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Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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第6号-2/8)最前線(大矢)

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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リーなどアブラナ科野菜の摂取と癌発症率は逆相関し さらに癌病巣の拡大をも抑制する という報告がみられる ブロッコリー発芽早期のスプラウトから抽出されたスルフォラフ ァン (sulforaphane, 1-isothiocyanato-4-methylsulfinylbutane) は強力な抗酸化作用


酵素消化低分子化フコイダン抽出物の抗ガン作用増強法の開発

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長期/島本1

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博第265号

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グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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博士の学位論文審査結果の要旨

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胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し, ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用いて血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした. 動脈硬化などの病態を想定し, 血小板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与につ

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平成24年7月x日

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八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

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センシンレンのエタノール抽出液による白血病細胞株での抗腫瘍効果の検討

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1,4-ナフトキノン誘導体の合成と活性評価について

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光老化の病理組織学的所見光老化の病理組織学的所見としては 表皮では基底層角化細胞の形態変化 角化細胞数の減少 表皮突起の消失 メラノサイトの数の減少 メラニンの不規則な分布と増加が 真皮ではコラーゲンの減少 日光性弾力線維変性がみられます すなわち光老化の生じた顔面では 太陽光に曝露されていないおし

研究室HP掲載

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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作成要領・記載例

石黒和博 1) なお酪酸はヒストンのアセチル化を誘導する一方 で tubulin alpha のアセチル化を誘導しなかった ( 図 1) マウスの脾臓から取り出した primary T cells でも酢酸 による tubulin alpha のアセチル化を観察できた これまで tubulin al

Folia Pharmacol. Jpn mg/14 ml mg/ ml Genentech, Inc. Genentech HER human epidermal growth factor receptor type HER - HER HER HER HER

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

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急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

資生堂 肌の奥 1 からシミを増殖させる新たなメカニズムを解明 シミ増殖因子の肌の上部 ( 表皮 ) への流入量をコントロールしているヘパラン硫酸の 減少抑制効果が マドンナリリー根エキス に 産生促進効果が グルコサミン にあることを発見 資生堂は これまでシミ研究ではあまり注目され

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金澤成行 大阪大学大学院医学系研究科形成外科学博士課程 ( 現大阪大学大学院医学系研究科形成外科学助教 ) 活性酸素 フリーラジカルは生命を維持するために必要であるが 様々な物質に対して非特異的な化学反応をもたらすために その有害性が近年指摘されている 細胞内の酵素で分解しきれない余分な活性酸素は癌や生活習慣病など様々な病気の原因であるといわれている また 活性酸素の増加が 細胞を傷つけ癌を増加させるのみでなく しみ くすみなどの原因となるメラニンを増加させてしまうことが知られている そして 活性酸素 フリーラジカルによる細胞のダメージは皮膚の老化にも悪影響をもたらしていると考えられている 近年 コーヒーに含まれるポリフェノールの一つであるクロロゲン酸が強い抗酸化作用をもち フリーラジカルの生成を阻害するという仕組みが明らかになった また ワイン 茶 リンゴ ブルーベリーなどに多く含まれるカテキンも抗酸化作用をもち 活性酸素を抑えると考えられている そこで 抗酸化作用をもつクロロゲン酸やカテキンは皮膚の老化をある程度予防できる可能性があるのではないかと考えた 皮膚の老化において 主要な役割を担っている細胞の一つに皮膚線維芽細胞がある 皮膚の弾力にとってコラーゲンやエラスチンなどのタンパクは重要であるが それらを産生しているのが線維芽細胞である つまり 線維芽細胞の活性化の減弱は皮膚の老化に直結するといえる したがって 本研究により培養皮膚線維芽細胞を用いてクロロゲン酸やカテキンが線維芽細胞の生存にどのような影響を与えるかを 細胞生存に関連するタンパクに焦点をあてて 明らかにした 1. 線維芽細胞 (NIH3T3) を用いて 96 ウェルプレートに濃度 1 10 5 /ml で培養し クロロゲン酸 (0 1 10 100 μm) カテキン (0 1 10 100 μm) を添加し 24 時間後の細胞数を 吸光度 490nm として表されるホルマザン産物の量を測定することで比較した (CellTiter 96 R R AQ One Solution cell proliferation assay; Promega) なお カテキンについては過酸化水素 (0.1mM) による酸化ストレス負荷をかけた後 実験を行った 2. 線維芽細胞をクロロゲン酸 10μM 存在下で 30 分間培養した後 タンパクを抽出し Akt CREB のタンパク活性の変化を調べた さらに Akt の上流である PI3- kinase を LY294002(10μM) で阻害した後 先程と同様に CREB の活性化を調べた 次に 過酸化水素 (0.1mM) による酸化ストレス条件下にカテキン 10μM で線維芽細胞を 30 分間刺激した後 JNK や p38-mapk の蛋白活性化の状態を解析した 3. DNA 鎖分解物の標識法 (TUNEL) に基づく単一細胞レベルでの アポトーシスを免疫組織化学的に検出する In Situ 細胞死検出キット TMR red(roche) を用いた 過酸化水素 (0.1mM) による酸化ストレスを与えた条件においてカテキン (10μM) を加え 24 時間後のタネル染色陽性細胞の数を測定した 評価はタネル染色陽性細胞数 / すべての細胞数で行った 1. 最初に クロロゲン酸が線維芽細胞に与える影響を調べるために クロロゲン酸を各濃度別 (0 1 10 100 μm) に添加し 24 時間後の細胞数を解析した 図 1A 1

金澤成行 1 (A) クロロゲン酸の各濃度 (0 1 10 100 μ M) 添加 24 時間後の細胞数 (B) 酸化ストレス下におけるカテキンの各濃度 (0 1 10 100 μ M) 添加 24 時間後の細胞数 に示すとおり クロロゲン酸 1 10 100μM で有意に 細胞増殖し 濃度依存性に線維芽細胞の生存を促進することがわかった 次に カテキンが酸化ストレス下の線維芽細胞に与える影響を調べるために カテキンを各濃度別 (0 1 10 100 μm) に添加し 24 時間後の細胞数を解析した 図 1B に示すとおり カテキンは濃度依存性に線維芽細胞の生存を促進 ( 細胞死を抑制 ) した 2. AktCREB 種々の増殖因子によって細胞の生存が維持されるが 受容体の下流で活性化される複数の細胞内シグナル伝達機構のうちで Ras/MAP キナーゼ経路や PI3 キナーゼ 2 AktCREB (A) クロロゲン酸刺激後 0 15 30 60 分後の Akt の活性化を phospho-akt/akt で表している (B) クロロゲン酸刺激後 0 15 30 60 分後の CREB の活性化を phospho-creb/creb で表している /Akt 経路が生存シグナルに重要である このうち PI3 キナーゼ /Akt 経路 そして Akt のターゲット分子の一つである CREB に対してクロロゲン酸が与える影響についてウエスタンブロット法にてタンパクの活性を調べた 図 2 に示すとおり クロロゲン酸刺激により Akt CREB ともにタンパクの活性化を認めた さらに PI3 キナーゼ阻害剤 (LY294002) を用いて PI3 キナーゼ /Akt を阻害すると CREB の活性化の減弱を認め クロロゲン酸による線維芽細胞生存促進作用が阻害された ( 図 3) 以上から クロロゲン酸は PI3 キナーゼ /Akt/CREB の経路を活性化することにより 線維芽細胞の生存を促進していることが示唆された 3. JNKp38MAPK JNK および p38mapk は TNF-α や Fas による刺激や 熱ショック UV 照射 高浸透圧といったさまざまな物理化学的ストレスで活性化し 細胞にアポトーシスを誘導することが知られている カテキンの酸化ストレス下における線維芽細胞に与える影響を調べるために 過酸化水素による酸化ストレス刺激 カテキン添加による JNK p38mapk の活性化の変化をウエスタンブロッティング法で調べた 過酸化水素による酸化ストレスを与えると JNK p38mapk の活性化を認めたが カテキン添加により これらの活性化が抑制できた ( 図 4) 以上より カテキンは酸化ストレスによる JNK p38mapk の活性化を抑制することがわかった 2

3 Akt CREB (A)Akt 阻害下でのクロロゲン酸刺激 24 時間後の細胞数 (B)Akt 阻害下でのクロロゲン酸刺激による CREB の活性変化 4 JNK p38mapk (A) 酸化ストレス下でのカテキン刺激による JNK 活性の変化を phospho-jnk/jnk で表している (B) 酸化ストレス下でのカテキン刺激による p38mapk 活性の変化を phospho-p38mapk/p38mapk で表している 5 (A) 酸化ストレス下でのカテキン添加 24 時間後のタネル染色陽性細胞の数を測定した (B) タネル染色陽性細胞数 / 全ての細胞数で評価した 3

金澤成行 4. 過酸化水素による酸化ストレス刺激は細胞死を促進す る アポトーシスを起こした細胞を検出できるタネル染色により カテキンが細胞死を本当に抑制するのかどうかを検証した 先程の結果同様 カテキン添加群にタネル染色陽性細胞数の減少を有意に認めた ( 図 5) この結果からもカテキンは酸化ストレス下における細胞死を抑制することが示唆された ポリフェノール (polyphenol) とは 分子内に複数の フェノール性ヒドロキシ基 ( ベンゼン環 ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基 ) を持つ植物成分の総称である ほとんどの植物に含有され その種類は 300 種類以上といわれている 光合成によってできる植物の色素や苦味の成分であり 植物細胞の生成 活性化などを助ける働きを持つとされている 本研究はこれらのポリフェノールのうち コーヒーに多く含まれているクロロゲン酸と お茶に多く含まれているカテキンの皮膚線維芽細胞の生存に対する影響について調べたものである クロロゲン酸 (chlorogenic acid) は 5- カフェオイルキナ酸 (5-caffeoylquinic acid) とも呼ばれ caffeic acid のカルボキシル基がキナ酸 5 位のヒドロキシ基と脱水縮合した構造を持つ化合物である コーヒー豆から初めて単離され 現在では多くの双子葉植物の種子や葉から見いだされている クロロゲン酸の作用についてこれまで多くのことが様々な細胞を用いて報告されている 癌細胞増殖抑制作用 1) 解毒作用 2) 抗炎症作用 3) 抗酸化作用などである しかし これまでクロロゲン酸の線維芽細胞に対する作用は不明なところも多く 報告も少ない したがって 本研究により クロロゲン酸の線維芽細胞における作用を明らかにしようと考え そしてクロロゲン酸による線維芽細胞生存促進作用を発見するに至った ( 図 1) 哺乳類細胞の生死は生存シグナルと細胞死シグナルのバランスによって決定される そして このバランスを決定するメカニズムに様々なキナーゼが関与していることが 近年明らかになりつつある この生存促進にキナーゼによるシグナル伝達が重要な働きをしている 生存シグナルの代表的なキナーゼが Akt と ERK1/2 である 4,5) 本研究においても クロロゲン酸の線維芽細胞生存促進作用に対して Akt の関与が認められた ( 図 2,3) Akt の細胞生存促進のメカニズムについても近年徐々に明らかになりつつある アポトーシス誘導因子の中で Akt による制御が初めて明らかとなったのは Bad(Bcl-2 antagonist of cell death) である Bad は生存促進型の Bcl-2 ファミリーに属する Bcl-2 や Bcl-xL と結合してそれらを不活性化することで アポトーシスを誘導する Akt は Bad の Ser136 をリン酸化して不活性化することで生存を促進することが Datta らにより 1997 年に小脳顆粒細胞を用いて示された 6) また Akt は CREB(cAMP-responsive element binding protein) の Ser133 をリン酸化して活性化することが知られている CREB は生存促進型の Bcl-2 ファミリーである Bcl-2 や Mcl-1 などを転写活性化する このように Akt は多様なターゲットを持ち 様々な段階でアポトーシスを抑制している そして 本研究においても クロロゲン酸の線維芽細胞生存促進作用に対して Akt そして CREB の関与が認められた ( 図 2,3) カテキン (catechin) は 狭義には化学式 C15H14O6 で表される化合物であり フラボノイドの 1 種である 広義にはその誘導体となる一連のポリフェノールも含み この意味での使用例の方が多い カテキンには実に多様な生理活性があることが報告されており 血圧上昇抑制作用 血中コレステロール調節作用 血糖値調節作用 抗酸化作用 7) 老化抑制作用 抗癌 抗菌 抗アレルギー作用など多岐にわたる しかし 線維芽細胞におけるカテキンの作用というのはあまりわかっていない したがって 本研究は酸化ストレス下におけるカテキンの線維芽細胞に対する細胞死への影響を調べた MAP (mitogen-activated protein) キナーゼ経路は 細胞内での情報伝達を担っており 哺乳類においては 3 つの代表的な経路から構成されている これらのうち JNK (c-jun N-terminal kinase) ならびに p38mapk 経路はストレス応答キナーゼとも呼ばれ 紫外線 放射線 酸化ストレスや熱ショックといった様々なストレス刺激や炎症性サイトカインによって活性化され アポトーシスの誘導をはじめとする多彩なストレス応答に関与している JNK は細胞死の制御に重要な役割を担っている Bcl-2 ファミリー分子の機能を調節していることが知られている アポトーシス抑制にはたらく Bcl-2 は JNK によってリン酸化されてその抑制能が阻害される 一方 p38mapk は Fas や Bax などのアポトーシスの誘導に関与しているといわれている 本研究では過酸化水素 4

による酸化ストレスで JNK そして p38mapk の活性化を認めた さらには カテキンにより これらの活性化が阻害され 細胞死が抑制された ( 図 4,5) つまり カテキンは酸化ストレスによるアポトーシスを抑制できることが示唆された ポリフェノールは 野菜 果物 茶 コーヒー ココアなど日常的に摂取している食品に含まれている成分で 生体に様々な生理的機能を果たしていると考えられるが まだ未解明のところが多い ヒト皮膚の健康におけるポリフェノールの役割を少しでも明らかにすることで ヒトの健康維持 増進に貢献できることを願ってやまない 本研究により ポリフェノールの一つであるクロロゲン酸やカテキンが皮膚線維芽細胞の生存にどのような影響を与えるかを 細胞生存に関連するタンパクに焦点をあてることで明らかにした クロロゲン酸には線維芽細胞の生存を促進する作用があり 生存促進の代表的なキナーゼである Akt その標的分子である CREB の関与が認められた また カテキンは酸化ストレスによる線維 芽細胞の細胞死を抑制する作用があり 酸化ストレス刺激によりストレス応答キナーゼである JNK p38mapk の活性化を抑制することがわかった ポリフェノールは 果物 茶 コーヒー ココアなど日常的に摂取している食品に含まれており これらを摂取することは 皮膚の健康維持に有益である可能性が示唆された 本研究を遂行するにあたり 研究助成を賜わりました公益財団法人三島海雲記念財団ならびに関係者の皆様の御理解と御厚意に深く感謝するとともに厚く御礼を申し上げます 1)MT. Huang, et al.: Cancer Res., 48, 5941-5946, 1988. 2)R. Feng, et al.: J. Biol. Chem., 280, 27888-27895, 2005. 3)MT. Huang, et al.: Cancer Res., 51, 813-819, 1991. 4)H. Dudek, et al.: Science, 275, 661-665, 1997. 5)Z. Xia, et al.: Science, 270, 1326-1331, 1995 6)SR. Datta, et al.: Cell, 91, 231-241, 1997. 7)ME. Cavet, et al.: Mol Vis., 17, 533-542, 2011. 5