FDG-PET検診で発見された男性非浸潤性乳管癌の1例　第76巻12号2909頁

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あつひろしもかさ
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1 日臨外会誌 76(12), ,2015 症例 FDG-PET 検診で発見された男性非浸潤性乳管癌の 1 例岐阜赤十字病院外科林昌俊栃井航也小久保健太郎丹羽真佐夫高橋啓症例は56 歳, 男性. 平成 25 年 11 月にPET 検診で左乳頭下に SUVmax 2.5の集積を指摘され, 当院に紹介された. 左乳頭下に小指大の腫瘤を触知した. 超音波検査でも左乳頭直下に分葉状, 辺縁不正, 内部不均一な低エコー腫瘤を認めた. マンモグラフィー検査では左 E 領域に12 7 mm 大の分葉状の腫瘤を認め, カテゴリー 3 と診断した. 針生検を施行しnon-invasive ductal carcinoma を疑った. 胸筋温存乳房切除術, センチネルリンパ節生検を施行した. センチネルリンパ節が転移陰性でありリンパ節郭清は省略した. 病理組織検査はnon-invasive ductal carcinoma 病期 0,(pTis,pN0, cm0) と判定した. 外来でタモキシフェンを投与, 術後 1 年 5 カ月を経過し再発兆候は認めていない. 今回われわれは, 検診 FDG-PETで発見された男性非浸潤性乳管癌の 1 例を経験した. 索引用語 :FDG-PET, 男性乳癌, 非浸潤性乳管癌はじめに男性乳癌はそのほとんどに臨床症状を伴っており, 無症候性男性乳癌の報告例は少ない. ところで, 乳癌の画像診断は, 原発巣に対しては,MMG US MRI の有用性が高く, 生検も行いやすい癌である. このため,PET-CTは乳癌診断にPEMが保険収載されたものの, 乳癌早期発見への役割は乏しい. 今回われわれは,PET 検診で発見された男性非浸潤性乳管癌 (DCIS) 乳癌を経験したので報告する. 症例症例 :56 歳, 男性. 主訴 : なし. 既往歴 : 特記事項なし. 家族歴 : 特記事項なし. 現病歴 : 平成 25 年 11 月にPET 検診で左乳頭下にSUV max 2.5の集積を指摘され, 当院に紹介された. 入院時現症 : 体格, 栄養中等度. 結膜に貧血, 黄染なし. 胸部左乳頭下に小指大の腫瘤を触知した. 腋窩リンパ節は触知しなかった年 6 月 26 日受付 2015 年 9 月 14 日採用所属施設住所岐阜市岩倉町 3-36 PET CT 検査所見 (Fig. 1): 左乳頭下に SUVmax 2.5の集積を認めた. 超音波検査所見 : 左乳輪直下に分葉状, 辺縁不正, 内部不均一な低エコー腫瘤を認めた. マンモグラフィー検査所見 (Fig. 2): 左 E 領域に 12 7 mm 大の分葉状腫瘤を認めた. 石灰化はなく境界は大部分が明瞭であったが, 一部不均分葉状でカテゴリー 3 と診断した. CT 所見 : 左乳頭下に12 8 mm 大の増強効果を伴った辺縁不正な腫瘤を認めた. MRI 検査所見 : 左乳頭下に14 8 mm 大分葉状の腫瘤を認めた.T1 強調像では骨格筋と比較し低信号, T2 強調像では淡い高信号を呈し, 内部に強い高信号域を伴っていた. ダイナミック撮像では急峻な立ち上がりと wash out を呈する増強効果を認めた. 以上より, 男性乳癌を疑い針生検 (CNB) を施行, non-invasive ductal carcinoma が疑われた. リンフォシンチグラム (Tc 99mフチン酸 74MBq) (Fig. 3A): 左腋窩に 1 箇所の hot spot を認め spect 画像 (Fig. 3B) からlevelⅠのセンチネルリンパ節と考えられた. 手術所見 : 全身麻酔下に胸筋温存乳房切除術, センチネルリンパ節生検を施行した. センチネルリンパ節 47

2 2910 日本臨床外科学会雑誌 76 巻 Fig. 1 PET CT 検査 : 左乳頭下に SUVmax 2.5 の集積を認めた ( ). Fig. 2 マンモグラフィー検査 : 左 E 領域に12 7 mm 大分葉状, 境界は大部分が明瞭で一部分葉状の腫瘤を認めた. カテゴリー 3 と診断した. 生検はRI 法と色素法を併用し施行した. リンパ節を 1 個摘出, 術中迅速病理検査を施行. 癌転移陰性であったため腋窩リンパ節郭清は施行せず, 手術を終了した. 病理組織検査所見 (Fig.4 A:H.E. 20,B:H. E. 100):Non-invasive ductal carcinoma,f(-),s (-),ly(-),v(-),nuclear grade 1,Histological grade 1,ER(+),PgR(+) であった. 病期 0,(pTis, pn0,cm0) と判定した. 術後経過は良好で合併症なく第 8 病日に退院した. 48

12 号 PET-CT 検診で発見された男性乳癌 2911 Fig. 3 リンフォシンチグラム (Tc-99m フチン酸 74MBq): 左腋窩に 1 箇所の hot spot を認め, spect 画像から levelⅠ のセンチネルリンパ節と考えられた. Fig. 4 病理組織検査 (A:H.E. 20,B:H.E. 100):Non-invasive ductal carcinoma, f(-),s(-),ly(-),v(-),nuclear grade 1,Histological grade 1,ER(+), PgER(+).

組織型は乳管由来が多く小葉由来は稀とされ, ホルモン受容体陽性率が高いことが特徴とされる 1)~3). 発生部位は乳頭直下に多く 4), そのほとんどに臨床症状を伴っており, 無症候性男性乳癌の報告例は少ない. 発見経緯は腫瘤を呈するものが最も多く, 乳頭陥没乳頭分泌異常 ( 血性分泌物 ) 潰瘍疼痛乳輪部落屑等皮膚障害などである.

3 12 号 PET-CT 検診で発見された男性乳癌 2911 Fig. 3 リンフォシンチグラム (Tc-99m フチン酸 74MBq): 左腋窩に 1 箇所の hot spot を認め, spect 画像から levelⅠ のセンチネルリンパ節と考えられた. Fig. 4 病理組織検査 (A:H.E. 20,B:H.E. 100):Non-invasive ductal carcinoma, f(-),s(-),ly(-),v(-),nuclear grade 1,Histological grade 1,ER(+), PgER(+). 病期 0(pTis,pN0,cM0) と判定した. 非浸潤癌であり, 乳房切除術を施行したため原則, 術後ホルモン療法は必要ないと考えられるが, 本人希望によりタモキシフェンを投与, 術後 1 年を経過し再発兆候は認めていない. 考察男性乳癌罹患率は女性患者の 1 %, 好発年齢は女性に比較し高い 1). 組織型は乳管由来が多く小葉由来は稀とされ, ホルモン受容体陽性率が高いことが特徴とされる 1)~3). 発生部位は乳頭直下に多く 4), そのほとんどに臨床症状を伴っており, 無症候性男性乳癌の報告例は少ない. 発見経緯は腫瘤を呈するものが最も多く, 乳頭陥没乳頭分泌異常 ( 血性分泌物 ) 潰瘍疼痛乳輪部落屑等皮膚障害などである. また, 疾患認識の薄さや羞恥心による医療機関への受診の遅れのため病悩機関が長く, 進行例が多いとされてきた. このため, 非浸潤癌として発見されるのは男性乳癌の中でも 2-18% とされる 5)6). ところで,PET-CT 検診は多種の癌を対象として全身を検索できる非常に有用な任意型検診である.FDG-PET による乳癌発見率は0.19% で, 感度は92.3% であり甲状腺癌大腸癌肺癌とともに PET 検診で発見されやすい癌とされる 7). 初発乳癌に対する PET 検査の感度は68 96%, 特異度 % と報告されている 8)9) ものの, 乳がん検診を目的としたFDG-PETは, 死亡率減少効果を示すエビデンスはない. しかも,PET 検診はMMG 視触診併用乳がん検診より高額である. このため, 日本乳癌学会ガイドラインでは, 有所見時の転移再発検出ではPET 検査は有用とされているが,FDG-PET 乳がん検診の推奨度はグレードDである 10).1983 年から2014 年までの医学中央雑誌を用いて男性乳癌 FDG-PET をキ 49

4 2912 日本臨床外科学会雑誌 76 巻ーワードに検索しえた限りでは, 会議録を除くFDG- PET 検査が発見契機であった男性乳癌の本邦報告例は門磨ら 11) の報告と自験例の 2 例のみであった. また, 自験例の如く無自覚で発見された男性乳癌症例は大島ら 12) のCTで発見された症例を加え 3 例のみであった. いずれの症例も触診上, 乳頭部に腫瘤を触知しており無自覚といえども臨床症状を伴っていた. SUV は乳癌の組織学的, 生物学的性質を反映するとされ,DCIS や小葉癌では低値となるとされる 13)~16). 一方, 結節性発育を示す腫瘍はびまん性は発育をする腫瘍に比較し高いSUVを示すとされ 15),DCISの多くはSUV2.0 未満であったとの報告もある 17). 自験例は DCISであったが乳管内で結節性, 充実性に発育したことが SUV 高値を示した原因と推察された. 現在のところ, 我が国における乳癌対策は女性乳癌の発見に主眼が置かれており, 男性乳癌に対する早期発見の手段は無い. また, 男性乳癌はその頻度の少なさから疾患認識は薄く医療機関への受診が遅れることが多い. 男性にも乳癌が発生することを啓蒙する必要があると考えられた. 男性乳癌は, 女性乳房との解剖学的違いにより局所進展が早く, リンパ節転移が高度なものが多いとされていたが, リンパ節転移の頻度は女性乳癌と差がない 18)19) との報告がみられる. 背景となる予後因子を調整すると, 女性乳癌患者と男性乳癌患者の間に, 全生存 20)21) 期間無病生存期間に差がないことが報告され, 男性乳癌患者と女性乳がん患者の予後に大差はない. また, 非浸潤性乳管癌では理論的にはリンパ節転移はなく, センチネルリンパ節生検は必要ないと考えられる. 男性乳癌は浸潤癌が多く, 術前 CNBは全体像をみていないため最終病理診断で浸潤癌にアップステージする可能性がある. また, 海外では数十例規模での早期男性乳癌に対するセンチネルリンパ節生検の有用性が報告され 22)~24), 米国臨床腫瘍学会(ASCO) のガイドライン 25) では男性乳癌は女性乳癌同様に適応可能としている. 以上を踏まえ, 自験例では胸筋温存乳房切除術, センチネルリンパ節生検を施行し, センチネルリンパ節が転移陰性であったため腋窩リンパ郭清を省略した. 結語今回われわれは,PET-CT 検診で発見された男性非浸潤性乳管癌の 1 例を経験した.PET-CT 検査は, 男性乳癌において非浸潤癌の段階でも検出できる場合があることが示唆された. 文献 1)Fentiman IS, Fourquet A, Hortobagyi GN : Male breast cancer. Lancet 2006 ; 367 : )Giordano SH, Buzdar AU, Hortobagyi GN : Breast cancer in men. Ann Intern Med 2002 ; 137 : )Cutuli B, Lactoze M, Dilhuydy JM, et al : Male breast cancer : result of the treatments and prognostic factors in 397 cases. Eur J Cancer 1995 ; 31A : ) 松田実, 岩瀬拓士, 吉本賢隆他 : 男性乳癌臨床像と経時的変遷. 日臨外会誌 1997;58; ) 櫻井照久, 鈴間孝臣, 三好新一郎他 : 血性乳頭分泌を伴う非浸潤性男子乳癌の 1 例. 日臨外会誌 1998;59: ) 小林隆, 佐野宗明, 佐藤信昭他 : 男性乳癌 22 症例の検討. 日臨外会誌 2003;64: ) 南本亮吾, 千田道雄, 宇野公一他 :FDG-PET がん検診の実際と成績 - 全国調査に基づく検討. 核医 2007;44: )James C, McEachen MD, Phillip H, et al : Male primary breast cancer found on FDG/CT. Clin Nucl Med 2008 ; 33 : )Minamimoto R, Senda M, Uno K, et al : Performance profile of FDG-PET and PET/CT for cancer screening on the basis of a Japanese Nationwide Survey. Ann Nucl Med 2007 ; 21 : ) 日本乳癌学会 / 編 : 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン 2 疫学診断編金原出版, 東京,2011,p ) 門磨聖子, 尾関雄一, 中山健史他 : 肺癌の術前検査 PET-CTで偶然発見された男性乳癌の 1 例. 埼玉医会誌 2012;46: ) 大島一輝, 赤木謙三, 北田昌之他 :CT 検査にて偶然発見された男性乳癌の 1 例. 豊中病医誌 2012; 13: )Benard F, Turcotte E : Imaging in breast cancer : Single-photon computed tomography snd positronemission tomography. Brest Cancer Res 2005 ; 7 : )Eubank BW, Mankoff AD : Evolving role of positron emission tomography in breast cancer im- 50

5 12 号 PET-CT 検診で発見された男性乳癌 2913 aging. Semin Nucl Med 2005 ; 35 : )Avril N, Rose CA, Schelling M, et al : Breast imaging with positron emission tomography and fluorine-18 fluorodeoxy glucose : use and limitations. J Clin Oncol 2000 ; 18 : )Avril N, Menzel M, Dose J, et al : Glucose metabolisum of breast cancer assessed by 18F- FDG PET : histologic and immunohistochemical tissue analysis. J Nucl Med 2001 ; 42 : )Moy I, Ponozo F, Noz ME, et al : Improving specificity of breast MRI using prone PET and used MRI and PET 3D volume datasets. J Nucl Med 2007 ; 48 : ) 山川卓, 森本忠興, 駒木幹正他 : 男子乳癌 10 例の臨床病理学的検討 - 女子乳癌との比較 -. 日臨外会誌 1989;50: )Kiluk JV, Lee MC, Park CK, et al : Male breast cancer : management and follow-up recommendations. Breast J 2011 ; 17 : )Giordano SH, Cohen DS, Buzdar AU, et al : Breast carcinoma in man : a population-based study. Cancer 2004 ; 101 : )Borgen PL, Wong GY, Vlamis V, et al : Current management of male breast cancer. A review of 104 cases. Ann Surg 1992 ; 215 : )Boughey JC, Bedrosian I, Meric-Bernstain F, et al : Comparative analysis of sentinel lymph node operation in male and female breast cancer patients. J Am Coll Surg 2006 ; 203 : )Flynn LW, Park J, Patil SM, et al : Sentinel lymph node biopsy is successful and accurate in male breast carcinoma. J Am Coll Surg 2008 ; 206 : )Gentilini O, Chagas E, Zurride S, et al : Sentinel lymph node biopsy in male patients with early breast cancer. Oncologist 2007 ; 12 : )Lyman GH, Guiliano AE, Somerfield MR, et al : American Society of Clinical Oncology guideline recommendation for sentinel lymph node biopsy in early-stage breast cancer. J Clin Oncol 2005 ; 23 : A CASE OF NON-INVASIVE DUCTAL CARCINOMA OF THE MALE BREAST THAT WAS DETECTED BY SCREENING FDG-PET Masatoshi HAYASHI, Kouya TOCHII, Kentarou KOKUBO, Masao NIWA and Kei TAKAHASHI Department of Surgery, Japanese Red Cross Gifu Hospital A 56-year-old man was referred to us for further evaluation of focal FDG uptake (SUVmax 2.5) just under the left nipple that was detected on FDG-PET screening. A little finger-sized tumor was palpable just under the left nipple. Ultrasonography revealed a lobulated hypoechoic mass with irregular margins. On mammography, the lobulated tumor shadow (12 7 mm) in the E region was diagnosed as Category 3. Core needle biopsy suggested non-invasive ductal carcinoma. The patient underwent mastectomy and sentinel lymph node biopsy. Axillary lymph node dissection was avoided because intraoperative pathological examination revealed no metastasis to the sentinel lymph node. Pathologically, a non-invasive ductal carcinoma stage 0 (ptis, pn0, cm0) was diagnosed. Postoperatively, oral tamoxifen was administered. No signs of recurrence have been seen during the 17 months of follow-up. Here we describe a case of noninvasive ductal carcinoma in a male patient that was detected on FDG-PET screening. Key words:fdg-pet,male breast cancer,non-invasive ductal carcinoma 51

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50-3ガイド10ポ.indd 25 7 乳房専用 PET 診療ガイドライン作成メンバー PET 1 はじめに PET 18 F-2- -2- -D- FDG 14 12 FDG-PET FDG-PET 1) T1b 0.5 cm 1.0 cm T1c 1.0 cm 2.0 cm P=0.003 1.0 cm 2) MRI FDG-PET PET 1 cm FDG FDG 1 対向型乳房専用 PET 装置 2 2 3 6) 2 4

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