本研究の目的は, 方形回内筋の浅頭と深頭の形態と両頭への前骨間神経の神経支配のパターンを明らかにすることである < 対象と方法 > 本研究には東京医科歯科大学解剖実習体 26 体 46 側 ( 男性 7 名, 女性 19 名, 平均年齢 76.7 歳 ) を使用した 観察には実体顕微鏡を用いた 方形

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本研究の目的は, 方形回内筋の浅頭と深頭の形態と両頭への前骨間神経の神経支配のパターンを明らかにすることである < 対象と方法 > 本研究には東京医科歯科大学解剖実習体 26 体 46 側 ( 男性 7 名, 女性 19 名, 平均年齢 76.7 歳 ) を使用した 観察には実体顕微鏡を用いた 方形回内筋の形態の観察には,20 体 40 側を使用した 方形回内筋の前面と後面を明らかにし, 前面で浅頭の起始, 停止, 形状, 筋束の構成を観察した その後, 浅頭の停止を橈骨の前面からはがし, 内側に反転して, 深頭の起始, 停止, 形状, 筋束の構成を観察した 方形回内筋の神経支配のパターンの調査には,4 体 4 側を使用した 前骨間神経の走行, 分岐を明らかにし, その後, 筋内神経分布を調査した 特に, 分枝が浅頭, 深頭のどちらに分布しているかについて注意深く観察した 2 体 2 側を使用して深頭の付着部を組織学的に検討した 方形回内筋, 遠位橈尺関節を含む標本を再固定, 脱灰後にパラフィンで包埋した 横断面で 5 μmに薄切し, マッソントリクローム染色で染色した < 結果 > 方形回内筋は全例で浅頭と深頭に区別された 浅頭は尺骨の内側面と前面から起こり, 橈骨の前面に停止した 深頭は尺骨の外側面と前面から起こり, 橈骨の内側面と若干の幅をもって前面にも停止した 浅頭と深頭の間には疎性結合組織が存在していた 起始や停止の違いと疎性結合組織の存在によって, 両頭の区別が可能であった 浅頭および深頭を構成する筋束の数の組み合わせは多様であった 浅頭もしくは深頭が 2 つ以上の筋束で構成されていた例は 40 側中 32 側 (80%) であった 浅頭が 2 つ以上の筋束に分けられる場合, それぞれの筋束には形状や走行方向に明らかな違いが認められ, 筋束と筋束の間には腱組織もしくは脂肪組織が介在していた 深頭も同様に, それぞれの筋束には形状や走行方向に明らかな違いが認められた 3 筋束で構成される例では, 浅頭と最も後面に位置する深頭との間に中間的な筋束が存在していた 4 筋束で構成される例では, より小さな筋束に分割されており, 隣接する筋束の走行方向は互いに異なっていた 深頭の一部は遠位橈尺関節の関節包に付着していた また, 深頭の最遠位の筋束は,40 側中 24 側で尺骨頭に向かって伸びていた 最遠位の筋束を組織学的に近位から遠位に追跡した結果, その筋束は尺骨茎状突起の基部にまで及んでいた 前骨間神経は,3 本ないし 4 本の枝に分岐して方形回内筋の後面から筋内に進入した これらの枝のうち, 深頭に分布する枝は深頭の中でさらに細かく分岐していた 浅頭に分布する枝は, 深頭を貫いて橈骨の前面を内側から外側へと, また尺骨の前面を外側から内側へと広がっていた このような傾向は調査を行った 4 側において共通していた しかし, 主として深頭に分布する枝から分岐した枝が浅頭に分布する場合や, 逆に, 主として浅頭に分布する枝から分岐した枝が尺骨頭に向かって伸びる深頭に分布する場合も観察された - 2 -

< 考察 > 方形回内筋の浅頭と深頭は様々な筋束の組み合わせで構成されていた 本研究では, 浅頭もしくは深頭が 2 つ以上の筋束で構成されていた例は 40 側中 32 側 (80%) であり,Stuart(1996) による 40 側中 8 側 (20%) という報告よりもより細かく区分された しかし, 形状や走行方向の異なる様々な筋束は確かに観察しうるといえる 深頭の最遠位の筋束が 40 側中 24 側で尺骨頭に向かって伸びており, さらに, 組織学的検討によってこの筋束が尺骨茎状突起の基部にまで及んでいることを観察した この結果はこれまでに報告のない新しい所見である 筋束の走行方向を考えると, この筋束の収縮は, 尺骨を近位に移動させ, 尺骨を橈骨に引きつける力を生じさせることができると推測される 手関節疾患を有する場合, 尺側の痛みを訴えることがある 尺側の痛みはしばしば尺側の手根骨に尺骨が接触することによって生じるとされ, その病態は尺骨突き上げ症候群と呼ばれる 尺骨茎状突起基部に伸びる筋束の存在は尺骨頭と手根骨の衝突を抑制するのに重要な役割を果たしている可能性が考えられる 前骨間神経は方形回内筋にある一定のパターンをもって分布していた 深頭を支配する神経は細かく分岐して深頭に分布しており, 浅頭を支配する神経は深頭を貫いて橈骨および尺骨の前面に広がって浅頭に分布していた 方形回内筋内の前骨間神経の筋内分布は Frohse and Fränkel (1908) によって調査されているが, 浅頭と深頭の神経支配のパターンの違いについては報告されていない 浅頭と深頭で神経支配のパターンが異なるということは, 手術を行う際に有効な所見であると考えられる 橈骨遠位端骨折の手術の際, 橈骨の前面で方形回内筋を外側および遠位縁で切離し内側へ避けたり, 方形回内筋を切離せずに方形回内筋と橈骨との間にプレートを挿入する場合があるが, どちらの方法を選択したとしても, 方形回内筋内の神経が橈骨の前面を内側から外側に広がっていくことから, 橈骨内側部の操作に注意することが望ましいといえる 本研究の限界は, 方形回内筋の形態と神経支配という解剖学的な視点でのみ行われていることである 今後は, 尺骨茎状突起基部に付着する最遠位の筋束がどのように尺骨に作用するかという運動学的な視点による研究が必要であり, 解剖学的所見と運動学との整合性を明らかにしていく必要がある 本研究での重要な所見は 2 つある 1 つ目は, 深頭の最遠位の筋束が尺骨の茎状突起の基部にまで及んでいたことであった このような付着によって, 方形回内筋は尺骨を近位に移動させる力を発揮させることができると推測され, 尺骨突き上げ症候群患者の方形回内筋の評価は非常に重要であろうと考えられる 2 つ目は, 浅頭を支配する神経が橈骨の前面を内側から外側に広がっているということであった このような神経支配のパターンを考慮すると, 橈骨遠位端骨折の手術の際には, 橈骨前面および内側部の操作に注意することが望ましいと考えられる < 結論 > 深頭の最遠位の筋束は尺骨の茎状突起の基部にまで及んでおり, 方形回内筋と尺骨突き上げ症候群発生に関係がある可能性があると考えられた また, 浅頭を支配する前骨間神経は橈骨の前面に広がって浅頭に分布しており, 橈骨遠位端骨折の手術の際には浅頭への神経支配に充分考慮 - 3 -

することが望ましいと考えられた - 4 -

論文審査の要旨および担当者 報告番号甲第 4685 号坂本和陽 論文審査担当者 主査宗田大副査星治 森田定雄 ( 論文審査の要旨 ) 上肢の骨折で最も頻度の高い橈骨遠位端骨折に対し ロッキングプレートを用いた整復固定術が行われることが多い 掌側侵入時に剥離が必要な方形回内筋は浅頭と深頭に区別され 各頭がそれぞれ固有の機能をもつと考えられているが 解剖学的バリエーションや各頭への神経支配様式の詳細な調査が行われていなかった 申請者は 方形回内筋の形態と神経支配について詳細な検討を行うことを目的に 解剖実習体 26 体 46 側を用いて 各頭の起始 停止 形状 筋束の走行方向を観察し 各頭への神経の筋内分布を調査した また 深頭の付着部位をマッソントリクローム染色を用いて組織学的に観察した 各頭は 形状や走行の異なる様々な筋束で構成されていた 深頭の最遠位の筋束は尺骨頭に向かって伸び 組織学的にはその筋束は尺骨茎状突起の基部にまで及んでいた 浅頭を支配する神経は深頭を貫き 橈骨の前面に広がって浅頭に分布していた 臨床的に橈骨遠位端骨折の手術の際には 方形回内筋の機能温存のため 橈骨内側部での操作に注意する必要があるとの結論を得た 申請者は頻度の高い橈骨遠位端骨折において重要な方形回内筋の解剖学的な理解を高めた ( 1 )