食品の保存とリスクマネージメント

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ふさこふしはら
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1 サルモネラ属菌冷蔵庫に入れれば大丈夫? ~ 食品の保存を理解する ~ 黄色ブドウ球菌委員石井克枝 1

2 2 産地から家庭まで様々なリスク増加要因が存在生産流通調理加工家庭食卓 ( 食品安全のリスク増加要因 ) 自然毒化学物質汚染物質カビ毒細菌生産過程で共存付着保存中に増加調理中 ( 加熱等 ) に減少 ( リスクを増減させる条件 ) 温度水空気

3 3 土壌微生物微生物が存在する場所空中浮遊菌野菜肉魚海水浮遊菌糞便細菌主に表面に付着内部に入るものもあり寄生虫淡水浮遊菌

4 また発症菌量には大きな幅がある非常に少ない数で発症するものがある官能的感知が可能な場合が多菌数と食中毒発症の関係多中毒発症菌量色食ウイルス量小大腸菌セレウス菌黄色ブドウ球菌腸炎ビブリオノロウイルスエルシニアサルモネラ下痢原性カンピロバクター腸管出血性大腸菌 ( 参考 ) 一般細菌の官能的感知腐敗臭変 10 い感知可能不感知不可能

5 5 細菌の増殖条件栄養素でんぷん質蛋白質等水分水分活性 (Aw):0.92 以上例外もある温度 5~45 30~40 で多くの菌が増殖

6 6 食品の水分活性と微生物水分活性食品微生物 0.98 以上生肉鮮魚野菜果物牛乳米飯ほとんどすべての腐敗に関係する微生物及び食品を介してヒトに病原性を示す微生物が増殖する 0.98~0.93 濃縮乳パンソーセージサルモネラを含む腸内細菌科の細菌乳酸菌などが増殖する 0.93~ ~0.60 乾燥牛肉生ハムコンデンスミルクジャム穀物ナッツ類小麦粉 0.60 以下キャンディー乾麺脱脂粉乳コーンフレークビスケットポテトチップはちみつ黄色ブドウ球菌及びマイコトキシン生産性のカビが増殖する病原性細菌は増殖しない乾生性微生物による腐敗は起こる微生物は増殖しない長期間生存は可能日本調理科学会誌 Vol.25 No を基に作成

7 7 塩分や糖分が食品保存に果たす役割塩分や糖分は水分活性を低下させる作用がある食品中の水自由水結合水微生物が増殖に利用できる砂糖食塩など食品成分に結合している水微生物は利用することが出来ない品目塩分濃度糖分濃度汁物 0.8% 煮物 1.2~1.5% 3~10% 浅漬 2~3% 古漬 ~10% シロップ 50%

8 食中毒の発生要因発生要因調理器具等による相互汚染及び生食不適当な温度保存及び長時間保存不適切な加熱調理手指からの汚染病因物質サルモネラ属菌カンピロバクター病原大腸菌腸炎ビブリオノロウイルスウエルシュ菌黄色ブドウ球菌セレウス菌ウエルシュ菌セレウス菌サルモネラ属菌病原大腸菌ノロウイルス黄色ブドウ球菌サルモネラ属菌腸炎ビブリオ病原大腸菌ノロウイルス日本調理科学会誌 Vol.38 No を基に作成 8

9 洗う効果 9

10 洗う効果まな板に付着した細菌調理する人の手鶏肉を切った後鶏肉を切った後中性洗剤で洗浄熱湯をかけた後手指に付着した細菌食品調理器具石けんで洗浄表面に付着した汚染物質を低減する食品安全委員会季刊誌食品安全 23 号委員 ( 食品安全委員会委員 : 畑江敬子 ) の視点 10

11 11 まな板の洗浄実験腸管出血性大腸菌 O157( 菌数 ) まな板に貼付処理方法処理後の菌数水道水 ~ の湯 0 70% アルコール 0( 万遍なく噴霧した場合 ) 100ppm 次亜塩素酸ナトリウム % 塩化ベンザルコニウム ( 逆性石鹸 ) 0~ 日本調理科学会誌 Vol.38 No を基に作成

12 布巾布巾スポンジの洗浄効果処理方法汚染菌数 / 個大腸菌群陽性数未処理 10 3 ~10 6 5/5 処理処理方法汚染度 ( 平均汚染度 ) (/100cm 2 ) 未処理 10~10 5 ( ) 処理スポンジ 200ppm 30 分次亜塩素酸 200ppm 60 分 0~10 ナトリウム 3 (1.3 10) 400ppm 30 分煮沸 5 分 0~10 (2) 検体数 :10 検体平均汚染度は各 10 検体ずつの平均値を示す塩化ベンザルコニウム逆性石鹸 (1% - 30 分 ) 10 2 ~10 5 2/5 次亜塩素酸ナトリウム (200ppm - 30 分 ) 10~10 3 2/5 煮沸 (5 分 ) 0~10 0/5 日本調理科学会誌 Vol.38 No を基に作成検体数各 5 検体 12

生食野菜の一般生菌数と洗浄効果 ( 流水のみ ) 試料 1g 当たりの一般生菌数 (cells/g) 洗浄時間 ( 秒 ) 0 30 180 万能ねぎ ( 葉先 ) 2.3 10 5 1.1 10 5 万能ねぎ ( 根元 ) 2.1 10 7 2.0 10 5 カイワレ大根 1.6 10 7 7.8 10 6 5.1 10 6 青しそ 3.2 10 5 6.7 10 4 パセリ 2.

13 生食野菜の一般生菌数と洗浄効果 ( 流水のみ ) 試料 1g 当たりの一般生菌数 (cells/g) 洗浄時間 ( 秒 ) 万能ねぎ ( 葉先 ) 万能ねぎ ( 根元 ) カイワレ大根青しそパセリミニトマトカイワレ大根における一般生菌数と大腸菌群数と洗浄効果洗浄時間 ( 秒 ) 一般生菌数 (8.7±6.50) 10 6 (1.26±0.02) 10 7 大腸菌数 (5.7±2.76) 10 3 (1.2±0.05) 10 3 試料 1g 当たりの菌数 (cells/g) 日本調理科学会誌 Vol.32 No を基に作成洗浄しても菌は残る生食は料理後なるべく早く食べる 13

14 14 洗う効果生鮮野菜には微生物が存在している丸ごとの場合植物の自己防衛反応によりある程度の微生物増殖と組織破壊は防ぐことができる切ることにより植物の自己防衛反応に支障が生じ腐敗しやすくなる野菜に付着している微生物は洗ってもゼロにはできない

15 15 大量調理施設衛生管理マニュアル厚生労働省野菜及び果物を加熱せずに供する場合には標準作業書に従い流水で十分洗浄し必要に応じて殺菌を行った後十分な流水ですすぎ洗いを行うこと標準作業書流水で 3 回以上水洗いする中性洗剤で洗う流水で十分すすぎ洗いする必要に応じて次亜塩素酸ナトリウム等 ( ) で殺菌した後流水で十分すすぎ洗いする次亜塩素酸ナトリウム溶液 (200mg/l で 5 分間又は 100mg/l で 10 分間 ) 又はこれと同等の効果を有する亜塩素酸水 ( きのこ類を除く ) 亜塩素酸ナトリウム溶液 ( 生食用野菜に限る ) 次亜塩素酸水並びに食品添加物として使用できる有機酸溶液

16 16 生食野菜低温保存により微生物の増殖は防ぐことができる低温保存していたものの温度が急に上がると微生物増殖も急激に起こる使用する分だけ取り出すカット野菜で微生物 0 は難しい増殖を抑制することが重要

17 17 加熱による微生物の除去加熱後の保存

18 細菌やウイルスが死滅する温度細菌調理時の食材の中心温度と加熱時間腸管出血性大腸菌 75 1 分カンピロバクター 65 数分サルモネラ菌リステリア 75 1 分分 65 数分 4 以下でも増殖ノロウイルス 85~90 90 秒間以上セレウス菌ウエルシュ菌耐熱性芽胞の場合 100 でも死滅しない 18

19 加熱調理の温度調理法加熱温度時間食品茹でる ( 葉物 ) 100 2~5 分野菜いも肉魚煮る ~30 分野菜肉魚 1~2 時間蒸す 85~100 15~1 時間卵いも米魚など炒める秒 ~3 分野菜肉焼く 180~ 30 秒 ~1 時間肉魚 250 揚げる 150~ 180 1~10 分加熱温度と食品の中心温度は一致しない肉魚卵の中心温度に注意 19

20 ホットプレートによる焼肉調理による生残性試験腸管出血性大腸菌 O157 及び O26 で汚染した牛レバー大腸をホットプレートで焼成 ( レアーミディアムウェルダン ) レバー大腸加熱の程度が強くなるほど菌数菌が検出される検体数が減少レバー大腸食品衛生学雑誌 VOL.55 No を基に作成 20

調理器具を介した二次汚染について腸管出血性大腸菌に汚染された牛肉 1 10 5 cfu 処理汚染持続交差汚染 1/120~ 1/1800 焼肉調味料漬込 1 時間焼肉用牛肉最大値 1 10 5 cfu 汚染持続漬け込み肉最大値 1 10 5 cfu トング箸最大値 8 10 2

21 調理器具を介した二次汚染について腸管出血性大腸菌に汚染された牛肉 cfu 処理汚染持続交差汚染 1/120~ 1/1800 焼肉調味料漬込 1 時間焼肉用牛肉最大値 cfu 汚染持続漬け込み肉最大値 cfu トング箸最大値 /4~ 1/170 調理済肉最大値ウェルダン最大値 /1100~ 1/37000 調理ミディアム最大値 /400~ 1/23000 レアー最大値 /10~ 1/3900 食品衛生学雑誌 VOL.55 No を基に作成 21

22 22 加熱による食品の成分の変化成分変化温度でんぷん ( 米等 ) テクスチャー等の変化糊化 65~80 粘性食物繊維 ( 野菜等 ) たんぱく質 ( 肉魚等 ) 軟化 85 ~90 軟化凝固 50~80 凝固色

23 23 米の加熱調理過程米 ( 水分 15%) 加熱しでんぷんを糊化する ( 水分約 60%) 米から飯へ米 : 水 =1:1.2( 体積 ) 100 :20 分間中心温度は 80 以上米でんぷんの糊化温度温度 ( ) 吸水強火中火弱火時間 ( 分 ) 炊飯器の保温 70 : でんぷんの老化を抑制微生物の増殖を防ぐ

24 カレーなど粘性の高い食品について小麦粉ででんぷんを糊化し粘性をつけるでんぷん肉野菜水が含まれ微生物の栄養が十分ある粘性の高い食品が原因のウエルシュ菌による食中毒事例が多く報告されているので適切な温度管理が必要発生年件数原因食品 2012 年 26 件カレー 5 件シチュー 1 件コーンスープ 1 件 2011 年 24 件カレー 4 件シチュー 1 件ハヤシライス 1 件厚生労働省食中毒発生状況参照 24

25 25 カレーの再加熱実験加熱の際に温度が均一に上昇しないかき混ぜることで均一に東京都衛生局環境部食品保健課

26 ウエルシュ菌とは? ウエルシュ菌 Clostoridium perfringens 芽胞を形成する偏性嫌気性の細菌易熱性芽胞 (100 数分で死滅 ) を形成するものが多いが耐熱性芽胞 (100 で 1~6 時間でも生残 ) も形成する食中毒を引き起こすのは耐熱性芽胞を形成するウエルシュ菌ウエルシュ菌の産生するエンテロトキシンは易熱性のたんぱく質で熱や酸に弱い人や動物の腸管や土壌下水に広く生息する酸素のないところで増殖する菌で芽胞を作る食物と共に腸管に達したウエルシュ菌は毒素を作り食中毒を起こす食品安全委員会ファクトシートセレウス菌食中毒 26

27 原因食品ウエルシュ菌食中毒カレーシチュー複合調理食品によるものが多い特に食肉魚介類及び野菜類を使用した煮物や大量調理食品で多くみられるこれらの食品中では大量加熱調理後そのまま放置することによって 10 6 ~10 7 cfu/g まで増殖する増殖機序 1 加熱調理により共存細菌の多くは死滅熱抵抗性の高いエンテロトキシン産生ウエルシュ菌芽胞のみが残存 2 加熱により食品内に含まれる酸素が追い出される ( 嫌気性 ) 3 緩慢冷却すると 55 位から急速に芽胞の発芽が促進される食品安全委員会ファクトシートウエルシュ菌食中毒 27

28 米飯中のセレウス菌 (Bacillus cereus) の増殖性と嘔吐毒素の産生性米飯にセレウス菌約 10 3 /g を接種しの各温度条件でセレウス菌の増殖性及び嘔吐毒素の産生性を検討セレウス菌数増殖嘔吐毒素産生日本食品微生物学会雑誌 Vol.14 No

29 食品中のセレウス菌と嘔吐毒素の増殖食品セレウス菌 (cfu/g) 毒素 (ng/g) 米飯酢飯スパゲッティーイタリアンスパゲッティー ND( 不検出 ) マッシュポテトポテトサラダ ND( 不検出 ) ケチャップを用いて調理セレウス菌を各食品に一定菌量 ( 約 10 3/ g) 接種し時間放置後の菌数と毒素酸が加わると菌の増殖及び毒素産生が抑えられる日本食品微生物学会雑誌 Vol.14 No を基に作成 29

30 セレウス菌とは? セレウス菌 Bacillus cereus 芽胞を形成する通性嫌気性の細菌耐熱性芽胞 (90 で 60 分に抵抗性 ) を形成する食中毒を引き起こすのは嘔吐型と下痢型の二つに大別され日本では嘔吐型食中毒が多くみられる嘔吐型毒素は 126 で 90 分の加熱でも失活しない土壌空気及び河川水等の自然環境をはじめ農産物水産物などの食品飼料に広く分布する食品安全委員会ファクトシートセレウス菌食中毒 30

31 原因食品セレウス菌食中毒穀類及びその加工品 ( 焼飯類米飯類麺類等 ) が最も多く複合調理食品 ( 弁当類等調理パン ) なども原因となる日本での嘔吐毒型食中毒事例ではチャーハンピラフなどの焼飯類や麺類が原因となることが多い特徴一般食品で通常みられる程度の 10~10 3/ g 程度では発症しない加熱された食品でも耐熱性の芽胞は室温放置で発芽増殖が促進される食品安全委員会ファクトシートセレウス菌食中毒 31

32 調理法別の米飯中のセレウス菌と毒素の変化セレウス菌が 10 8 /g に増殖し毒素が 320ng/g 産生された米飯を用いて調理条件による菌数及び毒素活性の変化を検討調理法セレウス菌数毒素米飯 ( 未調理 ) 揚げる 5 分焼くオーブンで20 分電子レンジ 3 分日本食品微生物学会雑誌 Vol.14 No 電子レンジでは生菌数は減少しにくいまた揚げる焼く調理法でもできてしまった毒素は減少しない 32

33 電子レンジによる加熱調理電子レンジでは熱が周辺から中心に伝わるのではなく不均一に伝わるマイクロ波を照射して食品内部の水分を発熱角に集中して温度が上昇食品安全委員会食中毒を防ぐ加熱 33

34 34 電子レンジ加熱での殺菌菌を減らすことは出来るボツリヌス菌セレウス菌ウェルシュ菌は芽胞をつくり残るまた加熱ムラが起こる可能性あり

35 低温保存について 35

36 微生物の低温耐性 10 黄色ブドウ球菌の毒素産生限界温度ボツリヌス A 型 B 型菌の毒素産生限界温度黄色ブドウ球菌の発育限界温度ウエルシュ菌の発育限界温度サルモネラ菌の発育限界温度エルシニア菌の発育限界温度ボツリヌス E 型菌の毒素産生限界温度細菌の発育限界温度酵素カビの発育限界温度最近の冷凍食品の進歩と美味しさの秘密冷凍 Vol.79No.916 を基に作成 36

37 37 冷蔵庫内温度冷蔵室の温度 1~5 冷凍室の温度 -22~-18 野菜室の温度 5~7

38 冷蔵庫内魚に及ぼす脱水シートの効果脱水シート包装とポリ塩化ビニリデンシート包装によるドリップ量の違いタラタイ ( ポリ塩化ビニリデンシート包装 ) ( 脱水シート包装 ) 日本調理科学会誌 Vol.36 No 脱水シートによりドリップ量減少 38

39 冷蔵庫開閉による温度変化開放時間を短くし庫内温度の上昇を防ぐ出典 : 生活協同組合連合会コープ九州事業連合エフコープ機関誌ふれあい 2010 年 4 月号 39

40 40 粉物の保存注意点お好み焼き粉やホットケーキミックス粉等袋を開封し常温で長期間保存していると粉内にダニが侵入し大繁殖するこれを喫食することにより重篤なアレルギーを発症する事例が多く報告されている加熱調理をしてもダニアレルギー症状の発現を防ぐことは出来ない

41 ミックス粉ダニ添加実験ダニは体長が 0.3~0.5 ミリメートルと非常に小さいため開封した袋にわずかな隙間があれば侵入する袋の中に入り込んだダニは短期間のうちに繁殖する札幌市保健所未開封のミックス粉及び薄力粉にダニを添加して常温で保存対策開封した製品は食べ切る開封後密封容器に入れ冷蔵庫に保存する低温で繁殖不可能東京都衛生局環境部食品保健課 41

42 まとめつけないふやさないやっつけるために微生物の性質を知る洗う生野菜の洗浄を過信しない加熱肉や魚や卵のたんぱく質が多く含まれる食品の加熱に注意再加熱は念入りに加熱後の保存適正な温度管理低温保存保存中の相互汚染 ( 接触ドリップ等 ) に要注意増やさないに効果的だがやっつけられない 42

Microsoft PowerPoint - 食中毒って何？

Microsoft PowerPoint - 食中毒って何？食中毒ってなあに? 農林水産省消費安全局消費安全政策課 1 (c) 農林水産省要約食中毒の主な原因は微生物でその原因菌は食材ごとに特徴的であることが多いです生で食される食品は無菌なわけではありません特に乳幼児や高齢者等抵抗力が弱い方はできるだけ火を通したものを食べましょう加熱は食中毒を予防する有効な手段ですが食品を加熱したことに油断してはいけません微生物による食中毒を予防する

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