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第6号-2/8)最前線(大矢)

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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スライド 1

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ


ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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上原記念生命科学財団研究報告集, 22(2008) 113. アテローム動脈硬化に関与する単球 / マクロファージ特異的 microrna 群の同定 深尾太郎 Key words: 動脈硬化,microRNA, マクロファージ, 炎症, マウス * 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 緒言動脈硬化は, 先進国における死因群の主たる原因となる重大な疾患である. 加齢や生活習慣がその発症や程度に大きく関わることから, 加齢性生活習慣病として位置づけられ, 高齢化が進む先進国では, その病態生理の理解と予防, さらに治療法が高齢者の生活の質 (QOL) の維持, 向上に不可欠であると認識されている. 冠動脈などにおこる動脈硬化の多くはアテローム動脈硬化といい, コレステロール等の動脈壁内側への沈着物 ( アテローム ) によりおこるものである. 現在までは, 高脂血症などの病態関与が注目されてきたが, 最近ではアテローム形成に慢性的な炎症反応が不可欠であることがわかってきた.miRNAs は,19-24bp( 個 ) の非常に短い RNA であり, 現在約 500 種類が報告されている. その配列は種を超えて広く共通しており, 進化の過程で保存された重要な働きを持っていると推察される. 現在, 線虫やショウジョウバエ, マウス等の一部の哺乳類で, いくつかの mirna が発生や分化の過程で不可欠であることがわかってきている. 本研究により我々は, マクロファージに特異的に発現する mirna 群を同定し, その発現制御と標的の解析も行った. 興味深いことに, マクロファージに発現される mirna が数十個存在することをつきとめ, これらの mirna 群のいくつかが, アテローム形成に関与する分子を標的とすることも明らかにした. これらの結果は現在論文投稿準備中であるが, アテローム形成において mirna がその病理メカニズムに関与している可能性を示した点で意義深いと思われる. 本研究結果は, 今後のアテローム動脈硬化に対する治療戦略にも大きく貢献すると思われる. 方法 1. マクロファージに発現する microrna 群の同定 micron を検出する micro array を用い, マウス骨髄細胞から M-CSF によって誘導されたマクロファージ内に発現する micron を同定した. 培養誘導したマクロファージより,Ambion 社製の mirvana RNA isolation kit を用いて small RNA の分画を抽出, それを micro array 解析した.Micro array は agilent 社製のカスタム array chip を用いた. 2. マクロファージ特異的 microrna の同定 micro array の結果から, 現在報告されている文献等を参考にし, 発現強度の強い microrna の中で, マクロファージに特に強く発現している microrna を選定した. また, 様々な組織および細胞種の検体内での当該 microrna の発現を RT- PCR-based detection method(ambion) によって検討した. 3. マクロファージ特異的 microrna の標的予測マクロファージ特異的 microrna について, その標的予測を,miRanda program を用いて行った. マウスの全転写産物 (transcripts) に対し, 実施し, その target score の高いものを選定した. また, その標的が, 実際当該 microrna により制御されているかを, 当該 microrna の強制発現と, 標的遺伝子の発現量変化を検討することで確認した. * 現所属 : 慶応義塾大学医学部熱帯医学寄生虫学教室 1

4. 遺伝子導入マウスの作成今までの研究で, 成熟した mirna の効果はその発現量に比例することがわかっている. 同時に, この発現量は, 前駆体から成熟 mirna までのプロセッシング経路にある Exportin-5 を強制発現することで劇的に上昇することがわかっている. ゆえにこの分子を, 単球 / マクロファージ内でのみ過剰発現できるようなプロモーターを用いてトランスジェニックマウスを作成する計画を立てた. マウス CD11b promoter 下流にマウス Exportin-5 cdna を挿入した遺伝子改変ベクターを通常の分子生物学的手法を用いて作成した. 1. マクロファージに発現する microrna 群の同定 結果 micro array の結果, マウス骨髄由来マクロファージに強く発現する microrna を同定した ( 表 1). 表 1. マクロファージに発現する micrornas. array 解析におけるシグナル値が有為なものをまとめた. 2. マクロファージ特異的 microrna の同定表 1の microrna のうち, マクロファージを含む骨髄系細胞 (myeloid cells) に比較的特異的に発現しているものとして, microrna-223 を同定した. また, この microrna の発現を様々な組織, および細胞内で検討し, その特異性を確認した ( 図 1). 2

図 1. microrna-223 の発現パターン. 骨髄 マクロファージおよび樹状細胞で強い発現を認める 3. マクロファージ特異的 microrna の標的予測 microrna-223 の標的遺伝子を miranda program を用いて予測し, そのうち特に相補度の高いものを図 2の如く選定した. さらに,microRNA-223 をマクロファージ系細胞株 (RAW264.7) 内で強制発現し, 予測された標的遺伝子の発現変化を real-time RT-PCR で定量したところ,Lrp4(low density lipoprotein receptor-related protein 4) と Tnfrsf10b(Tumor necrosis factor receptor superfamily 10b) の発現が有為に抑制された ( 図 2,3). 現在のところ, 様々な遺伝子が,microRNA により直接その転写産物量の抑制を受けることが知られているので, これらの結果は,Lrp4 と Tnfrsf10b が microrna-223 により発現制御を受けている可能性を示唆する. さらに,Lrp4 は,LDL の取り込みに関与しており, 直接アテローム形成におけるマクロファージの機能発現と関わっている可能性がある. 総じて, マクロファージに強く発現する microrna-223 が LDL の代謝ひいては, アテローム形成に関与しうることを示唆している. 3

図 2. microrna-223 の標的候補. 相補配列は実線, G-U ウブルは : で示している. 4

図 3. microrna-223 の標的制御. microrna-223 の発現ベクターを構築, RAW264.7 細胞に恒常発現させ, 細胞内の各々の遺伝子発現レベルを, Taqman-RT-PCR にて定量した. Lrp4 および Tnfrsf10b の抑制が確認された. 4. 遺伝子導入マウスの作成 現時点で, マウス Exportin-5 のクローニングを経た遺伝子改変ベクターの作成が終了した段階である. これより, 遺伝子改 変ベクターから導入遺伝子を切り出し, マウスの受精卵へと導入, トランスジェニックマウスの作製を経て, その解析へと移る. 考察 マクロファージに強く発現する microrna-223 がアテローム形成に関与しうる結果を得たことから, 今後, この microrna が 生体内で実際どのようにアテローム形成に関与しているかを検討する必要がある. また, 本研究で計画した遺伝子導入マウス の完成を急ぎ, マクロファージに発現する microrna とアテローム形成の関与を in vivo で解析しなくてはならない. 文献 1) Bartel, D.P. MicroRNAs: genomics, biogenesis, mechanism, and function. Cell, 116: 281-297(2004). 2) Kim, V.N. MicroRNA biogenesis: coordinated cropping and dicing. Nat. Rev. Mol. Cell. Biol., 6: 376-385(2005). 3) Lim, L.P., Lau, N.C., Garrett-Engele, P., Grimson, A., Schelter, J.M., Castle, J., Bartel, D.P., Linsley, P.S. & Johnson, J.M. Microarray analysis shows that some micrornas downregulate large numbers of target mrnas. Nature, 433: 769-773(2005). 5