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Economic Indicators   定例経済指標レポート

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Economic Indicators   定例経済指標レポート

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平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

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経済・物価情勢の展望(2017年7月)

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

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今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

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中国におけるインフレの行方 中国経済は減速しているものの 過熱の解消にはまだ至っていない 年 9 月のリーマン ショックを受けて 中国は輸出が大幅に落ち込み 景気後退を余儀なくされたが 兆元に上る内需拡大策や 金利と預金準備率の大幅な引き下げをはじめとする拡張的財政 金融政策が実施されたことを受けて

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[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

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中国、財新サービス業PMIは4ヶ月ぶりの低水準に(Asia Weekly(3/4~3/8)) | 第一生命経済研究所 西濵徹

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低インフレ 乏しい利上げ観測労働市場に目を向けると 8 月の失業率は約 年ぶりの低水準となる5.3% に低下した 雇用者数も伸びており 一部では技術者不足の声も聞かれる RBAは今後数年 失業率は自然失業率とされる5.% を目指して低下が続くとの見方を示している ただ 賃金の上昇率は ~ 月期が前年

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

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経済・物価情勢の展望(2017年10月)

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

スライド 1

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

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経済・物価情勢の展望(2016年10月)

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金融政策決定会合における主な意見

資料1

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

個人消費の回復を後押しする政策以外の要因~所得の減少に歯止め、節約志向も一段落

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当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

28 GCC UAE GCC (2) 大きく上昇した食料価格と住居費 GCC GCC GCC 図表 2 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価上昇率 (28 年 ) 図表 3 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価指数に占める食料品と住居費の割合

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

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米国株 投資家心理が落ち着けば 上昇基調に回帰と想定 株式市場 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 長期金利の上昇を契機に急落米国株式市場は下落しました 月初に発表された1 月の雇用統計において 時間当たり賃金が市場予想を上回る伸び率となったことを受けて 長期金利が約 4 年ぶ

我が国中小企業の課題と対応策

Invesco Premia Plus Fund

GM OEM GM GM 24 GM 16 GM

けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

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ファンダの鬼・柳澤 浩と小杉 篤諭の「ファンダメンタルズの学び方、活かし方セミナー!」

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Currency201207

平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

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オーバルネクスト ETF 情報 2010 年 2 月 15 日号 ( 株 ) オーバルネクスト 東京都中央区日本橋兜町 13-2 TEL 03(5641)5777

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Economic Indicators   定例経済指標レポート

1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

株式市場 米国株 国内の政策動向や海外の政治動向などに注目 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場はほぼ変わらずとなりました 月初には 2 月末のトランプ大統領の議会演説を好感して 株価は大幅上昇となりました しかし その後は 新政権の経済政策に対する期待が徐々に後退

米国の利上げ見送りと日本の長期化した金融緩和

平成23年11月1日

ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

マーケット フォーカス経済 : 中国 2019/ 5/9 投資情報部シニアエコノミスト呂福明 4 月製造業 PMI は 2 ヵ月連続 50 を超えたが やや低下 4 月 30 日 中国政府が発表した4 月製造業購買担当者指数 (PMI) は前月比 0.4ポイントの 50.1となり 伸び率がやや鈍化し

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2017年上半期の為替相場展望

1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

株式市場 米国株 高値警戒感の高まりなどから上昇一服も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました トランプ政権で閣僚などの人事において一部で混乱が見られましたが トランプ大統領の発言などにより減税 金融規制緩和などへの期待が高まったことや 発表された米国企

別紙2

中国:PMI が示唆する生産・輸出の底打ち時期

Economic Indicators_  定例経済指標レポート

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日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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米労働市場は直近の回復基調に変化なし ~FRB出口政策への影響は限定的~

中国、家計消費の伸びは歴史的低水準に | 第一生命経済研究所 西濵徹

2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

株式市場 米国株 上値が重く神経質な展開 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は下落しました FOMC( 米国連邦公開市場委員会 ) における利上げの有無 大統領選挙の動向 ドイツの大手銀行の資本不足懸念などに一喜一憂する展開となりました 月半ばにかけて 利上げ観測や原油

フ ァ ン ド の 特 色 ハイグレード ハイグレード オセアニア オセアニ ニア ボンド マザーファンド マザーファンド を通じて オーストラリア ドル建ておよびニュージーラ ドル建ておよびニュージーランド ドル 建ての 債券等 に投資します 債券等 には コマーシャル ペーパー等の短期金融商品を

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現代資本主義論

月例経済報告

株式市場 米国株 国内外の政治動向に注目 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 好調な企業決算発表を受けて上昇米国株式市場は上昇しました 月前半までは2017 年 1-3 月期の決算発表内容が総じて好調であったことが株価を支えました 月半ばには コミー前 FBI( 連邦捜査局 )

タイトル

経済財政モデル の概要 経済財政モデル は マクロ経済だけでなく 国 地方の財政 社会保障を一体かつ整合的に分析を行うためのツールとして開発 人口減少下での財政や社会保障の持続可能性の検証が重要な課題となる中で 政策審議 検討に寄与することを目的とした 5~10 年程度の中長期分析用の計量モデル 短

年 2 月期関西圏 中京圏 福岡県賃貸住宅指標 大阪府 京都府 兵庫県 愛知県 静岡県 福岡県 空室率 TVI( ポイント ) 募集期間 ( ヶ月 ) 更新

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

月例経済報告

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

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平成 23 年 3 月期 決算説明資料 平成 23 年 6 月 27 日 Copyright(C)2011SHOWA SYSTEM ENGINEERING Corporation, All Rights Reserved

Transcription:

Asia Trends 韓国経済事情 : 二極化 の緩和に政策課題がシフト ~ 景気拡大が見込まれる一方 重大な構造問題も生まれている ~ マクロ経済分析レポート 1/6 発表日 :2010 年 3 月 11 日 ( 木 ) 第一生命経済研究所経済調査部担当副主任エコノミスト西濵徹 (03-5221-4522) ( 要旨 ) 中国向けに牽引された輸出回復や 財政 金融緩和による内需喚起策の奏功により 韓国経済はITバブル期並みの高成長を遂げている こうした高成長を主導したのはグローバル化した同国の大企業であるが 一方で中小企業との格差は拡大 さらに 正規雇用者と非正規雇用者の格差も拡大しており 同国経済は 二極化 が進行している 李大統領は年初の施政方針演説で今年の政策の柱に雇用対策を打ち出しているが 政局の混迷で審議は遅れている 昨年の相対的貧困層が全世帯の18% という衝撃的な数字もあり 格差是正に向けた適格な対応が求められる 一方 マクロ経済全体では輸出や富裕層を中心とする内需の活性化で景気が押し上げられ 予想を大きく上回る速さで景気回復を遂げている ただし 大胆な金融緩和や海外資金の流入 当局の為替介入で資金供給量が大幅に拡大し 資産バブルの懸念が高まっている しかし 雇用環境の悪化を背景に物価は落ち着いており 金融緩和の見直しは進んでいない 今月末には中銀総裁の交代もあり 利上げ時期は一段と後ずれする可能性が高まっている 今後の同国経済については 景気対策の継続で公的需要が景気を下支えし 大企業を中心に民間需要も底堅い推移が期待される 今後は先進国の景気底離れが輸出を押し上げると見込まれ 貿易協定などの取り組みは中長期的に輸出拡大を促すであろう 金融緩和が続く見通しが高まったことも景気を押し上げると見込まれる 結果 当研究所では2010 年の経済成長率を前年比 +4.8% 2011 年を同 +4.5% と予想している 一方 人件費の上昇圧力が弱いことから物価上昇は緩やかに留まり 2010 年は前年比 + 3.0% 2011 年は同 +3.2% と予想する 昨年急上昇した株式相場は 年明け後の海外投資家のリスク許容度低下で大きく下落したが 足元では見直し買いで反転している 今後も海外動向に左右されるものの 当面の株価は底堅い展開が予想される 同様に調整したウォンも 足元では再び上昇に転じている ただし 輸出への悪影響を懸念して当局はウォン売り介入を行っており 今後も極端な上昇は抑制されよう さらに 景気回復で財政悪化に歯止めが掛かっており 利上げ観測の後退もあって長期金利は低下基調が続いている 生産拡大の一巡などで非正規雇用を中心に雇用調整圧力が強まり 所得階層の二極化が進んでいる 韓国経済は 中国の景気拡大を背景に中国向け輸出が急速に回復した結果 2000 年代初めの IT バブル期に匹敵する景気回復を遂げている さらに 政府は昨年度予算で大規模減税やインフラ投資などの景気刺激策を積極的に展開し 累計 325bp もの利下げなど大胆な金融緩和を図ったため家計部門の消費が押し上げられ 内 外需の回復が設備投資を促す好循環を生んでいる また 大幅利下げにより 住宅購入も活発化するなど 家計 企業がともに需要を押し上げて素早い景気回復をもたらした 同国の人口は 4800 万人余りに過ぎず 合計特殊出生率が主要国で最も低いために わが国以上に少子高齢化のスピードは早く ( 図 1) グローバル企業は早い段階から海外展開を進めてきた 大企業では業績が急速に改善して設備投資意欲が回復し 昨年の政府との合意に基づき雇用者数を維持させてきた しかし 中小企業では 非正規雇用の増加で生産拡大に対応してきたが 昨年 7 月に非正規雇用保護法が施行から 2 年を迎え 正規雇用への切り替えを迫られたことを主因に 非正規雇用者を中心に雇用調整の動きが強まっている ( 図 2) 結果 1 月の失業者数は約 10 年ぶりに 100 万人を突破するなど ( 図 3) 雇用環境は急速に悪化し

2/6 ている そして 1 月の失業率 ( 季調済 ) は 4.8% と前月 ( 同 3.6%) から 1.2p も悪化し 2000 年 2 月以来の高水準となっている ( 図 4) 一方で正規雇用者は増加しており 足元の正規雇用者の賃金は 2 年前の水準を上回るなど ( 図 5) 所得階層の二極化が鮮明になっている こうした影響は個人消費を通じて小売業界にも及んでおり 富裕層を主な購買層とする百貨店売上高は昨年末に過去最高を更新した一方 スーパー及びディスカウント店では顧客の低価格志向の強まりを背景に低迷している ( 図 6) 日本以上にネット環境の整備が進んでいる同国ではネット販売が拡大しているほか 通販なども堅調に推移しているが 同国の雇用問題は消費に影を落としている 李大統領は 年初の施政方針演説で雇用対策を今年の経済政策の柱と位置付け 今年度の失業率を平均 3% 程度に抑えるべく補正予算で中小企業を対象とした法人税減税を行うほか 長期失業者が中小企業に就職した場合に所得控除を行うなど租税特例制限法の改正を行う方針だが 与党ハンナラ党内の派閥争いなどで国会審議が遅延している 一方 8 日に統計庁が発表した 2009 年の社会指標 では 昨年時点で OECD 基準による相対的貧困層 ( 中位所得の半分未満の世帯数 ) が 305.8 万世帯となり 全世帯数の 18% に達している 同国ではここ数年 貧困層比率の上昇が続いているが 今後の政策は雇用対策及び貧困対策に重点を置くことが余儀なくされている 今年は李政権誕生 3 年目の節目の年となり 景気浮揚で支持率は上昇基調にあるが 雇用対策を誤れば政権の求心力低下も懸念される 与党内では親李 ( 明博 ) 派 親朴 ( 槿恵 ) 派の対立はあるが 小異を超えた対応が求められよう 図 1 年齢別人口ピラミッド (2010 年推計 ) 図 2 形態別雇用者数の推移 ( 前月比 ) ( 出所 ) 米国国勢調査局 ( 出所 )CEIC 図 3 失業者数 ( 季調済 ) の推移 図 4 雇用環境の推移

3/6 図 5 雇用者報酬の推移 図 6 店舗形態別売上高の推移 マクロ景気は回復をみせるが 金融政策は政府と中銀でスタンスに違い 政策見直しが遅れる可能性も 輸出全体の 25% 強を占める中国 香港向け輸出の急回復や ( 図 7) 他のアジア諸国や中東 アフリカ向けも復調しており 足元の輸出額はピークであったリーマン ショック前の約 9 割まで戻っている ( 図 8) また 国内消費も減税や補助金などで富裕層を中心に押し上げられた結果 生産は過去のピークを上回る水準に達しており 一時 60% 台前半まで落ち込んだ設備稼働率も 80% 近くまで回復するなど ( 図 9) 大企業を中心に拡大している さらに 生産拡大が企業の設備投資意欲を押し上げ ( 図 10) 10-12 月期の実質 GDP 成長率 ( 速報値 ) は前年同期比 +6.0% まで拡大し 昨年 10-12 月期を底に劇的な回復を遂げている ( 図 11) なお 前期比 ( 季調済 ) は+0.2% と前期 ( 同 +3.2%) までの急加速の反動が出ているが 企画財政部は 25 日に発表する確報値では上方修正が行われ 先行きも景気が腰折れする可能性は低いとの見通しを示している 金融当局はリーマン ショック直後の一昨年 10 月以降累計 325bp の利下げを行ったほか 金融機関の資金対策として直接流動性を供給するなど危機対応策を採ってきた さらに 海外資金の流入によりウォン高圧力が高まり ( 図 12) 金融当局は輸出への悪影響を懸念してウォン売りの為替介入を行ったことから市中の資金供給量はさらに押し上げられ ( 図 13) 過剰流動性が発生した こうした過剰流動性の一部は株式や不動産市場に流入しており 株式相場は昨年 1 年間で 5 割以上も上昇したが ( 図 14) これは資産効果を通じて個人消費の押し上げに寄与したと思われる また 金利水準が史上最低となったことで 家計部門が借入による不動産投資を積極的に行ったため ( 図 15) 都市部を中心に不動産価格が上昇しており( 図 16) ソウルや主要都市では過去最高値を更新するなど資産バブルが懸念されている 一方 今冬の寒波の影響で食料品やエネルギーの価格が上昇した結果 一般物価に上昇圧力が掛かっており 2 月の消費者物価は前年同月比 +2.7% 前月比も+0.4% と上昇基調が続いている しかし 非正規雇用者を中心とする雇用調整圧力の高まりを受けて コア物価は前年同月比 +1.9% 前月比も+0.2% と落ち着いており 金融当局の定める目標 (2.0~4.0%) の下限を下回っている ( 図 17) 資産バブルに対処するため 当局は昨年末に金融機関に対する資金供給方針を 平時モード に戻すなど 金融緩和の見直しの動きが進むと思われたが 家計部門の負債増加や雇用環境の悪化により 政府は利上げ阻止の圧力を強めている 11 日の金融政策委員会でも 政策金利は 13 ヶ月連続で史上最低の 2.00% に据え置かれた ( 図 18) 今月末に任期満了となる李総裁の後任人事は未だ決まっていないが 今年に入ってから企画財政部が次官を政策委員会に参加させるなど政府の介入が強まっており 金融政策の見直しは後ずれの可能性が高まっている しかし 同国金融市場が海外からの資金流入に依存している状況を鑑みれば 一般物価のみならず資産価格の動向 今後の資金流出リスクなどを総合的に勘案しつつ 適切な金融政策を採る必要があろう

4/6 図 7 中国 香港向け輸出額の推移図 8 輸出入の推移 ( 前年比 ) 図 9 鉱工業生産と設備稼働率の推移 図 10 設備投資指数の推移 図 11 実質 GDP 成長率の推移 ( 前年比 ) 図 12 為替相場の推移 (USD/KRW) 図 13 マネーサプライの推移 (M2) 図 14 株式相場の推移 (KOSPI)

5/6 図 15 住宅建設許可件数の推移図 16 不動産価格の推移 ( 前月比 ) 図 17 消費者物価の推移 ( 前年比 ) 図 18 政策金利の推移 景気対策による公的需要の下支え 民間需要の底堅さで堅調な景気拡大を予想 物価上昇は限定的 今後の韓国経済について 政府は今年度予算でも景気対策のため歳出拡大を継続するほか 早くも補正予算で雇用対策を打ち出す方針を明らかにしていることから 公的需要が景気を下支えすると期待される また 大企業を中心に企業活動が活発化することから設備投資も堅調が続き 富裕層や中間層を中心に個人消費も拡大すると期待され 民間需要も底堅く推移すると予想される 昨年前半は輸出拡大が景気を牽引してきたが 主要産業の在庫 出荷バランスはピークアウトを迎えておらず ( 図 19) 今後は先進国向け輸出の緩やかな拡大が見込まれる また ASEAN やインド EU との貿易協定などの取り組みは 中長期的に輸出拡大を促すと予想する 金融緩和見直しは従来の予想に比べて遅れると思われ 景気を押し上げると見込まれる 結果 当研究所では 2010 年の経済成長率を前年比 +4.8% 2011 年を同 +4.5% と予想している ( 図 20) なお 雇用対策は行われるものの 競争激化で人件費の上昇には繋がりにくい状況が予想されるため 物価上昇は緩やかに留まり 2010 年のインフレ率は前年比 +3.0% 2011 年は同 +3.2% と予想している 図 19 産業別出荷 在庫バランスの推移 ( 前年比 ) 図 20 実質 GDP 成長率の実績と見通し ( 前年比 ) 見通しは第一生命経済研究所 海外投資家のリスク許容度の影響を受けるも 当面の株式 通貨 債券は底堅い展開を予想 昨年急上昇した株式相場は 利上げ観測の高まりにも拘らず 輸出主導の業績拡大が続くと期待されたため 年明け直後も高値圏で推移が続いた しかし ギリシャ問題などで外国人投資家のリスク許容度が低下した

6/6 ことから 相場は短期間で約 1 割も下落した しかし 調整一巡後は見直し買いの動きが出ており 相場は反発基調を強めている ( 図 21) 売買における外国人投資家比率が高いことに加えて 経済も輸出依存度が高いため海外動向に左右され易いが 金融政策見直し観測の後退により 当面の株価は底堅い展開が予想される 1 月半ば以降は通貨ウォンも大きく調整したが 海外資金の回帰とともに再びウォン高圧力が強まっている ( 図 22) 今年度当初予算では現水準に比べてウォン安を前提としており 金融当局は輸出への悪影響を懸念して為替介入を行っていることから 今後ウォンは強含むと思われるものの 極端な上昇は抑制されると思われる また 景気拡大による歳入増により財政悪化に歯止めが掛かると期待され 利上げの遅れも予想されることから 長期金利は低下基調が続いており ( 図 23) 今後も低位安定が続くと思われる 図 21 株式相場の推移 (KOSPI) 図 22 為替相場の推移 (USD/KRW) ( 出所 )Bloomberg ( 出所 )Bloomberg 図 23 長期金利の推移 (10 年債利回り ) ( 出所 )CEIC 以上