voicemagazine 6 ISSUE 80/OCTOBER 2014 編集および製作編集責任者 : リズ グリーン副編集責任者 : アリソン グラントデザイン : ギャレス ケンドリック 寄稿アンドリュー ビービ, ショーン ターバック イアン ジョーンズスティーブン ホルツバーガー ケビン

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1 voicemagazine THE MAGAZINE OF THE INTERNATIONAL COOPERATIVE AND MUTUAL INSURANCE FEDERATION 国際的議論に 対する影響力を 高める B20に協同組合関係者が初参加世界的に注目が集まる保険の役割世界の共通利益 より包含的な経済の構築を目指して ISSUE 80, OCTOBER 2014

2 voicemagazine 6 ISSUE 80/OCTOBER 2014 編集および製作編集責任者 : リズ グリーン副編集責任者 : アリソン グラントデザイン : ギャレス ケンドリック 寄稿アンドリュー ビービ, ショーン ターバック イアン ジョーンズスティーブン ホルツバーガー ケビン オルセン 24 2 翻訳フランス語 & スペイン語リーガル アンド テクニカル トランスレーションズ リミティッドアリソン グラント日本語リーガル アンド テクニカル トランスレーションズ リミティッド, 塚本直広 表紙 2014 年 B20 代表のリチャード ゴイダー氏 ( オーストラリア ウェストファーマーズ社社長兼 CEO) とオーストラリアのトニー アボット首相 (2014 年 7 月 オーストラリアのシドニーで開催された B20 にて ) 2014 年の G20 サミットは議長国オーストラリアで 2014 年 11 月に開催される 寄稿 ICMIF では会員団体ならびに協賛会員の皆さまからの寄稿をお待ちいたしています 寄稿あるいは寄稿に関するお問い合わせについては次の担当者までごん連絡ください 副編集者アリソン グラント ; alison@icmif.org 寄稿される記事は時事の問題として以下が要件として求められます 会員団体間の連帯事業に関わるものであること 協同組合 / 相互扶助の組織の優れた実践例 規制 組織合併 統合 業界の傾向あるいは課題についての報告やコメント 業界の会議やイベントの開催告知に関わるものであること 非会員団体からの寄稿については 協同組合 / 相互扶助に焦点を当てたものであるかを条件に受け付けます 記事の編集権限については ICMIF が全て有するものとします 購読の受付 alison@icmif.org 12 巻頭言 1... 国際的影響力の拡大を目指して指導力 2...CEOプロフィールイェンス ヘンリクソン氏フォルクサム社トップとしての抱負は 良い を より良く すること 6... 会長プロフィール : ピエルルイジ ステファニーニ氏ウニポール社 : 統合と成長のストーリー影響力特集号 特集記事 : 世界のひのき舞台に登場する協同組合 / 相互扶助の保険組織 月のG20サミットに向けた提言に協同組合 / 相互扶助団体が取り上げられる 保険会社は もはや歩みの鈍いカメではない ウィリスのローワン ダグラス氏が 世界のひのき舞台に登場する必要性を呼びかける 国際労働機関との連携を強化するICMIF 国連環境計画が持続可能な金融システムの構築を求める Copyright 2014 ICMIF. All rights reserved. reproduction without permission is prohibited. the views and opinions expressed in Voice are the author s own and are not meant to reflect the official position of ICMIF, its entire membership, or their respective employers (unless otherwise specified). information is provided for informational purposes only and provided with no warranty. while Voice provides web links, ICMIF exercises no authority over third-party sites, each of which maintains its own independent policies and procedures. Voice is published by the International Cooperative and Mutual Insurance Federation (ICMIF), Denzell House, Dunham Road, Bowdon, Cheshire, WA14 4QE, UK ローマ教皇庁が協同組合を 経済的民主主義の具現 と評価 世界の子どもたちのために ユニセフ支援のため ICMIF 事務局長が自転車ラリーに参加有益な情報の共有 若さVS 長寿 事業の強靭性を物語る長い歴史 協同組合 / 相互扶助団体を無視しないでほしい AMICE がEUに提言人材交流の促進 代替資本の流入 再保険市場の急激な変化を確認した再保険会議 MORO 絆を作る : ケニア CIC 研修団がスライベント社を訪問 28...ICMIF フォーラムに関する最新情報 29...ICMIF オンラインニュースから 寄稿記事 社会的責任投資 協同組合と相互扶助団体が取り組むべき理由 グレイ スワン にご用心ヨーロッパの保険会社の財務力を脅かす10 の例外的事象

3 巻頭言 ここイギリスでは このところ 晴天で気持ちのよい毎日が続いています まるでわたしの心を映し出すような 清々しい青空です 国際的に重要な場で世界の人々に協同組合 / 相互扶助団体の重要性を認めてもらうための努力が始まった今 わたしの心は大きな勇気と希望で満ちあふれています 世界各地の人々をリスクや災害から守るうえで 協同組合保険 / 相互扶助の保険は大きな働きをしています しかし わたしたちは その事実を世界に向けて大声で伝えてきませんでした これからは違います 今回の Voiceは 協同組合 / 相互扶助団体がその影響力を行使している様子を特集してお送りします その一つは 世界の有力企業トップが集まり G20サミットの議論にも直接影響を与える B20(G20 ビジネスサミット ) です 協同組合 / 相互扶助団体の代表は これまでB20への参加を要請されたことはありませんでした 今回は 議長国オーストラリアの関係者の努力により 初めてB20に参加して積極的な役割を果たすことができました このような活動は大切です とくに ウィリスのローワン ダグラス氏 (X ページ ) が指摘するよ ショーン ターバック氏 ( I C M I F 事務局長 ) 国際的影響力の拡大を目指して うに 国際社会が問題解決にあたり保険業界への期待を高めている現状を考えると ICMIFが国際的な議論に全面参加する重要性がお分かりいただけるのではないでしょうか 防災に関する国連主導の議論は その良い例です 来年は仙台市で国連防災世界会議が開催され 2005 年に合意した兵庫行動枠組に代わる新しい枠組の策定に向けた話し合いが行われます ICMIF 会員団体の保険 / 再保険の取り組みと経験は このような場で大いに参考になるはずです 防災関連では 2015 年 11 月から12 月にかけて 国連気候変動会議がパリで開催されます 気候変動 またそれに伴う水害や干ばつなどの現象が起きるリスクが増大すると 保険事業は直接的影響を受けます ですから 国連気候変動パリ会議では 協同組合 / 相互扶助の保険組織の意見を反映させることが必要です 2015 年は 国連のミレニアム開発目標に代わる 持続可能な開発目標 のアジェンダを決める年でもあります ミレニアム開発目標のアジェンダ策定においては 協同組合と相互扶助団体の役割が無視されました 今回こそ わたしたちの意見を反映させなければなりません 2016 年には国連が支援する 世界人道サミット が初めて開催される予定です 保険は 自然災害 人工災害を問わず 被災者の生活再建で大きな役割を果たしています ここでも政策立案者に対する影響力を行使しなければなりません 今ほど 国際的政策課題に対する影響力の行使が求められている時代はない 意見を反映させる とは ただ単に本会議に出席することではありません メディアは 本会議だけしか報道しないかもしれませんが 本会議に出席する各国首脳が空港に降り立つずっと前から 作業部会や委員会などでの作業が始まっています このような実務レベルでの協議に参加することが重要です わたしたちが取り組むべき目標 それは 協同組合 / 相互扶助の保険組織の立場と重要性を認識し尊重してもらうことです そうすれば 国際的議論の場での発言力を確保することができるでしょう VOICE MAGAZINE OCTOBER

4 指導力 イェンス ヘンリクソン氏がスウェーデンの由緒あるフォルクサム社のCEOに就任してから 1 年が経とうとしています お客様のニーズに合った事業であり続けるために どのようなかじ取りを考えているのでしょう Voiceがインタビューしました 2 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

5 指導力 CEO プロフィール : イェンス ヘンリクソン氏 フォルクサム社トップとしての抱負は 良い を より良く すること フォルクサム社のような会社のトップに就くということは その遺産を受け継ぐことでもあります ヘンリクソン氏は それをよく承知しています フォルクサム社は 1908 年の創業以来 常に社会志向の強い事業を行ってきましたが 近年は事業力強化に成功し 国内生命保険市場でこれまでの 2 位から ついに 1 位の座を獲得しました その結果 国内 3 位の損害保険事業と合わせて 国内総合トップの保険会社となりました 国内世帯の半数がフォルクサム社の契約者で 国民の半数に保障を提供しています すでに確立された事業を引き継ぐことにはメリットがありますが 同時に大きな責任や負担も付随します ヘンリクソン氏はどのように フォルクサム社の成功を維持しようとしているのでしょうか この質問に対して 緊張を緩めないこと というシンプルな答えが返ってきました すべて順調だと油断することは危険です フォルクサム社は今のところ 良く やっていますが 良い を より良い に変えることが目標であり 変化と改善はフォルクサム社の DNAでなければならない というのがヘンリクソン氏の考えです ヘンリクソン氏は CEOとなって 1 年目となる2013 年の業績を紹介しながら フォルクサム社が近代化 効率性の向上 事業強化を重視した新しい発展段階に入るための必要条件を次のように語りました 既存顧客に今まで以上に注目し 必要な保険をすべてフォルクサム社から購入するお客様の数を増やさなければなりません ITシステムの最新化に投資して お客様と職員の両方にとって使いやすいシステムを構築し 競争力確保につなげていきます 原価管理も重要です 協同組合や相互扶助団体には多くの利点がありますが リスクもあります その一つが固定費の高さです 任した経験を持ち スウェーデン社会民主党ともつながりがあります ヘンリクソン氏は コラムニストとして活躍していた20 代半ばに 当時のヨラン ペルソン蔵相に才能を買われ 大臣の政策アドバイザーとして大蔵省で働くようになりました その後 首相になったペルソン氏と歩を合わせるように大蔵省内で出世街道を進み 1998 年に立案局長 2002 年には経済政策 国際政策担当副大臣に任命されました 仕事を通じて EUの経済金融委員会をはじめ OECDや欧州復興開発銀行 IMFの活動でも トップレベルで関わってきました 2008 年にはIMF 理事としてワシントン DCのIMF 本部に3 年間勤務し アイスランドとラトビアに対する金融支援計画の責任者など 多くの重要任務を果たしました その後 国内大手銀行スウェド銀行を経て ナスダック OMXが所有するストックホルム証券取引所社長を 3 年間務めた後 フォルクサム社 CEOに就任しました このような経歴を見ると 国内メディアがヘンリクソン氏を 素晴らしい人脈を持つ人物と評するのもうなずけます 全国紙では エネルギッシュ 創造力に優れている 現実的 などの形容詞を使って紹介されています ある時は メディアに対して次のような発言をしたそうです 新入社員にまず伝えたいこと それは もし わたしが間違っていると思ったら すぐに言ってくださいということです 黙っていられると腹が立ちます それに自分の立場を常に研ぎ澄ませていたいからです また 何かを決める前は 常に問いかける姿勢が欲しい しかし いったん決まったら 自分の考えとは異なっても 忠実に実行してほしいと伝えます ヘンリクソン氏は スウェーデン南部ルンド市の生まれで現在 47 歳 フォルクサム生命の会長に就任したアンデルス スンドストロム氏 ( 現 ICMIF 会長 ) の後任として CEOに任命されました スンドストロム氏同様 実業界と政界で主要なポストを歴 VOICE MAGAZINE OCTOBER

6 指導力 最新の金融サービ事業となるには ヘンリクソン氏は フォルクサム社で働く 3,600 人以上の職員を鼓舞し 率いながら 自分が目指す変革を達成しようとしています フォルクサム社は強い財務基盤を持ち ソルベンシー IIの対応も万全ですが 伝統的な構造や仕事の進め方といった分野を再検討する必要があると考えています 顧客サービスもその一つです 今のお客様は 生命保険も損害保険も自分の希望するものを 自分に都合の良い販売チャネルを使って購入し管理したいと思っています しかし フォルクサム社の現状では この期待に十分応えることはできません 現代のニーズに合った最新の金融サービス会社となるためには ここを変えていく必要があります わたしたちがするべきことは 何かあったときにお客様の側にいて お客様一人ひとりに合った的確なアドバイスや支援をすることです そうすれば フォルクサム社で良い経験をしたと家族や友人 同僚に話すような満足するお客様が増え それが成長のカギとなります この点では 相互扶助団体というフォルクサム社の組織形態が貴重な財産になります ヘンリクソン氏は マーケティング活動では とくに剰余金の分配などを取り上げ 顧客所有型の組織であることを強調しています 相互扶助団体という組織形態に効率性が加われば無敵です 他社が株主に配当金を支払うのに対し 出資者 つまりお客様に配当金を還元することができるからです と語ります しかしその一方で 落とし穴があることも認識しています 全員が全員 相互扶助の概念を理解しているわけではなく お客様の多くは保険料だけで保険会社を選んでいます 相互扶助という組織形態が実際にどのような違いをもたらし 他社とどのように異なるかを消費者に伝えていくことが重要です 革新性 フォルクサム社はすでに 社会的責任を非常に重視した革新的な保険会社としての評判を確立しています 最新の取り組み例として スウェーデン自然保護協会が事業向けに実施しているエコラベル制度 グッド環境チョイス の条件を満足し 国内で初めて いや世界で初めて エコラベルを獲得した保険会社となったことが挙げられます エコラベル制度には エネルギー効率やリサイクル 電力等エネルギー購入先の決定など 環境への取り組みを含む43の条件が設定されています しかも保険会社には 環境基準と倫理基準に基づいた資産運用などの追加条件が課せられます しかしこの条件は フォルクサム社の長年にわたる伝統的な社会的責任投資への取り組みとぴったり合致しています フォルクサム社はスンドストロム前 CEOのもと 最終的に 責任投資原則 (2006 年に提唱 ) という成果をもたらした国連活動に参加した経験を持ち 今でも 株主として行動する責任を意識した資産運用を行っています 昨年は 投資先のうち 31 社と積極的な対話を維持し 43 社の株主総会に出席しました フォルクサム社は3,300 億スウェーデンクローネ (470 億 USドル ) もの資産を運用しています ですから長期的に見れば 社会に影響 を与え社会を変える力を持っています 投資先の企業に対して社会的責任を果たすよう説得することは 国民のためにもなります というのが 顧客に対するメッセージです 成長を目指して フォルクサム社は ICMIFや協同組合保険 / 相互扶助の保険分野における多くの取り組みに見られるように 国際的な活動にも積極的に取り組んでいます その一方で 950 万人が暮らすスウェーデンの国内市場に対する真摯な取り組みが 事業成功を支えています フィンランドに規模の小さい子会社を有していますが それを除くとフォルクサム社の事業はすべて国内市場を対象としています ですからヘンリクソン氏は 既存のお客様にもっと保険商品を売ること これが最重要方針です そうすると市場シェアを拡大し続けることができます と語り 国外市場の開拓ではなく 既存顧客の中に新しい成長チャンスを求めていきたいと考えています しかし 笑いながら 次の一言を付け加えました でも わたしは完全なご都合主義者ですから チャンスがあると思えば逃しません フォルクサム社にとって重要な年となった 2013 年 年次報告書のハイライト スウェーデン最大の保険会社 2013 年の保険料収入は400 億スウェーデンクローネ (5 7 億 U S ドル ) を記録 昨年に続き2 年連続してセーデルベリ & パートナーズ主催最優秀生命保険会社賞を受賞 年金加入者の 5 人に 1 人がフォルクサム社の年金商品を利用 9 月にイェンス ヘンリクソン氏が社長兼 CEO に就任 国内金融サービス業界を対象にした持続可能な企業ランキングで 子会社の K P A 年金が 1 位 フォルクサム社が 3 位にランクイン 顧客満足度指標で 過去最高の顧客満足度を達成 4 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

7 指導力 ヘンリクソン氏がフォルクサム社での仕事を引き受けた理由 それは 感情と知性を結び付ける可能性を見出したからだそうです フォルクサム社は伝統的に団体保険に力を入れており これはとくに低所得層向け保障に役立っています また 大蔵省やIMFでの経験から効率的財務管理を強く支持していますが 自分が達成したい社会的目標など 広い目的意識を持って仕事ができると思いました しかし 何と言っても大きな動機は 楽しんで 同時に何かの役に立つことができると思ったことです もちろん 大企業の経営は楽しいことばかりではありません しかし ヘンリクソン氏は ワークライフバランスをできるだけ上手に取りたいと努力しています 自宅はストックホルム南部近郊のヘゲルステンにあり 週末や休みの日は 奥様のエマさん 3 人のお子さんと一緒に家族で過ごす時間を大切にしています VOICE MAGAZINE OCTOBER

8 指導力 イタリアのウニポール グループは フォンディアリア サイ社の買収により国内損害保険トップの座に着きました ウニポール会長のピエルルイジ ステファニーニ氏に 買収成功に至る経緯と今後の計画についてお伺いします 6 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

9 指導力 会長プロフィール : ピエルルイジ ステファニーニ氏 ウニポール社 : 統合と成長のストーリー イタリア中部の歴史に彩られた都市ボローニャの中心部 スターリングラード通りに面したモダンなビルから外を見ると 素晴らしい景色が広がっています ステファニーニ氏は ウニポール フィナンシャル グループの本部があるこのビルの6 階役員室で何度となく開かれた ある一大プロジェクトを話し合う会議に出席するたびに この景色を目にされたことでしょう ウニポール社はこのプロジェクトの成功により 顧客数 1,300 万人以上 代理店数 4,600 店舗 ( さらに副代理店が 7,300 店舗 ) 総保険料収入 170 億ユーロ (230 億 USドル ) という規模を持つ 国内総合保険市場 2 位 損害保険トップの地位を獲得しました 2013 年に創立 50 周年を迎えたウニポール社は ボローニャ地域の協同組合が集まって設立した保険事業が原点となっています その後 年の生命保険事業進出 年の少数株式の上場など 節目となる重要な出来事を経験してきました 21 世紀最初の10 年間も 数々の買収を通じて規模を拡大したという点で 重要な節目の時代となりました なかでも最も重要な出来事は 年のフォンディアリア サイ社の買収と 2014 年のウニポール社とフォンディアリア社の保険事業を統合した ウニポール サイ社 の設立ではないでしょうか 長い間 ステファニーニ氏と 右腕のカルロ チンブリCEOの頭の中にあったのは このプロジェクトをいかに成功させるかということだけでした ステファニーニ氏は イタリアでは 保険市場のような市場の場合 成長が絶対に必要不可欠 であり フォンディアリア社の買収は ウニポール社の将来確保にとって根本的に必要であったと考えています 両社の統合により 国際的大企業に太刀打ちできる 民族系大手グループを構築する可能性も生まれました 危機の時こそ 先を見越した行動を起こし 守りの姿勢を取らず あらゆる機会をとらえるべきです フォンディリア社の買収は事業機会であったとはいえ その保険契約者を救済したいという強い気持ちもありました 複雑な経緯を持つフォンディアリア社ですが 2012 年には ( 所有者一族の不正行為も原因の一つとなり ) 経営危機に陥っていました ステファニーニ氏は 保険業界にとって深刻なリスク要因となっていました 何百万人もの保険契約者が大きな影響を受けるところでした と当時を振り返ります 当時ウニポール社はフォンディアリア社より規模が小さかったものの 各種選択肢の検討を始めました その結果 フォンディアリア社株式の81 % を取得することで合意に達しました フォンディアリア社は救済され ウニポール社は 将来成長の基盤を獲得しました 事業の統合 2 社の事業の統合は ウニポール サイ社という新会社を設立して上場し この新会社がウニポール社の保険事業を吸収するという形で行われました この作業には 2 年かかりました それと並行して 仕事のやり方を統一していきました 2012 年に VOICE MAGAZINE OCTOBER

10 指導力 は 関係各社の社員が参加するワークショップを50 回も開催しました そこで話し合った成果をもとに 運営システムやマーケティング方針 商品の種類を統一するうえで参考にするべき優れた実践例や 統一の手順を特定した統合計画を作成しました 最高のものを求めました 全員が共有できる単一の企業文化を構築することも優先課題の一つでした 役員会の構成を変えました また象徴的な措置としては 2013 年 2 月 グループ内全企業にウニポール倫理規定を導入しました 倫理委員会と倫理担当者の役割を 新体制全体を対象とするものに拡大しました 年までの事業計画には 強力な資本基盤 優れた収益性や効率性と並んで 社会的責任への取り組みという目標が掲げられています 金融システムの頂点で事業を行っていても 透明性を持ち 地域社会を支援し 尊敬され 社会的弱者に配慮を示すという原則を忠実に守り続けることができることを証明したいと思います に属する団体が過半数の株式を保有しています 1980 年代に上場した時は賛否両論がありましたが 株式市場における資本調達を可能にしました ステファニーニ氏は当時を振り返り 協同組合の間では 協同組合の伝統が弱体化するのではないかという恐れから 多くの議論が沸き起こりました しかし上場は ウニポール社の成長拡大のためだけでなく 倫理性を見失わずに金融事業を展開できることを示す上で 根本的な重要性を持っていました と語りました ステファニーニ氏は 小さい町ながら 高級スポーツカー ランボルギーニの本拠があることで有名なサンタガタ ボロネーゼの出身です ご自身も 長年 国内の協同組合で活躍してこられました 1990 年代には イタリア全国協同組合連合会 レガコープ のボローニャ地域連合会であるレガコープ ボローニャの理事長 1998 年から2006 年までは コープ アドリアティカ生協の理事長を務めました ウニポール グループには 年に入り 2006 年に会長に就任しました ICMIFの理事も務めています 協同組合のルーツ ウニポール社のルーツは協同組合にあることを考えると このステファニーニ氏の言葉は当然のことといえるかもしれません ウニポール グループは上場していますが 普通株式の過半数 (50.75%) を所有する持株会社のフィンソエ社 ( 社会的経済金融 の意味 ) は 協同組合や労働組合その他社会的経済 ウニポール社では カルロ チンブリ CEOと協力しながら仕事を進めています チンブリ氏は サルデーニャ島の州都カリアリ市の出身で 1990 年に20 代半ばでウニポール社に入社しました その後 社内各部署で管理職を務めたのち 2010 年に CEOに就任しました イタリアの有名な経済研究機関 チェンシス財団の理事も務めています わたしたちの理念を目に見える形で示すために 持続可能性の方向付けと運営管理を目的とした 3か年計画を策定し 理事会の承認を得ました 3か年計画は半年ごとにレビューを行います 年末には年間予算をチェックします 8 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

11 指導力 顧客と密接な関係を維持するために ウニポール社はボローニャ生まれですが 今やイタリア全土を網羅する巨大な代理店網の強みを活かして 国内各地の顧客と密接な関係を維持しています ウニポール サイ社の誕生に際しては 2014 年初めに 密接な顧客関係を強調したキャンペーンを展開しました これまで以上に近い存在になります をうたい文句にしたテレビCMには 北はロンバルディア地方から南はシチリア島まで 小さな村々にある代理店が登場しました 近年の不況により 多くのイタリア国民が経済的な厳しさを感じています ウニポール社はこのような状況を認識し 社会的企業や起業家と協力して 社会保障制度の縮小 高齢化社会 新しい形の貧困や格差の出現など 現代の問題の解決を目指した取り組み ウニポール アイデア を始めました ステファニーニ氏は 雇用創出とQOL 向上を伴う起業の支援 を目的としたこの取り組みを 誇らしく思っています ウニポール グループの保険料収入の推移 (2005 年 ~2013 年 ) 20,000 保険料 ( 百万ユーロ ) 生命保険損害保険 15,000 10,000 5, * 2013 *2012 年半ばに買収したプレマフィンのデータも合わせた数字 このほか 家計の圧迫により自動車保険料の年払いに苦労する家庭が多いことから 自動車損害賠償責任保険の保険料を月払いにしても割り増し分がかからない制度を導入したことも誇らしく思っています この制度は 無保険ドライバーの増加という問題に対処でき 交通安全強化にも役立つと考えています 持続可能性と社会的責任においても ウニポール社の姿勢には誇るべきものがあります 1993 年にはすでに第 1 回社会レポートを発表しています このレポートはその後 持続可能性レポートに内容が発展し 2009 年には 第 1 回持続可能性レポートが発表されました ウニポール社では 理事会が持続可能性に関する取り組みの監視責任を有しており 活動監視のための小委員会が設立されています わたしたちの理念を目に見える形で示すために 持続可能性の方向付けと運営管理を目的とした3か年計画を策定し 理事会の承認を得ました 3か年計画は半年ごとにレビューを行います 年末には年間予算をチェックします ウニポール社では 最近 61 歳の誕生日を迎えたステファニーニ氏だけでなく 役員社員全員にとって忙しい日が続いています しかし ウニポール社とフォンデリア サイ社の統合が順調に進んでいるので 忙しいながらも ワクワクする毎日ではないでしょうか VOICE MAGAZINE OCTOBER

12 影響力の行使 世界のひのき舞台に登場する協同組合 / 相互扶助の保険組織 ICMIF 事務局長のショーン ターバック氏が巻頭言で述べたように Voice 今号は 世界の ステージで協同組合 / 相互扶助の保険組織の影響力を高めるために ICMIFが取り組んでいる活動を特集してお送りします まず オーストラリアのシドニーで開催された B20(G20ビジネスサミット ) で協同組合 / 相互扶助団体が大きな成果を上げた様子をお伝えします 国連環境計画の 持続可能な金融システムの設計に関する調査 の諮問委員会に 協同組合を代表する委員が就任したニュースも取り上げました さらに 保険業界を誰よりもよく知る人物の一人であり 保険 / 再保険と直接関係する国連活動に深く関与している ウィリス リサーチ ネットワーク会長 ローワン ダグラス氏のインタビュー記事も掲載しました このほか ICMIFと国際労働機関 (ILO) の会合の報告記事や 人間のニーズを重視した経済の構築において協同組合と社会的企業が持つ役割を支持したローマ教皇庁の声明を紹介する記事も掲載しました 国際社会は 世界的な組織や機関が複雑に絡み合った様相を見せるときがあります 現状を知り 各組織機関同士の関わりを知ることが難しいときがあります そこで 金融サービスの規制監督に直接関連する機関や会議のスケジュールをまとめました ぜひご参考になさってください 10 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

13 影響力の行使 2015 年末までの主要国際会議スケジュール 2014 年 9 月 23 日 国連気候変動サミット 国連本部 ( アメリカ ニューヨーク ) 国連事務総長の呼びかけにより国連総会前日に開催されるサミットに各国首脳が集まる 年 3 月 14 日 ~18 日 第 3 回国連防災世界会議 仙台市 兵庫行動枠組の実施状況を検証し 2015 年以降の枠組を採択する 年 6 月国連持続可能な開発目標会議国連本部 ( アメリカ ニューヨーク ) ミレニアム開発目標に代わる 2015 年から10 年間の持続可能な開発目標を策定する 2015 年 7 月 B20(G20ビジネスサミット ) トルコ世界の有力企業トップが集まり G20サミットに向けた提言を行う 2015 年 11 月 G20サミットトルコ B20の提言を首脳会合で採択する 2015 年 12 月国連気候変動サミットパリ会議パリ 20 年以上にわたる交渉の成果として 環境規制強化に関して法的効力をもった国際的合意の採択を目指す VOICE MAGAZINE OCTOBER

14 影響力の行使 11 月の G20 サミットに向けた提言に協同組合 / 相互扶助団体が取り上げられる 2014 年 7 月に開催されたB20(G20ビジネスサミット ) に B20 史上初めて協同組合 / 相互扶助団体の代表者が参加しました B20は 世界の有力企業トップが集まりG20サミットに向けた提言を行う 大きな影響力を持つ会合です 2014 年のG20は オーストラリアが議長国です 11 月にブリスベンで開催される G20サミットに先立ちシドニーで開かれた B20 には 国際協同組合同盟会長 (ICA) のポーリン グリーン氏とICMIF 事務局長のショーン ターバック氏が出席しました 初参加が実現したのは 国内の産業実業界を代表する30 名で構成される B20オーストラリア リーダーシップグループ の一人に選ばれた オーストラリア協同組合相互扶助団体事業協議会 ( B C C M ) 会長 アンドリュー クレーン氏のご尽力によるものです B20オーストラリア リーダーシップグループはB20の何か月も前からテーマ別戦略的作業委員会を立ち上げ 成長資金 人的資源 インフラ整備 投資と貿易の 4 テーマに関する議論や準備を進めてきました り 事実上 保険の国際監督機関となっている保険監督者国際機構 (IAIS) も FSBに対する報告義務があります ターバック氏は B20を次のように振り返りました B20に参加した協同組合 / 相互扶助団体関係者は 今回の参加がきわめて大きな前進をもたらしたという共通の認識を持ちました 事業の役割には別の視点があることを示しました B20では通常取り上げられることがないような見方です また 来年の G20/B20 議長国であるトルコの代表団とも交流しました 意思決定に関わる中枢から情報を得るうえで役に立つと思います B20は 協同組合 / 相互扶助団体を取り込む意義を理解したのではないかと思います ターバック氏とグリーン氏はオーストラリア滞在中 ラジオのインタビュー番組に 5 回出演しました B20 には オーストラリア国外から ICMIF 元会長で国際協同組合銀行連盟会長のジャン-ルイ バンセル氏と アルゼンチン協同組合連合会理事長で ICA 理事のアリエル グアルコ氏も参加しました ターバック氏は クレーン氏は 各作業委員会での議論に 協同組合 / 相互扶助団体の優れた実践例を採り入れようと大変な努力をしてくださいました B20に参加したビジネスリーダーの中には最初 協同組合 / 相互扶助団体に対する懐疑的な見方がありましたが ビジネス界で主要な一部分を占めているという理解に変わっていきました と 感謝の気持ちを表しました B20はG20サミットに対して 4つの提言書を提出しましたが 協同組合 / 相互扶助団体による事業は そのうちの1 つで取り上げられました これも B20 史上初めてのことで 関係者によるロビー活動と交流の成果が満足のいく形で現れました B20は 世界の金融安定 経済成長 雇用創造など重要課題に関する提言を直接 G20での議論に組み込ませることができる という点で大きな重要性を持っています G20 参加国は 世界全体のGDPの85% 世界人口の 80% を占めています 2009 年以降は 金融安定理事会 (FSB 事務局スイス バーゼル) の監督を通じて 世界の金融安定化に取り組んでいます ターバック氏によると FSBは銀行 投資 保険の監督に携わる機関であ 12 VOICE MAGAZINE SEPTEMBER 2014

15 影響力の行使 写真左 : リチャード ゴイダー氏 (2014 年 B20 代表 ) 写真右 :2014 年 G20 議長国オーストラリアのトニー アボット首相 2. 成長資金をテーマにした B20 作業委員会に参加する ICMIF 事務局長のショーン ターバック氏 3. B20 に参加した協同組合 / 相互扶助団体の代表団 ( 国名の記載がない場合はオーストラリア ) 写真左からキミナ ライオール氏 ( オーストラリアン ユニティー社企業開発グループ長 ) メリナ モリソン氏 (BCCM 最高責任者 ) マイケル ベイリー氏 ( ニュージーランド フォンテラ社役員 ) ジャンルイ バンセル氏 ( 国際協同組合銀行連盟会長 クレディ コーペラティフ社社長 フランス ) ポーリン グリーン氏 ( 国際協同組合同盟会長 イギリス ) アンドリュー クレーン氏 (CBH グループ CEO BCCM 会長 ) ショーン ターバック氏 (ICMIF 事務局長 イギリス ) アリエル グアルコ氏 ( アルゼンチン協同組合連合会会長 アルゼンチン ) このほか グレッグ ウォール氏 ( カプリコーン社 CEO) コリン ヘビーサイド氏 ( カプリコーン社会長 ) ジュディス ダウンズ氏 ( バンクメキュ社会長 ) トニー スチュワート氏 (NRMA 社 CEO) が参加した 4. 写真左からメリナ モリソン氏 (BCCM 最高責任者 ) ショーン ターバック氏 (ICMIF 事務局長 イギリス ) ポーリン グリーン氏 ( 国際協同組合同盟会長 イギリス ) 5. B20 出席者 VOICE MAGAZINE OCTOBER

16 影響力の行使 保険会社は もはや歩みの鈍いカメではない ウィリスのローワン ダグラス氏が 世界のひのき舞台に登場する必要性を呼びかける 現代の国際社会が直面している各種問題の解決を探ろうとするとき その中心にあるのは保険である ローワン ダグラス氏は こう確信しています 大問題はすべて リスクをどう理解し 管理するかということに関係しています これを正しく理解すれば 持続可能な成長への道を見つけるのが難しくなくなります ダグラス氏は 世界的保険ブローカー ウィリス グループ ( グループのウィリス再保険はICMIF 協賛会員 ) の経営幹部の一人で グループの資本 科学 政策部門の部門長と ウィリス リサーチ ネットワーク ( 自然災害予測などの研究を行う機関で 世界 50の大学と金融機関のパートナーシップで構成されている ) の会長を務めています しかし最近は 国際的な戦略会議関連の活動が増えています 例えば 国連防災国際戦略事務局 ( U N I S D R ) の民間金融セクター作業部会議長として 国連が進めるポスト兵庫行動枠組の策定に関する話し合いに全面的に参加しています また 世界気象機関の金融リスク移転に関する専門家諮問グループ代表として 国連気候変動サミットへの提言をまとめているほか 国連開発計画の主導による防災委員会政治的推進グループのメンバーとしても活動しています 近年は リスク管理と強靭性 ( レジリエンス ) 強化において保険業界が果たしている役割が理解されるようになりました しかしダグラス氏は 保険業界自身が現状をあまり理解していない可能性があると冷静に指摘します 急に だれもが保険に注目し 何か解決策があるのではないかと期待するようになった 中で ダグラス氏は 19 世紀末の西洋が参考になるのではないかと考えています 当時 西洋諸国では産業化が進み 甚大な被害と高額な再建費用をもたらす都市部の火災など 以前とは異なる危険要因が多数生まれました そこで 保険会社側は革新的な保険契約を考え 政府自治体側は建設許可制度や消防署の設立などの対策を講じ 協力して問題に取り組みました このような官民の協力体制が現在の問題解決に役立つと考えています ただでさえ多忙な毎日ですが 2015 年には関連する主要国際会議が3つもあるため これからますます忙しくなりそうです 3 月に仙台市で開催される 第 3 回国連防災世界会議 では ポスト兵庫行動枠組に関する話し合いが行われます その成果をもとに2015 年末 気候変動に関する国際連合枠組条約パリ会議 が開かれます その間には 国連のミレニアム開発目標に代わる 持続可能な開発目標 のアジェンダ策定と国連総会での採択が予定されています ダグラス氏率いるウィリス リサーチ ネットワークはすでに 災害リスクを国際的金融システムに組み込むという革新的な取り組みに着手しています 保険業界は 25 年以上前から 科学や分析技術を駆使した資本の最適配分に基づいた スマートな 資本の台頭と 適格資本に関する監督規制の影響で 自然災害に対する強靭性を強化してきました ダグラス氏は ほかの業界もこれに学ぶことができると考えています 例えば 2014 年 9 月 23 日にニューヨークの国連本部で 100カ国以上の首脳を集めて開かれる国連気候変動サミットでは 1イン100(100 に一つ ) という取り組みが協議される予定です この取り組みは 災害リスクの度合い とくに100 年に1 回起きるような事象 14 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

17 影響力の行使 2014 年 7 月にロンドンで開催された世界銀行主催 リスク理解ネットワークフォーラム で講演するローワン ダグラス氏 に対する経済リスクの度合いを開示するよう各企業団体に求めるもので このような情報の開示は 企業側に先を見越した災害リスク管理やリスク軽減策の採用を促すだけでなく 投資家側も 開示情報を参考にして 自然災害に対する国際的強靭性が強化され 持続可能性に優れた経済や社会が確立されるような投資を選択できるようになります ダグラス氏は 保険業界に今起きている変化は 周期的変動ではなく構造的変化だと指摘します 保険会社は 歩みの鈍いカメに例えられたこともありました しかし そのカメは 重い甲羅から脱皮するよう求められることが多くなりました 保険には巨大な潜在可能性があります 協同組合/ 相互扶助団体は 株式会社と組織形態が異なり 株主ではなく顧客が事業を左右するという点で 非常に興味深い役割を果たすことができます 特別な位置にいるのです I C M I F には 常に注視してチャンスをとらえるべきだというアドバイスがありました 協同組合 / 相互扶助の保険組織は 各団体レベルでは国際的な議論の場で直接発言する機会が少ないので ICMIFには 各団体に代わって発言できるようにしてほしいと思います 協同組合 / 相互扶助の保険組織にも役割を果たす機会がある のでしょうか もちろん という答えが返ってきました VOICE MAGAZINE OCTOBER

18 影響力の行使 国際労働機関との連携を強化する ICMIF ICMIF 事務局長のショーン ターバック氏はこのほど 新しく国際労働機関 ( I L O) 事務局長に就任したガイ ライダー氏と会見し ILO という 協同組合にとって大きな重要性を持つ国連機関との連携をあらためて確認しました 国際労働機関のガイ ライダー事務局長 スイス ジュネーブの ILO 本部を訪れたターバック氏は ライダー事務局長のほか ILO 協同組合部のシメル エシム部長とも意見交換をしました 協同組合部は 来年の国連総会での採択を目指す 国連持続可能な開発目標 に協同組合と相互扶助団体の視点を織り込むために 国際協同組合同盟 (ICA) と協力しながら作業を進めています エシム氏は あらゆる人々の社会参加や貧困削減における協同組合の役割を明確に認めた 2 年前の 国連持続可能な開発会議 ( リオ +20) の成果を 強化する必要があると考えています ILOとICAはこのほど共同で 協同組合と持続可能な開発目標 と題する報告書を発表し 持続可能な開発目標 の最終文言に協同組合と相互扶助団体の貢献が正しく反映されるようにするための努力を続けています などから 新しい目的意識が芽生えています それは ILOが新たな活力を持って協同組合関連の取り組みを行っていることにも表れています 持続可能な開発と国連持続可能な開発目標をめぐる議論で わたしたちが最大の影響力を行使するためには ILOおよび ICAとの連携が欠かせません 第一次世界大戦後の体制の中で設立されたILOは 国連機関の中でも 政府 労働者 使用者の三者構成で運営されているというユニークな特徴を持っています ILO 憲章の条項は 国際的に合意された労働基準となっていますが そのほかに補足勧告も採択しています そのひとつ 2003 年協同組合の促進勧告 は 協同組合事業が他の形態の事業と同等の扱いを受けるようILO 加盟政府に対して求めるなど 重要な内容となっています ターバック氏は ILOとの協力について次のように語りました 協同組合 / 相互扶助の保険組織に対する政策立案者の認識を高めるうえで ILOは 数ある国際機関の中でもとくにわたしたちが連携するべき機関です 協同組合の事業モデルについては 2012 年国際協同組合年の影響や 金融危機以降 協同組合 / 相互扶助団体が持つ強靭性が再確認されていること 16 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

19 影響力の行使 国連環境計画が持続可能な金融システムの構築を求める 国連環境計画 (UNEP) は 金融システムと持続可能な開発との整合性を図る方法を探る諮問委員会の保険業界代表委員として ICMIF 元会長でコーポレーターズ社 ( カナダ ) 社長のキャシー バーズウィック氏を任命しました コーポレーターズ社は バーズウィック氏の指揮のもと 持続可能な開発に関する問題に取り組んできた優れた実績を有しています UNEPの 持続可能な金融システムの設計に関する調査 と 持続可能な保険原則 はともに 現在 国連が進めている 国連持続可能な開発目標 策定への貢献が期待されています UNEPは グリーン経済への移行に対して世界の金融システムが投資するように導く方策を探るために 持続可能な金融システムの設計に関する調査 を開始しました この調査は 18か月にわたるもので U N E P のアキム シュタイナー事務局長は 環境問題に効果的に対処するには まず経済のことを正しく理解しなければなりません 持続可能な開発を進めるうえで 資金確保が依然として大問題として横たわっています これまでに多くの進展がありましたが 地域レベル グローバルレベルで環境にかかるストレスを減らす取り組みは未だ不十分です と語り 金融セクターの有識者の協力を求めています 一方 UNEPの 持続可能な保険原則 (PSI)) は今年 (2014 年 )6 月に2 周年を迎えるにあたり 災害に対する強靭性を持つ地域と経済の構築 と題する報告書を発表しました 国連環境計画金融イニシアチブ (UNEP-FI) が作成し 2012 年の 国連持続可能な開発会議 ( リオ +20) で発表された持続可能な保険原則は (Voice74 号参照 ) すでに 多くの ICMIF 会員団体を含む200 社以上が署名しています 持続可能な保険原則の策定では 協同組合 / 相互扶助の保険組織の経験が活かされるよう ICMIFスタッフも UNEPに協力しました ICMIFビジネスインテリジェンス担当責任者のフェイ ラジャー氏は 持続可能性に関する分野では 協同組合 / 相互扶助の保険組織が先頭に立って活動しています 2009 年にICMIFが発表したレポート 協同組合 / 相互扶助の保険組織と持続可能性 は 発表以来優れた実践の宝庫として広く読まれています と語 っています カナダ コーポレーターズ社社長 キャシー バーズウィック氏 VOICE MAGAZINE OCTOBER

20 影響力の行使 ローマ教皇庁が協同組合を 経済的民主主義の具現 と評価 2014 年 7 月 カトリックローマ教皇庁から 協同組合や社会的企 業 NGOなどの事業モデルは 人間中心主義の世界経済を達成するうえで重要な役割を果たしているとする声明が発表されました 世界の共通利益 をテーマにしたセミナー参加者を歓迎する教皇フランシスコ この声明は ローマ教皇庁の 正義と平和委員会 が 経済の包括性向上という緊急課題を話し合うために 世界の共通の利益 をテーマとして 各国の著名なエコノミストや学者 専門家を招いて2 日間にわたり開催したセミナーの総括として発表されたものです 国際協同組合同盟会長のポーリン グリーン氏も 専門家の一人として招待されました セミナーの成果は テーマと同じ 世界の共通の利益 と題する討議資料として公開されました グリーン氏は この数十年間 協同組合運動には 目には見えないけれど存在するガラスの天井がありました 協同組合運動はこの天井の下に避難しているという人がいるかもしれません しかし わたしたちはガラスの天井を打ち破ろうと努力してきました ローマ教皇庁主催セミナーに招かれたことは 協同組合運動にとって重要な意味を持っています 協同組合事業が世界中の実体経済にプラスの影響を与えていることを示す機会となったからです と語りました 教皇フランシスコは 経済と政治の中心に人間らしさを取り戻し 貧しい人々の参加を歓迎しなければ 貧困を克服し 地球を守ることはできないと考えています 声明は 金融危機によって多くの未解決問題が表面化し 貧困と社会的排他という流れを止めることができない現状において セミナー参加者は人間の集団として 道徳的指針を取り戻し 経済理論の前提条件を再検討する必要性があることで合意した 人間社会が幸せな暮らしを維持できるようにすることが 経済が目指すべき正しい目的であるにもかかわらず 現在は 貨幣など経済で用いられる手段や道具に必要以上の重要性が与えられている とし 無関心のグローバル化 を超えて 経済の包括性を高める努力をするよう訴えました また 協同組合その他倫理中心主義や社会中心主義の事業を 経済的価値だけでなく社会資本の創造に貢献している事業であり 人類の達成感に寄与する経済的民主主義を具現するものと評価しました さらに 経済システムは自然環境に似ており 多様性がないと強靭性を高めることはできないため 多様性を損ねるような不適切な規制を認めてはならない と訴えました ポーリン グリーン国際協同組合同盟会長 グリーン氏は この声明は協同組合関係者にとって実質的価値があると考えています 最近の歴史の中で ローマ教皇庁として初めて経済問題と直接取り組んだフランシスコ教皇の指導力と グローバル経済に人間性を取り戻す必要性があるという教皇の考え方は わたしたち協同組合には貢献できるものがあるという全体の自信につながります 18 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

21 影響力の行使 世界の子どもたちのために ユニセフ支援のため ICMIF 事務局長が自転車ラリーに参加 ラリー完走後のショーン ターバック氏 I C M I F 事務局長のショーン ターバック氏はこの夏 背広を脱ぎすててサイクリングウェアに身を包み チャリティー自転車ラリーに参加しました このラリーは 2014 年 8 月 10 日 イギリス南部の100 マイル (161 キロ ) コースを舞台に開催されたもので 各参加者は 特定の団体への寄付を目的として完走を目指します ICMIF 会員も数社が協賛会社としてこのラリーを支援しました ターバック氏はユニセフチームの一員として参加 世界中の子どもたちを守るための活動を行う機関ユニセフと ICMIFとの密接な関係構築に向けた第一歩となりました ターバック氏は ユニセフの理念と目的意識を考えるに ユニセフは ICMIFの将来的戦略パートナーとして理想的な相手になりうると確信しています 実際に ICMIFとユニセフがパートナーシップを形成するまでには時間がかかるでしょうが 個人的に ユニセフを支援するチャリティー活動をすぐに始めたいと思うようになりました ユニセフは 世界中の恵まれない子どもたち なかなか支援の届かない場所に住む子どもたちの命と健康を守るためにたゆまない活動を続けている 他に例のない非政治団体です と チャリティーに参加した理由を語りました ICMIFエグゼクティブ委員会は昨年 ICMIFと会員団体が連携して企業の社会的責任に関する共同プロジェクトに取り組むことを提案しました ICMIFはこれを受けて 3か年教育プロジェクトに対する資金提供の可能性について ユニセフとの話し合いに入りました ラリーには 数千人が参加しました コースは 2012 年ロンドンオリンピックで自転車のロードレースに使われたコースとほぼ同じで ロンドン中心部をスタートした後 テームズ川を渡って南部のサリー州に向かい 高低差のある田園の丘陵地帯を走り抜け ロンドンに戻ります しかしラリー当日 イングランド南部は大雨の天候となったため コースの一部がカットされ 予定より短いコースとなりました ターバック氏によると 外国の山岳地帯と比べるとイングランドの丘陵地帯はなだらかですが それでも急な上り坂が多く しかも道路が半分冠水していたため 走るのに苦労したそうです それにもかかわらず 5 時間強という立派なタイムで完走し 寄付を申し出てくださった団体個人から集まった数千ポンドの寄付金をユニセフに寄贈することができました それだけでなく ユニセフから 8 月の イギリスの月間最優秀寄付活動者 にも選ばれました VOICE MAGAZINE OCTOBER

22 有益な情報の共有 若さ vs 長寿 事業の強靭性を物語る長い歴史 わたしたちは 老い と 若さ に対して矛盾する態度を取ることがあります 多くの国では 長寿はめでたいとされていますが 同時に 高齢社会がもたらす社会経済的影響を嘆いています 将来世代のためにこの地球を守ろうとする一方で 若者文化に対して 実際 若者文化というものがあるのかどうか分かりませんが 否定的な見方をしがちです このような矛盾は事業に対する考え方にも見られます 若い会社 ( ダイナミックで機動的 ) と長寿企業 ( 信頼でき堅実 ) と どちらが優れているのでしょうか この問題の答えを探るために 筆者は世界の協同組合 / 相互扶助の保険組織 およびICMIF 会員団体の創業年度に注目しました ここではその前編として長寿企業を取り上げ その立証された安定性と強靭性をご紹介します Voice 次号では後編として 現代でも協同組合 / 相互扶助団体の事業モデルの重要性を失わない若い会社に注目します 長寿企業は とくに金融サービス業を営む企業は 堅実 信頼性が高い 強靭 信用できる などの言葉と関連付けて考えられる傾向があります 保険の歴史では 協同組合と相互扶助団体が重要な役割を果たしてきました 記録に残る世界最古の保険会社は 17 世紀までさかのぼることができます 1642 年にドイツで創業されたビルゼン保険組合で 今年創業 372 周年を迎えます 次に古い保険会社は 1689 年創業の ノルウェーのヤンシーデ保険 1 ヤンシーデ保険は2010 年 12 月にオスロ株式市場に上場されたが ヤンシーデ財団が筆頭株主として 62% を保有している 創業年が古い協同組合 / 相互扶助の保険組織上位 20 社 順位 社名 国 創業年 創業 後の 年数 1 ビルゼン保険組合ドイツ ヤンシーデ保険 (1) ノルウェー オンハーリンヘ ファン 1719 オランダ ドレルパー自由火災保険組合ドイツ フィラデルフィア コントリビューションシップアメリカ クステデーネス保険デンマーク エクイタブル生命 (2) イギリス バルチモア エクイタブル ソサエティアメリカ オスタングラー保険ドイツ ヴァージニア相互生命保険組合アメリカ ユニフェ ノルトフローニンヘンオランダ ユニフェ フローニンヘンオランダ メクレンブルギッシェ保険グループ ドイツ グランド ユナイテッド オーダー オブ オッド イギリス フェローズ相互組合 15 プロビデンス ミューチュアル アメリカ レンスフォーシェクリンガー スウェーデン オッドフェローズ相互組合 イギリス = アクメア オランダ = ハーゲル保険組合 ドイツ = オバーエステライヒッシェ オーストリア 新規保険契約の引受けは行っていない 20 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

23 有益な情報の共有 です ビルゼンもヤンシーデも ともに相互扶助団体です 3 番目に古い保険会社も もうお分かりでしょう オランダのオンハーリンヘ ファン 1719(1719 の相互の意 ) という相互扶助団体です 社名が示すように 1719 年の創業です 長寿企業は とくに金融サービス業を営む企業は 堅実 信頼性が高い 強靭 信用できる などの言葉と関連付けて考えられる傾向があります 保険の歴史では 協同組合と相互扶助団体が重要な役割を果たしてきました 記録に残る世界最古の保険会社は 17 世紀までさかのぼることができます 1642 年にドイツで創業されたビルゼン保険組合で 今年創業 372 周年を迎えます 次に古い保険会社は 1689 年創業の ノルウェーのヤンシーデ保険です ビルゼンもヤンシーデも ともに相互扶助団体です 3 番目に古い保険会社も もうお分かりでしょう オランダのオンハーリンヘ ファン 1719(1719 の相互の意 ) という相互扶助団体です 社名が示すように 1719 年の創業です 創業 100 年以上の組合 / 相互扶助の保険組織は 世界全体で 525 社ありますが その多くは ICMIF が 2012 年の保険料収入をもとにまとめた世界の協同組合 / 相互扶助の保険組織上位 500 社に入っていま す ( 詳しくは ICMIFの グローバル 500 レポートをご参照ください なお ICMIFは調査にあたり 客観的資料としてシグマレポートを基本データとして活用したため シグマレポートに含まれる日本の相互会社も調査対象として含まれています ) これは 上位 20 社をはじめとする多くの協同組合 / 相互扶助の保険組織が 組合員向けの保障に特化した保険事業を維持する道を選んだことを示唆するものではないでしょうか アメリカ最古の火災保険会社 フィラデルフィア コントリビューションシップ 創業 100 年以上の協同組合 / 相互扶助の保険組織を国別にみると アメリカが半数以上 (275) でトップ 2 位以下は カナダ (61) イギリス (4 8) ドイツ (42) の順になりました ICMIF 会員団体 ICMIF 会員のうち創業 100 年以上のところは 31 団体あります そのうち創業年の古い上位 10 団体を下表にまとめました 順位 社名 国 創業年 創業後の年数 1 クステデーネス保険 デンマーク レンスフォーシェクリンガー スウェーデン ユニフェ ディッヒトベイ オランダ スイス モビリア スイス シェパーズ共済組合 イギリス ローカル タピオラ フィンランド オーランド相互保険会社 フィンランド コーペラティブ インシュランス イギリス メアトリグ ノルウェー = ユマニア生命保険 ( 前社名ラ シュ カナダ ルビバンス ) 10= ノースウォータールー ファーマーズ ミューチュアル カナダ デンマークの ICMIF 会員 クステデーネス保険の本社 ICMIFに加盟する業界団体では フランスの相互扶助保険組織連合 (ROAM 1855 年設立 ) アメリカのアメリカン フラターナル アラっ xス (1886 年設立 ) アメリカの全米相互保険会社協会 (NAMIC 1895 年設立 ) が100 年以上の歴史を誇っています さらに 協賛会員に目を向けると 1829 年創業のウィリス グループと 1899 年創業のAM ベスト社があります ICMIF がまとめたデータによると ICMIF 会員団体の創業後の年数を平均すると56.5 年になります 地域別では 北米が88 年 ヨーロッパが 75 年と長く ラテンアメリカが 40 年 アジア オセアニアが 31 年 アフリカが 24 年となっています ICMIFに加盟する各団体の創業以来の年数を合わせると 12,000 年近くになります まさに経験の宝庫といえるでしょう 消費者が 財産を守りリスクを管理する金融機関を選ぶとき 信頼でき強靭性の高い会社を求め続ける限り 老舗企業は愛されることでしょう スウェーデンの ICMIF 会員 レンスフォーシェクリンガー社の最高責任者 アン ソンマー氏 (2013 年の ICMIF ケープタウン総会にて ) VOICE MAGAZINE OCTOBER

24 有益な情報の共有 協同組合 / 相互扶助団体を無視しないでほしい AMICE が EU に提言 22 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

25 有益な情報の共有 ヨーロッパの相互扶助保険組織と協同組合保険事業の連合会であるAMICEは ヨーロッパの政治家と政策立案者に協同組合と相互扶助組織の重要性を理解してもらうためのマニフェスト ミューチュアル マニフェスト を初公開しました マニフェストは 2014 年 5 月の選挙で選出された欧州議会議員とユンケル新委員長のもとスタートした EUの新執行体制を対象にしたもので 協同組合 / 相互扶助の保険組織が果たしている役割を的確に説明することを目的としています AMICEによると 協同組合 / 相互扶助の保険組織は ヨーロッパ域内約 6,000の保険会社の半数以上 全体の保険料収入の28% 以上を占めています 域内消費者の 3 人に1 人は 協同組合 / 相互扶助の保険組織の保険に加入しています AMICE 会長で ICMIF 理事も務めるヒルダ フェルナイレン氏 ( ベルギーの協同組合保険事業 P&VのCEO) は マニフェストの序文で次のように述べています 欧州委員会と欧州議会が協同組合 / 相互扶助の保険組織を理解し その組合員志向型サービスを評価し それが市場にもたらす多様性を支持することが ヨーロッパの利益になります 協同組合/ 相互扶助の保険組織は 特別扱いを求めていません ただ 理解してほしいのです 欧州委員会 欧州議会と保険監督機関には 協同組合 / 相互扶助の保険組織の立場を常に留意しながら 法律制定や市場の監督規制 政策立案などにあたるよう求めます AMICEのマニフェストは ヨーロッパの保険市場に関する ICMIFの最新レポート マーケット インサイト 2012 年ヨーロッパ版 ( マーケット インサイトは ミューチュアル マーケットシェア の地域別版レポートで ICMIF 会員はICMIFサイトから入手可能 ) の内容を引用しています 同レポートは 最新の 2012 年財務データを協同組合 / 相互扶助の保険組織および株式会社などそれ以外の会社から収集し 詳細に分析した結果をもとにまとめたものです レポートによると ヨーロッパでは 協同組合 / 相互扶助の保険組織が2012 年も前年に引き続き順調な業績を示し 2007 年から2012 年にかけての5 年間の保険料収入の伸びは20% で 株式会社などの伸びを上回りまし た 5 年間の年平均成長率は 市場全体のマイナス 1.3% を5ポイントも上回るプラス 3.7% を達成しました マニフェストは 協同組合 / 相互扶助の保険組織の重要性を証明するために ICMIFの同レポートのデータから オーストリア フランス ドイツ オランダ デンマークの各保険市場で協同組合 / 相互扶助の保険組織が40% 以上の占有率を有している現状を紹介しています フェルナイレン氏は 協同組合や相互扶助団体による事業は それぞれの事業分野で多くの優れた実践例を生み出しています このような実践例を EU 全域で理解してもらい 共有してもらいたいと思います と語っています マニフェストは EU 内に 協同組合 / 相互扶助の保険組織に不利な法的枠組みを持つ国があることも指摘しています 例えば ブルガリアとアイルランドでは 協同組合 / 相互扶助団体は生命保険商品しか扱えず 反対にギリシャでは 損害保険だけしか提供できません キプロス エストニア リトアニア マルタ スロバキアの状況はさらにひどく 協同組合 / 相互扶助組織による保険の提供は法律で認められていません これらの国では 他の EU 諸国と異なり消費者に選択肢が与えられていないことを指摘し 次のように主張しています 監督機関や立法機関が 協同組合 / 相互扶助団体特有の法的形態を理解していないことが多すぎます そのため これら団体の事業を適切に考慮することなく 法律や監督に関する判断が行われています AMICEは 2014 年 6 月初頭にフランスのニースで開催した総会で このマニフェストを発表しました いずれもフランスの ICMIF 会員であるROAM GEMA FNMF( 別名ミューチュアリテ フランセーズ ) がホスト団体を務めた総会には ヨーロッパのほとんどの国から 200 名近くが参加しました ヒルデ フェルナイレン氏 ( ベルギー P&V 社理事兼経営委員会会長 AMICE 会長 ICMIF 理事 ICMIF エグゼクティブ委員会委員 ) VOICE MAGAZINE OCTOBER

26 人材交流の促進 代替資本の流入 再保険市場の急激な変化を確認した再保険会議 MORO 2014 年 6 月にアメリカのマイアミ市で ICMIFの再保険会議 MOROが開催され 100 名以上が参加しました ICMIFの再保険 研修担当責任者 マイク アシャースト氏は大成功を収めた会議を振り返り 次のように語りました MOROで一番ホットな話題は 何と言っても 代替資本の流入でした 従来の伝統的な再保険に代わる手段をもたらしているからです 基調講演者の一人 ウィリス再保険 ( 北米 ) のジェイムズ ケント氏は 従来の資本とは異なる資本の再保険市場への流入をテーマにした講演を行い その中で 代替資本の流入は かつてない見たことのないスケールで再保険の取引に大きな変化をもたらしているという私の考えに きっと皆様もうなずいてくださると思います と述べ 再保険市場はこの5 年間に それ以前の100 年間に経験したこと以上の変化を経験していると指摘しました また ゴールドマンサックスが最近発表したレポートで ビジネスに影響を与える革新技術トップ 8の一つに 3Dプリンターやビッグデータとならんで再保険市場に流入する代替資本が取り上げられたことを紹介し 代替資本流入の影響を 自然災害について考察することの多い再保険業界にとっておなじみの言葉である 激震 という言葉で表現しました 2014 年 MORO で開催されたワークショップの様子 24 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

27 人材交流の促進 ICMIF 再保険委員会の会合写真左から : キモ ハイキネン氏 ( フィンランド ローカル タピオラ社再保険部長 ) グレッグ ロッカード氏 ( アメリカ シェルター ミューチュアル社再保険部長 ) リュック ボグ氏 ( ベルギー QBE 再保険ヨーロッパ社スキュラ事業 ヨーロッパマルチライン部長 ) マイケル デイビス氏 ( アメリカ アメリカン アグリカルチュラル社 保険引受 マーケティング マネージャー ) Caption アメリカの弁護士事務所ゴールドバーグ セガラ事務所のパートナーで 再保険関連の法律専門家 クライブ オコーネル氏も講演で同じテーマを取り上げ 試験的に始まったことが 今や伝統的な再保険に代わる現実的な代替策となったと語りました アクメア再保険社長 ( 近い将来に引退予定 ) のローラント デ ハース氏は アクメアではすでにこれら代替資本を利用していることを明らかにしました このような状況は 出再者に多大な影響をもたらします ICMIFのアシャースト氏は 供給過多により再保険市場が軟化すると 協同組合 / 相互扶助の保険組織は再保険料の値下げなど 再保険取引を有利に進めることができるようになります その一方で 再保険会社は 競争激化 再保険料低下 低金利という環境の中で収益を上げなければならず 厳しい状況に直面します と説明しています 再保険市場にはすでに およそ 500 億 USドルの代替資本が流入していますが その多くは年金基金が出資するものです しかし これはほんの手始めにすぎず この何倍もの代替資本が流入する可能性があります ウィリスのケント氏は 500 億 US ドルは 世界中の年金基金の資産合計 40 兆 USドルの 0.125% にしか過ぎないことを指摘し パートナー リー社のエドワード トーレス氏は講演の中で 今後 5 年間で代替資本が倍増するとの見方を示しました 代替資本流入の理由は だれもが知るところです 低金利環境の中で投資先の選択幅が狭まり苦慮しているヘッジファンドや年金基金のマネージャーは 利回りが少しでも高い投資先を求めています 彼らの目には 再保険の収益率が魅力的なものに映っており すでに 200 億 USドルの代替資本がカタストロフィーボンド市場に 170 億 USドルが担保付再保険商品市場に流入し ILW( インダストリー ロス ワランティー ) と派生商品 再保険サイドカーにも 規模は小さいながらもヘッジファンドや年金基金の資金が入っています ウィリスのケント氏も同様の見方をしています 前向きに考える点も多くある ことを認めながらも 代替資本が長期的に再保険市場にとどまるかどうかという点で問題があることを指摘し 市場力学変化の短期性と 再保険の長期性にどうバランスを取るかが難しい と考えています ICMIF 協賛会員で保険専門格付け会社のAMベスト社は MORO 参加者をインタビューした動画を制作しました 同社サイト ( からご覧ください VOICE MAGAZINE OCTOBER

28 人材交流の促進 絆を作る : ケニア CIC 研修団がスライベント社を訪問 2014 年 7 月 ケニアのCIC 保険グループの経営幹部 13 人からなる研修団が訪米し アメリカのスライベント フィナンシャル社で5 日間にわたる研修を行いました CIC 保険グループCEOのネルソン クーリア氏によると 協同組合が所有する保険会社が素晴らしい業績を上げている様子を視察し その成功から学ぶこと が 研修団の目的でした スライベント社と CIC 保険グループとの交流は 5 年前に始まりました スライベント社が ICMIFと接点を持つうえで大きな役割を果たしたのは CICのクーリア氏です スライベント社の人材開発 長期開発担当部長 ビル マッキニー氏は 研修団受け入れのような形による他社との結び付きは 協同組合保険 / 相互扶助の保険全体の役に立つだけでなく 利益を得る機会にもなると考えています 今回の交流については CICから学ぶ一方で スライベント社の見聞を伝えることができうれしく思いました スライベント社の理念と共通する点が多いほかの組織を支援する 素晴らしい機会となりました と語りました 研修団の日程はスライベント社主催歓迎夕食会で始まりました 夕食会ではスライベント社の経営幹部から スライベント社の歴史や組織体制 組合員との関係強化 商品戦略 顧客サービス戦略などについて 洞察に富んだ話がありました また マッキニー氏の スライベント社があるミネソタ州は 世界の中でも協同組合事業が盛んなところなので この機会を活かして C I C と同じように協同組合事業を行っている関係者にも会っていただきたい という思いから スライベント連邦信用組合や 州内の協同組合との話し合いも企画されました 昼食や夕食のリラックスした場でスライベント社幹部と意見交換を行い 2015 年 ICMIF 総会の舞台となるミネアポリス セントポール市も見学しました 26 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

29 人材交流の促進 クーリア氏は スライベント社での研修を 非常に元気づけられ 鼓舞された と評価しました スライベント社の事業は小さな形で始まりましたが その後 大成功を収め 現在の規模に成長しました 協同組合は規模の拡大が難しいという悪しき見方が存在している 中で スライベント社は CICに将来の成長可能性を示す手本となる会社だと考えています スライベント社はもともとルーテル教会信者にのみ保険を提供してきましたが 最近 門戸を広げ ルーテル教徒以外のキリスト教信者にも保険を販売するようになりました スライベント社にとっては 新しい事業機会と課題が生まれたことになります クーリア氏は 課題に挑戦すれば 人生はもっとおもしろくなるので スライベント社は きっと刺激的だと感じているはずだと思っています CIC 保険グループとスライベント社はこの 5 年間 研修を通じた交流を重ねてきました 年 9 月には スライベント社の中堅幹部による研修団が 指導者啓発プログラムの一環として 1 週間の日程でケニアのナイロビを訪れました 研修団メンバーの一人 ジョアナ トライグスタッド氏は CIC 保険グループから学び 事業運営に関する意見交換を目的とした研修を次のように振り返りました 同じような原則を有しながら 全く異なる環境と市場で事業を行っている会社を自分の目で見ることができた またとないチャンスでした スライベント社と CIC 保険グループはともに 今までの経験を活かして 職員の交換研修や意見交換などを通じた相互学習を進めていきたいと強く希望しています 写真左から : ビル マッキニー氏 ( アメリカ スライベント フィナンシャル社人材開発 長期開発担当部長 ) ブラッド ヒューイット氏 ( スライベント フィナンシャル社社長兼 CEO) ネルソン クーリア氏 ( ケニア CIC 保険グループ CEO) CIC 保険グループは 急速に発展している地域で 急速に成長しています 研修は スライベント社が事業を行う大前提について考える機会となりました 緊急性 行動を起こすこと 成長 などについて学ぶことができました スライベント社経営幹部と CIC 保険グループ経営幹部 VOICE MAGAZINE OCTOBER

30 人材交流の促進 ICMIF フォーラムに関する最新情報 両会合とも 前欧州議員のピーター スキナー氏を講演者にお迎えし EUでの観点や取り組み方など 政策立案者側のお話を伺います スキナー氏は 1999 年から2014 年まで欧州議員を務め ソルベンシー IIや欧州再保険指令に携わったほか 欧州保険 年金局の設立には責任者の一人として関わりました また 長年にわたり 欧州議会金融サービスフォーラムの座長を務めました ICMIFは 規制問題フォーラムを発足させ 2014 年 10 月にアメリカのワシントン DCとオランダのアムステルダムで それぞれ半日の会合を開催すると発表しました ICMIF 会員団体の規制問題担当責任者を集めた会合は ICMIFが国際レベルで規制監督機関に対して行う活動を支援するものになると期待されます ICMIF 規制問題フォーラムの会合に関する詳細については 担当者のキャサリン ホック氏 ( メール :Catherine@ icmif.org) までお問い合わせください 規制問題フォーラムの担当者で 会合を企画した ICMIFの国際関係担当責任者 キャサリン ホック氏は 次のように語っています 規制問題フォーラムの発足は 保険会社が 説明責任や透明性の向上や適格資本と規制要件の強化を求められている現状に応えたものです フォーラムでは 国際レベルで規制 の現状を検討し 政策立案者や規制当局が協同組合 / 相互扶助の保険組織をどうとらえているか考察します また 規制要件に影響を与える取り組み方について 短期的 長期的の両方の観点から話し合います ワシントン DCの会合は2014 年 10 月 10 日 ( 金 ) の午前 有名なナショナルプレスクラブで開催されます この会合には ICMIF 会員団体の中でもとくに北米から多くの会員が参加することが予想されます 会合は 各会員が規制監督や法律の面で抱える問題や優先課題について共通の理解を得る場となるだけでなく アジェンダ ( 検討課題リスト ) 案を考える機会にもなることが期待されます 会合には ICMIFから会長のアンデルス スンドストロム氏と事務局長のショーン ターバック氏が出席するほか 全米保険コミッショナー協会や世界銀行の代表者も参加する予定です アムステルダムの会合は 保険監督者国際機構 (IAIS) 年次総会に合わせて 10 月 21 日 ( 火 ) の開催としました 会場はセイントリュス アクメアの事務所です この会合にも ICMIF 会員団体の担当者や 政策立案機関 規制機関の代表者が集まる予定です 2014 年 11 月 24 日 25 日の両日 シンガポールで ICMIF コミュニケーション フォーラムの会合が開かれます この会合は ICMIF 会員のNTUCインカム社がホスト団体を務めます N T U C インカム社は 創造力に富んだブランド再構築やマーケティング活動で他に例のない高い評判を築いています NTUCインカム社の親組織であるNTUCエンタープライズ社のCEOで ICMIF 理事も務めるタン スー チー氏から 洞察に富んだお話を伺う絶好の機会にもなります このフォーラムを担当する ICMIFの対外関係担当上級責任者リズ グリーン氏は 協同組合や相互扶助団体など 組合員やユーザー所有型事業がもたらす事業上のメリットを活かす上で コミュニケーション担当者の役割は重要です この会合は 効率的なディスカッションに参加し 優れた講演者の話を聞き 他の参加者の経験や知識から学ぶ機会となります と述べ 会員団体でコミュニケーションやマーケティングを担当する責任者の参加を呼びかけています 会合の詳細はリズ グリーン氏 ( メール : org) までお問い合わせください Liz@icmif. 28 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

31 人材交流の促進 ICMIF オンラインニュースから ICMIFは 協同組合保険 / 相互扶助の保険分野の最新ニュースをサイト上のオンラインニュースでお届けしています ここでは 最近のオンラインニュースから主な記事をピックアップしたダイジェスト版をお送りします 2014 年 7 月初頭 パリのシャイヨー宮にある国立遺産建築博物館でフランスの GEMA( 相互保険事業グループ ) 創立 50 周年を祝う行事が開かれ 600 人以上が参加しました イギリスのエンゲージ ユーチュアル社が最近設立した慈善財団が 設立後初となる助成金の交付を行いました 地域のスポーツクラブ 2 組織がそれぞれ25,000ポンド (43,000USドル ) を受け取りました ブラジルのウニメド保険は ブラジルサッカー連盟と 6 年間のスポンサー契約を結びました またデジタル広告キャンペーンにダヴィド ルイス選手の起用を決め 契約にサインしました マレーシアのプルーデンシャル BSNタカフル社は 同社が引き受けるタカフル商品の販売促進のため 国内各地の銀行支店に40 名のタカフル専門家を派遣しました 南アフリカのPPS 社は 組合員に分配する2013 年剰余金が 前年比 42% 増の40 億ランド (3 億 7,500 万 USドル ) にのぼることを発表しました カナダのコーポレーターズ社は オンタリオ州で利用ベースの自動車保険を発売しました 同じくカナダのデジャルダン社も 利用ベースの自動車保険を提供しています アメリカのスライベント社は 住環境支援に関わるNPO 団体ハビタット フォー ヒューマニティ インターナショナルによる 3つの活動に対して 2014 年に1,200 万 USドルを拠出することを決めました 2005 年に支援を始めて以来の資金提供額は これで 2 億 USドルの大台を突破しました 顧客サービス研修優秀賞を受賞したコーニッシュ ミューチュアル社 ( イギリス ) フランス GEMA の新社長 パスカル ドゥデュミュルゲル氏 年 イギリスのコーニッシュ ミューチュアル社は 大手保険会社との激しい競争を制して 顧客サービス研修優秀賞を 3 回も受賞しました ケニアの CIC 保険グループの経営幹部と役員からなる研修団が 有意義な成果とともに カナダのコーポレーターズ社視察から帰国しました ケニアのCIC 保険グループには スリランカのサナサ保険とカナダのデジャルダン国際開発の各視察団が訪れました ICMIF 会員団体や協同組合保険 / 相互扶助の保険全般のニュースは でご覧になれます 会員団体の皆様からニュースを募集しています ICMIF のコミュニケーション マネージャー アリソン グラント氏 ( メール : alison@icmif.org) までお送りください オレンジ アイ アプリの配布を始めた NTUC インカム社 ( シンガポール ) ガーナのユニーク保険の新社長にビクター オベング = アディイヤ氏が任命されました イギリスの NFUミューチュアル社は イギリス消費者協会から 2014 年最優秀保険会社賞に選ばれました ダヴィド ルイス選手を起用したウニメド保険 ( ブラジル ) の広告キャンペーン シンガポールのNTUCインカム社は ドライバーが運転中の様子を撮影し 事故時に資料として提出できるようにするアプリ オレンジ アイ ( アイフォン版とアンドロイド版 ) の配布を始めました イギリスの医療保険を専門とするベネンデン ヘルス社は 年齢制限がなく 既往症も補償対象とすることができる旅行保険を発売しました VOICE MAGAZINE OCTOBER

32 寄稿記事 社会的責任投資 協同組合と相互扶助団体が取り組むべき理由 イアン ジョーンズ氏 ( コーペラティブ アセット マネジメント U K 前 SRI 部長 ) 社会的責任投資 (SRI) には多くの定義が考えられますが 筆者は 投資を保護し 最良の実践を促進するために投資先と直接かかわりを持つことにより 他人から預かった資金を 責任を持って管理すること と定義します また 資金を預けるお客様の理念や価値を推進するという意味もあると考えます 以下 協同組合や相互扶助団体が社会的責任投資に取り組むべき理由を 次の 3 つの点から考察します 投資利回り 組合員との結び付き強化 事業ブランドと協同組合 / 相互扶助の精神 投資利回り 投資戦略において 投資先の環境 社会 企業統治 (ESG) に関連する要因 さらには事業倫理も考慮に入れると ポートフォリオリスクをよく理解することができるようになります 例えば 市場がESGのリスクや機会を考慮しない場合に生じるミスプライス ( 何かの理由で株式に間違って値が付けられること ) に気付きます 筆者が働いていたコーペラティブ インシュランス ソサエティ (CIS イギリス ) は ミスプライス発見の達人となり その結果 CISの持続可能なファンドが保有する株式は 過去 25 年間一貫して市場平均を上回る株価の伸びを示しています 投資先が企業統治で優れた実践をしているかどうかは 投資家にとってきわめて重要な点です 市場ではずっと以前から企業統治を考慮に入れており 例えば 無議決権株式の株価は非常に低くなります しかし 他の種類の企業統治リスクへの対応は遅いため ミスプライスが生じるチャンスがあります 環境 社会関連のリスクと投資チャンスは一目瞭然なケースが多く 原油を流出した石油会社には巨額の罰金が課せられ 官庁や自治体と契約を結んでいる企業は契約を終了させられる 可能性があります ただし 明白に見えても 必ずしも株価や社債の価格に反映されているとはいえません 企業倫理の重要性 事業において倫理の分析とは 商品やサービスそのもの以外の影響を精査することと解釈されがちでした 倫理的投資 という言葉は狭義に理解され 社会や環境に悪影響を与える会社への投資を行わないことを指すケースが多いのが現状です 投資会社のほとんどは 企業倫理を社会的責任投資の一部ととらえていません すると 事業の内的倫理 とくに 役員が 健全性や誠実性 慎重さという面でどのような水準にいるか というきわめて重要な点が見落とされます このような明らかに道徳上の事柄を問題にするのは格好悪いのかもしれません しかし きわめて重要です 理性をわきまえた人間は 信頼できない他人にお金を貸そうとはしません しかし プロの投資家はしばしば そのような行為をします 個人的に知らない投資先の役員の倫理性を どのようにして測るのでしょうか それを示唆するものはあります 例えば 質の高いオープンな報告をしているかどうか どのような性質の報酬をどのぐらいもらっているか などです 役員の報酬と企業の収益性にはあまり関係がないとする人もいます ( ただし アメリカの巨大企業ワーナコが破綻した原因は 社長の巨額退職金にもありました ) しかし 役員が考える戦略とは 自分の成果主義ボーナスを確保するための戦略となる可能性があります 役員が事業目標達成のために 投資家の利益に反する方法で会社の会計基準を変えたケースもあります 筆者がCISに勤務していた当時を振り返ると 最も素晴らしい投資判断をしたのは イギリスの RBS 銀行 ( ロイヤル バンク オブ スコットランド ) がオランダのABNアムロ銀行と合併したときのことです CISは合併に反対した唯一の機関投資家でした 合併後の役員報酬案を見ると 報酬があまりにも巨額なので 役員は報酬を確保するために過度のリスクを取り 30 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

33 寄稿記事 合併後の銀行は 投資家のためではなく役員の利益のために事業を行うことになるのではないかと懸念したためです そこで CISはRSB 銀行への投資から完全に手を引きました リーマンショック後 RBS 銀行は経営破綻し 公的資金が投入される事態になりました CISの保険契約者は 損失を受けずにすみました 世界的な銀行危機は 高リスク体質や 情報の非開示 強欲さなどの企業文化が 投資家だけでなく経済全体に多大な被害をもたらしたことを示しました 倫理は大切です このことを理解する投資家は ポートフォリオのリスク管理が上手な投資家です 金融機関に対する消費者の信頼感が低くとどまっている今こそ 協同組合や相互扶助団体が社会的責任投資に取り組む絶好の機会です 協同組合 / 相互扶助団体の投資に対する考え方と自然に調和するだけでなく 社会的責任投資への取り組みを通じて違いを作る大きな機会となるからです 上場会社でない協同組合 / 相互扶助団体には 利害関係の衝突が起こる可能性が株式会社に比べて低いという 大きな利点があります そのため 社会的責任投資への取り組みの成果を組合員と分かち合い 組合員の利益を守るうえで独立性を確保することが 難しくなくなります 組合員との結び付き強化 驚かれるかもしれませんが 社会的責任投資への取り組みを 通じて 組合員との結び付き強化を図ることができます CISは 生命保険に加入もしくは貯蓄性商品を購入したお客様を対象に 社会的責任投資についてアンケート調査を行ったことがあります 45,000 人がアンケートに答えてくれました イギリス国内で行った同種のアンケートでは最大の回答者数です 回答者のうちなんと97% が 社会的責任投資方針が必要 だと答えました どのようなことに関心を持っていますかという質問では 企業統治という答えが最も多かったのにも 調査側として驚きました 自分たちのおカネを守るためには 優れた企業統治が根本的に重要であるということを 組合員は理解していたのです そのほか 社会 環境が投資に与える影響の認識度も高く 社会や環境にプラスの影響を与えるような形で自分たちのおカネを投資してほしいと考えていることも明らかになりました ICMIF 会員団体にとっては 経営資源をまとめて 社会的責任投資への取り組みから最大の成果を得る絶好のタイミングです そうすれば 協同組合 / 相互扶助団体ならではの原則を強化し 組合員の利益を高めることができるでしょう 社会的責任投資は % できなければダメというものではありません 経験や経営資源によりできるところから始めることができます ICMIF 会員の場合は 他の会員の経験やICMIF 全体の経験を参考にすることもできます CISでは 組合員向け報告書で社会的責任投資への取り組みに関する報告を大きく取り上げることにしましたが 組合員からは 取り組みを高く評価する声が寄せられました また 組合員が今後の取り組みについて提案をすることもあり 各種取り組みに優先順位を付けるうえでおおいに参考になりました 社会的責任投資戦略の対象となっている運用資産 ( ヨーロッパ ) 社会的責任投資戦略を採用する機関投資家が増えていま す 次の図は ヨーロッパで運用されている資産のうち 社会的責任投資方針に則った額 つまり正式な議決権行使の対象としている あるいは少なくとも ESG 課題を考慮して行った投資の額を示しています 社会的責任投資方針には グリーンウォッシングと呼ばれる上辺だけで取り組んでいるように見せているケースも含まれますが それでも全体でみると重要性が高まっているのは疑いがありません 協同組合 / 相互扶助の原則 イアン ジョーンズ氏は イギリス CICの資産運用を担当していたコーペラティブ アセット マネジメント U K 社で 社会的責任投資部長を務めていました CICは現在 イギリスの相互扶助組織であるロイヤル ロンドン グループの一部門となっています VOICE MAGAZINE OCTOBER

34 寄稿記事 グレイ スワン にご用心ヨーロッパの保険会社の財務力を脅かす 10 の例外的事象 スティーブン ホルツバーガー氏 (AM ベスト社欧州中東アフリカ地域分析部門長 ) ヨーロッパでは このところ比較的経済が安定しています そのため地域の損害保険会社と生命保険会社の多くは 2008 年の金融危機の悪影響から資本基盤を回復しつつあります 低金利 実質利回りの低下 規制環境の急激な変化と規制強化などの課題は続いているものの 大手保険会社はこの 2 年間に保険料収入増を達成しています 保険会社の経営陣にとっては 日々の事業経営に注視しながらも 今後起こりうる脅威を評価することも重要です ここで脅威というとき ブラック スワン と言われる 事前にほとんど予想できず 起きたときの衝撃が巨大な事象ではなく グレイ スワン を指しています グレイ スワンは ブラック スワンより発生する確率が低い事象で 発生時の衝撃が大きいことは予想できるものの 実際に起きると 市場や企業の財務力に壊滅的な影響を与えかねない事象のことをいいます 保険会社にとって グレイ スワン事象は既知リスクであり 財務基盤を守り破綻を回避するためには その管理が不可欠です 以下にグレイ スワン事象のトップ 10を挙げます 事象は二つのグループに分けることができます 最初の 5 事象は ボクシングでノックアウトされた時のような 即時に衝撃を受ける事象 次の 5 事象は じわじわと衝撃が効いて死に至るような事象です 1. 巨大惨事 ヨーロッパ大陸で あらゆる種類のテロ 感染症の大流行 気候温暖化に関連する巨大自然災害などが原因で起きる単一の惨事で 1 兆 USドル以上の巨額損失をもたらします 2. 金融システムショック ヨーロッパで次の金融危機がいつ起きるか確実に予想できる人はいないでしょうが 強い資本バッファーと流動性アクセスを維持して 将来 金融市場にショックが起きたときの備えをすることが重要です 3. リスク管理不足 リスク選好とリスク管理能力のミスマッチは財務不安定要因になります 新規ラインに参入したり 他国など新地域で事業拡大をしようとするとリスクは増大します 4. ハイパーインフレ 現在は 物価上昇率が低い水準で推移しており 欧州中央銀行は デフレリスクへの懸念から政策金利を史上最低レベルに引き下げました 物価上昇率が急激に上がると 保険会社は 損失分を保険料に転嫁したり 準備金を一定の水準に確保することができなくなる可能性があります 5. モデルエラー 保険業界は複雑なモデル化技術や分析技術を開発してきましたが これらモデルが 保険会社の財務基盤に悪影響を与えかねない極端なシナリオを過小評価している危険性があります 分散投資によるリスク軽減の過大評価 予想最大損失額の過小評価 再保険への過度の依存 医療保険 介護保険 年金商品の保険料設定において人口動態的傾向を評価しないことなどのケースがこれに当たります 6. 規制監督 金融危機後に見られる規制強化と監督体制強化が 保険会社の事業モデルや資本 事業に影響を与えている可能性があります 保護主義的な規制になると 資本の互換性や多角化という保険モデルにとって問題となりかねません 7. 代替資本 年金基金やヘッジファンド 未公開株式投資会社 基金などからの資本が再保険市場に流入して 伝統的再保険会社と競争しています 保険市場と再保険市場を大きく変える可能性があります 32 VOICE MAGAZINE OCTOBER 2014

35 寄稿記事 電力系統に障害をもたらす可能性がある磁気嵐の様子 8. 新興リスク 新興リスクを予想することは アスベストや環境問題が何十年後に訴訟に発展するとが予想できなかったケースと同じくらい難しいことですが 保険会社の財務力に大きな影響を与えかねない問題です 新興リスクの一例としては サイバーリスク 各種テロ行為 食品の安全性 磁気嵐 ( 写真 ) などの宇宙気象があります 9. 金利の急上昇 保険会社は確定利付商品で多くの資産を運用しているため 金利が急上昇すると 深刻な問題となります 生命保険会社の場合 保険契約者が手持ちの貯蓄性商品や年金商品を解約し 利回りの高い貯蓄性商品を購入する動きにつながりかねません 10. 人材の流出や起業家精神の喪失 人材や起業家精神を失うことも保険業界にとって最大のリスクの1つです ヨーロッパの保険業界と再保険業界は 社員の高齢化が進み 定年を迎えるスタッフを多く抱えています 優秀な人材を確保するにはどうすればよいでしょうか 本当に優秀な人材を確保するには 同業他社だけでなく 他の業界とも競争しなければなりません 結論 高い格付けを得ている安全な会社とは財務リスクと責任をきちんと管理できる会社だ というのがアナリストの見方です つまり アナリストは保険契約者の見方をしているわけです 保険契約者は保険会社に対して 世界が終わりを迎えるようなシナリオに備えて資本を準備することは期待していませんが きわめて厳しいストレスを想定したシナリオにおいても財務上の責任をきちんと果たすことを期待しています スティーブン ホルツバーガー氏は A M ベスト社欧州中東アフリカ地域分析部門の部門長です VOICE MAGAZINE OCTOBER

36 コミュニケーション マーケテ ィング ブランドの担当者の 参加をお待ちしています 2014 年 ICMIF コミュニケーション フォーラム会合開催のお知らせ 2014 年 11 月 24 日 ( 月 )~25 日 ( 火 ) シンガポールにて ICMIF コミュニケーション フォーラムは 市場シェアの拡大や事業ブランドの差別化を図る会員団体の支援を目的としています 参加者は 他の会員団体のブランド認識度向上戦略に学び 参加者同士の国際的な交流を深め 事業トップの意見を国内国外で取り上げてもらう方法を学びます シンガポールの IMCIF 会員 NTUCインカム社をホスト団体とする会合は 有名なラッフルズ コンベンションセンターで開催されます 以下に 内容の一部をご紹介します トップレベルの講演者による講演ピーター スキナー氏 ( 前欧州議会議員で国際的な保険専門家 ) チャールズ ウィグリー氏 ( 国際的広告代理店 BBHの一部門 BBHアジア会長でブランド戦略専門家 ) ICMIF 会員団体のケーススタディーブラジル ウニメド保険 ( コミュニケーション担当役員 フェルナンド ポヤレス氏 ) イギリス ベネンデン ヘルス社 ( グループ マーケティング担当役員 ローレンス クリステンセン氏 ) カナダ コーポレーターズ社 ( ブランドマネジメント担当役員 ロバート マーティン氏 ) シンガポール NTUCインカム社 ( 生命保険部長 エズモンド チャン氏 ) CEOのパネルディスカッション I C M I F ウェブサイトに会合の詳細を掲載しました どうぞご覧下さい 会合に関するお問い合わせは ICMIFのリズ グリーン氏までお願いします TEL( 日本から ): メール :liz@icmif.org ピーター スキナー氏 ICMIFコミュニケーション フォーラム会合は英語で行われます 参加者には 講演等を理解し 他の参加者と交流するに十分な英語力が求められます チャールズ ウィグリー氏