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1 NAOSITE: Nagasaki University's Ac Title 特殊条件下における山岳トンネル設計と維持管理手法の提案と適用 Author(s) 山田, 浩幸 Citation Nagasaki University ( 長崎大学 ), 博士 ( 工学 ) Issue Date URL Right This document is downloaded

2 特殊条件下における山岳トンネル設計と維持管理手法の提案と適用 Development and Application of Design and Maintenance Techniques for Mountain Tunnel located in specific conditions 2008 年 12 月 長崎大学大学院 生産科学研究科 山田浩幸

3 特殊条件下における山岳トンネル設計と維持管理手法の提案と適用 目次 頁 第 1 章序論 本研究の背景 山岳トンネルにおける特殊条件 特殊条件における環境影響要因と施工上の課題 特殊条件下における環境影響対策 山岳トンネルにおける維持管理の現状と課題 既往の研究と課題 特殊条件下での施工に関わる研究 特殊条件下での数値解析に基づく研究 トンネルの維持管理に関する研究 本研究の目的 本論文の構成 25 第 2 章特殊条件下における地山評価手法の提案と適用 はじめに トンネル施工に影響する特殊条件と施工上の課題 トンネル施工時の地山評価手法 ボアホールカメラによる地山評価手法 機械データによるトンネル地山評価システム (K-tes) 現場における地山評価事例 はじめに 適用トンネルの概要 路線概要 地形 地質概要 トンネル検討切羽評価に関する検討 計測工結果のまとめ 逆解析による周辺地山安定性評価 マルチパターンの検討と適用 まとめ 地山評価結果に基づく支保パターン検討事例 はじめに 適用トンネルの概要 破砕帯変状部における補助工法の検討 まとめ おわりに 56

4 第 3 章特殊条件下における補助工法の設計と適用 はじめに 補助工法の設計 補助工法の分類と効果 補助工法の設計事例 特殊断面における補助工法の設計と適用 はじめに 適用トンネルの概要 地質調査の目的と概要 調査結果の概要 ボアホールカメラによる前方探査 集じん機坑の施工と前方探査の効果 まとめ 特殊地山における補助工法の設計と適用 はじめに 突発湧水地山におけるトンネルでの適用 付加体地山におけるトンネルでの適用 特殊地形における補助工法の設計と適用 はじめに 偏圧地形におけるトンネルでの適用 地すべり地形におけるトンネルでの適用 環境影響対策に配慮した補助工法の設計と適用 はじめに 適用トンネルの概要 長大メガネトンネルの設計と適用 施工時の計測管理手法 まとめ おわりに 133 第 4 章維持管理の現状と新しい維持管理手法の提案 はじめに トンネルの維持管理の現状 一般的な維持管理と劣化予測 山岳 ( 道路 ) トンネルの維持管理と課題 山岳トンネルにおける要求される維持管理への取り組み トンネルの要求性能 山岳トンネルにおける劣化予測の現状と課題 モデルトンネルの概要と健全度評価の試行 モデルトンネル ( 変状トンネル ) の概要 トンネル健全度判定表 ( 案 ) の提案 148

5 4.3.3 健全度判定表 ( 案 ) による A トンネルにおける健全度評価 まとめ モデルトンネルの劣化予測の試行 マルコフ過程による A トンネルの劣化予測 A トンネル点検履歴から確率過程を用いた劣化予測の試行 地山強度経年劣化モデルによる劣化予測 おわりに 171 第 5 章山岳トンネルの合理的な維持管理 はじめに トンネルにおける維持管理とライフサイクルコスト 山岳トンネルの劣化予測のシナリオ 山岳トンネルの要求性能と照査 はじめに KJ 法による要求性能項目の抽出と絞り込み 山岳トンネルの性能照査項目と照査方法 山岳トンネルの耐震性能 トンネルの要求性能と維持 再生における課題 まとめ 特殊条件下における合理的な維持管理システムの提案 特殊条件下でのトンネルの計画 設計 施工 維持管理 今後の維持管理に向けた取り組み おわりに 192 第 6 章トンネルの長寿命化に向けた新しい取り組み はじめに 高品質高充填覆工コンクリート工法の開発 概要 現場適用実績 まとめ 覆工コンクリートの新しい養生方法の開発 概要 現場適用実績 まとめ おわりに 204 第 7 章結論 205 謝辞 209

6 第 1 章序論 1.1 本研究の背景 山岳トンネルにおける特殊条件 山岳トンネルの施工において,1977 年に上越新幹線中山トンネルで従来の矢板工法に替わり NATM が本格導入され,1986 年 ( 昭和 61 年版トンネル標準示方書 ( 山岳編 ) 同解説 ) において, 山岳トンネルの施工法として NATM が標準工法として採用されるようになって約 22 年あまりが経過した. 近年, 山岳トンネルを取り巻く環境の変化から, トンネル施工箇所の都市化やトンネル断面の大断面化, また, 用地買収の困難さというような社会背景をうけて, トンネル工事における補助工法が開発され, 今では比較的広い範囲の地質に対応でき, 効果的かつ多様な補助工法を選定できるまでに至った. 山岳トンネルは, 地中の線状構造物という特殊性から, 事前地質調査によって得られる情報には限界があるため, 通常の土木構造物とは異なり, 設計では標準支保パターンを用い, 施工時に得られる切羽観察や計測結果により, 地山状況に適合した合理的支保パターンに修正していくことが一般的である. また, 解析技術の進歩により, 最近では経験的手法では地山挙動の予測が困難な大断面や双設 ( メガネ ) トンネルなどの特殊断面や膨張性地山 未固結地山などの特殊地山の当初設計で用いられるようになっている. さらに, 中硬岩地山で節理や層理などの不連続面の挙動が問題となる場合には, 不連続体解析手法も開発され活用されるようになり, 数値解析の適用範囲はますます拡大している. 本研究では, 山岳トンネルの現状をふまえた上で, 山岳トンネルの設計 施工における特殊条件を以下のとおり定義した. (1) 特殊地山条件膨張性地山や高圧 多量湧水地山, 未固結地山といった特殊な地山条件 (2) 特殊地形条件坑口部, 沢部といった小土被り部, 偏圧地形といった特殊な地形条件 (3) 特殊環境条件断面積が 200 m2を越えるような超大断面トンネルやメガネトンネル等の特殊な断面, 都市部での近接施工といった特殊な施工条件一方, 阪神淡路大震災や新潟中越地震でのトンネル被災と 1999 年に発生したトンネル覆工コンクリートはく落事故を契機として, その信頼性が疑問視され, トンネル自体の維持管理 更新への関心が高まっている. さらに, これまでのトンネルの施工は,1950 年 ( 昭和 30 年 ) 頃から急激に増加し, 山岳トンネルを対象に考えると設計時の基準 50 年以上経過したものが全体の約 20%(540km) を占め, 今後, 維持管理の必要なトンネルが急激に増えることは確実な状況にある. 特殊条件下において施工時に課題のあった箇所では, 維持管理においても変状等の不具合が発生する可能性が高いと考えられる. したがって, 特殊条件下における山岳トンネルの設計においては, 建設 維持 補修 更新を含めて, その費用 便益を総合的に評価する方法論である, アセットマネジメントという概念も組み込みながら合理的な維持管理を進めていく必要性が高まっている. 1

7 1.1.2 特殊条件における環境影響要因と施工上の課題 特殊条件における安全施工を実現するための環境影響要因と施工上の課題としては, 1 事前調査における地山条件の把握と施工時の切羽の安定性評価 2 土地利用, 近接施工といった観点からの近接構造物への影響把握 3 断層破砕帯, 突発湧水等の予測が困難な地山急変時の対応 4 特殊断面の施工におけるトンネルの挙動の把握と対策工の立案 5 特殊地山における長期安定性の確保といった項目が考えられる. 山岳トンネルの施工においては, 山岳トンネルは, 地中の線状構造物という特殊性から, 事前地質調査によって得られる情報には限界があるため, 施工時においても, 切羽観察調査や計測工をはじめとした各種調査が重要となってくる. とりわけ, 特殊条件下でのトンネルの施工においては, 設計時に必要な対策工として適切な補助工法を選定しておくことや, 施工時の切羽前方探査等に基づく対策工の検討および実施がトンネルの安全性を左右するといっても過言ではない. また, 都市部のトンネルの施工においては, 地下水低下や近接構造物への悪影響を及ぼすことのないように, 対象となる構造物等の管理者と十分な協議を行うとともに, これまでの同種工実績や数値解析結果等を参考にした上で, 許容値や管理値を定め, 適切な対策工の採用により, 地表の近接構造物に及ぼす悪影響を許容範囲以内に抑える必要がある. さらに, 膨張性地山や多量湧水地山においては, 施工後, 長期にわたる変位の継続や, 地下水の復水にともなう変状の発生についても配慮が必要となる. 第三紀の泥岩, 凝灰岩, 蛇紋岩等の粘土化しやすい地山や風化した結晶片岩や温泉余土等では, インバート設置によるトンネル断面の閉合が実施され, 多量湧水箇所では, 確実な防水工および排水系統の確保と覆工コンクリートの剛性強化 ( 補強鉄筋, 繊維補強, 鉄筋コンクリート構造 ) が図られている. 近年, 地震による被害の調査およびそのメカニズムの分析結果から, 小土被り, 軟弱地山や断層破砕帯等での弱層部での構造的欠陥の防止や覆工コンクリート補強, インバート形状の変更等の取り組みも進められている 特殊条件下における環境影響対策 山岳トンネルの支保設計においては, 一般に, これまでの施工実績に裏付けされた地山区分ごとの標準支保パターンの採用が多いと考えられる. しかしながら, 特殊条件下の施工においては, 標準支保パターンに示された通常のロックボルト, 吹付けコンクリート, 鋼製支保工等では対処できない場合が多い. 例えば, 軟弱な地質状況の場合, 土被りの小さく地山強度の低い坑口部や沢地形の箇所や湧水を伴う断層破砕帯のように十分なアーチアクションの形成ができずに切羽の安定が懸念される場合, さらに, トンネル直上に近接する構造物がある場合や大断面, 特殊断面等といった特殊条件下でトンネルを施工する場合には, 施工時の切羽安全性確保 ( 切羽安定対策, 湧水対策等 ) や周辺環境の保全 ( 地表面沈下, 近接構造物等 ) の目的で表 に示すような種々の補助工法の採用が検討される. 2

8 先受け工 工法 フォアポーリング ( 充填式, 注入式 ) 長尺フォアパイリング パイプルーフ水平ジェットグラウト ( 噴射撹拌 ) スリットコンクリート 表 補助工法の分類表 1) 切羽安定対策鏡面の安定 天端の安定 目的施工の安全確保 脚部の安定 地下水対策 周辺環境の保全地表近面接沈構造下物 硬岩 対象地山 軟岩 土砂 摘要 *2 *1 *1 *1 鏡面の補強 脚部の補強 鏡吹付けコンクリート鏡ボルト長尺鏡ボルト脚部補強ボルト脚部補強パイル仮インバート *2 水抜きボーリング *2 地下水位対策 地山補強 ウェルポイント *1 排水 ディープウェル *1 水抜き坑 *1 注入 *1 止水 遮断壁 *1 注入 *1 垂直縫地 *1 注 ) : 比較的よく採用される工法 *1: 通常のトンネル施工機械設備, 材料で対処が困難な対策 *2: 適用工法によって, トンネル施工機械設備, 材料で対処が異なる工法 これらの補助工法は, トンネルの設計や施工方法と密接に関連することから, 目的や種類によっては, 掘削工法や支保パターンを補助工法に適合したものとする必要がある. 補助工法の採用により得られる効果は, 切羽の安定性向上と周辺環境への影響軽減であるが, これらの効果は採用する各種工法によって異なり, 地山条件, 立地条件, 施工方法ならびに経済性等を踏まえた上で総合的な検討を行う必要がある. また, 特殊条件下のトンネルの補助工法の設計に関しては, トンネル構造の安定性評価, 補助工法の効果, 施工方法の検討を目的として数値解析による設計が実施される. 数値解析に基づいて補助工法を検討する場合には, 地山性状, 施工法, 周辺環境等を踏まえた上で, 設定された許容値や管理値を満足するか否かを確認する必要がある. 3

9 1.1.4 山岳トンネルの維持管理の現状と課題 トンネルの変状は様々な形態で現れ, トンネルの場合, 変状を発生させる変状原因についても様々である. また, いくつかの原因が複合しているケースも珍しくなく, 同じ変状現象であっても, その原因が異なる場合も少なくない. トンネルの発生する変状原因については, 以下のとおり外因と内因がある 1 外因 : トンネルの覆工が外的な影響を受けて変状するもの ( 外力, 環境 ) 2 内因 : トンネルの覆工材や覆工構造自体に内在する原因で変状するもの ( 材料, 施工, 設計 ) であり, 変状原因の区分をまとめると表 のとおりである. 表 変状原因の自然的要因 人為的要因の分類 ( 文献 2) を参考に作成 ) 自然的要因 人為的要因 地形 ; 偏圧, 斜面クリープ, 地すべり 近接施工列車振動 空気圧変動 外力 地質 ; 塑性圧, 緩み圧, 地耐力不足 外因 地下水 ; 水圧, 凍上圧地震, 地殻変動 経年 ; 地山風化, 中性化, 材料劣化 煙害, 火災 環境 冬期の低温 ; 凍害 塩害, 有害水 コンクリート打設時の気温, 湿度 覆工材料の不良 内因 所定の品質が確保されない施工 外因を考慮しない設計 さらに, トンネル変状の多くはこれらの複数の原因によって発生すると考えられるため, 外因と内因の組み合わせによって変状原因の推定を行う必要がある. したがって, 変状原因の推定にあたっては, トンネル工学に関する高度な知識と経験を必要とすると考えられる. すなわち, 変状原因ごとに発生する現象の特徴をふまえた上で, 主たる変状原因を特定し, 維持管理において, 変状の抑止対策の策定や計画を実施することにより, トンネルとしての機能確保もくは機能改善を行うことが重要となる. 特に, 特殊条件下におけるトンネルの施工では, 小土被りで地山の強度が低い地山や断層破砕帯や沢部のように未固結で多量湧水を有している地山, 膨張性地山, さらに都市部のトンネルでは盛土部や未固結な地山での施工となり, 変状を発生する可能性が高い. 以上のことから, 特殊条件下のトンネル施工においては, 地山の状態に応じて将来の維持管理に配慮した施工時の対応, すなわち予防保全的な対策を考慮することが必要となる. これまで施工された山岳トンネルにおける変状現象に関する文献調査結果によれば, 図 に示すように変形や盤膨れの割合が多いといえる. これは, ある程度以上の変状が論文等で取り上げられているためと思われる. また, 図 に変状原因の割合を示す. なお, 近接施工, 地震, 水圧, その他の外力 をまとめて その他の外力 として示されている. JR では地圧が一番多く, 劣化と設計 施工が同程度の割合で続いており, その他の外力も少なくない割合を示している. 道路では不明 その他が多いが, この分類の大部分は漏水や凍結によるものである. これに次ぐのは, 劣化, 地圧であり, 設計 施工やその他の 4

10 外力は比較的少ない. 一方, 文献調査でピックアップされたサンプルでは, 地圧, 特に塑性圧による事例が多く, その他の外力, 劣化, 設計 施工がこれに次いでいる. このようなトンネルの変状現象や変状要因については, 特殊条件下での施工では一般部に比べて発生する可能性が高くなると考えられるため, 現場の技術者が今後トンネルの設計 施工および維持管理を行っていく上で, それぞれの立場に立ったより具体的な対処方法が必要とされている. 図 文献調査によってピックアップされたサンプルの変状現象の割合 (%) 3) (100%) 不明 その他 不明 その他 不明 その他 設計 施工 設計 施工 劣化 劣化 設計 施工 その他の外力 その他の外力 劣化 塑性圧 地圧 その他の外力 地圧 地圧 緩み圧 (0%) 偏圧 JR 4) 1) 2) 道路 5) 文献調査 図 変状原因の割合 5

11 1.2 既往の研究と課題 特殊条件下におけるトンネルの設計 施工においては, 対象となる地形 地質および周辺条件の把握と施工時の切羽における地山の評価とともに適切な対策工の設計 施工が必要となる. また, 特殊断面や近接施工においては, 施工時の挙動を把握し, 効果的な対策工を検討する目的で数値解析による挙動予測や周辺への影響検討が実施される. さらに, トンネルの維持管理といった観点からは, 特殊条件下の施工では変状の発生する可能性が高いと考えられるため, 維持管理までを踏まえたトンネルの設計 施工 ( 予防保全対策 ) をどのようにするかということが重要になってくる. したがって, 本節では, 特殊条件下での設計 施工に関連した研究について,1 特殊条件下での設計 施工に関わる研究,2 特殊条件下での数値解析に基づく研究,3トンネルの維持管理に関する研究という分類を行い, それぞれの研究成果について概説するとともに, 今後の研究課題についての考察を行う 特殊条件下での設計 施工に関わる研究 トンネルの設計 施工に関わる研究に関しては, 設計 施工時の切羽評価に関する手法や特殊条件下での施工時の計測結果の評価 分析による地山挙動の解明, 変状原因の推定や採用した対策工 ( 補助工法 ) の効果の研究がなされている. 設計 施工時の切羽評価に関する研究において, 竹林ら 4) は, 山岳トンネルの施工において, 断層破砕帯等の不良地山 ( 特殊地山 ) に遭遇して切羽崩壊や大量湧水などの異常現象が起こり, 難工事となる事例が多いことに関して, 研究では, 図 に示すように, 山岳トンネルが遭遇しうる不良地山を地盤の力学的要因, 地下水の影響による場合, 地球化学的要因の3つの要因に分類し, それぞれにおけるトンネル施工時の問題と対応策, 地質特性について地質的な考察を加えている. 図 不良地山の要因別分類 6

12 中川 5) は, 橋梁などの一般的な土木構造物と異なり, 地中深く建設されるトンネルは, 事前調査の全線に渉調査精度保持の困難さや地盤そのものの不確実性により, 地山条件の工学的な推定による設計に基づき施工が行われていることをふまえ, 山岳工法により建設されるトンネルを対象として, 事前調査 設計の現状を概括し, 今後の合理的な調査 設計のあり方についての基本的な考えを述べている. また, 切羽評価と支保の選定に関する研究において, 赤木ら 6) は, 山岳トンネルの支保選定に関して切羽観察で得られる各観察項目の評価区分値を利用して, その切羽に適合する支保の候補を標準支保パターンから提示するシステムを構築する目的で, これまで施工された切羽観察データと支保パターンとの関連性について整理 分析を行っている. さらに, 真下ら 7) は, 既往の道路トンネルの施工時に得られた切羽観察表のデータによるデータベースを構築し, 観察項目に重み付けを行い切羽観察表の評価を行う評点法 ( 荷重平均法 ) を用いて地山等級を評価する方法の適用を考え, 現地で収集したデータを用いて各観察項目の重み係数を算出し, その重み係数を用いて切羽観察表の評価点を求め, その評価点と岩質毎の地山等級との関係を検討することにより, 定量的な地山評価方法としての有効性を検討している. 特殊地山における対策工の効果に関して, 中川ら 8) は, 春日山トンネルⅠ 期線工事のうち, 最も地山の悪い中間部 ( 破砕帯 ) において,Ⅰ 期線への影響防止という課題に対して地山状況に合わせた補助工法の選定を行い, 図 に示すように, アーチ部, 脚部とも切羽前方で改良ができるジェットグラウト工法を採用するとともに, 長尺鏡ボルトやインバートストラット, 上半仮インバートによる早期閉合等の補助工法を駆使するとともに, SFRC 覆工の採用によりトンネル構造の剛性を高め, 地表面への影響に関しても配慮している. 図 補助工法パターン 中田ら 9) は, 坑口斜面において地すべり抑止対策と切羽安定対策を兼ねた補助工法である垂直縫地補強工法に関して, 落とし戸による模型実験を実施し, トンネルに作用する土圧の低減及び地表面沈下の抑止という観点から補強工の効果およびそのメカニズムに関して,1 地山の緩み領域の低減,2 補強による地山物性値 ( 特に地山の粘着力 ) の向上が図れることを確認した上で, 図 に示すように, 現場計測のデータと理論値 (Peck の予測式 ) に基づき補強効果を検証している. 7

13 図 沈下形状の予測と実際 徳留ら 10) は, 多数の断層や褶曲作用を受けた脆弱泥岩地山での施工にあたり,GRFP 切羽補強工を高角度で打設し前方地山を補強する工法を用い, その有効性を確認している. 大変形が問題となる脆弱泥岩地山での施工において, ミニベンチカット工法による早期閉合を基本とする変位抑制対策工を採用するとともに, 高規格支保工 (HH-200) および前方地山を補強するために GFRP 切羽補強工を採用することで, 切羽押出しに対する変位抑制効果, および前方地山補強効果を確認している. 図 変位抑制対策 (TD:640m) 小原ら 11) は, 長尺フェースボルトの作用効果を明確化し, 設計方法を確立する目的で三車線高速道路トンネルにおいて施工された長尺フェースボルトの軸力計測結果に基づくボルトの挙動について, 発生軸力の増加は地山のひずみ分布と打設ボルト長の関係, ボルトの残長による影響, 掘削による履歴等に関連している事を指摘している. 樋上ら 12) は多量湧水における施工に関して, 予想外の度重なる地質変化と湧水量増加に伴い 8m 3 /min の突発湧水と約 600m 3 の土砂流出の切羽崩壊が発生した一般国道 482 号蘇武トンネルにおいて,2 車線規模のトンネルでは過去に例を見ない 20m 3 /min の大量湧水の継続した中での湧水対策として水平ワイヤーライン工法による先進ボーリングの採用や前方地質調査を兼ねた先進導坑の施工,AGF 工法等の切羽安定対策としてのトンネル施工方法選定フローにしたがって補助工法を駆使しすることで, 硬軟入り乱れた複雑な地質条件でのトンネル施工を完了させている. 8

14 竹津ら 13) は, トンネルの掘削時に大きな膨張性土圧が発生することが想定されたため, 坑内変位をある程度許容する事により, 一次支保工の健全性が損なわれることを見越してその内側に何層にも支保工を設けることで支保全体の健全性を確保する多重支保工の導入を行った. 施工においては, 二重支保工の設置を適切に行うことにより, 十分な支保の健全性を保持することを確認している. 図 Fenner-Pacher カーブと多重支保工前原ら 14) は, 非常に軟質な砂質土 粘性土という地山条件下における都市 NATM( ウォータータイトトンネル ) であり, 土被りが 4.5m~14m と小さく, 直上に家屋があるという厳しい施工条件となっていた東山トンネル ( 仮称 ) の施工において, 予測される現象に関して, 施工中に発生する異常事態に対して適切な補助工法を迅速に採用する目的で, 1 切羽の安定,2 近接家屋の安全性,3トンネルの沈下対策,4 支保の安定性といった観点から, 予め補助工法選定フローを策定して採用している. 施工においては, 図 および図 に示すように, 現場での試験施工結果に基づき, 地山状況に応じて切羽安定対策としての注入式フォアポーリング, 無拡幅長尺鋼管先受け工 (AGF-P), 鏡吹付けコンクリート, 鏡ボルトと沈下対策としてのウィングリブ支保工, サイドパイル, 脚部補強ボルトを採用している. 図 AGF-P 試験施工縦断 図 AGF-P 試験施工断面 9

15 石川ら 15) は, 市街地に計画されためがねトンネルにおいて, 工期短縮と工事費低減を目的として, 図 に示すように, 中央導坑, センターピラーを省略した類似例の少ない超近接トンネル ( 無導坑めがねトンネル ) への変更を行っている. 設計では, 施工過程を考慮した数値解析に基づきトンネルの支保工や覆工に発生する応力や地表面沈下等の周辺への影響を予測し設計に反映している. また, 施工時の計測結果の分析によりトンネルの安定性の検証と超近接トンネル ( 無導坑めがねトンネル ) の挙動の特性を確認している. (a) めがねトンネル (b) 超近接トンネル (NCP-EE 工法 ) 図 施工断面比較 西村ら 16) は, 図 に示すように, 最大断面積が最大 313 m2にも及び, 未固結地山では, わが国最大級の超大断面トンネルとなった箕面有料道路山岳トンネル築造工事 ( 南工区 ) の施工により得られた知見をまとめている. 長尺鏡補強工による積極的な切羽前方補強によりアーチ掘削時の切羽安定対策の効果の確認, 側壁導坑による大スパンアーチの脚部沈下対策の有効性, 各種計測結果や再現解析による施工管理等, 適切な補助工法 掘削工法の選択の重要性を報告している. 10

16 図 支保パターン 佐々木ら 17) は, 市街地で施工され, 住宅密集地を小土被りで貫く厳しい条件のオランダ坂トンネルにおいて, 近接施工対策として長尺鋼管フォアパイリングやトレヴィチューブ工 ( 専用機 ) や支保規模の増強, 早期閉合や脚部補強といった対策工を採用している. また, 施工中の長期間の計測結果の分析と次施工へのフィードバックにより適切な対策工の選定を実現するとともに, それぞれの対策工の効果に関する検証を実施している. 図 に施工時の地表面沈下コンター図を示す 図 地表面沈下コンター図 11

17 1.2.2 特殊条件下での数値解析に基づく研究 前述のとおり, 特殊条件下のトンネルの設計 施工においては, しばしば数値解析に基づく検討が実施される. 数値解析の目的は対象となる特殊条件に応じて様々であるが, 主な目的としては, トンネルの挙動予測, 支保の安定性評価, 対策工の効果の把握, 周辺近接構造物への影響範囲の検討等である. 豊里ら 18) は, 都市部で施工された小束山トンネルの設計 施工において, 対象地山が大阪層群の砂, 砂礫, 粘土層の未固結地山であること, 土被りが 8~35mと小さいこと, トンネル直上には, 交差道路, 住宅地などが存在し, ガス, 水道管などのライフラインなどの近接構造物が存在することを地表面沈下抑制に対する特殊条件と指摘している. また, このような厳しい施工条件の下でトンネルの構造は中央導坑共有型メガネトンネルという特殊断面で設計され, 採用した補助工法の効果やセンターピラーに作用する荷重の設定等について数値解析に基づき検討を行っている. 検討では, 施工時の計測結果によりトンネルの安定と検討事項の検証を行い, 後進坑の施工による先進坑への影響や, センターピラーの挙動, 地山挙動と支保工発生応力といった今後の同種工事への貴重なデータを得たとしている. 図 に検討でもちいた土被り荷重とピラー作用荷重の考え方を示し, 図 に検討結果により変更したピラー形状を示した (A) 土被り荷重の定義 (B) ピラー作用荷重 図 センターピラー形状変更 図 土被り荷重とピラー作用荷重 藤村ら 19) は, 圏央道の一部として図 に示すように, 幅 16m~22m の都市計画道路直下を平均土被り 8.6m, 平均掘削断面積 230 m2の卵型超大断面トンネル (2 層 ) という厳しい条件下での施工となった青梅トンネルの設計 施工に関して, 小土被りでの超大断面トンネルということで, 設計では三次元シェル-バネ構造によりトンネルをモデル化して解析を行い, トンネルの掘削と覆工構築を併進させ, 覆工を本体利用している. また, 二次元弾塑性 FEM による逐次掘削解析に基づき, 注入式長尺先受け工 ( トレヴィチューブ工法 ) とフットパイル工による切羽安定対策を採用し, 施工時の計測結果から各 12

18 対策工の効果を検証するとともに, 安全性を確保して経済的な施工を実現している. 図 に地表面沈下分布に関して解析結果と計測結果の比較を示す. 図 地表面沈下分布図 図 トンネル標準断面 清水ら 20) は, 切羽安定対策工として適用実績が増大している長尺切羽補強 ( 鏡補強 ) 工法に関して, 補強効果や切羽前方地山の挙動の把握を目的として, 長尺補強部材に発生する応力ならびに切羽前方地山の変位に関する計測を行っている. 図 に補強パターンを示し, 図 および図 に計測結果と解析結果の一例を示す これらの相互関係を把握するとともに, 数値解析と計測値の定量的な比較を行っている. その結果, これまで各現場において経験的に施工されてきた長尺切羽補強工の変位抑制効果の確認と部材長, ラップ長, 打設間隔等の設計に関する定量的評価が行えたとしている. 図 長尺鏡補強部材軸力経距変化 図 長尺切羽補強工法パターン 13 図 ひずみ分布

19 三谷ら 21) は,Ⅰ 期線トンネルの建設時に本坑および避難坑で大量出水と 400mm におよぶ大変形を生じた軟質な地山での加久藤トンネル ( 南工区 ) のⅡ 期線施工において, 各種の変位抑制工 ( インバートストラット併用早期閉合, 高強度吹付けコンクリートの採用, 長尺鏡ボルトの採用等 ) により,Ⅰ 期線および避難坑に影響を与えないような施工を実施するとともに各変位抑制工の効果について検討している. また, 設計 施工に関しては, 図 に示すように数値解析を利用した管理基準値設定の流れを示している. 図 数値解析を利用した管理基準値設定の流れ 14

20 1.2.3 トンネルの維持管理に関する研究 特殊条件下での施工においては, 前述のとおり, 建設後に変状の発生する可能性が高いと考えられるため, 維持管理までを踏まえたトンネルの設計 施工 ( 予防保全対策 ) をどのようにするかが重要になってくる. 今後, 山岳トンネルにおける合理的な維持管理を実現するためには, 保守 点検に重点を置き, 不具合箇所に対症療法的に対策を実施してきたこれまでの手法から, 建設 維持 補修 更新を含めて, その費用 便益を総合的に評価する方法論として, アセットマネジメントという概念も組み込みながら検討を進めていく必要性が高まっており, 地山とトンネルの相互関係から長期にわたるトンネルの変状を予測し, 事前に対策 ( 予防保全 ) することが重要となっている. トンネルの維持管理といった観点から, 越智ら 22) は,NATM トンネルの覆工コンクリートに発生するひび割れの発生原因のうち, 内的要因に着目し, 施工実績資料からひび割れ発生に起因する諸パラメータ ( 単位セメント量, 打設温度等 ) と現在のひび割れ発生状況との相関について実績調査を実施するとともに, 数値解析によって, 定量的な評価を行うことで, ひび割れ防止対策の検討のための資料としている. また, 検討の結果からコンクリートの打設温度, 配合, 打設時期, 覆工天端部背面の隙間等の違いによりひび割れ発生状況に変化が見られることを施工記録と数値解析において指摘している. また, 維持管理における新しい調査手法の研究が進められており, 堤 23) らは, トンネルの維持管理において, 構造物の変状状況の把握, 変状原因の推定, 健全性, 対策工の必要性や緊急性の評価 判定のために実施される二次点検の調査項目のうち, ひび割れ ( 深さ ), 覆工巻厚, 覆工コンクリート強度といった重要な調査項目を対象とした新しい非破壊方法を提案している. 弾性波の諸特性を利用して同様の調査システム ( ハード部分 ) ですべての調査が可能で, 現状の調査に比較して頼迅速な調査が実施できる. 図 , 図 に測定原理と工法の概念を示し, 図 に調査システムを示した. 図 レイリー波の主な特性 図 本工法の概念 図 調査システム ( ハード部分 ) の構成 15

21 伊藤ら 24) は, トンネル変状の進行性や近接施工の影響に対する監視計測において, 覆工面に光ファイバを設置してトンネル覆工の変状監視を行うシステムの適用性を評価するため, トンネルを模擬した覆工模型による押抜実験と現地施工試験について報告している. 光ファイバを用いたひずみ計測手法のトンネル覆工の変状監視への適用において, 繊維シートで補強されたトンネルを模擬した覆工模型により繊維シートのはく離検知への適用が可能であることが確認されている. 図 に計測原理を示し, 図 に研究の位置づけを示した. 図 BOTDR 法のひずみ計測原理 図 研究フローと本研究の位置づけ 後藤ら 25) は, トンネルの効率的な維持管理を目的として, 図 , 図 に示すように, 車載したデジタルカメラによる覆工表面の展開画像を高速撮影する計測手法と変状検出およびデータの一元管理のためのソフトウェアを組み合わせた変状調査 管理支援システムを開発した. 本システムの適用により, 老朽化したトンネルの効率的な維持管理を支援が可能となる. なお, 写真 に本システムによる撮影状況を示した. 図 トンネル延長方向の撮影機材の配置 写真 撮影状況 図 トンネル円周方向の撮影機材の配置 16

22 また, 制約条件の厳しい現地調査の効率化に向けて, 寺戸ら 26) は, 図 , 図 に示すように, 道路トンネルを対象としたトンネル維持管理作業台車を開発し, 実際の補修工事に導入してその効果について試算している. その効果としては, 車線を跨いだ連続的な維持補修が可能, 作業中に規制車線の切り替えが不要であること, 作業効率の向上を挙げている. 図 現状の維持作業における課題 ( 供用中の 2 車線トンネルの場合 ) 図 維持管理台車の概略と主な構成 調査結果の評価の効率化に向けた研究として, 小西ら 27) は, 鉄道構造物 ( トンネル ) の維持管理において, 検査をはじめとする維持管理行為の合理化および効率化等を目的として,14 の鉄道事業者と ( 財 ) 鉄道総合技術研究所の共同で構造物管理支援システムを開発している. 図 に本システムの台帳構成を示した. 図 本システムの台帳構成 17

23 また, 維持管理における対策工の効果に関する研究が各機関で進められている. 小島ら 28) は, 繊維シートはく落対策工に関して, 過去のはく落事例を調査し, はく落事例ごとの要因の分離とその特徴について考察している. はく落対策工の選定の考え方として, 繊維シート接着工によるはく落対策工の適用範囲をはく落事例等からはく落形態, 規模に応じて4つに分類し, 繊維シートの材質毎に大まかに区分し, 図 に示す押し抜き試験により, 繊維シート接着工の固有のはく落強さが繊維シートの引張剛性で表現可能であることを導き, 簡易式 ( 式 1.2.1, 式 1.2.2) を提案している. 式 式 図 小型平板押抜き実験 覆工コンクリートの材料に関する研究として, 馬場ら 29) は, トンネルの覆工コンクリート天端部におけるコンクリートの密実性の低下, 打重ね部の一体化不良による強度低下, 充填不足による背面空洞の発生と応力状態の偏りといった施工上の課題を解決する目的で, 流動性 充填性の向上を目指し, 覆工コンクリートの打込み方法に適した新配合の中流動コンクリート (MPC) の開発および現地試験施工 ( 表 , 表 ) による性能評価を実施している. 表 模擬型枠試験に用いる型枠仕様表 試験ケース一覧 18

24 松長ら 30) は, 小土被り 低剛性地山を対象とした地震被害の再現を目的とした解析的研究により, 健全な覆工であれば, 地震によりひび割れの発生は発生するが, はく落や落下という大規模な被害は発生しづらいこと, 天端の背面空洞や逆巻き覆工側壁の目地開きといった構造的欠陥が地震被害を拡大する要因であること, 構造的欠陥に関しては裏込注入やロックボルト補強が有効であることが確認している. また,2004 年に発生した新潟県中越地震におけるトンネル被害調査結果を受けて, 橘ら 31) は, 兵庫県南部地震や新潟県中越地震のような大規模地震による山岳トンネルの被害の傾向についてまとめている. その結果, 図 ~ 図 に示すように, 断層から 10km 以内の小土被り, 地山不良区間のトンネルでは地震時に覆工に大きな変状を被る可能性が高く, トンネルに生じている変状や構造的欠陥の特殊条件の存在が被害の発生に強く関わっていることを指摘している. 図 地震の被害パターン 図 想定断層からトンネルまでの距離 図 兵庫県南部地震の被害レベルの傾向 図 新潟県中越地震の被害レベルの傾向 19

25 山岳トンネルの合理的な維持管理の実現に向け, 山岳トンネルの劣化予測とアセットマネジメントに関する研究が始められている. 川田ら 32) は, 軟岩地山ではクリープや時間依存性に伴う塑性領域の増大と地圧による覆工の変状の発生が問題となる場合があるため, 研究では予防保全の観点から, トンネル変状の要因として塑性圧に着目して地山強度の経時的劣化と覆工劣化を考慮したトンネルの変状解析による変状シミュレーションを行い, 得られた内空変位の経時変化に基づいて補強工実施に関する各種の判断を支援するシステムの開発を目指している. また, トンネルの地圧による変状現象と覆工構造から, 的確に変状原因を把握し, 地圧の作用位置 方向 大きさを推定することは技術的には困難であるため, 岩盤の強度劣化および覆工劣化を考慮したトンネルの変状シミュレーションにより補強工実施に関する支援システムの構築に向けた知見を得たとしている. 安田 33) は, トンネル構造物は周辺岩盤や覆工材料が複雑かつ不確実であり, 構造物の損傷原因の特定が困難であるばかりか, 劣化過程の推定には相当の不確実性が伴うことになるため, 劣化過程の予測手法は未だ確立されていないことを指摘し, 研究では, 山岳トンネル構造物の構成材料である覆工コンクリートに関する性能を規定し, 不確実性を考慮したポアソン過程による確率過程を適用した健全度低下モデルによって将来状態を予測し, ライフサイクルコスト算定によって維持補修問題を最適化する手法を提案している. 図 に提案するトンネル構造物のアセットマネジメントシステムの全体像を示す. 利用者に影響を与える変状 構造的変状 地質 第三紀 膨張性 断層 地すべり 施工時変状 変位計測 湧水 相関分析 各機関による点検結果判定手法の最適化 ( グレーディング法 レイティング : 連続量 ) 共用年数 施工方法 補修ルール予防保全補修補強点検間隔 費用関数 個別トンネル確率過程による分析モデルトレンド大のスパン抽出全体管理部分管理 構造的判定 モニタリング 確率過程による分析モデル ひび割れ判定 逆解析 ひび割れ進展 健全度ルール トンネル群の戦略検討 個別トンネルの戦略検討 ( 維持補修最適化 ) 戦略的ルール 集中戦略 路線 管轄 自治体 公団に有するトンネル群 集中管理 アセットマネジメント 点検システム リアルオプション 評価システム 資産管理 図 トンネル構造物のアセットマネジメントシステムの全体像 33) 20

26 畠中ら 34) は, リスクマネッジメントの実践のために, 架空のトンネル工事プロジェクトにおいて, 一般的な指標として用いられる損失金額や工事遅延日数に加え, 社会的信用損失といった指標を用いたリスク評価を実施して, 建設中における社会的信用喪失リスクの定量化と削減対策案の検討を行っている. なお, 検討では, 仮定した数値出の試算のため, 得られた結果そのものに厳密な意味はないが, 具体的数値によるケーススタディにより, 方法論とその適用方法を簡潔に示している. 図 に試算結果を示した. 図 リスク試算結果内訳 山岳トンネルの覆工コンクリート塊のはく落事故の発生を受け, 既設トンネルの維持管理のあり方が議論され, 設計段階での不確定要因を含んだトンネルの適切な維持管理手法の確立が重要となっている. また, 適切な点検 評価によって将来の状態を適切に予測し, 対策工の時期と対象 規模を把握することで, 費用を最小化する維持管理手法が求められている. 蒋ら 35)~37) は, 現状把握のための維持管理データベースを構築するとともに, 図 , 図 に示す岩盤強度の経時的変化と覆工劣化を考慮したトンネル変状シミュレーションに基づく維持管理コストを加味した最適維持管理時期 ( 補修時期 ) を算出することで, 合理的な維持管理手法提案をしている. また, 費用を最小化するための維持管理手法アセットマネッジメント手法の導入を提案し, 費用算定に大きな影響をもたらすと考えられる劣化予測手法についての提案を行うとともに, 実際のトンネルをモデルとして, 劣化曲線によるトンネル性能の判定結果と路線重要度の評価結果に基づく補修費用の試算を実施している. さらに, 道路トンネルの合理的維持管理を支援するために, データベース機能, 空間解析機能と視覚機能を有する GIS( 地理情報システム ) を活用した維持管理データベースの構築手法を提案しており, 長崎県の道路トンネルを例として構築した維持管理データベースと変状シミュレーションに基づいてトンネル性能の評価と最終補修費の試算を行い, 道路トンネルの維持管理費の縮減及び最適な予算配分のためのアセットマネジメント手法の導入を試みた. 特に直接補修費用費用の分析と LCC 試算により, 最終的補修費を縮減できる補修計画の提案を試みている. 21

27 図 粘弾塑性モデル 図 シミュレーションモデル 図 に変状シミュレーションに基づく補修後の内空変位の変化を示し, 図 に経過年に対する性能と補修費の推移を示した. また, 表 に性能回復のための 1m 当たりの直接補修費を示し, 表 にライフサイクルコストの算定項目例を示した. 図 補修後の内空変位変化 ( 繰り返し補修など ) 表 性能回復のための 1m 当たりの直接補修費 図 経過年に対する性能と補修費の推移 22

28 表 ライフサイクルコストの算定項目例 さらに, 図 にライフサイクルコスト (LCC) の試算結果を, 図 に社会的割引率を考慮したライフサイクルコストの試算例を示し, 図 にトンネル維持管理フローを示した. 図 LCC の試算 図 社会的割引率を考慮した LCC の試算例 図 トンネル維持管理フロー 23

29 1.3 本研究の目的特殊条件下におけるトンネルの設計 施工においては, 対象となる地形 地質および周辺条件の把握と施工時の切羽における地山の評価 分析とともに適切な対策工の設計 施工が必要となる. 一旦, 突発湧水や地山崩落等の不測の事態が発生すると作業員の安全が損なわれるのみならず, 対策工の検討や実施に多大の時間と費用がかかることになる. また, メガネトンネルや超大断面トンネルのように特殊断面のトンネルでは, 掘削時の地山挙動に関して, これまでの施工事例が少ないことから, 支保構造の安全性や対策工として実施する補助工法の必要性や効果など設計手法が確立されていない. さらに, 近年, トンネルの施工が増加する傾向にある都市部の山岳トンネルにおいては, 地下水位の低下や渇水対策, 近接構造物への環境影響等が懸念される. したがって, このような特殊断面や近接施工においては, 施工時の挙動を把握し, 効果的な対策工を検討する目的で数値解析による挙動予測や周辺への影響検討が実施される. さらに, トンネルの維持管理といった観点からは, 特殊条件下の施工では変状の発生する可能性が高いと考えられるため, 維持管理までを踏まえたトンネルの設計 施工 ( 予防保全対策 ) をどのように実施するかが重要になってくる. 本研究ではこれまで筆者らが対応した特殊条件下での設計 施工に関する検討実績に関して,1 特殊地山,2 特殊地形,3 特殊環境といった特殊条件下での安全施工と環境影響対策といった観点から整理 分析するとともに, このような厳しい施工条件のもとで安全かつより良い品質のトンネルの構築に向けた新しい取り組みの提案を行う. さらに, 今後, 急務となるであろう山岳トンネルにおける合理的な維持管理を実現するために, アセットマネッジメントの導入によるトンネルの劣化予測手法についての研究実績から特殊条件下における山岳トンネルの設計, 施工, 維持管理の最適化手法を提案することを目的とする. 24

30 1.4 本論文の構成 本論文は,1 特殊地山,2 特殊地形,3 特殊環境といった特殊条件下の山岳トンネルの設計 施工上の課題の解決と合理的な維持管理を実現する目的で, 特殊条件下での施工実績に基づく設計, 施工上の課題を整理するとともに, 今後急激に増加することが予想される社会ストックとしてのトンネル構造物の合理的な維持管理のために, アセットマネジメントの導入によりライフサイクルコスト (L.C.C) 最小化に向けた劣化予測と維持管理手法に関する提案を行うことを目的にまとめている. 各章の内容は以下のとおりである. 第 1 章は, 序論で, 特殊条件下における設計 施工に関する現状について, 既往の研究について整理するとともに, 特殊条件下における山岳トンネルの設計 施工, および維持管理に関する課題を記述し, 本研究の目的と本論文の構成について記述している. 第 2 章では, トンネルの施工に関わる特殊条件の整理を行うとともに, 施工現場における地山評価手法の実績に基づき, 特殊条件下での設計 施工, および合理的な維持管理を実施する上で, トンネルの安定性を左右する切羽評価の重要性について記述している. 第 3 章では, 特殊条件下におけるトンネル施工時の対策工としての補助工法について, まず, 多く採用される補助工法の概要を述べ, 期待される補助工法の効果と設計手法についてまとめている. さらに, 種々の特殊条件における施工事例に基づき, 設計 施工上の課題とその対策について述べている. 第 4 章では, 社会ストックとしての山岳トンネルの現状および維持管理上の課題について整理し, 今後の合理的維持管理に向けた課題と解決策としてのアセットマネッジメント手法の導入の必要性と導入に向けた劣化予測手法の現状についてまとめている. さらに, 点検結果の判明している変状トンネルをモデル化し, そのモデルトンネルに関して, 健全度評価, 劣化予測の試行を行い, 合理的な維持管理実現に向けた劣化予測手法の提案を行っている. 第 5 章では, 変状現象が発生する可能性の高い特殊条件下における山岳トンネルの設計 施工, および維持管理において, 山岳トンネル長寿命化に向けた維持管理の幾つかのシナリオを整理するとともに, 特殊条件下における合理的な維持管理システムの提案を行っている. 第 6 章では, 新設トンネルにおける長寿命化に向けた新しい取り組みに関して, 実際の現場における適用実績を踏まえて評価するとともに今後の展望を述べている. 第 7 章は結論であり, 本研究で得られた知見を総括的に整理している. 本論文の構成を図 に示す. 25

31 研究目的特殊条件下における山岳トンネルの設計 施工上の課題解決のための対策工の検討合理的な維持管理に向けたアセットマネッジメント手法の導入と劣化予測手法の提案 序論 ( 第 1 章 ) 特殊条件下における山岳トンネルの現状と課題既往の研究の整理研究の目的 トンネルの地山評価手法 ( 第 2 章 ) トンネルの施工に関わる特殊条件の整理と切羽評価の重要性確認トンネルの安定性を左右する切羽評価の事例紹介 特殊条件下における設計と施工 ( 第 3 章 ) 補助工法の概要と効果のまとめ補助工法の設計手法の整理特殊条件下における設計 施工事例に基づく課題と対策 山岳トンネルの合理的な維持管理 ( 第 4 章 ) 山岳トンネルの現状および維持管理上の課題アセットマネッジメント手法の導入と劣化予測手法の提案 特殊条件下における設計と施工 ( 第 5 章 ) 山岳トンネルを取り巻く社会背景山岳トンネルの要求性能と長寿命化のシナリオトンネルの安定確保のための補助工法の選定特殊条件下における合理的な維持管理システムの提案 長寿命化に向けた新しい取り組み ( 第 6 章 ) 高品質 高充填覆工コンクリートの開発覆工コンクリートの新しい養生方法の開発 結論 ( 第 7 章 ) 図 論文の構成 26

32 参考文献 1) 土木学会 : トンネル標準示方書山岳工法 同解説,p.187, ) ( 財 ) 鉄道総合技術研究所 : トンネル保守マニュアル ( 案 ), ) ( 社 ) 土木学会岩盤力学委員会トンネルの変状メカニズム,p.39, ) 吉川恵也, 北側修三, 川上義輝, 馬場富雄 : トンネル変状の傾向 (2), 鉄道技術研究報告,No.1293, )( 社 ) 日本道路協会 : 道路トンネル維持管理便覧, 丸善, ) 竹林亜夫, 滝沢文教, 上野将司, 奥村興平, 三上元弘 : 山岳トンネルにおける不良地山に関する地質工学的考察, トンネル工学研究論文 報告集, 第 16 巻,pp , ) 中川浩二 : 山岳トンネルの事前調査 設計における問題点と今後の展望, 土木学会論文集,No.777/Ⅵ-65,pp.1-13, ) 赤木渉, 伊藤哲男, 城間博通, 小川邦彦, 井上隆 : 切羽観察評価区分値と支保選定に関する一考察, トンネル工学研究論文 報告集, 第 12 巻,pp , ) 真下英人, 砂金伸治, 遠藤拓雄, 木谷勉 : 切羽観察表を用いた地山等級の判定手法に関する一提案, トンネル工学研究論文 報告集, 第 14 巻,pp.89-93, ) 中川常雄, 江口和義, 高田邦彦, 櫻井孝臣, 各種補助工法を駆使して断層破砕帯を貫く北陸自動車道春日山トンネルⅡ 期線工事, トンネルと地下, 第 32 巻 6 号,pp.17-26, ) 中田雅博, 三谷浩二, 城間博道, 西村和夫, 進士正人, 現場計測による垂直縫地ボルトの補強効果に関する基礎的研究, トンネル工学研究論文 報告集, 第 6 巻, pp , ) 徳留修, 大津俊郎, 広瀬雅明, 澤田一也 : 断層 褶曲を受けた脆弱泥岩地山における変位抑制対策, トンネル工学報告集, 第 17 巻,pp.29-34, ) 小原勝巳, 安永礼三, 井上伸一, 市川健作, 熊谷幸樹, 長尺フェースボルトの掘削に伴う挙動, トンネル工学研究論文 報告集, 第 8 巻,pp , ) 樋上尚子, 森川武浩, 西元和生, 賓松茂幸, 予期せぬ以上湧水に挑む国道 482 号蘇武トンネル日高工区, トンネルと地下, 第 33 巻 1 号,pp.17-28, ) 竹津英二, 小島隆, 森田隆三郎 : 膨張性地山を多重支保工で克服 ( 北陸新幹線飯山トンネル木成工区 ) トンネルと地下, 第 34 巻 8 号,pp.7-13, ) 前原弘光, 柳瀬ひろし, 黒田二郎, 藤井雅英, 低土被り未固結地山における補助工法及び近接 直上家屋の変位抑制について, 第 46 回施工体験報告会 ( 山岳 ) 論文集, pp , ) 石川靖治, 上村正人, 米田裕樹, 中川浩二, 斬新な設計 施工のめがねトンネルで市街地に挑む, 北九州市下到津ランプ連絡道路トンネル, トンネルと地下, 第 34 巻 5 号, pp.35-44, ) 西村誠一, 武友憲重, 北川伸治, 小西克典, 塩川裕之 : 未固結地山における超大断面トンネルの施工, トンネル工学研究論文 報告集, 第 15 巻,pp , ) 佐々木郁夫, 川内野俊治, 横尾利春, 村里静則, 長崎の住宅密集地を貫く ( 沈下対策編 ) 一般国道 324 号出島バイパスオランダ坂トンネル, トンネルと地下, 第 34 巻 10 号, 27

33 pp.17-23, ) 豊里栄吉, 岩島保, 五十嵐瑞穂, 梨本裕, 土被りの薄いメガネトンネルを掘る, 第二神明道路 ( 改築 ) 小束山トンネル, トンネルと地下, 第 28 巻 9 号,pp.27-40, ) 藤村三喜男, 山野賢治, 原田浩史, 須藤敏明, 国内発の2 層道路トンネル ( 首都圏中央連絡自動車道青梅トンネル ), トンネルと地下, 第 29 巻 9 号,pp.15-25, ) 清水利郎, 尾畑洋, 松尾勉, 手塚仁, 岡部正, 長尺切羽補強工を施工した切羽前方地山の挙動について, トンネル工学研究論文 報告集, 第 13 巻,pp , ) 三谷浩二, 山戸隆秀, 足立宏美, 井上博之, 加久藤トンネル (Ⅱ 期線 ) における変位抑制工の設計と施工, トンネル工学研究論文 報告集, 第 12 巻,pp , ) 越智修, 登坂敏雄, 北川博通, 奥利之, 工藤暢章 :NATM トンネル覆工のひび割れ発生に関する施工実績調査, トンネル工学研究論文 報告集, 第 14 巻,pp , ) 堤知明,Jiaye WU, 池尻健 : 地下構造物の維持管理における新しい非破壊調査方法の適用, 土木学会地下空間シンポジウム論文 報告集, 第 11 巻,pp , ) 伊藤裕昌, 小島芳之, 六車崇司, 佐野力, 山浦剛俊 : トンネル覆工変状監視への光ファイバ計装システムの適用性研究, 土木学会地下空間シンポジウム論文 報告集, 第 10 巻,pp , ) 後藤和夫, 篠原秀明, 下澤正道, 堀内宏信 : デジタル画像を用いたトンネル変状調査 管理支援システムの開発, 土木学会地下空間シンポジウム論文 報告集, 第 12 巻, pp , ) 寺戸秀和, 横沢圭一郎, 竹本憲充, 三浦康則, 稲川雪久 : トンネル維持管理作業台車の開発, トンネル工学報告集, 第 17 巻,pp , ) 小西真治, 新藤良則, 尾山達巳, 菅原孝男 : 鉄道トンネルの維持管理情報のシステム化に伴う健全度判定補助機能の開発, 土木学会地下空間シンポジウム論文 報告集, 第 12 巻,pp , ) 小島芳之, 吉川和行, 六車崇司, 小林朗, 若菜和之 : トンネル覆工の剥落対策における繊維シート接着工の適用性について, トンネル工学研究論文 報告集, 第 12 巻, pp , ) 馬場弘二, 海瀬忍, 山田隆昭, 齊藤直, 白野武 : 中流動覆工コンクリートの開発検討, トンネル工学研究論文 報告集, 第 17 巻,pp , ) 松長剛, 服部修一, 野々村政一, 朝倉俊弘 : 山岳トンネルの地震被害に関する解析的検討, トンネル工学研究論文 報告集, 第 15 巻,pp , ) 橘直毅, 小島芳之, 野城一栄, 朝倉俊弘, 野々村政一 : 兵庫県南部地震 (1995), 新潟県中越地震 (2004) におけるトンネルの被害の傾向, トンネル工学報告集, 第 17 巻, pp , ) 川田昌仁, 蒋宇静, 棚橋由彦 : 地山強度の経時的低下を考慮した変状予測と補強効果の評価に関する研究, トンネル工学研究論文 報告集, 第 15 巻,pp.31-38, ) 安田亨 : アセットエンジニアリング, 土と基礎講座 リスク工学と地盤工学, pp.35-42, ) 畠中千野, 田口洋輔, 亀村勝美, 掘倫裕 : 社会的信用を指標としたリスクの定量的 28

34 評価について, 土木学会地下空間シンポジウム論文 報告集, 第 9 巻,pp , ) 蒋宇静, 棚橋由彦, 藤井崇博 : 道路トンネルの変状分析と維持管理データベースの構築, 土木学会地下空間シンポジウム論文 報告集, 第 9 巻,pp , ) 蒋宇静, 棚橋由彦, 杉本知史, 上田静 : 性能評価に基づく道路トンネルの補修費算定手法の検討, 土木学会地下空間シンポジウム論文 報告集, 第 13 巻,pp.73-78, ) 蒋宇静, 亀崎隆太, 平川昌寛, 棚橋由彦 : 道路トンネル維持管理におけるアセットマネジメント手法の適用, トンネル工学論文集, 第 16 巻,pp.1-10,

35 第 2 章特殊条件下における地山評価手法の提案と適用 2.1 はじめに 山岳トンネルでは, 地中の線状構造物という特殊性から, 事前地質調査によって得られる情報には限界があるため, 通常の土木構造物とは異なり, 設計においては, 施工実績に基づき設定された標準支保パターンを用い, 施工時に得られる切羽観察や計測結果に基づき地山の変化に応じた最適支保パターンに修正していくことが一般的である. したがって, 施工時においても, 切羽観察調査や計測工をはじめとした各種調査が実施される. とりわけ, 特殊条件下でのトンネルの施工においては, 必要な対策工として適切な補助工法を選定することが重要となる. 近年, 長尺鋼管フォアパイリングをはじめとする補助工法のめざましい進歩により, 厳しい特殊条件 ( 未固結地山, 湧水地山, 近接施工等 ) の下においても安全に施工することが可能となってきた. しかしながら, 断層破砕帯等の弱層部では地山の急変や突発湧水等により切羽崩落等の不測の事態を生じ, 対策に多大の費用と時間を要することも少なくない. これらの特殊条件下の施工においては, 切羽前方の地山状況を正確に把握することにより, 対策工の選定や支保構造等の設計を進めていくことが重要となる. したがって, 施工時の切羽前方探査等に基づく対策工の検討および実施がトンネルの安全性を左右するといっても過言ではない. また, 都市部のトンネルの施工においては, 地下水低下や近接構造物への悪影響を及ぼすことのないように, 対象となる構造物等の管理者と十分な協議を行うとともに, これまでの同種工実績や数値解析結果等を参考にした上で, 許容値や管理値を定め, 適切な対策工の採用により, 地表の近接構造物に及ぼす悪影響を許容範囲以内に抑える必要がある. 2.2 トンネル施工に影響する特殊条件と施工上の課題 前述のとおり, 山岳トンネルの施工における特殊条件としては, 特殊地形条件, 特殊地山条件, 特殊環境条件が挙げられるが, 具体的に示すと以下に示す 5 項目が挙げられる. 1 偏圧地形, 地すべり地帯, 小土被りといった地形的条件 2 未固結地山, 突発湧水, 破砕帯, 膨張性地山といった地質的条件 3 形状的に特殊な大断面やメガネトンネル等の設計的な条件 4 都市部等の近接施工といった周辺環境に関連した施工条件 5 寒冷地や豪雪地帯といった気象条件このような特殊条件下でのトンネルの設計に関しては, 類似事例や数値解析等を用いた設計が採用されることも多く, ほとんどの場合, 施工時にトンネル構造の安定を図るための対策として, 補助工法が採用される. また, 完成後の変状対策に関しても問題となる場合にはインバートの施工等の予防保全対策の検討がなされる. 特殊条件下の施工における課題は以下のとおりである. 1 地形条件に関しては, トンネルに偏土圧が作用したり, トンネル周辺のアーチアクションの形成が不十分となり, トンネルの不安定化や天端崩落等の変状を発生させる要因と 30

36 なる. また, 地すべり地形の場合には, トンネルの施工に伴う地山のゆるみが地すべりを誘発させる原因となる場合がある. 2 地質条件に関しては, 未固結地山等では1 地形条件同様, トンネル周辺のアーチアクションの形成が不十分となり, トンネルの安定が損なわれる懸念がある. また, 破砕帯では, 突発湧水の発生により, トンネルの天端や鏡面の安定が損なわれ, 崩落等の不測の事態を引き起こすこともある. 3 特殊な大断面やメガネトンネル等の施工に関しては, 参考にする事例となる施工実績が少なく, 掘削時のゆるみ範囲や挙動が通常のトンネル (2 車線道路トンネル : 掘削断面積 80 m2程度 ) とは異なるため, 設計の標準支保パターンが使用できないケースも多い. また, 第三紀の泥岩, 凝灰岩, 蛇紋岩等の粘土化しやすい地山や風化した結晶片岩や温泉余土等では, 掘削完了後に継続的に変形が進み変状にいたる場合が懸念され, 支保部材の耐久性も問題となる場合がある. 4 近接施工においては, 地下水低下や不同沈下等により, 近接構造物への悪影響を及ぼすことが懸念される. 特に, 近年, 都市部における山岳トンネルの施工が増加する傾向にあり, 施工時の騒音 振動の抑制, 水質汚濁防止等を含めた環境対策の重要性が高まっている. 5 気象条件に関しては, 地域性があるものの, 一般にトンネルの施工は竣工までに数年を要することが多く, 季節毎の配慮が必要である. とりわけ, 夏期, 冬期のコンクリートの品質管理や冬期 ( 積雪時 ) のズリ処理等では施工上の配慮が必要である. これらの特殊条件における安全施工と環境影響要因のなかで, 施工に密接に関連するのがトンネルの地山評価であり, 施工時の切羽前方探査等に基づく対策工の検討および実施がトンネルの安全性確保のためには重要となる. 2.3 トンネル施工時の地山評価手法 施工における地山評価に関しては, 一般的には, 切羽観察調査や計測工 A( 内空変位, 天端沈下 ) が用いられる. 本節では, トンネルの新しい地山評価システムとして 1 硬岩における先行ボーリングとボアホールカメラを用いた前方探査 ( 写真 ) 2 地質変化の激しい地山におけるトンネル地山評価システム (K-tes: 写真 ) の現場適用事例について述べるとともに, 切羽評価に基づく対策工の検討事例を示す. 31

37 写真 切羽でのボアホールカメラ観察状況 穿孔探査試験機 写真 前方探査実施状況 ボアホールカメラによる地山評価手法 使用したボアホールカメラは写真 に示す管内観察や空洞調査に用いられているカメラ径 48mm の曲げ押し可能な孔内観察用カメラである. 操作は簡単で障害物がない限り, カメラを孔内にケーブルで押しながら挿入していくものである. 湧水が多い場合, 撮影に対する支障が懸念されたが, 若干水圧による抵抗があったものの, 記録画像にはほとんど影響がなかった. 実際の観察記録状況は写真 に示すとおりである. 現場では, 画像を 8mm ビデオに記録し, デジタルビデオに編集し直して解析に用いたが, この測定方法の短所としては, 1 画像の上下の位置関係が不明であること. 2 画像に表示される深度をケーブルの送りから読み上げるため若干誤差を生じること. の2 点が懸念された. しかしながら, 実際の調査では上下の関係は湧水の水面状況から判断でき, 深度に関しては採取コアと比較したキャリブレーションを行うことで, 修正することが可能であった. ボアホール画像による地質構造の推定にあたっては, 孔壁画像とコアの状況を比較して, 実際の不連続面の状態がどのような歪んだ画像に見えるのかを確認した. 図 に幅約 1cm の介在物を挟んだ亀裂の比較の例を示す. 32

38 写真 ボアホールカメラと画像例 図 孔壁画像とボーリングコアの比較 33

39 計測結果2.3.2 機械データによるトンネル地山評価システム (K-tes) 項で紹介したボアホールカメラによる切羽前方探査は, 坑壁が安定していることが前提となる. しかしながら, 特殊地山条件では, 坑壁の自立が困難な地山も少なくないため, 坑壁が自立しない地山における前方探査技術が必要となってくる. トンネル地山評価システム (K-tes:Konoike tunnel estimation system) は, 切羽前方探査においてトンネルの標準機械であるドリルジャンボの穿孔時の機械データを収集 分析することにより, 切羽前方の地質を穿孔エネルギーとして定量的に評価する. また, 施工の進捗とともに得られる支保パターン毎の切羽評価点や計測データは機械データとあわせて同様のファイル形式 (CSV 形式 ) で保存, 更新を行い, リアルタイムに施工情報をデータ化する. これらのシステム内に蓄積された施工データと前方探査により得られた穿孔エネルギーを比較することで, 地山の変化に適応した合理的な支保パターンの選定や必要な対策工 ( 補助工法 ) の検討を行うことができる ( 図 ). 本システム導入により, これまでは, 個別に実施して整理していた前方探査データ, 切羽観察 ( 評価点 ), 計測データをシステム的に一元管理することで, いわゆる巻物的 ( 展開図 : 図 ) に整理することで情報化施工の実現が可能となる. 図 には, 同システムによる地山評価の分析例を示す. これらの分析により, 施工時に切羽評価点や計側データおよび切羽前方探査結果 ( 穿孔エネルギー ) の相関をリアルタイムに把握できるため, 切羽の進行に影響なく地山評価が行え, 必要な対策工の選定が実施できる. 従来の地山評価 CSV 形式 切羽評価点の算出 CSV 形式相関関係のデータ蓄積 穿孔エネルギーと切羽評価点 ( 加重平均 ) の関係 右側天端 50 左側 45 支保パターンの決定 支保パターンの見直し 切羽評価点 ( 加重平均 ) 前方地山の穿孔エネルギーの算出 CSV 形式 穿孔エネルギー (J/cm3) 穿孔位置 穿孔エネルギー 3 穿孔エネルギー (J/cm) 切羽 探査深度 (m) 左 天 右 穿孔延長 ( 実績 10~30m) 既施工区間の蓄積データのフィードバック 適用例 200J/cm 3 以下 補助工法が必要 ( 基準については随時見直しを実施 ) 前方地山の地質 支保パターン 補助工法等対策の必要性を予測 図 トンネル地山評価システム概念図 34

40 施工結果とりまとめ区間 STA 支保No.3 STA 支保No.562 L=628.6m DL=300 測 点 計 画 高 断面番号 558 STA 観察年月日 支保パターン CⅡ-b-B 平成18年4月28日 断面番号 497 STA 観察年月日 平成18年4月11日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 445 STA 観察年月日 平成18年3月28日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 389 STA 観察年月日 平成18年3月9日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 333 STA 観察年月日 平成18年2月17日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 284 STA 観察年月日 平成18年2月4日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 225 STA 観察年月日 平成18年1月21日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 168 STA 観察年月日 平成17年12月17日 支保パターン DⅠ-b-1-B 断面番号 47 STA 観察年月日 平成17年10月3日 支保パターン DⅢa-1 断面番号 3 STA 観察年月日 平成17年8月29日 測 点 計 画 高 支保パターン DⅢa-1 切 羽 観 察 記 録 凡 例 風化チャート チャート 粘板岩 硬質チャート 粘 土 砂 岩 ドリス探査孔 B D C B C A D 壁面展開図 E E A 湧水状況 CⅡ-b CⅡ-a CⅡ-b DⅠ-a CⅡ-b DⅠ-b 支保パターン DⅢa AGF工法 鏡吹付け 切羽崩落箇所 50 補助工法 1500 穿孔エネルギー(平均) 切羽評価点 穿孔エネルギー(平均) 図 8 図 図 施工結果まとめ K-tes 出力例 K-tes による地山評価の分析事例 測点 切羽評価点 点 穿孔エネルギー(J/cm3) 切羽評価点 40

41 2.4 現場における地山評価事例 はじめに前述のとおり, トンネルの設計にあたっては, 地山材料そのものの不確実性に加え, 地山と支保の相互作用によりアーチアクションを利用して地山の安定を図るため, 通常の土木構造物と異なり設計時は標準支保パターンを用い, 施工時に得られる切羽観察や計測結果により, 地山の変化に応じた最適支保パターンに修正していくことが一般的である. ここでは, 実際のトンネル現場で実施した地山評価事例について述べる 適用トンネルの概要京都トンネルは, 主要地方道苅田採銅所線 緊急地方道路整備事業として道路改良工事であり, 福岡県京都郡苅田町大字南原 ~ 山口の間に位置しており, 全長 L=405m の山岳トンネル工事である. 工事内容の概要は, トンネルの掘削は標準工法である NATM で施工され, 掘削方式としては発破工法を採用した. 主な掘削工法は D パターン ( 上半先進ベンチカット工法 ) と C パターン ( 補助ベンチ付き全断面工法 ) である. また, 補助工法として, 両坑口において, 注入式フォアポーリング ( 終点側坑口部はウレタンルーフ L=6.0m) を選定した 路線概要主要地方道苅田採銅所線は, 図 に示すように, 京都郡苅田町と田川郡香春町を結ぶ, 延長 26km の幹線道路であり, 県の重要港湾である苅田港や平成 18 年 3 月に開港を予定していた新北九州空港へアクセスする重要路線である. この内, 京都トンネルは本路線が有している京都峠 ( 交通不能区間 ) を貫く延長 405m の道路トンネルである. この京都トンネルの完成により, 本路線の交通不能区間が解消され, 京築地域と筑豊地域間の流通, 地域交流の活性化に寄与するとともに, 災害時における防災活動を支援する緊急道路としての役割が期待されていた. 図 京都トンネル施工位置 36

42 2.4.4 地形 地質概要 (1) 地質概要京都トンネルが位置する 京都峠 の地形は, 北部の平尾石灰岩採掘地と南部の高城山 ( 標高 400m) に挟まれた標高 250m の鞍部地形となっており, 北東および南西部方向は殿川ダムおよび小波瀬川低地に連なる谷頭となっていた. 北部石灰岩山体は, 急峻で安定した様相を呈しているのに対し, 南部の山体, とりわけ中腹部から山裾にかけては緩傾斜面となっており, 表層崩壊地や地すべり地形が随所に点在していた. 地すべり地形は, 南原側斜面に多く見いだされており, 八田山側は緩傾斜の崖錐地形が明瞭に見られたが, 地すべり地形は見いだされなかった. (2) 地形概要京都トンネル周辺の地質は, 三郡変成岩, 石灰岩および花崗岩から構成され, 石灰岩は, 当地から平尾台方面にかけて北東から南西方向にレンズ状に点在していた. 岩相は熱変成により強く再結晶化 ( 方解石化 ) していた. 三郡変成岩 ( 結晶片岩 ) は, 北九州から山陰方面にかけ広く分布しており, 石灰岩とは一見, 断層関係で接しており, 岩相は泥質片岩, 砂質片岩を主体とし, 緑色片岩が点在していた. 中生代の花崗岩類は花崗閃緑岩を主体とし, 三郡変成岩体に貫入しており, 一部, 地下水により風化している部分も観察された. 図 に事前調査に基づく地質縦断図を示す. なお, 図中には, 設計時の地山区分と支保パターンとともに, 今回, 京都トンネルにて実施されたトンネル委員会 ( 岩判定委員会 ) の成果として実施工により採用した支保パターン ( マルチパターン含む ) を併記している. 図 地質縦断図および設計 施工支保パターン 37

43 2.4.5 トンネルの切羽評価に関する検討 (1) 概要国交省としては切羽判定基準 1) として確立されたものはなく, 現状では道路トンネル観察 計測指針 ( 日本道路協会 ) 2) を参考にして, 切羽観察記録に基づき, 各現場事務所, 工事現場ごとに基準を定め判定しているのが実情である. 一方, 道路公団では, 多くの NATM 施工実績に基づくデータベースを作成し, 蓄積されたデータを統計的手法で処理し, 支保パターン判別に影響性の大きい切羽観察項目を抽出し, それらの項目から支保パターンを定量的に判別する方法として 新切羽評価点法 ( 案 ) 3) を提唱している. 福岡県ではこれらの状況をふまえ, 新切羽評価点法( 案 ) に基づき支保パターンの評価を実施している. 切羽の評価 ( 支保パターンの選定 ) は前述のとおり, トンネル工事の安全性, 施工性とともに経済性に直結する重要な課題である. したがって, 京都トンネルにおいては, 現状で最も適切な切羽評価が可能と考えられる道路公団方式と従来の方式を併用するとともに, 現場で切羽検討会 ( 岩判定 ) を実施することにより, トンネル施工の安全性, 施工性, 経済性に配慮した合理的な施工を目指した. (2) 検討結果と分析図 に京都トンネルにおける切羽観察の評価に関して, 旧 JH 方式 ( 今回採用 ) と従来の旧建設省方式を比較した切羽評価点の推移と支保パターンを示す. 全体的な傾向として, 切羽総合評価点と支保パターン推移はほぼ同様となることがわかった. しかしながら, 同一切羽であっても,JH 方式よりも旧建設省方式の方が評価点が高くなり, 支保パターンが軽めになること, 湧水のある箇所では旧建設省方式の方が評価に影響を受けやすいことがわかった. 切羽観察評価点推移図 評 40 価点 JH 方式評価点建設省方式評価点 DⅠ-a DⅢa DⅠ CⅡ CⅡ-a CⅡ-b DⅠ-b DⅢa CⅠ 湧水箇所 断面番号 図 切羽評価点の推移 さらに切羽を3 分割して, 天端, 左肩, 右肩それぞれの評価点推移と切羽全体の総合評価の関係を図 ~ 図 に示す. それぞれのグラフを見ると, 切羽全体の総合評価に関しては, 天端の評価点を反映していることがうかがえる. 38

44 DⅢa DⅠ CⅡ -b 切羽評価点の分析 CⅠ CⅡ -a CⅡ -b DⅠ -a DⅠ -b DⅢ a 評価点 左肩天端右肩総合評価 断面番号 図 切羽評価点の推移 ( 全体 ) 切羽評価点の分析 DⅢa DⅠ CⅡ -b CⅠ CⅡ -a CⅡ -b DⅠ -a DⅠ -b DⅢ a 評価点 天端総合評価 断面番号 図 切羽評価点の推移 ( 天端 ) 39

45 DⅢa DⅠ CⅡ -b 切羽評価点の分析 CⅠ CⅡ -a CⅡ -b DⅠ -a DⅠ -b DⅢ a 評価点 左肩総合評価 断面番号 図 切羽評価点の推移 ( 左肩 ) DⅢa DⅠ CⅡ -b 切羽評価点の分析 CⅠ CⅡ -a CⅡ -b DⅠ -a DⅠ -b DⅢ a 評価点 右肩総合評価 断面番号 図 切羽評価点の推移 ( 右肩 ) 40

46 旧建設省方式の評価点では, 切羽観察結果の定量化に当たっては, 以下に示す切羽観察項目の重みをすべて同等と仮定し, また判定ランク (ri) には線形関数を仮定して, 式 に基づき項目ごとに 100 点満点で換算する. ここで,Ei: 切羽観察項目 i の換算点 ri E= R i ri: 切羽観察項目 i の判定ランク Ri: 切羽観察項目 i のランク数次に, 式 に基づき切羽総合評価点を求める PM = N i= 1 E / N なお, 評価項目としては,1 切羽の状態,2 岩石強度,3 風化変質,4 割れ目間隔,5 割れ目の形態,6 湧水の6 項目を採用し,JH 方式と比較するため点数が大きいほど地山条件が良くなるように, ここでは, 式 のとおりとした評価点 =100-PM 式 京都トンネルにおける切羽評価結果では, 図 に示すとおりとなった DⅢ-a パターン 18.0(6.3~29.8) DⅠパターン 31.4(22.3~36.0) CⅡパターン 44.3(34.0~55.3) CⅠパターン 57.5(56.0~60.5) 結果的に, 平均点では当初, 支保区分の目安としていた範囲,CⅠが 50~80,CⅡが 30 ~50,DⅠが 5~30 と比較して,DⅠは上限値程度,CⅡは平均値程度,CⅠは下限値程度ではあったものの主な支保パターンはCⅡ( 全体の 48%) であったことから考えれば, ほぼ妥当な切羽評価が実施できたもと考えられる. マルチパターンとして採用した DⅠ( インバート省略 ) および CⅡ-a に関しても区間長はわずかではあったが, 切羽評価点により客観的な評価ができたものと考えている. i 100 i 式 式 評価点 括弧内は平均値 0 DⅢ DⅠ CⅡ CⅠ 支保パターン 図 切羽評価点の分布 41

47 計測工結果のまとめ トンネル施工時の安定性の評価や支保の妥当性については計測工 A( 内空変位, 天端沈下 ) の結果に基づき分析 評価を実施した. 図 にA 計測の収束値を支保パターン毎にまとめた. 終点側 DⅢ 区間で結果的に一部, 注意レベルⅡを上回る内空変位を生じているが, 今回の計測管理においては,DⅢパターンに関しては, 土被りが小さいため, 管理基準値を DⅠの 1/2 に設定していること, 図 に示すとおり, 変位は速やかに収束傾向を示していることからトンネルの安定性に問題はないと判断される. 中間部までは天端沈下が卓越しており, 中間付近の CⅠ,CⅡ 付近についてはほぼ理想的な変形モード ( 等方的な変位 ) となっている. 天端沈下及び内空変位 ( 上半 下半 ) の収束値のばらつきと平均値を支保パターンごとに図 , 図 にまとめた.DⅢパターンにおいては, 土被りが小さいために, トンネル掘削による応力開放に伴う変位量は小さいものの, 他の支保パターンに比べて変位量に大きなばらつきが見られる. また, 地山が良好になるにつれてばらつき, 変位量とも小さくなっている.DⅠパターンでもばらつきが見られる. なお, 今回の計測結果は注意レベル Ⅰから注意レベルⅡの範囲で収束しており, 構造の安定性は確保されているものと判断した 天端沈下収束値 (mm) 上半内空収束値 (mm) 下半内空収束値 (mm) 収束値 (mm) 天端注意レベル Ⅱ 内空注意レベル Ⅱ 天端注意レベル Ⅱ 天端注意レベル Ⅱ 天端注意レベル Ⅱ 天端注意レベル Ⅱ 内空注意レベル Ⅱ 内空注意レベル Ⅱ DⅢ DⅠ CⅡ CⅠ CⅡ DⅠ DⅢ 内空注意レベル Ⅱ 延長 (m) DⅢ パターンに関しては土被りが薄いため DⅠ の 1/2 とした 内空注意レベル Ⅱ 図 計測工 A 収束値一覧 42

48 番号測点名称 1 T1 2 N1 3 N2 4 N3 5 N4 6.5(10.8) 4.9(8.2) 8.6(14.3) 4.9(8.2) 番号切羽線名称 1 上半 2 下半 2.6(4.3) /12 11/18 11/24 11/30 12/ /11/09 11/15 11/21 11/27 12/03 12/09 延べ日数 ( 日 ) 天端沈下 内空変位経時変化図 図 計測工 A 経時変化 ( 坑口部 :DⅢ) 支保パターン CⅠ,CⅡ DⅠ,DⅡ DⅢ-a 表 管理基準値一覧 注意レベル Ⅰ Ⅱ Ⅰ Ⅱ Ⅰ Ⅱ 内空変位 (mm) 天端沈下 (mm) 注 )DⅢ-a は土被りが薄いため,DⅠ の 1/2 とした 50 注意レベル Ⅱ 50 注意レベル Ⅱ 収束値 注意レベルⅡ 注意レベルⅡ 注意レベルⅠ 注意レベルⅠ 注意レベル Ⅰ 0 DⅢ DⅠ CⅡ CⅠ 支保パターン ( 上半 ) 収束値 注意レベルⅡ 注意レベルⅡ 注意レベルⅠ 注意レベルⅠ 注意レベルⅠ DⅢ DⅠ CⅡ CⅠ 支保パターン ( 下半 ) 図 内空変位量の分布 43

49 50 40 収束値 注意レベル Ⅱ 注意レベル Ⅱ 注意レベル Ⅱ 10 注意レベルⅠ 注意レベルⅠ 注意レベルⅠ 0 DⅢ DⅠ CⅡ CⅠ 支保パターン図 天端沈下量の分布 逆解析による周辺地山安定性評価 計測工 Aにより測定される変位量は, 天端沈下は天端位置の沈下量 ( 絶対変位 ) を示し, 内空変位は測点間の相対変位量として評価されるものであるが,NATM では, 周辺地山のアーチアクション自体を支保の一部と考えているため, 周辺地山全体の安定性に対する評価が重要となる. 以上のことから, 本トンネルで得られた計測工 Aの変位量 ( 各収束値 ) をもとに逆解析を用いて周辺地山の安定性を検証した. なお, 検討は終点側坑口部 No とトンネル中間部 No の 2 断面において実施した. (1) 坑口検討断面 1(No ) 検討断面 1としては坑口部の偏圧地形で土被りの小さい部分にあたり, 計測結果のまとめでも述べたとおり, 変位量自体は注意レベルⅠから注意レベルⅡの範囲であったが, 変位のモードとしては, 天端沈下が卓越したひしゃげモードとなっていた. 図 に検討に用いたモデルを示し, 図 に上半掘削完了時点のトンネル周辺のひずみ分布を示した. 結果としては天端部に比べ側壁部のせん断ひずみが大きく, 左右アンバランスな分布を示す. また, 事前調査結果から想定した地山限界ひずみ (1.53%) を超えている領域は左右足元ふまえにみられ最大せん断ひずみの最大値は 2.28% となった. しかし, 局所的であり, 一般的に隅角部は構造上応力が集中しやすいこと, この領域は下半掘削時には取り除かれる部分であり, トンネルの安定上影響は小さく, 特に問題がないと判断した. 44

50 図 逆解析検討モデル (No ) 図 逆解析計算結果 ( 上半掘削完了時 ) さらに, 下半掘削時の安定性を評価する目的で, 上半施工時に得られた周辺地山のひずみ状態のもとで, 下半掘削時の予測解析を実施した. 図 に下半掘削完了時のトンネル周辺のひずみ分布を示す. 下半掘削に伴い, 上半脚部の応力集中が解消されるものの, 上半同様, 下半左右の脚部に局所的に限界ひずみを越える領域が発生し, 最大せん断ひずみは 2.41% であった. 当該検討断面はインバートによる断面閉合が実施される区間であり, インバートの施工によりトンネルの長期的な安定は確保されると判断した. 図 逆解析計算結果 ( 下半掘削完了時 ) (2) トンネル中間部検討断面 2(No ) 検討断面 2としては, トンネル中間部, 土被りが十分確保され, 計測工 Aの結果からも理想的な変位モード ( 等方変位 ) が観測された部分である. 図 にトンネル周辺のひずみ分布を示す. 坑口部の検討断面と比較すると, 壁面からひずみがトンネル周辺に同心円状に分布している. 下半脚部付近では形状に伴う応力集中の影響はみられるものの, 最大せん断ひずみは 0.68% と小さく, 事前調査結果から想定された限界ひずみ (0.54%) 内で収まっており, その領域も限定されている. さらに, トンネル底盤付近には大きなひずみは発生しておらず,CⅡパターン( インバート無し ) において 45

51 も長期安定性は確保されるものと判断された. なお, 当該検討箇所は, 補助ベンチ付き全断 面掘削工法での施工となっているため, 入力変位に関しては, 弾性特性曲線を用いて, 時間遅れ分の変位補正を実施している. 図 逆解析計算結果 ( 上 下半掘削完了時 ) 46

52 2.4.8 マルチパターンの検討と適用 トンネルの設計では, 特殊地山条件 ( 未固結地山, 膨脹性地山, 大量湧水等 ) や特殊な断面 ( 超大断面, メガネトンネル, 分岐部等 ) を除いて, 通常これまでの多くの施工実績に裏付けされた標準支保パターンを採用することが多い. 京都トンネルでは, 地山の評価を適切に実施した上で, これまで述べたように, 周辺地山を含めたトンネル全体の安定性を確認した上で, 経済的な施工に向けた取り組みとしてマルチパターンの採用を試みた. 表 の道路トンネル技術基準 ( 構造編 ) に示された標準支保パターンのうち,CⅡ-a( 鋼アーチ支保工省略 ) と DⅠにおけるインバート省略という項目について実施した. 表 標準的な支保構造の組み合わせ 4) ( 通常断面 ; 内空幅 8.5m~12.5m) (1) インバートコンクリート省略 ( 終点側 ) 坑口部 DⅢ-a パターンに関しては, 原則としてインバートにより断面を閉合することでトンネルの安定化を図ることとなっているが,DⅠパターンに関しては, 下半部に堅岩が現れるなど, 岩の長期支持力が十分であり, 側圧による押し出しなどもないと考えられる場合にはインバートを省略できる. と定められている. 京都トンネルにおいては, 切羽の判定を新切羽評価点法により実施して支保パターンの選定を実施しており, インバート設置に関しても客観的な判断を実施するため, 下半脚部の地山評価を行うとともに, 脚部地山の評価 ( 亀裂, 湧水状況 ) や施工性 ( 覆工のスパン割り ) といった観点から総合的に評価して設置範囲を決定した. 1) 切羽評価点法による判定図 に, 右側 左側の切羽評価点推移表を示す. DⅠの標準支保パターンは,DⅠ-b であり, 切羽評価点では,30 点以下を目安とした. DⅠの標準支保パターンでは, インバートによる断面閉合が基本とするならば, この評価点 30 以内ではインバートを施工し,30 点を超える範囲ではインバートを省略することが妥当と考えた. 47

53 図 より, 坑口から No までの区間では, 一部を除き, 右 左側どちらか, あるいは両側で評価点 30 点以下である. また,No 以降では, 全て, 評価点 30 点を超えているが,No 及び +5.2 では右側 30.5 点と, 境界間際となっており, それ以降の点数は上昇傾向である. これらのことより, 少なくとも設置区間は No 以降,No の区間で設置, 省略を区分するのが適当であると判断した. 左側評価点右側評価点境界点数 DⅢa DⅠ CⅠ 60 評価点 StaNo StaNo StaNo 断面番号図 下半脚部切羽評価点の推移 2) 地山評価に基づく設置区間 No では, 風化花崗岩がY 字状を呈しており, 下半部へ影響を及ぼしている懸念があった. 一方,No では, 強風化花崗岩は出現しておらず, 当初設計では,RQ D 及び亀裂間隔の低下を要素として, インバート施工範囲を計画していた. 実施工においては, 切羽状況から判断して全体的な亀裂に関しては,No 以降, 減少傾向であると判断し,No 以降で, インバート設置と省略を区分するのが適当であると考えた. 3) 施工性 ( 覆工スパン割 ) による評価インバート有無により, 覆工コンクリートに断面変化点が生じることとなり, インバート設置端点と覆工スパン割が合致しない場合, 以下の問題点を生じる. 1 覆工 1 打設区間内に, 矩形の断面変化点が生じることで応力が集中し, ひび割れが発生しやすい. 2 断面変化点でコンクリート締固め不足が懸念される. 3 狭小な覆工セントル内の変化点で, 打設中に型枠が崩れ, 断面形状を侵すおそれがある. ( 型枠監視が十分にできない ) 4 狭小な覆工セントル内に型枠設置を行う必要があり, 安全性に問題があり, 施工効率が悪い. したがって, スパン割も考慮し,1) 及び 2) をふまえた上で, 最終的には No までとした. なお, 起点側のDⅠに関しても, 終点側同様の検討を実施し,DⅠにおけるインバートの施工を一部省略した. 一般に, 長期的な安定といった観点からは, インバートを施工することが望ましい. 48

54 しかしながら, 良好な地山においては, 発破作業が伴い, インバート打設に係る工程への影響も考えられる. 本トンネルでのインバート一部省略に関しては, 切羽評価点に基づき, 客観的な基準に従い, 発注者, 設計者, 施工者が協議したうえで決定され, 合理的な施工の実現が図れ, 経済的にも貢献できたものと考える. (2) CⅡ-a パターンの採用 CⅡ-a パターンの採用にあたっては, 図 に示す旧日本道路公団の新切羽評価点と支保パターン選定の実績と目安を参考にして, 評価点が 55~70 で切羽状況特に, 天端付近の安定性や掘削直後の肌落ちの有無を確認した上で採用に至った. しかしながら,CⅡ-a パターン採用後, 地山状況が悪くなり, 結果的には,L=6.0m の採用にとどまった. 今回の施工では, 切羽評価点という客観的な判断基準に基づき, 区間は短かかったものの支保軽減ができたことは経済的な施工への取り組みが実施できたと考える. 図 切羽評価点と支保パターン採用の実績と目安 3) まとめ 京都トンネルにおいては, 事前の調査 ( 水平 鉛直ボーリング ) によりトンネル全線をほぼカバーする範囲で地山状況を把握した上で, 施工時にトンネル検討委員会での協議を行い, 切羽評価に基づく適切な支保パターンを選定することができたと考えられる. また, マルチパターンとして DⅠパターンにおけるインバートの省略や CⅡ-a パターン ( 鋼アーチ支保工省略 ) を試行し, 合理的かつ経済的な施工を実施するとともに, 計測結果や逆解析の結果からトンネル構造の安定性を評価することができた. 山岳トンネルの対象とする地山材料は, 地盤そのものの持つ不確実性に加え, 構造の安定性を左右する支保材料 ( 吹付けコンクリート, ロックボルト, 鋼アーチ支保工等 ) と地山自身の支保能力との相互作用のもとで評価する必要がある. 山岳トンネルの設計 施工においては, 亀裂の状態や湧水の影響等, 事前調査の限界等の課題はあるものの, 今回の切羽評価点法を用いて適切な支保選定を客観的に実施できたことは大きな成果であると考える. 49

55 2.5 地山評価結果に基づく支保パターン検討事例 はじめに 本節では, 変位の大きい脆弱地山で実施したトンネル地山評価システムの適用とその結果に基づく効果的な補助工法の選定について述べ, 数値解析 ( 逆解析, 予測解析 ) に基づく支保工の安定性の確認と対策工の妥当性の検証に関しての検討結果をまとめた 適用トンネルの概要 穂別トンネルは道東自動車道 ( 北海道横断自動車道 ) の夕張 IC~ 十勝清水 IC の間に位置しており, 全長 L=4,323mの山岳トンネル工事である. 西工事では延長 L=1,500mを NATM で掘進中である. 坑口付近の地質は, 中生代白亜紀の中部蝦夷層群と呼ばれる地層で, メランジュと呼ばれる岩石種の異なる岩体 ( 泥岩, 緑色岩, 蛇紋岩 ) が複雑に関係した地質構造を呈しており, 硬軟も様々で泥岩の卓越した堆積岩が分布している. 新鮮な場合はC M 級の中硬質な泥岩であるが, 造構運動により, 随所に破砕質となっていることが想定されていた. また, 地形的には南北方向の断層が卓越しており, 図 に示したような断層に沿った破砕帯の存在が想定された. これらの断層に沿って, 坑口付近の泥岩層は, 著しく破砕され細片化したせん断帯 ( シェアゾーン ) であった. そのため, 湧水などによる劣化で, 極度に脆弱化し, 岩塊の剥落や天端からの崩落が懸念された. 加えて, 坑口付近では, 新生代第四紀の未固結の地すべり堆積物が, 厚く堆積している状況であった. なお, 坑口部 28.7m 区間に関しては, 事前の調査ボーリングの結果や断面形状が拡幅断面であることもあり, 当初より, 天端安定対策として長尺鋼管フォアパイリング (AGF 工法 ) が計画されていた. 坑口部の施工においては, 脆弱な地山での掘削時に大きな変位を生じ, 支保の変状や小崩落の発生等に直面したが, 作業時の安全確保と地山に応じた効果的な補助工法の選定に関して検討を実施した. No.25(STA ) N E W S No.60~65(STA ) 図 坑口部地質構造 50

56 2.5.3 破砕帯変状部における補助工法の検討 本トンネルでは写真 に示すように, 前述のトンネル地山評価システム (K-tes) を導入し, 切羽前方探査を行いながら施工を進めていた. しかしながら, トンネルを約 65 m 掘進した箇所 ( 破砕帯 ) において, 支保の変状を生じた. 当該箇所においては, トンネルの安定を図る目的で, 追加調査に基づく補助工法の検討を行った. 以下に詳細を述べる. 穿孔探査試験機 写真 トンネル施工状況 (1) 変状状況切羽前方探査を実施し, 地質の変化に対応して施工を進めていったが,STA ( 支保工 No.65) 付近において部分的な小崩落が発生した. 主な変状としては, 以下に示すとおりである. 1 No.60 支保工付近の下半から天端にかけて周方向に 5cm 程度の段差 2 No.52 支保工付近の SL から肩部にかけて周方向に 3mm 程度のひび割れ, および吹付けコンクリートのはく離 3 その他, ロックボルトプレートずれや SL 部ひびわれが見られた. (2) 内空断面測定結果内空断面に関しては,No.60 付近において切羽進行方向向かって右側天端から下半にかけて, 変形に伴い以下に示す変位を生じていた. 1 上下半施工完了部分最大 46mm(No.61) 2 上半施工完了部分最大 64mm(No.63) (3) 計測結果計測結果は, 以下に示す状況であった. 1 内空変位 天端沈下内空変位および天端沈下に関しては, 既設の測点では, 今回の変状に伴う大きな変化は見られなかった. また, 変状後に新設した測点においても変状後の変位は 1mm 程度で大きな変位は見られなかった. 2 地表面沈下地表面沈下に関しても, 内空変位 天端沈下同様, 今回の変状に伴う影響は見られなかった. なお, 地表面における亀裂等も観察されなかった. 51

57 (4) ゆるみ範囲の推定応急対策に先立ち, 崩落高さやゆるみ範囲を把握する目的でジャンボによる探り削孔および機械データに基づく探査を実施した. その探査結果を図 および図 に示す. 探査結果の概要をまとめると以下のとおりである. 1 天端部分では切羽前方 2~3m 付近および 7m 付近で穿孔エネルギーの小さい箇所が検出されている. 2 右側では切羽から 4m 程度および 8m 付近,11m から 16m 付近にかけ, 穿孔エネルギーの小さい箇所が検出されている. 左側に関しては右側に比べると穿孔エネルギーが高いものの, 切羽から 11m 付近までは相対的に穿孔エネルギーが低くなっている. 3 変状区間における右側ゆるみ範囲の分布としては, 大きな変状部分 (No.61) に関しては,7m 付近まで穿孔エネルギーの小さい箇所が検出されており, その他の断面においても 4~5m 程度の範囲まで穿孔エネルギーの小さい箇所が検出された. 図 既施工区間探査結果と改良範囲 図 切羽前方探査結果 ( 三次元表示 ) 52

58 (5) 変状原因の推定天端崩落および変状を生じた箇所は, 当初の地質調査結果から地表面に崖錐が堆積している部分と位置が一致しており, 想定された断層破砕帯と考えられた. また, 一部崩落した部分のズリの状態を観察した結果からは, 破砕帯の土砂化したもので, 写真 に示すとおり, 浸水崩壊度試験によれば, 浸水後 1 時間程度で泥状となり, スレーキングしやすい脆弱な地山であった. さらに,No.53 付近から湧水が観察されており, 破砕帯の存在を示唆するものであった. 変状のメカニズムとしては, トンネル掘削の進行に伴い, 切羽から 5m 手前の支保部材に荷重が二次元的に作用するようになった時点で, 十分な支保剛性が確保されていなかったため, 変状に至ったものと推定される. 水浸水浸 1 時間後 ( 泥状 ) 写真 浸水崩壊度試験結果 (6) 変状対策前述の図 に示した探り調査に基づく変状区間 (DⅠ-b;No.47~65) のゆるみ範囲の調査結果に基づき. 変状対策としての補助工法の選定は以下の方針で実施した. 1 巻厚不足部分変状により必要な巻厚が確保できない部分に関しては, 周辺地山を補強した上で縫返しにより, 必要な巻厚を確保した. なお, 周辺地山の補強方法としては, 変状状況が右側天端から側壁部にかけ変形していることから, 地山補強範囲をトンネル全周とし, シリカレジン ( ウレタン系 ) を注入した地山改良ゾーンにおいて, アーチアクションを形成させることにより, ゆるみ荷重の支持を図った. さらに, ロックボルト ( 増しボルト ) に関しては, 前述のとおり, 円周 ( 横断面 ) 方向における探り調査結果から 4m を超えるゆるみの発生が想定されており, 現在のロックボルト (L=4.0m) ではゆるみ範囲内での定着となることから, 長尺ロックボルト (L=6.0) の打設を行った. 2 崩落部崩落部空洞に関しては, 吹付けコンクリートにより応急的に地山崩落を抑えた後, 空洞を充填することにより, 地山のアーチ形成を図かる対策を実施した. なお, 注入効果の確実性と改良効果の耐久性を図る目的で, 注入材としては超微粒子セメントを選定し, 周辺地山改良を実施した. 53

59 3 崩落箇所以降の施工前述の図 に示す切羽前方探査の結果から, 現切羽から 15m 程度は破砕帯での施工となることが想定された. 部分崩落を受けて, 以降の施工に関しては, 補助工法として, 長尺鏡ボルトによる鏡面の安定対策と天端部分のゆるみ防止の目的から坑口部で採用実績のある注入式フォアポーリング ( シリカレジン注入 ) による先受け工を選定した. なお, 支保パターンを DⅡパターン ( 鋼製支保工を H-125 から H-150) に変更して支保の剛性を高めた. また, これまでの計測結果の分析より, 天端沈下および脚部沈下が卓越する地山であることから, 沈下に伴うゆるみ増大を抑制する目的で, インバート吹付けによる早期閉合を速やかに施工し, 全体の変位を抑制する工法とした. 図 に崩落部対策工および上半沈下対策の概要を示し, 図 にインバート吹付け施工手順を示す. これらの対策により小崩落を生じた断層破砕帯を無事突破することができた. その後も地山の状況に応じて, 天端安定対策としての注入式フォアポーリングや長尺鋼管フォアパイリングおよび鏡面安定対策としての長尺鏡ボルト等の補助工法を駆使してトンネルの安定を図っている. とりわけ, インバート吹付け併用掘削に関しては, 本トンネルの変位の特徴の1つである共下がりに対して高い沈下抑制効果を確認している. DⅢa-B DⅠ-b-B DⅠ-b-2-B DⅠ-b-B ( 予定 ) No.65 天端崩落 沈下対策工実施区間 No.65 崩落時地山改良工実施区間 前方探査による弱層確認区間 (L=16m) 増しボルト+ 吹付け閉合 トンネル外周地山改良 (W=3.0m) 超微粒子セメントミルク改良実施区間 シリカレジン注入式フォアポーリング シリカレジン改良実施区間 現在切羽位置 シリカレジン注入式フォアポーリング 断層破砕帯 シリカレジン注入式フォアポーリング 注入式長尺鏡ボルト (L=12.5m) 注入式鏡ボルト (L=8.0m) 1 上半支保工連結工 補強ロックボルト (L=19.0m) S.L 下半盤 インハ ート設計天端 3 下半掘削 吹付け閉合 ( 来年施工 ) 支保工押出変位量 複数の小断層帯が混在する 2 上半仮閉合区間 L=17.0m 1 支保工連結 増ボルト区間 L=19.0m 3 下半掘削 吹付け閉合 ( 年内施工 ) 2 上半吹付け閉合 (L=17.0m) 3 下半掘削 インバート吹付け閉合 4 変位未収束時地山改良注入工 図 崩落部対策工及び上半沈下対策 54

60 図 インバート吹付け施工手順 まとめ 断層破砕帯での補助工法の選定に関して, 計測結果や切羽前方探査結果を参考に検討を行い, 効果的な対策工の検討や対策効果の検証ができた. また, 施工ではトンネルの変形モードを把握することにより種々の補助工法の組み合わせを行うとともに, 最終的にはインバート吹付けを施工することにより変位を収束させることができた. 100mm を超える大きな変位 ( 沈下 ) を示す脆弱地山において, 掘削後早期にインバート吹付けを施工するインバート吹付け併用掘削により変位抑制効果が期待できることが実証できた. 図 に切羽評価点と穿孔エネルギーの関係, 図 に切羽評価点と A 計測結果の関係, および図 に穿孔エネルギーと A 計測の関係を示す. 部分的な崩落箇所を除き, 切羽前方探査結果と切羽評価点の間に高い相関関係があることが分かる. 加重平均値 崩落箇 坑口からの距離 (m) 加重平均穿孔エネルギー (1m 区間平均 ) 穿孔エネルギー (J/cm3) 図 切羽評価点と穿孔エネルギーの関係 55

61 切羽評価点 ( 加重平均値 ) 上半内空天端沈下上半右脚部上半左脚部 A 計測 (mm) 沈下 縮み:- 隆起 伸び :+ 図 切羽評価点と A 計測の関係 穿孔エネルギー ( 区間平均値 ) 上半内空天端沈下上半右脚部上半左脚部 A 計測 (mm) 沈下 縮み:- 隆起 伸び :+ 図 穿孔エネルギーと A 計測の関係 2.6 おわりに 本章では, トンネルの施工における特殊条件を整理し, 特殊条件下における施工上の課題についてまとめた. また, トンネルの安定性を左右する切羽評価の重要性について, 実現場における地山評価に基づく検討事例を 2 例示した. 1つ目の事例 ( 京都トンネル工事 ) では, 延長 L=405m にトンネルで, 事前の調査 ( 水平 鉛直ボーリング ) によりトンネル全線をほぼカバーする範囲で地山状況を把握した上で, 施工時にトンネル検討委員会での協議を行い, 切羽評価点法に基づく適切な支保パターンを選定や数値解析 ( 逆解析 ) による評価を行うとともに, マルチパターンとしてDⅠ パターンにおけるインバートの省略やCⅡ-a パターン ( 鋼アーチ支保工省略 ) を試行し, 合理的かつ経済的な施工を実施するとともに, 計測結果や逆解析の結果からトンネル構造 56

62 の安定性を評価することができた. 2 つ目の事例 ( 穂別トンネル西工事 ) では, 延長 L=1,500m の長大トンネルの坑口部断層破砕帯での補助工法の選定に関して, 十分な事前調査が行われていない中で, 計測結果や切羽前方探査結果によるトンネル地山評価を行い, 部分的な崩落箇所を除き, 切羽前方探査結果と切羽評価点の間に高い相関関係があることが確認できた. いずれの事例も切羽評価に基づき, 適切な補助工法を選定することが施工の合理化につながることを示したものであり, 特に特殊条件下のトンネル施工においては, トンネルの安定性確保, 作業時の安全対策といった観点からも, 切羽前方の地山をいかに適切に評価できるかということが重要になってくると考える. 参考文献 1) 旧建設省土木研究所道路トンネル研究室 : 切羽観察 計測に基づくトンネルの地山評価に関する研究報告書, 土木研究所資料, ) 日本道路協会 : 道路トンネル観察 計測指針, ) 日本道路公団試験研究所 : 新しい切羽評価点の適用に関する検討, 日本道路公団試験研究所報告,pp , ) 日本道路協会 : 道路トンネル技術基準 ( 構造編 ) 同解説,

63 第 3 章特殊条件下における補助工法の設計と適用 3.1 はじめに 山岳トンネルの支保設計においては, 一般的に, これまでの施工実績に裏付けされた地山区分ごとの標準支保パターンの採用が多いと考えられる. しかしながら, 特殊条件下の施工においては, 標準支保パターンに示された通常のロックボルト, 吹付けコンクリート, 鋼製支保工等では対処できない場合が多い. 例えば, 特殊条件として, 軟弱な地質状況の場合, 土被りの小さく地山強度の低い坑口部や沢地形の箇所や湧水を伴う断層破砕帯のように十分なアーチアクションの形成ができずに切羽の安定が懸念される場合, さらに, トンネル直上に近接する構造物がある場合や大断面, 特殊断面等といった特殊条件下でトンネルを施工する場合には, 施工時の切羽安全性確保 ( 切羽安定対策, 湧水対策等 ) や周辺環境の保全 ( 地表面沈下, 近接構造物等 ) の目的で表 に示すような種々の補助工法の採用が検討される. 先受け工 工法 フォアポーリング ( 充填式, 注入式 ) 長尺フォアパイリング パイプルーフ水平ジェットグラウト ( 噴射撹拌 ) スリットコンクリート 表 補助工法の分類表 1) 切羽安定対策鏡面の安定 天端の安定 目的施工の安全確保 脚部の安定 地下水対策 周辺環境の保全地表近面接沈構造下物 硬岩 対象地山 軟岩 土砂 摘要 *2 *1 *1 *1 鏡面の補強 脚部の補強 鏡吹付けコンクリート鏡ボルト長尺鏡ボルト脚部補強ボルト脚部補強パイル仮インバート *2 水抜きボーリング *2 地下水位対策 地山補強 ウェルポイント *1 排水 ディープウェル *1 水抜き坑 *1 注入 *1 止水 遮断壁 *1 注入 *1 垂直縫地 *1 注 ) : 比較的よく採用される工法 *1: 通常のトンネル施工機械設備, 材料で対処が困難な対策 *2: 適用工法によって, トンネル施工機械設備, 材料で対処が異なる工法 58

64 一般に, 安全施工のための切羽安定とは, 切羽近傍の安定を総称したものであるが, 対象箇所によって1 天端部の安定対策,2 鏡面の安定対策,3 脚部の安定対策に分類できる. 天端からの崩落防止を図る天端安定対策と鏡面の安定対策は, 互いに関連している部分もあり, 地山条件や切羽観察結果等に基づき総合的に判断することで, 効果的で目的に適合した補助工法を選定することが望ましい. また, 地盤の支持力が不足する地山においては, 脚部沈下の発生に伴い天端周辺のゆるみを誘発し, 切羽天端部の安定を損なうこととなるため, 計測結果等にもとづき適切な脚部の安定対策が重要となる. 特に, 施工中の上半盤の支持力不足には注意が必要である. これらの補助工法は, トンネルの設計や施工方法と密接に関連することから, 目的や種類によっては, 掘削工法や支保パターンを補助工法に適合したものとする必要がある. 補助工法の採用により得られる効果は, 切羽の安定性向上と周辺環境への影響軽減であるが, これらの効果は採用する各種工法によって異なり, 地山条件, 立地条件, 施工方法ならびに経済性等を踏まえた上で総合的な検討を行う必要がある. 以下に特殊条件下のトンネル施工において多く採用される補助工法の設計に関して,3.2 節では, (1) 補助工法の分類と効果 (2) 補助工法の設計例といった観点から目的や効果について述べるとともに,3.3~3.6 節においては, 特殊条件の各要因に対して実際の現場で補助工法について検討した事例を示している. 59

65 3.2 補助工法の設計 補助工法の分類と効果 (1) 概要 3.1 節で述べたとおり, 特殊条件下の施工ではトンネルの安定性確保の目的で, 種々の補助工法が採用される 補助工法の採用にあたっては, 1 地形 地質条件 ( 小土被り, 偏圧, 軟弱地山, 崖錐, 膨張性地山等 ) 2 周辺環境条件 ( 近接構造物の種類, 構造, 健全度等 ) 3 近接条件 ( 各管理者の許容値, 管理値等 ) について検討および協議をしたうえで, 対策効果の高い補助工法を選定することが重要である 採用される補助工法については, 前述の表 に示したように, 補助工法の目的, 対象地山, 施工方法といった観点から分類されている 2) 実際の施工では, これらの補助工法は単独で用いられることもあるが, 多くの場合, 総合的な判断から複数の工法を組み合わせて用いる 例えば, 小土被りでトンネル上部に近接構造物が存在するような場合には, 前方地山の先行変位抑制の目的で長尺先受け工が採用され, 支点となる支保工の脚部沈下防止の目的で脚部補強工 ( ウイングリブ, 脚部補強パイル等 ) が併用される さらに, 地山が未固結な場合には長尺鏡ボルトや仮インバートによる早期閉合といった補助工法が追加して採用される したがって, 補助工法の採用においては, 施工条件をふまえた上で, それぞれの目的に対して, 補助工法の効果を十分に理解しておく必要がある 以下に各補助工法の効果について概要を述べる (2) 補助工法の効果補助工法の採用により得られる効果は, 各種工法によって異なり, 地山性状, 立地条件, 施工方法ならびに経済性等を踏まえた上で総合的な検討を行う必要がある. 数値解析の結果に基づき採用される補助工法の効果を判断し, 目的に応じた適切な工法を選定することは工事を停滞なく合理的に進める上できわめて重要である. さらに, 補助工法の効果は, 主目的とする効果とそれに付随した二次的効果を併せ持つことが多く, 複数の補助工法を組み合わせて用いることも少なくないことから, 数値解析を実施することで, 実際の施工時の効果をケーススタディすることが可能となる. 補助工法の目的と効果が以下のようにまとめられる. 1) 切羽安定対策山岳トンネルでは, トンネル掘削後, 支保工の施工が完了するまでの間, 鏡面および天端が自立する必要がある. 地山条件により切羽の自立が懸念される場合には, 施工を安全かつスムーズに進めるために適切な切羽安定対策が必要となる. 掘削断面の分割や掘進長を短くする方法も考えられるが, 採用には限界がある. この際, 適切な補助工法を併用して, 大きな断面で施工する方が合理的となる場合も多く, 天端の安定, 鏡面 60

66 の安定, 脚部の安定が確保されることが補助工法の効果と考えられる. 2) 湧水対策トンネルの切羽に湧水が発生すると, 湧水に伴い切羽の安定性が低下することや, 吹付けコンクリートやロックボルトといった主たる支保部材の施工性に大きな影響を及ぼすことが懸念される. したがって, 湧水対策を実施し, 切羽の安定性および施工性の向上を図ることが必要になる. また, 水抜きによる圧密や脱水沈下 ( 即時沈下 ) 等で地表面沈下を誘発することも考えられるため, 周辺環境によっては地盤改良としての注入工法や遮水壁工法等の採用も検討される場合がある. 湧水に伴う切羽の安定性低下を防止し, スムーズな支保工の施工を可能にすることが補助工法の効果であると考えられる. 3) 地表面沈下対策トンネル掘削に伴う地表面沈下の原因については, 地形条件, 地質条件, 地下水, 施工法等の要因が複雑に関係しているため単純に判断することは難しい. 主たる要因としては, トンネル掘削による緩み, 水抜きによる影響が考えられるが, 土被りが小さい軟弱地山や都市域のように周辺環境に大きな影響を及ぼす場合には, 過度の沈下を許容すると天端の安定や周辺環境への直接的な影響を与えることが懸念されるため, 先受け工法を主とした補助工法が採用される. なお, 地下水低下に伴う地表面沈下対策として注入工法が採用されることもある. 周辺地山の改良等の目的で多様な補助工法が考えられるが, 周辺環境や保全物件ならびにそれらに対する管理基準に応じて適切な工法を選定する必要がある. トンネル掘削による緩みや地下水等の影響による地表面沈下を抑制し, 切羽の安定性を確保することが補助工法の効果であると考えられる. 4) 近接構造物対策都市トンネルでは地表の建物や橋梁の基礎構造物等に近接した施工を余儀なくされる場合も多く, 必要に応じて近接構造物対策としての補助工法の採用が検討される. 道路, 鉄道, 水路, 建物ならびにガスや水道といったライフラインの直下においてトンネルを掘削する場合には, これらの管理者と十分な協議を行うとともに, 許容値や管理値を定め, 適切な工法の採用により, 地表の近接構造物に及ぼす悪影響を許容範囲以内に抑える. 61

67 3.2.2 補助工法の設計事例 (1) 天端安定対策の設計例天端部の安定対策に関しては, 坑口部や破砕帯等の土被りの小さい部分において前方地山のゆるみ防止といった観点から, トンネル施工の標準設備であるトンネルジャンボにより施工できる AGF 工法に代表される長尺鋼管フォアパイリングの採用事例が多くなっている. AGF 工法の設計手法に関しては, 図 , 図 に示すように, 現状では施工実績に裏付けされた効果に基づいて提案 3) された 標準設計パターンによる方法 が最も実務的である. しかしながら, 本来は, 設計条件を考慮した上で簡易計算や数値解析により仕様を計算することが望ましいと考えられる. 一方, 地山条件や制約条件によっては, 標準パターンを採用できない場合もあり, 表 に示すように実績に基づく設計の他に計算に基づく設計事例も増えている. 計算による設計手法としては,1 村山の方法 ( 極限解析 ),2 計算図表による方法,3 骨組構造解析 ( パイプルーフ的計算, 弾性支承上梁 ),4FEM 解析,5 大変形差分法などがあり, これらの設計手法の適用に関する研究が進められている. 表 に設計計算手法の概要についてまとめた. 表 AGF 工法の設計手法 ( 概要 ) 3) 62

68 要検討 13.4kgf/m 11.9kgf/m 44.1kgf/m,10 図 AGF 設計パターン ( 地山のゆるみ防止用 ) 3) 63

69 要検討 13.4kgf/m 11.9kgf/m 44.1kgf/m 図 AGF 設計パターン ( 天端崩落防止用 ) 3) 64

70 65 表 設計計算手法の概要 3

71 (2) 鏡面の安定対策の概要と設計例 1) 鏡面の安定対策の概要鏡面安定対策としては, 核残し, 鏡吹付けコンクリート, 鏡ボルトおよび注入工法等がある. 地山条件および鏡面の大きさや形状とその安定性 ( 自立時間 ) には密接な関連があり, 掘削断面を小さくすることで安定性が向上することから, 部分的に掘削して早期に吹き付けコンクリートを施工する ( 分割掘削 ) 事により鏡面の安定を確保することも重要である. 一方, 自立性の乏しい地山では, 鏡吹付けコンクリートや鏡ボルト等の補助工法を併用して大きな断面で施工する方が施工性の向上により合理的となる場合もあるため, 地山条件, 立地条件, 施工性等を総合的に判断して検討する事が重要である. 以下に各工法について概要を示す. 1 鏡吹付けコンクリート図 に示すとおり, 掘削直後の鏡面に厚さ 3cm~10cm 程度の吹付けコンクリートを施工し, 鏡面の自立を助け切羽安定を図るものである. 掘削直後に鏡吹付けコンクリートを施工することで, 初期の崩壊防止と緩みの抑制により, 鏡面の安定性が向上する. なお, 長尺フォアパイリングの施工時や掘削作業を休止するような場合には, 切羽の劣化を防止する目的で鏡吹付けコンクリートを施工する. 鏡吹付けコンクリート 図 鏡吹付けコンクリートの施工例 2) 2 鏡ボルト ( 長尺鏡ボルト ) 鏡ボルトは図 に示すように, 一打設長 5m 未満の短尺のものと 5m 以上の長尺のものがある. 鏡ボルトの目的は, 鏡の一部または全面にボルト等を打設して, 鏡面の安定や鏡の押し出しを抑制することで沈下抑制効果を図るものである. また, 地山条件によっては, 切羽補強効果を高めるために注入式ボルトが用いられる場合もある. 一般的には, 鏡吹付けコンクリートと併用することで効果の向上を図る. 鏡ボルトの施工長さに関しては, 従来は短尺のボルトが用いられていたが, 長尺フォアパイリングの施工実績が増加するとともに, 施工性に配慮して長尺鏡ボルトの施工実績が増加してきた. 掘削時に前回施工のボルトが十分に地山に残って有効に作用するよう残長をできるだけ多くとれるようにラップ長を設定することが望ましい. 66

72 また, 鏡ボルトは掘削により撤去することとなるため, 切羽補強効果を確保でき, 掘削時に切断が容易なグラスファイバー補強プラスチックボルト, 連結式鋼管膨張型ボルトや分離回収の容易なスリット式鋼管等が用いられている. a) 短尺鏡ボルト b) 長尺鏡ボルト 2) 図 鏡ボルトの施工例 3 注入工法切羽安定としての注入工法には図 に示すように, セメントミルク等の非溶液や水ガラス系の溶液等の地盤改良材を地盤中に注入し, 地盤の透水性を抑えてトンネル内への湧水量を減少させるものと, 亀裂が発達し崩壊を起こしやすい地山において地盤の安定化をはかる目的で使用される場合がある. 注入工法の採用にあたっては, 断層破砕帯等の対象区間長や地下水位置等をよく調査したうえで目的にあった注入材料, 施工法を選定することが重要である. L-L 断面 C-C 断面 L-L 断面 C-C 断面 1 地表注入 3 後向注入 L-L 断面 C-C 断面 凡例 : 注入対象域 : 注入孔と菅口元 : 注入孔の横断配置 2 切羽注入 図 注入工法の施工例 2) 67

73 2) 鏡面の安定対策の設計例坑口部の補助工法として長尺鋼管フォアパイリングの1つである AGF-HITM( 複合注入式多段フォアパイリング ) を採用したケースにおける鏡ボルトの設計事例を以下に示す. 長尺鋼管フォアパイリングン採用により, トンネル掘削上部斜面への影響は抑制されるものと考えられるが, 切羽面に関しては地質的に脆弱であるため自立が損なわれてすべり崩壊を生じることが懸念される. ここで, トンネル切羽軸方向の先行支保に関する簡易計算法については, 確立されたものはないが切羽前方の土塊が崩壊するすべりを想定し, このすべりに対して鏡ボルトの引張で抵抗するものと考えた. なお, ボルトの引き抜きに対する安全率を 1.5 とし, ボルトの本数および定着長を設定した. 検討条件を表 に示す. 表 検討条件 検討条件 トンネル掘削半径 R=6.95m(+0.8m: 先受け鋼管の平均離隔 ) 地山の単位体積重量 γ=2.0t/m 3 地山のすべり想定角 φ=45 鏡ボルト径 D=29mm 削孔径 φ=50mm ボルトの許容荷重 Td=18t 充填材の付着強度 τf=8kgf/cm 2 ( 風化岩 ) ボルトと充填材の付着強度 τa=8kgf/cm 2 ( ク ラント アンカー設計 施工基準 ) HITM 管 L=12m HITM 管 0.5m 0.8m 1.1m 0.8m m 2m 2m 2m ( ゆるみライン ) 鏡ボルト L=9m 6.95m m 45 S.L 図 長尺鏡ボルトの配置 鏡ボルト 45 1) 打設間隔の検討 (a) 滑動力の算定 1 の面積 : =5.6 m2 2 の面積 :( )/2=24.2 m2 1+2 A= m=29.8 m2ここで, 単位体積重量 γ=2.0t/m 3, 単位奥行きを 1.0mとすると滑動力は Wsin45 = sin45 =42.1t/m 68

74 (b) 抵抗力の算定 すべり土塊をボルトの引張で抵抗すると考えれば, W=Td n となる. ここで Td=18t,W=42.1t/m であるから必要ボルト本数は, W 42.1 n= = =2.34 本 Td 18 このときすべり面積は A=( ) 1.0=7.75 m2 したがって, 打設密度は A 7.75 = =3.3m2 n 2.34 ここでこれまでの施工事例を参考にすれば 1~4 m2 /1 本であることをふまえて考えれば, 本 トンネルでは 4 m2 /1 本 (2.0m 2.0m ピッチ ) とする. (c) 必要定着長の設計 1) 充填材と鏡ボルトの必要定着長 La の検討 ボルト引き抜き耐力 ( ネジ部 ) Td=18t ボルト見かけ周長 許容付着応力度 U=πD= =0.091m τa=8kgf/cm2=80tf/ m2 したがって, 必要定着長 Lsa は安全率を Fs=1.0 として Td 17 L = = =2.34 U Ta m 2) 地山と充填材との必要定着長 La の設計引き抜き荷重 Td=18t 削孔径 Da=0.05m 地山と充填材の間の周面摩擦抵抗は安全率を Fs=1.5 として Td Fs La= = =2.15m π Da τf 以上の検討結果より定着材とケーブルボルトの必要定着長 Lsa の方が必要定着長が長くなるため,L= mを採用する. したがって, 鏡ボルトのラップ長は 2.5m 必要となり, ボルトの最小長さは ( )+2.5=7.45m 必要となるここで自穿孔鏡ボルト長は定尺ものが3mであることから,1 打設長を3 本継ぎの9mと設定した. 図 に鏡ボルト配置図を示した. 69

75 CL AGF-HITM L=6000,8 本 S.L. 長尺鏡ボルト L=9m,13 本 AGF-HITM L=12000,47 本 @2000= 図 鏡ボルト配置例 (3) 脚部の安定対策の概要と設計例 1) 脚部の安定対策の概要脚部の安定対策は鋼製支保工脚部の支持地盤の地耐力が不足し, 脚部沈下および沈下に伴う地山の緩みを生じてトンネルの安定を損なうことがないように行われるものである. 具体的には, 脚部の支持面積を拡大するウィングリブ付き支保工, 脚部下向きに打設するレッグボルト, レッグパイル, 脚部の地盤改良 ( ジェットグラウト, 注入 ), および吹付けコンクリートによる上半仮インバートの施工がある. 以下に各工法の概略を示す. 1ウィングリブ付き支保工ウィングリブ付き支保工は, 上半盤の支持力不足対策として支保工脚部の支持面積を拡大するものであり, 表 に示すように, ウィングの形状によって伊式, 仏式等に分類され, 一般的には伊式が採用されてきた. 近年では, 支保工からの荷重伝達やウィング部掘削時の応力集中の関連から, 仏式の採用例も増加している. さらに, 施工時の状況 ( 計測結果等 ) にあわせて変更可能な脱着型やパイプ式のものも実績が増大してきた. 採用にあたっては, 地山条件や湧水状況, トンネルの断面形状, 吹付けコンクリートの施工方法および他の脚部補強対策との併用等を十分考慮してウィングの形状を検討する必要がある. 詳細に関しては, 参考文献 4) に示した脚部補強工技術資料 ( 三訂版 ), ジェオフロンテ研究会, 2004 年 11 月を参照されたい. 70

76 表 ウィングリブ付き支保工形状比較 4) 2 脚部ボルト, パイルレッグボルト, レッグパイルは上半支保工接地部の応力集中の緩和や下半掘削時の地山崩落防止の目的で, 支保工下向きにロックボルト, 小口径鋼管, ジェットグラウト等を施工するものである. 脚部周辺地盤の地山強度が不足する場合には, ボルト打設時に急結性のセメントミルクや薬液等を圧入し脚部地山の強度増加を図ることもできる. 切羽安定対策として長尺フォアパイリングを施工する際には, 先受け工の施工に伴い, 先行地山の荷重を支点となる支保工で支えることとなり, 支持力不足となりやすいため脚部補強パイルが併用される事例が多い. この工法の採用にあたっては, ボルトや鋼管打設時の穿孔水により地山を乱し, 逆効果となる場合もあるため, 地山条件, 施工法等に十分注意する必要がある. また, 頭部の処理 ( 支保工との連結 ) を確実に行わないと効果が十分発揮できないため, 配慮が必要である. 図 にトンネルの地盤支持力確保の目的で施工された脚部補強パイルの例を示す. 図 脚部補強パイル ( サイドパイル, レッグパイル ) の施工例 2) 71

77 3 上半仮インバート上半仮インバートは図 に示すとおり, 一般的には吹付けコンクリートを用いて上半盤を仮閉合することでトンネル全体の剛性を高め変位抑制を図るものである. 閉合による変位抑制効果は大きく, 計測結果および切羽の状況に応じて施工できるという利点があるが, 逆に上半切羽の進行に影響することや, 下半掘削時に仮インバートを撤去する際に施工能率が低下すること, 撤去時に大きな変位や応力が発生する場合があるため, 地山条件, 施工方法, 工程計画等を十分考慮して検討する必要がある. Ⅱ 2) 図 上半仮インバートの施工例 2) 脚部の安定対策設計例地耐力の検討事例に関して以下に示す. a) 支保工に作用する荷重の算定 テルツァギー緩み荷重( 図 ) を式 3.2.1, 式 に示した. h 0 B1 (1 C / B1 / γ ) = (1 e K tanφ 0 K 0 tan H / π / 4 + φ / 2 B1 = R0 cot( ) 式 ここでトンネルの検討条件表 のとおり設定すると, h0: ゆるみ高さは, 式 より h0=4.28m となる. B 1 ) 式 表 ゆるみ高さ検討条件検討条件 K0: 水平土圧と鉛直土圧の比 1.0 φ: 内部摩擦角 30 (D 級風化岩 ) P0: 上載荷重 0 図 テルツァギーのゆるみ荷重 γ: 単位体積重量 1.8tf/m 3 C: 粘着力 10tf/m 2 (D 級風化岩 ) R0: トンネル外径 6.95m 72

78 実際にトンネルに作用するゆるみ荷重は, 実績より理論値よりもかなり小さいことがわかっているので, ここでは 設計値 =0.5 理論値 として設計荷重を求めることとする. P V =0.5 γ h0= =3.85tf/m 2 (38.5kN/ m2 ) トンネルに作用する荷重 ( 縦断方向奥行き 1m 当たり ) は, P=P V 1.0 B = =53.52tf(535.2kN) B: トンネル幅 (6.95 2=13.9m) したがってトンネル支保工片側当たりの荷重は, P/2=26.76tf(267.6kN) 5) b) 許容支持力度の算定支持地盤を砂質地盤としN 値をN=30 とすると, 地盤支持力は以下の式で計算される. q d =3.3N=3.3 30=99tf(990kN) q a =q d /1.5=99/1.5=66tf(660kN: 短期許容支持力度 ) c) 支持力度の照査 脚部補強パイルなしの場合上半支保工脚部の底板幅 =0.23m より脚部地盤への作用圧は, 26.76/0.23=116.3tf/m 2 (1163kN/ m2 ) < 66tf/m 2 (660kN/ m2 )(NG) 脚部補強パイルありの場合脚部 HITM はφ=0.6m の円柱状改良体のため基礎幅を 0.6m とすると, 脚部地盤への作用圧は, 26.76/0.6=44.6tf/m 2 (446kN/ m2 ) < 66tf/m 2 (660kN/ m2 )(OK) (4) 数値解析による補助工法の設計一般の山岳トンネルでは, 地山分類に基づいた標準支保パターンを適用する経験的な方法で設計されることが多いが, 膨張性地山や断層破砕帯などの特殊地山におけるトンネル, あるいは沖積層や洪積層に位置する都市部での山岳トンネル, 断面形状が特殊な大断面や双設 ( めがね ) トンネルなどでは, トンネル周辺地山の状態や支保工に発生する応力を評価するために数値解析が適用されている. また, 既往の類似事例を参考に設計される場合, 設計された支保工の当該地山での妥当性を検証する手段として数値解析が適用されている. 施工時には, 内空変位や支保応力などいろいろな計測結果を用いてトンネルの安定性の評価を行い, 修正設計に反映される. 例えば, 施工時の内空変位や地中変位などの計測データをもとにしてトンネル周辺地山のひずみ分布や力学定数などを推定する解析手法があり, これにより塑性域の発生などからトンネル周辺地山の安定性を評価することなどが行われている. また, 数値解析の予測精度を向上させるため, 実際の変形挙動を再現させる地山物性値や力学モデルをパラメータ解析により推定し, 推定した地山物性値や力学モデルを用いて次の掘進に必要な支保量や対策工の効果を順解析 ( 予測解析 ) により評価する場合もある. ここでは, 前者を 逆解析, 後者を 再現解析 と位置付ける. これらの解析結果は, 前者では支保パターン変更時や変形が大き 73

79 い場合のトンネル安定性の評価, 後者では双設トンネルや調査坑 先進坑がある場合に先進トンネルや導坑の計測データから再現解析により地山物性値を推定し後続トンネルや本坑の支保設計や挙動予測に反映される. 数値解析に基づいて補助工法を検討する場合には, 地山性状, 施工法, 周辺環境等を踏まえた上で, 設定された許容値や管理値を満足するか否かを確認する必要がある. なお,3.2 節に都市部で施工されたメガネトンネルの補助工法の設計事例を示している. 74

80 3.3 特殊断面における補助工法の設計と適用 - 超大断面における前方探査と交差部の設計 ( 栗東トンネル東工事 ) はじめに 第二名神高速道路の栗東トンネルは図 に示すように, 片側 3 車線で掘削断面積が約 180 m2, 縦横比 0.65 程度の大断面トンネルとして計画された. このような大規模の掘削に関しては地下発電所等の良好な岩盤での施工は見られるものの, 道路トンネルのような線状構造物としては第二東名 名神高速道路が初めてであり, 大断面トンネルの施工を合理的かつ安全に進めるため, TBM 導坑先進拡幅工法や上半中壁分割工法が採用されている. 栗東トンネルにおいても西工事では TBM 導坑先進工法で施工が進められたが, 東工事に関しては, 坑口部の地形が急峻であり TBM の転回が困難であることから, 上半先進工法が採用された. さらに, 掘削断面積が 250 m2を超える集じん機坑および補機室や連絡坑との交差部の施工に関しては,tbm にかわる地質情報把握の必要性があったため, コアによる調査に加えてボアホールカメラを用いた切羽前方探査を行い, 補強対策等の設計検討を実施した. 本節では2 章で紹介した新しい地山評価技術の1つであるボアホールカメラによる切羽前方探査をトンネルの設計に用いた事例として, 超大断面トンネルとなった集じん機坑ならびに交差部の設計検討事例に関して述べる. 標準断面センター 標準断面センター 集じん機室センター 集塵機室センター A=252m 2 A=175m 2 R1 = 9, R2= 6, , R1=9, ,187 2, ,006 2, , ,991 2,489 図 本坑, 集じん機坑標準断面比較図 75

81 3.3.2 適用トンネルの概要 (1) トンネル概要栗東トンネルは第二名神高速道路の信楽 IC~ 大津 JCT 間に位置する全長 3.8km の山岳トンネルである. トンネル掘削は作業横坑から東西に上下線を掘進したが, 東工事ではそのうち作業横坑から東側の上下線約 1.0km を上半先進 NATM により施工した ( 図 ). なお, 第二東名 名神高速道路では, このような超大断面を NATM で掘削するために表 に示すように支保材料に高規格の材料が採用された. 栗東トンネル延長約 3800m 発進基地 集じん坑 東側坑口 図 栗東トンネル概要図 表 第二東名 名神高速道路高規格支保構造 工種従来の規格新材料の規格目的 σ 28D =18N/mm 2 σ 1D= 5N/mm 2 σ 28D =36N/mm 2 σ 1D =10N/mm 2 σ 3H = 2N/mm 2 耐力 17t ロックボルト耐力 12~18t 耐力 30~40t 高耐力 30~40t 吹付けコンクリートを高強度化することで吹付け厚さを低減することが可能 初期発現強度を高くし拘束力を高めることで支保効果の向上が図れる 吹付けコンクリートに靱性を持たせることで設計厚さを更に低減できる 鋼アーチ支保工を省略できる 吹付け コンクリート 支保パターンにより プレーンコンクリート 鋼繊維補強コンクリート も使用 SS400 SS590 SS540 相当品 従来のH-200 支保工と同等の耐力 ( 曲げ, 軸力 ) を 鋼アーチ支保工降伏点強度 245N/mm 2 降伏点強度 440N/mm 2 高規格鋼 H-154で確保できることから 軽量化による 引張り強度 400N/mm 2 引張り強度 590N/mm 2 経済性と施工性の良いこの材料で代替えが可能 二次覆工コンクリート 高耐力化で本数を少なくするパターンや, 深部のゆるみと浅部の小崩落を対象とする 2 種類のロックボルトを組み合わせたパターンで経済性と施工性ならびに安定性を兼ね備えたものとなる σ 28D =18N/mm 2 σ 28D =30N/mm 2 二次覆工コンクリートを高強度化することで設計厚さを低減することが可能 鉄筋を鋼繊維補強などに変更することで経済的なもプレーンコンクリート SF などの混入のとなる 76

82 (2) 地形 地質概要栗東トンネルは, 湖南アルプスと呼ばれる信楽山地の北西に位置する金勝山 ( 標高約 567m) の南山麓域に位置している. 周辺地山の表層土は流亡 侵食が多く, 急斜面では裸地が発達しており, 稜線上には数 mもある風化残留核が岩塔状に露頭していた. コアストーンは中生代白亜紀の田上花崗岩で, 新鮮で硬質な粗粒黒雲母花崗岩で構成されていた. 地山弾性波速度は約 5.0km/sec, 一軸圧縮強度は約 150N/mm 2 と非常に硬質な岩盤であるが, 軟質な断層破砕帯周辺には, 小断層, せん断帯が多く存在し, 施工時に突発的な湧水を伴うものもあると予想されていた. (3) 集じん機坑の概要一般に, 高速道路の長大トンネルの換気設備は, 本坑にループ状のバイパストンネルを掘削して, その中に設置する方式が主流であるが, 本トンネルにおいては図 , 図 に示すように, 本坑を拡幅しトンネル頂部に換気設備を設置する計画がなされていた.( 区間延長 L=73m). したがって, 集じん機坑のトンネル掘削断面積は本線部の標準断面よりさらに大きな断面となり, 第二東名 名神高速道路の中でも最大の超大断面 ( 掘削断面積 252 m2 ) トンネルとなった 補機室 ST A STA 集じん機坑センター集じん機坑中心 道路中心 STA 地質調査の目的と概要 図 集じん機坑平面図 (S.L. 盤 ) 本トンネルの集じん機坑のような超大断面を掘削する際には, 事前に前方地質状況を把握することにより的確な支保パターンの選定を行うことが施工時の安全確保のためには重要となる. 西工事ではTBM 導坑先進で施工を行っているため, 本坑掘削前に全線にわたり地質情報が得られ, そのデータに基づく拡幅工事を進める事ができた. しかしながら, 東工事では上半先進工法を採用しているため, 事前の地質情報としては, 弾性波速度等の地質調査のデータしかなく, 詳細な地質情報を得る必要があった. そこで, 掘削に先立ち追加地質調査を実施し, 集じん機坑施工区間の地質構造の推定を試みた. 77

83 調査項目としては, 集じん機坑の設計支保パターンや補強対策の必要性を判断することができるよう, 以下に示す調査を実施した. 1オールコアによるボーリング調査岩盤状況 ( 節理, 割れ目状況, 風化変質の程度, 岩盤区分, 湧水状況 ) を把握する. また, 亀裂に介在する粘土成分の分析を粉末 X 線回折により実施し, 膨脹性粘土鉱物の有無の確認と施工への影響の検討する. 2ボアホールカメラによる孔壁観察不連続面の分布状況や湧水状況に関してボアホールカメラによる映像をデジタル化して, コアと対比する事で地質構造を推定する. 3 湧水状況の確認湧水量の確認や水質分析により湧水供給源の特定や施工時の影響について検討する. 特に標準部における前方探査手法の確立といった観点から通常のボーリング調査に加えてボアホールカメラによる地質状況の観察を行い, ボーリングコアとの対比や調査の妥当性の確認と適用性に関する検討を行った 調査結果の概要 既施工区間とコアによる調査結果を図 にまとめた. 大きな破砕帯が3 本存在しており, 破砕帯周辺は多亀裂帯で変質が激しく, 一部はマサ化したり, 節理表面には厚い粘土が付着した粘土混じりの岩盤となっているものと想定された. 特にボーリング調査時に突発湧水を伴った破砕帯 F-3の出現する区間 STA 以降は非常に脆くなっていた. 一方, 切羽に連続して分布すると考えられる大きな節理面 ( 不連続面 ) が3 本 (J-1~J-3) 想定された. 一部の節理間には茶褐色から緑色の粘土を介在しており, 部分的に油目が発達しているような状況で湧水がつけばすべりやすくなるものと想定された. なお, 粘土成分中には膨脹性粘土鉱物であるスメクタイトが多量に含有されていることを確認したが, 粘土層は限定された狭い範囲であり, 地山全体としては相対的に量が少ないため変状に至る程の含有量ではないものと判断した. トンネル湧水に関しては BH-2( 延長 L=73m) において深度 57.5m までは 10 リットル / 分の湧水であったが, その後水量が増大し深度 66m まで掘進したところ急激に水圧が上昇し,650 リットル / 分の湧水が認められたものの, その後は降雨に関わらず 80 リットル / 分の一定の値に落ち着いた. 水質分析の結果からもボーリング孔からの湧水は沢筋から直接流入しているのではなく, 地表から浸透した雨水が, 標高 600m あまりの竜王山の山体中に発達した花崗岩の節理間に賦存したものと考えられ, 季節や降雨状況にさほど左右されずに恒常的な湧水量を示すものと判断した. 78

84 水平ホ ーリンク 2573 水平ホ ーリンク 図 水平ボーリング調査位置図 地質縦断図 ( トンネル中心 ) 破砕帯 F-1 破砕帯 F-2 節理系 J-3 節理系 J-2 推定破砕帯 F-3 節理系 J-1 地質平面図 (SL レヘ ル ) 節理系 J-3 推定破砕帯 F-3 節理系 J-2 帯 節理系 J-1 破砕帯 F-1 破砕帯 F-2 実績 推定 図 集塵機坑付近の地質状況の推定 ボアホールカメラによる前方探査 使用したボアホールカメラは 2 章の写真 に示したように 管内観察や空洞調査に用いられているカメラ径 48mm の曲げ押し可能な坑内観察用カメラである. 操作は簡単で障害物がない限り, カメラを孔内にケーブルで押しながら挿入していくものである. 当初, 湧水が多いため撮影に対する支障が懸念されたが, 若干水圧による抵抗があったものの, 記録画像にはほとんど影響がなかった. なお, 観察記録状況は前述の写真 に示したとおりである. コアボーリングの掘削延長は 73m であるが, 破砕帯では, カメラの挿入が多少困難となるもののケーブル最大長 L=55m まで記録を実施できた. 測定時間は, 準備, 片づけ作業も含めて 2 箇所で計約 1 時間程度であった. 画像は 8mm ビデオに記録し, デジタルビデオに編集し直して解析に用いた. この測定方法の短所としては, 1 画像の上下位置関係が不明であること. 79

85 2 画像に表示される深度がケーブルの送りから読み込むため若干誤差を生じること. の 2 点が懸念された. しかしながら, 実際の調査では上下の関係は湧水の水面状況から判断でき, 深度に関しては採取コアと比較したキャリブレーションを行うことで, ボーリングコアによる深度に修正することが可能となり, 特に問題はなく作業することができた. ボアホール画像による地質構造の推定にあたっては, 孔壁画像とコアの状況を比較して, 実際の不連続面の状態がどのような歪んだ画像に見えるのかを確認した. なお, 前述の図 に孔壁画像とボーリングコアを比較した例を示している. この画像を基準にこれより大きな亀裂すなわち亀裂幅 1cm 以上の不連続面を抽出してその面の状態や大まかな走向 傾斜を判読した. その結果を図 に示す. 孔壁が乱されているものは破砕帯と表現し,1cm 以下の亀裂は節理として細線で表現した. なお, ボーリング延長線上に何も記載されていない区間は, 節理もない ( 潜在亀裂は除く ) 硬い花崗岩が分布しているところである. 図 より,BH-1 孔では 2 つの破砕帯と 3 本の不連続面が判読され,BH-2 では 2 つの破砕帯と 4 本の不連続面が抽出された. 両者の位置関係を総合的に判断して, 最終的に調査範囲では大きな破砕帯 (F-1~F-3) が 3 帯, 連続性のある不連続面 (J-1~J-6) が 6 本想定された. 80

86 図 孔壁画像による破砕帯及び不連続面の抽出 81

87 3.3.6 集じん機坑の施工と前方探査の効果 集じん機坑の掘削にあたっては, このような超大断面において一旦地山の緩みを大きく許した場合, その対策工が非常に大規模なものとなり, 本坑 ( 標準部 ) から集じん機坑への拡幅部の施工方法についても, 拡幅量がかなり大きくなるため慎重に検討して施工を進める必要があった. したがって, 前述のとおり切羽前方探査による地質分析を行い, 適切な支保を選択し, 図 に示す事前補強を行った上で掘削を実施した. 施工順序は, 上半掘削, 下半掘削, 盤下げインバートコンクリート打設, 覆工コンクリート打設の順で実施した. 図 , 図 に前方探査結果に基づく推定地質平面図と施工時の切羽観察に基づく地質平面図を示すが, 推定された地質に比べて破砕帯の方向性や連続性が若干異なったものの, 破砕帯の位置や規模は概ねよく一致しており, 有効性が確認できた. 補強ロックボルト L=6000 CL 補強ロックボルト L=3000 補強ロックボルト L=6000 補強ロックボルト L= m 補強ロックボルト L=3000 補強プレート PL 補強ロックボルト L=6000 交差部補強区間 L=42m 図 交差部補強工展開図 写真 集じん機坑全景 82

88 集じん機坑での前方探査手法の妥当性が確認できたことを受けて, 標準部においても施工サイクルを考慮した上でホイールジャンボによる削岩孔 (L=30m) により, 順次前方探査を実施した. 切羽前方の地山状況を把握した上で地山の急変に備え必要な対策工を事前に検討できたことは安全かつ合理的な施工に有意義であったと考える. 破砕帯 F 粘土層連続性のある不連続面 D 節理破砕帯の影響を受けた範囲 補機室 破砕帯 F -2 BH-1 集塵機室 CL 本坑 CL 破砕帯 F - 1 破砕帯 F-3 BH-2 測点 STA 図 推定地質平面図 ( 前方探査結果に基づく ) 破砕帯 F 粘土層連続性のある不連続面 D 節理 ( 中規模 ) 湧水しみだし 補機室 集塵機室拡幅部 N 3 0 E 9 0 N80 E65 N N65W72N 集塵機室 CL 本坑 CL N30W60N N10W80E N60W65N N70W65N N60W60N N65W72N 想定支保パターン実施支保パターン 記 事 B CII CII CI 断層破砕帯 幅約 1m 粘土を挟み急傾斜 粘土層が帯水層となり湧水量増加 断層破砕帯 幅 1~2m 粘土を挟む前方で破砕程度小さく 幅も狭くなる傾向付近に節理が発達 図 推定地質平面図 ( 切羽観察結果に基づく ) 83

89 3.3.7 まとめ 新しい切羽評価技術であるボアホールカメラによる切羽前方探査を実施し, 道路トンネルとしては前例のない特殊断面である 250 m2を超える超大断面 ( 集じん機坑 ) の施工を無事完了することができた. 山岳トンネルの地質調査は, 従来より, 主として弾性波速度に基づいて実施されており, 実際の施工においては, 湧水状況や亀裂の状態, 逆転低速度層の影響等により設計と異なる地山が出現することは少なくない. 近年,TSP( 坑内弾性波探査 ) をはじめトンネル坑内から前方地山予測を行う試みがなされている. 今回のボアホールカメラによる前方探査では, 施工サイクルに大きな影響を及ぼすことなく実施することが可能であり, 実際の亀裂状況や湧水の状態を画像として直接見ることができるため, 事前の地質調査結果と合わせて総合的な判断を行うことで地質構造の推定が可能となり, 事前に対策工の検討を行うことで, より安全で合理的な施工の実現に寄与するものと考えられる. 84

90 3.4 特殊地山における補助工法の設計と適用 はじめに 山岳トンネルの施工法として NATM が本格的に導入されるようになって約 30 年がたつが, NATM による施工において, 膨張性地山や高圧 多量湧水地山, 未固結地山等の特殊地山条件の下での施工や坑口部, 沢部といった低土被り部や近接施工等の特殊施工条件下での施工においては種々の補助工法を採用することにより安全かつ合理的な施工の実現が可能となる. 近年, 山岳トンネルを取り巻く環境の変化から, トンネル施工箇所の都市化やトンネル断面の大断面化, また, 用地買収の困難さというような社会背景をうけて, トンネル工事における補助工法の開発が進み, 今では比較的広い範囲の地質に対応でき, 効果的かつ多様な補助工法を選定できるまでに至った. このような補助工法の進歩に伴い, トンネルの計画において坑口位置が山の中腹 ( 偏圧地形 ) や沢部 ( 土被り小 ) 近くに位置したり, 上部に重要構造物が位置する箇所での近接施工が行われるなど厳しい施工条件下での施工が増加する傾向が見られる. 本節では, 突発湧水, 未固結地山における施工事例 ( 第 3 紫尾山トンネル北工事 ) と地質変化の著しい付加体地山での施工事例について述べる 突発湧水地山におけるトンネルでの適用 ( 第 3 紫尾山トンネル北工事 ) (1) 概要本トンネルでは特殊条件と言われるものの中で多量湧水を伴う未固結砂岩層における施工において NATM の補助工法を駆使し, 厳しい条件下での施工を行ったトンネルの施工事例 ( 平山トンネル工事 ) に関してその設計と施工状況に関して以下に述べる. (2) 適用トンネルの概要と特殊条件本トンネルは, 図 に示すとおり, 九州新幹線 ( 鹿児島ルート ) は JR 九州鹿児島本線の八代駅から分岐し, 新水俣, 出水 ( いずみ ), 川内 ( せんだい ) を経て鹿児島に至る延長 km の新設路線であり, 第 3 紫尾山トンネルは出水 川内間のほぼ中間に位置し, 当区間の中では最長となる延長約 10km の山岳トンネル工事であり, その内, 北工区としては, 始点側 ( 出水側 ) L=2,713mの区間の施工であった. トンネルの工事概要はトンネル掘削が横坑 L=50m, 本坑 L=2,713m を NATM で施工するものであり, 覆工, インバートも全線 L=2,713m 施工した. なお, 掘削方式は発破掘削を採用した. 85

91 図 トンネル位置 2) 地形 地質概要第 3 紫尾山トンネルは紫尾山 ( 標高 1,067m) を最高地点とする標高 500~600m 級の地が連なる出水山地の西域を通過しており, 地質的には, 中央構造線の南側に位置し, 図 に示すように四万十帯の中生代白亜紀の堆積岩を基盤とした砂岩 頁岩互層, および頁岩により構成されていた. 施工時の切羽状況では, 全体的に岩片は堅硬であるものの, 層理, 節理の発達が著しく亀裂中に大量の湧水を含んだ地山であった. とりわけ, 今回報告する坑口より約 1,500m 付近においては 2t/min という大量湧水が発生しその対策には苦労を要した. また, 始点側坑口部に関しては, 地形的に坑口位置が山裾の中腹に位置し, トンネル軸線が斜面に斜交する斜面斜交型坑口となっており, 近くには地すべり崩壊箇所が点在する状況であった. さらに, 追加地質調査結果からは, 風化が進み, 未固結な状態が観察されており, トンネル掘削に伴う地すべりの発生が懸念されたため対策工 ( 補助工法 ) の検討を実施した. 図 全体地質縦断 86

92 3) トンネル施工に関連する特殊条件本トンネルの掘削を行うにあたり, 施工上支障となる特殊条件としては大量湧水を伴う未固結砂岩層地山における対策 ( 特殊地山条件 ) があげられるが, これらの特殊条件下での施工に関しては, 事前の調査結果や施工時の計測データ等の情報に基づき, 施工時の現象の分析を行うとともに, 信頼性, 施工性, 経済性等の観点から適切な補助工法を選定すべく比較検討を実施した. 以下にこれらの施工時における対策工の設計ならびに施工状況に関して詳しく述べる. (3) 大量湧水を伴う未固結砂岩層における施工 1) 大量湧水発生状況トンネルの施工は横坑を用いて本坑へ掘り進んだが, 地山状況が当初の想定より全体的に悪く湧水も通常より多い状態であった. 地山劣化の著しい箇所では, 図 に示すように, 内空変位が 30~70mm を示し, 部分的に支保の変状を生じる状況であった. このような状況の中で, 切羽の安定を確保する目的で, 施工においては地質確認を兼ねた先行水抜きボーリングを併用し前方地山を確認しながら, ロックボルト増打ち, 増し吹付けコンクリートや仮インバートといった補助工法を用いて掘削を進めていた. しかしながら, トンネルの掘削が坑口より約 1500m 進んだ時点において切羽上半左隅ふまえより濁水を伴った 2t/min( 最大時 8t/min) の突発湧水が発生し, 約 18m 区間にわたり支保が大きく変状し掘削の中断を余儀なくされた ( 写真 ). 0 上半増ボルト 上半仮インバート -92.6mm mm 320 天端内空 ( 上半 ) 内空 ( 下半 ) 変位 (mm) 水抜きボーリング完了 ウレタン注入 追加水抜きボーリング完了 切羽位置 (m) 天端内空 ( 上半 ) 内空 ( 下半 ) 上半再仮インバート 切羽 ( 上半 下半 ) 上半 下半 -320 下半先受注入下半増ボルト mm 月 17 日 7 月 17 日 8 月 16 日 9 月 15 日 10 月 15 日 11 月 14 日 12 月 14 日 1 月 13 日 2 月 12 日 3 月 14 日 図 変状部分計測結果 ( 計測工 A) 87

93 写真 突発湧水状況 2) 湧水原因の解明切羽記録と地質調査を兼ねた先行水抜きボーリングの結果から判断して, 突発湧水および支保変状の原因を列挙すると以下のとおりである. 1 図 に示すとおり, 地質構造の分析よりトンネルと 200m 上方に位置する河川の間の砂岩層に水みちが確認され, 水質の分析から判断して湧水の供給源は上部河川と考えられた. 2トンネル周辺の地山が未固結で強度が低く ( 圧縮強度 qu=2.0mpa(20kgf/cm 2 )) 掘削によるゆるみの影響および作用水圧により現支保で支えきれなかった. 図 地質構造の分析と水みち 88

94 3) 対策工の検討と施工 (a) 大量湧水処理対策工変状後の水抜きボーリング結果から, 帯水層にはかなりの水が存在していることが想定され, 十分な水抜きを行わなければ, さらなる支保の変状を誘発しかねず, 切羽状況によっては, 大量湧水とともに切羽崩落を引き起こす事態が懸念された. したがって, 十分な排水効果を図り, 変状区間の縫返しのため水位を下半盤まで下げ作業性 安全性を確保する目的で大口径ボーリング (φ500mm) 併用の水抜導坑 ( m) を計画し, 施工を行った.( 図 , 写真 ) この対策の結果, 約 5.0t/min 程度の導水を行い, 水抜ボーリングの水量および水圧を下げることができた. 図 大量湧水対策工 写真 大量湧水対策工 ( 大口径ボーリング ) 89

95 (b) 掘削時における対策工湧水対策後, 掘削を再開するにあたり, 掘削区間の先行水抜ボーリングを併用するともに, 水圧が作用しても地山が安定するように, 図 に示す施工フローに従い, 弱層部では補助工法としてアーチの外周 2m の範囲にシリカレジン ( ウレタン注入 ) による地山改良を行いながら掘削を進めた. また, 帯水部分の掘削にあたっては, 突発湧水による切羽崩壊にそなえ,5m 程度のカバーロックを残した状態で鏡面の補強を行い, 部分的には, 変位収束の目的でロックボルト増し打ち, 仮インバート等の追加対策を行ったものの, 大量を伴う未固結砂岩層を無事突破する事ができた. 図 施工フロー図 90

96 (c) 覆工の補強対策 NATMでは通常, 覆工コンクリートには, 力学的な機能を付加させず, 変位収束後に施工するため化粧巻としての取り扱いをすることが多い. しかしながら, 本トンネルの変状区間のように湧水が多く, 地山強度が著しく低下した未固結帯水地山における覆工については, 地震の影響, 水圧が作用, 大きな土圧が作用する可能性が高いため, 力学的機能を持たせた覆工設計を行った. 補強方法は, 鋼繊維補強コンクリート (SFRC) で計画し, 混入率 0.5%(40kg/m 3 ) で施工を行った. (4) まとめ特殊条件下 ( 突発湧水, 未固結地山 ) における施工について新工法の採用も含め適切な補助工法の選定を行い, 適用することで無事施工を完了できた. NATM では地山条件, 施工条件に応じて様々な補助工法により対応が可能であるが, いかに効果的な工法を選定できるかが施工を進める上で重要なポイントになると考える. また, 多量湧水地山では, トンネル完成後の復水により, トンネル覆工に変状が発生する可能性がある. 本トンネルのように維持管理を踏まえた覆工補強対策ということも重要となる. 91

97 3.4.3 付加体地山におけるトンネルでの適用 ( 平山トンネル工事 ) (1) 適用トンネルの概要東海北陸自動車道平山トンネルは, 暫定 2 車線で供用開始している東海北陸自動車道の瓢ヶ岳 PA から白鳥 IC までの4 車線化事業 ( 延長 L=24.2km) のうち, トンネル工事を主体とする延長 L=1,549mの高速道路 (Ⅱ 期線 ) 工事である ( 図 ). 本トンネルは比較的硬質なチャート層の分布地域であり, 山裾部にはチャートの礫からなる崖錐地形となっている. ジュラ紀中期の小駄良川層の徳永砂岩部層に属し, 地質的に美濃帯メランジによって形成された地質構造であり, いわゆる付加体地質の特徴である地質が不連続で変わりやすい特徴を有している. 終点側坑口部には主に白色, 灰色, 黒灰を呈するチャートが分布しており, 低速度帯 (2.6~2.8km/sec) や断層が存在する. 尾根沿いには急峻な露岩帯を形成している. ただし, 亀裂面の密着度は低く, 山裾付近の岩塊がブロック状に崩壊し, 山裾部に転石として点在していた. このような特殊地山 ( 付加体 ) における安全施工の目的で2 章に示した新しい地山評価 ( 前方探査 ) 技術として機械データを用いたトンネル地山評価システム導入による施工事例について述べる. 工事内容としては, トンネルの掘削は標準工法である NATM で施工され, 掘削方式としては発破工法を採用した. 主な掘削工法は,Dパターン( 上半先進ベンチカット工法 ) とCパターン ( 補助ベンチ付き全断面工法 ) である. また, 補助工法としては,Ⅰ 期線施工実績に基づき, 設計において両坑口部に長尺鋼管フォアパイリングが計画されており, 施工においても比較検討の結果, 同工法を選定した. 平山トンネル 図 現場位置図 92

98 Ⅱ期線工(2) 坑口部施工方法の検討 Ⅰ 期線とⅡ 期線との間には小沢が発達して集水地形となっている. この場所では,Ⅰ 期線工事の施工記録によれば, 湧水量が非常に多く, 長距離の水抜きボーリング (300~500m) を実施していた. さらに, 湧水による局所的な地山崩壊も発生しており,Ⅱ 期線工事においても同様の地質状況が想定されるため, 慎重に施工する必要があった. 本トンネルを安全かつ経済的に施工するためには, 切羽観察 計測結果による慎重な施工とともに厳重な計測管理及び適切な補助工法の選定が必要であり, 設計においては図 に示すとおり, 補助工法として長尺鋼管フォアパイリング (AGF-P) が計画されていた. 本トンネルにおける施工上の問題点は大きく分類すると,1 坑口部, 破砕帯における未固結部分での切羽の安定 ( 天端 鏡面 ),2 坑口部上部斜面の安定,3トンネル湧水の発生と支保の施工といった事項が想定され, 適切な対策工を選定, 施工することでトンネルの安定を確保するとともに, 安全かつ経済的な施工が望まれた. 事前の情報から図 に示すように, 終点側坑口部の地質構造を推定し, トンネル掘削時に地山のグラウンドアーチが形成しにくいため, 先行ゆるみ及び天端の安定性確保が重要であると考えた.Ⅰ 期線工事でも天端崩落が頻発して発生していることから, 本トンネルでも同様の現象が生じる可能性があり, トンネル掘削が断層 破砕帯を貫くため, 脆弱な未固結地山でも効果を期待できる工法の選定が必要であった. 代400 坑門補助工事事工法地質年代 地質名 記号 地層境界線 0.8~1.0 四代紀推定断層完新盛土世崖錐堆積物第B dt 450 砂岩 Ss 2.2~2.4 F 美ジュラ紀 粘板岩 Sl 二畳紀 ~ 石炭紀 チャート Ch 法(脚部沈下対策レック ハ イル案)F-b ch(sl) 区間 6 Sl区間 5 区間 3 区間 1 STA ~4.4 Sl 区間 4 Sl 区間 ch DL= ~2.8 測 点 設計支保ハ ターン CⅡ -b-b CⅡ -a-b DⅠ-b-1-B DⅠ -b-b DⅠ-b-1-B DⅢa-1-B (130.0m) (82.0m) (50.0m) (38.0m) (51.0m) (50.3m) 湧水対策 水抜きボーリング 設計補助工法 注入式長尺鋼管フォアハ イリンク 注入式長尺鋼管フォアハ イリンク 斜面崩壊対策 法面補強 天端安定対策 注入式フォアホ ーリンク (L=3.0m) 注入式フォアホ ーリンク (L=3.0m) 鏡面安定対策 鏡面吹付け 鏡ボルト その他対策 増吹付け 増ロック 支保工のランクアップ ) L=6.0m( 自穿孔 ) 助増ロック 吹付け n=62 本 [ 上半補強 ] ( 緑緑粘礫色板色チャート地質チャート 粘板岩互層チャートチャート角岩岩チャート礫角 ( 粘板岩混 ) 粘板岩本粘モルタル式フォアハ イ 270 本 197 本 227 本 686 (L=3.0m) 71 本 29 本 ( ハ ターン ) ロックホ ルト (L=4.0m) 148 本 ( 自穿孔 ) 設計 CⅡ DⅠ -i DⅢa 坑門 支保ハ ターン CⅡ -1 施工 CⅡ CⅡ DⅠ -i DⅡ -i DⅠ -i 岩切羽状況 DⅢ a 水抜き 坑内 L=52.0m 鏡面崩壊鏡面崩壊 滴水程度の湧水 天端崩落約 15~30m3 200リットル/minの集中湧水 6m3の天端崩壊 湧水の種類 突発型 ウレタン注入式 NT 799 本 フォアハ イ (L=3.0m) PU 本 W 19100kg 鏡ボルト 18 本 87 本 74 本 ホ ーリンク 水抜きボーリングL=300m 明かり水抜きボーリングL=500m 軽量鋼矢板 L=4.0m 10 枚 [ 天端崩落対策 ] L=2.5~3.0m N=10 枚 H-100m L=5.0m n=4 本 [ 天端崩落対策 ] ( 明かり ) ロックホ ルト [ 終点部坑口支保工沈下対策 45 本 ] 新生中生代~古生濃帯Ⅰ期線工 No. 5 STA ,L 8 GH = m dep = m 690 補(L=4.0m) 板岩終点側坑口 691 No. 2 STA GH = m dep = m STA No. 4 GH = m dep = m 図 終点側坑口部の問題点と対策工 93

99 硬いチャート [ あるいは緑色岩や砂岩 ] のブロックやスラブ破砕されてサイコロ状割れ目 や亀裂の間には 多量の地下水を滞水 Ⅰ 期線で遭遇していない地層 STA L8 No.5 斜めボーリング (EL=392m,L=100m) STA ~STA 区間に分布主に泥質基質部 [ 粘板岩 ] が破砕したシャーゾーン NW~SE 方向の走向北傾斜 STA ~STA 低速度帯 (2.0km/s) 終点側坑口部 (STA ) 凡例チャート劣化したチャート緑色岩砂岩泥質基質破砕帯 Scale E 10m 10m 10m N S W 図 終点側坑口部の地質構造の推定 (3) 補助工法の選定補助工法の選定にあたっては, 前述の地形 地質状況およびⅠ 期線施工結果を考慮して, 本トンネル終点側坑口部における施工条件を考慮した上で, 採用可能であると考えられる天端安定対策として以下の工法を一次選定した. 1 パイプルーフ工法 2 長尺鋼管フォアパイリング 3 ウレタン注入式フォアポーリング 4 薬液注入工法 5 垂直縫地ボルト工法これらの工法に関して, 表 に示すとおり 施工性, 信頼性, 経済性 といった観点から, 比較検討を実施した結果, 上部斜面への影響を極力小さく抑えるために, 先行ゆるみの抑制効果の高い長尺鋼管フォアパイリングを選定した. また, 先受け工法の選定にあたっては, 土被りや先行緩み範囲の大きさにより先受け効果が異なるため注意する必要がある. すなわち, 図 に示すとおり, 先受け長さが短いと前方の緩みを押さえきれずに先行変位を生じることとなるため, 上部斜面への影響は免れない. したがって, 坑口部において上部斜面及び地すべり土塊に影響を与えないように先行緩みを押さえるためには, 長尺 (L=5.0m 以上 ) の採用が必要であると判断した. なお, 長尺鋼管フォアパイリング工法としては, 表 に示すとおり, 緩みの発生を最小限とするため, 無拡幅工法であり, 打設角度が小さく多段打設が可能な AGF-HITM を採用した. 94

100 表 補助工法比較検討表 対策工 1 パイプルーフ工法 2 長尺鋼管フォアパイリング 3 ウレタン圧入式フォアホ ーリンク 4 薬液注入工法 5 垂直縫地ボルト工法 C L パイプルーフ C L 長尺ウレタン先受け工法長尺鋼管フォアパイリング (HITM (AGF-HITM) 工法 ) C L 注入式フォアポーリング C L 薬液注入 C L 垂直縫地 120 S.L. 切羽 120 S.L. 切羽 120 S.L. 切羽 S.L. 切羽 S.L. 切羽 概要図 信頼性 施工性 経済性 工期 上部緩み土圧に対して坑内より剛性の高いパイプを平行に施工し, トンネル施工時に支保工で受けながら掘進する クラウン部崩落, 崩壊, 地表面沈下抑制には信頼性が高く, 施工実績も多い パイプを支保工で確実に受けていくため, 緩みを抑制し切羽安定性もよく上部斜面への影響も抑えられる 地質によっては, パイプ間からの地山の抜け落ち, および余掘りが懸念される. 亀裂の多い地山やクラッキーな地山では掘削が困難となる パイプルーフ推進用の架台が必要となる 延長が長くなると大口径のパイプ施工となり割高となる トンネル掘削に先立ち施工を完了させる必要があるため, 工期に大きく影響する 坑内より剛性の高い鋼管パイプ (φ114.3mm L=12.0m) をダブルに打設し, シェル構造により前方地山のゆるみを抑える 長尺でかつダブルに鋼管を配置するため, 先受け効果が高い 地山の変位に応じて施工規模を変更できる 拡幅が不要で牽引方式によるため施工が確実 特別な機械を必要としない 9m 毎に打設本数や範囲を変更でき, ウレタン系とセメント系の複合注入により経済的 鋼管打設は 9m 毎の打設となるが多少時間がかかる 坑内より天端付近に L=3m,4m の圧入ボルトを打設し, ウレタンを注入することで, ウレタン改良体による地山固結改良をする セメント系の注入材に比べて粒子が細かく流動性が高いため, 注入の確実性は高いが先行変位は止められない 限定された範囲を確実に固結改良でき改良ソ ーンの強度, 効果の確実性も高く実績も多い 掘削サイクルに取り込める 特別な機械を必要としない 注入範囲は薬液注入工法に比べて少なくて済むが, 材料が高価で経済的には不利 掘削サイクルに取り込めるため, 工期的に若干の遅れが出る程度である 坑内より天端付近を中心にセメント系の薬液を注入し, 地山を固結改良する 湧水や亀裂の多い地山での逸散等により, 注入の確実性に懸念があり十分な改良効果が望めない 均一な地山改良ができれば, 切羽の自立性の向上, クラウン部地山の崩落, 崩壊防止に効果が ある 地表からの作業は可能であるが, 削孔延長が長くなる 坑内の施工の場合, 掘削サイクルには取り込めない 注入範囲が広範囲となり注入量も多くなることから経済性は劣る 注入作業に時間がかかり掘削サイクルに取り込めない 地表面ボーリングを行い, セメントミルクを注入した後, 縫地ボルト D32(SD35) を挿入することにより, 地山の縫付け, および吊下げ効果を発揮する すべり土塊を多くもの鉄筋で補強するものであり, すべりの方向性に左右されず効果がある 別途先受け工が必要 施工ヤードが斜面となり, 工事用進入道路及び足場が必要となる 斜面作業となり施工性に劣る 斜面上の施工では費用がかかる トンネル掘削時に先受工の併用が必要 事前に施工できるため掘削サイクルには影響を及ぼさない 総合評価 図 先受け長さと支保反力の関係 4) 95

101 表 AGF-P と AGF-HITM の比較 工法 AGF-HITM AGF-P 概 要 図 坑内より剛性の高いパイプ (L=10m,φ=89.1~ 114.3mm) を 30~60cm ピッチ / 断面,5m~9m 毎で施工し支保工で受けながら掘進する パイプ内より地山へウレタン系とセメント系の複合注入を行い, パイプ間の改良を図る ( 湧水箇所ではウレタン系注入材 ) 坑内より剛性の高いパイプ (L=12.5m,φ=114.3mm) を 45cm ピッチ / 断面程度で施工し, 支保工で受けながら掘進する パイプ内より地山へウレタン系の注入を行いパイプ管の改良を図る トンネルの拡幅は行わない ビットロストビット方式拡幅ビット方式 ( ロストビット方式 ) 打設方法 鋼管の接続 改良範囲 長所 短所 前方打撃で牽引方式のため, ロッドによる先端部塩ビ管の損傷はほとんどない 後方打撃方式のため打撃により曲がり鋼管の破損が考えられる ( ロストビット方式の場合は HITM と同様 ) ネジ加工, カップラー式ネジ加工 ( ネジ込み ) いずれの範囲でも2 段以上の鋼管で支持する多段方式 ウレタン系とセメント系の複合注入により限定された範囲を確実に改良できアーチ形成が可能となる パイプを支保工で確実に受けるため沈下及び地すべり抑制効果が高い トンネルジャンボにより施工でき, 無拡幅のため新たな設備を必要とせず, 工期も比較的短い 施工ピッチが短かいため切羽の変化に応じて範囲の変更が可能で経済的 ロストビットにより削孔を行うが, 玉石等大きな礫があるとジャーミングが発生する 鋼管先端ではラッパ状となり, 鋼管間および鋼管より下の地山の肌落ちが懸念される ( 鋼管配置で対応可 ) いずれの範囲においても 1 本の鋼管で支持する ウレタン系を使用するため, 限定された範囲を確実に改良できアーチ形成が可能 トンネルジャンボにより施工でき, 無拡幅のため新たな設備を必要とせず, 工期も比較的短い 拡幅ビットによる掘削を行うが, 砂礫層やクラッキーな地山ではジャーミングにより穿孔不能となる 拡幅はしないが鋼管の間に地山を挟むため, 地山条件によっては AGF に比べ沈下を発生する懸念がある 先打ちとなるため地山の変化に対応しにくい 施工性 信頼性 鋼管径が小径化できるので施工性は良く, ビットの選択も不要 多段となり支持効果は高くなる HITMに比べ鋼管径が大きく施工延長も長いため施工性は劣る 地山によりビットの選択が可能 崖錐等では支保効果が小さい 鋼管のジョイントが弱点となる 施工時の設計の修正に関しては, 図 に示すとおり, 切羽評価点, 切羽前方探査結果及び計測結果に基づくトンネル地山評価システムを参考に, 支保パターンの選定や追加対策の検討, 支保低減の検討を実施するという方針で施工管理を行った. 96

102 鋼製支保工変形マルチパターンの検討および支保工の低減START 切羽観察 1 注 1) 切羽評価点および管理基準値については評価点法による点数付け施工中に見直しを行い協議する 支保パターンの決定 計 測 支保パターンの再検討 計測強化 支保強化 NO 初期変位速度は管理基準値内か? YES 変位収束したか? NO 支保部材の観察 掘 YES 削 2 注 2) 注 2) 変状変状 : 吹付ひびわれ支保に変状はあるか? ロックフ レート変形鋼製支保工変形 支保パターンの再検討 NO NO 変位は管理基準値内に収束したか? YES 支保工の低減に関する検討 1 掘進長の延伸 2ロックボルト低減 3 吹付け厚低減 4 鋼製支保工省略 5 支保ハ ターンランクアッフ 掘 計 削 測 初期変位速度は管理基準値内に収まったか? 新パターンでの掘削 変位は管理基準値内に収束したか? 掘 YES 削 YES 支保パターンの再検討 対策工の検討 収束状況確認 (7 日程度 ) 3 注 3) マルチパターンによる低減時の初期計測は通常頻度よりも回数を増やし計測強化する NO NO 支保部材の観察 支保に変状はあるか? YES 対策工の検討 増しボルト 増し吹付け 増し枠 支保ランクダウン E N D 図 施工時における設計修正フロー 97

103 (4) トンネル地山評価システム試行結果工事を開始する終点側坑口部において, トンネル地山評価システム (K-tes) を試行的に実施した. 前方探査の配置は, 原則として左右 2 箇所 ( 必要に応じて天端を追加 ), 探査延長は, 先受け長をカバーできるL=15m とした. 今回, 終点側坑口より約 L=630m 区間を対象として実施し, 施工に反映させた. 穿孔エネルギーの値から前方の地山状況を予測し, 補助工法選定の判断材料とした. 対象区間においては, 部分的には集中湧水 (100 リットル /min) 程度の湧水は発生したものの幸いにも, 当初予想されていた突発的な湧水は見られず,AGF-HITM の採用により上部斜面への影響なく, 天端の安定を確保できた. 一方, 付加体という地質的特殊性から, 測点 690 付近では, 地山が好転したことから, 一旦, AGF-HITM の施工を中断したが, 写真 に示すように, 切羽右側の肩部から核にかけて一部小崩落が発生し, 急きょ切羽前方探査を追加して実施したところ, 前方において地山が急変することが想定され, 鏡ボルトの追加や AGF-HITM の採用を再開する結果となった. 写真 切羽崩落状況 ( 測点 ) 図 に坑口部施工結果のまとめを示す. 図中に示すとおり, 切羽評価点 ( 平均 ) と切羽前方探査による穿孔エネルギー ( 平均 ) の間には比較的良好な相関関係が得られ, 特に坑口部の AGF-HITM が施工された箇所では, 切羽の一部で地山変化に伴う多少のばらつきはあったが, 切羽全体平均値では閾値 (200J) 近傍であった. トンネル地山評価システム ( 切羽前方探査 ) の採用とその分析により, 施工の安全性確保, 経済性の面からも有効であることが実証されたものと考えられる. 98

104 施工結果とりまとめ区間 STA 支保No.3 STA 支保No.562 L=628.6m DL=300 測 点 計 画 高 断面番号 558 STA 測 点 計 画 高 観察年月日 支保パターン CⅡ-b-B 平成18年4月28日 断面番号 497 STA 観察年月日 平成18年4月11日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 445 STA 観察年月日 平成18年3月28日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 389 STA 観察年月日 平成18年3月9日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 333 STA 観察年月日 平成18年2月17日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 284 STA 観察年月日 平成18年2月4日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 225 STA 観察年月日 平成18年1月21日 支保パターン CⅡ-b-B 断面番号 168 STA 観察年月日 平成17年12月17日 支保パターン DⅠ-b-1-B 断面番号 47 STA 観察年月日 平成17年10月3日 支保パターン DⅢa-1 断面番号 3 観察年月日 支保パターン STA 平成17年8月29日 DⅢa-1 切 羽 観 察 記 録 凡 例 風化チャート チャート 粘板岩 硬質チャート 粘 土 砂 岩 ドリス探査孔 B D C B C A D 壁面展開図 E E A 湧水状況 CⅡ-b CⅡ-a CⅡ-b DⅠ-a CⅡ-b DⅠ-b 支保パターン DⅢa AGF工法 鏡吹付け 切羽崩落箇所 50 補助工法 1500 穿孔エネルギー(平均) 切羽評価点 穿孔エネルギー(平 測点 切羽評価点 点 穿孔エネルギー(J/cm3) 切羽評価点 40 図 施工結果まとめ (5) 施工結果の分析 坑口部より実施した切羽前方探査の結果を図 に示すように 切羽評価点 加重平均 と穿孔エネルギー(Ed)の指標で整理した 前方探査の実施位置 天端 左側 右側 により多少ばらつきは見られるものの 切羽全体の 平均値としては 太点線で囲まれた範囲 すなわち 切羽評価点が 20 点以下 穿孔エネルギー が 200J/cm3 付近の範囲に集中している また 切羽評価点が高くなると 穿孔エネルギーのば らつきが大きくなる傾向が見られ 特に右側は地質 チャート の影響でばらつきがあった したがって 切羽観察や計測結果の結果等の施工実績もふまえ 補助工法が必要となる穿孔エ ネルギー Ed を 200J/cm3 以下と設定し 前方探査の結果を補助工法の必要性の判断材料とし た 一方 図 に前方探査結果の一例を示す ここでは 切羽位置から 12m 前方を穿孔し た結果 現切羽は比較的良好な状態であったが 2m 8m 区間にかけて穿孔エネルギーが 200J/cm3 以下となり 設計においても 前方に断層破砕帯の出現が予想されていたこともあり 切羽から長尺鋼管フォアパイリングを施工することで切羽の安定を確保することができた ここでも 穿孔エネルギーが 200J/cm3 以下で補助工法が必要となることが再確認された 図 は AGF 施工区間における切羽評価点 加重平均 と切羽前方探査による穿孔エネル ギーの比較 図 は A 計測と穿孔エネルギーの関係を示したものである 穿孔エネルギー のばらつきの原因はレンズ状に分布する比較的硬質なチャート層の存在であるが 地質的に変化 の著しい本トンネルでは 200J/cm3 という指標が1つの目安となると判断できる 99

105 50 穿孔エネルギーと切羽評価点 ( 加重平均 ) の関係 40 切羽評価点 ( 加重平均 ) 左側天端右側平均 ( 天端 )214J/cm3 平均 ( 右 )268J/cm3 平均 ( 左 )223J/cm 穿孔エネルギー (J/cm 3 ) 図 切羽評価点と穿孔エネルギーの関係 穿孔エネルギー 3 穿孔エネルギー ( J / c m ) 切羽位置 Ed<200J/m 3 : 補助工法必要 探査深度 (m) 図 前方探査結果と補助工法の選定 ( 測点 690 付近 ) 切羽評価点 穿孔エネルキ ー ( 平均 ) 1500 切羽評価点 ( 点 ) 穿孔エネルギー (J/cm3) 測点 図 切羽評価点と穿孔エネルギーの比較 0 穿孔エネルギー (J/cm3) 穿孔エネルギー (J/cm3) 穿孔エネルギー (J/cm3) 内空変位 (mm) 内空変位 ( 水平 ) 内空変位 ( 左斜 ) 内空変位 ( 右斜 ) 沈下量 (mm) 天端沈下脚部沈下 ( 左肩 ) 脚部沈下 ( 右肩 ) 図 A 計測結果 ( 収束値 ) と穿孔エネルギーの関係 沈下及び変位量 (mm) 内空変位 ( 水平 ) 天端沈下 100

106 (6) トンネル地山評価システム導入の効果山岳トンネルにおける地山評価は, 現状では, 掘削時に切羽の状態を観察し, 切羽評価点として点数化し, 支保パターン毎の評価実績や計測結果を比較することで実施している. この方法では, 切羽前方未掘削部の地山評価が行えないため, 表 に示すような課題が考えられる. 3.3 節において述べたとおり, 地山が良好な場合には先行ボーリング等による前方探査も可能であるが, 破砕帯や弱層部では孔壁の自立が困難で探査時間も長くなる. 今回導入したトンネル地山評価システムであれば, 脆弱な地山においても適用が可能である. 施工時に得られる機械データから算出される穿孔エネルギーと切羽評価点や変位等の計測データを蓄積し, その相関関係を把握しておくことで, 新たに切羽で得られる機械データを用いて前方の地質を想定する事ができ, 地山に適合した支保パターンの選定や必要な対策工 ( 補助工法 ) の検討のための資料として用いることが可能である. 本工法導入の効果は, 表 に示すとおりである. 表 トンネル地山評価における課題 項目 地山評価における課題地質の変化が多い地山 ( 坑口部, 破砕帯, 付加体地質等 ) では, 地質の急変により切羽に出現した地山の評価結果とその直後の地質が異なる場合がある 坑口や破砕帯で必要となる補助工法の必要区間長や範囲を事前に設定できない ( 特に長尺先受け工の場合 ) したがって, 地山の変化が多い地山ではどうしても安全側の対策を取らざるを得ないため, 結果的に不経済な施工となる場合がある 想定外の突発的な湧水や地質の急変が発生する可能性があり, 対策工の検討 実施の間, 掘削が止まり工程の遅延をまねく場合がある 表 トンネル地山評価システム導入の効果 項目 システム導入の効果 地山の急変や突発湧水といった切羽前方地山の予測ができるため, 支保の設計や対策工の必要性を掘削に先立って検討, 実施できる 掘削作業の安全性, トンネルの品質向上が期待できる 前方地山の予測により, 補助工法の区間や範囲を合理的に決めることができるため, 経済性が向上する 補助工法を事前に準備することができるため, 掘削作業を止めることなく, 確実な工程計画が可能となる 101

107 (7) まとめ今回のトンネル地山評価システムの導入では, トンネルの標準機械であるドリルジャンボの穿孔時の機械データを収集 分析することにより, 切羽前方の地質を穿孔エネルギーとして定量的に評価することができるため, 実現場において補助工法の必要性の判断資料として試行的に適用することができた. また, 地山評価結果の分析では, 切羽評価点 ( 平均 ) と穿孔エネルギー ( 切羽全体平均値 ) の間に比較的良好な相関が見られ, 切羽前方予測により, 補助工法の選定に参考となる資料となりうることが確認された. 本トンネルの事例のように, 特殊な施工条件や付加体地質という変化の著しい地山における山岳トンネルの施工において切羽前方の地山状況を適切に評価できることは, 作業の安全性確保と同時に, 必要な対策の検討を掘削に先立ち実施することで有意義であると考えられる. 特に長尺の先受け工を採用する際の施工区間や施工範囲の決定が可能であるなど, 経済的にも有効であると考えられる. また, 切羽を止めることなく対策工の検討や資材の調達を行うことができ, 確実な工程管理の実現も可能となる. 今後, 山岳トンネルを取り巻く条件は都市化, 大断面化, 偏平化を受けて, 一層厳しくなる事が予想される. また, 都市部での施工や厳しい地山条件下での施工が増えてくるため, 適切な支保や補助工法の選定がますます重要になってくると考えられる. 本トンネルにおけるトンネル地山評価システムを用いたトンネル施工では, 施工時に前方地山条件を確認して適切な支保工と補助工法を選定することにより, 安全施工はもとより, 確実かつ経済的なトンネルの施工を実現することができた. 写真 平山トンネル全景 102

108 3.5 特殊地形における補助工法の設計と適用 はじめに NATM による山岳トンネルの施工においては, 支保メンバーである地山の挙動を現場計測等で把握し, 適切な支保部材を選定するとともに地山状況に応じて変化する緩み量, 発生応力に対して多様な補助工法を駆使することでトンネルを安全にかつ合理的に掘削することが重要となる. とりわけ, 坑口部や土被りの小さい箇所においては, 地山の強度も低くアーチアクションの形成が不十分なため, 地表面沈下, 切羽崩壊, 地すべりといった不測の事態を生じることのないよう対策工として補助工法が採用される事例が多くなっている. 以下に特殊地形条件下での施工事例について述べる 偏圧地形におけるトンネルでの適用 ( 荘川工事 ) (1) 概要本トンネルでは, 偏圧地形で強度が低く, 土被りの小さい沢部といった厳しい施工条件の下で, 斜面安定対策を兼ねた切羽安定対策として採用した垂直縫地工法に関して, 施工時の現場計測の分析ならびに計測値に基づき実施した逆解析により地山の挙動および縫地ボルトの補強メカニズムに関する分析を行った. また, 補助工法としての垂直縫地工法の選定過程および設計方針を示し, トンネル施工時に実施した現場計測と計測値に基づく逆解析手法を用いた斜面安定管理を通して垂直縫地工法の補強効果に関して評価し, 今後, 同様の施工条件における垂直縫地工法の検討及び設計に関する提案を行った. (2) 適用トンネルの概要垂直縫地を適用したトンネルは, 東海北陸自動車道荘川工事において NATM で施工された山岳トンネル工事であり, 起点側坑口部付近においては, 図 に示すとおり, 偏圧地形に斜面平行型でトンネルが位置し, その途中に最低土被りが 4.5mの沢部が位置するという厳しい施工条件下での施工であった. また, 斜面の直下には民家や一般国道が近接しており, トンネル施工時の対策工については, 通常考えられるトンネル切羽の安定対策の他に斜面安定対策を施す必要があった. 図 垂直縫地工施工区間平面図 103

109 1) 地形条件地形的には, いわゆる偏圧地形 ( 斜面斜交型 ) であった. また, 施工前の地表踏査の結果, 対策工を実施した沢部付近には, 幾つかの小規模地すべり跡が観察されており, トンネル施工時の上部斜面の安定性が懸念された. 図 に示すとおり, 沢部の最も土被りの小さい部分はわずか 4.5mであった. 図 地形 地質図 2) 地質条件地質状況としては, 事前の調査ボーリング (STA.12+28) から, 図 に示すとおり, 岩質は石英閃緑岩, 微文象花崗岩の強風化および弱風化したものであり,RQDは平均 12% 程度で, コアの観察からは, 粘土が多数狭在していることも観察された. また, 沢部では位置的にトンネル断面内に一部強風化層 ( 土砂状 ) がかかるものと思われた. (3) 補助工法の選定前述の施工条件, すなわち偏圧地形, 低土被り, 地山劣化さらには, 当該箇所が豪雪地帯である事等をふまえた上で, 対策工としての補助工法の検討を行った. 一次選定については, 切羽安定対策として パイプルーフ 注入式長尺フォアハ イリンク (AGF 工法 ) ウレタン圧入式フォアポーリング(PU-IF 工法 ) ウレタン注入地盤改良( 岩盤固結工法 ) 薬液注入工法 垂直縫地工法を選定し, 偏土圧, 斜面安定対策として ウレタン注入地盤改良( 岩盤固結工法 ) 薬液注入工法 104

110 アンカー工法 抑止杭 垂直縫地工法を選定した. これらの各工法について, 本トンネルにおいては, 切羽安定と斜面安定の両面から有効と考えられる工法を選定するという必要性から,1 ウレタン注入地盤改良 ( 岩盤固結工法 ) 2 薬液注入工法 3 垂直縫地工法を二次選定し, これらの3 工法に関して, 表 に示すとおり, 施工条件にも配慮して対策効果の信頼性, 施工性, 経済性といった観点から比較検討を行い, 斜面安定にも効果があり切羽進行に影響を与えない垂直縫地工法が最適と考え対策工として採用した. 対策工 1 ウレタン注入工法 ( 坑内 ) ( 岩盤固結工法 ) 表 補助工法比較表 2 薬液注入工法 ( 坑内 ) 3 垂直縫地ボルト工法 ( 坑外 ) C L ウレタン注入 C L 薬液注入 C L 垂直縫地 概要図 120 S.L. 坑内より天端付近に L=3m,4m の圧入ボルトを打設し, ウレタンを注入することで, ウレタン改良体による地山固結改良をする 切 羽 S.L. 坑内より天端付近を中心にセメント系の薬液を注入し, 地山を固結改良する 切羽 S.L. 地表面ボーリングを行い, セメントミルクを注入した後, 縫地ボルト D32(SD35) を挿入することにより, 地山の縫付け, および吊下げ効果を発揮する 切 羽 信頼性 施工性経済性工期 セメント系の注入材に比べて粒子が細かく流動性が高いため, 注入の確実性は高いが先行変位は止められない 限定された範囲を確実に固結改良でき改良ゾーンの強度, 効果の確実性も高く実績も多い 掘削サイクルに取り込める 特別な機械を必要としない 注入範囲は薬液注入工法に比べて少なくて済むが, 材料が高価で経済的には不利 掘削サイクルに取り込めるため, 工期的に若干の遅れが出る程度である 破砕帯や漏水箇所では, 注入の確実性に懸念があり十分な改良効果が望めない 均一な地山改良ができれば, 切羽の自立性の向上, クラウン部地山の崩落, 崩壊防止に効果がある 地表からの作業は可能であるが, 削孔延長が長くなる 坑内の施工の場合, 掘削サイクルには取り込めない 注入範囲が広範囲となり注入量も多くなることから経済性は劣る 注入作業に時間がかかり掘削サイクルに取り込めない すべり土塊を多くもの鉄筋で補強するものであり, すべりの方向性に左右されず効果がある 薬剤による先行緩み防止効果もあり, 切羽安定にも有効である 施工ヤードが斜面となり, 工事用進入道路及び足場が必要となる 多くの杭を削孔, 注入により施工する必要があるが, 他の2 工法に比べて安価 事前に施工できるため掘削サイクルには影響を及ぼさない 総合評価 (4) 垂直縫地工法の設計垂直縫地工法の設計については, これまでの設計事例を調査したところ, 確立された手法はないものの, 以下の方法で設計が行われている. 過去の類似地山の実績による設計ボルト径 φ25~32mm 削孔径 φ100~120mm 打設間隔 1.5m 1.5m~2.0m 2.0m すべり面に対して鉄筋をせん断杭として設計 地山のせん断強度の改良効果をFEM 解析により評価して設計本トンネルにおいては, 最も土被りの薄い沢部においてトンネル掘削時のすべりに対す 105

111 る安定計算を行い, 鉄筋のせん断抵抗力により必要鉄筋量を算定し, 過去の施工事例も参考にして下記に示す設計方針により仕様を決定した. 1ボルト径については, これまで最も実績の多い D32 を採用し, 必要ボルト本数は前述のとおり鉄筋のせん断抵抗力から決定し, トンネル横断方向 1 断面あたり 12 本とした. 2ボルトの配置に関しては, 用地等の制約条件に配慮し, 横断方向の配置は, トンネルセンターから極力分散させる目的でピッチを 2m 間隔とし, 公団用地内の山側, 川側へそれぞれ 6 本づつ配置した. なお, 縦断方向に関しては, トンネル掘削ピッチを考慮してピッチを縮め,1.5m 間隔に配置した. 1 削孔径については, 経済性に配慮し, 二重管式の最小径とされるφ90mm を採用した. 根入れ長については, 想定すべり面から 2m 根入れするものとし, 最深のもので S.L. までとした. なお, トンネル掘削断面内に関しては, 施工においては核残しにより切羽の安定を図ることを前提に, トンネル掘削断面内に 2m 根入れした. 図 に垂直縫地工のボルト配置図を示した. 計測断面 (STA.12+20) 0.7~0.9 11@2.0m=22m 1.5~1.7 A 2 0 縫地ボルト軸力計 (D32) 垂直縫地ボルト (D32) B 3 2 C (3ヵ所) C L D 5 6 : 地中水平変位計設置位置 3.0 E F 7 8 : 軸力計設置位置 Vp=2.7~ G 10 H I J K L θ: 主働崩壊角 θ=45 +φ/2= S.L @2.0= θ @2.0=12.0 地中水平変位測定多段式傾斜計 (2 ヵ所 ) 11m 11m 計測箱データロガー, ユニット, パソコン 図 垂直縫地ボルトおよび計測工配置図 (5) 挙動計測 1) 計測項目 NATM においては地山自身を支保メンバーと考えているため, トンネル掘削時の地山挙動を的確に把握する必要があり, その結果に基づいてリアルタイムに対応することが施工時の安全性確保の面では重要となる. 本トンネルの計測項目の選定にあたっては, トンネル掘削時の斜面の挙動および対策工としての縫地ボルトの効果を把握する目的から通常の A 計測に加えて坑外計測項目として 地中水平変位測定( 多段式傾斜計 ) 縫地ボルト軸力測定 106

112 といった項目を選定した. なお, 通常斜面挙動計測として実施する地表面沈下計測に関しては, 施工時期が冬季にあたり積雪が多い ( 年平均 6m) という事情から実施できなかった. また, 坑外計測システムについては, 積雪が多く斜面勾配が急峻 ( 約 40 度 ) なことに加え, トンネル掘削時にリアルタイムかつ連続的にデータを得る必要性から, パソコンを用いてデータを自動的に蓄積する自動計測システムを採用した. 2) 計測結果の分析本トンネルで実施した各計測項目の結果から得られた知見を以下に示す. a) トンネル坑内計測 (A 計測 ) 図 にA 計測結果 ( 内空変位, 天端沈下 ) を示す. 変位モードとしては, 内空変位に比べて天端沈下が卓越するという土被りの薄い部分でよく見られる変位の傾向を示した. また, 地形的な特徴を反映し, 川側 (E) が縮み山側 (D) が伸びるという偏圧作用が確認できた. 経時変化としては, 天端沈下については, 計測開始直後から下半通過後に至るまで大きく増大し, 下半切羽通過後 49.2mm で収束した. 上半水平変位 (F) については, 上半切羽通過時は 2mm 程度と小さな変位量であったが, 下半切羽通過時にも変位が増大し, 最終的に 11.7mm で収束した. -20 STA 変位量 (mm) D I F E 天端沈下 ( 山側 ) D F I 天端沈下 D E F I E ( 川側 ) 60 3 月 1 日 3 月 21 日 4 月 10 日 4 月 30 日 5 月 20 日 6 月 9 日 図 A 計測経時変化図 b) 縫地ボルト軸力測定図 に示したとおり, 山側 ( 測線 C), 天端 ( 測線 F), 川側 ( 測線 J) の3 箇所において縫地ボルト軸力計を設置し, ボルトに発生する鉄筋応力測定を行った. 以下にデータ分析結果について述べる. 1トンネルセンター ( 測線 F) 測線 Fに関しては地表面に近いF-0.5 の位置では上半通過時に引張応力 25MPa が働き, その後, 下半掘削時にはさほど影響もなく収束した.F-2.5 では上下半切羽通過直前に一旦急激に圧縮力が働き, 切羽到達と同時に引張側へ移行し, その後, 圧縮応力が増大した. これらの挙動については, 切羽に近いF-2.5 において垂直縫地工法の特長といわれる下支え効果 ( 吊下げ効果 ) が発揮されていたと考えられる. 107

113 2トンネル山側 ( 測線 C) 測線 Cでは, ほとんどの測点が上下半通過前にわずかに圧縮側へ動き, 切羽通過とともに引張応力が発生していた. これはトンネル掘削のゆるみの影響と考えられた. 本測線の内で C-10.5 と C-15.5 の測点において他と異なるデータが得られた.C-10.5 では, 上半切羽が近づく前から引張応力が作用しており, 一部存在の確認された弱層の影響であると考えられた. また,C-15.5 では, 切羽到達前より山側で圧縮, 川側で引張応力が発生し, ボルトの曲げ挙動が観察された. 上半切羽通過直後にそれぞれ一旦応力が小さくなったが, その後一気に大きくなり,( 山側 331MPa, 川側 174MPa) 下半切羽通過時には再び値は小さくなり最終的には収束した. これについては C-15.5 付近がちょうど弾性速度の層境にあたり, 上半切羽通過時には上部の層がすべりの兆候を示していたものと考えられる. 3トンネル川側 ( 測線 J) 測線 Jの上半側壁部位置にあたるJ-4.5 では上, 下半切羽通過時に圧縮応力が作用しており,A 計測からも観察された偏圧の影響によるもの, 上半基盤部分が比較的良好であった事によるものと考えられた. また,J-2.5 においては他の測点と異なり, 山側に引張, 川側に圧縮応力が発生しており, この挙動から, 基盤部分に根入れされた縫地ボルトが偏圧の作用に対して抑止的な挙動していることが確認された. (MPa) C ( 圧縮 ) 0 ( 引張 ) 山側鉄筋応力川側鉄筋応力 (MPa) -50 ( 圧縮 ) F 0 50 ( 引張 ) 弱層部 (10.5) (2.5) CL (MPa) J -40 ( 圧縮 ) 0 40 ( 引張 ) (15.5) S.L. (4.5) 図 縫地ボルト軸力測定結果 108

114 ( 圧縮 ) 切羽離れ (m) ( 切羽 ) 山側川側 鉄筋応力 (MPa) ( 引張 ) 図 ボルト軸力経時変化図 ( 測線 (F)) c) 地中水平変位測定 1 山側 ( 測線 A) 地形的な特徴から X 方向 ( トンネル横断方向 ) の変位が Y 方向 ( トンネル縦断方向 ) の変位に比べ卓越していた.X 方向の深さ方向の変位分布を見ると図 に示すとおり, X-10 で山側へ,X-12~16 で大きくトンネル側 ( 川側 ) へ変位していた. これはトンネル掘削の影響 ( 応力解放 ) によるものと考えられた. なお,X-0~8 に関しては上方に行くにつれて川側への変位が大きくなっており, 上部層の地山の沈下と斜面方向へのすべりの兆候が確認された. また, 切羽の進行方向 (Y 方向 ) の変位状況に着目すれば, 切羽が計測断面の直前に近づくまでさほど変位を生じておらず, 垂直縫地工法による先行変位抑制効果が図られていたものと判断できた. 川側 ( 測線 K) トンネル横断方向では上半切羽通過時より変位を生じた. 水平変位は X-0~4 で現れており, 特に上方では 10mm 程度川側へ変位していた. しかしながら,X-6 以深ではほとんど変位は見られず,X-6 以深がトンネル上半盤より下方に位置し, 基盤部が良好であったため, トンネル掘削による影響が小さかったものと考えられる. 測線 A (mm) (X-8) (X-10) 弱層部 (X-16) (X-12) CL 測線 K (mm) S.L. (X-4) (X-6) 図 地中水平変位分布図 109

115 (6) 逆解析に基づく斜面安定管理 厳しい施工条件の下で積雪により二次的な対策が困難であるという事もあり, 掘削時に リアルタイムな挙動把握と対策の検討が必要であるといった観点から, 本トンネルにおいて実施したA 計測および地中水平変位を用いて逆解析を実施することでトンネルを含めた周辺地山全体のひずみ状態を各施工段階毎に把握し, 安全性に対する評価を行うとともに追加対策の有無について検討を行った. 1) 逆解析手法の概要逆解析手法には従来から1トンネルを対象として地山の初期応力と弾性係数を未知数として計測された変位を再現できるようこれらの未知数を逆算するものと2 斜面掘削を対象として降雨等地山強度の劣化に伴い生じる変形を考慮できるよう, 地山自身の自重を外力として地山の弾性係数およびせん断剛性の低減率 (m: 異方性ハ ラメーター ) を未知数として逆算するものがある. トンネル掘削に伴う斜面の不安定化は1および2の両方より発生するものであるため, 今回は1と2をカップリングした逆解析手法によりトンネル掘削を考慮した斜面全体の安全性を評価した. 図 に逆解析を用いた安定管理フロー図を示すが, 計測変位をもとに逆解析を行い, 逆算された弾性係数を用いてFEM 解析を行うことでトンネル周辺および斜面全体の地山最大せん断ひずみ分布を求める. このひずみ分布と地山条件より定まる限界ひずみ ( 管理基準値 ) を比較することにより施工時の安全性について評価を加えた. なお, 本トンネルでは調査ボーリングのデータを参考に管理基準値を一般部 1.0%, 弱層部 1.3% と設定した. 変位計測デ - タ地中水平変位 トンネル壁面変位 トンネル断面 トンネルと周辺地山のモデル化 逆解析 材料定数 FEM 解析 最大せん断ひずみ分布図 限界ひずみ 最大せん断ひずみ 斜面全体の安全性の評価 図 安定管理フロー図 110

116 2) 解析結果の評価と対策図 の解析結果に示すとおり, 逆解析により実測変位の性状がほぼ表現できている. 今回のモデル化では計測変位の特徴を表現するため, 斜面方向のせん断抵抗の低減を図り, 調査ボーリングや垂直縫地施工時のスライム等を参考にモデル化を行い, 弱層部の設定, 垂直縫地施工範囲の設定等の工夫を行った. 一例として図 に上半掘削後の地山最大せん断ひずみ分布を示す. トンネル山側側壁部と川側脚部において限界ひずみ 1.0% を越える箇所が見られるが, 山側側壁部でひずみ値の最大が 1.1% でその領域も壁面のごく一部である事からトンネル全体の安定には影響はないと判断した. また, 川側脚部では限界ひずみ 1.0% を越え最大 2.4% のひずみが発生し, その領域も広範囲であったことから, 斜面への影響を考慮して脚部補強工 ( 脚部ボルト ) を追加対策した. なお, 弱層部では最大で 1.0% の最大せん断ひずみが生じたが, 限界ひずみの 1.3% を越えるものではなかった. X 方向変位 (mm) 弱層部 深度 (m) 計測値解析値 図 解析結果と計測値の比較 図 最大せん断ひずみ分布図 111

117 (7) 施工状況垂直縫地工法を施工した区間におけるトンネルの施工に関しては, 支保パターン DⅢ( 鋼製支保工 H-200) により上半先進ベンチカット工法にて実施した. 掘削時の地山状況は, 概ね事前調査で予想された通りであったが, 沢部 (STA12+20) 付近の天端より両肩にかけて土砂層が存在し, 鏡面にも多数粘土が介在し, 掘削時には肌落ちが頻繁に見られる状況であった. しかしながら, このような地山状況の中で垂直縫地工法を採用した効果で大規模な追加対策をする事もなく, 核残し, 吹付コンクリート, 鏡吹付け, 脚部補強工といった軽微な対策により対処できた. 施工状況からは, 横断面のボルト配置を 2.0m 間隔としたため所々ボルト間の中抜け現象が生じており, ボルトピッチについては 2m 程度が限界であると考えられた. 写真 施工状況 (8) まとめ今回, 採用した垂直縫地工法は, 坑口部の補助工法として事例が増えているが, 定量的な評価が難しく, 設計手法が確立していない状況にある. 本トンネルにおいて, 鉄筋をせん断杭として設計し, 挙動計測の結果分析から, その効果 ( 吊下げ効果, すべり抑止効果 ) を定量的に把握でき, 設計手法の妥当性について確認できた. また, 掘削においても地山補強効果で切羽安定が図られ, 施工時に逆解析による斜面安定管理を適用することで, 掘削時に軽微な追加対策 ( 吹付け, 鏡吹き, 脚部補強工 ) で厳しい条件下の施工を完了できた. 112

118 3.5.3 地すべり地形におけるトンネルでの適用 ( 大崎横田トンネル工事 ) (1) 概要山岳トンネル坑口部においては, 一般的に地形 地質的に不安定な場合が多く,NATM の支保メンバーである地山のアーチ形成が不十分となりやすい. したがって, 坑口付けや掘削などにより, 斜面崩壊, 偏土圧の作用, さらには地表面への影響による地すべり等を誘発し, その対策に難渋したり, 結果的に多大な経費を要する場合もある. 近年, 補助工法の進歩につれて坑口部の施工条件が厳しくなっていることを反映して, パイプルーフ工法をはじめとしたアンブレラ工法の採用事例が多くなっている. 補助工法の検討にあたっては坑口部の施工条件, 工期, 工事費等に関して比較検討を実施した上で効果的な工法を選定することが重要となる. ここでは, 地すべり地形を呈する坑口部において採用した複合注入式多段フォアハ イリンク (AGF-HITM) に関して, 地形 地質条件に基づき実施した設計 計画について述べるとともに, 施工時に得られた計測結果を分析 評価する事で補助工法の効果と設計の妥当性に関して検証結果を示す. 写真 坑口部施工状況 (2) 適用トンネルの概要 AGF-HITM( 複合注入式多段フォアパイリング, 以下 HITM と称す ) を適用した大崎横田トンネルは, 舞鶴自動車道春日 IC と兵庫県和田山町を結ぶ春日 和田山道路の内, 同県氷上郡氷上町に NATM で施工中の延長 L=464mの山岳トンネル工事である. トンネル周辺の地質は, 基盤岩として古生代二畳紀 ~ 中生代ジュラ紀のいわゆる丹波層群の堆積岩類 ( 砂岩 頁岩互層, チャート, 緑色岩類 ) が分布し, その上層に新生代第四紀の崖錐堆積物が厚く堆積している状況であった. 本トンネルの工事始点側である, 横田側坑口部分に関しては, 傾斜の緩やかな斜面が続き, 地すべり跡地と思われる地形を呈するとともに, トンネルの軸線に対して, 左右の土被りが異なる偏圧地形であった. 事前の地質調査結果 ( 天端水平ボーリング ) より坑口から約 60m 付近に断層破砕帯 (F -2 断層 ) が確認されており, 既設ボーリング孔からは 60 リットル /min 程度の恒常湧水が観察されていた. 113

119 これらの状況を受けて, 排水を主目的とする追加水平ボーリング (L=60m,2 本 :SL 部分 ) を実施したが合わせて実施した地質確認状況から破砕帯の傾斜が当初と異なりすべり目であることが判明した. したがって, 坑口の施工に際しては, 上部斜面への影響を抑制し, 地すべり等の誘発を防止できる補助工法の採用が必要であると判断した. なお,SL 付近の地山劣化も著しく, 地耐力不足も懸念された ( 写真 ). 写真 坑口部全景 (3) 補助工法の検討本トンネル坑口部の施工にあたっては, トンネル掘削の影響で地すべりを誘発する事が懸念されたことから, 上部斜面に対してゆるみの影響を極力抑える事のできる切羽安定対策工 ( 補助工法 ) の採用が必要であると判断された. 補助工法の検討にあたっては,1すべり対策を兼ねた切羽安定対策,2 地耐力確保のための脚部補強工,3 鏡面の安定対策といった観点からそれぞれ検討を実施した. 1) 切羽安定対策坑口部切羽安定対策としては, 坑外, 坑内からの対策に分類できるが, 本トンネルの施工条件をふまえ 1 パイプルーフ工法 ( 坑外 ) 2 注入式長尺先受け工法 3 ウレタン圧入式フォアポーリング 4 薬液注入工法 5 垂直縫地工法 ( 坑外 ) の5 工法を一次選定し, 表 に示すとおり信頼性, 施工性, 経済性といった観点から比較検討を実施した. 比較検討の結果, 施工性, 経済性といった観点から長尺先受け工法とウレタン圧入式フォアポーリングを二次選定したが, 坑口部では上部斜面への影響を押さえるための先行変位抑制効果の高い注入式長尺先受け工法を最終的に選定した. 注入式長尺先受け工法としては, これまで AGF 工法の採用事例が多く報告されているが, 本トンネルの場合, 地質が複雑で岩種的には砂岩 頁岩互層, チャートであり岩塊が硬く亀裂が多い状態であること,AGF 工法は一般的に拡幅を伴うためかえってゆるみを助長す 114

120 る恐れがあったため, 無拡幅で地山の変化に応じて打設本数や打設範囲を変更する事が可能な HITM の採用に至った. 表 坑口部補助工法比較検討表 凡例 : かなり有効, 効果的 : 効果が期待できる : 効果が少ない : 効果が期待できない, 対策工 1 パイプルーフ工法 2 注入式長尺鋼管先受工法 3 ウレタン圧入式フォアホ ーリンク 4 薬液注入工法 5 垂直縫地ボルト工法 C L パイプルーフ C L 長尺ウレタン先受け工法 (HITM 工法 ) C L 注入式フォアポーリング C L 薬液注入 C L 垂直縫地 120 S.L. 切 羽 120 S.L. 切 羽 120 S.L. 切羽 S.L. 切羽 S.L. 切羽 概要図 信頼性 施工性 経済性 工期 上部緩み土圧に対して坑内より剛性の高いパイプを平行に施工し, トンネル施工時に支保工で受けながら掘進する クラウン部崩落, 崩壊, 地表面沈下抑制には信頼性が高く, 施工実績も多い パイプを支保工で確実に受けていくため, 緩みを抑制し切羽安定性もよく上部斜面への影響も抑えられる 地質によっては, パイプ間からの地山の抜け落ち, および余掘りが懸念される. 亀裂の多い地山やクラッキーな地山では掘削が困難となる パイプルーフ推進用の架台が必要となる 延長が長くなると大口径のパイプ施工となり割高となる トンネル掘削に先立ち施工を完了させる必要があるため, 工期に大きく影響する 坑内より剛性の高い鋼管パイプ (φ89.1mm L=6.0m) をダブルに打設し, シェル構造により前方地山のゆるみを抑える 長尺でかつダブルに鋼管を配置するため, 先受け効果が高い 地山の変位に応じて施工規模を変更できる 拡幅が不要で牽引方式によるため施工が確実 特別な機械を必要としない 4m 毎に打設本数や範囲を変更でき, ウレタン系とセメント系の複合注入により経済的 鋼管打設は4m 毎の打設となるが多少時間がかかる 坑内より天端付近に L=3m,4m の圧入ボルトを打設し, ウレタンを注入することで, ウレタン改良体による地山固結改良をする セメント系の注入材に比べて粒子が細かく流動性が高いため, 注入の確実性は高いが先行変位は止められない 限定された範囲を確実に固結改良でき改良ゾーンの強度, 効果の確実性も高く実績も多い 掘削サイクルに取り込める 特別な機械を必要としない 注入範囲は薬液注入工法に比べて少なくて済むが, 材料が高価で経済的には不利 掘削サイクルに取り込めるため, 工期的に若干の遅れが出る程度である 坑内より天端付近を中心にセメント系の薬液を注入し, 地山を固結改良する 湧水や亀裂の多い地山での逸散等により, 注入の確実性に懸念があり十分な改良効果が望めない 均一な地山改良ができれば, 切羽の自立性の向上, クラウン部地山の崩落, 崩壊防止に効果が ある 地表からの作業は可能であるが, 削孔延長が長くなる 坑内の施工の場合, 掘削サイクルには取り込めない 注入範囲が広範囲となり注入量も多くなることから経済性は劣る 注入作業に時間がかかり掘削サイクルに取り込めない 地表面ボーリングを行い, セメントミルクを注入した後, 縫地ボルト D32(SD35) を挿入することにより, 地山の縫付け, および吊下げ効果を発揮する すべり土塊を多くもの鉄筋で補強するものであり, すべりの方向性に左右されず効果がある 別途先受け工が必要 施工ヤードが斜面となり, 工事用進入道路及び足場が必要となる 斜面作業となり施工性に劣る 斜面上の施工では費用がかかる トンネル掘削時に先受工の併用が必要 事前に施工できるため掘削サイクルには影響を及ぼさない 総合評価 2) 脚部補強対策水平ボーリングにより,SL 付近の地山劣化が確認されており, 今回, 注入式長尺先受け工法 (HITM) を採用するにあたり, 前方地山の荷を受け支保工反力が大きくなる可能性が高いことに配慮して, 地耐力対策として脚部補強工を検討した. 通常の側方施工では, 核残しで掘削するため, 核 (3 間 (3m) 程度 ) と切羽作業の支障を考えれば, 切羽離れ 0.5~1.0D(D: トンネル径 ) の時間遅れを生じ, 図 に示すとおり, 脚部補強完了までの先行沈下は免れない. したがって, 本トンネルでは, 支保工沈下を極力起こさないように切羽前方に向け先行打 設を実施した. 天端沈下の割合 100 (85) 切羽前方切羽後方 50 (40) 0 0.5D -2D -1D 0 1D 2D 3D 切羽からの距離 図 トンネル掘削による壁面変位の挙動 115

121 3) 鏡面の安定対策坑口付けに際しては, トンネル周辺の法面を急勾配 1:0.5 で掘削するため, 法面吹付け及びロックボルトによる補強を実施して施工した. また, 亀裂の傾斜が坑口に向かってすべり目であることから, 鏡面が不安定になることが考えられたため鏡吹付および鏡ボルトによる鏡面の安定対策ついて検討した. 鏡ボルトに関しては, 近年トンネルの大断面化, 偏平化や坑口条件が厳しくなってきたことを受けて長尺鏡ボルトの採用事例が増えており, 今回切羽安定対策として AGF- HITM を採用することもあり, 施工サイクルや定着の確実性に着目して L=9mの長尺鏡ボルトを採用した. なお, 長尺鏡ボルトの材料に関しては, トンネル掘削時の切断作業の安全性, 地山状況を考慮して自穿孔タイプのファイバーボルトを採用した. 断面内のボルト配置についてはこれまでの実績を参考にして図 に示すように, 打設ピッチを2 mと設定し,1 本 /4m2とした. HITM 管 L=12m 6.95m 2m 2m 2m 45 CL S.L AGF-HITM L=6000,8 本 S.L. 長尺鏡ボルト L=9m,13 本 AGF-HITM L=12000,47 本 m 0.8m 1.1m ( ゆるみライン ) 鏡ボルト L=9m 0.95m @2000= 図 鏡ボルト配置図 116

122 (4) AGF-HITM( 複合注入式多段フォアパイリング ) の特長 AGF-HITM( 以下 HITM) の施工は, 通常の AGF 工法に比べて, 拡幅を伴わないことでゆるみが少ない. 主な特徴としては, 1 鋼管を千鳥配置でラップさせることで先端のラッパ部での地山抜け落ちが少ない. 2 注入材の養生時間に着目し, 切羽進行に合わせて複合注入することで経済的である. 33~4m 毎に地山を確認した上で切羽状況に応じて支保規模を変更することが可能である. 4 削孔方式に牽引方式を採用し, 精度を高めるとともに鋼管径が 89.1mm で小口径であるため, 穿孔時間が早い. といった事項であり, 鋼管配置を適切に行うことで, 前方地山に剛性の高いシェルゾーンを構築し, 高い先受け効果を発揮することにより緩み抑制効果が期待できる. 図 HITM 注入削孔システム (5) 補助工法の設計と施工土被り 1D(14m) 以下の部分に関しては,HITM で計画したが, 今回は上部斜面への影響をできるだけ少なくするために図 に示すように,1 ステップの打設長を 8m 鋼管 +4mポリエチレン管の L=12mと設定したが, 坑口の第 1スパンに関しては切削の必要が無いことから 12mの鋼管とした.1 断面当たりの鋼管配置に関しては, 天端 120 範囲に坑口第 1スパンではダブル配置 (@300,47 本 ) 坑内に関しては, 図 に示すように, 山側をダブル配置 (@300), 川側をシングル配置 (@600) で計画し, 施工範囲に関しては掘削時の切羽観察結果に基づき地山の劣化度合い, 湧水状況に応じて変化させた. 長尺鏡ボルト 9m HITM 12m( 鋼管 ) ( 坑口部 ) HITM 4m( プラスチック系管 )+8m( 鋼管 ) ( 坑内 ) S.L 脚部 HITM 6m 図 坑口部 HITM 施工縦断図 117

123 ロックボルト 10 本 C L HITM 47 本 長尺鏡ボルト L= 本 山側 HITM 18 本 C L 川側 坑口部断面 脚部 HITM L= 本 坑内 (No.15) 断面 図 坑口部 HITM 施工断面図 なお,HITM の設計にあたっては, パイプルーフの設計に準じ Terzaghi のゆるみ荷重を考慮して鋼管の応力照査を実施した. 脚部補強工も HITM 鋼管を用い支保工との離れを考慮し打設長を 6m(3m 鋼管 +3mポリエチレン管 ) とし,3m 毎に打設した. また坑口部の長尺鏡ボルトについては, 施工実績から打設ピッチを 2m 2m( 打設密度 1 本 /4m2) で施工した. なお, 鏡ボルトに関しては 2 スパン目からは切羽の自立状況が好転したため部分的な鏡吹付けだけで対応できた. 計測データからの効果の分析は後述するが, 施工時の切羽状況から判断すれば, 地山の肌落ちも少なく掘削に支障を生じることもなく期待した効果が得られたものと判断された. 図 に鋼管配置平面図を示し, 写真 に HITM 部掘削時の地山安定状況を示す. 展開図 縮尺 1:150 No No No ( 坑口 ) ( 凡例 ) 記号 補助工法 長尺先受鋼管脚部補強鋼管 ロックボルト注入式フォアポーリングフォアポーリング CL ( 長尺先受鋼管本数 ) 12m:47 本 ( 坑口部 ) 8m:23 本 1 断面 = 23 本 :18 本 2 断面 = 36 本 :16 本 4 断面 = 64 本 ( 脚部補強鋼管本数 ) 図 鋼管配置平面図 6m:8 本 ( 坑口部 ) 3m:4 本 12 断面 = 48 本 写真 HITM 部掘削状況 118

124 (6) 計測結果と効果の分析坑口部の施工においては, トンネル掘削時の安全管理のために以下に示す項目に関して計測管理を実施した. 1 計測工 A( 内空変位, 天端沈下 ) 2 地表面沈下 B 3 地すべり伸縮計 4 鋼管歪み測定これらの計測結果により得られた知見と HITM の効果に関して以下に考察する. a) 計測工 A の結果を図 に示すが, 天端沈下量は 6.5mm, 内空変位量は 13.8mm で収束しており, 管理基準値の注意レベルⅠ( 天端沈下 :25mm, 内空変位 50mm) 以下であった. また, 内空変位の初期変位速度も 1.0mm/day となり, 通常のDパターンの初期変位速度に比べて小さい値を示した. 通常, 坑口部で土被りの薄いDパターン断面では, 地山のアーチアクションが形成されずトンネル内空変位に比べて天端沈下が卓越するようなモードを示すことが多いが, 計測結果からすると, このような傾向は見られず,HITM によるアーチ形成効果が発揮されたものと判断された. b) 地表面沈下 B の結果からも明確なすべり挙動は見られず, 沈下量の絶対値も管理基準値内で収束した. c) 伸縮計の測定結果を図 に示すが, 伸縮計の測定結果を見るとトンネルの掘削時に断続的に変位を生じている. これらの変位は累計変位で 3mm( 引張側 ) 日別変位で最大 0.8mm/ 日であったが HITM の効果により地表への影響を最小限に押さえられたものと判断される. d)hitm 鋼管歪み測定結果に関して, 図 に各測点の経時変化を示し, 図 に上半掘削完了時の歪み分布を示した. これらの結果を見ると, 最終的な歪み値は天端 (1.5m 地点 ) において,400μ( 応力換算 78N/mm 2 ) で収まった. 経時変化から, 切羽が9m(HITM4m 地点 ) の時に 10m 前後の測点に変化が生じており, 掘削の影響は前方 5m~6mまで及んでいることが確認できた. しかしながら, 分布図を見てもわかるように, 上半完了時で 10m 付近の歪みは ±100μ 程度であり, 鋼管ラップ部分においてもさほど大きな歪みを生じることがなかった 天端 変位 (mm) mm 初期変位速度 1.0mm/day -13.8mm 切羽 ( 上半 ) 切羽 ( 下半 ) 切羽 ( インバート ) 月 18 日 8 月 2 日 8 月 17 日 9 月 1 日 9 月 16 日 10 月 1 日 10 月 16 日 10 月 31 日 切羽位置 (m) 内空 ( 上半 ) 内空 ( 下半 ) 天端沈下上半水平下半水平上半 下半インハ ート 図 計測工 A 測定結果 119

125 引張 累計変位 (mm) 圧縮 /17-2 6/27 7/7 7/17 7/27 8/6 8/16 8/26 9/5 9/15 9/ 掘削掘削掘削掘削掘削掘削掘削下半掘削 日別発生変位 ( 圧縮 ) 日別発生変位 ( 引張 ) 累計変位 ( 圧縮 ) 累計変位 ( 引張 ) 図 地すべり伸縮計測定結果 日別発生変位 (mm) 上半通過 経時グラフ測定管 -B 下半通過 μ 切羽位置 /6/18 00/6/21 00/6/24 00/6/27 00/6/30 00/7/3 00/7/6 00/7/9 00/7/12 00/7/15 00/7/18 00/7/21 00/7/24 00/7/27 00/7/30 00/8/2 00/8/5 00/8/8 00/8/11 00/8/14 00/8/17 00/8/20 00/8/23 00/8/26 00/8/29 00/9/1 00/9/4 00/9/7 00/9/10 00/9/13 00/9/16 00/9/19 00/9/22 00/9/25 00/9/28 12 B B B B B B B B B B B B-11.5 経時 図 HITM 鋼管歪み測定結果 ( 経時変化 ) ひずみ (μ) パイプひずみ計測結果 (7/20 上半通過時点 ) 左肩部天端部右肩部 距離 (m) 図 HITM 鋼管歪み分布 HITM の先受け効果とメカニズムに関して考察すると, 図 に示すとおり AGF 工法が 45cm ピッチに打設した鋼管の曲げ剛性による梁としての先受け効果を考えるのに対し,HITM では多段打設により結果的に鋼管のピッチが 30cm となり AGF 工法に比べて鋼管の打設が密になることにより, 鋼管としての曲げ剛性は若干小さいものの改良範囲全体として剛性の高いシェルゾーンが形成されることで先受けの効果が得られるものと考えられる. 120

126 AGF 鋼管と注入材 鋼管の曲げモーメント 掘削 鋼管の変形 <AGF 工法 > φ=114.3cm A=20.4cm 2 t=6.0cm Z=52.5cm 注入材による地山改良 AGF 鋼管による地山補強 <HITM 工法 > φ=89.1cm A=14.45cm 2 t=5.5cm Z=28.45cm 図 先受けのメカニズム 1) (7) まとめ偏圧地すべり地形の坑口部という厳しい施工条件の下で補助工法として AGF-HITM を用いることで上部斜面への影響を最小限に押さえ, 無事掘削を完了できた. 施工時に安全管理のため実施した計測結果によれば, 土被りが小さいにもかかわらず, 標準部同様の挙動を示しており, 地表面の地すべり挙動も見られなかった. また,HITM 鋼管の歪み計測により掘削時の挙動把握を試みたが, 鋼管ラップ部分においても AGF 工法とは異なり多段となることで, 大きな歪みの集中を生じることもなく確実な先受け効果を確認することができた. 今回, 地質変化の著しい偏圧地形の坑口で AGF-HITM の採用を実施したが, 地すべり地形を呈した坑口部での補助工法の設計において複合注入式多段フォアパイリング (AGF-HITM) の適切な配置に加えて, 脚部補強工 ( 先行打設 ), および長尺鏡ボルトといったアンブレラ工法の採用により, 低土被りで脆弱な地山においても切羽前方に剛性の高いシェルゾーンを形成することで上部に影響を与えることなく施工を完了できた. このような環境の中でも今回採用した複合注入式フォアパイリング (AGF-HITM) は, 施工時に地山条件を確認して鋼管配置を決定するため, 確実かつ経済的な先受け工を実現することができるものと考えられる. 写真 坑口施工完了状況 121

127 3.6 環境影響対策に配慮した補助工法の設計と適用 - 都市部におけるメガネトンネル ( 北須磨工区 ( 北 ) トンネル工事 ) の施工 はじめに 都市部におけるトンネルの施工では, 用地の取得が困難なことから, 上り線と下り線を中央部分のセンターピラーを共有する様なメガネトンネルで計画されることがある. このような特殊な断面の施工ではトンネル同士の相互への影響や周辺環境に対する沈下等の課題がある. 一方, これまでの施工実績が少なく, トンネル掘削時の挙動と切羽安定対策や設計手法が確立されていないのが実情である. ここでは, 数値解析に基づきトンネルの設計検討を行った施工事例について述べる 適用トンネルの概要 神戸市では, 南北に伸びる幹線道路の整備が遅れているとされており, そのニーズに応えるべく建設が進む神戸市道高速道路 2 号線は自動車専用道路で延長 9.5km の内,65% がトンネル構造となっている. 今回施工した北須磨トンネルは, 高速 2 号線の北部に位置し, トンネル延長 L=1,107.5m の内,938m が山岳トンネル区間, 山岳トンネルの北側 110m, 南側 59.5m が開削トンネル区間であった. トンネルが計画された地域は写真 に示すとおり, 都市部であり, 種々の厳しい施工条件の下での施工であった. トンネルの構造は, センターピラー共有型双設トンネル, いわゆるメガネトンネルで, メガネトンネルとしては日本最長である. また, 本工事は詳細設計を含む発注となっており, 施工事例が少ないためメガネトンネルの設計方法が十分確立されていない中で, メガネトンネルの支保構造, 周辺への影響等を検討, 確認しながら設計 施工を実施した. 写真 工事域全景 (1) 工事の概要トンネル工事は, 中央導坑を北側立坑及び南側坑口より施工し, 導坑掘削後, 南北両側坑口より工区境に向け, センターピラーを構築した. 南側本坑坑口は, 南行き本線と一般道路との入路合流部となるため, 片側三車線の大断面のメガネトンネルとなった. 一方, 北側本坑に関しては当初立坑より施工を開始し, 開削トンネルの底盤の構築が完了した段 122

128 階でスライドフォームを使用して開削トンネルと本坑掘削を並行作業で行った. また, 先進本坑は, 全体工程短縮を目的として, センターピラーの構築と並行して掘削を進めた. なお, 神戸層群における本坑掘削では, 先進坑掘削の影響が後進坑掘削時に及ばないようにするため, 上半切羽離れ約 100m を確保して施工した. トンネル中央部の硬岩区間では周辺への環境 ( 騒音 振動対策 ) に配慮して割岩工法を採用した. 写真 割岩工法施工状況 (2) 地質 地形及び周辺環境図 にトンネルの全体平面図を示す. また, 図 に示すとおり, 当該地の地質は新生代第三紀神戸層群が広く分布し, トンネル中央付近では, 六甲花崗岩が貫入して分布していた. 神戸層群自体は礫岩, 砂岩, 泥岩, 凝灰岩が 1~6m 程度の繰返しにより層を形成し, 東西断面では, ほぼ水平構造となっていた. 神戸層群の一軸圧縮強度は,5~60N/mm 2 で軟岩から中硬岩の範囲であるが, 神戸層群特有の短時間で風化が進む性質を併せ持つ. 六甲花崗岩は,100~300N/mm 2 の強度を有する極めて硬質な岩盤であった. また, 北側坑口部は, かつて谷筋であったところを周辺開発時の発生土で埋立て, 造成した盛土部と神戸層群からなり, 地山状況がトンネル断面の左右で異なっている上, きわめて脆弱な状態の地質であった. さらに, トンネルの周辺環境としては, 市街地での施工となったため, 地上には営業店舗, マンション, 集合住宅, 病院, 一般住宅地が広がり, さらに県道, ガス, 水道, 及びNTT 等のライフラインが埋設されていた. 図 全体平面図 123

129 図 地質縦断図 長大メガネトンネルの設計と適用 (1) メガネトンネル施工上の課題メガネトンネル施工上の課題として以下の事項が考えられた ( 図 ). 1トンネルの応力干渉域 ( 中央導坑上部 ) における地山の安定性 2センターピラーの作用荷重と安定性 ( 沈下, 傾斜, 内部応力 ) 3 後進本坑掘削時の掘削解放力による先進支保工への影響 4 各施工段階における計測結果の設計へのフィードバック 5センターピラー直上部の排水方法さらに, 北須磨トンネル特有の課題として上記に加えて 6 北坑口側土砂埋戻部掘削時の地表面沈下及び地下水低下 7トンネル中心部における硬質な花崗岩の掘削 8 長大メガネトンネルの施工における工期短縮なお, 写真 に坑口部の状況を示し, 図 に標準断面図を示した. 後進側掘削に伴う先進側支保への荷重増加 応力干渉による不安定化 本坑 左右支持条件の違いによるセンターピラー側への荷重増加 剛な支持 柔な支持 荷重の偏りによる回転 中央導坑 先行本坑 後行本坑 写真 北側坑口状況 支持力不足による沈下 先行本坑 中央導坑 後行本坑 図 メガネトンネル施工上の課題 124

130 北行線 南行線 トンネル中心道路中心トンネル中心道路中心 図 トンネル標準断面図 (2) トンネル構造の設計北須磨トンネルは用地幅を最小とする目的と始点側 ( 南坑口側 ) の道路線形上の制約からセンターピラーを共有するメガネトンネルで計画された. トンネル構造の検討に当たっては, 事前の地質調査結果から一部, 旧谷筋に並行して路線が計画されているもののトンネル両外側の地耐力は確保できるものと判断されたこと, 延長が約 1kmと長く導坑施工による工程及び経済性の関係から中央導坑案が採用された. なお, 中央導坑の規模に関しては導坑自体の施工の工期短縮と中央部の硬岩部の施工において, 周辺環境への影響から発破掘削の採用が不可能なこともあり本坑掘削と同様の掘削機械 (200kw 級 ) が使用可能な断面積 A=36 m2の比較的大きな導坑 ( 写真 ) で計画されたが, センターピラー構築時には非常に狭いスペースでの作業となり難航した. 写真 センターピラーセントル 125

131 (3) 補助工法の検討と施工土砂部の補助工法の検討においては,FEM 解析によるステップ予測解析を実施し, 各施工段階での安全性を照査した. 採用工法の選定に関しては補助工法の種類により 1 補助工法無し,2ウレタン圧入式フォアポーリング( 以下 :PU-IF),3 薬液注入 ( 地上から ),4PU-IF+ 薬液注入,5 高圧噴射式フォアパイリング ( 以下 :RJFP),6 注入式長尺フォアパイリング ( 以下 :AGF),7 岩盤固結の計 7ケースを考え, 各補助工法の効果を地表面沈下量の最大値により評価した ( 図 , 表 参照 ). また, 補助工法による改良効果はトンネル掘削時に改良領域の地盤定数 ( 弾性係数, ポアソン比 ) を向上させることにより表現した. 表 に改良体の定数の一覧を示す. 解析 STEP は施工順序を反映させて表 のように設定した. 初期応力は自重解析によって算出し, 掘削による応力解放は掘削時に 40%, 支保工設置時に 60% 作用させた. なお, 補助工法として長尺先受けである AGF,RJFP を施工するケースでは, 支保工設置時の応力解放率を向上させることにより, 先受け効果を表現することとした. 本検討の結果, 施工完了時に地表面沈下の目標値が達成でき, 施工性, 経済性を考慮して, 補助工法としては PU-IF+ 薬液注入 ( 地上から ) を選定した. 実際の施工時には, 地上構造物直下で地表からの薬液注入が出来なかった部分で導坑掘削時に事前解析よりも大きな沈下を生じたため, 導坑を利用した注入を追加施工して管理目標値内で施工することができた. 9 砂岩 8 泥岩 7 凝灰岩 6 泥岩 5 砂岩 4 礫岩 営業店舗 10 土砂 県道 3 砂岩 2 礫岩 1 泥岩 南行き線 中央導坑 北行き線 層番号 図 FEM 解析断面 (No-44-10) 表 地盤定数一覧 地質 弾性係数 E(MPa) ホ アソン比 ν 単体重量 γ ( ) 10 土砂 砂岩 泥岩 凝灰岩 泥岩 砂岩 礫岩 砂岩 礫岩 泥岩

132 表 補助工法の種類と改良定数 補助工法の種類 弾性係数 E(MPa) ホ アソン比 ν 1 補助工法なし 2PU-IF 薬液注入 PU-IF+ 薬液注入 RJFP AGF 岩盤固結 図 土砂部採用補助工法断面図 図 センターピラー作用荷重図 1) 127

133 表 解析ステップ 解析ステップ 施工手順 掘削応力解放率 STEP0 初期応力算出 ( 薬液注入 ) STEP1 40% ファイバーボルト STEP1 導坑掘削 STEP2 60% STEP2 導坑支保工設置 STEP3 センターヒ ラーコンクリート打設先進坑上半掘削 STEP4 先進坑上半支保工設置 CL STEP3 40% STEP4 60% S.L. STEP5 干渉部注入先進坑下半掘削 CL 側方注入改良 注入式ボルト STEP5 40% STEP6 先進坑下半支保工設置 STEP6 60% S.L. STEP7 後進坑上半掘削補助工法施工 (PU-IF 等 ) STEP8 後進坑上半支保工設置 CL CL PU-IF 等 S.L. STEP7 40% (20%:RJFP) (30%:AGF) STEP8 60% (80%:RJFP) (70%:AGF) STEP9 後進坑下半掘削 STEP10 後進坑下半支保工設置 CL CL STEP9 40% STEP10 60% S.L. STEP11 先進坑インバート掘削 STEP12 先進坑インハ ートコンクリート打設 CL CL STEP11 40% STEP12 60% S.L. STEP13 後進坑インバート掘削 STEP14 後進坑インハ ートコンクリート打設 CL CL STEP13 40% STEP14 60% S.L. 128

134 (4) センターピラーの設計と施工 1) センターピラーの検討メガネトンネルの構造の中で重要とされるセンターピラー ( 以下 CP) の検討において過去の事例を参考に前述の図 に示すように荷重の作用幅をトンネル中心間と想定し, 作用高さを指標とした便宜的な荷重図を設定した. また, 図 に過去の実績に基づく荷重作用高さと土被りの相関図を示す. これによると, トンネル片側掘削径を D とした場合の荷重作用高さは, 土砂地山で 2.0D 以下 (1.0 ~1.9D), 岩地山では 1.0D 以下 (0.1~0.7D) となっている. 一方, 土砂部で土被りが 2D 以下の小さい場合について,CPの作用荷重をFEM 解析により算出した. 土被りの小さい土砂部で土被り高さ以上の荷重が作用した結果となった. これは, 上述した想定幅以上の荷重がCPに作用しているためと考えられる. 検討の結果より,CP の作用荷重は, 土砂地山 ( 地山等級 Dの岩種を含む ) を 2.0D, 岩地山を 1.0D と設定した. 作用高比 (h/d) A トンネル ( 土砂 ) B トンネル ( 岩 ) C トンネル ( 岩 ) D トンネル ( 岩 ) E トンネル ( 岩 ~ 土砂 ) F トンネル ( 土砂 ) ( 作用高さ = 土被り高さ ) 土被り比 (H/D) 図 作用荷重と土被りの関係 図 干渉部補強 ( 土砂部 ) 129

135 2) 本坑施工と CP( センターピラー ) 計測結果 CP 上方の干渉部は, 中央導坑, 本坑先進坑, 後進坑の掘削に伴い 3 回以上の応力再配分が生じ, これによって, 切羽の不安定化, 支保荷重や沈下量の増大等トンネルの構造的な問題が生じる可能性がある. そこで,FEM 解析に基づいて補強範囲を設定し, 過去の事例を参考に土砂部や亀裂性岩盤部では注入式ロックボルト, その他の岩盤部では充填式ロックボルトを施工した ( 図 参照 ). CP 軸力, 傾斜を施工段階毎に計測した結果を表 に示す. これらの荷重は, 先進坑掘削後に対し, 後進坑施工後に大幅に増加しており, 干渉部の荷重が後進坑掘削と同時に作用する傾向があった.CP 軸力を作用高さに換算すると, 土砂地山では 0.7~1.8D, 岩地山 ( 地山等級 D) では 1.1~1.2D の作用高さであることが確認できた. また, 地山等級 C の場合は, 坑内のA 計測の結果から地山等級 D に比べ変位量が少ないこと等から, 作用高さは 1.0D 以下と推定される. 一方,CP の傾斜は, 地耐力が十分であることから計測値は小さいものの, 先進坑掘削時には後進坑側に, 後進坑掘削時には先進坑側に数mm傾斜しており, 掘削に伴うゆるみ荷重が CP に作用することが確認できた. 計測結果から判断すると,CP に作用する荷重は, 当初想定した荷重に近い値が作用しており, 本設計の妥当性が検証されたものと考えられる ( 図 参照 ). さらに, 先進坑の鋼製支保工に生じる応力は, 干渉部付近が最大値を示し, 後進坑掘削時における干渉の地山荷重の作用で, 約 100N/mm 2 程度急激に増加することから, 干渉部の補強が支保の安定に重要な要素であることが確認できた. 南行線上半通過後 (H D 離れ ) 北行線上半通過後 (H 現在値 ) 支保工軸力 kN 一次覆工応力 -1.12N/mm 2 支保工軸力 kN 一次覆工応力 -3.02N/mm kN -0.82N/mm 2 南行線側 北行線側 南行線側 北行線側 傾斜計 -6.10(*10-4 rad) 換算変位 H=3.0m 1.8mm 傾斜計 -0.80(*10-4 rad) 換算変位 H=3.0m 0.2mm コンクリート応力 -0.50N/mm コンクリート応力 -2.93N/mm 2 底盤土圧 底盤土圧 kN/m kN/m 2 No ( 主計測断面 1) センターピラー計測値比較図 図 センターピラー計測値 ( 土砂部 ) 表 センターピラー計測結果一覧表 断面 部材 先進坑通過後 後進坑通過後 作用高換算 岩地山 1 CP 軸力 1433KN 4550KN 1.2D (D) CP 傾斜 後進側に1.1mm 先進側に 0.3mm 岩地山 2 CP 軸力 216KN 3143KN 1.1D (D) CP 傾斜 後進側に3.5mm 先進側に 4.2mm 土砂部 1 CP 軸力 1446KN 4898KN 1.7D (E) CP 傾斜 後進側に1.8mm 先進側に 1.6mm 土砂部 2 CP 軸力 1315KN 5392KN 1.8D (E) CP 傾斜 後進側に1.4mm 先進側に 02.1mm 断面 ( ) 内は 地山等級 130

136 3.6.4 施工時の計測管理手法これまで述べたとおり, 本トンネルはメガネトンネルの特殊性に加え, 地上が市街地で施工条件が厳しいことから, 当初より各施工段階での計測結果を設計 施工へフィードバックすることとした. 図 にトンネル部の計測管理フロー図を示す. なお, 計測管理に当たっては以下の事項に留意した. 1FEM 解析等による予測解析を参考に各施工段階での変位の予測, 支保 補助工法の選定 効果を確認した. 管理基準の設定に関しては, 建築物の基礎構造, ライフラインの種類毎の沈下 傾斜やトンネル支保の応力 変状に関する許容値 限界値に準拠し, 解析結果に基づく各施工段階での管理レベルを定めた. 表 に管理レベル一覧表を示す. 2 地上保全条件の厳しい箇所, 坑口部大断面でかつ大規模法面が控えている箇所, さらに支保の変更坑口部大断面でかつ大規模法面が控えている箇所, さらに支保の変更箇所を対象とし, 前述の図 の平面図に示したように, 北工区側に 3 断面, 南工区側に 3 断面, 計 6 断面の主計測断面を設けた. これらの主計測断面では, 自動計測により, 連続かつ精度の高い計測を行い, 速やかな対策の実施に主眼をおいて実施した. 導坑掘削 センターピラー構築 地山状況確認 計測データ分析 事前予測解析 (FEM) < 先進本坑掘削 > 上半掘削 計測 対策工 ( 干渉部補強 補助工法 ) の軽減 (*1) 大きく下回る 対策工 支保ハ ターンの軽減 ( 軽減の場合は安全性を確認 ) 問題なし計測工の強化下半掘削計測 対策工 ( 干渉部補強 補助工法 ) の増強 (*2) 大きく上回る場合上回る 対策工 支保ハ ターンの増強 インハ ート施工時期の見直し 事前解析の見直し 若干上回る場合 現行の対策工 支保ハ ターンの継続 大きく下回る対策工の軽減 (*1) と同様 上回る対策工の増強 (*2) と同様 問題なし 先進本坑掘削の終了 計測坑の強化工 計測データ分析後進本坑掘削時の予測検討 予測解析( 逆解析等 ) 軽減 YES YES 増強 NO 後進本坑掘削へ ( 先進本坑と同様 ) E N D 図 計測管理フロー図 131

137 管理レベル Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 管理目標値 1 管理目標値 2 管理目標値 3 変状 変状なし 僅かに変状が発生するが安定している 変状が各所に現れ, 対策を要する 極めて不安定な状態 早急かつ根本的な対策が必要 表 管理レベル一覧表 トンネルの安定 近隣構造物への影響 変位量の目 応力度の 地表面沈下 安 目安 の目安 限界基準に基づく管理目標値 1 以下 限界基準に基づく管理目標値 1 ~ 管理目標値 2 限界基準に基づく管理目標値 2 ~ 管理目標値 3 限界基準に基づく管理目標値 3 以上 許容応力度の 1/1.5 以下 許容応力度の 1/1.5 ~1/1.2 許容応力度の 1/1.2 ~1/1 許容応力度以上 許容沈下量の 50% 以下 許容沈下量の 50%~80% 許容沈下量の 80%~ 100% 許容沈下量の 100% 以上 対応策 通常の計測や観察を続ける 安全上問題とならない範囲で支保や対策工の軽減を図る 計測結果や現場の状況を整理 分析し, 変状等の原因を明らかにする この間, 計測を強化する 必要に応じて, 対策工の検討を行う 逆解析等により再度将来予測を実施し, 対策工の検討を行う 必要に応じて対策工を実施する 工事を一時中断し, 施工法の見直しを行う 支保部材の追加や補助工法の併用も含めて, 対策工の検討を行い, 必要に応じて実施する まとめ 北須磨トンネル工事は, 写真 に示すように両工区ともに平成 15 年 3 月に竣工し, 供用に際し白川トンネルと命名された. 本工事は, 地質が土砂 軟岩 硬岩と変化に富んでいるうえに, トンネル直上が市街地であることで, 騒音 振動問題等地元住民の方々の多大なご協力とご理解を頂きながら, 無事施工を完了することができた. 都市部の長大メガネトンネルの施工にあたり, 厳しい施工条件下で種々の課題に対して設計 施工上の検討を実施したわけであるが, 特殊条件 ( 特殊断面, 特殊地山, 近接施工 ) の重なった難工事において, 数値解析に基づくトンネルの挙動予測と周辺環境への影響検討により安全施工と周辺環境への適切な対策が実施できた. 写真 北側坑口部全景 132

138 3.7 おわりに 本章では特殊条件下における設計と施工に関して, 実際の現場で検討, 適用した事例に基づき山岳トンネルの設計と適用について述べた. 特殊条件下での施工実績から得られた知見について以下にまとめた. (1) 特殊条件下における施工においては, 切羽の安定を確保する目的で種々の対策工 ( 補助工法 ) が採用される.3.1 節ではそれぞれの特殊条件をふまえ, 補助工法の効果についてまとめた (2) 3.2 節では, 特殊条件下で採用される補助工法の概要と設計事例についてまとめた. (3) 3.3 節では, 特殊断面におけるトンネルの設計と適用事例について述べたが, 新しい切羽評価技術であるボアホールカメラによる切羽前方探査を実施し, 道路トンネルとしては前例のない特殊断面である 250 m2を超える超大断面 ( 集じん機坑 ) の施工を無事完了することができた. 事前の地質調査結果と合わせて, 切羽前方探査により, 総合的な判断を行うことで地質構造の推定が可能となり, 事前に対策工の検討を行うことが可能となり, より安全で合理的な施工の実現に寄与するものと考えられる. (4) 3.4 節では, 特殊地山におけるトンネルの設計と適用事例について述べたが, 特殊条件下 ( 突発湧水, 未固結地山 ) における施工について新工法の採用も含め適切な補助工法の選定を行い, 適用することで無事施工を完了できた. 地山条件に応じた様々な補助工法の選定に関して, 実際の現場での適用においてその有効性を確認できた. また, 地質変化の著しい, いわゆる付加体地質における切羽前方探査として, トンネル地山評価システムの適用により, 実現場において補助工法の必要性の判断資料として有効であることが確認できた. 特に長尺の先受け工を採用する際の施工区間や施工範囲の決定が可能であるなど, 経済的にも有効であると考えられる. また, 切羽を止めることなく対策工の検討や資材の調達を行うことができ, 確実な工程管理の実現も可能となる. (5) 3.5 節では, 特殊地形におけるトンネルの設計と適用事例について述べたが, 地すべり抑止を兼ねた垂直縫地工法の採用に関しては, 鉄筋をせん断杭として設計し, 数値解析に基づく挙動計測の結果分析から, その効果 ( 吊下げ効果, すべり抑止効果 ) を定量的に把握でき, 設計手法の妥当性について確認できた. また, 偏圧地すべり地形の坑口部という厳しい施工条件の下で補助工法として長尺鋼管フォアパイリング (AGF-HITM) を用いることで上部斜面への影響を最小限に押さえ, 無事掘削を完了できた. さらに, 土被りに応じて複合注入式多段フォアハ イリンク (AGF-HITM) の適切な配置に加えて, 脚部補強工 ( 先行打設 ), および長尺鏡ボルトといったアンブレラ工法の採用により, 低土被りで脆弱な地山においても切羽前方に剛性の高いシェルゾーンを形成することで上部に影響を与えることなく施工できることを確認できた. (6) 3.6 節では, 環境影響対策 ( 都市部施工 ) に関するメガネトンネルの施工に関して, 特殊条件 ( 特殊断面, 特殊地山, 近接施工 ) の重なった難工事において, 数値解析に基づくトンネルの挙動予測と周辺環境への影響検討により安全施工と周辺環境への適切な対策が実施できた. 133

139 以上のとおり,1 特殊断面,2 特殊地山,3 特殊地形,4 特殊環境といった特殊条件の中でトンネル設計とその適用から適切な事前調査と施工時の補助工法の選定が重要であることが確認できた. その1 例として, 図 に都市部における対策工検討フローを示すが, 施工 ( 環境 ) 条件の確認と条件に応じた管理基準値の設定, さらには数値解析結果による地山挙動の予測と対策工 ( 補助工法 ) の効果を把握することにより, 適切な補助工法を選定することが重要である. 施工 ( 環境 ) 条件の整理 事前調査 管理基準値の設定 数値解析の実施 近接構造物 ( 保安物件 ) 地下埋設物 水利用 ( 地下水位 ) 解析定数 (E,C,φ) 地下水位 近接構造物 ( 基礎形式, 傾斜 ) 地下埋設物 ( ガス, 光ファイバ等 ) 沈下量は管理基準値内で収まるか トンネル構造の検討 トンネルの施工 対策工の選定 FEM による効果確認 支保剛性向上 ( インバート閉合等 ) 防水型トンネル RC 構造 パイプルーフ 長尺鋼管フォアパイリング 注入式フォアポーリング 薬液注入 長尺フェイスボルト 図 都市部における対策工検討フロー 参考文献 1) 土木学会 : トンネル標準示方書山岳工法 同解説,p.187, ) 土木学会 : トンネル標準示方書山岳工法 同解説,pp , ) ジェオフロンテ研究会 : 注入式長尺先受け工法 (AGF 工法 ) 技術資料 ( 四訂版 ), ) ジェオフロンテ研究会 : 脚部補強工技術資料 ( 三訂版 ), ) マイヤホフのベタ基礎の支持力公式 134

140 第 4 章維持管理の現状と新しい維持管理手法の提案 4.1 はじめに 道路ルートにおけるトンネル構造物に関しては, 図 に示すとおり, 建設後,50 年以上経過したものが, 全体の 20%( 総延長 : 約 540km) を占め, 今後急速に増えていくことが想定される. 公共投資が抑制される中で, 道路の維持管理 更新に関する社会的な関心も高まっている. 山岳トンネルは, 主たる構造物である覆工コンクリートが無筋構造であることや, 種々の条件により, 他の土木構造物と異なり, トンネル自体を容易に更新できないといった特徴を持ち, 今後, トンネル構造物の合理的な維持管理技術の確立が重要な課題となっている. 山岳トンネルの維持管理を計画的に進めていく上で, 施工時の情報 ( 地形 地質, 湧水, 施工パターン等 ) は対策の検討において極めて重要なものであるが, 膨大な資料となるため, 長期的に残っていないのが実情である. また, 施工時に特殊な地山条件 ( 破砕帯, 変質帯, 膨張性, 突発湧水等 ) に遭遇し, 何らかの対策工 ( 補助工法 ) を施した箇所では, 問題なく掘削を完了した箇所よりも, トンネルの変状発生の可能性が高いと考えられる. 山岳トンネルにおける維持管理は, これまでは, 不具合箇所 ( 変状や漏水等 ) に関して対処療法的に対応してきたものの, 近年の覆工コンクリートはく落事故や地震被害を契機にその信頼性が疑問視され, トンネル自体の維持管理 更新への関心が高まっている. 一方, 公共投資が抑制される中で, 新規建設による更新は難しく, おのずと合理的 効果的な維持管理が大きな課題である. 社会資本ストックをいかに長寿命化させるかという課題に対して, 建設 維持 補修 更新を含めた, アセットマネジメント的な概念を組み込んだ研究が各機関で進められている. トンネル累計延長 (km) 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1, 掘削支保方式材料覆工方式施工方法 鉄道 (JR) 一般国道等高速道路水路 建設年代 ( 西暦 ) 頂設導坑 ( 日本式 ) 新奥式 底設導坑 底設導坑先進 NATM 鋼製支保工 木製支柱式支保工 吹付けコンクリート +RB レンガ 石積み コンクリートブロック 場所打ちコンクリート 人力 機械 ( ポンプ, プレーサ ) ( ポンプ ) 引抜き管 吹上げ 図 山岳トンネル建設の歴史と資産推移 1) 135

141 アセットマネジメントを用いた合理的な維持管理においては, 建設 - 維持管理 - 廃棄といった構造物としての一連の寿命をいかに長寿命化させるか. すなわち, 維持管理を含めたライフサイクルコスト (L.C.C) をどうすれば最小にできるかということが重要なポイントである. これらの検討においては, 山岳トンネルの要求性能と劣化予測が必要となるが, 現時点では, 研究が進みほぼ実用化されている舗装や橋梁といった構造物に比較すると, 山岳トンネルでは一般の土木構造物にはない特殊性を有するがゆえに, 研究が始まったばかりといった状態であり, 今後の実用化が望まれる. 本章では, 山岳トンネルにおける合理的な維持管理手法に向けた現状の分析と新しい管理手法に向けた研究成果について述べる. 136

142 4.2 トンネルの維持管理の現状 一般的な維持管理と劣化予測 図 に現状で実施されている一般的な維持管理の手順を示した. まず, 対象となる構造物に対して, 表 に示すような維持管理区分を設定し, まず初回点検 ( 構造物に関する情報収集 ) を実施する. さらに, 初回点検の結果に基づき維持管理計画の策定と劣化予測, 評価及び判定を行い, 対策が必要と判断される場合には速やかに対策を実施する必要がある. コンクリート構造物の劣化予測の代表的なものとして中性化の予測式 ( 式 4.2.1) を以下に示す. y = b t 式 y: 中性化深さ (mm) t: 中性化期間 ( 年 ) 構造物 維持管理区分の設定 初回点検 維持管理区分の決定 点検 対策不要 劣化予測 評価および判定 大規模対策 記録 対策必要 対策 図 維持管理手順 2) 2) 表 維持管理区分管理のレベル対象となる劣化 A: 予防維持管理予防保全を基にした維持管理 B: 事後維持管理事後保全を基にした維持管理 C: 観察維持管理目視観察を主とした維持管理 D: 無点検維持管理点検を行わない維持管理 劣化が顕在化した後では対策が困難なもの 劣化が外へ表れては困る 設計耐用期間が長いもの 劣化が外に表れてからでも対応がとれるもの 劣化が外に表れても, それほど困らないもの 使用できるだけ使用すれば良いもの 第三者影響に関する安全性を確保すれば良いもの 直接には点検を行うのが非常に困難なもの 137

143 また, 対策が不要と判断される場合には, 維持管理計画に基づき, 定期的な点検を行うことで構造物の延命化を図っていく. ここで, 維持管理対象として, 大規模な対策を実施した場合には, 図 に示すとおり, 維持管理区分の見直しと初回点検を行う必要がある. なお, 点検および評価 判定において, 劣化予測が困難となる場合には, 点検回数を増やすことにより劣化原因の特定および対策工の効果を判断している 山岳 ( 道路 ) トンネルの維持管理と課題 山岳トンネルの維持管理においては, 他の構造物に比較すると以下に示す特殊性と課題がある. 1 構造物の劣化原因の特定が困難であること. 岩盤構造物の代表のひとつであるトンネル構造物では, 岩盤材料が非常に複雑であり, 構造物の損傷の原因を特定することが困難であるばかりか, 劣化過程の推定には相当の不確実性が伴うことになる. また, 覆工コンクリートが内面を覆っていることから周辺地山の状態を直接点検できない. 2トンネル構造物は従来から管理コストをかけなくても安全性が確保されると考えられてきたこと. 土木構造物の中では管理コストをさほどかけなくても安全性が維持できる構造物とされており, 現実的には定期的な点検さえ行われてこなかったため初期点検の情報が少ない. 3 通常は劣化の進行が遅く, 劣化部分に関して補修 補強を対症療法的に繰り返してきたこと. 崩落事故を受けた全国一斉点検によって問題があれば対症療法的に補修するというレベルであっても, すぐに進行が進むわけではなく計画的に維持計画を立てる必要性が認められなかった. 4 覆工コンクリートが原則的に無筋構造であるため, 劣化予測が困難であること. 橋梁構造物や舗装等の道路構造物に比較すると, 構造が無筋であることから, 鉄筋の腐食による耐久性評価ができないなど劣化の予測と評価が極めて困難である. 5トンネルとしての第一の必要機能は空間の確保であるが, これを規定する要求性能が明確でないこと. トンネルとは地中に空間を確保すること自体が, 求められる機能であり, 空間の確保を要求性能として, それを明確に規定することは相当の困難をともなうこととなる 山岳トンネルにおける要求される維持管理への取り組み 前述の図 に示すとおり,1950 年頃からトンネル施工が急激に増加しており, 今後, 維持管理が必要となる山岳トンネルの数は急増する事が予測され, 維持管理を効率的に進めるには, 少ない点検結果をもとに, 将来の劣化状況をいかに予測し, 適切な対策工を実施できるかが重要となる. 前述のとおり, トンネル構造物は, 他の構造物に見られない特殊性を有していることか 138

144 ら効果的な維持管理を実施するにあたっては, 多くの課題を有していることは事実である. これまでの山岳トンネルに対する維持管理は, 不具合箇所に対症療法的に対策を実施してきたが, 公共投資が抑制される中で, 道路の維持管理 更新に関する社会的な関心も高まっている. また, 覆工コンクリートはく落事故や地震による被害をうけて繰り返し実施された全国一斉点検を契機に, 事故の度に一斉点検 一斉補修を行うことは点検 対策にあたり, 一度に多額のコストが発生することとなり, 今後は, 対症療法的な対応から計画的かつ戦略的な維持管理方法が望まれている. このような社会背景から, 今後は, 性能社会資本ストックをいかに長寿命化させるかという要求を具現化する手法として, 建設 維持 補修 更新を含めて, その費用 便益を総合的に評価する方法論として, アセットマネジメントという概念も組み込みながら検討を進めていく必要性が高まっており, 各機関において研究が進められている トンネルの要求性能 アセットマネジメントの導入に基づく維持管理においては, トンネルの要求性能を維持し, 長寿命化させる対策工について, あらかじめ, 建設 維持 補修 更新のための費用を算定し, ライフサイクルコスト (LCC) が最小となる対策工を選定することとなる. トンネルの要求性能に関しては, 土木学会, 地下空間研究委員会 ( 維持 再生部会 ) の研究成果 5) では, 山岳トンネルの要求性能として, 以下の 6 項目を抽出している. 1 耐久性能 ( 内空変位, 耐荷力, 地山安定, 排水性, 耐久性 ) 2 安全性能 ( 剥落無し, 避難路, 耐火性, 消火可能 ) 3 利便性 快適性 ( 走行性, 閉塞感, 照度, 換気 ) 4 周辺環境への影響性能 ( 景観性, 振動 騒音, 地下水影響 ) 5 維持管理性能 ( 点検が容易, 補修 補強が容易 ) 6 経済性 ( 建設費, 維持管理費, 湧水処理費,LCC) また, これらの要求性能と照査項目を以下の表 に示すとおり, マトリックス表に整理している. なお, 照査項目としては, 防災設備や避難路の規模, 線形 視距, 照度のように, 道路トンネルにおいて特に重要とされるものが幾つかあるものの, 概ね鉄道と道路で共通する項目は多い. トンネルの維持 補修 ( 補強 ) を実施する上で, 劣化の進行度合いによって必要となる対策も異なる. 139

145 要求性能 耐久性能 安全性能 利便快適性能 周辺環境への影響性能 維持管理性能 経済性 表 山岳トンネルの要求性能と照査項目 3) 必要な指標 内空形状寸法 内空変位沈下量 地形地質 緩み領域 覆工残余耐力 覆工のひび割れ 覆工強度 防災設備規模 避難路の規模 照度 騒音振動レベル 漏水量水圧 水質 覆工 内装の耐火性 線形視距 内空変位が無い 荷重に対し覆工安定 周辺地山が安定 排水性が良い 耐久性がある 覆工が剥落しない 非常時避難路の確保 ( 道路 ) 耐火性がある 消化活動が可能 ( 道路 ) 走行性が良い 閉塞感が無い ( 道路 ) ( 道路 ) ( 道路 ) ( 道路 ) 必要な照度がある ( 道路 ) 換気が良好 ( 道路 ) 周囲の景観と調和 ( 道路 ) ( 道路 ) ( 鉄道 ) ( 道路 ) 騒音 振動が無い 地下水への影響無い 点検が容易 補修 補強し易い 建設費が安価 ( 道路 ) LCC が安価 ( 道路 ) や ( 鉄道 ) とあるのは 道路もしくは鉄道に関係した項目評価 ( 道路 ) ( 道路 ) ( 道路 ) 坑門工のデザイン ( 道路 ) 140

146 4.2.5 山岳トンネルにおける劣化予測の現状と課題 土木構造物の劣化予測方法としては, 鋼構造物, 鉄筋コンクリート構造物, アスファルト舗装等の構造材料の劣化度を定量的に評価できる構造物において劣化予測方法の研究が進んでおり, 道路構造物としては, 特に橋梁, 舗装等の劣化予測方法が実用レベルにある. 山岳トンネル分野においては, 他の構造物に見られない特殊性を有しており, 計画的かつ戦略的な維持管理の必要性から各機関において合理的な劣化予測手法の研究が始まった段階である. 現況の研究レベルでは以下に示すような 力学的な解析手法 と 確率論を用いた手法 がある. 1 周辺地山の地圧増大の時間依存性を考慮した変状解析手法 4) 2 確率論を用いた劣化予測 ( マルコフ過程に基づく劣化予測 ) 5) 3 点検履歴から確率過程を用いた劣化予測手法 6),7) ここでは, 現状の劣化に関する研究に関して以下に概要と課題を簡単に述べる. (1) 周辺地山の地圧増大の時間依存性を考慮した変状解析手法トンネルの変状が生じる原因には, 地質的な要因で長期的に変形を生じる場合や天端の覆工背面の空隙による影響など, 様々な要因が複雑に関連している. 覆工の耐力や補強による増加耐力を求めて対策工を検討する方法として, 変状状況から塑性圧を推定し, 骨組構造解析や有限要素解析による手法が用いられる. これらの手法では, 表 に示す. 1 地山劣化モデルと2 梁ばねモデルの 2 種類の解析モデルを用いることにより, 最小限の地質情報と計測結果を利用した解析的な検討が可能となる. この変状解析手法では, 地質情報の制約を受けるトンネルの場合においても, 基本的には地山の一軸圧縮強度が推定でき, かつある期間の内空変位 ( 変位速度 ) が得られれば解析的な評価が可能となる. また, 地山の劣化の時間依存性を考慮するうえで, クリープ定数で代表される時間ファクターを必要としないことから, 劣化予測が行える変状解析手法である. 表 に周辺地山の地圧増大の時間依存性を考慮した変状解析手法による山岳トンネルの劣化予測における特徴と課題をまとめた. 表 変状解析手法の特徴 4) 梁ばねモデル ( 骨組構造解析 ) 地山劣化モデル ( 有限差分法など ) 地山 地盤反力をばね ( 圧縮, せん断 ) でモテ ル化 Mohr-Coulombnb 降伏規準で地山劣化をモテ ル化 覆工 梁部材でモテ ル化 ( ばね切りで背面空洞を評価 ) 非線形材料でモテ ル化 ( インターフェイス要素で空洞を評価 ) ひび割れ コンクリートの引張強度で評価, 塑性ヒンシ でモテ ル化 引張強度で評価, 開口をインターフェイス要素でモテ ル化 厚ざ コンクリートの圧縮限界で評価, 解析を終了 圧縮強度で評価, 材料非線形を考慮 解析結果 変状箇所, 作用地圧と変位 変状箇所, 変位と経時時間, 地山の応力状態 厚ざを断面剛性の低下でモテ ル化することも可能であるが, 解析上構造が不安定となりやすい 141

147 劣化進行表 変状解析手法のまとめ 前提条件 課題 予測によるメリット 1トンネル毎に地山条件, 施工方法, 変状状況が異なるため個別トンネルでの予測となる 2 対象トンネルが限定される 変状の著しいトンネル 長期計測データが存在する 時間依存の変状が地山特性に依存する場合に限られる 1 地山劣化モデルの設定が重要 トンネルの構造: 背面空洞の有無, 変状状況 ( ひび割れ, 圧ざ等 ), 施工法の相違 作用土圧: 塑性圧, 緩み土圧, 偏圧 2 計測データ : 長期間にわたる計測値, データの数により予測精度に影響 ( 一般的には, 長期計測データは少ない ) 3 施工時の情報が重要 ( 一般的には 詳細な情報が無い場合が多い ) 1 計測データに基づく再現解析の実施により適切な地山劣化モデルを構築し, 予測解析が可能となる 破壊形態なども再現可能であり 具体的な対策工の検討 ( 設計 ) が可能 2ケーススタディにより対策工の効果が把握できる (2) マルコフ過程に基づく劣化予測図 に示すような, 最も単純なマルコフ過程に従う劣化進行のモデルを考える. ここで,S,B,A,2Aおよび3Aは, 道路トンネル維持管理便覧 による変状判定区分である.Pi は変状が次の判定区分に進行する移行確率であり,Ni はそれを判定する経年である. すなわち, 建設当初はS( 変状が全くない ) だった覆工が,N1 年後には確率 P1 で B( 変状がないか, あっても軽微 ) に進行し, 残った確率 (1-P 1 ) は現状維持することになる. 同様の手法で,N 2,N 3,N 4 年後に判定区分ごとの移行確率を用いて, 劣化進行を確率的に予測する.Pi,Ni は, いわゆるパラメータであり, 個々のトンネル 覆工スパンで異なるものとなるが, その設定方法は1 劣化原因の組み合わせ,2 点検結果の判定区分を用いての推定が考えられる. 表 にマルコフ過程に基づく劣化予測の特徴と課題をまとめた. トンネル経年 N1 N2 N3 N4 S S S S S P1 P1 P1 P1 B B B B P2 P2 P2 A A A P3 P3 2A 2A P4 3A 図 劣化進行の確率モデル 5) 142

148 表 マルコフ過程に基づく劣化予測手法のまとめ前提条件課題予測によるメリット 1トンネルの条件に左右されない ( 対象トンネルを限定しない ) 2 点検データが最低 2 時点以上あること 竣工時に状態が把握されていれば これを 1 時点とすることが出来る 3 重み付けは専門知識のある技術者により設定すること 1 移行確率をいかに同定するかがキーポイント ( 設定そのものは容易であるが, 移行確率により結果はどのようにでもなる ) 2トンネルの変状と移行確率の設定方法をいかに実施するかを決定する必要がある 3 重み付けをどう設定するかで結果が異なる 4パラメータが多いため, 多くのトンネルでの検証が必要 5 点検データの精度に影響される 6 初期値をどう設定するかが課題 7 点検データと健全度の関係を明確にする必要がある 8 補修 補強の効果を評価に取り入れる場合 補修 補強の結果と点検データ 健全度データとの関係を明らかにする必要がある また 補修 補強後の移行確率を設定する必要がある 1 移行確率, パラメータを同定できれば, 作業は容易 2 予測方法が簡便で理解しやすい 3 点検データが少なくても将来予測は可能 4 一般的なトンネル ( 山岳 シールド 開削 ) に適用できる (3) 点検履歴から確率過程を用いた劣化予測手法一般的に, 点検は 2 年から 5 年程度の間隔で行われることが多い. すなわち, 点検データそのものは点検間隔に応じた離散データになる. しかし,LCC を検討する上で, 健全度低下モデルは, 時間に関する連続モデルとして扱うことが望ましい. これを図に示すと図 の A~F の経路となる. しかしながら, 健全度の低下は点検時毎に判明するため, どの時点で変状による健全度低下が発生したかを点検結果のみから判定することは困難である. ここで, ひび割れ等の変状や補修 補強といった対策工による健全度回復という健全度の不連続性を平均的にとらえば, 健全度低下を図中の波線 ( 全体的な傾向を示す曲線 ) のようにモデル化できる. 以上の点を考慮して, 安田ら 6)-8) は健全度低下を全体的な傾向でとらえ, 幾何学的ブラウン運動モデルを導入した確率過程によって健全度低下をモデル化している. なお, 対策工による健全度回復に関しては, その時点が明確であるため, モデルに組み込み, 一方, 点検そのものが数点しか存在しないという現実をふまえて, 各スパンでの不確実性としてとらえ, 全スパンでの全体的な傾向で健全度低下モデルを構築している. トンネルの劣化予測を検討する上で, ひび割れなどの変状が発生することによって, トンネルの性能や機能水準は低下し, 結果としてトンネルの健全度が低下する. この時期を点検のみによって確認することは困難で, 安田らはひび割れの発生に着目しポアソン過程を用いてモデルの拡張を行っている 7),8). 表 に点検履歴から確率過程を用いた予測における特徴と課題をまとめた. 143

149 健全度50 A ひび割れ発生によるジャンプ 補修時の補正 40 B E 点検結果による劣化曲線 C 実際の劣化曲線 D 予防保全 ( 補修 ) によるジャンプ F 全体的な傾向を示す劣化曲線 10 前回点検 今回点検 次回点検 5) 図 Δt トンネル覆工の劣化過程に関するモデル図 表 点検履歴から確率過程を用いた劣化予測のまとめ前提条件課題予測によるメリット 1トンネルの条件に左右されない ( 対象トンネルを限定しない ) 2 点検データが最低 2 時点以上あること 3トンネルの変状挙動と想定した確率過程が対応している ( コンクリートの劣化の場合と地山のクリープでは異なるのではないか?) 1 点検データの精度 ( データの数, ランク, 閾値 ) に左右される 2 点検データが少ない場合には精度に影響 3スパン全体の評価と変状箇所個別評価の取り扱いをどうするか 4 劣化予測過程が点検頻度で異なる 5 臨界健全度を大幅に下回る場合の構造安定性の評価をどうするか 6LCC 検討にあたり, 対策費用の設定をどうするか 7 対策工が途中で実施される場合の評価をどうするか 8 解析過程で得られるばらつきをどう評価するか 1スパン全体で評価すれば, 維持管理予算の確保, 対策の順序を決定する上で有効 2 点検データが少なくても予測は可能 144

150 4.3 モデルトンネルの概要と健全度評価 モデルトンネル ( 変状トンネル ) の概要 (1) 施工状況と変状状況対象としたAトンネルは全長 L=2,375mの道路トンネルであり, うち平成 8 年に工事を完了した南工区 L=1,108mであり, 図 に示すように施工時には断層破砕帯等の特殊条件の脆弱な地山区間において, 小崩落 ( 天端 鏡面 ), 吹付けコンクリートはく落, プレート変状といった変状現象が発生しており, 各種補助工法により対処している. 特に, 本トンネルでは湧水の発生が多く, トンネルの施工においては, 水抜きボーリングを併用して掘進を進めていた. 竣工後, 覆工コンクリートに変状を生じている. 発生した変状の主なものは, ひび割れ, 漏水である ( 写真 ). 写真 A トンネル変状状況 (2) 点検結果の概要平成 12 年に定期点検を実施し, その結果に基づき補修工事 ( ひび割れ注入, 排水工, 導水工 ) を施工した箇所 (STA.131 付近 ) については, トンネル施工時に変状が発生し, 補助工法を多用した箇所の1つにあたる. 1) 外観調査結果外観調査結果から, 主たる変状はトンネルのスプリングライン付近 ( 左右 ) の軸方向の水平ひび割れであり, ほぼスパン全体に連続して発生していた. また, ひび割れ幅は概ね 0.15~0.25mm 程度であり, ひび割れからは漏水または漏水跡が観察された. 2) コンクリート圧縮強度全ての調査箇所において, コアによる圧縮試験の結果は, 設計基準強度 (18N/mm 2 ) を大きく上回っており, 平均値で 31.1 N/mm 2 であった. シュミットハンマーの結果も平均で 29.7N/mm 2 であった. 同時に測定した弾性係数に関しては平均で 27,5N/mm 2 であった. 一方, 採取した覆工コンクリートのコアにより実施した中性化試験では, その深さは 13mm と本構造物の供用年数を考慮すると多少大きな値であった. これは通行車両の排気ガスに伴う炭酸化が原因と考えられるが, 覆工コンクリート自体は無筋構造であり健全度は確保されていると判断した. 145

151 3) 内空変位測定内空変位測定結果では, 天端が最大変位で 20mm( 内空側 ), 側壁が 17mm( 地山側 ) と変位していたが, 設計上の余裕 (50mm) 内であり, 問題はないと判断した. また, 変状部 ( 漏水有り ) のスパンでは工事竣工時の値に比べ側壁の変位が内空側に生じていた. 4) 追跡調査変状の程度が著しいスパンの変状部 ( ひび割れ箇所 ) および健全部 ( ひび割れなし ) の 10 箇所を選定して1 年間, 季節毎 (4 回 / 年 ) の変化を追跡調査の結果, 坑内温度の変化に伴うものが主であり, 最も変位の大きな箇所でも変位量に換算して 0.1mm 程度であり, 特に変状の進行性は確認されなかった. ( 南工区施工実績 ) 図 A トンネル地質縦断および施工実績 146

152 (2) 変状原因の推定と対策工施工記録によれば, 今回の変状が発生したスパンに関しては, トンネル掘削時にも湧水が多く, 地山条件が悪い箇所であった. 変状状況, 漏水の発生等から, 変状の原因は図 に示すように, トンネル完成後の背面水位回復に伴う水圧の作用によるものと判断した. したがって, 覆工背面の水位低下の目的で図 のように排水工を設置し, 漏水箇所に関しては, 導水工法による水みちを確保して過度の水圧の発生を抑止する対策をとった. 対策後,1 年間の変化を追跡調査により確認したが, 対策した箇所に関しては, 新たな変状が発生することなく推移しており, 対策工の効果が確認された. 図 に特に変状の大きかった 20~30 スパンにおける変状展開図を示す 図 作用荷重と変形モード 図 対策工 ( 排水工設置 ) 147

153 L=400 L=4000 L= L= L= L= L= L=2800 L= L= L=6900 L=650 L= L= L= L= L=5600 L=10450 L= L=10500 L= L= L= L=10700 L= L= L=800 L= L= L= L=1150 L=2150 平成 12 年度で確認されたが平成 16 年度は確認されなかった 平成 12 年度で確認されたが平成 16 年度は確認されなかった L=4700 L= L= L= L=6500 L=10250 L= L= L=10550 L= L=1350 L= L= L= L= L= L=10500 L= L= L= L= L= L= L= L= L= L= L= L=2150 L= L=950 L= L= L= L=6950 L=6950 L= L=3300 L=3300 L=1400 L= 坑口からの距離 SL 平成 12 年 CL 度調査 覆工 NO L=2400 L=250 L=2200 L= L= L= L=2150 L=3800 L= L= L=2350 SL L=1050 L=350 L=5200 L=4300 L=1450 SL 平成 16 CL 年度調査 SL L=3000 L=1900 L=600 L=400 L=950 L=300 L=1050 L=1600 L=2100 L=350 L=2300 L=550 L=650 L=5200 L=1150 L=1700 L-4100 L=3850 L=1100 L=800 L=5100 L=1600 L=550 L=800 L=2400 L=1300 L=800 L=2550 L=700 L= L=1900 L=1500 L=3250 L=1650 L=250 L=2300 L=3100 L=1700 L=1600 L=2200 L=1050 L=3450 L=550 L=1850 L=1500 L=1200 L=650 L=1050 L=2300 L=1350 L=2250 L=650 L=1350 L=1100 L=800 L=1700 L=1450 L=450 L=2300 L=1450 L=3000 L=2900 L=2900 L=1400 L=450 L=1900 L=1400 L=1050 L=1550 L=1650 L=350 L=1100 L=1450 L=1850 L=1750 L=1550 L=1550 L=1600 L=1750 L=1950 L=650 L=2650 L=1550 L=1750 L=1900 L=1450 L=2150 L=1150 L=1750 L=1050 L=2550 L L=2950 L=850 L=500 L= L=1750 L=2400 L=1950 L=5500 L=1150 L=2200 L=1800 L=1000 L=800 L=2150 L=1650 L=3800 L=2000 L=1200 L=1850 L=400 L=2500 L=800 L=2800 L=4300 L=800 L=3400 L=2000 L=2300 L=1500 L=1450 L=1450 L=2550 L=900 L=1200 L=450 L=750 L=1550 L=10400 L=1450 L=1350 L=2350 L=3400 L=1150 L=2050 L=900 L=3800 支保パターン DⅠ 図 A トンネル変状展開図 ( 変状大スパン :20~30) DⅡ トンネル健全度判定表 ( 案 ) の提案 山岳トンネルの健全度評価に関しては, 道路トンネル定期点検要領( 案 ) 平成 14 年 4 月 ( 社 ) 国土交通省道路局国道課 では, 点検結果をS,A,Bのグレーディングに分けて評価している. しかしながら, 点検結果をもとに劣化予測を行う場合, これまでの点検結果のS,A, Bの判定のみでは劣化予測モデルの構築や劣化予測の評価が困難であるため, 点検結果を定量的な判定指標としてとらえる必要がある. 本研究では, 表 に示すとおり, 点検結果で得られるデータを考慮し, 劣化予測のための判定項目を抽出し, 判定項目毎に劣化度 ( 健全度 ) を表す指標を細分化, かつ定量化した健全度判定表 ( 案 ) を提案した. 提案した健全度判定表に基づき評価を実施するにあたり, 判定表の評価にあたっては, 変状の影響度合いに配慮して, 判定区分 Ⅰについては各項目を5 点刻みで評点し, 各項目の最大値を判定区分 Ⅰの最終評点とした. ここで,5 点刻みにしたのは,1 点刻みでは評価が困難であること, また 10 点刻みでは劣化度の変化を追っていく場合あまりにも評点が粗すぎると考えたためである. また最大値としたのは利用者の安全度は最大値で評価されるべきものと考えたためである. 判定区分 Ⅱについては各項目を1 点刻みで評点し, 各項目の平均点を判定区分 Ⅱの最終評点とした. ここで,1 点刻みにしたのは,1 点刻みでも比較的容易に評価が可能であると考えたためである. なお, 判定項目のうち, 今回健全度評価に用いた項目を着色している. 148

154 ひび割れ性状 A B S 連続した 2 方向ひび割れ 表 健全度判定表 ( 案 ) 9) 部分的 ~ 不連続な 2 方向ひび割れ 部分的にひび割れ 健全 着目点 打音検査時の濁音とひび割れ状況 ひび割れ発生パターン ( 閉合他 ) 貫通ひび割れか ひび割れ発生部位 ( 天端 側壁部 ) 亀甲状 ひび割れ面積 2.0m 2 程度 ひび割れ面積 1.5m 2 程度 ひび割れ面積 1.0m 2 程度 ひび割れ面積なし 亀甲状のひび割れ面積 ひび割れ長さ 10cm 程度 ひび割れ幅 tc (1.0 以上 ) ひび割れ幅 tc (0.5~1.0) ひび割れ幅 tc (0.5 未満 ) ひび割れ幅なし 浮き 剥離 ( 覆工 ) 閉合型 20cm 程度 ひび割れ幅 tc (0.75 以上 ) ひび割れ幅 tc (0.75 未満 ) ひび割れ幅なし 閉合型ひび割れの長さと幅 ( 長辺方向 ) ひび割れ幅の基準値(tc) ( 設計覆工巻厚 (td)30cmの場合) tc=td 0.35%=(300mm) =1.0mm 20cm 以上 ひび割れ幅 tc (0.5 以上 ) ひび割れ幅 tc (0.5 未満 ) ひび割れ幅なし 交差分岐 10 箇所以上 5~9 箇所 1~4 箇所健全 ひび割れの交差分岐箇所 判定区分 Ⅰ 利用者被害を誘発する変状 浮き 剥離 ( 補修材料 ) 放射状 ひび割れ幅 tc 0.75 材質劣化, 車輌接触により早晩, 落下の恐れがある ひび割れ幅 tc (0.5~0.75) 材質劣化, 車輌接触により, 将来的に落下の恐れがある ひび割れ幅 tc 0.5 未満 軽微な変状はあるが, 材質劣化, 車輌接触による落下の可能性が少ない 健全 健全 放射状のひび割れ幅 ひび割れ幅の基準値 (tc) は閉合型と同じ 補修材の工種毎に個別に判断 シートの浮き アンカーの緩み モルタルのクラックなど 突発性崩落 覆工背面空洞高さ Hm=1m Hm=0.5m Hm=0.2m 覆工巻厚 t=td 0.33~0.5 覆工巻厚 t=td 0.33 以下 覆工巻厚 t=td 0.5~0.67 覆工巻厚 t=td 0.33~0.5 覆工巻厚 t=td 0.67 以上 覆工巻厚 t=td 0.5~0.67 覆工巻厚 t=td 0.33~0.5 健全 覆工巻厚 t=td 0.67 以上 覆工巻厚 t=td 0.5 以上 覆工厚さと覆工背面空洞の有無 Hm: 覆工背面空洞高さ t : 覆工巻厚 ( 調査値 ) td : 設計覆工巻厚 施工方法の確認 矢板は力学的機能あり NATM は力学的機能なし 漏水 アーチ 噴出 流下 滴水 側壁 - 噴出 流下 にじみ 滴水 ~ にじみ 漏水の量とその位置 天端はランクアップ つらら等非常に多い多い ( 面的に分布 ) 少ない ~ 中程度 ( 散在 ) なし ツララの量とその位置 天端はランクアップ 土砂流出等同上同上同上 なし 土砂流出の量とその位置 天端はランクアップ ひび割れ長さ 1m/5 年 A B S ひび割れ幅 1mm/1~2 年 健全 着目点 ひび割れ ( 進行性あり ) 進行性 ひび割れ幅ひび割れ幅 1m/2 年 健全 1mm/1 年 1mm/2~5 年 ひび割れの進行性 ( 幅と長さ ) 天端はランクアップ 1m/1 年 ひび割れ幅 1mm/1 年 ひび割れ幅 1mm/2 年 ひび割れ幅 1mm/5 年 健全 判定区分 Ⅱ 構造的な変状 変形 沈下 10mm/ 年以上 10mm/2 年 10mm/5 年 外力による変状 せん断ひび割れ山側肩部以外に軸方があり 圧ざが見向引張ひび割れあり られる 変形あり変形なし 山側肩部に軸方向引張ひび割れあり 健全 健全 内空変位量 絶対変位量 沈下量 不等沈下によるねじれ 変形 沈下と同様 ( トンネルの変形 ) 地すべり地 膨張性地山 偏圧地形等特殊地山条件の有無 ひび割れ ( 進行性なし ) ひび割れ密度 45cm/m 2 以下 30cm/m 2 以下 15cm/m 2 以下 最大ひび割れ幅 2.0~3.0mm 未満 1.0~2.0mm 未満 0.2~1.0mm 未満 0 ( 健全 ) 0.2mm 未満 ( 健全 ) ひび割れの発生状態 ひび割れ発生パターン ( 軸方向 横断方向 ) 発生部位 ( 天端, 側壁部 ) ひび割れ幅 149

155 4.3.3 健全度判定表 ( 案 ) による A トンネルにおける健全度評価 検討ケースとしては, 変状が大きい 21 スパン (20-40) を抽出し, 前述の健全度評価表 ( 案 ) に基づき, トンネル業務に係わる技術者により評価した. (1) 評価に関する判定条件点検結果に関する評価にあたっては, 以下の評価に関する判定条件の統一を図った. 1 判定区分 Ⅰは最大値評価 (5 点刻み ), 判定区分 Ⅱは該当項目の平均値評価 (1 点刻み ) とする. ( 判定区分 Ⅱの評価項目は4 項目のため合計を4で割った平均値を劣化度とする.) 2 判定区分 Ⅰの突発性崩落, 判定区分 Ⅱの変形, 沈下は評価しないこととし, 判定区分 Ⅱの外圧は評価する. 3 進行性有りのひび割れ経過年数はトンネル構築を H8 年とし以下の通りとする. H12: 第 1 回点検 ( トンネル構築から 4 年間経過 ) H16: 第 2 回点検 ( 第 1 回点検から 4 年間経過 ) 4その他, 外圧の影響, ひび割れ進行性等の評価にあたっては, トンネル条件 (NATM, H12 漏水対策工実施済み, 対象区間はインバート未設置区間など ) に留意して評価した. (2) 変状の大きいスパン (No.29) における点検結果の評価図 に ( 一例として )No29 スパンの健全度評価結果を示し, 以下に健全度評価の分析結果を示す. 1スパン全体での評価では, どの評価者も判定区分 Ⅱより, 判定区分 Ⅰの劣化度の方が大きくなっており, 評価点の最大値をスパンの評価とした判定区分 Ⅰ( 利用者被害 ) に関する評価が優先する結果となった. 2H12 年度の評価において, アーチ部に閉合ひび割れのあるスパンでは, 判定区分 Ⅰの劣化度は高く評価されているが, それらを除いては, 判定区分 Ⅰ,Ⅱの評価はほとんど同程度である. 判定区分 Ⅱの劣化度を大きく評価している箇所も多く見受けられるが, これらは側壁部の水平ひび割れを外力によるものとして評価しているためであると考えられる. 3H16 年度の評価において, 判定区分 Ⅱでは一部のスパンを除いて劣化度の増分は 5 程度未満であるが, 判定区分 Ⅰでは 10~20 程度となっている. 4 評価のバラツキに関しては, ひび割れ性状 ( 発生位置, 幅, 長さ ) や閉合ひび割れのはく落評価において評価者によるバラツキが大きくなっていることが分かる. 5 判定区分 Ⅱの劣化度の増分が小さい理由としては,H12 年度時点ですでにSL 付近のひび割れはスパン間に発生しており,H16 年度に進行しているひび割れは横断方向に延びる比較的ひび割れ幅, 長さの小さいものであること, 判定区分 Ⅱの評価が平均値評価となっていることなどが考えられる. 6 客観的にみて構造的な変状が特に進行性しているとは考えられない. 150

156 L=6600 凡 例 評価結果例 ( 覆工 No.29) 表 示 施工目地 目視点検での変状種類うきはく離 ( ハンマー打診異常箇所 ) 表示目視点検での変状種類 2.0 段差漏水 ( 滴水 ) 矢印側突出 数値は段差 (mm) ひび割れ はく落 ( はく落跡 ) 漏水 ( 濡れている部分 ) 漏水防止工 ( 導水工 ) 溶脱物 ( 遊離石灰など ) 補修跡 漏水跡 0.8 L=2000 L= 劣化度 判定区分 Ⅰ 劣化度判定 ( 平成 12 年度 ) 0.8 L= L=2150 L= L= 劣化度 判定区分 Ⅰ 劣化度判定 ( 平成 16 年度 ) A B C D E F G H 評価者 5 10 L= L= A B C D E F G H 評価者 L= L=800 L= 判定区分 Ⅱ 劣化度判定 ( 平成 12 年度 ) 0.2 L=800 L=2800 浮き 剥離 50 判定区分 Ⅱ 劣化度判定 ( 平成 16 年度 ) L= 劣化度 A B C D E F G H 評価者 L=400 L=1850 L= L= L=2750 L= L= L= L=1450 L=1500 L= L=900 L= 劣化度 A B C D E F G H 評価者 図 A トンネル健全度評価結果 (No29 スハ ン ) 9) (3) 健全度判定表 ( 案 ) による評価結果 (20~40スパン) の分析変状の大きい 21 スパンに関して, 健全度判定表 ( 案 ) に基づく点検結果の評価をまとめると以下のとおりとなる. 1 判定区分 Ⅰ( 利用者被害を誘発する変状 ), 判定区分 Ⅱ( 構造的な変状 ) に関してトンネル業務に係わる技術者により試行的に評価した結果, いずれの項目に関しても判定区分 Ⅰの劣化度の方が大きくなった. これは, トンネルの維持管理において今回の新評価表策定にあたっては, 判定条件として判定区分 Ⅰの変状はあってはならない事態として, 各項目の最大値を各スパンの評価点とし, 判定区分 Ⅱに関しては, 各該当項目の平均点を取ったことが評価結果に影響していると考えられる. 2 各スパンにおける評価のバラツキの要因に関しては, ひび割れの性状 ( 発生位置, 幅, 長さ ) や閉合型ひびわれ 交差分岐 ( はく落の可能性 ) の評価, 漏水の評価による影響が大きいと考えられる. 3 劣化度の進行に関しては, ひび割れの増加 ( 数, 幅, 長さ ) による評価に関しては物理的に判断できるが, 閉合ひび割れや構造的なひび割れ ( 軸方向連続ひび割れ ) に関しては, 施工時の状況や変状要因にも左右されることから, 評価者の経験や判断基準により評価にバラツキを生じる原因となる. 4 変状の程度による評価のバラツキに関しては, 別途実施した変状の少ないスパンにおける評価結果でも全般的な劣化度 ( 評価点 ) は小さいものの, 変状の大きいスパン (20-40) の評価結果同様, 閉合ひび割れや構造的なひび割れ ( 軸方向連続ひび割れ ) の判断基準によりバラツキが大きくなるスパンがあった. 5 劣化予測を行う上で, 現状の変状状況を的確にかつ評価者によるバラツキを少なく評価することは重要であるが, 今回提案した新判定表においては, 判定区分の評価指標や具体的な評価基準 ( 数値 ) を示すとともに, 事前に判定条件を統一することで全般的には評価のバラツキを少なくすることができたと考えられる. 151

157 6トンネルの維持管理において定期的に実施される点検調査の結果のうち, 今回の評価結果の分析では, 判定に大きく影響する調査結果 ( 浮き はく離, 漏水, 外力による変状の有無, ひびわれの進行性 ) に関しては, 評価できる意味あるデータとして保存していく必要があると考える まとめ 今回, 実際に調査結果が判明している変状トンネルをモデル化し, 健全度評価を試行することにより, 劣化予測の基本となる評価 判定のための健全度指標については, 判定項目, 判定のための閾値, トンネル毎の重み付けといったことが, 実際の評価 判定結果に大きく影響することが分かった. さらに, これらの問題を解決するために, 劣化度判定指標について検討を行い, 現状のトンネル点検において用いられている健全度判定指標及び判定基準をもとに, 劣化度 ( 健全度 ) を表す指標を細分化, かつ定量化した新しい健全度判定表を提案した. なお, 今後の課題としては, 以下の事項が挙げられる. (1) 点検方法について道路トンネルの点検に関しては, 道路トンネル定期点検要領( 案 ) が整備され, 点検員の資格を規定しているものの, 実際の点検業務においては, 人力による近接目視点検が基本となっているため, 点検者の主観が介入することは免れず, 転記もれなども想定されることから, 点検結果の判定に際しては変状の進行性などが十分に把握できていないと考えられる. 劣化予測にあたり, 変状の進行性は基本となる指標であり, 変状の進行性を表す指標を的確に把握することは, トンネルの維持管理を中長期的, 戦略的に実施するために必要不可欠であると考えられる. 今後の点検にあたっては, 覆工コンクリート表面の変状を記録する技術や, 浮き はく離等を検出する非破壊検査技術などを検討し, 変状のデータを客観的 定量的に獲得していく必要があると考える. また, 現状の点検記録については, 変状展開図として点検結果は得られるものの, 今回提案した判定指標のような, ひび割れ密度, ひび割れパターン毎のデータなどは, 直接的には得られない. 今後は, 点検結果が有効活用できるように点検記録の整理方法についても検討する必要がある. (2) 健全度判定指標について今回提案した健全度判定指標は, あくまで点検結果をもとに劣化予測を行うための健全度判定の一指標として作成したものであり, 短期的 ( 応急的 ) な維持管理レベルにおける指標と中長期的 ( 計画的 ) な維持管理レベル ( アセットマネジメント ) における指標がいくらか混在していると考えられる. 例えば, 覆工厚 ( 覆工強度含む ), 背面空洞高さ ( 地山強度含む ) などについては, 短期的な維持管理レベルにおいては必要不可欠な指標であり, データが存在しない場合は詳細調査を実施するなどの処置も必要となる. 一方, 長期的な維持管理レベルではこれらは概ね一律 ( 重みが低い ) のものとしてとらえ, ひび割れや浮き はく離のみの指標に着目し 152

158 て判定する方が妥当な場合も想定される. 今後は, 専門技術者による経験的判断, 実際のトンネル劣化対策事例などをもとに, 劣化予測解析の試行を進め, それぞれの維持管理レベルに応じた重要な判定項目の洗い出しや適切な健全度判定指標の設定および重み付けなどの検討を行う必要がある. また, 重み付けについては, 利用者の安全性に関する変状と構造の安全性に関する変状などの判定区分, 矢板工法と NATM などの施工方法の違いなどを考慮することも重要であると考える. 153

159 4.4 モデルトンネルの劣化予測の試行 マルコフ過程による A トンネルの劣化予測 (1) A トンネルの健全度評価結果 4.3 節に示した A トンネルの健全度評価結果を用いて, マルコフ過程によるトンネルの劣化予測を実施した トンネル専門技術者による全 21 スパンの平均と最大変状スパンの劣化度を表 に示す. なお, 判定区分 Ⅰは, 浮き はく離に代表される 利用者被害を誘発する変状, 判定区分 Ⅱは, 外力による変状等による 構造的な変状 である. 劣化度の目安は, 表 に示すとおりで最大 50 とした. まず, 全スパン平均の判定区分 Ⅰに対し劣化予測を行った. 健全度評価の概要を以下に示す. 表 A トンネルの劣化度 9) 全スパン平均 最大変状スパン 判定区分 Ⅰ 判定区分 Ⅱ 初回点検 (H12) 回目点検 (H16) 初回点検 (H12) 回目点検 (H16) 表 劣化度の目安 9) (2) マルコフ過程を用いた劣化予測結果本トンネルの劣化に関して確率論 ( マルコフ過程 ) を用いた劣化予測により試算した. 築 4 年 (H12) での劣化度 10.8と築 8 年 (H16) での劣化度 19.9から, パラメータを推定すれば, その組み合わせの一つとして,Ni=2,Pi=0.62が得られる. ここで,Piは変状が次の判定区分に進行する移行確率であり,Niはそれを判定する経年である. 同様に, 判定区分 Ⅱに対してパラメータを推定すれば,Ni=2,P1=0.81,P2 ~ 4=0.91が得られ, これらから劣化度曲線を示せば図 のとおりとなる. 同図からは, 判定区分 Ⅰは完成当時劣化度がないものの, 早い段階で劣化が進行し, 築およそ10 年で劣化度が25, すなわち健全度が1/2 程度になることがわかる. 判定区分 Ⅱは, 完成当時から初期値として劣化があるモデルと 154

160 なっているが, 判定区分 Ⅰと比較し, 劣化進行は緩やかで, 築 40 年程度で健全度が1/2となる. 同様に推定した最大変状スパンでの劣化度曲線を図 -11に示す. 利用者被害に対する判定区分 Ⅰでは, 築 5 年以降急激に要補修 対策区間が増えるのに対し, 構造的な変状である判定区分 Ⅱは緩やかであり, 築 30 年でおよそ20% の範囲で対策が必要となる. 今回の試算は比較的単純な手法で点検結果を用いて劣化予測を行ったものであるが, 移行確率や部材 変状の種類や位置によって重み付け係数 ( パラメータ ) を設定する等工夫すれば, トンネル毎の劣化曲線の推定を行うことができる. 図 A トンネル劣化度曲線と補修 補強割合 10) 155

161 4.4.2 A トンネル点検履歴から確率過程を用いた劣化予測の試行 一般的に, 点検は 2 年から 5 年程度の間隔で行われることが多い. すなわち, 点検データそのものは点検間隔に応じた離散データになる. しかし,LCC を検討する上で, 健全度低下モデルは, 時間に関する連続モデルとして扱うことが望ましい. 4.2 節に示したとおり, 安田ら 6) ~8) は健全度低下を全体的な傾向でとらえ, 幾何学的ブラウン運動モデルを導入した確率過程によって健全度低下をモデル化している. 本研究においては, 安田ら 6) ~8) の提案する幾何学的ブラウン運動による健全度低下モデルを 4.3 節で示したモデルトンネルに適用し, 点検間隔の違いによる劣化の進行度合いや管理レベルの関係を検討するとともに, 点検間隔と修繕費用といった観点から LCC の試算を実施した. (1) LCC の検討点検間隔の違いによる劣化の進行および修繕費用といった観点から LCC を算定することにより, 適切な点検時期を決定するために, 管理レベルとしての 臨界健全度 ( 対策工により健全度を回復させる目安 ) を 3 段階 (35,25,15) に設定し, 試算を行った. 本来,LCC 算出としては, トンネル建設費( 初期投資額 ) 点検費用 対策費用( 修繕費用, 補強費用 ) 対策工事における社会的損失費 等を考慮して算出する必要があるが, 今回は,1 トンネルにおける約 20 スパン毎の区間における劣化度の比較を実施していることから, 費用比較の項目を単純化し, 点検費用 対策工費 のみの比較として検討した. なお, 今回の検討では, トンネルの耐用年数を 50 年と想定し,50 年間維持管理するものとして LCC の検討を実施した. さらに, 臨界健全度を 25 及び 15 とした場合には, 点検間隔を大きくとると劣化度が 15 を下回るパスが発生し, 現実には管理が困難となるため, LCC の比較では 1 例として臨界健全度が 35 の場合について検討を行った. (2) 劣化予測モデルの点検間隔点検間隔としては, 比較的速い劣化速度と想定できることから, 最短間隔として 1 年 を設定した. また, 点検間隔をパラメータとして試算することから,2 年 ~5 年を1 年ピッチとして計算した. (3) 修繕費用点検により, 設定した臨界健全度を下回ったパスに関しては, 対策により回復健全度 (45) まで健全度を引き上げる必要がある. ここで劣化した健全度を回復健全度まで引き上げるために必要な対策費用を修繕費用として以下の通り設定した. 工事費算出としては, 直接工事費とした. 156

162 臨界健全度 35(35 45):50 万 / スパン 想定劣化状況 :0.1m/m2 程度のひび割れが 1 スパンに発生していると想定. 想定補修工 : ひび割れ注入工 :22,000 円 /m 表 (1) 補修費用 ( 直接工事費 ) 9) 算出根拠 備考 工事数量 19m 10.5m 0.1m/ m2 =19.95m/ スパン 工事費 19.95m 22,000 = 438,900 円 / スパン 改め :50 万 / スパン 臨界健全度 25(25 45)150 万 / スパン想定劣化状況 : 天端 120 範囲に小ブロック化を含むひび割れが延長方向 3m 程度と想定. 想定補修工 : 炭素繊維内貼り工 :38,500 円 /m 表 (2) 補修費用 ( 直接工事費 ) 9) 算出根拠 備考 工事数量 (120/180) 14m 4m =37.3 m2 / スパン 補修長 :4m 工事費 37.3m2 38,500 = 1,436,050 円 / スパン 改め :150 万 / スパン 臨界健全度 15(15 45):390 万 / スパン想定劣化状況 : 天端 120 範囲に小フ ロック化を含むひび割れが延長方向 10m 程度と想定. 想定補修工 : 炭素繊維内貼り工 :38,500 円 /m 表 (3) 補修費用 ( 直接工事費 ) 9) 算出根拠備考工事数量 (120/180) 14m 10.5m =98.9 m2 / スパン工事費 98.9 m2 38,500 = 3,808,035 円 / スパン改め :390 万 / スパン (4) 修繕費用の補正図 及び図 に示すとおり, 臨界健全度 35 と設定した場合, 点検間隔が長くなると点検時には臨界健全度を下回るパスが発生し, 管理上のリスクとなる. なお, 図の縦軸は健全度 ( 対数目盛 ) で, 横軸は経過年数である. すなわち, 点検間隔を 1 年とした場合は, 健全度は設定した臨界健全度を若干超える程度であるが, 点検間隔を 3 年とした場合には, 点検時の健全度は臨界健全度を大きく下回っている. 臨界健全度 35 の場合, 図 及び図 の結果からも分かるように, 点検間隔が 1 年の場合であれば, 設定した臨界健全度でほぼ管理できるが, 点検間隔 3 年となれば, 臨界健全度 25 付近まで健全度が低下する. したがって,LCC の計算過程では, 想定していない実際の健全度から設定した臨界健全度に健全度を引き上げるための修繕費用を考慮する必要がある. たとえば, 臨界健全度 35 と想定し,25 まで低下した場合試算したスパンは 21 スパンであるため, 157

163 臨界健全度 35(35 45) では 50 万 / スパン 21=1,050 万 0.11 億円臨界健全度 25(25 45) では 150 万 / スパン 21=3,150 万 0.32 億円臨界健全度 15(15 45) では 390 万 / スパン 21=8,190 万 0.82 億円となる. ここで, 点検間隔 5 年 ~1 年における点検費用と補修費用の合計 (1 次算出 ) はプログラムのアウトプットから得られ,5 年間隔から1 年間隔の順に 1 億 1.1 億 1.3 億 1.4 億 1.9 億 である. この値は, 臨界健全度 35 以下 の補修費用を加味していないことから, 臨界健全度 35 より下っている劣化線の割合をグラフから読み取り, その比率と点検回数から補正値を算出した. したがって, 臨界健全度 25 を 35 に上げる補修費用は,0.32 億 億 = 0.21 億であり, 点検間隔 5 年の場合, 臨界健全度 35 を下っている割合は, 約 50% 程度であり, 点検回数は 10 回 であることから, 補正費用は,0.21 億 0.5( 比率 ) 10 回 (50 年間の点検回数 )=1.1 億となる. 点検間隔ごとに同様の補正をプログラムのアウトプットをもとに実施すると臨界健全度が 25 まで低下した場合の修繕費用は以下の通りとなる. 5 年間隔 : 億 =2.1 億円 (1.1 億 = 回 ) 4 年間隔 : 億 =1.8 億円 (0.7 億 = 回 ) 3 年間隔 : 億 =1.6 億円 (0.3 億 = 回 ) 2 年間隔 : 億 =1.5 億円 (0.1 億 = 回 ) 1 年間隔 : 億 =2.0 億円 (0.1 億 = 回 ) 点検間隔 1 年 回復健全度 45 臨界健全度 35 記録パス 30 計算パス 点検間隔 3 年 回復健全度 45 臨界健全度 35 記録パス 30 計算パス 100 9) 図 点検結果と健全度低下結果 (1 年間隔 ) 9) 図 点検結果と健全度低下結果 (3 年間隔 ) (5) 点検間隔と LCC の検討結果トンネル変状が大きい場合において, 健全度評価および LCC を考慮した上で, 適切な点検間隔を検討するものである. 今回のAトンネルにおいては, 図 ~4.4.7 に示すとおり, 点検間隔を1 年とすれば, 設定した臨界健全度に関わらず維持管理が可能であり, 初期値として既に変状程度が 158

164 著しい場合においても目標とする臨界健全度において管理することができると考えられる. しかしながら,1 年ごとに管理することは現実的には点検費用や社会的損失 ( 渋滞, 迂回等 ) の問題があり, 臨界健全度をどのレベルで設定するかという問題も含めて検討する必要がある. そこで, 臨界健全度を 35,25,15 の3 段階に設定したうえで, 点検間隔を 1 年 ~5 年とした場合の健全度劣化予測を行い, 適切な点検間隔の検討を行った. 点検間隔を 2 年以上とすると, 設定した臨界健全度を下回るパスが発生する. 例えば, 図 に示す点検結果 3 年の臨界健全度 15 の例では, 点検時に健全度 11 程度のパスが発生しており, 点検毎に回復健全度までの対策を実施したとしても, 次の点検までに劣化が進みはく落等の事故につながる可能性が高くなる ( リスク増大 ). なお, この傾向は, 点検間隔 2 年から 5 年まで同様の傾向が伺えた. 以上の検討結果から, 定期点検のなかで維持管理の可能な健全度を 15 程度 ( 補修で対応 ) と考えれば, 臨界健全度は 25 程度に設定することが望ましいと考える 点検間隔 1 年 回復健全度 45 臨界健全度 35 記録パス 30 計算パス 点検間隔 1 年 回復健全度 45 臨界健全度 25 記録パス 30 計算パス 100 図 点検結果と健全度低下結果 9) ( 臨界健全度 35) 9) 図 点検結果と健全度低下結果 ( 臨界健全度 25) 点検間隔 1 年 回復健全度 45 臨界健全度 15 記録パス 30 計算パス 点検間隔 3 年 回復健全度 45 臨界健全度 15 記録パス 30 計算パス 100 9) 図 点検結果と健全度低下結果 ( 臨界健全度 15) 9) 図 点検結果と健全度低下結果 ( 臨界健全度 15) 159

165 (6) 点検間隔と LCC 費用の試算結果適切な点検間隔の設定にあたっては, 初期の劣化程度にもよるが, 劣化が進まない内に軽微な対策 ( 補修程度 ) による維持管理が望ましいと考えられる. 点検間隔が長くなり劣化が進めば, 事故発生のリスクとともに回復健全度まで健全度を高める対策が大規模 ( 補強対策 ) となり, 費用も増大する. ここでは, 一例として, 図 に示す臨界健全度 35 と設定した場合の劣化予測モデルによる試算結果について検討した. 図中の青線は劣化予測解析に基づく LCC 費用の推移であり, 赤線は点検時の劣化程度をふまえて回復健全度まで健全度を高めるために臨界健全度を大幅に下回ったパスも含めて健全度を高めるよう補正したものである. 今回の LCC 費用の試算結果に関して得られた結果を以下にまとめた. 1 前述の通り, 点検間隔が1 年,2 年の場合は, 設定した臨界健全度 35 を超えるパスは健全度 30 程度で収まり, 今回のような劣化速度の速い変状トンネルであっても点検間隔を短くすれば, 高い健全度を確保することは可能となる. 2 図 に示すとおり, 点検間隔が 3 年を超えるケースでは設定した臨界健全度 35 に対して, 点検時には健全度が 25 以下になり臨界健全度 35 での効果的な維持管理は困難である. 3LCC 費用の試算結果からは, 図 に示すとおり点検間隔を 3 年以上とすると, 健全度の回復に必要な修繕費用が大規模となることから,LCC 費用も増大することが分かる. 4 管理レベルを踏まえて考えると, 補修が必要となる臨界健全度は予防保全を含めると 25 程度と考えられることから, 今回のモデルトンネルのように劣化速度の速いトンネルにおける維持管理に関しては, 点検間隔を短くして軽微な補修を繰り返すことにより維持管理を図ることが望ましい. ただ, 今回の試算においては, 利用者損失 ( 渋滞, 通行止め, 迂回等により発生する費用 ) は環境条件, 使用条件によりことなるため考慮しておらず, 実際のトンネルの維持管理においては計上すべきである. 回復健全度 = LCC 費用 ( 億円 ) LCC 費用 ( 億円 ) LCC 費用補正 ( 億円 ) 点検間隔 図 点検間隔と LCC 費用の試算結果 9) 160

166 点検間隔 3 年 回復健全度 45 臨界健全度 35 記録パス 30 計算パス 100 9) 図 点検結果と健全度低下結果 ( 臨界健全度 35) (7) まとめ本研究では, 点検間隔の違いによる劣化の進行度合いや管理レベルの関係を検討するとともに, 点検間隔と修繕費用といった観点から LCC の試算することで LCC が最小となる点検間隔を設定することによる合理的な維持管理の可能性を検討した 検討結果では, モデルトンネルの劣化速度の速いため, トンネルにおける維持管理に関しては, 点検間隔を短くして軽微な補修を繰り返すことにより維持管理を図ることが望ましいという結論を得た. これまで蓄積してきたトンネルの多くが老朽化し, かつ同時期に多くのトンネルにおいて, 限られた予算のなかで効率よく, その延命化を考えていくことが今後強く求められている. 本研究で取り扱ったような予測手法は今後のトンネルの合理的な維持管理計画の立案に際して強力なツールとなると考えられる. 今回検討したトンネル全体での維持管理手法のほかに, 個々の変状スパンでの最適な点検間隔において管理する部分管理手法も考えられる. 構造的な変状に関しては, 部分管理の中でもその特徴ある変状に対して, 連続的に計測を行い, 集中的に管理するようなケースも想定され, 維持管理のレベルに応じた手法を適用する必要がある. これらの劣化予測モデルの確立と維持管理手法の立案にあたっては, トンネルの初期データの取得等, 効果的なデータの取得が切に望まれる. データとしては点検データ, 補修履歴, 建設時の施工記録等が考えられるが, 意図されたフォームに基づき有効活用できるデータベースを構築すべきと考える. 161

167 4.4.3 地山強度経年劣化モデルによる劣化予測 本研究では, トンネルの覆工コンクリートの劣化予測を行うにあたり, 劣化の要因として周辺地山の劣化に着目し, 時間依存性を考慮した数値解析による手法を試行した. 対象としたAトンネル ( 変状の詳細は2 章にのべている ) は, 施工時のデータや変状要因が明らかになっており,2 度の点検結果 (H12 年,H16 年 ) から判断すると, 比較的劣化の速度も速い. 劣化モデルに関しては, 各機関で研究が進められているが, 今回は, 蒋らが提案した地山強度低下時間依存性モデル 12) (Burger-MC 劣化モデル ) を用いた. 以下に検討内容の詳細を述べた. 12) (1) 時間依存性 (Burger-MC 劣化モデル ) の概要トンネル変状は, 周辺地山の経年劣化が原因の1つであると考えられるため, 本研究では, 時間の経過に伴い岩盤強度が低下するモデルを用いた. 図 に示すように, 劣化モデルにおいては, 各部は Kelvin セッション,Maxwell セッション,Mohr-Coulomb セッション (MC モデル ) から成り, これらを組み合わせることで様々な劣化モデルを作成することができる. 例えば,Kelvin-MC モデルや Maxwell-MC モデルが挙げられる. また,Kelvin セッションと Maxwell セッションを直列につないだものを Burger モデルと呼ぶ. ここですべてのモデルを組み合わせた Burger-MC モデル中の MC モデルの粘着力 cと摩擦角 φを時間と共に低下させ, 岩盤の強度劣化を考慮することができるように修正したモデルを,Burger-MC 劣化モデルと定義した ( 図 ). 構成式は以下のように表される. 式では,Rthr は岩盤の応力状態限界係数であり, 応力状態係数 R が Rthr 値を超えると劣化を始める.ω c,ω φ は粘着力と内部摩擦角の劣化率であり, 両者の経時的変化は R に比例する 11). dc dt = ω c R ( R Rthr ) 式 dφ = ω φ R ( R Rthr ) 式 dt σ 1 σ 3 = c cosφ + ( σ + σ ) sin φ R 式 G K G M η M c(t),φ(t),ψ ω c, ω φ, R thr η K Kelvin Section Maxwell Section Mohr-Coulomb 劣化 Section ω c : MC 要素の粘着力劣化率 ω φ : MC 要素の摩擦角劣化率 R thr :MC 要素の劣化応力状態限界係数 図 Burger-MC 劣化モデル 162

168 (2) Aトンネルにおける検証 1) 応力解放率の決定解析による劣化予測では, まず, 二次元解析および三次元解析を実施して応力開放率と変位 ( 天端沈下 ) の関係 (GR 曲線 :Ground Reaction Curve) を作成し, 施工過程 ( 加背割り, 補助工法等 ) を考慮した三次元解析結果による計算変位から適切な応力解放率を設定する. 図 に対象トンネルの緒元を, 図 に解析に用いた二次元モデルの緒元を示す. また, 図 にトンネルの施工過程を考慮するための三次元解析モデルの概要を示した. なお, 図 の三次元モデルでは奥行き 30mとして, 切羽が 20m 位 置にある場合を示している. k5 k3 c2 shotcrete_thick=0.15 c1 Unit: (m) rad_invert= c0 rad_upper=4.65 rad_middle=9.30 k1 concrete_thick=0.35 foot_high =2.10 c2 c0 c1 Unit: (m) invert surrounding rock mass k1 upper surrounding rock mass middle surrounding rock mass corner surrounding rock mass k 図 対象トンネルの緒元 k4 k 図 二次元解析モデルの緒元 凡例 地山補助工法吹付け覆工, インハ ート 図 三次元解析モデルの概要 163

169 表 に解析に用いた基本物性値を示す. 表 基本物性値 物性値 物性値 単位体積重量 ρ(kg/m 3 ) 2000 粘着力 c 0.5 ヤング率 E(Mpa) 300 内部摩擦角 φ 30.0 ポアソン比 μ 0.3 ダイレイション角 ψ 5.0 初期応力 σ zz (Mpa) 2.11 側圧係数 0.45 解析結果として得られた GR 曲線を図 に示す. また, 図 に三次元解析により得られた LDP 曲線 ( 弾性特性曲線 ) を示す. これらの結果から,LDP 曲線で得られた切羽面の収束変位は であり, 二次元解析の GR 曲線における開放率 40%( つまり inner pressure 0.6) に相当していることがわかる. Ground Reaction Curve (2D) Artifical inner stress Convergence at the 図 GR 曲線 ( 二次元解析 ) Convergence at the crown Longitudinal Deformation Profile (3D) Advancing direction Tunnel face 図 LPD 曲線 ( 三次元解析 ) 164

170 2) 劣化モデルパラメータの同定手順次に第 2 段階として, 表 に示すとおり, 地山物性値の内, 変形係数 E, 粘着力 c, 側圧係数 K0 を未知数として,E (300 MPa MPa), c (0.1 MPa MPa), K0 ( ) の範囲でパラメータの決定について, 効率性とコスト面を考慮する上で有効であるニューラルネットワークの誤差逆伝搬法 (BN) と遺伝的アルゴリズム (GA) を用いて, 施工時の計測結果との同定を行う. なお, 吹付けコンクリートの物性値を表 に示す. 表 地山基本物性値 物性値 物性値 単位体積重量 ρ(kg/m 3 ) 2000 粘着力 c N/A ヤング率 E(Mpa) N/A 内部摩擦角 φ 30.0 ポアソン比 μ 0.3 ダイレイション角 ψ 5.0 初期応力 σ zz (Mpa) 2.11 側圧係数 N/A 表 吹付けコンクリート基本物性値 物性値 物性値 ヤング率 E(Mpa) 1.0e4 内部摩擦角 φ 35.0 ポアソン比 μ 0.25 ダイレイション角 ψ 3.0 UCSσc(Mpa) 2.11 吹付け厚 (m) 0.15 図 にパラメータ同定法の流れを示す. step 1 データセットの準備 step 2 ネットワークの訓練 scaled p FL p BN FLAC 3D BN o BN 誤差逆伝搬法による結合強度の調整 u FL key scaled u BN key step 3 GA による探索 p GA post-trained network GAを用いて最適解の探索 o GA u GA key scaled u MO key step 4 検証 p FL FLAC 3D u FL key u MO key 図 パラメータ同定法の流れ 12) 165

171 まず,step1 として,E (300 MPa MPa), c (0.1 MPa MPa), K0 ( ) の範囲でランダムに決めた地山物性値 P FL を有限差分解析コード (FLAC 3D ) に入力し, 変位 u FL key を出力する. この過程を 30 回繰り返し,30 個のデータセットを得る. 表 に用 意された 30 個のデータセットを示した. ここで得られた 30 個のデータセットは教師データとして,step2 で BN のトレーニング のために用いられる. この時,step1で得たデータセット(P FL, u FL key ) を BN で用いるた めに (P BN, u BN ) へと変換する. u BN を BN の望むべき出力値として設定し, 入力値 P BN か key ら得られた出力値 o BN key とを比較し BN の結合強度を調節する. つまり,30 個のデータセッ トを用いて, 十分に結合強度を調節し,BN をよく訓練する.step3 でよく訓練した BN と GA を用いて, 解析モデルに必要な地山物性値を評価する. ここでは実例として A トンネルの実測値 MO u をよく訓練した BN で用いるため, u GA key key 換する. そして, ランダムに決めたレオロジー値 P GA から出力値 o GA に変 GA を得る. 出力値 o と GA を比べ,GA を用いて最適なレオロジー値が選ばれる. さらに,step4 でニューラルネットワークの誤差逆伝搬法 (BN) と遺伝的アルゴリズム (GA) により同定された物性値を用いて, 数値解析により変位量 ( 再検証結果 ) を計算する. u key 表 物性値同定のためのデータセット Case No E (MPa) c (MPa) K 0 建設後 uc (m) 建設後 us (m) E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E-03 E (300 MPa 3000 MPa), c (0.1 MPa 1.0 MPa), K 0 ( ), 166

172 数値解析により計算された変位 ( 再検証結果 ) と実測値を比較することで, 得られたパラ メータの妥当性を確認する. 天端沈下の誤差 e は以下のように定義される. uc uc = u u FL c u MO c MO c e (4) ここに, u MO は実測値, u FL は数値解析結果である. なお, はベクトルの平均値を表す. c c スプリングライン変位誤差 e も同じように定義される. us 表 に同定された物性値と検証結果を示す. 検証結果から, 得られたパラメータの妥 当性が検証されたものと考えられる. 表 同定された物性値と検証結果 E(Mpa) c(mpa) K 0 uc(m) us(m) 解析値 e e-02 計測値 2.80e e-02 3) 変状メカニズムの解明供用後の計測データ ( 天端沈下, 内空変位 ) に関して, レオロジーモデル (Burger-MC 劣化モデル ) を用いて供用時の変状メカニズムを再現する. 今回は, 変状に影響すると考えられる 4 個のレオロジーに関するパラメータ (G K,η M, η K,wh) の決定について, ニューラルネットワークの誤差逆伝搬法 (BN) と遺伝的アルゴリズム (GA) を用いて, 供用時の計測結果との同定を行った. なお, パラメータの同定を行うためのデータとしては, 表 に示す 40 個のデータセットを用いた. 表 に同定されたパラメータと検証結果を, 図 に計測値および解析による検証結果を示す. 検証結果を見ると, 解析結果の方が計測値に比べて若干変位量が小さくなっているものの, 劣化モデルを用いた解析結果は計測値とほぼ同様の変位傾向を示していることが分かる. したがって, これら同定された劣化モデルパラメータを用いれば, 将来の予測も可能であると考えられる. 解析値 Optimal solution Monitoring 計測値 data 表 同定されたパラメータと検証結果 G K (MPa) η K (MPa*s) η M H16 年 H16 年 (MPa*s) w h (m/year) uc (m) us (m) 1.14E E E E E E E E

173 表 物性値同定のためのデータセット Case No G K (MPa) η K (MPa*s) η M (MPa*s) w h (m) H16 年 uc (m) H16 年 us (m) E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E E-03 G K (300 MPa 3000 MPa), η K (1e9 MPa*s 1e11 MPa*s), η M (5e9 MPa*s 5e11 MPa*s), w h (5m/year 15m/year). 168

174 変位量 (m) 経年 uc( 内空方向沈下 ) us( 内空方向収縮 ) 図 検証結果 ( 実測値と計算値の比較 ) さらに, 上記の検証をもとに, 数値解析により供用時の水位変化にともなう変状への影響予測を試みる. 水位変化に関しては,A トンネルにおける点検結果時の経時変化を参考にして, 最初 8 年間で, 水頭は 13.8m/year のスピードで増加し, その後 8 年間キープするものとした. 図 に水位変化の予測結果を示す. 凡例 (a) 平成 8 年 (b) 平成 12 年 (c) 平成 12 年 (d) 平成 16 年 図 地下水位の推移予測 169

175 図 に地下水位の影響を考慮した変位予測結果を示す. 予測結果では地下水位上昇の影響によるトンネルの内空変位への影響が見られ, 特にインバート部分に関しては 4.5cm 程度の隆起が予測されるが, 地下水位の安定とともに変位も収束していることが分かる. なお, トンネルの変位量に関しては, 点検時の計測データとの差異が見られ, その原因の究明は予測解析の今後の課題であるが, 点検時に正確な地下水位が測定できればより予測精度は高まるものと期待される. 変位量 (m) 経年 ( 内空方向収縮 ) 図 地下水位の影響を考慮した変位予測結果 (3) まとめ本研究では, 施工時に多量湧水が発生したトンネルを対象として, 地山強度低下時間依存性モデル (Burger-MC 劣化モデル ) を用いて, 逆解析によるパラメータの算出を行い, 変状予測値と計測データを比較 検討することにより, 提案モデルの有用性と逆解析によるパラメータ決定法の検討を行った. なお, パラメータ決定においては, ニューラルネットワークの誤差逆伝搬法 (BN) と遺伝的アルゴリズム (GA) を用い, 建設時ならびに供用時の計測結果との同定を行った. 検証結果からは, 解析結果のほうが計測値に比べて若干変位量が小さくなったが, 変状予測に重要な変位の傾向は, 良く一致していることが確認できた. さらに, 建設後の地下水位の変化に伴うトンネル変位への影響に関しても検討を行った. 地下水位の影響については, 点検時の漏水等の現象から地下水位を推定しているため, 解析結果と計測データとの差異が見られた. この原因に関しては, 今後の課題であるが, 点検時の正確な地下水位の測定により精度は高まるものと考えられる. 本研究により, 破砕帯, 湧水地山, および膨張性地山といった時間依存性を有する特殊地山条件下におけるトンネルの変状予測において, 今回提案する手法の有効性を確認できた. 170

176 4.5 おわりに 本章では, 変状現象を発生しやすい特殊条件下における山岳トンネルの合理的な維持管理に関して, 社会ストックとしての山岳トンネルの現状および維持管理上の課題について整理するとともに, 今後の合理的維持管理に向けた課題と解決策としてのアセットマネジメント手法の導入の必要性と導入に向けた劣化予測手法の現状についてまとめた. また, 点検結果の判明している変状トンネルをモデル化し, そのモデルトンネルに関して, 健全度評価, 劣化予測の試行を行い, 合理的な維持管理実現に向けた劣化予測手法の提案を行った. 以下に概要をまとめた. (1)4.1 節では, トンネル建設後,50 年以上経過したものが, 全体の 20%( 総延長 : 約 540km) を占め, 今後, 急速に増えることが想定されるという社会背景の中で, 主たる構造物である覆工コンクリートは, 無筋構造であることや, 種々の条件により, トンネル自体を容易に更新できないといった特徴を持ち, 今後, トンネル構造物の合理的な維持管理技術の確立が重要な課題となっていることを示した. (2)4.2 節では, 山岳トンネルにおける維持管理の現状を示した. これまでは, 不具合箇所 ( 変状や漏水等 ) に関して対処療法的に対応してきたものの, 近年の覆工コンクリートはく落事故や地震被害を契機にその信頼性が疑問視され, トンネル自体の維持管理 更新への関心が高まっており, 公共投資が抑制される中で, 新規建設による更新は難しく, おのずと合理的 効果的な維持管理が大きな課題となっている. 社会資本ストックをいかに長寿命化させるかという課題に対して, 建設 維持 補修 更新を含めた, アセットマネジメント的な概念が重要となることを示した. (3)4.3 節では, 実際に調査結果が判明している変状トンネルをモデル化し, 健全度評価を試行することにより, 劣化予測の基本となる評価 判定のための健全度指標については, 判定項目, 判定のための閾値, トンネル毎の重み付けといったことが, 実際の評価 判定結果に大きく影響することが分かった. これらの問題を解決するために, 劣化度判定指標について検討を行い, 現状のトンネル点検において用いられている健全度判定指標及び判定基準をもとに, 劣化度 ( 健全度 ) を表す指標を細分化, かつ定量化した新しい健全度判定表を提案した. (4)4.4 節では, モデルトンネルの健全度評価結果を用いて, 現時点で実施されている以下の劣化予測手法を試行した. 1マルコフ過程を用いた予測 2トンネル点検履歴から確率過程を用いた劣化予測 3 地山強度経年劣化モデルによる劣化予測試算結果をふまえ, それぞれの劣化予測手法の特徴 ( 長所, 短所 ) をまとめるとともに, 現時点でいずれかの手法を用いれば山岳トンネルの予測が可能であることを示した. 以上のことから, 今後急速に増加が予想される山岳トンネルの維持管理を合理的に進めていく上で, 特に変状確率の高い特殊条件下でのトンネルにおける合理的な維持管理を行うにあたり, 現状の変状状態に応じた適切な補修 補強対策を施すことは言うまでもないが, 有効な変状予測解析や劣化予測手法を用いることにより, 対策工の効果や対策後のトンネルの寿命予測等も可能となると考える. 171

177 参考文献 1) 土木学会岩盤力学委員会トンネルの変状メカニズム,p.20, ) 土木学会 : コンクリート標準示方書 [ 維持管理編 ],pp.9-12, ) 岡田正之, 藤原康政, 山田浩幸 : 山岳トンネルの要求性能と照査項目に関する一考察, 第 10 回地下空間シンポジウム論文報告集,pp.213~220, ) 熊坂博夫, 朝倉俊弘, 小島芳之, 松長剛 : 地山の時間依存性を考慮したトンネル変状解析手法の適用性に関する検討, 第 32 回岩盤力学シンポジウム,pp.33-40, )( 財 ) 道路保全技術センター : 山岳トンネルのライフサイクルコスト調査研究報告書, pp.115~121, ) 安田, 大津, 大西 : アセットエンジニアリング, 土と基礎講座 リスク工学と地盤工学, pp.35-42, ) 安田, 境, 大津, 大西 : ポアソン過程によるトンネル構造物の健全度低下モデルの研究, 建設技術シンポジウム論文集,pp , ) 安田亨 : トンネル構造物の維持管理補修最適化に関する研究, 京都大学学位論文, ) 道路保全技術センター, 山岳トンネルの劣化予測に関する検討報告書, ) 山田浩幸, 岡嶋正樹, 重清浩二 : 山岳トンネルの劣化予測曲線の評価に関する一考察, CS10-1, ) 蒋宇静, 棚橋由彦, 川田晶仁 : 道路トンネル変状予測モデルの検討と補強工法効果の評価への適用, 長崎大学工学部研究報告, 第 37 巻, 第 68 号, ) Z.Guan, Y.Jiang, Y.Tanabashi, H.Huang : A new rheological model and its application in mountain tunnelling,, Tunnelling and Underground Space Technology,

178 第 5 章山岳トンネルの合理的な維持管理 5.1 はじめに土木学会トンネルの変状メカニズム委員会では, トンネル変状 を 完成したトンネルにおいて, 外力, 環境, 材料, 設計, 施工等に起因して覆工等に変形, ひび割れ, 剥落, 漏水などが生じ, トンネルに要求される機能が阻害されている状態, あるいは放置すればその恐れがある状態 と定義されており,JR( 国鉄 ), 道路, 水路トンネルについてはアンケート調査等の手法で変状トンネルの割合が調査されている. 調査結果を示した図 によれば, 軽微なものも含めると 25%~40% 程度のトンネルが変状を示しており, この割合にトンネル種類による大差はない.JR と道路トンネルについては図 に示すように変状現象の割合も調査されている. 特殊条件 ( 特殊地山条件 ) 下でのトンネルの施工においては, 種々の要因からトンネル完成後に地圧や水圧が作用し, トンネル変状を引き起こす可能性が高いと考えられる. これまで述べたように, トンネルの長寿命化を図るためには, 山岳トンネルの設計, 施工, 維持管理のそれぞれの場面で LCC( ライフサイクルコスト ) の最小化に向けた取り組みが重要となる. 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% JR( 国鉄 ) 道路水路 変状健全 図 種類ごとの変状トンネルの割合 1) - 3) (a) JR( 国鉄 ) 4) (b) 道路 2) 図 変状現象の割合 173

179 一方, 公共投資 ( 建設投資 ) が減少する反面, 高度成長期に構築された多くの構造物が, 時間の経過とともに劣化を生じ, 維持管理のための費用も増加することが予想される. 今後のトンネルストック量は急激に増大することが予測されており, 予算執行のための説明責任といった観点からも, 限られた予算でトンネルを含めた多くの地下構造物の維持管理をいかに合理的に行うか課題の解決方法の一つにアセットマネッジメント手法がある ( 図 ). とりわけ, 変状の発生確率の高いと考えられる特殊条件下で施工された山岳トンネルにおいては, トンネル建設費 ( イニシャルコスト ) のみに固執することなく,LCC の最小化といった観点から建設 維持 補修 更新を含めた, アセットマネジメント的な概念の導入が不可欠であると考える. 本章では, 山岳トンネル長寿命化に向けた合理的な維持管理の幾つかのシナリオについて, 特殊条件下での設計, 施工といった観点から考察を行った. ( 社会情勢 ) ( 社会的要求 ) 社会の成熟化 ( 低成長 ) ストック量の増大と老朽化の進展 社会基盤構造物の機能と安全確保 説明責任 予算の遍迫建設投資の減少 ( 課題 ) 維持管理費用の増大 制約条件下の最適維持管理 ( 解決策 ) マネジメント手法の導入 図 トンネルの維持管理上の課題と解決策の関連 5) 174

180 5.2 トンネルにおける維持管理とライフサイクルコスト 山岳トンネルの劣化予測のシナリオ山岳トンネルの維持管理とライフサイクルコスト ( 以下,LCCとする) のシナリオとしては図 に示すようにいくつか考えられる. 1シナリオ1は初期コストをかけることで補修 補強等のメンテナンス費用を抑制する. 2シナリオ2は初期コストを抑えて建設し, 維持管理の必要性にあわせてメンテナンス費用を繰り返しかける. 3シナリオ3はある程度の初期コストをかけるが維持管理上のメンテナンス費用もかける. 山岳トンネルの特殊性を考えるとトンネルでは容易に更新や撤去ができないため, シナリオ1またはシナリオ3を基本として最終的な撤去 更新が発生しないよう長寿命化を図ることが望ましいと考えられる. 図 維持管理とライフサイクルコストのシナリオ 6) また, 図 に一般的な道路トンネルの LCC として, 経過年数に応じてコストが累積される概念図を示す. 合理的な維持管理のためには, トンネル健全度が低下して要求性能を下回ることがないように, 適切な補修または補強を施しながら供用させることになる. そのため,LCC には初期投資費用 (IC) に加えて, 補修 補強費用 (mc,mc) が合算されることになる. 道路トンネルの寿命は他の構造物と比べて一般的に長く, 適切な維持管理を行えば,50 年以上を経過しても健全に使用されているトンネルも多く存在する. 175

181 LC : 設定耐用年数 I,L : それぞれの補修 補強を行う間隔 mc,mc: それぞれの補修 補強費用 IC : 初期投資費用 ψ(t) : 日常メンテナンス費用を決定する傾き φ(t) : 劣化進行を決定する傾き IS,S : 新設時の健全度および捕教示の健全度増加 θ(t) : リスクの増大を決定する傾き r,r : それぞれの補修 補強によるリスクの低下量 図 LCC の概念図 7) したがって, 今後, 合理的な維持管理を行い, トンネルを長期間供用可能するためには以下の事項に留意すべきである. 1 設計時から構造面, 管理面等を考慮して, 長寿命化を意識した予防保全的な対策を検討しておくこと. 2 供用後, 日常点検 定期点検で発見された変状に対して, 適切な補修 補強を行っていくこと. 3 旧基準で建設されたトンネルでは, 現在の要求性能 ( 使用性 ) 改善の目的で必要とされる建築限界を確保するため, トンネルの改築を含め, 断面拡幅等の大掛かりな対策 ( リニューアル ) を行う必要があること. 従来の道路トンネルのシナリオとしては, イニシャルコストに着目した経済設計によりトンネルを建設し, 供用後に生じる不具合に対して対症療法的に補修 補強対策が実施されてきた. しかしながら, 前述のとおり, 数多くのトンネル構造物が老朽化し, 一時期に集中して補修 補強対策が必要とされている現状の社会背景を踏まえ, 今後は50 年を超えるようなトンネルの長寿命化を図る目的で, 適切な劣化予測を行い, 建設時から維持管理に配慮した設計を行っていくことがますます重要になってくる. 176

182 (2) トンネルの長寿命化のシナリオと対策工 表 にトンネルの長寿命化技術の分類ごとに, 具体的な対策工の施工をふまえた 5 つのシナリオを示し, 図 に各長寿命化のシナリオの概念図を示した. 表 長寿命化技術の分類 7) 技術の分類長寿命化のシナリオ具体的な対策工 分類 Ⅰ 分類 Ⅱ 分類 Ⅲ 分類 Ⅳ 分類 Ⅴ 従来型の補修 補強技術で, 施工不良に起因する不具合や覆工のひび割れ等に対して行われる対症療法的な対策を実施する 将来的な劣化に対する補修を不要とするために, トンネル建設時から性能を上げておくことで長寿命化が期待できる. 分類 Ⅰ に属する一般的な補修対策と比べて, 外力による変状や材質劣化の進行を遅らせることで長寿命化が期待できる. 分類 Ⅰ に属する一般的な補修対策と比べて, トンネルの健全度を高度に回復 補強することにより, 長寿命化が期待できる. 社会的なニーズの変化から建築限界を拡大したり, 地震に対する耐力を増加させる等もともとの要求性能が向上させることで長寿命化が期待できる. 裏込め注入工 ひび割れ注入工 面導水, 先導水等 繊維補強覆工コンクリート インバート設置工等 地山注入工 コンクリート改質材塗布工等 プレキャスト覆工 薄肉鋼板内巻き工等 トンネル断面拡幅工 ( 改築 ) 耐荷工等 それぞれの分類に関して, 対策工 ( 長寿命化技術 ) に基づく, 健全度低下のシナリオと劣化予測に関して以下にまとめる. 1 分類 Ⅰは, 施工不良に起因する不具合や覆工のひび割れ等に対して行われる変状に対する対症療法的な技術であり, これまでの維持管理で一般的に行われてきたものである. 対策のための費用は少ないが, 期待される耐用年数の増加も少なく, 繰り返し対策が必要となる. 2 分類 Ⅱは将来的な劣化に伴う補修が不要となるように, トンネルの建設時から性能を上げておくことで長寿命化が期待できる技術である. 設計 施工時における予防保全的な検討がこれにあたる. イニシャルコストが高くなるために, 予算的な検討は必要である. 採用にあたっては劣化予測が重要となり, これまでの変状対策実績を参考にすることが有効である. 3 分類 Ⅲは分類 Ⅰで述べた一般的な補修技術と比べて, ひび割れ等の変状を引き起こす要因となる外力や覆工の材質劣化に対しての対策技術である. 供用後の維持管理の比較的初期の段階で実施することが有効であると考えられる. 外力に関しては, 現状のトンネル建設の標準工法であるNATMでは, 特殊な地山条件, 施工条件のトンネルに限定されると考えられるが, 今後, 維持管理が必要となる矢板工法により建設されたトンネルでは長寿命化のための有効な対策の1つと考えられる. 4 分類 Ⅳは分類 Ⅰによる維持管理を進めていく上で, 分類 Ⅰで実施される一般的な補強対策 ( 内面補強工, ロックボルト補強工等 ) よりも高度にトンネルの健全度を高めることで長寿命化を図る技術である. 新技術の開発が望まれる分野でもあるが, トンネルの場合は建築限界に限度があるため, 対策工の採用にあたっては注意が必要となる. また, 177

183 これまでの変状対策実績を参考にすれば, 特殊な地山条件, 施工条件におけるトンネルの設計においては, 将来の維持管理における対策工を見据えた内空断面の設計も重要であると考えられる. 5 分類 Ⅴは, 分類 Ⅰから分類 Ⅱと異なり, 社会的なニーズの変化 ( 車両の大型化等 ) や地震に対する耐力増強といった必要性に伴い, 本来必要とされる要求性能を向上させることにより, 長寿命化を図る技術である. 凡例 : 対策工による健全度回復度合 Ⅰ ~ Ⅴ : 長寿命化のシナリオ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 要求性能 ( 高性能 ) 要求性能 ( 設計レベル ) Ⅰ 要求性能 ( 使用限界 ) 図 トンネル長寿命化のシナリオ劣化予測曲線 山岳トンネルの場合, 種々の制約条件や建設コストの関係から, 容易にトンネルを新設することが困難である. したがって, トンネルの要求性能を向上させることにより, 現状のニーズにあった仕様に改築する必要性は今後, ますます増加するものと考えられる. 以上のように山岳トンネルの長寿命化のシナリオに関しては, 劣化の程度や対策工のレベルにより幾つか考えられるが, 劣化予測の手法の確立により, トンネルの施工条件や予算に配慮して LCC を考慮した合理的な維持管理の実現が図られるものと考える. 178

184 5.3 山岳トンネルの要求性能と照査 はじめに 我が国では昭和 30 年代に建設され, 供用後 50 年以上経過するトンネルが, 今後急激に増大すると予測される. 一般にトンネル構造物は容易に取り替えることができないため, 計画的な維持 再生を行い, 延命化を図ることが特に重要である. しかしながら現状ではトンネルの要求水準や耐用年数などが明確でないことから, ライフサイクルコスト (LCC) を算出して補修 補強 改築といった対策を合理的に実施して予防保全を行うことは一般に困難である. こうした課題を解決するためには, 本来トンネルに求められる機能や性能をまず明らかとすることが必要と考え, 山岳トンネルを対象に, これまでの変状実績や維持管理に係わる事例等を踏まえトンネルの必要機能と要求性能について抽出した. さらに要求性能を評価するための照査項目と照査内容について検討した結果を以下に述べる KJ 法による要求性能項目の抽出と絞り込み 山岳トンネルの要求性能という漠然とした事項についてアプローチする上で,KJ 法 ( 川喜田二郎氏による創造的問題解決法 ) を用いて, まず一般的な地下構造物を想定した要求性能の抽出を行った. KJ 法とはブレーン ストーミングなどで出されたアイデアや意見, または専門家のこれまでの経験等から得られる雑多な情報を一枚ずつ小さなカードに書き込み, それらのカードの中から近い感じのするもの同士を2,3 枚ずつ集めてグループ化していき, それらを小グループから中グループ, 大グループへと組み立てていくものであり, これらの作業の中からテーマの解決に役立つヒントやひらめきを生み出していこうとする手法である. 今回, 図 に示す検討フローに従い,KJ 法の実施の過程で抽出された各項目をいくつかのグループにまとめるとともに, 山岳トンネルという観点から絞り込みを実施した. 179

185 地下構造物の要求性能ピックアップ ( 思いつく項目抽出 ) グルーピング ( 内容毎に幾つかのグループに分類 ) 山岳トンネルというラベルでの分類 ( 関連する項目を絞り込み ) 山岳トンネルの要求性能の整理 ( 鉄道 道路に関連するもの ) 要求性能と照査項目の整理 ( マトリックス的な整理 ) 照査項目と照査手法 技術の整理 山岳トンネルの要求性能のまとめ 図 要求性能検討フロー (KJ 法 ) 8) その結果, 山岳トンネルに必要な機能としては, 以下に示す 13 項目が抽出された. 1 必要空間の保持 ( 建築限界の確保 ) 2 安全保持 ( 第三者への安全確保 ) 3 避難路の確保 ( 非常時の避難 ) 4 地上とのアクセス 5メンテナンス性 ( 維持管理の容易さ ) 6 水密保持性 ( 地下水への影響, 漏水処理 ) 7 気密性 8 環境保持 ( 照度, 景観, 地下水への影響 ) 9 快適性 ( 走行性, 照度, 線形 視距 ) 10 耐火性 ( 消火活動が可能, 高耐火性 ) 11 設備の保持性 ( 維持管理, 点検 補修 ) 12 軌道安定性 ( 鉄道における走行性, 維持管理 ) 13 耐久性 ( 周辺地山も含めた構造安定性 ) 180

186 さらに, 山岳トンネルに関連する要求性能として分類すると以下のとおりとなる. a) 耐久性能 ( 内空変位, 耐荷性, 周辺地山安定, 排水性, 耐久性 ) b) 安全性能 ( 剥落無し, 避難路, 耐火性, 消化可能 ) c) 利便性 快適性 ( 走行性, 閉塞感, 照度, 換気 ) d) 周辺環境への影響性能 ( 景観性, 振動 騒音, 地下水への影響 ) e) 維持管理性能 ( 点検が容易, 補修 補強が容易 ) f) 経済性 ( 建設費, 維持管理費, 湧水処理費,LCC( ライフサイクルコスト )) 要求性能を照査する項目をそれぞれ抽出し, 要求性能との関連性についてマトリックス表に整理し表 に示す. 照査項目としては, 防災設備や避難路の規模, 線形 視距, 照度のように, 主として走行車両に関連し道路トンネルにおいて特に重要とされるものが幾つかあるものの, 概ね鉄道と道路で共通する項目の多いことが分かった. さらに, 経済性といった項目のように, トンネルの機能には直接関連性はないものの, 要求性能としては重要と考えられる項目については検討項目として抽出した. 181

187 要求性能 耐久性能 安全性能 利便快適性能 周辺環境への影響性能 維持管理性能 経済性 表 山岳トンネルにおける要求性能と照査項目 8) 必要な指標 内空形状寸法 内空変位沈下量 地形地質 緩み領域 覆工残余耐力 覆工のひび割れ 覆工強度 防災設備規模 避難路の規模 照度 騒音振動レベル 漏水量水圧 水質 覆工 内装の耐火性 線形視距 内空変位が無い 荷重に対し覆工安定 周辺地山が安定 排水性が良い 耐久性がある 覆工が剥落しない 非常時避難路の確保 ( 道路 ) 耐火性がある 消化活動が可能 ( 道路 ) 走行性が良い 閉塞感が無い ( 道路 ) ( 道路 ) ( 道路 ) ( 道路 ) 必要な照度がある ( 道路 ) 換気が良好 ( 道路 ) 周囲の景観と調和 ( 道路 ) ( 道路 ) ( 鉄道 ) ( 道路 ) 騒音 振動が無い 地下水への影響無い 点検が容易 補修 補強し易い 建設費が安価 ( 道路 ) LCC が安価 ( 道路 ) や ( 鉄道 ) とあるのは 道路もしくは鉄道に関係した項目評価 ( 道路 ) ( 道路 ) ( 道路 ) 坑門工のデザイン ( 道路 ) 182

188 5.3.3 山岳トンネルの性能照査項目と照査方法 山岳トンネルの照査項目と照査方法に関して一覧表にまとめ, 表 に示す. 照査手法 技術を新設トンネルの設計 施工時に行うものと既設トンネルの維持 再生時に行うものとに分けて整理したが, 新設トンネルと既設トンネルとでかなり項目が異なっていることが分かる. 例えば, 覆工残余耐力 や 覆工のひび割れ, 覆工強度 等は既設トンネルの維持 管理などで考慮される照査項目であるが, 内空形状 寸法 や 内空変位 沈下量, 騒音 振動 等は新設, 既設いずれにおいても考慮されるべき照査項目となっている. また, 照査手法 技術に関しては, 定量的に照査する新しい技術や非破壊検査手法が揃いつつあるが, 今後はさらに広範な面的測定方法の開発や, 効率的でより安価な検査技術の開発が必要と考えられる. 評価基準 方法に関しては, 内空形状 寸法 や 覆工強度 等については, 新設時のマニュアル類や各種基準等をよりどころとした比較的定量的な評価基準となっている. これに対し 覆工残余耐力 や 漏水量 水圧 等では定性的な評価を含む項目が多くある. 183

189 表 山岳トンネルの性能照査項目と照査方法一覧 (1) 8) 照査内容照査項目照査手法 技術評価基準 方法課題 内空形状 寸法 既 新 断面測定 ( 光波距離計 ) 既 写真測量 新 ドライビングシミュレ - タ 新 実車走行試験 必要建築限界の確保 軌道検査基準値以内 走行時閉塞感が少ない 効率的な面的測定手法の開発 測定時交通規制の発生 評価基準がトンネル規模で異なる 客観的評価手法の開発 評価基準がトンネル規模で異なる 密接に関連する要求性能 補修 補強し易い 建設費が安価 内空変位 沈下量 地形 地質 既 新 3 次元計測システム 既 新 コンバ ジェンス計測 既 新 レベル測量 既 新 地表地質踏査 既 新 ボ リング調査 1mm/ 年以下 変位が累積傾向にない 走行に支障ない 土被り 特殊地山の有無 地すべりの有無, 規模, 範囲 地山の劣化度 施工時からのデ- タの継続 測定時交通規制の発生 変位の原因の推定方法 背面地山状況の把握 施工時地質デ -タの保存, 継承 内空変位が無い 荷重に対し覆工安定 周辺地山が安定 荷重に対し覆工安定 周辺地山が安定 周囲の景観と調和 ( 道路 ) 緩み領域 覆工残余耐力 既 背面空洞探査 背面空洞の範囲, 大きさ 効率的な背面空洞調査法の開発 既 コアボーリング調査 亀裂や岩の硬さ等から緩み域を推定 孔内試験や物理検層から緩み域を推定 地山条件により調査の可否が異なる 点的調査である 既 新 連続体解析 既 新 不連続体解析 既 模型実験 既 ひび割れ調査 ( 開口幅, 長さ, 密度, 進行性等 ) 既 覆工厚測定 既 アルカリ骨材反応試験 既 中性化試験 既 現有覆工応力 ひずみ測定 既 AE 法 緩み領域や状態 不連続面の挙動 背面空洞の有無 破壊パターン 剥落の可否, 耐荷力 設計巻厚との差 残存膨張量 許容応力とひずみ 応力履歴の確認 緩みの直接的な解析ではない ( ひずみ等からの推定 ) 地山のモデル化や物性値の設定 調査の効率化 ひび割れと耐荷力との関係 局所破壊検査 点的調査 荷重に対し覆工安定 周辺地山が安定 荷重に対し覆工安定 耐久性がある 覆工が剥落しない 補修 補強し易い 維持管理費安価 既 ひび割れ進展解析 許容変位 作用地圧や覆工構造の設定 覆工のひび割れ 既 ひび割れ調査( 開口幅, ひび割れ状況の進展の有無 デジタルデータ化 ( 自動化 ) 長さ, 密度, 進行性等 ) ひびわれの進行( 幅, 長さ ) 高速測定技術 既 レーザ,CCD カメラ ひび割れ幅の基準 ひび割れ幅の認識 ( 鉄筋 Con:0.2mm ( 維持管理便覧 ) 以上,JH では無筋 1mm 以上, 精度に 閉合ひび割れの有無 限界 :0.3mm 程度 ) ( はく落の可能性判断 ) 測定者( 熟練度 ) による誤差 覆工強度 既 シュミットハンマ - ( 反発硬度 ) 既 コア圧縮試験 既 コア超音波速度測定 設計基準強度を満たしているか (18N/mm2,21N/mm2 等 ) 健全なコンクリ - トの超音波速度 (4000m/s 程度 防災設備規模 既 新 各種基準との整合の確認 ( 道路 ) 非常用施設設置基準 道路トンネル技術基準 同解説 日本道路公団設計要領 その他消防法, 建築基準法など ( 鉄道 ) 鉄道営業法 運輸省通達 避難路の規模 既 新 各種基準との整合の確認 ( 道路 ) 非常用施設設置基準 日本道路公団設計要領 時代に応じて設計基準強度が変遷 シュミットハンマ -は表面の状態で結果が左右される コア採取本数に限界 位置による強度の相違 ( 天端, 肩部, 側壁部, 底部等 ) ソフトコアリング (φ25mm 高 50mm) 坑内火災対策 内空変位が無い 荷重に対し覆工安定 覆工が剥落しない 荷重に対し覆工安定 耐久性がある 覆工が剥落しない 消火活動が可能 ( 道路 ) 非常時避難路の確保 ( 道路 ) 消火活動が可能 ( 道路 ) ( 既 ): 既設トンネルの維持 再生時に行なう照査項目, ( 新 ): 新設トンネルの設計 施工時に行なう照査項目 184

190 照査内容照査項目照査手法 技術評価基準 方法課題 密接に関連する要求性能 照度 既 照度測定 道路照明施設設置基準 同解説 走行性が良い ( 道路 ) 必要な照度がある 騒音 振動レベル 既 騒音測定( 交通車両 ) 新 騒音予測 既 振動測定( 交通車両 ) 新 振動予測 環境基本法による基準値および騒音規制法による要請基準 (LAeq) 以下 ( 地域, 時間帯を考慮 ) 振動規制法による要請基準(L 10 ) 以下 ( 区域, 時間帯を考慮 ) 発破振動は低周波が卓越し, 対策効果が低い 対策費が高い 精神的, 感情的な部分がある 騒音 振動が無い 漏水量 水圧 水質 覆工 内装の耐火性 線形 視距 坑門工のデザイン 表 山岳トンネルの性能照査項目と照査方法一覧 (2) 8) 新 覆工コンクリートの施工品質 既 漏水箇所, 漏水状態および不具合状態 既 地下水圧に関するリスク対応 既 トレーサー試験 既 地下水位観測 既 流量測定 既 水温測定 既 PH 測定 既 水質検査 既 濁り 新 不燃性試験 評価 ( 建築基準法 ) 既 新 耐火パネルの性能確認 既 新 耐火塗料の性能確認 既 新 線形の確認 新 ドライビングシミュレ - タ 新 景観シミュレーション 既 新 アンケート調査 既 新 データ解析技術 新 ドライビングシミュレータ 構造的変状原因のリスク対応 ( 塑性圧, 偏圧, 支持力低下, 近接施工他 ) 通行車両や付属施設への悪影響 漏水要因の調査, 漏水状態の改善の必要性評価と改善 水圧を作用させない 地下水の流動性の概査 豪雨時の急激な地下水位変動の有無 漏水の流入経路の推定 コンクリート劣化への影響の有無 コンクリート劣化への影響の有無 土砂流入に伴う空洞発生の有無 国土交通省大臣が指定する 不燃材であること, または 認定不燃材 であること コンクリート構造物の火災安全性研究委員会報告書 (JCI) 平面線形: 直線または大半径の曲線とする 道路の等級に応じて必要な視距を確保するための拡幅ができるだけ必要ないように設定 縦断線形: 施工の効率性, 排水勾配の確保, 自動車の排ガス換気の効率性の観点から設定 CG SD 法等 プロフィール分析, 因子分析, 数量化 Ⅰ 類分析等 設計品質の確保 覆工コンクリートのひび割れ対策の見直し 漏水要因の調査方法 漏水状態の改善方法 複数の観測地点が必要になる 景観評価手法の整理 確立 景観設計マニュアルの整備 シミュレーション技術の向上 荷重に対し覆工安定 覆工が剥落しない 補強 補修し易い 排水性が良い 維持管理費安価 漏水処理が安価 地下水への影響が無い 耐火性がある 走行性が良い 換気が良好 ( 道路 ) 周囲の景観と調和 ( 既 ): 既設トンネルの維持 再生時に行なう照査項目, ( 新 ): 新設トンネルの設計 施工時に行なう照査項目 山岳トンネルの耐震性能 9) 山岳トンネルは, 従来から耐震性に富む構造物であるといわれており, これまで坑口付近などを除いては耐震性について事前に検討されることは少なかった. しかしながら近年相次いで発生した兵庫県南部地震 (1994 年 ) および新潟県中部地震 (2004 年 ) では, 地上部の被害に比べ比較的軽微ではあるものの, 幾つかのトンネルにおいては地震の影響により, 覆工コンクリートにひび割れや剥落が生じるなどの被害が生じている. そこで山岳トンネルの長寿命化を考える上で耐震性について再認識することが重要であると考え, 今後耐震性を検討する上での参考とするため 地震による被害事例について以下のとおり整理した. (1) 兵庫県南部地震以前の被害状況鉄道トンネルにおける過去の震災事例調査結果から,1 地震規模が大きく,2 地震断層面からの距離が近く,3 特殊条件 ( 破砕帯, 弱層部, 湧水箇所等 ) が介在すれば, トンネルも地震の被害を受けることが明らかとなっている. ここでの特殊条件とは, 坑口部での斜面災害や地震断層といった地形 地質条件とトンネルおよび周辺地山の欠陥といった構造条件に大別される. (2) 兵庫県南部地震兵庫県南部地震の被災地域内には 100 を越える山岳トンネルがあり, このうち軽微なも 185

191 のも含めて約 30 本のトンネルが地震の影響を受け, 補強 補修を要するような被害を受けたトンネルは 10 本程度あった. 関東大震災の際には被災地域内にあった百数十本の鉄道トンネルのうち,8 割以上が何らかの被害を受けたとされており, これに比べてかなり少ない数である. 微細なひび割れ, 剥落などで被害として報告されていない例も多いと考えられるが, 全体的に地上部の甚大な被害に比較して軽微であったと言える. トンネル内の被害位置は, 建設時に集中湧水や断層粘土の存在のため難工事を強いられた断層や破砕帯の区間が多かったことが地震後の調査で分かっている. (3) 新潟県中部地震新潟県中部地震の震央付近には, 鉄道や道路などの山岳トンネル数十本が集中している. この中には矢板工法で施工されたものが多く,NATM によるものは比較的少ない. これまでの調査によると大部分のトンネルは被害が小さく 軽微なひび割れや打継ぎ部のコンクリ-ト片が剥落する程度であった. 国道では 13 本のトンネルのうち, 補修が必要なものは 2 本だけであった. しかしながら, 震源に極めて近い上越新幹線魚沼トンネルや国道 17 号和南津トンネル ( ともに矢板工法 ), 斜面崩壊の影響を受けたと考えられている小千谷川口大和線木沢トンネル (NATM) では, 覆工の崩落を伴う大きな被害が発生した. これらの被害メカニズムについては, 前述のように 1 地震規模が大きく,2 地震断層面からの距離が近く,3 特殊条件が介在している ことが要因となっているものと考えられる トンネルの要求性能と維持 再生における課題 (1) トンネルの劣化予測と評価照査した結果をいかに評価するかが大きな課題である. 例えば既設トンネルの場合, ひび割れや覆工強度などを定量的に計測したとしても, 要求性能である耐久性などとどのように関連するのか, その評価方法やプロセスを明確にする必要がある. 鉄筋コンクリート構造物では耐久性能に関する劣化過程を, 潜伏期 進展期 加速期 劣化期 ととらえ, 劣化要因との関係から劣化予測や評価の方法を定めている. しかしながらトンネル覆工は通常無筋であることから, 鉄筋の腐食による耐久性評価ができないなど劣化の予測と評価が極めて困難である. 今後は, 覆工コンクリートの他, 吹付けコンクリートやロックボルト等の支保部材に対しても, 劣化機構の解明や劣化過程における評価基準の確立, さらには劣化予測のモデル化の研究を進め, さらに耐久性能に関する各種の指標と総合的な評価方法やプロセスを明らかにする必要がある. (2) データの蓄積トンネルに発生する変状や劣化には多岐の内容があり, その原因としては材料, 環境, 外力, 設計 施工など複数の要因が重複している場合が多い. したがって, 調査から設計, 施工, 維持管理に至るまでのデータをカルテとして一元的に作成 管理し, データの活用を図っていく必要がある. さらに広く変状や劣化状況, 改修内容等を開示し, 情報の共有化を図る必要がある. 186

192 (3) 計画的維持管理手法の確立現在トンネルの補修 補強の対策は, 変状が生じてから対策を立てているのが一般的である. しかしながら下水道分野では, 管渠全体のライフサイクルコスト分析から経済的耐用年数を試算し, その結果を基に管渠の計画的な再構築を行っている例もある. 今後は事業者を主体とし, アセットマネッジメントの導入によるライフサイクルコスト分析等を通じ, 事後保全から計画保全へと移行する手法の確立が望まれる まとめ 山岳トンネルの過去の変状実態を踏まえ, 山岳トンネルに必要とされる機能と要求性能を抽出し, それらを評価するための照査項目, 内容について検討した. その結果以下の点が明らかとなった. (1) トンネル覆工は基本的に無筋コンクリートであるため, 材料自体の劣化予測が困難であるといった側面がある. また一般の明り構造物とは異なり, トンネルの安定は覆工と周辺地山の相互作用のもとで論ずるものであるから地山自体の劣化 ( 緩み領域の増加等 ) に深く関連していることに配慮する必要がある. (2) 計画的に山岳トンネルの維持 再生を行うという観点から, どの要求性能に重点をおきどの照査項目に着目するかということについては課題の部分も多く, また防災や美観, 景観といった直接トンネル構造とは無関係な項目についても, 用途によってはトンネルの要求性能として重要となってくる. (3) これまで建設された山岳トンネルの維持管理に関わる問題事例や変状データを検証すると, 地質的な影響 ( 膨張性地山, 新第三紀泥岩, 未固結地山, 湧水地山等 ) や構造上の影響 ( インバート無し, 排水対策不足 ), 環境 ( 塩害, 有害水, 寒冷地等 ) などの変状要因との因果関係が明らかとなっている. これらの条件に該当する場合には, 計画 設計段階から予防保全的な考えで対応することが必要である. (4) 山岳トンネルの耐震性については, これまで坑口付近など特殊な箇所以外では検討されることは少なかった. しかしながら近年の大地震における被災事例から トンネルの長期的な安定性の確保や長寿命化について検討するに際しては 耐震性に関する検討も必要であると考えられる. 今後, 山岳トンネルにおいて, 適切な対策を施すことで延命化を図る ( 再生させる ) ことが維持管理上, ますます重要となってくるとともに, 大深度地下利用の促進が図られるといった観点からも, 今後建設される山岳トンネルにおいては, これまで我々が経験した山岳トンネルの変状や補修 補強対策などの実績を踏まえた上で, トンネルの用途に応じた要求性能に着目し, 新設トンネルの計画 設計に際しできるだけ長寿命化を図ることが重要と考える. 187

193 5.4 特殊条件下における合理的な維持管理システムの提案 特殊条件下でのトンネルの計画 設計 施工 維持管理 特殊条件下におけるトンネルの設計, 施工, 維持管理においては, これまで述べた維持管理と長寿命化のシナリオをふまえて考えると, イニシャルコスト ( 建設費 ) だけでなく, 建設後の維持管理費用まで含めた全体のライフサイクルコストを検討する必要がある. 図 にトンネルの計画 設計 施工 維持管理の流れを示す. ここでは, トンネルの寿命を大きく建設期, 運用期に分類して以下に述べる. 建設期においては, 特殊な地形, 地質条件下でのトンネルの安定を確保するための対策工 ( 補助工法 ) の選定にあたっては, 十分とはいえない事前調査を補完する目的で切羽位置における前方地山の評価を実施することにより, 効果の期待できる対策を選定する必要がある. また, 設計の段階から, 建設後の維持管理を考慮したトンネルの構造 ( 支保パターン ) や対策工を検討 ( 予防保全 ) しておくことが重要である. また, トンネル変状との関連するデータ ( 地山状況, 破砕帯位置, 計測データ等 ) と初期点検による建設時の健全度データの保存が重要となる. 運用期に関しては, これまで述べたとおり, トンネルの重要性に配慮して, 長寿命化のシナリオを策定し, 要求性能確保に向けた維持管理フローに基づき, 日常点検, 定期点検, および異常時の臨時点検を進めていく. 点検においては, 将来のトンネルの劣化予測に必要な指標 ( 具体的な数値 ) を選定することが重要である. また, 初期点検を含め, 定期点検のデータが 2 点以上そろった時点で劣化予測を実施し, その結果に基づき, 長寿命化のシナリオの実現に向けた対策工を立案していく. ここでも, 建設期同様, 補修履歴といったデータを保存していくことが重要となる. さらに, トンネル変状が発生した場合には, 詳細調査を実施して, その調査結果にもとづき, 耐久性評価を含めた要求性能に対する健全度の評価を行うとともに, 劣化予測に基づく維持管理フローの修正を行っていく. 運用期においても, 建設期同様, 変状の有無, 変状部分の変化, 補修履歴といったデータを保存していくことが重要となる. 以上のサイクルを繰り返すなかで, 劣化予測と実際の劣化度の比較と劣化予測手法へのフィードバックによりアセットマネジメント技術の確立を図っていくことが重要である. 188

194 新設トンネル LCC 要求性能 ( 耐久性評価含む ) 調査 設計 新設 施工 1 予防保全的な設計 特殊な地形, 地質条件下での維持管理を考慮した構造 対策工を設計時に考慮 建設期 日常の維持管理 NO 日常 定期 異常時 臨時点検 2 維持管理と劣化予測 劣化予測に必要な指標の選定 アセットマネジメント的な考え方の導入 長寿命化のシナリオの構築 要求性能確保に向けた管理フローの策定 劣化度の評価技術の向上 寿命 ( 耐用年数 ) 変状調査 運用期 要求性能 ( 耐久性評価含む ) 健全度評価 補修 補強で対応可能か? YES 補修 補強の施工 NO 次のシナリオへ 3 マネジメント技術の確立 調査および評価技術の向上 劣化予測と健全度の比較とフィードバック 維持管理技術のスパイラルアップ 改築更新廃棄 図 トンネルの計画 設計 施工 維持管理の流れ 7) 189

195 5.4.2 今後の維持管理に向けた取り組み トンネル構造物においては, 温度, 気候条件, 交通量などの関係で劣化が進行するとは言い難い面がある. 例えば, 舗装では交通量が支配的であるし, 橋梁床版の疲労なども同様である. また, トンネル構造物では, 様々な原因が複合されることにより,1 本のトンネル内であっても対象箇所によって異なる健全度低下を示す場合がある. 特殊な地山条件として, 断層や斜面クリープなどの影響で構造的な外力を受ける箇所では, 健全度低下速度が速く, またバラツキも大きくなることが想定される. 逆に,50 年程度以上経過しても, 全く健全である箇所も存在する. さらに, トンネル構造物では, 点検頻度が極端に少ないという特殊性を考慮した上で, トンネルにおける維持管理の最適化といった観点から考えれば, 点検間隔でコントロールする手法が現実的である. ライフサイクルコスト算定において, 点検間隔を制御パラメータとして追加することにより, 全体的にゆるやかな低下傾向であれば点検間隔を拡大することができ, 逆であれば縮小するという結論を求めることができる. 維持管理の実務においては, 部分的に進行の速い箇所があれば, 点検間隔を幾分縮小するか, 対象箇所のみ点検間隔を縮小するといった部分管理の概念を導入することも可能である. さらには, 構造的変状が著しい箇所についてはモニタリングを追加して集中管理を実施することも選択肢として挙げられる. 以上のように, トンネルの維持管理においては, 経済的 効率的な意思決定を実現することが維持管理上最も重要となる. 4.4 節で述べたとおり, 破砕帯, 湧水地山, および膨張性地山といった時間依存性を有する特殊地山条件下におけるトンネルの変状予測において, 各種の劣化予測手法の有効性を確認できた. 今後, 確実に増加することが想定されるトンネル構造物 ( 社会資本ストック ) を長寿命化させるための合理的な維持管理を実現する上で, 建設 維持 補修 更新を含めた, アセットマネジメント的な概念の導入が求められており, 今後の劣化予測手法の確立が望まれている. 金融や不動産の分野では, 資産の運用 という意味で用いられている. すなわち, 個人や法人の資産運用に伴うリスクとリターンをコントロールすることにより, 安定した収益を確保しようとする手法である. 一方, 建設業界でも, 公共性の高い土木構造物を国民の財産と考え, 安全性や利用者満足を確保しながら, いかに長期的な費用を低減するか, 無駄のない維持管理を行うとする考え方をアセットマネジメントと称している. また, 国土交通省では, 道路のアセットマネジメント を 道路管理において, 橋梁, トンネル, 舗装等を道路資産として捉え, その損傷 劣化を将来にわたり把握することにより最も費用対効果の高い維持管理を行う概念 と定義し, それを実現するためのマネジメントシステムの構築を進めている. このような社会情勢の中で, 特に変状確率の高い特殊条件下でのトンネルにおける合理的な維持管理を行うにあたり, 現状の変状状態に応じた適切な補修 補強対策を施すことは言うまでもないが, 有効な変状予測解析や劣化予測手法を用いることにより, 対策工の効果や対策後のトンネルの寿命予測等も可能となる. 190

196 トンネルを含めた土木構造物は, 様々な機能を果たすべく計画, 設計され, 種々の構造物が, 多くの材料を用いて建設されている. その規模も大きく, 施工条件も複雑である. その中で, 地下に構築されるトンネル構造物は, 橋梁等の明かり構造物と比較すると, 地山条件をはじめ, 多くの不確実な要因によって異なった挙動を示すとともに, 要求性能や必要機能といったものも多様である. 今後のトンネルの維持管理においては, トンネルの主たる構造物である覆工コンクリートの劣化に関して, 予測手法の良否を議論することも必要であるが, まずは, 現状レベルでの予測手法を用いて劣化予測を実施していくことが重要であり, 図 に示すように, 将来得られる点検データに対して, 次期の点検時に, 現時点での予測結果が合っていたのかどうかの検証を行うとともに, 合わなければ何が要因で合わなかったかを分析 評価して劣化モデルにフィードバックすることにより, 劣化モデルの改良を図るとともに, 維持管理の継続的改善を行うことで, より精度の高い劣化予測が可能となることが期待される. 維持管理の継続的改善 Plan 維持管理方針 対策記録の保管 維持管理計画 Action 対策工の実施点検 調査 調査結果の評価分析 Do 劣化予測の実施 対策工の検討 Check 図 山岳トンネルにおける合理的な維持管理の進め方 191

197 5.5 おわりに 第 5 章では, トンネルの変状現象が発生する可能性の高い特殊条件下における山岳トンネルの設計 施工, および維持管理において, 山岳トンネル長寿命化に向けた維持管理の幾つかのシナリオを整理するとともに, 特殊条件下における合理的な維持管理システムの提案を行った. 以下にその概要を示す. (1) 5.1 節では, 施工実績より特殊条件 ( 特殊地山条件 ) 下でのトンネルの施工においては, 種々の要因からトンネル完成後に地圧や水圧が作用し, トンネル変状を引き起こす可能性が高いことから, トンネルの長寿命化を図るためには, 山岳トンネルの設計, 施工, 維持管理のそれぞれの場面で LCC( ライフサイクルコスト ) の最小化に向けた取り組みが重要となることを示した. (2) 5.2 節では, トンネルにおける維持管理とライフサイクルコストの検討に基づく山岳トンネルの劣化予測のシナリオと各シナリオを可能とするための対策工の例を示した. 山岳トンネルの長寿命化のシナリオに関しては, 劣化の程度や対策工のレベルにより幾つか考えられるが, 劣化予測の手法の確立により, トンネルの施工条件や予算に配慮して LCC を考慮した合理的な維持管理の実現が図れるということを示した. (3) 5.3 節では, 山岳トンネルの過去の変状実態を踏まえ, 山岳トンネルに必要とされる機能と要求性能を抽出し, それらを評価するための照査項目, 内容について検討した結果を示した. (4) 5.4 節では, トンネルの寿命を大きく建設期, 運用期に分類してそれぞれの段階における合理的な維持管理システムの提案を行うとともに, 一連のサイクルを繰り返すなかで, 劣化予測と実際の劣化度の比較と劣化予測手法へのフィードバックによりアセットマネッジメント技術の確立を図っていくことが重要であることを示した. 以上のことから, 特殊条件下におけるトンネルの設計, 施工, 維持管理においては, 計画的に長寿命化のシナリオを考え, イニシャルコスト ( 建設費 ) だけでなく, 建設後の維持管理費用まで含めた全体のライフサイクルコストを検討する必要がある. また, トンネルの計画 設計 施工 維持管理といった一連のサイクルにおいて, 劣化予測と実際の劣化度の比較と劣化予測手法へのフィードバックによりアセットマネッジメント技術の確立を図っていくことが重要であることを示した. 192

198 参考文献 1) 吉川恵也, 北側修三, 川上義輝, 馬場富雄 : トンネル変状の傾向 (2), 鉄道技術研究報告,No.1293, )( 社 ) 日本道路協会 : 道路トンネル維持管理便覧, 丸善, ) エネルギー土木委員会設備診断 補強技術小委員会 : エネルギー土木設備の維持管理技術, ) ( 財 ) 鉄道総合研究所 : トンネル補強 補修マニュアル, )( 社 ) 土木学会地下空間研究委員会, 維持管理小委員会活動報告書 : 地下空間の維持管理の現状と問題点, そしてその解決策, ) 宮川豊章, ライフサイクルコストの活用法, 日経コンストラクション / コンクリート補修入門講座最終回,pp.79-83, )( 財 ) 道路保全技術センター, 山岳トンネルの劣化予測に関する検討報告書, ) 岡田, 藤原, 山田 : 山岳トンネルの要求性能と照査項目に関する一考察,pp.213~220, 第 10 回地下空間シンポジウム, ) 朝倉俊弘 : 最新のトンネル技術 ~ 技術の変遷と課題 ~, 最新のトンネル技術 講習会テキスト,( 社 ) 地盤工学会,

199 第 6 章トンネルの長寿命化に向けた新しい取り組み 6.1 はじめに 山岳トンネルの覆工コンクリートは一般の土木構造物と異なり, 吹き上げ方式により打ち込まれる. そのため, 補強鉄筋区間のアーチ天端部, 断面変化部, 妻部隅角部, 箱抜き部などの施工では, 十分な締固めができずに背面空洞の発生が懸念されていた. また, 覆工コンクリートのはく落事故等をうけ, 新設トンネルの覆工コンクリートに対して, 地山の変状 ( 崩落, 変位量の増大, 未収束等 ) や, 充填不足による空洞等などの構造的な欠陥, また品質管理上の問題などに起因するひび割れ等の変状や, 第三者への被害を与えるはく離 はく落の発生に対しての社会的関心が高まり, これまで以上に覆工コンクリート施工時の品質の確保や耐久性の向上が重要となってきている. 本章では, 山岳トンネルの主たる構造物である覆工コンクリートの長寿命化に向けた新技術の開発と現場適用について述べる. 6.2 高品質高充填覆工コンクリート工法の開発 概要 本工法は, 覆工コンクリートの施工に配慮して, 覆工材料の性状の改善といた観点から新技術の現場適用を図ったものである. 本工法の適用により流動性を変え打設部位で使い分けることで, 充填性向上, 低水比コンクリートの使用が可能となり, コンクリートの密実化 緻密化が図られる. 標準の施工工程での施工が可能であり, 覆工コンクリートの流動性向上による充填性の改善により, 覆工コンクリートの高品質化, 高耐久性化が期待できる 現場適用実績 2) (1) 適用トンネルの概要四国横断自動車道は, 阿南市を起点として, 高松市, 高知市を経由し, 大州市に至る延長 441km の路線である. 今回, 当工事は, 須崎新荘 ~ 窪川間の直轄高速方式により整備される区間で中土佐町久礼に位置する和田トンネル L=156m, 焼坂トンネル L=920m, 明り土工工事 L=670mを含む延長 L=1,746mの高速道路を新設するものである. 表 に工事概要をまとめた. 194

200 表 工事概要 工事名称工事場所工期発注者施工者トンネル延長 四国横断自動車道焼坂第二トンネル工事高知県高岡郡中土佐町久礼 2006/3/28~2009/1/10 西日本高速道路 ( 株 ) 四国支社 ( 株 ) 鴻池組 西武建設 ( 株 ) 特定建設工事共同企業体和田 TN L=156m 焼坂第二 TN L=920m 工事内容 トンネル断面掘削断面積 :81.2m 2 仕上り内空断面積 :72.3m 2 掘削工法 NATM 発破掘削補助ベンチ付き全断面掘削工法, ショートベンチ工法 補助工法 注入式フォアポーリング 坑口 FCB 押え盛土 騒音振動対策 ( 低周波音対策 ) (2) 工法の概要本工法は, 標準のトンネル覆工用のコンクリート (T1-1,σ28=18N/mm 2 スランプ 15± 2.5cm) に替えて, 流動性を高めたコンクリートを用い, これまで充填性確保が困難となる場合があった補強鉄筋区間のアーチ天端部などへの充填性を向上させ覆工の品質および耐久性を確保できる工法である. 今回の焼坂第二トンネルでの適用時には単位水量, 単位セメント量および細骨材率を同一としたスランプ 18±2.5cm( 以下, S18 とする) とスランプフロー 40±5cm( 以下 F40 とする) の異なる流動性を持つコンクリートを, それぞれ打ち始めからアーチ肩部までを S18, アーチ肩部から天端部打ち終わりまでを F40 と同一スパン内で打ち重ねを行なう方法を用いた.( 図 参照 ) これは型枠に作用する側圧を考慮し, 流動性状の異なるコンクリートを合理的に使い分けることによりトンネル覆工用型枠 ( 以下セントルと称す ) の補強を不要としたものである. これにより通常の施工方法で覆工コンクリートの打設が実施でき今回現場適用した高品質高充填覆工コンクリート工法の有効性が確認できた. 表 にコンクリートの配合表を示した. F40 S18 側圧 (P) kn/m 2 図 側圧測定位置 断面荷重図 195

201 種類 W/P (%) S/A (%) 表 配合表 単位量 (kg/m 3 ) W C EX S G SP AE F A S A (3) 配合上の特徴配合上の特徴を以下にまとめた. 1 高速道路総合技術研究所において, 開発が進められている中流動覆工コンクリートの要求性能 ( 案 ) 1) に準拠した. 2 所定の性状が得られるように単位結合材量を調整し, 高性能 AE 減水剤を用い単位水量の低減を図ることで優れた流動性と分離抵抗性を併せ持ったコンクリートとした. 3 単位水量, 単位セメント量および細骨材率 S/A を変化させることなく, 高性能 AE 減水剤の添加量の調整によりスランプ値 15cm~スランプフロー値 45cmまでの広い範囲のワーカビリティーを自在に調整, 管理することが可能な配合とした. 4 今回の適用時には膨張材を添加することにより収縮補償コンクリートとした.( 表 配合表 F40,S18 参照 ) 5 粗骨材の最大寸法は 20mmとし鉄筋区間への適用性向上を図った. 6コンクリートに使用する材料は通常の生コン工場, 設備にて供給できる. 7フライアッシュ, 石粉や繊維などの混和材を用いる配合への変更が容易に対応できる. 写真 高品質高充填覆工コンクリート品質管理試験スランプ試験 (T1-1(F)) 写真 高品質高充填覆工コンクリート品質管理試験 L 型フロー試験 (T1-1(F)) 196

202 写真 高品質高充填覆工コンクリート品質管理試験 U 型充填性試験 (T1-1(F)) (4) 現場適用時の計測結果 1) 測定位置前述の図 にセントルでの側圧測定位置を示す. セントルの構造計算は図 の荷重条件とし, コンクリート側圧はコンクリート標準示方書側圧算定式を準用し設計荷重としている. 測点のSL 部,2 段目部はS18 を, 肩部はF40 を対象として側圧を測定する計画とした. コンクリートの打設速度はコンクリート打込み温度を考慮しセントルの設計荷重を超えない速度を, 施工時の管理打設速度とした. 2) 側圧測定結果高品質高充填覆工コンクリートの測定は No.2~7 スパンまでの 6 スパン分を,No.9, No.12 の 2 スパン分は標準配合での側圧を測定した. 図 に高品質高充填覆工コンクリートの測定結果を, 図 に標準の覆工用のコンクリートの測定結果を示す. 図中の実線折れ線はSL 部でのコンクリート側圧が液圧分布で作用すると仮定し実際の打上り速度より計算したものである. SL 部での側圧は実施工時の打上り速度に応じて側圧も増加しておりほぼ設計荷重 (S L 部側圧 ) で一定となり計算値を超えての液圧は作用していない.2 段目部での側圧もS L 部と同様な傾向を示すがSL 部より側圧が高い傾向にあり, 標準とは差異がある. また肩部の側圧についても設計荷重を超えることはなかったが, 標準に比べ F40 が大きい傾向を示した. 197

203 図 高充填覆工コンクリートの側圧測定結果 図 標準覆工コンクリートの側圧測定結果 3) 考察側圧計測結果に関する考察を以下に示す. 1S18 打設部分と標準配合の側圧状況や最終的に設計荷重以内の側圧であったが確認でき, 肩部までの側圧は同等とする当工法の仮定条件は満足している. 2アーチ肩部から天端の打設完了まではコンクリート自重と液圧分布による側圧が水平荷重として作用する設計の仮定は, 測定結果からも妥当であり, アーチ肩部以降のF 40の適用を図る当工法についても施工上問題はない. 4) 本工法の適用によって得られた効果高品質高充填覆工コンクリートの現場実証結果から以下の効果が期待できる. 1 流動性の異なるコンクリートを打設部位により使い分けることで, セントルの補強が 198

204 不要である. 2 充填性の向上および低水比のコンクリートの使用により, コンクリートの密実化 緻密化が図られ覆工コンクリートの品質 耐久性の向上が得られる. 3 標準の覆工コンクリートの施工工程にて施工が可能である まとめ 今回開発した工法は, 覆工コンクリートの流動性向上による充填性の改善により, コンクリートの充填性が困難となる場合があった補強鉄筋区間のアーチ天端部, 断面変化部, 妻部隅角部, 箱抜き部などで確実な充填により密実で高品質, 高耐久性の覆工コンクリートの施工を実現できるものである. また本工法はトンネルの覆工コンクリート以外にも, 明り工事の鉄筋構造物への適用も可能である. 3) 6.3 覆工コンクリートの新しい養生方法の開発 - 温度制御噴霧式覆工コンクリート湿潤養生工法 (K-tics) 概要 新設トンネル建設時の覆工コンクリートを一定期間, 湿潤養生し, その強度増進をはかることによる品質, 耐久性の向上が得られる新しいコンクリートの養生方法として 温度制御噴霧式覆工コンクリート湿潤養生工法 (K-tics) を開発し現場適用した. 道路, 鉄道, 水路, 電気ガス等の管路など山岳トンネル, シールドトンネル, 開削トンネルなど, これまでコンクリートの養生が不十分であった構造物において, 本工法を適用することで温度を制御した湿潤養生が可能となり, コンクリート強度の増進と表面のひび割れ発生の抑制による品質, 耐久性の向上効果が得られる 現場適用実績 (1) 適用トンネルの概要長沢バイパスは, 益田市長沢町地内 ~ 匹見町澄川地内までの総延長 L=3,200m の国道 488 号の付替道路である. 長沢町周辺は匹見川に沿っての道路で狭く, 急カーブも多く交通の難所となっており, 一般車両の通行に影響を及ぼしている. 本工事は, 安全で快適な走行を確保するために, 長沢町地内にトンネル (L=1,038m) を NATM により新設するものである. 表 に工事の概要をまとめた. 199

205 表 工事概要 工 事 名 称 一般国道 488 号長沢バイパス改築 ( 改良 ) ( 仮称 ) 長沢 1 号トンネル工事 工工 事 場 所島根県益田市長沢町柿原地内 ~ 匹見町澄川地内期 2006/3/17~2008/12/26 発施 注工 者島根県 ( 益田県土整備事務所 ) 者鴻池組 大畑建設 原工務所 JV 延断 長 L=1,048m トンネル延長 L=1,038m 面 掘削断面:A=54.8m2~68.7m2(2 車線 ) 工事内容 覆工 L=1,036.2m, コンクリート量 V=5,764m 3 ( 設計 ) 施工法 NATM 掘削方式発破工法 DⅢ パターン ( 上半先進ベンチカット工法 ) 掘削工法 CⅠ,CⅡ,DⅠパターン ( 補助ベンチ付き全断面工法 ) 長尺鋼管フォアパイリング補助工法 注入式フォアポーリング (2) 工法の概要長沢 1 号トンネルへ適用した今回の技術は, 事前の温度応力解析による最適な養生温度曲線の設定と温度感知センサーによる測定データと合わせて最適な湿潤養生を実現できるという大きな特長をもつ. 本工法は, 覆工セントル後方に 3 スパン相当の移動式養生台車を連結し, コンクリートを一定期間 ( 標準で 7 日間 ), 湿潤状態に養生できるように工夫した工法である. 養生台車には遮水シートおよび端部締め切り用の空気充填膜が取り付けてあり, 覆工コンクリートとの間に 30~60cm 程度の密閉された養生空間を確保することができる. この養生空間に粒形 45~60μm 程度の微粒の霧を専用ノズル ( 写真 , 写真 ) より噴霧することにより湿度 90~100% の湿潤状態をつくる. また, 温度感知センサーと噴霧水の温度制御システムにより養生温度を制御し最適な養生状態を保持することが可能であり, 覆工コンクリートへの急激な温度変化等の影響を与えることなく連続的な水和反応の持続を維持できる. また, 当社技術研究所におけるコンクリート養生状態の違いによる強度発現の検証等の要素試験や土木技術部門における数値シミュレーションにおいても初期 長期強度の増進が確認され, 耐久性の向上, 乾燥収縮の抑制作用効果によるひび割れ発生確率の低減が期待される. 200

206 ノズル噴霧状況 写真 養生台車と噴霧ノズル 温度制御操作盤 給水タンク 給水ポンプ 温度検知センサーライン 写真 写真 -2 温度制御装置 給水設備, (3) 噴霧養生の効果検証試験 1) 効果検証試験の方法本工法の効果を確認するために供試体での要素試験 (20 恒温実験室 ) と, 実施工現場での噴霧養生 7 日間あり区間と全くなし区間を設け比較検証を実施した. 現場試験は, 噴霧養生空間の温度湿度測定, 覆工内部温度測定, 養生の有無による強度発現への影響を強度試験と引っかき試験 ( 表面強度 ) について行い比較検証した. 1 養生なし ( 供試体を覆工脱枠時期に合わせ脱型, 坑内気中へ存置養生 ) 2 噴霧養生あり ( 同上脱型後, 現場台車の噴霧空間内での 7 日間養生, 以後坑内存置養生 ) 2) 強度試験結果図 に圧縮強度試験結果を示す. 養生なし ( 気中養生 ) の供試体の圧縮強度は, 材齢 7 日では坑内温度の影響 (22~24 ) で標準に比べ強度発現しているが, 長期材齢 91 日では平均 25.5N/mm 2 ( 標準養生の 70%) であった. 噴霧養生を実施した供試体は, 強度発現が早く, かつ噴霧養生を終えた以降も順調に強度が増加し材齢 91 日では平均 35.7 N/mm 2 と標準養生 (20 恒温水槽内 ) の供試体と同程 201

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