievement of the week s objectives, and need for further class or individual work. Learners are thus treated as partners in the learning and teaching process. The key to planning of this type is (a) to select clusters of CEFR/ELP Can Do s that can be considered together in a module, (b) to identify the necessary enabling language, making it transparent to the learners and teaching it explicitly, and (c) to select and adapt appropriate CEFR descriptors for the quality of language expected, that can later serve as assessment criteria for giving marks. 3.2 Teaching At the risk of oversimplifying, one might say that the action-oriented approach emphasises a familiar truth: the essential difference between good and bad language teaching is summarised by the extent of and sophistication of the connections between action and language in both the aims themselves and in the classroom activities designed to achieve them. As shown in Figure 1, the connections can be in two directions: (a) a task-oriented approach in which one teaches language, gives communicative drills to achieve fluency, and then looser tasks in which learners (should) use the target language at the end of the unit, or (b) what Brumfit (1984), using a swimming analogy, called the deep-end approach. Since Willis (1996), this approach is usually referred to as task-based. One should not lose sight of the fact that, in the abstract, both 17

25 基調講演 approaches are equally valid. However, the task-based approach assumes that the language necessary for the task is already present in the group. Whilst this may be case in a university presessional course or a short, intensive language learning stay abroad, it is not necessarily true in a lower secondary classroom; input has to come from somewhere. There is one point on which there is near unanimity in second language acquisition research: although meaning is primary, there must be an explicit focus on form at some point if learning is to take place. Figure 2: Tasks in the Pedagogic Sequence If learners do not notice something, how can they learn it? Task-orientation does not make explicit practice obsolete; without practice the learner will not always have the resources for the task. Learning a sport or skill always requires repetition and controlled practice of subskills as well as the whole skill, plus knowledge; football players go jogging and study tactics as well as practising specific moves - and playing practice matches. With new language, repetition in contextualised practice shifts new grammar, vocabulary and functional chunks down into more stable interlanguage. Whether one takes a task-oriented or task-based approach, there is the question When is something a task and not just an exercise or an activity? There are many definitions of what constitutes a task in language learning, the key points of which are as follows: Goal: The activity is purposeful; there must be a reason for it. Meaning: Opportunities exist for personal meaning, not mechanical regurgitation. Interactive: The activity is in some way collaborative, collective. Cognition: Processes include framing, negotiating, collaborating, taking stock. Outcome: There is a result, a report, an evaluation plus reflection of some kind. It is of course unrealistic to expect that learners will be accurate all the time when performing a task. However, teachers are often unaware of the fact that whereas fluency is a linear phenomenon that increases with level, this is not the case with accuracy. Klein (1986: 108) and 18

26 基調講演 Fulcher (1996), for example, show that accuracy actually decreases around Level B1; mistakes increase as learners struggle to use language for real communication. Westoff (2007) points out that this fact is reflected in the CEFR illustrative descriptors. It is the attempted use of new, more complex language that should be encouraged and fear of making mistakes discourages this. Complexity of language (range) should be assessed positively as well as accuracy being assessed negatively. 3.3 Assessment This brings one to the question of assessment and criteria for it. The key to sensible assessment in relation to the CEFR is principled selection of Can Do s for communicative tasks (CEFR Chapter 4) linked to sensible adoption of qualitative aspects of language (CEFR Chapter 5), plus standardisation training for those involved in the production of tests and the evaluation of performances. The CEFR Manual for examination providers also gives advice on how to relate listening and reading tests to the CEFR. Standardisation training with videos is the most effective and most enjoyable way to achieve a common interpretation of the CEFR levels. People can interpret the written word (the descriptors) in different ways; some people are just stricter than others. However, discussing concrete examples of performances in relation to common criteria like those provided in CEFR Table 3, supported by detailed documentation that explains why a performance is one particular level, is a very effective way of counter-acting this. It is easier to do standardisation training with videos before using scripts because everyone can watch and then discuss the same video performance. If a staffroom have been trained with CEFR standardization materials, then CEFR-based criteria grids can be used in the assessment of performance in classroom small group speaking activities. A second assessor increases reliability, especially if the second assessor has a wider focus (knowing all the levels) than the class teacher, who may only teach at one particular level and therefore have difficulty in seeing their learners performance in perspective. The CEFR manual for examination providers (Council of Europe 2003/2009) also contains a Writing Assessment Grid (developed from CEFR Table 3) that enables the same process to be followed with the assessment of written work. In both cases these instruments should be adapted to local circumstances: they are only illustrative examples. There are two ways of judging the performance: (a) awarding a level (e.g. B1 or B1+) and (b) giving a mark (e.g. 17/20) in relation to what was expected at the level concerned. The former approach is holistic assessment: the performance is compared to a grid of descriptors for speaking, perhaps 3 categories (e.g. Range, Accuracy, Spoken Fluency) defined at 4 levels (e.g. A1+ A2 A2+ B1 B1+). Assessors rate candidates in exactly the same as they might assess samples in CEFR standardisation training using a criteria grid, perhaps derived from an adaptation of CEFR Table 3. It may be exactly the same grid covering all levels or it may cover only a relevant range of levels as in Table 1. A further development might focus more closely on the relevant range of level using a rating scale from 1 to 5, with A2+ is set as the standard being aimed at (3 points per category. The maximum score is thus 15 (5 x 3). The pass mark would be 8 (A2+ for two categories; A2 for one category). Alternatively, one may prefer to rate learners performance only in terms of their success at achieving the task targeted at a specific CEFR level, ignoring other levels. The question is the degree to which the performance of the learner reflects the descriptors for the target level. The relevant criteria from Table 1 might be presented as follows, with a key to guide the allocation of marks (1-5), as in Table 2. 19

27 基調講演 4 Conclusion To summarise, the CEFR Can-Do descriptors give explicit signposting that helps in discussing priorities and explaining syllabus choice, in selecting appropriate communicative tasks, in defining criteria to assess achievement in them, and in reporting progress to sponsors or parents. Many curriculum and examination reform projects have been undertaken during the last ten years to exploit these opportunities. EAQUALS i ( for example, has undertaken a comprehensive revision of the Can Do descriptors, developed CEFR standardisation packs, collected case studies of successful curriculum implementation among its members and designed a certification scheme that structures and supports teacher assessment to report learner achievement in terms of CEFR levels. The CIEP last year organised a cross-linguistic benchmarking seminar in Sèvres to check that the CEFR levels are being interpreted in the same way in English, French, German, Italian and Spanish, and the resulting video clips of calibrated performances are available on the CIEP website ( The Manual for examination providers has been revised and made available on the Council of Europe s website ( together with further material on exploiting teacher judgements and scaling theory (North and Jones 2009). A book of case studies of relating examinations to the CEFR is about to be published in the Cambridge Studies in Language Testing series. There remains much to do, but the CEFR approach appears to be here to stay. Notes i EAQUALS, the European Association for Quality Languages Services, is an international association that accredits excellence in language education, offering quality control supported by consultancy and a network of Special Interest Projects. EAQUALS, like Eurocentres, is an INGO to the Council of Europe, developed the EAQUALS/ALTE European Language Portfolio and is currently launching a system of CEFR certification of learner achievement. References Brumfit, C. (1984) Communicative Methodology in Language Teaching. The roles of fluency and accuracy. Cambridge. Cambridge University Press. Comenius, J. A. (1632) Didáctica Magna, English version: The Great Didactic of John Amos Comenius. Translated by M. W. Keatinge. London: A & C. Black New York: Russell & Russell Council of Europe (2001) Common European framework of reference for languages: learning, teaching, assessment. Cambridge, Cambridge University Press. Council of Europe (2003/9) Relating Language Examinations to the Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment (CEFR). Strasbourg, Council of Europe. Cummins, J. (1980) The Cross-lingual Dimensions of Language Proficiency: Implications for bilingual education and the optimal age issue. In: TESOL Quarterly 14, Fulcher, G. (1996) Does Thick Description lead to Smart Tests? A data-based approach to rating scale construction Language Testing 13/2, Klein W. (1986) Second Language Acquisition, Cambridge, Cambridge University Press. Lado, R. (1961) Language Testing. The Construction and Use of Foreign Language Tests: A teacher s book. London: Longman. 20

28 基調講演 Malinowski, B. (1946) The Problem of Meaning in Primitive Languages. Supplement 1 in Ogden, C.K. and Richards, I.A. The Meaning of Meaning 8th edition, Harcourt, Brace and World: North, B. (2000) The Development of a Common Framework Scale of Language Proficiency. New York, Peter Lang. North, B. and Jones, N. (2009) Relating Language Examinations to the Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment (CEFR): Further material on standard-setting through scaling and teacher judgement. ( Swales, John M. (1990) The Genre Analysis: English in Academic and Research Settings. Cambridge: University Press. Westoff, G. (2007) Challenges and Opportunities of the CEFR for Reimagining FL Pedagogy. In Modern Language Journal. 91, iv: Willis, J. (1996) A Framework for Task-based Learning London. Longman. 21

29 基調講演 Appendix RANGE & PRECISION ACCURACY FLUENCY B1+ Can describe unusual Can communicate with Can express self relatively situations and to express reasonable accuracy in easily when talking freely thoughts on abstract or cultural familiar contexts, though and keep the conversation topics (such as music, films). with noticeable mother going effectively without Can explain the main points tongue influences. help, despite occasional relating to an idea, problem, or pauses to plan and correct. argument with reasonable precision. B1 Can talk about family, hobbies Can express self Can keep a conversation and interests, work, travel, reasonably accurately in going, but sometimes has news and current events. Can familiar, predictable to pause to plan and make the other person situations. correct. understand the most important points. A2+ Can talk about familiar Can use some simple Can participate in a longer everyday situations and topics, structures correctly in conversation about familiar with searching for the words; common everyday topics, but often needs to sometimes has to simplify. situations. stop and think or start again in a different way A2 Can communicate in a simple Can use correctly simple Can make self understood and direct exchange of limited phrases learnt for specific with short, simple phrases, information in everyday situations, but often makes but often need to stop, try situations; otherwise has to basic mistakes for with different words or compromise the message. example mixing up tenses repeat more clearly what and forgetting to use the was said. right endings. A1+ Can talk about self, family and Can use correctly some Can speak slowly in a job in a simple and direct simple memorized series of very short exchange in common everyday structures. phrases, stopping and situations. starting as he/she tries to say different words. Table 1: Assessment across a range of levels: based on CEFR Table 3 RANGE & PRECISION: Can talk about familiar everyday situations and topics, with searching for the words; sometimes has to simplify. ACCURACY: Can use some simple structures correctly in common everyday situations. FLUENCY: Can participate in a longer conversation about familiar topics, but often needs to stop and think or start again in a different way Table 2: Assessment at one level: based on CEFR Table 3 Candidate A

30 招待講演

31 招待講演 学習 教育 評価のための日本語教育スタンダード ( 話技能 ) 山内博之実践女子大学 要旨学習 教育 評価に真に活用できる日本語教育スタンダード ( 話技能 ) を作成するためには 本稿で示す指針に従えばよい その指針とは (1) 言語活動 ( タスク ) と言語素材 ( 実質語と機能語 ) の両方を収録する (2) 話題でアクセスできるようにする (3) 語ではなく文 段落を取り出せるようにする (4) 類似した働きを持つ機能語をグルーピングする の 4 つである このような日本語教育スタンダード ( 話技能 ) を作成すれば 話したい話題を入力することによって その話題について話すための文 段落と その文 段落を使って実際に練習してみるための言語活動 ( タスク ) を出力として取り出せるようになる 将来的には グルーピングした機能語群を それと相性のいい言語活動 ( タスク ) と結びつけ 言語活動 ( タスク ) とともに取り出せるようにしたいと考えているが その具体的な方策がまだ見つかっていないので それは今後の課題としたい キーワード 日本語教育スタンダード 話技能 言語素材 言語活動 1 日本語教育スタンダード ( 話技能 ) の作り方のポイント 本稿の目的は 学習 教育 評価に生かすことのできる日本語教育スタンダードの作成方法を示すことである 本稿においては 話技能のみに焦点を当てて議論するが 簡略化のため 日本語教育スタンダード ( 話技能 ) を単に スタンダード と記すことにする 本章では その作成方法のポイントを 4 つ挙げ 1 つずつ簡単に解説していく (1) 言語活動 に関する記述と 言語素材 ( 実質語と機能語 ) に関する記述の両方を準備する スタンダードにとって can do 記述は必須のものである 特に 評価 には欠かせない しかし 学習 教育 のことを考えると can do 記述だけでは不十分である 具体的な学習項目や教授項目を決めるためには やはり 日本語の語彙や文法に関する記述が必要であろう つまり 言語活動 に関する記述 (can do 記述 ) と 言語素材 ( 実質語と機能語 ) に関する記述の両方が必要だということである (2) 話題 でアクセスできるよう 話題 と 言語活動 話題 と 実質語 を結びつける スタンダードを いくつもの言語活動と言語素材とが格納されているバンクのようなものだと考えると そのバンクにどのようにアクセスし 個々の言語活動 言語素材をどのように取り出せるようにしておくか ということが非常に重要になる スタンダードへのアクセスは 話題 によって行なわれるべきだと考える その理由は 話したい 話題 があって会話を始めるのが ごく普通の会話だと考えられるからで 23

32 招待講演 ある 場 や 機能 も重要だが 場 に依存しない会話もあるし どのような 機能 なのかをはっきり認識できない会話もある しかし 話題 は どのような会話にも必ず存在するものである そして 話題 と言語活動 言語素材の関係についてであるが まず 言語活動に関する記述は 話題 と結びつきやすい 一方 言語素材の二大要素である語彙と文法について は 文法よりも語彙の方が 話題 と結びつきやすい たとえば 格助詞 を がある特定の 話題 と結びついているとは考えにくいが ステーキ という語は 食 という 話 題 に結びついていると考えられる もし すべての語を 話題 で分類できれば 話題 で検索することによって その 話題 に関する語群を取り出せるようになる (3) 実質語 と 機能語( 格助詞 ) を結びつけ 文 段落 を取り出せるようにする スタンダードからの出力に関して重要なことは 言語素材を取り出す際には 単語 や 形態素 という形で言語素材を取り出すのではなく 文 段落 という形で取り出せるようにしておくということである たとえば 食 という話題で検索した結果 ステーキ 食べる などの個々の語が出力として取り出されるのではなく ステーキを食べる などという 文 の形 つまり 実質語 ( 語彙 ) と 機能語( 格助詞 ) が組み合わさった形で取り出されるべきである その際 食 に関する他の文も一緒に取り出すことができれば 結果として 食 に関する 段落 が取り出せることになる (4) 機能語 ( 格助詞以外 ) を類似した働きを持つもの同士に分類し 利用しやすくする 機能語のうち格助詞は 実質語とともに 文 として示すが 格助詞以外の機能語は 類似した働きを持つもの同士を 1 つのグループにし 取り出しやすいようにしておく たとえば 自発に関わる以下のような機能語を 同じグループとしてまとめておくということである ~ ずにはいられない ~ ないではいられない ~ てしょうがない ~ てたまらない ~ てならない ~ てやまない ~ かぎりだ ~ を禁じ得ない このような機能語群も たとえば ホームシックになったので友達に相談する 失恋したので友達に今の気持ちを聞いてもらう などという 自発表現と相性のいい言語活動とセットで取り出せるようにしたいのだが 現時点では 言語活動をうまく整理する方法がまだわかっていないので とりあえず 類似した働きを持つ機能語をグルーピングしていくことを提案するにとどめておく 以上の 4 点をまとめたものが 次頁の図 1 である 日本語教育スタンダード ( 話技能 ) の中には 1 言語活動リスト と 2 言語素材リスト ( 実質語 機能語 ) が格納されており そこに ある 話題 をインプットすると その 話題 を扱う 1 タスク と その 話題 について話すための 2 文 段落 とをアウトプットとして取り出すことができる ということである 上記の 4 点が 筆者の述べたいことのすべてであるが 次章以降で それぞれの内容につ いて具体的に説明していく まず 第 2 章では 上記の 4 点のうちの (1) について述べる つまり どのような言語活動と言語素材 ( 実質語と機能語 ) をスタンダードに収録するのか ということについて述べる ただし この両者のうち 言語素材 ( 実質語と機能 24

33 招待講演 語 ) については 収録すべき形式の選定方法がまだはっきりと定まってはいないので どのような言語活動をどのように収録するのか ということについてのみ述べる 続く第 3 章では 上記の (2) について述べる つまり 話題からスタンダードへの具体的なアクセス方法について述べる 第 4 章では 上記の (3) について述べる つまり 実質語と機能語 ( 格助詞 ) を結びつけて文 段落を作るということについて述べる そして 第 5 章では 上記の (4) について述べる つまり 類似した働きを持つ機能語 ( 格助詞以外 ) のグルーピングについて述べる 話題 日本語教育スタンダード ( 話技能 ) 1 言語活動リスト2 言語素材リスト ( 実質語 機能語 ) 1 タスク 2 文 段落 文法カテゴリー 機能語群 図 1. 日本語教育スタンダード ( 話技能 ) の全体像 2 言語活動 のスタンダードへの収録 本章では どのような 言語活動 をどのようにしてスタンダードに収録するのか ということについて述べる 言語活動は CEFR などでは 主に can do 記述という形で記載されている しかし 筆者は can do 記述ではなく ロールカードという形でスタンダードに収録すべきだと思う can do 記述には 具体的な場面や話題が書かれていないことが多く そのため すぐに授業等で使用するということが難しい その点 ロールカードであれば 場面も話題も記述されているので 授業でもすぐに使うことができる 学習 教育 評価に活用できるスタンダードの作成を目指すのであれば やはり can do 記述よりもロールカードの方が 収録するにはふさわしい形式であるように思われる ただし ロールカードは 場面や話題などの具体的な記述があるだけに 1 つのロールカードが ある特定の 1 つの言語活動のみを示すことになってしまい そのため 日本語学習者が行ない得る言語活動の全体をスタンダードでカバーしようと思うと 膨大の数のロールカードの収録が必要になる では どのようにして膨大な数のロールカードを集めればよいのか ということが問題になるのだが その方策として 次頁の表 1 のような枠組みを考えた 次頁の表 1 は 食 という話題についての 12 種類のロールカードが収録されたものである この表の最上段には 単文 複文 単段落 複段落 というテキストの型が記されているが これは そのロールカードの内容に従って言語活動を行なうと それぞれ 単文レベル 複文レベル 単段落レベル 複段落レベルの発話を行なうことになる という目安を示したものである たとえば 単文 の一番上の あなたはレストランの店員です 食後のデザートを勧めてください というロールカードであれば その言語活動を遂行するためには 食後のデザートはいかがですか などという単文レベルの発話があればよいということである 25

34 招待講演 より大きな言語の単位を話さなければならないロールカードほど 言語活動の難易度は高くなっていくものと思われるので 単文 複文 単段落 複段落 という指標は 概ね 言語活動の難易度のレベルを示した指標だとも言える 言語活動のタイプ 職業 単文複文単段落複段落 あなたはレス あなたはレストラ あなたはエスニックレス あなたは貿易会社の社 トランの店員 ンの店員です テートランで働いています あ員です あなたの国の です 食後のデブルに出した調味 なたの国の伝統的な料理 という食べ物を日本 ザートを勧め料について お客さを出したら それがどういへ輸出したいです その領てください んに聞かれました う料理なのか聞かれまし食べ物の魅力を説明し 域 場 それが何か どう使た 材料や調理法などを教交渉してください うのか 教えてあげえてあげてください てください に従 日時と人数 レストランで 店 入居したばかりの寮で 町の公民館で あなた属料理の内容を員が持ってきた料自分の国の食習慣についの国の長寿食と長寿の する 決めて レスト理が 注文したものて説明し 自分に合った食秘訣について話をして ランの予約を と違っていました 事を出してもらえるよう ほしいと頼まれました してください とりかえてもらっお願いしてください 100 人ほどの聴衆の前で私てください 話をしてください 的 友達がおいし 友達をランチ/ 夕 以前に食べたおいしかっ 農業技術の進歩や輸入領 域場そうなお菓子食に誘ってくださた料理の名前が思い出せ食品の増加によって 季 を食べていまい ません 友達にその料理の節を問わず いろいろなに従す ひとつもら特徴を話して 名前を教えものが食べられるよう属 しない ってください てもらってください になりました その功罪 表 1. 食 に関するロールカード について友達と話し合 ってください また 表 1 の左の欄には 言語活動のタイプが示されている 言語活動のタイプには まず 職業領域 と 私的領域 の 2 つがある 私的領域の言語活動は 誰でも行なう可能性のある言語活動であり 一方 職業領域の言語活動は ある職業に就いている人しか行なわない言語活動である たとえば 先に示した あなたはレストランの店員です 食後のデザートを勧めてください という言語活動は レストランで働いている人しか行なうことがないだろうと思われる言語活動である 私的領域の言語活動は さらに 場 に従属する言語活動と 場 に従属しない言語活動とに分かれる 私的領域 で 場 に従属する 単文 レベルのロールカード 日時と人数 料理の内容を決めて レストランの予約をしてください によって行なわれる言語活動は 電話を使えばどんな場所でも行ない得る言語活動ではあるが 電話する先は レストラン という場所に必ず限定されるものであり また 仮に電話を使わないとすれば レストラン まで足を運ばなければならない言語活動である 26

35 招待講演 一方 私的領域 で 場 に従属しない 単文 レベルのロールカード 友達がおいしそうなお菓子を食べています ひとつもらってください によって行なわれる言語活動は ある特定の場所でしか行なわれないというものではない レストランでも ショッピングの途中の路上でも また 時には 授業が行なわれている教室内でも行なわれる可能性のある言語活動である ( 参考文献 : 山内 (2009)) 表 1 は 食 という話題に関わるロールカードのみを示したものであるが 食 以外の様々な話題についてもこのようなロールカードのリストを作っていけば 話題の数の 12 倍のロールカードを得ることができる やみくもにロールカードを作っていっても似たよ うなロールカードばかりができあがってしまう可能性があるが このように 話題 テキストの型 言語活動のタイプ (3 種類 ) を指定してロールカードを作っていけば 多様なロールカードを多数作成することが可能になるのではないかと思われる 3 話題 からスタンダードへのアクセス 次に 話題 からスタンダードへのアクセスについて述べる 話題からスタンダードへのアクセスについては 橋本 (2008) で示されたような話題分類を用いると便利であろう 以下が 橋本 (2008) に示された話題の一覧である 1 文化 : 文化一般 食 酒 ファッション 旅行 スポーツ 建築 言葉 文芸 出版 季節 行事 2 人生 生活 : 町 ふるさと 交通 日常生活 家電 機械 家事 パーティー 引越し 各種手続き 恋愛 結婚 育児 思い出 夢 目標 悩み 死 3 人間関係 : 家族 友達 性格 相手への感情 容姿 人づきあい 喧嘩 トラブル マナー 習慣 4 教育 学問 : 学校 ( 小中高 ) 学校 ( 大学 ) 成績 習い事 試験 調査 研究 5 芸術 趣味 : 音楽 絵画 工芸 写真 映画 演劇 芸道 芸術一般 趣味一般 コレ クション 日曜大工 手芸 ギャンブル 遊び ゲーム 6 宗教 祭り : 宗教 祭り 7 メディア : メディア 芸能界 8 通信 コンピューター : 通信 コンピューター 9 経済 消費 : 買い物 家計 労働 就職活動 ビジネス 株 経済 財政 金融 国際 経済 金融 税 10 産業 : 工業一般 自動車産業 重工業 軽工業 機械工業 建設 土木 エネルギー 農林業 水産業 11 社会 : 事件 事故 差別 少子高齢化 社会保障 福祉 12 政治 : 政治 法律 社会運動 選挙 外交 戦争 会議 13 ヒト 生き物 : 人体 医療 美容 健康 動物 植物 14 自然 : 気象 自然 地勢 災害 環境問題 宇宙 15 サイエンス : 算数 数学 サイエンス テクノロジー 16 歴史 : 歴史 前章の表 1 に 食 に関する 12 種類のロールプレイを示したが これは 上記の 1 27

36 招待講演 文化 の中にある 食 に対応するものである 食 についての話ができるようになりたいと思う学習者 もしくは 食 についての話題を授業で扱いたいと思う教師が 食 を選んだとすると 表 1 のようなロールカードをスタンダードから取り出すことができるということである また 上記の話題分類では 1 文化 から 16 歴史 までの 16 分類の下位に ちょう ど 100 種類の話題が掲げられているのであるが 食 だけでなく他の 99 の話題についても 表 1 のような形で それぞれ 12 種類のロールカードを準備しておきさえすれば 上記の中のどの話題を選んだとしても その話題を扱う 12 種類のロールカードがスタンダードから取り出せるようになるということである その際 さらに その話題について話すための文 段落も一緒に取り出すことができれば 第 1 章の (2) が実現できるようになるわけである 話題 の入力をきっかけとして 文 段落 を取り出す方法については 次章で述べる 4 文 段落 をスタンダードから取り出す方法 前章では スタンダードへの 話題 の入力と 話題 の入力を受けての タスク ( ロールカード ) の出力について述べた 本章では 話題 の入力から 文 段落 の出力が得られるようになる仕組みについて述べる 話題 の入力から 文 段落 の出力が得られる仕組みを作るために まず必要なこと は 言語素材 のうちの実質語を 話題 によって分類することである 橋本 (2008) で は 国際交流基金 日本国際教育支援協会 (2002) に掲載されている日本語能力試験の 1 2 級語彙表 (8009 語 ) と 3 級語彙表 (1409 語 ) のすべての語を 前章で示した 100 の話題で分 類しているのであるが それによると 食 に分類される語は 392 語だとのことである ちなみに 日本語能力試験の 3 級語彙表の中には 4 級の語彙も含まれており さらに その 3 級と 4 級の語彙のほとんどすべてが 1 2 級の語彙表に含まれるという形になっている 第 2 章では 食 についてのロールカードの例を示したので ここでも 橋本 (2008) によって 分類された 食 に関する 392 語を例にとって考えていくことにする 橋本 (2008) によれば 食 に関する 392 語を下位分類すると 飲食 に関する語が 162 語 調理 に関する語が 194 語 その他が 36 語だとのことである このうちの 飲食 に関する 162 語について 構文情報を付して能力試験の級別にまとめたものが 次頁の表 2 である この表 2 こそが 文 段落という出力を得るための仕組みである たとえば V: 飲食 する の段の 4 級 の欄から 食べる N ヲ : 料理名 の 4 級 の欄から 料理 N ノ : 料理のジャンル の 3 級 の欄から 西洋 を取り出して組み合わせれば 西 洋の料理を食べる という文ができる さらに A: 味 食感 の 4 級 と 2 級 から おいしい と さっぱり A: 好み の 4 級 から 好き を取り出して文を作っ て一緒に発話すれば 西洋の料理を食べました さっぱりしておいしかったです 私は好 きです という段落を作ることも可能である ( 参考文献 : 橋本 山内 (2008)) また 表 2 は 発展型の語彙リストであるとも言える たとえば N ヲ : 料理名 の語彙を 眺めていると うどん そば があるのに ラーメン パスタ がないことに気づく そ の場合には 教師が ラーメン パスタ をこの語彙リストに加えればよい さらに N ヲ : 飲み物 の語彙を眺めて ビール は身近な飲み物なのに なぜ 4 級ではな 28

37 招待講演 く 2 級なのか と疑問を抱く教師がいるかもしれない それなら ビール を 4 級に移動し 早く教えればよい 現行の 1 2 級語彙表のように五十音順に語が並んでいるだけでは このようなことには気づかない 表 2 のように 語を話題別に分け さらに構文情報を付してパラディグマティックに対立する語同士が同じ段に集まるようにしておくことによって このような発展性が生まれるのではないかと考えるが いかがであろうか 飲食 構文 意味 4 級 3 級 2 級 1 級 飲食する 飲む 食べる 召し上がる 食食う 噛む かじる なめる 飲み込む V ( 食事 料理名 菓子 吸う 事する 含む しゃぶる 味わ噛み切る デザート 飲み物 ) をV う 吐く かぐ 昼御飯 朝御 お昼 ランチ 昼食 昼飯 食事 飯 晩御飯 Nを ( 飲食する ) 夕飯 お弁当 料理 主食 おかず 汁 実 カレー パン サラダ サンドうどん スープ そば ライス 粥 梅干料理名御飯イッチ ジャム 刺身 Nを ( 飲食する ) N ステーキ ハン ヲ バーグ お菓子 あめ ケーキ ぶどうアイスクリーム おやゼリー デザート 菓子 デザート果物つ オレンジ ガム デコレーション あ Nを ( 飲食する ) クリーム 菓子 果実られ 飲み物 飲み物 お茶 コーヒ アルコール 湯ジュース ミルク 茶 カクテル 蒸留 Nを ( 飲食する ) ー 牛乳 紅 酒 ウイスキー ビー洋 ~ 茶 水 お酒 ル 生 ワイン ~ 酒 道具 食器 器具 容器 入器 れ物 お皿 茶碗 皿 碗 椀 丼 鉢 カップ グラ湯飲み N 食器ス コップデ Nで ( 飲食する ) スプーン ナ匙ストロー イフ 箸 フ ォーク 瓶 水筒 缶 栓 ポット 筒 つぼ N 料理のジャンル 西洋 和 ~ ~ 風 洋風 和風 の Nの ( 食事 料理名 ) 洋 ~ 味 香り 刺激 味覚 おいしい ま うまい 苦い さっばり しつこい あっさり 滑らか A ずい 悪い くどい 塩辛い 臭い 渋い 生臭い 甘口 味 食感良い 温かい 酸っぱい 濃い素朴 おふくろ A+( 食事 料理名 菓甘い 辛い 匂う 軟らかい 溶け ~ 味 とろける さ子 デザート 飲み物 ) 熱い 薄い る くっつくっぱりする 噛み切 冷たい ぬる る い もたれる 味わう 好み 好き 嫌い 好き嫌い 苦手 嗜好 A ( 食事 料理名 菓子 デザート 飲み物 ) がA 表 2. 食 の語彙リスト 5 機能語 ( 格助詞以外 ) の分類 これまでの日本語学の研究成果を参考にし 機能語 ( 格助詞以外 ) を以下のような枠組 29

38 招待講演 みで分類することを考えている ちなみに 第 1 章の (4) で示した自発に関わる機能語群は A. 助動詞相当の機能語 の (8) 自発 に属するものである 将来的には 以下のように分類した機能語群のそれぞれを それと相性のいい言語活動 ( ロールカード ) と結びつけ 言語活動 ( ロールカード ) とともに取り出せるようにしたいと考えているが その具体的な方策はまだ見つかっていない それは今後の課題としたい A. 助動詞相当の機能語 (1) 意志 勧誘のモダリティ (2) 命令 依頼のモダリティ (3) 評価のモダリティ (4) 認識のモダリティ (5) 説明のモダリティ (6) 疑問のモダリティ (7) アスペクト (8) 自発 (9) 可能 B. 接続助詞相当の機能語 (1) 条件 (2) 原因 理由 (3) 逆条件 (4) 逆原因 (5) 目的 (6) 同時進行 (7) 様態 (8) 時 (9) 逆接 (10) 順接 (11) 並列 C. 格助詞相当の機能語 (1) 資格 立場 状態 視点 (2) 対象 関連 (3) 仕手 仲介 手段 根拠 原因 (4) 時 場所 状況 (5) 起点 終点 範囲 (6) 基準 境界 (7) 同格 D. とりたて助詞相当の機能語 (1) 他者の存在を暗示する (2) 他者の存在を明示する (3) 主題を表す E. 並立助詞相当の機能語 F. 終助詞相当の機能語 G. 実質語を形成する機能語 (1) 動詞的成分を形成する (2) 形容詞的成分を形成する (3) 名詞的成分を形成する (4) 連体詞的成分を形成する (5) 副詞的成分を形成する 6 終わりに スタンダードが果たすべき役割には 言語使用の枠の提示 と 言語使用の実態に即した情報の変換 の 2 つがあるのではないだろうか 本稿では 主に後者について議論した より実践的なスタンダードの開発に向け さらに研究を進めていきたいと思う < 参考文献 > 国際交流基金 日本国際教育支援協会 (2002) 日本語能力試験出題基準 改訂版 凡人社. 橋本直幸 (2008) 日本語教育版分類語彙表 作成の試み, 山内博之 ( 編 ) 日本語教育スタンダード試案語彙, pp. 9-92, ひつじ書房. 橋本直幸 山内博之 (2008) 日本語教育のための語彙リストの作成 日本語学 第 27 巻第 10 号, pp , 明治書院. 山内博之 (2009) 話 技能ガイドライン試案, 鎌田修 山内博之 堤良一 ( 編 ) プロ フィシェンシーと日本語教育, pp , ひつじ書房. ( 編集部注 : シンポジウム当日からタイトルの変更がありました ) 30

39 招待講演 移動する子どもたち に必要なことばの力をどう考えるか 子どもの発達と複数言語 個の視点から 川上郁雄早稲田大学大学院 要旨 移動する子どもたち が 今 世界中で爆発的に増加している 移動する子ども と は幼少期から複数言語環境で成長し 空間的に移動するだけではなく 言語間を日々移動し かつ大人が決めた言語教育的カテゴリー間を移動する子どもをいう ( 川上編 2009b) 日本語 を話す 移動する子どもたち に限れば 日本から海外へ渡った日本人の子ども 海外から 日本にやってきた外国籍の子ども 日本で生まれたが家庭内で複数言語を使用する子ども 海外で生まれたが日本語環境の中で成長した子どもなどが 移動する子ども と言える こ れらの子どもたちは 言語を含む多様な文化的社会的空間の中で暮らす子どもたちであり 大人の都合により 移動せざるを得ない子ども なのである では そのような 移動する子どもたち をどのように育てていったらよいのか これらの子どもたちの教育の中で ことばの教育 がその中心的な位置にあると私は考える な ぜなら 人と人の関係を築くためにも 生きるために必要な知識やスキルを学ぶためにも また考える力を伸ばし自分自身を形づけるためにも ことばの力 は不可欠であると考えら れるからである 本講演では そのような ことばの力 を育成しつつ 子どもたちの成長を支えていくためにはどのような考え方と方法があるのかを論じた キーワード 移動する子ども ことばの力 複数言語能力 主体性 動態性 1 移動する子どもたち の時代 現代は 国際移民の時代 (Casteles & Miller, 1993) とも呼ばれております 人々は富を 安全を 夢と希望を求めて 移動を繰り返し 地球の南北を また東西を 動き回っています その陰で 大人とともに移動する子どもたちが多数生まれています ある子どもは二言語を またある子どもは三言語を使う家庭に生まれ 幼少の頃から 海を越えて移動を繰り返すケースも少なくありません 少し 例をあげてみましょう 昨年 (2008 年 ) 私は シドニーで 4 人の高校生に会いました さゆり ジェニー ミカ キムの 4 人です 名前はいずれも 仮名です さゆりは東京で生まれ 中学校まで東京で育ちました 中学を卒業する前に 突然 父親がオーストラリアへ移住すると言い出し 一家はシドニーに移ってきました ジェニーは オーストラリア生まれですが 小さいときに オーストラリア人の両親とともに 父親の仕事の関係で来日し その後 10 年以上 日本で生活しました 日本では公立小学校へ通い 日本人の子どもたちとともに中学校まで過ごしました そのため 日本語能力は普通の日本人高校生と変わらず よく話します 31

40 招待講演 ミカは日本生まれの日本人ですが 小さいときに両親とともにイギリスに行き 平日はロンドンの現地校 土曜日は日本人補習校へ通っていました 中学生になって 1 年ほど日本に帰り インターナショナル スクールに通いましたたが すぐに家族はシドニーに移住しました 男の子のキムは 在日コリアン三世で 中学まで日本で育ちましたが 英語を学びたいと思い 単身でシドニーにやってきました 私が 4 人に会ったときは 4 人はまだオーストラリアに来て 1 年以内でした 彼らに共通することがひとつあります それは 彼らの共通語は英語ではなく 日本語だという点です 彼らはオーストラリアでは 日本語背景のある生徒 : バックグランドスピーカー と呼ばれ 学校では 外国語としての日本語 を学ぶ生徒と見られています 彼らは週末にバックグランドスピーカー用の日本語クラスに集まり 日本語の授業を受けているのです しかし 彼らに対する日本語教育は 外国語教育 なのでしょうか それとも 母語教育 継承語教育 第二言語教育 なのでしょうか それらのカテゴリーの区別がつきにくい状況が 今 生まれているのです このような子どもたちを 私は 移動する子どもたち (CHILDREN CROSSING BORDERS: 略して CCB) と呼んでいます 今回の講演のテーマは 3 つあります 1 つはこのような 移動する子どもたち をどう捉えるか 2 つは 移動する子どもたち の ことばの学び を どのように捉えたらよいのか 3 つは これらの子どもたちの ことばの教育 をどのように考えたらよいのか ということです 2 移動する子どもたち をどう捉えるか はじめに 第一のテーマ 移動する子どもたち をどう捉えるかを考えます 移動する子ども という現象は シドニーに限ったことではありません ドイツにもいるでしょう 移動する子どもたち は 今 世界中にいるのです 昨年 アメリカで育つ日本の子どもたち - バイリンガルの光と影 ( 佐藤郡衛他編 2008) という本が出ました その中で 片岡裕子さんは アメリカには日本国籍 アメリカ国籍 二重国籍の子ども 日系アメリカ人や国際結婚家庭の子どもなど 多様な 日本人 の子どもがいる ということを報告しています さらに片岡さんは 日本国籍を持たなくても自分は 日本人 だと思っている日系の子どももいる と述べ 日本の子ども とは誰かという定義の見直しを提起しています 同じ本の中で 佐藤郡衛さんは これらの多様な子どもたちを 第三の文化 をもつ子ども (THIRD CULTURE KIDS) と捉えることを提起し 混淆的なアイデンティティをもつ 新しい 日本人 を支える枠組みの構想を指摘しています この 第三の文化 をもつ子ども (THIRD CULTURE KID: 略して TCK) という言い方や議論は 実は アメリカでは 1950 年代からありました TCK とは 成長期の重要な時期を親の文化の外で過ごした人である (Pollock & Van Renken, 1999) と言われています これらの子どもたちがなぜ注目されたかと言えば アメリカ人の外交官やビジネスマン 軍隊や宗教に関わる者など 特権のあるエリート層がアメリカから世界中に出て行き その子どもたちがアメリカ以外の文化圏でアメリカとは異なる文化に触れながら育ち アメリカ本土で育つ子どもたちと異なる様子を示すことが注目され 研究さ 32

41 招待講演 れたからです そのような研究の中で TCK が自分を取り囲む主流文化に対してどのような関係を形成するかについて 以下の 4 つのタイプが示されています 外国人型外見も考え方も 異なるタイプ 隠れ移民型外見は似ているが 考え方が異なるタイプ 養子型鏡型外見は異なるが 考え方は似ているタ外見も考え方も同じタイプイプ 図 1.TCK と自分を取り囲む主流文化との関係性 :4 つのタイプ (Pollock & Van Renken, 1999 より ) このタイプ分けは TCK が移住先の社会の主流文化とどのような関係性を築いていくかを示しています 外国人型は外見も心情面 ( 考え方や自己認識等 ) もホスト社会の多数派と異なるタイプであり 養子型は たとえば外見の面ではホスト社会の多数派と異なるが その社会に長く生活しているので心情面がその多数派と似ているようなタイプです ドイツの場合で言えば 前者は近年ドイツに来た日本人の子どもで 後者はドイツの生活が長い 日本人 の二世などがそれに当てはまると思います 一方 隠れ移民型は ホスト社会の多数派と身体的な特徴は似ていますが 心情面ではその多数派とは異なるタイプであり 鏡型は 外見も心情面も ホスト社会の多数派と同じタイプの人です ドイツの場合で言えば どうなるでしょうか ただし このように具体的に考えてみるとわかるように このようなタイプ分けは机上のことであって 実際にそのようなタイプの人が実在するかどうかは また別のことであることがわかります このタイプ分けで重要なのは 実は目の前の子どもを見て タイプ分けすることではありません すでに指摘されていることですが 一人の子どもがひとつのタイプに固定されるものではなく 成長の途上で また場面や人との関係性によって 周りが子どもを見る目が変わったり 子ども自身も社会の中の自分の姿を見る目が変わるものです なぜなら 子ども自身が常に 移動 しつつ成長しており 社会から見た自分 自分から見た社会の関係は 常に変化するからです つまり 子どもが成長する中で あるタイプからあるタイプへ移行したり また場面や人との関係性によって あるタイプからあるタイプへ戻ったりするのが 現実の姿であると考えられます この点をまず 確認しておきたいと思います そのうえで このタイプ分けの議論からわかるように TCK 研究の主眼は常に子どものアイデンティティ形成や 主流文化に対する態度形成 文化的対応に関心があるということです TCK 研究の対象になる子どもたちには動態性があり 捉え方がけっして固定的なものではないことがわかります このような動態性のアイデンティティ論こそ TCK 研究の中心テーマであるとも言えよう では 動態性のアイデンティティ論は子どもたちの ことばの学び とどう関連しているのでしょうか 実は その点は まだ十分に解明されていないのです 33

42 招待講演 私は 移動する子どもたち の概念で重要なのは 移動 の中身であると考えます それも ことばの学び という視点から 移動 の概念を深めることが重要であると考えています その観点から 移動する子どもたち CCB を捉え直すと 以下の 3 つの条件が出てきます 空間的に移動する 言語間を移動する 言語教育のカテゴリー間を移動する つまり 移動する子どもたち は 空間的に移動する子どもたちであり もうひとつは 家庭内では母語を また家庭外ではホスト社会の言語を話すなど 言語間を日々移動している子どもたちであり 言語教育カテゴリーの間を移動する子どもたちであるという意味です ここで 言語教育のカテゴリー間を移動する という意味を少し説明しますと たとえば 海外から日本にきた子どもは 日本では JSL 児童生徒と呼ばれますが その子どもがいったん祖国に帰国すると その国のふつうの子ども になったり あるいは 他国へ 移動 し 英語を第二言語として学ぶと ESL 生徒 と呼ばれたりします 冒頭でご紹介した シドニーの高校生は まさにその例です しかし いずれも 日本語を第一言語か第二言語かは別としても 日本語話者の子どもという点で共通しています このように 移動する子どもは その国や社会の示す言語教育のカテゴリー間を 移動する 子どもなのです 先に述べたように アメリカに育つ日本の子どもたちという議論や研究において 佐藤郡衛さんは TCK という視点を導入し 混淆的なアイデンティティをもつ 新しい 日本人 を支える枠組みを構想しなければならないと述べましたが そのように 日本人 を再構築することは 移動する子どもたち の言語教育を考えると ほとんど役に立たないことがわかります では このように定義される 移動する子ども という概念は 日本語教育において何を意味するのでしょうか それは 日本語話者あるいは日本語学習者は 移動する存在 であるということ つまり 動態性があるということを提起します また 学習者の 動態性 は 教育実践の動態性を必然的にもたらすことを提起します つまり CCB はこれまでの言語教育のカテゴリー たとえば 母語教育 第二言語教育 継承語教育 外国語教育といったカテゴリーを無効にし 意味のないものにしてしまいます したがって CCB の言語教育 を考えるためには CCB がどのように複数言語を学ぶのかという視点から考えることが重要になります 私が日本 オーストラリア タイなどで出会った 移動する子どもたち の中には いわゆる日本国籍をもっている日本人の子どもから 日本以外の国籍を持つ 外国人 また国籍レベルとは別に 幼少期の経験 使用する複数言語などから 多様なバリエーション あるいはグラデーションがあることがわかりました これらのバリエーション あるいはグラデーションが生まれる原因は 移動 です 移動 によって 一人の子どものカテゴリーが変わる 言いかえれば 子どもはどのカテゴリーにも 移 34

43 招待講演 動 することができるという点です 3 移動する子どもたち の ことばの学び をどう捉えるか では 二つ目のテーマ 移動する子どもたち の ことばの学び を どのように捉えたらよいのかについて考えます 2006 年に 移民の子どもと学力 という研究報告書が刊行されました これは 経済協力開発機構 (OECD) の 国際学習到達度調査 いわゆる PISA の結果をもとに 移民受け入れ国の子どもの学力を分析し 移民の子どもの学力向上には言語が重要であることを 改めて強調しています 特に 学校の授業で使用する言語 ( 教授言語 ) を第二言語として学ぶ移民の子どもに特別な支援を提供することは 移民の子どもの学力向上を確保するひとつの方法であり したがって 移民の子どもの教授言語能力を向上させる政策をとることが子どもの将来の成功につながると提唱しています この報告書はさらに 移民の子どもが授業に参加できるような ことばの力 を育成する政策を実施している国の移民の子どもの方が そのような政策のない国の移民の子どもよりも 学力が高いということを報告しています そして 移民の子どもの ことばの力 を育成する政策を実施している国のひとつとして オーストラリアをあげ その言語教育政策に注目しています では オーストラリアでは 移民の子どもたちに対して どのような言語教育を行っているのでしょうか オーストラリアは 1970 年から 第二言語としての英語教育 (ESL 教育 ) を実施し 研究と実践を重ねてきました 特に 1980 年代後半から現在まで オーストラリアの ESL 教育関係者に共通する問題関心は 1 子どもがもつ 第二言語としての英語能力を把握すること 2 学習に必要な学習言語能力 ( いわゆる CALP) を育成すること 3 メインストリーム ( 在籍クラス ) における第二言語学習者 ( 移民の子ども ) の学びへの支援の方法を開発することにありました つまり 移民の子どもの ことばの力 を把握し それをもとに授業に参加できる ことばの力 を育成するような授業をデザインし 学校のメインストリームで学べるように子どもを支援していくということです このように ことばの力 をコアにした言語教育政策や言語教育観は 移民の子どもに対する教育で欠かせない視点です では オーストラリアの ESL 教育では ことばについてどのような捉え方をしているのでしょうか オーストラリアではハリデーの体系機能言語学によって ことばを捉えるのが一般的です この理論では ことばを話し手と聞き手の関係性から捉えます 何について話したり書い たりしているか ( 話題 ) と 誰が誰に対して話したり書いたりしているか ( 対人的関 係 ) そして 目的や状況に応じ 話し言葉で伝えるのか 書き言葉で伝えるのか ( 伝達 様式 ) という 3 つの要素によってことばの使用は決定されると考えます したがって 移住したばかりの移民の子どもが生活場面や教室での学習場面で 移住先の言語を理解するのが困難なのは 単にことばがわからないというよりは 話題や対人的 35

44 招待講演 関係や伝達様式に規定されている ことばと意味の関係 を理解できないためであると考えられます そのような移民の子どもが ことばの力 を獲得するには 何が必要なのでしょうか それには 語彙や文法などの 構造的知識 またどのような場面でどのような表現を使うかなどの 語用論的知識 だけではなく 人間と人間の伝達のあり様を理解し 何のために何を伝えるかを判断したり ものごとを捉えたりする メタ的な力 が必要となります したがって 移民の子どもにとって必要な ことばの力 を育成するには 文字や語彙や文法だけを教え込むのではなく 状況や場面の中で規定されている ことばと意味の関係 を 生きた文脈の中で体験する機会が提供されることが必要になります オーストラリアの移民の子どもの学力が高いというのは このような考え方にもとづき 学習場面で教科内容を学びながら ことばと意味の関係 を理解する力をつけていくことに成功しているからです つまり オーストラリアでは そのような第二言語能力の捉え方から移民の子どもたちに対して第二言語教育である ESL 教育を行い メインストリームにおける教育支援を行っているのです さらに そのような ことばの教育 の基本に 第二言語能力としての ことばの力 を把握する方法論があります それは ESL バンドスケール や ESL スケール と呼ばれる 第二言語としての英語の発達段階を把握するものさし です どちらも 移民の子どもが学習している第二言語としての英語力を ペーパーテストではなく 子どもが他者とやりとりする様子や行動をまるごと観察することで把握するという方法です その方法論は ことばの力 とは状況や場面の中で規定されている ことばと意味の関係 を理解する力であるという考え方に裏打ちされています したがって ESL バンドスケール や ESL スケール によって明らかになる第二言語能力は 常に変化しているものであるという特性 ( 動態性 ) 場面や状況に応じて同じようには生起しないという特性 ( 非均質性 ) ことばが使用される目的や相手との関係性に影響されて ことばの力の見え方は異なっていくという特性 ( 相互作用性 ) を有すると考えられます 以上を簡単にまとめると オーストラリアにおける移民の子どもへの ESL 教育では ことばの力 を 対話者や場面に応じてことばによってやりとりする力 と捉え ことばを使った行動や他者との ことばのやりとり からことばの力を把握し それにもとづき 授業デザインを行い 教科学習を通じて学力とことばの力の育成を同時にめざしているということになります OECD の報告書は同時に 家庭内でどの言語を使用するかについても重要な指摘をしてい ます 報告書は 家庭内で 学校で使用する言語 と異なる言語を使用する移民の子どもは 家庭で教授言語を使用する移民の子どもより得点が低いと述べ 家庭内で移民の子どもが教 授言語と異なる言語を使用することに否定的な見解を示しています ただし この点は オ ーストラリアとカナダには当てはまらないとも 報告書は述べています オーストラリアでは 加算的バイリンガリズムの考え方から移民の子どもの母語の力は第二言語である英語の習得にも役立つと考えられています したがって オーストラリアにおける移民の子どもたちは 母語を捨てることなく 英語と母語の間を日々 移動しながら 成長していると言えます OECD の報告書が指摘するように 移民の子どもが学校や家庭で使用する言語の問題や移民国の言語教育政策の有無が子どもの学力保障と将来の成功に関わるのであれば 移民 36

45 招待講演 の子どもの教育における ことばの教育 は欠かせない視点になるわけです したがって 21 世紀のこれらの子どもの研究において重要な課題は TCK 研究で見られたようなアイデンティティ論だけではなく むしろ アイデンティティ形成に ことばの教育 がどう関わるか また 移動する子どもたち (CCB) の成長に ことばの教育 がどう関わるかなどが課題となると思います 4 移動する子どもたち の ことばの教育 をどう考えるか では 次 3 つ目のテーマ 移動する子どもたち の ことばの教育 をどのように考えたらよいのか ということについてお話します オーストラリアの ESL 教育から私たちが学ぶことは ことばの教育 をデザインするためには まず 子どもの ことばの力 を把握するが重要であるということです そして ことばの力を把握する方法は ESL バンドスケールなどにあるように ことばのやりとり をまるごと 観察することです これは 行動からことばの力を把握する方法です 近年 言語教育のあり方が議論されています その議論の中心にあるのは ことばの力 リテラシーです たとえば 欧州評議会 (Council of Europe) の ヨーロッパ共通参照枠 (CEF) は 言語教育が育成する言語熟達度の客観的基準です そこでは 言語熟達度の基準となる能力記述文がわかりやすいように細かく示されています ただし CEF も国や地域 教育機関 対象者に応じて その基準の詳細は変化することも示唆しています つまり 移動する時代 に必要な ことばの力 や ことばと人間の関係 というテーマは どこかに確定されたものがあるというよりは 教育実践を通じて形成され かつ探究されていくものなのだということです ここで重要なのは教育実践者の視点 あるいは ことばの力 についての教育実践者の認識だと思います CEF も 言語熟達度の参照点であって 実践のありカを示しているわけではありません 言語熟達度の基準となる能力記述文をいかに作成するかということと 教育実践者がどのように実践するかということは まったく別の次元のテーマであるとも言えます つまり CEF が提示する言語熟達度を教育実践者がどう解釈するかによって 実践の形はいかようにも変化するということです このことを CCB の ことばの教育 について考えると どうなるでしょうか すでに指摘したように CCB は移動する子どもたちです 空間を 言語間を そして言語教育カテゴリー間を移動する子どもたちです つまり CCB 自体が動態性を持ちます また 教育実践者も この時代の影響を受け 外国語を学習したり 異文化に接触したりする経験の中で 自らの言語能力観や言語教育観が形づけられていきます つまり 教育実践者自身も 移動する実践者 であり さまざまな移動する子どもたちに触れることによって 変容し続ける存在なのです つまり 教育実践者にも動態性があるわけです したがって 学習者である子どもの動態性 実践者の動態性から 必然的に 実践自体が動態性をもつことになるのです ここで重要なのは 固定的な教科書とカリキュラムで日本語を教えるという固定的な教育では CCB を教えることはできないということです 動態性をもつ CCB にどう対応するかが教育実践者には問われるということです つまり 子どもと実践者の関係性が問わ 37

46 招待講演 れるのです 子どもが言いたいこと 伝えたいことを日本語で表現しようとし 実践者が 子どもが何を日本語で言いたいのか 伝えたいのかを理解しようとしながら対応するという関係です その関係性は 子どもを 主体として受け止めて主体として育てる という大人と 主体として受け止められて主体として育っていく という子ども側の 相互主体的な関係性 ( 鯨岡 2006) なのです ここで重要なのは ことばの力 というのは そのような関係性の中で発揮されるということです つまり 端的に言えば 関係性こそ ことばの力 リテラシー である ということです それは 他者がいることで成り立つ ことばの力 という意味で 相互構成的関係性とも言えます 私は CCB として成長した大学生や大人たちにインタビュー調査を行っています その調査から さまざまなことがわかってきました CCB が幼少の頃から 複数言語環境で育ち そして成人するまでどのように成長したのか そして社会に出てから 複数言語をどのように使用しているか あるいは 複数言語についてどのような認識を持っているかなどを聞いています そこでわかったことは 次のようなことです 1) 子どもは社会的な関係性の中で言語を習得する 2) 子どもは主体的な学びの中で言語を習得する 3) 複数言語能力および複数言語使用についての意識は成長過程によって変化する 4) 成人するにつれて 言語意識と向き合うことが自分自身と向き合うことになり その後の生活設計に影響する 5) ただし 言語能力についての不安感は場面に応じて継続的に出現する では これらのことは子どもの教育において何を意味するのでしょうか 空間を移動し 言語間を移動し 言語教育のカテゴリー間を移動する CCB は 既成の記述的な言語能力や言語教育のカテゴリーとは別次元で 極めて主観的な意識のレベルで言語習得や言語能力意識を形成し そのことに主体的に向き合い 折り合いをつけることによって自己形成し 自分の生き方を立ち上げていくということです ただし その言語能力は高度なマルチリンガルのように見えますが 常に不安感を秘めた言語能力意識を持っているということです この 不安感を秘めた言語能力意識 こそ 言語習得や言語生活を下支えしていることがわかります CEF の 複言語主義 複文化主義 は個人の中にある言語能力 文化能力意識です では CCB の場合 どのように考えたらよいのでしょうか CCB を対象にした教育実践は 日本語母語話者をモデルとした あらかじめ決まった目標に到達する あるいは到達させる言語教育ではなく 子どもにとっての意味のある ことばの力 リテラシー とは何か また子ども自身が自分の ことばの力 リテラシー とは何かを追究していくことを 教育実践者が子どもに寄り添って教育実践の中で追究していくことが必要なのです なぜなら CCB の主体的な そして主観的な言語能力意識が 言語学習や言語使用 そして生き方へも影響をあたえるからです そのような CCB に向き合う教育実践は 動態性の子どもと 動態性の教育実践者の双方の主体性育成をめざす教育実践ということにな 38

47 招待講演 ります その意味で これからの年少者日本語教育は 主体性の年少者日本語教育 であり 動態性の年少者日本語教育 なのです < 参考文献 > 片岡裕子 (2008) アメリカにいる日本の子どもたち, 佐藤郡衛 片岡裕子編 アメリカ で育つ日本の子どもたち - バイリンガルの光と影, pp , 明石書店. 川上郁雄 (2010) 私も 移動する子ども だった - 異なる言語の間で育った子どもたちの ライフストーリー くろしお出版. 川上郁雄編 (2006) 移動する子どもたち と日本語教育 - 日本語を母語としない子ども へのことばの教育を考える 明石書店. 川上郁雄編 (2009a) 移動する子どもたち の考える力とリテラシー - 主体性の年少者日 本語教育学 明石書店. 川上郁雄編 (2009b) 海の向こうの 移動する子どもたち と日本語教育 - 動態性の年少 者日本語教育学 明石書店. 川上郁雄 石井恵理子 池上摩希子 齋藤ひろみ 野山広編 (2009) 移動する子どもた ち の教育を創造する -ESL 教育と JSL 教育の共振 - ココ出版. 鯨岡峻 (2006) ひとがひとをわかるということ - 間主観性と相互主体性 - ミネルヴァ書 房. 佐々木倫子 細川英雄 砂川裕一 川上郁雄 門倉正美 牲川波都季編 (2007) 変貌する 言語教育 - 多言語 多文化社会のリテラシーズとは何か くろしお出版. 佐藤郡衛 (2008) 第三の文化 をもつ子どもの育成に向けて - 子どもたちをいかに支えるか 佐藤郡衛 片岡裕子編 アメリカで育つ日本の子どもたち - バイリンガルの光と影, pp , 明石書店. Castles, S. & Miller, M.J. (1993) The Age of Migration: International Population Movements in the Modern World. London: Macmillan. [ 国際移民の時代 関根政美 関根薫訳 (1996) 名古屋大学出版会.] Pollock, D. C. & Van Reken, R. E. (1999) The Third Culture Kid Experience-Growing up Among Worlds. Maine: intercultural Press. 39

48 招待講演 国際交流基金日本語教育スタンダード の構築 日本語能力試験 の改定 及びその連関 古川嘉子 ( 国際交流基金日本語国際センター ) 堀恵子 ( 国際交流基金日本語試験センター ) 要旨 本稿では JF 日本語教育スタンダードの開発と日本語能力試験の改定について報告する JF 日本語教育スタンダードは 国際交流基金が海外に日本語を普及するにあたり日本語のさら なる国際化を目指して日本語教育の基盤整備に取り組むための中心的役割を担うものであり 日本語の教え方 学び方 そして学習成果の評価のし方を考えるためのツールである 国内 外の教育現場での試行を踏まえ 2010 年 3 月に JF 日本語教育スタンダード 2010(JF 日本 語教育スタンダード第 1 版改め ) として 能力記述文データ検索ウェブサイト みんなの Can-do サイト を提供し 学習者が学習過程を記録しふり返る評価のツールとしてポー トフォリオを提案する また 1984 年に開始した日本語能力試験は 受験者の増大とそれに 伴う変化 応用言語学 日本語教育 テスト理論の発展 試験結果データの蓄積 試験に対 する要望や提言などをふまえて 2010 年より改定がなされる 改定のポイントは 1 課題遂 行のための言語コミュニケーション能力の測定 2レベルの 4 段階制から 5 段階制への変更 1 3 得点等化の実施 4 日本語能力試験 Can-do リスト ( 仮称 ) の提供である 両者の関 係性については 今後の検証を行い結果を報告していく キーワード JF 日本語教育スタンダード 日本語能力試験の改定 課題遂行のための言語コミュニケーション能力 Can-do 異文化理解能力 1 はじめに 国際交流基金は 海外の日本語学習者の増加や 学習目的や教育環境の多様化という今日の状況に対応するため 2010 年 3 月に JF 日本語教育スタンダード ( 以下 JF スタンダード )2010 を発表するとともに 日本語能力試験についても改定を行い 同年 7 月以降は新しい日本語能力試験 ( 以下 新試験 ) を実施することになりました ここでは 2009 年 11 月現在のそれぞれの開発の状況をご報告します 2 国際交流基金日本語教育スタンダード の構築 JF スタンダードは 日本語の学び方 教え方 そして学習成果の評価のし方を考えるためのツールです JF スタンダードでは 相互理解のための日本語 を理念とし 言葉を通した相互理解のためには その言語を使って何がどのようにできるかという課題遂行の能力と さまざまな文化に触れることでいかに視野を広げ他者の文化を理解し尊重するかという異文化理解能力が必要であると考えています 2010 年 3 月発表の JF 日本語教育スタンダード 2010 ( 以下 JF スタンダード 2010) では まずは 日本語で何ができるよう 40

49 招待講演 になるかという課題遂行能力に重点を置き 日本語の熟達度を ~できる という形式の文 ( Can-do ) で示します この Can-do は 能力記述文データ検索ウェブサイト みんなの Can-do サイト で提供します Can-do は 日本語教育のカリキュラムや教材の作成 授業設計 評価手法の開発などに利用できます また 課題遂行能力の向上や異文化理解能力の育成を目指した日本語教育において 学習者が日本語の熟達度を自己評価し 学習過程をふり返るための方法としてポートフォリオを提案します 学習者はポートフォリオを使うことによって 学習進度を意識しながら学ぶことができます 2.1 背景と理念 2006 年の国際交流基金の調査では 海外の日本語学習者は約 300 万人でした 2009 年現在その数はさらに増え 学習目的や学習者の属性も多岐に渡り ますます多様化が進んでいます ヨーロッパにおいても 年少者から中等教育 高等教育 そして一般成人教育と 対象や目的などによる多様化が見られます 日本国内に目を転じると 留学生 30 万人計画 EPA の締結による看護師 介護士の受け入れや企業への高度人材と言われる留学生の受け入れなどが政策的に進められていますし 国内在住外国人のための 生活者のための日本語 という取り組みも行われています このような日本内外の日本語教育をめぐる多様な動きの中で各教育現場では これまで経験しなかったような新しい課題に直面し それらへの対応を迫られているというのが現状のようです そこで国際交流基金は 多くの多様な現場間で共有するための日本語教育の拠り所となる枠組みとして JF スタンダードの開発に着手しました JF スタンダードでは 基本的な考え方として 相互理解のための日本語 を提案しています この考え方では 日本語でコミュニケーションを行う場合に 様々な価値観を持つ人々の間で お互いに相手を理解し 関心や意見を伝え合う姿勢を大切に考えます さらに 生涯にわたる日本語学習を視野に入れ 教室を越えた学びを考えていきます 日本語の学習を通して獲得していく能力としては 課題遂行能力と異文化理解能力の二つがお互い影響しあいながら発達していくものと考えます このような考え方は 言語のためのヨーロッパ共通参照枠 (Common European Framework of Reference for Languages: 以下 CEFR) などの国際的な言語教育の枠組みと軌を一にするものです 2.2 CEFR とドイツ語プロファイル JF スタンダードの開発にあたり JF 日本語教育スタンダード試行版 では ヨーロッパの言語教育で利用されている CEFR と European Language Portfolio(ELP) Profile deutsch ( ドイツ語プロファイル ) を先行事例としてレビューしています 特に CEFR は その理念 提供物 運用のあり方において参照しています 具体的には A1-A2-B1-B2-C1-C2 の 6 段階で言語能力の熟達度を表した共通参照レベル 53 のカテゴリーで整理されている詳細な Can-do による能力記述文 自律的な学習者という考え方 などを日本語教育の実践の中で活用することを検討します JF スタンダード開発のために CEFR を活用することにより 日本語を他の言語と並ぶ一つの言語として客観的に捉え 国際的な言語教育の枠組みとして JF スタンダードを活用することが可能となると考えます また ドイツ語プロファイルは English Profile などと同様に CEFR という多言語共通の 枠組みを一つの言語の実践で利用するために文脈化したものです JF スタンダードとい 41

50 招待講演 う日本語の枠組みを考える上で ドイツ語プロファイルは ドイツ語という特定の言語の教育において CEFR を解釈しまとめ直している点 実際のドイツ語使用に基づく Can-do を提供している点 教育現場が対象とする学習者集団に合わせて教育者が内容を追加していける点などが参考になりました 2.3 JF 日本語教育スタンダードで提供 提案するもの JF スタンダードでは 多様な日本語教育の現場において 課題遂行能力の向上と異文化理解能力の育成を目指した日本語教育を行っていくために 能力記述文データ検索ウェブサイト みんなの Can-do サイト を提供し 評価のツールとしてポートフォリオを提案します (1) 能力記述文データ検索ウェブサイト みんなの Can-do サイト 課題遂行能力の育成に向けて CEFR の Can-do と 教育現場との共同研究を通し一定の検証を行った JF Can-do を提供するデータベースを構築し ウェブ上で提供します これらの Can-do を CEFR の共通参照レベル コミュニケーション活動と方略 コミュニケーション言語能力 のカテゴリーや話題でなど 利用者のニーズに合わせて多角的な検索ができるようにします Can-do は 教育現場でのコースデザイン 教材作成 評価手法の開発などの際に利用できます (2) ポートフォリオ ポートフォリオは 学習過程を記録し保存するものです 学習者が日本語の熟達度を自己評価し 日本語を使用した体験や異文化の中での体験を記録します 学習過程をふり返ることで評価のツールとして使うことができます JF スタンダードのポートフォリオは 評価表 ( 評価のものさし改め ) 言語的 文化的体験の記録 学習の成果 の三つの要素で構成されます 教師は 現場のニーズや目的に合わせて 三つの要素を組み合わせて 自由にポートフォリオを作ることができます 以上の二つは JF スタンダード 2010 発表後も 教育現場の実践から生み出されたコンテンツを追加し 内容を充実させていく予定です また JF スタンダードの開発途中の取り組みについてもウェブで提供することを検討しています JF スタンダードの活用例として Can-do やポートフォリオを実際に活用した取り組み事例を 多くの現場で参照できるよう 具体的でわかりやすい形で紹介していきます 2.4 JF スタンダードの教育現場での利用 2008 年度には 国際交流基金の三つの拠点 ( ケルン日本文化会館 ソウル日本文化センター 日本語国際センター ) で実施している日本語講座 ( 日本語科目 ) において JF スタンダードを試行しました 試行では CEFR の能力記述文を日本語教育に適用しようとした場合 どのような効果や課題があるか探ることを目的として 各講座の目標設定を CEFR の共通参照レベルや能力記述文で見直す作業を行いました 試行段階での現場との共同研究により CEFR の能力記述文を利用することにより学習目標が明確化し 他者と共有できた CEFR が共通のことばとなり 個々の教師の教育実践を他者と振り返ることができた など CEFR が日本語教育現場でも機能する枠組みであることが確認されました 一方 CEFR の記述が抽象的すぎる Can-do による目標が達成されたかどうかの評価の方法がわからない など CEFR と現場の教育実践をつなぐ仕組みを作っていく必要性も明 42

51 招待講演 らかになりました また 試行段階での現場との共同研究の過程で JF スタンダードの教育現場での利用のあ り方が見えてきました JF スタンダードの教育現場での利用のあり方とは 各現場での課題 を確認し (SEE) JF スタンダードで提供する Can-do やポートフォリオを取り入れて その 課題の解決につながるための教育実践の計画をたて (PLAN) 計画を実行し (DO) その 結果を振り返り 成果と課題は何かを考え (SEE) 次の実践につなげていくという SEE PLAN DO SEE のサイクルを実践することであるということです ヨーロッパの教育現場での利用を考える一つのモデルとしてケルン日本文化会館の事例があり ます ケルン日本文化会館では 40 年にわたる日本語教育の実績を活かしつつ 環境の変化に 対応していくためにティームティーチングによる講師間の協働を重視して来ました しかし 社会状況などの変化により 若い世代の学習者を中心とした話す能力の向上を求めるニーズな ど新しい課題が見いだされました それらに応えるため Can-do による目標設定に基づく初級 段階のシラバスの見直しや口頭試験の導入を行いました そこで作成された日本語講座のシラ バスを 担当する講師全員が利用することを通じて検証し その中で上がってきた問題点を解 決する形でシラバスの見直し作業を進めています この作業の中で講師の間の日本語教育に関 する内省に基づく対話が進んでいるということです このようにコースのカリキュラムの見直 しに利用する以外にも JF スタンダードはヨーロッパの様々な日本語教育の場で利用する可能 性があるでしょう 例えば JF スタンダードが日本語の特徴を踏まえた共通のレベル イメー ジを提供することにより 異なる機関の間の学生の交換プログラムなどにおいて その学生が これまでどのような学習を経験し どのようなことができ また行った先の機関でどのような 教育を受けるのか 送り出し側 受け入れ側双方の機関も学生本人も理解することができるようになります また 同じ機関の中でも異なるクラスの間のコース内容や学生のレベルについての対話が可能となります さらに CEFR を背景に持つ枠組みである JF スタンダードを利用することにより 日本語科目とそれ以外の言語科目の教師の間で お互いのカリキュラムについて共通の用語やレベル イメージで それぞれの特徴や実績 課題について話し合うことも可能となってくるでしょう 2.5 JF 日本語教育スタンダード 2010 JF スタンダード 2010 は 日本語教育の現場での SEE-PLAN-DO-SEE の過程を支援することを目指しています そのためには まず日本語教育の現場で日々実践を積み重ね 例えば このコースは学習者の話す力をどう伸ばすことができるのか 学習者自身の自律的な学習をどうやって支援できるのか 自分のコースを点検してみたい など 様々な課題や希望を持つ日本語教師の方々にお使いいただけたらと思います 様々な課題やニーズを持つ日本語教育関係者に JF スタンダード 2010 をお使いいただき 教育現場の実践をより豊かなものとしていくと同時に JF スタンダードそのものを育てていくことにご協力いただけたらと考えます 3 新日本語能力試験 1984 年に開始した日本語能力試験は 年々受験者や実施国 地域も増え 2008 年には全 世界の 52 カ国 地域の 173 都市で約 56 万人が受験するまでになっています こうした中 43

52 招待講演 日本語でコミュニケーションする際に必要とされる運用能力を評価する試験であることを目指して 2005 年に 日本語能力試験改善に関する検討会 を設置し 外部の多くの専門家の協力を得て試験改定の検討を重ねてきました それらをふまえ 2010 年から新しい 日本語能力試験 を実施することになりました 本稿では 改定のポイントと認定の目安 新しい問題を中心とした問題例 ガイドブックについて述べます 3. 1 改定のポイント 改定のポイントは以下の 4 点です 1 課題遂行のための言語コミュニケーション能力 を測ります 2 レベルを 4 段階から 5 段階に増やします 3 得点等化 を行います 4 日本語能力試験 Can-do リスト ( 仮称 ) を提供します 以下 順に説明します 課題遂行のための言語コミュニケーション能力 を測る 文字 語彙 文法といった言語知識と その言語知識を利用してコミュニケーション上の課題を遂行する能力 を 新試験では 課題遂行のための言語コミュニケーション能力 と呼び 言語知識 読解 聴解 の三つに分けて測ります レベルを 4 段階から 5 段階に新試験では レベルを現行試験の 4 段階 (1 級 2 級 3 級 4 級 ) から 5 段階 (N1 N2 N3 N4 N5) に増やします 新試験と現行試験とのレベルの対応は 表 1 の通りです 現行試験の 2 級と 3 級の間に N3 というレベルを新しく設けます 表 1 新日本語能力試験のレベルと現行試験との比較 N1 N2 現行試験の 1 級よりやや高めのレベルまで測れるようになります 合格ラインは現行試験とほぼ同じです 現行試験の 2 級とほぼ同じレベルです N3 現行試験の 2 級と 3 級の間のレベルです ( 新設 ) N4 N5 現行試験の 3 級とほぼ同じレベルです 現行試験の 4 級とほぼ同じレベルです N は Nihongo( 日本語 ) New( 新しい ) を表します 得点等化 を行う 新試験では 等化 という方法によって 異なる時期に実施された試験の得点を相互に比較可能な共通の尺度上で表します その結果 同じレベルの試験であれば いつの試験を受けても共通の尺度上で得点を比べることができます 等化 は 世界の主な言語試験で広く採用されています 日本語能力試験 Can-do リスト ( 仮称 ) を提供する試験の結果をより具体的に理解するための参考情報として 日本語能力試験 Can-do リ 44

53 招待講演 スト ( 仮称 ) を提供します これは 各レベルの合格者に対して実際の生活で日本語を使って何ができると考えているかを調査し 作成した言語行動リストです 3.2 認定の目安新試験のレベル認定の目安は 読む 聞く という言語行動で表します ( 表 2) 表 2 レベル 新しい 日本語能力試験 認定の目安認定の目安 各レベルの認定の目安を 読む 聞く という言語行動で表します それぞれのレベルには これらの言語行動を実現するための言語知識が必要です N1 N2 N3 N4 N5 幅広い場面で使われる日本語を理解することができる 読む 幅広い話題について書かれた新聞の論説 評論など 論理的にやや複雑な文章や抽象度の高い文章などを読んで 文章の構成や内容を理解することができる さまざまな話題の内容に深みのある読み物を読んで 話の流れや詳細な表現意図を理解することができる 聞く 幅広い場面において自然なスピードの まとまりのある会話やニュース 講義を聞いて 話の流れや内容 登場人物の関係や内容の論理構成などを詳細に理解したり 要旨を把握したりすることができる 日常的な場面で使われる日本語の理解に加え より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる 読む 幅広い話題について書かれた新聞や雑誌の記事 解説 平易な評論など 論旨が明快な文章を読んで文章の内容を理解することができる 一般的な話題に関する読み物を読んで 話の流れや表現意図を理解することができる 聞く 日常的な場面に加えて幅広い場面で 自然に近いスピードの まとまりのある会話やニュースを聞いて 話の流れや内容 登場人物の関係を理解したり 要旨を把握したりすることができる 日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる 読む 日常的な話題について書かれた具体的な内容を表す文章を 読んで理解することができる 新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる 日常的な場面で目に触れる範囲の難易度がやや高い文章は 言い換え表現が与えられれば 要旨を理解することができる 聞く 日常的な場面で やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて 話の具体的な内容を登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる 基本的な日本語を理解することができる 読む 基本的な語彙や漢字で書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を 読んで理解することができる 聞く 日常的な場面で ややゆっくりと話される会話であれば 内容がほぼ理解できる 基本的な日本語をある程度理解することができる 読む ひらがなやカタカナ 日常生活で用いられる基本的な漢字で書かれた定型的な語句や文 文章を読んで理解することができる 聞く 教室や 身の回りなど 日常生活の中でもよく出会う場面で ゆっくり話される短い会話であれば 必要な情報を聞き取ることができる 45

54 招待講演 3.3 問題例 各試験科目で出題する問題を 測ろうとしている能力ごとにまとめたものを 大問 とよびます 以下では 新しい問題形式を中心に 大問の概要とねらいを説明します 言語知識 ( 文字 語彙 ) 新試験の 言語知識 ( 文字 語彙 ) では 漢字読み 表記 語形成 文脈規定 言い換え類義 用法 の六つの大問を設定し 課題遂行のための言語コミュニケーション能力 の土台となる言語知識を 語の形式 意味 用法の三つの側面から測ります 語構成 (N2 のみ ) 派生語や複合語の知識を問う ( 空所補充形式 ) 例 (N2) あの映画の最後は ( ) 場面として知られている 1 名 2 高 3 良 4 真 文脈規定 (N1~N5 で出題 N5 のみに変更があり ) 例のように イラストを利用した問題を出題することがある 例 (N5) ここは ( ) です べんきょうできません 1 くらい 2 さむい 3 うるさい 4 あぶない 言語知識 ( 文法 ) 新試験の 言語知識 ( 文法 ) では 文法の知識を 1 文法形式とその意味用法に関する知識と 2 テクスト性に関する知識という二つの観点から捉えます 1 を測るために 文の内容に合った文法形式かどうかを判断することができるかを問う ことをねらいとした 文の文法 1( 文法形式の判断 ) という大問と 統語的に正しく かつ 意味が通る文を組み立てることができるかを問う ことをねらいとした 文の文法 2( 文の組み立て ) という大問を設定しました 2 を測るために 文章の流れに合った文かどうかを判断することができるかを問う ことをねらいとした 文章の文法 という大問を設定しました 46

55 招待講演 文の文法 2 (N1~N5) 例 (N5) やまだ山田さんは です 1 上手 2 ギターも 3 ひけるし 4 歌も 文章の文法 (N1~N5) 例 (N5) 紙面の都合上 問題の一部のみ掲載する 読解読解の目標は テキストから何らかの情報を得ることですが 新試験では どのようなテキストから どのように情報を得るか の二つの観点から課題を設定し 問題の構成を考えました 新しい形式の問題形式は次の二つです 統合理解 (N1 N2 のみ ) 複数のテキストを読み比べて 情報を比較 統合しながら理解できるかを問う 情報検索 (N1~N5) 情報素材 の中から必要な情報を探し出すことができるかを問う 右の問題例は N2 の 統合理解 の例ですが 47

56 招待講演 三つの文章を読んで解く問題も出題されることがあります この問題では 一つの相談に対する二つの回答を読み比べて 共通点や相違点を読み取ります 聴解新試験の 聴解 の大問は 1 内容が理解できるかを問う問題と 2 即時的な処理ができるか ( 発話 応答の適切さが理解できるか ) を問う問題の二つに大きく分けられます 内容理解を問う大問のうち N1 から N3 で出 題する 概要理解 は テキスト全体から話者 の意図や主張などを理解できるかどうかを問う 問題です 全体を理解する聞き方を問うために 3 質問と選択枝は事前に示されません 即時的な処理を問う ( 発話 応答の適切さが理解できるか ) 大問には 即時応答 と 発話表現 の二つがあります これは コミュニケーションにおいて 発話や応答の適切さを即時に判断する必要があることを反映した新しい形式の問題です 短い発話や状況説明と選択枝のみを聞いて解答します 右上の絵は N5 の例です 友達の辞書を使いたいです 何と言いますか? という状況説明文と質問文を聞いたあと三つの選択枝が読まれるので その中から答えを選びます 3.4 皆さまからの質問 ガイドブック には皆さまから寄せられる よくある質問 などの参考情報も載せております 詳しくはそちらをご覧ください 3.5 今後に向けて これまで試験問題は非公開との方針で検討してきましたが 受験者 教育関係者のご要望も考慮し 問題例集も作成することになりました 詳しくは HP をご覧ください 新しい 日本語能力試験 が 受験者をはじめ 関係者の皆様にとって より一層役立つ試験となれば幸いです 4 国際交流基金日本語教育スタンダード と 日本語能力試験 との連関 以上の通り JF スタンダードは教育現場の実践を広く支援する側面から 新試験は評価の側面から これからの日本語教育をよりよいものとするために国際交流基金が開発してきたものです 両者とも 課題遂行能力のための言語コミュニケーション能力 を その基本となる考え方として重視しています しかし JF スタンダードでは異文化理解能力も含んだ日本語教育を対象とするなど 目的に従い異なる点があります さらにレベル分けについて JF スタンダードは 国際的なレベル記述である CEFR の共通参照レベルに基づいたレベル分けを採用しています また 日本語能力試験は N1~N5 までの 5 段階のレベルにわかれています この両者のレベル設定については 実証研究に基づき相互の関係性を検証していく予定です 国際交流基金は 今後 その結果を随時広く報告していきます 48

57 招待講演 注. 1 日本語能力試験 Can-do リスト ( 仮称 ) は 2010 年度中に提供します 2 新試験の問題の構成とねらいは HP 上の ガイドブック に載せています 問題例集 もあります 年 3 月 20 日 ) 3 日本テスト学会 (2007 年, p. 18) では 選択肢 ではなく 選択枝 が用いられているこ とから それに倣います < 参考文献 > 国際交流基金 (2009) JF 日本語教育スタンダード試行版 国際交流基金. 国際交流基金 (2009) 日本語能力試験公式ガイドブック 国際交流基金. 日本テスト学会 (2007) テスト スタンダード 日本のテストの将来に向けて 金子書房 JF 日本語教育スタンダード サイト 年 3 月 31 日 ) みんなの Can-do サイト 年 3 月 31 日 ) 日本語能力試験 ウェブサイト 年 3 月 20 日 ) 49

58 招待講演 美しい日本の私 グローバル化とアイデンティティ イルメラ 日地谷 = キルシュネライトベルリン自由大学 要旨日本は 美しい国 であるといろいろな人が言う 日本国内でも また国外からもそう思われている 私自身にとっても その 美しい日本 とは日本学を選ぶ際の重要な動機の一つであった しかし 国の内外でこの 想見 がこれほどまでに深く 根強く行き渡っているのは 何故であろうか? 私は 本講演においてこの 問い をさらに追ってみる 探求の資料として 20 世紀以降現在に至るまでの洋の東西の文学 文学史から具体例を数多く引用し さらにまた 日本論 日本人論 のテクストや現況社会の広告文 コピーなどにも言及する つまりこの講演が目指すものは 美しい日本 というイメージがなぜこの国にとってそれほど重要な意味を持ち 日本語学習者をも含めた多くの人々の想像を満足させるために機能しているか その答えを探ろうというものである ( 編集部注 : 本要旨は予稿集 2009 年日本語教育シンポジウム からの転載です ) 50

59 パネルディスカッション

60 パネルディスカッション パネルディスカッション 要旨テーマ : 日本語教育スタンダード について考える パネリスト : 川上郁雄 古川嘉子 山内博之 ( 五十音順 ) コメンテーター : 細川英雄 司会 : 山田ボヒネック頼子 問題提起 : 日本語教育スタンダード について考える 司会 : 山田ボヒネック頼子ベルリン自由大学 今 ここ に生きる自分は どのような時空間に存在するのか? 母語 母文化を基に異語 異文化圏に生活をするとは 自分という 個 にとって何を意味するのか? EU ヨーロッパ連合 という生活環境の中で袖を触れ合う人々といかに同時代を生きるか? この言語文化圏の 21 世紀の 時代精神 (Zeitgeist) をどのように把握するのか? したいのか? 日本語教師として現行ヨーロッパで日本語クラスを担当することをどのように考えたいか? 第 14 回 AJE 日本語教育シンポジウム実行委員会はこれらの山積する疑問 問題意識の上に立ち 本パネルを企画した EU 為政者は その新しい 統一体 = 連合国 の社会言語文化哲学 ビジョンを盛るため に敢えて 複 ( 数 ) 言語 複 ( 数 ) 文化主義 (Pluri-lingualism & -cultualism) と いう 容れ物 を用意した 旧ワイン袋の 多言語 多文化 (Multi-lingualism & - cultualism) の 多 は 生活共同体としての社会の一面を述するから役不足である 欧州 市民各個人の コミュニケーション能力 の熟達を強調するためには新しい袋が必要となっ たのである そしてその理念の具現化方策として 1996 年に初版を 2001 年に CEFR: Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment( 邦 訳 : ヨーロッパ言語共通参照枠組み : 学習 教授 評価 ) をガイドラインとして公示した この参照枠は普遍的視座に立って 初心者から熟達者へ発達進化する 言語能力 の各段 階を明示した 日本で 柱の傷は一昨年の と学校唱歌で歌う 年々の成長 度の各段階 の 基準 = スタンダード を明確化したのである 新しい国の新しい 理念 を一人一人に最も効果的に浸透させることができるのは 教育 の場である 戦後日本が民主主義というギリシャ時代に始まる欧米圏からの智慧の結晶を国単位で習おうとしたとき 明治以来の伝統的方策である 学校教育 に俟ったと同じだ 現代 EU 圏内の 日本語クラス授業者 は その意味でこの 国 が持つ言語文化政策上の焦眉の課題と到達目標を 時代精神 として確実に把握しておかなければならない CEFR にとっては 学習初心者はどんなに未熟であっても初めからその言語の 使用者 である 現代 EU が謳うこの 時代精神 は 学習者側にも授業者側にも発想の転換を要求する 時あたかも 21 世紀初頭 前世紀までの 500 年続いた グーテンベルグ銀河系 からマルチメディア IT 革命も始まっている この現代 EU 文化風土の中の日本語クラスという時空間の中で 言語 文化 と触れ合おうとする各個人は お互いに異言語 異文化に接し それぞれの身体 脳内に既存する価値体系を新たに組み直す 認知作業 を行い 相互に 複言語 複文化力 を養う 51

61 パネルディスカッション その学び合いの時空間における 日本語教育スタンダード とは何か? 日本語の 言語形式 : 語彙 テクスト型 からこの基準を記述しようとする山内博之氏にとっては? ヒトの言語能力を 関係性 という出発点から捉える川上郁雄氏は? JF 日本語教育スタンダード 作成に関わった古川嘉子氏は? そして日本語教育の目指すところを 個の文化確立 すなわち一見するところ 基準化 スタンダード思考法 とは対極点にあるように見受ける コメンテーターの細川英雄氏からの見解は? パネル討論が始まった 日本語教育スタンダード の役割 JF 日本語教育スタンダードの構築を通して パネリスト : 古川嘉子国際交流基金日本語国際センター 広く利用できる言語教育の枠組みとしての CEFR では 複言語 複文化主義という理念に基づき レベル認識の指標として共通参照レベルを設定し あくまで例示的に多くの Can-do を提供している 欧州の様々な言語の教育関係者は CEFR があることにより言語を越えて対話が可能となった 言語教育の参照枠 すなわち ここで言う 言語教育スタンダード に求められる要件には 広くコミュニケーションや言語学習を捉えた理念 一定の信頼性のある指標の提供 教育現場での様々な形での運用を可能とする自由度の保証が含まれるであろう 日本語教育に目を転じれば 多様化した教育現場で 個々に異なる課題を持つ一方 共通に取り組むべき課題も多い どうしたらそれらの問題を現場で解決できるか その際に他の機関や行政当局などとどう連携していくか これらの課題を共有し 共に考える対話の場が必要であろう JF 日本語教育スタンダード ( 以下 JF スタンダード ) は 日本語教育において そのような対話の場で共有できる枠組みであることを目指して CEFR を範として国際交流基金が開発している JF スタンダードの詳細については 本誌の別の稿に譲るが これまでの日本語教育の実践や言語教育の動向を踏まえ 相互理解のための日本語 という理念の下に 課題遂行能力と異文化理解能力の二つの能力の発達を促すため 日本語教育の現場の実践を踏まえた Can-do を利用しやすい形で提供するウェブサイト 異文化体験も含めた日本語学習の評価ツールであるポートフォリオの提案を JF 日本語教育スタンダード 2010 として公開する予定である これらの利用により 日本語教育関係者が自らの教育実践がどのレベルの どのようなコミュニケーション活動を扱ったものであるか どのような教育のあり方に基づき行われているか またその課題は何かを把握し 考える材料とできる そして 他者と対話する際の共通のことばともなる JF スタンダードは 多くの現場との協働の中で成長していく枠組みとして開発が進んでいるが 今後 多くの教育現場で 日本語教育スタンダード と認められていくためには 様々な現場での運用に基づき検証を続けていく必要がある 52

62 パネルディスカッション 日本語教育スタンダード の可変性 パネリスト : 山内博之実践女子大学 私が考える 日本語教育スタンダード ( 話技能 ) とは 言語活動 実質語 機能語 の三種類のリストによって構成されるものである リストはそれぞれ独自の 枠 を持ち その中には個々の 要素 が入っている このような日本語教育スタンダードにおいて 日本語教育を行う国や地域が異なることによって変化する部分はどこなのか また 変化しない部分はどこなのか 変化しない部分は それぞれのリストの 枠 である 拙稿 学習 教育 評価のための日本語教育スタンダード ( 話技能 ) で述べたように 言語活動のリストには 話題 テキストの型 言語活動のタイプ という三つのカテゴリーによって形成された 枠 があり 実質語のリストには 話題 構文情報 難易度 という三つのカテゴリーによって形成された 枠 がある また 機能語のリストには 自発に関わる機能語 というような 文法カテゴリー に基づく 枠 がある このような 枠 自体は不変であるべきだと考えている 枠 の中に入る 要素 については 言語活動 実質語 機能語の中では言語活動が最も可変的である たとえば アクアアルタに遭遇して困っている日本人観光客に対処法を教える という言語活動は ヴェネツィアに独特なアクアアルタに関する言語活動なので ヴェネツィア以外で起こる可能性は低い また 騒がしい隣人に対して苦情を言う という言語活動は 日本以外では隣人はおそらく日本人ではないので 日本以外で起こる可能性は低い 国や地域によって それぞれの言語活動には軽重の差が生じるであろう 次に可変的なのは実質語である 基本語彙や抽象語彙については 国や地域によってそれほど差が生じるとは思われないが たとえば アクアアルタ という語のように ある国や地域の事物と密接に関連する語の場合には 重要度において差が生じる 一方 機能語は ほぼ不変であろうと思われる たとえば 自発に関わる機能語 という 枠 に入り得る語が 国や地域によって異なるとは考えにくい 結局 スタンダードの本質とは 個々の 要素 ではなく 枠 にあるのではないだろうか 53

63 パネルディスカッション 日本語教育スタンダード の課題はどこにあるのか パネリスト : 川上郁雄早稲田大学大学院 私はこれまで日本で日本語を第二言語として学ぶ子どもたちの日本語能力の発達段階を記述した JSL バンドスケール を作り それを使って子どもたちの日本語能力を育む実践を行ってきた その経験から 日本語教育スタンダード を運用するときの課題について述べてみたい 第一は 日本語教育スタンダード の示す日本語能力をどうように解釈するかは実践者の日本語能力観に規定されるという点である たとえば 日本語教育スタンダード の記述内容に はっきりした ある程度流暢に といった文言がある場合 ( たとえその内容をいくら 精緻 に記述したとしても ) これらをどのように解釈するかは実践者の判断に委ねられることになる この点を実践者が十分に理解しないと 日本語教育スタンダード は無用と極論することになるだろう むしろ 実践者によって異なる日本語能力把握を どう教育に生かしていくかが実践者には問われるのである 第二は 日本語教育スタンダード の示す日本語能力と学習者が望む日本語能力は必ずしも同じではないという点である 日本語学習者はそれぞれの動機と目的を持って日本語を学習している その動機と目的によっては 学習者がめざす 日本語によるコミュニケーション能力は異なるはずである つまり 日本語能力の形は 学習者自身が自分の生き方の中で形成していくものなのであって 日本語教育スタンダード がその一人ひとりの生き方まで規定することはできない そのことを実践者が理解して 学習者が自分の日本語能力を形成することを支援する方法を考えることが重要である 第三は 上記の 2 点を踏まえて言えば 日本語教育スタンダード をどのように利用するかは実践者や学習者に委ねられているという点である 日本語教育スタンダード をもとにどのような教育実践を行うかという教育実践の哲学は実践者自身に委ねられているし 日本語教育スタンダード と照らし合わせて 学習者が自らの中にある複数言語能力のひとつとして日本語能力をどのように考え その日本語能力を持ってどのように生きていくかは学習者自身が決定していくことになる そのことを踏まえて 実践者自らが日本語教育の実践哲学を探求していくことが重要なのである JSL バンドスケール と 日本語教育スタンダード は実践上の共通の構造を持つ それは バンドスケールあるいはスタンダードが映し出す日本語能力は実践自身の日本語能力観の鏡像であるという点だ したがって 日本語教育の実践上の課題は むしろ 日本語教育スタンダード の利用者側にあると言えよう 54

64 パネルディスカッション 総括 : 日本語教育スタンダード の役割とは何か 議論形成の場としての日本語教育スタンダードへ コメンテーター : 細川英雄早稲田大学大学院 この数年 ヨーロッパから来る留学生の中で ヨーロッパ人 という言い方をする学生が明らかに増えた EU 共同体の政策的活動とその成果なのかもしれないが 2001 年に欧州評議会が発表した CEFR とその影響を無視することはできないように思う このことにより ヨーロッパの言語教育は 複言語 複文化主義という理念のもとにたしかに一つの方向性を持つことになった この CEFR を 範として 国際交流基金が開発した JF 日本語教育スタンダード ( 以下 JF スタンダード ) は これまでの日本語教育の実践や言語教育の動向を踏まえ 相互理解のための日本語 という枠組みとともに 課題遂行 と 異文化理解 の二つの 能力 を挙げ これを日本語教育の指針とすべく提案している 今回のパネルディスカッションで パネリストの山内博之氏の立てられた三種類のリストを 戦後の日本語教育の流れの観点から見れば 要素としての 実質語 機能語 について検討を重ねた 年代から 枠組みとしての 言語活動 への注目がはじまり 実際への応用としての場面 状況 文脈等への関心が高まった 80 年代を経て 今日に至っているものであると解釈できる しかし ここでは その次のステップとしての課題が提案されている点に注目すべきだろう つまり 日本語教育の大きな枠組みが 言語としての日本語にではなく 人間としての関係性に向けられたことが明言されている点がこれまでの方向と大きく変わっているからである 教育の内容と方法にのみ特化してきた日本語教育の歴史の中で 相互理解 というキーワードを国際交流基金が日本語教育スタ ンダードとして示したことはきわめて重要な意味を持つ これに対して 川上郁雄氏は そうした日本語教育スタンダードが 実践者および学習者の日本語能力観に規定されることを指摘する 日本語教育スタンダードがいかに人間の関係性に目を向けたとしても 実践者あるいは学習者がそのことに関心を示さなければ 何の意味もなくなる まさに日本語教育スタンダードそのものが実践者あるいは学習者自身の 日本語能力観の鏡像である という点だ 今 日本語教育は 何のための誰のための言語教育なのかという点についてようやく注目し始めたといえるだろう ことばの力 ことばの学びとは何かということが本格的に問われ始めたといっていい だからこそ この JF スタンダードが古川嘉子氏の述べるように 対話の場で共有できる枠組みであることを目指して 活用されることを願うものであるが そのためには 日本語能力試験との関係を視野に入れつつ その具体的な課題として挙げられている 課題遂行 と 異文化理解 の二つの 能力 とは何なのか また そうした 能力 をどのようにしたら測ることが可能なのか ( 可能でないという論点を含め ) をめぐる議論形成の場として日本語教育スタンダードが貢献することを期待したい 55

65 口頭発表

66 基礎日本語教育 も 内容の教育 も第一声から日本語で 奨励 実践 授業評価 竹下利明ボローニャ大学 要旨 本稿の目的は 欧州の大学における日本学を念頭に 基礎日本語の教育も内容の教育も文字どおり第一声から日本語で行うことを奨励することにある 先ず 一般論として 目標言語で目標言語 内容を教える 学ぶのは目標言語習得上効果的であることを語る実例が幾つか紹介される 次いで 欧州で普及しつつあるいわゆる CLIL が扱われ 更に CLIL 方式授業に対する学生の評価とコメント及び北海道大学の同種アンケートの解釈が試みられる 最後に 言葉の教育と内容の教育を一体不可分のものとして捉え それを共に日本語で教えるべきことが様々な観点から改めて説かれる キーワード CLIL 教材の連動 授業評価 既有 背景知識 第二言語習得論 1 はじめに 本稿は 欧州の大学における日本学枠内での日本語教育に対し JLPT の N5( 旧 4) 級の 1 日本語教育はもちろん 入門程度の日本学の内容 ( 歴史 文学 経済など ) も目標言語たる日本語で行うことを奨励することを以て目的とする 2 それは 一般に目標言語で行われる目標言語並びに内容の教育は言語教育上効果が大きいと考えられるからである なお 本稿は内容の講義を従来どおり学生の母語で行うことを否定しようとするものではない 以下に上記の目標言語で行われる目標言語並びに内容の教育は言語教育上効果が大きいということに関し たまたま筆者の眼に触れた様々な事例中の幾つかを紹介する 2 目標言語で目標言語 内容を教える 学ぶ 2.1 目標言語で目標言語を 日本語で日本語を教える 学ぶ方式は欧州の日本語教育界でも珍しくはないであろうから 多言を必要としないであろう が 目標言語で目標言語をということに関し 日本人にとっては大きなニュースがあるので 先ずこのニュースから始めよう 福岡県での例 高校の英語の授業が大きく変わる 4 年後に 3 本格実施される新しい 学習指導要領 ( に ) 英語の授業は英語で行うことが基本 と明記されたからだ 先取り して実践している福岡市内の高校を訪ねた 福岡県立香住丘高校の英語科 2 年のクラス 先生が英文を日本語に翻訳する場面はない さん と生徒の名前を呼ぶくらいで 50 分間の授業中 生徒とのやりとりはすべて英語だった ( 井上 2009) 北海道での例 高校の新しい学習指導要領案で 英語の授業は 基本的には英 56

67 語で行うことが盛り込まれた 北海道立北海道旭川北高校は現在 全学年で 英語の授業をすべて英語で行っている 平成 17 年度に文部科学省から英語指導の重点校に指定されたのがきっかけだった 授業では和訳は行わない 4 年間にわたる取り組みで 確実に生徒の英語力は向上した (MSN 産経ニュース 2008) 次いで 韓国の高校での例 調査対象校 4 校のうち 3 校で授業見学を行った 3 校に共通してみられた点として 英語で英語を教える授業が行われていたことである 3 校とも授業担当者は韓国人の英語教員 単語の意味の確認や補足説明をしているとき以外は ほとんどすべて英語で授業が進められていた 生徒たちは 投げかけられる質問にもよく反応していた ( 森下 2006) 筆者はと言えば 日本国内における日本語教育の二大源流の一つ長沼スクールの問答法を土台に四技能の調和ある発達を目指して日本語で基礎日本語教育を行っている 目標言語で内容を ヒマラヤ山脈中の国ブータンでの初等ないし中等教育の例 言語は ゾンカ ( 語 ) に統一されている しかし学校教育は 国語とブータン史を除いて全て英語で行なわれている ( 宮下 2008) 国民の 60% が英語を話します ガイドがそう言うので 生徒に英語で話しかけてみたら きちんと答えるではないですか ( 水木 2009) 中国の大学での例 瀋陽市の中国医科大学に日本語による医師養成コースがある 全ての授業を日本語で行う日本語コース ( がある ) 1 2 年生は日本語学習に専念し 3~6 年生は日本語による医学専門課程であ ( る ) ( 小野 1991: 53) 日本の大学でも今や英語による授業が推奨され 英語で講義を行うコースを持つ大学は尐しも珍しくはなくなったようである 5 次の引用はそのほんの一例 PCP は 慶應義塾大学の経済学部 3 4 年生を対象に 尐人数クラスでかつ原則英語で提供します 講義 授業の質疑応答 試験のほか コーディネーターとの会話 連絡は すべて英語で行われます 語学能力を向上させることができます ( 慶応義塾大学 ) もっとも 日本における教授言語としての外国語の使用は何も今に始まったことではない 鈴木 (1975: ) に夏目漱石 (1867~1916) の論考 語学養成法 (1911) から長い引用がある そこでの論点の一つは 漱石が学生だったころは 殆どすべての教科を外国語の教科書で学んだ 日本人の教師が英語で数学を教えた例もあったし 漱石より尐し前の時代には答案まで英語で書いたものが多かった 従って 本来の英語の時間以外にも英語に接する時間が非常に多かったので 学生は勢い英語がよくできるようになった しかるに 日本存立の基礎が堅固になるにつれ 教育が順次日本語で行われるようになり それにつれて学生の語学力が低下した ということである 欧州でも既に 20 年以上も以前に講義が日本語で行われていた例がある 2 年からは翻訳以外の講義を全て日本語で行い 語彙解説 文法説明などの際もポーランド語は使わないようにしている ( 岡崎 1989: 35) とある 恐らくそのためであろうが ワルシャワ大学の学生は日本語が非常によくできるという意味のことを今までに二回聞く機会があったと記憶している 以上のように見てくると 目標言語で目標言語 内容を教える 学ぶという方式は 今ではかつて多くみられた 植民地 vs 宗主国 とは異なるコンテクストの中で 恐らくは地球的規模での潮流になっているものと思われる 欧州にしても コンテクストは更に異なるとは言え その例外ではなく 今日ここには 57

68 非言語教科を外国語 第二言語で教える CLIL と総称されるアプローチがあり 欧州委員会 (European Commission) 奨励の下 全欧州に広まりつつあるし また我々の活動は欧州における日本語教育なので CLIL をやや詳しく見てみたい CLIL とは何か CLIL というのは Content and Language Integrated Learning の略称である 欧州委員会の Website に CLIL の簡潔な紹介文があるので 下に要点を引用する Content and Language Integrated Learning (CLIL) involves teaching a curricular subject through the medium of a language other than that normally used. The subject can be entirely unrelated to language learning, such as history lessons being taught in English in a school in Spain. CLIL is taking place and has been found to be effective in all sectors of education from primary through to adult and higher education. Its success has been growing over the past 10 years and continues to do so. [ ] CLIL s multi-faceted approach can offer a variety of benefits. It: builds intercultural knowledge and understanding develops intercultural communication skills improves language competence and oral communication skills develops multilingual interests and attitudes provides opportunities to study content through different perspectives allows learners more contact with the target language does not require extra teaching hours complements other subjects rather than competes with them diversifies methods and forms of classroom practice increases learners motivation and confidence in both the language and the subject being taught. Owing to its effectiveness and ability to motivate learners, CLIL is identified as a priority area in the Action plan for Language Learning and Linguistic Diversity (Section 1 1.2). [ ] CLIL 実施の例 CLIL の実施例として筆者が行っているものを採り上げる 筆者が実施している CLIL については既に竹下 (1995, 2003, 2007, 2009) 及び Takeshita (1997) に様々な角度から具体的に詳述してあるので ここではごく概略的に述べる 筆者が日本語教育と内容の教育の両者を一体化することを思い立ったのは丁度四半世紀前の 1985 年のことだった それが 今日 CLIL と称されるアプローチとして具体化したのは 15 年後の 2000 年のこと 爾来 2.1 に述べた 日本語で の基礎日本語教育が 170~180 時間 7 に達した時 CLIL に移行している その時点で熱心な学生は JLPT の N5 級に到達してい るかそれに肉薄するレベルにあり ACTFL/OPI では Novice-High 程度である 移行後 最初の 10 時間ぐらいは聴解を助けるために地図や表 図解など視覚に訴えることのできる補助手段を併用して日本の地理を扱い 次いで抽象的内容の日本文化史に入る 学生は テキストの日本語は 100% 解さなければならないが 筆者の口頭日本語は 80% 解し 58

69 得れば可とする この 80% という数字を確保するために筆者は自分の発話をかなりコントロールする 8 また 学生との間で盛んに質疑応答を行うが 勿論それは単なるおしゃべりではなく いわゆる認知学習言語能力 (CALP) の獲得を目指したものである ところで たとえ入門程度であれ 学生が日本学の内容を日本語で 特に聞いて理解し得るためには彼らの日本語運用能力は尐なくとも JLPT の N2 級程度であらねばならないと誰でも考えるであろう ところが 筆者は現実には既述のように JLPY N5 級レベルで実施し 理解度 80% を期待している そのようなことが一体なぜ可能なのか? 実は 下に述べるメカニズムが利用されているのである (1) まず ある学問分野 ( 日本文学 日本経済など ) を学生の母語で記述したテキストを学習させる (2) ついで 学生の頭の中にすでにあるはずの知識を簡潔に表現した日本語の文章を読ませ (3) さらには 同じその知識をこれまた簡潔に口頭日本語で語って聞かせたり 逆に敷衍したり あるいは質問をして日本語で答えさせたりする メカニズムの要は (1) と (2) の教材が密接に連動していて (2) は (1) の要約であるという点にある (1) で母語を通じて獲得した知識が既有知識として働き (2) の日本語を読む際の助けになるというメカニズムで JLPY N5 級の日本語能力しかなくても日本語による要約文を解し また聞いて理解し得るのである 言わば ボトム アップとトップ ダウン この両処理の相乗効果が利用されているわけである 日本の歴史関係の記述には膨大な量の術語が用いられるが それら術語は (1) にて漢字表記でイタリア語文中に埋め込まれて提出されているので 日本文化史という巨大なコンテクストの中で習得される 従って 術語の表す意味はそれを構成する漢字の意義の単なる総和ではなく プラスアルファを背負っており 9 これも要約文を読み解く際に 日本文化史の一般的な知識と相俟って背景知識として働くわけである ( 竹下 2009) 最後に 先ず間違いなく 日本語で 方式によるのだろうが また 詳細は不明であるが 米国のカーネギーメロン大学では ゼロから始めた学生が 50 分 週 4 回 3 ヵ月の授業で 学期末には 15 分間会話ができるようになる 上級では日本語を教えるのではなく 日本語で 内容のあるコースを教えるレベルまで到達する さらに 学生は話すことだけでなく 学期末には 2 ページ程度の手紙をかな 漢字を使って書くことができるようにな ( る ) ( 白井 2008: ) のだそうである 驚異的な成果と評価できよう 問題点 日本語で 方式に関わる問題点も見ておこう 教材制作 :CLIL に関わる問題点の 一つはこの方式に合った教材を新たに制作せざるを得ないことになる可能性が極めて高いことで これが大きな隘路になる ( 竹下 2009) 語彙数 :JLPY の N5 級が終了するかしないかのレベルで日本文化史をするのであるから 既習の語彙 漢字と の (2) に述べた要約文中の語彙 漢字との間には量的にも質的にも大きなギャップがある 筆者はこの問題の解決には依然として手を拱くばかりである 職階制と文学担当の教員に関わる問題 : 欧州では制度上 日本語教育担当の教員は日本学担 当の教員より資格が格段に低く 後者の指揮のもとに教育に当たるのが普通であろう 内容 特 に文学担当の教員は訳読と母語への翻訳には並々ならぬ関心を寄せるが 日本語教育といえば 数十年も前に自分が学生として接した方法論を唯一無二のものとしている可能性が考えられる この憶測が的を射ていたら そのような環境下では 日本語で 方式の実施は困難と言わざるを 得ない 59

70 3 目標言語で行う目標言語と内容の授業 に対する学生の評価と反応 3.1 ボローニャ大学の場合ボローニャ大学の場合 学生による授業評価の結果がネットで公開されるようになったのは 2000 年からである 表 1 に 1999~2008 年間における 日本語で行われる 10 日本語日本文学 I 同 II の授業に対する学生の 総合満足度 の平均値その他を 11 掲げる 比較のために総合満足度のみ文学部と全学の平均値も引用する 12 表 2 には 学生が調査票の自由記入欄に書きいれたコメントのめぼしいものを列挙する ( 表 1) 日本語で の授業に対する総合満足度 期間 :1999~2008 有効調査票数 ( は日本 232 語日本文学 I のデータ欠 は I II 共データ欠 ) < ポジティブな評価 (%)> 日本語日本文学 I+II 文学部全学 < 調査票にある四つの選択肢と選択の分布 > 極めて不満どちらかと言えば不満どちらかと言えば満足極めて満足合計 (25%) 171 (74%) 232 表 1 を一見して 直ちに言えることは日本語で行われる日本語日本文学の授業は学生の総合満足度が突出しており (98.8%) しかも 4 人中の 3 人 (74%) が 極めて満足 していることである 現に 2002~2003 学年度の日本語日本文学 II は総合満足度が全学第 1 位だった旨学長から通知があった 日本語で の授業は教育効果が高いと考えるのが自然であろう ( 表 2) 日本語での授業 に対するコメント( 調査票の自由記入欄より ) 長所 :1 授業に引き込まれる 2 日本 ( 語 ) に対し短所 :11 文法の習得が困難 12 浅薄な文法しか習得関心 情熱が駆り立てられる 3 授業が独特で 総されない 13 文法の説明がないか あっても少なす合的 4インターアクションが豊富 5 多量の日本ぎる 14 時にはイタリア語での説明も必要 15 文法語に接し得る 6 訳す作業なしの発話 7 日本語がも文意も雲を掴むようで 心もとない 16 文意が直よく身につく 8 複雑なことが簡単に把握できる ちには理解できないことがある 17イタリア語への 9こういう風に学び続けたら 上達するだろう 10 翻訳が欠如 18 提出語彙が少ない 19 日本語の全体 ( このコースでの勉強は楽しい 笑える ) 像が掴めない 20( 進度が遅く 学べることが僅か ) 主として第二言語習得論の観点から表 2 を見て 日本語で の授業はやはり奨励に値すると判定してよさそうである 即ち 1 からは ( 習得 vs 学習の ) 習得が 2 からは動機づけの効果が夫々期待される 4 と 5 は豊かなインプットがアウトプットと相俟って 7 の結果をもたらすということなのであろう 6 は転移が起こりにくいことを意味していて 日伊間の場合はポジティブなことであるが 筆者は一連の対照分析の結果 抽象レベルに平行現象が認められる場合には 積極的に正の転移を活用するように仕向けている 10 を括弧に入れたのは筆者の授業方針と CLIL 方式の相乗効果と考えられるからなのだが 楽しい 笑えるというのは緊張を和らげ それなりに効果をもたらすものとされる 11~14 は 察するに中学校 高等学校での外国語学習で無意識の層に沈殿してしまったためだろうが 外国語の学習とは 即 その文法を学ぶこと也 という固定観念からなか 60

71 なか自由になれないことを意味しているように思えてならない そのためか 初年次には筆者との間でなかなか息が合わない 能率が上がるようになるのはやっと 2 年次になってからである 15 も文法規則の暗記と訳読の習慣に起因するのだろう 母語に置き換えるのを面倒だと思うのでなければならない 17 が 欠如 という表現で短所に分類されるのは何とも情けない 19 学習者に必要なのは日本語学に準拠する体系性ある文法なのではなくて 個々の言語事実とそれの運用能力なのだから 全体像が掴めなくても一向に構わない こう見てくると 日本語で 方式を実施する場合 教師の役目の一つは一日でも早く学生に頭を切り替えさせて 新たな学習態度を身に付けさせることだと言えるだろう 3.2 北海道大学の場合 13 英語による授業に関するアンケート調査集計総括表 ( 北海道大学 2008) なるものがネット上に公開されている 英語の授業実施日は 2008 年 11 月 10 日 ~13 日 受講生は学部学生 292 名 院生 15 名の合計 307 名 筆者が関心をもつデータは表 3 に引用のもので 数値はすべて学部学生回答と院生回答の合計である 14 ( 表 3) 英語による授業に関するアンケート調査集計総括表 (307 名 ) 1. 英語について理解できましたか よく理解できた 8 名概ね理解できた 92 名理解が難しかった 164 名殆ど理解できなかった 43 名 4. このような外国の大学の教員による英語授業を定期的に実施することについてどう思いますか 1) 英語の授業を今後とも続けて欲しい その場合は どのレベルで 始めたらよいと考えますか また その理由を簡潔に具体的に書いてください 学部のみ :37 名大学院のみ :28 名学部と大学院の両方 :220 名 ( 理由 ) 学部と大学院の両方 : 楽しい 外国の授業のレベルが分かる 将来 英語が絶対必要 2) 英語の授業はやめるべきである その理由を簡潔に具体的に書いてください 合計 10 名 5. 国際化が進められる中で大学教育においても英語での授業を行うべきという意見があります このため今後海外の大学教員を招き英語で短期集中授業実施する場合に貴方はその授業を受けてみたいと思いますか 受けてみたい 181 名受けたくない 23 名どちらでも良い 88 名 表 3 から浮かび上がる特徴的なことは 3 分の 2 という多数を占める学生は畢竟は英語の講義が理解できなかった 15 にも拘らず 307 名中の 300 名近くの学生が英語の授業を爾後も続けて欲しいと望んでいることである しかも その理由の筆頭が 楽しい である 大学が今後英語の短期集中授業を実施した場合 受けたくないと意思表示した者はほんの若干名 (7.5%) に過ぎない 目標言語で 方式は推奨に値することが北海道大学のアンケート調査からも浮かび上がってくると言い得るであろう 4 おわりに 牧野 (2000) は語学の教師とそれ以外の教師 (content course instructor) が連携する必要を訴えているが 筆者は更に歩を進め 両者を分かつ垣根を取り払う ( ないし 垣根を低める ) のを理想とする 機は急速に成熟しつつあるか 既に成熟していると考える 61

72 現に 日本人日本語教師の中には様々な分野の専門家が多々いることだし 他方 一昔も以前に 11 名のポーランド人教官はいずれも 2 年から 5 年の日本滞在を経験し 日本語で講義が出来るほどの能力を有している ( 岡崎 1989: 36) ということだったのだから 現在では いずれの欧州諸国も日本学の入門程度の講義を日本語で行い得る若い世代の人材に欠けることはないだろう 最早 垣根は無用の長物か それに近い存在だと考える 更には 例えば 筆者が施行中の CLIL は 学生が母語で獲得済みの知識を日本語で要約 したテキストを用いるのを基本とするのであるから 学生は 日本語の術語は学び知っても それに対応する母語の術語 表現は知らないといった跛行現象は起こり得ない 16 そして とりわけ 日本語で 方式は今まで見てきたように生産性が高い方式である 以上 言葉と内容の教育を打って一丸とする 日本語で 方式を奨励する所以である 注. 1 日本の中学校 高等学校において日本史及び国語の教科で学ぶ程度 2 こう言うと 日本国内の日本語教育界から そんなことは今さら奨励するまでもない当たり前のことじゃないか! と言われそうであるが 欧州の大学では日本国内とは事情が異なる 年度から 4 詳しくは竹下 (2009) 参照 5 英語による授業の背景には 優秀な留学生を獲得することや 日本人学生の語学力向上 国際感覚の涵養 新たな人的ネットワークの構築 ( 中井 2009) への期待があるとの由 なお 中井俊樹 ( 編 )(2008) のように 日本人教員が英語で講義を行うための実践的な手引書まで出版されている 本書から得られる知見は日本学の講義を日本語で行う際にも有益であろう 6 この解説を読むと CLIL は CBI や immersion の別名のように見える この点につき 筆者はたまたま次の記述を眼にしたことがある In ELT, forms of CLIL have previously been known as Content-based instruction, English across the curriculum and Bilingual education. (Darn 2006) 7 週 5 時間 35 週 期間にして 1 年半強 8 それは主として学生の習得済み語彙がまだ極めて限られているからである 9 例えば 荘園という用語には古代から近世初期までの日本の歴史がまつわり付いている 狭義に解しても この 800 年にわたる土地制度史が荘園の意味ということになろう 10 授業評価調査票から筆者が集計 11 参考文献の Università di Bologna を参照 12 シンポジウム会場で配布した詳しい表は紙幅の制約により掲げることができない 13 北大水産学部とタイ王国カセサート大学水産学部の間の相互交換授業として行われた ( 北海道大学大学院水産科学研究院岡本純一郎氏からのメールによる ) 14 紙幅の制約により本稿では表の枠組みを変更した上に内容も省略した部分がある 15 遠い昔 筆者がまだ 日本語で 方式を実施していなかったころ 学生から日本語でやってみて欲しいという要望が出されたことがあった 筆者が日本語教師として未熟だったということもあって その時にはどうしてもうまくいかなかった 北大の本件も同種ケースである 即ち 或る日突然に 目標言語で ではうまくいかない 本稿のタイトルに 第一声から ( 即ち 初日に教室に入るなり日本語で 今日は などと挨拶し 引き続き日本語で自己紹介 学生にも日本語で自己紹介をさせる その間 学生の母語での説明は一切無用 ) を敢えて挿入した所以である 16 例えば 鳳凰堂という日本語の名称は学び知っても それが英語では Phoenix Hall と言い慣わされていることを知らないといった知識のアンバランスは起こらないということである < 参考文献 > 岡崎恒夫 (1989) ワルシャワ大学に於ける日本語教育事情 日本語学 12 月号, pp , 明治書院. 62

73 小野博 (1991) 日本語で学ぶ中国の医科教育 月刊言語 8, p. 53, 大修館書店. 白井恭弘 (2008) 外国語学習の科学 第二言語習得論とは何か 岩波書店. 鈴木孝夫 (1975) 閉ざされた言語 日本語の世界 新潮社. 竹下利明 (2009) CLIL と問答法 JLPY4 級程度における実施例 日本語教育研究 第 55 号, pp , 長沼スクール. (2003) 初級後半の語学力で日本学入門を そのための教材群 第 8 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム報告 発表論文集, pp , ヨーロッパ日本語教師会 スイス日本語教師の会. (2002) 内容重視の漢字教育 第 2 回日本語 日本語教育学会論文集, pp , イタリア日本語教育協会. (1995) 欧州の大学における日本語教育はどうあるべきか : 変則イマーションのすすめ 世界の日本語教育 5, pp , 国際交流基金日本語国際センター. 中井俊樹 ( 編 )(2008) 大学教員のための教室英語表現 300 アルク. Takeshita, T. (1997) Verso l unificazione didattica della lingua e delle discipline nipponistiche: ulteriori sperimentazioni, Studi Italiani di Linguistica Teorica ed Applicata, Nuova serie, n.1., 井上恵一朗 (2009) 英語の授業 英語で学ぶ asahi.com 2009 年 6 月 29 日版. MSN 産経ニュース (2008) 学習指導要領能力アップ教師も負担英語で授業に期待と不安 2008 年 12 月 22 日版. 慶応義塾大学 ( 不明 ) Professional Career Programme(PCP) 中井俊樹 (2009) 英語による授業のノウハウの明示化 名古屋高等教育研究 第 9 号 北海道大学 (2008) 英語による授業に関するアンケート調査集計総括表 牧野成一 (2000) アメリカにおける日本事情教育と日本語教育の接点 Content-Based Instruction をめぐって 第 37 回定例会 ( ) 講演レポート. 水木楊 (2009) 幸せの国ブータンで考えた Yomiuri online 2009 年 9 月 18 日版. 宮下史明 (2008) ブータン王国に学ぶもの GNP から GNH へ Yomiuri online 2008 年 10 月 27 日版. 森下みゆき (2006) 高校授業見学レポート 東アジア高校英語教育 GTEC 調 2006 二次調査報告書 (2009/10/9) Darn, S. (2006) Content and Language Integrated Learning. ( ) European Commission (2008) Language Teaching. ( ) Università di Bologna, Osservatorio Statistico. ( ) 63

74 日本語 : 教師沈黙型文法授業 自律学習 協働学習の最終的な形 要旨 渋谷 順子 石澤多嘉代ボン大学東洋言語研究所 ボン大学では BA(3 年 ) の最終目標として 自律 協働学習を通した自分に合った学習ストラテジーの獲得 をあげている これに 中級以上の文法は文章中で学ぶ必要がある 及び 学習者には教師の説明なしでも既に自分の力で学習を遂行していく能力が具わっている という考えを最終学年の文法 読解授業に反映させたのが今回の試みである 具体的には この試みは 授業内のグループ活動 ( 協働学習 ) と 授業後の個人学習 ( 自律学習 ) に分けられる 授業中は 教師によるいわゆる 授業 はなく 学生達は小グループでの話し合いの中で文法規則を発見し 短文を作成しながらそれが正しいかどうか確認していく そして 授業後は 個人でその課で学んだ文法項目をすべて使って文章を書き メールで担当教師に送り 添削を受け 書き直す そして できあがった作品は e ラーニン グサイトで公表されたり 復習教材や読解教材として授業中に使用される キーワード 自律学習 協働学習 文法授業 1 教師沈黙型授業の二つの柱 まず 実践を行ったレベルであるが バチュラー 3 年目 つまり ドイツでは最終学年の 6 セメスター 日本語能力試験 2 級 CEFRB1~B2 レベルである この授業は 授業中のグループ活動 と 授業後の個人学習 を二つの大きな柱にし ている まず第一の柱であるが 授業中教師は文法説明を行わず 学生が確認を求めてきた時に はい か いいえ と答える以外は沈黙を通すことである その間 学生達は小グループの中で 一人一人が 先生 になり互いに教え合い 質問し合いながら文型を学んでいく 第二の柱は授業後の個人学習で 学生は習った文型を用い 決められたテキストタイプで文章を書き 教師にそれをメールで送り 教師の添削を受ける このメールでのやり取りの中で 学生は自分が学んだ文法規則が正しいかどうか 適当な言い回しは何かなど 教師に質問しながら 自分のペースで学んでいく 2 CEFR の理念 ボン大学日本語科では 2004 年度から CEFR 基準を取り入れ その理念を基にカリキュラムを作成する努力を続けてきた この理念とは以下の通りである 64

75 1) 言語教育では 複数の言語を理解し様々な国や人の文化について知識を持ち 敬意を示す欧州人の市民性を発展させる 2) 言語教育は偏見のない柔軟な態度や考え方を育み様々な技能の発展に寄与することを通じて 知的な成長の一要因となる 3) 学習者のニーズに応えるためには生涯にわたる言語学習が必要であり 言語教育は必要に合わせて言語を習得できる学習者の育成を目指す 4) 言語を学ぶことは学習者としての自律性を身につける機会である そして この 3 番目 4 番目を我々は 言語教育は生涯にわたるものであり それができる自律性を持った学習者の育成を目指す と理解し 日本語教師の役割は 単に 日本語を教える だけではなく 生涯にわたって言語学習が続けられる自律性を持った学習者の育成をも含むと捉えている 3 自律学習とは 自律学習については色々な定義があるが 我々はその条件として以下の様に捉えている 1) 教師がいなくても学習を続けられること 2) 自分に合った学習スタイルを身につけていること 3) 自分の学習活動を客観的に評価できること 4) 自分で自分の学習活動をコントロールできること また 青木 (2005) によると それは学習者が生来持っているものではなく 教育によって育てるものであるとあり それは教師から教えてもらうもの 教師にコントロールされるものという価値観を徐々に崩していく過程である としている よって 我々もそれに沿って 修了時までに 協働学習を通して自分に合った学習ストラテジーを獲得し 自律学習を身につけること を ボン大学で獲得すべき能力として講義概要の中に挙げている 4 協同学習とは 協働学習とは 桑野他 (2007) によれば 小グループで相互に協力しあいながら 共有する目標の達成を目指す学習のことで その目標達成に対して個人個人が責任を持つことが求められるとのことである 我々は この協働学習を通して 学生に 教師に依存しない習慣を身につけてもらい ひいては自律学習につなげていきたいと思っている 5 ボン大学の授業構成 ボン大学の授業構成は以下のようになっており 教科書は 3 セメスターの途中まで げんき I, II で その後 文法 読解の授業では ニューアプローチ中級日本語 言語運用 ( コミュニケーション ) の授業では 新日本語の中級 を使っている 65

76 < 表 1> ボン大学日本語科授業構成 (2009 年現在 ) ゼ メ 単位名科目名 ( コマ数 ) h/ 週累計 CEF-R 1 1 基礎日本語 1 文法 (1) 文字 読解 (1) 言語運用 (2) 6h 90h A1 年 2 基礎日本語 2 文法 (1) 文字 読解 (1) 言語運用 (2) 6h 180h A1 2 3 基礎日本語 3 文法 (1) 文字 読解 (1) 言語運用 (2) 6h 270h A1-2 年 4 応用日本語 1 文法 (1) 文字 読解 (1) 言語運用 (2) 6h 360h A2-B1 3 5 応用日本語 2 文法 読解 (1) 言語運用 (2) 4.5h 428h B1 年 6 応用日本語 3 文法 読解 (1) 言語運用 (2) 4.5h 496h B1-B2 6 ボン大学の近年の歩み ここでボン大学で近年に行われたカリキュラム改革について簡単に紹介する 2004 年度に CEFR の基準を取りいれた語学コースを行うようにという指示が 大学側から日本語科を含む東洋言語研究所全体に下された それに従い まず講義概要のコース説明が CEFR に沿ったものになり 2005 年度から試験の見直しが行われた さらに 2006 年度よりシラバスの改訂が始まり これまでの文法中心のシラバスから その課を学んだ事によって何ができるようになったか という機能重視型のシラバスになった これに伴い まず初級の 1 2 セメスターの授業活動内容変更 全クラス共通教材開発が行われ 非常勤講師を含む講師全体への意識浸透が行われた その後 2008 年度から上の 5 6 セメスターの授業活動が変わった それは 文法の一斉授業がなくなり 文法も学習者が協働学習の中で自ら学んでいくという形で 教師との関わりが 授業時間ではなく 授業終了後のメール交換での個別指導が主になってきた また この年から全セメスターに Can-Do リストを配布している 今年度は 4 セメスター 3 ゼメスターの活動内容の変更が進行中である 7 授業計画 では 6 セメスターで行ったことを具体的に説明する まず 第一日目に このクラスの方針を説明し 図書館やウェブなどにある 利用できるツールを紹介した その後 クラスを 4~5 人の小グループに分け 各課ごとの責任者 つまり 先生 役を割り振り 学生は この日だけ これから一緒に学んでいくグループではなく 先生役を担当する課が同じ人が一緒になり 前述の図書館等で利用できるツールを使って 共に文型を学んだ この活動には多くの学生が食いつき 授業時間後も自主的に個人又は友達同士で集まり より深く学んでいたようである 二回目以降は 各課ごと 週 1 回 合計 2 回 ( 計 4 時間 ) の授業を行った 一回目は 先生 役の学生を中心にグループで文法項目を学習した後 個人で 習った文型を全て使い 決められたテーマ 決められたテキストタイプで文章を書き 教師に送る 二回目は教科 66

77 書本文の読解で やはり 先生 役の学生を中心に内容把握を行いグループで大体の要約をした後 もう一度個人で要約し教師に送る そして 教科書での学習が終了し 生教材に入る前に 今まで各課で書いたみんなの 作品 を読みあい どの作品が一番よかったかを皆で決めてもらった この活動には復習という意味合いもある それから 3 回続けて生教材を読み 内容把握し要約した そして その内容について この授業とは別の週 2 回の言語運用クラスで活発に意見を述べ合い その意見交換を基に 意見文を作成してもらった これまでは技能別にクラスが分かれ 別々の内容の授業が行われていた しかし もともと言葉というのは総合的なものである よって 言語運用クラスと読解文法クラスを合体させて最終的に一つにし バチュラーを終わってもらおうと考えたのである 最後の時間には全体でフィードバックしたあと ボン大学で日本語を学んだ 3 年間を振り返る というテーマで作文を書いてもらった < 表 2> 2009 年度春学期 6 セメスター 文法 読解 授業計画 *1 コマ 90 分コ文章スタ文法学習項目活動内容および文章作品テーママイル 11~13 課 1* 担当者による文法学習 11 課 2 比較 ~ ましだ むしろ等 究極の選択 エッセイ 12 課 2 様子 類似 ~ たとえると いわば等 13 課 2 程度 変化 ~ につれて ~ ていく等 読書会 1 各自の最終作品をもとに 11~13 課の復習 中世人に現代社会を説明する 未来人にこれからどうなるか教えてもらう 説明文 会話文 生教材 3 振り返り 1 新聞記事を要約した上で自分の意見を述言語運用クラスでの話し合いをべる元に意見文作成 三年間で学んだこと 意見文 8 学生からのフィードバック このフィードバックと振り返りの作文から学生たちの意見を箇条書きにする 肯定的な意見 1) わからない人間が教えるのは どこがわからないか知っているから効果的だ 2) ドイツ人が説明する方が ドイツ人の間違いやすい点がわかっているのでいい 3) この授業で 文法だけではなく 他人に日本語でどう説明すればいいかも学ぶことができた これは 将来きっと役にたつと思う 4) 5 セメスターと 6 セメスターの授業は今までと違って自分達が得た知識を使うことが目標だった 5) どうして先生は何もしないのか と思ったが 今考えてみるとよかった 自分がやらないとだめなのはよい勉強になった 6) 文法を使って文章を書くのも面白くて役に立った 7) 宿題のメールのやり取りは役にたった 67

78 批判的な意見 1) 念のため先生と一緒にチェックしたかった 2) 教師の短い説明が欲しかった 3) 準備をしてこない人がいたとき困った 4) グループワークに参加しない人がいた 5) 他の人のおしゃべりで集中できなかった 6) 私は先生に教えてもらう授業の方がよかった 9 この活動を行って この授業を行う中で 様々なことが観察された 例えば 準備してこなかった学生が仲間からの批判にあい それからは必要最低限の準備をしてくるようになったことや 理解が遅い学生には先生役だけでなく その説明を聞いて理解した学生が自分の言葉でさらに説明を付け加えグループ全体の理解が深まったりといった場面が見られたことである また 先生役の学生は説明のときには準備万全で 面白い例文を考えてきたり パワーポイントを作ってきたり それぞれの工夫を凝らしていた そして 何よりも驚いたことには 文法説明はドイツ語でいいと教師が言ったにもかかわらず 自らの意志で日本語で行ったグループがあったことである これらのことから 以下のことが言えるだろう 他人に対しての責任は学習の動機付けになる 互いに説明し合うことで理解が深まる 他人のためだとサービス精神 見得が働く 自由な裁量が与えられたことにより チャレンジ精神が生まれた この活動中にはこれ以外にも以下のような効果が見受けられた ひとつは 授業中のグループ活動で文法についてだけではなく学習の方法にまで話し合いがしばしば及んでいたことである その中で学生は互いの学習方法を知る機会を得たようである つまり まさに 学習方法を学習する であり これは自律学習に向けての大きなステップの一つと言ってもいいだろう また 学生が互いに教え合うことで 納得できるまで質問できる その中で 質問を受けた学生は質問されることによって新たな視点から文法が見直せるといった効果も表れたようである そして 授業後の教師とのメールのやり取りでは 文章の添削のみならず 教師を辞書のように使う学生や 確認の意味で教師に文法の説明を求める学生もいた それ以外に自分の興味のある日本語をネットで探してきて 質問してくる学生もいた つまり教師をツールとして使っていたのである 教師の立場からは 学生個々人の問題点をピンポイントで指導できるという利点もあった 実は この授業スタイルを取るにあたって 学生がどこまで責任感をもって活動に当たってくれるか 一抹の不安があったが 多くの学生は期待に添う教師役をこなし 中には我々の予想以上の効果をあげたグループもあった しかし 予想通り 一部責任感に乏しい学生もいたことは確かである 学生の責任感を喚起するためには 学期の始めにもっと 68

79 このスタイルで勉強することの意味 課題を怠ることで他人に与える迷惑について説明し 理解させておくべきであったと反省している 学習者が受身的態度から脱出し 自らの力で積極的に考え 答えを導き出そうとした時は従来の授業形態からすれば信じられないほどの力を発揮するということを我々はこの授業を行う中で目の当たりにした 10 問題点 ボン大学の近年の歩みの項で既に述べたが 文法中心から機能中心のシラバスへの改訂が本格的に始まったのは 2006 年度からである 今回の学生が入学したのはまさにその時であり すでに改訂は始まっていたが 改訂の試行錯誤の中で最終学年を迎えたため 一貫した協同学習 自律学習への指導がなされていたわけではない 彼らからすると 前学期 (5 セメスター ) に突如この方針による指導が始まり 混乱した学生も尐なからずいたはずである そのため 6 セメスターになっても 責任感に乏しい学生 教師が教えないことに対して不安を感じる学生 そして 自分で自分の学習をコントロールすることに慣れておらず 教師の指示を待っている学生等 尐なからず見受けられた これは やはり 学習とは教師から教えてもらうもの という価値観から離れられないことに起因していると思われる 前述した 自律学習とは そういった価値観を徐々に壊していく過程である という観点からすれば 問題があったと言わざるを得ない 11 現在進行中の取り組み すでに この傾向は彼らが 5 セメスターの時に見られたため それを踏まえ 早い段階からこの学習スタイルに慣れてもらうよう 今学期より下記のような取り組みを始めた まず 全学年の最初の授業で Can-Do リストを配布しはじめた これにより 学生たちに この半年で何を学び 何ができるようになるのか意識化し 自分が今どこにいて 何のためにこの活動を行っているのか そしてそのために今自分が何をすべきなのか自覚してもらうことができる そして最終日に振り返りの時間を設け 本当にそれができるようになったのか できるようになったという自覚が持てない場合なぜそうなのかを考えてもらっている いわゆる自己評価であるが これをすることにより 自律的な学習を促進するメタ認知能力 ( 自分の学習活動を自己コントロールする能力 ) の向上が期待できるからである 12 今学期の 4 セメスター もう一つの現在進行中の取り組みは 4 セメスターの活動内容変更である これは上と下のセメスターの方針がかたまったため その橋渡し時期に何が必要なのかがわかってきたからである 以下にその流れを簡単に示す まず 月曜日に文法の一斉授業があり そこで習った文型を使った例文作成の宿題が配られ 学生はそれを必ずやって文字 読解の授業に持ってくる 小グループで教科書を見ながらその答え合わせをし できたものを教師にチェックしてもらう しかし 教師は添削は行わず 間違えた部分に下線を引いて返却し なぜ間違えたのかはもう一度グループ 69

80 で話し合わせる 定着があやふやだと教師が判断した場合はその項目だけ一斉授業に切り替える そして 最後に習った文型を使って短文を書いてもらい それをメールのやり取りで添削する これは 講義形式の授業から協同学習の授業 および最終的には自律学習につながる個人学習への移行を目的としている 学生は講義形式の授業を受けながらもグループ活動も体験することになり 授業後のメールのやり取りで個人学習も促進することができる また このような授業は宿題を全員がしてこなければ成り立たない であるため 宿題をしてこなければ自分ばかりではなく仲間にも迷惑になるという意識を定着させる目的で 宿題をしてこなかった場合は欠席とみなす という厳しい処置で対処した この処置が功を奏したのか 今学期はほぼ全員が宿題をやってきて協同学習が成立し 学生からは 教師は厳しいが 効果の出る方法である との評価を得ている 13 結論 ( 発表から 3 ヶ月経って ) 2009 年 12 月現在 上記の活動を 4 セメスターで行っていた学生が 5 セメスターになり ほぼこの実践報告と同じような授業を行っている つまり 文法の一斉授業はなくなり 授業はグループ活動が中心である また 各課で習った文型を使って文章を書き 教師にメールで送るという活動は全く同じである 異なる点は 担当の学生が先生になるという活動をまだ行っていない点と グループから出た質問に教師が積極的に答えるという点である まだ学期途中で学生からのフィードバックは得ていないが 学生はこのようなスタイルに既に慣れており 教師による講義がないということに不安がったり やらなければならないことをやってこない学生がほとんどおらず 先学期よりずいぶんスムーズに授業が進んでいるという感触を得ている 初級から一貫した方針で指導を行った場合 上記した問題点はかなりなくなるのではないかと我々は考えている 余談であるが 先日 修士課程の教授から バチュラーのカリキュラム改訂後 修了者の日本語力が格段にあがったという言葉をもらった こういった評価は改訂に携わった者としてうれしい限りである < 参考文献 > 青木直子 (2005) 自律学習 新版日本語教育事典, pp , 日本語教育学会. 池田玲子 (2005) ピア ラーニング 新版日本語教育事典, pp , 日本語教育学会. 奥村三菜子 (2007) 機能シラバスにおける できること とは何か ヨーロッパ日本語教育 12, ヨーロッパ日本語教師会. 国際交流基金 (2009) JF 日本語教育スタンダード試行版 国際交流基金. 桑野幸子 佐藤五郎 (2007) 新たな協働学習の試み- 群読活動の実践から- WEB 版 日本語教育実践研究フォーラム報告 2007 年度日本語教育実践研究フォーラム 年 3 月 16 日 ) 70

81 Moodle を利用した日本語コースデザインについて 1 オープンリソースシステムの利用と可能性 夷石寿賀子 新井優子 ジロー岩内佳代子 小間五麗 中島晶子 大島弘子パリ ディドロ ( パリ第七 ) 大学 要旨 本学では パソコンなど各設備を備えた言語リソースセンターが設立され 他の言語と共に 学生の自律学習支援を主な目的として Web 上で行える日本語の自律学習コースを作成することとなった その際 センターから 近年様々な e- ラーニングで用いられているオープンリソースのコース管理システム Moodle が用意され 日本語のコースも同システムを用いて作成 運営を行うことになった 本稿では この Moodle を用いた自律学習コースを まだ報告の尐ない日本語教育における一つの事例として取り上げ 実際の運営から出た問題点および改善方法を検討する そして今後の課題として Moodle の持つ特色をさらに活かしたコースデザインの可能性を考察 提案する キーワード e- ラーニング 自律学習 Moodle オープンリソース コースデザイン 1 はじめに 情報化社会の昨今 言語教育においても様々な e- ラーニングが試されているが 既存の e- ラーニングシステムを利用している例が多く見受けられる 本学でもこのような例にもれず オープンリソースシステム Moodle が学内のリソースセンター側より事前に用意され 日本語の自律学習コースも同システムを用いて作成 運営することとなった つまり 我々教師側にとっては選択肢がなく すでに用意されているシステムを使ってどのようにコースを作り 運営していくかという状況におかれたわけである 本稿では このような状況下の 2009 年 9 月より 1 年間実際に我々が作成した日本語自律学習コースを振り返りながら 実際の運営から出た問題点 そしてその改善方法を検討し 今後の課題として Moodle の持つ特色をさらに活かしたコースデザインの可能性を考察 提案するものである 2 実施機関 2.1 パリ ディドロ大学日本語科正式名称は パリ ディドロ大学東アジア言語文化学部日本語科 ( 以下 本学 ) で フランスの大学であることから 学士 3 年 修士 2 年 博士 3 年のボローニャシステムが採用されている 学士には 3 コースあり 主専攻である 外国語 外国文学 外国文化コース ( 以下 LLCE) に加え 日本語 日本文化に並行して他の専門を学ぶ 主専攻 / 副専攻コース と他の東洋言語を並行して学ぶ 東洋言語バイリンガルコース がある メインとなる LLCE コースでは 半期で 専門である日本語を 108 時間 ( 内 36 時間は会話 71

82 の授業 ) 学ぶ他 日本文化 36 時間 情報処理および専門外の外国語 24 時間 選択科目 36 時間を履修する 本稿の対象は 1 2 年で 主教材である みんなの日本語初級 I, II を終了するレベルである 2.2 言語リソースセンター 本学の言語リソースセンター (Centre de Ressources en Langues: 以下 CRL) は 2008 年 2 月に設立された 設立の目的は学習者の自律言語学習の強化であり センターは学生だけでなく 教員および大学職員にも解放されている 設備は 学習者が自由に勉強できるオープンスペースにインターネット接続ができる多言語対応のパソコンが 50 台完備されている他 授業用の小教室 2 部屋と近々テレビ会議ができるようになる会議室がある またこの CRL には 専門の常勤スタッフ 6 名が常駐の他 学生アシスタントという制度の下 日本語でも修士の学生 1 名がアシスタントとして採用されている この学生には Web サイトチェックやセンターに来る学習者への対応などを担当させている 3 Moodle 次に Moodle の概要を述べる なお本稿では 技術的な導入などは取り扱わず あくまでも Moodle を使用したコース作成について報告を行うため Moodle の導入方法やシステム面の詳細ついては 公式サイト 2 などを参照されたい 3.1 Moodle とは Moodle とは オープンリソースの e- ラーニング用コース管理システムである 公式サイトには インターネット上で授業用の Web ページを作るためのソフト と書かれている つまりパソコンやサーバについてある程度の知識があれば誰でも自由に無料で使って開発 使用のできる e- ラーニングのシステムなのである この Moodle は 近年 世界中で使用が伸びており 日本の例を挙げれば 三重大学で 語学の授業やコースのためだけでなく 一つのツールとしてレポートの提出 ゼミの意見交換などにも利用されている 奥村 (2007) では 三重大学で Moodle の指揮をとる著者が Moodle を 学習者の管理より学習者とのコミュニケーションに重点を置いたシステム と定義している これは コミュニケーションツールを含んだ多くのモジュールを備えている Moodle の大きな特徴を捉えたものである なお このモジュールについては 次項で述べる 本学も含め多くの機関において Moodle は 自宅からでも学校からでもインターネットを通じて 24 時間アクセス可能である 学習者は 初回に登録した ID とパスワードを使ってログインを行う 本学では 新学期が始まる際に ID 登録を行わせている これにより ID をもつ学習者は Moodle 上で自分の点数や正答率 学習状況などの確認ができ また教師側は 利用状況や学習者個々の情報などを得ることができるようになっている 3.2 Moodle のモジュール ここで Moodle に備えられている様々なモジュールについて簡単に紹介する モジュールには 学習のためのテスト問題を作成する小テストモジュール チャット フォーラム ( 掲示板 ) といったものから 投票システムやワークショップシステムなどがある 我々の場合 復習コースということもあり 小テストモジュールを中心にモジュールを組み合 72

83 わせて一つの学習コースを作成し運営した 小テストモジュールの利用方法については後述する なおその他にもブログの作成 メール一斉送信システムなども備えているが さらに必要であれば モジュール自体を Moodle 利用者が目的に応じて新たに開発し 追加することもでき 実際 多くのモジュールが既に開発され 広く発表されている 4 日本語コース 2009 年 9 月より 1 年間 実際に我々が本学において Moodle で作成 運営した日本語自律学習コースの詳細について以下に述べる 4.1 日本語コース概要 コース自体は 授業で利用している主教材の みんなの日本語初級 I, II を利用した自律復習コースとした この主教材を中心としたコース作成となった理由の一つとして コース作成以前に出版社から音声の使用許可を無償で得られたことがあげられる コースは 各学年そして学期毎に分かれており 通常授業にあわせて毎週 1 課進み 前期は授業の大半が終わる木曜日や金曜日に学生が CRL に行く時間を設定し 学習者にテスト問題を行わせる形とした テスト問題のカテゴリーは毎週亓つから六つあり 漢字 語彙 活用の確認から文法問題や読解 そして会話と聴解というのが主な内容となっている 他には復習コーナーとして会話や文型の音声をいれたものを自習で利用してもらうようなものや文法項目や会話に合わせた外部 Web ページへのリンクのページも作成した 4.2 コースの運営とテスト問題作成方法 まずコースのテスト問題の作成は 語学の担当教員が手分けをして作成し 各学年のコース担当者に問題を送付 コース担当者が Moodle に入力後 作成者が確認をし コース担当者が毎週決まった時期に学習者に発信するという流れで運営を行った テスト問題自体は Moodle の小テストモジュールを利用して作成した 正誤問題の場合 は Moodle の方でシステムができており 作成者は問題文と解答を入力するだけという方法 であった 小テストモジュールには このようなテスト問題作成の機能がいくつか装備され ている 一方 穴埋め問題の場合は Web ページの HTML のように問題文の中に指定の問題 タグを挿入して作成を行う なおこのタグ挿入の場合は 解答を複数設定することも可能で ある 言い換えれば 異なる文字で書かれそうな解答 たとえば数字の漢数字 ( 一 ) 全角 (1) 半角 (1) などは 全て入力しておく必要が生じる しかし そのような入力上の問 題とタグをある程度理解しておけば Moodle 問題の作成は難しくないと言える なお 上述した通り Moodle は学生が自宅からでも学校からでも 24 時間アクセスできると同様に 教師側もいつでもテスト問題の作成や確認ができる そして 常に同じ問題データを Moodle 上で共有できるので 情報伝達さえ確実に行えば 気づいた人が問題のミスなどを訂正することが可能である これは 我々のようにチームでコース運営をする場合には 作成段階からお互いの情報とデータが共有でき また教師側に情報リテラシーの差があっても問題の出来上がりに大きな差がなく運営が可能であるということで Moodle 利用の大きな利点として挙げられる 73

84 4.3 各学年の構成とテスト問題詳細 1 年生前期のコースのテスト問題は ひらがな カタカナの練習問題の後に 第 1 課から語彙 漢字 会話 聴解といったテスト問題を作成した なお 7 課が終わったところで行われたミーティングでコースの内容確認や反省を行い より充実させるために新たに 8 課から読解と文法のテスト問題も追加された 2 年生前期では みんなの日本語 II から学習が始まるため コースも巻頭の 26 課からとし 漢字 活用練習 文法 会話 聴解 読解のテスト問題を作成した なお 1 週間分の問題の解答所要時間は 課にもよるが各学年共に 30 分から 1 時間程度である 以下 主なテスト問題の詳細をカテゴリー別に述べる テスト問題漢字 1 年生の漢字の問題形式は 大きく三つの種類 1. 読みを書かせたりする狭い意味での漢字練習問題 2. 定義を与え それに合う言葉を書かせる ( 例 : 今日の夜 今晩 ) といった語彙の練習問題 そして 3. 文法項目に即した練習問題を作成した 2 年生になると 1 年生の形式に加え 短いフランス語の文を与え 漢字を使って翻訳を書く練習問題などの応用問題が追加された 漢字翻訳問題では 単なる漢字の答えを考える問題と異なり 訳す という作業が入るため 学習者にとっては難易度が上がり やりがいのある問題となった しかし一方で 授業に出た / 授業に出席した といった複数の回答が考えられるもの 複数の語順が可能なものなどに対応するため 細かく複数解答を用意する必要があり また句読点の有無も解答に影響する等 作成上のやや複雑な問題が生じた テスト問題会話 会話に関しては 1 年生と 2 年生ほぼ同じパターンで作成され みんなの日本語初級 I, II の会話部分の音声を聞きながらのディクテーションをはじめ 内容の正誤問題や会話の並べ替え問題 または Web 上の検索をして関連語を調べる問題を作成した テスト問題聴解 1 2 年生共に みんなの日本語 の副教材 聴解タスク 25 から問題を抜粋して作成した 但し 出版社からは 音声のみということで使用許可を得ているため 抜粋した問題は主に絵を使わないで解くことができる問題のみ出題した また学期初めに Moodle に入力する問題と通常授業で扱う問題を振り分けておくことで 授業時間には今までとは異なる活動を加えることも可能になった 一方 Moodle 利用を促す目的で 聴解の問題は いくつか定期試験の出題問題としても採用した テスト問題読解 途中から追加した 1 年生の読解は まず読解文の内容を学習者が理解しやすいように 日本人女性がフランス語学習の目的でフランスに来るという場面から始まり 日常生活を交えた一貫性のある物語を教師が作成し 連載形式で続けた なお 読解文は 学習者が語彙を入れかえるだけで日常表現に利用できるようにもした そして 読解文に対する問題は 正誤問題や穴埋め 記述問題を用意した 2 年生の読解は 1 年生とは若干異なり 国際交流基金の読解教材や Web ページへのリ 74

85 ンクなどを利用し 様々な文章を読ませるということに重きを置いて作成した 5 前期終了時学習者アンケート 以上のようにテスト問題を作成し 1 年の半分である前期のコース運営を終えた際 利用者である学習者を対象にアンケートを行った 5.1 学習者からの声 コース自体の利用については 前期は 1 2 年生共に 義務的に CRL に行き学習する時間を設け 学生アシスタントが質問を受け付け 学習者の利用を助け 疑問に答えるようにしていた しかしアンケートでは 学習者の多くから このような学習時間の義務付けはしないでほしいという声が挙がった 確かに学習者の自律学習には 学習時間の自由選択が当然という意見は正論であると言えるが 一方 学生が学生アシスタントに助けてもらいながら Moodle に慣れていく初期段階では ある程度の義務時間の設定は必要だと考えられる また 尐数だがコンピューターを利用した学習自体への疑問を感じる学習者もいた 次項で検討するような問題作成に関連した問題点を云々する以前に そもそもこのようなシステムには向き不向きも考えられ すべての学習者に受け入れられるわけではないということがある しかしオンラインの自律学習は 文法問題にしても音声の聞き取りにしても 自分のペースで繰り返し自主学習できるといった利点をもち 一つの有効な学習手段であることは明らかで そのことを学習者に理解してもらえるようにするのが教師側の任務であろう いずれにしても学習者のモチベーション維持の難しさをこの辺りから感じだした テスト問題については 復習になる 授業内容を補うことができるといった肯定的な声がある一方 復習に特化したこともありコース自体がつまらないという声もあった また さまざまなジャンルを読ませようとした 2 年の読解問題などでは 難しすぎたり易しすぎたりという難易度の問題のほか 他の問題でも言えるが 学習者が自分で見つけるまで正解がわからないというシステムへの批判もあった 5.2 テスト問題の改善このような学習者達の声を受け 後期には いくつかテスト問題の改善を行った 2 年生の漢字では 名詞句や文の中の漢字の読みを書かせる問題の中に 授業で使用している漢字 語彙帳にはないが 既習語彙をあわせれば理解ができるような三字 四字熟語 ( 平均収入 など ) を加えて出題した これで単純な漢字および語彙の復習に収まらず 復習に加えさらに新たな語彙が追加できるパターンとなった また会話の通常授業で ガスセンターに電話する場面から ガスセンターの電話をどうやって日本で調べるか をさらに設定し インターネット上の電話帳にアクセスして実際に番号を調べるような問題も作成した これは Moodle にアクセスするためにはインターネットが必須であることを利用し インターネットから 今の日本 に触れる問題として追加したものである このように復習だけではなく 授業と連携させた一歩進んだ問題アレンジをいくつか他のテスト問題でも行った 6 1 年の成果と問題点 75

86 このような改善を行いつつ 後期も引き続きテスト問題の作成とコース運営を行い 1 年が経ち コースに一つの区切りがついた 1 年を終了しての成果と問題点は 以下の通りである 6.1 成果 成果としてはまず みんなの日本語初級 I, II の全 50 課分に対応する自律学習コース用の問題の作成を一通り終えたことが挙げられる 単純作業といえば単純作業で チームで仕事を分担していたとはいえ 毎週 通常授業と共にテスト問題を作成し Moodle に登録し 運営するという作業はそれなりに労力のいるものであった また外部 Web ページとのリンクを作り 他の教育ツールを活用した学習への発展を可能にしたことも成果として挙げられよう 例えば 予習用のための外部サイトを学習者に授業前に見てもらうような活動も後期には行ったほか 後期には 授業の枠内で CRL に行き 他のソフトも利用した授業も実施し 学習者からも好意的な声が寄せられた 6.2 問題点 一番の問題点は学習者のアクセスの減尐である 前期の後半から教師間で問題にはなっていたが 後期には さらに回を重ねる毎に減り 最終的には前期初回の 1/4 程度まで下がってしまった 後期のアンケート結果では 定期的にアクセスした学習者からは 問題は前期に比べ充実したという評価となったにもかかわらず アクセス数が減尐した要因としては やはり長期的に行う復習コースであるため同じパターンの問題提示では飽きが来てしまったことが考えられる コース完成という目標を優先したため 漢字 文法 聴解 読解といった毎回同じ定番の学習項目となってしまったことは否定しがたい そして何度か実験的な試みはしたが コースの内容が基本的に小テストモジュールでの作成が殆どであり チャットやフォーラムなど Moodle の特徴であるコミュニケーションツールを教師側が十分には活用できず 多くのモジュールを使えぬまま 定番のテスト問題を作り続け 運営し 結果 マンネリ化したことが最も大きな要因であると考えられる そのため 学期末テスト期間だけでなく この Moodle のコースを普段から一つの学習手段として利用することにより 自分の語学能力向上につながるという大事な点を 多くの学習者に十分理解してもらうことができなかったという結果になった 7 今後の目標 以上のような問題を踏まえ 今後の目標 改善案を提示する 7.1 コース全体の改善案 Moodle の特色をいかし 学習者に有効な学習手段として認知してもらうという点では やはりまずコース内でもっとコミュニケーションモジュールを活用することが必要である 例えば 自宅からアクセスしている学習者も質問ができるように定期的なチャットの開催やフォーラムの利用やプロジェクトワークとしての学習者の wiki 作成なども考えられる なおこれらは学習の合間の息抜きとして捉え 軽いテーマを設定するなどの配慮が必要で 76

87 あろう また機能活用という点では メール送信モジュールが挙げられる 例えば その週の問題に取り掛かるころに 学習者にテスト準備ができたことを知らせるメールを送信したり 担当教員からのメッセージを定期的に送ることにより学習者に Moodle の存在を喚起させることができるであろう また新しいコースの開発も重要な改善案の一つである 今年は みんなの日本語初級 I, II を軸としたコースだったが それゆえ問題作成の際に自由が利かない点もあった そこで応 用編として教科書とは違う尐し発展的なコースや また別の一例として 日本語能力試験対 策コースの作成などが対策として挙げられる そして学習者からも聴解や会話の問題を増や してほしいという要望があったように 自律学習に適した 聞く という学習に特化した音 声を活用したコースも可能であろう これは例えば 自宅でのシャドーイングの練習などが 想定されるが 一方で 技術面では若干の検討も必要となろう なおこれら新しいコースでは アンケート時に出てきた学生からの要望を考慮して 問題の難易度を表示し 一つの学習目安を加えることもあわせて検討したい 7.2 テスト問題の改善案 次に 今後どのように現在あるテスト問題の内容を改善していくかということについて短期目標と中 長期目標にわけて検討を行う 短期目標 まず 学習者に視聴覚から訴え さらに語彙の意味の理解の助けとなるような写真やイラストを追加する これは同時に コース全体のデザインやレイアウトとも関係し 視覚的にも学習者を惹きつけるサイト作りを目指すことになる そしてコース改善案にも挙げたフォーラムなどを利用して 学習者からの疑問やコースに対するフィードバックを Moodle のモジュールを利用して受け付けることも行う また学習者からは模範解答がほしいという要望が多く挙げられていたが これに対しては すぐ解答を与えず 誤答の際に表示されるコメントを活用し 解説やヒントを表示する方式への変更が必要であろう そして問題の数と出題パターンを増やすという大きな課題がある 特に問題の出題パターンを増やすためには 外部ソフトの活用が挙げられる 例えば コース終了後のミーティングで Moodle を導入している外部の教師を招いた際に提案された Hot Potatoes 3 という問題作成ソフトの利用が考えられる このソフトは Moodle にある選択問題や穴埋め問題だけでなく クロスワードなど新しいタイプの問題の作成やさらに各種問題の組み合わせも可能である そして Hot Potatoes で作った問題は Moodle に移行可能とのことである 次年度はこのような外部ソフトを利用し 本年度作り上げた問題を改良し 問題数も増やしていきたい 中 長期目標 まずテスト問題とそれに関連する文法説明や解説へのリンクの整備が挙げられる 1 年でコースのテスト問題自体は一通り作成できたわけであるが 解説の部分は不十分な状態である そこで 解説を整備しつつ モジュールを利用して テスト問題と解説の双方をうまくリンクさせる構成をコースに組み込みたい また 現在紙面で学習者が持っている漢字帳と語彙帳を電子化し Moodle に導入すれば 77

88 テスト問題に相互リンクして使用するということも可能であろう この場合 相互リンクを最終目標とした電子化プロジェクトを学生と共に行い その一環として学習者達が語彙帳を作るという活動も学年によっては可能であり また Moodle にはそれを可能にするモジュール機能がそろっている さらに一定の語彙がそろえば辞書代わりに携帯電話からアクセスして利用することも可能になるであろう ただしこれらは 漢字 語彙帳の電子化作業に加え 通常授業内での取り扱いとそれに伴う計画などの準備に時間が必要で 長期的に考える必要がある また Moodle を特にコミュニケーションツールとしてとらえ活用するためには まず教師側に活用するための知識や情報が必要である そのためにも今後は Moodle や他の類似リソースを利用している他の機関と交流し 情報交換を行っていきたい 可能であれば テスト問題の共有や学内を越えた連携授業なども視野にいれていきたいと考えている 8 おわりに 以上のような目標を定め 今後学習者がより頻繁に利用したくなるようなコース作りに向けての改良を引き続き行っていくことで 徐々にコースを充実発展させて行きたいと考える それは結果として 問題作成のスキルを模索するにとどまらず より広い意味でオンライン日本語自律学習コースの運営について考えていくことでもある 最後に 我々コース作成者の今年一年の最も大きな反省として感じたのが Moodle 自体をもっと理解する必要があるということである 我々が今回 CRL から一方的に Moodle を与えられても コースを作成 運営できたように この Moodle はある程度の知識があれば ある程度運営できてしまう しかし ある程度で出来てしまったからこそ 結果としてコース運営が 単純になってしまったと言える 時間の制約があったにせよ もっと Moodle の機能や活用方法を理解してから取り組めば また違ったコースが作成できたかもしれない このような反省に基づき より良いコースを作り運営するためには やはり我々教師がこの Moodle を可能性のある教育ツールとして広い意味で知るということが必要となるであろう 注. 1 本プロジェクトおよび本稿の執筆に際して 学生アシスタントのアルノ サルニゲ君には様々な形で協力を受けた 又 愛知大学の中尾浩教授からは有益な助言をいただいた 謝意を表したい 2 Moodle 公式サイト なお日本語版は を参照のこと 3 HotPotatoes 公式サイト 日本語ガイドページ < 参考文献 > 五上博樹 奥村晴彦 中田平 (2006) Moodle 入門オープンソースで構築する e ラーニングシステム 海文堂. 奥村晴彦 (2007) 三重大学 Moodle の構築と運用 薬学図書館 52(3), pp , 日本 薬学図書館協議会. 熊五信弘 境一三 西納春雄 安浪誠祐 (2006) Moodle を活用した外国語学習支援 第 46 回 LET 全国研究大会発表論文集, pp , 外国語教育メディア学会. 松田岳士 原田満里子 (2007) e ラーニングのためのメンタリング 学習者支援の実践 東京電機大学出版局. 78

89 日本語教育における演劇の役割 まほろば国際プロジェクト 三隅友子徳島大学国際センター 要旨 言語教育そして日本語教育において演劇的手法は ほぼ日常的に教室で使われている そしてその効果はもはや自明のことであろう たとえば朗読 ロールプレイ シミュレーションそして演劇そのものといった活動が多くの現場で実践されている 筆者自身も日本語教育に携わる中でこれらの手法を活動またはタスクとして実施している 特に 2007 年より徳島大学の日本語教育コースにおいて まほろば国際プロジェクト と名づけた演劇活動を導入し実践した それ以降これまでの手法の意義に対して新たな気づきが生まれ またそれらの活用に変化が現れたことを確認した 本稿は 演劇的手法によって実践した活動を記述及び整理しそれらの特徴を明らかにすること さらに活動に至る過程や個々の活動の関連性を考察することによって 現時点での日本語教育における演劇 ( 演劇的手法を含む ) の役割を明らかにするものである キーワード 演劇 タスク 対話 言語 非言語コミュニケーション 1 はじめに 日本語教育において演劇的手法を活用することは自明のことであろう その手法とはたとえば朗読 ロールプレイ シミュレーションから最終的には演劇活動にいたるまで その規 模 方法等も実に様々である 本稿では筆者が 2005 年から現在 (2009 年 10 月 ) までの間に 日本語教育において演劇的手法を使った活動を整理し 最終的に演劇活動に至った過程の中 で活動の意味づけの再確認を試みる このようにして体験的に得た知見を記述し考察することによって 新たな日本語教育における演劇の役割を考えたい 2 演劇と演劇的手法 2.1 演劇と演劇的手法の位置づけ本稿で扱う演劇は いわゆる商業演劇ではなく教育の中での演劇である すなわち学んだ内容を演劇という手法によって表出するということ さらにそれを他者の前で演じてメッセージを伝えその評価を得るというものである 渡部 (2001) は 演じることを通して学ぶことの学習論的意味として次の三点を掲げている 1) 受動的ではない能動的な学びとなる 2) 協力しあいながら身体を使うことによって学習者間に相互交流が生まれ 親和的関係が生まれる 3) 演じることそのものの楽しさをともなっている 以上の三点はいわゆる教育における演劇知の役割であるが 日本語教育の中での意義をさらに考える すなわち演劇の練習を通して 1) 表現すること ( 日本語を使って ) 2) 学ぶこと ( 日本語以外の 79

90 要素も含む ) 3) 身体と非言語のコミュニケーションを体験すること そして本稿では 便宜上この三つの要素を入れた活動を演劇的手法と位置づける 2.2 演劇的手法 表 1 演劇的手法を使った活動例 手法 活動 ロールプレイ シミュレーション プロジェクトワーク 留意点 会話における役割交換 練習 スキット作成 テキストの会話や場面 ロールカードを使用する場合もある より多くの人で役割を演じる活動 ディベート等もここに含む場合もある 最終プロダクツが演劇活動やパフォーマンスのものを指す ( 演劇 ) 教室活動と現実の言語活動を結び付ける 学習者がより主体的にな アフレコ 朗読 る 異文化接触を体験の中で考える の三つの要素が入ったものを特 にプロジェクトワークとする ドラマ マンガの台詞に対して役割を決めて演じる 詩 小説を聞き手に向けて語る スピーチ 自分の意見や主張を述べる ( 方法と活動が混在していて区別できないものも提示のためにあえて別にした ) 2.3 演劇的手法の特徴 実施の手順と関係性 いずれも 授業内またはコースの中での位置づけがあり 教師がこれらの活動をいつ どのように学習者に提示し実施するかが重要である 規模や時間や事前の準備等が活動によっては大きく異なり 演じられる場にも大きな差があるが いずれも企画 練習 実演 評価 改善点を入れて更なる企画へといった循環に入る活動であることがいえる そしてより大きな演劇活動にいたるまでに ロールプレイ シミュレーション等を準備活動として行うこともある 学習者の主体性と教師の役割 企画及び活動の提示が教師であるとしても 実際に関わる者全てが実演するため能動的にならざる得ない環境が作られる また参加者同士の相互作用もあるために互恵性も期待できる 行為者 相手役 観察者といった三つ巴の組み合わせや 行為者 ( 話し手 送り手 ) 被行為者 ( 聞き手 受け手 ) といった双方向の関係が存在し保たれている 関係性に関していえば 教室内における教師対学習者だけでなく グループやペアを作ることから協同的な関係性が生まれることも事実である 言い換えれば学習者が様々な形を取りながら主体的に関わる活動であり また学習者の主体性が大きくなると同時に教師の役割は 企画する 促進する 調整する 創造的に働きかける 学習者の状況を把握するといった演出家としての役割が必要となる 身体を使う主体性とともに 活動によって程度の差こそあれ 身体活動を多く使うことを余儀なく 80

91 される 例えばロールプレイでは 自らが話す 聞くといった動き以外に相手をよく見ることが必要になり 非言語的な表現を自らが行うことや相手を注意深く監察することも肝要となる さらに学びを全身化する際 表現活動の三つのモードとして コトバ ( 文字 声 ) モノ ( ポスター 黒板の平面 衣装 道具の立体 ) そして 身体 ( 顔 動き 姿勢といった外形 ) があり これらが重なり合って表現行為へとつながる ( 前掲 渡部 2001) 評価 録音 録画をしないまでも最終的に上演 ( 人の前で表現すること ) を目的としているためにパフォーマンス評価に適している 吉田 (2006) は パフォーマンス評価とは 何らかの最終成果物を作りだすことを通して 自分が知っていることやできることを証明してみせる形の評価方法 のこと ( 前掲 吉田 p. 52) とし 日本語教育では学習した日本語が使えるかどうかの評価が可能となる パフォーマンスに至る練習段階を評価していくことによって プロセス評価 ( 学習している過程に働きかけ すばやく 効果的に評価して 学びを改善したり修正したりする評価法 ) また 過程を記述することによって ポートフォリオ評価 ( 学習過程ですること 考えたこと 見つけたこと 感じたことなどを使って 学習のプロセスを振り返りながら その都度評価していく方法 ) も可能である 視点を変えれば教師が学習者を評価するだけでなく パフォーマンスの評価者として他者が評価に加わることができる さらに関わる者全員が自己評価 そして他者評価といった相互評価ができることも特筆できる 3 日本語教育における演劇的手法の実践例 3.1 朗読 詩の朗読 : 実践例 1 生きる ( 谷川俊太郎作 ) 作者の谷川氏自身の吹き込んだテープを教材とし 次の四つの手順を行った 1) 詩全 体を聞き取り ひらがなで書き取る 実際の詩 ( ひらがな書き ) と比較して どの音が どの文字で認識されているのかを確認する そして訂正する 2) テープを聴いて発音そ して録音し さらに聴くことによって自分の音声とテープを比較する 3) 詩を覚え 詩 の一節を絵にしたものをみながら発音する ( 生きる の 5 つのパートを 5 人で各自担 1 当する ) 4) 練習の後 録音し 絵と音が結びついた朗読作品とする 小説の朗読 : 実践例 2 おみやげ ( 星新一作 ) アナウンサーの録音したテープと小説を教材とし 次の手順を行った 1) 日本人学生と 日本語学習者で 3 人一つのグループを作る 2) 全体でテープ視聴及び読解を行う 3) 各 グループで テープの視聴とさらに言葉や意味の確認をする 4) グループで登場人物とト 書きの役割を決めて録音する さらに BGM も決める 5) 1 回目の録音を日本語教師が聞 いて 発音チェックリストによる発音指導を行う 6) グループ毎に自分たちの録音を聞い て 相互評価し練習する 7) BGM を入れた最終録音をし 朗読作品とする 2 8) クラス全 体で朗読評価をする 評価シートに自他グループの作品に対してコメントを書く 9) 他グ ループからの評価と自己評価を含めて グループで振り返る 10) 全体評価として 1 自分自身の日本語の発音に関して考える 2 朗読テープは作品として 内容が他者に伝わる かどうかを考える 3 学習方法としてこの活動を考える ( 日本人との協同学習を含めて ) 81

92 3.2 ロールプレイ 実践例 1: テキスト みんなの日本語 の会話を使って 課の文法及び語彙の学習を終えた後 学習をサポートする日本人 ( 学生及び地域 ) とペアあるいはグループとなり 会話ビデオを視聴する さらに会話シート ( テキストの会話部分の基本事項のみを残したもの ) を使い 相談して状況設定と役割を決めながら会話スキットを作成する 3 役割練習の後 各グループが演じるものを録画し 最後に全員で視聴して評価する 実践例 2: ドラマの一シーンを使って ( アフレコ ) ドラマを使った日本語の授業 ( 上級対象 ) にて 全体視聴の後ある場面を取り出して 十分に意味を確認する スクリプトを使って言語 さらにビデオを何回も視聴することによって非言語の表現に関しても確認をする 特に役割による言葉遣いや身体の動きの違い等を理解する 役割を決めて練習した後 演じ 録音または録画する 録音したものと映像を合わせて視聴し 全体で視聴し評価する 演劇実施した演劇活動の詳細は添付資料に記した 4 演劇活動 4.1 日本語教師と演劇指導者 前述の 3.1 及び 3.2 の活動は 日本語教師の筆者自身が指導したものであるが 3.3 の演劇は特に指導者に依頼した それは 単に学習者と演劇を実施することが目的なのではなく 特にこの演劇指導者が導く演劇にいたるまでの様々な教育的活動を 日本語学習者及び地域の日本人と共有し その教育的意味を問いたいと考えたからである また 教師が 教え 学習者が 学ぶ の関係性以外に第三者 ( 演劇指導者や地域の日本人を含む ) を存在させることによって 教える 学ぶ のいわば対立関係を三者の三つ巴の関係にし 状況によっては三者に 教える 学ぶ 評価 ( 観察 ) する の役割を循環させることも考えた そして実践例としての本活動 5 には 以下の野口体操と竹内敏晴のレッスン 6 という準備的な教育活動を行った 4.2 野口体操による身体ほぐし 創始者である野口三千三は 人それぞれが持つ主観を大切にすること さらにすべての人 間の感覚 思考 行為など 主観と特殊であるからこそ一人ひとりの存在に意味があり大切 にしなければならないとし その具体的な方法として 野口体操 を実施し広めた その中 でも次の三つは野口の考えを象徴的に表しているであろう それらは 1) 身体ほぐし ( 二人 で身体を緩める作業 人は力を入れることはできても完全に脱力することはできない 他者 から触れられ力を抜くことを気づかされる必要がある ) 2) 逆立ち ( これまでの体育で学ん だやり方ではなく 身体の力を抜いて身体を一本の棒状のものと捉え 勢いをつけるのでな く支えをたよって身体を上下逆転させるだけの行為 ) 3) なわとび ( 大きな縄を実際に使用 あるいは仮想の縄を使って 一人でそして全員で縄を飛ぶ ) の三つである 身体ほぐしから は他者との接触によって自分の身体を再確認し 逆立ちからは身体に 82

93 関する既成概念を払拭し そして 仮想のなわとびからは空間に存在する人の気を感じる すなわち他者との関わりを再認識する行為といえる 4.3 竹内による からだとことばのレッスン 野口体操によって身体のかまえを自他ともに感じとったあと 竹内 (1990) のいう身体 に気づき心を解き放ち 人が人として生きていくことを自らつかみとるための活動を行う この段階では ぶらさがり ( 身体を空気の流れる一つのものとしてとらえ腰を中心に四肢を緩める ) から 声だし ( まっすぐにそして相手を定めて声を出す ) さらに こ とばを発音すること そして歌へとつなげていく この進め方は 参加者がまるく輪にな ってすわりあるいは立って 指導者が一人ひとりの参加者に対して向き合い対応していく 全員がその様子を観察しながら 一人ひとりの姿勢や声の特徴そして声の出し方に関して互いに感じとることが自然に要求される この体験を竹内は 身体的コミュニケーション のトレーニングとしており 自他共にこれまでの自分のコミュニケーションのあり方を考 えさせられるものともいえる このトレーニングこそが日本語教育においても意義のある ことと考える それは 筆者がこれまで経験しまた行ってきた言語教育の方法でなく 一人ひとりを大切にし そして身体と声を十分に活かした 声とことば の学習といえるか らである この過程を通して培った 声の出し方と身体の動かし方こそが人の前で演じる 際に必要な 自分のメッセージを他者に届けるというコミュニケーションの基本 であろ う おそらく演劇を最終目的にするからこそこの活動が必要となるのかもしれない 演劇的手法をよりよく活用するためには前提に演劇をあるいは演劇をメタファーにした実生活 をおく必要がここにあるのではないか 声を出すのが楽で身体も楽 生きていくのが楽と いうこの体験が人として大切であり そこに日本語を載せていくだけのことという考えで ある これはまた最初に日本語を教えることを大前提としないが 最終的には学習者の日本語力を保証するという考えでもある この活動を通して 参加した学習者そして日本人 にも変化が見られたように思う 演劇と日本語教育 上述の演劇にいたる活動を通して 演目を決めて上演に向けての練習を開始した 教室においては特に舞台練習はせずに 話を録音したものを学習者に配りできるだけ毎日聞くことと週に 1 度台詞の確認を行った 平成 19 年は どんぐりと山猫 を上演したが 初級の学習者には難解な日本語 ( 方言や古いことばが含まれている ) そして宮沢賢治ならではのストーリーの不可解さのため 台詞を覚え演じるということに無理があった そこで翌年は 島ひきおに ( 山下明生作 ) といったより平易で簡単な日本語作品を選んだ コースではテキスト みんなの日本語 を使用したが 演劇が終わってから文法項目を学ぶことになり 場面とのつながりを理解しているため 学習者に表現の持つ機能が十分確認できたように見えた また両作品とも 主人公を学習者全員で演じたため 学習の進度や学習方法等の価値観の違いが出てくるコースの後半にも 演劇を達成したという共有の昂揚感が持続していた 5 演劇的手法及び演劇活動の評価 本稿 で評価に関して触れたが 演劇的手法を使った活動はいわゆる客観主義的な評 83

94 価 すなわち活動を通して セリフを覚えた 発音がよくなった 語彙や表現の理解が進んだ という教育効果を最高の目標とするものではない 活動に関わった人が自分の中で意味を見出してそして評価するものという 構成主義の教育観に基づくものである 8 指導者からは これまで日本人に対しての指導は行ってきたが 外国人学習者へは初めての体験であり 不安であったことを聞かされた 野口体操から竹内レッスンそして演劇までの活動が 言語と非言語そして身体を駆使するものであり このような働きかけは人として普遍的なものであることを指導者自身が改めて体感したようである 学習者 15 名からはコース終了後のアンケートでおおむね好評を得た ただ人前で演じることが非常な緊張を強いられてつらかったという感想を述べた者もいた 演劇活動にいたるまでの教室内でのロールプレイや朗読といった活動に対しても 抵抗を示していたこの学習者は 本番で民族衣装を着て舞台に立った様子からは感じられなかったが 学習と演劇というものが結びつかないビリーフがあることが伺えた しかし 各人の 演劇活動では授業への取り組みとは全く違った能動的な関わりをしていたことや 活動後の日本語に対する自信に満ちた様子等が印象に残っている 6 むすびにかえて 本稿の取り組みは 日本語教育のコースを一つのプロジェクトワークと捉え最終パフォーマンスを演劇とし また教室内では多くの演劇的手法を意識的に取り入れ実施したものである いわゆる小さいものから大きなタスクまでを組み合わせた日本語教育活動とも言える 徳島大学で 年の 2 年間筆者が担当した予備教育のコースでは 従来の初級日本語学習にもう一つの柱である演劇活動を重ねた形となった 参加者は国費の教員研修留学生が大半を占め これらが教育方法の一つとして教員である学習者に理解してもらえたことも本プロジェクトの意義の一つと考える 今回 演劇を取り入れた本活動を振り返って確認できたことは 次の三点である 1) 人としてのコミュニケーションを目標とする日本語教育においては 演劇知が必要であること 特に作品をテキストとして共有し やりとりをすることはまさに 対話 を目指していること 2) 演劇 ( 演劇的手法 ) を通して学習者が日本人とともに学ぶことの意義 それは地域の国際化や異文化理解教育にも貢献できること 3) 日本語教師がより広い評価の視点を持ち また学びの伴走者の役割も果たせること 演劇活動は 空間 時間を共有し そして何よりも人間と人間のやりとりを大切にする ものであることを 参加者全てが体感できたように思う また我々が生きていく実際の生活で 芝居ではない現実の様々な場面で様々な役割を自ら演じていることを 時とし て我々は忘れているのではないだろうか 演劇というメタ的な視点を持って そして自らの身体と声を十分に活かし 自分の感情や思いを他者に伝えていくことが これからの日本語教育 そして教育全体にも必要だと考える次第である 9 付記 :2009 年 11 月現在 まほろば国際プロジェクトは 3 年目を迎え 当初の計画の最終年度となった 本稿はプロジェクトの途中段階の考察を述べるものとなったことを断っておきたい 注. 84

95 年徳島大学日本語研修コースの初級学習者 5 名 ( エジプト ブータン マレーシア ペルー バングラディシュ ) の朗読と日本人学生によるイラストを合体させた DVD 形式の作品 年秋の 日本語教育演習 受講の上級学習者 ( 中国 3 人 韓国 2 人 ) 日本人学生 4 人の 9 名が 三つのグループに分かれて朗読テープを作成 日本人学生には日本語教師としての自分の発音に対して意識を持つことと 朗読及び朗読プロジェクトさらに音声教育の方法としてどうなのかを考えるという目的で実施した 3 みんなの日本語 の中で実施したものは 11 課 これお願いします ( 郵便局 ) 13 課 別々にお願いします ( レストラン ) 21 課 わたしもそう思います ( 友人との会話 ) 25 課 いろいろお世話になりました ( パーティ ) 48 課 休ませていただけませんか ( 職場 ) 50 課 心から感謝いたします ( スピーチ大会 ) である 日本人の参加が 学習者同士でのロールプレイよりも現実性を帯びているため 活動への動機付けも高まっている と考えられる また 自分にあてはめて状況設定をすることを促していて 会話文をセリフとして丸暗記することのないように注意を払い自由度を高くしている 年秋には お金がない ( 織田裕二主演フジテレビ製作 2008 年版 ) を使い 女性部長 社 員 社長の会話というビジネスでの場面を選んで ドラマを使った授業として実施している 授業の目 的は当初 日本社会の理解及び上級の語彙等の理解であったが 将来日本での就職を考える留学生にと って 働く自分を仮想してビジネスの日本語を学ぶことを視点に実施している また 録音音声と画面 を合わせればアフレコとなり どのグループが一番良かったかを評価することも行う 5 野口三千三 ( ) に関しては 野口体操公式ホームページ参照のこと : 6 竹内敏晴 ( ) 及び からだとことばレッスン に関しては以下のホームページを参照のこと 2009 年 9 月 7 日に逝去された : homepage3.nifty.com/karada/body_words 7 学習者の変化に関しては 日本語学習者と身体的コミュニケーショントレーニング ( 仮 ) で別稿を準備中である 8 またこの指導者には日本人学生 (12 名 ) への演劇指導を依頼し実施している 海外の日本語学科訪問研修の際 中国の三つの大学の日本語学科の学生に対して日本語劇 ひのきとひなげし ( 宮沢賢治作 ) を披露するために行った演劇活動である 学年学科も違う学生のメンバーとしての意識を持つことと 日本語に関する認識を高める目標のもとに行った < 参考文献 > Gehrtz 三隅友子 (2005) 初級音声教育の試み 日本人学生との会話スキット作成から朗読へ 日本語教育方法研究会誌 vol. 12, No. 2, pp Gehrtz 三隅友子 (2008) 地域と作る演劇と日本語教育 まほろば国際プロジェクト 日 本語教育学世界大会予稿集, pp Gehrtz 三隅友子 (2009) 日本語学習における身体的コミュニケーション まほろば国際プロジェクト 2009 年度日本語教育学会秋季大会予稿集, pp 斎藤孝 (2000) 身体感覚を取り戻す 腰 ハラ文化の再生 NHKBooks. 佐々木倫子 (2006) パラダイムシフト再考 日本語教育の新たな文脈 国立国語研究所編, アルク. 竹内敏晴 (1988) ことばが劈かれるとき ちくま文庫. 竹内敏晴 (1990) からだとことばのレッスン 講談社現代新書 渡部淳 (2001) 教育における演劇知 柏書房. 渡部淳 (2007) 教師 - 学びの演出家 - 旬報社. 85

96 < 資料 > まほろば国際プロジェクトⅠ 日時 場所 2008 年 1 月 27 日 ( 日曜日 ) 午後 1 時 30 分 ~ 美馬市脇町劇場オデオン座 作品 宮沢賢治作 どんぐりと山猫 DVD 有 作品内容 小学生の一郎が山猫から裁判を手伝って欲しいという依頼のはがきをもらう 山猫のために一郎は道を聞きながら山へと向かい 裁判に審判を下す 演技指導 瀬戸嶋充 会田浩子 ( 人間と演劇研究所 ) 参加者 徳島大学日本語研修コース 6 名 ( メキシコ 南アフリカ ペルー 独 米 ) 美馬市周辺地域住民 33 名 ( うだつ寺子屋劇団 脇町黄門一座等 ) 舞台 草月流出村丹雅草グループ 共催 美馬市教育委員会 文化観光室 観客数 147 名 実施経緯 第 1 回 2007 年 12 月 15 日 ~16 日 美馬市脇町にて 宿泊施設利用 1 留学生と住民 40 名とで活動を開始 2 本読み形式で練習し 音と意味を確認 第 2 回 2008 年 1 月 18 日 ~20 日 美馬市脇町にて ホームステイ 1 どんぐりと山猫 の練習開始 役割を決定 2 衣装 道具類の作成を開始 第 3 回 2008 年 1 月 26 日 ~27 日 美馬市脇町劇場にて ホームステイ 1 各人の国紹介スピーチ練習 2 華道グループの舞台設営 3 最終リハーサル まほろば国際プロジェクトⅡ 日時 場所 2008 年 12 月 23 日 ( 火曜日 ) 午後 1 時 30 分 ~ 美馬市脇町劇場オデオン座 作品 山下明生作 島ひきおに DVD 有 作品内容 島で一人で暮らす鬼はさびしさのあまり 遊んでくれるものを探して島をひっぱって行く ようやくたどり着いた村で受けたしうちとは~ こっちゃ来て遊んで行け! がセリフ 演技指導 瀬戸嶋充 会田浩子 ( 人間と演劇研究所 ) 参加者 徳島大学日本語研修コース 9 名 ( ラトヒ ア セルヒ ア ケニア イエメン イント ネシア カンホ シ ア アフカ ニスタン 独メキシコ ) 美馬市周辺地域住民 10 名 ( うだつ寺子屋劇団等 ) 徳島大学学生 2 名 音楽 ウベ ワルタードイツ人音楽家 舞台 草月流出村丹雅草グループ 共催 美馬市教育委員会 文化観光室 観客数 110 名 実施経緯 第 1 回 2008 年 11 月 1 日 ~2 日美馬市脇町にて 宿泊施設利用 1 留学生の練習を開始 2 昨年参加の子供たちと母親らと身体ほぐしの練習 第 2 回 2008 年 12 月 19 日 ~22 日 美馬市脇町にて ホームステイ 1 劇練習開始 鬼を全員で演じる担当部分を決定 2 衣装 道具類の作成 3 華道グループの舞台設営 第 3 回 2008 年 12 月 23 日美馬市脇町劇場にて ホームステイ 1 午前最終リハーサル 2 阿波踊り体操 劇 歌 交流会 本活動は平成 19 年及び 20 年度 中島記念国際交流財団助成留学生交流事業による助成金を得た 86

97 実習生の日本語教育能力を高めるためのダイアリー活動 紙媒体から SNS へ 由井紀久子中西久実子中俣尚己京都外国語大学 要旨 京都外国語大学は 教育プロジェクト 多文化共生時代の協働による日本語教員養成 体験活動での教育効果を高める WEB ダイアリーの活用 が 文部科学省平成 20 年度 質の高い大学教育推進プログラム ( 教育 GP) に選定された 本稿は教育プロジェクトの平成 21 年 8 月までの実践報告である これまでも日本語教育実習において 紙媒体の実習日誌を用いていたが このたび 独 自に開発した SNS を利用して WEB ダイアリーとした 実習生同士の閲覧 コメントが可能になり 実習前のインプット量が増えるだけでなく 振り返り活動もより詳細 具体的に言語化することができるなどの利点が認められる 今後は WEB 上のコミュニティの拡張についても可能性をもっており 協働による日本語教員養成の多様で新しいあり方が期待できる キーワード ダイアリー プロフィシェンシー 振り返り SNS 日本語教員養成 1 はじめに 本稿は 文部科学省平成 20 年度 質の高い大学教育推進プログラム ( 教育 GP) に選定された 京都外国語大学の教育プロジェクト 多文化共生時代の協働による日本語教員養成 体験活動での教育効果を高める WEB ダイアリーの活用 の平成 21 年 8 月までの実践報告である 本教育プロジェクトでは 学部生の日本語教育実習のダイアリー活動を紙媒体から Social Networking Service( 以下 SNS) というメディアを活用して WEB 上に移した この SNS 通称 japas( ジャパエス ) は本プロジェクトのために独自に開発したものである その結果 実習生相互の評価活動が得られるようになった このことが 日本語教育実習生としての成長 すなわち日本語教育能力というプロフィシェンシーにどのように影響を与えたかを報告した上で SNS というメディア利用の可能性について述べる 2 ダイアリーとは ダイアリーとは 教師や学習者が授業中の経験について感じたことや考えたことを記述する日記 ( 山本 2006: 73) である ダイアリーは 執筆者以外の第三者が分析することもでき 外からの観察では分からない 心の中に生じていること 生じたこと を得ること 87

98 ができる ( 横溝 2005: 636) つまり 客観的事実だけではなく 情意や感情 考えたことを記録することができるものである ダイアリーの利点として 朝倉 (2003) は以下の 4 点を挙げている 1) 教授における問題点や不満をいったん表出する 2) 経験を記録し 何らかの意味をもって捉えなおす 3) 状況をより深く理解する 4) 後から読みなおすことで 新たな気づきや理解を得る 本教育プロジェクトでは 日本語教育実習の 実習日誌 をダイアリーと位置づけ WEB 上に置いた 3 プロジェクトの概要 京都外国語大学外国語学部日本語学科では 積極的に日本語教育実習をカリキュラムに取り入れている 1 年次に入学してすぐの春学期に 日本語学基礎演習という文法事項を学生が自ら調べて発表する形態の演習科目を設置し 続く秋学期と 2 年次春学期には日本人学生 ( 留学生も含む ) を学習者に見立てた模擬授業科目を置いている 2 年次生からは 京都市教育委員会 京都府教育委員会 滋賀県教育委員会との協定に基づいて 地域の小 中 高校で 外国から来た児童 生徒に日本語教育ボランティア活動をしている また 2 年次生以上を対象として オーストラリアと中国の海外提携校において 3 週間程度の短期日本語教育実習を また オランダと中国 韓国の海外提携校において 1 年間の長期日本語教育実習を行っている さらに 4 年次生になると 本学留学生別科において教壇実習を行う科目を設置している これらの日本語教育実習においては それぞれ異なる形でダイアリー活動が行われていた しかし いずれも紙媒体であったため あくまでも自分が書いたものを後で読みなおすという使い方に留まっていた 言い換えると 実習生同士の情報共有が不足しており 日本語教育実践に際してのインプットが不足していたということになる そこで これらの問題を解決すべく 文部科学省の平成 20 年度 質の高い大学教育推進プログラム に申請し 補助金を得ることができた 4 実践報告 文部科学省 質の高い大学教育推進プログラム を円滑に進めるため 京都外国語大学では 2009 年 1 月にグループウエアを統合したコミュニティ (SNS) を構築し 多文化共生時代の協働による日本語教員養成 体験活動での教育効果を高める WEB ダイアリーの活用 というプロジェクトを実践中である ( 平成 21 年 8 月現在 ) 4 では このプロジェクトで実践している WEB ダイアリーを引用しながら 日本語教育実習生としての成長にどのように影響を与えたかということを報告する 4.1 WEB ダイアリーの仕組み プロジェクトの中心となるのは WEB ダイアリーである WEB ダイアリーとは インターネット上で書き込まれるダイアリーのことで 目的を同じくする学生や教員間で共有される 88

99 図 1 に示すように WEB ダイアリーには授業における気づきの他 異文化発見メモ など文化的な気づきについて書く欄もある 日本語教育の実習生は SNS 上の目的別のコミュニティで WEB ダイアリーを書き 互いに閲覧 コメントし合う なお 実習授業の後には WEB ダイアリーの記入を義務づけたが 授業見学 実習授業の準備の報告 さらに仲間のダイアリーにコメントを書くことなどは任意とした WEB ダイアリーの共有によって教職員 学生全員が体験活動の全容を把握できるうえに 教員による効果的な指導や学生間での対話が促進でき また グループ活動での結びつきをサポートし 学生相互に支援できる 教壇実習の準備の過程においても 教員からのタイムリーな直接指導も可能となる 図 1 ダイアリー作成画面 図 2 自己評価シート記入画面 さらに WEB ダイアリーには 日本語教育実習評価シート ( 自己評価 ) も含まれる ( 図 2) 評価シートは 学生自身が問題点や課題を洗い出し 自ら解決できるようになるという目的で 模擬授業や実習授業などの活動終了後に記入する 評価の項目は下記の 6 項目で 努力度 達成度 総合自己評価の 3 つの観点から 0~5 の数字を自己評価シートに記入する 1. 教案の準備はしっかりできましたか 2. 授業中の声は大きく はっきり話せましたか 3. 板書はうまくできましたか 4. 教材 教具はうまくできましたか 5. 学習者とのインターアクションはうまくできましたか 6. 授業の進め方はスムーズでしたか毎回自己評価を行うことで 日本語教育能力が高まったことを確認できる仕組みになっている 4.2 WEB ダイアリーの有効性 ここでは (1)~(3) の WEB ダイアリーの有効性を示す WEB ダイアリーは 日本語教育実習生としての成長に影響を与えることができる (1) は紙媒体のダイアリーでも可能なことであるが (2) (3) は SNS を使った WEB ダイアリーだからこそ可能になった効果である 89

100 (1) 自分について肯定的評価な評価ができるようになった (2) コメントが明確にできるようになった (3) 他者へのコメントを通して自身を振り返ることが可能になった 分析の対象とするのは 2009 年度春学期の 日本語教育実習 1 という授業の受講生の WEB ダイアリーである この授業は 本学留学生別科のレベル 2( 中級初期 みんなの日本語中級 I を使用 ) の留学生を対象に 2 回 ( 各 45 分 ) の実習を行うものである 2009 年 4~7 月までに書かれたダイアリーの数は 75(1 人あたり 15) で コメント数は 126 であった (1 人あたり 25.2 のコメントを受け取る ) まず (1) の 自分について肯定的評価な評価ができるようになった についてであるが 学生 A は 1 回目の実習授業の WEB ダイアリーでは (4) のような否定的評価をした (4) 始まる瞬間までバタバタしていて 学習者の前では自信がなさそうに見えないように気を付けたが 内心とても不安だった 借りた時計も忘れてしまい 時間配分ができなかったので さんにも迷惑をかけてしまった 学習者が協力的で助けてもらったので良かったが 質の良い授業をすることができず悔しい ところが 実習生 A は 2 回目の実習授業後には WEB ダイアリーに (5) のように肯定的評価をするようになった (5) 模擬授業も何回かやったので 前回に比べてリラックスでき 余裕をもって授業ができた 学習者が 3 名しか来なかったのでびっくりしたが 尐なかったので全体を見ながら進めることができた 時間配分もぴったりでよかった (5) のようにダイアリーの自己評価が否定的なものから肯定的なものへと変化していることは 表 1 に示すとおりである 学生 D のみ減尐しているが これは学生 D が 2 回目に担当した項目が 抽象的で教えにくい文法項目であったことに起因する 表 1 自己評価の変化 1 回目 2 回目努力度平均達成度平均総合平均努力度平均達成度平均総合平均 学生 A 学生 B 学生 C 学生 D 学生 E 次に (2) の コメントが明確にできるようになった についてであるが 実習生 B は 仲間の実習生の模擬授業を見た後のダイアリーで (6) のような箇条書きでしか書けていない (6) 6 月 1 日 文型の教え方がすっきりしていてわかりやすかった ( いいんじゃない の二つの意味 : 不確かな時 アドバイスするとき ) 授業の進め方がスムーズだった 復習がなかったような気がする アドバイスをするときの いいんじゃない の使い方を板書すればもっとわかりやすかったと思う 90

101 小道具 ( 耳かきや風呂敷 ) などを使っていたところ 板書の整理ができていた 効果音 CD が面白かった ところが 約 1 ヶ月後の実習生 B の WEB ダイアリー (7 月 6 日 仲間の模擬授業を見学した後 ) を見てみると (7) に示すように 分析的な記述ができるようになっている 実習生は仲間の WEB ダイアリーを閲覧し 分析的なコメントがすることによって プロフィシェンシーとしての 日本語教育能力 を高めていると言える (7) 私だったら (1) 時間配分 5. 練習をしましょう は 出てくる 2 つの文型の説明も含めて 20 分くらい? 1. やってみましょう は さらっと流して 5 分強位にまとめる もう 1 度聞きましょう は 書き取りに 5 分ほど CD を止めながら流して 5 分くらい ( 説明しながら ) 2. 聞いてみましょう を 5 分くらい微調整 5 分で 45 分くらいかな (2) 内容 2. 聞いてみましょう のところは 実際に電子辞書を持ってきてやってみてはどうですか ジャンプ機能 とか 書き込み検索 とか実際のものを使うとわかってもらいやすいのでは? 5. 練習をしましょう のところは どんな N がほしいですかと聞いて条件を 2 つ聞く 条件 1 つだけではなく 2 つ条件がそろっていないとだめ という状況を作り出す さらに 実習生 B は (8) のように 自分の WEB ダイアリーを引用して仲間にロールモデルとして見せようとする姿勢を身につけている (8) 私が別科の授業を見学したときのダイアリーです 同じように 話す 聞く のところでした eid=463&pagepluginid=2 最後に (3) の 他者へのコメントを通して自身を振り返ることが可能になった ということであるが (9) (10) の下線部からわかるように 実習生は仲間にコメントをすることによって 自身の振り返りが行えるようになる (9) 今日は さん さんの二回目の模擬授業を見学しました 自分に 置き換えても勉強になる点が多数ありました 学習者がその文型をどのような場面で使えるかを明確に提示してやること それによって学習の動機付けになるということ 確かに どこで使用すればいいかがわからないものを学習しても楽しくなく 身にも付きにくいんだろうな (10) ( 実習のビデオを観てコメント ) 模擬授業をされてないのに 落ちついて授業されてたので 私も頑張らねば とビデオを見せてもらって思いました ティーチャートークは わたしも気をつけなければなりません 強調しようとすればするほどそうなってしまって (9) (10) のように他者へのコメントを通して振り返りが行えるという成長は WEB ダイアリーだからこそ可能になった有効性である SNS において WEB ダイアリーを書くことによって 学び合い と 振り返り が可能となり 自己モニタによってプロフィシェン 91

102 シーを高めることが可能になっていると言える 5 実践後の評価 ここでは SNS を使った活動後の 利用者の評価について報告する 学内で実践を行った学生に SNS を使った活動についてアンケートを行った アンケートは 2~4 年生の学生 44 人を対象に 4 件法で行った ここでは 4 年生 5 人と 2 年生 19 人のデータを比較する形で論を進める まず 調査の結果を表 2 に示す 表 2 SNS 利用調査の結果 4 年生 2 年生 1 週に何回 SNS を見たか? 意見をもらったか の意見は役に立ったか SNS でダイアリーを書いたことは 授業の準備 実践に役に立った か 5 SNS で他人の教案 ダイアリーを見たことは 自分の授業準備 実 践に影響を与えたか 6 授業に関する不安が軽減 解消された 自己を客体化して見ることができるようになった 自分の努力を評価することができるようになった 問題解決を目指して対策 ( 調整行動 ) を試みることができた 自分の問題 課題が明確になった 他人の技術を参考にすることができた 向上しようという気持ちになった 開始時 SNS で意見を述べることに抵抗があった 終了時 SNS で意見を述べることに抵抗がある を見ると SNS の利用頻度には 4 年生と 2 年生で差があるものの 2 を見ると意見をもらったという点においては変わらない しかし 3 を見ると 4 年生は全員がその意見がとても役に立ったと答えているのに対して 2 年生はそれほどでもない 4 年生の意見のほうがより具体的だったということであろう 実際 2 年生のコメントは 4 年生以上に箇条書き的なものが多く よかった 楽しかった 本当の先生みたいだった のような抽象的で当たり障りのないものに終始する傾向があった 次に 4 と 5 の数値を比較すると ダイアリーを書くことよりも 他人のダイアリーを読むことのほうが影響があったと感じられているようである この点は WEB ダイアリーの特性が発揮されたと言えよう 6~12 は心理的な変化についての質問である どちらかというと 6. 授業に対する不安が軽減 解消された とか 7. 自己を客体化して見ることができるようになった とか 8. 自分の努力を評価することができるようになった といった自分をプラスに捉える という変化よりは 10. 自分の問題 課題が明確になった とか 11. 他人の技術を参考 92

103 にすることができた とか 12. 向上しようという気持ちになった といった 自分のマイナスなところと他人のプラスのところを捉える という働きが強いのではないかと考えられる 最後に 13 と 14 は SNS というメンバーが限定されているとはいえ 公開の場で意見を述べることに対する抵抗感の有無を調べたものである 4 年生は当初 3.2 と抵抗感があるという意見が優勢であったが 利用後は 2.2 に減尐している 一方 2 年生は当初から抵抗感は尐なく 変化もしていない もしかすると 2 年生のほうが年尐である分 当初からよ り SNS に対する親密度が高く 抵抗感も尐なかったということがあり そのことが反映されているのかもしれない 6 今後の発展性 ここでは 今後の発展の方向性について述べる 今後の発展の方向性には SNS 上でのダイアリー活動の発展性と SNS としての発展性の二つがある 6.1 ダイアリー活動の発展性本学ではオランダ国立南大学と提携を結び 本学の日本人学生 4 人が留学しながら 週 8 時間程度現地で日本語を教えるという派遣留学の制度を行っている ここでも実習生は授業後にダイアリーを書く その結果 単に留学生を送り出してそれでよしとするのではなく 現地で実習生が抱える問題を本学の教員が素早く把握し 対処できるような体制が整った このダイアリーは本学の学生も自由に閲覧できるため 共感 励ましといったコメントも海外で不安を抱えながら実習に望む学生の支えになる 日本の教育実習生に SNS でのダイアリー活動を行った望月 北澤 (2009) でもベテラン教師からのアドバイスと同時に 仲間からの共感的なコメントの重要性も指摘されている さらに 実習先のオランダ国立南大学の先生方にもダイアリーを読んでいただき 評価してもらっている これら複数の視点からの評価 + 自己評価シートにより 授業をより精密に評価できるようになると考えられる また 教員側にとってもヨーロッパの教員と日本の教員が評価法の違い 教授法の違いといった視点の違いを互いに知ることができる この実践で行っているダイアリーとコメントによる評価というモデルは 今後海外での新人教育にも役に立つ可能性がある つまり これまでのようにベテランの教師が新人教師を指導するだけでなく 教師同士がダイアリーを通して振り返りを行い お互いにコメントをすることで 新たな気づき を元に成長していくことができるのである さらに WEB ダイアリーであれば すでに本学の海外派遣留学で成果を挙げているように 日本など別の場所にいる先生が遠隔でコメントすることも可能である 具体的には 本プロジェクトでは現在日本語教師として活躍している卒業生に順次 SNS の ID を発行しており 協働のネットワーク の構築に取り組んでいる 協働のネットワーク が構築されれば 教師のインプットを爆発的に増やすことができ 教師の成長につなげることができる 6.2 SNS としての発展性 本 SNS は WEB ダイアリー以外の機能も備えている 今後は教材を自由にアップロードできる教材 素材の広場の内容をより拡充させ 世界中で利用できる教材バンクとして整 93

104 備していく方針である また 従来 香港中文大学の日本語学習者とインターネットを使って交流し 日本人実習生による作文指導活動も行っていた ( 上田 中西 村上 2009) が 今年度はより直接的 に SNS の掲示板機能を使って交流を開始したところ 交わされる発言がくだけた内容になり 量が増えるという変化もみられた 学生にとってはすでに SNS は身近なコミュニケーションツールとなっているため それを使った活動も馴染みやすく 高い教育効果をもつものと思われる 同じインターネットの機能であるメールなどと比較すると SNS の特性はより多くのメンバーと気軽にコミュニケーションをとることができることと そのネットワークから一種の共同体が発生することにある 今後も SNS の特性を活かし 日本と海外の学生の交流 ひいては海外で日本語を学ぶ学生同士の交流を進めていきたい < 参考文献 > 朝倉淳子 (2003) 日本語教育実習生の発達過程に関する質的研究 : ダイアリー分析手法を用いて 大阪大学博士論文. 上田早苗 中西久実子 村上正行 (2009) 大学 SNS を活用した日本語教育ピア レスポンス 教育システム情報学会第 34 回全国大会講演論文集, pp.14-15, 教育システム情報学会. 嶋田和子 (2009) プロフィシェンシーを軸にした教師教育 -OPI の手法を活かして - 鎌田修 山内博之 堤良一 ( 編 ) プロフィシェンシーと日本語教育, pp , ひつじ書房. 望月俊男 北澤武 (2009) ソーシャルネットワーキングサービスを活用した教育実習実践コミュニティのデザイン 日本教育工学会研究報告集 JSET09-1, pp 横溝紳一郎 (2005) ダイアリー 日本語教育学会編 新版日本語教育事典 大修館書店. 山本由紀子 (2006) 日本語教師教育研究資料としてのダイアリについて - ダイアリの性質とその読み方についての 1 考察 土岐哲先生還暦記念論文集編集委員会 ( 編 ) 日本語の教育から研究へ, pp , くろしお出版. 94

105 コミュニティ ランゲージ ラーニングが話技能習得に与える効果 小島一江 GLS Sprachenzentrum, David Berry Language 要旨 日本語学習者の動機の多様化に伴い 会話や発音に重点を置くシラバスが必要になってきている そのため コミュニティ ランゲージ ラーニングとこの教授法を用いて話技能習得への効果を伴った実践例を紹介する キーワード 発話練習 会話体文法 即興ダイアログ 話技能習得 学習者発信型 1 はじめに 近年 ベルリンの GLS 語学学校では日本語学習者の数が増え 日本語はヨーロッパの主 要 5 ヶ国語 ( 英 独 仏 西 伊語 ) に続き 6 番目に受講者が多い言語となった この語学学校が提供しているコースは 週 2 回 90 分 4 週間コース 土曜 4 回コース それに 1 日 180 分 5 日間集中コースで 各コースとも毎月新しく始まるので それぞれの通う学校や会社の休み期間中を利用して ドイツ国内各地から日本語を学びに来る 3 ヶ月以内の短期学習者が約 70% を占める 学習者の主な動機として 旅行や研修や日本での駐在業務に向けた準備や日本人配偶者の家族との会話の必要性などを挙げる 日本行き学習者 が一番多く 続いて日本映画やドラマ マンガなどのポップカルチャー言語の理解を希望する ポップカルチャーファン が多い これらの目的を持つ学習者が必要とする学習内容としては 機能シラバス 聴解タスク 話技能 会話体文法 ( 普通体 省略形等の知識 ) 感動詞 身振り ジェスチャーの知識などが考えられる しかし 初級者コースの初級教科書を用いた文型シラバスでは 上述したような目的で日本語を学んでいる学習者が必要とする会話文で多く占める普通体を用いた日常会話の導入や発話や発音に重点を置く授業は難しい また 中級者コースの受講者には 以前に学習経験があり 一度コースを中断したが 再び学習を始める リバイバル学習者 や他の機関での長期日本語学習者で休暇中の補習を目的とした受講者もいるが そのほとんどが文型シラバスのみで学んでいたために 日本語能力試験 4 級以上の学習者でさえも会話体文法と会話力 発話力に乏しい傾向がある そこで 授業にコミュニティー ランゲージ ラーニング ( 以下 CLL) を用いたところ 学習者が望む会話体の導入とゼロ初級者に 1 回目の授業から母語話者の表現文 発音 イントネーションを刷り込むことにおいて高い成果をあげた また 中級者で会話が不得意な学習者には発話意欲向上の効果を見せた 2 CLL について 2.1 CLL の概要 CLL は 70 年代初めにチャールズ A カラン (Charles A Curran) が発案した カウンセ 95

106 リング ラーニング (Counselling Learning) から発展した教授法である サイレントウェイ サジェストペディア TPR などと並べられる ヒューマニック アプローチ ( 人間主義的教授法 ) の一つで 学習者の安定した心理状態を重視している 英語教育では 未知の言語に対する間違いへの羞恥心のために発話できない成人学習者に考えられた教授法 (Dr. Ghaith 1998) 学習への不安を取り除くことを目的とした教授法 (Swift 2007) と報告されている CLL の特徴は 扱われる内容が会話 対話に重点をおいていること 教師はファシリテイター (Facilitator) またはノウワー (Knower) の役目であること 即興で行われる学習者発信型シラバスであること 表記なしで耳からインプットした一文を発話練習した後に録音する作業を繰り返し 最終的に再生可能なダイアログが創出できること また ダイアログの完成後に文字で表記するというプロセスを経ることである 効果的なケースは 会話練習の授業 発音やイントネーションの練習や矯正 初級者の発話練習 特定 専門分野用語を必要とする授業 クラスになじめない学習者 無口な学習者を教室活動に引き込むことである (Macgilchrist 2002) と紹介されている CLL の条件は 2 人以上 10 人くらいのグループ 学習者が全員共通言語を持っていることのみで 必要器具はボイスレコーダーや MP3 などの録音器具である 長所は ダイアログの会話進行が完全に学習者の発想に頼るものであり 学習者の日常使 用頻度が高い語彙や表現が学習材料となり また 個々の発話タスクが遂行されなければダ イアログが完成しないので 各タスクに高い集中度が要求され そのため 学習の定着度が 高くなる それから 即興で作られていくダイアログの内容を学習材料にするので 学習者 のレベルに関係なく取り組める さらに CLL を用いた事でクラスの雰囲気が良くなり その後も授業に活気が出るようになったという事例も尐なくない 一方 短所は 新出単語 新出文法項目も多くなる会話表現を毎回授業で使うのは不向きであることだ 2.2 CLL の手順 CLL の手順は大きく分けて 1 自己紹介 2 ダイアログ創出 3 フィードバック 4 書き起こし 5 文法分析の五段階過程を経る (Admin 2004) 各項目については 以下に詳しい説明を記述する 1 自己紹介 席の配置は机を使わず椅子だけを使用し ファシリテイター ( 以下 F) が各学習者の背後に立てるように椅子の外側と壁の間に人が通れるくらいの空間を空けて円形に並べ 学習者がお互いの顔が見えるように輪になって座る 創出されるダイアログの話題は 学習者がより関心を持ち 全員に共通するテーマが理想的なので CLL を始める前に各学習者の自己紹介や関心のある話をして 最適な話題を探す事が大切である またこの段階で決めた話題を用いた会話が行われる仮想関係を設定し それに合うポライトネスの度合い ( 丁寧体 普通体 ) も決定しておく 2 ダイアログ創出 まず ある学習者 (L1 1 ) が母国語 ( あるいは共通言語 ) で 話したい一文 を発する F は L1 の背後に立ち その文を訳した目標言語 ( 日本語 ) の文を口頭のみで L1 に繰り返 しインプットする L1 は 背後から繰り返して聞こえる日本語文のように発話できるよう 96

107 に各自自由に発話練習をし 聞こえた発話文と同じように言える自信がついたら F に ( インプット ) ストップ の指示を出し L1 はその覚えた発話文をボイスレコーダーに録音する その録音された文からインスパイアされて 話したい一文 を思いついた学習者 (L2) が上述同様の作業を繰り返す そして 他の学習者 (L3 L4 等 ) も同様の作業を延べ十 ~ 二十回程繰り返すと 最終的に 1 2 分程度のダイアログができあがる この過程は表記せず 聴覚を使い口頭のみで行われる また 録音されたダイアログ ( 録音データ ) は サウンドファイルとして E メールに添付して送ることができ 学習者に配布が可能である 3 フィードバック録音されたダイアログを続けて全員で聞き 何が話されていたか母国語で確認する 4 書き起こし 録音されたダイアログを書き起こす 表記方法は学習者によって異なり 初級者はローマ字表記で 仮名が読める学習者には仮名 または漢字表記で行う 主な書き起こし方法は 1) 同授業中に F が書き起こす 2) その場で学習者が書き出す 3) 録音データを各学習者に送り 宿題で書き出してきてもらい 次回の授業で確認する 上記 1) の書き起こし方法について OHP を使う場合は書き起こし文を書いたシートを 復習材料として授業後そのままコピーして渡せるという利点もある (Macgilchrist 2002) が 筆者は自ら黒板に書き起こし それと同時に学習者が各自ノートに書き写すケースが多い しかし この書き起こし方法は 学習者の筆記スピードに個人差があり 時間がかかりすぎる場合が多いため まだ改善の余地が残されている 5 文法分析 書き起こされたダイアログ全文を分析する 分析の程度は学習者のレベルによって異なるが 主な項目は品詞分けを含む文法構造や会話体の説明や単語訳などである 時間に余裕のある時や学習者にとって余裕がある時などは応用練習などをする場合もある 英語教育の場合では 書き出した文の下に母国語 ( 共通語 ) の訳だけを示し 分析も学習者が行うという程 学習者主体シラバスである (Macgilchrist 2002) 3 CLL が話技能習得に与える効果 ここで 話技能の具体的な技能を考えてみたい 例えば 発音 イントネーションを口頭で発する発話技術 (i) 単語や文法の知識を蓄える記憶力 (ii) 記憶している文から応用文に発展させる思考力 (iii) そして 場面やコンテクストに沿った適切なことばを選ぶことができることばの選択力 (iv) などではなかろうか それに加えて 外国で日本語を学び 日本語をあまり話す機会がない学習者には発話意志 (v) も話技能の一つだと仮定すると CLL は上述した各項目に貢献した結果となった その根拠を提示すべく 2 以下に四つの CLL 授業例を紹介する 学習者について ゼロ初級者には名前の横に * を付けた また 各授業例の授業記録と筆者のコメント 各授業に参加した学習者からの感想をダイアログ下方に記述した 3.1 授業例 1 < 発話練習の例 > 初級クラス 1 回目の授業 97

108 学習者 ; ゼロ初級者 3 名 [K*( 女性 ) J*( 男性 ) C*( 男性 )] 動機 ;3 名とも日本人の知り合い ( 子供を含む ) との会話目的希望 ; 文字は必要なく会話練習を希望背景 ; 初めての授業ということで開始前は緊張した様子 話題 ; 普通体を用いた会話体で 初めて出会って何かをする という話題を設定書き起こし表記方法 ; ローマ字表記 ダイアログ内容 ( 完成までの時間 45 分 ); K: こんにちは 名前は何? C: コートニー 今日は元気? K: 元気だよ コートニー君は? C: うん 元気だよ J: ああ こんにちは ぼくはヨルグです 名前は何? K: カルメラです よろしく C: ぼくはコートニーです よろしく J: こちらこそ C: 今日は何をしようか K: 日本語を勉強しよう J: あー いいね C: じゃあ たぶん ぼくも K: ドキドキする むずかしいかな? J: 大丈夫だよ むずかしくないよ C: 日本語 勉強したことある? J: ないけど 好きだよ K: えー どうして? J: だって ドイツ語と全然ちがうから C: ぼく 新しいこと 好き 楽しみだな K: 私も 楽しみ C: じゃあ 始めよう J: そうしよう この授業例 1 では 発音 イントネーション 日常会話頻出単語 挨拶や相槌の導入 3 と 文法構造の概要 会話体特有の省略形の説明 また 後の学習で導入される文法項目へのイントロダクションが可能であった それから 最初に緊張していた様子の 3 名が授業後には打ち解け クラスの良い雰囲気作りに貢献した この活動を通じての学習者の主な感想は 日本語が話せて楽しかった 発音が難しかった / 簡単だった 知りたかった大切な語彙が習えた 驚く声 えー? が ( ドイツ語と ) 違う事に驚いた 言葉をよく省略する日本語会話の雰囲気を味わえた ぼく と わたし の違いを知った 大まかな文法構造が分かった ということであった 3.2 授業例 2 < レベルに差がある初級者クラスの例 > 初級クラス 1 回目の授業 98

109 学習者 ; 初級者 6 名 [M* K* C( 女性 ) Y* X A( 男性 )] 動機 ; 日本行き学習者 (M* C) ポップ言語理解希望 (A K*) 配偶者が日本人 (Y*) リバイバル学習者 (X) 希望 ;5 名が会話練習を希望で 1 名はそれに同意 背景 ; 初級者クラスでも 個人学習やアニメを見て日本語に触れている学習者 3 名とゼロ初級者 3 名の混合クラス 話題 ;3 名 (K* Y* X) が日本旅行経験者で 1 名 (M*) が旅行準備のため 丁寧 体を用いた会話体で 日本旅行 という話題を設定書き起こし表記方法 ; ローマ字表記 ダイアログ内容 ( 完成までの時間 60 分 ); M*: こんにちは 元気ですか? K*: はい 元気です 日本に行きましたか? A : いいえ ぼくはまだです カトリンさんは? C : はい 行きました X : 日本のどこに行きましたか?Y*: 東京と函館に行きました M*: どうでしたか? X : すばらしかったです C : 何を見ましたか? Y*: 浅草を見て 銭湯に行きました A : 銭湯はどうでしたか? お湯は熱かったですか? X : 熱いお風呂と冷たいお風呂がありました K*: 熱いお風呂にどのぐらい入っていましたか? C :10 分ぐらいがんばりました その後でおいしいご馳走を食べました M*: おいしかったですか? X : おいしかったですが 納豆はちょっと 好きじゃないです Y*: へ? 本当ですか? ぼくは好きですよ でも するめはあんまりおいしくないです K*: じゃあ 味噌汁は? A : おいしかったですよ 日本の料理は興味深いです この授業例 2 では 授業例 1 に变述した内容に加え きらい を使わず 好きじゃない という日本人的表現や終助詞の よ を実際の会話進行の中で導入することが可能であった 3 印象的だった事は ダイアログ創出途中で K* が提案した 話したい内容 について X が知っている限りの単語を並べて日本語文構築を手伝おうとしていた事 4 日本旅行経験者である Y* C が日本での ( 納豆 銭湯 温泉等についての ) 体験談を語り 日本文化について情報交換がなされた事 また 文法分析過程では文法構造を知っている A がまだ知らない M に説明をして教えた事など コミュニティ ( 共同体 ) としての学習姿勢や情報交換が可能であった この活動を通しての学習者の主な感想は 良かった / 楽しかった 教授法が興味深かった 日本の文化 ( 納豆 銭湯 ) について分かって面白かった 動詞 形容詞の活用が 99

110 わかった ということだが 漫画読解希望の K* は 文型シラバスの方がいい という意見であった 3.3 授業例 3 < 専門用語希望者の例 > 中級クラス 2 回目の授業 学習者 ; 中級者 2 名 [O( 女性 学習歴 2 年 ) 日本短期留学 2 回 会話に問題はなく 発話は意欲的だが 尐々アクセント有 S( 男性 ); リバイバル学習者で 3 年前に 1 年間の学習経験有 現在 日系企業に勤務 発音 発話 聴解に自信がなく 意欲も尐なく 発話がぎこちない ] 希望 ;S が販売専門用語を希望 O は同意 背景 ; 教科書の進度は みんなの日本語 第 26 課 両者共 発音 ( 特にラ行 ) に母語の介入有 漢字 100 字程度習得 話題 ;S が販売分野の語彙を希望しているため MP3 を買う客と店員 という話題を設定書き起こし表記方法 ; ダイアログ下記参照 ダイアログ内容 ( 完成までの時間 50 分 ); S: ドイツのアダプターもありますよ O: そうですか で 容量はどのぐらいですか S:4 ギガバイト 8 ギガバイト 16 ギガバイトがあります O:4 ギガバイトでいいです 他の色がありますか? S: はい あります O: 赤いのがありますか? S: 申し訳ございません 只今 品切れで注文になるんですが O: どのくらいかかりますか? S:2 3 日かかります O: あ そうですか じゃあ 3 日後にまた来ます ところで いくらですか? S: 定価は 円ですが 10% 割引で 9000 円でいいですよ O: いいですね 3 日後は土曜日ですね 土曜日は何時まで開いていますか? S: 土曜日は 8 時まで開いています O: じゃあ 取り置きをしておいてください S: はい わかりました こちらに名前と電話番号を記入してください O: はい 書けました S: こちらをお持ちください O: はい S: 土曜日にお待ちしています O: よろしくお願いします S: ありがとうございました この授業例 3 では 母語が介入していた発音 イントネーションの矯正練習と 2 会話体の表現に加え 販売用語や顧客への敬語の導入が可能であった また ダイアログ中の新出文法 ん です (26 課 ) 書けます (27 課 ) 開いています (29 課 ) ておいてく 100

111 ださい (30 課 ) が 教科書 みんなの日本語 2 の予習にもつながった そして 漢字の読み練習のため 聞き取り書き起こし作業を宿題に出し 次回の授業に漢字混じり文で表記した書き起こし文を用意して 振り仮名をつける課題を課した この活動を通しての学習者の主な感想は たくさん話せて楽しかった (O の感想 ) 仕事に必要な語彙を学習できた (S の感想 ) 敬語構造が知れて良かった (S O の感想 ) などであった 特に S は 話す調子をつかめた という感想を残し これ以後 発話が意欲的になった 授業例 4 < レベルに違いがある学習者混合クラスの例 > 初級クラス学習者 ;3 名 [I( 女性 日本語学習暦 2 年 ) L*( 女性 ) B*( 男性 )] 動機 ; 携帯電話関係の会社で 社長の意向で会社研修 背景 ;I は去年の JLPT4 級合格者で単文発話は可能 この日は日本語に興味のあるゼロ初心者 2 名が見学を兼ねて飛び入り参加 話題 ; 前日にパーティーがあり授業を行っている研修室が散らかっていたため その 状態で今から何をするか という話題を設定書き起こし表記方法 ; ローマ字表記 ダイアログの内容 ( 完成までの時間 40 分 ); B*: こんにちは L*: こんにちは I : あっ こんにちは 昨日はよく寝られましたか?L*: はい よく寝ました バスティさんは元気ですか?B*: はい 元気です わっ ここ 汚いですね L*: そうですね それにくさいですね I*: じゃあ 窓を開けましょう 掃除もしなきゃ B*: そうですね でもまず 朝ごはんを食べませんか L*: そうですね コーヒー 飲みたいです I*: いいですね 私はお茶を飲みます バスティさんは何を飲みますか?B*: じゃ オレもお茶ください I : どうぞ B*: どうも I : どういたしまして L*: じゃあ 誰か パンを買ってきてください B*: おれは自転車がないから L*: 私はくつがないから 行きません I : じゃあ 私? この授業例 4 では 授業例 1 で变述した項目と同様の項目が可能であり この活動を通じての学習者の主な感想は 楽しかった 日本語の発音は意外と簡単だった 日本語の感じがつかめた 日本語は興味深い ということだった この授業例 4 は極めて稀な例だが 日本語学習暦 2 年の I よりもゼロ学習者 L* と B* の 101

112 方が日本語の母語話者に近い発音とイントネーションを習得できていた事 2 がとても印象的であった例という理由で ここに紹介した 4 最後に CLL の授業が発音 イントネーションの刷り込みと学習内容の記憶に関して大きな成果をあげたことは 数ヶ月経ってもその時に参加していた学習者が授業の時と全く同じ発音 イントネーションで発話しているのを耳にすることが何度もあることから分かる 6 筆者はこの教授法を短期コースのコースデザインの一部として用いたが 学習内容が単発的であり 学習者が学習の達成感を得られやすいという CLL の個性から 今後は長期学習クラスでも有効的な用い方が検討できよう そして 会話の授業にはとりわけ効果のある CLL が日本語の授業で用いられる機会が増えて行くことを期待し そのために より有効な CLL ファシリテイターとしての役割を検討していくことが今後の課題である 注. 1 任意の学習者の意味で 英語表記 Lerner の頭文字をとって L とし 異なる学習者の意味で L1 L2 L3 L4 とした 2 発表で公表した音声データは にアップロードした 3 で挙げた発話技術 (i) の習得に貢献したという説はこの音声データを根拠とする 3 この相槌や終助詞の導入は 3 で挙げたことばの選択力 (iv) に貢献した例とする 4 この学習者の学習態度は 3 で挙げた思考力 (iii) に貢献した例とする 5 この学習者の例は 3 で挙げた発話意志 (v) に貢献した例とする 6 この事実は と 3 で挙げた記憶力 (ii) に貢献した例とする < 参考文献 > 小林ミナ (2005) コミュニケーションに役立つ日本語教育文法 コミュニケーションのための日本語教育文法 野田尚史 ( 編 ), pp , くろしお出版. 水谷信子 (1985) 日英比較話しことばの文法 くろしお出版. 水谷信子 (1999) 心を伝える日本語講座 研究社出版. 山内博之 (2005) OPI の考え方に基づいた日本語教授法 ひつじ書房. Macgilchrist, Flyss (2002) Community Language Learning. English Teaching Matters 3:6-9. Scrivener, Jim (2003) Idea for working with connected speech. Berlin ELTABB Lec Handout:2-3. British Council. Community Language Learning: ( ) Charles, Paul. Encouraging students to speak: ( ) Dr. Ghaith, Ghazi. Community Language Learning: ( ) Maley, Alan. Community Language Learning: ( ) Swift, Sue. An ELT Notebook: ( ) 102

113 日本語教育スタンダードのための語彙表作成の方法 統計指標を用いた話題別分類語彙表 橋本直幸首都大学東京 要旨 本研究は 日本語教育スタンダード に必要不可欠と考えられる 日本語教育語彙表 について その必要性や目指す語彙表の形式 その作成方法について提案 検討を行なうものである 本研究で提案する日本語教育語彙表は スタンダードと関連をもたせるため 話題 という概念で語を分類し 提示する 語の分類は まず大規模コーパスのサンプルを話題ごとに分類し それぞれの話題の特徴語を統計指標を用い抽出するという方法をとる これにより 現実の使用実態を反映した 話題別 かつ 客観的な 語彙表を作ることができる キーワード 話題別語彙表 話題 日本語教育スタンダード 対数尤度比 1 はじめに 研究の目的 本研究は 日本語教育スタンダード に必要不可欠と考えられる 日本語教育語彙表 について その作成方法を提案するものである CEFR は複言語主義という立場に立つ共通参 照枠であるがゆえ 能力記述文が中心であり 具体的な個別の言語形式については記述され ていない しかし それぞれの言語の教育現場においては どの語を教えれば良いのか どの文法を教えれば良いのか といった 指導すべき具体的な言語形式が明確になってい ることが重要である 本研究では これらの言語形式のうち 語彙 ( 実質語 ) に焦点を絞り スタンダードのための語彙表作成の方法について提案 検討を行なう なお 本稿で述べる 日本語教育スタンダード は一般的な意味での スタンダード であり 国際交流基金が行っている JF 日本語教育スタンダード とは一切関係がない 2 日本語教育における語彙リスト 現在ある日本語教育のための語彙リストのうちもっとも良く知られているものの一つとして 日本語能力試験出題基準 ( 以下 出題基準 ) の語彙リストがある この語彙リストでは 1 級レベルに必要な語彙の目安としての 10,000 語のうち 8,009 語を掲載している 語彙の選定にあたっては 3 4 級は既存の日本語教科書 11 種を 1 2 級は各種語彙調査をリソースとしている なお 出題基準 の まえがき には その基本的性格として 以下のような記述がある 出題基準 は日本語能力試験の試験問題作成者の参考のために作られたものである したがって 日本語学習者や日本語教育者に対する全般的な指針となることを意図して作られたものではない (p. i) 103

114 ここで述べられているとおり この語彙表はあくまで作題のための語彙表であり 日本語教育スタンダード で重視される学習者の言語活動や能力記述文と直結したものではない 3 日本語教育スタンダード に必要な語彙表とは では 日本語教育スタンダード として提示されるべき語彙表に求められることとは どのようなことであろうか 山内 ( 編 )(2008) では 日本語教育スタンダード を作る際のポイントを以下のように述べている 日本語教育スタンダードを策定する際の最も大きなポイントは 言語活動 タスク と 語彙 文法 の融合である ( 中略 ) つまり 日本語教育スタンダードとは 日本 語学習者が日々どのような 言語活動 タスク を遂行し それらがどのような日本語 の 語彙 文法 によって支えられているのか ということを明らかにしたものであり また 同時に どのような 語彙 文法 によって どのような 言語活動 タスク を遂行することが可能なのかを示すものである ( はじめに p. 3) 本研究で作成を試みる日本語教育語彙表もこれと同じ立場に立つ つまり 単純に学習語 彙を五十音順に並べて提示するのではなく 例えば スポーツについて話したい 流行 のファッションについて話したい 旅行について話したい といったような学習者が必要 とする言語活動を達成するために どのような実質語が必要かということが明らかになるよ う語を提示する 本稿では 言語活動を構成する要素のうち とくに実質語と関連の深い 話題 1 をまずリストアップし その 話題 を支える語彙を明らかにした語彙表を最終 的に作成する なお あらゆる学習者に対応しうる 日本語教育スタンダード を考えた場 合 話題の 網羅性 も重要になってくる したがって 目指す語彙表の 話題 は 様々 な話題を広くカバーしたものでなければいけない また 同じくあらゆる学習者に対応する ためには 語彙表に収録する語数も できるだけ多くしておく必要があるだろう 2 4 主観的分類による話題別語彙表 前節で提案した話題別の語彙表を作成する場合 それぞれの語をどのように話題に分類するかが重要となってくる 本節では まず 語を作成者の主観で話題別に分類した語彙表について紹介する 橋本 (2008b) は 日本語教育版分類語彙表 と題して 16 の 分野 と その下に 100 の テーマ を独自に設定し 出題基準 に掲載されている約 8,000 語を主観によって それぞれのテーマに分類したものである 表 1 が設定した話題 表 2 が分類の例である ( 次ページ ) 日本語教育版分類語彙表 という名前は 国立国語研究所 (1964) の 分類語彙表 に倣ったものであるが 語の分類にあたって 分類語彙表 の分類枠 分類番号をそのまま採用したわけではない 分類語彙表 ( 元版 ) の まえがき には次のような記述がある (pp. 6-7) 一つの項目に収めたのは同義類義の語の群であって 自由連想による語群ではないことである ( 中略 ) たとえば < ビール > については 飲酒行動に関連して 酒 スタウト ウイスキー 飲む 酔う 一杯 あわ ジョッキ コップ ほろにが ホップ 赤ら顔 ビヤホール 等々が連想されるであろう ( 中略 ) 連想語群をとらえることも 104

115 語彙論上の大切な仕事であると思われるが ここでは < ビール > をただ 酒 ウイスキー スタウト とグループをなすものとして扱い 飲む や ビヤホール との関係を断ったのである 話題 で分類する場合は 分類語彙表 では扱われなかった 酒 スタウト ウイスキー 飲む 酔う 一杯 あわ ジョッキ コップ ほろにが ホップ 赤ら顔 ビヤホール を同じグループとして扱うことが望ましいと考え 独自に 100 の 話題 を設定することにした 3 表 1 話題一覧 ( 橋本 2008b) 1. 文化 2.15 悩み 5.7 芸術一般 10. 産業 13. ヒト 生き物 1.1 文化一般 2.16 死 5.8 趣味一般 10.1 工業一般 13.1 人体 1.2 食 3. 人間関係 5.9 コレクション 10.2 自動車産業 13.2 医療 5.10 日曜大工 10.3 重工業 美容 健康酒 3.1 家族 5.11 手芸 10.4 軽工業 機械 動物ファッション 3.2 友達 5.12 ギャンブル工業 13.5 植物 1.5 旅行 3.3 性格 1.6 スポーツ 3.4 相手への感情 5.13 遊び ゲーム 10.5 建設 土木 14. 自然 1.7 建築 3.5 容姿 6. 宗教 祭り 10.6 エネルギー 14.1 気象 10.7 農林業 1.8 言葉 3.6 人づきあい 6.1 宗教 14.2 自然 地勢 10.8 水産業 1.9 文芸 出版 3.7 喧嘩 トラブル 6.2 祭り 14.3 災害 1.10 季節 行事 3.8 マナー 習慣 7. メディア 11. 社会 14.4 環境問題 2. 人生 生活 4. 教育 学問 7.1 メディア 11.1 事件 事故 14.5 宇宙 2.1 町 4.1 学校 ( 小中高 ) 7.2 芸能界 11.2 差別 15. サイエンス 11.3 少子高齢化 2.2 ふるさと 4.2 学校 ( 大学 ) 8. 通信 15.1 算数 数学 11.4 社会保障 2.3 交通 4.3 成績 15.2 サイエンスコンピューター福祉 2.4 日常生活 4.4 習い事 15.3 テクノロジー 2.5 家電 機械 4.5 試験 8.1 通信 12. 政治 16. 歴史 2.6 家事 4.6 調査 研究 8.2 コンピューター 12.1 政治 16.1 歴史 2.7 パーティー 5. 芸術 趣味 9. 経済 消費 12.2 法律 2.8 引越し 5.1 音楽 9.1 買い物 家計 12.3 社会運動抽象的関係を 2.9 各種手続き 5.2 絵画 9.2 労働 12.4 選挙表す語 2.10 恋愛 5.3 工芸 9.3 就職活動 12.5 外交 2.11 結婚 5.4 写真 9.4 ビジネス 12.6 戦争 2.12 育児 5.5 映画 演劇 9.5 株 12.7 会議 2.13 思い出 5.6 芸道 9.6 経済 財政 金融 2.14 夢 目標 9.7 国際経済 金融 9.8 税 表 2 日本語教育版分類語彙表 の例 ( 橋本 2008b より抜粋 ) テーマ 細目 4 級 3 級 2 級 1 級 文化一般 文化 風俗 慣習 慣行 風習 食 昼御飯 朝御 お昼 ランチ 昼食昼飯 食事 飯 晩御飯 夕飯 お弁当飲む 食べる 召し上がる 食事 食う 噛む かじる なめる 飲み込む 噛 飲食 吸う する 含む しゃぶる 味 み切る わう 吐く かぐお代わり 食欲 食欲すく飢える ぺこぺこ 空腹 105

116 ジャンル西洋和 ~ ~ 風洋風 和風 洋 ~ 料理 主食 おかず 汁 実 カレー パン サラダ サンドイッうどん スープ そライス 粥 梅干料理名御飯チ ジャム ステば 刺身ーキ ハンバーグ 5 大規模コーパスを用いた話題別語彙表の提案 第 3 節で述べたとおり 日本語教育スタンダード のための語彙表は その網羅性も重要になってくる すなわち さまざまな 話題 を網羅し 初級から超上級にまで対応し得るよう 多くの語を分類 収録したものでなければいけない したがって 主観に頼るだけでなく 大規模な均衡コーパスなどを利用し 統計的な手法で語を抽出する方法も考える必要がある 本節では 大規模コーパスを利用した話題別分類語彙表の作成方法について提案する 5.1 話題特徴語抽出のための統計指標 ここでは それぞれの話題を特徴づける語を抽出するための客観的な指標として 対数尤度比 (log-likelihood ratio LLR 値 ) を用いる 特徴度を出す統計指標はいくつか提案 検討されているが ( 内山他 2004) 対数尤度比は テクストサイズが小さくても妥当な値を示すとされており 大学英語教育学会作成 (2003) の JACET List of 8000 Basic Words の特徴語抽出や コンコーダンスソフト Word Smith などのキーワード抽出に使用されている LLR 値は以下の分割表と計算式で求められる 対象 参照 LLR = 2(alog(a)+blog(b)+clog(c)+dlog(d) コーパス コーパス -(a+b)log(a+b)-(a+c)log(a+c) 単語 W a b a+b -(b+d)log(b+d)-(c+d)log(c+d) 単語 W 以外 c d c+d +(a+b+c+d)log(a+b+c+d)) a+c b+d a+b+c+d この方法では 特定の話題のサンプル群 ( 対象コーパス ) での使用頻度と それ以外のサンプル群 ( 参照コーパス ) での使用頻度を比較し 特定の話題で有意に高頻度である語を抽出することができる 本研究ではこの有意に高頻度である語を その話題の 話題特徴語 とする 5.2 データ 現代日本語書き言葉均衡コーパス 本研究では 特徴語抽出のためのデータとして 現代日本語書き言葉均衡コーパス (Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese; 以下 BCCWJ) を用いる BCCWJ は 2006 年から 5 年間の計画で国立国語研究所が中心となって構築しているコーパスである 書籍を中心に 新聞 雑誌 広報誌 Web 掲示板等などの書き言葉からサンプルを集め 総語 数 1 億語を目指している ( 詳細は 参照 ) 本稿では 構築中のデータのうち プロジェクト内で配布されている 2008 年度版領域内公開データ の中の 書籍データだけを対象として調査を行った 106

117 5.3 話題 食 の特徴語 表 1 で提案した 100 の話題の中から 食 という話題を例にとり 5.1 で示した方法により 話題特徴語を抽出する 手順は以下の通りである (1) サンプル群の選定 話題 食 と NDC との対応本研究では 特徴語を抽出する対象コーパスとして 書籍サンプルのうち 食 の話題 について書かれたものを対象とすることにする その該当する書籍の選定方法として BCCWJ の各データに付された書誌情報を利用する BCCWJ では すべてのサンプルに 書 誌 ID タイトル 出版社 ジャンル などの書誌情報データが付されている このうち 書籍データの ジャンル には NDC 記号 ( 日本十進分類法 ;Nippon Decimal Classification) が宛てられている NDC 記号は 主題 ( 作品の中心となる思想や 描こう 4 とする主要な題材 ) により分類され付された記号で 表 3 話題 食 のサンプル 本研究で行う話題分類とほぼ同じものであると考える 日本十進分類法 (NDC) サンプル数 ことができる したがって ここでは 表 1 の 100 の 飲食史 28 話題を基準とし それに NDC 記号を対応させる な 食品. 栄養 23 お BCCWJ の書誌情報では NDC は第 3 次区分 ( 上 588 食品工業 5 位 3 桁 ) までしか示されていないため のよ 596 食品. 料理 園芸利用 0 うなものは 書名を見て該当するものを抜き出す 本 懐石 0 稿で特徴語抽出を行う 食 に対応する NDC 記号は合計 144 表 3 の 6 種類 ( うち 2 種類は該当サンプルなし ) であり 合計 144 のサンプルが対象となる (2) 語彙頻度表の作成語の対数尤度比を算出するには 対象となるコーパスにおける度数と それと比較する ための参照コーパスにおける度数が必要となる 本研究では 対象コーパスを (1) で選び出した 食 のサンプル 参照コーパスを BCCWJ 全書籍サンプルのうちの 食 以外のものとし それぞれのコーパスで出現する度数を求め 語彙表を作成する ここでは 形態素 解析辞書 UniDic-1.3.9(MeCab 版 ) を用い形態素解析を行い 語彙頻度表を作成した なお 今回の語彙リストは収録語を実質語に限定するので 語彙頻度表から機能語 ( 助詞 助動詞 ) および記号類を除外した その結果 延べ語数は 食 で 246,303 語 食 以外 で 22,720,866 語であった (3) 対数尤度比の算出 (2) で作成した頻度表をもとに対数尤度比を算出する 結果 (LLR 上位 100 位まで ) を次ページの表 4 に示す (4) サンプル数 1 の削除 NDC は書籍そのものにつけられた記号である 従って BCCWJ のサンプリング箇所によっては 必ずしも NDC と内容が一致しない場合もある よってその対処法として たとえ LLR の値が高くても一つのサンプルにしか出てこないものは削除する 具体的には 表 4 の上位 100 位までの中では 66 位の グルコサミン が 一つのサンプルにしか出てこなかったものであるため 除外の対象となる 107

118 表 4 話題 食 特徴語 ( 対数尤度比上位 100 位 ) 順 食 食 以語位頻度外頻度 対数尤度比 1 塩 料理 食べる 大匙 入れる 加える 炒める 混ぜる 鍋 材料 煮る グラム 食品 食 醤油 切る 胡椒 味 作る バター 玉葱 油 粉 茹でる 調味 切り 野菜 美味しい 皮 焼く 食材 人参 葱 分 胡麻 ジャガ芋 キロカロリー 小匙 フライパン 肉 粥 油 水気 食塩 味噌 大蒜 酢 サラダ 汁 水 順 食 食 以語対数尤度比位頻度外頻度 51 御飯 豆腐 一 ソース 生姜 酒 微塵 大根 熱する シェフ 脂肪 寿司 トマト 盛る 加熱 グルコサミン 食べ物 オーブン 器 包丁 唐辛子 スープ 砂糖 パスタ 卵 チョコレート キャベツ 出し汁 酸 下拵え 弱火 オリーブ 中火 使う 豚肉 レモン ボウル めん 組み替え 量 少々 摂取 混ぜ合わせる 香り 揚げる チーズ 豚 大豆 鰹 零 話題別語彙表の実用化のために 108

119 前節で抽出した話題特徴語をさらに意味分類別 レベル別に分けたものが表 5 である こうすることによって さらに教育現場で使いやすいものとなる レベル分けについては 今回は試みとしてコーパスでの出現頻度をレベルと見立てて 7 レベルに分けているが 親密度調査の結果などを用いて分けることも可能であろう コーパスにおける単純な出現頻度や親密度を 重要語とすることの危険性は従来から指摘されていることではあるが 本稿で行なったように 語を話題に分類した後 さらに意味分類を行ないグルーピングすることで 単純な頻度順の語彙表に比べ 遺漏語や追加候補語の発見も可能となり 語彙表の改訂も行ないやすくなる 表 5 食 の意味別 レベル ( 頻度 ) 別語彙表 1~ 1,001~ 3,001~ 6,001~ 10,000~ 13,000~ 16,000 ~ 1,000 位 3,000 6,000 10,000 13,000 16,000 20,000 食 食 料理 料理 食べ物 料理名 御飯汁 スープ 寿粥 ~ 漬け パス漬け物 玄薬膳 塩司 サラダタ米辛 飲食 食べる 味 味 香り風味甘み 旨み美味しい 食材 材料 食品 素材 原料 食材 野菜 葉 豆 人参 トマト 大蒜 生姜 葱 野菜 玉葱 ジャガ芋 オリーブ レモ大根 大豆ン キャベツ 皮 肉 魚 魚 鳥 肉 豚 牛肉 豚肉 鮭 鯖 鶏肉 挽き肉 卵 卵 鰹 加工品 豆腐 チーズ 菓子類 チョコレート 成分 脂肪 ~ 酸 栄養 摂取する 水 水分 水 水気調味 ( 料 ) 調味料 酒塩 ~ 酒 味噌 醤油 バタ酢 唐辛子出し汁油 粉ー 胡椒 ソー 調理法 ス 砂糖 使う 作る 掛 乗せる 焼く 茹でる 混ぜる 熱する 加熱す 混ぜ合わ ける 入れる 煮る 盛る る 揚げる せる 切る 加える ~ 切り 微塵 下拵え 弱火鍋大匙 器 包丁フライパン オー小匙 ボウ調理器具ブンル量量 ~グラム ~キロカロリー 職業 少々 6 まとめ 今後の課題 シェフ 第 5 節で試作した語彙表は 書き言葉コーパスのみを利用したもので データの偏りについての批判が当然考えられる 書き言葉コーパスの使用に限らず 最終的にどのようなコーパスを用いても語の漏れや偏りは避けることができない 教育語彙表の作成で重要な 中火 109

120 ことは 大規模コーパスなどからの客観的データと 教師の経験や直観をいかにうまく融合させることができるかという点であろう 5.4 で述べたとおり 話題別の語彙表にすることは 語彙表の改訂を行ないやすくすることでもあり 今後 より精度を高めていきたい 最後に 本稿で触れていない どの話題にも出てくる語 について述べておく 実質語の中には ある 出る 大きい などのように話題に関わらず使用される語がある 5 これらの語は どの話題においても 話題特徴語 として上位に上がってこない語である したがって 最終的にすべての話題の特徴語を抽出した後で 大規模コーパスでの頻度上位語の中から これらの 非特徴語 を拾い上げ 話題特徴語 とは別に語彙表に組み入れることを考えている 注. 1 実質語 と 話題 の関連については 橋本 (2008a) を参照 2 このような観点の語彙表として Profile Deutsch の テーマ別語彙 ( Thematischer Wortschatz) を挙げることができる Profile Deutsch は 能力記述文だけでなく 言語形式にも触れており テーマ別語彙 では 語を 15 のテーマに分類し 提示している 3 柏野 (2006) では 分類語彙表 のようなものを 属性分類 とし 語が本来もつ性質によって分類すことを優先する分類 と定義している それに対し ある主題のもと関連する語を集めて分類することを優先する分類 を 主題分類 としている 4 角川書店 (1982) 図書館用語事典 より 5 ただし どの話題にも出てくる語 がすなわち教育基本語彙というわけではない 食べる な どの基本的な語が 食 という特定の話題において使われることからも明らかである また 話 題特徴語が特定の話題にしか使われないからといって 特異語 だというわけではない < 参考文献 > Müller, M. &Wertenschlag,L. (2005) Profile deutsch, Langenscheidt. 内山将夫 中條清美 山本英子 井佐原均 (2004) 英語教育のための分野特徴単語の選定尺度の比較 自然言語処理 11 巻 3 号, pp , 自然言語処理学会. 柏野和佳子 (2006) 分類語彙表 の特徴と位置付け 日本語科学 19, pp , 国立国 語研究所. 国際交流基金 日本国際教育支援協会 (1994) 日本語能力試験出題基準 改訂版 凡人社. 国立国語研究所 (1964) 分類語彙表 ( 国立国語研究所資料集 6) 秀英出版. 大学英語教育学会基本語改訂委員会 ( 編 )(2003) 大学英語教育学会基本語リスト JACET List of 8000 Basic Words. 橋本直幸 (2008a) 日本語教育における 話題 の扱い 人文学報 398 号, pp , 首都大学東京都市教養学部 人文社会系, 東京都立大学人文学部. 橋本直幸 (2008b) 日本語教育版分類語彙表 作成の試み, 山内博之 ( 編 ) 日本語教 育スタンダード試案語彙, pp. 9-91, ひつじ書房. 山内博之 ( 編 )(2008) 日本語教育スタンダード試案語彙 ひつじ書房. 付記 : 本研究は 文部科学省科学研究費特定領域研究 代表性を有する大規模日本語書き言葉コーパスの構築 :21 世紀の日本語研究の基盤整備 ( 日本語教育班 ) の成果の一部である 110

121 CEFR 1 能力記述文のレベル別特徴とキーワード 福島青史国際交流基金ブダペスト日本文化センター要旨本稿では CEFR を参照した共同作業を簡便にするため CEFR に現れる A1 から C2 までの六つのレベルを 機能 行動から考察し 各レベルの特徴とキーワードを探った CEFR の特徴は 社会参加 自己表現 という二つの行動を 言語 談話能力 が支えとなって 使用領域の拡大 正確さ 流暢さの獲得 扱う言語単位の拡大など談話管理能力の精緻化に導くという形になっている これは社会的存在としての個がコミュニケーションをとりながら 一個の個性を持つものとして社会参加を果たしていく過程が示されていると言っていい このモデルは欧州評議会が掲げる五つの理念 ( 言語多様性 複言語主義 民主的シティズンシップ 社会的一体性 相互理解 ) に基づいており EU という新しい次元における 共に生きる方法 としての複言語主義の実現を目的と合致している 欧州における言語教育を考える際には この文脈を考慮に入れる必要がある キーワード CEFR 例示的能力記述文 can-do statements 複言語主義 キーワード 1 背景 国際交流基金ブダペスト日本文化センターは 2007 年度より日本ハンガリー協力フォーラムの 日本語教育促進事業 の一環として 日本語教材作成プロジェクトをハンガリー日本語教師会の協力を得て実施している 本教材は CEFR を参照し 学習者の 一般的能力 および コミュニケーション能力 双方の能力育成を目的にしており CEFR 第四章にあるコミュニケーション言語活動の例示的能力記述文 (illustrative descriptors) を参考にしてシラバスを組んでいる 報告者はシラバスデザインを担当しており シラバスに採用した能力記述文を執筆者に説明したり 執筆者が作成した草稿を編集する作業を担当している その際に能力記述文と 教材の内容 活動との関係を調整するため 能力記述文が持つ特徴を捉えておく必要性が生じた CEFR はその特徴として 包括的 明確 一貫性 を挙げているが (CoE:7) その特徴がゆえに複雑になっている Martyniuk & Noijons(2007) も CEFR の難解さにより教師への普及が遅れていることを指摘し ユーザーフレンドリーである媒介物の開発の必要性を述べている (p.8) 本稿は作業者相互の共通理解を促進するため CEFR のレベル間の特徴をキーワードにより表し CEFR の全体像をコンパクトな形で作業者に提示する方法を探った 2 方法 レベルの特徴とキーワードを検出するため 二つの方法を使った 111

122 一つ目は CEFR の 3.1 共通参照レベルの内容の一貫性 (pp.34-36) と North(2007) を元に 能力 機能の特徴から 社会参加 自己表現 言語 談話能力 という三つのカテゴリーを求め各レベルの特徴をまとめた 二つ目は量的方法を用い CEFR に挙げられた例示的能力記述文のうち 4.4 コミュニケーション言語活動と方略 にある記述文 365 を対象に形態素解析を行い A1-C2 のカテゴリーと出現する語の関係を共起係数を用いてあらわした これにより各レベルのキーワードを割り出し 上記の特徴との関係を考察した 以下 結果につき報告する 3 各レベルの特徴 各レベルの特徴は Council of Europe(2001:34-36) の 3.1 共通参照レベルの内容の一貫 2 性 と North(2007:24-25) の Salient feature of the levels を参考に 能力 機能と具体例を抜き出した 筆者は能力 機能をインデックスとし レベル別の機能的特徴を 社会参加 自己表現 言語 談話能力 という三つのカテゴリーに分けた ( 表 1) 表 1 共通参照レベル特徴 能力 機能 カテゴリー A1 自分自身に関わること社会参加 A2 A2+ B1 社会的な機能に関わる記述旅行 外出会話への積極的な参加 ( 援助が必要で 限界あり ) 一人で話し続ける能力会話を維持し コンテクストに応じて言いたいことを分かってもらう能力日常生活での問題に柔軟に対応できる能力 社会参加社会参加言語 談話能力言語 談話能力自己表現社会参加 B1+ 情報交換の量に焦点を当てた能力記述が数多く付け加えられる言語 談話能力 効果的論述 自己表現 B2 社交的な談話の中で自分の立場を守る言語 談話能力 B2+ 高い言語意識 ( 感覚 ) 会話の管理 ( 協調の方略 ) 一貫性や結束性 言語 談話能力 言語 談話能力 言語 談話能力 C1 流暢でよく構成された言語言語 談話能力 C2 言葉の正確さ 容易さ言語 談話能力 112

123 社会参加 とは社会的存在としての行為者が言語を使って生活ができるようになること 自己表現 とは自己と他者との意見の違いに立脚して自己を表現すること 言語 談話能力 とは主に言語 談話をコントロールする能力である 大きく見ていくと A1 から B1 にかけて 社会参加 ( イタリック ) の記述が多く B1 から B2 は 社会参加 に加えて 自己表現 ( ゴシック ) が加わり C1 から C2 は高度な 言語 談話能力 が続く A1+ B1+ B2+ など + がつく項目はレベルをまたぐ機能拡大のために必要な 言語 談話能力 の記述となっている これを図で示すと図 1 のようになる 図 1 参照レベル概念図 図 1 にあるように CEFR のレベル別の特徴は 社会参加 自己表現 という二つの行動を 言語 談話能力 が支えとなって 使用領域の拡大 正確さ 流暢さの獲得 扱う言語単位の拡大 ( 語 文 段落 複段落 ) など談話管理能力の精緻化に導くという形になっている 以下 レベル毎に機能とその具体例を挙げその特徴をみる A1 は 社会参加 の第一歩として 自分自身に関すること という領域が設定されている 具体的には 簡単な方法で会話をすることができる 自分自身について 質問をしたり 答えたりすることができる 直接必要のある分野において他人の発言に反応することができる など領域範囲は小さい A2 は 社会的な機能に関わる記述 旅行 外出 という二つの 社会参加 の機能が加 わる 前者は 人に挨拶する 機嫌 調子を聞いたり ニュースに反応する 社交的な短 いやり取りを交わす 何をすべきか どこに行くべきかを議論して 会う約束をする 後者は 店 郵便局 銀行で簡単な取引をする 旅行の簡単な情報を手に入れる である この A2 の段階では問題が生じない限り生活を送る程度の社会参加が可能となる 113

124 A2+ は 会話への積極的な参加 ( 援助が必要で 限界あり ) 一人で話し続ける能力 という二つの 言語 談話能力 に対する記述がみられる 前者は 単純で相手の数が多くなく 面と向かっての会話なら 始めることも続けることも終わらせることもできる 簡単な日常のやり取りを何とか維持するだけの理解はできる もし必要な場合に相手が助けてくれるなら 日常的な身近な話題についての考えや情報を理解し 交換もできる 後者は 簡単な言葉で自分がどのように感じているかを表現する 人々や場所 仕事 学習経験などの毎日の周りの事柄について幅広い説明をする 出来事や活動の要点を簡単に話す である 主に談話の維持と 感情 説明 要点 など より複雑な談話が構成できるようになり B1 につなぐレベルとなっている B1 は 日常生活での問題に柔軟に対応できる能力 という 社会参加 の項目に加えて 会話を維持し 言いたいことを分かってもらう能力 という 自己表現 という機能が加 わる 前者は 実際に旅行をしている場合に起こりそうな状況に対応する 身近な話題な ら準備していなくても会話に入ることができる 後者は 個人的な見方や意見を表明した り 要求できる 分かって欲しいことの要点を表現できる 特に自由に長く話す時に 休止が明らかに見られるが 話を続けることはできる となっている 社会参加 の機能 については A2 までの機能に加えて起こりうる問題に対処できるようになることにより そ の社会で生活ができるようになるものと思われる この機能に加えて 自己表現 という機 能が加わるのがこのレベルの特徴である B1 では生活をするだけではなく 社会に個性を持 った存在として主張ができるようになってくる B1+ は 情報交換の量に焦点を当てた能力記述 という 言語 談話能力 が加わる 具体的には 要点をメモにできる 正確さには限界があるが 必要な具体的情報を与える 問題の理由を説明する 要約し 自分の意見を提示し 詳細について質問に答える というように 情報量の拡大に伴う談話能力が問われるとともに B2 に向けて 意見の理由 などが加わっている B2 は 効果的論述 という 自己表現 と 社交的な談話の中で自分の立場を守る 高い言語意識 ( 感覚 ) という二つの 言語 談話能力 に分かれる 自己表現は 意見 の補強 維持のために重要な説明 根拠が提示できる さまざまな観点から長所と短所を 示して 問題に関する見解を述べる であり 言語 談話能力 の前者は 自然に流暢に 会話を交わし 母語話者と普通の会話ができる 話題転換 文体 力点の変化に合わせら れる 後者は お得意の間違い を覚えておいて 会話での間違いをしないように意識 する となっている B2 段階では言語の質の深化と それに伴う言語機能の拡大が起こる B1 にあった制限が消え 実質 社会的な機能は果たせるようになる B2 の時点で特徴的な のは議論の機能 つまり 自分の意見を維持 発展できるだけでなく あるテーマに対する 複数の視点の管理技能が注視されている点が挙げられる B2+ は 会話の管理 ( 協調の方略 ) と 一貫性や結束性 という二つの 言語 談話能 力 が挙げられている 前者は 感想を言う 発言を補完する 他の話し手の発言を配慮し 議論の発展に寄与できる 他の話し手の発言に自分の発言をうまく関連づける であり 後者は 結束表現を上手に使って文をつないで明快な談話にまとめる 重要な論点とそれ を支える論拠を強調しながら 体系的な議論を展開する である B2+ 以上は 言語 談話 能力 の記述しかなく 技術的な要素を拡大していくことでより高度 複雑な状況での 社 会参加 自己表現 という活動を支えていくようである 複雑な議論を実現するために複 数の視点を念頭に自己の視点を維持しながら 拘束性のある言葉を効率 114

125 よく使えるようになる また 読む 書くなどで社会的な規格にあったフォームや文体などについての意識が生まれるようになる C1 は 流暢でよく構成された言語 という 言語 談話能力 が挙げられる 言い換 えによって 欠けたところを十分補えるだけの豊富な語彙 ほとんど苦労しないで流暢に 自然に自分を表現できる 構成がはっきり分かるような文句や接続表現 結束表現をうまく使いこなしながら はっきりとしたなめらかな メリハリのある話ができる など 表現 の精緻化の段階に入ったように思われる B2 までは場面 話題について個人の関心の範囲 内であったが それを離れてより広い分野 複雑なものまで扱えるようになる C2 は 言葉の正確さ 容易さ という 言語 談話能力 が挙げられる 具体的には いろいろな表現の可能性を駆使して細かい意味のニュアンスを正確に伝える 強調したり 変化をつけたり 曖昧さをなくすために さまざまな言語形式を使って 発言を言い直す大きな柔軟性がある という能力で 言葉のニュアンスにまで配慮できる高い能力の獲得とそれに伴い母語話者等に交じっても差が認められなくなる無徴化の段階でもある C1 から C2 の差は 質的 効果の深化 豊饒化であるが 能力記述文には C1 と C2 は機能が同じという箇所が数多く現れるように 社会的な機能の面ではすでに C1 レベル以上で十分果たせる項目もある 以上が 各レベルの特徴であるが これらの記述的特徴をコンパクトにまとめるために 図 2 のように A レベル B レベル C レベルの三つのコラムに分けて レベル別特徴とその具体例を1 枚の紙にした 図 1 の概念図と合わせて感覚的にも記述的にも CEFR の包括性 一貫性が理解できるように心がけた 図 2 レベル別特徴 4 キーワードの検出 - 量的検証 - 以上の各レベルの特徴を各レベルのキーワードを検出することで検証 補足をする 対象と した例示的能力記述文は CEFR 4.4 コミュニケーション言語活動と方略 にある記述文 365( 内訳 相互行為活動と方略 102 受容的活動と方略 86 相互行為活動と方略 3 177) この 365 の記述文 459 の文から 形態素解析を行い する できる ある と否定助動詞 ( ~ ない ぬ など ) を除いた 10,035 語 ( 異なり語数 1,217 語 ) を得た 本稿では A2.1 A2.2 などの下位区分はすべて A2 など上位区分として分類し 分析の単位は文ではなく ひとつの記述文とした 量的方法によるレベル別キーワードの検出には方法には形態素解析ソフト 茶筅 をベースとした文書分析ソフト KH Coder 4 を利用した 関連語検索 ツールを利用し 共起尺度の一つである Jaccard 係数を用いた 共起尺度とは複数の条件を同時に持つ程度のことで Jaccard 係数は以下のように求められる X と Y という条件の単独での出現数を X Y どちらか一方が出現した回数を X Y 両方が出現した回数を X Y とすると Jaccard 係数は X Y / X Y で求められる 本研究では 記述文一つについて 1A1-C2 の条件付けと 2 ある特定の語を含んでいる 115

126 という二つの条件で算出した 例えば A1 と ゆっくり については以下のように求められる X :A1 である = 31 ケース Y : ゆっくり という語を含む = 20 ケース X Y :A1 であり かつ ゆっくり という語を含む = 9 ケース X Y :A1 である または ゆっくり という語を含む = =42 Jaccard 係数 9 42= 以下 1217 語とレベル別の共起状況を調べると表 2 のようになる 表 2 レベル別キーワード ( 右数値は Jaccard 係数 ) A1 A2 B1 B2 C1 C2 ゆっくり 簡単 話題 議論 複雑 複雑 短い 日常 0.2 自分 理解 展開 口語 表現 短い はっきり 自分 詳細 文体 0.15 指示 情報 情報 話 長い 適切 簡単 必要 身近 関連 明瞭 母語 注意深い 求める 説明 0.12 詳細 抽象 明瞭 質問 0.12 質問 問題 0.1 視点 話題 構造 向ける 仕事 0.09 相手 分野 専門 構成 必要 0.1 身近 意見 説明 容易 かなり 名前 直接 0.08 議論 意見 理解 0.1 引く A1( 文書数 31) のキーワードは ゆっくり 短い 簡単 など言語形式 内容の単純さである また A1 に 指示 という語は 5 回出現するが その述語のすべてが 理解できる 質問 では 6 回のうち半数が 理解できる となっており 受け身的な主体像が浮かび上がる 本稿 3 の 自分自身に関すること という特徴と考え合わせると 社会参加 の機能も限定的なものであることが分かる A2( 文書数 96) も 簡単 短い など言語形式の単純さについては A1 との連続性があるが 日常 仕事 身近 な領域に関するキーワードも現れ 領域に広がりがみられる A1 のキーワードであった 質問 についても A1 とは違い 答える 対処する などの述語が続いており 能動的な活動も可能となる B1( 文書数 96) ではでは 自分 説明 意見 議論 というキーワードが現れることから 本稿 3 で述べた 自己表現 がこのレベルの特徴となることが分かる ただし B2 が他者との関係性に配慮ができるレベルであるのに対し B1 では自己の意見を言う段階にとどまっており その範囲についても 身近 なものであることがキーワードからうかがえる B2( 文書数 81) では 自己表現 の中に相手との関係が重視される その結果 議論 説明 意見 などと並んで 視点 というキーワードが現れる また B1 と違って 詳細 な变述など言語面でも複雑な場面 分野についても対応できるようになっている C1( 文書数 36) は精緻化の段階である この段階になると 複雑 詳細 長い 抽象 的な談話 話題であっても 明瞭 容易 に操作できる段階となる また 操作する言語単位が大きくなるにつれて論の 展開 が重要な要素となってくる 116

127 C2( 文書数 19) においては程度の高い 口語 や慣用表現を駆使し 文体 文学 などのニュアンスにも配慮しながら 明瞭に 流れる すらすら とした言語操作が可能となる その結果 母語 話者にも 引け をとらなくなる 以上の通り 能力記述文のキーワードも本稿 3 の特徴を裏付けており CEFR のレベルのイメージを形成するのに有効であると思われる ただ 筆者は CEFR の単純化を期待しているわけではなく 図 1 図 2 表 2 を参考にして 改めて CEFR 本文を読み 自らの文脈にあわせて参照が必要であることは強調しておく 5 まとめ :CEFR の特徴と欧州の言語教育 以上 CEFR の能力記述文を手掛かりに各レベルの特徴とキーワードを示した 本節ではこの特徴と欧州評議会の理念との関係を記して本稿のまとめとしたい 能力記述文を各レベルに沿って段階的にみると 社会的存在としての個がコミュニケーションをとりながら 一個の個性を持つものとして社会参加を果たしていく過程が示されている A1 においてはまだ受け身的ではあるが社会参加を始め A2 になると相互的なやりとりもできるようになり 特別な問題や予期せぬ状況を除いては社会に参加できるようになる A1 A2 までは公的領域で買い物やサービスをうけるなど 話者の個性よりも社会的機能に重点が置かれたが B1-B2 は自分の考え 意見などを表出し その考えを複数の視点から評価する能力が求められるようになる 個の主張とともに他者との共存が課題になるといえる C1 からはより複雑な社会的関係を構築するための言語 談話能力の精緻化が行われ C2 になると外国語による社会参加における異質性 外国人性はなくなっていく このように CEFR の記述文においては ひとつのモデルとして社会的存在としての行為主体が 社会参加 や 自己表現 という行為を通じて 生活する社会環境と関係を形成し 参加の度合いや形態により より複雑な関係 状況 領域に対応するために必要な 言語 談話能力 が習得できるよう Can-Do の形で示されている この 共に生きる 方略ともいえるモデルは欧州評議会の理念が反映されており 欧州での言語教育を考える際に重要であると考える 欧州評議会言語政策部門には 言語多様性 複言語主義 民主的シティズンシップ 社 会的一体性 相互理解という五つの理念が掲げられており CEFR ELP をはじめとする 言語教育の道具はこれらの理念を実現するものとして開発された EU が統合し人の移動 が促進される中で移民問題とそれに伴う格差 不平等は現実的な問題となっており CEFR にはこれらの問題に対応するための理念的な機能と 技術的な機能がある 国境を超える 際の現実的な言語的 社会的困難さは能力記述文に現れる 母語話者 という用語の使用 にも現れる 母語話者 は能力記述文には出現数 12 回で B2 に 8 回 C2 において 4 回 である B2 では 母語話者との議論に上手に加われない 母語話者との議論に加わるのは難しいが 母語話者を相手に お互い緊張を強いることなく 母語話者との対話 でも 相手を不用意に苛つかせたり 可笑しがらせたりすることなく 母語話者との会 話についていく 理解できる (2) と記述される すでに自己表現能力がつき始めた B2 段階でも 母語話者は議論が難しく 時には苛ついたり 可笑しがるような言語的強者 として描かれている C2 では 理解できる (2) 母語話者と引けを取らず (2) とな っており C2 になって言語的強者である母語話者と対等になる 国境を超える行為は国家 内 地域内 集団内で主要な言語を母語として持つ人間 あるいは言語集団といかなる関 117

128 係を持つのかという現実的な問題がある 言語の習得とその精緻化はこのような現実的な言語問題を解消する一つの手段として考えられるだろう 一方で言語教育には EU が掲げる理念を教育する機能もある Byram & Beacco(2007) は言語の能力的教育の側面だけでなく 理念的教育な側面を挙げ 価値としての複言語主義 (Plurilingualism as a value) と呼んでいる 理念教育としての言語教育は民主的シティズンシップを形成するにも欠かせない機能であると考える 例えば本稿で見たような B1 以降の意見 議論の重視や 視点の複合化などは 他者との共存 協力する方略として理念的な性格を持っている このような機能は移住先の言語を学習するマイノリティだけではなく 移動しないマジョリティも同様に身につけるべき理念であるだろう Byram & Beacco(2007:18) が 複言語主義 複言語教育の目標は共に生きる方法としての複言語能力と異文化間教育の開発である と述べているように 言語教育は多言語状況の利害関係の中を生きる術としてある 欧州で言語教育を考え 能力記述文を参照する際 この理念を考慮に入れる必要があると考える 注. 1 本稿では Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment を CEFR と略し 引用は吉島 大橋 (2004) の日本語訳によった 2 この二つの文献での記述内容はほとんど同じであるが North のほうが簡潔に能力 機能とその具体例が示してある 本稿では North をモデルにし 記述がない個所について CEFR を参照しリストを完成させた 3 記述文には一文以上で記述されているものもあり 記述文の数と文の数がずれている 4 最終閲覧日 :2010 年 3 月 1 日 ) < 参考文献 > 吉島茂 大橋理枝他 (2004) 外国語教育 II 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 朝日出版社. Byram, M., & Beacco, J. C. (2007) Guide for the development of Language Education Policies in Europe, Executive version, (Revised edition). Strasbourg: Council of Europe. Council of Europe (2001) Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment. Cambridge: Cambridge. Martyniuk, W., & Noijions, J. (2007) Executive summary of results of a survey on The use of the CEFR at national level in the Council of Europe Member States. Strasbourg: Council of Europe. North, B. (2007) The CEFR Common Reference Levels:Validated reference points and local strategies. The Common European Framework of Reference for Languages and the development of language policies: challenges and responsibilities: pp Strasbourg: Council of Europe. 118

129 J-CAT(Japanese computerized adaptive test) の得点と Can-do スコアの関連付け 今井新悟山口大学要旨本研究では受験者自身の Can-do 記述の判定とテストの得点との関連付けを行い テスト得点が意味する能力を具体的 明示的に示すための方法を示す 本研究の対象とするテストは J-CAT(Japanese computerized adaptive test) である J-CAT は項目応答理論により項目が等化されて得点に不変性があるアダプティブテストである J-CAT 受験者に対して Can-do 記述文のアンケートを 7 件法で実施した J-CAT 得点と Can-do 記述文ごとのスコアの相関に基づき 関連づけを行う Can-do 項目を抽出した 次に単回帰分析を行い Can-do スコアに相当する J-CAT 得点を求めて分割点とした これにより J-CAT 得点と Can-do スコアの関連づけが行われ 受験者の能力を一般の利用者にも理解されやすい Can-do 記述文を利用して具体的 明示的に示すことが可能となった また J-CAT の得点は受験者集団に依存しないため 受験者間比較および同受験者間での縦断的な比較も可能である キーワード J-CAT アダプティブテスト 日本語テスト Can-do 1 J-CAT(Japanese-computerized adaptive test) の概要 はじめに 本研究の対象となった J-CAT について見ておきたい Japanese Computerized Adaptive Test( 略称 J-CAT) は WEB 上でいつでもどこからでもアクセスでき 日本語学習者の日本語能力がリアルタイムで測定できるテストである 文字語彙 文法 読解 聴解の 4 セクションからなり 受験時間は概ね 60 分から 90 分である 成績がテスト終了と同時に画面上に表示され 成績証が PDF 形式で自動で作成され 印刷やダウンロードが可能である 個人登録方式と団体受験方式が用意されている 前者では WEB 上から必要な情報を入力して登録すれば パスワードが発行されるので そのパスワードでログインして 受験できる 後者では 試験実施者用にパスワードが発行され そのパスワードで受験者は受験できる 前者は各自が自分の日本語能力の伸びなどを確認するのに適しており 後者では 大学等のプレースメントテストなどでの一斉利用が可能である また 団体受験の場合には 受験者全員の成績が一覧表となって 試験実施者に送付される 以上のように時間と場所の制約を受けずに日本語の能力を測定できるテストになっている J-CAT はアダプティブテスト ( 適応型テスト ) になっている これは受験者の解答の出来 不出来によって 出題される問題が変化するものである 受験者の能力に従い 難易度の異なる問題を出題することで 効率的に能力測定を行う よって 従来の紙と鉛筆によるテストに比べて 短時間でより高い精度での能力測定が可能である アダプティブテストの仕組みは視力検査のメタファーによって理解されやすい 視力検査では まず適当な大きさの環 ( ランドルト環 ) や文字を指し それが見えたら より小さい環や文字を指すし 一方見えなかったら より大きい環や文字を指し示す 119

130 図 1 能力推定のイメージ このようにして 視力検査では かろうじて見える大きさのランドルト環を探る そして そのランドルト環に付いた 1.0 や 1.2 が視力となる ランドルト環はアダプティブテストの問題項目に相当し かろうじて見えるというのは 50% の確率で正答できることに相当する ランドルト環の持つ数値は テストの各項目に付けられた困難度パラメータに相当する ただし 視力検査では 判別できる最小のランドルト環の数値が視力となるが アダプティブテストでは 受験者の能力値を仮定し そのとき予想される正誤の解答パターンが 実際の正誤のパターンに近づくように仮定の能力値を調整しながら 推定能力値を探る テストの始まりでは 受験者の本来の能力がまったく見当が付かないことから 受験者の能力レベルと出題される問題の困難度のレベルが合っていないが テストが進むにつれて だんだん 能力の推定ができてきて 測定誤差が一定範囲内に収まるようになったときにテストは終了し 受験者の推定能力値が与えられる J-CAT は他にも従来の日本語テストでは実現できなかった以下のような機能を持っている テストの標準化を図り 絶対評価をし すべての能力を一つのスケールで測定する 日本語能力試験ではカバーしきれない範囲までカバーする 旧日本語能力試験で言えば 1 級以上 新日本語能力試験でいえば N1 以上の能力の判定も行う すべての問題を画像として画面表示することにより オペレーションシステムの種類や 言語に影響されず ルビなどの特殊表記にも対応する 画面のコピー ペースト機能を制御して問題の流出を防ぐ 音声のみならず カラーのイラスト 写真 動画形式の問題もあり 真正性を高めている 2 J-CAT の得点について J-CAT では 項目応答理論を用いて 各問題 ( アイテム ) の項目困難度 ( 難易度 ) と項目識別力の値を算出している 困難度と識別力の値が付加された問題 ( アイテム ) が アイテムプールに収納されている 項目応答理論により算出された困難度と識別力は受験者集団やアイテムの難易度に左右されない不変的な指標となる そしてそこから推定されてくる能力値もまた 受験者集団やアイテムの困難度に左右されない値である パラメータの尺度が等間隔になっていることは保証されることから たとえ受験者母集団の能力の平均 分散が未知であっても 能力推定値そして J-CAT の結果として示される得点の比較は常に可能である 古典的テスト理論においても点数は間隔尺度であるが 天井効果や床面効果を考慮すると その尺度は能力の違いを適切に等間隔で反映していると 120

131 はいい難い 一方 得点の天井に近い者にはボーナス得点を加算し 得点の床面に近いものにはペナルティとして得点を差し引くような 別の言い方をすれば得点にウェートをかけるような操作をしているのが項目応答理論での能力推定値である このように 異なる受験者集団間での得点の比較が可能となることから 項目応答理論の推定値が受験者集団の影響を受けない と言える 能力値は 項目応答理論で算出され 原理的には 0 を中心とした 正負無限大まであることになるが J-CAT においては 概ね 3.5 から +3.5 の範囲となることがこれまでのデータから分かっている しかし この値のままでは 一般の受験者およびテスト利用者はその意味を理解することはできないので 一般になじみのある 100 点満点の値に変換することが望ましいと考えた 項目応答理論で求められる能力値は 0 を原点とする比例尺度である よって それを一次変換しても間隔は変らないので 偏差値と同じようにして得点換算ができる J-CAT では 以下の換算式を用いて得点を算出している 得点 = 最終能力値 これで 聴解 語彙 文法 読解の 4 セクションの得点が 概ね 0 点から 100 点の間に入る そして総得点は 0 点から 400 点の間に入る この式内の 15 の係数は任意のものであるが それが小さすぎると換算される得点の幅が狭く 得点に差がつかず 出題されたアイテムに正答を繰り返しても高得点が取れないということになる また 係数が大きすぎると 設定したい得点幅 ( ここでは 0 点から 100 点 ) を超えてしまう例が多く出てくることになり 不都合が生じる そのような不都合が最も尐なくなるような係数を探るため 困難度と識別力の実データを用いてのシミュレーションを行い その結果から導きだされたものである 3 先行研究 本研究のテーマの先行研究としては Alderson(2005) 三枝 (2004) 島田他 (2006) があるのでそれぞれについて以下で概観する Alderson(2005) では DIALANG の英語のテストスコアとスキル領域ごとに 18 の Can-do 記述のスコアとの相関を調べている なお Can-do のスコアは項目応答理論により産出している その結果 各スキル領域の Can-do スコアとそれに対応するスキルのテストスコアとの相関はそれぞれ Reading 領域で Writing 領域で Listening 領域で となっており 中程度の相関が認められる なお DIALANG でいう Writing テストとは 自由記述ではなく 穴埋め問題である 三枝 (2004) は日本語のテストを扱い Can-do 記述と日本語能力試験および大学で使用 したプレースメントテストとの相関を調べている Can-do スコアは 1 から 7 までの 7 段階 で回答してもらったものを素点として 1 点から 7 点として使っている 日本語能力試験の 各セクションと Can-do 記述スコアの各領域との相関は以下の通り ( 三枝, 2004: 32) である 表 1 日本語能力試験 1 級 (2001 年 ) における相関 Can-do JLPT 読む 書く 話す 聞く 総点 文字語彙

132 聴解 読解文法 総点 Can-do JLPT 表 2 日本語能力試験 2 級 (2001 年 ) における相関 読む書く話す聞く総点 文字語彙 聴解 読解文法 総点 いずれの結果においても相関は低い このことについて 三枝 (2004:31) は 日本語能力試験が級別試験であり 必然的に回答者の日本語能力幅が狭く なることに起因していると分析している 島田他 (2006) では これを 輪切り現象 と呼んで 同様の分析を行っている これに対して ある大学のプレースメントテストのスコアと Can-do スコアの相関は以下のように高かったことを三枝 (2004:66) および島田他 (2006:81) は報告している Can-do Placement 表 3 プレースメントテストにおける相関 読む書く話す聞く計 聴解 語彙 文法 読み 漢字 総合 この結果について 三枝 (2004) 島田他 (2006) は日本語能力試験が 輪切り現象 を起こしていたのに対し プレースメントテストでは 能力の幅が大きかったからであるとし さらに 輪切り現象の影響を差し引けば Can-do スコアとテストスコアの相関は高く Can-do が 日本語能力を反映する尺度としての有効性が示された と結論づけている 確かに Can-do スコアとテストスコアの相関があることは間違いないだろう しかし それがどの程度の強さなのかは 次の理由から慎重にすべきである 三枝 (2004) 島田他 (2006) が扱ったデータの受験者の分布は図 2 のようになっていて 正規分布からの逸脱が大きい このような分布は 正規分布と比べて相関が高く出る 通常のテストスコア分布は正規分布となることが多いのに比べ ここで扱われているデータ分布のようにそれが特殊である場合 その結果 解釈が歪んでしまう危険性がある また このデータは 床効果も相当程度予想される点にも注意が必要である 以上からプレ 122

133 ースメントテストでの強い相関とそこから導かれる Can-do スコアによる日本語能力の尺度としての有効性についての判断は慎重に行われるのが望ましい 人 12 数 10 ( 8 人 6 ) 得点 ( 点 ) 図 2 あるプレースメントテスト (2003 年 ) 総合得点の分布, 三枝 (2004:65) から 4 方法 本研究の方法は以下の通りである 1J-CAT 受験者に対して Can-do 記述文のアンケートを 7 件法で実施 2J-CAT 得点と Can-do スコアの相関に基づき Can-do 項目を抽出 3 単回帰分析を行い,J-CAT 得点と Can-do スコアの関連づけ 1 の Can-do 記述文のアンケート用紙は島田 谷部両氏のご好意により 日本語に加えて 英語 中国語 ハングルの訳がそれぞれ併記された版をご提供いただいた 本研究に合わせ て 一部項目を削除して使用し 読む に関する 21 項目 書く に関する 17 項目 話す に関する 21 項目 聞く に関する 18 項目について WEB 上で J-CAT を受験した者に対して その直後にアンケート用紙で調査した すべての項目について 1 から 7 の 7 段階で自己評価をしてもらった 対象者は三つの日本国内の大学でのプレースメントテストを団体受験した留学生 ( 研究生を含む ) である 2 では まず J-CAT の得点と Can-do スコアの相関を産出した 後述するように 項目ごとに見ていくと相関の高くない項目が相当数あった それらは本研究の目的である関連付けには適さないため 除外することとした 3 では 2 で残った項目について単回帰分析を行い J-CAT の得点から Can-do スコアの予測式を導いた これによって J-CAT の得点と Can-do とを関連付けることを試みた 5 結果と考察 Can-do 記述アンケートで回答があった 206 人から無回答および重複回答が 3 項目以上ある者を除外し 2 項目以下は欠損値として扱い 分析対象としたのは 119 人である 平均得点は 点 最低得点は 63 点 最高得点は 366 点であり 総合得点の分布は図 3 の通りであり 正規分布に近い 紙幅の関係で 本稿では 読む に関する項目のみを考察対象とする 表 4 に Can-do 記述文の 7 段階のスコアと J-CAT の 4 セクションの得点および総合得点との相関を示す 123

134 読解 以外のセクションと Can-do の 読む の項目との相関も参考のために示す 表中の網掛け部分は相関が 0.6 以上で中程度以上の相関が認められるものである 受 30 験 25 者 20 ( 人 15 ) ~75 ~ 100 ~ 125 ~ 150 ~ 175 ~ 200 ~225 ~ 250 ~ 275 ~ 300 ~ 325 ~ ~ 得点 ( 点 ) 図 3 J-CAT 総合得点分布 表 4 相関と回帰式による得点 Can-do 記述聴解語彙文法読解総合回帰 R1 新聞の社説を読んでわかりますか R2 学内の掲示板のお知らせ ポスター等の印刷物を読んでわかりますか R3 学校の規則を読んでわかりますか 図書館の本棚にある本の背表紙を見 R4 て 必要な本を探すことができますか R5 小説を読んでわかりますか R6 駅や旅行会社においてあるちらしを読んでわかりますか R7 勉強に必要な本や論文を読んでわかりますか R8 電車やバスなどの車内の広告がわかりますか R9 病院で診察を受ける前の質問票を読んでわかりますか R10 掲示板や黒板などに手書きで書かれた ものが読んでわかりますか R11 新聞の社会面 ( 事件 事故などの記事 ) を読んでわかりますか R12 ガス 水道 電気の明細書をみて必要 なことがわかりますか R13 パソコンや機械の使い方の説明書 ( マ ニュアル ) がわかりますか 124

135 学校 区役所 ( 市役所 ) などからの通 R14 知 ( お知らせ ) がわかりますか 就職情報 ( 求人広告 アルバイト情報 R15 誌など ) を読んでわかりますか カタカナで書かれた国名 都市名が読 R16 めますか * 日本語で書かれた授業名がわかります R17 か 日本語のウェブページを見て 求める R19 ページに到達できますか 銀行や郵便局で 窓口の標示を読んで R20 わかりますか スーパーの売り場標示を読んでわかり R21 ますか 大学キャンパスの案内板を読んでわか R22 りますか 平均 *R18 は内容が本調査にそぐわないため 調査項目から削除した 総合得点と Can-do スコアとの相関は概ね中程度であり 読解 得点と Can-do スコアとの相関もある程度見られる また 語彙 得点と 読む の Can-do スコアにある程度の相関が認められるが 読む 技能に語彙量が多分に関わるのは自然だと思われる 総合得点および 読解 =reading のテストスコアと Can-do スコアについて先行研究と比べると 三枝 (2004) 島田他 (2006) の日本語能力試験の場合よりははるかに相関が高く Alderson(2005) の DIALANG の場合よりも若干高く 三枝 (2004) 島田他 (2006) のプレースメントテストの場合よりは低い ( プレースメントテストのデータでは相関が高く出やすいことについては前述した ) R16 のカタカナの読みに関する項目は 相関が著しく低い 受験者の中にカタカナが読めるかどうかという低いレベルの者がいなかったためだと思われる また J- CAT に単純にカタカナの読みを問う問題がなかったことも影響を与えている Can-do スコアを説明変数 J-CAT 得点を目的変数として単回帰分析を行った R1 を例にとると以下のような結果になった なお 相関係数が であったので 決定係数は である J-CAT 得点 =23.53 can-do スコア (p<0.001) Can-do 記述文の内容が できる と できない のカットスコアを 5 ととる つまり 5 以上を当該内容が できる とみなす これに従い 回帰式に Can-do スコアの 5 を代入した結果 つまり Cando スコアの 5 に相当すると予測される J-CAT の点数が表 4 の右端の欄 回帰 に示されている なお R16 は Can-do スコアと J-CAT 得点の相関が低いので対象外とした この結果から 回帰分析による Can-do スコアとテスト得点の関連づけの可能性を確認できた これにより より具体性を伴ったテスト得点の解釈が可能であることが示された 一方で 今回の結果からは 得点の差があまりないことが読み取れる 最 125

136 も高い R1 の 257 点と最低点である R17 が 223 点であり その差は 34 点しかない これは Can-do 記述文の内容に難易差がつきにくいものであったことが原因だろう J-CAT 得点 Can-do スコア 図 4 Can-do スコア (R1) と J-CAT 得点の関係 特に 漢字が 分かる 分からない が Can-do 記述文の内容が できる できない をほぼ決定づけていると思われる 例えば R17 の授業名でも 専門科目の漢字表記は大変難しく R22 の案内板でも固有名詞を伴うものは大変難しい この漢字の影響で Can-do の難易度に傾斜がつきにくかったと言えよう この点から 今後の Can-do 調査では Can-do 記述の内容の難易度が分散するような配慮が必要であることが明らかになった 今後 今回得られた上記の知見を基に 国際交流基金で研究 開発が進められている日本語教育スタンダードと Can-do 記述の成果を参照しながら 不変性のある J- CAT の得点との関連付けを試みる予定である 謝辞 :Can-do statements 調査用紙をご提供いただいた島田めぐみ氏 谷部弘子氏に感謝いたします J-CAT の開発 研究メンバーである 伊東祐郎氏 中村洋一氏 菊地賢一氏 中園博美氏 本田明子氏 赤木彌生氏に感謝いたします また 紙幅の関係でお名前 機関名を 省略させていただきますが プレテストおよび Can-do 調査にご協力いただいた協力者および機関各位に感謝いたします なお 本研究は山口大学研究教育後援財団 (2005 年 ) 科学 研究費補助金基盤 (A)( )(2006~2009 年 ) の助成を受けています < 参考文献 > Alderson J.C. (2005) Diagnosing Foreign Language Proficiency: The Interface between Learning and Assessment. New York: Continuum. 三枝令子 (2004) 日本語 Can-do-statements 尺度の開発研究成果報告書 ( 科学研究費補助金基盤研究 (B1) 課題番号 ). 島田めぐみ 三枝令子 野口裕之 (2006) 日本語 Can-do-statements を利用した言語行動記述の試み 日本語能力試験受験者を対象として 世界の日本語教育 第 16 号, pp.75-88, 国際交流基金. 126

137 日本語教育は複言語 複文化主義をいかに解釈するか 細川英雄早稲田大学 要旨 ヨーロッパ言語共通参照枠 ( 以下 CEFR) の 日本国内での日本語教育への受容と文脈化を考えるとき CEFR とその背景にある複言語 複文化主義の理念の問題について触れないわけにはいかない たとえば CEFR の 6 段階評価や CAN DO リストに関しても 日本の言語教育においては 方法上の学習者の自己評価ツールとして認識されているにとどまり その前提となる大きな理念や具体的な内容についてはほとんど知られていない このことは 日本語教育における 80 年代の変容と 今回の CEFR 受容現象との類似性を示すものであり 同時に日本における CEFR の文脈化の問題点でもあると指摘できよう ここでは 理念としてのヨーロッパ複言語 複文化主義の位置づけとその受容をめぐる日本語教育学の今後について論じる キーワード ことばと文化 CEFR コミュニカティブ アプローチ CAN DO 1 複言語複文化主義の理念をめぐって まず CEFR における複言語複文化主義についてその理念とその背景を確認しよう 多言語多文化主義の 多 MULTI に対し 複言語複文化主義は さまざまな言語や文化を背負う個人を指していう 複 PLURI という概念を導入している この複言語複文化主義においては それぞれの個人と個人が民族 国境を越えた相互理解のための言語教育が必要であるとする たとえば CEFR は 言語を学ぶことはその言語を話す社会を学ぶことであるという前提に立っている したがって 行為者としての個人はその社会の多面性や複雑性を理解し 表層的なステレオタイプ的な見方を越えるためには さまざまなテーマの中でその社会の多様性 複雑性を深く考えることが必要だとする このような CEFR の思想の根底にあるのは 移動 の概念であろう 人々の 移動 を積極的な問題として捉えたところに むしろ CEFR の特徴があるといっていいだろう ヨーロッパにおける人々の 移動 は 古くからの移民の問題に加えて 制度的に支えられた学生の移動など 様々な形で実現している しかし一方で 地理的な 移動 は 国籍 ( 国家 ) 民族 ( 肌の色や習俗等 ) について過剰な反応をもたらすこともある たとえば いろいろな国や地域での居住体験のある人ほど 国や民族で人間を判断することが多いという傾向もこちらに来て強く感じる 日本の場合 海外に出て国粋主義になった研究者が 戦前から戦後にかけて多く見られたように いろいろな国や地域に暮らすことによって 国籍や民族の違いにとらわれるようになる例はいくらでもある だから 一概に 移動 によって 差別や偏見がなくなるとはいえない むしろ 移動 によって そうしたことが強固になる場合もある 両親の国籍や言語が異なり 移動 を 繰り返すことによって さまざまな社会を体験することが 人間の形成にどのような影響 127

138 を与えるかは 実にさまざまであるが そうした状況になれば その個人の複言語 複文化主義になるというわけでもあるまい 地理的な 移動 だけを 変容 の要因としてしまうと問題の所在を見失うだろう 重要なことは 私たち一人ひとりの 移動 の体験をどのように捉えるかであり それが どのような変容に結びつくかは 誰にもわからない システムとしての 移動 が制度とし て組み込まれつつあるヨーロッパで そうした 移動 の結果にあるものは何か 移動 が 国際化 を生むことはほぼ間違いないが その結果として 国家や民族に帰着する思想 に戻るなら 移動 の意味は何なのだろうか しばしば問題になるデラシネ ( 根無し ) に おける 根 の意味は 国家 民族のことなのだろうか これまで 文化 の概念について は 国家 民族という社会の枠組みをほとんど疑わずに議論が進められてきたという歴史が ある そのため 相互 の意味が 常に国家間 民族間の問題として扱われてきたきらい がある たとえば 国際的 (international) と 相互文化性 (intercultural) は まったく異 なる概念であるにもかかわらず しばしば混同されてきた 1 コスモポリタンへの展望とデ ラシネになることの危険性は さまざまなところで指摘されてきたが 肝心のデラシネの 根 の意味については ほとんど言及されてこなかったといっていいだろう 人間にとっ ての 根 とは何か その場合 文化 と 根 はどのように関わるのか これらの意味 を問い直すことによって その相互性の意味も大きく変容するにちがいない 以上のような CEFR の理念とその実施は 日本語教育の文脈の中でどのように位置づけられるのだろうか ここでは 一つの反省として 1980 年代の日本語教育におけることばと文化の考え方およびコミュニカティブ アプローチの受容を例に考えてみよう 2 80 年代におけることばと文化の捉え方とコミュニカティブ アプローチ受容 1970 年代後半から 80 年代にかけて日本語教育は それまでの教師主導の教育活動が いわゆる 学習者中心 と呼ばれるものに変容する時期である ことばの教育の面では それまで オーディオリンガルが中心で 練習としての繰り返しに重点が置かれていたが コミュニカティブ アプローチという考え方が導入され コミュニケーション重視の活動が行われるようになった しかし コミュニカティブ アプローチは 一つの思想であり その思想実現のための方法はさまざまであるという指摘が導入当初よりかなり明確になされていたにもかかわらず コミュニケーション能力とは何かという議論は日本語教育ではほとんど行われなかった 根本的な議論のないまま その具体的な方法をどのように導入するかという方向で教育が進められた 甚だしくは コミュニカティブ アプローチは 具体的な方法を示さなかったところに問題があるというような 本末転倒の意見さえ当時は多く聞かれた いずれにしても コミュニカティブ アプローチの導入をきっかけに それまでの 何を という教育内容を中心にした考え方から どのように 教えるかという動きが盛んになっ たことはたしかである ここでは とくに 効率性 円滑性 規範性 が注目されるよ うになる 効率性 とは 言うまでもなくその教育内容をどのように効率的に教えるか ということである 無駄を省き 学習者のニーズに合わせて 効率的に教えるという発想は ちょうど経済大国ニッポンの高度経済成長と軌を一にしている このことは コミュニケー ション活動はつねに円滑的でなければならないという 円滑性 の問題とも連 128

139 動しており それは教育内容の円滑な教授という点でも 学習者間の円滑なコミュニケーションという点でも同様である さらに ここでは 学習者が到達すべき教育内容の 規範性 がしきりに問題となる 語彙の標準化 文型の基準化ということが盛んに行われ 日本語教育は標準語で行うべきという議論が大まじめになされたのもこの時期である このことは 言語教育としての日本語教育で教えるのは 制度としてのラングであるという規範性が中心的な課題となっていることを示している 一方 文化 の問題では 日本社会を理解するためには 伝統文化ではなく むしろ現代日本の様相を知ることが重要だという認識が広まり 社会文化能力 を身につけることが必要だというネウストプニー理論 ( たとえば ネウストプニー, 1982) が受け入れられ 異文化間コミュニケーション の立場からの発言も多くなった ただ この場合の 異文化 とは 多く国家的な枠組みとしての固定的な 社会 像を想定していて たとえば 日本社会 には のルールがあり 日本人 の行動様式は であるといった 集団類型化の傾向が強い このことは アメリカでの日本語教育に貢献した牧野成一 (1982) にも同様に見られるものである また一方で 岡崎 岡崎 (1990) に見られるように 日本人社会 を教室の外の社会と捉え その適応のために 出来るだけ学習者を教室の外へ出そうという教育実践プランが示される これは 尾崎 ネウストプニー (1986) のイマーション プログラムとも共通している このように 日本語と日本文化を本質主義的に実体化させ 2 その目標の言語 文化へ学習者を同化 適応させる技術を開発するという方向が日本語教育に生まれるのもこのころである つまり コミュニケーション能力とは何かという根本的な議論なしに 実体化した規範へと学習者を駆り立てる技術開発が進行するのである このことが 近年の外国人学習者の量的増加と質的変容に対応できない日本語教育の下地を作ったといってもいいだろう 地域社会における生活者やその家族あるいは年少者の日本語学習においては 構造シラバス や 機能シラバス といった方法が実際の現場で立ち往生しており のみならず 大学や日本語学校の日本留学試験の受験対策でも 多様な環境から来る就学 ( 志望 ) 生を前に 日本語教育は右往左往している現実がある つまり 理念の十分な検討なしに 効率的 効果的 な方法を 規範 をめざして開発した結果 10 年後 20 年後において重大な危機に陥ることを 80 年代の日本語教育は示していたのである 3 CEFR の 6 段階レベルと CANDO リストの導入をめぐって こうした いわば理念が方法にすりかえられてしまうという現象は 日本語教育の文脈では現在でも日常的に起こっている問題である たとえば 筆者は 日本語教育におけることばと文化の統合という視点から 1994 年に 学習者主体 という用語を提案し その具体的な形として 1998 年から勤務先の留学生別 科および大学教養課程の日本語コースにおいて さまざまな教室活動を展開してきた 3 この活動の理念をわかりやすく示すため 2003 年 3 月に 考えるための日本語 問題を発見 解決する というビデオを製作した このビデオの製作意図は 具体的な教室風景を見てもらうことによって 総合活動型日本語教育 の理論的な枠組みの理解に資することだったのだが このビデオを見ると とたんに参加者の関心が ビデオの中の限られた 129

140 現実に集中してしまうことが明らかとなった たとえば 1 週間のうち何時間をこのクラスに使っているのか とか 学習者のレベルは何段階に分かれているのか あるいは 設計者と担当者およびテュータの区別は何か 等々の質問が延々と続くことになる このビデオの趣旨は 前述のように このような教室活動を設計するに至ったプロセスとその理論的背景を結ぶものとして機能させることだった だが 実際には むしろ逆の効果を生んでいるといえる こうした具体的な実践例を見たとたんに 多くの日本語教育実践者は その目の前の 現象 や 方法 に目を奪われ 肝心の この教室を生んだ思想について考えるということを失ってしまうのである 初級段階で可能なのか 海外でも可能なのか 大学のような恵まれた環境でなくても可能か 評価はどのようにすればいいのか これは この活動に対してなされる質問の例である この質問からも明らかなように 実践者の多くが教育実践の中身や質ではなく その方法にこだわっていることがわかる ここでの議論で最も重要なのは そうした方法上の問題ではなく 教師一人ひとりがことばと文化をどう捉えるかということであるはずだ つまり 言語教育においてことばと文化は取り出して教えることができるか という問いにわたしたちはどう答えるかなのである 複言語 複文化主義のことばと文化に関する理念は そうした日本語教育実践者の視野と自律性を鋭く問うものであると筆者は考える たとえば 今回の CEFR における大方の注目点である 6 段階レベルと CAN DO リストの導入についても ほぼ同様のことが言える 6 段階性は CEFR の特色として取り立てて言及するほどの問題ではないだろう 従来からの日本語教育では 初級 中級 上級という 3 段階を伝統的にとってきたが この 3 段階の意味することについても理論的な立場からの議論は現在に至るまでほとんどない CEFR の 6 段階は この 3 段階をさらに 2 分化したものと考えれば 伝統的な考え方 方法と大きな齟齬はない また CAN DO リストについても 以前から行われてきた方法である むしろ今回の CEFR の CAN DO リストに注目するとすれば それは語彙 文型の確定を目的としたものではなく 社会での個人の行動を前提として考えられたものであるというところだろう まず自分や家族のことから始まり 次第に自分を取り巻く社会へと視野を拡げていく過程がこのリストには見える つまり 言語学習を通した 個人の社会への参加の仕方の ひとつのモデルとしてこのリストを解釈することができるからだ したがって この CAN DO リストから 必要な文型や語彙を作成し それを教育内容とするような動きは むしろ CEFR の理念に逆行するものであることがわかる 語彙 文型が設定されていなければ 何を教えていいのかわからないという日本語教育の態度そのものを根本から見直すべきであることを CEFR は示唆しているといえよう 4 結論として 理念としての日本語教育学をめざして 冒頭に述べたように 現在までの CEFR に関する日本での理解は いずれも方法論の段階にとどまり 生涯にわたる継続性のある取り組みを見通した理念 内容にまで踏み込む議論は行われてこなかった たとえば ヨーロッパ ポートフォリオは 政策的には 国 130

141 内外の移動の際の自己の言語能力証明という まさに評価ルールとして準備されたものであるが 同時に 個人の生涯を捉える アイデンティティ構築の視点をも兼ね備えていることを看破 評価しなければならない これは ポートフォリオ実践を たんに言語学習のための評価ツールという枠組みを超えて その言語教育に携わる教師自身の成長のための自己評価指標として位置づけることを意味するからである 言語教育は 枠組みとしての社会における制度の影響を強く受けつつ たえず流動する教育研究の領域であり 多言語多文化共生における個と社会の関係を問う きわめて重要な教育分野である その日本語教育が さまざまな政策の狭間でたえず右往左往する状況のもとにあることを十分に自覚しつつ 日本語教育学とは何か という教育活動の大きな枠組みの中で 今後どのような対話と議論を展開できるか さらに 言語によって活動するとは何か 個人が市民として社会を作るとは何か そのとき言語教育とはどのような役割を果たすのかという問いと議論こそ CEFR の根底にある複言語 複文化主義における相互文化性のめざすものであるといえよう 注. 1 Louis Porcher は interculturel が 政治的 文化的支配の関係において 優劣の形態のある場合でさえも その他者との対等な関係に焦点を置くのに対して internatinal を その支配と支配者のもとに世界を承認するものだとし interculturel はその対等な関係のために闘わなければならない としている (Porcher, 2006) 2 三代 (2009) に同様の指摘がある 3 細川 (1999) で 日本語文化総合 という概念を提起し 2000 年 4 月から早稲田大学本庄 高等学院で高校生を対象にこの教室活動を行い ( 牲川 細川, 2004) その活動を 総合活動 型日本語教育 と命名したのは 2002 年のことである 翌 2003 年にはその実践例集を刊行し 2004 年 6 月には こうした教育コンセプトのもとで NPO 法人を立ち上げ 大学における教 育研究成果を社会にひらく試みとして出版したものが細川 +NPO 法人言語文化教育研究所ス タッフ (2004) である その後 この実践編を 2007 年 5 月に刊行し ( 細川編, 2007) さら に世界公募による実践論集として 細川 + ことばと文化の教育を考える会 (2008) を出版 その活動コンセプトと活動実践例の詳細を細川 蒲谷編 (2008) にまとめている < 参考文献 > 岡崎敏雄 岡崎眸 (1990) 日本語教育におけるコミュニカティブ アプローチ 凡人社. 尾崎明人 J.V. ネウストプニー (1986) インターアクションのための日本語教育 イマーションプログラムの試み 日本語教育 59 号, pp , 日本語教育学会. 佐々木 細川 砂川 川上 門倉 牲川編 (2007) 変貌する言語教育 くろしお出版. ザラト, G.(2007) 文化リテラシー とは何か 異文化能力の評価をめぐるヨーロッパの議論から 変貌する言語教育 多言語 多文化社会のリテラシーズとは何か くろしお出版. 牲川波都季 細川英雄 (2004) わたしを語ることばを求めて 三省堂. ネウストプニー J V(1982) 外国人とのコミュニケーション 岩波新書. 春原憲一郎 横溝紳一郎編 (2006) 日本語教師の成長と自己研修 新たな教師研修ストラテジーの可能性をめざして 凡人社. 131

142 細川英雄 (1999) 日本語教育と日本事情 異文化を超える 明石書店. (2002) 日本語教育は何をめざすか 言語文化活動の理論と実践 明石書店. (2009) 内省する教師のためのポートフォリオ フランス 自分史活動クラス見学記より 英語教育 57, 3 月号, pp , 大修館書店. 細川英雄 +NPO スタッフ (2004) 考えるための日本語 問題を発見 解決する総合活動 型日本語教育のすすめ 明石書店. 細川英雄編 (2006) 考えるための日本語 実践編 総合活動型コミュニケーション能力育成のために 明石書店. 細川 + ことばと文化の教育を考える会 (2008) ことばの教育を実践する 探求する 活動 型日本語教育の広がり 凡人社. 細川 蒲谷編 (2008) 活動型 授業の手引き 内容中心 コミュニケーション活動のすすめ スリーエーネットワーク. 牧野成一 (1983) 文化原理と言語行動 日本語教育 49 号, pp. 1-12, 日本語教育学会. 三代純平 (2009) 留学生活における日本語教育の位置づけの問題 言葉と文化の 本質主 義 と 道具 技能主義 第 3 回ことばと文化の教育を考える会 発表要旨, 2009 年 3 月 12 日北京日本学研究センター. Porcher Louis (2004) L'enseignement des langues étrangères, Hachette. 132

143 ケルン日本文化会館における日本語講座改善の試み JF 日本語教育スタンダードの試行を通した 初級講座のシラバス見直しを中心に 岩澤和宏三矢真由美カタリーナ ドゥツス 国際交流基金ケルン日本文化会館古川嘉子 国際交流基金日本語国際センター 要旨 国際交流基金ケルン日本文化会館日本語講座では JF 日本語教育スタンダード を取り入れ これまでの教育実践の見直しを行っている その一環として 初級レベルのクラス で Can-do 記述によるコースの到達目標の設定を行い 到達目標を踏まえた授業 評価の実 施に取り組んでいる また到達目標に基づいて新シラバスを作成し 年冬コースで試用 した このシラバスが妥当なものかどうかを調べるため担当講師へのインタビューを実施し 講師が記入した授業記録を分析した その結果 学習者の日本語能力に合わない目標や ケ ルンのコンテクストに合わない目標があること 到達目標との関連が不明瞭な文型や文法項 目があることなどが明らかになった それらをふまえて 新シラバスを作成し 09 年夏コ ースで試用した シラバスの見直しを通して 担当講師がこれまでの実践を振り返り 授業 に対する意識が変化し 今後解決すべき課題が明らかになった キーワード JF 日本語教育スタンダード Can-do 目標 コミュニケーション能力 シラバス改訂 初級講座 1 はじめに 国際交流基金 ( 以下 基金 ) は 日本語教育の実践をふまえ 日本語の学習 教育 評価のための枞組みとして JF 日本語教育スタンダード ( 以下 JF スタンダード ) を開発している ケルン日本文化会館日本語講座 ( 以下 ケルン講座 ) は 2008 年度から JF スタンダードの試行を行っている 本稿では JF スタンダードの開発に向けて 2008 年冬コース (2008 年 11 月 ~2009 年 2 月 ) の初級レベルでのシラバスの試用とその後の見直しを中心に述べる シラバスは 2008 年冬コース前に各レベルの目標記述を みんなの日本語 の各課の学習項目である文型と対応させてその原型を作成し 同コースの授業で試用を行った このシラバスが妥当なものかどうかを調べるため コース中間時と終了時に実施した講師へのインタビュー 講師が記入した授業記録 報告書をコース終了後に分析した その結果 シラバスに含まれる到達目標には 学習者の日本語能力に合わない目標や ケルンのコン 133

144 テクストに合わない目標があることが明らかになった 一方 学習項目では 到達目標との関連が不明瞭な文型や文法項目があること 特定の課に割り振れない総合的到達目標の設定が必要であることがわかった そこで 2009 年 3 月に 到達目標を学習者の能力やコンテクストに合うように書き換え 総合的到達目標を達成できるよう 文法項目の追加や削除を行った 本稿では シラバス見直しの詳細につき具体例を挙げて報告すると共に シラバスの見直しがコースに及ぼした影響について明らかにする 2 ケルン講座の概要とこれまでの取り組み 2.1 ケルン講座の概要 ケルン講座は 一般社会人を対象とした夜間講座である 講座設置は 1970 年で 40 年近くの歴史の中で常に学習者のニーズや社会の動きに合わせて 最新の教授法や教材 カリキュラムを採用してきた 一般社会人を対象としているため 学習者のニーズは様々である 高齢化が進むドイツ社会を反映してか 教養や趣味として長い時間をかけてゆっくりと日本語や日本文化を学びたいという学習者がいる一方 マンガやアニメ ファッション J ポップなどのサブカルチャーに触れたことをきっかけに日本語を始めた若い学習者はすぐに話せるようになりたいと願う傾向が強い 近年では後者タイプの学習者が多くなってきた 各コースで実施している学習者へのアンケート調査によると 学習目的は 日常会話ができるようになる 日本文化理解のため 情報収集のため 趣味として などが多い 仕事で必要 や 日本への旅行 / 留学 など実益のために日本語を学んでいる学習者はそれほど多くない ケルン講座の本コースは 2003 年以来夏と冬の 2 コース制になっており 初級から上級まで 9 レベルに分かれている 毎回の登録者数は 170 名から 180 名である ケルン講座で開講している 9 レベルのクラスの内 レベル 1~5 のクラスが初級にあたる ドイツ語で Stufe 1~5 と呼んでいる 初級クラスでは主教材として みんなの日本語 I II ( スリーエーネットワーク ) を 漢字教材として Basic Kanji Book vol. 1 ( 凡人社 ) を使用している また 初級クラスは日本語母語話者と非母語話者のチームで授業を担当することが多い それぞれの長所を活かして授業を行っているが 両者に明確な役割分担はない 2.2 ケルン講座での JF スタンダードに基づく取り組み ケルン講座では 2008 年から JF スタンダードの理念である 相互理解の日本語 を教育実践で実現するための取り組みを行ってきた まず 日本語でのコミュニケーション能力の育成を目指して 各クラスの到達目標を Can-do の形で記述することから着手した まず 2008 年 1 月にケルン講座の日本語講師全員が参加のもと Can-do 記述を作成するためのワークショップを行い クラス目標の共有を図った その後 CEFR の提供する スイス国立科学研究機関プロジェクト自己評価チェックリスト を参考にしながら クラスごとに Can-do 目標を記述し 講師間で共有した また やはり JF スタンダードの試行の中で導入したポートフォリオにつなげるため 学習者にはドイツ語に訳したものを配布し Can-do の形でのクラスの到達目標を提示した 134

145 この段階では自己評価チェックリストの形では配布しなかった 年冬コースからは ポートフォリオの中にある自己評価チェックシートの形で到達目標を Can-do の形で学習者に示した コースの目標が設定されたら 目標 教授内容 評価の一貫性を確保するために その目標に合わせた授業を行わなければならない そして その目標がどのくらい達成されたかが評価される必要がある 従来ケルン講座では各コースの終わりに修了試験が行われ コースでの学習内容にあわせて聴解 表記 読解 文法 作文の試験が行われていた 学習者からのアウトプットを評価する意味で作文が取り入れられた経緯があるが 時間的制約から口頭試験は実施されていなかった 日本語でのコミュニケーション能力の育成を目指したクラスの到達目標には 当然ながら口頭能力に関するものも数多く含まれている そこで 時間的制約のある中ではあるが実施方法を工夫し 2008 年 3 月より 全クラスにおいて修了試験で口頭試験を実施することにした 口頭試験導入当初は 担当講師からも学習者からもやや否定的な反応もあったが 回を重ねるごとに口頭試験の重要性が認識され 肯定的なものに変わってきた また 修了試験に口頭試験があることで 普段の授業においても口頭練習が重視されるようになったとの講師のコメントもある ( 岩澤ほか 2009 国際交流基金 2009) 3 到達目標に基づくシラバスの作成 試用 改訂 シラバスの作成から改訂の手順は以下の通りである ( 表 1) 時期講座見直しの手順内容 2008 年 1 月 Can-do 記述ワーククラスの到達目標を Can-do で記述するためのワーショップクショップクラス目標の共有化 2008 年 3 月 学習目標策定 レベル 1~5 の Can-do 目標を作成 2008 年 7 月 ~ シラバス作成 目標を みんなの日本語 の課に振り分け 10 月 学習項目を目標ごとに振り分け 2008 年 11 月シラバス試用 ~2 月 2009 年 1 月 ~ 調査 (1) 目的 : 冬シラバスの問題点を探る 3 月 方法 : 授業記録分析 講師インタビュー 2009 年 3 月 シラバス改訂 上記調査の結果をもとに冬シラバスの改訂 2009 年 3 月 ~ 改訂シラバスの試 6 月 用 2009 年 6 月 ~ 調査 (2) 目的 : シラバスの見直しが講座に与えた影響を探る 7 月 方法 : 授業記録分析 講師インタビュー 表 1 シラバスの作成 試用 改訂の手順 2008 年 1 月に行った Can-do 記述ワークショップから 3 月の学習目標策定までの流れに 135

146 ついては 岩澤ほか (2009) で詳細を報告した シラバスの作成については JF 日本語教育スタンダード試行版 ( 国際交流基金 2009) に詳述されているが 以下 概要を述べる まず ドイツ語で Stufe 1~5 と呼んでいるクラスの修了レベルを講座の担当講師が経験的に CEFR の共通参照レベルと対応させたところ 概ね以下の通りであった ( 表 2) Stufe 1 Stufe 2 Stufe 3 Stufe 4 Stufe 5 コ聞く A1- A1 A1+ A2- A2 ョミ読む A1- A1 A1+ A2- A2 ンュニやりとり ( 口頭 ) A1 A1 A1+ A2- A2 活ケ動ー表現 ( 口頭 ) A1- A1 A1+ A2- A2 シ書く A1- A1 A1+ A2- A2 みんなの日本語 の進度( 課 ) 表 2 担当講師による Stufe ごとの熟達度イメージ 各 Stufe の修了レベルを CEFR の共通参照レベルと対応させた後で それぞれの Can-do 目標を みんなの日本語 の中で最も学習項目の面で当てはまる課に振り分けた 例えば 店で値段などを聞いて ほしいものを買うことができる という Can-do 目標なら 数字や助数詞などが扱われている 3 課の目標にするといった作業である 課の目標が決まったら その目標を達成するために必要な学習項目を選ばなければならない 学習項目には各課の主要な文法 語彙 表現が入る それに 以前に学習した項目だが その目標達成には必要となる項目を リサイクル項目 として加えた 更に 目標達成のために必要となる社会 文化的知識も学習項目として挙げた 例えば 初対面の挨拶でのお辞儀や名刺交換などである シラバス表は 言語行動目標 学習項目 評価 の三つから構成されている 言語行動目標 は学習項目を使って ~ ができる という形で記述している その目標を達成するために必要となる学習項目を提示し みんなの日本語 で提示される課を記している Can-do の形で記述されたクラスの到達目標は 教科書に提示されている文型を順番に導入することによって達成されるものではない そこで Can-do 目標に基づいて教室活動や評価を計画 実施するために 新シラバスを作成した そして作成したシラバスが妥当なものだったかどうかを検証し 一部見直しを行った 年冬シラバスは 2008 年 11 月から 2009 年 2 月まで実施された 年冬コースで試用された 4 調査 (1) Can-do 目標に基づいて作成されたシラバスが学習者の能力から見て無理がないかどうか また目標達成のための項目として妥当なものかどうかを調べるために 2009 年 1 月 ~ 3 月の 年冬コース期間中とその後に調査を行った そこでは 担当講師に対して実際にシラバスを試用してみてどうだったのかを質問し 必要に応じて改訂を行うための情報を得ることを目的とした 調査は Stufe 1~5 を担当する講師 9 名へのインタビューと授業記録の分析という方法を 136

147 とった 講師インタビューは 年冬コース中間時点 (2009 年 1 月上旬 ) と終了時点 (2009 年 2 月下旬 ) の 2 回行った Can-do 目標に基づく授業と コースの目標設定についての感想 気づいた点 などを質問した 質問者は派遣専門家 1 名とドイツ人客員講師 1 名である 日本語母語話者の講師には派遣専門家が日本語で 日本語非母語話者の講師にはドイツ人客員講師がドイツ語でインタビューを行った インタビューは直接面談あるいは電話で行い 発話はすべて IC レコーダーに録音した 授業記録の分析は 年冬コースが終了した 2009 年 3 月に行った 担当講師の記入した授業記録をシラバスと比べ 担当講師の教室活動 シラバスに加えられた変更点などに注目した 分析の結果 年冬シラバスには以下の問題点があることがわかった 1 学習者の日本語能力に合わない目標がある 例えば 知らない言葉でも音を聞いて表記することができる (Stufe 2) 丁寧な手紙を書くことができる (Stufe 5) のように表記に関する目標や 旅行 日常生活についての短い手紙やメールを理解することができる (Stufe 2) 物事についての簡単な説明書を読んで概要を理解できる (Stufe 4) のような読む目標は学習者の能力よりも高い目標であると担当講師が判断していることが多かった 2 ケルンの学習者のコンテクストに合わない目標がある 先にも述べたように 仕事や留学など日本滞在を目的として日本語を学んでいる学習者はケルン講座にはそれほど多くない 従って 不動産屋で日本の住まいについて簡単な情報を聞いて理解できる (Stufe 3) 旅行会社の窓口で旅行について情報を得ることができる (Stufe 4) など 日本での言語使用場面に基づく目標は ケルン講座で学ぶ学習者のニーズには合わないと見なされた 3 特定の課に割り振れない目標がある 知らない言葉でも音を聞いて表記することができる (Stufe 2 の 書く の目標 ) ふりがなつきの簡単な文書を読んでその文書のテーマがわかり 重要な情報が得られる (Stufe 2 の 読む の目標 ) などは コース全体を通して達成するべき目標であり ある特定の課に割り振れない目標であることがわかった 4 Can-do 目標との関連がわかりにくい項目がある 連体修飾節 (Stufe 3) ~ ながら (Stufe 3) 疑問詞 + か (Stufe 4) ~ かどうか (Stufe 4) ~ ば ~ ほど (Stufe 4) ~ ようです ( 様態 ) (Stufe 5) などは これらを使わなければ達成できない Can-do 目標というものがない このような項目は 表現を豊かにするのに役立っているが 特定の Can-do 目標にはなりにくいことがわかった 5 シラバスの改訂 4 で述べた調査の結果 年冬シラバスの問題点が明らかになった 問題点は以下のように修正し シラバスを改訂した 1 ケルンの学習者の日本語能力に合わない目標がある 学習者のレベルに合うように 目標を変更した 例えば ( 略 ) 短い手紙やメールを理解することができる (Stufe 2) とあった目標は ( 略 ) ごくやさしい日本語で書かれた短い手紙やメールを理解することができる と制限を付けることにより目標をやや低く設定した 137

148 また 初めて日本語を学ぶ Stufe 1 のクラスでは 表記の習得に費やす負担が大きい そのため カタカナが書ける ことは目標からはずし ひらがなの読み書き カタカナの読み という目標に変更した このことにより これまでカタカナの表記に費やしていたものを他の目標達成に宛てることができるようになる 2 ケルンの学習者のコンテクストに合わない目標がある 日本でしか体験できないことや日本でしか必要にならないことは Can-do 目標から省き 代わりに他人やメディアを通して間接的に体験できる Can-do 目標を加えた 一例を挙げると 旅行会社の窓口で旅行について情報を得ることができる (Stufe 4) は場面が日本での旅行会社の窓口に限定されるので 日常生活に関する情報や助言を求めたり 相手に勧めたりする と 旅行や住まいについて相談し 情報を得る に変えた 3 特定の課に割り振れない目標がある 基本的な表記や読みに関する目標は特定の課の目標に設定することはできない 言語行動目標としてカテゴリー分けが特に必要ではない目標に関してはコース全体の Can-do 目標として設定することにした また 特定の課に割り振れない学習項目として漢字もあげられる 漢字に関しては 言語行動目標の場面や話題で分類することが可能であるが Basic Kanji Book vol. 1 を漢字の主教材として使用しながら Can-do 目標に基づくシラバスをどう設定するかに関しては今後の課題である 4 Can-do 目標との関連がわかりにくい項目がある 連体修飾節 (Stufe 3) ~ ながら (Stufe 3) 疑問詞 + か (Stufe 4) ~ かどうか (Stufe 4) ~ ば ~ ほど (Stufe 4) ~ ようです ( 様態 ) (Stufe 5) などは 特定の Can-do 目標を設定するのは難しいが 表現を豊かにするのに役立っている 新たに 表現を広げる という Can-do 目標を設け そこに振り分けた 6 調査 (2) 5 で述べたシラバスの改訂後 2009 年 3 月から 6 月までの 09 年夏コースで試用した コース終了後の 2009 年 7 月 調査 (1) と同様の方法で再度調査を行った 講師インタビューについては 担当講師は 7 名に対して行った 質問者は派遣専門家 1 名である 調査 (2) で各 Stufe の講師からの指摘を中心に以下にまとめて述べる 1 改訂したシラバスに関して 先ず 改訂したシラバスに関し ケルンの学習者の学習能力に合うように目標を変更した点について概ね肯定的な意見が多かった Can-do 目標の達成が難しかった という担当講師からの指摘は少なかった 達成が難しかったとの指摘があった場合もそれは目標レベルが高いことが原因ではなく 時間的制約が原因の場合が多かった ただ Stufe 1 で設定した表記の目標が カタカナが読める のみであったが 学習者が予想したレベルよりも高く 後で カタカナが書ける も入っていればよかったという意見があった 設定したシラバスをどう学習者の能力に合わせていくかも課題であろう さらに 日本でしか必要にならないことを Can-do 目標から省いた点に関して ケルンのコンテクストで必要になる Can-do 目標は限られているので 活動が非常に限られてしまうとの指摘もある 日本での長期生活者にしか必要のない Can-do 目標はなくてもよいが 旅行者が遭遇する場面での Can-do なら目標にしてもよいのではないかとの指摘もあった これについても更に検討が必要である 138

149 次に 改訂したシラバスに関すること以外には 以下の指摘があった 調査 (1) で既に意見として出されていたものもあるが 合わせてここにまとめる 2 担当講師の意識の変化と 評価 の問題 クラスの目標を Can-do という形で表すようになってから Can-do 目標から授業を考えるようになった とのコメントが担当講師からあがった それ以前は教科書を予定通り進めることが大切だと意識されていたものが Can-do という視点から教室活動を振り返ると 非常に大切なこととそれほど大切ではないことの濃淡が見えてくる 教科書が終わった ではなくて ~ ができるようになった が大切なのだとはっきり意識するようになったということである つまり 実際のコミュニケーション活動を授業の中で意識し 教室活動につなげていこうとする姿勢に変わってきたと考えられる ただし ケルン講座では担当講師が修了試験の作成も行っているが 講師インタビューからは Can-do を十分意識した試験問題が作成できなかったという声が多く聞かれた 3 チームティーチングの問題 先に述べたように ケルン講座ではひとつのクラスを二人の講師で担当している 教科書を終える ことがクラスの目標ではないということは講師の共通理解として持っていても それでは教科書を離れて具体的にどのような教室活動が Can-do 目標の達成に有効かという点に関して 同じクラスを担当する講師で共通認識を作り上げていくことが必ずしも容易ではなかった 講師インタビューの中で クラス活動に関して同じクラスを担当する相手方の同意を得ることが難しかったとの声や 現実的に Can-do 目標に合わせた新しい教室活動の打ち合わせをする時間がないとの声も聞かれた しかし そのような課題はあるものの担当講師間で 認識を共有することに続いて 次に実践を共有することの大切さが指摘された 4 学習者に Can-do 目標を意識させることの大切さ クラスの担当講師が Can-do を意識した授業を行ってもそれが学習者に十分伝わらず 学習者は依然として教科書に書かれている項目を中心に考えていることが多いという指摘が 講師インタビューの中であった 逆に できるようになったこと を学習者に示すことで動機付けになったとの報告もあり 学習者に Can-do 目標を意識させることの大切さが指摘された 7 成果と今後の課題 以上 シラバスの作成とその見直し作業について見てきたが これらを通して得られた成果と今後の課題を述べる 先ずは第一の成果として ケルン講座のシラバスが実際のコミュニケーションやケルンでの言語使用を踏まえたものとなってきたことがあげられる Can-do 目標作成を講師全員で経験することで授業目標の共有ができ さらにシラバスを見直す視点を持つことができた しかし シラバスは完成品ではない 常に課題を発見し 常に改訂されなければならないものである 今後も改訂を続けていく必要がある さらに 初級講座担当者全員で クラスの到達目標を Can-do という形で捉えなおし それに基づくシラバスを作成し それを改訂するという作業を通して 担当講師は自分たちの授業実践を振り返り見直すという機会を得た Can-do という形で示されたクラスの到達目標を達成するには 授業で何をしなければならないかという視点から自分たちの実践を 139

150 捉え直し そこから課題を見出すことができた 最後に 今後の課題について述べる 6 で述べた調査結果とも関連するが シラバスを作成し改訂していく中で 設定した学習目標を 実際の学習者の能力に合わせてどう調整していくか さらに それをどこまでシラバス改訂に反映させるかを検討する必要があることがわかった また 表記に関するシラバスや 日本の場面でのみ必要となる Can-do 目標の扱いは更に考察が必要である 特に日本の場面に 依拠した Can-do 目標は 学習者のニーズにより扱いが大きく変わってくる 次に コースの目標が Can-do となり 担当講師が目標を意識した授業をしたとしても 最後の修了試験においてもその目標がどこまで達成できたかという観点から評価がなされる必 要がある 講師インタビューからは Can-do を十分意識した試験問題が作成できなかったという声が多く聞かれた Can-do 目標の達成と評価の問題について担当講師が共通の認識を作 り上げ そして協働で解決していく必要がある 目標に合った評価をどう作成していくかを検討し どう共有していくかを具体的に考えていく必要があるだろう さらに 講師インタビューの中では 学習目標を Can-do という形で捉えることに学習者が慣れていないという意見があった 学習者は 文型積み上げ式の教科書に慣れているせいか 文法項目がわかったか それが言えるかという観点で到達度を測る傾向がある これまでの取り組みから担当講師間で Can-do 目標の共通認識を築くことはできたが 学習の主体である学習者にこそ Can-do 目標達成という意識を持ってもらうことが大切である Can-do 目標は ポートフォリオの自己評価チェックリストという形で学習者に示しているが その意義に対する学習者の理解はまだ十分ではない アンケート結果などから 自分の日本語能力を把握する ためにはある程度役立っていると意識されているようだが そこに留まらず Can-do 目標が 学習を進めていく上で役に立つ と意識されることを目指したい この点からも 学習者が Can-do 目標についてどのように感じているか 学習者のニーズに合っているのかなどについてアンケートやインタビューなどの調査を行い分析し どのような取り組みが有効であるかを考え それを今後に活かしていくべきであると考えている < 参考文献 > Council of Europe( 著 ) 吉島茂 大橋理枝 ( 訳 編 )(2004) 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 朝日出版社. 岩澤和宏 沼崎邦子 古川嘉子 島田徳子 (2009) JF 日本語教育スタンダードと Can Do 記述 ケルン日本文化会館における実践 ヨーロッパ日本語教育 13 第 13 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム報告 発表論文集, pp , ヨーロッパ日本語教師会 トルコ日本語教師会. 嘉数勝美 (2006) ヨーロッパの統合と日本語教育 CEF( ヨーロッパ言語教育共通参照枞 ) をめぐって 日本語学 vol. 25, pp , 明治書院. 国際交流基金 (2009) JF 日本語教育スタンダード試行版 国際交流基金. 140

151 1 初等教育レベルへの CEFR 導入の試みとその意義 フランス教育省管轄の海外校における事例より 小間井麗 パリ ディドロ ( パリ第 7) 大学 要旨 日本にあるフランス海外校初等科では フランス教育省の外国語指導要領に基づき 2005 年から初等レベルの日本語教育に CEFR を適用してきている CEFR の理念である複言語 複文化主義を率先する海外校という環境の後押しもあるが CEFR の行動志向的 (action-oriented) アプローチはそもそも年尐者の外国語教育に適っている 本稿は 事例校での実践から初等レベルに CEFR を導入する意義 そして課題と今後の展望をまとめたものである フランスでは CFER の導入を学校教育においても推進してきており can-do 評価にあたり具体的な評価内容が提示され (2007) 学校間で共通基準での評価の実現に向かっているところである キーワード CEFR 年尐者日本語教育 言語教育政策 複言語主義 フランス 1 はじめに ヨーロッパ言語共通参照枠 CEFR 2 は フランスの学校教育における外国語教育にも導入されてきており 日本語も対応してきている 本稿では 中でもまだ数尐ない初等教育レベルにおける実践をフランス海外校の事例から取り上げ CEFR 適用過程における課題とその対応を述べる そして 初等レベルへの CEFR 導入の意義について考察し 課題と今後の展望をまとめる 2 フランス海外校における複言語 複文化主義の実践 - 背景と枠組み 2.1 フランス学校教育における外国語カリキュラム フランスの初等教育課程は幼稚園から始まり 第 2 課程の幼稚園年長から外国語の入門授業を導入 第 3 課程の小 3 から中等教育につながる外国語の授業が始まる ( 今後開始が 小 2 に下がる ) 初等教育修了時点での到達目標レベルは CEFR の A1 と定められている フランスでは CEFR の学校教育への適用にも積極的で CEFR が出た翌年 2002 年には教 育指導要領に新カリキュラムが打ち出され その後も対応が進んできている なお フランスではすでに 1989 年以降 初等レベルに外国語が導入されてきている 141

152 表 1 フランスの学校教育における外国語カリキュラム 2.2 事例校の位置づけ紹介する事例は 日本にあるフランス海外校 ( 在外フランス人学校 ) 3 におけるものである フランス外務省海外フランス教育庁 AEFE 4 が管理する 250 校以上に及ぶ海外校では フランス教育省のカリキュラムに沿った授業をおこなっており 16 万 4 千人の児童 生徒が学んでいる 海外校では率先して複言語 複文化主義を実践しており 外国語の習得に重点を置いている 英語よりも生活する現地のことばと文化の学習が優先され その国の地理や歴史も学習する また 初等教育課程のうちから 2 カ国語の習得を奨励している そこで 日本校では 初等レベルにおいては日本語を必修とし バカロレア受験までさまざまな日本語コースが整備されてきている 児童 生徒のプロフィールによって 短期滞在の児童 生徒を対象にした外国語としての日本語コースと 日仏家庭の児童 生徒を対象にした 継承語として日本語を学ぶコース 5 とに大きく分けられ 本報告は前者のコースについてのものとなる また 2004 年の海外校の外国語教育強化政策を受け 1 外国語あたり週 1.5 時間 ( 年間 30 週 ) から第 3 課程は週 2 時間に また 各学年にレベル別グループを設け 幼稚園でも授業が始まった 併せて CEFR カリキュラムの導入も開始した 3 初等教育でめざす CEFR-A1 レベル 小学校でめざすレベルは CEFR-A1 レベルとあるが 大学生や成人を対象にした A1 の内容と全く同じというわけにはいかない そこで 初等向けの入門 / 発見レベルの 共通参照レベル がフランス教育省指導要領に 2002 年から用意されている 本来の CEFR 共通参照レベル の A1 の内容と比べ基礎的になっており 子どもに合わせる必要がある部分は変えている 例えば 元の CEFR の 書くこと の能力記述には ホテルの宿帳に個人のデータを書き込むことができる というものがあるが 子どもの行動ではないので 質問表に記入 となっている 142

153 また コミュニケーション活動を成立させるには 総合的な知識と能力が必要となる そこで現場で利用しやすいよう コミュニケーション能力に対応する形で異なるシラバスが併記される形に指導要領も改定を重ねてきている 表 2 初等教育でめざす CEFR-A1( 入門 / 発見 ) レベル ( フランス教育省 2007) 4 初等教育レベルへの CEFR の適用 - 現場での対応と実践 4.1 日本語初等カリキュラム シラバス作成の課題と工夫 143

154 日本の海外校初等科では 1999 年から外国語としての日本語の授業が導入された 6 が 当時から指導要領に日本語の初等向けカリキュラム シラバスがなく 基本的に英語 また中国語のものも参考に作成してきている ただし 指導要領の機能表現シラバスは第 2 課程と第 3 課程の二つ 他のシラバスは一つしか用意されていないので 学年別 レベル別にさらに詳しいシラバスを作成する必要があった 初等課程では学年によって学力 認知力の差があり 学習のペースや学習態度も異なるので その配慮は欠かせない それはカリキュラムも同様である 認知力の上がる高学年になると あるテーマについて いくつもの文をまとめて言えるようになる 例えば 自分や家族の紹介をする にしてもさまざまなことについて言えるので シラバスの内容を複合的に組み合わせていくことが可能になる また 主語の省略があるといった文法の話も理解してくれるようになり 宜しくお願いします といった儀礼表現も使用状況を理解し使ってくれる さらに 日本語と英語 フランス語といったヨーロッパ言語との違いがあるので 日本語にすると難しくなる表現は 機能は同じでも易しいものに変え 難しい言い回しは上の学年で紹介している 併せて アルファベットとは異なる日本語特有の表記体系に小さい時から親しんでもらうべく 表記シラバス 7 も作成してきた 以上のシラバス カリキュラムに合わせて教材の作成もおこなわれつつある 4.2 活動例 次に カリキュラム シラバスをもとにどのような授業を行っているか 活動例を紹介す る 小学 5 年生のお正月に関連する活動に 年賀状を書く がある CEFR-A1 レベルの 書くこと にもある モデルを参照して短い葉書を書く という能力に対応する 両親に 年賀状を送るという設定で お正月の時期に合わせて準備を始める 日本語の住所はフラン ス語の書き方と順番が違うことを発見してもらい ひらがなとカタカナを交えて自宅の住所 を書く練習に移るのだが なかなか難しいようで数時間使う 年賀状を用意すること自体は 楽しんでやってくれるし 定番の官製はがきを利用する他に 牛乳パックから和紙カードを つくるという活動も併せている もちろん 話す活動も交える 住所に関連して 友達は東 京のどこに住んでいるのか 何区に住んでいるのか といった質問のやりとりをしてもらう これは CEFR の やり取り にある 人に情報を聞く という能力に対応する そのために 地図を見ながら 東京は日本のどこにあるのか 日本にはほかにどんなところがあるのかに 始まり 東京にはどんな区があるのかまで 簡単な地理の知識も確認する活動を入れる そ の活動はさらに 形容詞を使って 学校の周りの街の様子を説明するといった活動にも発展 させていく そして年が明け 年賀状が届いたという うれしそうな声が聞かれるころには お正月に関するポスター発表をグループでしてもらう キーワードはすべて日本語で書いて もらう このように 身近なテーマ 文化の話題から 5 技能に渡るコミュニケーション活動を考えている 下の学年でも活動のアプローチは変わらないが よりシンプルになっている 4.3 初等レベルにおける実践の課題と工夫 子どもは外国語学習のためにシラバスにある表現を丸暗記したり 文法から勉強したりしようとはしない 意味のある使い方を身につけてもらうためにも 現実のコミュニケー 144

155 ション活動を通していく また 集中力が続かないため 活動を切り替えつつ授業を行い 五感を使ったり身体を動かす楽しみの活動も取り入れている そもそも日本語学習は子ども自身で選んだものではなく 日本へ来てたまたま課されたものである それでも子どもたちは好奇心旺盛であり 実践次第で惹きつけていくことは可能である そしてはじめのうちは 日本語 日本文化への抵抗を小さくするため またコミュニケーションが可能な余地も残すため フランス語も加減して使いつつ 子どもたちとの関係を築けるようにしている 5 初等レベルへの CEFR 導入の意義 事例校では初等教育レベルの日本語教育へ CEFR を適用しはじめて 5 年になるが 英語同等のカリキュラムにより フランス語圏の子供たちにとっては英語よりも難しい日本語でも着々と習得し レベルを上げていっている 10 年前は各学年 1 レベルで始めたが 現在は各学年 2~3 レベル体制である 英語のシラバスに基づいていることから 扱うコミュニケーション能力が共通であるため 言語間の関連性や違いも見出してもらえる 外国語の学習を通して言語機能 文法の発見をしていくことは 第 1 言語のフランス語習得の助けにもなることから 指導要領でも 第 3 課程以降 フランス語学習とも関連付けた相乗効果的な言語学習が期待されている とは言っても 大学生や大人の学習方法とは異なり 小学生の時期の外国語学習では 易しい身近な表現を楽しみながら尐しずつ習得していく また 文法説明から入るような授業よりも コミュニケーションを目的としたタスク活動の方が導入しやすく そうした活動形態は CEFR の導入によって変わったわけではない 子どもも狭い範囲であれ社会的に行為する者であり CEFR の行動志向的 (action-oriented) アプローチは子どもにも適合している よって CEFR は初等レベルにおける外国語教育に 理論と実践の両面から意味を与えることを可能にしたとも言えるだろう 6 初等レベルへの CEFR 導入の課題 6.1 実践の課題 実践上の課題を挙げるならば 教育省の CFER シラバスの内容が多いため 限られた時間でその学習に追われてしまいかねないという点がある 子どもは大人にとって当たり前のことができなかったり 時間がかかったりするものである 短時間で表現 文法を覚えることが目的にならないよう 子どものレベルに合った総合的なコミュニケーション活動を考えることが肝要である また 1 クラスの人数が多い場合は コミュニケーション活動の導入が難しくなる ペアやグループ活動には 集中力が続かない非母語話者同士の子どもたちでも日本語を使ってもらえるよう工夫が必要となる 6.2 評価の課題 現在 評価が課題となっている can-do 項目だけでは評価基準として明確ではなく どのような状況でどのような表現 文型を使ってコミュニケーションの目標が達成できたか 145

156 によっても実際のレベルは異なってくる そこで 教育省から 2007 年に出されたのが ( 初等 中等レベルにおける ) 必要不可欠な習得知識 能力の共通基礎 参照表である CEFR の能力評価表の形式にのっとり 義務教育のあいだに習得すべき外国語能力が詳しく記述されている 初等 A1 レベルに必要なコミュニケーション能力と併せて言語機能 が can-do の形でまとめられており 目標が従来よりも具体的に記されている それらの学習目標に応じた評価タスクと評価基準も明記されている これに沿った新しい成績表のモデルも教育省から提示された (2008) 教育省の対応が進み 学校間で評価の統一を図る段階に来ている 表 3 必要不可欠な習得知識 能力の共通基礎 参照表 やり取り ( 抜粋 ) ( フランス教育省 2007) 日本の海外校でも新しい参照表に基づく評価に合わせるべく 中国北京の海外校に倣い CFER の 5 技能について評価する形式の成績表を作成 導入中である 併せて 初等課程修了時に A1 レベルに到達したかを測り 証明書を出す方向である また 海外校を管理する AEFE からも 世界を移動する海外校の児童 生徒たちの複言語 複文化能力の養成に ヨーロッパ言語ポートフォリオ ELP 8 を活用していくことが推奨されている 事例校ではカリキュラムに応じた自己評価表も作成し導入してきており 自己の学習を振り返り 次の学習につなげてもらうための自律学習能力育成ツールとして役立っている 生涯教育を展望に入れて 小学校の早期の時期から外国語学習の歴史を一貫して記述していく ELP が普及していくのか 今後に注目される そのためにも 国境を越えて 学校間 言語間での評価内容と評価基準の対応づけについてこの先も議論されるだろう 7 今後の展望 7.1 基盤の整備 146

157 欧州で学習者が最も多く マンガやアニメの影響もあって年尐者の日本語学習希望者も増えてきているフランス 9 だが 学校教育に注目すると 中等レベルではクラスが削減 初等レベルで日本語の授業がある学校は例外的でしかないという現状である そのような中 2007 年に中等教育レベルの日本語 CEFR カリキュラム シラバスが指導要領に掲載され 今後の学校教育の枠組みにおける日本語教育の発展が期待されるところである 社会的な要請から フランスの初等教育レベルにおいても外国語と言えば英語の授業の割合が圧倒的であるが CFER の理念である複言語 複文化主義の観点からは議論の余地があるだろう 7.2 初等 中等一貫教育の実現 学校教育の枠のなかでの日本語教育の発展には 初等教育から中等教育まで一貫した教育が保障され 高等教育機関への進学においてメリットとなることが重要となる 初中一貫教育により初等 中等ともに相乗効果的な発展も期待できる 小さい頃から始めてきた外国語を中高でも続けてさらにレベルを上げられると 学習者にとっても学業や仕事上での切り札となるだろう 7.3 教師の連携と学校教育向け日本語リソースの開発 英国では 国際交流基金により中等レベルのシラバスに基づいた 力 -CHIKARA - リソース が開発され共有されてきている フランスにおいても 中等レベルのみならず初等レベルに適した教材の充実は課題である シラバス カリキュラムに沿った教材作成や共通の評価は 初等 中等教育の教師の連携に支えられる ひいては各学校機関における日本語教育の相互発展にもつながるだろう 8 おわりに フランスの学校教育において CEFR はもはや外国語カリキュラムと評価の構想に無視できない基盤となっており 初等教育レベルにおける外国語教育の実践にも意義を与えている 初等レベルの日本語教育へも 対応によって CEFR の適用が可能であることは本事例にある通りだが 実践と評価については引き続き検討が必要であろう 注. 1 今回の実践報告にあたり 事例校で中等コースの整備と初等科日本語コースの立ち上げにご尽力くださった Jean BAZANTAY 先生 ( オルレアン大学 ) そのもとで共に初等コースの基盤を作り 現在も改革を牽引しておられる安福寿江先生には貴重なご示唆 ご助言をいただいた この場をお借りして謝意を表したい 2 Common European Framework of Reference for Languages (CEFR), Lycée Franco-Japonais de Tokyo: 幼児科 初等科の初等教育課程 中等科 高等科の中等教育課程がある 初等課程だけでも 660 名 30 国籍の児童が学ぶ 4 Agence pour l enseignement français à l étranger (AEFE) 5 イマージョン方式のバイリンガル ( フランス語 + 日本語 ) コースも開講予定 年 : 英語 アラビア語 スペイン語 イタリア語 ポルトガル語 2002 年 : 前記 5 言語 + ド 147

158 イツ語 中国語 ロシア語 7 指導要領 (2002) には 初等第 2 課程では口頭活動中心 第 3 課程で読み書きを進めていくようにとある 8 European Language Portfolio (ELP): Ciep. (2001) Mon premier Portfolio. Didier. 9 国際交流基金 (2006) 海外日本語教育機関調査 < 参考文献 > Ministère de l'education nationale. (2002, 02) Horaires et programmes d'enseignement de l'école primaire. Le BO (Bullet in officiel), hors-série no1. Ministère de l'education nationale. (2002, 08, 29) Programme d enseignement des langues étrangères ou régionales à l'école primaire. Le BO,no4 numéro hors-série. Ministère de l'education nationale. (2007, 04, 12) Mise en oeuvre de socle commun de connaissance et de competences : Langues vivantes. Le BO,hors-série no5. Ministère de l'education nationale. (2007, 08, 30) Programmes de langues etrangeres pour l'ecole primaire : Mise en oeuvre du cadre europeen commun de reference pour les langues / Mise en oeuvre du socle commun de connaissances et de competences. Le BO, hors-série no8. Ministère de l'education nationale. (2007, 10) Grille de référence : La pratique d une langue vivante étrangère. Le Socle commun de connaissances et de compétences : Livret de connaissances et de compétences. 北條淳子 (2007) 最近考えること 日本語教育 135 号, pp , 日本語教育学会. 来嶋洋美 (2007) 試験シラバスから教材シラバスをつくる GESE 日本語リソース 力 -CHIKARA- のシラバス開発 ヨーロッパ日本語教育 12, ヨーロッパ日本語教師会. 来嶋洋美 村田春文 (2008) 英国中等教育向け日本語リソース開発プロジェクト 日本語教育紀要 第 4 号, pp , 国際交流基金. ヨーロッパ日本語教師会 国際交流基金 (2005) ヨーロッパにおける日本語教育事情と Common European Framework of Reference for Languages 国際交流基金. 小間井麗 (2009) 学校教育レベルでの CEFR 導入と複言語 複文化主義 -CEFR 推進国フランスにおける動向とその考察 リテラシーズ研究集会 2009 複言語 複文化主義と言語教育予稿集, pp 田中和美 (2007) ヨーロッパの現状とイングランドの例 : 学習基準と文化 連結 コミュニティ 日本語教育 133 号, pp. 5-10, 日本語教育学会. 西山教行 (2006) フランスの外国語教育は今 英語教育 2 月号, pp , 大修館書店. 148

159 CEFR に即した日本語授業の実践報告及びテキスト作りへの提案 要旨 鈴木裕子マドリード コンプルテンセ大学 CEFR をどのように日本語の授業で実践していくか 機関から 5 年前に出された課題に 当初は拒否反応をおこしていたが 何年日本語を勉強しても コミュニケーション的側面を伸ばせないでいる学生たちを見ていて CEFR が日本語授業の打開策になってくれるのではと思った まず CEFR に即した授業を行うに当たって徹底させたのが 学習者主体の授業である 教科書は既存の みんなの日本語初級 1 ( 以下 みんなの日本語 ) を使った 1 課ごとに Can-do Statements を作り その課で具体的にどんなコミュニケーションができるようになるかを提示し 課が終わるごとに学習者が自己評価をする 本稿では CEFR が言う行動中心のアプローチを目標にした授業の試みを紹介するとともに 1~50 課の Can-do Statements を通して A1 A2 の段階でどんなコミュニケーション場面が想定できるかを示す また 他言語教科書を参考にしながら 日本語教科書作りへの提案もしたい キーワード 学習者主体 行動中心 協働学習 Can-do Statements 自己評価 1 はじめに CEFR をどのように日本語教育で実践していくか 5 年前 大学の語学センターから出された課題に 当初はヨーロッパ言語と体系の違う日本語に CEFR を当てはめるのは無理だと拒否反応を起こしていた しかし 何年日本語を勉強しても コミュニケーション能力 特に聞く 話す力に伸び悩んでいた学生たちを見ていて CEFR が もしかしたら 私自身が行っていた文型シラバス中心の日本語授業の打開策になってくれるのではと思い 取り組んでいくことに決めた まず CEFR に即した授業を行うに当たって徹底させたのが パウル ルッシュ (2007) の言う 能力開発を行うのは学習者であり 教師ではない 教師の役割はモデレーターであり 学習者の学習計画策定を支援すること 教師は学習者が自分に関する理解をさらに深めることができるように手引きする (p. 210) という学習者主体の授業方針だった 授業のほとんどはペア あるいはグループで行う 受身の授業体制が身についていた学生たちにとって 自分たちで協働学習をして 問題点を解決していく という方法には当初かなり抵抗があったようだ また 同時にしゃべりすぎない 教えない 学生たちの学習の軌道修正に徹するという教師の姿勢は 私自身にも大いに反省する部分があった 教科書は 英語 ドイツ語などヨーロッパ言語のように CEFR に基づくものがないため 既存の みんなの日本語 を使用 一課ごとに Can-do Statements を作り 各課を始める前に この課では具体的にどんなコミュニケーションができるようになるか コミュニケーションのテーマを提示し 学習者の意識を高める そして 課の終了時に学習者が自己評価をするようにした 149

160 2 Can-do Statements コミュニケーションのテーマは 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 (2004) の第四章 言語使用と言語使用者 / 学習者 の 4.2 コミュニケーションのテーマ (pp.53-54) から 14 のテーマを参考にした 表 1 コミュニケーションのテーマ 1. 個人に関する事柄 8. 教育 2. 家と家庭 環境 9. 買い物 3. 日常生活 10. 食べ物と飲み物 4. 自由時間 娯楽 11. サービス 5. 旅行 12. 場所 6. 他人との関係 13. 言語 7. 健康と身体管理 14. 天気 ( 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 第四章, pp より ) ここで みんなの日本語 の各課でどのようなコミュニケーションができるか まとめてみた 課によっては複数のコミュニケーションが可能な場合もあるが Can-do Statements では 多くを求めず 各課で学習する目的を学習者がシンプルに理解し 目標として意識できるように心掛けた 表 2 みんなの日本語 をコミュニケーションのテーマごとに分類 1 個人に関する事柄 1 課, 31, 38, 42, 50 2 家と家庭 環境 8, 15, 48 3 日常生活 5, 7, 13, 26, 45 4 自由時間 娯楽 6, 9, 18, 27 5 旅行 12, 20, 35, 37 6 他人との関係 2, 14, 21, 24, 39, 41, 43, 47, 49 7 健康と身体管理 17, 19, 36 8 教育 28, 40 9 買い物 3, 食べ物と飲み物 11, サービス 4, 16, 22, 29, 44, 場所 10, 言語 30, 天気 25,

161 図 1 Can-do Statements 例 (2006 年, 鈴木作成 ) 3 実践 授業は基本的にペア グループで行う 一人だけで考えるのではなく コミュニケーションを取りながら 学習者同士が協働学習の中で 問題解決していくことを習慣化してい 151

162 った 3.1 会話 を聞いて テーマを予測する ( 写真 イラスト etc.) 各課の導入として まず 会話 を聞く これは日本語のコース初日から始める 日本語を全く知らない学習者は初め面喰うが たとえわからなくても 会話を聞くことに慣れることが大切だと思う 初級前半ではイラストや写真などを会話を聞く前に提示して 手がかりとなるようにする 2 3 回続けて聞いたあとは ペアで何の会話か予測する その後また 2 3 回聞いて 今度はグループで そして最後にはクラスで会話の内容を話し合う この段階では文法の説明をしたり 詳しく訳したりはしない 図 2 みんなの日本語 第 6 課より ( スリーエーネットワーク みんなの日本語初級 1 p. 46) 3.2 会話 ( 練習 C) を聞いて 新しい文型 ( 文型の法則 ) を見つける 短い会話 ( 練習 C) を使って 何度も聞きながら タスクを手掛かりにその課で学習する新しい文型を探っていく その後 短い会話の名詞や動詞を自分たちで変えて 会話の練習をする 3.3 文型のまとめ ( みんなの日本語 練習 A) 練習 C の三つの会話だけでは網羅できない文型もあるので 練習 A を文法のまとめとして使う 3.4 タスクを使って ペア学習 話す 聞く練習だけではなく 読解や漢字学習もペアで学習できるようなタスクを用意する 152

163 3.5 宿題システム ( みんなの日本語 練習 B) 練習 B は文型のパターン練習が主なので 各自の自主性に任せ 学習者の自律学習に繋がるように宿題とする ネットで宿題の正誤がわかるよう Hot Potatoes 1 やウェブ問題作成ツール 2 を利用して簡単な宿題システムを作る 3.6 復習 ( 文型 例文 を聞く ディクテーションで確かめる ) 復習として 文型 や 例文 の CD を使う 時にはディクテーションをしたり シャドーイングをしたりする 3.7 もう一度 最初の会話を聞く 最後にもう一度 初めに聞いた会話を聞き どういう内容の会話だったか お互いに確かめていく あいさつなどは特にどんな時に使うか 話し合う 3.8 その課のテーマで寸劇 プレゼンテーション ディベートを行う (Can-do を意識して ) その課の総まとめとして テーマに即した会話 寸劇 プレゼンテーション ディベートを行う 習った会話を基にしてもいいし 形は自由 人数もペア グループなどその都度 人数を変えて 発表する 4 結果 4.1 話す力の向上 今までは たくさんの文型を勉強しても それが実際のコミュニケーション場面とつながっていなかった そのため 学習者はとっさの状況でどう話したらいいかわからず スペイン語で考えた文を日本語に訳そうとして時間がかかったり 自分の言いたいことを十分に表現できなかったりなどの悩みを抱えていた この方法で練習をするようになってからは コミュニケーション場面と日本語での表現が身に付き とっさの状況でも簡単な日本語で対応できるようになった 日本語を翻訳ではなく 状況と反復練習を通して 体が覚えた日本語で コミュニケーションできるようになった 4.2 聞く力の向上 会話を聞いていて 一つわからない単語が出てくるとそこで聞くという行為がストップしてしまう傾向が学習者にあったのが この方法で 簡単な会話 長い会話 速度の速い会話などいろいろなタイプの会話を聞くことにより たとえ わからない単語が出てきても 会話を全体で捉え 何が話されているか 把握する感覚を養うことができるようになった 日本に住んでいれば 日常生活の中で訓練されていく聴解だが 海外に住んでいる学習者にはこういう学習方法が必要だと思う 4.3 Can-do の効果 Can-do Statements を使って 学習者に到達目標を意識させることは 目標に達することができた できなかったに関わらず この課で勉強したことが こんな場面でのコミュニ 153

164 ケーションに効果的だという意識を学習者に持たせることができる また 学習したことの確認や復習に Can-do Statements を使う学習者もいる ただ Can-do Statements と授業のシラバスは一心同体で 学習者が納得のいく自己評価ができるようにするためには 綿密な授業計画が必要だと思う 5 問題点 以上が実践報告であるが 問題点としては みんなの日本語 という教科書自体が CEFR とは全く違った目的でつくられているため コミュニケーションのテーマを決めるのにも限界があった また CEFR の提示しているコミュニケーションのテーマも 他人との関係 言語 などかなり抽象的なものが多いため より具体的なテーマを検討していく必要があると思う そして CEFR の掲げる目標を取り入れた教科書を開発するためには タスク が重要な役割を果たすと言われているように タスクの重要性を痛感しながらも Can-do Statements と結びついたタスクを作っていく難しさを感じた 特に 漢字学習に関するタスクはまだ思案中である CEFR の目標を行動に移すためにはやはり学習者のニーズに合った教科書が必要とされる では CEFR に即した教科書とは一体どんなものだろうか それを探るために 語学センターの各語学教師にインタビューをして 教科書の特徴 使用法などを聞いた 6 テキスト作りへの提案 6.1 英語 face2face 3 2 ページで 1 時間半の授業が完結するようになっている 2 ページの中に会話 読解 文法タスク 語彙など 5 技能の活動がコンパクトにまとめられている 大きなテーマごとに ページの隅に Progress Portfolio があり 自己評価が簡単にできるようになっている 6.2 ドイツ語 Optimal 4 学習者の自律学習の一環としてのタスクが教科書の補助教材として充実している 新文法 新語彙の意味なども学習者が自分たちで探していくタイプのタスクが充実している Portfolio も補助教材の中にある 6.3 フランス語 Forum 5 CEFR の中で提示している文化をどのように紹介していくかという側面で参考になった テーマの導入の部分で 詩や小説の一部を紹介したり モード 料理などのテーマの中で文化を全面的に押し出している 6.4 イタリア語 Linea Diretta 6 会話を前面に出して 新しい文法事項も会話というコミュニケーションの中で紹介し 学習者自身がタスクの中で探っていけるように編集してある 154

165 図 3 イタリア語教科書 Linea Diretta より (Guerra Edizioni, Linea diretta, nuevo 1a, p. 10) 7 今後の課題 語学センターの各語学教師の話を聞き 意見を交換するうちに 日本で教える日本語とは一味違ったヨーロッパ発信の日本語があってもいいのではと思うようになった それには 教科書を開発するためのタスクを充実させていくことが不可欠だと思う そのタスク作りのためには まず機能文法から表現文法をもう一度見直していく必要がある CEFR に即した日本語授業のためにはその国の学習者に合った教科書作りの必要性を痛切に感じている 1 (2009 年 9 月 1 日 ) 2 (2009 年 9 月 1 日 ) 3 Redston, C. & Cunningham, G. (2005) face2face, Cambridge University Press. 4 Müller, M., Rusch, P. & Scherling, T. (2004) Optimal, Langenscheidt. 5 Baylon, C. (2000) Forum, Hachette. 6 Conforti, C. & Cusimano, L. (1998) Linea diretta, nuovo 1a, Guerra Edizioni. < 参考文献 > 国際交流基金 (2009) JF 日本語教育スタンダード試行版 国際交流基金. スリーエーネットワーク (1998) みんなの日本語初級 1 スリーエーネットワーク. パウル ルッシュ (2007) Profile deutsch 多目的ツールを開発する 平成 17(2005) 年度日本語教育スタンダードの構築をめざす国際ラウンドテーブル会議録 第 3 回 第二部先行事例に学ぶ p. 210, 国際交流基金. 吉島茂 大橋理枝 ( 訳 編 )(2004) 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通 155

166 参照枞 朝日出版社. Breeze, Ruth (2007) ACLES: Actas del V Congreso de la Asociación de Centros de Lenguas en la Enseñanza superior, Universidad de Navarra. 156

167 継承日本語教育における評価基準としての CEFR フックス清水美千代バーゼル日本語学校 / バーゼル NSH 教育センター 要旨 スイスのバーゼルシュタット州 バーゼルランド州では 主に移民融合政策の一つとして継承語教育への支援が行われており 両州の教育庁は共同でその評価を CEFR を基準として行う企画を立てた 2008 年秋よりそのパイロットプロジェクトが開始され バーゼル日本語学校もそのプロジェクトに参加することとなった プロジェクトに参加したのは 5 言語 6 教育機関であった このプロジェクトについての実践報告をする < 報告内容 > 1. スイスにおける言語教育および継承語教育 2. バーゼル両州の継承語教育政策とバーゼル日本語学校 3. 継承日本語教育での CEFR を基準とした評価実施までの過程 4. 評価実践の際の問題点と利点 5. 今後の課題 キーワード 継承日本語教育 CEFR 評価 スイス 実践報告 1 スイスにおける言語教育および継承語教育 はじめに事前知識として スイスにおける言語教育の状況と継承語教育について以下に簡単に挙げておく スイスには公用語が 4 言語あり 言語学習が盛んである 母語以外の第 2 第 3 さらには第 4 言語を義務教育の学校で学習することは珍しくない スイス連邦共和国政府には教育関係省がなく 26 州それぞれが独自の教育政策により 独自の教育制度を敷いている 各州の教育庁幹部が話し合う合同会議はあり 近年 連邦全体の教育制度を同じように整えようという動きがある 26 州の合同会議では 複文化 複言語の構築を目指すスイス各州での継承語教育の重要さを認め 継承語教育の推進を謳っている 各州で継承語教育を推進させているが 特にドイツ語圏の人口の多い都市を持つ州において HSK 授業 (Heimatlicher Sprache und Kultur Unterricht) とよばれる継承語教育が盛んである 2 バーゼル両州の継承語教育政策とバーゼル日本語学校 2.1 バーゼル日本語学校の概要 創立 1985 年 非営利団体 生徒数 54 名 教師数 4 名 (2009 年 6 月現在 ) ほとんどの生徒が片親に日本人を持ち スイスの現地校に通う子供達である 現在 157

168 バーゼルシュタット州での継承語教育授業 (HSK 授業 :Heimatlicher Sprache und Kultur Unterricht) の一つとして認められており 校舎の無償貸与 教師への無償研修等を得て活動している 週 1 回 90 分授業を基本とし 年間平均 36 回の授業があるほか 新年会 遠足が毎年行われ 毎年ではないが学芸会 バザーなどの催しもある 生徒の日本語能力は 義務教育 9 年間 日本語を学習した生徒はほぼ全員 日本語能力試験 2 級に合格する能力を持ち 1 級に合格する者もある 学校の目標は日本語能力試験 2 級に受かることとしている 2.2 バーゼル両州の継承語教育政策 バーゼル両州の継承語教育推進政策の理由 1998 年 スイス各州教育代表者会議から要請を受けた専門家による調査研究では 理想的な複言語 複文化社会を形成するためには 母国語の擁護と教育が重要であることが報告された 1999 年 バーゼル州の移民および外国人に関する新しい融和政策では 母 ( 国 ) 語の教育が最も重要な政策の一つとされた バーゼルシュタット州の住民の 28% が外国籍を持つ外国人であり 義務教育を受ける全生徒の 45% が日常 2 言語あるいはそれ以上の言語を使用するという状況を踏まえている バーゼルシュタット州で使用されている住民の言語は約 60 言語にわたっている 子供達に公平な教育の機会を与えるという移民融合政策の一環と考えられている 単一言語の社会ではなく 複言語 複文化社会を目指すバーゼル 母語運用能力の向上が第 2 言語習得に重要な役割を果たすという近年の研究結果 外国語を母語とする子供達の将来の有利性を考える 子供達のアイデンティティ確立の支えとなる母語教育 親子のコミュニケーションが親の母語でなされることの大切さ 継承語は親子の絆となる言語であり 他の言語教育とは違うという考え バーゼル両州の継承語教育推進政策内容 政治的 宗教的にニュートラルな継承語教育機関への支援 2003 年秋より HSK 授業教師のための研修コースを開催 公立学校における生徒への複言語 複文化に関する教育 現地校教師への継承語教育に関する知識の紹介 保護者宛の継承語授業推薦書作成とその配布 全継承語授業のリスト作成と各学校への配布 継承語推進のための特別教育モデル作成と実践 継承語教育における教育テーマ枞組みの作成 継承語授業評価の現地校通信簿への記載 3 継承日本語教育での CEFR を基準とした評価実施までの過程 3.1 バーゼル両州の継承語教育機関で CEFR を基準とした評価を行うことになった理由 バーゼル両州の継承語教育推進政策内容に 継承語授業評価の現地校通信簿への記載 158

169 という事項がある 今までは それぞれの継承語教育機関の評価がそのまま現地校の通信簿に記載されていたが その評価レベルおよび内容は それぞれの機関で一律ではなかった これを是正するために バーゼル両州は CEFR を基準として評価するというパイロットプロジェクトを立ち上げた 2008 年 9 月から 2009 年 6 月まで このプロジェクト参加を表明した 6 教育機関の教師全員を対象にプロジェクト遂行のための研修が行われ 2009 年 6 月には試験的な CEFR による評価を実行した 3.2 パイロットプロジェクト 継承日本語教育における CEFR を基準とした評価 の実施 試験的評価実施までの準備事項 試験的評価実施までの準備として 6 機関の全教師を対象に研修が以下のように行われた <2008 年 9 月 ~2009 年 2 月 > バーゼル両州の継承語政策全般にわたる知識の習得 独語版欧州言語ポートフォリオ (ESP/ELP) の学習 独語版欧州言語共通枞組み (CEFR) の学習 発話 会話の評価に関する学習 生徒の社会性に関する評価についての学習 <2009 年 2 月 ~2009 年 5 月 > 各継承語言語教育機関における評価実施までの企画作成とその発表 <2009 年 6 月 > 評価実施 試験的評価実施までの日本語学校の準備と評価実施の過程 独語版欧州言語共通枞組み I II の日本語訳作成 (I は 7~11 才用 II は 11~15 才用 ) 独語欧州ポートフォリオの使用 (1 クラス ) 独語欧州ポートフォリオ I のチェックリストの日本語訳作成 保護者へのポートフォリオ 共通参照枞組みの紹介 ( 保護者会 ) チェックリストを使用しての生徒による自己評価実施 ( 年少者は保護者による評価 ) 4 教師の話し合いを元に各教師が評価 4 評価実施の際の問題点と利点 4.1 評価実施の際にあがった問題点 文字 敬語 男女言葉 CEFR はその名のごとくヨーロッパ言語を対象としている共通参照枞であるため 日本語をこの参照枞で評価するには難しい点があった それは文字 敬語 男女言葉の運用能力をどのように評価するかということであった 時間的制約があったことから 文字に関しては ひらがなとカタカナ表記の場合のみと考え評価した また 敬語 男女言葉は評価の対象としなかった 159

170 4.1.2 CEFR のわかりにくさ CEFR は欧州言語の共通参照枞組みという性格から 具体性に欠け 理解するまでに時間がかかり ある機関の全教師が共通の視野を持つまでに非常に時間を要することが判明した ただその反面 理解の難しさから教師間での話し合いが必要となり 対話を通して自分たちの評価を共有していくという現象があり これがまさに一つの機関で CEFR を基準として評価する場合に必要なものであると思う 時間のかかる評価 共通参照枞組みと切り離して考えることができないポートフォリオを生徒達が理解し 使用できるようになるまでにはある程度の時間がかかり さらにポートフォリオにあるチェックリストを通して生徒が自己評価する際に 生徒の年齢が低いほど自己評価が難しい 教師との話し合いが必要であり これにもかなりの時間が必要となる 継承語教育の少ない授業時間の中での CEFR による評価は時間をとられることが問題である 他の評価方法併用の必要性 数段階しかないレベルで評価する際 1 年で大きなレベルの変化がない場合も多い そのことを踏まえて CEFR 評価と平行した各学期における評価が学習意欲を高めるためにも必要となる 4.2 CEFR 基準による評価の利点 偏らない言語学習および評価の可能性 言語運用能力の評価はとかく読解能力と作文能力に重点が置かれる傾向にあるが CEFR を基準とした評価の場合には 5 つの能力について それぞれの評価を行うことから 偏りのない評価が行われる また 教師自身の授業も各能力を意識した授業を行うことが必要となり 現在までの評価よりも各能力をはっきりと踏まえた評価が行われることになる 絶対的評価の有利性 継承語各教育機関での評価は相対的であり 絶対性に欠けることが多く 普遍性がない 今後 CEFR がヨーロッパ全土の言語基準として広まっていくのは確実であり 欧州内での人々の移動が頻繁になるであろう将来に向けて ヨーロッパに住む生徒達がこの基準を元に日本語能力を表示できることは大切である 生徒の学習態度の変化 チェックリストをつけることから 教師からではなく自分自身で自分の言語能力を客観的に知ることになり これにより生徒の自覚 そして日本語学習へのモティベーションが高まった 教師間での対話と共有を促す評価 CEFR による評価は各教育機関の教師間での対話 そして共有を促すものであり CEFR 基準にあった教師の共同による教材 テスト等の作成が想像される 160

171 5 今後の課題 バーゼル両州政府教育庁が決定した CEFR を基準とした言語能力評価は 問題点がないわけではないが 今後のヨーロッパの言語教育のながれに沿うものであり 我々 ヨーロッパにおける日本語教師は日本語の評価をいかに CEFR での評価にすりあわせていくかを考察し 実行していかなければならない 私はヨーロッパにおける継承日本語教育の教師として 以下の点が今後の課題と考え 取り組んでいく所存である 漢字の運用能力 ( 読みを含めて ) を評価の中でどのように位置づけていくかを考え ヨーロッパにおける継承日本語教育 ( バーゼル日本語学校 ) の CEFR およびチェックリストとテストを作成する CEFR の 5 つの能力を常に念頭においた授業および教材の作成 教師の CEFR に関する知識をさらに深める努力 保護者 特に新 1 年生の保護者への CEFR に関する情報提供 新しくできた JF 日本語教育スタンダードを参照しながら CEFR との関係を探り 時代にあった 生徒にとって利益となるような授業と評価の実行 ヨーロッパにおける新しい継承日本語教育シラバスの作成 < 参考文献 > Council of Europe( 著 ) 吉島茂 大橋理枝 ( 訳 編 )(2004) 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 朝日出版社. Bildungsdirektion des Kanton Zürich Volksschulamt, Sektor Interkulturelle Pädagogik (2003) Ramenlehrplan: Kurse in Heimatlicher Sprache und Kultur (HSK). Claudio Nodari, R. De Rosa (2003) Mehrsprachige Kinder: Ein Ratgeber für Eltern und andere Bezugspersonen. Bern: Haupt Verlag. Erziehungsdepartment des Kanton Basel-Stadt Ressort Schulen Fachstelle Sprachen (2005) Die Sprach- und Kuluturbrücke: integrierte Erstsprachenförderung in Kanton Basel-Stadt. 161

172 E ラーニングサイトの構築 リソース ツールから統合学習環境に向けて 蟻末淳ボルドー第三大学 要旨 現在 日本語教育において インターネットは情報 教材のリソース またはツールとして 教師 学習者双方に活用されている その一方で 広くコミュニケーションの場として利用されているインターネットは 日本語教育においても 重要な 場 であり 学習環境 として新しい可能性を秘めている 本稿では 筆者が制作しているサイト nihongo.fr* の紹介を通じて インターネット上での E ラーニングにおける マテリアル リソース ツールという コンテンツ から 場 学習環境 への流れを考えたい キーワード E ラーニング インターネット リソース ツール Web2.0 1 はじめに 現在 日本語教育において インターネットは情報 教材のリソースとして 重要な役割を担っている サイトの内容を従来型の教材として使用することに加え 漢字 語彙辞書や読みがな添付などの様々なツールがインターネット上に公開されている 1 そういったツールなどを自主的に使用している学習者も増えてきた その一方で インターネットはコミュニケーションの場としても 大きな役割を担っている 語学学習においては 学習者同士の質問などによる学習の場 もしくは ネイティブスピーカーとの交流の場として 掲示板や SNS( ソーシャル ネットワーキング サービス ) などが使われている 本稿では 筆者が制作しているサイト nihongo.fr* の紹介を通じて インターネット上での E ラーニングにおける リソース ツールから 場 学習環境 への流れを考えたい 日本語学習 及び日本語教育の支援 環境整備のため インターネット上に作成されたサイトを紹介する ということに発表の主眼があるため 基本的に 理論的前提に関しては触れなかった また 現在のところ 実験的な設置 という段階にあるため 実践を通してのデータ収集及びその分析に関しても 本稿では扱うことができなかったことをお断りしておきたい サイトは 実運営の中で 利用者のフィードバックを取り入れながら 随時 改変 増補が行われているのだが それこそが まさに 後に紹介する Web2.0 的な在り方であり インターネット上に学習環境を持つことの最大の利点である 実際に 2009 年 9 月の発表の時点でいただいた意見なども いくつかサイトに取り入れているし 本稿が印刷された今も現在進行形で 新たなサービス 機能 コンテンツが提供されているはずだ また コンテンツが作成者から利用者に一方通行で配信されるのではなく 利用者が相互にコンテンツを配信 利用する場ができつつある その変化の一端を紹介することが本稿の目的であるが そもそも 道具というものはいくら使い方を知っていても使ったことがなければ意味がなく 場も いくら詳しく話で聞いていても 行ってみないことに 162

173 は実際の雰囲気はわからない サイト にアクセスして使ってくださった上で 筆者に意見 感想などをくだされば幸いである 2 マテリアル リソース ツール = コンテンツ 環境 サイトは大きく二つの部分に分かれている 一つは ログインをしなくても使えるページで 数年前から公開されている 現在は 質 量共にサイトのメインコンテンツと言えるが この部分は今後の大幅な変更は考えていない もう一つは最近追加されたログインを必要とするページで 今後はこちらの更新を中心にする予定だ 前者を あらかじめ用意されたコンテンツを軸とする旧来の内容だとすると 後者は コンテンツをユーザー側で作成する 環境 を提供するサービスだと言えるだろう ここでは 各内容を紹介すると同時に どのようなコンセプトの基で サイトが作成 提供されているのかを見て行きたい 2.1 マテリアル リソース 元々 サイトの開設の理由は 授業の形態から来るものであり 寧ろ消極的な理由だ った その年に新しく担当した授業が非専修者のオプションの授業で 時間数が 週 2 ~3 時間と尐なく また 受講者が大学での日本語以外の専門や仕事を持っているために しばしば授業を欠席せざるをえないような状況もあった そのため 受講者が自分 で予習 復習ができるように また 休んでも自分でフォローできるように 授業で使 用するプリントや語彙などをサイトにアップすることにした ( 写真 1) その時点では あくまでも 自分が担当している学習者が対象であり 実際に行われている授業を補う ものでしかなかった その意味では 内容も紙媒体とほぼ変わらず ただそれらを配布 する方法として インターネットを利用している ということになる 2 その中で コンピューターの特長を多尐なりとも活かしていたのは ひらがな カタカナの 自習用教材だと言えるだろう かな 漢字などの文字の習得は ある程度機械的な練習が必要 であり 自習が中心となることから コンピューター教材と親和性が高い サイトでも 書き 順を GIF アニメで見せたり 簡単なテスト 復習を導入するなどしている ( 写真 2) 筆者の教室における実際の授業では 文法導入を中心に 常に イラストが多い自作教 材 ( プレゼンテーション ) をビデオプロジェクターで使用している ( 蟻末 2007) 学習者の側から それをスライド化したものを復習として見たい という要望があり 公開することにした ( 写真 3) 紙芝居式の単純な形式なのだが それでも 実際の授業の内容と近いものが予復習として使えることは 学生にとっても大きな利点となっている また 選択肢式の簡単な練習問題の機能も作成した これも コンピューター教材としては基本的なものであるが 各問題にタグをつけることにより 問題の種類を選べることにした ( 写真 4) 更に 読解問題も作成し 読解の理解を確認する練習問題を作成した 2.2 リソース ツール ここまでの段階では 基本的には授業で扱うマテリアルをウェブ上に適した形で公開した ということになる それに伴ない 特に 語彙表には全て例文を付したこともあり ある程度の数の語彙と 163

174 例文のデータができることになった ( 現在 2000 以上 ) それらのデータを基にして 語彙 及び例文の辞書などのツールを作成した つまり リソースとして データと形式を分離することにより 一般には 簡単にアクセスできるような教材として提供することができる一方 辞書などの他の用途には XML 形式などのデータに直接アクセスすることを可能にした ( 蟻末 2009c) また インターネット上に公開されている Jim Breen 氏の漢字データ 3 などをデータリソースとして利用することにより 辞書機能によって より多くの言葉を検索できるようになった 漢字に関しても 同氏の漢字データを利用することにより 容易に 文字 読みなどから漢字が検索できる辞書を実装した 漢字の辞書は 製作者の協力を得て 書き順を紹介するサイト 4 へとリンクされており それもインターネットならではと言えるだろう ( 写真 5) また サイトの特長の一つとして 漢字に自動的に読みがなをつける機能がある これは形態素解析のために mecab 5 を利用することによって実現しているのだが サイト独自の機能として 任意の漢字リストを指定することにより かなをつける漢字をレベルによって指定できるようにした これはかな変換の専用ページが用意されている他 サイト全体にも適用されるようになっている ( 写真 6) このことにより 学習者にとっては勿論 教員にとっても 漢字のリストに合わせたプリントの作成などが容易になると思われる なお 勤務先の機関などの漢字のリストをサイトに追加することが可能なので 興味がある方は連絡をいただきたい ( 連絡先は後述 ) この機能では 語彙や漢字のレベルの自動集計もできるので 教材のレベルを測る助けにもなるだろう ちなみに この段階で 漢字表などを個人のデータから作成できるようなサイトも一時期公開していたが 6 現在は後述の通り に統合する方向で作成している 2.3 マテリアル リソース ツール = コンテンツ 環境 ここまで サイトのコンテンツを中心に紹介したが サイトを尐し使ってみれば 語彙 読解 練習問題 スライドなどの 積み上げ 式のマテリアル = リソースに加え ページ内の語彙をダブルクリックで検索したり 任意の言葉を検索できる辞書機能 学習者の自習及び教員の教材作成に使用できる読みがな機能などが 有機的に統合されていることがわかると思う コンテンツとして 筆者が現在勤務するフランスでも広く使用されている みんなの日本語 初級 課 7 の範囲をカバーしており 初級学習者にとって 一貫性を持った内容での自習 補習に使え また 教員にとっても ある程度はそのままでも利用できる内容なのではないかと思う しかし サイトから情報 データとしての結果を得る という従来の構図は変わってお らず また 学習者及び教員が孤立した形でサイトを利用する ということに留まっている こういったリソース / ツールとしてのサイトの在り方は ある意味では 一方通行で 閉じ て おり 言わば閉鎖した教室内で 教師から学習者に一方的に知識を与えるという 伝統 的な教育の形に似ている と言えよう そこでは 極言すれば 情報提供者 ( サイト作成者 = 教師 ) が マスとしての被情報提供者 ( 利用者 = 学習者 ) に 閉じた枠内 ( サイト内 = 教 室 ) の固定した関係において 固定した情報 ( サイト内の利用目的のためのデータ = 教科書 など 規範化された文法 ) を一方的に提供するに過ぎなかった 現在の言語教育では 寧ろ 様々な形のコミュニケーションを通じて 教師 - 学習者間の一方的な関係を越え 教師も含 めた学習の 参加者 同士が相互的なコミュニケーションの中で 学 164

175 び 教え合う という形が一般的であろう 教師の役割としても ヒエラルキー の中で知識を与えるのではなく 学習者の自律的な学習を手助けするための 場 コミュニケーションの方法を用意する ということが中心になってきたのではないだろうか この変化は 誰もが自由に情報の発信者になっていき 双方向性のコミュニケーションをベースとする方向に移行する という インターネットの在り方の変化 Web1.0 から Web2.0 の流れに通じると思われる 8 インターネット空間は 各参加者が 理想的には 平等の権利を持ち 対等かつ双方向に 個と個の関係においてコミュニケーションをするための場となるのである 9 上記の考えに基き サイト自体を学習を中心としたコミュニケーションの場 すなわち 環境 にする試みを新しく始めるに至った そのために 現在のサイトの既成のリソース プログラム ( ツール ) 枠組みを利用し そこに LMS( 学習管理システム / ラーニング マネージメント システム CMS= コンテンツ マネージメント システムの一種で学習に特化したもの ) 的な機能を組込む という形をとることにした 無論 Moodle を初めとする 既存の優れた LMS を使用し 場合によっては モジュールの追加などにより 日本語教育 更には 自分自身に合った環境を築き上げていく というのも一つの方法であるが 今回はそのアプローチはとらなかった 理由としては Moodle などのシステムに対しての筆者の不勉強もあるが モジュール作成などの技術的な問題があり また 自らのサイトは日本語特有の問題にフォーカスして作成されているため その独自機能を利用しやすいこと が大きい これまでに作ってきた コンテンツ中心の内容 データとツールの再利用に際して 最も有効な方法を考えた結果である 将来的には より大きな展望の元で Moodle などのオープンソースのモジュール作成なども視野に入れたいが 筆者の力量では 技術的な問題もあり 何らかの協力が必要になるだろう いずれにしろ システム自体は広義の LMS/CMS に入るものと考えたい さて 環境 としての新しい機能だが 基本的には ユーザー登録をすることにより ユーザーが自分のページを作ることが中心になる これは 第一に教員の利用ということが考えられるが 原則として 学習者も含めた参加者全てがページを作ることを前提とし ている それらのページは読解問題などの教材でもよく また ブログのようなものも可 能である その際 読みがな自動付加の機能などが使えるので 特別なことをしなくても 様々な漢字レベルの学習者に情報を発信することができる 勿論 自動で指定されないルビの手動での指定も可能である 他にも リンクの付加などの一般的な html の機能は勿 論 アップロードした画像 音声 コンテンツで使用されているスライドの挿入 youtube 動画ファイルの挿入 自動採点の問題練習の作成 漢字 語彙リスト 問題の自 動作成 などがあり 従来のコンテンツのようなページの作成がユーザーの側で自由に可能になった ( 写真 7) 公開範囲の指定も 一般 ログインユーザ グループなどで指定 でき 目次に掲載することもできる 詳しくはログインして チュートリアルを見ながら 実際に作成していただければ幸いである 10 また SNS( ソーシャル ネットワーキング サービス ) のように 自分のホームページで 個人のデータを公開することにより メッセージのやり取りも可能にした ここでは 語学学習に特化した機能として サイトの Can-do リストから選択することにより 対応するコンテンツを勉強したり 管理をする機能を実装する予定である ユーザーは 他人のページも含めて ユーザーページにコメントを書き込むことができる そのため 問題のページを用意して 答えを書き込むなどの インタラクティブな利 165

176 用ができる 他にも 例えば 作文の課題を与えておき 直した作文へのリンクを書き込むといったことも可能なので ユーザーページが相互に 有機的に繋がるだろう また 個人の機能としては 自分向けの簡単なメモをするための バーチャルな付箋などがある ( 写真 8) これからも 自分が思いついたもの 要望があったものをできるだけ実装する予定なので 何か意見 提案があれば いただければ 幸いである 以上 簡単に現在の 環境 の紹介をさせていただいた リソースを利用者自身で 時には 既存のリソースなどを援用しつつ 作成し 無料で共有すること その意味を是非 現在のインターネット IT 技術の進歩の文脈で考えていただきたい と思う 今後は ユーザーの学習履歴を分析することにより 各ユーザーに適したコンテンツを提案する機能などを実装したい この試みが 実運営の中で何らかの結果が出るのはもう尐し後になりそうだが その経過についても積極的に発信できれば と思っている 3 結論にかえて 今 日本語教育に携わる者において最も必要なことは 何を与えるか 何を作るか 何をするか ではないように思われる 寧ろ 何をどのようにさせるか = 何を どのような方法で 可能にするか が最も重要なのではないか CEFR や JF スタンダードに見られる 教室 教師 / 学習者の閉鎖した枠を越える Can-do や学習者オートノミーの考えもその方向を向いている 必ずしも構造化されていない 相互的なコミュニケーションの網の中に遍在する情報を 自ら取捨選択し 加工し 利用し 発信する そういった能力が必要とされるのだろう それは Web2.0 やオープンソースなどのインターネット IT 業界での流れに一致している この流れの中で 教育の形も大きく変わるし 大学を含めた教育機関の在り方が変わることも否定できないだろう 更には 知の在り方が根本的に変わる時期にいるのかもしれない 教育 特に語学教育にとって IT 技術は必須であるどころか 中核になるのではないか という気がしている 日本語教育への IT の利用というものは 決して外から押しつけられるものであってはならない それは内からの必要性から生まれたものでなければならない ただ 個人的には 現在の状況の中で 新しい形式の授業 内容 方法 もしくはある種の効率を模索していけば 自ずと IT の開かれた可能性へと辿りつくのではないか と信じている 勿論 以前の授業を否定するものではなく それらは全く問題なく共存するものだと思う 枠を否定するのではなく 枠の中でやることを選ぶのでもなく 枠を作ること 枠を変え 広げること いや 寧ろ 枠の意味自体を問い直すこと それが日本語教育においてできれば と個人的には願っている 一個人の小さな試みでしかない この文章を読み サイトを見て 興味を持ってくださった方は 是非 筆者に直接コンタクトしてくだされば幸いである ありがたいことに ベルリンでの発表に興味を示してくださった方が複数あり これから 様々な形での共同作業 進展があるのではないか と期待している この発表 原稿から 新たな 場 が生まれれば それに勝る喜びはない サイト : 連絡先 :admin@e-nihon.net 166

177 写真 1: 語彙表 上のボタンから語彙学習の簡易チェック テストができる 左 の辞書の機能では任意の言葉を日本語 英語 フランス語で検索することも可能 写真 2: 五十音表 書き順を見たり 合成音声を聞いたりすることもできる他 簡易チェック テストもある 特殊音の合成音声 簡単な説明 ( フランス語 ) も追加 写真 3: イラストを多用したスライドが 全 50 課にわたって用意されており 直感的な理解の手助けになる 写真 4:1000 以上用意された問題から 項目 レベル別に指定して練習が可能 写真の例では助詞の問題を選択してい る 将来的には 学習者の学習履歴の統計から 適する問題が自動提出され るようにすることを考えている 167

178 写真 5: 写真は みる で漢字を検索した結果 Jim Breen 氏の漢字データ 筆者の語彙データ 筆者の書き順データ (svg 形式 ) 書き順サイトへのリンクなどが組み合わされている 字 読み 英語の意味などで検索することが可能 写真 6: 読解テキストのページで 日本語能力試験三級を指定した例 三級 四級の漢字には読みがなが添えられていないことがわかる この機能はサイト内の全てのページ及び任意のテキストで使用可能 写真 8: 付箋機能の一例 付箋を貼ったページはホームページに表示されるので すぐに表示させることができる 写真 7: 個人ページ作成エディターの画面 簡単なタグを記述することにより サイトのリソース ツールを利用可能 画面下のプレビュー画面では自動的に読みがながついていることが確認できる 168

179 注. 1 Web 上の読みがなについては蟻末 (2009a) にていくつかのサイト firefox のプラグインなどについての説明がある なお フランス日本語教師会便りはフランス教師会のサイト からダウンロード可能である 2 サイトの初期の様子に関しては 蟻末 (2006) を参照のこと また 蟻末 (2008) にサイトを使っている学生の意見の抜粋などがある 3 Monash University Jim Breen 氏 京都大学情報学研究科 - 日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所共同研究ユニットプロジェクト 現在休止中 ) 2008 年にリールで行われた第 10 回フランス日本語教育シンポジウムにて発表 7 サイトでの利用を快諾してくださった 3A ネットワーク 著者の方々には改めて感謝したい 8 web2.0 に関しては O'reilly(2005) などを参照のこと また Web2.0 オープンソースの登場によって起こっている社会的な変化については ベストセラーになった梅田 (2006) などがある 9 これと多尐関連して オープンソースに関する重要な論文 Raymond(2000) における オープンソースの考え方と日本語教育のアナロジーという別の観点からエッセイを書いた 気楽な内容 書き方だが 興味がある方は蟻末 (2009b) を参照されたい 10 現在 (2010 年 3 月 4 日 ) 試験運用中のため サイトへの登録は一般には開放されていない 興味がある方は筆者まで連絡をいただきたい * サイトアドレスは へ移行予定 ( しばらくは旧アドレスからもアクセス可能 ) < 参考文献 > O reilly, Tim (2005) ( ) Raymond, Eric (2000) ( ) 蟻末淳 (2006) みんなで使ってみよう! アイデア広場日本語学習サイトの作成 フランス日本語教師会便り 第 40 号 (2006 年 7 月 ), pp. 9-11, フランス日本語教師会 (2007) 日本語教育におけるコンピューターの使用の一実践例 フランス日本語教育 No. 3 第 7, 8 回シンポジウム報告 発表論文集, pp , フランス日本語教師会 (2008) e- ラーニングって フランス日本語教師会便り 第 49 号 (2008 年 4 月 ), pp. 1-3, フランス日本語教師会 (2009a) webmaster から フランス日本語教師会便り 第 53 号 (2009 年 4 月 ), pp , フランス日本語教師会 (2009b) webmaster から フランス日本語教師会便り 第 54 号 (2009 年 7 月 ), pp. 8-10, フランス日本語教師会 (2009c) 日本語教育におけるコンピューターデータの扱い -WEB 教材の作成を通して フランス日本語教育 No. 4 第 9 回シンポジウム報告 発表論文集,pp , フランス日本語教師会. 梅田望夫 (2006) ウェブ進化論 ちくま新書. 169

180 非漢字圏の漢字教育の効率化を目指す 漢字のスタンダード化について ヴォロビヨワ ガリーナキルギス日本語教師会 要旨 非漢字圏の漢字教育を効率的に推進するには 漢字字体や漢字字書使用に関わる問題などを解決する必要がある 本研究は 漢字をスタンダード化することによって 日本語学習者自身が漢字を体系付けながら習得できる方法を提案する キーワード 漢字教育 スタンダード化 複雑度 掲出順序 漢字索引 1 漢字スタンダードの現状 非漢字圏日本語学習者にとって漢字学習こそが最大の困難である ( ヴォロビヨワ 2009a) 非漢字圏の漢字教育を効率的に推進するには 漢字字体や漢字字書使用に関わる問題などを解決する必要がある 既存の漢字スタンダードは二つのグループに分けることができる 1.1 教育用のスタンダード 現在日本における漢字字体のスタンダードは 常用漢字表 人名用漢字 などに記載されている通用字体である そのほか 学習漢字 ( 小学校学習指導要領 付録 学年別漢字配当表 など ) や 日本語能力試験 の漢字の群が決まっている 1.2 情報処理用のスタンダード コンピューター時代が始まって コンピューターで漢字を扱うために漢字とその書記素 部首の分類 コード化が行われて情報交換用の漢字スタンダードが構築された 現在のコンピューターは 12,156 字の JIS 漢字 あるいは 20,000 字以上の The Unicode Standard 5.2 ( 以下 Unicode 5.2) の漢字が処理できる (Lunde 1999) 2 漢字スタンダード化の課題 本研究は 効果的な漢字教育の要素である漢字のスタンダード化をすることによ って 日本語学習者自身が漢字を体系付けながら習得できる方法を提案する 170

181 2.1 書記素のスタンダード化 ヴォロビヨワ (2007, 2008) では 漢字の書記素の種類 そのコード化 使用頻度について発表した 書記素の分類とコード化 先行研究を概観したところ 常用漢字をカバーする書記素の種類は研究者によって違うことが明らかになった その数は 16 個から 41 個まである 例えば ( Wieger 1965) では 17 種類 ( Fazzioli 1987) では 24 種類 ( 下村 1987) では 24 種類 Unicode 4.1 では 16 種類 (2005 年 3 月から ) Unicode 5.1(2008 年 4 月から ) と Unicode 5.2(2009 年 10 月から ) では 36 種類を扱っている 研究の結果 常用漢字をカバーするためには 24 種類の書記素で必要十分であることが明らかになった ( ヴォロビヨワ 2008) それぞれの書記素にローマ字の形と結びつけて A から Z と名前をつけた ( 表 1) そのコードにもとづき 漢字の筆順をアルファベット コードで表すこともでき コード化された常用漢字のデータベースを構築し コンピューターソフトを利用して 分析もでき アルファベット コード索引も構築できた 表 1 24 種類の漢字の書記素とそのアルファベット コード (ABC-code) Unicode 5.2 の書記素の種類について Unicode 5.2 が含めた 36 種類の書記素と著者が扱う 24 種類の書記素の比較分析は表 2 で提示してある 常用漢字で使用されていない Unicode 5.2 の 2 種類の書記素 と は表 2 に入っていない そして も実際に 2 つの種類の書記素 ( 表 1 の F と J) で表すことができるので それも表 2 に入れていない Unicode 5.2 に入っていない一種類の書記素 ' (S) を加えた そして Unicode 5.2 の 9 種類の書記素は他の書記素との違いは微妙なので それと同じ種類にした ( 表 2) 書記素を表すためには Code 2000 というフォントを使用した Chinese code というのは中国で利用している書記素の形を表すコードである Unicode 5.2 の書記素の種類の分析によると常用漢字をカバーするには表 1 に入っている 24 種類の書記素で十分である 171

182 著者が扱う書記素形が微妙に違う Unicode 5.2 の書記素 Unicode Chinese code Stroke ABC code Unicode Chinese code Stroke 31d0 H A 31c2 XG D 31c3 BXG 31d7 SZ E 31c4 SW 31da SG J 31c1 WG 31cb HZZP M 31ce HZZZ 31c9 SZWG N 31de SZZ 31cf N O 31dd TN 31d3 SP P 31e2 PG 31c8 HZWG R 31ca HZT R 31cd HZW R 31c5 HZZ S 3190 表 2 Unicode 5.2 の書記素の 36 種類と著者が扱う書記素の 24 種類の比較の例 筆順の規則のスタンダード化 漢字を教えるとき筆順も教える 教科書や辞書では筆順の規則をたいてい例で説明する しかし規則の例外もある そして著者によって同じ漢字の筆順が違うこともある つまり統一した筆順のスタンダードは決まっていないと言えよう アルファベット コードでは漢字の筆順を表して コンパクトに書くことができ また簡単に筆順のテストを作ることができる 筆順を統一し 漢字の筆順のスタンダードの作成が必要だと思う 172

183 2.2 構成要素のスタンダード化 漢字教育法には漢字を覚えやすくするために 連想記憶法を使う教え方がある 連想記憶法は漢字の構造分解と構成要素の定義と一体不可分である 連想記憶法において 漢字の成り立ちのストーリーを効果的に使うには 先に構成要素 簡単な漢字 後で合体文字を教えるほうが望ましいと考えた そのためには構成要素の種類のスタンダード化は欠かせないことになる そして知らない漢字を文章に入れるためにその構成要素を扱う日本語のワードプロセッサー 例えば NJStar JWP JARDIC などを使うとき漢字の構成要素の知識が必要である 構成要素の分類とコード化 漢字の構造分解と構成要素の分析に基づく教え方によると最尐意味単位 ( 構成要素 grapheme primitive element component 部品 原子など ) を抽出し 先に覚える それから知らない合体文字の構成要素分析をし 構成要素の意味を合わせ 意味取りができる ( 表 3) 著者は漢字の構造分解と分析を行い 構成要素のシステムの案を作成した (Zhivoglyadov, Vorobyov & Vorobyova 2001) 常用漢字をカバーする構成要素数は 335 個で その中に部首は 199 個と部首ではないグラフィウムは 136 個ある グラフィウムの意味は主に Wieger(1965) Heisig(2001) に従って付けた ( 表 4) 表 3 に提示した他の研究者のシステムと違い 著者は部首を最尐意味単位として特別に扱っている 部首の形は複雑でも 部首を分解せずにそのまま構成要素として使っている 著者 年 構成カバーする名前要素数漢字数 ( 字 ) Wieger(1965) primitive 1798 Foerster, Tamura(1994) grapheme 1945 Heisig(2001) primitive 2042 山田ボヒネック (2007) 原子 1945 ヴォロビヨワ 部首とグラフィウム 1945 表 3 漢字の構成要素のシステム グラフィウム 意味 グラフィウム 意味 丁 block 乂 arm dirty 乃 spectacular slingshot 丩 join key cornstalk fencepost 于 expanse 表 4 常用漢字をカバーする 136 個のグラフィウムの表の部分 173

184 2.2.2 統一した部首システムの使用 阿辻 (2004) 前田 阿辻 (2009) によると 紀元後 100 年に 説文解字 という字典ができ 漢字は 540 の部首順で並べられた 1615 年に作られた 字彙 は 214 部首で漢字を扱い 部首を画数順に並べた初めての字典だった それからずっとそのシステムに従い 現在も同じ部首のシステムが使われている Unicode 5.2 にはその 214 種類の部首の表は入っていて 漢字は 214 の部首順で並べられている しかし 違う部首のシステムを作る著者もいる 例えば 長澤 (1974) の部首索引では 人 入 や 土 士 は同じ部首として 刀 刂 や 人 亻 は別の部首として扱われている しかし統一のために既存の 214 個の部首のシステムを守るべきだと思う 2.3 漢字の掲出順序の合理化 漢字学習の目標によって漢字の選択や掲出順序は違う 一般に使用されている漢字教材の漢字の掲出順序を分析した結果 複雑な漢字が簡単な漢字より早く出ること また合体文字がその構成要素である漢字より早く出ることは漢字教科書の問題点になっていると明らかになった ( ヴォロビヨワ 2009a) その場合学習者は構成要素の意味が分からないので 連想記憶法は使いにくい 表 5 では構成要素 口 を含めた みんなの日本語初級 I 漢字 ( 西口 2000) の漢字の掲出順序の分析の例を提示する 構成要素である漢字掲出順序合体文字掲出順序順序の差 表 漢字の複雑さの評価 口 163 員 古 右 名 みんなの日本語初級 I 漢字 の漢字の掲出順序の分析の例 簡単な漢字から複雑な漢字へ 教えるためには先に漢字の複雑さの判定基準を定義する必要がある ( ヴォロビヨワ 2009a) では 2 つの要素 構成要素数と書記素数が漢字の複雑さを表す要素として定義されている 表 6 では漢字の複雑さの評価の例を提示する 漢字構成要素構成要素数書記素数複雑さによる順位 一 一 1 1 二 二 五 五 4 3 三一 二 四口 儿 5 5 表 6 漢字の複雑さの評価の例 174

185 2.3.2 漢字の使用頻度 学習漢字の掲出順序を決める場合は漢字の使用頻度も考慮に入れる必要があると思う 本研究では漢字使用頻度表 ( 横山他 1998) を利用した 合理的な掲出順序 簡単な漢字から複雑な漢字へ という原理は合理的な掲出順序の基礎であると思う 漢字の複雑さと使用頻度を考慮に入れる必要がある それに基づき 漢字の合理適な掲出順序の判定基準を検討した ( ヴォロビヨワ 2009a) 漢字の構成要素数 書記素数 新聞での使用順位の属性情報を用いて漢字をソートし 常用漢字の合理的な掲出順序を作った ( 表 7) それをもとに勉強の目標に相応しい漢字の最適な掲出順序が検討できる 漢字 画数 構成要素の数 使用順位 一 十 二 人 八 表 7 常用漢字の合理的な掲出順序 ( 表の上の部分 ) 2.4 漢字字典の調べ方の効率化 新しいタイプの漢字索引 ヴォロビヨワ (2009b) では漢字索引の 選択係数 を定義し それをもとに既存のタイプの漢字索引の効率を比較 評価した その結果 漢字の字体と構造に基づく索引の選択性は 1.2~20.5% で低いと明らかになった ( 表 8) 索引のタイプ 選択係数 (%) 総画索引 (Henshall 1988) 1.2 カタカナ字形分類索引 ( 加納 1998) 2.6 総画 ( 書き出しパターン ) 索引 ( 志村 1998) 6.0 書き出しパターン索引 ( 加納 1998) 6.1 四角号碼 ( 諸橋 1984) 10.2 部首索引 (Henshall 1988) 10.3 筆順索引 ( 若尾 1989) 10.7 SKIP(Halpern 1988) 15.4 意味記号索引 ( 加納 1998) 20.5 音訓索引 (Henshall 1988) 40.6 Key Words and Primitive Meanings Index(Heisig 2001) 表 8 既存の索引の選択係数 読みと意味に基づいた 印がついた索引の選択性は高くても 効果的に調べるためには予め漢字の読み方か意味を覚える必要がある 漢字字典の調べ方を 175

186 より効率的にするために 非漢字系の学習者に相応しい選択性が高い新しいタイプの索引を開発した ( 表 9) この新しいタイプの索引を使えば 漢字字典の調べ方をより効果的にできる またその場合は 漢字の構造に対する学習者の理解が深くなり 機械的な覚え方から解放されると期待できよう 上記の索引は教科書 ( ヴォロビヨワ 2007 ヴォロビヨフ & ヴォロビヨワ 2007) に入っている 索引のタイプ 選択係数 (%) セマンチック コード索引 64.1 アルファベット コード索引 98.4 シンボル コード索引 99.4 表 9 新しいタイプの索引の選択係数 3 まとめ 漢字のスタンダード化に貢献するために以下の 5 点を検討した (1)24 種類の基本的な書記素 そのコード化 特別な筆順の書き方の案を出した (2) 常用漢字で部首以外で使用されている構成要素 ( グラフィウム ) を 136 個抽出した (3) 二つの要素 構成要素数と書記素数で漢字の複雑さを定義した (4) 簡単な漢字から複雑な漢字へ というように教えるためには漢字の複雑さと使用頻度に基づき 漢字の合理的な掲出順序の判定基準を検討した (5) 漢字字書使用の合理化を目指し 漢字索引の効率の評価基準を考慮し 既存 の 11 種類の漢字索引の選択性を比較した そしてより効率的な新しいタイプの漢字索引を構築した 漢字のスタンダード化は漢字教育の効率化にとって欠かせないことであって それに力を入れる必要があると考えよう < 参考文献 > 阿辻哲次 (2004) 部首の話 中央公論新社. ヴォロビヨフ ヴィクトル & ヴォロビヨワ ガリーナ (2007) 漢字物語 II ビシケク. ヴォロビヨワ ガリーナ (2007) 漢字物語 I ビシケク. ヴォロビヨワ ガリーナ (2008) 連想記憶法と使用頻度に基づく非漢字圏向け漢字教材の開発 日本語教育学世界大会 2008 予稿集 3, pp 釜山外国語大学校. ヴォロビヨワ ガリーナ (2009a) 漢字の分解と構成要素の計量的分析に基づいた学習漢字の最適な掲出順序の開発 第 13 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム報告 発表論文集 13, pp , ヨーロッパ日本語教師会. ヴォロビヨワ ガリーナ (2009b) 選択性が高い漢字索引の開発 日本語教育方法研究会誌 Vol. 16, No. 1, pp , 日本語教育方法研究会. 176

187 加納喜光 (1998) 常用漢字ミラクルマスター辞典 小学館. 志村和久 (1998) 学習新漢字字典 講談社. 下村昇 (1987) 小学学習辞典 偕成社. 長澤規矩也 (1974) 新明解漢和辞典 三省堂. 西口光一 (2000) みんなの日本語初級 I 漢字 スリーエーネットワーク. 藤原宏 (1992) 新版漢字書き順字典 第一法規. 前田富祺 阿辻哲次 (2009) 漢字キーワード事典 朝倉書店. 諸橋轍次 (1984) 大漢和辞典 大修館書店. 山田ボヒネック頼子 (2007) KK2.0(Kanji Kreativ)E ラーニング :1945 常用漢文字学習プログラム - 体系的 増分式 識字力育成 が日本語教育に齎すインパクト 第 12 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム報告 発表論文集 12, pp , ヨーロッパ日本語教師会. 横山詔一 笹原宏之 野崎浩成 エリク ロング (1998) 新聞電子メディアの漢字 三省堂. 若尾俊平 服部大超 (1989) くずし解読字典 栢書房. Fazzioli, E. (1987) Chinese Calligraphy. Abbeville Press. Foerster A. & Tamura N. (1994) Kanji ABC: A Systematic Approach to Japanese Characters. Charles E. Tuttle Company. Halpern, J. (1988) New Japanese-English Character Dictionary. Kenkyusha. Heisig, J. (2001) Remembering the Kanji, Vol.1, Fourth Edition. Japan Publications Trading Co. Ltd. Henshall, K. (1988) A Guide to remembering Japanese characters. Tuttle Publishing. Lunde, K. (1999) CJKV Information Processing. USA: O Reilly&Associates. Wieger, S. (1965) Chinese Characters. Their Origin, Etymology, History, Classification and Signification. A Thorough Study from Chinese Documents. New York: Dover Publications. Zhivoglyadov V., Vorobyov V. & Vorobyova G. (2001) Decomposition of the Japanese characters. JSAA Biennial Conference 2001: , Sydney, Australia. ( ) Selectivity. FullRSIndex.pdf ( ) Unicode. ( ) Chinese code. ( ) NJStar. ( ) JWP. ( ) JARDIC /041-31C0.pdf ( ) Unicode ( ) Unicode / ( ) Unicode 5.2. 付記 : 本研究はキルギス民族大学のインターネットとコンピューター技術学部の准教授ヴォロビヨフ ヴィクトルの協力を受けて行った 177

188 CEFR 文脈化のための実践例を取り入れたワークショップ型教師研修 櫻井直子 ( ルーヴァン カトリック大学 ) 近藤裕美子 ( 国際交流基金パリ日本文化会館 ) 要旨 CEFR が開発されて以来 様々な文脈化が進められ 現在 教師は CEFR を理解するだけでなく それを実践に取り入れていく文脈化の能力が求められている それに伴い 教 師側からも CEFR の知識 その活用の可能性に関して知っておきたいというニーズが高ま っており そのニーズに応えるものの一つに教師研修がある 2009 年 5 月フランス日本語 教師会が CEFR と自律学習をテーマとした研修会を主催したが 筆者らはその中で CEFR 概論に続くワークショップ形式のセッションを担当した そのワークショップでは 目的 を CEFR の文脈化の流れを理解し 体験する と設定し 文脈化の全体の流れを提示するため実践報告を取り入れ 体験として トップダウン 型文脈化の活動を行なった そ して研修後に参加者にアンケートを行い この研修が目的を達成したかどうかを検証した キーワード CEFR 文脈化 トップダウン 教師研修 気づき ワークショップ 1 背景 Common European Framework of Reference for Languages : Learning, teaching, assessment ( 以 下 CEFR) が開発されて以来 様々な文脈化が進められている 一例として 共通参照レベルや Can-do 記述を活用した言語能力検定試験の開発 Référentiel Profile deutsch 等 CEFR に基づいた実際の授業計画 実施 評価に役立つ言語ごとの情報ツールやポートフォリオの出版がある 一方 各教育現場でも状況に応じて CEFR を教案へ反映させ授業へ結び付けていく文脈化の様々な試みが行われている 日本語教育においても 2009 年 6 月に出版された国際交流基金 JF 日本語教育スタンダード試行版 に JF スタンダード構築の作業で CEFR に範を求めた (p.6) としてあるなど CEFR を理解するだけでなく それを実践に取り入れていく文脈化の能力が現在求められている それに伴い 教師の CEFR の知識 その活用の可能性に関して知っておきたいというニーズも高くなっており そのニーズに応えるものの一つに教師研修がある 2009 年 5 月 フランス日本語教師会が CEFR と自律学習をテーマとした研修会を主催し 筆者らは CEFR 概論に続くセッションの実施を委託された そこで CEFR の文脈化の流れを理解し 体験する と目的を設定し セッションを行った 本稿では その概略とその直後に行なったアンケートの結果を通して CEFR 研修の意義 CEFR が教師にもたらすものを考察したいと考えている 2 研修形態 この研修は 2009 年 5 月パリで開催されたフランス日本語教師会主催の CEFR と学習オートノミー に関する 2 日間の研修会の一部で 1 日目の CEFER 概論に続いて行なわれ 178

189 た 3 時間のセッションである まず このセッションをデザインするにあたり どのような形態にするのか検討した 研修会のテーマの一つは CEFR を実際の教育現場に取り入れていく CEFR を個々の環境 教育現場に文脈化させていく であり 研修に求められているのは 単に CEFR の知識 情報を提供することだけでなく 個々の教師の 気づき と それによってもたらされる 行動の変容 を促すことではないかと考えた 廣瀬他 (2000:50) は ワークショップを 教える 教えられる という関係で学ぶのではなく 学習者が積極的に他の学習者の意見や発想から学ぶ手法 と定義している さらに 学習者が それぞれ異なる知識や経験を持ち その相互発信を通して学習が進められ 行動変容へと向かう と考え そこでの学習は 一人ひとりの変容をもたらすとともに 創造的な活動にもつながる と述べている ここでの学習者 学習という語は そのまま参加者 研修と置き換えることが可能であろう また 中野 (2001:11) でも参加体験型のグループ学習であるワークショップは 体験による気づきがあり その解釈と共有を通じて 次の行動に向かう としている 以上 研修会のテーマ ワークショップの意義から考えて 今回の研修にワークショップの形式を採用することとした 3 ワークショップの参加者と目的 次に ワークショップの目的を考えるに当たり フランス日本語教師会が行なった事前ア ンケートから参加者について検討した 回答者数 50 のうち CEFR を知っているか とい う質問に対して よく知っている (3) 知っている (25) と 56% が肯定的に回答し たが 使用という点では CEFR の中でも特に使用される共通参照レベルでも いつも使用 (0) よく使用 (11) あまり使用しない (10) ほとんど使用しない (7) 全 然使用しない (22) という回答だった そこで CEFR という言葉や概要は知っていたとしても実際の現場への適応には遠い と分析し 以下のように目的を設定した 実践例から CEFR 文脈化の流れを理解しワークショップで教育実践への具体化を体験する 各参加者に様々な 気づき を促す 各教育現場での文脈化実践への第一歩となる 4 CEFR の文脈化 ボトムアップ トップダウン CEFR の文脈化とは何か を提示するため CEFR の文脈化について考察した その結果 この文脈化には ボトムアップ と トップダウン の 2 つの型があると考え 次のように定義した 前者は 使用教科書を出発点として その中の指導項目を Can-do 記述で設定することで自らの授業と CEFR を結び付けていく文脈化の方法 後者は CEFR の理念を理解し 複数の文脈化を重ねながら教室活動へ結び付けていく文脈化の方法である ( 図 1) 本ワークショップでは 下記の理由から トップダウン 型で行なった 179

190 ボトムアップ CEFR Can-do 記述 教科書 教案 トップダウン 図 1 文脈化の 2 つの型 CEFR Can-do 記述 教科書 教案 1 ワークショップの目的は 理念的で汎用性 抽象度の高い CEFR をどのように文脈化していくかを理解することである そのためには CEFR から出発して全体の流れを知る トップダウン の視点が不可欠である 2 参加者は様々な教育環境をバックグラウンド に持っているため グループワークの際 共通 の学習者像 教室像を持ちにくく ボトムアッ プ のやり方では共通の土台を作るまでにかな り時間を要してしまう 一方 トップダウン の場合は 教授経験 使用教材 及び 組織内の役割 ( カリキュラムデザインや評価方法の決 定に携わっているか 或いは 授業担当が中心なのか 等 ) が異なってもグループワークが比較的簡単である 5 ワークショップの流れ ワークショップは図 2 の様にデザインした 1 1CEFR を教室 教育現場に取り入れるとは 1 CEFR 教室問題意識の共有どういうことか その流れと問題意識を共有 2 CLT の実践例実践例の提示 する 2CEFR の文脈化を行なっているベルギー ルーヴァン市にある現代言語センター ( 以 下 CLT) の実践例を見て具体的にプロセス 3 年間計画表作成 教案作成体験 を理解する 3 文脈化の中の 2 つの活動から一つを選び 4 ポスター発表 共有 グループワークで体験する 4 各グループで作成し成果物を共有する 図 2 ワークショップの流れ 上記の流れの中で 2で実践例を提示した理由は 所属機関や対象学習者の異なる参加者がワークショップで実際に CEFR の文脈化のグループ作業をしていく際 議論や活動を進めていくためには CEFR 文脈化というものの共通理解が必須条件であると考え 2 たからである 従って すでに CEFR の機関への文脈化を行っている CLT の実践例から文脈化の全体的な流れやイメージをつかみ 参加者が共通認識を持てるようにした 6 ワークショップの内容 問題意識の共有 2 実践例の提示 ワークショップでは まず CEFR の文脈化とはどういうことか を確認し 次に CLT の実践例を紹介しながら 文脈化は CEFR から直接教室へ結びつけるのは困難で いくつかの文脈化の段階を経て行なわれる という流れを示した ( 図 3) 180

191 CEFR 文脈化 1 共通 カリキュラム 言語別カリキュラム 文脈化 2 教案 教室 試験文脈化 4 試験 文脈化 3 年間計画表 評価基準 それによって問題意識を共有し 具体的に文脈化を理解するために CLT の実践例を参照しながら参加者一人一人がどの段階の文脈化に係わっているのかを考えた そして その後のグループワークでは 文脈 化 3 の 年間計画表 作成と文脈化 4 の 教案 作成という 2 つのタスクを準備し 各参加者は自分の CEFR 文脈化との係わりや関心を考えながら どちらかのタスクを選択し 作業を行った 図 3 文脈化の流れ 体験 : 年間計画表作成 A2 B1 言語 文法 言語 文法 活動 語彙 活動 語彙 私的領域 Can-do 指導項目 Can-do 指導項目 公的領域職業領域教育領域 Can-do 指導項目 図 4 年間計画表ワークシート 文脈化 3 の年間計画表作成をシミュレーションするグループワークでは A2 B1 レベルに関して CEFR (2004:48-49) の第四章 表 5 言語使用の外的コンテクスト を参照しながら 私的領域 公的領域 職業領域 教育領域 について具体的な言語活動を考え Can-do 記述で記入していった その後 それができるために学習者が知っておかなければならない文法項目や語彙についてグループで考えていき 表を完成させた ( 図 4) 体験 : 教案作成 言語 レベル 学生数 授業テーマ ( 言語活動を記載 ) 到達目標 (Can-do 記述で記載する ) 教材 ( 使用教科書 教材の記載 ) 図 5 教案作成ワークシート 文脈化 4 の教案作成シミュレーションでは CLT の教案のフロントページを用いて ( 図 5) 下記の手順で教案を作成した 1 グループで CEFR4 章の口頭相互行為活動の 6 項目の例示的尺度から一つの項目を選ぶ 26 つのレベルの中から A2 または B1 のレベルを選択し 例示的尺度の Can-do 記述文を参照しながら そこに該当する言語行動考え 具体化する 3 授業テーマ 到達目標を言語活動 Can-do 記述で記載し その授業目標にあった活動を考える 7 ワークショップ終了後アンケート このワークショップを自己評価し 今度の課題を考えるため ワークショップ直後にアンケーを行った 参加者 47 名中 有効回答数 42 名であった 181

192 質問項目は次の 6 点である 以下 この項目に沿ってアンケート結果を検討する 1. CEFR 研修参加の有無 2. ワークショップで印象的だったこと ほかと異なっていたことは何か 3. CEFR の文脈化が理解できたか 4. 明日からの教室活動に役立てたいことは何か 5. ワークショップで残った疑問は何か 6. 次回はどんな研修に参加したいか 7.1 CEFR 研修参加経験の有無 有効回答数 42 中 CEFR 研修の参加経験がない と答えた人が 28 名 (33.3%) 参加経験のある人の中でワークシップ型研修の経験者は 3 名 (7.1%) であった 7.2 ワークショップで印象的だったこと ほかと異なっていたこと下記のように比較的肯定的な意見があげられた 今まで参加したものは講義 研究発表で 今回はワークショップだった 実践例の紹介が印象的で 文脈化の理解に役立った 説明から活動の流れが具体的でよかった グループワークによって教案 カリキュラムを現場にひきつけて考えられた 文法項目からではなく 場面 タスクから指導項目を考えることを体験した CEFR の目的 ねらいがわかった 前述の 3 ワークショップの参加者と目的 で このワークショップの一つの目的として 気づきを促す ことを挙げたが そこに係わると思われる次のようなコメントがあった 参加者は印象的だった点として 文脈化の難しさ への気づきを挙げている 本で分かったつもりだったが 実際に作業して 簡単に片付けられないことに気づいた CEFR の能力記述文を活動と結び付ける際の 活動の多さ 多様性に気づいた それに文法項目 語彙を結びつけることは大変な作業だと気づいた この 気づき のコメントから ワークショップによって CEFR の文脈化が 頭での理解 具体的な体験 となったことが伺える この 難しさへの気づき は 現場に帰ってから CEFR を文脈化していく上で 肯定的に作用するものではないかと考える 7.3 CEFR の文脈化が理解できたか 42 名中 37 名 (88.1%) が よくわかった 少しわかった と回答し 目的は達成できたのではないかと思う 研修経験があった参加者とない参加者に分け 図 6 に示す a B C あまりわか D 全くわから E よくわかった 少し分かった らなかった なかった 未回答 研修経験有 研修経験無 図 6 CEFR の文脈化が理解できたか 回答 182

193 しかしながら 下記のようなコメントもあり 説明は分かったと思うが実現化には時間と試行錯誤が必要なように思える (a の回答者 ) CEFR の教案への大きな流れは理解できたと思うが (b の回答者 ) 咀嚼してみたい (e の回答者 ) 頭で理解するだけでは実践には不十分であることを参加者も感じていることが伺える 7.4 明日からの教室活動に役立てたいことは何かこの項目に対する回答は 大きく次の 5 点にまとめられる 1) 教案作成 Can-do を意識した教案 練習の作成 授業目的をはっきりさせて授業を行なう 2) カリキュラム作成 目標設定のし方 同僚との共通プログラムの作成 3) 学生の評価 学習者のレベルチェック 生徒に今習っている学習項目が到達目標のどの地点あるか示すことが出来る 4) CEFR の理解 A1 A2 B1 B2 のつながりを意識した 実際の授業が CEFR にどのように対応するかという視点を得ることが出来た 5) 教師の意識変化 同じレベル 科目を教えている同僚と共通目標 判断基準が共有でき 意識化できること 日本語を教える際の全体像がつかめた タスクから考えるトップダウン式でいくと教科書から考え直さなくてはいけないこと 特に 5 点目の教師の意識変化に関するコメントからは ワークショップが教師の内省のきっかけとなり 行動変容をもたらす予兆のようなものが感じられる 7.5 ワークショップで残った疑問は何か 依然として CEFR に関する疑問があった 更に グループワークの限界 及び 文脈化を実践する際の不安に関するコメントがあった これらのことは 今後の課題として より現実的な研修が求められていることを示しているのではないかと思われる 1) CEFR について 記述の曖昧さと解釈可能性の範囲 領域 の定義 レベルの区切り 2) グループ作業の限界 架空グループの設定だったため具体性に欠ける 自分の作った教案の有効性 3) 文脈化実現への不安 183

194 カリキュラム作成時 言語活動をどこまで広げるか 機関のカリキュラム 教科書との両立 一人の教師ができることの限界 7.6 次回はどんな研修に参加したいかこれは全項目の裏返しになるが 次の 2 点にまとめられる 1) CEFR 理解を深める研修 他の例示的尺度が分かるようになるための活動 2) 同様のワークショップ 技能別ワークショップ 試験問題作成ワークショップ 教科書作成ワークショップ JF スタンダード 新日本語能力試験との比較研究 2 点目の 同様のワークショップ という意見は最も多かった テーマも上記のように具体的に記載されている つまり CEFR の理解を深め より実践に近いワークショップをすることで前項目の疑問点がある程度解消され 文脈化が進められるのではないかと考えられる 8 本ワークショップの問題点と今後の課題 アンケート結果を参照して 本ワークショップの問題点と今後の課題を見ていきたい 1) 具体性にかける テーマを絞り込んだワークショップの開催架空グループのシミュレーションだったため 具体性に欠ける印象を与えたこ と 今後 テーマを絞り込んだワークショップをしていくことが課題となる 2) 教育現場との距離 ボトムアップ トップダウン 両方向からのアプローチ ボトムアップ活動が紹介だけに止まってしまったことから 現在使用している教科書との距離を感じてしまう参加者がいた トップダウン ボトムアップ両方向からのアプローチを体験できるのが理想であろう 今回も少なくとも ボトムアップに関して もう少し違う角度からの説明を加えるべきだったと思う 3) 成果物に対するフィードバック不足 共有の時間を増やす 共有の時間が少なく 成果物の有効性を参加者が確認する時間がなかったこと 違うグループの A2 の教案 または 違うグループの異なる領域の B1 のカリキュラムが 同じレベルであるかどうかなどの検証する時間が不十分だった 今度のデザインでは共有の時間を長めに考慮する必要性があると思う 4) 使用した CEFR の領域 例示的能力記述文に関する説明不足 事前課題として提示 使用した CEFR の表などに関して参加者全員が完全に把握するまでの説明ができなかったこと 事前課題などの配慮をしていくことが課題である 184

195 9 本ワークショップの意義 最後に 本ワークショップの意義に触れたい 3 で述べたように 本ワークショップでは 各参加者が教育現場で CEFR の文脈化を実践するための第一歩となることを目的としているが それら行動変容を促すには 知識 情報だけではなく各人の 気づき が不可欠である 実際 参加者の 気づき という観点でアンケートを分析したところ 下記のような回答が抽出された CEFR を知ることにより日本語を教えるときの全体像がつかめた 文脈化の手順が大体わかった カリキュラムがどんなものか違う目で見ることができるようになった 授業と CEFR の結びつきが明確になった 同僚との到達目標の共有が可能ということがわかった これらの気づきから CEFR の文脈化の流れを理解し 体験する この理解 体験が CEFR 文脈化実現への第一歩となる という本ワークショップの目的を達成し得たのではないかと考えている 更に 教師が CEFR の理念 教育観を理解し プログラム 教科書 教材 教案作成など様々な文脈化を通して発信していくことは それだけにとどまらず 他の肯定的な要因を生み出していると思う それは 従来 各教師が行なってきた研究 教育実践は同種の所属機関 同じ指導言語の教師と意見交換される傾向があったが CEFR を通じて 全レベルの日本語教師 または 指導言語に限らない全言語の言語教師と 言語教育理念 方法論を語り 知見を共有しあう共通言語を得たことである これは今後の言語教育の大きな発展の糸口を意味するのではないかと考えている 注. 1 本ワークショップの流れ 内容に関しては 近藤 櫻井 (2010) に詳しい 2 CLT の実践の詳細は櫻井 ( 印刷中 ) に詳しい < 参照文献 > 国際交流基金 (2009) JF 日本語教育スタンダード試行版 国際交流基金. 近藤裕美子 櫻井直子 ( 印刷中 ) 日本語教育現場での CEFR- 実践例と教案 年間計画表作成ワークショップ フランス日本語教師会研修会報告書授業がかわる! CEFR と学習者オートノミー フランス日本語教師会. 櫻井直子 ( 印刷中 ) 言語教育機関における複言語主義 - ベルギーの成人教育機関での CEFR 文脈化実践例からの考察 - 複言語 複文化主義とは何か ヨーロッパの理念から日本における受容 文脈化へ リテラシーズ, くろしお出版. 中野民夫 (2001) ワークショップ 新しい学びと創造の場 岩波書店. 廣瀬隆人他 (2000) 生涯学習支援のための参加型学習の進め方 ぎょうせい. 吉島茂 大橋理枝 ( 他 ) 訳 編 (2004) 外国語教育 II 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment 朝日出版社. 185

196 日本語教育の文脈化を考える 市民社会における plurilingualism/pluriculturalism 概念の理解と CEFR 山川智子東京大学大学院博士課程 要旨 英語 ドイツ語 フランス語などのいわゆる ヨーロッパ言語 とは言語的に距離の離れた 日本語 をヨーロッパにおいて教授するということはどのような意味をもつのであろうか その際に CEFR はどのように解釈され 活用されると効果的なのであろうか 本稿では 日本語教育の文脈化を考えるにあたり CEFR が作成された背景にある社会事情や plurilingualism/pluriculturalism 概念をめぐる議論をあらためて検証したい さらに ヨーロッパ市民社会における欧州評議会の言語政策研究の意義を 市民社会論の知見を借りながら 市民社会 公共性 という概念を援用しつつ考えてみたい ヨーロッパ市民の言語学習に対する意識改革の必要性 および plurilingualism/pluriculturalism 概念が提唱された背景を確認し ヨーロッパにおける日本語教育を位置付けたい キーワード 欧州評議会 民主的市民性 plurilingualism/pluriculturalism( 複言語 複文化主義 ) 市民社会論における言語政策研究 ヨーロッパにおける日本語教育の文脈化 1 はじめに ヨーロッパにおける日本語教育の文脈化を考えるにあたり ヨーロッパの言語政策をリードする欧州評議会の理念および活動を振り返りたい 欧州評議会の言語政策に関する活動成果の一つとして 欧州言語共通参照枞 (Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment.)( 以下 CEFR と略す ) という文書の公開があげられる CEFR は 言語教育の実践研究に向けて活用されはじめているのは周知のとおりである CEFR はヨーロッパ言語を対象としており この文書の中で提唱されている plurilingualism/pluriculturalism( 複言語 複文化主義 ) 1 という考え方は ヨーロッパ言語を念 頭に置いて生み出された概念であることをまず確認しておかなくてはならない ( 本稿では 議論を分かりやすくするために plurilingualism/pluriculturalism 複言語 複文化主義 という 二つの概念のうち plurilingualism 複言語主義 に焦点をあてることにする ) しかし 言 語教育の理念を議論する際には 日本語 などの 非ヨーロッパ言語 の教育においても 参考にすることができる その理念とは 言語学習から 国民国家 という枞組みを取り払 い 学習者である 個人 を 社会的に行動する者 と認識する姿勢である 学習者が社会 生活の中で課題を遂行していく存在であることを表明する 行動主義的言語習得 という考 え方は 政治的役割を果たす数々の要素の一つとして 市民のための言語教育 を位置づけ ようとする欧州評議会の意図に基づくものである 186

197 複言語主義 という ヨーロッパで生み出された考え方を ヨーロッパにおける日本語教育の現場で活用する際にはどのような発想が必要なのであろうか また 日本語 という言語の枞をこえ さまざまな言語の教育との連携をはかる際に 複言語主義 はどのように認識されることが望ましいのであろうか こうした問題意識を持って 欧州評議会の活動を振り返り CEFR の理念や役割 複言語主義 について考察したい 日本語教育 への CEFR の応用を考える際に 日本語教育 をまず広く 言語教育 という枞組みにおいて位置づけてみたい そのことにより 欧州評議会が目指す言語政策の方針に照らし合わせ ヨーロッパでの日本語学習 教育を支えるため文書 CEFR の存在感が大きくなると考えている 2 市民社会 における言語教育政策研究 欧州評議会の言語政策部門では 市民の日常生活における ことば に対する姿勢や 言語学習について様々な提言を行い 言語政策が目指すものとして次の五つの目標を掲げている 1 複言語主義 (plurilingualism) 2 言語的多様性 (Linguistic Diversity) 3 相互理解 (Mutual Understanding) 4 民主的市民性 (Democratic Citizenship) 5 社会的結束 (Social Cohesion) これらのなかで 民主的市民性 が言語政策にどのように関わるのかが これまであまり議論されてこなかった それは 民主的市民性 という概念が抽象的で 網羅する範囲が広く 言語政策研究だけで論じきれないという事情があるのではないかと考えられる この 民主的市民性 をさらに深く理解するためには 市民社会論からの知見などが参考になるであろう 市民社会論と言語政策研究を結びつけるものとして たとえば 言語的公共性 という概 念を提唱したイ ヨンスク (2000) がある 公共性 についての議論が活発に行われている中で イ ヨンスクはフレイザー (1999) が唱えた 公式の公共性 の支配を常時監視 する 下位の対抗的な公共性 (subaltern counterpublics) の概念を言語の次元に応用した 言語的公共性 という概念が生み出されたのは 公用語が 公式の公共性 を独占し 社会 を画一的に規制することのないように 公用語以外の言語によって 対抗的な公共性 をつくりあげる必要がある ( イ 2000: 347) からである イは 社会活動が特定の言語によって 独占されないような 対抗的な公共性 を言語に固有の次元でつくる必要がある ( イ 2000: ) と主張する ここで 複数の言語の 言語的公共性 を認めることで社会の健全さ が保たれ 共生への新たな可能性が開かれる という考え方が示された こうした研究が行われるようになった背景には 1990 年代以降 人権 の中のひとつの権利である 言語権 意識が世界的に高まってきたことがある 言語権は 人々の日常生活に密接に関わってくるものであるので 市民社会 という視点からの考察が必要になるのだ 少数言語の維持 復興という視点から CEFR を再検討する作業がはじめられており 今後の研究に注目していきたいと筆者は考えている 3 多言語社会 ヨーロッパにおける言語教育という視点から 3.1 言語意識の高さ ヨーロッパの特徴は 言語的多彩さ ( 田中 ハールマン 1985) であり 書き言葉における複数の有力言語の存在がそれを際立たせている ( 原 2003) 一人ひとりの市民の言語 187

198 使用の状況を ユーロバロメーターの統計から探ってみると ヨーロッパ市民の約 7 割の人々が母語に加えてもうひとつの言語を話せるべきであると考えている とはいえ 実際に話せる人は約 5 割の人々で 母語以外の二つ目の異言語を話せる人は 3 割に満たない (European Commission 2006) つまり 複数の言語を学習することの重要性を認識する一方で 異言語学習の難しさを実感している人が多いのが ヨーロッパの特徴である だからこそ 異言語を話す他者との交流に対して何らかの工夫が必要であることを認識しているのがヨーロッパ市民の言語意識の高さにつながっていると言えよう 3.2 欧州評議会の言語政策の特徴 欧州評議会は ヨーロッパにおける 民主主義の学校 としての役割を担い ヨーロッパ アイデンティティを育むには何が必要かを考える国際機関である 近年注目を集めている欧州評議会の言語政策であるが EU の言語政策との違いを確認することで その特徴をつかんでみたい これら二つの機関の言語政策の大きな違いは 個人 に対する言語政策の対応の仕方である EU が言語政策に関する部局を創設し 本格的な活動を公にしたのは 2007 年のことである 長期的に活動成果を見守る必要がある これまでの EU の言語政策を概観すると 加盟国の公用語をすべて EU の公用語としたこと また すべての文書を EU の公用語とされている言語に翻訳すること 公式会議における通訳を調整することなど EU 機関内における多言語主義に焦点が当てられていた そして 市民一人ひとりの言語使用に関しては注意を向けることが難しいという事情があった それに対して 欧州評議会のほうは 1950 年代に活動がはじまった頃から 社会 における言語のあり方 言語状況のみならず 個人 がどのように言語を用いて 社会 で生活していくか ということに関心をおいている このように 個人 の視点に立ったとき はじめて 少数言語の話者の言語使用の状況に焦点を当てることと ヨーロッパ アイデンティティ 育成のための言語教育が矛盾することなく 議論を進めていくことができる この 個人 の言語使用に注目していこうという決意を表した考え方に 複言語主義 があるのである これが社会における言語の存在に焦点をあてている 多言語主義 (multilingualism) とは異なる考え方を表現していることについては 山川 (2004) においても考察した EU では これら二つの概念を 多言語主義 という一つのことばで表現しようとしている これら二つの機関の方針を比べてみても 欧州評議会がヨーロッパ市民一人ひとりの言語使用や言語に対する意識変革を迫ろうとしていることが読み取れる 3.3 当たり前の発想の意識化 言語教育において馴染みのある概念となりつつある 複言語主義 という考え方は 近年になって突然に生み出された特別な概念というわけではない 複言語主義 はヨーロッパ市民が日常生活の中で実感している 当たり前の発想なのである 欧州評議会が行ったことは その発想を市民に意識化させるために 複言語主義 という名前をつけたことである 複言語主義 概念が 日常生活における言語使用を考える際に いかに当たり前の発想であるかを考えてみたい 複言語主義 は 他者 との交流の際の心構えを問いた考え方である ことば について論じているので 他者 とは 自分と異なる言語を話す人が想定されることが多い 188

199 が 自分と同じ言語を話している人に対しても当てはまるのである CEFR にも 母語話者であろうと異言語学習者であろうと 二人として完全に同じ能力をもったものはいないし 同じ学習の道をたどったものはいない (CEFR: 17) と記されている この記述からも分かるように 同じ言語を話す者同士の間でも ことばの使い方 表現の仕方 話し方や態度に配慮しながら交流することの重要性を意識付けてくれる また 他者 と上に書いたが これは 自分の中の 他者 との 交流 にも当てはめることができる 自身のことを自分で完全に理解することも難しければ そのことを完璧に表現することも難しい それゆえ 一人ひとりの市民が 個人として自立的に考えることの重要性を改めて考える契機が必要となる さらに 複言語主義 は 必要に応じて臨機応変にことばを使い分けようとする 態度 を重視する 話者の母語や 話者がすでに学習した言語 もしくは学習したとまではいかなくとも少しでも知っている言語の知識を活用して 話者が直面している課題を遂行するという状態に注目した考え方である このように 複言語主義 とは 自身の考えを内省し 他者との関わりを考えさせてくれる問題発見的な考え方なのである このように 複言語主義 を具現化する個人が集まった社会が 多言語主義 を目指している ということもできよう 3.4 CEFR が目指すもの CEFR には しかできない という否定的な能力ではなく ができる という肯定的な能力の記述がなされている 肯定的な記述は 否定的記述よりも工夫が必要である たとえば 普通の速さの会話は理解できない という否定的表現を肯定的にすると 相手がゆっくり繰り返し 言い換えたりしてくれ また自分が言いたいことを表現する際に相手が助けてくれるのならば 簡単なやりとりをすることができる というような表現になる ( 吉島 2007: 69) できる ための環境設定を具体的に明示する必要がある 手間がかかるが 学習者と教員が言語能力に関する評価の基準を共有することで CEFR の目的の一つ 透明性 を満たすことになるわけである ( 吉島 2007: 69) この肯定的表現を目指す背景には 生涯学習を推進しようという欧州評議会のねらいがある 学習者の動機付けを高め 言語を使用する場面での具体的な条件を明確にすることで 学校教育を終了してからの学習に弾みを与えようとしている この 行動主義的言語習得 は 学習者を社会的存在と認識し 学習者が社会生活の中で課題を遂行していく存在であることを示している ( 山川 2008) AJE 国際交流基金 (2005) を参照しながら CEFR が抱える課題を考えてみたい ひと つは 抽象的な記述をどう解釈していくかということである もちろん抽象的であることは 決して否定されるべきではない それは 個々の状況に応じて臨機応変に解釈できるという 利点があるからである とはいえ 毎日の授業の準備をする現場の教員が参照するためには より読者にわかりやすく改善した出版物を出すことと共に CEFR をじっくりと読み込み 理解した研究者が教員養成や教員研修の場で CEFR を広めることが必要である (AJE 国際交流基金 2005: 42) という指摘がなされていることに注目したい もうひとつは 言語 能力を異なる地域で相互に承認することが本当に可能なのかという 本質的な 疑問にどう 対応していかなくてはならないか という課題があげられる これも協議を重ねながら 当 事者同士で互いに接点を見つけあうことが求められている この接点を相互に見つけ合おう とする行為そのものが 複言語主義 の考え方にもつながるのでは 189

200 ないかと考えている ( 山川 2006) 4 CEFR が社会に与えたインパクト 2 ヨーロッパにおいても ヨーロッパ以外の地域においても 言語学習 教育の分野では CEFR がいわば象徴的な存在になりつつある ヨーロッパ社会では その目的のひとつに ヨーロッパ アイデンティティ 育成のための言語教育 異文化理解教育に役立たせることも含められている この ヨーロッパ アイデンティティ 育成には 言語教育のほかに歴史教育も重要な役割を果たしている 国民国家意識への固執からの脱却を目指すため 言語教育だけでなく ヨーロッパレベルでの共通の歴史認識を育む必要もあるわけである 言語教育の分野で象徴的な文書が CEFR であるとすれば 歴史教育の分野で象徴的な文書のひとつが 独仏共通歴史教科書 3 であろう この教科書は ドイツとフランスの高校生たちの発案がきっかけとなり 次のような経緯を経て作成されたものである 2003 年 1 月に 独仏友好条約 ( エリーゼ条約 ) 調印 40 周年を記念して 青少年議会がベルリンで開催され 両国の高校生たちが参加した その際 独仏の和解を進めるため 両国の生徒が同じ内容の歴史を学ぶことができるように 共通の歴史教科書の作成が提案された 当時のシラク大統領とシュレーダー首相はこの提案を支持し 両国の歴史研案 作成という 2 成された このようなわずかの歳月で 共通教科書の作成が可能になったのは 欧州評議会の長年にわたる歴史教育政策 言語教育政策に関する活動成果が大きく影響していると考えてよいであろう 戦争再発防止のための言語教育は歴史問題と切り離して考えることは不可能である CEFR は欧州評議会の近年の活動成果であるが この文書の最大の目的はヨーロッパの平和構築である その射程は広い CEFR の作成段階から どの地域で学習しても そこで計られる言語能力が別の地域でも有効となるような工夫がなされていたが CEFR 公開後 ある地域において出された言語能力認定を まだまだ課題を抱えてはいるものの 他地域でも通用させようという動きがでてきた そのため ドイツやフランスの若者が 交換留学をはじめ 国際交流を活発に行いやすくなった このように多くの要因が絡み合っているのである 本稿は ヨーロッパにおける日本語教育を考察するものであるが ここで少しだけ 日本社会における CEFR についても触れておきたい 実は 地理的 歴史的背景の異なる日本にも CEFR は少なからず影響を及ぼしはじめている とはいえ CEFR の日本における受容は 単一言語主義的な発想に基づいている 皮肉なことに この文書の鍵概念である 複言語主義 の発想が抜けた状態で受容されつつある その理由として考えられるのは 日本における受容に際して 戦争再発防止 平和の構築のための言語教育といったヨーロッパでの理念が いまだ十分に理解されていないことが考えられる CEFR は 独仏共通歴史教科書 と同様に ヨーロッパの平和構築にむけての理念を具現化した象徴的な文書であり 現場での活用はヨーロッパにおいてもいまだ模索中である そのためには理念がはっきりしないまま 現場での活用に向けた取り組みを進めることに対する違和感がもっと強調されても良いと考えている 190

201 5 むすびにかえて CEFR に関する様々な研究の層が厚くなってきた今こそ 改めて原点に戻って考えていきた い 日本語 という枞をこえ 広く 言語 という観点から そして地域を問わず 普遍的な理念と目的を整理することで CEFR 研究に弾みがつくのではないかと考えるからである ヨーロッパ市民にとっての ヨーロッパ アイデンティティ 育成のための一つの試みとして作成された CEFR を 非ヨーロッパ言語である 日本語 の教育 さらには別の言語の教 育に活用しようという試みについて大局的な視点から考察する契機を与えてくれたのが CEFR である このような視野に立つと 今後の課題も見えてくる 言語教育に関する議論は 授業ですぐに活用できることに関する議論の他にも 大局的な視野に立ち 長期的な展望について考えを交差めぐらすことも必要だと筆者は考える 欧州評議会の言語政策は 半世紀以上もの年月をかけて様々な研究者が議論を重ねてきた成果の上に成り立っている ヨーロッパにおける 日本語教育 における議論の際にも 日本語教育 の歴史的な変遷や思想をもういちど確認するという作業も忘れられてはならないと考えている 戦後のヨーロッパが欧州評議会を発足させ 近隣諸国との交流を図るために言語政策研究に力を入れた取り組みを振り返ることは その際にも有効である ヨーロッパにおける日本語教育と 日本の植民地での日本語教育 ( 国語教育 ) についても 歴史的に位置づけること さらに 様々な地域における日本語教育の歴史について知見を深めていくことを筆者の今後の課題としたい 注. 1 plurilingualism の日本語訳に関しても議論を重ねていく必要があると考えている ( 特に pluri- の部分を 複 とするか 複数 と訳すか 活発な議論が望まれる ) 本稿では 広く用いられている 複言語主義 という訳語を用いることとする 2 この節の記述は 山川 (2009) の該当箇所に加筆 修正を加えたものである 3 Geiss, Peter und Guillaume Le Quintrec (Ed.) (2006). Deutsch-französisches Geschichtsbuch. Gymnasiale Oberstufe. Histoire/Geschichte. Europa und die Welt seit Leipzig :Klett. < 参考文献 > イ ヨンスク (1996) 国語 という思想 近代日本の言語認識 岩波書店. イ ヨンスク (2000) 国語 と言語的公共性 三浦信孝 糟谷啓介 ( 編 ) 言語帝国主義とは何か, pp , 藤原書店. 糟谷啓介 (2000) 言語ヘゲモニー < 自発的同意 > を組織する権力 三浦信孝 糟谷啓介 ( 編著 ) 言語帝国主義とは何か, pp , 藤原書店. 近藤孝弘 (1998) 国際歴史教科書対話 ヨーロッパにおける 過去 の再編 中央公論社. 真田信治 庄司博史 ( 編著 )(2005) 日本の多言語社会 岩波書店. ザラト, ジュヌヴィエーヴ (2007) 文化リテラシー とは何か 異文化能力の評価をめぐるヨーロッパの議論から 佐々木倫子 細川英雄 砂川裕一 川上郁雄 門倉正美 牲川波都季 ( 編 ) 変貌する言語教育 多言語 多文化社会のリテラシーズとは何か, pp , くろしお出版. 田中克彦 ハラルト ハールマン (1985) 現代ヨーロッパの言語 岩波新書. 橋本聡 (2008) 多言語性をどうマネージメントするか?EU 言語政策の最新動向 大学院メディア コミュニケーション研究院研究叢書, pp , 北海道大学大学院. 191

202 原聖 (2003) ヨーロッパの多言語主義について 日本語教育新聞欧州版 2003 年 7 月 15 日発行, p. 2, EIC Japanese Language College. フレイザー, ナンシー (1999) 公共圏の再考 : 既存の民主主義の批判のために クレイグ キャルホーン ( 編 ) 山本啓 新田滋 ( 訳 ) ハーバマスと公共圏, pp , 未来社. 山川智子 (2004) 複言語主義 (plurilingualism) という概念 そしてそれが生み出された背景はどのようなものだったのでしょうか? 河原俊昭 山本忠行 ( 編著 ) 多言語社会がやってきた 世界の言語政策 Q & A, pp , くろしお出版. 山川智子 (2005a) 欧州評議会が近年提唱する 複数言語主義 概念について 国際理解教育 vol. 11, 2005, pp , 日本国際理解教育学会. 山川智子 (2005b) 多言語共生社会における言語教育 多様な言語への気づきをきっかけに 大津由紀雄 ( 編著 ) 小学校での英語教育は必要ない!, pp , 慶應義塾大学出版会. 山川智子 (2006) 複数言語主義 使用 状況 の可能性 欧州評議会の動向とヨーロピアン スクールの試み WEB 版リテラシーズ 3(1), pp , くろしお出版. 山川智子 ( 2008 ) 欧州評議会 言語政策部門の活動成果と今後の課題 plurilingualism 概念のもつ可能性 ヨーロッパ研究 第 7 号, pp , 東京大学大学院総合文化研究科 教養学部ドイツ ヨーロッパ研究センター. 山川智子 (2009) 市民の ヨーロピアン アイデンティティ 確立を目指す欧州評議会の挑戦と社会に与えたインパクト ワセダ レビュー 第 42 号, pp , 早大文学研究学会. ヨーロッパ日本語教師会 (AJE) 独立行政法人国際交流基金 (2005) 日本語教育国別事情調査 ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages 国際交流基金. 吉島茂 (2007) ヨーロッパの外国語教育を教育観 言語政策から見る 言語政策 第 3 号, pp , 日本言語政策学会. Byram, Michael (2008) From Foreign Language Education to Education for Intercultural Citizenship. Clevedon, Buffalo, Toronto: Multilingual Matters. Council of Europe (2001) Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment. (Council for Cultural Co-operation Education Committee Modern Languages Division, Strasbourg) Cambridge University Press.( 吉島茂 大橋理枝 ( 他 ) 訳編 (2004) 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 朝日出版社.) Council of Europe (2007) From Linguistic Diversity to Plurilingual Education: Guide for the Development of Language Education Policies in Europe. Language Policy Division, Strasbourg. European Commission (2006) Eurobarometer Report. European and their Languages. Special Eurobarometer 243/Wave 64.3 TNS Opinion & Social. Habermas, Jürgen (1990) Strukturwandel der Öffentlichkeit. Frankfurt/Main: Suhrkamp. Kraus, Peter A. (2004): Europäische Öffentlichkeit und Sprachpolitik. Frankfurt/New York: Campus Verlag. Council of Europe (2006a) Plurilingual Education in Europe. 50 Years of International Cooperation. 192

203 ( ) Council of Europe (2006b) Survey on the use of the Common European Framework of Reference for Languages (CEFR). Synthesis of results. December ( ) 193

204 Web コーパスを活用したレベル別例文検索システムの開発と評価 川村よし子 ( 東京国際大学 ) クリスティナ フメリャク 寒川 ( リュブリャーナ大学 ) 共同研究者 : トマシュ エリャヴェッツ ( ヨジェフ シュテファン研究所 ) 要旨 本研究で開発した日本語学習者のための例文検索システムは web 上の膨大な電子情報をコーパスとして活用し日本語学習者のレベルにあった例文提示を可能にしたシステムである 語彙指導には例文の提示が欠かせないが 学習者のレベルにあった自然な日本語の例文を大量に作成するのは容易ではない このシステムによって 学びたい単語や表現を含む自然な例文の検索が容易に行えるばかりでなく 文法的特性や共起関係などについても学習することが可能になる 本システムの評価実験は 日本語母語話者および非母語話者の日本語教師によって行った 評価項目は 1. 各語について十分な量の例文が提供できているか 2. 文として整っているか 3. 意味が通じるか 4. 例文として適切か 5. レベルにあっているかである 評価実験の結果明らかになった問題点に関しては 今後システムの改良を行っていく予定である キーワード 例文検索システム レベル 文法的特性 共起関係 コーパス はじめに 言語教育において 学習者のレベルにあった例文の提示は不可欠である しかもその例文はできるだけ自然な日本語で書かれていることが望ましいことは言うまでもない そこで筆者らはインターネット上の日本語で書かれた情報をコーパスとして用いた例文検索システムの開発を行なった 本稿ではその例文検索システムの概要を述べるとともに 学習者のレベルにあった例文提示が可能かという視点からの評価実験の結果を報告する これまで 日本語学習者向けの 外国人のための基本語用例辞典 ( 文化庁 1975) や 基礎日本語学習辞典 ( 国際交流基金 1987) では 用例を通してその語の意味 用法が理 解でき 文章を書くときにも役立つようにするという基本理念のもとに例文が収録されてい る しかし 辞書編集者による作例も多く それぞれの語が現実にどのように使われている かという使われ方の実状を十分反映しているとはいえない また 品詞情報については 用 例の多い 例解新国語辞典 ( 林編 2007) においてさえ 例えばサ変動詞は 勉強 ( 名 する ) のように表示されているものの 多くは 名詞 の用例しかない また 外国人の ための基本語用例辞典 ( 同上 ) や 基礎日本語学習辞典 ( 同上 ) においても 用例は 名詞 と する動詞 が混在している等 十分な配慮がなされているとは言いがたい 言 語によっては名詞と動詞では明らかに異なった扱いとなるため 学習者のことを考えた場合 双方の用例を提示する必要がある ( 金庭 川村 2008) こうした背景をもとに チュウ太の日本語辞書多言語化プロジェクトチーム ( 川村 2006) では 1) 異なった文化圏の学習者への配慮 2) 品詞分類の異なる言語への配慮 3) 用法 194

205 についての言及 4) 接尾辞的用法への配慮 5) collocation 連語 慣用句等への言及 6) 概念ごとに例文を提示という基準で 日本語学習者のための多言語版日本語辞書の開発をすすめている 例文の単語は 極力日本語能力試験の 2 級レベルまでの範囲の単語を使うようにして 学習者にとってわかりやすい例文の作成に努めている ところが 学習者のレベルにあった 自然な日本語の例文 を意味概念ごとに作成するのは容易ではない また 例文は単に文法的に正しい文であればいいというわけではなく 現実の言語使用にできるだけ近いものにする必要がある 一方 生コーパスから例文を抽出して提示するシステムとして 吉橋ほか (2007) では 単語 文法 構文に配慮した例文表示ツールを開発しているが コーパスが限られているため十分な量の例文が提示されないという問題がある そこで 今回 web 上の電子情報を活用したレベル別例文検索システムを開発することにした 1 Web コーパスを活用したレベル別例文検索システムの開発 レベル別例文検索システムは web 上の膨大な電子情報をコーパスとして活用し日本語学習者のレベルにあった例文提示を可能にしたシステムである 語彙指導には例文の提示 が欠かせないが 日本語母語話者であっても学習者のレベルにあった例文を次々と作り出 すのには困難が伴う また 作例の場合 どうしても不自然さが拭いきれないことも多い さらに 日本語を母語としない日本語教師にとって 例文作成の支援は不可欠である 本 例文検索システムの開発によって 教えたい ( 学びたい ) 単語や表現を含む例文の検索が 容易になるばかりでなく 文法的特性や共起関係などについても調べることが可能になる レベル別例文検索システムの開発にあたっては まず BootCat というオープンソースツー ルを利用し 5 万の日本語のウェブページから構築した 4 億語のコーパス JpWaC (Srdanović ほか 2008) から 1 億語分のデータを抽出した コーパスの解析には 形態素解 析システム ChaSen( 松本ほか 2000) を利用した コーパス中の各単語に 日本語能力試験 の出題基準 ( 以下 出題基準 ) をもとにして 4 級 (Level 4) から 1 級 (Level 1) まで のレベルを付与し 出題基準にない単語は Level 0 とした また 各文にはその文に含まれ る総単語数 レベルごとの単語数および総単語数に占める比率の情報を付与した 次に このコーパスから日本語学習者用例文として適したものを選び出すために 次の条件をすべて満たしたものという基準で文を抽出した 1) 一文の長さが 5 語以上 25 語以下のこと 2) 20% 以上の記号や数字を含まないこと 3) 日本語以外の表記を含まないこと 4) 句点 ( ) で終わっていること 5) 尐なくとも一つの動詞 形容詞 形容動詞 あるいは助動詞を含むこと これらの条件を全て満たした文は 859,416 文 ( 単語総数 13,395,667 語 ) であり これを学習者用例文コーパス ( 以下 JpWac-L2 ) とした 次に この JpWac-L2 をもとに 出題基準に準拠した Level 4(4 級 ) から Level 1(1 級 ) さらに より上級の学習者向けの Level 0 という 5 段階にわけたレベル別コーパスを作成することにした レベル別コーパス作成にあたっては 次のような条件を設定してレベルごとの例文を抽出した 1) 各レベルの例文には当該レベルより上の語句を含まないこと 2) 各レベルの例文には当該レベルの語を 10% 以上含むこと 195

206 その結果 得られたレベル別コーパスの例文数と単語数は 次の通りであった 表 1 レベル別コーパスに含まれる例文数と単語数 レベル別コーパス 例文数 JpWac-L2 に占める割合 (%) 単語数 Level 0 351, ,536,969 Level 1 34, ,470 Level 2 96, ,172,911 Level 3 26, ,979 Level 4 9, ,473 計 519, ,457,802 この表でもわかるように 5 つのレベル別コーパスを合わせた例文数は JpWac-L2 の例文総数の約 6 割 (60.45%) であり 例文コーパスの 4 割近い例文がいずれのレベル別コーパスにも属さないことになる また Level 4 のコーパスに含まれる例文数は 9,830 文のみである 各レベルの例文数がこれで十分かどうかについては 検討が必要である 各レベルの例文数を増やすには レベル分けの条件を緩めればいいのだが 条件を緩めすぎればレベル分けの意味が薄れてしまう そこで 例文検索システムの評価の際には 例文の質とともに 各レベルの例文数についても詳しくみていくことにする 2 レベル別例文検索システムの仕組み レベル別例文検索システムは 入力された語句を含む例文を自動で検索するキーワード検索システムであり インターネット上で利用 ( できる 検索方法や表示形式に関して細かい設定が可能である また コーパスを指定することで 例文コーパス全体からの例文検索か レベル別コーパスからの例文検索かを選択できる 図 1 が検索画面である 図 1 レベル別例文検索システムの検索画面 検索画面の Corpus の欄で 例文検索を行うコーパスを選択する デフォルトでは 196

207 Complete jpwac-l2 が指定され 例文コーパス全体からの例文検索という設定になっている コーパスとしては この Complete jpwac-l2 以外に 上記 Level 4 から Level 0 までの 5 段階のレベル別コーパスが選択可能である Show では 表示する項目の設定を行なう Word( 単語 ) Level( 単語ごとの級 ) Lemma( 辞書形 ) Analysis( 品詞 ) のそれぞれについて 表示 / 非表示の指定ができる Display では 表示内容が 入力語のみ (Word List) か 例文 (KWIC) かを選択する 例文を表示させる場合には ソートの必要の有無とソートの仕方 ( キーワードの左の語か右の語か等 ) を指定できる これによって 入力語の前 あるいは後にどのような語が共起しやすいかを調べることが可能になる 検索したい語あるいは語句は Simple Search か Tabular Search に入力する Simple Search に入力した場合には 入力した語句と完全一致の語句を含む例文が表示さ れる 入力する語句の長さに制限はない 一方 Tabular Search では 連続した 3 語まで の検索語について word( 単語 ) level( 単語ごとの級 ) lemma( 辞書形 ) ana( 品詞 ) を細かく指定できる そのため活用のある語の場合 lemma に辞書形を入れれば その語の すべての活用形を含む例文の検索が可能となる また 例えば入力語の前に助詞がある例文 のみを検索したい場合には 検索語句として 特定の単語を入力せずに 品詞のみを指定 ( 例えば 助詞であれば P.c.g とのみ入力 ) することも可能である ( 品詞の略称が不明 の時には 当該の品詞に属する任意の語を入力して Analysis を表示させれば調べられる ) 図 2 レベル別例文検索システムの結果画面 図 2 が結果画面である ここではコーパスとして 3 級の学習者向け (Level 3) コーパスを選択し 検索語は 慣れる を入力した 例文検索のため Display 欄で KWIC を指定し Sort では Right Context ( キーワードの右の語でソート ) を指定した 3 級以下の語彙で書かれた例文のうち 検索語 慣れる を含む例文は 62 例ある 図 2 ではそのうち 16 例しか示せなかったが キーワードの直後の語でソートがかけてあるので 慣れる がどのような使われ方をするのかがわかる 慣れることだ 慣れるしかない 慣れていた といった表現を抜き出すことができる また Sort で Left Context を 197

208 選べば 慣れる が助詞 に を伴って使われることが多いこともわかる 一方 ここで提示される例文は個別に作られたものではなく コーパスから抽出されているため 前後の文脈が存在している そこで 結果画面の各例文のキーワードをクリックすると その例文の使われていたコンテクストが表示される仕組みにした 例えば 図 2 の 早い英語にもだいぶ慣れたころなのに という文はどのような状況での発話だろうか 母語話者ならそれなりに推測できるが 学習者が前後の文脈を推測するにはかなり高い読解力と類推力が必要となる このシステムを活用することで 例文の前後の文脈を推測した後で コンテクストを表示させて読んでみるという学習方法も可能である ( 図 3) 図 3 例文のコンテクストの表示画面 3 レベル別例文検索システムの評価本システムの評価実験は 出題基表 2 各調査語に対するレベルごとの例文数準の級ごとにランダムに選んだ 10 語 計 40 語を対象に行なった 評価項目としては 1) 各語について十分な量の例文が提供できているか 2) 文として整っているか 3) 意味が通じるか 4) 例文として適切か 5) レベルにあっているか の 5 項目を設け レベル別例文検索システムによって提示された各語の例文に対して 評価を行なった 評価実験の結果 次のことが明らかになった 1) 各語について十分な量の例文が提供できているか 各調査語に対してレベルごとの例文数は表 2 の通りであった レベル別コーパスの場合 各調査語のレベルより下のコーパスにはその語を含む例文は存在しないため 例文数の欄には - と表示した 表 2 で明らかなように 調査語のすべてに対して例文の提示が可能であった 例文が最も尐なかった 再来年 でも 18 の例文を提示することができた 尚 この表で例文数が 2,000 とあるのは 例文が 2,000 以上存在することを示している また 割に / 割りに / わりに 等 異表記のある語は すべての表記について調 198

209 査し合計数を表示した そのため 出来る / できる に関しては いずれの表記も 2,000 以上の例文があり 例文数は 4,000 となっている また 実際の平均値は 例文数が 2,000 以上あるものも存在するため この表で示されたものより多くなる 2) 文として整っているか例文コーパス作成時に 単語数や含まれる品詞等に配慮したため 例文の大半は文とし ての形が整っているが 図 2 の この生活にも慣れたという事 のような体言止めの文も含まれている これは 例文として体言止めの文も重要だと考え 抽出条件 5) で 尐なくとも一つの動詞 形容詞 形容動詞 あるいは助動詞を含むこと とし ~ で終わっていること とはしなかったことによるものであり 簡潔な例文という意味ではそれなりに意味がある ところが 提示された例文が 文としての形は整っていても 単語の切り出しが誤っている場合もある 例えば わりに で検索すると 次のような例文が含まれている 自分を必要以上に良く見せようとしないかわりにお世辞やおべっかを使うのが苦手です しないかわりに が しないか わりに と分析されてしまったためである また 同じ表記で読みが複数ある単語 ( 例 : 表 [ おもて ひょう ] 入れる [ はいれる いれる ]) に関しては このシステムでは区別できないという問題があり 利用の際に注意が必要である 3) 意味が通じるか例文が単独で示されたときに それだけで意味が分かるかという基準で見たときには わかりにくい例文も含まれていた ( 以下 調査語は で囲んで示す ) そう政治力である ( そう が何に対する肯定なのかについては文脈が不可欠) 寂しいやつだの ( の が のー と長音化される終助詞であることが分かりにくい ) こうした文章を理解するには 本システムのコンテクスト参照機能を活用する必要があろう また 意味が通じるかどうかに関しては学習者の語彙力 読解力に負うところが大きく むしろ 本システムをその力をつけるためのツールとして活用するという方法もある 4) 例文として適切か 調査語の例文において 95% 以上の例文には文法上の問題はなかったが つぎのような誤字脱字のある文も提示されていた ( 以下 調査した単語については で囲んで示す ) しかし扉の前の男はその唾またって ドアをふさいでいる ( ミスタイプの可能性 ) 人の話聞く注意力がない ( 助詞 を の脱落 ) 一方 次のような文章もあった このように この国の高層階は解釈している 変換ミスの可能性があり調べたところ この文の前には メヒコ人の過半数が 近代化を旗印としたの運営に満足し 幸福と思い 国の歴史に誇りを感じ 楽観的に未来を見つめている ( 斜体は筆者 ) とあり 上記の 高層階 は変換ミスではなく この文が 日本語の非母語話者によって書かれているため作者の母語干渉が起きている可能性が高いことが判明 した 以上のように 例文コーパスには 誤字 脱字や変換ミスを含んだ文章 さらに 外 国人の書いた文章等が含まれているため 利用の際には注意が必要である また 例文とし て 言語教育には適さない文章 反社会的な文章等が例示されてしまう可能性が 199

210 ある したがって 本システムを 自律学習も可能な言語教育のためのサイトとしてより適したものにしていくためには チェックシステムを整備する等 何らかの対応が必要である 5) レベルにあっているか 本システムでは 単語レベルでみる限り 表 2 で示したように学習者のレベルにあった例文をほぼ全てのレベルで提供可能である しかも 4 級レベルの例文 (Level 4) でも 次のように 作例では考え付かないような面白い例文も存在していることがわかった 人の話は右耳で聞け ( 続きの文章 : パーティーなどで人の話についていけなくてまごまごするような時 右の耳で聞くようにするといい 左に比べ 会話の速い流れについていきやすい ) 一日 3 回 歯を磨く人にも悪い人はいない ( 続きの文章 : 特に意識することのない毎日の生活の営みにその人間の性格なり人格なりが現れるのだ ) ただ 今回のレベル分けは単語レベルのみを考慮したものであり 文型 構文を考慮していない そのため 文型 構文が当該レベルを上回っているものも含まれている また Web コーパスのため くだけた表現や省略形も多い 例えば 4 級の出題基準にある語の 全部 と できる に対して 次のような例文が提示される 全部 例文 : まだ全部読んでませんが (4 級サブコーパス ) 問題点 : い の省略 が の後ろの省略例文 : 全部できなくたって構わない (3 級サブコーパス ) 問題点 : なくたって というくだけた表現 できる 例文 : 問題なくできますよ (4 級サブコーパス ) 問題点 : 問題なく という用法は初級学習者には難い例文 : 出来る人は そういないでしょうね (4 級サブコーパス ) 問題点 : そういない という表現は初級学習者には難しいまた それぞれの単語に複数の意味があり 用法も複数ある場合 分類されている級より上級の意味や用法で用いられている場合もある 果物 例文 : でも 果物屋さん風でもない 問題点 : この例文の 風 は 接尾辞として用いられたもので 意味も かぜ の意味ではなく ~の雰囲気がある という意味であり 初級学習者には難しい また 特に下の級の例文の中には短いものも多く 例えば 4 級のサブコーパスで 全部 の例文を検索すると それも全部じゃない という例文が出てくるが 学習に役に立つ例文とはいえない レベル別コーパスの例文が 当該レベルの学習者に適した例文かどうかに関しては より詳しい調査 特に学習者を対象にした調査を行う必要がある おわりに 本システムの評価実験の結果 明らかになった点は次の通りである 200

211 1 例文数という点からは 本システムでは ほぼ全ての単語に対して 十分な量の例文が レベルごとに提供できている 2 文として整った形のものが抽出できている ただし 検索語に 同一表記で読みが異な る語がある場合 区別できないため すべて例文として抽出されてしまう 3 例文として単独で読んだ場合には意味が分からないものも含まれていた これは前後の 文脈を表示する機能の活用により 意味を確定できる また この機能を生かす形の学習 方法を教育に取り入れることも可能である 4 誤字 脱字を含んだ文章 文法的に誤りを含んだ文章 反社会的な文章等 例文として ふさわしくないものも抽出されてしまう可能性は否定できない これに関しては 何らか の対応が不可欠である 5 現システムは単語のみで例文のレベル判定を行っているため レベル別サブコーパスに より高レベルの文法項目を含む例文も含まれている 学習者用の例文検索システムとして提供できるようにするためには まず 現システムを 誤字 脱字の修正や問題のある例文の削除を行える仕組みを備えたものに改良していく必要がある さらに 品詞情報に関しても細かくチェックできる機能を生かせば 単語ばかりでなく 文法レベルも配慮した例文抽出を行うように改良を加えることも可能なはずである 学習者の自律学習支援のためのツールとして今後も改良を加えていきたいと考えている また 学習に適したシステムが完成した時点で 日本語読解支援システム リーディング チュウ太 に組み入れていく予定である < 参考文献 > 金庭久美子 川村よし子 (2008) 多言語版日本語辞書における用例作成の諸問題 日本語教育方法研究会誌 vol. 15, No. 1, pp.14-15, 日本語教育方法研究会. 川村よし子 (2006) 多言語版日本語辞書編集システムの開発と運用実験 ヨーロッパ日本語教育 10, pp , ヨーロッパ日本語教師会. 川村よし子 金庭久美子 (2006) 国際共同編集による日本語学習者のための多言語版 web 辞書の開発 日本語教育学会春季大会予稿集 pp , 日本語教育学会. グループ ジャマシイ編 (1998) 日本語文型辞典 くろしお出版. 国際交流基金 (1987) 基礎日本語学習辞典 初版, 凡人社. 小林朋幸 大山浩美 坂田浩亮 谷口雄作 太田ふみ Evans,N. 浅原正幸 松本裕治 (2007) 日本語読解支援のための語義毎の用例抽出機能について 言語処理学会第 13 回年次大会 pp , 言語処理学会. 林四郎編 (2007) 例解新国語辞典 第七版, 三省堂. 文化庁 (1975) 外国人のための基本語用例辞典 第二版, 大蔵省印刷局. 松本裕治 北内啓 山下達雄 平野善隆 松田寛 高岡一馬 浅原正幸 (2000) 形態素解 析システム 茶筌 version 2.2.1, 使用説明書 : (2010/3/2). 吉橋健治 傅亮 仁科喜久子 (2007) 学習者に合わせた例文表示ツール CASTEL-J in Hawaii 2007 Proceedings pp , 東京工業大学リサーチリポジトリ. Srdanović, I. & Erjavec, T. & Kilgarriff, A. (2008) A Web Corpus and Word Sketches for Japanese, Journal of Natural Language Processing, 15 (2):

212 日本語で世界を考える 学習者と社会を結ぶ教育実践 新井久容早稲田大学 要旨本稿は 複言語 複文化力 育成という観点から 学習者が自らの視点を通して世界 の問題を考えるということの意味とその方法を 日本の高等教育機関における教室活動を 通して検討する 対象授業では 世界の問題自体ではなく問題の構造に目を向けそれにつ いて語ることを促すインターアクションを繰り返した どこからどのように問題を考えて いくかという視点を定めるとともに自らの主張を明らかにした学習者は その後の教室活 動において自他の認識レベルにまで踏み込むコミュニケーションを展開し 新しい考えな どに対して開くこと 自分の視点や価値観を相対化すること 文化差に対する伝統的 な態度から距離をおくこと など ヨーロッパ言語共通参照枞において 実存 ( 論 ) 的能力 と表現されているものの発現が観察された 日本語教育が単に言語運用能力だけを育成す るものではないという考え方は既に議論されているが その具体例の一つを提示したい キーワード 複言語 複文化力 学習者と世界を関係づける 個人の視点 問題の構造 具象と抽象の往還 1 はじめに 1.1 問題関心 本教育実践の目的 筆者は ヨーロッパ言語共通参照枞 (Common European Framework of Reference for Languages: 以下 CEFR と略 ) が提唱する 複言語 複文化力 を 社会的存在として 自らの言語 文化レパートリーを駆使して未知の言語 文化に対してもコミュニケーションを試み 多様な世界の創造に関わろうとする態度と能力 であると捉えている 多様な人々がコミュニケーションを通して共に世界を創造していく そのために不可欠な能力であると考えているのである しかし その一方で 日本語学習者が世界と自分自身とを関係づけて考えられないことに 問題を感じている そこで ひとが実際に世界と関わっていくために 世界の問題に関する知識だけではなく どこからどのようにその問題を捉えていくかという そのひとなりの視点を明らかにすることによって 学習者と世界 / 社会とを結ぶことを 教育実践の目的としている 本稿では まず 筆者の教育実践が前提としている考え方を簡単に述べ 次に 教室活動 の内容および分析を提示する 分析のポイントは 視点の明確化 と 実存 ( 論 ) 的能力 と の関連である 後者は CEFR の複言語 複文化能力の枞内でコミュニケーション活動に影響 を与えるものとして挙げられているが (5.1.3 実存論的能力 :CEFR112) 筆者は 特に その中の 態度 という項目に着目している 視点の明確化 を図った学習者が 実存 ( 論 ) 的能力 をいかに具現化しているのかを提示してみたい 202

213 1.2 本教育実践が前提としている基本的な考え方 その 1: 問題の構造を考える 本教育実践が前提としている基本的な考え方として 本項の二点が挙げられる 一点目は 問題の構造を考えるということである 自らの視点によって世界を捉えるということは 問 題の構造を考えるということによって可能になる 問題そのものではなく なぜそれが問題であると考えるのかという捉え方を語ることによって その人自身の視点が明らかになる 下敷きとなっているのは トゥールミンと西條の 2 つの考え方である i) Toulmin(2003) 議論の構造 トゥールミン (2003) では ある主張をする際 直接的な証拠である 根拠データ から なぜその 主張 が導き出されたのかを説明する 理由づけ が 論理的で独自性のある議論のために重要であることが強調されている この 理由づけ には個人の価値判断が含まれており 本人も当然視しているため日常的にはほとんど明らかにされることがないという 本教育実践では その部分を個人の視点が反映されたものとして あえて意識化しようとする これは以下のように図式化される ( 新井 2006) 根拠データ data 主張 ( 結論 )claim 理由づけ( 論拠 ) warrant ~ 視点 ii) 西條 (2005) 構造構成主義 西條 (2005) において ひとが見ている現象は 客観的な事実や真実としての現象そのものでなく その人の関心や信念 価値観など 特定の 視点 を通して切り取った構成物であるとされる 今 自分の意識に現われている現象について語るよりも それがなぜそのように現われているのかという構造 つまり 自分がそのような見方をするからそのように現われているのだという そのような見方 の部分を語ることが 個々人の視点を明らかにすることになる これも 図式化すると以下のように提示できる 現象 現象 視点 ( ものの見方 考え方 / 信念 / 価値 ) その 2: 具象と抽象の往還 二点目は 具象と抽象の往還 である 学習者が 考える ため 以下のような抽象的な概念と具体的な事象を行き来しながら問題を検討するという授業の枞組みを作った < 表 1 教室活動における 具象と抽象の往還 > 教室活動具象化往還抽象化 I. 導入 a 個人の経験 具体的な事象 世界 本質観取 203

214 導入 b 関心ある世界の事象 衝突 クラステーマ II. 活動 A 具体的な事象 ( 問い ) 個人テーマ ( 問い ) 主張レポート 個人の主張 ( 答え ) III. 活動 B 個人の経験 具体的な事象 国家と個人 最終討議 抽象から具象へ は 身近な個別の事例から考えるきっかけをつくるという点で有効である 一方の 具象から抽象へ は 情報をより包括的なコンテクストへ参照することにより意味づけをする ( 大澤 2008:88) ということである 個別の例にとらわれすぎない つまり 問題のただ中で問題を考えないという点で有効であると考えられる 問題の構造を考える ためには 抽象化が必要であるが 一般論に陥らないためには常に具体化された事象も参照されなければならないと考えられる 2 教育実践の概要 2.1 授業概要以上のような枞組みをもった教育実践の内容について具体的に説明していこう 対象授業 今回 対象としたのは 2009 年春学期 ( ~7.24) に筆者が担当した 早稲田大学日本語教育研究センター開設の日本語科目 日本語で世界を考える ( 日本語上級レベル ) である 週 1 回 1 コマ 90 分の授業が 15 週実施され 最終的な参加学習者は 11 名であった 目的対象授業の目的は 以下の三点である 1 世界を自らの視点で論じる つまり 世界と自分とを関係づける 2 クラス内外のインターアクションを通して 自分にとって当然であった世界 を見直す 3 上記 12 に必要な能力 つまり コミュニケーション能力を発展させる 2.2 活動概要この授業の内容をさらに具体的に見ていこう 活動の流れ活動の流れは次の通り I 活動導入期 II 活動 A III 活動 B の三部構成である I. 活動導入期 第 1-3 週 : 本質観取 クラステーマ設定 II. 活動 A ( 主張レポート : 問題の定義 / 討議基盤の創造 ) 第 4-6 週 : 個別テーマ設定と主張 論拠の明確化 204

215 第 7-8 週 : 主張の再検討第 9-10 週 : レポート完成 III. 活動 B ( 討議 : 個別テーマの振り返り / 共通テーマの設定 ) 第 週 : 相互自己評価 振り返り第 週 : 最終討議 まとめ 各活動の目的と方法各活動の内容を簡単にまとめたのが以下の表である < 表 2 教室活動の内容 > 教室活動目的方法 I 導入 a 今後の活動の為 世界 の捉え方 1 個人 : 世界から連想するものを書き本質観取について 個々人が感じとってい出す 2 グループ : 類似するものを集るものを語り合うことによって めて共通項でくくっていく 3 クラ 視点の違いと共通性を確認する ス : 話し合い確認 ( 竹田 西 2004) 導入 b 活動 A のため クラステーマ 1クラス : ブレインストーミング 2 クラス を出す (09 春 : 衝突 ) 個人 : 世界の事象について 何になぜ テーマ 関心があるのか をレポートにする (A4 一枚 ) 3クラス : 共通概念を探る II 活動 A 活動 B のため クラステーマ 1 個人 : レポート執筆 クラス ML に主張の枞内で具体的な事象の中から問提出 2クラス : 相互コメント活動 レポート題を出し なぜそれが問題である 3 個人 : 書き直し 再提出 ( 細川 2002) のか 論拠のともなった主張 をレポートの構成 : 主張 (A4 一枚 )+ 主張明確にしていくの再検討 (= 対話 : 四枚 )+ 結論 ( 一枚 ) III 活動 B 活動 A の主張からテーマを出 1 活動 A の各自のテーマから共通討議し話し合う (09 春 : 国家と個人 ) テーマの設定 2クラス討議 3 教育実践の分析 以上のような教育実践の枞組みの中で 今回は 特に 活動 A について考察を加える 問題の構造を考えることによって各自の視点の明確化を図り自分自身の考えを表現することが 他者を認識し 他者との比較によって自らを振り返ること つまり CEFR の言う 実存 ( 論 ) 的能力 につながっているということが 分析資料に現われている 3.1 視点の明確化 まず 視点の明確化 について見ていく 学習者の書いたレポートや 活動 A 終了後の まとめワークシート を参照して 学習者のレポート内容を検討した 問題の構造について考えることによって視点が明確化された 例として 学習者 D が 挙げられる 学習者 D は 利益 国家 個人 という題でレポートを書いた 米国のサブプライムローン問題に端を発した世界同時不況を検討する中で 国際協調を推進し かつ 阻害するもの として国家利益について考え始めた 国家利益とは何か いう問いから 205

216 外交における現実的解決を追求するための要求や理念 である 単一の国家利益を追求することは不適切かつ不可能 であり 国際関係から得る利益のためには 国民から得る信頼など も利益として捉えられるのではないかという答えを出した そして その主張を支えるために 協調を追求しない結果は 自国に跳ね返ってくる という 結局は国家を主体とした利益追求の視点からの理由を挙げている (09 年 6 月 29 日最終レポート ) 具体的な事象から普遍的な問いを出すことによって その事象をより包括的な文脈に位置づけ 本人の 主張 や なぜそう考えるのか という考え方を表現した 問題そのものの描写ではなく それがどのような点から問題になるのかという問題の構造を考え その過程で 国家利益 という学習者 D が重要視する概念に的を絞って主張を展開している 一方 問題の構造について考えるに至らず視点が明確化されなかった 例として学習者 F が挙げられる 学習者 F は 儒教文化圏における教育熱 という題でレポート作成を進めた しかし 東アジア社会の親殺し という具体的な事象から入るものの 学習者 D とは対照的に その事象自体への問いを普遍化できず 東アジアでなぜ親殺しが多いのか で止まってしまう 問いの答えとして学習者 F が述べた 東アジアにおける教育熱が過度のプレッシャーを与えている 儒教の影響があるから という 主張 や なぜそう考えるのか という理由づけは 本人独自の考え方を表わすものではなく レポート執筆段階で本人がもっている 東アジア における事象についての情報を参照したものであった 儒教 は一般的に認められた価値であっても 学習者 F 自身がそれに基づいた考え方を提示しているわけではない 特定の地域 国家が問いの対象にされ 定型化された特定の文化 習慣に学習者の注意が向けられると 本人の視点を通した主張や理由づけではなく情報の記述になる これを 主張 として議論しようとしても 自他の認識の違いが問題になるコミュニケーションには発展しえないのである 3.2 実存 ( 論 ) 的能力 それでは 上記の 問題の構造を考えることによって視点の明確化がされた学習者 が いかに他者と出会い 自分と他者との違いや自分が当然視していた考えを検討していったのかについて見ていこう ここで言う 他者との出会い というのは 活動 A において一旦主張を完成させた後 クラス外で相手を選び自らの主張について 1 時間程度の対話 つまり問題の構造を巡って真剣な議論を行い その主張の再検討を試みるものである 学期終了後 活動 A における対話前の意識と対話中の意識について 学習者 5 名に対して各々約 1 時間ずつのインタビューを実施した (09 年 7 月 31 日 ) そしてその文字化資料を 学習者の認識の変化 という観点から グラウンデット セオリー アプローチを下敷きにした 構造構成的質的研究法 ( 西條 2007) を用いて質的な分析を行った これは個人の意識の変化過程を明らかにするのに適していると言われている 分析の視点に対して説明可能な概念と具体例をデータから取り出していくという作業を繰り返した結果 視点の明確化 がされた場合 他者との出会いへの目的意識 の明確化 および 他者との違い ( 認識上 ) への気づき / 当然視していた考えの再検討 という過程が見られた これらは それぞれ CEFR の 新しい考えなどに対して開くこと 自分の視点や価値観を相対化すること 文化差に対する伝統的な態度から距離をおくこと に相当すると考えられる 本稿では紙幅の関係から 先に挙げた学習者 D と F を事例として提示したい 206

217 < 表 3 授業後インタビュー : 学習者 D/F> 問題の構造を考えることによって個人問題の構造を考えるに至らず個人のの視点が明確化された学習者 D 視点が明確化されなかった学習者 F 1. 他者 D: 私は テーマ ( 国家利益 ) につい F:( 質問項目準備で ) 結構関係ないとの出会て聞きたい やっぱり社会主義と資本ことが いっぱいありましたね 何いへの目主義の人に 国家利益に対する考えがか自分の趣味 ( 笑 ) そういう問題を的意識絶対に違うと思ってたんですが どこ設定して ( 笑 ) が違うかわからなくて それで X さん F: 知りたいことを 何か対話をきに聞いてみたかった っかけで聞くことになって こういうこと ( 主張レポート ) はほんの一部しかない 2. 他者 D:X さんと話した時も 何かやっぱ F:( 相手との違いは ) わからなかっとの違いり違いました 国家利益に対するイメたです 自分が 考えていないです ( 認識ージに対して レポートのことを全然考えてないん 上 ) への D: 国家利益 やっぱり X さんは国家で ( 笑 ) 気づき / 利益より個人個人って感じ F: う~ん どうかなあ 何か私は当然視し D: あの その違いはやっぱり ( 中略 ) こういう 最初この問題を設定するていた考結局 X さんは最後に やっぱり自分とき興味を持っていて 最初親殺しえの再検勝手だから 人 何かな ( 国家と自分ですね 興味を持ってて いろいろ討を ) 同一できない な新聞 ニュースを見てて あ 殺 D: 国家を あ 国家に 考えたことした あ殺したって見てたんですけは私と同じレベル それ以上は考えてど ( 笑 ) ない感じがします F: うん でも でもだんだんだん D: あの国家利益の話は 私と同じ感だんあきちゃって あーもういいっじで 個人利益に関してだといっぱいて 話してくれました D: 例えば ある国とある国の話をしようとしたら 別に個人とは関係ない話をしようとしたら でも最後には X さん また個人に持っていくって感じ D: そこで 個人利益についてすごい大切にしてる D: 私 Y 国の教育は国家のために何をしようと すごい教育されてたんですよ そういう考え持っていたんです よ 国家のために私何をしなければな らないって 何をしたら恥をかかせないように国家のために そういう考え方あったんですよ ( インタビュー質問 :1 対話に臨む前に考えたことがあれば話してください 2 対話を通して考えたこと / 気づいたことがあれば話してください ) 207

218 まず 学習者 D には 対話前から 自らの視点を通した主張の再検討に積極的な つまり 新しい考えなどに対して開いた 態度 興味がうかがわれる これは 主張を明らかにし て議論するという授業の枞組み自体に沿ったものであるが 問題の構造を考えるに至らず 個人の視点が明確化されなかった 学習者 F が 対象とした問題には興味を抱くものの 自分の趣味 で主張レポートの論点とは関係なく対話相手に 知りたいこと を聞き 対 話の焦点が絞れなかったことを語ったのとは対照的である 学習者 D は 私は テーマ ( 国家利益 ) について聞きたい やっぱり社会主義と資本主義の人に 国家利益に対する考 えが絶対に違うと思ってたんですが どこが違うかわからなくて それで X さんに聞いてみ たかった と明確な目的意識を持っていた 問題に対する自らの視点を定めそれに対して主 張を明確にしたということは 自分が何を考えているのかというある程度の自己認識を示せ たということでもある それによって 自分が考えていることとは異なる他者を認識できる 前提ができる そして あるきっかけで他者を発見しその人と議論したいと思った つまり 他者の 新しい考えに対して開いた と言うことも可能であろう 対話の中で学習者 D は 集団としての利益を追求することの意味について検討した後 国家利益と個人利益との問題に議論を移す その過程で 国家と個人に二分できない利益 そのものの多様性にも気づいていく (09 年 6 月 29 日最終レポート ) 鍵となったのは 自 分と異なる考え方を持つ他者 対話相手 X である インタビューを通じて特徴的であった のは この 他者との違いへの気づき の認識の仕方である やっぱり X さんは国家利 益より個人個人って感じ と 他者との違いの認識 を示した学習者 D は しかし その違いがどこからわかったのかという質問にはすぐに答えられず 当初は やっぱり何か 違いました とだけ述べている 国家を個人から見るのが多いんです X さんは と言う ものの どう違ったって ( 話した ) 内容 今 忘れちゃった と具体的な内容には触れ られない それが インタビュアーとのやり取りの中で対話相手のことばや態度など相手 とのインターアクション全体を振り返ることによって その人との認識上の違いが浮き彫 りにされていく 国家に 考えたことは私と同じレベル それ以上は考えてない感じがし ます という漠然とした表現が 国家利益の話は 私と同じ感じで 個人利益に関してだ といっぱい話してくれました 別に個人とは関係ない話をしようとしたら でも最後に は X さん また個人に持っていくって感じ そこで 個人についてすごい大切にしてる と明確になる 学習者 D は X が個人利益に対してより多く主張できることから X にとっての個人利益の重要性を認識する このことは すぐにそうとわかる明示的な発言による意見の違いだけでなく その前提となる認識の違いというレベル つまり問題の構造にまで学習者が目を向けていることを表わす 他者との違いを認識できるということは 自分の考え方と比較したからである 比較を通 して自分の考え方自体を振り返ることによって 問題についての自己認識もさらに明確にな る この二つがあいまって それまで当然視していた考え方が絶対ではないという気づきに つながるのであろう インタビューで学習者 D は 私 Y 国の教育は国家のために何をしよ うと すごい教育されてたんですよ そういう考え持っていたんですよ 国家のために私何 をしなければならないって 何をしたら恥をかかせないように国家のために そういう考え 方あったんですよ と 他者との対比の後に自分の考え方を振り返っている 学習者 D の最 終レポートには それまで当然視していた 国家利益と個人利益を対立軸で見ることに違和 感を覚えた ことが述べられ むしろ個人利益を国家利益のステイクホルダーとして位置 付けることが合理的だと思った とつづられる これらは 自分の視点や 208

219 価値観を相対化すること 文化差に対する伝統的な態度から距離をおくこと に相当すると考えられる これは 問題の構造を考えたからこそ その問題を見る視点 つまり自他の認識の問題についてまで議論を掘り下げ その再検討に至ったと考えられる また これらの認識は 社会に参加する上で専門家でなくとも考えられる また 考えざるをえない 自分の生きる場所での根本的な問題であるとも言えよう これに対して 問題の構造を考えず自らの視点を明確にできなかった学習者 F は 事象そのものを対象としたため 問題を深く追求することができず興味を失ってしまい 自分と相手との認識上の違いを比較することによって自らの考え方を再検討するまでには至っていない 出発点となった問題の構造を考えることの重要性が指摘できよう 4 おわりに 4.1 まとめ 本教育実践では 問題自体ではなく問題の構造に目を向けそれについて語ることを促すインターアクションを繰り返すことによって 学習者の視点の明確化を図った その結果 学習者は世界の問題を通して自分自身の現実の問題について考え 新しい考えなどに対して開くこと 自分の視点や価値観を相対化すること 文化差に対する伝統的な態度から距離をおくこと など CEFR において 実存 ( 論 ) 的能力 と表現されているものの発現が観察された 問題の構造を考え独自の視点で世界を捉えることによって 学習者と世界 / 社会とが関係づけられる 日本語教育が単に言語運用能力だけを育成するものではないという考え方は既に議論されているが 本稿ではその具体例を提示できたのではないかと考えている 4.2 今後の課題 今回は 限られた紙幅の中で 教育実践の枞組とその結果の概要の提示に終わったが 担当者の働きかけなども含めた活動過程の詳細な記述を次の課題としたい < 参考文献 > 新井久容 (2006) 学習者の主張と 根拠データ 教室担当者の観点から 講座日本語教育 第 42 分冊, pp , 早稲田大学日本語教育研究センター. 大澤真幸 (2008) 不可能性の時代 岩波書店. 西條剛央 (2005) 構造構成主義とは何か - 次世代人間科学の原理 北大路書房. 西條剛央 (2007) ライブ講義 質的研究とは何か SCQRM ベーシック編 / アドヴァンス編 新曜社. 竹田青嗣 西研 (2004) よみがえれ哲学 日本放送出版協会. 細川英雄 (2002) 日本語教育は何をめざすか 言語文化活動の理論と実践 明石書店. Council of Europe (2001) Common European Framework of Reference for Languages: Learning, Teaching, Assessment, Cambridge University Press.( 欧州評議会, 吉島茂 大島理枝訳編 (2004) 外国語教育 II 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 朝日出版.) Toulmin, Stephen E. (2003) The Uses of Argument (updated edition), Cambridge University Press. 209

220 ワークショップ

221 ワークショップ 多言語版 チュウ太の web 辞書 を用いた語彙学習 川村よし子東京国際大学 共同研究者 : 前田ジョイス 金庭久美子 保原麗 川村ヒサオ各言語版辞書編集グループ代表者 :Jonathan Bant, Toshihiko Kitagawa, Ata Hatice Banu, Miki Suga, Albena Todorova, Kristina Hmeljak Sangawa, Ulrich Apel, Noriko Sato, Szekacs Anna, Tomoko Higashi, Tomoko Nakamizo, Noriko Hamamatsu, Kim Ran Mi, Ashwini Mukund Aathaye, Alexandre Augusto Varone de Morais, Yuko Arai, Eiko Shibakura, Makiko Mtsuda, Ngo Minh Thuy, Than Thi Kim Tuyen, Junichiro Okura, Galina Vorobyova, Pattarawan Youye 要旨 チュウ太の web 辞書 ( は すでに 20 カ国語以上の言語において編集チームが作られ 辞書の編集が開始されている ( 川村 ) いずれの言語においても 編集が済んだ単語から逐次公開するというシステムになっているため すでに 世界の日本語学習者が自由に利用可能な状態である 日本語とベトナム語において 日本語能力試験の 1 級から 4 級までのすべての語の編集が完了し 初級の学習者ばかりでなく中上級の学習者も利用できる体制が整ったため 例文検索機能も整備した ( 金庭 川村 ) さらに Reading Tutor の辞書ツールと同一の仕組みの自動辞書引き機能も搭載した 本ワークショップにおいては この多言語版 web 辞書を活用した語彙学習および指導方法について詳しく報告する キーワード 日本語学習支援 インターネット 多言語辞書 例文検索 語彙学習 はじめに 1999 年インターネット上に日本語読解学習支援システム リーディング チュウ太 を公開 ( 以来 10 年の歳月が流れた その間 このサイトにはすで に 150 万件近いアクセスがあり 辞書ツール 語彙チェッカーを中心に 現在では毎日 2000 件以上の利用がある 辞書ツールとしては 開発当初からの日日 日英 日独に加えて 日蘭 日斯 ( スロヴェニア ) 日西 日葡辞書ツールが提供されている また 世界の日本 語学習者の期待に応える形で 2003 年からチュウ太の辞書ツール多言語化プロジェクトがス タートし ( 川村 2004) すでに 25 言語で編集チームが作られ 日日辞書をもとにして 各 言語版の日本語辞書の編集が開始されている ( 川村 ) またこの編集システムは それぞれの言語において編集が済んだ単語が 逐次 チュウ太の web 辞書 ( として自動的に公開され 世界の日本語学習者がアクセスできる仕組みである 2006 年 日 日辞書において 日本語能力試験出題基準 の 1 級から 4 級までのすべての語の編集が完了 し 初級の学習者ばかりでなく中 上級の学習者も利用できる体制が整ったため 例文検索 機能も整備し 公開した ( 金庭 川村 ) また 2008 年にはベトナム語版の編 集も完了し 従来の リーディング チュウ太 の辞書ツ 210

222 ワークショップ ールに準じた自動辞書引き機能も搭載した 1 チュウ太の web 辞書 の仕組み チュウ太の web 辞書 は 2 つの機能を備えている チュウ太の辞書ツールと同一の機能 ( 以下 辞書ツール機能 ) と ネット上の辞書に近い機能 ( 以下 単語検索機能 ) である 辞書ツール機能 は 入力された文章を形態素解析システム MeCab ( 工藤 2008) を用いて単語に区切り 各単語を辞書情報とリンクさせて表示する機能である 学習者が読みたい文章を入力すれば 本文中の全ての単語の辞書引きが自動で行えるという仕組みである ただ 入力された文章や語句はすべて単語ごとに区切られてしまうため 複合語の検索はできない 一方 単語検索機能 は 入力された語句をそのままの形で辞書から検索する仕組みである そのため 見出し語として登録されてさえいれば 複合語も検索可能である また 例文検索機能も兼ね備えている 以上のように 2 つの機能はそれぞれに 一長一短があるため 各々の特徴を知った上で利用すれば より効果的に活用できる 対訳辞書の言語は 編集が進んでいる順に紹介すると ベトナム語 英語 トルコ語 ブルガリア語 韓国語 ロシア語 中国語 ポルトガル語 スペイン語 ドイツ語 チェコ語 マレー語 キルギス語 マラティ語 スロヴァキア語 タイ語 フランス語 イタリア語 フィンランド語 スロヴェニア語 インドネシア語 ハンガリー語 タガログ語 アラビア語 ルーマニア語である 2 チュウ太の web 辞書 の辞書ツール機能 チュウ太の web 辞書 の辞書ツール機能を使うときには 画面上のテキストボックスに読みたい文章を入力し 言語を選択する 図 1 チュウ太の web 辞書の入力画面 211

223 ワークショップ 対訳辞書の言語は 利用者が自由に設定できるようになっている デフォルト値としては 日本語と利用者の使っているパソコンのデフォルト値の言語が表示される 図 1 は 日本語とベトナム語が表示され さらに他の言語の情報を追加する場面を示している 図のように 他の言語の候補がリストの形で出てくるのでそこから選択する 画面右下の Preference や Advanced をクリックすれば さらに細かく言語の指定ができるようになっている 図 2 が結果画面である 図 2 辞書ツール機能の結果画面 チュウ太の辞書ツール同様 画面左が本文で 本文中の単語はすべて右の辞書情報とリンクしている 図は 食べる をクリックしたときの画面で 右の辞書ウィンドウには 食べる が一番上に表示されている 単語の右の 印は日本語能力試験の級を示している 食べる は 4 級のため と表示されている また 初級 中級の学習者のために 3 級と 4 級の動詞には 活用形 ( ます形 て形 ない形 ) が示されている 各言語による意味説明の先頭に [ ] 付きの赤字で示してある語は それぞれの意味における代表的な訳語である また意味ごとに例文とその翻訳が出ている ここでは 言語として Japanese Vietnamese English を選んだので 意味の説明や例文が 日本語 英語 ベトナム語で示されている この場合 それぞれの言語で未編集の語については表示することができない そのため ベトナム語では編集済み ( ベトナム語はすでに日本語能力試験のすべての語彙の編集が完了 ) だが英語の編集はまだという語では ベトナム語 のみが表示される 3 チュウ太の web 辞書 の単語検索機能 単語検索機能を使うには 図 1 に示した チュウ太の web 辞書 のトップ画面において 画面下の Word Search に探したい語句を入れ 言語を選択し Search ボタンを押す 212

224 ワークショップ 検索語は単語だけでなく 複合語でも連語でもいい 入力した語句をそのままの形で検索することができる 例えば かもしれない のように通常の辞書では見出し語とならない語であっても辞書に登録されていれば検索可能である また 世界各国の学習者の便宜を考え 漢字かな混じり表記だけでなく ひらがな カタカナ さらに ローマ字でも検索できる仕組みになっている 辞書の内容は上記の辞書ツール機能の辞書と同一である ただし 単語検索機能におい ては 言語は 1 度に 1 つしか選択できない 一方 この単語検索機能では 部分一致検索も可能である 部分 一致で検索するには 単語検索ボ ックスに 探したい文字 ( 単語 ) を半角のアステリスク (*) で挟ん で入力する 例えば * 読 * と 入れると 読む はもちろんの こと 読める 読書 句読点 読み 購読 朗読 読者 読み上げる のように 読 の 字が含まれている単語がすべて表 示される 図 3 は * 家 * と入力した場合の結果画面である この例では 言語として 英語を選択した 家 を含む単語 家 家族 家庭 に加えて 接尾辞の 家 も表示されている さらにこの部分一致検索を使う と 辞書全体から当該語を含む例 文が同時に検索され 結果画面の 下に Examples として表示され る 例文は 家 が見出し語に 含まれている場合だけでなく 他 の語の例文の中に 家 の文字が 含まれている場合も表示される 各例文の後ろの ( ) の中の語は それぞれの例文が出てきた辞書項目を示している この語をクリックすれば その項目にジャンプすることができる 例えば図 3 の Examples の最後の例文 政治家がそんな甘い考えでは困る は 甘い という辞書項目に出ている図 3 部分一致検索の結果画面 ( 一部 ) 213

225 ワークショップ 例文であり ( ) の中の 甘い をクリックすると 甘い の項目にジャンプする さらに この例文検索では 見出し語にない語句を含む例文を探し出すことも出来る 例えば てくれる という表現の使い方を知りたいとき 単語検索ボックスに * てくれる * と入力すれば てくれる を含む例文が出てくる また ~ ば ~ ほど のように間に他の語が含まれる表現の場合は それぞれの語を * ではさむ形にする 例えば ~ ば ~ ほど であれば * ば * ほど * と入力する ただし 単語検索機能は 単なる文字列を検索しているに過ぎないため 別の語句の一部にその文字列が含まれている例文も抽出されてしまうので注意が必要である 4 チュウ太の web 辞書 を用いた読解教材の作成 チュウ太の web 辞書 は 学習者だけでなく 教師も活用することができる ここでは チュウ太の web 辞書 を使った中級向け読解教材の作成方法を紹介する 4.1 テキストデータを用意する Web には教材作成に役立つサイトがいろいろあるが 特に中級向けの読解教材作成のためには 次のサイトが利用しやすい 例 :a. あらたにす 朝日 日経 読売の 3 紙の記事が比較できるサイトであり 1 面のトップ記事や社会面 社説等にリンクが張られている b. 毎日小学生新聞 小学生新聞のため 内容も噛み砕いて書かれ ふりがなもついている c. 中級向けトピック 中級学習者向けのトピックを扱っているサイトである d. くらしの知恵袋 文章が短く具体的な内容なのでわかりやすい e. ひらひらのひらがなめがね 指定した URL の情報にふりがなをつけるサイトであり 登録すれば 任意のテキストにもふりがなをふることが可能である また 以上のような web 上のテキスト以外のものでもテキストデータであれば 次の手順を踏むことで自由に教材化が可能である 4.2 語彙リストをつくる中級向けの読解教材には 学習者のレベルに合わせた語彙リストの作成が不可欠である ここでは 名刺の歴史 ( を例に語彙リスト作成の手順を述べることにする 1 テキストデータをコピーする 2 コピーしたデータをリーディングチュウ太 ( に貼りつける ( 目下はチュウ太の web 辞書に語彙チェッカー等のレベル判定機能がついていないが 近い将来はチュウ太の web 辞書だけで作業が出来るようになる予定である ) 3 語彙チェッカーでレベル判定を行う ( レベル判定ボタンの 語彙 を押す ) 図 4 が語彙チェッカーの結果画面である 214

226 ワークショップ 図 4 語彙チェッカーの結果画面 4 級別リストをコピーする 語彙チェッカーの結果画面右は 級ごとのリストである このリストの 1 級と 2 級の語をコピーする 5 語彙リストを作成する チュウ太の web 辞書 のテキストボックスに 4 のリストを貼り付ける 言語を選択し ( 日本語と 語 ) Dictionary ボタンを押す 図 5 単語リストを チュウ太の web 辞書 に入力した結果画面 6 ワープロソフトに保存する 結果画面 ( 図 5) の右の辞書情報をコピーして ワープロソフトに貼りつける この場合 そのままコピーすると HTML 式になってしまうので 例えば MS-Word の場合 貼り付け 形式を選択して貼り付け にすると 後から加工しやすい 7 リストを完成させる ワープロソフト上で 必要な語 必要な辞書情報を選び リストを完成させる 215

227 ワークショップ 4.3 指導のための文型リストをつくる 文型を指導するための文型リストの作成にも チュウ太の web 辞書 は活用可能である 手順は次の通りである 1 文型を選ぶ テキスト本文から指導すべき文型を選ぶ 文型選択に際してはチュウ太の文型辞典ツ ール ( に本文を入力し 文型辞典 ボタンをクリックする ) を利用することも可能である ここでは 文中 の にとって を指導文型として選択したことにする 2 例文表示機能を利用する チュウ太の web 辞書 の Word Search に文型語句の両側を半角のアステリスクで挟んで ( 例 : * にとって * ) 入力し search ボタンを押す 3 例文リストとして保存する 結果画面の辞書情報 ( 図 6) の例文部分をワープロソフトにコピー & ペーストし 必要な加工をして保存する 同じ手順で必要な文型の例文を集めれば 図 6 結果画面の辞書情報例文付きの文型リストが完成する ただし 生教材をテキストとして利用する場合 次のような点に注意が必要である a. 文型実際の生教材には難しい文型はあまり使われていない b. 語句一般の日本語の教科書には出そうにない語彙が話題に沿って出現しているので 例えば次のような語句に着目すると生教材としての価値が高まる 複合語 : 大 +~ ( 大騒ぎ 大忙し ) / ( 大事件 大工事 ) ~ 感 ( 存在感 緊張感 正義感等 )~ 性 ( 先天性 依存性 危険性 ) 漢語 + 漢語 意識 優先 専用 施設 問題複合動詞 : 付け加える 響き渡る 読み返す 出くわす 突っ張る 跳ね返る連語 慣用句 : 目を伏せる 縁起を担ぐ 親睦を深める 願いをこめる副詞 : しきりに うっすら ぎっしり いきなり たかだか 以上のようにして 文型や学習語句を決定し 例文を検索する 授業では 教師が例文を示した後 空欄を埋めさせる問題を出したり 学習者に当該文型や語句を使った例文を作らせたりすることによって理解が深まる また 上述したように チュウ太の web 辞書 の Word Search で 例文を探した場合 当該文型以外のものが抽出されてしまうことがあることを逆に利用して あえて文型以外の語句を含む例文もあわせて提示し 学習している文型に合致しているものはどれかを選ばせるという課題を作成することも可能である 216

228 ワークショップ 4.4 読解の質問文の作成 学習者のレベルに合わせた設問を準備する 設問としては質問の答えを探す形式のものと文あるいは全体の内容を把握する形式のものを組み合わせて作ることによって学習者のスキャニング能力とスキミング能力の双方を高めることが可能になる また 文章の上から順に問題を出すのではなく 出題箇所を分散させることによって 教材を何度も読むように仕向けることも可能である 設問に用いる語句のレベル判定が必要な場合には チュウ太の語彙チェッカーを利用する 以上のような流れで学習者のレベルにあわせた読解教材の作成が可能になる 5 終わりに 本ワークショップにおいては 主に チュウ太の web 辞書 を用いた語彙学習と読解教材の作成方法について報告した チュウ太の web 辞書 については 学習者や日本語教育関係者の便宜を考え 1 チュウ太の web 辞書 にもリーディング チュウ太の語彙チェッカーにあたるレベル判定機能を整備する 2 単語検索機能において 見出し語検索や例文検索など辞書の検索方法を選べる形にする等 さらに利用しやすい形に改良していく予定である また 目下のところ チュウ太の web 辞書 は日本語からしか検索出来ないが 将来的には逆方向の検索も可能な仕組みにできればと考えている 辞書の整備に関しては それぞれの言語チームのボランティアによる活動に支えられている より多くの協力者が仲間に加わり 各言語において 翻訳作業の進展が望まれる 一方 介護福祉士候補生等への対応等 緊急に辞書の整備が求められている言語 ( タガログ語 インドネシア語 英語 中国語 ) に関しては 1 語 1 訳というミニ辞書の形での対訳辞書の作成を開始した その結果 この 4 言語については すでに 日本語能力試験の 4 級から 1 級までの単語に関して チュウ太の web 辞書 の辞書ツール機能を用いればミニ辞書が使える形になっている さらに 現在 介護の現場および介護福祉士試験のための介護用語辞書の編集作業が進行中である チュウ太の web 辞書 は日々進化し続ける辞書である 今後も世界の日本語教育関係者との連携によって学習者のためのよりよい web 辞書作りを目指していきたい < 参考文献 > 川村よし子 (2004) 辞書ツール多言語化プロジェクトの基本構想 ヨーロッパ日本語教育 8, pp , ヨーロッパ日本語教師会. 川村よし子 (2006) 多言語版日本語辞書編集システムの開発と運用実験 ヨーロッパ日本語教育 10, pp , ヨーロッパ日本語教師会. 川村よし子 (2008) 科学研究費補助金基盤研究 (B) 研究成果報告書日本語学習者のための多言語版辞書ツールの開発とその評価 pp 金庭久美子 川村よし子 (2007) 例文検索システムの構築と日本語教育への応用 日本語教育方法研究会誌 vol.14, No.1, pp. 6-7, 日本語教育方法研究会. 金庭久美子 川村よし子 (2008) 多言語版日本語辞書における用例作成の諸問題 日本語教育方法研究会誌 vol.15, No.1, pp , 日本語教育方法研究会. 工藤拓 (2008) MeCab 最終閲覧日 :2010 年 3 月 2 日 ) 217

229 ワークショップ CEFR 準拠口頭能力評価法 OJAE (Oral Japanese Assessment Europe) [ 代表 : 山田ボヒネック頼子 ( ベルリン自由大学 )] 萩原幸司 ( フランス国立社会科学高等研究院博士課程 ) 高木三知子 (ICHEC ブリュッセル商科大学 ) 村田裕美子 ( ミュンヘン大学 ) 要旨 1 OJAE プロジェクト チーム 12 名 及び日本側学術指導担当 2 名 ( 山内博之実践女子大学教授 橋本直幸首都大学東京助教 ) は 山田ボヒネック頼子 ( ベルリン自由大学日本学科 ) を研究代表者とし 2006 年 8 月より欧州 CEFR 基準 評価尺度化に基づいた 日本語口頭表現能力測定法 の実践開発研究を進めてきた 昨年度トルコ チャナッカレでの AJE シンポジウムでは CEFR 表 3: 会話の側面 5 能力領域 ( 言語表現使用範囲 正確さ 流暢さ 結束性 交話力 ) の視座に立つ評価法を主眼とし 模擬レベル会議 を含めたワークショップ ( 以下 WS) を実施したが 本年度は 2008 年 9 月当初の OJAE ブリュッセル会議の成果を基に テスティング信頼性の検証法 に焦点を当てた 本 WS では まず実践研究活動について報告し CEFR6 段階評価基準の再確認後 OJAE の主要素について説明した 次に全参加者に DVD 再生で OJAE チーム試作版 CEFR レベル B2 想定の対話テスト を呈示し 該当レベル基準 ( Can-do- Statements 能力文 ) に沿って 課題ごとの達成度 の判定をしてもらい 最終的に テスティング信頼性の検証法 をめぐって討論をした キーワード OJAE 形態 評価法 4 テキスト型 質問文リスト プロンプト 1 最近 2 年間の活動 OJAE 開発研究 OJAE は 2008 年度ヨーロッパ日本語教師会 ( 以下 AJE) 総会に於いて AJE-SIG(Special Interest Group) としての認可を受けた さらに 2009 年 3 月以降 東京財団奨学事業部門 より研究助成金を享受 チーム結成以来 以下のような研究 公表活動を続けてきている フランス日本語教師会主催の第 10 回フランス日本語教育シンポジウム ( リール開催 ) にて OJAE CEFR 準拠口頭能力評価法の開発を目指して と題して初の研究発表 AJE 主催第 13 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム ( トルコ チャナッカレ開催 ) にて OJAE:CEFR 準拠口頭能力評価法 基本構想 開発現況 近未来の展望 と題して WS を開催 ~9.6 ベルギー ブリュッセルにて 第一期 OJAE 日欧研究者会議 開催 於上記会場 : 第 1 回 OJAE プロジェクト研究成果呈示コンフェランス 開催 ~8.30 ドイツ ベルリンにて 第一期 OJAE 研究者会議最終回 開催 AJE 主催第 14 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム ( ドイツ ベルリン開催 ) にて OJAE CEFR 準拠口頭能力評価法 と題して本 WS を開催 218

230 ワークショップ 於同会場 : AJE サテライト会議として 第 2 回 OJAE プロジェクト研究成果呈示コンフェランス 開催 第二期 OJAE 研究チーム (11 名 ) 活動開始 現在に至る 2 OJAE 形態 評価法 OJAE は以下の 3 点をその主たる特徴とする 1) 対話テスト : 被験者の 自己申告レベル に基いた CEFR 日本語文脈化 の口頭能力試験 テストは CEFR 尺度対応の OJAE 基準表 に沿った レベル別データベース から作成され 試験者は 試験マニュアル に基づき試験をする 2) テスト形態 :EU 他言語 ( 英 独 仏 ) 口頭テストの知見を基盤にし 特に ESOL 2 に準 拠 テスト形態は 試験者 2 名 : 被験者 2 名 を原則とし 3~4 パート (A レベル は 3 B レベル以上は 4:1 対話 2[ 独話的 ] 発話 3 被験者同士協働タスク 4 論 議 ) の場面設定上での 発話 対話産出能力 を測る 必要時間は 10 分 20 分 3) レベル 合 否 評価法 : 試験者 2 名を含む評定者達は タスク達成度を 言語表現使用範囲 正確さ 流暢さ 結束性 交話力 の 5 領域に於いて評価し 最終的に被験者自己申告レベルの 合格 不合格 を決定する 3 OJAE テスト作成法 3.1 テキストの型 CEFR は 課題 (tasks) を遂行 完成させるための能力 を習熟度として測るレベル別能力記述である この課題遂行能力は 様々な側面から記述されるが OJAE ではこのうち テストの評価に直結しやすい客観的な指標である テキストの型 を重要視している CEFR の 共通参照レベル は A1 から C2 の 6 段階であることから まず CEFR の判定基準である CEFR 表 1 共通参照レベル : 全体的な尺度 3 を参考に各レベルにどのような テキストの型 が現れるかを考え 下記の本稿表 1 のように当てはめた 表 1:CEFR レベルとテキストの型の対応関係 CEFR レベル テキストの型 C2 C1 複段落 B2 B1 段落 A2 複文 A1 単文 - 単語 例えば 共通参照レベル : 全体的な尺度 の B1 レベルは以下のように記されている 仕事 学校 娯楽で普段会うような身近な話題について 標準的な話し方であれば主要点を理解できる その言葉が話されている地域を旅行しているときに起こりそうな 219

231 ワークショップ たいていの事態に対処することができる 身近で個人的にも関心のある話題について 単純な方法で結びつけられた 脈絡のあるテクストを作ることができる 経験 出来事 夢 希望 野心を説明し 意見や計画の理由 説明を短く述べることができる 経験 出来事 を説明しようと思うと 文レベル で返答をすることはあまりなく 時間軸に沿って複数の出来事を述べたり また その理由や根拠 背景などを加えたりする のが普通である つまり B1 レベルで求められる言語能力は 段落テクスト型を操作で きる と把握し得る このようにして 各レベルとテキストの型の対応を考えた の質問文リスト チームは OJAE 第 1 回日欧ブリュッセル研究者会議 ( ) に於いて山内 ( 編 ) 5 日本語教育スタンダード試案語彙 における 16 の分野からの 100 の話題 を受け その 100 の話題から 各話題のキーワードを選び その各 400 語に対する答えが 1 単語 単文 (A1)2 複文 (A2)3 段落 (B)4 複段落 (C) になるように計 400 質問文を作成した ( 資料 1 参照 ) これが上記 2-1 レベル別 ( 質問 ) データベースの基となる 3.3 質問データベース できあがった 400 の質問文は 口頭試験のデータベースの一環となり 以下の研究課題をチームに齎した 1) 各 質問 = 項目別テスト信頼性 の検出 2) 口頭試験における幅広い話題の取り扱い しかし 現段階では 1 つの話題に対し 1 つのキーワード 1 種類の質問文のみであり データベースとしては非常に少ないため 今後 1 つの話題に対しキーワードを増やし 言語プロンプト としての質問文をさらに充実させていく必要がある さらに 視覚プロンプト も OJAE テストには不可欠であり チームは話題に沿った視覚資料の収集も始めている 4 対話テスト試作版 4.1 対話テスト試作版 B2 レベル (2008 年 9 月 6 日実施 ) についてブリュッセルの 4 日間の会議中 前半に作成した 質問データバンク の実用性 改善点を検討するべく 後半に対話テストを実施した 究極的には OJAE は受験者の自己申告の レベルの合否 を判定結果とするテストであるが 今回の対話テストは試作版であるため 自己申告に拠らず 既に面識のある被験者 2 名に相応しいレベルを受けてもらった 本試作版を担当したのは OJAE 研究者中から当日まで被験者とは面識のない 2 名である 4.2 対話テスト方法と結果対話テストは質問者と被験者の 1 対 1 で行った テスト開始と同時に挨拶と簡単な自己紹介をし 被験者とのやり取りを少しした後 質問者があらかじめ用意しておいた 質問文 = プロンプト = タスク に沿って対話を展開していった 所要時間は 20 分とし 8 問 (8 つ ) のタスクを扱うことができた 4.3 ブリュッセル会議参加者 18 名による レベル判定会議と評価アンケート について ( 第 1 回 OJAE プロジェクト研究成果呈示コンフェランス の際に実施 ) 220

232 ワークショップ まず 評定者に CEFR の判定基準 ( 日本語訳版 ) に基づいて作成した評価アンケート用紙を配布した ( 資料 2 参照 ) アンケート用紙には 判定対象 B2 レベルの 5 つの能力領域 ( 使用幅 正確さ 流暢さ やり取り 一貫性 ) の判定基準が記されている 評定者は DVD 再生による試作版 OJAE 対話テストを見ながら 各項目の判定基準を読み その真偽を判定し該当する方を で囲む また この項目ごとの評価とは別に 総合評価として CEFR の全体尺度にある B2 レベルの基準を参考に 合否の判定結果を記入してもらった 年度評価アンケート集計結果 回収したアンケートを表で示す ( 表 2) 横軸は判定基準の 5 項目で 縦軸は 18 人の評定者 (Rater) を表す 各欄の は 真 は 偽 を意味し 縦軸の一番右欄の合計数は各項目の 真 と判定された数である また 下段に示すのは総合評価である 合 は 合格 不 は 不合格 / は 未回答 を表す 評定者は 1~10 までが OJAE のメンバー 11~18 までが非メンバーである 表 2:B2 レベル 評定者 の数 使用幅 5 正確さ 8 流暢さ 16 やり取り 13 一貫性 16 総合 合合合合合合合合 / 合 不合不合合不不合 評定結果からメンバーと非メンバーとの間には合否判定で差があることがわかる また 各項目評価においても 使用幅 と 正確さ の判定でゆれがある しかし この評価結果からは 8 つの質問の各項目が 判定にどのように影響したのかは不明である 従って 1 年後の今回の WS では参加者に 課題毎の個別判定 を依頼し それらが総合評価にどう影響するかの検証を行うこととした 年度本ワークショップ 5.1 各課題の個別判定 本 WS では 以下の手順で 参加者に上記 8 つの質問の一つひとつを判定してもらった (1) 判定者 :WS 参加者 37 名 (2) 判定方法 1CEFR 尺度への慣れ : 今回判定する B2 レベルの CEFR の判定基準である 表 1 共通参照レベル : 全体的な尺度 の能力記述文を WS 参加者間で読む そして 表 3: 会話の質的側面 の 5 領域 ( 使用幅 正確さ 流暢さ やり取り 一貫性 ) を参考にしながら 各質問 = タスク達成度評価 に焦点を合わせて判定を行ってもらった 2 評価実施 : 参加者は 4 で取り上げた OJAE 対話テスト試作版 のビデオを見て 各質問 (= タスク ) に対する被験者の回答が タスクを達成している と判断した場合 221

233 ワークショップ には どちらとも言えない 場合は していない と思われれば を評価表 ( 資料 3 参照 ) に記入する 3 判定結果集計 : 発表者は の比率を算出し 下記の結果を得た ( 表 3) なお判定を絞りきれていない回答の場合 は は と看做し? は判定不能として に加えた 表 3: 各質問の 判定結果 Total % 質問 質問 質問 質問 質問 質問 質問 質問 各項目判定結果と総合評価について 評価の は それぞれおよそ 33% 以上で優勢になる ( 灰色 ) 即ち 質問 は タスクを達成している という判定が 質問 5 は タスクを達成していない という判定がかなりはっきりできていると言える 質問 は 採録再生音が聞き取りにくかったという判定者からのコメントが多かったので そのことが が多い原因とも考えられる 質問 7 に関しては 質問自体の妥当性に問題があることが以下のように指摘された このことが判定に影響したことも考えられる 1 セクシャリティ / ジェンダーについて語らされるのはとても変な気がする プライバシーにも関わりかねない 2 この質問は yes/no のみで答えることができるので問題だ 上述 5 に於ける個々の質問の判定は 4 で取り上げた対話テスト試作版作成時に行われた総合評価の結果と比べると ゆれ が大きい (4 の総合評価の合否判定は 18 人中 13 人が 合格 と判定しているのに対し 今回の結果はほぼ全質問に対して タスクを達成しているとも 達成していないとも言えない と出た ) この ゆれ の原因としては どちらとも言えない という 合否決定の回避を可能 とする選択肢そのものの存在も大きく影響していると思われる OJAE はこの結果から 判定用紙には に相当するような選択肢は 不採択にすべし という知見を得た さらに 下記のようなテスト形式そのものに対する貴重なコメント数例も戴くことができた 1 被験者はいくつも質問し直してもよいのか? 2 やりとり をどのように判定するのか? 3 これだけ経験のある教師が集まって これだけ評価がバラつくのに興味をおぼえた このバラつきを減らすためにテストの項目をもっと具体的にすべきだと思う 222

234 ワークショップ 5.3 本ワークショップ及び AJE-SIG サテライト会議の成果 OJAE は 上記ベルリン シンポジウムに於ける WS に加え 同シンポジウム終了翌日 (9 月 6 日 ) に サテライト ( 併催 ) 会議としてブリュッセルに次ぐ 第 2 回 OJAE 研究成果呈示コンフェランス を開催し 50 名余の参加を戴いた 両会議の結果を併せて検討した結果 以下の 4 点を本年度の主要成果として記す これら諸点は 成果 であると同時に OJAE にとっては 焦眉の課題群でもある このように課題設定への指針を鮮明に与えて下さった 合計 90 名を数える WS 及びサテライト会議参加者の恊働姿勢に対し 深く感謝の意を表す次第である 1) OJAE 口頭表現能力テスト法の確立 テスト実施データ収集 2) 質問文の改善 拡張 OJAE テストへの組み込み 3) 明確な評価基準の構築 綿密な合否判定法の確立 4) レベル判定会議を通しての テスト信頼性 の継続的な検出 6 今後の課題と展望 OJAE は ALTE(Association of Language Testers in Europe) からの 2008 年初頭 賛助会員 資格での加入 認可を受け 欧州口語テスティング界に確たる一歩を記し始めている 第二 期プロジェクト研究チームはその達成目標として 1 CEFR 準拠日本語口頭表現テスト作 成 評価法確立 2 全レベル (A1 から C2 の 6 段階 ) のテスト実例集 3 典型的レベル話 者によるサンプル DVD 制作 4 試験マニュアルの作成 配布の 4 点を立て 2010 年 7 月末 にプロジェクト終了予定である 将来的には OJAE は EQUALS(The European Association for Quality Language Services 6 : 欧州言語教育品質管理協会 ) から EU 言語教育基準を満たすスピーキング テスト / 評価法である との正式認可を受けることを願い AJE-SIG として欧州連合圏内での普及に尽力を続ける意を固くしている 注. 1 代表者 発表者以外の 8 名のチーム員 : 副会長 酒井康子 ( 独ライプチッヒ大学 ) フレーデンハーゲン 村上淳子 ( スイスオーバーヴィル高校 ) 城戸寿美子 ( 独ベルリン工科単科大学 ) 近藤正憲 ( イランテヘラン大学 ) 三輪聖 ( 独ベルリン自由大学 ) 千田理恵 ( 独コットブス高校 ) 梅津由美子 ( 独カニージウス高校 ) 渡部淳子 ( 独ケルン大学日本学科 ) 2 閲覧 ) 3 吉島他, p OJAE 第 1 回日欧ブリュッセル研究者会議 ( ~9.7) までは 言語習得能力を指標す るテキストの型は 言語の系統発生 個体発生の文化進化論的記号学研究を基盤とするテクス ト 4 型 ( 命名型 描写型 ナラティブ型 論議型 ) としていた しかし CEFR の評価基準 に基づいて再度検討した結果 この 4 つの テキストの型 を採ることにした 5 山内他 (2008) 同書は 言語活動 タスク と 語彙 文法 の融合をスタンダード策定のポイントとしている どのような 言語活動 タスク がどのような 語彙 文法 ( 言語形式 ) に支えられているかを明示することが必要であると考えられている 6 閲覧 ) 223

235 ワークショップ < 参考文献 > Bolton. S. et al. (2008) Mündlich: Mündliche Produktion und Interaktion Deutsch: Illustration der Niveustufen des Germinsamen europäischen Referenzrahmens. München: Langenscheidt. Council of Europe (2001) Common European Framework of References for Languages: Learning, Teachingand Assessment. Cambridge: Cambridge U. P. 日本語訳 : 吉島茂 大橋理枝 (2004) 外国語教育 II 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枞 朝日出版社. [ 独訳 (2001) Geminsamer europäischer Refenrenzrahmen für Sprachlernen,: lehren, beurteilen. Berlin: Langendscheidt.] Glaboniat, M. et al. (2002) Profile Deutsch. Berlin: Langenscheidt. McNamara, Tim (2000) Language Testing. Oxford: Oxford U. P. North, Brian (2006) Language Universalities and Limitations in the CEFR-Framework: How can the CEFR-Scale be applied to a Non-European Language such as Japanese specifically in assessing Oral Proficiency? Lecture at the 5th International Japanese OPI Symposium, 25th August Weir, Cyrill (2005) Language Testing and Validation: An Evidence-based Approach (Research and Practice in Applied Linguistics). Cambridge: Cambridge U. P. 宇佐美まゆみ編著 (2006) 言語情報学研究報告 13 自然会話分析への言語社会心理学的アプローチ 21 世紀 COE プログラム 言語運用を基盤とする言語情報学拠点 東京外国語大学 (TUFS) 大学院地域文化研究科. 鎌田修 山内博之 堤良一編 (2009) プロフィシェンシーと日本語教育 ひつじ書房. キリル ラデフ ブルガリア日本語教師会 ルーマニア日本語教師会 山内博之編 (2007) ロールプレイで学ぶ日本語会話 - ブルガリアとルーマニアで話そう Japanese Conver- sations by Role Playing-Let stalkinbulgariaandromaniá- Sofia:PetkoSlavov, AS Ltd. 国際交流基金 (2009) JF 日本語教育スタンダード試行版 国際交流基金. 国立国語研究所編 (2006) 日本語教育の新たな文脈 - 学習環境 接触場面 コミュニケーションの多様性 - アルク. 杉本明子 (2006) ヨーロッパの言語テストの共通枞組み -ALTE Framework- 世界の言語テスト 国立国語研究所編, くろしお出版, pp 牧野成一監修 日本語 OPI 研究会翻訳プロジェクトチーム訳 (1999) ACTFL-OPI 試験官養成マニュアル (1999 年改訂版 ) アルク. 山内博之著 (2005) OPI の考え方に基づいた日本語教授法 - 話す能力を高めるために - ひつじ書房. 山内博之編著 金庭久美子 田尻由美子 橋本直幸著 (2008) 日本語教育スタンダード試案語彙 ひつじ書房. 山内博之著 (2009) プロフィシェンシーから見た日本語教育文法 ひつじ書房. ヨーロッパ日本語教師会 国際交流基金 (2005) 日本語教育国別事情調査ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages 国際交流基金. 224

236 ワークショップ 資料 1:400 質問文 100 話題 4 レベル別質問データバンク より一部抜粋 分分話題話キーワ文質問複文質問段落質問複段落質問野野 No. 題ード (A1) (A2) (B1,B2) (C1,C2) No. あなたはよく子供の読む漫画と今まで読んだ漫日本の漫画は暴力的漫画を読みま大人の読む漫画の画で一番印象にで 子供によくない文すか 週に何冊違いは何だと思い残っている物のという意見がありま化 1.1 まんがぐらい読みまますか ストーリーを話すが その本を出版一すか してください する事についてあな文般 1 たはどう思います化か 朝ご飯は何をどうして朝ご飯をあなたの国の朝朝ご飯を食べない人食べましたか 食べないんですか ご飯とどう違いが増えていますが 1.2 食朝ご飯休日も同じようにますか どうしてだと思いま食べるんですか すか 資料 2:B2 レベルの評価アンケート 判定基準 < 判定 : 真 偽 > 充分に言葉を使いこなすことができ 一般的な話題についてなら ある程度複雑な文を用いて 使用幅言葉をわざわざ探さなくても自分の観点を示し はっきりとした説明をすることができる 比較的高い文法能力を示す 誤解を起こすような誤りはしない たいていの間違いは自分で訂正確さ正できる 文例や表現を探すのに詰まったりするが 気になるような長い休止はほとんどなく ほぼ同じ流暢さテンポである程度の長さで表現ができる いつもエレガントとはいかないが 適切に発言の機会を獲得したり 必要なら会話を終わらせやり取りることができる 身近な話題の議論で 人の発言を誘ったり 理解を確認したり 話を展開させることができる 使うことができる結束手段は限定されており 長く話すとなるとぎこちなさがあるが 発話を一貫性明瞭で一貫性のある談話につなげることができる 資料 3:B2 レベル判定表 質問 1 質問 2 質問 3 質問 4 質問 5 質問 6 質問 7 質問 8 < 判定 > タスクを達成している : タスクを達成していない : タスクを達成しているとも 達成していないとも言えない : 質問 ( 今までにどんな外国語を勉強しましたか?) ちょっと人と違ういい勉強法があれば教えてください ( 漫画はよく読みますか? それは何という漫画ですか?) 今までで一番印象に残ったもののストーリーを話してください 子供時代によくした遊びは何ですか? どんな遊びか詳しく教えてください ( あなたは今までに引っ越しをしたことがありますか?) あなたの国では部屋を借りるとき どのようにしますか 部屋を探し始めてから 決まるまでどのようなことをしましたか プレゼントをもらって一番うれしかった時のことを覚えていますか? 詳しく教えてください ( 料理は自分で作りますか?)~ さんのお好み焼き ( 得意な料理 ) の作り方を教えてください 自分が男性だということで いやな思いをしたことがありますか あなたの国でみんながよくやるカンニングの方法を教えてください ( ) 内の質問は突発的な質問を避けるための前質問である 225

237 ポスター発表

238 ポスター発表 CEFR に基づいた初級漢字タスク集の開発 齋藤あずさ ( ローマ日本文化会館 / 伊日財団 ) 稲垣厚子 ( ローマ日本文化会館 /Is.I.A.O. ローマ ) 小林玲子 ( シエナ外国人大学 ) キーワード CEFR 漢字の位置づけ タスク 初級 Can-do statement (CDS) 近年欧州の日本語教育においてもヨーロッパ言語共通参照枠 (CEFR) が普及しつつあ る 欧州の言語と違って表記体系が複雑な日本語では CEFR の 読み 書き 技能のレベルを判定する際に 漢字の知識や運用力を考慮することは必須となる しかし 漢字のレ ベル分けや 漢字を使用して何ができるかという行動目標の設定は未だになされていない 本プロジェクトの目的は CEFR における 読み と 書き の技能の中で漢字の位置づけを明確にし 各レベルに対応した漢字タスク集を開発することである 対象は 欧州を中心とした海外で日本語を学ぶ初級レベル (A1 A2 B1) の学習者とした タスク集の作成にあたり まず レベルごとに 読み と 書き の Can-do statement (CDS) を場面や話題なども考慮しながら検討し それぞれの目標を遂行するのに必要な漢字を選択した 漢字の使用頻度 親密度 単語数 ( 徳弘 2009) を考慮し A1 から B1 までのレベルを合わせて約 300 字になるように調整している また 漢字のレベル別リストを作成し 巻末に掲載する予定である 各レベルにタスク活動を中心としたユニットを約 10 ずつ設け 学習者の必要 レベル 興 味に応じてユニットが選択できるようにした 各ユニットはタスク主導型の構成で まず初 めに CEFR に基づいた CDS が明記され 続いて 動機付け タスク 言葉と漢字の 確認 自己チェックリスト の順になっている 学習者は こういった一連の活動を通 して 漢字の 読み と 書き の技能においてどの学習段階にいるのか自己診断できると同時 に 学習した漢字を使って具体的にどんな活動ができるかを認識することができる このよ うなタスク集が実生活での漢字使用への橋渡しとなることを期待している < 参考文献 > スルツベルゲル三木佐和子 (2008) CEFR/ELP 能力査定基準の日本語スキル査定への応用を探る -A1 の漢字について - ヨーロッパ日本語教育 12, pp , ヨーロッパ日本語教師会. 徳弘康代 (2009) 日本語学習者のためのよく使う順漢字 2100 三省堂. 松尾馨 濵田朱美 (2006) 外国語の学習 教授 評価のためのヨーロッパ共通参照枠 (CEF) の日本語教育における活用 - ドイツ ベルリン州の中等教育日本語ガイドラインの例 - 世界の日本語教育 16, pp , 国際交流基金. ヨーロッパ日本語教師会 (2005) 日本語教育国別事情調査ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages 国際交流基金. Tanaka, Kuniko (2008) LINGUA GIAPPONESE Materilali per docenti. ( ) 226

239 ポスター発表 欧州日本語教師研修会に参加した教師の教師成長に関する態度変容 PAC 分析を用いて 近藤裕美子 村中雅子国際交流基金パリ日本文化会館 キーワード 教師研修 教師成長 内省 変容 1 研究の背景 目的 方法 パリ日本文化会館は毎年 7 月 欧州で日本語教育に従事する教師を対象に 約 1 週間の合宿型研修を開催している 研修をデザインするにあたり 企画者は研修参加者の 内省 を促すような研修を目指している それは Wallace(1991) が述べているように 教師が専門性を高め 成長していくためには 実践活動とそれを内省する動的なサイクルの繰り返し が有効であり そのサイクルの中で起こる変容が成長に繋がると考えるからである 本研究は 欧州日本語教師研修会参加者の 研修前と後の教師成長に関する態度構造の変容を分析することによって 研修が各参加者の教師としての成長にどのように関与したのかを検討することを目的とする 調査協力者は 2009 年の研修に参加した日本語母語話者教師 3 名である 分析には PAC 分析を用いた データは研修参加前と後に 1 名につき 2 回の自由連想とインタビューを行って収集した 2 回の自由連想には あなたは教師として成長するために何が必要だと思いますか という同じ刺激文を用いた 以上の手続きで収集した研修前後の自由連想と インタビューを質的に解釈し 研修参加者の教師成長に関する態度構造の変容を分析した 2 結果と考察 分析の結果 研修参加前後で調査協力者の教師成長に関する態度構造には変化があることがわかった 特に自己と他者 ( 学習者 同僚 上司 他の教師など ) との関係や相互作用については 研修前の調査でも 調査協力者 3 名すべてが教師成長に必要であると言及していたが 研修後の調査ではより重要な要素として認識され かつ明確に意識化されており 変容がみとめられた このことから自己と他者との関係や相互作用は 教師の成長に必要な要因のひとつであると推察することができる 一方 態度変容の程度に着目すると それは調査協力者 3 名それぞれに異なることがわかった 内省 に伴う変容は 個人によって進む程度や過程に違いがあり 共時的な視点だけでは捉えきれない現象である それらを踏まえ 変容の過程を通時的に捉える視点が必要であることがわかったが それは今後の課題としたい < 参照文献 > Wallace, J, M. (1991) Training Foreign Language Teacher A reflective approach, Cambridge University Press. 227

240 ポスター発表 JPLANG の LMS の評価と活用のための教師向けマニュアルの作成 村木佳子 ( 東京外国語大学大学院 ) 芝野耕司 ( 東京外国語大学アジア アフリカ研究所 ) キーワード LMS(Learning Management System) e-learning JPLANG 課題配信機能 教師向けマニュアル 本研究では 東京外国語大学留学生日本語教育センターと総合情報コラボレーションセン ターとが開発した e-learning 教材 JPLANG ( ジェー ピー ラング ) の LMS (Learning Management System) を 現場の日本語教師の視点から検証し その活用のための教師向けマ ニュアルを作成することを目的とする 日本語教育のために開発された e-learning 教材の一つ に JPLANG がある ( 芝野 2007) これは 初級日本語 中級日本語 を e-learning 化し たものであり 総合教材として利用できるほか LMS を搭載している この LMS を利用す れば Web に関する特別な知識がなくても 課題 小テスト配信 採点 自動集計及び返却 ができる また 音声や動画による課題配信 提出 学習者の発話を録音する LL も可能であ るため 会話や聴解の課題を与えることも可能であるとしている 藤村 (2007) は この LMS の課題配信を利用して自らの教育機関の初級クラスにおける会話課題を実施し 利用す る教師側の負担軽減について検証している しかし 藤村自身はこのシステム開発の一員で あり 初めてこの LMS を利用する日本語教師にとって 配信したい課題の作成が容易かどう かの検討は不十分であると考えられる 本論では課題配信機能が教師にとって利用しやすいかどうかを検証した まず 市販の 練習問題から様々な出題形式の設問を配信課題として選定した 次に この LMS を初めて利用する日本語教師がその課題作成を試行した そして 作成過程において複雑だと感 じた部分 Web 上の説明 表現の不足などを整理し 利用マニュアル試用版を作成した JPLANG: < 参考文献 > 芝野耕司 (2007) 大規模日本語 e-learning の開発 :Development of Large Scale e- Learning System for Japanese. In Proceedings of Computer Assisted Systems for Teaching and Learning Japanese (CASTEL-J) 2007, pp Hawaii. 藤村知子 (2007) e-learning system JPLANG を使った音声課題配信 回答送信について -1 問 1 答形式の初級段階 話し方 の場合 - 東京外国語大学留学生教育センター論集 第 33 号, pp , 東京外国語大学留学生日本語教育センター. 228

241 ポスター発表 日本語学習における映像作品の有用性 学習者の視点の分析 保坂敏子 ( 日本大学 ) 奥原淳子 ( 早稲田大学 ) キーワード 映像作品 有用性 学習者の視点 教師の視点 本研究は 学習者が映画やドラマ アニメなどの映像作品をどのような点から日本語学習に役立つと評価するのかを分析し それを基に教師が映像リソースを選択する際の指標を探ろうというものである 分析の対象は日本語学習に役立つ映像作品を紹介する J-Cinema Guide ( に書き込まれた情報である 本サイトは 日本語教師 日本語学習者の協同作業によって創られ利用されることを目指し筆者らが構築し運営している 今回は 中 ~ 上級の学習者 24 カ国 168 名が書き込んだ 133 作品の情報を対象に 言葉の勉強になる 日本がわかる の評定を統計手法により量的に分析し おすすめのポイント のうち自由記述を取り上げてコーディングと KJ 法により質的分析を行った 学習者は アジア系が 9 カ国 110 名 欧米系が 15 カ国 58 名 ( うち欧州 12 カ国 34 名 ) であった おすすめの作品として挙げられた 133 作品は TV ドラマ 46.4% 映画 38.7% アニメ 14.9% で ジャンル別では ドラマ 31.6% ロマンス 14.6% コメディ 14.2% 青春 8.3% の順で多かった 評定の分析結果から 欧米系は日本理解に アジア系は言語学習に有用なものを重視する傾向が見られた また おすすめのポイント の分析から 言語学習面では わかりやすいもの 語彙 表現 若者言葉などの言語変種 位相差が学べるものに有用性を感じ 語用論的要素にはあまり注目していないことがわかった 日本の何を学ぶかという点では 社会 文化 考え方 特定の場面 事物 生活 時代 人間関係 という順で言及が多かった さらに 学習者が映像教材を評価する視点の中で 登場人物のセリフがスマート / 独特 / 印象的 言葉遣いがきれい / 洗練されている といった セリフや言葉遣いに関心を持つ コメントが散見された これは 教師側には見られない視点であった また 一般に教師は 古い / 身近でない / モデルにならない 映像作品は使用しにくいと考える傾向が見られるが 学習者からは もう存在していない日本を経験できた 当時の社会がわかる 方言の勉 強をするのもいい といった考えも記されており 学習者の視点を知ることにより 教師は より広範囲の映像作品を利用しうる可能性があることも示唆された < 参考文献 > 谷口聡人ほか (2006) シンポジウム映画 アニメ マンガ 日本語教育の映像教材 日本語教育学会 2006 年度春季大会予稿集, p , 日本語教育学会. 229

242 ポスター発表 非漢字系日本語学習者を対象とした漢字の字形学習のための 補助教材作成の試み 明朝体活字と手書き文字のずれを中心として 岡田さやか ( ベオグラード大学 ) 臼井直也 ( ローマ国立大学ラ サピエンツァ ) キーワード 漢字学習 非漢字系学習者 字体 明朝体 手書き文字 1 研究目的および方法 近年日本語学習者の多くが電子辞書を携帯し 手軽に辞書を引くことができるようになった 電子辞書の多くで用いられる明朝体活字は 一般的に日本の学校教育で教えられ母語話者が書く手書きの文字 ( 筆写の楷書 ) とは異なる部分が多い 明朝体とは目で読む文字としての機能が高度に発揮された字体 ( 氏原 1998) であり 折り方や点画の組み合わせ方 点の向き 曲直などに特徴が見られ 字形やバランスも手書きの字体と異なっている 廣田 (2008) にも指摘されるように 日本語学習者はこの明朝体を忠実に再現した字を手書きで書くことがあり 特に非漢字系学習者に多い そこで本研究は 明朝体の漢字と手書きの漢字との字体のずれを洗い出し 学習者が電子辞書を用いて漢字の字形を学習する際の手引きとすることを目的とした 日本語能力試験各級の出題基準にある漢字を対象とし 明朝体と手書きの字体のずれを部首などのパーツ 級ごとに分類し 一覧表を作成した 2 結果 分析の結果 1 点画の組み合わせ方 14 種 235 字 ( 女 などを含む漢字 ) 2 点画の 向き 7 種 291 字 ( 言 などを含む漢字 ) 3 点画の長さ 2 種 124 字 ( さんずい など を含む漢字 ) 4 折り方 16 種 361 字 ( 糸 などを含む漢字 ) 5 バランス 3 種 72 字 ( 心 などを含む漢字 ) 6 はね 3 種 51 字 ( 七 などを含む漢字 ) 合計 45 種異なり字数 924 字が検出された そしてこの結果を基に 各漢字に含まれる字体のずれを漢字の音訓読みから確認できる学習者用補助教材を 日本語能力試験の級別に作成した 3 今後の展望今後は 本研究で抽出したずれへの日本語教師 母語話者の許容度 学習者への正しい 字形の提示方法 その学習効果の縦断的観察などに関して調査を進めていく予定である < 参考文献 > 氏原基余司 (1998) 教科書体と明朝体の問題 教科書体の字形統一を中心として 日本語学 vol.17-5, pp , 明治書院. 廣田周子 (2008) 非漢字圏学習者に対する電子辞書の使い方の指導 文化外国語専門学校日本語課程紀要 21, pp , 文化学園外国語専門学校. 230

243 ポスター発表 ウクライナにおける大学生の日本語学習動機調査 CEFR の言語参照枠を用いて 大西由美北海道大学大学院修士課程 キーワード 動機づけ 孤立環境 因子分析 目標 1 背景本研究で対象とするウクライナは 日本との人的 経済的交流が尐ない地域である 日本語学習者は増加傾向にあるが 意欲を維持することが難しい ( 立間 2006) とされ 大学卒業までに動機づけが低減し 意欲的に学習を継続できない学習者がいることが問題となっている 動機づけは学習過程において環境等の影響を受けて変化するものであり 学習の成否 ( 期間や到達度 ) にも関わっている ウクライナの学習者は入学当初は留学や就職などの高い遂行目標を持っているが 卒業年次以前に学習を放棄してしまう者も尐なくない 達成目標理論においては 能力が固定的なものだと捉えている学習者は結果を重視する遂行目標を持ち 能力の自信が低い場合には無力感に陥りやすいとされている 本研究では 学習者の動機づけと目標や自己評価 達成見込みとの関連について分析を行う 2 調査の方法と結果対象地域の大学で日本語を専攻する学習者の動機づけの構造を明らかにするために 自 由記述による予備調査を行い 項目を整理するという方法で尺度を作成した 本調査 1 では 五つの大学において全学年 (1~5 年生 ) を対象に質問紙調査を行った 留学試験を受ける 3 年生を境に動機づけが低くなることが現地教師や専門家によって報告されているため 低学 年層 (1 2 年生 ) と高学年層 (3~5 年生 ) で因子分析を行った結果 学年層によって学習 動機が異なることや社会的環境の影響を受けていることなどが明らかになった また ウク ライナ人学習者の持つ特性である 挑戦志向 や 日本語関心志向 などを活かすことで動 機づけを高められるのではないかという 教育的示唆が得られた 本調査 2 では 動機と目標や達成見込みなどの要因との関係を調べるため 本調査 1 で用いた動機尺度に CEFR のヨーロッパ共通参照枠の 5 技能に基づいた自己評価や目標レベル 達成見込みを尋ねる項目を加えた質問紙を作成し 本調査 1 と同一機関の学習者に質問紙調査を行った 因子分析を行い 目標などの要因との相関係数を分析の対象とした 分析の結果 統合的な動機 ( 日本人と話したい など ) が 継続的な学習に結びついている可能性が示唆された また 入学当初から就職や留学を目標としても 多くの学生がその機会を得られないことが高学年で動機づけを低減させる要因の一つだと考えられる < 参考文献 > 立間智子 (2006) ウクライナにおける日本語教育の現状と問題点 国際交流基金日本語教育紀要 2, pp , 国際交流基金. 231

244 ポスター発表 ビリーフ調査の因子分析 会話についてのビリーフと語彙学習重視 文法学習重視 阿部新名古屋外国語大学 キーワード ビリーフ 因子分析 スペイン 語彙学習重視 文法学習重視 会話 本研究では 学習者のビリーフの潜在的要因 ( 因子 ) を把握し 会話 に関するビリーフがどのような要因と関係しているか考察する スペイン マドリードの大学で日本語学習者 98 名を対象に全 51 項目のアンケートを行い ( 阿部 2009) フリーの統計ソフト R (R Development Core Team 2008) を用いて 欠損値がない 95 名分のデータの因子分析 ( 最尤推定法, プロマックス回転 ) を行った 計算の結果 10 の因子を抽出し さらに因子間の相関係数を算出して相関が大きい因子 を 3 群にまとめた 第 1 群 ( 第 1, 4, 5, 9 因子 ) は 学習者中心や教師中心といった授業方法志向や教師像についての考え方を示す因子 日本語習得への自信を示す因子 学習者の属性による学習の得意不得意があるという考え方を示す因子である 第 2 群 ( 第 2, 3, 10 因子 ) は語彙学習重視の因子 話す方が聴解よりやさしいという考え方を示す因子 外国語学習について特別の才能を持った人がいるという考え方を示す因子である 第 3 群 ( 第 7, 8 因子 ) は文法学習重視の因子と 話すことへの不安や自分に外国語学習の才能がないという自信のなさを示す因子である これら二つの因子は負の相関を示した さらに 3 群の一部の因子と相関が見られ どれかの群とのみ相関があるというわけではない因子として 教師への助言要求 の因子 ( 第 6 因子 ) があった 会話に関する因子が含まれる第 2 群と第 3 群を見てみると 第 2 群では 自分も他人もどうすることもできないこと ( 才能 ) が習得の成否を左右しているというビリーフと 語彙学習重視のビリーフや 会話は易しいというビリーフが相関していることが分かる また 第 3 群では 文法学習重視というビリーフ 話すことや外国語学習への自信というビリーフが相関していることが分かる 以上から 語彙学習重視の考えは会話について安易で努力を放棄するような考え方と結びつきやすいことが分かった また 文法学習重視の考えは話すことへの自信に繋がることが分かった 会話をより上達させたい と考える学習者には 文法学習を重視し 語彙学習を重視しすぎないよう指導することが求められる < 参考文献 > R Development Core Team (2008) R: A language and environment for statistical computing. Vienna, Austria: R Foundation for Statistical Computing, ( ) 阿部新 (2009) スペイン マドリードの大学における日本語学習者の言語学習ビリーフ 名古屋外国語大学外国語学部紀要 第 37 号, pp , 名古屋外国語大学

245 ポスター発表 教師は Can do 記述の試みをどうとらえるか 内川かずみ ( エトヴェシュ ロランド大学 ) 柳坪幸佳 ( 国際交流基金ブダペスト日本文化センター ) キーワード CEFR Can do statements 講師インタビュー 実存的能力 ハンガリーの環境における Can do 国際交流基金ブダペスト日本文化センター日本語講座 ( 一般講座 ) では 2008 年 10 月 に Can do 記述の導入を開始した 授業活動をふりかえることを当初の目的としていたため Can do は毎回授業ごとにたて 授業の最初と最後に講師間メーリングリストに流して全員で内容を共有できるようにした その後 年度後期授業終了後 講師一人ずつに Can do を実施してみての感想 Can do に対する印象 を実施した 対象はハンガリー人 1 名 日本人 5 名 インタビュー時 間は一人 30 分から 90 分 ( 平均 70 分 ) 通常の授業実践に関する内容ではあったが Can do に対する知識や講師としての力量を問うものではないということを明確に伝えるため でき る限り自由に語ってもらえるように半構造化インタビューの形式をとった インタビューの 際 対話形式や議論になることもしばしばあった なお インタビューができなかった講師 2 名に対しては 自由記述式のアンケートをメールにて実施した 意見には肯定的なものもあれば 否定的なものや問題提起もあった 肯定的なものとして は 授業が具体的になった 学習者の動機付け モチベーションの維持につながる 自分の視点が変わった というもの 否定的な評価や問題提起としては 自分の理解に対 する疑問 不安 ( よくわからないままやっているのではないか 今までと何が違うのか ) 具体的な記述の仕方や評価方法に対する不安 ( どの段階から < できる > といっていいの か ) 導入方法に対する異議 ( 文法項目から Can do を割り出すやり方でよいのか ) 言 語教育に関わる問題提起 ( 学ぶこと自体の楽しみそのものをどう考えればいいか ハンガリ ーの学習現場でどのような Can do をたてればいいか ) が挙げられる 講師の多くは CEFR 研修や CEFR 準拠の教材執筆を通じて 何らかの形で CEFR や Can do に触れた経験を持っていた しかし同インタビューから感じるのは 実践を経た後にあらた めて CEFR の背景や理念にたちもどることの重要性である と同時に 言語学習の楽しみ をどうとらえるか 試す術もない環境で < できる > ことの意義とは何なのか という問題 も提示されており これらは CEFR の 実存的能力 (existential competence) とも関連する 重要な問いと考える こういった疑問を具体的な形で活動や評価に落としていくこと そし て対話や議論を常に重ねていくことを 今後の課題としていきたい < 参考文献 > Council of Europe (2001) Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment. CUP. 233

246 ポスター発表 フランス在住日仏国際家族の日本語継承 学童期後半の国際児と日本人母親による日本語継承行為の意味づけ 村中雅子お茶の水女子大学 キーワード 日本語継承 国際家族 フランス M-GTA 1 研究背景 目的 方法 継承語としての日本語教育では しばしば当事者の動機の低さが問題点として指摘される H. ブルーマー (1991) は 人間は 物事が自分に対して持つ 意味 にのっとって 物事に対して行為する と 行為と意味の関係を解釈した 換言すれば 日本語継承も 行為者である親と子どもが日本語継承に対して持つ意味にのっとって行われていると言える したがって当事者の動機の問題は 彼らによる継承行為の意味づけを検討することで 理解の手がかりを得ることができると考えられる 村中 (2007) は在仏の日本人母親と国際児 (7~10 歳 ) を対象に日本語継承行為の意味づけ を分析した その結果 母親も国際児も継承行為を肯定的に意味づけ 日本語に道具的価値 と情緒的価値を見出していることがわかった 本研究は村中 (2008) の知見に生涯発達的視 点を取り入れ 発達に伴って変化が予測される当事者による日本語継承の意味づけを明らか にし 当事者の動機づけを検討するための手がかりを得ることを目的とする データは村中 (2008) の協力者でもある在仏の日仏国際家族から日本人母親 4 名と国際 児 4 名 (9~11 歳 ) を対象とし 2009 年 4 月に半構造化インタビューと観察を行って収集した 分析方法には修正版グラウンデッド セオリー アプローチ (M-GTA) を用いた 2 結果 考察 日本語継承への肯定的な意味づけには大きい変化は見られなかった しかしその意味づけの過程に 村中 (2008) では見られなかった国際児とその友人との相互作用が確認され それが日本語継承への意味づけに肯定的に働き 日本語話者としての自己肯定につながっていると解釈された また村中 (2008) ではフランス社会への帰属意識が低かった母親も 就職等フランス社会で活動することによって自尊心が強まり それが日本人 日本語話者としての自己肯定や日本語継承の意味づけに肯定的に働いていた 子どもの成長は親子が関わる社会を広げ その社会との関係性が日本語継承の意味づけにも関与することが示唆された < 参考文献 > Blumer, H., 後藤将之訳 (1991) シンボリック相互作用論 - パースペクティブと方法 勁草社. 村中雅子 (2008) フランス在住日系国際家族の日本人母親と国際児は日本語継承をどのように意味づけているか 言語文化と日本語教育 第 35 号, pp , お茶の水女子大学. 234

247 ヨーロッパ日本語教師会 ( 公益社団法人 ) Association of Japanese Language Teachers in Europe e.v.(aje) 本会はヨーロッパ各国において日本語を第一言語としない者に対する日本語教育の振興とヨーロッパと日本の相互理解を深めることを目的とする そのために欧州各国の日本語教育の現状を把握し 情報交換や教師間の相互協力を図るべくネットワークを確立し ヨーロッパにおける日本語教育の発展のために努力する 主な活動内容 ヨーロッパ各国日本語教師間のネットワークの確立ヨーロッパ日本語教育シンポジウムの開催日本国内及びヨーロッパ外の日本語教育関係機関とのネットワーク形成ヨーロッパの日本語教育事情に関する資料 情報などの収集 整理及び提供ヨーロッパにおける各種研修会への協力ニュースレター その他の刊行物の発行 会員 個人会員この会の目的に賛同する個人賛助会員この会の目的を支援する個人または法人 会費 < 会計年度 :1 月 1 日 ~ 12 月 31 日 >( 単位 : ユーロ ) 入会金 ( 個人会員 ) 20 年会費 ( 個人会員 ) ヨーロッパ内 : 30 ヨーロッパ外 : 60 ( 賛助会員 ) 500 入会申し込み ホームページ : 参照 問い合わせ Mrs. Suzuko Anai sanai@brookes.ac.uk Dept of Modern Languages fax: +44-(0) School of Arts and Humanities Oxford Brookes University Gipsy Lane, Headington Oxford OX3 0BP 235

248 ドイツ語圏大学日本語教育研究会 会のご案内 当会は Japanisch an Hochschulen e.v. ドイツ語圏大学日本語教育研究会 が正式名ですが 略称として JaH と言います 会は かつて国際交流基金ケルン日本文化会館の主催によって行われてきたドイツ語圏日本語教育会議の後をうけ 大学部門に焦点をあてて 1994 年の準備会を経て 1995 年に発足しました 会員は 現在 (2010 年 1 月時点 ) 日本在住の方々も含めて約 60 名です JaH の目的は ドイツ語圏における日本語の普及 並びに高等教育機関の日本語授業のため 教授法および教材の 更なる研究を目的とする ( 定款第二条 ) です その目的に沿って シンポジウム 出版 会員相互の情報交換と交流などの活動を実施しています JaH は ドイツ語圏の大学における日本語教師の会ですが ドイツ語圏の大学の日本語教育は 授業時間 教育目的などによって 大きく二つの分野に分けることができます 一つは 日本学研究のための日本語教育で そこでは授業時間も多く 到達目標も高いのが一般的です 二つ目は 大学における全学対象の日本語教育で 日本学研究以外の日本語教育を目的とし 授業時間も比較的少ないものです また特に 昨 2009 年からは 全学対象の日本語教育担当者同士でメーリングリストを組織し 一般的 日常的な日本語教育の諸問題について活発な情報交換 意見交換がされています JaH の会員は 主にこの二つの分野で日本語教育に携わっている人々からなっていますが ドイツ語圏の大学の日本語教育に関心や何らかの関連を持つ方々もおります JaH の今までのシンポジウムやこれからの計画 出版物 入会申し込み 定款などについては ホームページをご覧いただきたいと思います また JaH についてご質問などのある方は 同じくホームページに連絡先がございます役員にお尋ねいただきたいと存じます 文責 : 飯島昭治 236

249 Verein der Japanischlehrkräfte an weiterführenden Schulen im deutschsprachigen Raum e.v.(vjs) ドイツ語圏中等教育日本語教師会 事務局 : Am Dorfzaun 2, Ludwigshafen, Germany FAX: c/o Puster info@vjsonline.de ¾ 設立 : 1993 年 3 月 会員数 : 69 名 ( 普通会員 48 名特別会員 *21 名 )2009 年 11 月 15 日現在 * 特別会員 : 今までの研修会招聘講師を会費免除の特別会員として迎え 研修会の 後も引き続き VJS ネットワークに加わっていただいている ¾ 役員 : 会長 : ハイケ パーペンティン (Papenthin, Heike) 副会長 : プスター文 (Puster, Aya) 会計 : 磯真介 (Iso, Shinsuke) 書記 ( 日本語 ): 高島慶子 (Takashima, Keiko) 書記 ( 独語 ): 久保カタリーナ (Kubo, Katharina.) 年会費 : 40 Euro ( 入会金 10 Euro) 主な活動内容 - 教師再研修 教師相互の情報 意見交換 教師同士の親睦を目的として 毎年 1 回日本教育セミナーを開催 (1988 年から毎年開催 ) - セミナー報告書の刊行 - ドイツ語圏中等教育段階での日本語授業の実状調査 - 新教材 日本語能力試験 日本語教育関連コンテスト等について情報提供 - 各州の日本語教育についての教育行政上の動向 (Lehrplan,Abitur 等 ) についての情報提供及び交換 - ドイツ現代外国語教員連盟 (GF) 加盟団体として 他の外国語教員と交流 意見 情報交換 - ドイツ大学教師会 ドイツ成人大学 (VHS) 教師会および中国語連盟等と協力し合いお互い研修会を訪問し情報交換や交流に勤めている - 広く中等教育機関における日本語授業の実状も紹介している 237

250 ドイツ VHS 日本語講師の会ご案内 正式名称 : Verein zur Förderung des Japanisch-Unterrichts an VHS e.v. 会の発足 : 1992 年 4 月 第 1 回目の研修会が開催された時に設立 法人登録 : 公益団体許可 (Sitz: Düsseldorf VR 8083) 会員数 : 91 名 (2010 年 3 月現在 ) 会の目的 1) 主に ドイツ VHS で日本語教育に携わっている講師へ より効果的な教育活動ができるように支援 ドイツにおける成人向けの日本語教育に関心を持つ者との情報交換の場を提供 2) ドイツにおける成人向け日本語教育を通じて日独文化交流への貢献 活動 : 研修会および勉強会 1) 年 1 回ドイツ全国規模の定例研修会開催 日本語の教え方一般をはじめとする基礎的教授能力の向上と 必要な知識の習得をめざし 最新の日本語教育事情をふまえた講義を受講できるように 可能な限り日本の現場で活躍する講師を招聘することが目的である 講義のほかに そのときに応じてワークショップ 模擬授業 会員による発表も行う 2) 州 ( または合同州 ) ごとの勉強会 講習会を開催 通常 1 日ないしは 2 日間の日程で 州 ( 合同州 ) ごとに州代表が中心となり 1 年に 1 回以上自主的に開催 内容は 定例研修会で取り上げられないような 細かい文法上の問題点と その教え方に関する講義 会員の発表 情報交換など 他の州の会員 非会員も参加できる その他の活動これまでの定例研修会 ( いずれも二泊三日 ) 1) ニュースレターの発行開催年月開催地講師 ( 敬称略 ) 2) 紀要 の発行( 隔年 ) 第 1 回 1992 年 4 月 Aulendorf 水谷信子 土岐哲 3) 教科書 日本語でどうぞ を制 第 2 回 1993 年 1 月 Düsseldorf 伊藤小枝子 澤井康子 作 第 3 回 1994 年 3 月 Stuttgart 高見澤孟 粂川光樹 第 4 回 1995 年 3 月 Hannover 加納千恵子 小出慶一 連絡先 第 5 回 1996 年 3 月 Meißen 石田敏子 大曾美恵子 事務所 第 6 回 1997 年 3 月 Heigenbrücken 高見澤孟 ハント蔭山裕子 Gartenstr.3, Memmingen 第 7 回 1998 年 3 月 Hamburg 江副隆秀 c/o Fr. Hiromi Tabe-Altvater 第 8 回 1999 年 3 月 Parsberg 石井恵理子 林さと子 第 9 回 2000 年 3 月 Ludwigshafen 江副隆秀 役員 第 10 回 2001 年 3 月 Bonn 川口義一 会長 Fr. Hiromi Tabe-Altvater 第 11 回 2002 年 3 月 Rastatt 清ルミ Hiromi.Tabe. Altvater@onlline.de 第 12 回 2003 年 3 月 Hannover 山内博之 副会長 Fr. Masako Säll-Neriki 第 13 回 2004 年 3 月 Bamberg 第 14 回 2005 年 3 月 Kronberg 山田敏弘 荒川洋平 nerikima@yahoo.co.jp 第 15 回 2006 年 3 月 Dortmund 小林ミナ 第 16 回 2007 年 3 月 Herrenberg 迫田久美子 会計 Fr. Kazue Haga 第 17 回 2008 年 3 月 Hannover 小山悟 kazue_haga@yahoo.de 第 18 回 2009 年 3 月 Marktbreit 野田尚史 第 19 回 2010 年 3 月 Kronberg 土岐哲 238

251 日本語教育フォーラム ベルリン JaFFB: JaF-Forum Berlin JaFFB は 1997 年より ベルリン近郊在住日本語教育関係者ネットワーキング ( 約 25 名 ) として存立を開始する 本会成立の直接のきっかけは 同年 9 月にベルリン市内関係者により企画運営された 2 週間の アジア パシフィック ウィーク (Asia-Pacific Weeks) である ここで 山田 ( 爾後本会の代表者 ) は勤務先大学からの参与プログラム 新しい日本語教育を目指して :1オールタナティブ教育法 理論と実践 2ドイツ大学内日本語教員養成講座設置案 を実施した この行事には ベルリン内外在住日本語教育界より 25 名の参加者が集まり JaFFB の地域ネットワーキング と 超年齢層 超機関 の立場からの日本語教育促進 を今後の活動目標として確認し合った その後 JaFFB は 多少のメンバーの変動はあるが 単発的な招待講演や研修会などを経て 2003 年 3 月に国立国語研究所及びベルリン日独センターからの助成支援を受け これまでに 3 回 (2003 年 2004 年 2005 年 ) の 紅祭 : ベルリン日本語祭 (BeNi-Matsuri) を実行委員会の中核として主催してきた その後 2006 年 8 月にベルリン日独センターで開催された第 5 回 OPI 国際シンポジウムへの協賛 共催を経て 2009 年 9 月 第 14 回 AJE シンポジウムへの協力活動を行う運びとなる 紅祭り : 文責 : 山田ボヒネック頼子日本語教育フォーラム ベルリン代表 239

252 あとがき 本報告書の発行 発送を持ちまして 第 14 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム のす べての任務が終了します 今大会には合計 62 本の投稿があり 査読の結果 シンポジウム では口頭発表 24 本 ポスター発表 13 本 ワークショップ 4 本の発表が行われました 14 回目のベルリンでのシンポジウムが 250 名の参加者を得 盛会となりましたのも ひとえに各支援団体および会員の皆様方の暖かい励ましによるものと 感謝申し上げます 実行委員会では定期的に集まり 準備を重ねてまいりました すべての委員の胸にはひたすら皆様に喜んでいただけるシンポジウムにしたい 来てよかったと思っていただきたいとの熱い思いだけがありました 内容の濃い講演や 発表 ワークショップ ポスター発表への積極的な参加と 実行委員一同が一丸となって取り組んだ結果が実を結んだことは 何にもまして喜ばしいことです 例年より暑い夏となったここヨーロッパでしたが 3 日間 皆様の熱い議論が戦わされて いる間に気が付くと 外はすっかり秋の様相を呈していました しかし いくら季節が過ぎ 行こうと 日本語教師の熱い思いは決して色あせることがないのだと 気持ちを新たにしま した そして 世界中の日本語教師が一堂に会して意見交換ができるこの会がこれからも 益々躍進していくことを強く願って 皆様方にこの報告書をお届けいたします これからの 日本語教育に少しでもお役に立てれば 実行委員会一同にとって幸甚です 酒井康子 ( ライプツィヒ大学 ) 第 14 回日本語教育シンポジウム副実行委員長 240

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日本語教育紀要 7/pdf用 表紙

日本語教育紀要 7/pdf用 表紙 JF JF NC JF JF NC peer JF Can-do JF JF http : // jfstandard.jpjf Can-doCommon European Framework of Reference for Languages : learning, teaching,assessment CEFR AABBCC CEFR ABB A A B B B B Can-do CEFR

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