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しほこかせ
5 years ago
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1 上原記念生命科学財団研究報告集, 25 (2011) 30. 脂肪細胞機能を調節する食品由来ペプチドの探索と機能評価後藤剛 Key words: 肥満, 脂肪細胞, 大豆タンパク質,SPH 岐阜大学応用生物科学部応用生物科学科応用生命科学講座食品分子機能学研究室緒言過栄養と運動不足を背景とした肥満に伴う代謝異常症の増加が世界的な健康問題となっている. 肥満は脂肪組織が過剰蓄積した状態と定義され, 脂肪組織の機能破綻が肥満に伴う代謝異常症の発症要因の一つとして考えられている. 肥満状態の脂肪組織では, 脂肪細胞の肥大化が認められる. 肥大化脂肪細胞では, 脂肪組織特異的に分泌されるインスリン感受性亢進ホルモンであるアディポネクチンの分泌低下,tumor necrosis factor-α (TNF-α) や monocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1), などのインスリン感受性増悪化ホルモンの分泌亢進が認められ, このような脂肪組織由来のホルモンバランスの変化が肥満に伴う代謝異常症の発症の一因とされている 1-3). インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体は, 脂肪細胞分化を促進させることで, 小型脂肪細胞の数を増やし, アディポネクチンの分泌亢進, 代謝異常症の改善効果を有することが知られている 4). 本研究では, 肥満に伴う代謝異常症に有用であると報告されている大豆タンパク質の機能に着目し 5), 大豆タンパク質由来ペプチが脂肪細胞分化過程に与える影響について検討を行った. 方法 1. 実験試料, 細胞培養大豆タンパク質由来ペプチドとして, 大豆タンパク質の胃ペプシン消化産物の水溶性画分を実験に用いた. 細胞は, マウス由来の培養前駆脂肪細胞株, 3T3-L1 細胞を用いた. 3T3-L1 細胞を dexamethasone, 3-isobutyl-1- methylxanthine, インスリン処理により分化誘導し (2 日間 ), 分化誘導後インスリン含有培地で 4-6 日間培養した.SPH は分化誘導期間, インスリン含有培地による培養期間ともに添加した. 2.oil red o 染色各試料存在下で分化誘導開始後 8 日間培養した脂肪細胞を 10% ホルマリンで固定した後,oil red o で染色を行った. 染色後,isopropyl alcohol で oil red o を抽出, 定量を行った. 3.mRNA 測定各試料存在下で分化誘導開始後 6 日間培養した脂肪細胞から,total RNA を回収後, 逆転写反応により cdna を得た. その後, リアルタイム定量 PCR を行った. 標的遺伝子の発現量は,36B4 遺伝子の発現量をもとに補正した. 4. 培養上清中のアディポネクチン, グルコースの定量各試料存在下で分化誘導開始後 6 日間培養した脂肪細胞の培養上清を回収し,ELISA 法によりアディポネクチン量を, 酵素法により, グルコース量を測定した. 1

結果 1.SPH の添加は, 脂肪細胞分化を亢進させ, 脂肪細胞分化過程における脂肪蓄積を亢進させるマウス由来の培養前駆脂肪細胞,3T3-L1 細胞に分化誘導期間を通じて, 大豆タンパク質ペプシン加水分解物水溶性画分 (SPH) を添加した後,oil red o 染色により細胞内脂質を染色したところ,Fig.

2 結果 1.SPH の添加は, 脂肪細胞分化を亢進させ, 脂肪細胞分化過程における脂肪蓄積を亢進させるマウス由来の培養前駆脂肪細胞,3T3-L1 細胞に分化誘導期間を通じて, 大豆タンパク質ペプシン加水分解物水溶性画分 (SPH) を添加した後,oil red o 染色により細胞内脂質を染色したところ,Fig. 1A に示すように,SPH で処理した細胞において, 用量依存的に脂肪蓄積量が増加することが明らかになった. 実際に,oil red o 色素を抽出, 定量したところ,SPH 添加による用量依存的な脂肪蓄積の増加が定量的に明らかとなり,0.8 mg/ml の SPH で処理した場合, 未処理の細胞と比較し,1.5 倍の脂肪蓄積量を示していた (Fig. 1B). なお, ポジティブコントロールとして, チアゾリジン誘導体のトログリタゾン (Tro)5μM を添加した細胞では, 脂肪蓄積量は 1.4 倍に増加していた. Fig. 1. SPH treatment enhanced lipid accumulation during adipocyte differentiation in 3T3-L1 cells. for 8 days. The cells were stained with oil red o. A: Macrocsopic views (upper left) and microscopic views of representative 3T3-L1 cells. B: Oil red o was extracted from the cells and absorbance was measured at 490 nm. The values are means ± SEM of four tests. * P < 0.05, ** P < 0.01 compared with control (Cont). Fig. 2. SPH treatment increased the expression level of the adipogenic marker gene, and decreased that of the preadipocyte marker gene. for 6 days. Total RNA was isolated and analyzed by real-time monitoring RT-PCR. mrna expression levels of each gene were normalized to the expression levels of 36B4 gene. The expression level of cells treated with the vehicle control (Cont) is set at 1.0. Expression levels of adipogenic marker gene (ap2) (A) and preadipocyte marker gene (Pref-1) (B). Expression level of each gene in 3T3-L1 preadipocytes (Pre) was also presented. The values are means ± SEM of four tests. * P < 0.05, ** P < 0.01 compared with control. 2

3 次に, 脂肪細胞マーカー遺伝子として,adipocyte fatty acid-binding protein (ap2), 前駆脂肪細胞マーカー遺伝子として,preadipocyte factor-1 (Pref-1) の mrna 発現量について検討した. 分化誘導処理によって,aP2 発現量は大きく増加し (Fig. 2A),Pref-1 発現量は低下した (Fig. 2B).SPH 処理細胞では, 用量依存的な ap2 の発現亢進,Pref-1 の発現低下が認められ,0.8 mg/ml の SPH で処理した場合,aP2 発現量は 2.0 倍に上昇し (Fig. 2A),Pref-1 発現量は 59% に低下した (Fig. 2B). これらの結果から,SPH 処理は脂肪細胞分化を亢進させ, 脂肪細胞分化過程における脂肪蓄積を亢進させることが示唆された. 2. 脂肪細胞分化過程での SPH 処理は, アディポネクチン産生を亢進させ, 糖処理能力を増大させるアディポネクチンは脂肪細胞特異的に産生されるインスリン感受性亢進ホルモンであり 1,2), 脂肪細胞分化に伴い産生が亢進する (Fig. 3A and 3B).SPH 処理がアディポネクチン産生に与える影響について検討したところ,SPH 処理はアディポネクチン mrna 発現量, 分泌量ともに亢進させることが明らかとなった.0.8 mg/ml の SPH で処理した際に, アディポネクチン mrna 発現量は 1.7 倍 (Fig. 3A), 分泌量は 3.4 倍 (Fig. 3B) に増加した. Fig. 3. SPH treatment increased adiponectn mrna expression and secretion in 3T3-L1 cells. for 6 days. A: mrna expression level of adiponectin. B: The secretion level of adiponectin from day 4 to day 6 (48 hours) was measured using ELISA kit. Results from 3T3-L1 preadipocytes (Pre) were also presented. The values are means ± SEM of four tests. ** P < 0.01 compared with control (Cont). N.D., not detected. さらに, 脂肪細胞分化過程における糖処理能力に対する SPH の影響を検討したところ,SPH は脂肪細胞に発現するインスリン依存的な糖輸送担体,glucose transporter 4 (GLUT4) の mrna 発現量を亢進させることが明らかになった (0.8 mg/ ml SPH 処理により,1.8 倍に上昇 )(Fig. 4A). 分化誘導開始 6 日目の培地交換から 24,48 時間経過後の培養液中のグルコース濃度は,0.8 mg/ml SPH 処理により, 未処理と比較し, それぞれ,75%,11% に低下した (Fig. 4B). 以上の結果から, 脂肪細胞分化過程における SPH 処理はインスリン感受性亢進ホルモンであるアディポネクチンの産生量, および糖処理能力を上昇させることが示唆された. 3

4 Fig. 4. SPH treatment increased GLUT4 mrna expression and glucose uptake during adipocyte differentiation in 3T3-L1 cells. 3T3-L1 cells were induced to differentiate and maintained with or without SPH for 6 days. A: mrna expression level of GLUT4. B: Glucose level in the conditioned medium 24 or 48 hours after medium change on day 6. The values are means ± SEM of four tests. * P < 0.05, ** P < 0.01 compared with control (Cont). 考察以前から, 大豆タンパク質が肥満に伴う脂質代謝異常症や糖質代謝異常症に対して, 抑制的に機能することは多く報告されていたが 5), その詳細な分子メカニズムについては未だ明らかにされていなかった. 本研究では大豆タンパク質由来ペプチド (SPH) が, 肥満に伴う生活習慣病の発症と深く関連する脂肪細胞分化過程に及ぼす影響について検討した. その結果,SPH 添加は脂肪細胞分化を促進させ, アディポネクチンの産生, 糖処理能力を亢進させることが明らかになった. インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体は, 脂肪細胞分化促進作用を介して, 肥満に伴うインスリン抵抗性に対して改善作用を発揮するものと考えられている 4). そのため, 本研究によって明らかになった,SPH による脂肪細胞分化亢進作用は, 大豆タンパク質の肥満に伴う生活習慣病に対する予防改善作用に寄与している可能性があるものと考えられる. 実際に,Torre-Villalvazo らは, 大豆タンパク質摂取ラットの脂肪組織において, 脂肪細胞が小型化していること, 脂肪細胞数が増加していることを報告している 6). これらの結果は, 大豆タンパク質摂取ラットの脂肪組織では, 脂肪細胞分化が亢進していることを示唆しており, その作用を大豆タンパク質由来ペプチドが担っている可能性がある. 本研究で用いた SPH はペプチド混合物であり, 活性ペプチドの解明や, またその吸収性をはじめとする生体内動態等, 今後検討すべき点が残されているが, 本研究で得られた知見は未解明部分があった大豆タンパク質の代謝異常症改善作用の解明の一助となる可能性があるとともに, 脂肪細胞分化過程を制御しうる食品由来機能性ペプチドの存在についてはじめて報告したものであり, 今後の研究発展が期待されるものと考えられる. 共同研究者本研究の共同研究者は, 岐阜大学応用生物科学部の長岡利教授である. 文献 1) Matsuzawa, Y.:The metabolic syndrome and adipocytokines. FEBS Lett., 580: , ) Kadowaki, T., Yamauchi, T., Kubota, N., Hara, K., Ueki, K. & Tobe, K.:Adiponectin and adiponectin receptors in insulin resistance, diabetes, and the metabolic syndrome. J. Clin. Invest., 116: , ) Rasouli, N. & Kern, P. A.: Adipocytokines and the metabolic complications of obesity. J. Clin. Endocrinol. Metab., 93:S64-S73, ) Yamauchi, T., Kamon, J., Waki, H., Murakami, K., Motojima, K., Komeda, K., Ide, T., Kubota, N., Terauchi, Y., Tobe, K., Miki, H., Tsuchida, A., Akanuma, Y., Nagai, R., Kimura, S. & Kadowaki, T.: The mechanisms by which both heterozygous peroxisome proliferator-activated receptor γ (PPARγ) deficiency and PPARγ agonist improve insulin resistance. J. Biol. Chem., 276: , ) Torres, N., Torre-Villalvazo, I. & Tovar, A. R.:Regulation of lipid metabolism by soy protein and its implication in diseases mediated by lipid disorders. J. Nutr. Biochem., 17: ,

5 6) Torre-Villalvazo, I., Tovar, A. R., Ramos-Barragán, V. E., Cerbón-Cervantes, M. A. & Torres, N.:Soy protein ameliorates metabolic abnormalities in liver and adipose tissue of rats fed a high fat diet. J. Nutr., 138: ,

第124回日本医学会シンポジウム

第124回日本医学会シンポジウム III γ γ γ α γ Molecular Mechanism of Insulin Resistance by Adipocytes TAKASHI KADOWAKI Department of Metabolic Diseases, Graduate School of Medicine, University of Tokyo Key words γ 110 124 TNFα FFA 1,2