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Transcription:

いのち のプロジェクト ~ CPR 教育の試み ~ 91 資料 調査 いのち のプロジェクト ~ CPR 教育の試み ~ 小峯力, 小粥 智浩, 稲垣裕美 A project of life The trial by the education of CPR Tsutomu KOMINE, Tomohiro OGAI, Yuumi INAGAKI キーワード : 心肺蘇生法 (CPR) 胸骨圧迫 一次救命教育 Keywords: CPR, extracorporeal circulation, the education of BLS 1. はじめに 我々は, 救命 トレーナーの視点からBLS (Basic Life Support) への試みを中心に, 体育 スポーツ系大学におけるLifesaving 教育の体系化の重要性について検討してきた 1) その中で, もっとも重視されるべきことは, いのち の教育であり, 体育 スポーツ活動中においては, 外傷 障害の管理以上に, いのち の安全管理である そのためには, 緊急事態に至らぬよう, 安全予防対策が重要であることは自明である しかしながら, もし何かが起きてしまった際には, いのち を救うために, 一次救命処置である心肺蘇生法 (CPR) ができること, ドクターなどの医療従事者だけでなく, トレーナーはもちろん, コーチや選手が, もしくは親族が, 何かが起きてしまったときに, 勇気をもってCPRを実践できることが不可欠な要素である カーラーの生命曲線においては, 心 停止から時間経過とともに死亡率が高まり, 心停止が発生した場合, 3 分後死亡率が50% に達することが示されている 2) それに対して, 通報から救急車が到着するまでの所要時間は, 平均 6 分半, 近年では 7 分ともいわれている そのような状況下で, 万一緊急事態が起きた際には, バイスタンダー ( そばに立っている者 ) が, 迅速かつ正確にCPRを行うことが, 生存率を高め, いのち の保障にもつながる そこで, 本研究は安全なスポーツ活動のための環境づくりの一環として, スポーツ活動中において, バイスタンダーでもある, 女子マネージャーなど, スポーツ現場でのサポート活動を行っている学生にCPRの習熟度の実態調査と, それらの学生に対するトレーニングプログラム作成の基礎資料を得ることを目的とした

92 2. 方法 3. 結果 スポーツ現場のサポート活動を行っており, 心肺蘇生法講習の受講経験のある学生 ₈ 名を対象とした 1 時間の講習会前後で,CPR( 人工呼吸と胸骨圧迫 ) の正確性を計測した また 1 週間後 ( 5 名 ), 2 週間後 ( 3 名 ) に再度計測を行った CPRマネキンとスキルレポーター (Leardal 社製 ) を用いて計測した 講習前では50.8±30.2% であるのに対して, 講習会後は60.6±28.6% であった 1 週間後は, 71.2±21.8%, 2 週間後は41.3±40.1% を示した 講習会前では57.5±40.1% であったのに対して, 講習会後 94.6±8.9% であった 1 週間後は, 94.8±7.0%, 2 週間後は,67.7±50.8% を示した 表 ₁ 人工呼吸の正確率 表 ₂ 胸骨圧迫の正確率 図 ₁ 講習会前後での正確率の変化 ( 人工呼吸 )

いのち のプロジェクト ~ CPR 教育の試み ~ 93 図 ₂ 講習会前後での正確率の変化 ( 胸骨圧迫 ) 図 ₃ 講習会 1 週間後の正確率の変化 ( 人工呼吸 ) 図 ₄ 講習会 ₁ 週間後の正確率の変化 ( 胸骨圧迫 )

94 図 ₅ 講習会 ₂ 週間後の正確率の変化 ( 人工呼吸 ) 図 ₆ 講習会 ₂ 週間後の正確率の変化 ( 胸骨圧迫 ) ₄. 考察 講習会前の正確率の平均値は, 人工呼吸, 胸骨圧迫ともに,50% 台を示し, 心肺蘇生法の講習会経験がある者 ( 多くは自動車学校での心肺蘇生法の経験 ) であっても, 適切な技術習得が なされていない, またはある期間が空くと適切な方法を忘れてしまっていることが推察された 講習会後の正確率の平均値は, 人工呼吸 60.6 ±28.6%, 胸骨圧迫 94.6±8.9 % を示した 約 1 時間の講習において, 人工呼吸の改善度は, 10% 程度であったのに対して, 胸骨圧迫に関しては, 全員が80% 以上の正確率を示し, 大きな改善率を示したことは, 短時間の講習会におい

いのち のプロジェクト ~ CPR 教育の試み ~ 95 ても胸骨圧迫の正確な方法を習得できる可能性が示唆された 講習会終了 1 週間後においては, 人工呼吸の正確率は71.2±21.8% を示し, 胸骨圧迫では, 94.8±7.0% を示した 人工呼吸においては, 平均値では改善がみられるものの, データのばらつきが大きく, 統一した傾向はみられなかった 胸骨圧迫では高い正確率を示し, ばらつきも小さいことから, トレーニング効果が 1 週間は継続されることが示唆された 2 週間後においては, 人工呼吸では,41.3± 40.1% を示し, 胸骨圧迫では,67.7±50.8% を示した 両者において, データの低下率が大きく, トレーニング効果の継続性は維持されないこと が推察された しかしながら, 特に低下率の大きかった 1 名に対して,15 分間のトレーニングを行い, 再度計測をしたところ, 人工呼吸においては20%, 胸骨圧迫に関しては,100% の正確率を示した それらを考慮したうえで, 2 週間後の正確率をみてみると, 人工呼吸は,48.0 ±30.2%, 胸骨圧迫では,98.0±2.0% を示した ( 図 7 ) したがって, 人工呼吸においては, 1, 2 週間の短期間であってもトレーニング効果の継続は難しい それに対し, 胸骨圧迫は, 1 週間は, トレーニング効果が維持されるものの, 2 週間経過すると, その効果は薄れてくる可能性が示唆された しかしながら,15 分程度のトレーニングの実施で100% に近い正確率に改善したことからも, 2 週間に 1 度,15 分程度のトレーニ 図 ₇ 人工呼吸と胸骨圧迫の正確率の変化 ( ₂ 週間後は ₁₅ 分のトレーニング後含む )

96 ングを行うことによって, 正しい胸骨圧迫技術が維持されることが推察される 2005 心肺蘇生法と救急心血管治療における科学と治療勧告についての国際コンセンサス (2005ガイドライン) では, 胸骨圧迫の重要性が強調されており, 旧ガイドラインでは, 胸骨圧迫 15 回 + 人工呼吸 2 回 であったのに対して,2005ガイドラインでは, 胸骨圧迫 30 回 + 人工呼吸 2 回 に変更されている さらに, 人工呼吸は, たとえうまく吹き込むことができなかったとしても, やり直すことはしない なぜなら, 胸骨圧迫の開始が遅れたり, 中断時間が増えたりすることは, 傷病者の蘇生に良い影響を与えないからである, としている 心肺蘇生法のアルゴリズムにおいても, 人工呼吸 2 回 ( 省力可 ) と示されている 2) ことからも, 人工呼吸よりも, 胸骨圧迫の重要性が示されている したがって, 緊急時には, 迅速にかつ正確に, 胸骨圧迫を行うことが非常に重要な要素であり, 胸骨圧迫の正確率を高めることが, 蘇生率を高めることの不可欠な要素であることは明確である したがって, バイスタンダーである存在 ( スポーツ現場でいえば, トレーナーや, マネージャー, コーチ, または, チームメイト ) が, 緊急時に速やかに一次救命処置をすることが重要であり, その中でも, 胸骨圧迫を正確に行うことだけでも大きな意味を持つといえる 今回の結果が示すことは, 多少なりとも経験のある者においては, わずか1 時間のトレーニングによって, 胸骨圧迫に関しては大きな改善が見られ, 人工呼吸よりも比較的習得しやすい技術であることが示唆された したがって, 短時間で のトレーニングにおいても, 胸骨圧迫が習得できるということは, 短時間で多くの人の命を救える可能性が高まるといえる しかしながら, 何らかの形でCPR 教育を受けていたとしても, 一定期間時間が空いてしまえば, その知識と技術は薄れ, 緊急時に実践できるものではなくなってしまっている現状がある 必要最低限の知識と技術であるものの, 1 時間程度の講習で習得できるならば, さらに, 2 週間に 1 度,15 分程度の復習において, 技術が維持されるのであるならば, 体育 スポーツに携わる者 ( もちろんそれ以外も同様ではある ) 全員が, この知識と技術の習得, 維持に真剣に向き合うべきであるといえる たった15 分のトレーニングが, 尊い いのち を救えるのである 5. まとめ 本研究においては, データ数が必ずしも多くないこと, および他のトレーニング条件との比較をしていないなどの課題はあるものの, 正しいCPRの習得における胸骨圧迫には, 1 時間程度の講習で習得できる可能性が示唆された さらに, その能力を維持するためには, 2 週間に 1 度 15 分程度のトレーニングを行うことが望ましいことが推察できる 参考文献 1 ) 体育 スポーツ系大学における Lifesaving 教育の体系化 ~ 救命 トレーナーの視点から BLS への試み ~, 小峯力, 小粥智浩, 稲垣裕美, 流通経済大学スポーツ健康科学部紀要 ⑴,45-54,2008 2 ) 日本ライフセービング協会編, 心肺蘇生法教本, 大修館書店,2007