原著論文日本生理人類学会誌 Vol.21,No , 作業効率と覚醒水準の逆 U 字関係から評価されたオフィスにおける適切な照明条件謝倩 * 1 魏思瑤 * 1 田中冴季 * 1 戸田直広 * 2 安河内朗 * 3 APPROPRIATE LIGHTING CONDIT

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かおりくぬぎ
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1 原著論文日本生理人類学会誌 Vol.21,No , 作業効率と覚醒水準の逆 U 字関係から評価されたオフィスにおける適切な照明条件謝倩 * 1 魏思瑤 * 1 田中冴季 * 1 戸田直広 * 2 安河内朗 * 3 APPROPRIATE LIGHTING CONDITIONS INOFFICES EVALUATED FROM THE RELATIONSHIP BETWEEN PERFORMANCE AND AROUSAL LEVEL Qian XIE, Siyao WEI, Saki TANAKA, Naohiro TODA, Akira YASUKOUCHI Abstract The aim of this study was to determine the appropriate lighting conditions in an assumed office environment considering work efficiency and multiple levels of arousal. Eight healthy male college students participated in this study. The experimental conditions were correlated color temperatures of 3000 K and 6700 K, and illuminance levels of 400 lx and 750 lx. Each set of conditions was tested in both the morning and afternoon periods, for a total of fourlighting conditions. Work efficiency was evaluated based on contingent negative variation (CNV) using reaction time and error rate, and evaluations considered arousal level as assessed by alpha wave ratio, average amplitude of the early CNV component, heart rate variability, and level of drowsiness. Based on our results, the recommended illuminance is 3000 K at 750 lx in the morning and 3000 K at 400 lx in the afternoon. キーワード : 照明, 覚醒水準, 作業効率, オフィス Key words: lighting, arousal level, performance, office 1. 序論 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災と同時に起こった原発事故により全国の電力供給不足が起こり節電の実施が迫られている節電を実施する方法の一つは照明器具の一部消灯や間引きである西尾 1) によると業務部門の照明を一時的に間引くことで照明電力の数十パーセントを削減できる可能性があると報告している一方で照度が下がると脳の覚醒水準も低下し眠気の増大やそれに伴う作業効率の低下が考えられまたそれに伴って作業時間が増加する可能性もあるまたヒトの概日リズムは特に自然光の時間的変化を手がかりとして形成される一般的なオフィスでは一日中色温度と照度は一定であることからヒトの概日リズムへの影響が懸念されているオ * 1 九州大学大学院芸術工学府 Graduate School of Design, Kyushu University * 2 パナソニック株式会社エコソリューションズ社 Eco Solutions Company, Panasonic Corporation * 3 九州大学大学院芸術工学研究院 Faculty of Design, Kyushu University フィスにおける最適な照明条件を求めるためには覚醒水準や生産性を評価し併せて概日リズムを配慮した作業時刻にも注目しなければならない覚醒水準については Olst and Orlebeke 2) による概念が知られているすなわちわれわれの行動そのものは覚醒水準で決まるものであり覚醒水準と作業効率との間には逆 U 字の関係がある Duffy 3) はこの場合の覚醒水準は生体組織が全体として賦活している程度であり生体を構成する複雑系機能の統合された賦活水準を意味すると提案した Sternbach 4) は覚醒の複雑系とは皮質視床下部網様体末梢の自律神経運動と感覚繊維循環するホルモンなどこれらのすべてが関連し継続的にお互いが影響を及ぼし合いお互いの出力と自身の出力を修飾しあっているというものであると主張した以上のことから覚醒水準の概念に中枢と末梢の区別をせずに本研究では生体の複雑系を代表する3 要素として中枢神経系自律神経系主観的眠気 (alertness ) を反映する指標をもって多角的に評価することにする本研究の中枢性の覚醒水準は持続的覚醒水準と相動的覚醒水準から評価した持続的覚醒水準は長期にわ 41

2 日本生理人類学会誌たる多数の刺激に対する反応の持続的水準であり相動的覚醒水準は特定の刺激の新奇性に対する反応である本研究ではオフィスを想定したとの作業において色温度と照度を組み合わせた照明条件が中枢神経系や自律神経系及び主観的眠気からなる覚醒水準に及ぼす影響を検討するこれよりの覚醒水準と作業効率との関係からとでオフィス空間にとって望ましいと考えられる照明条件を提案することを目的とするなおの実験実施時間は勤務開始直後の9:00 ~ 11:00としは退勤直前の 16:00 ~ 18:00 とした照明条件は JIS が推奨した 750lx と省エネに対応した 400lx とし色温度は非視覚的に特徴的な作用を及ぼすことが知られる昼光色 (6700K) と電球色 (3000K ) の2 条件とした 2. 方法 2.1. 被験者健康な男子大学生 8 名 ( 平均年齢 22.4 ±1.0 歳 ) を被験者とした被験者は喫煙者を除き実験開始前の三ヶ月以内に夜間アルバイト海外旅行をしていないものとしたまた事前に生活習慣質問用紙と朝型夜型質問紙 (MEQ テスト 5) ) に回答してもらい MEQ スコアが 42 点以上の夜型でない者を被験者とした被験者には実験の1 週間前から生活統制 (6:30に起床 23:30 に就寝 ) を義務付けたまた事前に実験内容を実験対象者に十分に説明し同意を得た実験日の前日と当日は生活リズムの位相を変化させてしまう恐れがあるためアルコールカフェインの摂取を禁止した本研究は九州大学大学院芸術工学研究院の倫理審査委員会の承認を受けた 2.3. 実験手順と測定項目実験プロトコルを図 1に示す実験はとについてそれぞれ独立して照明 4 条件を実施し合計 8 条件としたとの実験はそれぞれ2 時間とした本実験前に測定の繰り返しによる習熟効果を防ぐため予備実験を一回行った本実験では被験者を実験開始 40 分前に実験室に入室させ座位安静の状態で各センサーの装着を行った被験者一人につき実験は一日一回とした実験はともに一回につき被験者 2 名を同時に測定し一日に4 名の測定を行った各測定項目の測定時間を図 1に示す覚醒水準の評価は中枢神経系については持続的覚醒水準としてα 波率また相動的覚醒水準として随伴性院生変動 ( CNV) を測定した自律神経系については心拍変動 ( HRV ) からみた交感神経および副交感神経の活動主観的覚醒水準については眠気尺度 ( KSS) を測定した α 波率と心拍変動は一回の測定につき3 分間行い 1 実験につき3 回測定した CNV 課題は一回の測定につき 15 分間行い 1 実験につき3 回測定した実験前と実験後に眠気に関する主観評価を行った 2.4. 測定方法被験者の頭部に脳波電極を装着し Polymate AP1000 シリーズ ( デジテックス研究所社製 ) を使ってα 波率と CNV の測定を行った電極はすべて銀塩化銀電極を使用し国際法の電極配置に従って Fz Cz の位置で脳波を測定した両耳朶 ( A 1 A 2) を基準にして脳波を単極誘導したアースとリファレンスを前額部に装着した眼球運動に伴うアーチファクト混入を検出するため眼電図 ( electrooculogram:eog) を記録した電極抵抗値は5k Ω 以 2.2. 実験環境条件実験は, 九州大学大橋キャンパスの環境適応研究実験施設 NO.5 で行った室内温度 26 相対湿度 50% で一定とした照明は天井埋め込み型で市販の蛍光灯を使用した ( パナソニック社製 FHF-32EX-L-H パナソニック社製 FHF-32EX-D-H ) 照明条件は照度 750lx と 400lx 相関色温度 3000K と 6700K を組み合わせた4 条件であった相関色温度は2つのランプ (3000K と 6700K ) の切り替えとした照度は照度計を使いディスプレイがおかれている机上面で 400 ± 5lx と 750 ±5lx に設定した壁の色は薄い灰色の金属パネルで机は木製で白の天板を使用した実験室は約 20 平方メートルであった実験は 2013 年 8 月上旬から 11 月中旬にかけて行った図 1 実験のプロトコル ( HRV: 心拍変動 CNV: 随伴性陰性変動 KSS: 眠気尺度 ) 42

3 謝倩他 : 作業効率と覚醒水準の関係から評価されたオフィスにおける適切な照明条件下とした CNV は時定数を 3.0sec ローパスフィルタを 30Hz とした刺激提示は Multi Trigger System( メディカルトライシステムズ社製 ) を使って測定を行った刺激前 100msec の間の平均電位をベースラインとした被験者には安静座位の状態で, 卓上の PC ディスプレイ上に準備刺激 ( S 1: グレーの円 ) が表示された後命令刺激 (S 2) としてターゲット刺激もしくは非ターゲット刺激 ( 後述 ) が表示されターゲット刺激が表示された時のみスイッチを押してもらった準備刺激と命令刺激の提示時間を 100msec とし準備刺激の提示から命令刺激の提示までの時間は 2500msec とした刺激呈示は漢字と仮名の 2 種類の文字を用いて各々 3 パターンを作成し照明と時刻の 8 条件の各条件で漢字と仮名をそれぞれ刺激呈示したため実験は一人あたり 16 回となった各文字の刺激呈示においては 3 パターンをランダムに提示した CNV 課題におけるノンターゲットとターゲットの文字の命令刺激を図 2 に示す 1 回の測定では刺激呈示回数は 90 回となっておりこのうちターゲットは 60 回であった本研究は CNV パラダイムにおける準備刺激呈示後 msec を CNV 早期成分とし加算平均した波形から平均振幅を算出した ( 以下 CNV 振幅 ) EOG の電位が 150 μ V 以上の場合は加算から除外したなお CNV 課題で得られた反応時間と誤答率をオフィスにおける作業効率の評価対象とした α 波率は椅座安静状態の開眼時に測定した脳波から高速フーリエ変換により算出した α 波 (8~ 13Hz) パワーと β 波 (18 ~ 30Hz ) パワーから導いた時定数を 0.3sec ローパスフィルタを 30Hz とした心拍変動は心電図の R 波と R 波の時間間隔の変動により導かれるものでその R - R 間隔を高速フーリエ変換することで得られる低周波数成分 (LF: 0.05 ~ 0.20Hz ) と高周波数成分 ( HF:0.20 ~ 0.35Hz) より自律神経活動を評価することができる本研究ではこの手法を用いて心拍変動を評価した交感神経活動と副交感神経活動の指標としてはそれぞれ LF/ HF HF/( LF+HF ) を用いた電極 ( ニホンサンテク社製, M-00-sm ) はディスポーザブルタイプを用い図 2 命令刺激条件 ( 漢字と仮名それぞれについて 3 パターンの刺激対を示す ) 胸骨柄と肋骨下部の2 点に装着して測定を行った時定数は 1.5sec ローパスフィルタは 100Hz としサンプリング周波数は 1000Hz に設定した被験者は安静座位の状態で 3 分間卓上に設置された注視点を見続けた KSS(Kwansei-gakuin sleepiness scale) は SSS(Stanford Sleepiness Scale) の日本語版として Thurstone 法を用いて作成された自己評定尺度である 6) 被験者には現在の眠気状態についてアンケート形式で回答をしてもらった非常にはっきり目覚めている = 1 点目覚めている = 3 点どちらでもない = 5 点眠い = 7 点とても眠い ( 眠気と戦っている ) = 9 点として最も当てはまるスコアを選択してもらった KSS は眠気の内省的な指標として多くの研究で使われている 3. 結果 3.1. CNVパラダイムにおける選択反応課題 ( 反応時間誤答率 ) 本研究において反応時間及び誤答率はオフィスにおける作業効率として評価したいずれも照度相関色温度時刻の三元配置分散分析の結果有意な主効果交互作用ともにみられなかった 3.2. 覚醒水準について α 波率の結果について時刻相関色温度照度の三元配置分散分析を行った Fz におけるα 波率は時刻条件と照度の2 要因間に有意な交互作用が認められたが ( p<0.05) 下位検定の結果有意な差は見られなかったまた三要因間で有意な交互作用が認められたが ( p<0.05) 下位検定の結果有意な差は見られなかった Cz におけるα 波率について有意な主効果交互作用ともにみられなかった CNV 早期成分の平均振幅の結果について時刻相関色温度照度の三元配置分散分析を行った Fz における CNV 早期成分の平均振幅について 3 要因間で有意な交互作用が認められたが (p<0.05) 下位検定の結果有意な差はみられなかった Cz における CNV 早期成分の平均振幅について 3 要因間の有意な交互作用が認められ ( p<0.05) 下位検定の結果条件の照度 400lx において相関色温度 6700K の方が 3000K よりも有意に高い振幅を示した ( p<0.05)( 図 3) 心拍変動の結果について時刻相関色温度照度の三元配置分散分析を行った LF/HF について相関色温度と照度の2 要因間で有意な交互作用 ( p<0.05) が認められ下位検定の結果照度 750lx 条件において 43

4 日本生理人類学会誌図 3 Cz における CNV 振幅 : 条件の照度 400lx における相関色温度条件間比較 ( 平均値と標準偏差を示す ) 図 4 LF/HF: 照度 750lx における相関色温度条件間比較 ( 平均値と標準偏差を示す ) 図 5 相関色温度 6700K における時刻条件間比較 ( 平均値と標準偏差を示す ) 図 6 条件における相関色温度間比較 ( 平均値と標準偏差を示す ) 相関色温度 6700K の方が 3000K よりも有意に高い値を示した (p<0.05)( 図 4) HF/( LF+HF ) について有意な主効果交互作用ともにみられなかった眠気尺度 (KSS) について実験前後時刻相関色温度照度の四元配置分散分析を行ったその結果主効果では有意な差を認めず時刻と相関色温度の2 要因間に有意な交互作用が認められ (p <0.05) 下位検定の結果相関色温度 6700K 条件において条件に対してで眠気は低下を示し (p <0.01) 条件において相関色温度 3000K 条件に対して 6700K 条件で眠気は低下した ( p <0.05)( 図 5 6) 4. 考察本研究の目的はオフィスを想定した環境において中枢神経系自律神経系および主観的眠気からなる覚醒水準と作業効率に及ぼす照明の影響を検討することでとのそれぞれにおいてオフィス空間にとって望ましい色温度と照度からなる照明条件を提案することである覚醒水準の評価は中枢神経系については持続的 (α 波率 ) および相動的 (CNV 振幅 ) な覚醒水準自律神経系については心拍変動からみた交感神経および副交感神経活動水準主観的覚醒水準については眠気尺度 ( KSS) からそれぞれ検討する 4.1. オフィスの生産性からの照明評価オフィスを想定した作業効率については CNV 課題から得られた選択反応時間と誤答率を対象とする CNV 課題から照明を評価した Deguchi and Sato 7) の研究では相関色温度 3000K 5000K 7500K の条件において反応時間に有意な差はみられなかった岩切ら 8) の研究では相関色温度の高い条件において CNV 課題の反応時間の有意な遅延がみられたすなわち過去の研究では照明条件が生産性に及ぼす影響は異なる結果を示した本研究結果からは反応時間と誤答率のいずれについても各要因の主効果および要因間の特徴的な交互作用がみられなかったすなわち選択反応時間と誤答率に対して本研究で用いた照明条件はいずれも明確な影響の違いを示さなかった 4.2. 中枢神経系自律神経系および主観的眠気における覚醒水準からの照明評価本研究では中枢性の覚醒水準をα 波率と CNV 振幅から評価している過去の研究では Kuller ら 9) が照度 450lx と 1700lx 相関色温度 3000K と 5500K の組 44

5 謝倩他 : 作業効率と覚醒水準の関係から評価されたオフィスにおける適切な照明条件み合わせで9 時から 16 時まで照明条件に曝露しオフィスを想定した実験室にて脳波を測定しているその結果 5500K 下でβ 波率が大きく増大したことを報告している Deguchi and Sato 7) の結果では 1000lx の照度下で相関色温度 3000K 5000K 7500K の条件において 7500K のときが3000K のときよりも有意に覚醒水準が高くなることを示しているオドボール課 10) 題で評価した佐藤を含めて概して高色温度が覚醒水準を高める傾向を示している本研究では持続的覚醒水準指標のα 波率において照明条件の影響はみられなかったが相動的覚醒水準指標の CNV 振幅においての 400lx のもとで高い相関色温度条件が有意に高い結果を示した ( 図 3) 覚醒水準の高低を評価するうえで重要なのは作業効率とのかかわりであるつまり覚醒水準が高くなり同時に作業効率も向上すれば覚醒水準の上昇は生産性を上げるという意味をもつしかし覚醒水準が上昇しても作業効率の向上がみられなければその覚醒水準は必要以上に高いということになるここではこれを余分な緊張と定義する岩切ら 8) の研究では CNV 振幅からみた覚醒水準が色温度の高い方が低い条件より高くなり一方で相関色温度の高い条件において反応時間の有意な遅延がみられたこれは高相関色温度下で生じた余分な緊張の典型例といえる本研究では反応時間や誤答率に照明の影響がみられなかったことから中の 400lx の高色温度条件における覚醒水準の高さは本実験条件下においては作業効率を向上させなかったと判断される心拍変動からみた自律神経系への照明の影響についても過去の研究では高色温度において生理的緊張を高めている 11)12) 本研究でも照度 750lx 下でとの時刻にかかわらず 6700K のときの交感神経活動指標 (LF/HF ) が 3000K の時よりも有意に高くなっており ( 図 5) 過去の報告を追認している主観的な眠気 (KSS) においても本研究の結果からより KSS スコアが高くなるにおいても高相関色温度 6700K は低相関色温度 3000K よりもさらに KSS スコアを高めている ( 図 6) 以上のことを踏まえると本実験においては 6700K の高相関色温度条件は中枢神経系自律神経系および主観的眠気について覚醒水準を高める方向に作用するが作業効率を向上させるような効果は本実験条件下ではみられなかったといえるこのことからオフィスの適正な照明条件を考えるとき通常の作業においては昼光色より昼白色か電球色の照明がよいといえる Deguchi and Sato 7) の研究 10) と佐藤の研究では高色温度は低色温度より中枢系の覚醒を高める結果を得ている岩切ら 8) の実験では高色温度は低色温度より覚醒水準が高く一方で反応時間は遅いという結果であったこれまでの多くの研究では同じ照度で比較した場合高色温度は低色温度より覚醒水準は高いが作業効率は同じか低下を示し少なくとも高色温度条件の方が作業効率を高めるという結果は示されてないただし照度水準そのものが低くなる場合日中の活動性の低下や睡眠の質の悪化につながることが懸念されるため 400lx より低い照度については今後の検討が必要と思われるさらにとを含めた適切な照明条件の検討を進めるために覚醒水準に対する作業効率の関係に注目する Hebb 13) は作業効率は持続的覚醒水準の至適水準で最高となりそれよりも低すぎても高すぎても成績は落ちるという逆 U 字の関係を一つの概念として示している Kuller 14) はこの概念を環境評価に適用している逆 U 字の頂点を中心にすると左の相は覚醒水準が上がるほど作業効率も上がるが右の相は覚醒水準が上がるにしたがって逆に作業効率は低下する前述の定義からすると右の相は余分な緊張を示すことになるしたがって覚醒水準と作業効率の関係において少なくとも照明によって右相となる環境を招かないような条件を検討することが重要となるこの逆 U 字の評価にあたって本来なら横軸は持続的覚醒水準として本研究ではα 波率でなければならないが α 波率以外の CNV 振幅自律神経活動指標眠気指標についても拡大して検討を試みることにするまた逆 U 字の関係はひとつの概念であるためその左相か右相かの判断は覚醒水準指標と作業効率の相関関係が正であれば左相負であれば右相とするさらに相関関係がみられない場合測定された覚醒水準指標が至適水準付近に存在することが想定されるがこの場合作業効率である反応時間が最も速くなることを示すしかしながら本実験では照明条件で反応時間の差は認められなかったため反応時間と相関関係のない照明条件については評価の対象から外した 4.3. 逆 U 字を想定した覚醒水準に対する反応時間との関係からみた照明の評価 α 波率について照明条件を個別にみるとの 3000K の 750lx 条件およびの 3000K の 400lx 条件のみにおいてα 波率と反応時間の間に正の相関関係がみられた ( ;r=0.529, p<0.05 ;r=0.587, p<0.05)( 表 1) これは α 波率にみられる持続的覚醒水準が上昇するほど反応時間は速くなることを示しているこれらのとの照明条件ではそれぞれが逆 U 字において左相に位置づけられているといえるしかしながらこの照明条件における CNV 振幅 45

6 日本生理人類学会誌と反応時間の相関関係をみるとの3000K 750lx では両者の間に有意な相関関係はみられずまたの Fz の 3000K 400lx では有意であるがそれは負の相関関係を示していた ( 表 2) さらに心拍変動と CNV 振幅との相関関係ではの 3000K では照度条件にかかわらず LF/HF と CNV 振幅の間に負の相関関係 (Cz:r= , p<0.01 Fz:r = , p<0.01) があり HF/( LF+HF ) と CNV 振幅の間には正の相関関係 (Cz:r = 0.508, p<0.01 Fz:r = 0.446, p<0.05) があった ( 表 3) これは交感神経活動が高く副交感神経活動が低くなるほど CNV 振幅における覚醒水準も高くなることを示しているこれより相動的覚醒水準が増大するときは自律神経活動の緊張を伴い結果的に反応時間が遅れたと考えられるしたがってここでは反応時間の向上に対してはα 波率にみられる持続的覚醒水準の影響が大きいことが伺えるまたの 6700K の 400lx 条件において Cz および Fz の両部位で CNV 振幅と反応時間との間に有意な負の相関関係がみられ ( Cz:r=-0.552, p<0.05; Fz:r= , p<0.01)( 表 2) これもの Fz の 3000K 400lx 条件と同じように覚醒水準が上がれば反応時間は遅延する関係であるこのことからの 400lx における 3000K もしくは 6700K 条件では逆 U 字の右相に位置づけていると考えられるここで 6700K の 750lx で同じ結果にならなかったことについて疑問が生じるしかしながら Mukae and Sato 12) の研究で照度 ( lx) にかかわらず高色温度 (6000K) の覚醒水準が他の色温度条件 (3000K 5000K) より高くなることが示されしたがってここでは照度の違いよりもむしろ色温度が高いことに注目すべきであろう Tecce 15) は持続的覚醒水準に対する CNV 振幅の関係についても逆 U 字の関係に注目しており両者が負の相関関係になる右相の部分を注意散漫の相とみなしている本研究におけるα 波率と CNV 振幅の関係をみると Cz 部位のの 6700K 400 lx の照明条件で負の有意な相関関係 ( r=-0.263,p<0.05) がみられ Tecce の定義では注意散漫の相に位置することになる以上より特に集中力を必要とするような作業において余分な緊張を起こす過度の覚醒が生じないように高い色温度の使用は避けた方がよいと考えられるここまでの検討ではは 3000K の 750lx 表 1 α 波率と反応時間との間にみられる相関係数 NS * NS NS * NS NS NS 表 2 Cz および Fz における CNV 振幅と反応時間との間にみられる相関係数 Cz NS NS NS NS NS NS * NS Fz NS NS NS NS * NS ** NS LF/HF- CNV 振幅 (Cz ) LF/HF- CNV 振幅 (Fz ) HF/( LF+HF )- CNV 振幅 ( Cz) HF/( LF+HF )- CNV 振幅 ( Fz ) 表 3 心拍変動と Cz および Fz における CNV 振幅との間にみられる相関係数 NS NS ** NS NS NS ** NS NS NS ** NS NS NS * NS 46

7 謝倩他 : 作業効率と覚醒水準の関係から評価されたオフィスにおける適切な照明条件は 3000K の 400lx が逆 U 字の右相に相当しないことまた持続的覚醒水準が反応時間の短縮に貢献しているという観点から照明環境として適切な条件であるといえる心拍変動による交感神経活動指標 ( LF/HF ) および副交感神経活動指標 (HF/( LF+HF )) と反応時間との関係について各照明条件で有意な相関関係はみられなかったしかしながら LF/HF と HF/( LF+HF ) はいずれもの3000K 下の二つの照度条件から得られたデータを用いると有意な相関関係 ( LF/HF ;r=0.384, p<0.05 HF/( LF+HF );r=-0.488, p<0.05) がみられ交感神経活動が高くなるほど副交感神経活動が低くなるほど反応時間は遅くなることを示した ( 表 4) このの 3000K の条件では自律神経活動にみる覚醒水準と作業効率との関係から逆 U 字の右相に位置しているといえる先のα 波率からの評価では 3000K の 400lx がの適切な照明条件として推奨されたが心拍変動から評価すると相反する結果となったしかしながらこのα 波率と心拍変動との関係をみると Cz と Fz の両部位においての3000K 下の二つの照度条件から得られたデータを用いると有意な相関関係 ( Cz:LF/HF ; r=0.426, p<0.05 HF/( LF+HF );r=-0.431, p<0.05 Fz:LF/HF ;r=0.424, p<0.05 HF/( LF+HF );r=-0.389, p<0.05) がみられた ( 表 5) ただしこの関係は CNV 振幅の場合とは逆にα 波率からみた覚醒水準が高くなるほど交感神経活動は低く副交感神経活動は高くなることを示しているこのことは持続的覚醒水準が増大するときは自律神経系活動の緊張を伴わないことを示しているこのことがの 3000K 条件下において持続的覚醒水準が上昇するときは反応時間を速めることにつながっていると思われるしたがっての照明環境としての 3000K の 400lx の推奨は妥当と思われる一方で主観的覚醒水準としての眠気 (KSS) から評価するととのそれぞれ 6700K の400lx の照明条件において反応時間との間に正の有意な相関関係を示した ( 表 6) 逆 U 字の左相に位置する KSS の分散分析の結果では 6700K では照度にかかわらずの眠気が中立 (KSS =5.23) であるのに対しての方がより目覚める方向 (KSS =4.21) を示した ( 図 5) したがっての高色温度条件はオフィスの昼食表 4 心拍変動と反応時間との間にみられる相関係数 LF/HF NS NS * NS HF/( LF+HF ) * * * NS LF/HF- α 波率 ( Cz ) LF/HF- α 波率 ( Fz ) HF/(LF+HF )-α 波率 ( Cz ) HF/(LF+HF )-α 波率 ( Fz ) 表 5 Cz および Fz における α 波率と心拍変動の間にみられる相関係数 NS NS * NS NS NS * NS NS NS * NS NS NS * NS 表 6 作業開始前における眠気尺度と反応時間との間にみられる相関係数 NS NS ** NS NS NS * NS 47

8 日本生理人類学会誌後の眠気が増す作業時もしくは単調性の作業時に有効となる可能性がある測定項目ごとに各照明条件が右相左相のいずれであったかを一覧表として示す ( 表 7) これまでの考察を踏まえてオフィスの照明環境としては 3000K の 750lx は 3000K の 400lx が推奨された本実験の条件は 16 時から 18 時の結果であることを考慮するとの昼食後の眠気を増しがちな1 時間程度は心拍変動や KSS の結果 ( 図 4 6) から高色温度条件の推奨が考えられるまた安河内ら 16) の研究において 6000K の 750lx 条件においては他の照明条件に比べてポストランチディップが観察されていないことから昼食後の照度については 750lx が今後の検討条件になるだろう本研究では概日リズムへ及ぼす照明の影響を直接反映する客観的資料は測定していないこれまでの研究においてはの早い時間帯の光曝露は概日リズムの位相を早める作用が指摘されこの作用へは高色温度高照度の条件がより効果的であることが報告されている 17)18)19) さらに安河内ら 16) の研究ではメラトニン分泌増大開始時刻の計測から中の照明として 6000K の 750lx の条件が 5000K の 400lx 条件より有意にリズム位相を前進させることを示しているこれらのことから本研究で想定する勤務開始時刻の9 時から1 時間程度は 6700K の 750lx の条件が推奨される可能性が残されているなおにおける 6700K の 750lx 条件は本研究で得られた測定値から少なくとも逆 U 字の右相を示していない 5. 結論オフィスワークの時間を9:00から 18:00までと想定すると本研究の照明と作業の条件下において 09:00-11: K,750lx 16:00-18: K,400lx がオフィスにおいて適切な照明環境条件であると提案するしかしながら概日リズムへの配慮を考えた場合はの高色温度の活用方法を検討する必要があるまたこれらの照明条件はオフィス作業の内容や特性によって変わり得るものであり他の時間帯も含めて今後の更なる研究が待たれる謝辞この研究の一部は科学研究費補助金基盤研究 ( A ) ( ) の助成を受けて実施された引用文献 1) 西尾健一郎. 緊急節電対策としての一時的な照明間引き. 電力中央研究所研ディスカッションペーパー,SERC11003, )van Olst EH, Orlebeke JF. An analysis of the concept of arousal. Ned Tijdschr Psychol, 22: , )Duffy E. The nature and development of the concept of activation. Current research in motivation, , )Sternbach RA. Principles of psychophysiology. Academic Press, New York, ) 石原金由, 宮下彰夫, 犬上牧, 福田一彦, 山崎勝男, 宮田洋. 日本語版朝型 - 夜型 (Morningness- Eveningness) 質問紙による調査結果. 心理学研究, 57: 87-91, ) 石原金由, 齋藤敬, 宮田洋. 眠気の尺度とその実験的検討. 心理学研究,52: , )Deguchi T, Sato M. The effect of color temperature of lighting sources on mental activity level. Ann Physiol Anthropol, 11: 37-43, ) 岩切一幸, 安河内朗. 光源の色温度と演色性が覚醒水準に及ぼす影響. 日本生理人類学会誌,2: , )Kuller R, Wetterberg L. Melatonin, cortisol, EEG and subjective comfort in healthy humans: Impact of two fluorescent lamp types at two light intensities. Lighting Res Technol, 25: 71-80, ) 佐藤方彦. 快適な室内照明の研究 - 室内気候の影響も含めて. 住宅総合研究財団研究年報,20: , 1993 表 7 各照明条件が右相左相のいずれに位置する 400lux 750lux 400lux 750lux 400lux 750lux 400lux 750lux α 波率左相左相 CNV 振幅右相心拍変動右相右相 KSS 左相左相 48

9 謝倩他 : 作業効率と覚醒水準の関係から評価されたオフィスにおける適切な照明条件 11)Kobayasi H, Sato M. Physiological responses to illuminance and color temperature of lighting. Ann Physiol Anthropol, 11: 45-49, )Mukae H, Sato M. The effect of color temperature of lighting sources on autonomic nervous functions. Ann Physiol Anthropol, 11: , )Hebb D. The organization of behavior. Wiley: New York, )Kuller R. Environmental assessment from a neuropsychological perspective. Environmental Cognition and Action, Oxford University Press, , )Tecce J. Contingent negative variation (CNV) and psychological processes in man. Psychol Bull, 77: , ) 安河内朗, 南瓊, 戸田直宏, 野口公喜. 日中の照度色温度可変照明制御がパフォーマンスおよびサーカディアンリズムに及ぼす影響. 第 45 回照明学会全国大会講演論文集,8-40, )Zisapel N. Circadian rhythm sleep disorders: pathophysiology and potential approaches to management. CNS Drugs, 15: , )Khalsa SBS, Jewett ME, Czeisler CA. A phase response curve to single bright light pulses in human subjects. J Physiol, 549: , )Vetter C, Juda M, Lang D, Wojtysiak A, Roenneberg T. Blue-enriched office light competes with natural light as a zeitgeber. Scand J Work Environ Health, , 2011 連絡先謝倩福岡県福岡市南区塩原 xieqian860919@gmail.com (2015 年 9 月 14 日受付,2016 年 4 月 18 日採用決定, 討論受付期限 2017 年 5 月末日 ) 49

スライド 1

スライド 1 2014 年度空気調和衛生工学会大会知的生産性 Ⅱ 1 オフィスサポート空間の光視環境が自律神経を介して執務者の疲労眠気作業効率に与える影響慶應義塾大学小川聡慶應義塾大学伊香賀俊治大成建設市原真希大成建設張本和芳慶應義塾大学青木世奈背景 : 知識創造向上に向けたオフィスづくりの動向オフィスにおける執務者の知的生産性向上の重要性文 1 アイディア創出の知識創造を高める建築空間が必要文 2

原著論文 日本生理人類学会誌 Vol.21,No , 作業効率と覚醒水準の逆 U 字関係から評価されたオフィスにおける適切な照明条件 謝倩 * 1 魏思瑤 * 1 田中冴季 * 1 戸田直広 * 2 安河内朗 * 3 APPROPRIATE LIGHTING CONDIT

原著論文日本生理人類学会誌 Vol.21,No , 作業効率と覚醒水準の逆 U 字関係から評価されたオフィスにおける適切な照明条件謝倩 * 1 魏思瑤 * 1 田中冴季 * 1 戸田直広 * 2 安河内朗 * 3 APPROPRIATE LIGHTING CONDIT