59 2. 病期分類による放射線療法の適応腫瘍の切除範囲を定義した Simpson grade 分類とその再発率を表 2 に示す 1) 術後照 射では, 残存腫瘍や未処置におわった硬膜付着部に対しての照射が考慮される 通常分割外照射による術後照射は, 腫瘍増殖の抑制に有効であり, 生存期間の延長をも

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81 画像で詳細に検討した結果の T1,T2 病変では下垂体を遮蔽した照射野でも腫瘍制御の差は認めず, また神経内分泌障害を認めなかったとして, 縮小照射野を推奨しているランダム化比較試験の報告もある 3) 40 50Gy 以降原発腫瘍と腫大リンパ節を含んで皮膚面上で重ねる GTV(=CTV) とす

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Transcription:

58 Ⅷ. 髄膜腫 1. 放射線療法の目的 意義髄膜腫は, くも膜細胞から発生する腫瘍で, 硬膜に付着しゆっくり発育する ほとんどが, 組織学的悪性度分類であるWHO grading system(2000 年 ) 上の gradeⅠに相当する 良性 髄膜腫であるが, 浸潤性発育を示したり再発のリスクの高いグループとしてatypical meningioma( 髄膜腫全体の4.7~7.2% の頻度 :gradeⅡ) やanaplastic meningioma(1.0~2.8 % の頻度 :gradeⅢ) などが区別されている ( 表 1) 髄膜腫の放射線感受性は低く, 通常は良性腫瘍であるので, その治療の基本は, 腫瘍を完全に摘出することである しかし, 往々にして, 髄膜腫に対する全摘術は困難であり, 局所での再発 再増大が問題となる 放射線治療については, 局所再燃を予防する手段としての術後照射や, 高齢や全身状態などにより手術がハイリスクである症例や開頭手術を希望しない症例などで手術の代替手段としておこなわれる定位放射線照射 ( stereotactic irradiation:sti ) の適応がある 表 1.WHO grading system による髄膜腫の組織学的悪性度 再発のリスクあるいは浸潤傾向の低い髄膜腫 meningothelial, fibrous(fibroblastic), transitional(mixed), psammo matous, angiomatous, microcystic, secretary, lymphoplasmacyte-rich, metaplastic WHO gradeⅠ 再発のリスクあるいは浸潤傾向の高い髄膜腫 atypical, clear cell, chordoid WHO gradeⅡ rhabdoid, papillary, anaplastic WHO gradeⅢ 組織亜型/gradeにかかわらず, 増殖指数が高いものや脳実質へ浸潤するもの 表 2.Simpson grade 分類による腫瘍の切除範囲とその再発率 Grade 切除範囲 再発率 Ⅰ 腫瘍の肉眼的全摘出に加えて, 硬膜付着部および異常骨を切除 9% Ⅱ 腫瘍の肉眼的全摘出に加えて, 硬膜付着部を電気凝固したもの 19% Ⅲ 腫瘍の肉眼的全摘出を行ったが, 硬膜付着部や硬膜外進展部 ( 骨を 含む ) に何の処置も加えなかったもの 29% Ⅳ 腫瘍部分切除 44% Ⅴ 腫瘍生検と減圧手術 ( 腫瘍生検を行っていなくても良い )

59 2. 病期分類による放射線療法の適応腫瘍の切除範囲を定義した Simpson grade 分類とその再発率を表 2 に示す 1) 術後照 射では, 残存腫瘍や未処置におわった硬膜付着部に対しての照射が考慮される 通常分割外照射による術後照射は, 腫瘍増殖の抑制に有効であり, 生存期間の延長をもたらす 2, 3) と考えられる反面, 放射線脳壊死や誘発腫瘍の発生, 部位によっては放射線による視神経障害や下垂体機能低下などが問題となるため 4), 良性髄膜腫に対しては控えられる傾向がある 但し,atypical meningioma や anaplastic meningioma などでは, 基本的に術後照射が必要である 5) 一方,STIは, 手術の代替手段として, あるいは良性髄膜腫遺残時などの術後照射としても適用される STIといえども髄膜腫の腫瘍制御には難渋する 頭蓋底部髄膜腫は周囲との関係によりSimpson gradeⅠ 切除を目指すことがしばしば困難でありSTIが適用される頻度が高いのに対し, テント上髄膜腫は照射により静脈循環が障害され著明な脳浮腫をきたすことが多いため STIの適応となりにくい 3. 放射線治療計画 1) 標的体積 GTV: 造影 CTやMRIで同定される病変をGTVとする 術後照射の場合, 術前の硬膜付着部や脳実質への浸潤部などもGTVとする CTV: 通常分割外照射の場合は,GTVに1.0 2.0cmマージンを加える STIの場合は, GTVと同様である PTV: 通常分割外照射の場合は,CTVに0.5 1.0cmマージンを加える STIの場合は, CTVに対してどの程度のマージンをとるかは施設ごとの判断である 定位手術的照射 (stereotactic radiosurgery:srs) の場合はCTVに 1 mmのマージン, 定位的放射線治療 (stereotactic radiotherapy:srt) の場合にはCTVに 2 ~ 3 mmのマージンをつけることが多い 2) 照射法および線量分割通常分割外照射 ( 三次元治療計画による術後照射 ): 三次元治療計画により, ウエッジやmulti leaf collimator( または遮蔽ブロック ) を駆使し, 多門照射による良好な線量分布を追及することが基本となる 1.8 2.0Gy/fr. で総線量 45 60Gy( 中間値 54.0Gy 程度 ) が一般的である また, 悪性髄膜腫 (atypical, anplasticなど ) では, 良性髄膜腫に対して, より高線量 ( 悪性 60Gyに対して, 良性 54Gy) の術後照射を推奨する報告がある SRS: ガンマナイフによる場合,PTV 辺縁線量として 11.0~18.0Gyの報告が多い 実際には近接する視神経への線量制約 ( 最大線量で 8 ~10Gy 以下とする ) のために制限されることが多いが, 腫瘍には辺縁線量 14~18Gyを目指したい 14Gy 以上の照射で良好な局所制御が得られるという報告がある

60 SRT: アイソセンターへの処方線量として,57.6Gy/32fr.(45~68 Gy:daily 1.8Gy/ fr.) や52.0Gy/26fr.(50~56 Gy:daily 2.0Gy/fr.) を投与し,PTV 全体をその 95% 線量でカバーする, などの報告があるが, 少ない分割回数を用いた場合の最適な線量分割方法についてはまだ明らかにされていない 3) 併用療法放射線低感受性で腫瘍制御に難渋する腫瘍である 海綿静脈洞髄膜腫に対する洞外の腫瘍や, 鞍結節から鞍上部髄膜腫などでの視神経に近接する腫瘍の減量を目的とした手術も積極的に考慮し,STIにより, 強く小さく安全に照射したい 4. 標準的な治療成績通常分割外照射 ( 三次元治療計画 ): 非全摘症例に対する術後照射の有効性を示唆する報告は,1960~1990 年代の20 年以上の症例集積によるretrospectiveな検討である Florida 大からの報告では 2), 手術単独治療 ( 全摘 :Simpson gradeⅢ まで ) 群 174 例, 手術単独治療 ( 亜全摘 :Simpson grade Ⅳ 以下 ) 群 55 例, 亜全摘術 + 術後放射線治療併用群 21 例の15 年局所制御率は76% 30% 87% とされている UCSFからの報告では 3), 亜全摘された髄膜腫 140 例 (23 例のmalignant meningioma 含む ) の術後照射について, 良性 悪性髄膜腫の 5 年 progression free survival(pfs) を89% 48% としている 術後照射の線量については, 良性病変では52.0Gyより高線量群 (10 年 PFS 93% vs 65%) が, 悪性病変では 53.0Gyより高線量群 ( 5 年 PFS 63% vs 17%) が, 低線量群に対して局所制御が良好であったことから, 良性 悪性髄膜腫に対して, 各々 54Gy 60Gyの術後照射を推奨している SRS 6, 7) : 5 年局所制御率 90% 前後の腫瘍制御の報告が多いが, 腫瘍縮小効果は30~ 60% 程度にとどまる また, 組織悪性度に伴うbenign atypical maliganat meningioma の 5 年局所制御率の低下 (93% 68% 0%) も示されている 一方, 体積 7.4(0.6~23.5), 平均直径として2.4(1.0~3.5) cmの大きさまでの髄膜腫であればptv 辺縁へ17.7Gy( 平均値 ) 投与した場合の3 7 年 progression free survival が100% 95% であり, 同じ対象の手術例 (Simpson gradeⅠ 切除 ) と同等の成績が得られるとの報告もある 8) SRT: 限られた施設での比較的短い観察期間での成績に限られるが,SRSと同様, 初回治療あるいは術後遺残病変についての効果として, 腫瘍縮小 22.7% 不変 70.4% 増大 6.9%( 症例数 317 中間観察期間 5.7 年 ) や 9), 4 年局所無再発生存率 93%( 症例数 30 中間観察期間 50ヵ月 ) などの報告がある 10)

61 5. 合併症急性期合併症, あるいは通常分割外照射による合併症は他項を参照されたい また, 通常分割で行われる範囲ではSRTの合併症は通常分割外照射に準じる ここではSRS においての晩期合併症 (SRS 後数ヵ月で生じる神経症や脳浮腫を含む ) について述べる 頭蓋底髄膜腫のSRSにおいて 11), 感覚神経は放射線への耐容性が低いため, 視神経や三叉神経, 蝸牛 前庭神経などの障害が問題となる 視神経に対しては,SRS 線量を8.0~10.0Gy 以下に抑える 三叉神経症は,Meckel's caveへの19gy 以上の照射で発生頻度が増すといわれる 海面静脈洞内の運動神経 ( 第 3 4 6 脳神経 ) は, 放射線に対する耐容性が比較的高いとされるが, 海綿静脈洞内の脳神経のclear cutな耐容線量は, 運動神経を含め明らかでない 髄膜腫に対するSRSでは, 腫瘍制御そのものに難渋するため, このような脳神経に対する線量制限は聴神経鞘腫に対するSRSの場合に比べて緩やかである 各症例で, 腫瘍制御と脳神経症のリスクの両面から治療計画の検討が必要である また,SRS 25Gy 以上の照射部での内頸動脈の閉塞 狭搾も報告されている 脳浮腫は, テント上髄膜腫にSRSを行った場合に問題となることが多い その機序は, 頭蓋底髄膜腫に比べて, 接する脳実質が大きいこと,SRSにより静脈循環が障害されること, などが考えられている テント上髄膜腫に対しては, 手術を第一選択とし, 少なくともSRSは小さな病変に限るべきである 6. 参考文献 1)Simpson D. The recurrence of intracranial meningiomas after surgical treatment. J Neurol Neurosurg Psychiatry 20 : 22-39, 1957. 2)Goldsmith BJ, Wara WM, Wilson CB, et al. Postoperative irradiation for subtotally resected meningiomas. A retrospective analysis of 140 patients treated from 1967 to 1990. J Neurosurg 80 : 195-201, 1994. 3)Condra KS, Buatti JM, Mendenhall WM, et al. Benign meningiomas : primary treatment selection affects survival. Int J Radiat Oncol Biol Phys 39 : 427-436, 1997. 4)Al-Mefty O, Kersh JE, Routh A, et al. The long-term side effects of radiation therapy for benign brain tumors in adults. J Neurosurg 73 : 502-512. 1990. 5)Modha A, Gutin PH. Diagnosis and treatment of atypical and anaplasticx meningiomas : A review. Neurosurgery 57 : 538-550, 2005. 6)Lee JY, Niranjan A, McInerney J, et al. Stereotactic radiosurgery providing longterm tumor control of cavernous sinus meningiomas. J Neurosurg 97 : 65-72, 2002. 7)Iwai Y, Yamanaka K, Ishiguro T, et al. Gamma knife radiosurgery for the treatment of cavernous sinus meningiomas. Neurosurgery 52 : 517-524, 2003. 8)Pollock BE, Stafford SL, Utter A, et al. Stereotactic radiosurgery provides

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